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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158071
(43)【公開日】2022-10-14
(54)【発明の名称】検体の検査キット
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20221006BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C12M1/34 A
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062706
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】514160571
【氏名又は名称】宮下 光良
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 光良
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB01
4B029CC02
4B029DG10
4B029FA12
4B029FA15
4B029GA02
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B029HA05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ16
4B063QQ17
4B063QQ89
4B063QR81
4B063QR90
4B063QS39
4B063QS40
4B063QX01
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】大腸菌群などの定性検査に用いられるダーラム管は従来の高価で破損のおそれがあるガラス製から、樹脂製などのダーラム管を用いて、管内にたまる気体による間の浮上を観察する方法が提案されているが、ガス産生能が弱いと時間がかかりすぎ検出できない可能性があった。
【解決手段】ダーラム管形状を変更し、管重量を軽量化し、準備段階での空気抜きがしやすく、検査時のガス収集能力をあげ、従来よりも短時間で浮上でき、コスト増とはならない検査キットを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌培養液(D)が入れられた試験管(C)内の底部付近に着底配置して検体に含まれる細菌の代謝によって生じるガスの浮力で試験管(C)内を浮上するように構成された浮上カップであって、
前記細菌培養液(D)中に生じるガスを、浮上する浮力に見合う量を貯留可能な容積を有する試験管(C)内で下向き開口となるカップ本体(A)と、
試験管(C)内でカップ本体(A)開口下の細菌培養液(D)に前記着底配置状態で、浮上する浮力に見合う量のガスを細菌の代謝によって生成するガス発生領域を確保するためにカップ本体(A)に設けられるカップ本体支持足(B)と、
からなる細菌検査のための浮上カップ。
【請求項2】
前記カップ本体(A)開口下の細菌培養液(D)の前記ガス発生領域の細菌培養液容積は、前記カップ本体(A)の容積よりも大きい請求項1に記載の浮上カップ。
【請求項3】
前記カップ本体支持足(B)は、少なくともその一部が試験管(C)の内壁に接することでカップ本体(A)の姿勢を試験管(C)に対して正置するように構成されている請求項1又は請求項2に記載の浮上カップ。
【請求項4】
カップ本体(A)は、カップ本体からの空気抜きが容易に行える略半球状又はロケット先端形状である請求項1から請求項3のいずれか一に記載の浮上カップ。
【請求項5】
カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)中央頂部から下方に伸びた棒状部材である請求項1から請求項4のいずれか一に記載の浮上カップ。
【請求項6】
カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)開口縁部から下方に伸びたひだ状部材である請求項1から請求項5のいずれか一に記載の浮上カップ。
【請求項7】
試験管(C)と、
試験管(C)開口をふさぐキャップ(E)と、
細菌を含まない試験管(C)内を満たした細菌培養液(D)と、
前記試験管(C)内で、前記細菌培養液(D)中に完全に沈んで配置される請求項1から請求項6のいずれか一に記載の浮上カップと、
からなる細菌検査キット。
【請求項8】
請求項7に記載の細菌検査キットを前記試験管(C)を立てた状態で保持する細菌検査キット保持部(F)と、
保持された前記請求項7に記載の細菌検査キットの前記試験管(C)内の前記浮上カップが浮上する位置の光透過度を示す情報である光透過度情報を取得する光透過度情報取得部(G)と、
前記光透過度情報取得部(G)で取得した光透過度情報を出力する光透過度情報出力部(H)と、を有する細菌検査装置。
【請求項9】
光透過度情報出力部(H)は、時間情報と関連付けて光透過度情報を出力する経時変化出力手段(J)を有する請求項8に記載の細菌検査装置。
【請求項10】
経時変化出力手段(J)からの光透過度情報に基づいて光透過度の時間に関する加速度情報を取得する加速度情報取得部(K)と、
取得した加速度情報に基づいてアラームを出力する条件であるアラーム条件を保持するアラーム条件保持部(M)と、
取得した加速度情報と保持されているアラーム条件とに基づいてアラームを出力するアラーム出力部(N)と、
をさらに有する請求項9に記載の細菌検査装置。
【請求項11】
細菌培養液(D)と浮上カップと試験管(C)とキャップ(E)とからなる検体の細菌検査キットであって、
細菌培養液(D)は、比重が1.00より大きく1.03以下であり、
浮上カップは、比重が1.04以上1.07以下であり、
浮上カップの比重と細菌培養液(D)の比重との差が、0.01以上である
請求項1から請求項7のいずれかに記載の検体の細菌検査キット。
【請求項12】
請求項8に記載の細菌検査装置を用いてサンプリングされた食品に含まれる細菌が食品衛生法上の規定を満たすか判断するための食品衛生判断方法であって、
細菌検査キットの細菌培養液に満たされた試験管に前記サンプリングされた食品を検体として滴下する検体滴下ステップと、
前記試験管に当初沈んで配置された浮上カップが取得される光透過度情報にて細菌が代謝したガスによって浮上したことを検知する浮上検知ステップと、
を含む食品衛生判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸菌群の検査のための検査キットに関する発明である。培地に滴下された検体中の大腸菌群の存否を、大腸菌群などが代謝産生するガスを貯留することで浮上させ、これによって大腸菌群などの存否を判定するために用いられる浮上カップに関する。
【背景技術】
【0002】
食品又は食品や飲料の製造に用いられる素材、あるいは薬品等の製造等を行う事業者に対して、取り扱う食品、飲料や素材、薬品について大腸菌群の定性検査などの衛生検査が義務付けられている。大腸菌群とは、細菌分類学上の分類に基づくものではなく、衛生学において食品等の汚染の指標となる一群の細菌の総称である。具体的にはグラム陰性の無芽胞桿菌で、乳糖を分解して酸とガスを産生する好気性又は通性嫌気性の一群の細菌の総称である。なお、本明細書において大腸菌群のようにガスを産生する細菌等に対して「ガス産生菌」と称する場合がある。また本明細書においては、細菌培養液を、培養液や液体培地あるいは単に培地という場合がある。
【0003】
<従来の大腸菌群定性検査>
大腸菌群の検査方法には寒天平板法と発酵管法がある。発酵管法は、試験管内の液体培地に沈めたダーラム発酵管(以下ダーラム管)内に気泡が生じるか否かで判定する方法である。
<準備段階>
大腸菌群の定性検査としてダーラム管を用いた検査をするには、まず下記の準備を行う。
(1) まず滅菌された試験管内に、試験管より小さい丸底管である滅菌されたダーラム管を、口を下にして入れる。
(2) 高圧蒸気滅菌(121℃、15分、2気圧)されたBGLB培地(ブリリアントグリーン乳糖ブイヨン培地)などの細菌培養液を、滅菌処理されたクリーンベンチなどの清浄空間で試験管内へ注入し、一旦試験管開口部を封止する。
(3) 試験管底部を上に向けて、試験管(0604)内のダーラム管(0619)内の空気(0620)を抜く作業を行う(図6参照)。空気抜きが不十分な場合は、試験管(0604)の向きを変えてダーラム(0619)管内の空気を抜く作業を繰り返す。
試験管口を上に戻した状態で、前記ダーラム管内に空気がない状態となるまでが、検査前の準備段階である。
【0004】
図6に従来技術のダーラム管の場合の空気抜きの例を示す。空気抜きの際には、試験管(0604)を大きく傾け、ダーラム管(0619)内の空気(0620)を出し切り、代わりに細菌培養液(0605)で満たす。ダーラム管による細菌検査で用いられる試験管は一般に、内径16~18mmが使われることが多い。試験管内に入れるダーラム管の外形は、収められる試験管内径の1/2くらいが従来採用されてきた。内径16~18mmの試験管と、外形7mmくらいのダーラム管を使用した場合、図6に示すように90度以上試験管(0604)を傾けても、ダーラム管(0619)開口端での表面張力の働きで空気(0620)を一度で抜くことが難しい。ダーラム管(0619)を用いた定性検査での判定基準は、ダーラム管(0619)内に気泡が生じたか否かである。ダーラム管(0619)内の空気抜きが不完全で多少でも気泡が残ると、細菌がいなかったとしても陽性(細菌が存在した)と判定してしまう偽陽性の原因となるため、確実に空気抜きを行わなければならない。ダーラム管開口端での表面張力により気泡が抜けにくいために、複数回の空気抜き作業を繰り返すことが必要である。確実に空気抜きできたかどうかの確認は、目視で行う必要がある。本発明の発明者の知見では、従来技術のダーラム管では空気抜きのために試験管を傾ける作業を、2回位は行う必要があった。
【0005】
<培養段階>
空気抜きの次は、培養を行う。検体の準備では、検査する対象10gに対し滅菌希釈水を加え10倍希釈後にホモジナイズし検査対象中の細菌と滅菌希釈水の混合を行う。検査対象が固体の場合(例えばソーセージなど)は、10gの検体に対し90mlの滅菌希釈水を加えホモジナイズする。準備した検体を白金耳又はピペットなどを用いて試験管内に接種する。例えば、日本の食品衛生法に基づく公定法においては、検体の原液、10倍希釈液、100倍希釈液各1mlをそれぞれ培養液10mlに接種して35±1℃のインキュベーター又は44.5±0.2℃の恒温水槽で24~48±3時間培養してダーラム管が管内に貯留した気体により浮上するかしないかを観察する。また、貯留した気体である気泡を視認することにより大腸菌群の存否を判定することもできる。米国のFDA法(Food and Drug Administration)による大腸菌群検査法においては、検体の原液10ml、1ml並びに10倍希釈液1mlをラウリル硫酸ブイヨン(LSTブイヨン)3本ずつに接種(原液10mlは倍濃度液体培地10mlへ、他は通常濃度液体培地10mlへ)し、35℃で48時間培養後にダーラム管内に検体中の細菌由来の気泡が生じたかどうかを観察する。国際標準化機構(International Organization for Standardization)により定められる方法においては、検体の原液10ml、1ml並びに10倍希釈液1mlをラウリル硫酸ブイヨン3本に接種(原液10mlは倍濃度液体培地10mlへ、他は通常濃度液体培地10mlへ)し、30℃で24時間培養後にダーラム管内に検体中の細菌由来の気泡が発生したかどうかを観察する。
【0006】
特許文献1には、本発明の発明者が考案した、浮上により所定量の気体が生じたか判定できるダーラム管が記載されている。図2に特許文献1でのダーラム管にて、本発明の発明者が大腸菌群の定性検査を行った際のダーラム管の挙動概要(培養以降)を示す。図2の下の図はダーラム管(0219)を細菌培養液(0205)に沈め、空気抜きを済ませ検体接種済みの試験管(0204)を示す。試験管(0204)の絵は左からタイミング1、タイミング2であり、上のグラフ中のタイミング1とタイミング2の各時点に対応する。グラフは、横軸がインキュベーター中に設置され恒温保持されてからの細菌培養の経過時間を示す。縦軸は細菌培養液の透過度を示す透過度電圧である。透過度は、細菌培養液(0205)の中の細菌によって光が散乱するなど透過しにくくなる様子を、受光量を電圧に変換する受光器を用いて、透過光の量を電圧に変換して得た例で示している。受光器は受光量が低下するにつれて、透過度を表す電圧である透過度電圧が増加するような構成に設計している。
【0007】
細菌が増えてくると、透過する光が減るために透過度電圧が増加する。図2のグラフ中、タイミング1までは、細菌が徐々に繁殖している段階であるため、透過度電圧のグラフは横ばいである。タイミング2ではダーラム管(0219)内で細菌の代謝により産生されたガスの浮力を受けて、ダーラム管(0219)が浮上する。浮上したダーラム管が検出用の受光素子の前を通過し、ダーラム管壁によって光が吸収されるために、急激に受光量が減り透過度電圧が急上昇する。このような検査方法を特許文献1は開示している。この検査では、検体中に大腸菌群が存在している場合には、大腸菌群により産生されたガスがダーラム管に貯留されてダーラム管を浮上させることにより、大腸菌群の存在を確認することが可能となる(ダーラム管内に気泡が発生したことでも確認できる)。図3は、特許文献1のダーラム管を用い、ガス産生能の弱い細菌に対して定性検査を行った時の例である。検査時間が27時間超と長時間かかっている。
【0008】
特許文献1以前のダーラム管は無色透明のガラス製であることが、一般的であったが、特許文献1には、ポリスチレン等の無色透明の合成樹脂材で形成されるダーラム管を用い、液体培地とダーラム管を構成するポリスチレンなどの材料の比重を所定比とすることにより、細菌によって産生されたガスがダーラム管頂部に所定量貯留されると、浮力が生じて浮上するという検査キット及び検査装置が記載されている。浮上の観察には、上述のように光の反射光又は透過光の変化を用いる。検査装置に用いる検体の検査キットとして、培養液は、比重が1.00より大きく1.03以下であり、ダーラム管は、比重が1.04以上1.07以下であり、ダーラム管の比重と培養液の比重との差が、0.01以上である検体の検査キットと記載されている。ポリスチレン等で製造したダーラム管は、特許文献1以前のガラス製のダーラム管に比べて安価に製造することができるため使い捨てることが可能である。
【0009】
特許文献2には、材質の記載はないが、従来のダーラム管に対し、管壁にスロット(細い切込み)を設けた管を用いて、発生したガスにより浮上することで菌を検知する検査装置が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2016/204300
【特許文献2】US2004/0166556A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の段落「0033」には以下のように記載されている。「検体由来の気体がダーラム管にたまることにより容器内でダーラム管が浮上するように構成するために、例えば、下記の式を用いることができる。
Cg>(Dt-Dl)Ct/(Dl-Dg)
上記の式における各記号は、Ct:ダーラム管の体積、Dt:ダーラム管を形成する材料の密度、Dl:検体を接種した培養液の密度、Cg:貯留気体の体積、Dg:貯留気体の密度、である。なお、ダーラム管の体積とは、容器としての容量ではなくダーラム管そのものの体積である。」
【0012】
また特許文献1の段落「0035」には、「例えば、比重(Dt)が1.04のポリスチレンを材料として、内径5.5mm×高さ30mm、肉厚0.75mmの寸法でダーラム管を形成する場合、その体積(Cg)は略0.442cmとなる。また、検体を接種した培養液(BGLB培地)の比重(Dl)は塩と栄養源が含まれているため概ね1.01程度である。また、大腸菌群などが産生する主たる気体である二酸化炭素を貯留気体の例とした場合にはその比重(Dg)は0.002である。これらの各値を上記の式に当てはめると、ダーラム管内に気体が0.013cmより多く貯留するとダーラム管は浮上し得ることになる。なお、ダーラム管が培養液の水面まで浮上するためには、上記の式で得られる0.013cmより多くの気体を貯留することを要し、例えば0.05cm程度貯留した場合には、十分に水面まで浮上し、また、気泡として視認することができる。」と記載されている。
【0013】
本発明の発明者が、特許文献1に記載のダーラム管(図8、内径5.5mm×高さ30mm)を検討したところ、比重1.04のポリスチレンを用いて肉厚0.75mmの管を形成しようとすると、強度が不足することを見出した。ダーラム管の強度を保つには、比重が1.04より大きい1.06~1.07のポリスチレンを使用するか、肉厚を0.9mm以上とすることが必要であった。従来の試験管をそのまま使用し、ポリスチレン製のダーラム管を用いても、従来と同じような定性検査における使用感とするには、ダーラム管の外形を変えず内径を小さくし管の肉厚を厚くするしかない。内径を小さくしても、比重の大きな材料を使用しても、ダーラム管の重量が特許文献1の想定よりも増加するために、浮上に必要な気体の貯留量は、特許文献1での記載0.013cmに対し、0.028cmなければ浮上しえないことを、本発明の発明者は見出した。
【0014】
特許文献1の技術では、ダーラム管は試験管形状であったため、試験管底部に接触するダーラム管端まで筒状になっており、ダーラム管内の細菌培養液と、管外の細菌培養液は試験管底部とダーラム管端の隙間からしか行き来できなかった。管縁に一部突起を設け、試験管底部と隙間を生じるように構成されていたが、隙間が小さく細菌が入りづらい。試験管内の細菌が増殖しダーラム管内に侵入するまでに時間を要することと、ダーラム管内にて細菌が増殖しダーラム管内の細菌培養液中の栄養分が減少しても、管外から上記の小さな隙間を介しては細菌培養液が循環されにくく、栄養分が律速条件となって細菌の代謝が鈍りガス産生の速度が遅くなることから、浮上するに足る気体の貯留までに時間を要するという課題があった。検体中に細菌数が少ない場合や、検体中の細菌がガスを産生する能力であるガス産生能が低い菌だった場合であっても、同様にダーラム管の浮上するに足る気体の貯留までに時間を要するという課題があった。
【0015】
時間がかかりすぎると、所定の検査時間内で浮上しない事例が生じ陰性と判断し、細菌を含んだ検体の母サンプルを良品と誤判定する可能性があった。または、検査時間を延長する必要が生じ、コスト増となっていた。そのため、より少ないガス貯留量で、短い時間で検出できることが望まれている。
【0016】
特許文献2では、従来のダーラム管に対し、管壁にスロット(細長い切込み)を設けることで、管の内外の細菌や化学物質の自由な行き来を可能とするように構成されている。しかし、スロットのサイズと本数に関して記載が無く、特許文献2記載の図では側壁の一部に切込みを設けたものであり、側壁に対しスロットの占める割合が少ない。従来の試験管状のダーラム管に対しては、行き来がしやすいが、側壁部分を含めた重量分を浮上させる浮力が必要なため、まだ浮上までには時間を要する課題がある。また、半球状の管頂部とスロットに至るまでの間の円筒部は深さが深いので、たとえ液中で上下逆にしてスロットのある下側から液体である細菌培養液でダーラム管を満たそうとしても、もともとダーラム管を満たしていた空気と細菌培養液との表面張力により、空気抜きがしにくい課題がある。空気と細菌培養液の接触面をできるだけ小さくしようとするので、細菌培養液中を空気が接触面積を大きくしながら抜けるのが難しくなるからである。また細菌培養液とダーラム管の内壁間でも表面張力が働く。この表面張力は、細菌培養液がダーラム管の内壁面を濡らすことを妨げるように働く。
【0017】
そこで、本発明は、従来の検査方法を踏襲しつつ、検査結果が従来よりも早く得られるとともにダーラム管に代えた浮上カップのカップ本体の空気抜きを容易とした検査キットを、コスト増加せずに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明において以下の検体の検査キットを提供する。
第1の発明として、
細菌培養液(D)が入れられた試験管(C)内の底部付近に着底配置して検体に含まれる細菌の代謝によって生じるガスの浮力で試験管(C)内を浮上するように構成された浮上カップであって、
前記細菌培養液(D)中に生じるガスを、浮上する浮力に見合う量の貯留可能な容積を有する試験管(C)内で下向き開口となるカップ本体(A)と、
試験管(C)内でカップ本体(A)開口下の細菌培養液(D)に前記着底配置状態で、浮上する浮力に見合う量のガスを細菌の代謝によって生成するガス発生領域を確保するためのカップ本体(A)に設けられるカップ本体支持足(B)と、
からなる細菌衛生検査のための浮上カップを提供する。
【0019】
第2の発明として、第1の発明を基礎とした、
前記カップ本体開口下の細菌培養液(D)の前記ガス発生領域の細菌培養液容積は、前記カップ本体(A)の容積よりも大きい浮上カップを、提供する。
【0020】
第3の発明として、第1の発明または第2の発明のいずれかを基礎とした、前記カップ本体支持足(B)は、少なくともその一部が試験管(C)の内壁に接することでカップ本体(A)の姿勢を試験管(C)に対して正置するように構成されている浮上カップを、提供する。
【0021】
第4の発明として、第1から第2の発明のいずれか一を基礎とした、
カップ本体(A)は、略半球状又はロケット先端形状である請求項1から請求項3のいずれか一に記載の浮上カップを、提供する。
【0022】
第5の発明として、第1から第4の発明のいずれか一を基礎とした、
カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)中央頂部から下方に伸びた棒状部材である浮上カップを、提供する。
【0023】
第6の発明として、第1から第5の発明のいずれか一を基礎とした、
カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)開口縁部から下方に伸びたひだ状部材である浮上カップを、提供する。
【0024】
第7の発明として、第1から第6の発明のいずれか一を基礎とした浮上カップと、試験管(C)と、試験管(C)内と試験管(C)内で着底状態の前記浮上カップのカップ本体(A)を満たした細菌培養液(D)と、試験管(C)を封止するキャップ(E)と、からなる細菌検査キットを、提供する。
【0025】
第8の発明として、細菌検査キットを前記試験管(C)を立てた状態で保持する細菌検査キット保持部(F)と、
保持された細菌検査キットの前記試験管(C)内の前記浮上カップが浮上する位置の光透過度を示す情報である光透過度情報を取得する光透過度情報取得部(G)と、
前記光透過度情報取得部(G)で取得した光透過度情報を出力する光透過度情報出力部(H)と、を有する細菌検査装置を、提供する。
【0026】
第9の発明として、第8の発明を基礎とした、
光透過度情報出力部(H)は、時間情報と関連付けて光透過度情報を出力する経時変化出力手段(J)を有する細菌検査を、提供する。
【0027】
第10の発明として、第9の発明を基礎とした、
経時変化出力手段(J)からの光透過度情報に基づいて光透過度の時間に関する加速度情報を取得する加速度情報取得部(K)と、
取得した加速度情報に基づいてアラームを出力する条件であるアラーム条件を保持するアラーム条件保持部(M)と、
取得した加速度情報と保持されているアラーム条件とに基づいてアラームを出力するアラーム出力部(N)と、
をさらに有する細菌検査装置を、提供する。
【0028】
第11の発明として、第1から第7までの発明のいずれか一を基礎として、
細菌培養液(D)と浮上カップと試験管(C)とキャップ(E)とからなる検体の細菌検査キットであって、
細菌培養液(D)は、比重が1.00より大きく1.03以下であり、
浮上カップは、比重が1.04以上1.07以下であり、
浮上カップの比重と細菌培養液(D)の比重との差が、0.01以上である
検体の細菌検査キットを、提供する。
さらに、第8の発明に記載の細菌検査装置を用いてサンプリングされた食品に含まれる細菌が食品衛生法上の規定を満たすか判断するための食品衛生判断方法であって、
細菌検査キットの細菌培養液に満たされた試験管に前記サンプリングされた食品を検体として滴下する検体滴下ステップと、
前記試験管に当初沈んで配置された浮上カップが取得される光透過度情報にて細菌が代謝したガスによって浮上したことを検知する浮上検知ステップと、
を含む食品衛生判断方法をも提供する。
【発明の効果】
【0029】
以上のような構成をとる本発明によって、従来のダーラム管と同様に気泡発生による浮上を観察することによって大腸菌群の存在を判定しうるとともに、従来同様に管頭頂部の気泡を視認することにより大腸菌群などの存在を判定することもできる。従来のダーラム管よりも管重量が小さく、より少ない気体貯留量で浮上できるために検査時間を短縮でき、従来の検査時間では見逃していた大腸菌群などの存在を検知できるとともに、より多くの検体を検査できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の浮上カップの実施形態の一例を試験管内の細菌培養液中に沈めた概略図
図2】従来技術のダーラム管を使用した細菌検査の例を示す図
図3】従来技術のダーラム管を使用したガス産生能の弱い細菌の検査の例を示す図
図4】本発明の浮上カップを使用した細菌検査の例を示す図
図5】本発明の浮上カップを使用したガス産生能の弱い細菌の検査の例を示す図
図6】従来技術のダーラム管を使用する時の空気抜きの説明図
図7】本発明の浮上カップを使用する時の空気抜きの説明図
図8】従来技術での浮上カップの説明図
図9a】本発明の浮上カップの例の説明図
図9b】本発明の浮上カップのカップ本体支持足の例の説明図
図10】本発明の浮上カップの他の形状例
図11】本発明の浮上カップを用いた細菌検査装置の例1
図12】本発明の浮上カップを用いた細菌検査装置の例2
図13】本発明の浮上カップを用いた細菌検査装置の例3
図14】本発明の浮上カップを用いた細菌検査装置の例4
図15】本発明の浮上カップを用いた細菌検査装置のカップ本体の浮上検知の説明図
図16】本発明の浮上カップを用いた細菌検査装置の浮上検知用光検出例。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0032】
<実施形態1>
<実施形態1 概要>主に請求項1
【0033】
細菌培養液(D)中で検体に含まれる細菌の代謝により生じるガスを貯留するカップ本体(A)と、カップ本体に設けられるカップ本体支持足(B)と、からなる浮上カップ。
【0034】
<実施形態1 構成>
図1に実施形態1の構成を示す。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(B)(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)をも示す。
【0035】
<実施形態1 カップ本体(A)(0102)>
カップ本体(A)(0102)は、試験管(C)内に入れられた細菌培養液(D)中に生じるガスを、浮上する浮力に見合う量の貯留可能な容積を有する試験管(C)内で下向き開口となるように構成される。
【0036】
細菌培養液(D)の比重と、浮上カップの比重(複数の材質で構成される場合は浮上カップ自体の体積と重量から算出される比重である加重平均比重)、浮上カップの容積(浮上カップ部に貯留できる気体体積)、浮上カップに貯留する気体の主成分である二酸化炭素(以下CO)の密度(疑似的に比重とみなす)から、カップ本体(A)(0102)の容積を決定する。一般に大腸菌が代謝によって産生するガスは主にCOであるためである。従ってカップ本体(A)(0102)の比重は、必ずしも細菌培養液(D)の比重よりも大きくなくともよい。カップ本体(A)は細菌培養液(D)よりも比重の小さい材料とし、カップ本体支持足(B)を細菌培養液(D)よりも比重の大きな材料とし、カップ本体(A)に前記カップ本体支持足を接合するとよい。カップ本体(A)にカップ本体支持足を接合する際に、前記接合部分近傍のカップ本体(A)の一部を前記カップ本体支持足の構成材料で形成してもよい。
【0037】
浮上カップ(カップ本体、カップ本体支持足)を形成する材料としては、医療用に使われるプラスチック材料が好ましい。ポリ塩化ビニル、ポリカーボネイト、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ふっ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、メタクリル酸メチルエステル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、シリコーン樹脂、熱可塑性エラストマー、液状シリコーンゴム(LSR)などがある。
【0038】
カップ本体(A)を形成する材料としては、カップ本体(A)内部に貯留された気体を従来同様目視確認できることが好ましいため、透明であることが要求される。さらには、浮上カップの比重は、気体を貯留したら浮上できることが必要なため、浮上カップを一つの材料で形成した場合には、貯留した気体の浮力を考慮にいれて、浮上できる比重であることが必要となる。後記カップ本体支持足(B)をカップ本体(A)と別材料で形成した場合、または別材料からなる部品をカップ本体支持足(B)に取り付ける場合には、浮力を担保するためには、気体貯留による浮力を考慮に入れた上で、浮上カップとしての加重平均比重が上記浮上できる比重であることが必要となる。
【0039】
細菌培養液(D)の比重が、1.00より大きく、1.03以下であるため、透明性と合わせ、カップ本体(A)に使用可能な材料の候補は、ABS樹脂(比重1.01~1.21ただし、材料として比重1.03以下は除外)、AS樹脂(アクリロニトリルスチレン樹脂)(比重1.07~1.1)、ポリスチレン(比重1.04~1.09)、が採用可能である。これに加えて他の比重1以上(できれば比重1.03以上)の材料と組み合わせる場合には、ナイロン12(1.01~1.02)、ポリプロピレン(PP)(比重0.9~0.91)、ポリエチレン(比重0.91~0.92)、なども採用できる。細菌培養液(D)の種別と材料については後記するが、試験方法として定まった細菌培養液(D)を使用するため、細菌培養液(D)の比重を変えるのは困難である。そのため、細菌培養液(D)の比重に合わせて、浮上カップの比重(又は加重平均比重)を適宜設計する必要がある。
【0040】
図9aにカップ本体(A)の一例を示す。カップ本体(A)の開口部外径を7.8mm、内側高さ8mmの円錐状(又はロケット先端形状に類似の形状)としている。この例の場合、カップ内に貯留できる気体の容積は約0.08cmである。カップ本体(A)下方には、浮上に必要なガスを細菌の代謝により産生するために、細菌培養液(D)の領域を設けなければならない。前記領域の内外をより自由に細菌培養液(D)中の栄養分や細菌が出入りできるようにしたことが本発明の特徴である。カップ本体(A)に貯留可能な気体の量は0.03~0.09cmくらいが望ましい。少なすぎると浮上カップの設計に制限が生じる。大きすぎると、重くなるために浮上できるまでに気体を貯留するまでに時間を要する。
【0041】
また、カップ本体(A)と試験管(C)底までの間隔は、前記間隔の部分に存在する細菌培養液(D)の容量が少なくともカップ本体(A)の気体貯留可能容容量以上であることが好ましい。上述のように、カップ本体(A)下部の領域を、細菌培養液(D)中の栄養分や細菌が自由に出入りできるようにするためである。カップ本体(A)の高さに対しカップ本体支持足(B)の長さは2.5倍~5.5倍ほどが好ましい。2.5倍より小さいと細菌の代謝した二酸化炭素が浮上カップを浮上させる程度分カップ本体内に貯留するまでに時間がかかり、5.5倍より大きいとカップ本体支持足(B)の体積が大きくなって重くなり、COの貯留体積が大きくならなければならず、やはり浮上カップを浮上させるまでに時間がかかる。より好ましくはカップ本体(A)の高さに対しカップ本体支持足(B)の長さは3.0倍より大きく、4.5倍より小さいことが好ましい。この範囲だと、おおむね浮上カップを浮上させるまでの時間を短くできるからである。
【0042】
例えば図9に示すようにカップ本体(A)高さに対しカップ本体支持足(B)の長さを3.4倍程度としている。カップ本体(A)の高さ、カップ本体支持足(B)の長さの具体的な値は、試験管の寸法などによって最適値の範囲が設計される。図9aのポリスチレン肉厚全体にわたって1.0mm、カップ本体(A)外径7.8mm、カップ本体支持足(B)31.0mm、コレクトプレートの変曲点までのカップ本体(A)端部からの高さ8.5mm、コレクトプレート変曲点幅2.0mm、カップ本体支持足(B)最先端部幅1.5mmの設計でカップ本体(A)高さに対しカップ本体支持足(B)の長さを3.1倍から3.6倍程度が最適であることが分かっている。これは、カップの浮上開始までの時間を短くするという観点からの設計である。
【0043】
<実施形態1 カップ本体支持足(B)(0103)>
カップ本体支持足(B)(0103)は、試験管(C)内でカップ本体(A)開口下の細菌培養液(D)に前記着底配置状態で、浮上する浮力に見合う量のガスを細菌の代謝によって生成するガス発生領域を確保するためのカップ本体(A)に設けられるように構成される。
【0044】
前述のように、カップ本体支持足(B)を構成する材料の比重は、浮上カップの加重平均比重が細菌培養液(D)の比重よりは大きく、浮上カップに気体を貯留した際に生じる浮力で浮上できるほどには小さい範囲に入るように設計できれば、カップ本体(A)とカップ本体支持足(B)の材質が異なってもよい。カップ本体支持足(B)の少なくとも一部をカップ本体(A)と同じ材質でカップ本体(A)と同時に製造し、カップ本体(A)の材質よりも比重が大きい材料の部品をカップ本体支持足に取り付ける(支持足端にはめ込む、接合するなどの手法による)ようにしてもよい。上述した医療用に使われるプラスチックを使用して、カップ本体(A)と別に形成したカップ本体支持足(B)を組み合わせてもよい。細胞培養液中(D)内での浮上カップの姿勢安定性の観点から、カップ本体支持足(B)が、特にカップ本体とは逆側の端側の比重が、カップ本体(A)形成材料の比重よりも大きいほうが低重心となり安定する。
【0045】
図9bを用いて、図9aに示す浮上カップの一例のカップ本体支持足(B)の例を説明する。
図9a、図9bの例では、カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)に接する側の方の幅が広く、遠ざかるにつれて幅が狭くなり、かつカップ本体(A)の中心軸から徐々に離れるように広がっていくコレクトプレート(0919)と、前記コレクトプレート(0919)とは傾き変曲点(0921)で接合するトールレッグ(0920)から構成され、一のカップ本体支持足(b)の長さ方向の中心線をx軸とし、x軸に垂直な方向をy軸としたときに、前記コレクトプレート(0919)と前記トールレッグ(0920)の傾きは前記傾き変曲点(0921)で変わり、コレクトプレート側よりもトールレッグ側の方の傾きが緩やかであるように構成される。
【0046】
カップ本体(A)に近い側にカップ本体の円周方向の幅が広い逆三角形状のコレクトプレートが位置し、傾き変曲点へ向かってコレクトプレートの幅が細くなる。傾き変曲点にて幅の変化率が小さい値(緩やかに幅が狭くなる)であるトールレッグへとつながる。図9に示すように、コレクトプレートはカップ本体(A)の開口部端側の幅が広いことに加え、下側に行くにつれて外側へ広がるように形成されている(カップ本体支持足(B)端は8.9mm径の円周上に位置する)ため、細菌が代謝で産生したガスの気泡をカップ本体(A)に誘導し集める効果がある。カップ本体(A)から遠ざかるにつれて幅が狭くなることにより、隙間が広がって細菌や細菌培養液(D)が移動しやすい。また図9に示すような浮上カップの形状は、射出成型で浮上カップを成形する際に、型から抜きやすく製造しやすい効果がある。なおカップ本体支持足(B)は、最下点が浮上カップを上方から眺めて観察するとカップ本体の外周よりは外側に位置するように構成することができる。後述するが、カップ本体が試験管を透過して検出する光検出器を横切る際に、その光路を遮らないようなポジションとなることを防止できる、という効果がある。光路を遮らないようなポジションは、カップ本体の開口外周が試験管の内壁に接して停止する場合に起こりやすいからである。
【0047】
<実施形態1 浮上カップ(0101)>
浮上カップ(0101)は、細菌培養液(D)で満たされた試験管(C)内の底部付近に着底配置して検体に含まれる細菌の代謝によって生じるガスの浮力で試験管(C)内を浮上するように、ガスを貯留するカップ本体(A)(0102)とガスを発生する細菌培養液(D)の領域を前記カップ本体下方に確保するためのカップ本体支持足(B)(0103)とから構成される。
【0048】
浮上カップの比重(又は加重平均比重)は、後記する実施形態11で説明する大きさの範囲(1.04~1.07)にあればよい。細菌培養液(D)中での姿勢の安定性の観点から、カップ本体(A)よりカップ本体支持足(B)の比重が大きいほうが、重心が低くなり好ましい。凧の足のように、浮上時の姿勢が安定しやすいためである。カップ本体(A)と、カップ本体支持足(B)は、それぞれ射出成型により製造することができる。製造コストを最も下げるには、カップ本体(A)とカップ本体支持足(B)を一体とした浮上カップとし、一つの材料で形成する方法が良い。材料としては上述した比重とカップ本体(A)の強度や製造の容易性を考慮するとポリスチレンを使用し射出成型する製造方法が好ましい。なお、カップ本体支持足(B)の比重を部分的に重くする簡易的な手段としては、カップ本体(A)と同様な材質で一旦構成されたカップ本体支持足(B)に部分的に熱を与えてプラスチックを変性し、比重を重くすることも考えられる。加熱によってプラスチック中の水素成分をガス化して炭素成分を豊富化することによって比重の制御が所定範囲内で可能となる。
【0049】
図9aを用いて、浮上カップのカップ本体(A)に、細菌が代謝により産生したガスが貯留した場合の、浮上カップの浮上条件に付いて説明する。
まず、浮上カップ自体の比重が、試験管(C)内の、検体を接種した細菌培養液(D)の比重より大きく、浮上カップ内に気体を貯留していない状態では細菌培養液(D)内で沈んでいることが必要である。
【0050】
また、検体に含まれる細菌から生成される気体が浮上カップにたまることにより、試験管(C)内の細菌培養液(D)中を浮上カップが浮上するためには、例えば、上述した特許文献1記載の下記の式の関係を満たすように構成する。
Cg>(Dt-Dl)Ct/(Dl-Dg)
上記の式における各記号は、Ct:浮上カップの体積、Dt:浮上カップを形成する材料の比重、Dl:検体を接種した細菌培養液(D)の比重、Cg:カップ本体(A)に貯留した気体の体積、Dg:貯留した気体の密度、である。なお、浮上カップの体積とは、容器として浮上カップが囲う容量ではなく、浮上カップそのものの体積(浮上カップを構成する物質の全体積)である。
【0051】
なお、Dl、Dt、Dgには、比重に代えてそれぞれの密度(貯留気体については水に対する比重)を使用して計算してもよい。これは、CGS単位系では密度と比重の値がほぼおなじであることと、合成樹脂の物性を示す情報として比重を表示することの方が多く材料の選定や具体的な設計において都合がよいからである。また、Ctの設定により検出感度を調整することができる。すなわち、検出感度を高くするためにはCtを小さくし、検出感度を低くするためにはCtを大きくする。(比重は、4℃時点の水に対する同じ体積の比較物質の重さの比である。4℃の水の密度は0.999972g/cmであり、ほぼ1であるため、1cm当たりで比較すると、比重とCGS系の密度は値がほぼ同じとなる。MKS単位系では桁が3桁変わるため、CGS系の密度を流用する。)
【0052】
図9aに示すカップ本体(A)の例では、カップ本体(A)開口部外径を7.8mm、高さ9mmの円錐状(又はロケット先端形状に類似の形状)としている。カップ本体支持足(B)の長さをカップ本体(A)開口端から支持足先端まで31mmとする。この例の場合、カップ内に貯留できる気体の容積は約0.06cm。カップ本体(A)開口端から前記カップ本体支持足端までの間に存在しうる細菌培養液(D)の容量は1.5cm。両者の合計1.56cmの容積の細菌培養液(D)が、ガス産生に寄与する細菌培養液(D)の容量である。カップ本体(A)をポリプロピレンで形成し、カップ本体支持足(B)をポリカーボネイトで形成するような異種材料部品を組み合わせた場合は、それぞれの材料の比重が0.9~0.91、1.2~1.3であり浮上カップ全体としては、それぞれの体積を勘案し加重平均した比重となる。単一材料ポリスチレン(比重1.04)で浮上カップを作成した場合、細菌培養液(D)の比重を1~1.03とした場合、細菌の代謝により産生されるガスのうち主たるCOガスの量が0.018~0.028cmの範囲で生じれば、浮上カップは細菌培養液(D)中で浮上しうる。
【0053】
<実施形態1 試験管(C)(0104)>
試験管(C)(0104)は、自身の管内に浮上カップ(0101)を収め、後記する細菌培養液(D)(0105)で満たされ、口部を後記するキャップ(E)で封止されるように構成される。
【0054】
培養した細菌の代謝によるガス産生を観察する細菌検査方法では、直径16~18mm、長さ約100~150mmの試験管が用いられることが多い。なお、培養を行うため、開口を密閉するためのキャップ(E)付の試験管(C)を容器として用いる。
【0055】
<実施形態1 細菌培養液(D)(0105)>
細菌培養液(D)(0105)は、浮上カップ(0101)と、試験管(C)(0104)と、細菌培養液(D)(0105)と、キャップ(E)(0106)からなる細菌検査キットの準備段階において、オートクレーブ(121℃、15分間、2気圧)で高圧蒸気滅菌を行い、滅菌状態にされる。細菌培養液(D)(0104)は、検体に含まれ得る大腸菌群などの菌を培養するための液である。そのため、検査する対象となる細菌種別によって下記のように細菌培養液(D)を変えて使用する。
【0056】
<細菌培養液の種類>
細菌培養液は、検体や検査の段階に応じて使い分けたものとなる。検査の段階とは、大腸菌群及び大腸菌の定性検査において順番に行うこととなっている、推定試験、確定試験、完全試験のそれぞれをいう。なお、途中の試験で陰性の結果が得られた場合には、以降の試験を行う必要はない。
【0057】
大腸菌群の定性検査における推定試験では検体の種別によって培地を使い分ける。例えば、一般の加工食品、放送後加熱食肉製品、魚肉ねり製品、乳及び乳製品の一部など細菌にとって栄養分の豊富な試料の場合は、BGLB培地を使用する。氷雪、清涼飲料水、ミネラルウォーターなど細菌にとっての栄養素の少ない試料の場合、LB培地を使用する。氷菓、アイスクリーム類、冷凍食品、バターなど乳製品の一部、乳酸菌飲料など栄養分の豊富な試料の場合は、デソキシコレート寒天培地を用いる。生食用かき、食肉製品、冷凍食品の一部に対してはEC培地を用いる。
【0058】
推定試験陽性の場合に確定検査を行う。確定試験ではEMB寒天平板培地を用い、完全試験においてはLB培地(乳糖ブイヨン培地)を用いる。EMB(Eosin Methylene Blue Agar)寒天平板培地はペプトン10g、乳糖10g、リン酸一水素カリウム2g、エオジンY0.4g、メチレンブルー65mg、寒天18g、水1000mlを用いて作成したPH6.6~7.0の寒天培地である。
【0059】
確定検査陽性の場合に完全検査を行う。LB培地での酸とガスの発生の確認をおこなう。同時に確定試験で陽性になったコロニーを普通寒天培地で培養し、新鮮な菌体を用いてグラム染色試験と、光学顕微鏡による菌体観察を行い、グラム陰性でかつ桿菌であることを確認された場合に、完全試験陽性と判断される。
【0060】
また、米国や欧州ではLST培地(ラウリル硫酸ブイヨン培地)が用いられている。これらの検査に用いられる培養液は、いずれもその比重が概ね1.00より大きく1.03以下である。
【0061】
LB培地は例えば日本製薬(株)製造、富士フィルム和光純薬(株)販売の乳糖ブイヨン培地「ダイゴ」では、精製水1Lあたり、肉エキス:3g,ペプトン:10g,乳糖:5g,ブロムチモールブルー:0.024g、(pH(滅菌後)7.0~7.4)の成分からなる。
【0062】
BGLB培地は例えば日本製薬(株)製造、富士フィルム和光純薬(株)販売のBGLB培地「ダイゴ」では、精製水1Lあたり、ペプトン:10g,乳糖:10g,牛胆汁末:20g,ブリリアントグリーン:0.0133g、(pH(滅菌後)7.0~7.4)の成分からなる。LB培地に対し、BGLB培地はブリリアントグリーン及び胆汁の作用でグラム陽性菌の発育を阻害し、胆汁により大腸菌群の発育を促進する。ブリリアントグリーンとは、水溶液が鮮やかな緑色を呈する色素。酸塩基指示薬でもあり、酸性では黄色、塩基性では青緑色を呈し、変色息はpH 1.0~3.0付近である。
【0063】
EC培地は、例えば日本製薬(株)製造、富士フィルム和光純薬(株)販売のEC培地「ダイゴ」では、精製水1Lあたり、ペプトン:20g,乳糖:5g,胆汁酸塩:1.5g,リン酸二水素カリウム:4g,リン酸一水素カリウム:1.5g,塩化ナトリウム:5g、(pH(滅菌後)6.7~7.1)からなる。
【0064】
LST培地は、例えばトリプトース:20g/L、乳糖:5g/L、塩化ナトリウム:5g/L、ラウリル硫酸ナトリウム:0.1g/L、リン酸1水素カリウム:2.75g/L、リン酸2水素カリウム:2.75gからなる。培地中のラウリル硫酸ナトリウムは大腸菌群以外の細菌を抑制し、リン酸カリウムは緩衝性を高め、塩化ナトリウムは浸透圧を維持する(「イーズ」No.23、2001年4月発行、食品の大腸菌群検査法より引用)。
【0065】
本発明での浮上カップを使用する大腸菌群の検査のための準備について説明する。上述したような検査キットの準備の一環として、高圧蒸気滅菌された細菌培養液(D)をガンマ線滅菌された試験管(C)内に注入後に空気抜きを行う。下記準備段階は、試験管(C)、浮上カップ、細菌培養液(D)、キャップ(E)をすべて滅菌する。滅菌された環境下(滅菌された部屋、滅菌された装置内など)において、試験管(C)に、浮上カップ、細菌培養液(D)の順に入れ、試験管(C)口を封止するといった、空気抜き作業を行わなければならない。
【0066】
<準備段階:空気抜き>
空気抜きは従来技術のダーラム管の空気抜きと同様の手順で行う。
(1) 試験管(C)内に浮上カップを、開口部が試験管(C)底部に向くようにして、試験管(C)内に挿入し、試験管(C)口をキャップ(E)で封止する。
(2) 放射線照射(ガンマ線照射)などにより、(1)の浮上カップ入り試験管の滅菌処理を行う。
(3) 滅菌したクリーンベンチなどの清浄空間内で前記キャップ(E)を外して、高圧蒸気滅菌(121℃、15分、2気圧)済みの細菌培養液(D)を試験管(C)内へ無菌充填した後、再度試験管(C)口をキャップ(E)にて封止する。
(4) 浮上カップの空気抜きを行う。
空気抜きを行わないと、浮上カップが浮上した状態となる、または、浮上カップ内に空気が一部残留したまま試験管(C)底に沈んだ状態で検査に使用した場合、細菌により産生された気体か否か判断できない状態となり、検査を正確に行えない。
【0067】
図7を用いて、本発明の浮上カップでの空気抜きについて説明する。本発明では、気体を貯留するカップ本体(A)の高さが従来よりも小さいために、試験管(C)(0704)の向きを従来程傾けなくとも、容易に空気抜きを行うことができる。このようにして空気抜き作業まで終えて、準備した細菌検査キットを用いて、上述したように、細菌を含む可能性のある検体を細菌培養液(D)(0705)へ白金耳又はピペットなどを用いて接種し、所定温度に保たれたインキュベーターに納めて細菌を培養する。
【0068】
<カップ本体(A)の浮上について>
図4に本発明での、大腸菌群の定性検査時の浮上カップの挙動概要(培養以降)を、図2と同様に示す。図4の下の図は浮上カップ(0401)を細菌培養液(D)(0405)に沈め、空気抜きを済ませた検体接種後の試験管(C)(0404)を示す。試験管(C)(0404)の絵は時間が経過していく順に、左から右へ並んでいる。左からタイミング1、タイミング2、タイミング3の順であり、上のグラフ中のタイミング1からタイミング3の各時点に対応する。グラフは、横軸がインキュベーター中に設置され恒温保持されてからの細菌培養の経過時間を示す。縦軸は細菌培養液の透過度を示す。透過度は、細菌培養液(D)(0405)の中で増殖した細菌によって光が散乱するなどにより、透過が下がる。透過光を受光する光検出器は受光する透過光が減少するにつれて、透過度を表す電圧である透過度電圧が増加するような構成に設計している。
【0069】
細菌が増えてくると、透過する光が減るために透過度電圧が増加する。図4のグラフ中、タイミング1までは、細菌が徐々に繁殖している段階である。細菌培養液(D)(0405)中に濁りが生じ始めているが、まだ細菌数が少なく透過光を阻害する影響が小さいため、透過度電圧は横ばいとなっている。タイミング2では、試験管(C)(0404)内に細菌の増殖によって細菌がいきわたり、細菌が産生する単位時間当たりのガスの量がタイミング1のときよりも大量に産生し始め、多くの気泡が生じ始める。しかし、このタイミングでは浮上カップの浮上は開始しない。タイミング3では浮上カップ(0401)の下部で産生されたガスにより、浮上カップ(0401)が浮上する。タイミング3では浮上カップ(0401)が浮上することにより、カップ本体が光源と光検出素子間に停止し、浮上カップによって光が散乱又は/及び吸収されるために、急激に透過度電圧が上昇する。実験開始から12時間前後で透過度電圧は最高値となりサチュレーションする。従来は図2に示すように15時間前後であったので、約3時間分細菌の定性検査の時間を短縮できる。このように従来よりも早く浮上することができることで工場において生産された製品の待機時間を短縮できるのでより新鮮な製品を需要者に届けることができるというメリットを享受できる。
【0070】
図15に光源と光検出器間の光線を、浮上するカップ本体(A)が横切る様子の例を示す。説明のため、カップ本体(A)位置固定のまま、相対的に光源と光検出器が下に移動するような形式で、カップ本体(A)の浮上を図示している。レーザー光のような平行光線でありかつ十分に細い光束の場合には、まずカップ本体(A)の先端の曲面状に形成された樹脂製壁内部を通過する。次にカップ本体(A)の光源側樹脂製側壁とカップ本体(A)内に貯留した気体と光検出器側樹脂製側壁を通過する。図15での一番下の光線は、カップ本体(A)の両側の樹脂製側壁と細菌培養液を通過する。さらにカップ本体(A)が浮上するとカップ本体支持足(B)の間を抜けて細菌培養液中を光線が通過する。カップ本体支持足(B)が3本以上ある場合、光線が一方向のみでは、樹脂からなるカップ本体支持足(B)を通過する場合(図16 90度の場合)と、カップ本体支持足(B)の間を抜ける場合(図16 0度の場合)があり検出強度に差が生じる可能性がある。そのため、図16に例を示すように2本以上の方向の違う光線を設置しておくのが良い。
【0071】
外形16mmの試験管を使用した場合には、多くの場合、試験管の肉厚は1mm程度であるため、内径は14mm程度となる。浮上カップの外形が7mmの場合には試験管内径の1/2程度となる。試験管の略中央部を浮上するが、外径18mmなど太めの試験管を使用した場合など、浮上位置が中央からずれた場合には、浮上検出用のレーザー光の光線径がカップ本体部の肉厚程度(1mm前後)くらいに細い場合、浮上検出が浮上カップの管頂部ではなく、検出時点がずれる可能性がある。適宜浮上検出要求精度を考慮し光源種別や光線径を選択することができる。
【0072】
図5は、本実施形態の浮上カップを用いて行ったガス産生能が弱い細菌の検査の挙動である(従来技術での図3の例に対応)。本実施形態の浮上カップを使った図4の例よりも時間がかかっているが、図3の従来のダーラム管の27時間超よりも早い13時間ほどで浮上している。
【0073】
<効果>
本発明では、従来よりもカップを小さくし軽くしたことと、ガスを貯留するカップ本体(A)下部に、カップ本体支持足(B)により細菌培養液(D)の容積を確保し、かつカップ本体支持足(B)の周囲には、浮上カップ外の細菌培養液(D)と循環しやすい構造としている。浮上に必要な気体量0.018~0.028cmが、従来技術(特許文献1)のダーラム管の0.0283cmよりも少ないために、ガス産生能が小さい細菌でも、より短時間で浮上に至ることができ、検知に要する時間を短くできる。そのため、所定の検査時間内に検知できる場合が増える。さらに従来技術のダーラム管で検知できていた細菌についても、より短時間で検査できるために、より多くの検体数を検査が可能となる。例えば、出荷ロットの判定に使用していた場合、消費期限の短い食品などでは、検査結果を待ってからの出荷では、出荷後の消費期限が短くなるために出荷後の後追い確認としていたのが、出荷前検査に改定できる可能性がある。もしくは検査ロットを増やすことができ、安全性の保証を増すことができる。また、透明な樹脂によってカップ本体(A)を製造することにより、従来同様カップ本体(A)での気泡の貯留有無による判定も行える。ポリスチレン等透明で比重が適切であって、射出成型法により一体成型できる材料を使用することにより安価に製造することができる。
【0074】
<実施形態2>
<実施形態2 概要>主に請求項2:カップ本体(A)高よりも長いカップ本体支持足(B)長
【0075】
カップ本体(A)開口下の細菌培養液(D)のガス発生領域の細菌培養液容積は、前記カップ本体(A)の容積よりも大きい。
<実施形態2 構成>
実施形態1を基礎とする実施形態2の浮上カップに関して、図1を用いて説明する。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(B)(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)も示す。
【0076】
<実施形態2 カップ本体支持足(B)(0103)>
カップ本体支持足(B)(0103)は、カップ本体(A)開口下の細菌培養液(D)の前記ガス発生領域の細菌培養液容積が、前記カップ本体(A)の容積よりも大きくなるように構成される。
【0077】
前述の実施形態1において、本発明の浮上カップの浮上に関して説明したように、カップ本体(A)の高さに対しカップ本体支持足(B)の長さは2.5倍~5.5倍ほどが好ましい。2.5倍より小さいと細菌の代謝した二酸化炭素が浮上カップを浮上させる程度分カップ本体内に貯留するまでに時間がかかり、5.5倍より大きいとカップ本体支持足(B)の体積が大きくなって重くなり、COの貯留体積が大きくならなければならず、やはり浮上カップを浮上させるまでに時間がかかる。より好ましくはカップ本体(A)の高さに対しカップ本体支持足(B)の長さは3.0倍より大きく、4.5倍より小さいことが好ましい。この範囲だと、おおむね浮上カップを浮上させるまでの時間を短くできるからである。
【0078】
本発明では、カップ本体支持足(B)をカップ本体(A)開口下に設け、カップ本体(A)と試験管(C)底部との間に距離を取ることにより、カップ本体(A)開口部と試験管(C)底部間のガス発生領域の細菌培養液容積が、前記カップ本体(A)の容積よりも大きくなるように構成する。カップ本体(A)を足で支持し試験管(C)底から離したことから、カップ本体(A)と試験管(C)底部間の細菌培養液(D)部には対象領域内外を隔てる壁がほぼなく、自由に周囲の細菌培養液(D)または前記液中の細菌が対象領域内外間を移動できる。特にガス産生が始まると、産生されたガスが集合した気泡が液面に向かって上昇するため、液内が攪拌される。攪拌で動かされた細菌培養液(D)が、前記カップ本体(A)と試験管(C)底部間の投影容積内外を行き来することにより、細菌培養液(D)中の栄養分を浮上カップ部の細菌培養液(D)に補充する。そのため、浮上カップ部の細菌培養液(D)の栄養分が減ってしまい細菌の代謝が下がってガス産生量の減少することを防止し、気体の貯留が遅れることを防ぐことができる。
【0079】
<実施形態3>主に請求項3:カップ本体を正置
<実施形態3 概要>
カップ本体支持足(B)は、少なくともその一部が試験管(C)の内壁に接することでカップ本体(A)の姿勢を試験管(C)に対して正置する。
<実施形態3 構成>
実施形態1又は2のいずれか一を基礎とする実施形態3の浮上カップについて、実施形態1に基づいて図1を使用して説明する。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)も示す。なお実施形態2を基礎としても同様の効果が得られる。
【0080】
<実施形態3 カップ本体支持足(0103)>
カップ本体支持足(B)(0103)は、少なくともその一部が試験管(C)の内壁に接することでカップ本体(A)の姿勢を試験管(C)に対して正置するように構成される。
【0081】
カップ本体支持足は、試験管(C)内、又は試験管(C)内に注入された細菌培養液(D)中でカップ本体(A)を支え、試験管(C)に対し正置させる。正置とは、開口部を上方に向け底部を下側に向けた自身の長軸方向を鉛直方向に略平行に保持された試験管(C)に対し、カップ本体(A)の開口部を試験管(C)底部に向けた浮上カップの長軸方向を、試験管(C)の長軸方向に略平行にすることをいう。
【0082】
浮上カップが傾きながら浮上した場合には、カップ本体支持足(B)の少なくとも一部が試験管(C)の内壁に接し摩擦力が生じることにより浮上カップの傾きを修正し、浮上中の浮上カップの姿勢を正置させることができる。カップ本体(A)が先に試験管(C)内壁に接触した場合にも、カップ本体(A)が浮上継続する際に、カップ本体支持足(B)の少なくとも一部が試験管(C)内壁に接触することで、浮上カップに回転が生じカップ本体(A)が試験管内壁から離れ、結果的に姿勢を正置するようにできる。図9の例のようにカップ本体(A)の外径よりも、カップ本体支持足(B)端が載る円周の外形の方が大きい場合には、浮上中に試験管(C)内壁にカップ本体支持足(B)が接触することにより、より試験管の中央軸付近をカップ本体(A)の中心が近づけることができる。
【0083】
図10に支持足の例を示す。図1中で示した例、カップ本体(A)とは中央1本の棒状部材でつながり、試験管(C)内壁と接する部分で3本に分かれている例(3本以上でもよい)、試験管(C)底部に接する部分を円盤状とした例(円盤部がスポーク上の支持材で棒状部材とつながる輪状となっていてもよい)などがありうる。この3例には限定されない。細菌培養液(D)中で正置できれば、傘状の形状(足が中央1本)であってもよい。また、カップ本体支持足はカップ本体(A)とは別の材質で構成されていてもよい。同じ材質であっても、カップ本体(A)と前記カップ本体支持足を、別個に作成し組み立ててもよい。また、カップ本体支持足を複数の部品に分けて製造してもよい。射出成型時に異なる材質の材料を一体に複合成型してもよい。
【0084】
カップ本体支持足が、少なくともその一部が試験管(C)の内壁に接してカップ本体(A)の姿勢を試験管(C)に対して正置することにより、浮上カップは浮上しやすくなる。
【0085】
<実施形態4>主に請求項4:カップ本体が略半球状又はロケット先端形状
<実施形態4 概要>
カップ本体(A)は、略半球状又はロケット先端形状である。
【0086】
<実施形態4 構成>
実施形態1から3のいずれか1を基礎とする実施形態4の浮上カップに関して、実施形態1に基づいて図1を用いて説明する。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(B)(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)も示す。実施形態2又は3を用いても同様の効果が得られる。
【0087】
<実施形態4 カップ本体(A)(0102)>
カップ本体(A)(0102)は、カップ本体からの空気抜きが容易に行える略半球状又はロケット先端形状であるように構成される。
【0088】
カップ本体(A)(0102)を略半球状又はロケット先端形状と構成することで、前記準備段階の空気抜きの際に、空気抜きが容易となる。特に円錐に類似したロケット先端形状として、頂角20~40度の疑似円錐形状とすると、空気抜きの際に試験管(C)を、図7のように70度程度まで傾ければ、容易にエアーを抜くことができる。
【0089】
特許文献1に記載の試験管形状のダーラム管、または特許文献2のスロットの入った試験管形状のダーラム管では、略半球状の管頂部に円筒部分がつながっている。特許文献2のダーラム管では略半球状の管頂部に円筒部分があり、さらにスロットの入った円筒部分がつながっている。特許文献1または2のダーラム管の形状では、細菌定性検査の準備段階の空気抜き工程において、円筒部分の空気が、空気と細菌培養液間の表面張力により空気抜きがしづらい。特許文献2のダーラム管では、半球状の管頂部とスロットに至るまでの間の円筒部は深さが深いために、たとえ液中で上下逆にしてスロットのある下側から液体である細菌培養液でダーラム管を満たそうとしても、もともとダーラム管を満たしていた空気と細菌培養液間の表面張力により空気抜きがしづらい。空気と細菌培養液の接触面をできるだけ小さくしようとするので、細菌培養液中を空気が接触面積を大きくしながら抜けるのが難しくなるからである。特許文献1、2のダーラム管では円筒部分の内壁と細菌培養液との間でも表面張力が働く。この表面張力は、細菌培養液がダーラム管の内壁面を濡らすことを妨げるように働く。特許文献1、2のダーラム管では空気抜きしづらく、1回では空気抜きがほぼ出来なかった。
【0090】
容易に空気抜きを1回でできるようになれば、従来のダーラム管で目視確認が必要だった空気抜き工程を自動化することも可能となる。細菌培養液(D)を注入する前の状態から空気抜きを完了するまでの作業時間を本発明の発明者が測定した。従来のダーラム管では、試験管立てから試験管(C)を取り出す、試験管(C)のキャップ(E)を外す、細菌培養液(D)を注入する、試験管(C)のキャップ(E)を締める、ダーラム管の空気抜きを行う(空気が抜けたか目視確認し、空気が抜けきるまで平均2回繰り返す)、試験管(C)を試験管立てにもどす、といった一連の作業に約15秒を要する。そのため6時間/日作業した場合には、1440本/日の生産数の見込みとなる。
【0091】
本発明の浮上カップを使用し空気抜き作業が容易になると、前記一連の作業は次のような時間となる。試験管(C)のキャップ(E)を外し、空気抜き完了までを自動化することができるため、複数の試験管(C)を自動充てん機のローダー部にセットすると、セットした複数の試験管(C)全てが完了するまで自動で作業が行える。その際には1本あたりの所要時間は3.5秒まで短縮できる。上記と同様6時間/日作業とすると、6170本/日の生産数の見込みとなり、大幅に生産性を向上できる。
【0092】
<実施形態5>主に請求項5:支持足がカップ本体中央頂部から伸びた棒状
<実施形態5 概要>
カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)中央頂部から下方に伸びた棒状部材である。
【0093】
<実施形態5 構成>
実施形態1から4のいずれか1を基礎とする実施形態5の浮上カップに関して、実施形態1に基づいて図1を用いて説明する。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)も示す。なお実施形態2から4のいずれか一を基礎としても同様の効果が得られる。
【0094】
<実施形態5 カップ本体支持足(0103)>
カップ本体支持足(0103)は、カップ本体(A)中央頂部から下方に伸びた棒状部材であるように構成される。
【0095】
カップ本体支持足(B)としては、カップ本体(A)縁部付近から下方へ延ばす場合と、カップ本体(A)内部から下方へ延ばす場合がありうる。製造時の加工性、量産性の観点から、カップ内に前記カップ本体支持足(B)を配する場合は、前記カップ本体支持足(B)の形状としては、中央頂部付近1か所でカップ本体(A)と接合し、前記カップ本体支持足(B)を下方へ伸ばす棒状の形状が適している。棒状の形状は、中央頂部から複数本に分かれて伸びてもよいし、図10に示すように、カップ本体(A)との接合部は1本だが、途中で分岐して複数本となってもよい。カップ本体(A)と前記カップ本体支持足(B)がともに細菌培養液(D)の比重よりも重い材質で形成した時には、前記カップ本体支持足(B)は試験管(C)の内壁に複数個所で接することができるように構成するのが好ましい。試験管(C)内で浮上カップが傾いて設置されているよりは、浮上カップが試験管(C)に対し正置していたほうが、細菌が産生したガスの気泡を採集しやすいからである。
【0096】
例えばカップ本体(A)が細菌培養液(D)よりも比重が小さい材質で形成され、カップ本体(A)単体だけでは細菌培養液(D)中に沈まない場合に、比重の若干大きい材質を用いて中央に棒状の部材を1本加えた傘状の形状でもよい。傘状の形状では、カップ本体(A)が浮力を持って上方へ位置し、棒状部材が重りとなって試験管(C)底部にて接し、浮上カップを正置させることができる。浮上時も棒状部材が重りとして正置状態で浮上できる。傘状の形状を細菌培養液(D)よりも比重の小さな材料で形成し、傘の柄に当たる部分の端に、重りとなる比重の大きな適切な大きさの部品を組み合わせてもよい。
【0097】
カップ本体支持足(B)を、カップ本体(A)中央頂部から下方に伸びた棒状とすることにより、カップ本体(A)開口部縁から下方に伸びた形状とするよりも、空気抜き時のカップ本体(A)内の空気が前記カップ本体支持足にかかりにくく、より容易に空気抜きを行える。また細菌を含む検体を接種し培養している際、カップ本体(A)と試験管(C)底管の領域の内外間で、細菌と細菌培養液(D)の往来を阻害しにくくすることができるため、ガス産生が滞りなくすすみ、カップ本体(A)への気体の貯留も滞りなく進めることができる。
【0098】
<実施形態6>主に請求項6:支持足がカップ本体回口縁部からのひだ状
<実施形態6 概要>
カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)開口縁部から下方に伸びたひだ状部材である。
【0099】
<実施形態6 構成>
実施形態1~5を基礎とする実施形態6の浮上カップに関して、実施形態1に基づいて図1を使用して説明する。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(B)(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)も示す。実施形態2~5を基礎としても同様の効果が得られる。
【0100】
<実施形態6 カップ本体支持足(B)(0103)>
カップ本体支持足(B)(0103)は、カップ本体(A)開口縁部から下方に伸びたひだ状部材である。
【0101】
浮上カップを、樹脂を用いて射出成型で製造する場合、型からの取り出しを考慮して形状を設計しなければならない。一体成型できない場合には、複数の部品を組み合わせる組立工程が必要となりコスト増となる。
【0102】
カップ本体(A)開口縁部から下方に伸びた形状とすることで、射出成型法で製造する場合に型から取り出しやすい形状となり生産性を向上できる。図1または図10に、カップ本体(A)開口縁部から3本のカップ本体支持足(B)が下方へ伸びた形状の例を示す。前記カップ本体支持足(B)は、カップ本体(A)を形成する樹脂と同じ肉厚で構成され、カップ本体(A)開口部縁の円周に均等に3か所配置され、前記カップ本体支持足(B)の下方側先端も、一つの円周上に位置するように構成される。前記カップ本体支持足(B)を3本としているが、4本等の3本以上の構成でもよい。前記カップ本体支持足(B)の太さ(カップ本体(A)の円周方向の幅)に関しては、カップ本体支持足(B)の先端が接する円を底面とし、カップ本体(A)開口部の端を上面とする円錐台(もしくは略円柱)の側面積について、前記カップ本体支持足(B)が占める面積が前記側面の面積の半分以下であるように構成されることが好ましい。ひだ状のカップ本体支持足(B)の面積が大きくなると、カップ本体(A)の投影領域の内外間の細菌や細菌培養液(D)の栄養分の往来を阻害するためである。ひだ状形状の場合、カップ本体支持足(B)の先端に行くに従い幅が狭くなるような形状の方が射出成型時に型抜きしやすく好ましい。
【0103】
前記カップ本体支持足(B)を、カップ本体(A)開口縁部から下方へ延ばしたひだ状とすることで、浮上カップを射出成型などの方法で製造しやすくできる。前記カップ本体支持足(B)間の間隔を大きくすることで、細菌や細菌培養液(D)の栄養分の往来を阻害しにくくなる。
【0104】
<実施形態7>主に請求項7:細菌検査キット
<実施形態7 概要>
試験管(C)と、試験管(C)開口をふさぐキャップ(E)と、細菌を含まない試験管(C)内を満たした細菌培養液(D)と、前記試験管(C)内で、前記細菌培養液(D)中に完全に沈んで配置される浮上カップと、からなる細菌検査キット。
【0105】
<実施形態7 構成>
図1を使用して実施形態1~6のいずれか1を基礎とする浮上カップを使用した実施形態7の細菌検査キット(0100)に関して、実施形態1に基づき説明する。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(B)(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)も示す。なお実施形態2から6を基礎としても同様の効果が得られる。
【0106】
浮上カップを用いた検査を行おうとする者にとって、簡便な方法としては、検体を注入するだけの段階まで準備された細菌検査キットを手元に準備し、キャップ(E)を外して検体を接種し、再度キャップ(E)を締め、インキュベーターへ入れて保温する方法である。高温加熱せずに放射線照射等で滅菌する場合には、試験管(C)も合成樹脂で形成することができる。試験管(C)に浮上カップを入れ、試験管(C)口をキャップ(E)で封止し、放射線照射等で滅菌する。検査対象となる細菌によって、成分構成の異なる滅菌された細菌培養液(D)を試験管(C)内に無菌充填し、浮上カップの空気抜きを行う。この段階の細菌検査キットを販売することで、購入した利用者は前記キットを開けて、検体を接種し再度封止してインキュベーターに入れるだけで、細菌検査を始めることができる。なお、輸送時にカップ本体内に気泡が入る可能性があるため、検査に使用する前に浮上カップ内に気泡残留がないかを念のために確認する必要がある。
【0107】
<実施形態8>主に請求項8、細菌検査装置
細菌検査キットの試験管(C)中の浮上カップが浮上する位置に、光透過度を測定し浮上を検知する細菌検査装置。
【0108】
<実施形態8 概要>
細菌検査キットを、前記試験管(C)を立てた状態で保持する細菌検査キット保持部(F)と、
保持された細菌検査キットの前記試験管(C)内の前記浮上カップが浮上する位置の光透過度を示す情報である光透過度情報を取得する光透過度情報取得部(G)と、
前記光透過度情報取得部(G)で取得した光透過度情報を出力する光透過度情報出力部(H)と、を有する細菌検査装置。
【0109】
<実施形態8 構成>
図11を使用して、実施形態8の細菌検査装置を説明する。浮上カップ(1101)、試験管(C)(1104)、キャップ(E)(1106)、細菌培養液(D)(1105)からなる細菌検査キット(1100)と、光透過度情報取得部(G)(1108)と、光透過度情報出力部(H)(1109)と細菌検査キット保持部(F)(1107)とから、細菌検査装置が構成される。細菌検査キットを構成する各部に関してはすでに上述の実施形態中で説明済みの為、光透過度情報取得部(G)(1108)、光透過度情報出力部(H)(1109)、細菌検査キット保持部(F)(1107)を説明する。
【0110】
<実施形態8:細菌検査キット保持部(F)(1107)>
細菌検査キット保持部(F)(1107)は、細菌検査キットを前記試験管(C)を立てた状態で保持するように構成される。
【0111】
細菌検査キットを構成する試験管(C)を立てた状態で保持するように、例えば試験管(C)上部と底部付近の2か所に接するように、試験管(C)の外形よりも大きい内径の穴が開いた板を2枚水平に平行に取り付けて構成してもよい。上下の板の穴が鉛直方向に重なるように位置させることで試験管(C)がほぼ鉛直に保持される。板に設けた穴の径は、試験管(C)を設置及び取り出す際に支障ないくらいに試験管(C)壁と隙間があればよく、大きすぎる場合には試験管(C)が傾くために好ましくない。また図11のように、試験管(C)上部は穴の開いた板、下は板に設けた凹みに試験管(C)底部を載せて保持するようにしてもよい。または浮上カップの浮上の観察を阻害しない場所を1か所挟んでつかみ保持する試験管バサミのような形状の細菌検査キット保持部(F)でもよい。
【0112】
<実施形態8:光透過度情報取得部(G)(1108)>
光透過度情報取得部(G)(1108)は、保持された細菌検査キットの前記試験管(C)内の前記浮上カップが浮上する位置の光透過度を示す情報である光透過度情報を取得するように構成されている。
【0113】
図11に示すように、試験管(C)(1104)内の細菌培養液(D)(1105)上部を挟むように、透過光を発する光源と、光透過度情報取得部(G)(1108)を配する。光源から発した透過光が、試験管(C)内を通過して光透過度情報取得部(G)(1108)にて受信される。光透過度情報取得部(G)(1108)としては、フォトレジスタやフォトダイオードなどによる光電効果を用いた光検出器を使用する。光を検知し電流や電気抵抗の変化として受光した光の強度の変化を検知する。試験管(C)内の細菌の増殖により試験管(C)内の細菌培養液(D)の光透過度が低下する。特に、浮上カップが浮上し、透過光の光路を遮ると、浮上カップ表面およびカップ内の気泡との屈折率差などにより、光透過度が大きく下がる。そのため、光透過度情報を監視することで浮上カップの浮上を検知することができる。
【0114】
試験管(C)(1104)内の細菌培養液(D)(1105)液面には、検体である食品由来の異物などが浮遊している場合がある。その影響を避けるためには、光透過度情報取得部(G)は液面直下ではなく、液面より10mm以上下げた位置に設置するのが良い。18mm外径の試験管を使用している場合、検査方法規定の細菌培養液10mlを入れると約65mmの液高さとなる。図9の例のような浮上カップの全高が約40mmの場合、試験管底に沈んだ浮上カップと液面の中間地点である、液面から12~13mm下に光透過度情報取得部(G)を設置するのが好ましい。図9の例のようにカップ本体支持足がコレクトプレートとトールレッグから形成されていれば、カップ本体下のコレクトプレート部でも透過光の光路を遮ることができる。浮上カップの管頂部が液面に達しても、透過光の光路にはコレクトプレート部が入り込むため、光透過度が下がった状態となり、浮上カップの浮上を検知できる。
【0115】
光透過度情報取得部(G)の校正は、例えば試験管がないときの電圧(図2から図5の検査結果例と同様であれば、透過率が下がると電圧が上がる)を最小電圧とし、試験管がない時に光源の光を遮光する遮光板等で遮光した状態の電圧を最大電圧となるように構成する方法などで行う。
【0116】
透過光として光源に赤色領域の可視光を用い、浮上カップ(少なくともカップ本体(A))を緑色に着色または緑色の材料を練り込んだ材料で形成すると、浮上カップにより透過光をより効果的に減少させることができる。可視光光源では出力される光線を視認でき、万一光源が故障し光線出力していない場合には、故障していることを目視で確認できる。カップ本体(A)の高さが小さいため、光源からの透過光は細い光束であることが望ましく、レーザー光(特には赤色レーザー光)であることが好ましい。光束が浮上カップの肉厚相当以下位まで十分に細ければ、浮上カップの先端の曲面部の樹脂内を透過する際の光の減衰が大きくなる。先端部を通過した後は、カップ本体(A)の側壁、気泡、カップ本体(A)の側壁といった構成を透過するため、透過光はほぼ一定の減衰となる。
【0117】
<実施形態8:光透過度情報出力部(H)(1109)>
光透過度情報出力部(H)(1109)は、前記光透過度情報取得部(G)で取得した光透過度情報を出力するように構成されている。
【0118】
前記のように光検出器などを使用し光透過度取得部(1108)で取得した光透過度情報を針式メータやデジタル表示計などで出力する。LAN回線などに接続したPC等へ出力された光透過度情報を取り込むように構成することもできる。
【0119】
上述したように、光透過度情報の変化から浮上カップの浮上を検知できるため、検査時間中ずっと試験管を目視監視し続けなくともよい。またLAN回線等の通信回線と細菌検査装置を接続し遠隔監視できるように構成することができる。検査場所まで現品状況を見に行かなくても、浮上カップが浮上したか否かを、離れた事務室やテレワーク中の自宅などからでも知ることができる。
【0120】
<実施形態9>主に請求項9、継時変化出力手段(J)
時間情報と関連付けて光透過度情報を出力する。
<実施形態9 概要>
光透過度情報出力部(H)は、時間情報と関連付けて光透過度情報を出力する経時変化出力手段(J)を有する。
【0121】
<実施形態9 構成>
図12を使用して、実施形態8を基礎とした実施形態9の細菌検査装置を説明する。浮上カップ(1201)、試験管(C)(1204)、キャップ(E)(1206)、細菌培養液(D)(1205)からなる細菌検査キット(1200)と、光透過度情報取得部(G)(1208)と、光透過度情報出力部(H)(1209)と細菌検査キット保持部(F)(1207)とから、細菌検査装置が構成される。さらに、光透過度情報出力部(H)(1209)内に、継時変化出力手段(J)(1210)を有する。継時変化出力手段(J)(1210)以外は説明済みの為、継時変化出力手段(J)(1210)のみ説明する。
【0122】
<実施形態9 継時変化出力手段(J)(1210)>
継時変化出力手段(J)(1210)は、時間情報と関連付けて光透過度情報を出力するように、光透過度情報出力部(H)内に構成されている。
【0123】
図12に構成を示すが、継時変化出力手段(J)(1210)は、光透過度情報出力部(H)(1209)内に設けられている。例えば、記録紙に時間ごとの光透過度情報をグラフとして出力する。または、光透過度情報取得部(G)にて取得した光透過度情報を、継時変化出力手段(J)にて時間情報と関連付けて出力し、時間情報と関連付けられた光透過度情報を保持する光透過度情報保持部を設け、前記光透過度情報保持部で保持された光透過度情報を時系列的に配置して、光透過度情報を閲覧しようとするものが指定する期間の範囲を出力する光透過度情報履歴出力部を設けることもできる。時間情報と関連付けられた光透過度情報を保持し、時系列的に閲覧できれば横軸に時間、縦軸に光透過度情報を配したグラフなどで検査状況を閲覧でき便利である。また、複数の検査を行っていた場合、それらの検査キット中の浮上カップが浮上するまでに要した時間などのデータを統計処理することもできる。
【0124】
<実施形態10>主に請求項10、アラーム
光透過度情報の継時変化から、光透過度情報変化の加速度情報を求め、保持されているアラーム条件に基づいてアラームを発する。
【0125】
<実施形態10 概要>
経時変化出力手段(J)からの光透過度情報に基づいて光透過度の時間に関する加速度情報を取得する加速度情報取得部(K)と、取得した加速度情報に基づいてアラームを出力する条件であるアラーム条件を保持するアラーム条件保持部(M)と、取得した加速度情報と保持されているアラーム条件とに基づいてアラームを出力するアラーム出力部(N)と、をさらに有する。
【0126】
<実施形態10 構成>
図13を使用して、実施形態9を基礎とした実施形態10の細菌検査装置を説明する。浮上カップ(1301)、試験管(C)(1304)、キャップ(E)(1306)、細菌培養液(D)(1305)からなる細菌検査キット(1300)と、光透過度情報取得部(G)(1308)と、光透過度情報出力部(H)(1309)と細菌検査キット保持部(F)(1307)と、光透過度情報出力部(H)(1309)内の継時変化出力手段(J)(1310)とから、細菌検査装置が構成される。さらに、加速度情報取得部(K)(1311)と、アラーム条件保持部(M)(1312)と、アラーム出力部(N)(1313)と、を有する。加速度情報取得部(K)(1311)、アラーム条件保持部(M)(1312)、アラーム出力部(N)(1313)以外は説明済みの為、加速度情報取得部(K)(1311)、アラーム条件保持部(M)(1312)、アラーム出力部(N)(1313)のみ説明する。
【0127】
<実施形態10 加速度情報取得部(K)(1311)>
加速度情報取得部(K)(1311)は、経時変化出力手段(J)からの光透過度情報に基づいて光透過度の時間に関する加速度情報を取得するように構成されている。
【0128】
光透過度情報に基づいて、光透過度の時間に関する加速度情報とは、光透過度の変化速度が時間ごとにどのように変化していくかの速度の変化率を示す。細菌が増殖して光が散乱されやすくなっていくために、検査開始後ある程度細菌が増えるまでは光透過度は一定だが、時間とともに光透過度が減少していく。光透過度減少速度に関し加速度変化を随時、取得することにより、細菌検査装置において、細菌増殖や気泡発生状況の変化を察知し、光透過度推移速度の変曲点を把握する。
【0129】
<実施形態10 アラーム条件保持部(M)(1312)>
アラーム条件保持部(M)(1312)は、取得した加速度情報に基づいてアラームを出力する条件であるアラーム条件を保持するように構成されている。
【0130】
図4図5に示すように、細菌増殖による光透過度の継時変化(すなわち光透過度の減少速度)は、いくつかの傾き(速度)の変化(加速度が生じる時点)がある。加速度の情報がどの様に変化した時にアラームとするかという条件を定め、アラーム条件保持部(M)に保持する。例えば、浮上カップが浮上し、光透過度の減少速度が急増する時点がアラーム条件の一つである。又は浮上カップが浮上する前に、光透過度の変化が少し緩くなる期間があるが、その段階への変化点での加速度情報の変化をとらえて、アラームを出す条件としてもよい。浮上カップの浮上前に予告として後記するアラーム出力部(N)からアラームを出すことができる。または、所定の時間(検査予定時間の1/2など)を過ぎても、加速度情報が得られない(初期の横ばいから細胞増殖の最初の段階に移行せず、光透過度の減少が始まらない)場合は、細菌検査キットへ接種した検体中に細菌が含まれていなかったとしてアラームを出すようにアラーム条件を設けてもよい。ただしその場合も初期設定した検査時間分継続し、完了時点で光透過に変化が生じなかった(加速度情報が生じなかった)か否かで最終的な判断をするようにしたほうが良い。
【0131】
<実施形態10 アラーム出力部(N)(1313)>
アラーム出力部(N)(1313)は、取得した加速度情報と保持されているアラーム条件とに基づいてアラームを出力するように構成されている。
【0132】
アラーム出力部(N)内に、
加速度情報取得部(K)にて取得された加速度情報を、アラーム条件保持部(M)に保持されたアラーム条件を比較し、アラーム条件を満たすかどうか判断する加速度情報判断手段と、
アラーム条件によって、どの出力先にアラームを出力するかを示す情報であるアラーム出力情報を保持するアラーム出力先情報保持手段と、
満たされたアラーム条件に基づいて、前記保持されたアラーム出力先情報を選択するアラーム出力先選択手段と、
出力した時間を示す時間情報と、アラームを出力すると判断したアラーム条件と、アラームの出力先を、出力したアラームと関連付けて保持するアラーム履歴保持手段と、
とさらに設けることができる。
【0133】
図14に、細菌検査装置を遠隔監視している場合の概略構成を示す。細菌検査装置は光源と光検出器がインキュベーターの中に設置されている。少なくとも光検出器は試験管(C)毎に設置する、または少なくとも一以上の光検出器を周期的に移動させ、順次各試験管(C)の光透過度の測定を繰り返すように構成してもよい。例えば例えば図14の試験管立てが奥や手前にもあって、試験管立て毎に一次元状に配列した光源を配置し、試験管立て毎に1個の光検出器順に左右に往復して浮上有無を調べる方式である。試験管毎に光検出器を設置するのが望ましいが装置全体の価格が高価になる可能性がある。また光検出器の校正を行う場合に、光検出器が複数台であって数が多いほど校正時間と手間のコストがかかる。検出した透過光量に応じた透過度電圧が各検出器間でそろっているほうが好ましい。校正は上述のように、試験管を除いた状態と、試験管のない状態で光源の光を遮光した状態の透過度電圧を合わせるように校正を行う。
【0134】
インキュベーターの外に関しては図13と同様であるが、継時変化出力手段(J)(1410)、アラーム出力部(N)(1413)などが、インターネット回線(1415)に接続されていることが差異である。インターネット回線(1415)には、PC1(1416)、PC2(1417)も接続されている。インターネット回線に接続することにより、例えば、インキュベーター(1414)がクリーンルーム環境の検査室に置かれている場合に、検査機関の事務室に設置されたPC1(1416)を用いて技術者が遠隔監視することができる。また、自宅でテレワーク中の技術者が、PC2(1417)を介して検査状況を把握することができる。
【0135】
アラーム出力情報としては、浮上カップの浮上を示すアラームは検査室内、事務室の遠隔監視用PC1、テレワーク中の技術者のPC2など登録者全員へ出力する、又は検査機関の敷地内に出勤して勤務しているメンバのみに出力しテレワーク中の技術者のPC2へは出力しないなど、適宜設定できる。
【0136】
出力されるアラームは、検査装置近傍に設置したランプの点灯やスピーカからの自動音声メッセージでもよいし、細菌検査装置に備えた表示画面にアラーム情報を表示し遠隔地PCやテレワーク中のPCには電子メール配信するような態様でもよい。出力したアラームは、出力した時間と、出力すると判断するに満たしていたアラーム条件と、アラームを出力した出力先を、出力したアラーム内容と関連付けて保持しておくと、あとで履歴を見ることができる。インターネット回線につながれたサーバ(1418)を設け、細菌検査装置から取得した各種情報(時間情報に関連付けた光透過度情報、加速度情報、アラームなど)を保持するように構成することが好ましい。
【0137】
<実施形態11>主に請求項11、比重関係
気泡貯留前には細菌培養液(D)中に沈んでいて、気泡を所定量貯留すると細菌培養液(D)内を浮上するために、細菌培養液(D)と浮上カップの比重と、両者の比重の比を規定する。
【0138】
<実施形態11 概要>
細菌培養液(D)と浮上カップと試験管(C)とキャップ(E)とからなる検体の細菌検査キットであって、細菌培養液(D)は、比重が1.00より大きく1.03以下であり、
浮上カップは、比重が1.04以上1.07以下であり、
浮上カップの比重と細菌培養液(D)の比重との差が、0.01以上である。
【0139】
<実施形態11 構成>
図1に、実施形態1から実施形態8のいずれか一を基礎とする実施形態11を示す。実施形態1に基づいた実施形態11の構成について、図1を用いて説明する。浮上カップ(0101)はカップ本体(A)(0102)と、カップ本体支持足(B)(0103)とから構成される。図1には、浮上カップ(0101)を、細菌培養液(D)(0105)に沈めた試験管(C)(0104)と、試験管(C)口を封止して密閉するキャップ(E)(0106)も示す。
なお本実施形態に関する、浮上カップ(0101)、細菌培養液(D)(0105)のみについて説明する。他の構成要件は上述した説明と同様である。実施形態2から8を基礎としても同様の効果が得られる。
【0140】
<実施形態1 細菌培養液(D)(0105)>
細菌培養液(D)(0105)は、細菌培養液は、比重が1.00より大きく1.03以下であるように構成される。
【0141】
細菌培養用の液体培地で細菌培養液(D)は、各種栄養源と塩が水に混合されたものである。例えばLB培地はカゼインペプトンと酵母エキスを使用したものがある。比重は1.01程度である。対象とする細菌によって混合する物質を変えるため、おおむね上記の1から1.03以下の間の比重ととなる。
【0142】
<実施形態1 浮上カップ(0101)>
浮上カップ(0101)浮上カップは、比重が1.04以上1.07以下であるように構成される。さらに、浮上カップ(0101)の比重と細菌培養液(0105)の比重との差が、0.01以上であるように構成される。
【0143】
一般的にガラスの比重は約2.5である。ガラスよりも軽い素材ということで合成樹脂を使用する。浮上カップ内の気泡貯留状態を目視確認できる方が好ましいため、透明な合成樹脂が好ましい。種々存在する合成樹脂のなかで、上記の比重の範囲に入り透明にすることができるものとして、その比重が概ね1.04から1.09のポリスチレンがある。また、比重が概ね1.06から1.10のAS樹脂(アクリロニトリルスチレン)、比重が概ね1.01から1.21のABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)がある。もしくは、比重の軽い素材と重い素材を組み合わせて、浮上カップの加重平均比重が上記範囲に入るように構成してもよい。例えば比重の小さい素材で作製したカップ本体(A)とカップ本体支持足に対し、カップ本体支持足の先端に比重が大きい素材の部品をつけて、浮上カップ全体としては、気泡を貯留していない状態では、細菌培養液内で沈むように構成するなどである。
【0144】
浮上カップが、気体をカップ本体(A)に貯留していない状態で、細菌培養液内で沈むためには、浮上カップの比重と細菌培養液の比重の差が上述の範囲にあることが必要である。浮上カップの比重とは、上述のように加重平均比重でよい。一の材料で構成するのではなく、複数の材料で構成することもできるからである。
【符号の説明】
【0145】
細菌検査キット・・・0100
浮上カップ・・・0101
カップ本体・・・0102
カップ本体支持足・・・0103
試験管・・・0104
細菌培養液・・・0105
キャップ・・・0106
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16