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特開2022-158002複合磁性材料を用いたコイル部品の製造方法
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  • 特開-複合磁性材料を用いたコイル部品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158002
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】複合磁性材料を用いたコイル部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/04 20060101AFI20221006BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20221006BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01F41/04 A
H01F1/153 108
H01F17/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062580
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一央
(72)【発明者】
【氏名】梶山 知宏
【テーマコード(参考)】
5E041
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BD03
5E041HB05
5E041NN18
5E062AA02
5E062FF02
5E070AB08
5E070BB02
5E070BB03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が低下し難いコイル部品の製造方法を提供する。
【解決手段】コイル部品の製造方法は、上型11及び下型21を備え、上型の下型と当接させる領域又は下型の上型と当接させる領域にコイルの引出部103を配置させる配線溝33に、コイルの引出部を配置して上型と下型とを当接させた状態において、金属磁性粉末が通過可能な孔径であり、且つ、開口面積合計がコイル部品の表面積の0.003%以上1.5%以下である1又は複数の排出孔を有する金型を準備し、コイルの巻回部を金型の内部に配置し、配線溝に配置した引出部を金型の内部から突出させ、複合磁性材料を金型の内部に充填し、金型を加熱して、排出孔から複合磁性材料を流出させながら圧縮成型して複合磁性成型体を得る圧縮成型工程と、この複合磁性成型体を熱処理して熱硬化させ、コイル部品を得る熱硬化工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粉末および熱硬化性樹脂により構成される複合磁性材料が成型されて熱硬化された複合磁性熱硬化成型体にコイルの巻回部が内包されており、前記コイルの引出部が前記複合磁性熱硬化成型体から突出しているコイル部品の製造方法であって、
上型および下型を備え、前記上型の前記下型と当接させる領域または前記下型の前記上型と当接させる領域に前記コイルの前記引出部を配置させる配線溝を有し、さらに、前記配線溝に前記コイルの前記引出部を配置して前記上型と前記下型とを当接させた状態において、前記金属磁性粉末が通過可能な孔径であり且つ開口面積合計が前記コイル部品の表面積の0.003%以上1.5%以下である1または複数の排出孔を有する金型を準備し、
前記コイルの前記巻回部を前記金型の内部に配置し、前記コイルの前記引出部は前記配線溝に配置して前記コイルの前記引出部を前記金型の内部から突出させ、前記複合磁性材料を前記コイルの前記巻回部を包埋するようにして前記金型の内部に充填し、前記金型を加熱して、前記排出孔から前記複合磁性材料を流出させながら圧縮成型して、前記コイルの前記巻回部が内包された複合磁性成型体を得る圧縮成型工程と、
前記複合磁性成型体を熱処理して熱硬化させ、前記コイル部品を得る熱硬化工程と、を含む、
コイル部品の製造方法。
【請求項2】
前記金型の前記排出孔は、孔最小径が前記金属磁性粉末の最大粒子径以上である、請求項1に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項3】
前記金型は、前記上型の前記下型と当接させる領域または前記下型の前記上型と当接させる領域に排出溝を有し、前記上型と前記下型とを当接させたときに、前記排出溝が前記排出孔を形成する構成である、請求項1または2に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項4】
前記金型は側周面を複数有し、前記側周面のうち、前記コイルの前記引出部が突出する引出部突出面と、前記排出孔が開口する排出孔開口面と、が異なる構成である、請求項1~3のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮成型工程において、前記金型を100℃以上180℃以下に加熱して、3kgf/cm2以上5000kgf/cm2以下の成型圧力により、10秒間以上5分間以下の時間で圧縮成型する、請求項1~4のいずれか1項に記載のコイル部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合磁性材料を用いたコイル部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などに用いられるコイル部品は種々の形態が知られているが、金属磁性粉末を熱硬化性樹脂(バインダー樹脂)に分散した複合磁性材料と、コイルあるいはコイル組立体と、を一体成型して得られたコイル部品が多く使用されている。例えば、特許文献1には、軟磁性粉末とバインダーを含む混和物により構成される粉末磁性体内に巻線コイルが封じ込められて、金型にて4.5~10.0ton/cm2の成形圧力により加圧成形され一体化されたインダクタンス部品(コイル部品)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-319020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような複合磁性材料を用いて、金型により圧縮成型を行いコイルが内包されたコイル部品を製造する場合において、通常、コイルの引出部(コイル部品のコイル引出線となるワイヤ線)を配置させる金型の上型または下型の配線溝は、このコイルの引出部との間のクリアランスが極めて小さくなるように設計されている。さらに、この金型は、成型時においてそれ以外の部分にもクリアランスがほぼ生じないように設計されている。このような金型を用いてコイルを包埋した複合磁性材料の熱成型を行う(金型を加熱して圧縮成型を行う)場合、金型内に複合磁性材料が十分に満たされた後にさらに加圧すると、コイルの引出部と配線溝との間のクリアランスは、複合磁性材料に含まれる金属磁性粉末の多くが通過できない大きさであるため、このクリアランスに複合磁性材料中の熱硬化性樹脂が分離して流れ込んで排出されてしまい、得られる成型体(コイル部品)における熱硬化性樹脂の含有率が低下してしまう場合があった。
【0005】
そして、この得られた成型体(コイル部品)は、電気的導体である金属磁性粉末どうしを絶縁する樹脂成分の含有量が低下しているため、金属磁性粉末間の樹脂成分の絶縁層が極めて薄くなったり、金属磁性粉末どうしが電気的に接触したりすることにより、直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が低くなってしまう(例えば50V/mm以下となってしまう)という課題があった。特に、溶融粘度が低い熱硬化性樹脂を含む複合磁性材料を用いた場合、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂とが熱成型時に分離し易く、上記課題がより発生し易い傾向にあった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱成型時においてコイルを包埋している複合磁性材料中の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との分離が発生し難く、得られるコイル部品の直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が低下し難いコイル部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、所定の孔径および開口面積である排出孔を有する金型を用いて熱成型することにより、この熱成型時においてコイルを包埋している複合磁性材料中の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との分離が発生し難く、得られるコイル部品の直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が低下し難いことを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、金属磁性粉末および熱硬化性樹脂により構成される複合磁性材料が成型されて熱硬化された複合磁性熱硬化成型体にコイルの巻回部が内包されており、このコイルの引出部が複合磁性熱硬化成型体から突出しているコイル部品の製造方法であって、上型および下型を備え、上型の下型と当接させる領域または下型の上型と当接させる領域にコイルの引出部を配置させる配線溝を有し、さらに、この配線溝にコイルの引出部を配置して上型と下型とを当接させた状態において、金属磁性粉末が通過可能な孔径であり且つ開口面積合計がコイル部品の表面積の0.003%以上1.5%以下である1または複数の排出孔を有する金型を準備し、コイルの巻回部をこの金型の内部に配置し、コイルの引出部は配線溝に配置してコイルの引出部を金型の内部から突出させ、複合磁性材料をコイルの巻回部を包埋するようにして金型の内部に充填し、金型を加熱して、排出孔から複合磁性材料を流出させながら圧縮成型して、コイルの巻回部が内包された複合磁性成型体を得る圧縮成型工程と、この複合磁性成型体を熱処理して熱硬化させ、コイル部品を得る熱硬化工程と、を含むコイル部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱成型時においてコイルを包埋している複合磁性材料中の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との分離が発生し難く、得られるコイル部品の直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧が低下し難いコイル部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るコイル部品の製造方法に用いる金型の下型内部にコイルを配置し、配線溝にコイルの引出部を配置した状態の斜視図である。
図2図1の金型の下型と上型とを当接させた状態の斜視図である。
図3】本実施形態に係るコイル部品の製造方法に用いる金型の変形例の配線溝にコイルの引出部を配置した状態での、配線溝付近の拡大斜視図である。
図4】従来のコイル部品の製造方法に用いる金型の下型内部にコイルを配置し、配線溝にコイルの引出部を配置した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態に係るコイル部品の製造方法では、金属磁性粉末および熱硬化性樹脂により構成される複合磁性材料、ならびに巻回部および引出部を備えるコイルを用いてコイル部品を製造する。
まず、各材料について説明する。
【0013】
<複合磁性材料>
本実施形態に係るコイル部品の製造方法に用いる複合磁性材料は、金属磁性粉末および熱硬化性樹脂により構成される材料である。つまり、少なくとも金属磁性粉末および熱硬化性樹脂を含み、且つこれらが主成分(合計で90wt%以上)となる材料である。
なお、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、これら以外の成分(例えば分散剤、可塑剤、滑剤など)が含まれる複合磁性材料も除外されない。
【0014】
そして、複合磁性材料における金属磁性粉末の含有率は95wt%以上であることが好ましく、96wt%以上であることがより好ましい。上限は、98.5wt%以下であることが好ましく、98wt%以下であることがより好ましい。また、熱硬化性樹脂の含有率は1.5wt%以上であることが好ましく、2.0wt%以上であることがより好ましい。上限は、5.0wt%以下であることが好ましく、4.0wt%以下であることがより好ましい。さらに、この複合磁性材料は、金型への充填のし易さという観点から、造粒された造粒粉であるのが好ましい。
以下に、この複合磁性材料を構成する金属磁性粉末および熱硬化性樹脂について詳細に説明する。
【0015】
(金属磁性粉末)
金属磁性粉末は、金属磁性材料を粉末化する方法などによって得ることができる磁性粉末であり、鉄を主成分として含むものである。金属磁性材料としては、例えば、鉄、鉄を含む合金(鉄-珪素、鉄アルミ珪素合金、鉄ニッケル合金等)などを用いることができる。ただし、これらは一例に過ぎず、他の金属磁性材料を採用しても良い。また、この金属磁性粉末は、1種類の金属磁性材料の粉末でも、2種類以上の金属磁性材料が混合された粉末でも良い。
【0016】
特に、磁気特性や入手のし易さなどの観点から、鉄を主成分として含み、副成分として、クロム(Cr)、珪素(Si)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)、カーボン(C)、ホウ素(B)などを含む金属磁性粉末を用いるのがより好ましい。また、アモルファス金属粉末や純鉄粉を用いても良い。具体的には、Fe-Ni系(パーマロイ)、Fe-Si系(ケイ素鋼)、Fe-Al系、Fe-Co系(パーメンジュール)、Fe-Si-Cr系、Fe-Al-Cr系、Fe-Si-Al系(センダスト)などの合金粉末や、Fe-Si-Cr-B系のアモルファス粉末のような非結晶性金属粉末、カルボニル鉄粉などの結晶性鉄粉などが挙げられる。そして、上記材料のうち略球形の金属磁性粉末とすることが可能な材料(例えばFe-Si-Cr-B系のアモルファス粉末やFe-Si-Cr系合金粉末など)を用いるのがより好ましい。この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなるからである。
【0017】
金属磁性粉末の主成分である鉄の含有率は、85wt%以上であることが好ましく、86wt%以上であることがより好ましい。また、98wt%以下であることが好ましく、97wt%以下であることがより好ましい。そして、上記のような副成分から選ばれる1以上を含み、残部が鉄および不可避的不純物であることが好ましい。
【0018】
また、この金属磁性粉末は、クロムの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、2.5wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
クロムは、大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物(例えば、Cr23等)を容易に生成する。このため、クロムを含む複合磁性熱硬化成型体は、耐食性に特に優れたものとなる。さらにクロムの酸化物は比抵抗が大きいため、本実施形態に係るコイル部品の製造方法により得られるコイル部品の複合磁性熱硬化成型体を構成する粒子の表面付近にクロムの酸化物層が形成されることにより、粒子間をより絶縁し易くなる。
したがって、クロムの含有率を上記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに、渦電流損失のより小さいコイル部品を製造可能な複合磁性材料を構成することができる金属磁性粉末が得られる。
【0019】
同様の理由により、この金属磁性粉末は、ニッケルの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、2.5wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。そして、同様に、この金属磁性粉末は、アルミニウムの含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、2.5wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
【0020】
さらに、この金属磁性粉末は、珪素の含有率が2wt%以上10wt%以下であることが好ましく、3wt%以上8wt%以下であることがより好ましい。
珪素は、得られるコイル部品の比透磁率を高め得る成分である。また、金属磁性粉末が珪素を含むと比抵抗が高くなるため、粒子間渦電流損失を抑制し得る成分でもある。したがって、珪素の含有率を上記範囲内とすることにより、比透磁率が高く且つ渦電流損失のより小さいコイル部品を製造可能な複合磁性材料を構成することができる金属磁性粉末が得られる。
【0021】
そして、この金属磁性粉末は、上記成分より含有率の小さい成分として、ホウ素(B)、チタン(Ti)、V(バナジウム)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、Ga(ガリウム)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、およびタンタル(Ta)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいても良い。その場合、これらの成分の含有率の総和は、5wt%以下とするのが好ましい。
また、製造過程で不可避的に混入するリン(P)、硫黄(S)等の成分を含んでいても良いが、その場合、それらの成分の含有率の総和は、1wt%以下であるのが好ましい。
【0022】
なお、この金属磁性粉末の平均粒子径(D50)は、2μm以上40μm以下であるのが好ましく、4μm以上30μm以下であるのがより好ましい。さらに、金属磁性粉末の粒子形状は、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなることから、略球形(例えば、長径を短径で除した値が2以下、さらには1.5以下の略球体である形状)であるのが好ましい。
【0023】
そして、この金属磁性粉末の最大粒子径は75μm以下であるのが好ましく、70μm以下であるのがより好ましく、60μm以下であるのがさらに好ましく、50μm以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
ここで、上記した「平均粒子径(D50)」、および「最大粒子径」とは、レーザ回折・散乱法(マイクロトラック法)による粒子径分布測定装置を用いて求めた、体積基準粒度分布における積算値50%での粉子径(メディアン径)、および最大の粒子径を意味する。粒子が凝集している場合には、その凝集体の粒子径を意味する。なお、これらの具体的な測定機器としては、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)LA-960(HORIBA製作所社製)を挙げることができる。
【0025】
また、この金属磁性粉末として、金属磁性材料が水アトマイズ法やガスアトマイズ法により粉末化されたものを用いるのが好適である。
ここで、「水アトマイズ法」とは、溶湯(溶融金属)を、高速で噴射した水(アトマイズ水)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。
そして、「ガスアトマイズ法」とは、溶湯の流れに周囲から不活性ガスや空気などのジェット気流を吹き付けて溶湯の流れを粉化し、擬固させて金属粉末とする方法である。
【0026】
水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により製造された金属磁性粉末は、その形状が略球形となる(球形に近くなる)ため、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料を用いてコイル部品を製造する際に、その充填率を容易に高めることができる。また、前述したように、この金属磁性粉末を含む複合磁性材料の圧縮成型がよりし易くなる。
【0027】
さらに、この金属磁性粉末として、粉末表面の吸着水を除去するために乾燥処理が施されたもの、つまり粉末を乾燥処理して得られた金属磁性乾燥粉末を用いても良い。粉末の乾燥処理方法としては、熱風処理や乾熱処理などが例示され、乾燥処理条件としては、100℃以上150℃以下の温度で30分間以上120分間以下処理する条件などが例示される。
【0028】
また、この金属磁性粉末として、熱硬化性樹脂との濡れ性を向上させるためにシラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理が施されたもの、つまり粉末をシラン系またはチタン系のカップリング剤により表面処理して得られた表面処理金属磁性粉末を用いても良い。シラン系またはチタン系のカップリング剤としては、後述する熱硬化性樹脂との親和性などの観点から、エポキシ基、アミノ基、またはイソシアネート基を官能基として有するシラン系またはチタン系のカップリング剤を用いるのがより好ましい。そして、粉末の表面処理方法としては、粉末をミキサー等により攪拌させながらカップリング剤を含む溶液を滴下または噴霧する乾式処理法や、粉末に溶媒を加えてスラリー状とし、このスラリーにカップリング剤を含む溶液を加えて攪拌した後、濾過および乾燥する湿式処理法などが例示される。なお、この表面処理は、前述した乾燥処理と組み合わせて行っても良い。
【0029】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、官能基を持つプレポリマーを主成分とする反応性の樹脂組成物であり、加熱により軟化および流動し、次第に三次元網目構造を形成する架橋反応を起こして硬化する樹脂組成物である。なお、本実施形態に係るコイル部品の製造方法により得られたコイル部品の複合磁性熱硬化成型体に含まれているのは熱硬化された樹脂組成物であるが、本発明ではこの熱硬化された樹脂組成物も「熱硬化性樹脂」と称する場合がある。そして、この熱硬化性樹脂としては、バインダー樹脂としての役割を果たし且つ加熱により硬化可能なもの(例えば半導体の封止材料に使用されている樹脂など)であれば特に限定されず、熱硬化型の、エポキシ系樹脂(ビスフェノール型、ナフタレン型、ノボラック型、脂肪族型、グリシジルアミン型など)、シリコン系樹脂(メチルフェニルシリコン樹脂など)、フェノール系樹脂(ノボラック型、レゾール型など)、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、メラミン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等を用いることができる。そして、2種類以上の熱硬化性樹脂が混合されたものを用いても良い。特に、熱耐性などの観点から、エポキシ系樹脂を用いるのがより好ましく、ノボラック型エポキシ系樹脂を用いるのがさらに好ましい。
なお、本実施形態に係るコイル部品の製造方法では、後述する金型を用いることにより、溶融粘度が低い熱硬化性樹脂を含む複合磁性材料を用いる場合でも、熱成型時において複合磁性材料中における金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との分離が発生し難いことが特徴である。
【0030】
さらに、この熱硬化性樹脂は、熱硬化のし易さなどの観点から、硬化剤が混合されたものであるのが好ましい。硬化剤としては、フェノールノボラック型の硬化剤(フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂など)、ポリアミド系硬化剤(ポリアミド樹脂など)、無水マレイン酸、無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤、ジシアンジアミド、イミダゾール等の潜在性アミン系硬化剤、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン類などを用いることができる。これらの硬化剤は、単独で使用しても、2種類以上併用しても良い。
また、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、さらに希釈剤、充填剤、離型剤などの他の添加剤が混合されたものであっても良い。
【0031】
なお、複合磁性材料を調製するにあたり、熱硬化性樹脂を樹脂溶液とするために、熱硬化性樹脂に溶剤を混合しても良い。この溶剤は、後述する各工程などにおいて乾燥等により除去されるものであるが、除去のし易さという観点から、溶剤の使用量は少ない方が好ましい(例えば、溶剤を除く複合磁性材料に用いる原材料の合計体積に対する溶剤の体積の比率が5.0vol%未満、さらには0.5vol%以上2.0vol%以下など)。溶剤としては、後述する各工程などにおいて乾燥等により除去可能なものであるのが好ましく、アルコール、トルエン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒が好適例として示される。
【0032】
<コイル>
本実施形態に係るコイル部品の製造方法に用いるコイルは、丸線や平線などのワイヤ線が巻回されたものである。なお、このワイヤ線の形状や本数、巻回数(ターン数)などは特段限定されるものではない。また、このワイヤ線は表面が絶縁被覆されたものであっても良い。そして、このワイヤ線は、銅などの金属材料により構成されたものであれば良く、そのワイヤ径も限定されない。
【0033】
そして、このコイルは、ワイヤ線が巻回された巻回部101と、この巻回部からワイヤ線が引き出された引出部103と、を備える。そして、この引出部103は、コイル部品のコイル引出線となるものである。さらに、この巻回部101の内部には、磁性コア材となる芯部を有していても良い。あるいは、巻回部101の内部に芯部を有さない空芯コイルであっても良い。
【0034】
<コイル部品の製造方法>
次に、前述した材料を用いた、本実施形態に係るコイル部品の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0035】
本実施形態に係るコイル部品の製造方法は、少なくとも、以下のような圧縮成型工程および熱硬化工程を含む。なお、本発明の効果に影響を与えない範囲内において、これら以外の工程(例えば、材料調製工程、熱硬化後の研磨工程など)を任意に含んでいて良い。
【0036】
[圧縮成型工程]
まず、この圧縮成型工程では、所定の金型を準備する。具体的には、上型11および下型21を備え、この上型11の下型21と当接させる領域、あるいはこの下型21の上型11と当接させる領域には、コイルの引出部103を沿うように配置させることが可能な配線溝33を有し、さらに、配線溝33にコイルの引出部103を配置して上型11と下型21とを当接させた状態において、金属磁性粉末が通過可能な孔径であり且つ開口面積合計がコイル部品の表面積の0.003%以上1.5%以下である1または複数の排出孔35を有する金型を準備する。この排出孔35は、金型を加熱して圧縮成型する熱成型時において、複合磁性材料中の金属磁性粉末を熱硬化性樹脂とともに通過させることが可能であり、例えば、その孔最小径が金属磁性粉末の平均粒子径(D50)の3倍以上70倍以下、さらには5倍以上50倍以下、さらには5倍以上20倍以下であっても良い。また、この排出孔35は、上記した開口面積合計であることにより熱成型時における複合磁性材料の流出量が過度に多くならないようになっている。
【0037】
特に、この金型の排出孔35は、その孔最小径が金属磁性粉末の最大粒子径以上であると好ましい。さらには、その孔最小径が金属磁性粉末の最大粒子径を超える大きさであるとより好ましい。熱成型時において、排出孔35から複合磁性材料を均質な状態のまま通過させ易いからである。
【0038】
ここで、排出孔35の「孔径」とは、排出孔35の孔直交断面(排出孔35の貫通方向と垂直な断面)における最大内接円の直径である。また、排出孔35の「孔最小径」とは、排出孔35の全ての孔直交断面において、これらの最大内接円の直径のうち最小の径である。したがって、排出孔35の孔最小径が金属磁性粉末の最大粒子径以上であると、複合磁性材料に含まれる全ての金属磁性粉末が熱硬化性樹脂とともに通過可能である。
また、排出孔35の開口面積とは、金型の内部空間側における排出孔35の孔開口の面積であり、「開口面積合計」とは、この開口面積の合算値(排出孔35が1つの場合にはその開口面積)である。さらに、「コイル部品の表面積」とは、圧縮成型工程および熱硬化工程後に得られる複合磁性熱硬化成型体の表面積(十分に圧縮された状態での金型の内部空間の表面積と同じ)であり、コイルの引出部103の表面積(ワイヤ線の表面積)は含まれない。
【0039】
なお、上記した排出孔35の開口面積合計の下限は、熱成型時において複合磁性材料をこの排出孔35からより流出させ易くなることから、コイル部品の表面積の0.005%以上であるのがより好ましく、0.007%以上であるのがさらに好ましく、0.01%以上であるのがさらに好ましい。また、この上限は、得られるコイル部品の密度をより高くし易いことから、コイル部品の表面積の1.4%以下であるのがより好ましく、1.3%以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
また、上記した排出孔35の孔最小径は、限定されるものではないが、50μm以上であっても良く、60μm以上であっても良く、70μm以上であっても良く、75μm以上であっても良い。また、その上限は、これも限定されるものではないが、2000μm以下であっても良く、1500μm以下であっても良く、1000μm以下であっても良い。
【0041】
そして、この排出孔35は、上型11の下型21と当接させる領域または下型21の上型11と当接させる領域に備わる排出溝31により形成されるものであるのが好ましい。つまり、上記した金型は、上型11の下型21と当接させる領域または下型21の上型11と当接させる領域に排出溝31を有し、上型11と下型21とを当接させたときに、この排出溝31が前述した排出孔35を形成する構成であると好適である。熱成型時において、上型11と下型21との当接領域(当接面と隣接した領域)に備わる排出孔35により複合磁性材料を容易に流出させることができ、また金型の設計や作製もし易いからである。
【0042】
例えば、図1および図2に示す実施形態のような、上型11の下型21と当接させる領域、および下型21の上型11と当接させる領域の両方に排出溝31を複数有し、この排出溝31が、上型11と下型21とを当接させたときに、上型11の1つの排出溝31と下型21の1つの排出溝31とが組み合わされて1つの排出孔35が形成されるような金型が例示される。また、排出溝31を、上型11の下型21と当接させる領域だけ、あるいは下型21の上型11と当接させる領域だけに有する金型であっても良い。さらに、金型が有する全ての排出孔35がこの排出溝31により形成されたものであっても良い。
しかしながら、上型11と下型21との当接領域以外の領域(例えば金型の上型における側周面や天面、下型における側周面など)に排出孔35を有する金型を用いることを除外するものではない。
【0043】
また、金型が側周面を複数有する構成である場合、例えば図1および図2に示す実施形態のように、この複数の側周面のうち、コイルの引出部103が突出する引出部突出面と、排出孔35が開口する排出孔開口面と、が異なる構成であると好適である。圧縮成型工程および熱硬化工程後に得られるコイル部品の表面研磨を行う際に、排出孔35から流出した複合磁性材料により形成された複合磁性熱硬化成型体の突出を研磨し易いからである。
【0044】
あるいは、前述した排出溝31は、変形例として、図3に示す実施形態のように配線溝33と一体となっている構成であっても良い。つまり、配線溝33にコイルの引出部103を配置して上型11と下型21とを当接させたときに生じるクリアランスが前述した排出孔35となる構成であっても良い。この場合、このクリアランスは、金属磁性粉末が通過可能な孔径であり且つこのクリアランスの開口面積を含む排出孔35の開口面積合計がコイル部品の表面積の0.003%以上1.5%以下となるようにすれば良い。そして、図3に示す実施形態では、コイルの引出部103の両側に(コイルの引出部103を挟んで2つの)排出孔35が形成されるような配線溝33(排出溝31)となっているが、コイルの引出部103の一方の側にだけ排出孔35が形成されるような配線溝33(排出溝31)としても良い。
しかしながら、この排出溝31は、配線溝33とは別に設けられている(排出溝31と配線溝33とが分離している)構成であると、排出孔35が配線溝33とは別の領域に形成されることとなり、配線溝33に配置したコイルの引出部103が成型時により安定し易いため好適である。
【0045】
なお、配線溝33については、コイルの引出部103を配置させることが可能な構成であれば良い。特に、コイルの引出部103を配置したときに、配線溝33の内面とコイルの引出部103との間の間隔が金属磁性粉末の最大粒子径未満となるような構成であると好適である。そして、このような配線溝33を、上型11の下型21と当接させる領域、および下型21の上型11と当接させる領域の両方に有する金型(例えばこれらが組み合わさることができる構成の金型)を使用しても良く、あるいは、配線溝33を、上型11の下型21と当接させる領域だけ、または下型21の上型11と当接させる領域だけに有する金型を使用しても良い。また、この配線溝が2以上形成されている金型を使用しても良い。
【0046】
そして、前述した排出孔35の数については、金型が排出孔35を2以上有するような構成であると、熱成型時における排出孔35からの複合磁性材料の流出がよりし易くなるため好適である。特に、図2に示すような、上型11と下型21との当接領域において2以上排出孔35を有する金型であると非常に好適である。
【0047】
次に、この準備した金型の内部にコイル(例えば空芯コイル)の巻回部101を配置する。そして、図1および図2に示すように、コイルの引出部103は配線溝33に配置してこのコイルの引出部103を金型の内部から突出させる。さらに、インジェクターなどを用いて、複合磁性材料をコイルの巻回部101を包埋するようにして(巻回部101の上下空間、側部空間、および内部空間を包埋するようにして)金型の内部に充填する。なお、複合磁性材料を金型内に投入する際には、金型内部で複合磁性材料が十分に充填されない箇所を生じ難くするために、金型に振動を加えながら投入を行っても良い。
【0048】
そして、金型を加熱して温度調整し、上下両方またはどちらか一方からパンチなどにより加圧して排出孔35から複合磁性材料を流出させながら圧縮成型を行い、コイルの巻回部101が内包された複合磁性成型体を得る。なお、金型の加熱は、複合磁性材料の充填前に行っても良い。この熱成型において、金型内に複合磁性材料が十分に満たされた後の加圧によって上記したように複合磁性材料の一部が排出孔35から流出するが、この排出孔35は金属磁性粉末および熱硬化性樹脂が均質に混合された状態で通過することができる大きさであるため、コイルを包埋している複合磁性材料中の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との分離が発生し難い。したがって、この圧縮成型工程で得られる複合磁性成型体は、成型前の複合磁性材料と実質的に組成(熱硬化性樹脂の含有率)が変わっていないものとなる。
【0049】
例えば図4に示すような、排出孔35を有さない従来の金型を用いた場合、配線溝33とコイルの引出部103との間のクリアランスが極めて小さく、他の部分にもクリアランスはほとんどないため、熱成型時には、この配線溝33とコイルの引出部103との間のクリアランスに複合磁性材料中の熱硬化性樹脂が分離して流れ込んでしまう可能性が高い。そうすると、得られる複合磁性熱硬化成型体における熱硬化性樹脂の含有率が低下してしまう。これは、絶縁破壊電圧の低下などを招く恐れがある。一方、このような熱硬化性樹脂の分離を防ぐために成型圧力をより低くすると、密度の高い成型体(コイル部品)を得ることが難しくなる場合がある。
しかしながら、本実施形態に係るコイル部品の製造方法に用いる金型は、前述したような排出孔35を有するため、熱成型時において、コイルを包埋している複合磁性材料中の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との分離が発生し難く、得られるコイル部品の直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧低下が発生し難いことが特徴である。そして、この熱成型時において必要以上に複合磁性材料が流出することも抑制でき、密度の高い成型体(コイル部品)を得やすい。
【0050】
なお、この圧縮成型工程においては、金型を100℃以上180℃以下に加熱して、3kgf/cm2以上5000kgf/cm2以下(2.94×10N/cm2以上4.9×104N/cm2以下)の成型圧力により、10秒間以上5分間以下の時間で圧縮成型するのが好ましい。本実施形態に係るコイル部品の製造方法では、前述したような金型を用いて圧縮成型工程を行うため、上記のような成型圧力条件であっても、排出孔35から複合磁性材料を流出させることができ且つ密度の高い成型体(コイル部品)を得ることができる。そして、得られる成型体(コイル部品)の直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧低下が発生し難い。
【0051】
なお、空芯コイルの代わりにコイルと磁心となる磁性コア材とからなるコイル組立体を用意し、これを用いて上記と同様の方法により熱成型を行っても良い。この場合、得られるコイル部品の磁性外装体(アウターコア材)は複合磁性熱硬化成型体により構成されるが、磁心(インナーコア材)はこの複合磁性熱硬化成型体とは異なる材料(例えばフェライトコアなど)により構成されることとなる。けれども、アウターコア材およびインナーコア材がいずれもこの複合磁性熱硬化成型体により構成されたコイル部品とするのがより好適である。
【0052】
[熱硬化工程]
熱硬化工程は、圧縮成型工程において得られたコイルの巻回部101を内包する複合磁性成型体を熱処理して熱硬化させ、複合磁性熱硬化成型体にコイルの巻回部101が内包されたコイル部品を得る工程である。具体的には、圧縮成型工程後のコイルの巻回部101を内包する複合磁性成型体を、含まれる熱硬化性樹脂の推奨されている熱硬化温度以上の温度により熱処理して熱硬化させる。この熱処理の温度は、複合磁性材料に含まれる熱硬化性樹脂の種類などに応じて適宜設定すれば良いが、例えば、150℃以上230℃以下、さらには160℃以上200℃以下の温度が例示される。熱処理時間も、例えば0.1時間以上5時間以下であって良く、さらには0.2時間以上3時間以下であって良い。なお、この熱処理は、金型内において行っても良く、金型から取り出した後に行っても良く、その両方で行っても良い。その後、得られたコイル部品は、更に必要に応じて、表面の研磨やコーティングなどの工程を選択的に施すことができる。
【0053】
このようにして、コイルを内包する複合磁性熱硬化成型体における熱硬化性樹脂の含有率が維持された(複合磁性材料と熱硬化性樹脂の含有率が実質的に同じである)コイル部品を容易に得ることができる。つまり、直流電圧を印加したときの絶縁破壊電圧の低下が抑制された(例えばこの絶縁破壊電圧が200V/mm以上である)コイル部品を容易に製造することができる。
【0054】
また、図3に示す実施形態のような、排出溝31が配線溝33と一体となっている構成の金型を用いてコイル部品を製造した場合、熱成型時にコイルの引出部103の周縁から複合磁性材料が流出するため、得られるコイル部品の引出部103の周縁には、この複合磁性材料の残部が熱硬化されて形成された突出部が備わることとなる。つまり、コイルの引出部103の周縁に、コイルの巻回部101周縁の複合磁性熱硬化成型体と実質的に同配合である複合磁性熱硬化成型体が引出部103とともに突出した突出部が備わるコイル部品を得ることができる。このコイル部品は、引出部103の周縁の突出部によって、引出部103のワイヤ線折れ曲がり耐性がより高まったものとなり易い。
【0055】
以上、本実施形態に係るコイル部品の製造方法を説明したが、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の実施態様も含む。
また、上記の各実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、適宜に組み合わせることができる。
【0056】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでもなく、前述のように、本発明の技術的思想内において様々な変形等が可能である。
【実施例0057】
複合磁性材料に用いる金属磁性粉末として、略球形のFe-Si-Cr-B系アモルファス粉末(Fe含有率86wt%、Si含有率6.7wt%、Cr含有率2.5wt%、B含有率2.5wt%)である、平均粒子径(D50)が27μmの粉末と平均粒子径(D50)が4μmの粉末との混合物(最大粒子径は50μm)を用意した。ここで、この平均粒子径(D50)および最大粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(粒度分布)LA-960(HORIBA製作所社製)を用いて測定した値である。さらに、複合磁性材料に用いる熱硬化性樹脂として、ノボラック型エポキシ樹脂に硬化剤としてフェノールノボラック型の硬化剤を必要量添加したものを用意した。
【0058】
そして、まず所定量秤量した上記熱硬化性樹脂を、メチルエチルケトン(MEK)を溶剤として希釈した。充分に溶解して樹脂溶液とし、この樹脂溶液に所定量秤量した上記金属磁性粉末を混合し、プラネタリーミキサーで充分に攪拌混合した。さらに、プラネタリーミキサーで攪拌しながら希釈溶剤であるメチルエチルケトン(MEK)を乾燥させ、金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との混合物を得た。さらに、この混合物を高速破砕機で粉砕し、次いで造粒を行って、熱硬化性樹脂の質量割合が3.0wt%である複合磁性材料の造粒粉を作製した。
【0059】
これとは別に、絶縁被覆銅線(ワイヤ線)を用いて、巻回部およびワイヤ線が引き出された引出部を有する空芯コイルを用意した。
【0060】
次に、上型の下型と当接させる領域および下型の上型と当接させる領域に、金型の上型と下型を当接させたときに同じ大きさの2つの排出孔(孔直交断面は略円形であり且つ略円筒状の排出孔)が組み合わさって形成されるような4つの排出溝と、上記コイルの引出部を配置したときに生じるクリアランス(配線溝の内面とコイルの引出部との間の間隔)が50μm未満である2つの配線溝と、を有する金型を準備した。なお、この金型は、内部空間の形状(No.1~No.3)または形成される排出孔の直径(0.050mm~1.000mm)が異なる18種類を用意した。これらの金型を用いて作製されるコイル部品の表面積a(mm2)、これらの金型の1つの排出孔の直径b(孔最小径、mm)、これらの金型の2つの排出孔の孔直交断面の断面積合計c(開口面積合計、mm2)、および、これらの金型を用いて作製されるコイル部品の表面積に対するこれらの金型の2つの排出孔断面積合計の割合c/a(%)を下記表1に示した。そして、上記空芯コイルの巻回部を各金型の内部に設置し、且つその引出部を配線溝に配置して、上記複合磁性材料の造粒粉を空芯コイルの巻回部が包埋されるように充填した。そして、この金型の温度を140℃とし、上側パンチによって100kgf/cm2の圧力で1分間圧縮成型し、その後金型から複合磁性成型体を取り出した。取り出した複合磁性成型体は160℃2時間の条件により熱処理し、熱硬化性樹脂の熱硬化(アフターキュア)を行って、コイルが内包された複合磁性熱硬化成型体であるコイル部品を得た。
【0061】
得られた各コイル部品における複合磁性熱硬化成型体の絶縁破壊電圧(V/mm)については、所定の厚さに切り出された複合磁性熱硬化成型体の主面の両面を、導電性ゴムシート(厚さ0.3mm)を介して二極の銅板電極で挟んで直流電圧を印加して計測した。計測には日置電機社製、絶縁抵抗計SM7110を使用した。この結果も下記表1に示した。
【0062】
この結果から、いずれのコイル部品の複合磁性熱硬化成型体も230V/mm以上の絶縁破壊電圧を確保できており、つまり、いずれのコイル部品も、熱成型時において複合磁性材料中の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂との分離が発生せず、熱硬化性樹脂の含有率が維持されたまま成型され、熱硬化されたものであることが示された。
【0063】
【表1】
【0064】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)金属磁性粉末および熱硬化性樹脂により構成される複合磁性材料が成型されて熱硬化された複合磁性熱硬化成型体にコイルの巻回部が内包されており、前記コイルの引出部が前記複合磁性熱硬化成型体から突出しているコイル部品の製造方法であって、上型および下型を備え、前記上型の前記下型と当接させる領域または前記下型の前記上型と当接させる領域に前記コイルの前記引出部を配置させる配線溝を有し、さらに、前記配線溝に前記コイルの前記引出部を配置して前記上型と前記下型とを当接させた状態において、前記金属磁性粉末が通過可能な孔径であり且つ開口面積合計が前記コイル部品の表面積の0.003%以上1.5%以下である1または複数の排出孔を有する金型を準備し、前記コイルの前記巻回部を前記金型の内部に配置し、前記コイルの前記引出部は前記配線溝に配置して前記コイルの前記引出部を前記金型の内部から突出させ、前記複合磁性材料を前記コイルの前記巻回部を包埋するようにして前記金型の内部に充填し、前記金型を加熱して、前記排出孔から前記複合磁性材料を流出させながら圧縮成型して、前記コイルの前記巻回部が内包された複合磁性成型体を得る圧縮成型工程と、前記複合磁性成型体を熱処理して熱硬化させ、前記コイル部品を得る熱硬化工程と、を含む、コイル部品の製造方法。
(2)前記金型の前記排出孔は、孔最小径が前記金属磁性粉末の最大粒子径以上である、(1)に記載のコイル部品の製造方法。
(3)前記金型は、前記上型の前記下型と当接させる領域または前記下型の前記上型と当接させる領域に排出溝を有し、前記上型と前記下型とを当接させたときに、前記排出溝が前記排出孔を形成する構成である、(1)または(2)に記載のコイル部品の製造方法。
(4)前記金型は側周面を複数有し、前記側周面のうち、前記コイルの前記引出部が突出する引出部突出面と、前記排出孔が開口する排出孔開口面と、が異なる構成である、(1)~(3)のいずれか1つに記載のコイル部品の製造方法。
(5)前記圧縮成型工程において、前記金型を100℃以上180℃以下に加熱して、3kgf/cm2以上5000kgf/cm2以下の成型圧力により、10秒間以上5分間以下の時間で圧縮成型する、(1)~(4)のいずれか1つに記載のコイル部品の製造方法。
【符号の説明】
【0065】
11 金型の上型
21 金型の下型
31 排出溝
33 配線溝
35 排出孔
101 コイル巻回部
103 コイル引出部
図1
図2
図3
図4