(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158285
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】多条植え苗移植機
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20221006BHJP
A01C 15/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A01C11/02 320A
A01C15/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063061
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 正道
(72)【発明者】
【氏名】今泉 大介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悠未
(72)【発明者】
【氏名】堀田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】沖本 章
【テーマコード(参考)】
2B052
2B062
【Fターム(参考)】
2B052BC05
2B052BC09
2B052BC16
2B052DB01
2B052EA02
2B052EB02
2B062AA05
2B062AA09
2B062AB01
2B062AB07
2B062CA14
(57)【要約】
【課題】本発明では、苗植付装置を複数横配列した多条植え苗移植機において、各苗植付装置と共に昇降するフロートの昇降を簡単な構成で抑えて苗の移植深さを均等にすることを課題とする。
【解決手段】走行車体2の後部に昇降リンク装置71で苗植付部60を装着した苗移植機1において、苗植付部60の左右中央に配置する中央植付装置61aのメインフロート81aに植付深さ調節装置80を設け、該中央植付装置61aの左右側部に配置する側部植付装置61b,61cのサイドフロート81b,81cの先端昇降を規制する規制部材82を苗植付部60に設けたことを特徴とする多条植え苗移植機とする。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)の後部に昇降リンク装置(71)で苗植付部(60)を装着した苗移植機(1)において、苗植付部(60)の左右中央に配置する中央植付装置(61a)のメインフロート(81a)に植付深さ調節装置(80)を設け、該中央植付装置(61a)の左右側部に配置する側部植付装置(61b,61c)のサイドフロート(81b,81c)の先端昇降を規制する規制部材(82)を苗植付部(60)に設けたことを特徴とする多条植え苗移植機。
【請求項2】
サイドフロート(81b,81c)の上昇を規制する規制部材(82)はメインフロート(81a)の昇降を規制しないことを特徴とする請求項1に記載の多条植え苗移植機。
【請求項3】
苗植付部(60)に肥料を送る施肥装置(100)を走行車体(2)の左右に配置するに際し、左右片側の前後に配置する肥料貯留ホッパ(103)の数を他側よりも多くし少ない側の肥料貯留ホッパ(103)側部にブロア(118)を配置したことを特徴とする請求項1或いは2項に記載の多条植え苗移植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場に多条の苗を移植する多条植え苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
苗移植機は、作業効率を良くするために特開2015-163057号公報等に記載の八条や十条の苗を同時に移植できるようにした多条植え苗移植機が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多条植え苗移植機は、走行車体の後部に二条分の苗を移植する苗植付装置を複数横に配列し、圃場を均すフロートと共に各苗植付装置を昇降機構で昇降するようにしているので、構成が複雑になる。また、圃場の凹凸が均されていないと左右に並んだフロートが各別に昇降することで苗の植付深さが均等にならず、苗の成長が部分的に悪くなる問題がある。
【0005】
そのために、本発明では、苗植付装置を複数横配列した多条植え苗移植機において、各苗植付装置と共に昇降するフロートの昇降を簡単な構成で抑えて苗の移植深さを均等にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
【0007】
請求項1の発明は、走行車体2の後部に昇降リンク装置71で苗植付部60を装着した苗移植機1において、苗植付部60の左右中央に配置する中央植付装置61aのメインフロート81aに植付深さ調節装置80を設け、該中央植付装置61aの左右側部に配置する側部植付装置61b,61cのサイドフロート81b,81cの先端昇降を規制する規制部材82を苗植付部60に設けたことを特徴とする多条植え苗移植機とする。
【0008】
請求項2の発明は、サイドフロート81b,81cの上昇を規制する規制部材82はメインフロート81aの昇降を規制しないことを特徴とする請求項1に記載の多条植え苗移植機とする。
【0009】
請求項3の発明は、苗植付部60に肥料を送る施肥装置100を走行車体2の左右に配置するに左右片側の前後に配置する肥料貯留ホッパ103の数を他側よりも多くし少ない側の肥料貯留ホッパ103側部にブロア118を配置したことを特徴とする請求項1或いは2項に記載の多条植え苗移植機とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明で、走行車体2の後部に設ける苗植付部60はメインフロート81aの植付深さ調節装置80で昇降して苗の植付深さが調整されるが、側部植付装置61b,61cのサイドフロート81b,81cの先端昇降が苗植付部60に設ける規制部材82で規制されることで、サイドフロート81b,81cの上昇が抑えられて側部植付装置61b,61cで移植される苗の植付深さが大きく変動することなく、苗植付部60の左右で略均等になる。また、単体の規制部材82でサイドフロート81b,81cの上がり過ぎが防がれるので構成が簡単である。
【0011】
請求項2の発明で、請求項1の効果に加えて、メインフロート81aに設ける植付深さ調節装置80で苗植付部60が圃場面の凹凸に対応して昇降し、それに応じてサイドフロート81b,81cも昇降するので、移植される苗の植付深さが安定する。
【0012】
請求項3の発明で、請求項1或いは2項の効果に加えて、走行車体2上の肥料貯留ホッパ103の数が少ない側にブロア118を設けているので、走行車体2上のフロアスペースが広くなり作業者が苗補充などの作業が行い易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る苗移植機の側面図である。
【
図10】本発明の実施形態の苗植付部の一部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、実施形態に係る苗移植機の側面図である。
図2は、実施形態に係る苗移植機の平面図である。なお、以下の説明においては、前後、左右の方向基準は、操縦席からみて、車体の走行方向を基準として、前後、左右の基準を規定している。本実施形態に係る苗移植機1は、作業者が乗車して植え付け作業を行う、いわゆる乗車型の苗移植機1として構成されている。この苗移植機1の走行車体2は、左右一対で配設される前輪5と、同様に左右一対で配設される後輪10とを有しており、走行時には各車輪が駆動する四輪駆動車としている。また、前輪5は、後輪10よりも前方側に位置し、操舵輪として設けられている。また、走行車体2の後部には、苗植付部昇降機構70によって昇降可能な苗植付部60が備えられている。
【0015】
なお、
図8に示すように、後輪10の内側には、後輪10の車軸を介して、補助車輪10aを着脱自在に装着する。この補助車輪10aは後輪10と略同径とし、後輪10と共に圃場に接地することにより、機体の推進力を発生させる構成とする。これにより、圃場の抵抗により機体が走行できなくなることが防止される。
【0016】
この走行車体2は、車体の略中央に配置されたメインフレーム3と、このメインフレーム3の上に搭載されたエンジン20と、エンジン20で発生した動力を駆動輪と苗植付部60とに伝える動力伝達装置25と、を備えている。つまり、本実施形態に係るこの苗移植機1では、動力源であるエンジン20の動力が走行車体2を前進や後進させるために用いるのみでなく、苗植付部60を駆動させるためにも使用され、ディーゼル機関やガソリン機関等の熱機関が用いられる。
【0017】
また、エンジン20は、走行車体2の左右方向における略中央で、且つ、機体の搭乗ステップであるフロアステップ40よりも上方に突出させた状態で配置されている。このフロアステップ40は、左右方向において機体中央に位置するメインステップ41と、メインステップ41の左右両側に位置するサイドステップ42と、で構成されており、メインステップ41は、サイドステップ42よりも上方に位置している。また、フロアステップ40は、走行車体2の前部とエンジン20の後部との間に渡って設けられており、メインフレーム3上に取り付けられており、その一部が網目状になることにより、靴に付いた泥を圃場に落とせるようになっている。また、このフロアステップ40の左右方向における両側には、作業者がフロアステップ40に乗り降りする際に足をかける乗降ステップ45が配設されている。
【0018】
また、フロアステップ40の後方には、後輪10のフェンダを兼ねた後部ステップであるリアステップ47が設けられている。このリアステップ47は、フロアステップ40よりも高い位置に配設されており、エンジン20の左右それぞれの側方から後方にかけて配置されている。
【0019】
また、このリアステップ47の後端部から両側端部にかけて、手摺り48が配設されている。この手摺り48は、リアステップ47から上方に突出して設けられている。この手摺り48は、リアステップ47の左右両側に立設する、走行車体2の側方から乗り降りする作業者が手で掴む左右の側方手摺り48aと、該左右の側方手摺り48aの上部を連結する後部手摺り48bを組み合わせて構成する。なお、後部手摺り48bは、リアステップ47の後端部の上方に配置されると共に、左右の側方手摺り48aよりも左右両側に突出するものである。
【0020】
エンジン20は、これらのフロアステップ40とリアステップ47とから上方に突出しており、これらのステップから突出している部分には、エンジン20を覆うエンジンカバー21が配設されている。即ち、エンジンカバー21は、フロアステップ40とリアステップ47とから上方に突出した状態で、エンジン20を覆っている。
【0021】
また、走行車体2には、エンジンカバー21の上部に操縦席55が設置されており、操縦席55の前方で、且つ、走行車体2の前側中央部には、操縦部50が配設されている。
【0022】
エンジンカバー21は前後に分割され、操縦席55を付けたままで側方から差し込んで組付け、前後をノブボルトで固定している。
【0023】
操縦部50は、フロアステップ40の床面から上方に突出した状態で配置され、その内部には、各種の操作装置やエンジン用燃料の燃料タンク等が配設されており、操縦部50の前部には、開閉可能なフロントカバー51が設けられている。また、操縦部50の上部には、操作装置を作動させる操作レバー等や計器類、ハンドル52が配設されている。このハンドル52は、作業者が前輪5を操舵操作することにより走行車体2を操舵する操舵部材として設けられており、操縦部50内の操作装置等を介して前輪5を転舵させることが可能になっている。また、レバーとしては、走行車体2の前後進及び走行速度を操作する走行操作部材である変速レバーと、苗植付部60の動作状態を、少なくとも苗植付部昇降機構70による上昇状態を含んで切り替えることができる植付操作部材である植付昇降レバーとが配設されている。
【0024】
図3は、
図1に示す予備苗枠の説明図である。
図4は、
図3のA-A矢視図である。フロアステップ40における操縦部50の左右それぞれの側方に位置する部分、即ち、機体前側には、補充用の苗を載積する予備苗枠90が配設されている。この予備苗枠90は、外側端部が左右方向における機体のフロアステップ40の外側端部からはみ出さない位置となって設けられており、フロアステップ40の床面から突出した支持軸91によって支持されている。支持軸91は、予備苗枠90に対して、予備苗枠90の前後方向における中心付近に接続されている。
【0025】
また、このように配設される予備苗枠90の下部には、予備苗枠90の前後方向における中心よりも機体後ろ側に、苗移植機1が有する各電気装置で使用する電気を蓄電するバッテリ95が配設されている。即ち、バッテリ95は、フロアステップ40上における支持軸91の前後方向の中心位置を基準として、該前後方向の中心位置よりも後方側に配設されている。
【0026】
また、動力伝達装置25は、エンジン20で発生した動力を変速する主変速機としての油圧式無段変速装置26と、この油圧式無段変速装置26にエンジン20からの動力を伝えるベルト式動力伝達機構27とを有している。このうち、油圧式無段変速装置26とは、HST(HydroStaticTransmission)と云われる静油圧式の無段変速機として構成されている。このため、油圧式無段変速装置26は、エンジン20からの動力で駆動する油圧ポンプによって油圧を発生させ、この油圧を油圧モータで機械的な力(回転力)に変換して出力する。
【0027】
この油圧式無段変速装置26は、エンジン20よりも前方で、且つ、フロアステップ40の床面よりも下方に配置されており、本実施形態1に係る苗移植機1では、走行車体2の上面から見て、エンジン20の前方に配置されている。
【0028】
また、ベルト式動力伝達機構27は、エンジン20の出力軸に取り付けたプーリと、油圧式無段変速装置26の入力軸に取り付けたプーリと、双方のプーリに巻き掛けたベルトと、さらに、このベルトの張力を調整するテンションプーリとを備えている。これにより、ベルト式動力伝達機構27は、エンジン20で発生した動力を、ベルトを介して油圧式無段変速装置26に伝達可能になっている。
【0029】
さらに、動力伝達装置25は、エンジン20からの出力がベルト式動力伝達機構27と油圧式無段変速装置26とを介して伝達されるミッションケース28を有している。このミッションケース28は、メインフレーム3の前部に取り付けられている。ミッションケース28は、ベルト式動力伝達機構27と油圧式無段変速装置26とを介して伝達されたエンジン20からの出力を、当該ミッションケース28内の副変速機で変速して、前輪5と後輪10への走行用動力と、苗植付部60への駆動用動力とに分けて出力可能になっている。
【0030】
このうち、走行用動力は、一部が左右の前輪ファイナルケースを介して前輪5に伝達可能になっており、残りが左右の後輪ギヤケースを介して後輪10に伝達可能になっている。一方、駆動用動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチ(図示省略)に伝達され、この植付クラッチの係合時に植付伝動軸(図示省略)によって苗植付部60へ伝達される。
【0031】
また、走行車体2の後部に備えられる苗植付部60を昇降させる苗植付部昇降機構70は、昇降リンク装置71を有しており、苗植付部60は、この昇降リンク装置71を介して走行車体2に取り付けられている。この昇降リンク装置71は、略前後方向に向かって延在する2つの部材を有しており、相対的に上側に位置する上部リンク部材であるアッパーリンク73と、アッパーリンク73の下側に位置する下部リンク部材であるロワーリンク74と、を有している。これらのアッパーリンク73とロワーリンク74とは、共に左右一対ずつが設けられている。
【0032】
昇降リンク装置71は、これらのアッパーリンク73とロワーリンク74とが、メインフレーム3の後部端に立設した背面視門型の後部フレームであるリンクベースフレーム75に回動自在に連結され、各リンクの他端側が苗植付部60に回転自在に連結されることにより、苗植付部60を昇降可能に走行車体2に連結している。即ち、リンクベースフレーム75は、走行車体2の後部に上下方向に延在して配設されており、アッパーリンク73とロワーリンク74とが、リンクベースフレーム75から後方に向かって延在している。昇降リンク装置71は、アッパーリンク73とロワーリンク74とが共に、前端側がリンクベースフレーム75に対して回動可能に連結されている。
【0033】
また、苗植付部昇降機構70は、油圧によって伸縮する油圧昇降シリンダ76を有しており、油圧昇降シリンダ76の伸縮動作によって、苗植付部60を昇降させることが可能になっている。苗植付部昇降機構70は、その昇降動作によって、苗植付部60を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(対地植付位置)まで下降させたりすることが可能になっている。
【0034】
また、苗植付部60は、苗を植え付ける範囲を複数の区画、或いは複数の列で植え付けることができる。つまり、苗植付部60は、複数の条で苗を植え付けることが可能な構成になっている。この苗植付部60は、植付装置61(中央植付装置61aと左右の側部植付装置61b,61c)と、苗載置台65及びフロート81(メインフロート81aとサイドフロート81bとサブサイドフロート81c)を備えている。このうち、苗載置台65は、圃場に植え付ける苗を載置することができるように構成されている。詳しくは、苗載置台65は、走行車体2の左右方向において仕切られた植付条数分の苗載せ面66を有しており、それぞれの苗載せ面66に土付きのマット状苗を載置することが可能になっている。これにより、苗載置台65に載置した苗が植え付けられて無くなるたびに、圃場外に用意している苗を取りに戻る必要が無く、連続した作業を行えるので、作業能率が向上する。
【0035】
また、植付装置61は、苗載置台65に載置された苗を圃場に植え付ける装置になっている。この植付装置61は、2条毎に1つずつ配設されており、2条分の植込杆62を備えている。この植込杆62は、苗載置台65から苗を取って各条に植え付けることができるように構成されている。また、メインフロート81aとサイドフロート81bとサブサイドフロート81cは、苗載置台65の下部に配設され、走行車体2の移動と共に、圃場面上を滑走して均すことにより整地をすることができるように設けられている。
【0036】
なお、フロート81は、機体左右方向の中央部に圃場の凹凸を均しつつ回動角度を検知するポテンショメータ等の検知部材(図示省略)により圃場の深さを検知し、圃場の深さに合わせて苗植付部60を昇降させる機能を有するメインフロート81aと、該メインフロート81aの左右両側で苗を植え付ける圃場面を滑走して均す左右のサイドフロート81bとサブサイドフロート81cで構成され、圃場の深さの変化に合わせて自動的に苗の植付深さを合わせることが可能となり、苗の植付精度の向上が図られる。
【0037】
図10,11に示す如く、サイドフロート81bとサブサイドフロート81cは苗植付部60にその前後中間部がフロート支持軸83,84で枢支されて、圃場面の凹凸で上下に揺動可能にしているが、苗植付部60に設ける規制部材82がサイドフロート81bとサブサイドフロート81cの先端上に伸ばして、第一規制端82aがサイドフロート81bに当たり第二規制端82bがサブサイドフロート81cに当たることで、それぞれの先端が上がり過ぎて圃場面が乱れるのを防いでいる。
【0038】
また、メインフロート81aは、苗植付部60で植え付ける苗の植付深さを調節する植付深さ調節装置80を構成しており、換言すると、メインフロート81aは植付深さ調節装置80を有している。植付深さ調節装置80は、圃場に対する苗植付部60の上下方向における位置を調節することにより、苗の植付深さを調節することが可能になっており、上下方向におけるメインフロート81aと苗植付部60との相対的な位置を調節することにより、圃場に対する苗植付部60の上下位置を調節可能になっている。
【0039】
また、苗植付部60の左右両側には、次の植付条に進行方向の目安になる線を形成する線引きマーカ85が備えられている。即ち、線引きマーカ85は、苗移植機1が圃場内における直進前進時に、圃場の畦際で転回した後に直進前進する際の目印を圃場上に線引きする。この線引きマーカ85は、走行車体2が旋回するごとに、左右の線引きマーカ85が入れ替わって作動することができるように構成されている。
【0040】
また、機体左右方向におけるリアステップ47の両側には、圃場に粒状体を供給する粒状体供給装置である施肥装置100が配設されており、施肥装置100は、具体的には粒状体の肥料を圃場に供給することが可能になっている。このように機体左右方向の両側に配設される施肥装置100は、具体的には、リアステップ47の機体左側に位置する左側施肥装置101と、リアステップ47の機体右側に位置する右側施肥装置102とが配設されている。これらの左右の施肥装置100は、機体左右方向の両側に位置する後輪10よりも、機体左右方向の外側に配設されている。
【0041】
図5は、
図1のB-B矢視図である。
図6は、
図5のD-D矢視図である。
図7は、
図5のE-E矢視図である。
図8は、
図1のC-C矢視図である。このように、機体左右方向における両側に配設される施肥装置100は、粒状体の肥料を貯留する貯留部材である肥料貯留ホッパ103と、肥料を設定量ずつ繰り出す繰出部材である繰出しロール108と、肥料を圃場に案内する案内部材である施肥ホース115と、肥料を搬送する搬送風を施肥ホース115に供給する左右の通風部材である通風ダクト116と、をそれぞれ備えている。このうち、肥料貯留ホッパ103は、機体左右方向におけるリアステップ47の両側に配設されており、繰出しロール108は、機体左右方向のそれぞれの肥料貯留ホッパ103の下方に配設されている。また、施肥ホース115は、機体左右方向のそれぞれの繰出しロール108の下方に配設されており、通風ダクト116は、機体左右方向のそれぞれの施肥ホース115に連結されている。
【0042】
また、機体左右方向の両側に配設される通風ダクト116は、中継部材である中継ダクト117により接続されている。この中継ダクト117は、機体左右方向に延在することにより、機体左右方向の両側の双方の通風ダクト116に接続されており、また、中継ダクト117は、リアステップ47の下方に配設されている。そして、この中継ダクト117の左右方向の中央部で、且つ、中継ダクト117よりも上方に、搬送風を発生させる起風装置であるブロア118を備えている。なお、ブロア118は、左右の通風ダクト116,116のうち、左右どちらか一側に配置する構成としてもよい。
【0043】
機体左右方向の両側の施肥装置100は、リアステップ47の左右両外側で、且つ、左右のサイドステップ42の上方に、左右の基底フレーム201を設け、該左右の基底フレーム201の上方に正面視L字形状の左右の載置フレーム202を設ける。該左右の基底フレーム201の基部側は、リアステップ47の左右両側の下部に取り付ける。さらに、左右の載置フレーム202の上部に、左右の施肥フレーム203を各々上下方向に立設し、該左右の施肥フレーム203の上部に、左右の繰出しケース105を各々設ける。
【0044】
なお、
図6及び
図7で示すとおり、該左右の繰出しケース105は、機体前後方向に複数並べて配置するものであり、走行車体2の左右両側に配置される複数の繰出しケース105の合計の数は、苗の植付条数と同数とするとよい。特に、左右に同じ数の繰出しケース105を設けると、機体左右方向の重量バランスが安定する。
【0045】
なお、本実施例では走行車体2の左右両側三個ずつの肥料貯留ホッパ103を設け、走行車体2の左右両側の中央に肥料の搬送風を発生させるブロア118を設けているが、例えば、走行車体2の右側に四個の肥料貯留ホッパ103を設け、走行車体2の左側に二個の肥料貯留ホッパ103を設けると共にブロア118を設ける構成とすれば、走行車体2上の左右中央に広い作業スペースを確保できて、作業者が苗載置台65に補充苗を供給する作業や肥料貯留ホッパ103へ肥料を補給する作業などが行い易くなる。
【0046】
図9は、
図7のF-F断面図である。前記各繰出しケース105は、
図9に示すとおり、左右の施肥フレーム203上に固定する固定ケース106と、該固定ケース106から着脱可能な着脱ケース107で構成する。該固定ケース106の上面には機体内側よりも機体外側が上方に向かう第1傾斜部を形成し、着脱ケース107の下面には固定ケース106の第1傾斜部と同じ傾斜角度の第2傾斜部を形成する。そして、
図5及び
図6で示す通り、走行車体2の左右両側に機体前後方向に亘って複数設けられた繰出しケース105の上方に、肥料を貯留する左右の肥料貯留ホッパ103を載置し、該左右の肥料貯留ホッパ103の機体外側端部に左右のホッパ蓋部104を各々回動自在に装着する。
【0047】
該肥料貯留ホッパ103の下部には、複数の繰出しケース105に貯留した肥料を投下させる投下口103aが繰出しケース105と同数形成されており、該複数の投下口103aが繰出しケース105の着脱ケース107の上面と接触する構成である。また、肥料貯留ホッパ103の長手方向が、機体の前後方向を向く構成である。
【0048】
上記のとおり、肥料を貯留する肥料貯留ホッパ103を走行車体2の左右両側に配置したことにより、走行車体2の後部と苗植付部60の間を遮る部材がなくなると共に、リアステップ47上を作業者が移動することができるので、走行車体2の後部と苗植付部60の各条の苗載置台65との間隔を狭めることができ、苗の補充作業の際に作業者が楽な姿勢で作業しやすく、作業能率の向上や労力の軽減が図られる。
【0049】
また、苗の補充作業を行う際、肥料貯留ホッパ103のホッパ蓋部104が開いた状態で苗植付部60を上昇させても、苗植付部60がホッパ蓋部104に接触することを防止できるので、苗の補充作業が円滑に行えて作業能率が向上すると共に、ホッパ蓋部104が苗植付部60と接触して破損することが防止される。
【0050】
ホッパ蓋部104は、
図5で示すとおり、機体外側方向に回動させると肥料貯留ホッパ103の上方が開放され、機体内側方向に回動させると肥料貯留ホッパ103の上方を覆うものである。上記の機体外側方向への回動操作を開操作、機体内側方向への回動操作を閉操作とする。上記のとおり、左右のホッパ蓋部104を開くときは、機体外側方向に回動させる構成としたことにより、左右の肥料貯留ホッパ103に肥料を投入する際に左右のホッパ蓋部104が作業者の動作を妨げることを防止できるので、作業能率が向上する。
【0051】
なお、左右の肥料貯留ホッパ103と左右のホッパ蓋部104の間には、左右のホッパ蓋部104を閉じたときにロックし、作業中に左右のホッパ蓋部104が開くことを防止するロック部材(パッチン錠)Rを設けると、作業中に左右のホッパ蓋部104が開き、肥料が外部に飛び出したり、雨水や圃場の水等が左右の肥料貯留ホッパ103内に入り込み、肥料同士がくっついて塊になったりすることが防止されるので、肥料の消費量の削減が図られる。また、肥料が塊になり、後述する繰出しロール108の繰出し溝108aに入り込めなくなり、肥料の圃場への供給量が設定と異なることが防止される。
【0052】
各固定ケース106の内部には、
図9で示すとおり、繰出し軸109が機体前後方向に回転自在に装着され、該繰出し軸109には肥料貯留ホッパ103の各投下口103aから投下される肥料を受け、設定量の肥料を所定間隔毎に下方に送り出す繰出しロール108が設けられる。
【0053】
なお、該繰出しロール108には、円周方向の所定間隔ごと、例えば60度ごとに肥料を受ける繰出し溝108aが複数形成されており、投下口103aの直下に位置するときに繰出し溝108aが肥料を受け、繰出しロール108の回転によりこの肥料を受けた繰出し溝108aが機体下部側を向く位相になると、繰出し溝108aに貯留された肥料が放出される構成となっている。1つの繰出し溝108aに貯留され、所定位置で放出される肥料の量は、繰出し軸109の回転速度によって変動する。
【0054】
また、各着脱ケース107の内部には、繰出し溝108a内の肥料を均すと共に、繰出し溝108aを覆って肥料が放出位置よりも前の位相から放出されることを防止する鎮圧部材110を設け、該鎮圧部材110の鎮圧作用面を、繰出しロール108の外周縁部に向けて配置する。
【0055】
該鎮圧部材110は、合成樹脂または繊維で構成するブラシ式とすると、繰出しロール108の外周面や肥料に接触する際に強い抵抗がかかることが防止できるので、繰出しロール108の回転速度が抵抗で遅くなり、肥料の放出量が設定量と異なることが防止されると共に、抵抗で肥料が崩れて粉末状になり、繰出しケース105内等に粉末が残留することが防止される。ただし、ブラシ毛が柔らか過ぎると繰出し溝108aから出ようとする肥料を抑えられなくなるので、ブラシ毛は硬めに構成することが望ましい。
【0056】
また、各着脱ケース107の内部で、且つ、機体内側には、肥料貯留ホッパ103の投下口103aから投下される肥料の通過を切り替える、投下シャッタ111を機体前後方向に移動可能に設ける。該投下シャッタ111を機体外側に向かって移動させて着脱ケース107の上部開口部を塞ぐと、肥料は肥料貯留ホッパ103内、特に投下口103aに留まる。
【0057】
これにより、肥料貯留ホッパ103と着脱ケース107が繋がった状態で着脱ケース107を固定ケース106から外すと、肥料貯留ホッパ103の肥料をこぼすことなく外すことができるので、肥料貯留ホッパ103をメンテナンスの際に外すとき、残った肥料が周辺に散らばることが防止される。
【0058】
さらに、各着脱ケース107の内部で、且つ、機体外側には、肥料を繰出しロール108に繰り出させるか、繰出しケース105の機体外側に各々上下方向に設ける落下排出口112から落下させて排出するかを切り替える、切替シャッタ121が各々回動自在に設けられる。作業終了後、繰出しロール108の回転を停止させ、切替シャッタ121を機体外側に回動させると、肥料貯留ホッパ103に貯留された肥料は固定ケース106の機体外側に形成された排出傾斜部113に沿って機体外側に移動し、落下排出口112から下方に落下して排出される。該落下排出口112の下方には、バケツ等の回収容器を設置して、排出される肥料を回収する。
【0059】
そして、
図6と
図9で示す通り、各落下排出口112の下端部には、各々排出蓋114を着脱自在に設け、該排出蓋114を外すと落下排出口112から肥料が排出される構成とすると、排出される肥料の量が少なくなるので、排出される肥料の回収作業に要する労力が軽減される。
【0060】
なお、排出蓋114は、ゴム等の弾性部材で構成すると、落下排出口112の下端部に押し込むと排出蓋114が装着され、引っ張れば排出蓋114が外れる構成とできるので、着脱作業が容易になり、作業能率が向上する。
【0061】
各繰出しロール108の下方には、
図5から
図7で示すとおり、放出された肥料を搬送する左右の通風ダクト116を機体前後方向に向けて取り付ける。該左右の通風ダクト116には複数の開口部が前後方向に複数形成されており、この開口部に各繰出しケース105の固定ケース106の下端部を接触させている。なお、該左右の通風ダクト116は、左右の繰出しケース105よりも走行車体2寄りとなる位置に配置する。
【0062】
そして、各開口部の機体外側の下方で且つ左右の通風ダクト116に、肥料を複数の植込杆62の苗の植付位置の近傍に案内する施肥ホース115を、開口部と同数配置する。
【0063】
該複数の施肥ホース115の肥料案内端部は、各フロート81の前側の幅広部の後部に各々配置される。具体的に言えば、左右方向に突出する左右幅広部を有する左右のメインフロートは、この左右幅広部の後部側に施肥ホース115の肥料案内端部を臨ませており、機体外側方向に片側幅広部を有する左右のサブフロートは、各々の片側突出部の後部側に施肥ホース115の肥料案内端部を臨ませている。
【0064】
そして、走行車体2の後方、詳細にはリアステップ47の後方で且つ下方に、左右の通風ダクト116を連結する中継ダクト117を、機体左右方向に配置する。さらに、該中継ダクト117の左右方向の中央部で、且つ中継ダクト117よりも上方に、肥料の搬送風を発生させるブロア118を取り付ける(
図1、
図2参照)。
【0065】
該ブロア118は、カバー118b内に設けられるブロアモータ118aで起風ファン部119に内装される起風ファン(図示省略)を回転させ、該カバー118bに形成されているスリットから取り込んだ空気を搬送風とするものである。起風ファン部119は、起風ファンを内装することにより、ブロアモータ118aを内装するカバー118bよりも大径となるものであり、ブロアモータ118aとカバー118bは、起風ファン部119の径内に配置する。
【0066】
そして、機体右側の肥料貯留ホッパ103の機体内側に、ブロアモータ118aの駆動を入切するブロアスイッチ120を設ける。ブロアスイッチ120は、苗の植付と同時に肥料を供給しない作業時や、圃場の一部に限って肥料の供給を停止させる作業時に、左側施肥装置101と右側施肥装置102とを共に停止させるときに切操作することにより、余分な電力の消費が抑えられる。
【0067】
上記の構成により、ブロア118が発生させた搬送風は、中継ダクト117から機体左右両側の通風ダクト116,116に入り込み、機体左右両側の肥料貯留ホッパ103,103から投下される肥料等の肥料を機体左右両側の各施肥ホース115,115に案内することができるので、一つのブロア118で左右の肥料貯留ホッパ103から投下された肥料を左右両側の各施肥ホース115に案内する搬送風を発生させることができ、部品点数の削減や、機体重量の軽量化が図られる。
【0068】
また、中継ダクト117を走行車体2の後方で且つ下方を通過させて配置したことにより、作業者がリアステップ47上で苗の補充作業等を行うとき、中継ダクト117が作業者の移動範囲を制限することが無く、作業能率が向上する。
【0069】
さらに、左右の通風ダクト116を左右の繰出しケース105よりも走行車体2寄りに配置したことにより、左右の施肥ホース115の一側端部は機体外側にのみ装着可能となるので、左右の施肥ホース115がフロアステップ40及びリアステップ47上に位置することがなく、作業者が走行車体2上を移動しやすくなり、作業能率が向上する。
【0070】
そして、重量物であるブロア118を機体右側で、且つ、後ろ側に設けたことにより、機体左側で且つ前側の予備苗枠90の下方に設けた重量物であるバッテリ95による重量バランスの偏りを相殺することができるので、機体の重量バランスが安定し、走行性や操作性が向上する。
【0071】
なお、ブロア118は、起風ファンの回転軸(図示省略)を機体左右方向に向けて配置し、搬送風の発生方向を機体左右方向とする。このとき、起風ファン部119よりも機体内側にブロアモータ118aとカバー118bを設けると共に、起風ファン部119よりも機体外側に通風ダクト116の機体前側端部を連結する構成とする。これにより、ブロアモータ118aと空気が入り込むスリットを形成したカバー118bが機体内側を向くと共に、起風ファン部119が機体外側に位置することにより、走行車体2の走行に伴って飛散する泥土や水が付着することを防止できるので、ブロア118の破損が防止されると共に、ブロア118のメンテナンス作業に要する時間が短縮される。
【符号の説明】
【0072】
1 苗移植機
2 走行車体
60 苗植付部
61a 中央植付装置
61b 側部植付装置
61c 側部植付装置
71 昇降リンク装置
80 植付深さ調節装置
81b サイドフロート
81c サイドフロート
82 規制部材
100 施肥装置
103 肥料貯留ホッパ
118 ブロア