(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158196
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】溝付接合板及び鋼材接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20221006BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
E04B1/58 503G
E04B1/24 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021062932
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】316001674
【氏名又は名称】センクシア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000107044
【氏名又は名称】ショーボンド建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀宣
(72)【発明者】
【氏名】望月 久智
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 克哉
(72)【発明者】
【氏名】川島 泰之
(72)【発明者】
【氏名】竹村 浩志
(72)【発明者】
【氏名】安東 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】平塚 慶達
(72)【発明者】
【氏名】小倉 浩則
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA01
2E125AB01
2E125AC15
2E125AG21
2E125BB02
2E125CA06
(57)【要約】
【課題】 被膜を有する鋼材同士の接合であっても、高いすべり係数が得られる溝付接合板と、これを用いた鋼材接合構造を提供する。
【解決手段】 溝付接合板100をウェブの両面から挟み込んで高力ボルト101を締め込むことで、突部13の先端をウェブに食い込ませ、これにより、H形鋼200同士の接合部に引張力が生じても、溝付接合板100とH形鋼200とのすべりが生じにくく、確実にH形鋼200同士を接合することができる。ここで、特に屋外で使用されるH形鋼200の表面には、被膜201が形成される。ここで、突部13の高さH1(突部13の高さについては後述する)は、被膜201の厚さFよりも高い。このため、突部13を被膜201に貫通させて、突部201の先端をH形鋼200の表面に食い込ませることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜が形成された鋼材へ他の鋼材を接合する溝付接合板であって、
板状部材の少なくとも一方の面に、複数の突部と前記突部間に形成される溝部とを有し、
前記突部の高さが、前記被膜の厚みよりも高く、前記突部で前記被膜を貫通させることが可能であることを特徴とする溝付接合板。
【請求項2】
前記突部および前記溝部が、溝付接合板の両面に形成されることを特徴とする請求項1記載の溝付接合板。
【請求項3】
溝付接合板のそれぞれの面において、前記突部同士の距離が異なることを特徴とする請求項2記載の溝付接合板。
【請求項4】
前記溝部は、互いに平行な第1の溝部と、前記第1の溝部と異なる方向に向けて形成される第2の溝部とを有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の溝付接合板。
【請求項5】
前記第1の溝部と、前記第2の溝部とのなす角度が1~90度であることを特徴とする請求項4記載の溝付接合板。
【請求項6】
前記第1の溝部同士の間隔と、前記第2の溝部同士の間隔の比が、1:1~1:999であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の溝付接合板。
【請求項7】
溝付接合板の少なくとも前記一方の面に表面処理が施され、
前記一方の面の硬度が、処理前の素材の突部形成面の硬度の2倍以上であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の溝付接合板。
【請求項8】
表面に被膜を有し、互いに端部が突き合せられた一対の鋼材と、
前記鋼材同士にまたがるように固定される溝付接合板と、を具備し、
前記溝付接合板は、
少なくとも一方の面に、複数の突部と前記突部間に形成される溝部とを有し、
前記突部の高さが、前記被膜の厚みよりも高く、前記突部で前記被膜を貫通することを特徴とする鋼材接合構造。
【請求項9】
表面に被膜を有する第1の鋼材と、
前記第1の鋼材に接合される第2の鋼材と、
前記第1の鋼材と前記第2の鋼材との間に配置される溝付接合板と、を具備し、
前記溝付接合板は、
少なくとも一方の面に、複数の突部と前記突部間に形成される溝部とを有し、
前記突部の高さが、前記被膜の厚みよりも高く、前記突部で前記被膜を貫通することを特徴とする鋼材接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばH形鋼同士を接続するための溝付接合板及び鋼材接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼等の鋼材同士を、スプライスプレートを用いた高力ボルト摩擦接合によって接合することがある。この場合、スプライスプレートは両鋼材に沿って配置され、両鋼材に高力ボルトやナット等を用いて締結される。
【0003】
このような高力ボルト摩擦接合による接合部は、高力ボルトに導入する軸力、スプライスプレートと鋼材の摩擦面のすべり係数、および摩擦面の数によってその耐力を確保する構成となっている。
【0004】
そのため、スプライスプレートの鋼材に接する面に赤錆を発生させたり、ショットブラスト加工を施したりして所定のすべり係数(例えば日本建築学会編「建築工事標準仕様書JASS6」では0.45)を確保している。
【0005】
しかしながら、近年の鋼材の高張力化や大断面化の影響により、接合部に必要となる耐力も大きくなる傾向にある。そのために高力ボルト本数を増やして耐力を向上させることも可能であるが、コストや工数が増加する問題がある。
【0006】
一方、摩擦面のすべり係数を向上させれば高力ボルトの本数の増加を抑えることができるだけでなく、さらに低減も図ることができる場合もある。特許文献1、2には、すべり係数を向上させるため、略三角形状の突部を所定ピッチで設けた溝付のスプライスプレートの例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2936455号
【特許文献2】特許第3569758号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような鋼材同士の接合構造としては、橋梁などでも使用される。この場合には、接合される鋼材は塗料によって塗膜等の被膜が形成されている場合が多い。しかし、被膜によって、スプライスプレートと鋼材との間の十分なすべり係数を確保することができない場合がある。したがって、通常、スプライスプレートは、被膜を動力工具で除去し、素地を露出させた状態で取り付けられる。
【0009】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、被膜を除去することなく、高いすべり係数が得られる溝付接合板と、これを用いた鋼材接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決するための第1の発明は、被膜が形成された鋼材同士を接合する溝付接合板であって、板状部材の少なくとも一方の面に、複数の突部と前記突部間に形成される溝部とを有し、前記突部の高さが、前記被膜の厚みよりも高く、前記突部で前記被膜を貫通させることが可能であることを特徴とする溝付接合板である。
【0011】
前記突部および前記溝部が、溝付接合板の両面に形成されてもよい。または、突部および溝部を溝付接合板の一方の面にのみ形成し、他方の面には、無機ジンクリッチペイント等のすべり係数の高い塗料を塗布してもよい。
【0012】
溝付接合板のそれぞれの面において、前記突部同士の距離が異なってもよい。
【0013】
前記溝部は、互いに平行な第1の溝部と、前記第1の溝部と異なる方向に向けて形成される第2の溝部とを有してもよい。
【0014】
この場合、前記第1の溝部と、前記第2の溝部とのなす角度が1~90度であることが望ましい。また、前記第1の溝部同士の間隔と、前記第2の溝部同士の間隔の比が、1:1~1:999であることが望ましい。
【0015】
溝付接合板の少なくとも前記一方の面に表面処理が施され、前記一方の面のビッカース硬度が、処理前の素材の突部形成面のビッカース硬度の2倍以上であることが望ましい。
【0016】
第1の発明によれば、被膜が形成された鋼材同士を接合する際に、溝付接合板の突部の高さが、被膜の厚みよりも高いため、突部で被膜を貫通させて、突部の先端を鋼材に食い込ませることが可能である。このため、被膜を有する鋼材であっても、溝付接合板と鋼材との間の十分なすべり係数を確保することができる。
【0017】
この際、被膜を除去する必要がないため、作業を簡略化することができるとともに、既存の被膜中に鉛やPCB等の有害物質が含有している場合でも、除去工程を削減することで、有害物質の飛散や、作業者への影響を抑制することができる。また、既設の素地の表面状態によらず、すべり係数を確保することができる。
【0018】
また、突部および溝部が、溝付接合板の両面に形成されれば、両面のいずれかを用いて鋼材同士を接合することができる。また、溝付接合板の外側から挟み込む挟持部材を用いた場合には、溝付接合板を、挟持部材と鋼材の両方に対して食い込ませて接合することができる。
【0019】
この際、溝付接合板のそれぞれの面の突部同士の距離を異なるようにすることで、挟持部材と鋼材の接合対象となる部材に適した突部の形態で、溝付接合板を、挟持部材と鋼材の両方に対して食い込ませて接合することができる。
【0020】
また、溝部が、互いに平行な第1の溝部と、第1の溝部と異なる方向に向けて形成される第2の溝部とからなれば、少なくとも2方向に向けて、突部と溝部とが繰り返し形成される。このため、鋼材同士の引張方向に対するすべり係数のみではなく、鋼材同士のせん断方向に対しても、高いすべり係数を得ることができる。
【0021】
特に、第1の溝部と第2の溝部とのなす角度が所定の範囲であれば、異なる方向に対するすべり係数を高めることができる。また、第1の溝部同士の間隔と、第2の溝部同士の間隔の比を所定の範囲とすることで、それぞれの方向に対して適切なすべり係数を確保することができる。
【0022】
また、溝付接合板の突部が形成される面に表面処理を施し、処理前の鋼材の硬度に対して、処理後の硬度が2倍以上となるようにすることで、突部の加工時の加工性と、使用時における突部の剛性とを両立することができる。なお、処理前のビッカース硬度は、例えば、溝付接合板を切断した際の断面で測定することができる。
【0023】
第2の発明は、表面に被膜を有し、互いに端部が突き合せられた一対の鋼材と、前記鋼材同士にまたがるように固定される溝付接合板と、を具備し、前記溝付接合板は、少なくとも一方の面に、複数の突部と前記突部間に形成される溝部とを有し、前記突部の高さが、前記被膜の厚みよりも高く、前記突部が前記被膜を貫通して、前記突部の先端が前記鋼材に食い込むことを特徴とする鋼材接合構造である。
【0024】
第2の発明によれば、高いすべり係数によって鋼材同士を確実に接合することが可能な鋼材接合構造を得ることができる。
【0025】
第3の発明は、表面に被膜を有する第1の鋼材と、前記第1の鋼材に接合される第2の鋼材と、前記第1の鋼材と前記第2の鋼材との間に配置される溝付接合板と、を具備し、前記溝付接合板は、少なくとも一方の面に、複数の突部と前記突部間に形成される溝部とを有し、前記突部の高さが、前記被膜の厚みよりも高く、前記突部で前記被膜を貫通することを特徴とする鋼材接合構造である。
【0026】
第3の発明によれば、鋼材同士の突き合せ部のみではなく、鋼材に他の鋼材を接合する際にも、効率良く両者を接合することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、被膜を除去することなく、高いすべり係数が得られる溝付接合板と、これを用いた鋼材接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)、(b)は、溝付接合板100を示す斜視図。
【
図2】(a)は、溝付接合板100を用いた鋼材接合構造300を示す図、(b)は、接合部における断面図、(c)は、(b)のE部拡大図。
【
図3】(a)は、溝付接合板100の厚さ方向の断面を示す図、(b)は、(a)のA部拡大図。
【
図4】(a)、(b)、(c)は、溝付接合板100を挟持部材120に固定した状態を示す図。
【
図5】挟持部材120及び溝付接合板100を用いた鋼材接合構造300aを示す図。
【
図6】(a)、(b)は、溝付接合板100aを示す図。
【
図7】挟持部材120及び溝付接合板100aを用いた鋼材接合構造300bを示す図。
【
図9】(a)は、溝付接合板100bの部分平面図、(b)は(a)の他の実施形態を示す図。
【
図10】
図9(a)に対して、溝部11a、11bの方向を変えた状態を示す図。
【
図11】
図10に対して、溝部11a、11bの角度を変えた状態を示す図。
【
図14】溝付接合板100cを用いた鋼材接合構造300cにおける接合部の断面図。
【
図15】溝付接合板100を用いた鋼材接合構造300dにおける接合部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1の実施形態]
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0030】
(溝付接合板100)
図1(a)、
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る溝付接合板100を示す図であり、両者は突部13(溝部11)の形成方向のみが異なる。溝付接合板100は、いわゆるスプライスプレートであり、例えばH形鋼のウェブやフランジ部等を接合する際に使用される。
【0031】
板状部材である溝付接合板100は、接合対象に接する少なくとも一方の面に、複数の突部13が平行に並べて設けられる。すなわち、それぞれの隣り合う突部13の間に溝部11が平行に形成される。また、高力ボルトを通すための複数の貫通孔12が形成される。
【0032】
なお、例えば、
図1(b)に示した例では、貫通孔12は、溝付接合板100の幅方向(突部13の形成方向に垂直な方向)の両端部近傍にそれぞれ2列に配置される。この際、貫通孔12は、図示したように、突部13の併設方向に整列して配置されてもよく、隣り合う貫通孔12が突部13に沿った方向(幅方向に垂直な方向)に互いにずれて千鳥状に配置されてもよい。貫通孔12を幅方向に整列させることで、溝付接合板100の長さを短くすることができ、貫通孔12を千鳥状に配置することで、溝付接合板100の幅を狭くすることができる。なお、貫通孔12の数および配置は、図示した例には限られない。
【0033】
図2(a)は、溝付接合板100を用いて接合対象である鋼材同士を接合した鋼材接合構造300を示す図であり、
図2(b)は、接合部における断面図である。溝付接合板100は、例えば、鉄骨梁において接合対象であるH形鋼200(鋼材)のウェブやフランジ(以下、フランジ等という)同士を接合する際に用いられる。一対のH形鋼200は、互いに端部が突き合せられて、溝付接合板100は隣り合うH形鋼200のフランジ等にまたがるように配置され、両フランジ等に高力ボルト101やナット102等を用いて固定される。なお、ウェブの接合に用いられる溝付接合板100と、フランジの接合に用いられる溝付接合板100とでは、貫通孔12の形成方向に対する突部13の形成方向が異なる場合もある。
【0034】
溝付接合板100には、例えば、一般構造用圧延鋼材、建築構造用圧延鋼材、溶接構造用圧延鋼材、溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材、橋梁用高降伏点鋼板、機械構造用炭素鋼鋼材、機械構造用合金鋼鋼材などによる金属板が用いられる。また、鋼材を挟み込む2枚の溝付接合板100の総厚みは、接合対象の厚みに応じて設定され、例えば、溝付接合板100の総厚みがフランジ等の厚み以上となるように設定される。
【0035】
なお、
図1(b)に示した溝付接合板100は、例えば、ウェブ同士の接合に用いられる。この場合には、溝部11(突部13)の形成方向が、H形鋼200同士の突き合せ方向(すなわち接合方向)に対して略垂直に形成される。このため、溝付接合板100をウェブの両面から挟み込んで高力ボルト101を締め込むことで、突部13の先端をウェブに食い込ませ、これにより、H形鋼200同士の接合部に引張力が生じても、溝付接合板100とH形鋼200とのすべりが生じにくく、確実にH形鋼200同士を接合することができる。
【0036】
ここで、特に屋外で使用されるH形鋼200には、表面に被膜が設けられる場合がある。
図2(c)は、
図2(b)のE部拡大図である。図示したように、本実施形態では、H形鋼200の表面に被膜201が形成される。なお、被膜201としては、例えば塗膜、めっき、溶射等などで形成される。特に、被膜201が塗膜である場合には、すべり係数として、土木分野では0.4以上、建築分野では0.45以上を確保することが困難な塗膜に有効である。ここで、突部13の高さH1(突部13の高さについては後述する)は、被膜201の厚さFよりも高い。このため、突部13を被膜201に貫通させて、突部13の先端をH形鋼200の表面に食い込ませることができる。なお、被膜201が塗膜である場合には、一般的な被膜201の厚みは、500μm程度であるため、突部13の高さH1は、500μm超であることが望ましい。
【0037】
次に、溝付接合板100の突部13及び溝部11の詳細について説明する。
図3(a)は溝付接合板100の厚さ方向の断面を示す図であり、
図3(b)は、
図3(a)のA部拡大図である。前述したように、溝付接合板100の一方の面(突部形成面111とする)には、突部13および溝部11が交互に形成される。
【0038】
突部13は、略二等辺三角形(正三角形含む)であり、突部13の先端同士の距離がL1(
図3(b)参照)となる。すなわち、突部13および溝部11は等ピッチL1で配列されている。なお、突部13のピッチL1は望ましくは、0.1mm~3.0mm程度であることが望ましく、より望ましくは0.5mm~2.0mmである。
【0039】
突部13は、直線状の斜面によって形成される。なお、突部13を構成する直線状の斜面のなす角度は60°~120°とする。角度が小さすぎると、突部13の剛性が小さくなる。また、角度が大きくなりすぎると、鋼材に食い込ませにくくなり、また、突部13の幅が広くなるため、突部13の数が少なくなり、鋼材に対するすべり係数が低下する。
【0040】
ここで、突部13を構成する直線状の斜面の基部(例えば、傾斜角度の変化点)を基準面(図中B)とすると、基準面Bよりも先端側(図中上方)が突部13であり、突部13同士の間であって、基準面Bよりも基部側(図中下方)が溝部11となる。すなわち、溝部11は、突部13の斜面の延長線では形成されずに、突部13の傾斜角度とは異なる角度で形成される。従って、溝部11は、突部13の斜面の基部であって、傾斜角度の変化点同士の間に形成される。溝部11は、基準面Bに対して全体として例えば円弧状に形成される。なお、溝部11は、完全に円弧状でなくてもよく、例えば、複数の異なる角度の直線が連続する多角形状に形成されてもよい。すなわち、全体として略円弧状であればよい。
【0041】
ここで、基準面Bにおける溝部11の幅をL2(
図3(b)参照)とすると、L1(突部ピッチ)/L2(溝幅)は、2以上10以下とする。例えば、突部13の先端角度を一定にしてL1/L2を2未満とすると、溝部11の幅が広くなりすぎて突部13の数が減り、高いすべり係数を確保することが困難である。一方、溝部11の幅を一定にしてL1/L2を2未満とすると、突部13が細く鋭利になりすぎて突部13の剛性が低下する。また、突部13の角度を一定にしてL1/L2を10超とすると、溝部11の幅が狭くなりすぎて製造性が悪くなるとともに、溝部11における応力集中の緩和効果が小さくなる。一方、溝部11の幅を一定にしてL1/L2を10超とすると、突部13の数が減り、高いすべり係数を確保することが困難である。
【0042】
また、
図3(b)に示すように、基準面Bからの突部13の高さをH1とし、基準面Bからの溝部11の深さをH2とした際に、H1/H2は、3以上15以下とする。H1/H2が3未満では、突部13の高さが低くなりすぎるため、鋼材への食い込み代が十分に確保することができない。なお、前述したように、突部13の高さH1は、接合対象となる鋼材の表面の被膜厚み(
図2(c)のF)よりも高い。
【0043】
また、H1/H2が15を超えると、突部13の高さが高くなりすぎるため、突部13の剛性が不十分となるとともに、鋼材への食い込み代が大きくなりすぎるため、より大きな締め付け力が必要となる。また、溝部11の深さが小さくなりすぎると、応力緩和効果が小さくなるとともに、鋼材に突部13を食い込ませた際に、鋼材の変形部分(突部13の食い込みによる膨らみ部分)を溝部11で吸収することが困難となる。
【0044】
なお、溝付接合板100の少なくとも一方の面の突部形成面111の表層には表面処理(例えば窒化処理など)が施されており、接合対象であるH形鋼200のフランジ等の硬度よりも高い硬度となっている。ここで、表面処理後の突部形成面111の硬度(例えばビッカース硬度)は、処理前の素材の突部形成面の硬度の2倍以上であることが望ましい。なお、処理前の素材の突部形成面のビッカース硬度は、溝付接合板100の断面において、突部形成面近傍であって、表面処理部を除く部位において測定することが可能である。
【0045】
このような溝付接合板100は、例えば特開2018-164956に開示されている方法によって製造することができる。この方法によれば、突部13の先端を鋭利に加工することができるとともに、溝部11を容易に円弧状に形成することができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態では、突部13の高さが、接合対象の鋼材の表面に形成された被膜201の厚みよりも高いため、突部13で被膜201を貫通させて、突部13の先端を確実に鋼材に食い込ませることができる。このため、被膜を有する鋼材同士の接合においても、高いすべり係数を確保することができる。
【0047】
また、突部13を特定の条件を満たした形状とすることで、これを用いて鋼材同士を接合した際に、突部13を確実に鋼材に食い込ませて高いすべり係数を得ることができる。また、溝部11にも応力集中が起こらずに、製造も容易である。
【0048】
また、表面処理を施して突部形成面111の表層の硬度を接合対象の鋼材よりも2倍以上大きくすることで、突部13の先端を鋼材に食い込ませてすべり止め効果を発揮させることができる。
【0049】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の機能を奏する構成については、
図1~
図3と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0050】
第2の実施形態では、溝付接合板100が単独で使用されるのではなく、挟持部材120と共に用いられる。
図4(a)に示すように、溝付接合板100の一方の面には、突部13と溝部11とが形成され、他方の面には挟持部材120が固定される。挟持部材120は、溝付接合板100と同一の材質でもよいが、表面処理は不要である。また、挟持部材120は、溝付接合板100よりも軟質の材質もでもよい。
【0051】
図4(a)に示す例では、溝付接合板100と挟持部材120とは、溶接部121によって接合される。また、
図4(b)に示すように、溝付接合板100と挟持部材120とは、ボルト123によって接合されてもよい。また、
図4(c)に示すように、溝付接合板100の突部13と溝部11とが形成される面とは逆側の面に、被膜124が形成されてもよい。被膜124は、溝付接合板100と挟持部材120との滑り係数を高めるためのものであり、例えば、無機ジンクリッチペイント等で構成される。この場合には、溝付接合板100と挟持部材120とは摩擦によってずれが抑制されるため、両者を一体化しなくてもよい。なお、図示は省略するが、挟持部材120には、溝付接合板100の貫通孔12に対応する位置に貫通孔が形成される。
【0052】
図5は、挟持部材120を用いた鋼材接合構造300aを示す断面図である。なお、挟持部材120と溝付接合板100とは、ボルト123で接合される例を示すが、溶接部121(
図4(a))で接合されてもよく、被膜124(
図4(c))を形成してもよい。また、これらを組み合わせてもよい。例えば、溝付接合板100の挟持部材120との対向面に、十分なすべり係数を確保することが可能な塗料が塗布されれば、溝付接合板100と挟持部材120が、H形鋼に対して高力ボルト101で一体に接合されてもよい。
【0053】
一対のH形鋼200が、互いに端部を突き合わせるように配置され、H形鋼200同士にまたがるように略同サイズの溝付接合板100と挟持部材120が配置される。この際、溝付接合板100の複数の突部13及び溝部11がH形鋼200に対向するように配置され、溝付接合板100及び挟持部材120とでH形鋼200が挟み込まれる。すなわち、挟持部材120によってH形鋼200が挟み込まれ、挟持部材120とH形鋼200との間に溝付接合板100が配置される。なお、溝付接合板100は、複数に分割されていてもよい。
【0054】
前述したように、溝付接合板100と挟持部材120には、貫通孔が形成される。また、H形鋼200を挟み込む一対の溝付接合板100及び挟持部材120の貫通孔とH形鋼200に形成される貫通孔とは一直線上に配置され、貫通孔12に高力ボルト101が挿通されてナット102によって固定される。高力ボルト101を締め込むことで、溝付接合板100の突部13がH形鋼200に食い込み、H形鋼200同士を接合することができる。
【0055】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、挟持部材120を用い、鋼材を挟み込む2枚の挟持部材120と2枚の溝付接合板100の総厚みを確保することで、溝付接合板100の厚みを薄くしても、挟持部材120によって剛性を得ることができる。このように溝加工などを行う溝付接合板100を薄くすることで、加工が容易となる。
【0056】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。
図6(a)は、第3の実施形態に係る溝付接合板100aを示す断面図である。溝付接合板100aは、溝付接合板100と略同様の構成であるが、突部13および溝部11が両面に形成される点で異なる。
【0057】
溝付接合板100aの両面に形成される突部13及び溝部11の形成方向は同一である。なお、
図6(a)に示すように、両面の突部13間の距離(突部13のピッチ)L1a、L1bや、突部13の高さは、同一であってもよいが、
図6(b)に示すように、溝付接合板100aのそれぞれの面において、突部13同士の距離L1a、L1bが異なってもよい。また、溝付接合板100aのそれぞれの面において、突部13の高さが異なってもよい。なお、溝付接合板100aにおいては、少なくとも一方の面において、前述した突部13と溝部11との高さ比や幅比を満たせばよいが、両面のそれぞれにおいて、前述した突部13と溝部11との高さ比や幅比を満たすことが望ましい。
【0058】
図7は、溝付接合板100aを用いた鋼材接合構造300bを示す図である。鋼材接合構造300bは、鋼材接合構造300aと同様に、挟持部材120同士で溝付接合板100a及びH形鋼200を挟み込み、高力ボルト101とナット102によって固定される。この際、挟持部材120と溝付接合板100aとは、溶接やボルトで接合されるのではなく、溝付接合板100aの突部13が挟持部材120に食い込むことで、両者のずれが防止されて両者が固定される。すなわち、溝付接合板100aの外面側の突部13は挟持部材120に食い込み、溝付接合板100aの内面側の突部13はH形鋼200に食い込む。なお、作業の効率化のため、溝付接合板100aと挟持部材120とはボルト等で仮接合してもよい。また、溝付接合板100aは、複数に分割されていてもよい。
【0059】
この際、挟持部材120とH形鋼200は、材質や硬度などが異なる場合がある。この場合には、それぞれの部材に対して適切な突部13のピッチや高さが存在する。このため、溝付接合板100aの両面に接触する部材に対して適切な突部13となるように、両面の突部13同士の距離や高さを変えることで、効率よく挟持部材120とH形鋼200の両方に対して、突部13を食い込ませることができる。
【0060】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、溝付接合板100aの両面に突部13を形成することで、挟持部材120と溝付接合板100aを強固に接合する必要がない。このため、挟持部材120と溝付接合板100aの接合部材が不要となるか、または、接合する場合でも、仮止め程度の接合とすることができる。
【0061】
[第4の実施形態]
次に、第4の実施形態について説明する。
図8は、第4の実施形態に係る溝付接合板100bを示す斜視図である。溝付接合板100bは、溝付接合板100と略同様の構成であるが、突部13および溝部11が2方向に向けて形成される点で異なる。
【0062】
溝付接合板100bは、接合対象に接する少なくとも一方の面に、複数の突部13が併設される。それぞれの隣り合う突部13の間に溝部11a、11bがそれぞれ形成される。第1の溝部である溝部11aは、互いに平行に配置される。同様に、第2の溝部である溝部11bは、互いに平行に配置される。溝部11aと溝部11bとは、互いに異なる向きに形成される。なお、図示した例では、溝部11aと溝部11bとは、互いに直交するように設けられるが、溝部11aと溝部11bとの角度は90度には限定されない。また、図示した例では、突部13及び溝部11a、11bは、一方の面のみに形成されるが、両面に形成されてもよい。なお、溝付接合板100bにおいては、少なくとも一方の溝部11a、11bにおいて、前述した突部13と溝部11との高さ比や幅比を満たせばよいが、溝部11a、11bの両者に対して、前述した突部13と溝部11との高さ比や幅比を満たすことが望ましい。
【0063】
図9(a)は、溝付接合板100bの部分平面図である。図示した例では、溝部11a、11bの間隔が互いに略等しい。したがって、突部13の各方向に対する幅(図中C、D)は、略1:1となる。これに対し、
図9(b)に示すように、溝部11a、11bの間隔を変えてもよい。例えば、突部13の一方向に対しての食い込み重視するのであれば、C:Dは、例えば1:1~1:999の範囲であることが望ましく、より好ましく1:1~1:50であり、さらにC:Dは、1:1~1:5の間が最適である。
【0064】
また、溝部11a、11bは、溝付接合板100bの各辺に対して平行又は垂直でなくてもよい。
図10は、溝付接合板の長手方向(図中G)に対して、45度の角度(図中I、J)に溝部11a、11bが形成されたものである。このように、溝部11a、11bは、溝付接合板の長手方向に対して斜めに形成されてもよい。
【0065】
また、溝部11aと溝部11bとは、互いに直交しなくてもよい。
図11は、溝部11a、11bの部分拡大図である。溝部11aと溝部11bとのなす角度θは、1度~90度であれば良く、より好ましくは、30度~90度の範囲であり、45度~90度の範囲であることが最適である。
【0066】
第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、互いに異なる向きの溝部11a及び溝部11bが設けられるため、突部13の角形状部の数が増加し、突部13を接合対象により噛合わせることができ、すべり係数を大きくすることができる。
【0067】
また、H形鋼200同士の引張方向に対するすべり係数のみではなく、H形鋼200同士のせん断方向に対しても、高いすべり係数を得ることができる。また、H形鋼200の接合の際に、ウェブの接合とフランジの接合とで、溝部及び突部の形成方向を変える必要がなく、同一の部材を用いることができる。なお、溝付接合板100bは、単独で使用することもできるが、挟持部材120と併用してもよい。
【0068】
[第5の実施形態]
次に、第5の実施形態について説明する。
図12は、第5の実施形態に係る溝付接合板100eを示す平面図である。溝付接合板100eは、溝付接合板100等と略同様の構成であるが、溝部11及び突部13が、貫通孔12を中心とした同心円状に複数形成される点で異なる。
【0069】
このように、溝部11及び突部13が円状に形成されることで、すべての方向に対して、すべり係数を確保することが可能となる。なお、図示した例では、6つの同心円を形成したが、同心円の個数及び配置は図示した例には限られない。また、同心円同士が、重なり合ってもよい。
【0070】
第5の実施形態によれば、第4の実施形態等と同様の効果を得ることができる。このように、溝部11及び突部13は、直線状に形成される場合には限られない。
【0071】
[第6の実施形態]
次に、第6の実施形態について説明する。
図13は、第6の実施形態に係る溝付接合板100cを示す斜視図である。溝付接合板100cは、溝付接合板100と略同様の構成であるが、幅方向の略中央部には、突部13及び溝部11が形成されない平坦部14が形成される点で異なる。平坦部14は、突部13及び溝部11に平行に、全長にわたって形成される。
【0072】
図14は、溝付接合板100を用いて接合対象である鋼材同士を接合した鋼材接合構造300cにおける、接合部の断面図である。鋼材接合構造300cは、一対の鋼材(H形鋼200)が、互いに端部が突き合せられて、隣り合うH形鋼200のフランジ等にまたがるように溝付接合板100cが配置されて固定される。
【0073】
この際、H形鋼200の端部の突き合せ部には、わずかに隙間が形成される。溝付接合板100cは、この隙間に平坦部14が位置するように配置されて固定される。このように、突部13を食い込ませる必要のない部位には、突部13を形成しないことで、加工が容易となる。
【0074】
なお、平坦部14における板厚を、他の部位の板厚(溝部11における最小板厚)よりも薄くしてもよい。このようにすることで、平坦部14を、他の部位と比較して変形が容易な部位とすることができる。すなわち、溝付接合板100cの幅方向の略中央に変形容易部を形成することができる。
【0075】
例えば、H形鋼200同士を突き合せた際に、H形鋼200の芯が完全に一致せず、芯ずれが生じる場合がある。この場合に、溝付接合板をH形鋼200同士にまたがるように配置すると、一方のH形鋼200に対する突部の食い込みと、他方のH形鋼200に対する突部の食い込みが異なり、全体としてすべり係数が低下する要因となる。これに対し、幅方向の略中央に変形容易部が形成された溝付接合板100cをH形鋼200に締め込むと、平坦部14が変形し、芯ずれに追従するように溝付接合板100cを変形させることができる。このため、所望のすべり係数を確保することができる。
【0076】
第6の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、接合対象のH形鋼200同士の隙間には、突部13を形成する必要がないため、この部位を平坦部14とすることで、板材の全面に突部等の加工を行う場合と比較して、加工面積が減り、加工が容易となる。
【0077】
また、平坦部14の厚みを薄くすることで、変形容易部を形成することができる。このため、H形鋼200同士の芯ずれに対して、平坦部を変形させて、芯ずれの影響を抑制することができる。なお、溝付接合板100bは、単独で使用することもできるが、挟持部材120を用いてもよい。この場合には、両面に突部13を形成してもよいが、挟持部材120との対向面には、平坦部14を形成する必要はない。
【0078】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
例えば、前述した各実施形態において、H形鋼同士の突き合せ部に溝付接合板を用いて、両者を接合する例について説明したが、これには限られない。例えば、H形鋼以外の鋼材同士を突き合せて接合する場合にも適用可能である。また、一対の鋼材同士の突き合せ部に用いるのではなく、一方の鋼材の一部に、他の鋼材を固定する場合にも適用可能である。
【0080】
図15は、鋼材接合構造300dを示す図である。鋼材接合構造300dは、第1の鋼材である鋼材200aの表面に、第2の鋼材である鋼材200bが接合されたものである。鋼材200aの表面には図示を省略した被膜が形成される。また、鋼材200bは、挟持部材120と、補強部材等を接合可能なブラケット125とが一体化した部材である。鋼材200aと鋼材200bとの間には、溝付接合板100が配置される。なお、溝付接合板100の、挟持部材120との対向面には、被膜124が形成されておりすべり係数が確保される。なお、被膜に代えて、溝付接合板100の挟持部材120との対向面にも、突部13と溝部11とが形成されていてもよく、又は、溝付接合板100と挟持部材120とが溶接されていてもよく、ボルトで固定されていてもよい。
【0081】
挟持部材120、溝付接合板100、鋼材200aを貫通する孔が形成され、孔には、例えば挟持部材120側から高力ボルト101が貫通する。鋼材200aの背面側では、高力ボルト101にナット102が螺合して、鋼材200aに200bが固定される。この際、ナット102と鋼材200aとの間に、溝付接合板100dを配置してもよい。溝付接合板100dは、例えば一方の面に突部と溝部とが形成された座金である。なお、溝付接合板100dは、全ての高力ボルト101にまたがるように形成されてもよく、図左側に示すように、一部の高力ボルト101にまたがるように配置されてもよく、図右側に示すように、それぞれの高力ボルト101毎にそれぞれ配置してもよい。
【0082】
この場合でも、溝付接合板100の突部の高さが、鋼材200aの被膜の厚みよりも高く、突部で被膜を貫通することができれば、鋼材200aへ鋼材200bを接合することができる。すなわち、本願において、接合とは、一対の同種の鋼材同士を突き合せて接合する場合に限られず、一方の鋼材の一部に、他の鋼材を固定する場合も含まれる。
【符号の説明】
【0083】
11、11a、11b………溝部
12………貫通孔
13………突部
14………平坦部
100、100a、100b、100c、100d、100e………溝付接合板
101………高力ボルト
102………ナット
111………突部形成面
120………挟持部材
121………溶接部
123………ボルト
125………ブラケット
200………H形鋼
200a、200b………鋼材
201………被膜
300、300a、300b、300c、300d………鋼材接合構造