(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158281
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】再生セルロース系繊維不織布、及びその製法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4258 20120101AFI20221006BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
D04H1/4258
A61F13/511 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063056
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】田中 正信
(72)【発明者】
【氏名】米良 勇二
【テーマコード(参考)】
3B200
4L047
【Fターム(参考)】
3B200AA01
3B200AA03
3B200AA15
3B200BA08
3B200BB05
3B200BB13
3B200DC01
3B200DC02
4L047AA08
4L047AA12
4L047AB07
4L047CA12
4L047CA19
4L047CB01
4L047CC03
4L047CC04
4L047CC05
(57)【要約】
【課題】肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りが良好である不織布、及び該不織布を表面材として含む吸収性物品、並びに該不織布の製法の提供。
【解決手段】水抽出物量が1000ppm以下であり、CD方向における単位目付あたりの引張強さが0.20(N/50mm)/(g/m2)以上1.00(N/50mm)/(g/m2)以下であり、乾燥状態における地合指数が250以上400以下であり、かつ、構繊維の繊維径が5.0μm以上20.0μm以下であることを特徴とする再生セルロース系繊維の不織布、及び該不織布を表面材として含む吸収性物品、並びに該不織布の製法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水抽出物量が1000ppm以下であり、CD方向における単位目付あたりの引張強さが0.20(N/50mm)/(g/m2)以上1.00(N/50mm)/(g/m2)以下であり、乾燥状態における地合指数が250以上400以下であり、かつ、構繊維の繊維径が5.0μm以上20.0μm以下であることを特徴とする再生セルロース系繊維の不織布。
【請求項2】
目付が5g/m2以上40g/m2以下であり、かつ、厚みが0.10mm以上0.30mm以下である、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記セルロース系繊維が連続長繊維である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
繊維径が、10.0μm以上16.0μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項5】
乾燥状態におけるMD方向における表面粗さの平均偏差SMDが、1.5μm以上4.5μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項6】
脱落繊維数が350個/g以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の不織布。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の不織布を表面材として含む吸収性物品。
【請求項8】
再生セルロース系繊維のシート又はウェブに、40メッシュ以上80メッシュ以下の下層ネットを用いて、水流圧力が5MPa以上7MPa以下であり、ノズル数が1.5hole/cm2以上2.5hole/cm2以下である水流交絡を、施したのちに、乾燥を行う工程を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生セルロース系繊維不織布、及び該不織布を表面材として含む吸収性物品、並びに該不織布の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽失禁ライナー、失禁パッド、生理用ナプキン、産褥パッド、使い捨ておむつ等の吸収性物品では、人体より排泄された体液を表面材が吸収し、トップシートから吸収体へ移動していく。吸収性物品の表面材には、排出又は排泄された経血や尿等の液体を素早く吸収体に移行させる吸収性能だけでなく、着用者や取扱者に触れる表面の感触が良好であり、肌に与える刺激が少なく、摩耗による毛羽立ちや撚れが生じないという表面特性が要求される。
【0003】
以下の特許文献1と特許文献2には、合成繊維不織布に親水剤を処理したものが開示されている。特許文献1と特許文献2に記載された不織布は、撚れにくいという利点がある反面、未だ吸湿性に乏しく、高温高湿条件下での着用では、蒸れやすく、着用において不快感を生じるという問題があり、さらに、加工剤を使用しており、表面の滑らかさが十分でない為、ややかぶれ易い傾向があり、皮膚への肌触りが好ましくないという問題点もあった。
また、以下の特許文献3には、セルロース系繊維から構成される不織布が開示されている。特許文献3に記載された不織布は、吸湿性に優れるものの、表面強度に劣り、撚れやすく、繊維末端があり、肌への刺激性があるという問題があった。
また、以下の特許文献4には、セルロース系長繊維から構成される不織布が開示されている。特許文献4に記載された不織布は、吸湿性に優れるものの、表面強度や肌への刺激性の観点から、十分に満足できるレベルには至っていない。
このように、従来技術の不織布では、肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りが良好であることを高い水準で同時に満たすことができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/016343号
【特許文献2】特開平11-347062号公報
【特許文献3】特許第3200673号公報
【特許文献4】特開2004-255176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りが良好である不織布、及び該不織布を表面材として含む吸収性物品、並びに該不織布の製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、再生セルロース系繊維不織布において、構成繊維の水抽出物量、CD方向における単位目付当たりの引張強さ、乾燥状態における地合指数、及び、繊維径を、特定範囲とすることにより、前記課題を解決することができることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りのものである。
[1]水抽出物量が1000ppm以下であり、CD方向における単位目付あたりの引張強さが0.20(N/50mm)/(g/m2)以上1.00(N/50mm)/(g/m2)以下であり、乾燥状態における地合指数が250以上400以下であり、かつ、構繊維の繊維径が5.0μm以上20.0μm以下であることを特徴とする再生セルロース系繊維の不織布。
[2]目付が5g/m2以上40g/m2以下であり、かつ、厚みが0.10mm以上0.30mm以下である、前記[1]に記載の不織布。
[3]前記セルロース系繊維が連続長繊維である、前記[1]又は[2]に記載の不織布。
[4]繊維径が、10.0μm以上16.0μm以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の不織布。
[5]乾燥状態におけるMD方向における表面粗さの平均偏差SMDが、1.5μm以上4.5μm以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載の不織布。
[6]脱落繊維数が350個/g以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の不織布。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の不織布を表面材として含む吸収性物品。
[8]再生セルロース系繊維のシート又はウェブに、40メッシュ以上80メッシュ以下の下層ネットを用いて、水流圧力が5MPa以上7MPa以下であり、ノズル数が1.5hole/cm2以上2.5hole/cm2以下である水流交絡を、施したのちに、乾燥を行う工程を含む、前記[1]~[6]のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る再生セルロース系繊維不織布は、肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りが良好である不織布であるため、例えば、軽失禁ライナー、失禁パッド、生理用ナプキン、産褥パッド、使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面材として好適に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布は、水抽出物量が1000ppm以下であり、CD方向における単位目付あたりの引張強さが0.20(N/50mm)/(g/m2)以上1.00(N/50mm)/(g/m2)以下であり、乾燥状態における地合指数が250以上400以下であり、かつ、構繊維の繊維径が5.0μm以上20.0μm以下であることを特徴とする。
尚、本明細書において、乾燥状態とは、0.05m2以上の面積のセルロース不織布を、105℃で一定質量になるまで乾燥した後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置したものを意味する。
【0010】
不織布を構成する再生セルロース系繊維は、特に制限はなく、銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、テンセル(リヨセル)、ポリノジック等の再生セルロース系繊維であることができる。再生セルロース系繊維は、好ましくは銅アンモニアレーヨンである。また、この繊維は連続長繊維でも短繊維でも構わないが、連続長繊維は、短繊維のものよりもよりリントフリー性に優れ、繊維端や毛羽が少なく、繊維が不織布から脱落しにくいことから、肌等への化学的及び物理的な刺激性が少ない。また、水素結合による自己接着や高圧液体流による3次元交絡により形成されることから、繊維間の結合や交絡も強い傾向にあるため、好ましい。
不織布は、水流交絡やニードルパンチなどの結合剤を含まないノーバインダー製法が好ましい。特に、水流交絡であると、繊維同士が十分に交絡しているため、層間剥離しにくい不織布を製造しやすい。
【0011】
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布は、紡糸・水流交絡条件等の製造方法を制御することにより、特定範囲内の水抽出物量、単位目付あたりの引張強さ、地合指数、繊維径を有している。発明者らは、不織布においてこれらを調整し、組み合わせることで、吸収性物品用表面材として用いた場合に、肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りが向上することを見出した。すなわち、水抽出物量、単位目付あたりの引張強さ、地合指数を最適に制御することにより、肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りを全て満たす不織布、及び該不織布を含む吸収性物品用表面材を提供することができる。
このように、最適に調整された水抽出物量、単位目付あたりの引張強さ、地合指数、繊維径を実現することで肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りが良好である不織布を提供することが可能となった。
【0012】
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布を構成する繊維中の界面活性剤などの水溶解性不純物量を表す水抽出物量は、1000ppm以下であり、好ましくは900ppm以下、より好ましくは800ppm以下である。水抽出物量が1000ppmより多いと、肌に接触した際に、化学的刺激性があり、かぶれなどが生じる。水抽出物量をこの範囲内に調整するためには、結合剤を含まないノーバインダー製法が有効である。水抽出物量の下限は特に制限されないが、500ppm以上であってよい。
【0013】
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布を構成する繊維のCD方向における単位目付あたりの引張強さは、0.20(N/50mm)/(g/m2)以上1.00(N/(50mm)/(g/m2)以下であり、好ましくは0.30(N/50mm)/(g/m2)以上0.90(N/50mm)/(g/m2)以下であり、より好ましくは0.40(N/50mm)/(g/m2)以上0.80(N/50mm)/(g/m2)以下である。該引張強さが小さすぎると、着用時の摩耗によって、不織布表面が剥離する現象が生じる。他方、該引張強さが大きすぎると、剛性が高すぎ、肌触りが低下し、着用感に劣る。該引張強さをこの範囲内に調整するためには、繊維径を制御し、単繊維強度と繊維間の水素結合数を高める、かつ、水流交絡時の水圧(水流圧力)を高めることで、層間交絡力を高めることが有効であり、特に水流圧力が5MPa以上7MPa以下であることが好ましい。また、紡糸されたシート又はウェブを積層させる下層ネットを40メッシュ以上80メッシュ以下のものにすることも有効である。
【0014】
本明細書中、「不織布のCD方向」とは、機械進行方向(MD方向)と直交する方向をいう。但し、CD方向を判別できない場合、CD方向は、不織布の引張強さを測定した際に、最も引張強さが大きくなる引張り方向と直交する方向をいう。
【0015】
本発明において、CD方向における単位目付あたりの引張強さを規定しているのは、製法上MD方向の方がCD方向よりも交絡が強く、引張強さが強くなる傾向があり、より交絡の弱い、CD方向における引張強さを考慮することによって、不織布における繊維同士の交絡の程度を推定できるためである。
【0016】
本発明において、単位目付あたりの引張強さとは、引張強さを目付で除した商であり、目付で除しているのは、目付は一定面積あたりの質量を意味するため、目付が大きいと質量が多く、繊維量が多いことを意味し、目付が小さいと質量が小さく、繊維量が少ないことを意味し、繊維量によって、引張強さは影響を受けることから、その影響を排除するためである。
【0017】
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布の乾燥状態における地合指数は、250以上400以下であり、好ましくは300以上350以下である。地合指数が250より小さいと、不織布が均一すぎるため、保液時に肌との密着性が高くなりすぎ、肌触りに不快感を生じる。他方、地合指数が高くなりすぎると、表面凹凸が大きくなり、肌触りが劣る。地合指数をこの範囲内に調整するためには、水流交絡のノズル数を1.5hole/cm2以上2.5hole/cm2以下にし、水流本数を調整することが有効である。
【0018】
本実施形態の再生セルロース系連続長繊維不織布を構成する繊維の繊維径は、5.0μm以上20.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは7.0μm以上18.0μm以下であり、さらに好ましくは9.0μm以上16.0μm以下、よりさらに好ましくは10.0μm以上16.0μm以下である。繊維径が5.0μm以下であると、単繊維強度が低く、引張強さが低くなり、耐摩耗性に劣る。また、肌への密着性も高くなり、着用時の蒸れや不快感が生じやすくなる。他方、繊維径が20.0μm以上であると、繊維本数が少なくなり、繊維間の水素結合が少なくなり、引張強さが低くなり、耐摩耗性に劣る。また、表面凹凸が大きくなり、肌触り性にも劣る。
【0019】
上述のように、引張強さを特定の範囲内に調整するためには、単繊維強度と繊維間の水素結合数や交絡数を制御する必要がある。結合数を増やす為には、繊維本数を増やし、すなわち、繊維径を細くすることが有効であるが、単繊維強度が低下し、引張強さも低くなる。さらに、表面が密となり、地合指数が極めて小さくなり、肌への密着性が高くなりすぎ、肌触り性に不快感を生じる。また、繊維間の交絡数を増やす為には、水流交絡時の水圧を高めることが有効であるが、単に水圧を高めると、地合指数が高くなり、不織布の表面凹凸が大きくなることで肌触りが劣る。バインダーなどで繊維間を接着させようとすると、界面活性剤などにより、化学的な刺激性が増してしまう。そこで、繊維径を適切な範囲にすることで、単繊維強度を維持しながらも、繊維間の水素結合数を増やすと同時に、水流本数を減らしつつ、水圧を高めることで、引張強さと地合指数をともに特定範囲に調整することができ、耐摩耗性と肌触りを両立することができる。
【0020】
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布の目付は、5g/m2以上40g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは10g/m2以上35g/m2以下、更に好ましくは15g/m2以上30g/m2以下である。目付を範囲内にすることで、吸液性や保液性が優れるため、不快感が生じず、より好ましい。
【0021】
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布の厚みは、0.10mm以上0.30mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.15mm以上0.25mm以下である。厚みを範囲内にすることで、吸液性や保液性が優れるため、不快感が生じず、より好ましい。
【0022】
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布の乾燥状態でのMD方向における表面粗さの平均偏差SMDは、1.5μm以上4.5μm以下であることが好ましい。表面粗さを範囲内にすることで、適度な表面凹凸となり、適度な肌への密着性を示すとともに、肌触り性に優れるため、より好ましい。
【0023】
本実施形態の再生セルロース系連続長繊維不織布を構成する繊維の純水中における不織布からの脱落繊維量である脱落繊維数は、350個/g以下であることが好ましい。脱落繊維数を範囲内にすることで、着用時に不織布から脱落する繊維が、肌へ付着することを防ぐことができ、不快感を生じない。脱落繊維量の下限は特に制限されないが、100個/g以上であってよい。
【0024】
以下、本実施形態の再生セルロース系繊維不織布の製造方法について述べる。
本発明の他の実施形態は、再生セルロース系繊維のシート又はウェブに、40メッシュ以上80メッシュ以下の下層ネットを用いて、水流圧力が5MPa以上7MPa以下であり、ノズル数が1.5hole/cm2以上2.5hole/cm2以下である水流交絡を、施したのちに、乾燥を行う工程を含む、前記[1]~[6]のいずれかに記載の不織布の製造方法である。
【0025】
不織布の製造においては、水流交絡やニードルパンチなどの結合剤を含まないノーバインダー製法が有効である。特に、水流交絡であると、繊維同士が十分に交絡しているため、層間剥離しにくい不織布を作製することができる。
また、繊維同士の紡糸工程で用いる紡糸口金と原液吐出量、その中を流下させる紡糸水量によって、繊維径を変えることが可能であり、紡糸されたシートを積層させる下層ネットの形状、穴開圧力、スピードを変えることにより、表面形状、厚み、不織布の強度を変えることが可能である。
乾燥状態のCD方向における単位目付あたりの引張強さを所定の範囲にするには、水流交絡時の水圧(水流圧力)を高くすることが有効である。水圧が高いことで、繊維同士の交絡力が高まり、引張強さが高くなる。好ましい水圧は5MPa以上7MPa以下である。しかしながら、水流圧力を高めた場合、繊維がネットに食い込むことで、不織布の表面凹凸が増し、物理的刺激性が増してしまう。そこで、水流交絡のノズル数を減らす方法と組み合わせることがさらに有効となる。水流交絡ノズル数を1.5hole/cm2以上2.5hole/cm2以下の範囲に減らすことで、水流交絡本数は減るが、一つ一つの水流による衝突力を大きくさせることができる。交絡点減少により、表面凹凸を抑えながらも、衝突力向上による繊維同士の交絡力を担保し、強度を向上させることができる。
本実施形態の再生セルロース系繊維不織布の製造方法においては、上記製造条件を採用することで、水抽出物量、単位目付あたりの引張強さ、地合指数を所定範囲内に調整した。これにより、肌への優しさ、耐摩耗性、肌触り性を優れた基準で達成することができた。
【実施例0026】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
まず、実施例等で用いた物性の測定方法を説明する。
【0027】
(1)水抽出物量(ppm)
乾燥状態の不織布40gを入れたガラス瓶に蒸留水640gを加え、蓋をして16時間放置した。抽出液は、濾過することによって繊維くずを取り除いた。その後、濾過した抽出液は減圧蒸留を行い、固形抽出物質量F(g)を測定し、次式:
水抽出物量(ppm) =F/40×1000000
により抽出物量を算出した。
【0028】
(2)CD方向における単位目付あたりの引張強さ((N/50mm)/(g/m2))
MD5cm×CD10cmの不織布を、オリエンティック社製テンシロン引張り試験機を用いて、300mm/minの一定速度で測定し、その際の不織布のCD方向100%伸長時の強力を測定した。尚、測定は5回行い、その平均値を引張強さ(N/50mm)とした。この引張強度を、以下に説明する目付で除し、単位目付あたりの引張強さを算出した。
尚、上記の測定方法に即したサンプルサイズが得られない場合、5cm×5cmで代用し、サンプルサイズに応じた換算を行うことで、比較することができる。
【0029】
(3)乾燥状態における地合指数
5cm×5cm以上の不織布の地合指数を、フォーメーションテスターFMT-MIII(野村商事製)を用いて、テスターの基本的な設定は工場出荷時から変更せず、測定した。
【0030】
(4)繊維径(μm)
不織布を、卓上顕微鏡 TM4000II(日立ハイテク製)を用いて10000倍の倍率で観察し、任意の50本を選び、測定した平均値を繊維径とした。
【0031】
(5)目付(g/m2)
0.05m2以上の面積のセルロース不織布を、105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置した後、質量を測定し、不織布のm2当たりの質量(g)を求めた。この不織布状態を乾燥状態とする。
【0032】
(6)厚み(mm)
乾燥状態の不織布を、JIS-L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した。
【0033】
(7)乾燥状態における表面粗さの平均偏差SMD
7cm×17cm以上の不織布の表面粗さの平均偏差SMDを、カトーテック株式会社製のKESFB4-AUTO-Aを用いて、MD方向に沿って測定した。尚、測定は3回行い、その平均値を表面粗さの標準偏差(μm)とした。
【0034】
(8)脱落繊維量(個/g)
不織布5cm角を300mlの純水中に入れ、15分間超音波処理(BRANSON社製の超音波洗浄機B2210)を行った。濾過瓶に黒色濾紙をつけ、反応液を濾過し、黒色濾紙に付着した繊維量をカメラにて測定した(個/m2)。この繊維量を目付で除し、単位目付あたりの脱落繊維量を算出した。
【0035】
(9)着用感
被験者20人で生理用ナプキンを夏季に生理終了後3日目に1日着用し、官能評価を実施した。評価内容は、化学的な刺激性である肌への優しさ、耐摩耗性、物理的な刺激性である肌触りについて、それぞれ等級をつけた。以下の評価基準に基づき、20人の平均値をそのサンプルの官能評価の値とした。
尚、それぞれの項目において、平均4級未満の評価を好ましくないものとした。
・肌への優しさ
5級:全く気にならない。非常に快適。
4級:気にならない。快適。
3級:若干気になる。少しかぶれや不快感を生じた。
2級:気になる。かぶれや不快感を生じた。
1級:非常に気になる。非常に不快。
・耐摩耗性
5級:全く毛羽や撚れが生じない。
4級:毛羽や撚れがない。
3級:若干毛羽立つ、撚れが生じる。
2級:毛羽や撚れが目立つ。
1級:毛羽が非常に毛羽立つ、撚れている。
・肌触り
5級:非常に快適。
4級:快適。
3級:若干ざらざらしている。少し痛みや不快感を生じた。
2級:ざらざらが目立つ。痛みや不快感を生じた。
1級:非常にざらざらしている。非常に痛みや不快感を生じた。
【0036】
[実施例1]
コットンリンターを銅アンモニア溶液で溶解し、直径0.6mmの孔原液吐出孔が45個/cm2である紡糸口金を用い、1ホール当たりの吐出量が0.096cc/minにて、流下緊張下で連続してネット上に5層重ねで紡糸しシートを形成させ、6MPaの高圧水流により繊維を交絡させながらシートに貫通孔及び凹部を形成させた後、乾燥させた。また、穴開条件としては、下層ネット70メッシュ、水流交絡ノズル数は2.0hole/cm2である。尚、下層ネットスピードは41.7m/minであった。得られた不織布の水抽出物量は681ppm、単位目付あたりの引張強さは0.62(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は262、繊維径は12.4μmであった。
【0037】
[実施例2]
コットンリンターを銅アンモニア溶液で溶解し、直径0.6mmの孔原液吐出孔が45個/cm2である紡糸口金を用い、1ホール当たりの吐出量が0.13cc/minにて、流下緊張下で連続してネット上に4層重ねで紡糸しシートを形成させ、5.5MPaの高圧水流により繊維を交絡させながらシートに貫通孔及び凹部を形成させた後、乾燥させた。また、穴開条件としては、下層ネット40メッシュ、水流交絡ノズル数は2.0hole/cm2である。尚、下層ネットスピードは43.9m/minであった。得られた不織布の水抽出物量は548ppm、単位目付あたりの引張強さは0.31(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は369、繊維径は12.8μmであった。
【0038】
[実施例3]
水流交絡圧を5MPaにした以外は、実施例2と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は618ppm、単位目付あたりの引張強さは0.21(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は320、繊維径は13.0μmであった。
【0039】
[実施例4]
水流交絡圧を7MPaにした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は649ppm、単位目付あたりの引張強さは0.9(7N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は305、繊維径は12.2μmであった。
【0040】
[実施例5]
水流交絡ノズル数を2.5hole/cm2にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は588ppm、単位目付あたりの引張強さは0.78(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は252、繊維径は11.8μmであった。
【0041】
[実施例6]
水流交絡ノズル数を1.5hole/cm2にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は810ppm、単位目付あたりの引張強さは0.43(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は397、繊維径は12.3μmであった。
【0042】
[実施例7]
旭化成(株)製のベンベルグ(登録商標)短繊維(素材名キュプラ)1.7dtex×51mmの綿を用いて、スパンレース製造設備を用いて、カードウエッブを作製した。その後、油剤などの不純物を取り除くための滅菌処理を施した上で、実施例1と同様の水流交絡を実施し、乾燥させた。得られた不織布の水抽出物量は980ppm、単位目付あたりの引張強さは0.31(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は271、繊維径は12.7μmであった。
【0043】
[実施例8]
紡糸原液をコットンリンターのNメチルモルホリンNオキシドを溶媒とした凝固液に変えた以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は855ppm、単位目付あたりの引張強さは0.67(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は277、繊維径は13.2μmであった。
【0044】
[実施例9]
繊維径が5.2μmとなるように、紡口径を変えた以外にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は713ppm、単位目付あたりの引張強さは0.68(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は254であった。
【0045】
[実施例10]
繊維径が19.6μmとなるように、紡口径を変えた以外にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は661ppm、単位目付あたりの引張強さは0.57(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は385であった。
【0046】
[比較例1]
水流交絡圧を4MPaにした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は690ppm、単位目付あたりの引張強さは0.18(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は255、繊維径は12.9μmであった。実施例1と比較し、引張強さが小さく、耐摩耗性に支障をきたしていた。
【0047】
[比較例2]
水流交絡圧を8MPaにした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は814ppm、単位目付あたりの引張強さは1.20(N/50mm)(g/m2)、乾燥状態における地合指数は380、繊維径は12.1μmであった。実施例1と比較し、引張強さが大きく、耐摩耗性に優れていたものの、表面凹凸が大きく、肌触り性に支障をきたしていた。
【0048】
[比較例3]
水流交絡ノズル数を2.9hole/cm2にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は751ppm、単位目付あたりの引張強さは0.82(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は244、繊維径は12.6μmであった。実施例1と比較し、地合指数が小さく、密着性が高すぎるために、肌触り性に支障をきたしていた。
【0049】
[比較例4]
水流交絡ノズル数を1.3hole/cm2にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は720ppm、単位目付あたりの引張強さは0.67(N/(50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は412、繊維径は13.1μmであった。実施例1と比較し、地合指数が大きく、表面凹凸が大きいために、肌触り性に支障をきたしていた。
【0050】
[比較例5]
旭化成(株)製のベンベルグ(登録商標)短繊維(素材名キュプラ)1.7dtex×51mmの綿を用いて、スパンレース製造設備を用いて、カードウエッブを作製した。その後、滅菌処理を施さず、比較例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は1087ppm、単位目付あたりの引張強さは0.16(N/(50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は260、繊維径は11.5μmであった。肌への優しさ、耐摩耗性、肌触り性のすべてに支障をきたしていた。
【0051】
[比較例6]
市販の再生セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布、ヤコブ・ホルム社製ソンタラ(商品名))の特性測定と評価を行なった。得られた不織布の水抽出物量は2600ppm、単位目付あたりの引張強さは0.95(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は302、繊維径は12.3μmであった。実施例1と比較し、耐摩耗性に特段問題はなかったが、不純物量が多く、かぶれを生じた被験者もおり、繊維末端によるちくちくとした刺激性も生じた。
【0052】
[比較例7]
特開2004-255176号公報実施例1に記載の条件で不織布を得た。尚、穴開条件としては、3MPaの高圧水流、下層ネット40メッシュ、水流交絡ノズル数は2.9hole/cm2とした。得られた不織布の水抽出物量は823ppm、単位目付あたりの引張強さは0.14(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は203、繊維径は4.1μmであった。耐摩耗性および肌触り性に支障をきたしていた。
【0053】
[比較例8]
特開平9-154870号公報実施例2に記載の条件で不織布を得た。尚、穴開条件としては、3MPaの高圧水流、下層ネット40メッシュ、水流交絡ノズル数は2.9hole/cm2とした。得られた不織布の水抽出物量は769ppm、単位目付あたりの引張強さは0.18(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は219、繊維径は11.2μmであった。耐摩耗性および肌触り性に支障をきたしていた。
【0054】
[比較例9]
特許6680950号公報実施例2に記載の条件で不織布を得た。尚、穴開条件としては、3MPaの高圧水流、下層ネット40メッシュ、水流交絡ノズル数は2.9hole/cm2とした。得られた不織布の水抽出物量は1368ppm、単位目付あたりの引張強さは0.50(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は156、繊維径は13.0μmであった。耐摩耗性に特段問題はなかったが、かぶれを生じた被験者がいた。
【0055】
[比較例10]
繊維径が4.8μmとなるように、紡口径を変えた以外にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は713ppm、単位目付あたりの引張強さは0.18(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は250であった。耐摩耗性および肌触り性に支障をきたしていた。
【0056】
[比較例11]
繊維径が21.4μmとなるように、紡口径を変えた以外にした以外は、実施例1と同様の方法で不織布を得た。得られた不織布の水抽出物量は681ppm、単位目付あたりの引張強さは0.16(N/50mm)/(g/m2)、乾燥状態における地合指数は392であった。耐摩耗性および肌触り性に支障をきたしていた。
【0057】
実施例1~10、比較例1~11で得た不織布の各種物性等を以下の表1に示す。
【0058】
本発明に係る再生セルロース系繊維不織布は、肌に優しく、耐摩耗性に優れ、肌触りが良好である不織布材料であるため、例えば、軽失禁ライナー、失禁パッド、生理用ナプキン、産褥パッド、使い捨ておむつ等の吸収性物品の表面材として好適に利用可能である。