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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022157928
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】走行車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20221006BHJP
   A01B 63/10 20060101ALI20221006BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20221006BHJP
【FI】
A01B69/00 303V
A01B63/10 E
G05D1/02 W
G05D1/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062459
(22)【出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000100469
【氏名又は名称】みのる産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108958
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 英一
(72)【発明者】
【氏名】陶山 純
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一博
【テーマコード(参考)】
2B043
2B304
5H301
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB07
2B043BA09
2B043BB06
2B043DC01
2B043EA04
2B043EA12
2B043EA35
2B043EB17
2B043EB18
2B043EC16
2B043ED12
2B304KA17
2B304LA09
2B304MA01
2B304MB02
2B304MC08
2B304MD02
2B304MD03
2B304QA05
2B304QA19
2B304QB02
2B304QB05
2B304QC08
2B304QC09
2B304RA06
5H301AA03
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD01
5H301DD06
5H301DD07
5H301DD15
5H301GG06
5H301GG07
5H301GG10
5H301GG16
5H301HH11
5H301HH13
5H301HH18
(57)【要約】
【課題】 進行方向前方の苗列の画像に基づく走行制御では元の進行方向へ復帰が困難な状態から回復させる。
【解決手段】 本発明の走行制御装置5は、苗列Nに沿って走行する走行動作と、苗列Nの終端で次の苗列Nの先端へ旋回する旋回動作とを行うように構成されている。そして、前記走行動作中は、進行方向前方の苗列Nを撮像した画像に基づいて走行制御するとともに、予め設定された目標角度ωrefに対する目標角度範囲からの逸脱が、予め設定された第一設定距離de以上継続しているか否かを監視する。それが検知されると、画像に基づく走行制御を一時停止し、目標角度ωrefに基づいて設定された復帰目標角度ωcに基づく走行制御により進行方向を元に戻すように構成されている。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培エリア内に条植えされた作物の苗列に沿って走行する走行動作と、該走行動作後に次の走行動作の対象とする苗列の先端に向けて旋回する旋回動作とを行うように構成された走行車両の走行制御装置であって、
前記走行車両の走行距離を測定する走行距離検出部と、
前記走行車両の旋回方向の現状角度を検出する旋回方向センサーと、
前記走行距離検出部による走行距離及び前記旋回方向センサーによる該現状角度に基づいて走行車両の姿勢を制御する姿勢制御信号を出力する姿勢制御部と、
前記走行車両の進行方向前方の苗列を撮像する撮像部と、
該撮像部により撮像した画像に基づいて前記苗列の存在を検出するとともに、該苗列に沿って走行するための目標旋回方向を検出し、それらの検出結果を出力する画像処理部と、
前記姿勢制御部からの前記姿勢制御信号及び前記画像処理部からの前記検出結果に基づいて前記走行車両の走行を制御する走行制御部とを備え、
前記走行制御部は、前記走行動作中に、前記画像処理部により前記苗列の存在及び目標旋回方向を検出し、該目標旋回方向に基づいて前記走行車両の走行を制御するとともに、前記旋回方向センサーにより前記走行車両の進行方向を監視し、予め設定された目標進行方向を中心とする目標角度範囲から前記進行方向が外れ続けたままの走行距離が第一設定距離以上になると、前記目標旋回方向に基づく走行の制御を停止させ、前記走行車両の進行方向を前記目標進行方向へ戻すための修正進行方向を算出し、該修正進行方向を目標とさせた前記姿勢制御部からの前記姿勢制御信号に基づいて前記走行車両の走行を制御し、該走行車両の進行方向が修正進行方向になると、該修正進行方向を目標とする前記走行車両の走行の制御を停止させ、前記目標旋回方向に基づく走行の制御を再開させるように構成されている
走行車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記修正進行方向を目標とさせた前記姿勢制御部による走行の制御が開始されたにも関わらず、目標進行方向を中心とする目標角度範囲から前記進行方向が外れ続けたままの走行距離が第二設定距離以上になると、走行を停止させるように構成されている
請求項1記載の走行車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記走行車両前方にある物体を検出する対物センサーを有し、該対物センサーにより栽培エリアの終端を検出する終端検出部を備え、
前記走行制御部は、該終端検出部により該終端を検出すると、前記姿勢制御部による走行の制御により前記走行車両に前記旋回動作をさせるように構成されている
請求項1又は2記載の走行車両の走行制御装置。
【請求項4】
栽培エリア内における前記走行車両の動作時におけるスリップ率を設定するスリップ率設定手段を備え、
該スリップ率により該動作を補正するように構成されている
請求項1~3のいずれか一項に記載の走行車両の走行制御装置。
【請求項5】
複数の前記スリップ率の設定値を記憶するスリップ率プリセット値記憶手段を備え、いずれかのスリップ率プリセット値を選択的に読み出して前記スリップ率記憶手段に記憶させることができるように構成されている
請求項4記載の走行車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車両の進行方向補正機能を有する走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術としては、特許文献1に記載された自律走行車両の走行制御装置を例示する。この走行制御装置は、苗列Nに沿って走行する走行動作と、次の苗列Nの先端へ旋回する旋回動作とを行うように構成され、旋回方向センサー111が検出した走行車両101の現状角度に基づいて走行車両101の姿勢を制御する姿勢制御信号を出力する姿勢制御部と、撮像部113が撮像した走行車両101の前方の苗列Nの画像から該苗列Nの存在を検出し、該苗列Nに沿って走行するための目標旋回方向を検出する画像処理部と、姿勢制御部及び画像処理部での処理結果に応じて走行車両101を制御する走行制御部とを備える。走行制御部は、前記走行動作中に、画像処理部で苗列Nの存在及び目標旋回方向が検出されたときはそれらに基づいて、それらが検出されなかったときは、姿勢制御部により検出された走行車両101の進行方向を目標角度として姿勢制御部に与え、その結果、姿勢制御部から出力された姿勢制御信号に基づいて走行車両101の走行を制御するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-36569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、背景技術の走行制御装置において、画像処理と姿勢制御を用いて走行動作をさせた場合、図9(a)に示すように苗列Nの途中で欠株が発生していたり、図9(b)に示すように不整地での走行による突発的な車両姿勢が変化したりして、走行車両101の進行方向が、栽培エリアに対して斜め又は横方向を向いてしまった場合、斜め又は横方向の苗列Nを進行方向と誤認識し、斜行又は横の列に移ってしまうことで、自律走行を失敗したり、その失敗のまま走行を継続して栽培エリア内の苗を踏みつけてしまったりするという課題がある。
【0005】
そこで、仮に、その対策として目標方向の修正を行うことも考えられるが、修正の操作量が一定だと栽培エリアのスリップ率(栽培エリアの土壌の種類や、状態等に応じて変動する。)の上下により、目標進行方向を超えてしまったり、目標進行方向へ到達しなかったりするという課題がある。
【0006】
また、苗列N間の距離(条間)は一般的に一定間隔であるため、旋回動作は走行車両101の走行距離に基づいて行われるが、前記スリップ率の上下により、旋回終了後の走行車両101の位置が、次の苗列Nの位置に対してずれてしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、第1の発明の自律走行車両の走行制御装置は、
栽培エリア内に条植えされた作物の苗列に沿って走行する走行動作と、該走行動作後に次の走行動作の対象とする苗列の先端に向けて旋回する旋回動作とを行うように構成された走行車両の走行制御装置であって、
前記走行車両の走行距離を測定する走行距離検出部と、
前記走行車両の旋回方向の現状角度を検出する旋回方向センサーと、
前記走行距離検出部による走行距離及び前記旋回方向センサーによる該現状角度に基づいて走行車両の姿勢を制御する姿勢制御信号を出力する姿勢制御部と、
前記走行車両の進行方向前方の苗列を撮像する撮像部と、
該撮像部により撮像した画像に基づいて前記苗列の存在を検出するとともに、該苗列に沿って走行するための目標旋回方向を検出し、それらの検出結果を出力する画像処理部と、
前記姿勢制御部からの前記姿勢制御信号及び前記画像処理部からの前記検出結果に基づいて前記走行車両の走行を制御する走行制御部とを備え、
前記走行制御部は、前記走行動作中に、前記画像処理部により前記苗列の存在及び目標旋回方向を検出し、該目標旋回方向に基づいて前記走行車両の走行を制御するとともに、前記旋回方向センサーにより前記走行車両の進行方向を監視し、予め設定された目標進行方向を中心とする目標角度範囲から前記進行方向が外れ続けたままの走行距離が第一の所定距離以上になると、前記目標旋回方向に基づく走行の制御を停止させ、前記走行車両の進行方向を前記目標進行方向へ戻すための修正進行方向を算出し、該修正進行方向を目標とさせた前記姿勢制御部からの前記姿勢制御信号に基づいて前記走行車両の走行を制御し、該走行車両の進行方向が修正進行方向になると、該修正進行方向を目標とする前記走行車両の走行の制御を停止させ、前記目標旋回方向に基づく走行の制御を再開させるように構成されている。
【0008】
この構成によれば、欠株した場所への遭遇による苗列の誤認識や、不整地での走行による突発的な姿勢変化等の例外的な事態により、走行車両が予定していた進行方向に対して斜め又は横方向を向いてしまい、進行方向前方の苗列の画像に基づく走行制御では元の進行方向へ復帰が困難な状態になった場合でも、前記旋回方向センサー及び前記走行距離検出部によりその状態を検知して走行車両の進行方向を速やかに予定していた進行方向へ戻すことができる。
【0009】
第2の発明の自律走行車両の走行制御装置としては、前記第1の発明において、
前記修正進行方向を目標とさせた前記姿勢制御部による走行の制御が開始されたにも関わらず、目標進行方向を中心とする目標角度範囲から前記進行方向が外れ続けたままの走行距離が第二の所定距離以上になると、走行を停止させるように構成されている態様を例示する。
【0010】
この構成によれば、走行車両の進行方向を予定していた進行方向へ戻すことができなかったときに走行を停止するので、予定外の進行方向に存在する苗の踏みつけ等の損害の拡大を防止できる。
【0011】
第3の発明の自律走行車両の走行制御装置としては、前記第1又は2の発明において、
前記走行車両前方にある物体を検出する対物センサーを有し、該対物センサーにより栽培エリアの終端を検出する終端検出部を備え、
前記走行制御部は、該終端検出部により該終端を検出すると、前記姿勢制御部による走行の制御により前記走行車両に前記旋回動作をさせるように構成されている態様を例示する。
【0012】
この構成によれば、画像処理により前記終端を検出する場合よりも、確実に終端を検出することができる。
【0013】
第4の発明の自律走行車両の走行制御装置としては、前記第1~3のいずれかの発明において、
栽培エリア内における前記走行車両の動作時におけるスリップ率を設定するスリップ率設定手段を備え、
該スリップ率により該動作を補正するように構成されている態様を例示する。
【0014】
前記スリップ率により前記走行車両の動作を補正するとは、特に限定されないが、次の態様を例示する。
(1)前記走行距離検出部による走行距離を前記スリップ率によって補正し、それに基づいて動作させる態様。
(2)前記走行制御部による走行手段(クローラ、車輪等)の駆動出力を前記スリップ率によって補正する態様。
【0015】
この構成によれば、前記走行車両の動作が前記スリップ率により補正されるので、走行車両の動作を正確に制御することができる。
【0016】
第5の発明の自律走行車両の走行制御装置としては、前記第4の発明において、
複数の前記スリップ率の設定値を記憶するスリップ率プリセット値記憶手段を備え、
いずれかの前記スリップ率プリセット値を選択的に読み出して前記スリップ率記憶手段に記憶させることができるように構成されている態様を例示する。
【0017】
この構成によれば、使用頻度の高いスリップ率の設定値を複数記憶させておくことができるので、それらの内から所要のものを迅速に利用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る走行車両の走行制御装置によれば、例外的な事態により進行方向前方の苗列の画像に基づく走行制御では元の進行方向へ復帰が困難な状態になった場合に、それを速やかに検知して元の進行方向へ復帰させることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を具体化した一実施形態に係る走行制御装置を備えた走行車両を示す図であり、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は右側面図である。
図2】同走行制御装置の操作パネルに関する図であり、(a)は操作パネルを示す図、(b)は操作パネルのランプの表示と、スリップ率の設定値との関係を示す図である。
図3】同走行制御装置の構成を示すブロック図である。
図4】同走行制御装置の走行動作時における姿勢制御部の制御機能を示すブロック図である。
図5】同姿勢制御装置の動作を示す平面図である。
図6】同走行制御装置の走行制御部における進行方向異常対応処理の流れを示すフローチャートである。
図7】同進行方向異常対応処理による走行車両の制御例を示す図である。
図8】同走行制御装置の旋回動作時における姿勢制御部の制御機能を示すブロック図である。
図9】従来の走行制御装置による走行制御例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図8は本発明を具体化した一実施形態の走行車両1及びその走行制御装置5を示している。
【0021】
本例の走行車両1は、図1及び図2に示すように、水田や畑等の圃場に植設された稲や野菜等の作物の苗列Nを跨ぐ門型に形成された機体フレーム2と、該機体フレーム2の両側部に設けられた一対の走行手段としてのクローラ3と、該各クローラ3にそれぞれ駆動力を供給する一対の駆動部4と、該一対の駆動部4を制御する走行制御装置5と、駆動部4及び走行制御装置5に電力を供給する電池6とを備えており、栽培エリア内に条植えされた作物の苗列Nに沿って走行する走行動作と、該走行動作後に次の走行動作の対象とする苗列Nの先端に向けて旋回する旋回動作とを自律的に繰り返し行うように構成されている。図1において矢印Fは機体前側を指し示している。
【0022】
本例の走行制御装置5は、図3に示すように、旋回方向センサー11、姿勢制御部12、撮像部13、画像処理部14、エンコーダー15、走行距離検出部16、対物センサー17、終端検出部18、走行制御部19、記憶手段20、及び操作手段としての操作パネル21を備えている。
【0023】
姿勢制御部12は、走行車両1の旋回方向(上下軸まわりの回転角度であるヨー角)の現状角度ωfを検出する旋回方向センサー11が接続されている。そして、図4及び図5に示すように、姿勢制御部12は、一定距離間隔で現状角度ωfを保存するとともに、定期的に、直前の所定回数分の現状角度ωfの平均値Ωを算出する。後述する走行制御部19は、それを走行動作における走行車両1の進行方向であって、走行車両1の現在位置における苗列Nの方向を示す角度として用いる。また、図4及び図5に示すように、姿勢制御部12は、走行制御部19から与えられた目標角度ωrefと、現状角度ωfとの角度差分ωeが無くなるようにフィードバック制御を行い、その結果を姿勢制御信号として出力するように構成されている。目標角度ωrefとしては、後述する走行制御部19により、走行動作時はΩが与えられ、旋回動作時は90°が2回与えられる。
【0024】
撮像部13は、走行車両1の進行方向前方の苗列Nを撮像するカメラを備えている。撮像部は、走行車両1の高所に一定の俯角で設置されている。本例の撮像部の撮影範囲は、該走行車両1の前方5~6mまでの範囲に設定されている。撮像部による撮影範囲はカメラの設置高さ、苗列Nを構成する苗の高さや間隔等に応じて適宜変更することができる。
【0025】
画像処理部14は、該撮像部13が接続されており、該撮像部13により撮像した画像に基づいて苗列Nに沿って走行するための目標旋回方向を検出する。本例の画像処理部14は、苗列Nと走行車両1の中央との左右方向における位置ズレ量を検出し、それに基づいて目標旋回方向を決定するように構成されている。
【0026】
走行距離検出部16は、クローラ3の駆動軸の回転を検出するエンコーダー15が接続されており、該エンコーダー15で検出した回転に基づいて走行車両1の走行距離を測定するように構成されている。
【0027】
記憶手段20は、スリップ率記憶手段、スリップ率プリセット値記憶手段等を含んでいる。
【0028】
スリップ率記憶手段は、走行距離検出部16が検出した走行距離を補正したり、走行制御部が走行手段を駆動する駆動出力を補正したりするためのスリップ率を記憶するように構成されている。スリップ率記憶手段への値の設定は、後述する操作パネル21により行うように構成されている。このスリップ率は、(実際の距離-走行距離検出部での測定距離)÷実際の距離で表される。例えば、スリップ率24.34%の圃場において、実際の距離600mmを走行させる場合の走行距離検出部での測定距離は、600mm×(1+0.2434)=746.04mmとなる。
【0029】
スリップ率プリセット値記憶手段は、利用頻度の高い複数(本例では3個)のスリップ率プリセット値をそれぞれ記憶可能に構成されている。複数のスリップ率プリセット値それぞれへの値の設定と、いずれかのスリップ率プリセット値をスリップ率記憶手段への設定は、後述する操作パネル21により行うように構成されている。
【0030】
操作パネル21は、スリップ率記憶手段へのスリップ率の設定、複数のスリップ率プリセット値それぞれへの値の設定、いずれかのスリップ率プリセット値をスリップ率記憶手段への設定、旋回動作時の横方向(苗列と直交する方向)への移動距離の設定等を行うための5個のボタン22a~22eと、4個のランプ23a~23dとを備えている。それぞれのボタン22a~22e及びランプ23a~23dへの機能の割り当て方としては特に限定されないが、本例では、スリップ率の設定と、その設定値の表示とを次のように行うように構成されている。まず、スリップ率の設定については、0%~30%まで5%刻みに7段階で行えるようになっており、左向き矢印のボタン22aを押すと設置値が1段階下がり、右向き矢印のボタン22eを押すと設定値が1段階上がるようになっている。また、スリップ率の設定値の表示については、図2に示すように、4個のランプ23a~23dの表示で行うようになっている。
【0031】
終端検出部18は、走行車両1前方にある物体を検出する対物センサー17が接続されており、該対物センサー17により栽培エリアの終端にある物理的な境界(畦畔、壁、柵、ビニールハウスの端等)又は該終端に設置された境界を示す境界物を検出する。対物センサー17としては特に限定されないが、境界物を非接触で検出する超音波センサー、TOF(Time of Flight)センサーを採用することを例示するが、接触式センサーを採用することもできる。また、本例では、対物センサー17の取付角度と高さは、境界物に応じて調節可能に構成されている。
【0032】
走行制御部19は、姿勢制御部12での制御結果及び画像処理部14での画像処理結果に基づいて走行車両1の走行を制御し、走行車両1に走行動作、終端検出、及び旋回動作を行わせるように構成されている。
【0033】
走行動作に関する走行制御部19の動作について説明すると、走行制御部19は、画像処理部14から出力される右又は左方向への旋回指示に応じて走行車両1の走行を制御するように構成されている。画像処理部14から出力される右又は左方向への旋回指示に対する具体的な走行制御としては、特に限定されないが、本例では、旋回方向側のクローラ3の駆動速度を減速することにより実現しているが、これに限定されず、例えば走行手段が操舵装置により進行方向を変更するように構成されているときは操舵装置を制御することにより実現することができる。
【0034】
また、走行制御部19は、走行動作中に、画像処理部14により苗列Nの存在及び目標旋回方向を検出し、該目標旋回方向に基づいて走行車両1の走行を制御するとともに、旋回方向センサー11により走行車両1の進行方向を監視し、予め設定された目標進行方向ωrefを中心とする目標角度範囲から前記進行方向が外れ続けたままの走行距離が第一設定距離(ds)以上になると、画像処理部14による目標旋回方向に基づく走行の制御を停止させ、走行車両1の進行方向を目標進行方向ωrefへ戻すための修正進行方向ωcを算出し、該修正進行方向ωcを目標とさせた姿勢制御部12からの前記姿勢制御信号に基づいて走行車両1の走行を制御し、該走行車両1の進行方向が修正進行方向ωcになると、該修正進行方向ωcを目標とする走行車両1の走行の制御を停止させ、画像処理部14による目標旋回方向に基づく走行の制御を再開させるように構成されている。なお、修正進行方向ωcを目標とさせた姿勢制御部12による走行の制御が開始されたにも関わらず、目標進行方向ωrefを中心とする目標角度範囲から前記進行方向が外れ続けたままの走行距離が第二設定距離(da)以上になると、走行を停止させるように構成されている。
【0035】
具体的には、図6に示す進行方向異常対応処理(ステップS50)を行うように構成されている。この処理のための初期値として、本例では、目標角度ωrefに対する目標角度範囲の上限ωu=ωref+4°、同範囲の下限ωl=ωref-4°、第一設定距離ds=300mm、第二設定距離da=500mmと設定されているものとする。この処理では、まず、現在の進行方向ωfを旋回方向センサー11から入力する。次いで、ωfが目標角度範囲外(ωu以上又はωl以下)であるか否かをチェックし(ステップS52)、目標角度範囲外であるときはステップS54に進み、目標角度範囲内であるときは継続距離deをリセットし(ステップS53)、本処理を終了する(ステップS61)。ステップS54では、走行距離検出部16から走行距離を入力し、継続距離de(ωfが目標角度範囲外になった状態のまま走行を継続している距離)を計数する。次いで、継続距離deが第一設定距離ds以上であるか否かをチェックし(ステップS55)、第一設定距離ds未満であるときは処理を終了し(ステップS61)、第一設定距離ds以上であるときはステップS56に進む。ステップS56では、継続距離deが第二設定距離da以上であるか否かをチェックし、継続距離deが第二設定距離da未満であるときはステップS58に進み、第二設定距離da以上であるときは進行方向異常からの復帰が不可能と判断し、走行車体の走行を停止する(ステップS57)。ステップS58では、目標角度範囲からの逸脱方向を判定し、左方向であるときは右方向へ復帰させるためのステップS59に進み、右方向であるときは左方向へ復帰させるためのステップS60に進む。ステップS59では、姿勢制御部12に対し、右方向への復帰目標角度ωcをωref+1°に設定し、右モーターへの駆動出力を0%、左モーターへの駆動出力を50%に設定するとともに、左モーターへの駆動出力をスリップ率で補正(補正後の左モーターへの駆動出力=左モーターへの駆動出力×(1+スリップ率))し、左右の駆動部4により左右のモーターを動作させ、処理を終了する(ステップS61)。ステップS60では、姿勢制御部12に対し、左方向への復帰目標角度ωcをωref-1°に設定し、左モーターへの駆動出力を0%、右モーターへの駆動出力を50%に設定するとともに、右モーターへの駆動出力をスリップ率で補正(補正後の右モーターへの駆動出力=右モーターへの駆動出力×(1+スリップ率))し、左右の駆動部4により左右のモーターを動作させ、処理を終了する(ステップS61)。
【0036】
図7は、この進行方向異常対応処理の一事例を表している。この事例では、進行方向ωfが目標角度範囲(ωl~ωu)から左方向へ逸脱し、それが検出されて復帰するまでの走行車両1の一連の動きが表されている。
【0037】
終端検出に関する走行制御部19の動作について説明すると、終端検出部18からの終端検出情報をチェックし、終端検出情報を検知すると、走行車両1に旋回動作を開始させる。
【0038】
旋回動作に関する走行制御部19の動作について説明すると、走行制御部19は、姿勢制御部12に対し、走行車両1の進行方向Ωを旋回開始時の基準角度として与えるとともに、目標角度ωrefを与え、その結果、該姿勢制御部12からの信号に応じて走行車両1の走行を制御する。旋回動作は、目標角度ωrefが90°の旋回を2回行うことにより、合計180°旋回するようになっている。この2回の旋回の間における横方向(苗列と直交する方向)への移動距離は、操作パネルにより設定された横方向(苗列と直交する方向)への移動距離がスリップ率により補正されて使用される。例えば、横方向への移動距離が600mm、スリップ率が30%とそれぞれ設定されている場合、走行距離検出部16で検出される距離が600mm×(1+0.3)=780mmとなるように走行車両1を走行させるように制御される。このとき、目標角度ωrefに到達する前(例えば目標角度ωrefの10°前)より減速を開始し、S字減速とすることで、スムーズな停止制動を実現し、旋回方向センサー11による旋回方向角度の測定を確実に行わせるように構成されている。旋回開始時の基準角度をΩとしているので、走行動作開始時に角度ズレしていても終端付近の苗列Nの方向に対応して旋回し、終端付近の苗列Nの方向が湾曲していてもそれに対応して旋回するようになっている。
【0039】
なお、旋回動作終了後に苗列と走行車両1の位置にズレが生じることがある。そのときは、撮像部13による画像処理と姿勢制御で進行方向を補正しながら苗列へ進入するように構成されている。具体的には、図8に示すように、画像処理により横方向への位置ズレをΔX、苗列へ向かう走行車両1の移動距離ΔDをそれぞれ検出し、図7に示すように、それらにより目標角度ωrefをcos-1(ΔX/ΔD)で算出し、ΔX=0を目標に目標角度ωrefを制御する。
【0040】
以上のように構成された本例の走行車両1の走行制御装置5によれば、欠株した場所への遭遇による苗列の誤認識や、不整地での走行による突発的な姿勢変化等の例外的な事態により、走行車両1が予定していた進行方向に対して斜め又は横方向を向いてしまい、進行方向前方の苗列の画像に基づく走行制御では元の進行方向へ復帰が困難な状態になった場合でも、旋回方向センサー11及び走行距離検出部16によりその状態を検知して走行車両1の進行方向を速やかに予定していた進行方向へ戻すことができる。
【0041】
また、修正進行方向ωcを目標とさせた姿勢制御部12による走行の制御が開始されたにも関わらず、目標進行方向ωrefを中心とする目標角度範囲から前記進行方向が外れ続けたままの走行距離が第二設定距離(da)以上になると、走行を停止させるように構成されているので、予定外の進行方向に存在する苗の踏みつけ等の損害の拡大を防止できる。
【0042】
また、走行車両1前方にある物体を検出する対物センサー17を有し、該対物センサー17により栽培エリアの終端を検出する終端検出部18を備え、走行制御装置5は、該終端検出部18により該終端を検出すると、前記姿勢制御部12による走行の制御により前記走行車両1に前記旋回動作をさせるように構成されているので、画像処理により前記終端を検出する場合よりも、確実に終端を検出することができる。
【0043】
また、栽培エリア内における走行車両1の動作時におけるスリップ率を設定するスリップ率設定手段としての操作パネル21を備え、該スリップ率により該動作を補正するように構成されているので、走行車両1の動作を正確に制御することができる。
【0044】
また、複数の前記スリップ率の設定値を記憶するスリップ率プリセット値記憶手段を備え、いずれかのスリップ率プリセット値を選択的に読み出して前記スリップ率記憶手段に記憶させることができるように構成されているので、使用頻度の高い設定値を複数記憶させておくことができ、それらの内から所要のものを迅速に利用することができる。
【0045】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)走行車両1を、2以上の苗列Nを跨いで走行するように構成したり、条間を走行するように構成したりすること。
(2)走行車両1の走行手段としてのクローラ3を他の走行手段(例えば車輪)に変更すること。
(3)カメラ、旋回方向センサー11、対物センサー17、エンコーダー等の各センサーを、それぞれ実質的に同一機能を有する他の方式のセンサーに変更すること。
【符号の説明】
【0046】
1 走行車両
2 機体フレーム
3 クローラ
4 駆動部
5 走行制御装置
6 電池
11 旋回方向センサー
12 姿勢制御部
13 撮像部
14 画像処理部
15 エンコーダー
16 走行距離検出部
17 対物センサー
18 終端検出部
19 走行制御部
20 記憶手段
21 操作パネル
22a~22e ボタン
23a~23d ランプ
F 矢印
N 苗列
ωc 修正進行方向
ωe 角度差分
ωf 現状角度
ωref 目標角度
Ω 現状角度の平均値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9