(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158284
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】扁平形電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/198 20210101AFI20221006BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20221006BHJP
H01M 50/186 20210101ALI20221006BHJP
【FI】
H01M50/198
H01M50/184 E
H01M50/186
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063060
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】能勢 学
(72)【発明者】
【氏名】大野 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】田川 博文
【テーマコード(参考)】
5H011
【Fターム(参考)】
5H011FF03
5H011GG02
5H011HH02
5H011JJ12
5H011KK00
5H011KK01
5H011KK02
(57)【要約】
【課題】封止性に優れた扁平形電池を提供する。
【解決手段】本願の扁平形電池は、電池容器と、前記電池容器内に収容された発電要素とを備え、前記電池容器は、底面部と周壁部とを有する外装缶と、封口体と、前記外装缶と前記封口体との間に配置された環状のガスケットとにより構成され、前記ガスケットの外周側は、前記外装缶の周壁部の内面に接しており、前記ガスケットは、引張弾性率が1000MPa以上の樹脂を母材として構成され、前記ガスケットの外周側の表面部が、前記母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池容器と、前記電池容器内に収容された発電要素とを含む扁平形電池であって、
前記電池容器は、底面部と周壁部とを有する外装缶と、封口体と、前記外装缶と前記封口体との間に配置された環状のガスケットとにより構成され、
前記ガスケットの外周側は、前記外装缶の周壁部の内面に接しており、
前記ガスケットは、引張弾性率が1000MPa以上の樹脂を母材として構成され、
前記ガスケットの外周側の表面部が、前記母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成されている扁平形電池。
【請求項2】
前記母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成された部分の厚みが、0.05~0.2mmである請求項1に記載の扁平形電池。
【請求項3】
前記母材よりも引張弾性率が低い樹脂の引張弾性率が、250~600MPaである請求項1または2に記載の扁平形電池。
【請求項4】
前記母材よりも引張弾性率が低い樹脂の引張弾性率が、前記母材の引張弾性率の70%以下の値である請求項1~3のいずれかに記載の扁平形電池。
【請求項5】
前記ガスケットの底面側が、前記外装缶の底面部の内面に接しており、
前記ガスケットの底面側の表面部も、前記母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成されている請求項1~4のいずれかに記載の扁平形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、封止性に優れた扁平形電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コイン形電池やボタン形電池などと称される扁平形状の電池が知られている。このような扁平形電池においては、外装缶と封口体との間にガスケットを介在させ、外装缶の開口端部を内方にかしめることによって形成した電池容器を使用している。このように扁平形電池においては、外装缶と封口体との間にガスケットを配置してかしめることにより、電池容器を封口して密閉化している。
【0003】
しかし、ガスケットを用いて電池容器を密閉化した扁平形電池では、封口部における僅かな隙間から、電池の電気化学反応により生じたガスや電解液がリークし、電池性能の低下や、安全性が損なわれるおそれがある。
【0004】
上記問題を解決するために種々の提案がなされており、例えば、特許文献1では、上記ガスケットに相当する絶縁パッキングにおいて、その基体となる第1の樹脂の表面を、その第1の樹脂より柔軟性を有し、化学蒸着により形成された第2の樹脂層で被覆した密閉型電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で提案された密閉型電池の効果は、円筒形電池に適用されて確認されたものであり、扁平形電池に適用するには更なる検討が必要である。そこで、本発明者らが外装缶とガスケットとを用いて扁平形電池の構造解析を行ったところ、一定の条件を満たせば外装缶とガスケットとの接触圧を向上できることが判明し、気密性及び耐漏液性がより向上した扁平形電池が実現できることが明らかとなった。
【0007】
本願は、上記状況下でなされたものであり、封止性に優れた扁平形電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の扁平形電池は、電池容器と、前記電池容器内に収容された発電要素とを含み、前記電池容器は、底面部と周壁部とを有する外装缶と、封口体と、前記外装缶と前記封口体との間に配置された環状のガスケットとにより構成され、前記ガスケットの外周側は、前記外装缶の周壁部の内面に接しており、前記ガスケットは、引張弾性率が1000MPa以上の樹脂を母材として構成され、前記ガスケットの外周側の表面部が、前記母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本願によれば、封止性に優れた扁平形電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の扁平形電池を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3Aは、外装缶とガスケットとを用いた構造解析のかしめ前の構造1を示す部分断面図であり、
図3Bは、外装缶とガスケットとを用いた構造解析のかしめ前の構造2を示す部分断面図である。
【
図4】
図4Aは、構造1の表面部の樹脂の引張弾性率を変えて外装缶とガスケットとの接触圧を計算した結果を示す図であり、
図4Bは、構造2の表面部の樹脂の引張弾性率を変えて外装缶とガスケットとの接触圧を計算した結果を示す図である。
【
図5】
図5Aは、構造1のrefをかしめた状態の断面図であり、
図5Bは、構造1のcase1-1をかしめた状態の断面図である。
【
図6】
図6Aは、構造2のrefをかしめた状態の断面図であり、
図6Bは、構造2のcase2-1をかしめた状態の断面図である。
【
図7】
図7Aは、構造1の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧を計算した結果を示す図であり、
図7Bは、構造2の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧を計算した結果を示す図である。
【
図8】
図8Aは、構造1の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値を計算した結果を示す図であり、
図8Bは、構造2の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値を計算した結果を示す図である。
【
図9】
図9A~Dは、構造1の端部Tの全体の厚さを0.3mmとして、端部Tの表面部の厚さを0.05~0.2mmに変化させた図である。
【
図10】
図10Aは、
図9A~Dに示した構造1の表面部の樹脂の引張弾性率及び表面部の厚さと、外装缶とガスケットとの最大接触圧との関係を、refのガスケットを基準とする相対比で示した図であり、
図10Bは、
図9A~Dに示した構造1の表面部の樹脂の引張弾性率及び表面部の厚さと、外装缶とガスケットとの接触圧積分値との関係を、refのガスケットを基準とする相対比で示した図である。
【
図11】
図11Aは、構造1のガスケットの母材をPPとPPSとの2種類を用い、それぞれの表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧を計算した結果を示す図であり、
図11Bは、構造1のガスケットの母材をPPとPPSとの2種類を用い、それぞれの表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値を計算した結果を示す図である。
【
図12】
図12Aは、構造1のガスケットの母材をPPとPPSとの2種類を用い、母材の引張弾性率に対するそれぞれの表面部の樹脂の引張弾性率の比を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧を計算した結果を、母材と表面部の樹脂の引張弾性率が等しい場合を基準とする相対比で示す図であり、
図12Bは、構造1のガスケットの母材をPPとPPSとの2種類を用い、母材の引張弾性率に対するそれぞれの表面部の樹脂の引張弾性率の比を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値を計算した結果を、母材と表面部の樹脂の引張弾性率が等しい場合を基準とする相対比で示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願の扁平形電池の実施形態は、電池容器と、上記電池容器内に収容された発電要素とを備え、上記電池容器は、底面部と周壁部とを有する外装缶と、封口体と、上記外装缶と上記封口体との間に配置された環状のガスケットとにより構成され、上記ガスケットの外周側は、上記外装缶の周壁部の内面に接しており、上記ガスケットは、引張弾性率が1000MPa以上の樹脂を母材として構成され、上記ガスケットの外周側の表面部が、上記母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成されている。
【0012】
本実施形態の扁平形電池は、上記構成を備えることにより、外装缶とガスケットとの接触状態を向上でき、気密性及び耐漏液性に優れ、封止性を向上させることができる。また、上記構成は、後述する外装缶とガスケットとを用いた構造解析の結果から導いたものである。
【0013】
電池業界においては、高さより径の方が大きい扁平形電池をコイン形電池と呼んだり、ボタン形電池と呼んだりしているが、そのコイン形電池とボタン形電池との間に明確な差はなく、本実施形態の扁平形電池には、コイン形電池、ボタン形電池のいずれもが含まれる。
【0014】
以下、本実施形態の扁平形電池を図面に基づき説明する。
【0015】
図1は、本実施形態の扁平形電池の模式断面図であり、
図2は、
図1のA部の拡大図である。
図1に示す扁平形電池10は、正極11、セパレータ12及び負極13を積層してなる発電要素が、外装缶14及び封口体15、更には環状のガスケット16で構成された電池容器内に収容されて構成されている。封口体15は、外装缶14の開口部にガスケット16を介して嵌合しており、外装缶14の開口端部14aがかしめによって内方に締め付けられ、これによってガスケット16が封口体15に当接することで、外装缶14の開口部が封口されて電池内部が密閉構造となっている。また、外装缶14の開口端部14aのかしめによって、ガスケット16の底面部が封口体15の開口端部15aによって圧縮され、強固な密閉構造を実現している。
【0016】
また、本実施形態の扁平形電池では
図2に示すように、ガスケット16の外周側は、外装缶14の周壁部14bの内面に接しており、ガスケット16の底面側が、外装缶14の底面部14cの内面に接している。更に、ガスケット16は、引張弾性率が1000MPa以上の樹脂R1を母材として構成され、ガスケット16の外周側及び底面側の表面部は、いずれも上記母材よりも引張弾性率が低い樹脂R2で構成されている。
【0017】
本実施形態では、ガスケット16の外周側及び底面側の表面部は、いずれも上記母材よりも引張弾性率が低い樹脂R2で構成されている例を示したが、ガスケット16の外周側の表面部のみが、上記母材よりも引張弾性率が低い樹脂R2で構成されていてもよい。
【0018】
ガスケット16の母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成された部分の厚みは、0.05~0.2mmであることが好ましく、0.1~0.15mmであることがより好ましい。また、ガスケット16の母材よりも引張弾性率が低い樹脂の引張弾性率は、250~600MPaであることが好ましい。前記樹脂の引張弾性率が250MPaより低くなった場合には、外装缶とガスケットとの接触圧が低下し、却って封止性が損なわれる可能性があるため、前記樹脂の引張弾性率は250MPa以上とすることが好ましい。更に、ガスケット16の母材よりも引張弾性率が低い樹脂の引張弾性率は、上記母材の引張弾性率の70%以下の値であることが好ましく、50%以下の値であることがより好ましい。
【0019】
本実施形態の扁平形電池の上記好ましい構成も、外装缶とガスケットとを用いた構造解析の結果から導いたものである。
【0020】
以下、外装缶とガスケットとを用いた構造解析について説明する。
【0021】
<構造解析ソフト>
本構造解析では、Livermore Software Technology社製の汎用構造解析ソフト「LS-DYNA」を用いた。
【0022】
<構造解析構造>
構造解析のかしめ前の構造としては、
図3に示す2種類を用いた。但し、
図3では、前述の
図2の上下を逆にした部分断面図として示している。
図3Aに示す構造1は、外装缶14の上に、ガスケット16の外周側の表面部16bのみが、ガスケット16の母材16aと異なる引張弾性率を有する樹脂で構成されているものである。また、
図3Bに示す構造2は、外装缶14の上に、ガスケット16の外周側及び底面側の表面部16b、16cが共に、ガスケット16の母材16aと異なる引張弾性率を有する樹脂で構成されているものである。
図3A、
図3Bにおいて、ガスケット16の端部Tの全体の厚さは0.3mm、端部Tの表面部16bの厚さは0.1mmに設定した。
【0023】
<表面部の樹脂の引張弾性率の影響1>
図4Aは、上記構造1の表面部の樹脂の引張弾性率を変えて外装缶とガスケットとの接触圧を計算した結果を示す図である。
図4Bは、上記構造2の表面部の樹脂の引張弾性率を変えて外装缶とガスケットとの接触圧を計算した結果を示す図である。
【0024】
図4A、
図4Bにおいて、レファレンス(ref)として引張弾性率1372MPaの樹脂のみで形成したガスケットを用い、母材を引張弾性率1372MPaの樹脂で形成し、表面部(厚さ0.1mm)を引張弾性率300MPaの樹脂で形成したガスケットを用いた場合をcase1-1、case2-1とし、母材を引張弾性率1372MPaの樹脂で形成し、表面部(厚さ0.1mm)を引張弾性率2000MPaの樹脂で形成したガスケットを用いた場合をcase1-2、case2-2として示した。
図4Aにおいて、横軸は、
図3Aのa点からb点までの外装缶とガスケットとの接触部の長さを示し、縦軸は外装缶とガスケットとの接触圧を示す。
図4Bにおいて、横軸は、
図3Bのa点からb点までの外装缶とガスケットとの接触部の長さを示し、縦軸は外装缶とガスケットとの接触圧を示す。上記引張弾性率が1372MPaの樹脂としては、ポリプロピレン(PP)を想定している。
【0025】
図5Aは、上記構造1のrefをかしめた状態の断面図であり、
図5Bは、上記構造1のcase1-1をかしめた状態の断面図である。
図4Aにおいて、ピーク1(P1)は、
図5A、
図5BのP1付近の接触圧を示し、ピーク2(P2)は、
図5A、
図5BのP2付近の接触圧を示し、ピーク3(P3)は、
図5A、
図5BのP3付近の接触圧を示す。
【0026】
図6Aは、上記構造2のrefをかしめた状態の断面図であり、
図6Bは、上記構造2のcase2-1をかしめた状態の断面図である。
図4Bにおいて、ピーク1(P1)は、
図6A、
図6BのP1付近の接触圧を示し、ピーク2(P2)は、
図6A、
図6BのP2付近の接触圧を示し、ピーク3(P3)は、
図6A、
図6BのP3付近の接触圧を示す。
【0027】
図4A及び
図4Bから、refに対して、ガスケットの外周側の表面部が、母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成されているcase1-1、及び、ガスケットの外周側及び底面側の表面部が、母材よりも引張弾性率が低い樹脂で構成されているcase2-1は、外装缶とガスケットとのP1での接触圧が向上していることが分かる。
【0028】
<表面部の樹脂の引張弾性率の影響2>
図7Aは、上記構造1の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧(
図4AのP1)を計算した結果を示す図である。
図7Bは、上記構造2の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧(
図4BのP1)を計算した結果を示す図である。
【0029】
図7Aから、上記構造1では、表面部の樹脂の引張弾性率を300MPaにすることで、refに比べて接触圧を約50%向上できることが分かる。また、
図7Bから、表面部の樹脂の引張弾性率を500MPa付近にすることで、refに比べて接触圧を向上できることが分かる。
【0030】
<表面部の樹脂の引張弾性率の影響3>
図8Aは、上記構造1の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値(
図4Aのグラフの全面積)を計算した結果を示す図である。
図8Bは、上記構造2の表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値(
図4Bのグラフの全面積)を計算した結果を示す図である。
【0031】
図8A及び
図8Bから、表面部の引張弾性率が低下するにつれて接触圧積分値も増加することが分かる。
【0032】
<表面部の樹脂の引張弾性率と表面部の厚さとの関係>
図9A~Dは、上記構造1の端部Tの全体の厚さを0.3mmとして、端部Tの表面部の厚さを0.05~0.2mmに変化させた図である。
【0033】
図10Aは、
図9A~Dに示した構造1の表面部の樹脂の引張弾性率及び表面部の厚さと、外装缶とガスケットとの最大接触圧との関係を、refのガスケットを基準とする相対比で示した図である。また、
図10Bは、
図9A~Dに示した構造1の表面部の樹脂の引張弾性率及び表面部の厚さと、外装缶とガスケットとの接触圧積分値との関係を、refのガスケットを基準とする相対比で示した図である。
【0034】
最大接触圧を示した
図10Aから、ガスケットの全体の厚さを0.3mmとした場合、上記構造1ではその表面部の厚さは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.2mm以下であることが好ましく、0.15mm以下であることがより好ましいことが分かる。また、接触圧積分値を示した
図10Bから、ガスケットの全体の厚さを0.3mmとした場合、上記構造1ではその表面部の厚さは、0.1~0.2mmが好ましいと思われる。
【0035】
<表面部の樹脂の検討>
前述の
図10Aから、ガスケットの全体の厚さを0.3mmとした場合、その表面部の樹脂の引張弾性率は、250~600MPaが好ましいことが分かる。引張弾性率が250~600MPaの範囲に入る具体的な樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、310~350MPa)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、350MPa)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、410MPa)などが挙げられる。
【0036】
また、引張弾性率が250~600MPaの樹脂系材料としては、樹脂とゴムとの混合材料を用いることができる。上記混合材料に用いる樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン系樹脂;PFA、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)などのフッ素樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)などが挙げられる。また、上記混合材料に用いるゴムとしては、例えば、天然ゴム(3~30MPa)、ニトリルゴム(5~25MPa)、エチレン・プロピレンゴム(5~20MPa)、クロロプレンゴム(5~25MPa)、シリコーンゴム(4~10MPa)、フッ素ゴム(7~20MPa)、エチレン・酢酸ビニルゴム(7~20MPa)などが挙げられる。上記混合材料の引張弾性率は、上記樹脂と上記ゴムとの混合比を変えることにより調整することができる。
【0037】
<母材の材質の影響1>
図11Aは、上記構造1のガスケットの母材をPP(引張弾性率:1372MPa)とPPS(引張弾性率:3300MPa)との2種類を用い、それぞれの表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧を計算した結果を示す図である。
図11Bは、上記構造1のガスケットの母材をPP(引張弾性率:1372MPa)とPPS(引張弾性率:3300MPa)との2種類を用い、それぞれの表面部の樹脂の引張弾性率を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値を計算した結果を示す図である。上記構造1では、前述のとおり、ガスケットの端部Tの全体の厚さは0.3mm、端部Tの表面部の厚さは0.1mmに設定している。
【0038】
図11A、
図11Bから、母材の樹脂としては、引張弾性率が約1000~3500MPaの範囲の樹脂が使用できることが推定できる。引張弾性率が約1000~3500MPaの範囲に入るPP、PPS以外の樹脂としては、例えば、メタクリル樹脂(PMMA、3000MPa)、ポリカーボネート(PC、2880MPa)、MCナイロン(3500MPa)、ナイロン66(2900MPa)、ポリアセタール(3500MPa)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、2140MPa)などが挙げられる。
【0039】
上記母材を形成する樹脂は、2種以上を成形して用いることができる。例えば、母材をコア・シェル構造とし、コア部に上記母材の樹脂の内で比較的引張弾性率が高い樹脂を用い、シェル部に比較的引張弾性率が低い樹脂を用いることができる。
【0040】
<母材の材質の影響2>
図12Aは、上記構造1のガスケットの母材をPP(引張弾性率:1372MPa)とPPS(引張弾性率:3300MPa)との2種類を用い、母材の引張弾性率に対するそれぞれの表面部の樹脂の引張弾性率の比を変化させて外装缶とガスケットとの最大接触圧を計算した結果を、母材と表面部の樹脂の引張弾性率が等しい場合を基準とする相対比で示す図である。
図12Bは、上記構造1のガスケットの母材をPP(引張弾性率:1372MPa)とPPS(引張弾性率:3300MPa)との2種類を用い、母材の引張弾性率に対するそれぞれの表面部の樹脂の引張弾性率の比を変化させて外装缶とガスケットとの接触圧積分値を計算した結果を、母材と表面部の樹脂の引張弾性率が等しい場合を基準とする相対比で示す図である。上記構造1では、前述のとおり、ガスケットの端部Tの全体の厚さは0.3mm、端部Tの表面部の厚さは0.1mmに設定した。
【0041】
図12A、
図12Bから、外装缶とガスケットとの接触圧を高めるためには、ガスケットの外周側の表面部を構成する樹脂の引張弾性率を、母材の引張弾性率の70%以下の値とすることが好ましく、50%以下の値とすることがより好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0042】
10 扁平形電池
11 正極
12 セパレータ
13 負極
14 外装缶
14a 開口端部
14b 周壁部
14c 底面部
15 封口体
15a 開口端部
16 ガスケット
16a 母材
16b ガスケットの外周側の表面部
16c ガスケットの底面側の表面部