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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158036
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】成形用樹脂組成物、および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20221006BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 61/28 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20221006BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20221006BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221006BHJP
   C09K 5/06 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L61/10
C08L63/00
C08L61/28
C08L33/12
C08L75/04
C08K7/02
C09K5/06 B
C09K5/06 E
C09K5/06 J
C09K5/06 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062650
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】中井戸 宙
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE034
4J002BG062
4J002CC041
4J002CC051
4J002CC182
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002CK022
4J002CL063
4J002DA016
4J002EA017
4J002EC057
4J002EC067
4J002EF057
4J002FA043
4J002FA046
4J002FA102
4J002FD013
4J002FD016
4J002FD202
4J002FD207
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】安定した蓄熱性が得られる成形用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の成形用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、および蓄熱粒子を含み、示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに0~140℃の範囲に吸熱ピークが少なくとも一つある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、および蓄熱粒子を含む、成形用樹脂組成物であって、
示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに0~140℃の範囲に吸熱ピークが少なくとも一つある、成形用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の成形用樹脂組成物において、
当該成形用樹脂組成物について、示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で-20℃から80℃まで昇温する過程と、降温速度5℃/分で80℃から-20℃まで降温する過程とからなる示差走査熱量測定(DSC)を、40分の間隔で繰り返し行った際に、
1回目の示差走査熱量測定(1stRun)による熱量の合計値(Q1)と、2回目の示差走査熱量測定(2ndRun)による熱量の合計値(Q2)の差(ΔQ)が0~10J/gである、成形用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2記載の成形用樹脂組成物において、
前記1回目の示差走査熱量測定及び前記2回目の示差走査熱量測定において、前記昇温する過程で20~80℃の範囲に吸熱ピークが観察される、成形用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載の成形用樹脂組成物において、
当該吸熱ピークの熱量が1~130J/gである、成形用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の成形用樹脂組成物において、
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上を含む、成形用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の成形用樹脂組成物において、
前記蓄熱粒子の平均粒子径が1~40μmである、成形用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれか一項に記載の成形用樹脂組成物において、
前記蓄熱粒子が潜熱蓄熱材を内包するカプセル型蓄熱粒子である、成形用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の成形用樹脂組成物において、
前記カプセル型蓄熱粒子の外殻が、メラミン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂の中から選ばれる1種または2種以上を含む、成形用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれか一項に記載の成形用樹脂組成物において、
さらに強化繊維を含む、成形用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれか一項に記載の成形用樹脂組成物を熱硬化した成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用樹脂組成物、および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー効率を高めるため、建築材料や温調システム等への蓄熱材の使用が検討されている。蓄熱材とは、熱容量が大きく熱を蓄えたり、その熱を取り出すことができるものである。
かかる蓄熱材は、その熱を蓄える機構の違いから主として顕熱蓄熱材料と潜熱蓄熱材料とに分類される。顕熱蓄熱材料は、物質の温度変化を伴って熱を蓄える材料である。例えば、水は化学的に安定で、比熱も大きいため、非常に優れた顕熱蓄熱材料である。一方、潜熱蓄熱材料は、物質の相変化または転移に伴う潜熱を利用して熱を蓄える材料で、主として材料固有の融点または転移点で蓄熱および放熱が行われる。
【0003】
潜熱蓄熱材を利用した成形体としては、例えば、特許文献1に開示のものがある。特許文献1には、優れた柔軟性や耐熱性を有し、使用態様に応じた適温保持に貢献できる蓄熱性を有する蓄熱成形体を得るために、蓄熱材と熱可塑性樹脂とを組み合わせ、特定の可塑剤を含む蓄熱成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/208573号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、新たに熱硬化性樹脂と蓄熱材とを組み合わせることに着目し検討を行ったところ、熱硬化性樹脂と蓄熱材とを含む樹脂組成物において、特定の吸熱ピークを指標として制御することで、これを用いた成形体において繰り返し使用できる安定した蓄熱性が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
熱硬化性樹脂、および蓄熱粒子を含む、成形用樹脂組成物であって、
示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに0~140℃の範囲に吸熱ピークが少なくとも一つある、成形用樹脂組成物が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、
上記の成形用樹脂組成物を熱硬化した成形体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定した蓄熱性が得られる成形用樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の成形用樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)結果を示す図である。
図2】実施例2の成形用樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)結果を示す図である。
図3】実施例3の成形用樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)結果を示す図である。
図4】実施例4の成形用樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)結果を示す図である。
図5】実施例5の成形用樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)結果を示す図である。
図6】比較例1の成形用樹脂組成物の示差走査熱量測定(DSC)結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0011】
本実施形態において、各粒子の(平均)粒径は、体積基準粒度分布の累積50%となる粒子径(D50)であり、市販のレーザー式粒度分布計、たとえば、株式会社島津製作所製の「SALD-7000」を用いて測定することができる。
【0012】
<成形用樹脂組成物>
本実施形態の成形用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、および蓄熱粒子を含み、以下の条件(a)を満たすものである。
(a)示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに0~140℃の範囲に吸熱ピークが少なくとも一つある。
これにより、本実施形態の成形用樹脂組成物を用いて得られた成形体において安定した蓄熱性が得られる。吸熱ピークの数は一つに限られないが、最大吸熱ピークが0~140℃の範囲にあることが好ましい。また最大吸熱ピークは、好ましくは20~80℃の範囲にあると、成形体および硬化物の使用環境下でより安定した蓄熱性が得られる。
最大吸熱ピークの熱量としては、1~130J/gが好ましい。
【0013】
さらに、本実施形態の成形用樹脂組成物は、以下の条件(b)を満たすことが好ましい。
(b)当該成形用樹脂組成物について、示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で-20℃から80℃まで昇温する過程と、降温速度5℃/分で80℃から-20℃まで降温する過程とからなる示差走査熱量測定(DSC)を、40分の間隔で繰り返し行った際に、
1回目の示差走査熱量測定(1stRun)による熱量の合計値(Q1)と、2回目の示差走査熱量測定(2ndRun)による熱量の合計値(Q2)の差(ΔQ)が0~10J/gである。すなわち、ΔQは小さいほど蓄熱と放熱が繰り返し行われ安定して蓄熱できることを意図する。ΔQは、好ましくは7J/g以下、より好ましくは4J/g以下である。
【0014】
また、条件(b)において、1回目の示差走査熱量測定及び2回目の示差走査熱量測定において、昇温する過程で20~80℃の範囲に吸熱ピークが観察されることが好ましい。これにより成形体が使用される環境下でより効果的に蓄熱性を得ることができる。この時の最大吸熱ピークの熱量は高いほど好ましく、例えば、1~130J/gであることが好ましく、10J/g以上であることがより好ましく、30J/g以上であることがさらに好ましく、50J/g以上であることがことさらに好ましい。
【0015】
上記の条件(a)、(b)を満たす成形用樹脂組成物を得るためには、後述する成形用樹脂組成物に含まれる熱硬化性樹脂と蓄熱粒子との組み合わせを調整したり、成形用樹脂組成物の製造方法を工夫すること等が重要となる。
【0016】
以下、本実施形態の成形用樹脂組成物に含まれる成分について説明する。
【0017】
[熱硬化性樹脂]
熱硬化性樹脂は、成形用樹脂組成物を用いて得られる成形体及び硬化物のマトリックス樹脂として用いられる。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0018】
(フェノール樹脂)
上記フェノール樹脂としては、具体的には、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、アリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられる。フェノール樹脂として、これらの中の1種類を単独で用いてよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。フェノール樹脂としては、上記具体例のうち例えば、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂を用いるのが好ましい。
【0019】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、無触媒または酸性触媒の存在下で反応させて得られる樹脂であれば、用途に合わせて適宜選択することができる。たとえば、ランダムノボラック型やハイオルソノボラック型のフェノール樹脂も用
いることができる。
なお、このノボラック型フェノール樹脂は、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)が0.5以上1.0以下となるように制御した上で、反応させて得ることができる。
【0020】
このノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるフェノール類の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。なお、これらのフェノール類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
また、ノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるアルデヒド類の具体例としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、およびこれらのアルデヒド化合物の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド化合物の溶液等を用いることができる。なお、これらのアルデヒド類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
また、ノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられる酸性触媒の具体例としては、蓚酸、酢酸等の有機カルボン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1’-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸等の有機ホスホン酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、塩基性触媒の存在下で反応させて得られる樹脂であれば、用途に合わせて適宜選択することができる。
なお、このレゾール型フェノール樹脂は、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)が1.3以上1.7以下となるように制御した上で、反応させて得ることができる。
【0024】
このレゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられるフェノール類の具体例としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。
なお、これらのフェノール類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0025】
また、レゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられるアルデヒド類の具体例としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、およびこれらのアルデヒド化合物の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド化合物の溶液等を用いることができる。なお、これらのアルデヒド類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0026】
また、レゾール型フェノール樹脂を調製する際に用いられる塩基性触媒の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、アンモニア水、トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミンなどのアミン類、酢酸マグネシウムや酢酸亜鉛などの二価金属塩などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(エポキシ樹脂)
上記エポキシ樹脂としては限定されず、その分子量、分子構造に関係なく、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を使用することが可能である。
エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリフェニル型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂)、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂;臭素化ビスフェノールA型、臭素化フェノールノボラック型などの臭素化型エポキシ樹脂;トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシ樹脂としては、これらの中から1種を単独で用いてよいし、異なる2種類以上を併用してもよい。
【0028】
熱硬化性樹脂の重量平均分子量の上限値としては、例えば、10000以下であることが好ましく、9000以下であることがより好ましく、8000以下であることが更に好ましい。これにより、熱硬化性樹脂中での蓄熱性粒子の分散性を向上しやすくなる。
また、熱硬化性樹脂の重量平均分子量の下限値としては、例えば、2000以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましく、4000以上であることが更に好ましい。これにより、成形物としたときの機械的強度を向上できる。
【0029】
熱硬化性樹脂の含有量は、成形用樹脂組成物(固形分量)全量に対して、40~85質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましく、55~75質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
[蓄熱粒子]
本実施形態の蓄熱粒子は、上記の条件(a)を満たすような成形用樹脂組成物が得られるものであればよく、潜熱蓄熱材を含む公知の蓄熱粒子を用いることができる。
潜熱蓄熱材は、熱を吸放出することができる物質であり、融解・凝固する際の相変化により、熱を吸放出することができる。なかでも、潜熱蓄熱材としては、-20℃~120℃の温度範囲で固液相転移を示すことが好適である。
【0031】
本実施形態の蓄熱粒子は、カプセル型蓄熱粒子であることが好ましい。カプセル型蓄熱粒子は、潜熱蓄熱材を含有するコア部と、当該コア部を保護するための外殻から構成されることで、潜熱蓄熱材を内包することができる。これにより、潜熱蓄熱材が固液相変化をして吸放熱する際に、潜熱蓄熱材が液相に変化したとしても、成形体内に固定することができるようになる。
【0032】
カプセル型蓄熱粒子に用いられる潜熱蓄熱材としては、例えば、水、有機化合物、無機化合物等が挙げられる。
上記の有機化合物としては、例えば、n-テトラデカン(融点約5℃)、n-ペンタデカン(融点約9.9℃)、n-ヘキサデカン(融点約18℃)、n-ヘプタデカン(融点約21℃)、n-オクタデカン(融点約28℃)、n-ノナデカン(融点約32℃)、n-イコサン(融点約37℃)、n-ドコサン(融点約46℃)、n-テトラコサン(融点約51℃)、n-ヘキサコサン(融点約57℃)、n-オクタコサン(融点約62℃)、n-トリアコンタン(融点約66℃)、日本精蝋製パラフィンワックス(融点約55℃)等の直鎖状もしくは分岐状のパラフィン系炭化水素;セチルアルコール(融点約51℃)等の高級アルコール;ステアリン酸(融点約70℃)等の高級脂肪酸;エリスリトール(融点約121℃)、キシリトール(融点92~96℃)、ジチオトレイトール(融点42~43℃)、ガラクチトール(融点188~189℃)、D-イジトール(融点74~78℃)、L-イジトール(融点75~79℃)、ソルビトール(融点約95℃)等の糖アルコールを挙げることができる。
上記の無機化合物としては、例えば、塩化カルシウム水和物(融点約29.7℃)、硫酸ナトリウム水和物(融点約32.4℃)、チオ硫酸ナトリウム水和物(融点約48℃)、酢酸ナトリウム水和物(融点約58℃)等を挙げることができる。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
なかでも、要求される蓄熱性能に応じた選択性に優れる点から有機化合物であることが好ましい。また、蓄熱密度が高く、相変化を繰り返しても劣化しにくく、様々な温度での蓄熱性が得られる点から、パラフィン系炭化水素であることがより好ましい。
【0034】
また、カプセル型蓄熱粒子の外殻としては、内包された蓄熱材をもれにくくする点から有機系材料が好ましい。当該有機系材料としては、例えば、メラミン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。これにより、成形用樹脂組成物の熱圧成形時にカプセル型蓄熱粒子が崩壊・変形等して潜熱蓄熱材が漏れ出すことを抑制しやすくなる。
【0035】
上記メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドの反応で得られる樹脂である。メラミン樹脂は、メラミンとメラミン以外のアミン化合物を併用したり、ホルムアルデヒドとホルムアルデヒド以外のアルデヒド化合物を併用したりすることにより、架橋密度を任意に調整できる。
ポリウレタン樹脂(ポリウレタンウレア樹脂を含む)は、原料とするイソシアネート化合物、ポリオール化合物、アミン化合物の分子骨格を適宜選択することにより、外殻の機械的強度を調整できる。例えば、分子内に芳香環を有する剛直な骨格を有する化合物を原料として外殻を形成すると、外殻の貯蔵弾性率を増加できる。一方、分子内に脂肪鎖を有する柔軟な骨格を有する化合物を原料として外殻を形成すると、外殻の貯蔵弾性率を減少できる。
【0036】
本実施形態の蓄熱粒子の平均粒子径は、1~40μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましい。
【0037】
本実施形態の蓄熱粒子の含有量は、成形用樹脂組成物(固形分量)全量に対して、1~70質量%が好ましく、15~60質量%がより好ましく、30~50質量%がさらに好ましい。
蓄熱粒子の含有量を上記下限値以上とすることにより、蓄熱量を高くすることができる。一方、蓄熱粒子の含有量を上記上限値以下とすることにより、蓄熱粒子の保存安定性を保持し、良好な蓄熱性を保持しやすくなる。
【0038】
本実施形態の成形用樹脂組成物は、上記成分以外の成分を含んでもよい。
【0039】
[強化繊維]
本実施形態において、強化繊維は、成形用樹脂組成物を用いて得られる成形体の機械的強度を高めるために用いられる。
強化繊維としては限定されず、具体的には、金属繊維;炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維;木材繊維、木綿、麻、羊毛等の天然繊維;レーヨン繊維などの再生繊維;セルロース繊維などの半合成繊維;ポリアミド繊維、アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などの合成繊維などを用いることができる。強化繊維としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。強化繊維としては、上記具体例のうち例えば、無機繊維または合成繊維を用いることが好ましい。また、無機繊維としては、例えば、ガラス繊維または炭素繊維を用いるのが好ましい。さらに、合成繊維としては、例えば、アラミド繊維を用いることが好ましい。これにより、好適に成形体を強化できる。また、成形用樹脂組成物中での強化繊維の分散性をさらに向上できる観点でも好ましい。
【0040】
強化繊維の含有量は、成形用樹脂組成物(固形分量)全量に対して、5~40質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。
【0041】
[パルプ繊維]
本実施形態の成形用樹脂組成物は、有機繊維をフィブリル化したパルプ繊維をさらに含むことができる。パルプ繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、リンターパルプや木材パルプ等のセルロース繊維、ケナフ、ジュート、竹などの天然繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維やその共重合体、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維、メタ型アラミド繊維やその共重合体、アクリル繊維、アクリロニトリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維をフィブリル化したパルプ状繊維が挙げられる。パルプ繊維としては、上記具体例のうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
有機繊維のフィブリル化方法については特に限定されないが、有機繊維を水に分散させたスラリーとしてビーターもしくはリファイナーなどで叩解することにより、フィブリル化処理有機繊維を作製することができる。
【0043】
パルプ繊維の含有量は、成形用樹脂組成物(固形分量)全量に対して、0.5~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、2~7質量%がさらに好ましい。
【0044】
[無機フィラー]
本実施形態において、無機フィラーは、上記蓄熱粒子を除くものであり、機械的強度を高くするために用いられる。
無機フィラーとしては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、結晶または溶融シリカ、表面処理シリカ、タルク、カオリン、クレー、マイカ、ドロマイト、ウォラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、ジルコン、およびモリブデン化合物の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。なかでも、抄造体全体として機械的強度と成形性のバランスを向上させやすくする観点から、溶融シリカが好ましく、クレーがより好ましく、これらの混合物であってもよい。
【0045】
無機フィラーは、表面処理が施されたものであってもよい。表面処理としては、例えば、予めシランカップリング剤等のカップリング剤によるものが挙げられる。これにより、無機フィラーの凝集を抑制し、良好な分散性を得ることができる。
カップリング剤としては、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシランを用いることができる。
カップリング剤を用いる場合、その含有量は、特に限定されないが、無機フィラー100重量部に対して0.05~3重量部であるのが好ましく、0.1~2重量部であるのがより好ましい。
【0046】
無機フィラーの平均粒径は、0.1~100μmであることが好ましく、0.1~50μmであることがより好ましく、0.1~20μmであることがさらに好ましい。
無機フィラーの平均粒径を、上記下限値以上とすることにより、機械的強度が向上できる。一方、無機フィラーの平均粒径を、上記上限値以下とすることにより、分散性を良好にでき、機械的強度を安定化できる。
無機フィラーの材料として、繊維状のものを選択した場合、カット処理などにより、繊維長を短くすることが好適である。無機フィラーとしては、最長径が100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
[その他の成分]
本実施形態に係る成形用樹脂組成物は、上述した成分以外に、生産条件調整や要求される物性を発現させることを目的に様々な添加剤を使用することができる。添加剤としては、例えば、抄造薬剤、イオン交換剤、凝集剤、導電性付与剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制震剤、防臭剤、摺動性改質剤、帯電防止剤などが例示される。
【0048】
[製造方法]
本実施形態の成形用樹脂組成物の製造方法として、例えば、次のような方法がある。
上記の各成分を溶剤中に溶解、混合、撹拌することにより(i)ワニス状の成形用樹脂組成物(樹脂ワニス)を調整することができる。上記の混合は、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機を用いることができる。上記の溶剤としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセルソルブ、アセトン、メチルセルソルブ、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、N-ジメチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、キノリン、シクロペンタノン、キシレン、m-クレゾール、クロロホルム等が挙げられる。
または、上記の各成分を加圧ニーダー、ロール、コニーダー、二軸混錬押出機、二本ロール等を用いて混練することにより、(ii)Bステージ状態の成形用樹脂組成物を得てもよい。加熱する際の具体的な加熱温度は、選択する組成に応じて若干異なるが、好ましくは50~130℃程度とされる。Bステージ状態の成形用樹脂組成物は、板状、塊状、シート状等でもよく、さらに粉砕などして、顆粒状、粒状、粉末状にしてもよい。
また、熱硬化性樹脂と蓄熱粒子のみを予め混練し、その後、他の成分とともに溶媒中で混合して、樹脂ワニスを得てもよい。
【0049】
<成形体>
本実施形態の成形体は、上記の成形用樹脂組成物を用いて所望の形状に成形し熱硬化して得られたものであり、いわゆるCステージ状態である。
本実施形態の成形体は、成形用樹脂組成物が上述の(i)樹脂ワニスである場合、例えば、所望の形状を有する型枠の中に当該樹脂ワニスを流し込んだのちに溶媒を除去して成形したり、抄造機を用いて湿式抄造することで成形したり、基材の表面に塗布や担持させたのちに乾燥してシート状に成形し、その後熱硬化したものであってもよい。
また、上述の(ii)Bステージ状態の成形用樹脂組成物を、例えば、プレス成形や押出成形により、成形とともに熱硬化させて得られたものであってもよい。
熱硬化条件は特に限定されず、熱硬化性樹脂の種類や含有量等に応じて適宜調整される。
【0050】
[用途]
本実施形態に係る成形体の用途としては、高い機械的特性が求められる用途であれば限定されないが、例えば、保護部材、携行部材などに好適に用いることができる。
保護部材としては、具体的には、電子機器の筐体といった電子機器部材;自動車、飛行機などのボディといった輸送機器部材;圧力容器、建築物などの産業用資材の壁材といった、内容物を保護するものが挙げられる。
また、携行部材としては、携帯電話、スマートフォンなどの携行可能な電子機器の筐体、内部部材といった電子機器部材;テニスラケット、ゴルフクラブなどのスポーツ用品部材などの携行されるものが挙げられる。
【0051】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0052】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
各実施例、各比較例で用いた成分の詳細について以下に示す。
【0053】
(1)成形用樹脂組成物の作製
まず、以下に示す原料1を用い、表1に示す割合となるように配合し、ミキサーにより混合した。次いで、得られた混合物を65~80℃、5分間、70rpmで二軸ロール混練した後、冷却、粉砕して、平均粒径50μmの各熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0054】
[原料1]
熱硬化性樹脂
・フェノール樹脂1:レゾール型フェノール樹脂「51723」住友ベークライト社製
・フェノール樹脂2:ノボラック型フェノール樹脂「A1087」住友ベークライト社製
蓄熱粒子
・蓄熱粒子1:「MicroCaps PCM44-S50」(平均粒径1-20μm;カタログ値)MicroCaps社製
【0055】
【表1】
【0056】
(2)成形用樹脂組成物および成形体の調製
<比較例1、実施例1~3>
以下の原料2を用い、表2示す割合となるように分散媒としての水に加え、20分間撹拌して、固形分濃度0.15重量%のスラリー状の成形用樹脂組成物を得た。
[原料2]
・熱硬化性樹脂組成物:上記で得られた各熱硬化性樹脂組成物
・蓄熱粒子:上記の蓄熱粒子1、2
・強化繊維:リサイクル炭素繊維(アイカーボン社製、Aicarboアンサイズドファイバー、繊維の平均長さ6mm)
・パルプ:アラミドパルプ(帝人社製、トワロン(登録商標)1094)
・フェノール樹脂1:レゾール型フェノール樹脂「51723」住友ベークライト社製
・フェノール樹脂2:ノボラック型フェノール樹脂「A1087」住友ベークライト社製
【0057】
続けて、得られたスラリー状の成形用樹脂組成物に、あらかじめ調製したポリ(メタ)アクリル酸エステルエマルジョン(ハイモ株式会社製の「ハイモロック DR-9300」)を、スラリー中の固形分に対して300ppmとなるように添加し、スラリー中の固形分を凝集させた。
次いで、凝集物を含むスラリーを、30メッシュの金属網(スクリーン)で濾過し、スクリーン上に残ったシート状の凝集物を、圧力3MPaでプレスして脱水率が20%となるように脱水した。脱水した凝集物を、70℃で3時間乾燥させて、Bステージ状態のシート状の成形用樹脂組成物(抄造体)を得た。
得られたシート状の成形用樹脂組成物(抄造体)を、160℃、20MPaで20分圧縮成形し、成形体を得た。
【0058】
<実施例4>
上記(1)で得られた熱硬化性樹脂組成物1をそのまま成形用樹脂組成物とした。
【0059】
<実施例5>
上記(1)で得られた熱硬化性樹脂組成物2をそのまま成形用樹脂組成物とした。
【0060】
(3)測定・評価
上記(1)、(2)で得られた各成形用樹脂組成物、および成形体を用いて、以下の測定・評価を行った。結果を、表2に示す。
【0061】
(DSC)
成形用樹脂組成物について、示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で-20℃から80℃まで昇温する過程と、降温速度5℃/分で80℃から-20℃まで降温する過程とからなる示差走査熱量測定(DSC)を、40分の間隔で繰り返し行った。
1回目の示差走査熱量測定(1stRun)による熱量の合計値(Q1)と、2回目の示差走査熱量測定(2ndRun)による熱量の合計値(Q2)をそれぞれ算出し、|Q1-Q2|(ΔQ)を求めた。
得られたDSC曲線を図1~6にそれぞれ示した。
【0062】
(機械的強度)
得られた成形体を用いて、ISO178に準拠して、曲げ弾性率(GPa)および曲げ強度(MPa)を測定した。
【0063】
(比重)
160℃、20MPaで圧縮成形した試験片(長さ80mm×幅10mm×厚み2mm)の比重を、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。比重(SP)の単位をg/cmとする。
【0064】
(蓄熱量)
測定装置としてTAインスツルメントのDSC25を用いた。対象の試料10mgをTzero Panに封入して昇温速度5℃/minにて、-20℃から80℃までの熱量の変化を測定した。測定したデータから30℃から60℃の温度でベースラインを形成し、この温度領域における吸熱反応による熱量[J/g]を蓄熱量とした。
【0065】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6