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特開2022-158038軸受装置およびその製造方法ならびにハードディスク駆動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158038
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】軸受装置およびその製造方法ならびにハードディスク駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/067 20060101AFI20221006BHJP
   F16C 35/07 20060101ALI20221006BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20221006BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20221006BHJP
   G11B 21/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16C35/067
F16C35/07
F16C33/64
F16C19/16
G11B21/02 630B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062653
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】土屋 邦博
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117AA01
3J117DA01
3J117DB09
3J117DB10
3J117HA10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701DA20
3J701FA38
3J701FA41
3J701FA44
3J701FA46
3J701GA53
(57)【要約】
【課題】内側の軸受に一定の予圧をかけることにより各軸受に均一な予圧をかけることができ、トルク変動を抑えて精度をより向上させることができる軸受装置を提供する。
【解決手段】筒状のスリーブ2と、スリーブ2の内側に保持されたシャフト1と、シャフト1をスリーブ2に対して回転可能な状態で保持し、軸方向に順に並んで配置された第1の軸受10、第2の軸受20、第3の軸受30および第4の軸受40とを備えた軸受装置である。第1乃至第4の軸受10~40のそれぞれの外輪12~42の外周面をスリーブ2の内周面に固定し、第2、第3の軸受20,30の内輪21,31の内周面とシャフト1との間に隙間を設け、第2、第3の軸受20,30の内輪21,31同士の間に、定圧予圧を与えるばね4を設けた。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の外側部材と、
前記外側部材の内側に保持された軸部材と、
前記軸部材を前記外側部材に対して回転可能な状態で保持し、軸方向に順に並んで配置された第1の軸受、第2の軸受、第3の軸受および第4の軸受と
を備え、
前記第1の軸受、前記第2の軸受、前記第3の軸受および第4の軸受のそれぞれの外輪の外周面が前記外側部材の内周面に固定され、
前記第2の軸受および前記第3の軸受の内輪同士の間に、定圧予圧を与えるばねを設けた軸受装置。
【請求項2】
前記第2の軸受および/または前記第3の軸受の内輪と前記軸部材との間に封止部材を設けた請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記封止部材は弾性接着剤である請求項2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記ばねは圧縮ばねである請求項1乃至3のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項5】
前記圧縮ばねは、圧縮コイルばね、コイルドウェーブスプリング、ウェーブワッシャから選択される請求項4に記載の軸受装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の軸受装置と、
前記軸受装置によって揺動可能に支持され、磁気ディスク上で磁気ヘッドを移動させるスイングアームと、
前記軸受装置のシャフトが固定されるベースプレートと、
を備えることを特徴とするハードディスク駆動装置。
【請求項7】
筒状の外側部材の内部に、第1の軸受、第2の軸受、第3の軸受および第4の軸受を介して軸部材を回転可能な状態で保持した軸受装置の製造方法であって、
前記外側部材の内部に、前記第3の軸受を挿入して該第3の軸受の外輪のみを前記外側部材の内周面に接着する工程と、
前記外側部材の内部に、ばねを挿入して該ばねの端面を前記第3の軸受の内輪に直接または座金を介して当接する工程と、
前記外側部材の内部に、前記第2の軸受を挿入して該第2の軸受の内輪を前記ばねに押圧するとともに、前記第2の軸受の外輪のみを前記外側部材の内周面に接着する工程と、
前記外側部材の内部に、前記第1の軸受を挿入して該第1の軸受の外輪を前記外側部材の内周面に接着する工程と、
前記軸部材の外周面に、前記第4の軸受の内輪を接着する工程と、
前記軸部材を前記第1乃至第3の軸受の内輪の中に挿入し、前記外側部材の内周面に前記第4の軸受の外輪を接着するとともに、前記軸部材の外周面に前記第1の軸受の内輪を接着する工程と、
を含む軸受装置の製造方法。
【請求項8】
前記軸部材の外周面に、前記第2の軸受および/または前記第3の軸受の内輪を弾性接着剤によって接着する工程をさらに含む請求項7に記載の軸受装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば磁気ディスク駆動装置のピボットアッシー軸受装置に用いて好適な軸受装置に係り、特に、回転トルクの変動が小さく、かつ高い剛性を備えた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置のディスク上のデータ読み書きに用いられる磁気ヘッドを動かすアクチュエータは、例えば2個の軸受を軸方向に離間して配置したピボットアッシー軸受装置により回転可能に支持されている。
【0003】
近年、アクチュエータによりディスク上を動く磁気ヘッドの位置決め精度のさらなる向上が要求されていることから、軸受装置の軸受数を増やすことで剛性を向上させ、ラジアル剛性を高くすることによって磁気ヘッドの位置決め精度を向上させることができる。
【0004】
たとえば、特許文献1には、軸受を4個用いた軸受装置が開示されている。この軸受装置では、トルク変動を抑えるために、4個のうちの内側の軸受の内輪または外輪が、シャフトまたはスリーブとの間に半径方向に隙間をあけて配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-243555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において中央の2つの転がり軸受の内輪とシャフトとの間に半径方向の隙間を設けた場合は、スペーサの径方向位置の制御などを精密に行うことが困難であり、転がり軸受への安定的な予圧付与を容易に行うことができない。特に、回転するスリーブと外輪との間に隙間をあけた場合は、ラジアル剛性を十分に高めることができない。また、軸受数を増やすと、組立方法によっては上下の軸受で予圧が均一にならない場合がある。たとえば、特許文献1では、スリーブの内部に軸受を下から積み上げるようにして予圧をかけており、上側の軸受に予圧をかける際に、既に予圧をかけた下側の軸受にも荷重がかかる。これにより、下側の軸受の予圧状態が変化し、トルク変動につながるおそれがある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ラジアル剛性を高めることができるのは勿論のこと、内側の軸受に一定の予圧をかけることにより各軸受に均一な予圧をかけることができ、トルク変動を抑えて精度をより向上させることができる軸受装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、筒状の外側部材と、前記外側部材の内側に保持された軸部材と、前記軸部材を前記外側部材に対して回転可能な状態で保持し、軸方向に順に並んで配置された第1の軸受、第2の軸受、第3の軸受および第4の軸受とを備え、前記第1の軸受、前記第2の軸受、前記第3の軸受および第4の軸受のそれぞれの外輪の外周面を前記外側部材の内周面に固定し、前記第2の軸受および前記第3の軸受の内輪同士の間に、定圧予圧を与えるばねを設けた軸受装置である。
【0009】
上記構成の軸受装置にあっては、前記第2の軸受および前記第3の軸受に定圧予圧を与える構成であるから、内輪は軸部材に固定されていない。つまり、内輪は軸方向に移動可能であり、第2の軸受および第3の軸受には均一な予圧が与えられる。また、第2、第3の軸受に与える予圧と同等の予圧を適宜な手段により第1、第4の軸受に与えることができる。よって、本発明によれば、ラジアル剛性を高めることができるのは勿論のこと、第1乃至第4の軸受に均一な予圧をかけることができ、トルク変動を抑えて精度をより向上させることができる。
【0010】
第2の軸受および第3の軸受の少なくともいずれか一方の内輪と軸部材との間に封止部材を設けることができる。これにより、固定していない内輪の微小振動を抑制し、軸部材との摩擦による摩耗や異音の発生等を抑制することができる。
【0011】
封止部材は、例えば弾性接着剤のように硬度が低いものであることが望ましい。封止部材の硬度は、ショアA70以下、より好ましくはA50以下である。封止部材がそのような硬度であると、トルク変動の負荷がかかった時に内輪と接していても内輪が若干動くことができ、トルク変動が抑制される。なお、封止部材としては、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤や合成樹脂も用いることができる。
【0012】
封止部材を用いる箇所以外の箇所に用いる硬質性接着剤としては、例えば、ウレタンアクリレート:15%~25%、アクリル酸ジエステル:45%~55%、アクリル酸モノマー:3%未満、ヒドロキシアルキルメタクリレート:15%~30%、嫌気触媒:3%未満、および光重合開始剤:3%未満、アクリル酸モノマー:3%未満、嫌気触媒:3%未満、および光重合開始剤:3%未満を含む嫌気性接着剤を用いることができる。この嫌気性接着剤は、金属同士の隙間のように空気が遮断された箇所では急速に重合硬化し、隙間からはみ出た部分には紫外線を照射することでさらに硬化するので作業性に優れ、しかも、アウトガスの発生量が少ないので磁気ディスク駆動装置のピボットアッシー軸受装置に用いて好適である。なお、紫外線硬化型以外の接着剤として、溶媒蒸発型や化学反応硬化型の接着剤を用いることもできる。
【0013】
本発明は、上記のような軸受装置と、前記軸受装置によって揺動可能に支持され、磁気ディスク上で磁気ヘッドを移動させるスイングアームと、前記軸受装置のシャフトが固定されるベースプレートと、を備えるハードディスク駆動装置である。
【0014】
次に、本発明は、筒状の外側部材の内側に、第1の軸受、第2の軸受、第3の軸受および第4の軸受を介して軸部材を回転可能な状態で保持した軸受装置の製造方法であって、 前記外側部材の内側に、前記第3の軸受を挿入して該第3の軸受の外輪のみを前記外側部材の内周面に接着する工程と、前記外側部材の内側に、ばねを挿入して該ばねの端面を前記第3の軸受の内輪に当接する工程と、前記外側部材の内側に、前記第2の軸受を挿入して該第2の軸受の内輪を前記ばねに押圧するとともに、前記第2の軸受の外輪のみを前記外側部材の内周面に接着する工程と、前記外側部材の内側に、前記第1の軸受を挿入して該第1の軸受の外輪を前記外側部材の内周面に接着する工程と、前記軸部材の外周面に、前記第4の軸受の内輪を接着する工程と、前記軸部材を前記第1乃至第3の軸受の内輪の中に挿入し、前記外側部材の内周面に前記第4の軸受の外輪を接着するとともに、前記軸部材の外周面に前記第1の軸受の内輪を接着する工程と、を含む軸受装置の製造方法である。
【0015】
上記構成の軸受装置の製造方法においては、第2の軸受および第3の軸受の内輪の内周面と軸部材とが接着されないから、それら内輪は軸方向に移動可能である。そして、内輪同士の間に定圧予圧を与えるばねを設けているから、第2の軸受および第3の軸受には均一な予圧が与えられる。よって、本発明によれば、ラジアル剛性を高めることができるのは勿論のこと、両端の軸受に適宜な方法第2の軸受および第3の軸受と同等の予圧を付与することにより、トルク変動を抑えて位置決め精度をより向上させることができる。
【0016】
ここで、軸部材の外周面に、第2軸受および第3軸受の内輪を弾性接着剤によって接着することができる。これにより、固定していない内輪の微小振動を抑制し、軸部材との摩擦による摩耗や異音の発生等を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第1乃至第4の軸受によりラジアル剛性を高めることができるのは勿論のこと、トルク変動を抑えて位置決め精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態のハードディスク駆動装置を示す斜視図である。
図2】実施形態のピボットアッシー軸受装置を利用した磁気ディスク用のスイングアーム組立体の概要を示す断面図である。
図3】(A)は実施形態のピボットアッシー軸受装置の概要を示す断面図であり、(B)は(A)の矢印Bで示す部分の拡大図、(C)は(A)の矢印Cで示す部分の拡大図である。
図4】実施形態のピボットアッシー軸受装置の組立方法を示す断面図である。
図5】実施形態のピボットアッシー軸受装置の組立方法を示す断面図である。
図6】本発明の実施例のピボットアッシー軸受装置における回転角度とトルクとの関係を示すグラフである。
図7】本発明の他の実施例のピボットアッシー軸受装置における回転角度とトルクとの関係を示すグラフである。
図8】比較例のピボットアッシー軸受装置における回転角度とトルクとの関係を示すグラフである。
図9】従来のピボットアッシー軸受装置における回転角度とトルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.ハードディスク駆動装置
図1は、本発明の実施形態に係るスピンドルモータを用いたハードディスク駆動装置300の全体構成を示す斜視図である。この図に示すように、ハードディスク駆動装置300は、凹部117を有するベース部101を備え、凹部117には、スピンドルモータ102と、スピンドルモータ102に取り付けられて回転する複数のハードディスク113とが配置されている。また、凹部117には、ハードディスク113にそれぞれ対向する複数の磁気ヘッド112を支持するスイングアーム210を備えたスイングアーム組立体200と、スイングアーム210を駆動するアクチュエータ114と、これらの機器を制御する制御部115とが配置されている。なお、ベース部101の上面には、カバー部が取り付けられて凹部117が気密に保持されるが、図1ではカバー部を省略している。凹部117には、ヘリウムなどの低密度気体が封入される。
【0020】
2.スイングアーム組立体
図2は、スイングアーム組立体200を示す図である。スイングアーム組立体200は、後述するピボットアッシー軸受装置100を利用して、ハードディスク駆動装置300におけるスイングアーム210を回転可能な状態で保持する構造を有している。ハードディスク駆動装置300におけるスイングアーム210は、高速で微小揺動し、目標トラックへのアクセスの高速化と位置決め精度が強く求められる。このため、ピボットアッシー軸受装置100には高い精度が要求される。また、スイングアーム210の動きは、ピボットアッシー軸受装置100の共振周波数の影響を受けるので、ピボットアッシー軸受装置100の周波数の偏差がより小さいことが要求される。さらに、ピボットアッシー軸受装置100にスイングアーム210を取り付ける作業の際に、トルク変動が極力生じないような構造であることが望まれる。
【0021】
スイングアーム210の軸部分には、貫通孔211が設けられている。この貫通孔211に、図3に示すピボットアッシー軸受装置100が嵌め込まれている。符号212の部分は、上記貫通孔211に達するネジ孔である。スイングアーム210の貫通孔211にピボットアッシー軸受装置100を嵌め込んだ状態において、ネジ孔212にネジ213をねじ込み、それを締め付けることで、ピボットアッシー軸受装置100へのスイングアーム210の取り付けが行われている。
【0022】
この際、ネジ213の先端が、ピボットアッシー軸受装置100に接触する。このネジ213のピボットアッシー軸受装置100への接触位置は、スリーブ2の段部2bである。段部2bは肉厚で剛性が高いため、ネジ213を締め付けることによるピボットアッシー軸受装置100の軸受の外輪の変形、および外輪の軌道溝形状の変形が生じ難く、これらの変形に起因するトルク変動が抑えられる。つまり、ネジ213を締めることで生じるピボットアッシー軸受装置100のトルク変動が生じ難い構造となっている。
【0023】
3.軸受装置
図3に実施形態のピボットアッシー軸受装置100を示す。ピボットアッシー軸受装置100は、ハードディスク駆動装置300の磁気ヘッド112が先端に取り付けられたスイングアーム210の回転軸を支持する。シャフト(軸部材)1の軸中心の部分には、貫通孔(または雌螺子部)1aが設けられ、この貫通孔1aを利用して、シャフト1がハードディスク駆動装置300のベース101に固定される。また、シャフト1の一端部には、径方向外側に突出するフランジ部1bが形成されている。
【0024】
シャフト1には、円筒状のスリーブ(外側部材)2が、軸方向において離間して配置された第1の軸受10、第2の軸受20、第3の軸受30、および第4の軸受40により、回転可能な状態で保持されている。スリーブ2の両端外周には、他の部分よりも大径な嵌合部(または雄螺旋部)2aが形成され、嵌合部2aにスイングアーム210が取り付けられ、スイングアーム210がシャフト1を軸として回転可能な構造とされる。
【0025】
第1の軸受10は、内輪11の外周面と外輪12の内周面に形成した軌道溝13に玉14を保持器(図示略)によって円周方向に等間隔に配置したものである。なお、軸受20乃至40も軸受10と同等に構成されているので、それらの構成要素の符号の一桁には同じ符号を付してその説明を省略する。また、第1ないし第4の軸受10~40の両端部には、グリースの漏出を防止するシールド(図示略)が取り付けられている。
【0026】
第1の軸受10と第2の軸受20との間には、スペーサ3が介装されている。スペーサ3はリング状をなし、その両端面は第1の軸受10の外輪12と第2の軸受20の外輪22と接触している。スリーブ2の内周面の中央部には、径方向内側に突出する段部2bが形成されている。そして、この段部2bに、第2の軸受20の外輪22と第3の軸受30の外輪32が接触している。スリーブ2の段部2bの内側には、圧縮ばね(ばね)4が配置されている。圧縮ばね4は図1において圧縮状態にあり、第2の軸受20の内輪21と第3の軸受30の内輪31とを互いに離間する方向に押圧している。なお、圧縮ばね4として、圧縮コイルばね、コイルドウェーブスプリング、ウェーブワッシャなどの金属製のものや、ゴムやウレタン樹脂などを筒状に成型した樹脂製のものを用いることができる。
【0027】
第3の軸受30と第4の軸受40との間には、スペーサ5が介装されている。スペーサ5はリング状をなし、その両端面は第3の軸受30の外輪32と第4の軸受40の外輪42と接触している。図1(C)に示すように、第1の軸受10の内輪11の端面には、ハブキャップ6が接触している。ハブキャップ6の端面の内周側には、軸方へ突出するボス部6aが形成され、ボス部6aは内輪11を押圧している。ハブキャップ6は、第1の軸受10および第4の軸受40に予圧を付与するとともに、第1の軸受10からのグリースの漏出を阻止する機能を有している。また、スリーブ2のハブキャップ6と反対側の開口部には、第4の軸受40の外輪42と接触するハブキャップ7が取り付けられている。ハブキャップ7は、第4の軸受40からのグリースの漏出を阻止する機能を有している。
【0028】
第1乃至第4の軸受10~40の外輪12~42の外周面は、スリーブ2の内周面と接着されている。また、第1および第4の軸受10,40の内輪11,41の内周面はシャフト1の外周面と接着されている。一方、第2および第3の軸受20,30の内輪21,31の内周面は、シャフト1の外周面と接着されていない。そのため、図1(B)に示すように、第3の軸受30の内輪31の内周面とシャフト1の外周面との間には、隙間31aが形成されている。なお、図1(B)に示す隙間31aは、説明のために大きく記載しているが、実際には隙間嵌めあるいは中間嵌めとなる程度のものであり、例えば0~数μm(10μm未満)である。また、第2の軸受20の内輪21の内周面とシャフト1の外周面との間にも隙間31aと同等の隙間21aが形成されている(図3(A)参照)。
【0029】
4.軸受装置の組立方法
図4および図5を参照して上記構成のピボットアッシー軸受装置100の組立方法を説明する。先ず、図4(A)に示すように、スリーブ2を縦置きにしてスリーブ2の内周面の段部2bの付近に接着剤Aを塗布し、スリーブ2の内部に第3の軸受30を円柱状の圧入治具によって軽く圧入して接着剤Aの場所まで挿入する。これにより、第3の軸受30の外輪32とスリーブ2の内周面との間に接着剤Aが介在する。なお、接着剤Aは例えば嫌気性接着剤などの硬質性接着剤である。
【0030】
スリーブ2の上下を反転させて内部に圧縮ばね4を挿入し、圧縮ばね4を第3の軸受30の内輪31に載置し、圧縮ばね4を段部2bの内側に位置させる(図4(B)参照)。この状態で、圧縮ばね4の上端部は段部2bから上方へ若干突出している。次に、スリーブ2の内周面の段部2bの付近に接着剤Aを塗布し、スリーブ2の内部に第2の軸受20を円柱状の圧入治具によって軽く圧入して接着剤Aの場所まで挿入する(図4(C)参照)。その際に、上下の圧入治具によって第2、第3の軸受20,30を段部2bに当接するように圧縮し、接着剤Aが硬化するまで保持する。そして、上下の圧入治具をスリーブ2から抜き出すと、圧縮ばね4の弾性復帰によって第2、第3の軸受20,30の内輪21,31が互いに離間する方向に移動し、第2、第3の軸受20,30に予圧が付与される。なお圧縮ばね4と、第2の軸受20および第3の軸受30との間には平座金などの座金が存在していてもよい。
【0031】
次に、スリーブ2の内部に上方からスペーサ3を挿入し、第2の軸受20の外輪21の端面に当接させる(図4(D)参照)。次に、スリーブ2の内周面のスペーサ3の付近に接着剤Aを塗布し、スリーブ2の内部に第1の軸受10を圧入治具によって軽く圧入してスペーサ3に当接させる。そして、接着剤Aが硬化することにより、第1の軸受10の外輪12がスリーブ2の内周面に結合される(図4(E)参照)。
【0032】
一方、シャフト1の外周面のフランジ部1bの付近に接着剤Aを塗布し、シャフト1第4の軸受40に挿入して第4の軸受40をフランジ部1bに当接させる。そして、接着剤Aが硬化することにより、軸受40の内輪41がシャフト1の外周面に結合される(図4(F)参照)。なお、シャフト1と第4の軸受40とは隙間嵌めである。
【0033】
図4(E)に示す状態からスリーブ2の上下を反転させ、図5(G)に示すように、第1の軸受10の内輪11の内周面に接着剤Aを塗布する。また、スリーブ2にスペーサ5を挿入して第3の軸受30の端面に当接させる。次いで、図5(H)に示すように、スリーブ2の内周面の上端部付近に接着剤Aを塗布しておき、シャフト1を第3の軸受30→第2の軸受20→第1の軸受10へと挿入し、第4の軸受40の外輪42の端面をスペーサ5に当接させる(図5(I)参照)。これにより、第1の軸受10の内輪11とシャフト1の外周面との間に接着剤Aが介在し、第4の軸受40の外輪42とスリーブ2の内周面との間に接着剤Aが介在した状態となる。
【0034】
スリーブ2の上下を反転させて、シャフト1とスリーブ2との隙間にハブキャップ6を挿入し(図5(J)参照)、ハブキャップ6を予圧治具8によって押圧する(図5(K)参照)。これにより、ハブキャップ6のボス部6aにより、第1の軸受10の内輪11が下方へ向けて付勢される。
【0035】
その結果、第1の軸受10の外輪12に対して内輪11が下方に位置ずれし、第1の軸受10に予圧が付与される。また、第1の軸受10の外輪12は、ハブキャップ6の押圧力が内輪11と玉14を介して伝わることにより下方へ押し込まれる。その結果、外輪12の軸方向下方へ向かう力が外輪12→スペーサ3→第2の軸受20の外輪22→スリーブ2の段部2b→第3の軸受30の外輪32→スペーサ5→第4の軸受40の外輪42と伝わり、外輪42が内輪41に対して軸方向下方へ移動する。これにより、第4の軸受40に予圧が付与される。
【0036】
第1、第4の軸受10,40に予圧を付与した状態を接着剤Aが硬化するまで保持することにより、予圧付与が完了する。第1の軸受10にシャフト1を挿通したときに内輪11に塗布された接着剤Aがしごかれてはみ出るので、ハブキャップ6は、はみ出た接着剤Aによってシャフト1の外周面に結合される。また、ハブキャップ6と反対側のハブキャップ7は、適宜な接着剤によりシャフト1のフランジ部1bとスリーブ2との間の隙間の大部分を塞ぐようにして、スリーブ2の内周面に接着される。なお、ハブキャップ7を設けずに、グリースの漏洩を防止する機能を持たせることも可能である。その場合は、シャフト1のフランジ部1bの外径を第4の軸受40の外輪42の内径とほぼ等しいかそれ以上とする。
【0037】
以上の工程により、第2、第3の軸受20,30には圧縮ばね4の弾性力による一定圧力の予圧が付与され、第1、第4の軸受10,40には、予圧治具8の押込量によって設定される一定圧力の予圧が付与される。したがって、それら弾性力と押込量とを適宜設定することにより、全ての軸受10~40の予圧を均一にすることができる。
【0038】
5.効果
上記構成のピボットアッシー軸受装置100にあっては、第1乃至第4の軸受10~40によってラジアル剛性を高めることができるのは勿論のこと、第1乃至第4の軸受10~40に均一な予圧をかけることができ、トルク変動を抑えて位置決め精度をより向上させることができる。
【0039】
また、上記構成のピボットアッシー軸受装置100を用いたスイングアーム組立体200にあっては、ピボットアッシー軸受装置100がトルク変動を生じ難い構成であることもさることながら、ピボットアッシー軸受装置100のアーム210への取付構造もトルク変動を生じ難い構成であるから、アーム210位置決めの精度をさらに向上させることができる。
【0040】
6.変更例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下のように種々の変更が可能である。
(1)第2の軸受20の内輪21とシャフト1の外周面との隙間21aまたは第3の軸受30の内輪31とシャフト1の外周面との隙間31aを封止部材で埋めることができる。これにより、固定していない内輪21,31の微小振動を抑制し、シャフト1との摩擦による摩耗や異音の発生等を抑制することができる。封止部材は、隙間21aを埋める場合は、図5(H)に示す状態のときに、シャフト1の外周面の、組立後に第2の軸受20の内輪21の内周面に対向する軸方向位置P付近に塗布する。隙間31aを埋める場合は、シャフト1の外周面の、組立後に第3の軸受30の内輪31の内周面に対向する軸方向位置Q付近に封止部材を塗布する。隙間21aまたは隙間31aの片方を封止部材で埋める場合、隙間31aのみを封止部材で埋めることがより好ましい。隙間31aのみを封止部材で埋める場合、隙間21aに封止部材が存在しない状態にすることができる。隙間21aを封止部材で埋める場合は、シャフト1を挿入する際に第3の軸受30の内輪31の内周面に封止部材が付着するため、隙間31aに封止部材が完全に存在しない状態にはすることができない。
【0041】
なお、隙間21aを封止部材で埋める場合に、第2の軸受20の内輪21の内周面Rに封止部材を塗布することはできない。そのようにすると、弾性接着剤である封止部材がシャフト1の先端側に付着し、第1の軸受10の内輪11の内周面Rに塗布された硬質性接着剤である接着剤Aに混入し、接着剤Aの機能が損なわれる。
【0042】
(2)封止部材の硬度をショアA70以下、好ましくはショアA60以下、より好ましくはショアA50以下の弾性接着剤とする。これにより、回転トルク変動の負荷がかかった時に、第2の軸受20の内輪21とシャフト1の外周面との隙間21aまたは第3の軸受30の内輪31とシャフト1の外周面との隙間31aに封止部材が介在していても内輪21,31が若干動くことができ、回転トルク変動が抑制される。
【0043】
(3)上記実施形態では、両端の第1、第4の軸受10,40のうち第1の軸受10に先にスリーブ2を挿入しているが(図3(E)参照)、第4の軸受40を保持したシャフト1を第3および第2の軸受30,20に挿入した後に、第1の軸受10にスリーブ2を挿入して図4(I)の状態にしてもよい。
【0044】
(4)本発明は、上記実施形態のようなピボットアッシー軸受装置100に限定されるものではなく、あらゆる軸受装置に適用可能である。
【実施例0045】
次に、具体的な実施例により本発明の効果をより詳細に説明する。
(1)試料の準備
i)発明例1
図1に示すピボットアッシー軸受装置において、第2の軸受20の内輪21とシャフト1の外周面との隙間をP21とし、第3の軸受30の内輪31とシャフト1との隙間をP31とし、隙間P21および隙間P31に何も設けず、第1乃至第4の軸受10~40の他の全ての部分をシャフト1またはスリーブ2に硬質性接着剤で接着した例を「発明例1」とした。
【0046】
ii)発明例2
隙間P21に何も設けず、P31に弾性接着剤を設けて第3の軸受の内輪31とシャフト1の外周面とを接着した例を「発明例2」とした。
【0047】
iii)比較例
隙間P21に何も設けず、P31に硬質性接着剤を設けて第3の軸受の内輪31とシャフト1の外周面とを接着した例を「比較例」とした。
【0048】
iv)従来例
第1乃至第4の軸受10~40の全ての内輪および外輪をシャフト1またはスリーブ2に硬質性接着剤で接着した例を「従来例」とした。
【0049】
(2)共振周波数の測定
レーザードップラー式振動計(Polytec社製、IVS-200)を用いて上記試料の振動を検出した。加振の方向は径方向と軸方向とし、検出した振動のピーク値を共振周波数とした。以上の測定結果を表1に示した。
【0050】
(3)回転トルクの測定
回転トルク測定器(MRI社製、M15)を用いて上記試料の回転トルクを測定した。回転トルクは、シャフト1を1回転させたときの最大値と最小値、それらの差および平均値を表1に併記した。また、回転開始から1回転するまでの回転トルクの変動を図5図8に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
(4)測定結果
表1に示すように、従来例は、径方向の共振周波数が最も高い。このことは、ラジアル剛性が最も高いことを示している。発明例1,2および比較例の径方向共振周波数は、従来例と遜色なく、充分なラジアル剛性を得ていることが確認された。
【0053】
回転トルクの差は、比較例では3.06g・cm、従来例では6.20g・cmであったのに対して、発明例1,2の回転トルクは、最大と最小の差が0.50g・cm程度であった。このように、発明例1,2では、回転トルクの変動が大幅に軽減されていることが確認された。図5は発明例1の回転トルクの変化を表し、図6は発明例2の回転トルクの変化を示している。これらの図に示すように、発明例1と2では、回転トルクの変化に殆ど差が見られなかった。
【0054】
これに対して、比較例および従来例では、図7および図8に示すように、シャフト1の回転開始から徐々に回転トルクが増加し、半回転付近で回転トルクの大きなピークが現れた。以上の結果から、本発明では回転トルクの変動を抑えて位置決め精度が向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ピボットアッシー軸受装置などの各種の軸受装置およびこの軸受装置を用いたスイングアーム組立体、およびハードディスク駆動装置などの各種の製品に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…シャフト(軸部材)、1a…貫通孔、1b…フランジ部、2…スリーブ(外側部材)、2a…嵌合部、2b…段部、3,5…スペーサ、4…圧縮ばね(ばね)、6,7…ハブキャップ、8…予圧治具、10…第1の軸受、11,21,31,41…内輪、12,22,32,42…外輪、13,23,33,43…軌道溝、14,24,34,44…玉、20…第2の軸受、30…第3の軸受、21a,31a…隙間、40…第4の軸受、100…ピボットアッシー軸受装置、101…ベース部、102…スピンドルモータ、112…磁気ヘッド、113…ハードディスク、114…アクチュエータ、115…制御部、117…凹部、200…スイングアーム組立体、210…スイングアーム、211…貫通孔、212…ネジ孔、213…ネジ、300…ハードディスク駆動装置、A…接着剤。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9