(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158239
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】湿潤粉体および該湿潤粉体からなる電極を備える非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20221006BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221006BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20221006BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20221006BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M10/0566
H01M10/05
H01M10/058
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063001
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】盛山 智
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ13
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】電池性能の低下抑制と、電極密度を向上させ得る湿潤粉体を提供すること。
【解決手段】ここに開示される湿潤粉体は、正負極いずれかの電極集電体上に電極活物質層を形成するための湿潤粉体であって、電極活物質と、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されており、湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上であり、前記非水電解液は、非水溶媒と支持塩とを含有し、前記非水電解液の25℃における粘度が25mPa・S以上130mPa・S以下である、湿潤粉体。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負極いずれかの電極集電体上に電極活物質層を形成するための湿潤粉体であって、
電極活物質と、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されており、
湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上であり、
前記非水電解液は、非水溶媒と支持塩とを含有し、
前記非水電解液の25℃における粘度が25mPa・S以上130mPa・S以下である、湿潤粉体。
【請求項2】
前記凝集粒子は、固相と液相とがキャピラリー状態を形成していることを特徴とする、請求項1に記載の湿潤粉体。
【請求項3】
前記非水溶媒は、エーテル類、カーボネート類、グライム類、エステル類、カルバメート類、アミド類、スルフィド類、スルホキシド類、スルホン類およびケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記非水溶媒の25℃における粘度が0.6mPa・S以上4.1mPa・S以下である、請求項1または2に記載の湿潤粉体。
【請求項4】
前記非水溶媒は、少なくとも前記カーボネート類と前記グライム類とを含有し、前記非水電解液を100vol%としたときに、前記グライム類が30vol%以上含まれている、請求項3に記載の湿潤粉体。
【請求項5】
前記非水電解液中の前記支持塩の濃度が、2mol/L以上5mol/L以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の湿潤粉体。
【請求項6】
正極および負極を有する電極体と、非水溶媒および支持塩を含む非水電解液とを備える非水電解液二次電池を製造する方法であって、
電極活物質と、前記非水電解液とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を造粒する工程と、
前記湿潤粉体からなる電極活物質層を電極集電体上に供給して電極を形成する工程と、
前記電極を用いて作製される電極体を電池ケースに収容する工程と、
前記電極体が収容された電池ケースに、前記非水溶媒を注入する工程と、
を包含し、
前記造粒工程における、前記非水電解液の25℃における粘度が25mPa・S以上130mPa・S以下に調整されていることを特徴とする、非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項7】
前記造粒工程における前記非水電解液中の前記支持塩の濃度は、2mol/L以上5mol/L以下である、請求項6に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記電極形成工程は、第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置される第2のロールとの間に供給された前記湿潤粉体を、前記第2のロールの外周面上に前記電極活物質層として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される前記電極集電体の表面に、該第2のロールの外周面上から前記電極活物質層を転写することにより、前記電極を形成する、請求項6または7に記載の非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤粉体および該湿潤粉体からなる電極を備える非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、既存の電池に比べて軽量かつエネルギー密度が高いことから、車両搭載用の高出力電源、あるいは、パソコンおよび携帯端末の電源として好ましく利用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、好ましく用いられている。
【0003】
この種の二次電池に備えられる正極および負極(以下、正負極を特に区別しない場合は単に「電極」という。)の典型的な構造として、箔状の電極集電体の片面もしくは両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が形成されているものが挙げられる。かかる電極活物質層は、電極活物質、結着材(バインダ)、導電材等の固形分を所定の溶媒中に分散して調製したスラリー(ペースト)状の電極材料を集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥させた後、プレス圧をかけて所定の密度、厚さとすることにより形成される。あるいは、このような合材スラリーによる成膜に代えて、合材スラリーよりも固形分の割合が比較的高く、溶媒が活物質粒子の表面とバインダ分子の表面に保持されたような状態で粒状集合体が形成されたいわゆる湿潤粉体(Moisture Powder)を用いて成膜する湿潤粉体成膜(Moisture Powder Sheeting:MPS)も検討されている。
【0004】
特許文献1においては、活物質と、結着剤と、溶媒と、界面活性剤とを含み、該溶媒と界面活性剤との混合液体に対する該活物質の接触角が10°以上80°以下に調整された湿潤組成物を開示している。このような湿潤組成物を用いることにより、集電箔上に厚みが均一な電極活物質層を形成することができることが開示されている。また、特許文献2においては、電池性能の低下を抑制しつつ、造粒体の展延性を高めるために電解液の溶媒成分の一部を含有する造粒体を調製するステップを含む二次電池の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-113113号公報
【特許文献2】特開2017-117582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来この種の非水電解液二次電池の製造に用いられてきた溶媒は、特許文献2に記載されている通り、電極に残留して電池内に持ち込まれた場合には電池性能が低下する虞がある。またかかる溶媒に分散させて電極活物質同士および、電極活物質層と集電体とを結合するバインダ樹脂は、電極として構築された際には抵抗成分となり得る。このため、電極の抵抗を低減させるためには、バインダ樹脂はできる限り含まないことが好ましい。すなわち、溶媒とバインダ樹脂とは製造過程において必要な材料である一方で、電極として構築された際には不要な成分となり得るため、できる限り少ない(あえて言えば実質的に含まない)ことが好ましい。したがって、該電極を構築する電極材料として、バインダ樹脂および溶媒を実質的に含まない湿潤粉体(電極材料)が求められている。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電池性能の低下抑制と、電極密度を向上させ得る湿潤粉体を提供することにある。また他の目的は、かかる湿潤粉体からなる電極を備える電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、ここに開示される湿潤粉体が提供される。ここに開示される湿潤粉体は、正負極いずれかの電極集電体上に電極活物質層を形成するための湿潤粉体であって、電極活物質と、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されており、湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上である。前記非水電解液は、非水溶媒と支持塩とを含有し、前記非水電解液の25℃における粘度が25mPa・S以上130mPa・S以下である。
電池性能に悪影響を及ぼさない非水電解液であって、高粘度に調整された非水電解液を液体成分として用いることにより、抵抗成分となり得るバインダ樹脂と、電池性能に悪影響を及ぼす虞のある溶媒とを実質的に含まない態様であっても、液架橋力によって結合された湿潤粉体を提供することができる。かかる構成によれば、電池性能の低下抑制と、電極密度を向上させ得る湿潤粉体を実現することができる。
【0009】
ここに開示される湿潤粉体の好適な一態様では、前記凝集粒子は、固相と液相とがキャピラリー状態を形成していることを特徴とする。
湿潤粉体を構成する凝集粒子において、固相と液相とが後述するキャピラリー状態を形成していることにより、より好適に電極を形成し得る湿潤粉体を提供することができる。
【0010】
ここに開示される湿潤粉体の好適な一態様では、前記非水溶媒は、エーテル類、カーボネート類、グライム類、エステル類、カルバメート類、アミド類、スルフィド類、スルホキシド類、スルホン類およびケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記非水溶媒の25℃における粘度が0.6mPa・S以上4.1mPa・S以下である。また、別の好適な一態様では、前記非水溶媒は、少なくとも前記カーボネート類と前記グライム類とを含有し、前記非水電解液を100vol%としたときに、前記グライム類が30vol%以上含まれている。
かかる構成によれば、湿潤粉体に液体成分として含まれ得る非水電解液の粘度を好適に調整する非水溶媒を提供することができ、湿潤粉体における液架橋力を適切に制御することができる。
【0011】
ここに開示される湿潤粉体の好適な一態様では、前記非水電解液中の前記支持塩の濃度が、2mol/L以上5mol/L以下である。
かかる構成によれば、湿潤粉体に含まれる非水電解液の粘度を好適に調整することができる。
【0012】
上記他の目的を解決するべく、ここに開示される電池の製造方法が提供される。ここに開示される製造方法は、正極および負極を有する電極体と、非水溶媒および支持塩を含む非水電解液とを備える非水電解液二次電池を製造する方法であって、電極活物質と、前記非水電解液とを少なくとも含有した凝集粒子によって形成される湿潤粉体を造粒する工程と、前記湿潤粉体からなる電極活物質層を電極集電体上に供給して電極を形成する工程と、前記電極を用いて作製される電極体を電池ケースに収容する工程と、前記電極体が収容された電池ケースに、前記非水溶媒を注入する工程と、を包含する。前記造粒工程における、前記非水電解液の25℃における粘度が25mPa・S以上130mPa・S以下に調整されていることを特徴とする、非水電解液二次電池の製造方法。
かかる構成によれば、電池性能に悪影響を及ぼす虞がある溶媒を実質的に含まないため、かかる溶媒を除去する工程や設備を備えることなく電極密度が向上した電池を製造することができる。また、造粒工程において予め支持塩を含む非水電解液を電極に含有させることができるため、非水溶媒注入工程においては、非水溶媒のみを従来に比して少量注入すればよい。これにより、注入工程の時間短縮や、支持塩を含有しないため非水溶媒の保存性が高くなる。すなわち、上述したように電池性能が向上した電極を備える二次電池を、生産コストを抑えて製造することができる。
【0013】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記造粒工程における前記非水電解液中の前記支持塩の濃度は、2mol/L以上5mol/L以下である。
かかる構成によれば、造粒工程における非水電解液の粘度を好適に調整することができる。
【0014】
ここに開示される製造方法の好適な一態様では、前記電極形成工程は、第1のロールと、前記第1のロールに対向して配置される第2のロールとの間に供給された前記湿潤粉体を、前記第2のロールの外周面上に前記電極活物質層として付着させるとともに、前記第2のロールに別途供給される前記電極集電体の表面に、該第2のロールの外周面上から前記電極活物質層を転写することにより、前記電極を形成する。
かかる構成によれば、造粒工程において造粒された湿潤粉体を好適に電極集電体上に転写させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一実施形態に係る電極製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
【
図2】湿潤粉体を構成する凝集粒子における固相(活物質粒子等の固形分)、液相(溶媒)、気相(空隙)の存在形態を模式的に示す説明図であり、(A)はペンジュラー状態、(B)はファニキュラー状態、(C)は、キャピラリー状態、(D)はスラリー状態を示す。
【
図3】一実施形態に係るロール成膜装置の構成を模式的に示す説明図である。
【
図4】一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、二次電池の典型例であるリチウムイオン二次電池に好適に採用される電極を例として、ここで開示される湿潤粉体と該湿潤粉体からなる電極を備える電池の製造方法について、詳細に説明する。
本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、寸法関係(長さ、幅、高さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
なお、本明細書において範囲を示す「A~B(ただし、A、Bは任意の値。)」の表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0017】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいう。また、「非水電解液二次電池」とは、非水電解液(典型的には、非水溶媒中に支持電解質を含む非水電解液)を備えた電池をいう。「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。また、本明細書では、正極および負極を特に区別する必要がないときは、単に電極と記載している。
【0018】
ここに開示される湿潤粉体は、典型的には電極活物質と、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されている。該湿潤粉体全体を100質量%としたときの固形分率は、典型的には70質量%以上である。例えば、70質量%以上87質量%以下であってよく、72質量%以上85質量%以下であってよい。ここに開示される湿潤粉体においては、従来のスラリー状の組成物と比較すると、固形分率は相対的に高い値に設定される。固形分率を上記の範囲内とすることで、凝集粒子において後述するキャピラリー状態が好適に形成され、実質的にバインダ樹脂および溶媒を含まない態様であっても、液架橋力(毛管負圧と表面張力の和)によって電極活物質を好適に一体化させることができる。
なお、本明細書において「固形分率」とは、湿潤粉体全体に占める固形成分の割合のことをいう。
【0019】
ここに開示される湿潤粉体は、全体として粉体状であって、気液界面における自由液面が存在しない状態のものである。このような性状を示すものとして、例えば、該湿潤粉体を構成する凝集粒子が、後述するキャピラリー状態を形成していることが好ましい。
かかる湿潤粉体の形態的な分類に関しては、Capes C. E.著の「Particle Size Enlargement」(Elsevier Scientific Publishing Company刊、1980年)に記載され、現在は周知となっている4つの分類を、本明細書においても採用しており、ここで開示される湿潤粉体は明瞭に規定されている。具体的には、以下のとおりである。
一般的に凝集粒子における固相(電極活物質等の固形成分)、液相(非水電解液等の液体成分)および気相(空隙)の存在形態(充填状態)に関しては、「ペンジュラー状態」、「ファニキュラー状態」、「キャピラリー状態」および「スラリー状態」の4つに分類することができる。
【0020】
「ペンジュラー状態」は、
図2の(A)に示すように、凝集粒子1中の固形成分(固相)2間を架橋するように液体成分(液相)3が不連続に存在する状態であり、固形成分2は相互に連なった(連続した)状態で存在し得る。図示されるように液体成分3の含有率は相対的に低く、その結果として凝集粒子1中に存在する空隙(気相)4の多くは、連続して存在し、外部に通じる連通孔を形成している。
「ファニキュラー状態」は、
図2の(B)に示すように、凝集粒子1中の液体成分3の含有率がペンジュラーよりも相対的に高い状態であり、凝集粒子1中の固形成分2の周囲に液体成分3が連続して存在する状態となっている。但し、溶液体成分3の量は依然少ないため、ペンジュラー状態と同様に、固形成分2は相互に連なった(連続した)状態で存在する。凝集粒子1中に存在する空隙4のうち、外部に通じる連通孔の割合はやや減少し、不連続な孤立空隙の存在割合が増加していく傾向にあるが連通孔の存在は認められる。
【0021】
「キャピラリー状態」は、
図2の(C)に示すように、凝集粒子1中の液体成分3の含有率が増大し、凝集粒子1中の液体成分3の量は飽和状態に近くなり、固形成分2の周囲において十分量の液体成分3が連続して存在する結果、固形成分2は不連続な状態で存在する。固形成分間が液体成分3で満たされ、固形成分間の結合力が強い状態である。液体成分3が、凝集粒子1の表面にとどまることで、凝集粒子1の表面が湿潤状態にあり、粘性を発揮し得る状態になる。凝集粒子1中には液体成分3の含有量が増大することにより、空隙はほとんど存在せず、空隙が存在する場合はほぼ全ての空隙(例えば全空隙体積の80vol%以上)が孤立空隙として存在する。
「スラリー状態」は、
図2の(D)に示すように、もはや固形成分2は、液体成分3中に懸濁した状態であり、凝集粒子とは呼べない状態となっている。気相は上記キャピラリー状態よりもさらに存在しない状態である。
【0022】
固形成分2の主成分である電極活物質としては、従来の二次電池(ここではリチウムイオン二次電池)の負極活物質あるいは正極活物質として採用される組成の化合物を使用することができる。例えば、負極活物質としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。また、負極活物質の他の例として、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、ケイ素(Si)等の金属もしくはこれらの金属を主体とする合金からなる金属材料(いわゆる合金系負極)等が挙げられる。正極活物質としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のリチウム遷移金属複合酸化物、LiFePO4等のリチウム遷移金属リン酸化合物が挙げられる。電極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm~50μm程度が適当であり、1~20μm程度が好ましい。
なお、本明細書において、「平均粒径」とは、一般的なレーザ回析・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。
【0023】
その他の固形成分2としては、例えば、導電材等が挙げられる。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやそのほか(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。
【0024】
ここに開示される湿潤粉体においては、従来この種の電極製造方法において用いられてきたバインダ樹脂を実質的に含まない。ここでいうバインダ樹脂とは、結合剤として作用し導電性を有しないもののことであって、一例として、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系ポリマー、メタクリル酸エステルの重合体等のアクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等が挙げられる。かかるバインダ樹脂は、従来この種の電極材料において、活物質同士や後述する集電体との結着剤として用いられている成分であり、必須の成分であった。しかしながら、バインダ樹脂は、電極として構築された際には一般的に抵抗成分となり得るため、できる限り少ない(あえて言えば実質的に含まない)ことが好ましい。バインダ樹脂を実質的に含まないことにより、電極活物質の密度(電極密度)を向上させることができる。
なお、本明細書において「実質的に含まない」とは、意図的に対象成分を添加していないことをいい、該成分を全く含まないか、あるいはここに開示される製造方法において何ら意味をなさない程度のごく微量(いわゆるコンタミ程度)しか含まれていないことをいう。
【0025】
また、ここに開示される湿潤粉体においては、従来この種の電極製造方法において用いられてきた溶媒を実質的に含まない。ここでいう溶媒とは、二次電池として構築された際に電池性能に悪影響を及ぼす虞がある液体成分であって、一例として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、水系溶媒(水または水を主体とする混合溶媒)等が挙げられる。かかる溶媒は、従来の製造方法において、活物質や導電材等を好適に分散させる等の目的で、必須の成分として用いられてきた。しかしながら、電極が構築された際に溶媒が残存すると電池性能に悪影響を与えるため、乾燥等によって溶媒を除去する必要があった。これに対し、ここに開示される湿潤粉体においては、従来の溶媒を実質的に含まず、二次電池として構築された際に電池性能への悪影響を与えることがない非水電解液を用いている。したがって、より高品質な二次電池を構築し得る湿潤粉体を提供することができる。
【0026】
湿潤粉体に含まれる非水電解液としては、典型的には非水溶媒中に、支持電解質(支持塩ともいう。)を含有させたものを用いることができる。該非水電解液は、従来のものよりも高粘度であることが求められる。具体的には、25℃における粘度(せん断粘度)が、25mPa・s以上の非水電解液である。非水電解液の粘度は、25mPa・s以上130mPa・s以下であってよく、50mPa・s以上122mPa・s以下であってよい。かかる構成によれば、固形成分間において液架橋力が好適に発揮され、電極密度が向上した電極活物質層を形成することができる。
なお、ここで粘度とは、せん断粘度(mPa・s)をいい、市販の回転粘度計(例えばブルックフィールド社の著名なB型粘度計)で容易に測定することができる。
【0027】
非水溶媒の種類としては、例えば、エーテル類、カーボネート類、エステル類、カルバマート類、アミド類、スルフィド類、スルホキシド類、スルホン類、ケトン類、グライム類等が挙げられる。なかでも、高粘度な非水電解液を調製しやすいため、カーボネート類および/またはグライム類が好ましく用いられる。具体的には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)、トリグライム(G3)、テトラグライム(G4)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
なお、グライムとは、直鎖状のグリコールジエーテルの総称である。トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)は、CH3(OCH2CH2)3OCH3の構造式で表されるエーテル化合物を意味する。また、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)は、CH3(OCH2CH2)4OCH3の構造式で表されるエーテル化合物を意味する。
【0028】
好適な一態様では、非水溶媒の25℃における粘度は0.6mPa・s以上4.1mPa・s以下であり、0.6mPa・s以上3.8mPa・s以下である。かかる粘度は上記非水溶媒のなかから好適な粘度を備える1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせることによって上記好適な粘度の範囲に調整してもよい。2種以上を組み合わせるときは、非水溶媒全体を100vol%としたときに、上記グライム類を30vol%以上(例えば30~50vol%)含むことが好ましい。
【0029】
非水溶媒に含まれる支持塩としては、従来のこの種の非水電解液二次電池に用いられる支持塩を特に制限することなく用いることができる。例えば、LiPF6,LiBF4,LiAsF6,LiCF3SO3,LiC4F9SO3,LiN(CF3SO2)2,LiC(CF3SO2)3等のリチウム塩を用いることができる。
【0030】
非水電解液中の支持塩の濃度は、非水電解液の粘度が上述した範囲の粘度となるように調整されていればよい。一般的には、非水電解液中の支持塩の濃度を高くすることによって非水電解液の粘度を高くすることができる。使用する非水溶媒によっても異なるため、特に限定されるものではないが、例えば2mol/L以上5mol/L以下が好ましく、2mol/L以上4.5mol/L以下がより好ましく、2.5mol/L以上4.1mol/Lが特に好ましい。
【0031】
従来のこの種の非水電解液二次電池に用いられる非水電解液の支持塩の濃度は、典型的には概ね1mol/L程度である。後述する非水溶媒注液工程において、非水溶媒を注入し、支持塩の濃度が概ね1mol/L程度(例えば0.7mol/L以上1.3mol/L以下)となるように調整することができるため、湿潤粉体(電極材料)における非水電解液中の支持塩濃度が従来よりも高濃度あってよい。支持塩の濃度を高く設定することにより、非水電解液の粘度が高くなり、後述する電極形成工程における成形性が向上する。
【0032】
なお、本実施形態に係る非水系二次電池の非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、例えば、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;被膜形成剤;分散剤;増粘剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0033】
<非水電解液二次電池の製造方法>
図1は、ここに開示される電極の製造方法を示すフロー図である。ここに開示される電極の製造方法は、典型的は、以下の4つの工程:(1)湿潤粉体を造粒する工程(S110);(2)電極を形成する工程(S120);(3)電極から作製される電極体を電池ケースに収容する工程(S130);(4)非水溶媒を注入する工程(S140);を包含する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0034】
<造粒工程>
造粒工程S110では、電極活物質と、非水電解液とを混合したのちに造粒して、湿潤状態の電極材料(湿潤粉体)を造粒する。混合の手法は特に限定されるものではないが、例えば、プラネタリーミキサー等のミキサーを用いて、混合するとよい。造粒粒子を作製する手法としては、例えば、転動造粒法、流動層造粒法、撹拌造粒法、圧縮造粒法、押出造粒法、破砕造粒法、スプレードライ法等の造粒法が挙げられる。なかでも、圧縮造粒法がここに開示される湿潤粉体を好適に造粒し得るため好ましい。
【0035】
まず、電極活物質と非水電解液とを例えばプラネタリーミキサー等のミキサーを用いて、混合する。かかるミキサーは、典型的には、円筒形である混合容器と、当該混合容器の内部に収容された回転羽根と、回転軸を介して回転羽根に接続されたモータとを備えている。ミキサーの混合容器に、電極活物質と非水電解液とを投入して、例えば、2000rpm~5000rpmの回転速度で1~30秒間程度、回転させることによって電極活物質と非水電解液との混合物を製造する。非水電解液は、湿潤粉体の固形分率が、70質量%以上、より好ましくは75質量%以上(例えば80~87質量%)になるように計量されて投入される。そして、導電材を混合容器内に添加し、回転羽根を例えば100rpm~1000rpmの回転速度で1~30秒間程度さらに回転させる。これにより、各材料が十分に混合された湿潤状態の混合物を得ることができる。
【0036】
次いで、該混合物を従来公知の造粒装置を用いて圧縮しながら造粒する。例えば、かかる造粒装置の好適な一態様としては、互いに逆方向に回転する一対のロール間に混合物を投入することにより圧縮しながら造粒するロールミルが挙げられる。ロールミルによる圧縮造粒においては、投入された混合物に高い圧縮力とせん断力とをかけながら造粒する。特に限定されるものではないが、かかる造粒方法により、以下のような造粒が行われて、好適にキャピラリー状態の湿潤粉体が形成されるものと推測される。
ここに開示される湿潤粉体は、高粘度な非水電解液を含んでいる。かかる高粘度な非水電解液は、上記混合によって固形材料(ここでは、電極活物質)の表面に好適に付着した状態となる。このような状態で電極活物質同士が圧縮しながら擦り合わせられることにより、混合物から気体が押し出され、電極活物質同士がより高密度な状態となり得る。すなわち、
図2(C)に示すようなキャピラリー状態の凝集粒子1を好適に形成することができる。電極活物質同士は、液架橋力によって比較的強く結合された状態であり得る。また、高粘度な非水電解液を用いることによって、凝集粒子1の結合力をさらに向上させることができる。これにより、抵抗成分となり得るバインダ樹脂を含まない態様であっても、湿潤粉体を造粒することができる。
【0037】
上記造粒工程で造粒される湿潤粉体の性状としては、例えば、平均粒径が概ね10μm以上であってよく、100μm以上であってよく、1mm以上であってもよい。平均粒径の上限は、特に限定されるものではないが、典型的には10mm以下であってよく、例えば5mm以下であってよい。
【0038】
<電極形成工程>
電極形成工程S120は、上述した湿潤粉体からなる電極活物質層を電極集電体上に供給して電極を形成する工程である。湿潤粉体20からなる電極活物質層32の形成は、
図3に模式的に示すようなロール成膜装置40を用いて行うことができる。図示されるように、ロール成膜装置40は、第1の回転ロール41(以下「供給ロール41」ともいう。)と、該第1の回転ロール41に対向して配置される第2の回転ロール42(以下「転写ロール42」ともいう。)と、を備えている。供給ロール41の外周面と転写ロール42の外周面は互いに対向しており、これら一対の回転ロール41、42は、
図3の矢印に示すように逆方向に回転することができる。また、供給ロール41と転写ロール42との間隙(ギャップ)は、長尺なシート状の電極集電体31上に形成する電極活物質層32の所望の厚さに応じた距離だけ離れている。また、かかるギャップのサイズを調整することにより、供給ロール41と転写ロール42との間を通過する湿潤粉体20を圧縮する力を調整することもできる。このため、湿潤粉体20の固形分率等に応じて、供給ロール41と転写ロール42とのギャップのサイズを調整することにより、造粒粒子同士が好適に一体化され、引き伸ばされて膜状に成形される。
【0039】
電極集電体31は、この種の二次電池の電極集電体として用いられる金属製の電極集電体を特に制限なく使用することができる。電極集電体31が正極集電体である場合には、例えば、良好な導電性を有するアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特にアルミニウム(例えばアルミニウム箔)が好ましい。電極集電体31が負極集電体である場合には、例えば、良好な導電性を有する銅や銅を主体とする合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属材から構成される。特に銅(例えば銅箔)が好ましい。電極集電体31の厚みは、例えば、概ね5μm~20μmであり、好ましくは8μm~15μmである。
【0040】
供給ロール41と転写ロール42の幅方向の両端部には、隔壁45が設けられている。隔壁45は、湿潤粉体20を供給ロール41と転写ロール42上に保持すると共に、2つの隔壁45の間の距離によって、電極集電体31上に形成される電極活物質層32の幅を規定する役割を果たす。この2つの隔壁45の間に、フィーダー(図示せず)等によって電極材料(湿潤粉体20)が供給される。
本実施形態に係るロール成膜装置40では、転写ロール42の隣に第3の回転ロールとしてバックアップロール43が配置されている。バックアップロール43は、電極集電体31を転写ロール42まで搬送する役割を果たす。転写ロール42とバックアップロール43は、
図3の矢印に示すように、逆方向に回転する。
【0041】
供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43は、図示しない相互に独立した駆動装置(モータ)にそれぞれ接続されており、供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の順にそれぞれの回転速度を徐々に高めることによって、湿潤粉体20を転写ロール42に沿って搬送し、転写ロール42の外周面からバックアップロール43により搬送されてきた電極集電体31の表面上に当該湿潤粉体を電極活物質層32として転写することができる。
特に限定するものではないが、供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43各ギャップのサイズ(幅)は、電極活物質層32の成膜時の平均膜厚が10μm以上300μm以下(例えば、20μm以上150μm以下)となるようなギャップサイズに設定すればよい。
【0042】
供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43のサイズは特に制限はなく、従来のロール成膜装置と同様でよく、例えば直径がそれぞれ50mm~500mmであり得る。これら供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の直径は同一の直径であってもよく、異なる直径であってもよい。また、電極活物質層32を形成する幅についても従来のロール成膜装置と同様でよく、電極活物質層32を形成する対象の電極集電体31の幅によって適宜決定することができる。また、供給ロール41、転写ロール42およびバックアップロール43の外周面の材質は、従来公知のロール成膜装置における回転ロールの材質と同じでよく、例えば、SUS鋼、SUJ鋼、等が挙げられる。
なお、
図3では、供給ロール41、転写ロール42、バックアップロール43は、それぞれの回転軸が水平に並ぶように配置されているが、かかるロールの配置はこれに限られたものではない。
【0043】
ここに開示される電極形成工程S120では、まず、逆方向に回転する一対の供給ロール41および転写ロール42の間に、湿潤粉体20を供給する。該湿潤粉体20は、供給ロール41および転写ロール42が逆方向に回転することにより、一対のロールの間隙(ギャップ)に運ばれる。そして、湿潤粉体20は、供給ロール41と転写ロール42とのギャップを圧縮されながら通過し、膜状に成膜され電極活物質層32が形成される。すなわち、湿潤粉体20は、供給ロール41および転写ロール42によって圧縮されることにより、湿潤粉体20同士が一体化していき、引き伸ばされて膜状の電極活物質層32を形成する。このとき湿潤粉体20同士(具体的には凝集粒子同士)は、特に限定されるものではないが、液架橋力によって結合されていると推測される。粒子間の付着力(結合力)としては、液架橋力の他にファンデルワールス力や静電気力等が挙げられるが、液架橋力は比較的大きな付着力を発揮し、例えば固形分率が70質量%以上(例えば70~87質量%)のときにも好適な付着力を発揮する。これに加えて、高粘度な非水電解液を用いることにより、結合力を強化している。このため、上記したキャピラリー状態の湿潤粉体20を圧縮することにより、実質的にバインダ樹脂を含まなくても膜状の電極活物質層32を形成することができる。
【0044】
次いで、上記電極活物質層32を転写ロール42に付着させて搬送する。上述したように供給ロール41よりも転写ロール42の回転速度が速く設定されているため、形成された電極活物質層32は転写ロール42に付着する。転写ロール42に付着した電極活物質層32は、該転写ロール42の回転によって搬送され、バックアップロール43により供給される電極集電体31上に転写される。このとき、電極活物質層32が、ある程度の圧力で電極集電体31と接触することにより、電極活物質層32が電極集電体31上に転写される。これにより、電極集電体31上に電極活物質層32を備える電極を得ることができる。
【0045】
一般的なスラリー状の電極材料からなる電極活物質層は、電極活物質とバインダを適当な溶媒でスラリー状に調製した電極材料を集電体に塗布し、乾燥した後、プレスすることによって形成される。かかる方法によれば、集電体上に塗布されたスラリー状の電極材料を乾燥する際に、比重が小さいバインダが表面側に偏析する現象である、マイグレーションが発生する。かかるマイグレーションが発生すると、電極集電体と電極活物質層との密着性が低下し、製造工程中や充放電を繰り返すうちに該活物質層が該集電体から剥離しやすくなる。また、かかるスラリー状の電極材料は、固形分率が低く(典型的には55%以下)、乾燥等による溶媒の除去に時間がかかるため、生産性が低下するという問題もある。これに対して、ここに開示される電極の製造方法においては、液体成分として非水電解液を用いているため、液体成分を除去する必要がない。これにより、マイグレーションが発生することはなく、電極活物質層が電極集電体から剥離することのない高品質な電極を製造することができる。また、上述した理由により、溶媒除去工程および溶媒回収装置が不要であり生産性の向上も実現する。これに加えて、抵抗成分となり得るバインダ樹脂を実質的に含まない湿潤粉体を使用し、かつ、上記ロール成膜装置により圧縮しながら成膜するため、電極密度を十分に上げることができる。これにより、従来の製造方法におけるプレス工程(電極活物質層の密度を調製する工程)が不要になる。したがって、ここに開示される電極の製造方法によれば、従来よりも高品質な電極を効率よく製造することができる。
【0046】
<電極体収容工程>
電極体収容工程S130では、上記製造されたシート状電極を用いて、電極体を作製すし、該電極体を電池ケースへ収容する。電極体の作製方法としては、具体的には、シート状の正極およびシート状の負極を、シート状のセパレータを介して積層することで電極体を作製する。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータは、耐熱層(HRL)を設けられていてもよい。
【0047】
シート状電極は、そのまま使用してもよいし、矩形平板状に切断してから使用してもよい。例えば捲回電極体は、シート状の正極および負極を積層した状態で長手方向に捲回することによって作製することができる。また、例えば積層電極体は、矩形平板状に切断した正極と負極とを積層することによって作製することができる。
【0048】
上記電極体を電池ケースに収容する。電池ケースは、高強度であり軽量で熱伝導性が良い金属製材料から構成される箱型の電池ケースであってもよく、典型的には多層構造を有するラミネートフィルムから構成されるラミネートケースであってもよい。
【0049】
<非水溶媒注入工程>
非水溶媒注入工程S140では、上記電極体を収容した電池ケースに所定の非水溶媒を注入する。ここで注入される非水溶媒は、典型的には上記造粒工程S110で用いる非水電解液の非水溶媒に含まれる非水溶媒を用いればよい。ここに開示される製造方法においては、液体成分を除去する必要がないため、造粒工程S110において添加された液体成分(非水電解液)は、電極体中に概ね残留する。したがって、非水溶媒注入工程S140において注入された非水溶媒は、電極体中に残留する非水電解液と混和され得る。
【0050】
従来の製造方法において注入される非水電解液は、典型的には非水溶媒と支持塩とを含有している。ここに開示されている造粒工程S110において用いられる非水電解液は、上述したように高粘度とするため非水電解液中の支持塩濃度が高く設定されていることが好ましい。例えば、造粒工程S110において用いられる非水電解液に、二次電池として構築された際の非水電解液中の支持塩の濃度が概ね1mol/L程度となるように予め支持塩を投入しておくことにより、該非水溶媒注入工程S140においては、非水溶媒のみを注入することができる。非水溶媒は、二次電池として構築された際の非水電解液中の該支持塩の濃度が例えば0.7mol/L以上1.3mol/L以下となるように注入すればよい。
【0051】
支持塩は、主たる電解質として用いられ、非水電解液中の総イオン含有量と電解液の粘性を適度なバランスにすることができるため、必要な成分であるものの、非水電解液の保存期間延長の観点からは、非水溶媒と支持塩とは混合されていないことが好ましい。また、注入する段階において支持塩を含有しないことにより、従来の非水電解液よりも粘性が低い状態の液体(非水溶媒)を注入することができるため、注入時間が短縮される。これに加えて、電極には十分な非水電解液が含侵しているため、電極体に非水溶媒が含侵する待機時間が不要であり、このことによっても、注入工程の時間が短縮される。したがって、電池性能に悪影響を及ぼす虞がある溶媒を含まない態様であり、かつ生産コストが削減された製造方法によって、二次電池を製造することができる。
【0052】
<リチウムイオン二次電池>
以下、ここに開示される電池の製造方法によって構築され得るリチウムイオン二次電池100の一例を
図4に示している。
図4に示すリチウムイオン二次電池100は、密閉可能な箱型電池ケース50に、扁平形状の捲回電極体80と、非水電解液(図示せず)とが、収容されて構築される。電池ケース50には、外部接続用の正極端子52および負極端子54と、電池ケース50の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁56とが設けられている。また、電池ケース50には、非水電解液または非水溶媒を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子52と正極集電板52aは、電気的に接続されている。負極端子54と負極集電板54aは、電気的に接続されている。
【0053】
捲回電極体80は、典型的には長尺シート状の正極(以下、正極シート60という。)と、長尺シート状の負極(以下、負極シート70という。)とが長尺シート状のセパレータ90を介して重ね合わせられ長手方向に捲回された形態を有する。正極シート60は、正極集電体62の片面もしくは両面に長手方向に沿って正極活物質層64が形成された構成を有する。負極シート70は、負極集電体72の片面もしくは両面に長手方向に沿って負極活物質層74が形成された構成を有する。正極集電体62の幅方向の一方の縁部には、該縁部に沿って正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出した領域(すなわち、正極活物質層非形成部66)が設けられている。負極集電体72の幅方向の他方の縁部には、該縁部に沿って負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出した領域(すなわち、負極活物質層非形成部76)が設けられている。正極活物質層非形成部66と負極活物質層非形成部76には、それぞれ正極集電板52aおよび負極集電板54aが接合されている。
【0054】
正極(正極シート60)および負極(負極シート70)は、上述した製造方法により得られる正極および負極が用いられる。なお、本構成例においては、正極および負極は、電極集電体31(正極集電体62および負極集電体72)の両面に電極活物質層32(正極活物質層64および負極活物質層74)が形成されている。
【0055】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0056】
以下、ここで開示される電極に関する実施例を説明するが、ここで開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0057】
<実施例1>
下記に示す正極材料を用いて、
図1に示すフローにしたがって非水電解液二次電池を作製した。
まず、正極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒径(D
50)が20μmであるリチウム遷移金属酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、導電材としてアセチレンブラックを用意した。非水電解液としては、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF
6を4.1mol/Lの濃度で溶解させたものを用意した。かかる非水電解液の25℃における粘度を測定したところ、122mPa・sであった。
【0058】
90質量部の上記正極活物質および10質量部のアセチレンブラックを、プラネタリーミキサーに投入して混合することで、上記固形材料からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に固形分率が70質量%となるように非水電解液を添加し、さらに混合した。かかる湿潤状態の混合物を、ロールミルにより造粒して、本実施例に係る湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、得られた湿潤粉体(正極材料)を上記ロール成膜装置に供給し、別途用意したアルミ箔からなる長尺シート状の正極集電体の表面に正極活物質層を形成した。これにより、シート状の正極集電体上に正極活物質層が形成された正極シートを得た。
【0059】
次いで、負極としては、負極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒径(D50)が10μmである黒鉛粉を用意した。非水電解液としては、上記正極で用いたものを用意した。黒鉛粉に固形分率が70質量%となるように非水電解液を添加し混合した。かかる湿潤状態の混合物を、ロールミルにより造粒して、湿潤粉体(負極材料)を作製した。
得られた湿潤粉体(負極材料)を上記成膜装置に供給し別途用意した銅箔からなる長尺シート状の負極集電体の表面に負極活物質層を形成した。これにより、シート状の負極集電体上に負極活物質層が形成された負極シートを得た。
また、セパレータシートとしては、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを2枚用意した。
【0060】
作製した正極シートと、負極シートと、用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートのそれぞれに電極端子を溶接により取り付けて、これを、注入口を有する電池ケースに収容した。
かかる注入口から非水溶媒を注入し、該注入口を封口蓋により気密に封止した。なお、非水溶媒は、G4:DMC:EMC=30:40:30の体積比で含む混合溶媒を作製し、構築後の二次電池の非水電解液中の支持塩の濃度が1.0mol/Lとなるように注入した。以上のようにして、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0061】
<比較例1>
比較対象として、従来と同程度の粘度の非水電解液を用いて、電極を作製した。
まず、上記実施例1と同様の正極活物質および導電材を用意した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させたものを用意した。かかる非水電解液の25℃における粘度を測定したところ、3.1mPa・sであった。
【0062】
90質量部の上記正極活物質および10質量部のアセチレンブラックを、プラネタリーミキサーに投入して混合することで、上記固形材料からなる粉末材料の混合物を得た。得られた混合物に固形分率が70質量%となるように非水電解液を添加し、さらに撹拌した。かかる湿潤状態の混合物を、ロールミルにより造粒した。これにより、湿潤粉体(正極材料)を作製した。
次いで、得られた湿潤粉体(正極材料)を上記ロール成膜装置に供給し、別途用意したアルミ箔からなる長尺シート状の正極集電体の表面に正極活物質層を形成した。これにより、シート状の正極集電体上に正極活物質層が形成された正極シートを得た。
次いで、負極としては、負極活物質としてレーザ回折・散乱方式に基づく平均粒径(D50)が10μmである黒鉛粉を用意した。非水電解液としては、上記比較例1の正極と同様のものを用意した。黒鉛粉に固形分率が70質量%となるように非水電解液を添加し混合した。かかる湿潤状態の混合物を、ロールミルにより造粒して、湿潤粉体(負極材料)を作製した。
次いで、得られた湿潤粉体(負極材料)を上記成膜装置に供給し別途用意した銅箔からなる長尺シート状の負極集電体の表面に負極活物質層を形成した。これにより、シート状の負極集電体上に負極活物質層が形成された負極シートを得た。
また、セパレータシートとしては、PP/PE/PPの三層構造を有する多孔性ポリオレフィンシートを2枚用意した。
【0063】
作製した正極シートと、負極シートと、用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートのそれぞれに電極端子を溶接により取り付けて、これを、注入口を有する電池ケースに収容した。
かかる注入口から非水電解液を注入し、該注入口を封口蓋により気密に封止した。なお、非水電解液は、EC:DMC:EMC=30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させたものを用意した。以上のようにして、評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0064】
<活性化処理>
25℃の環境下で、各評価用リチウムイオン二次電池の活性化処理(初回充電)を行った。活性化処理は、定電流-定電圧方式とし、1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行うことで満充電状態にした。その後、1/3Cの電流値で電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行った。
【0065】
<初期抵抗測定>
活性化処理後の各評価用リチウムイオン二次電池をSOC(State of charge)27%に調整した後、-30℃の温度環境下に置いた。12Cの電流値で10秒間放電し、電圧降下量(ΔV)を求めた。かかる電圧降下量ΔVを放電電流値(12C)で除して、電池抵抗を算出し、これを初期抵抗とした。
【0066】
比較例1の初期抵抗を1としたとき、実施例1の初期抵抗は0.95であった。したがって、ここに開示される湿潤粉体は、抵抗成分となり得るバインダ樹脂と電池性能に悪影響を及ぼす虞のある溶媒とを実質的に含まないことにより、該湿潤粉体からなる電極を備える二次電池の初期抵抗を低減させることができる。すなわち、電極活物質と、非水電解液と、を含む凝集粒子によって構成されており、湿潤粉体全体を100質量%としたときに、固形分率が70質量%以上であり、25℃における粘度が25mPa・S以上である非水電解液を含む湿潤粉体は、電池性能の低下抑制と、電極密度を向上させ得る。
【0067】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定
するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、
変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 凝集粒子
2 固形成分(固相)
3 液体成分(液相)
4 空隙(気相)
20 湿潤粉体
31 電極集電体
32 電極活物質層
40 ロール成膜装置
41 第1の回転ロール(供給ロール)
42 第2の回転ロール(転写ロール)
43 バックアップロール
45 隔壁
50 電池ケース
52 正極端子
52a 正極集電板
54 負極端子
54a 負極集電板
56 安全弁
60 正極シート
62 正極集電体
64 正極活物質層
66 正極活物質層非形成部
70 負極シート
72 負極集電体
74 負極活物質層
76 負極活物質層非形成部
80 捲回電極体
90 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池