(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158338
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】床振動解析システム
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20221006BHJP
G06F 30/13 20200101ALI20221006BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20221006BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20221006BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20221006BHJP
E04B 1/02 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01H17/00 D
G06F30/13
G06F30/10 200
G06F30/20
G01M99/00 Z
E04B1/02 ESW
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063145
(22)【出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000224994
【氏名又は名称】特許機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】更谷 安紀子
(72)【発明者】
【氏名】平松 剛
(72)【発明者】
【氏名】足立 充教
(72)【発明者】
【氏名】上大門 伸介
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
5B146
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA01
2G064AA05
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064DD02
5B146AA04
5B146DJ01
(57)【要約】
【課題】より簡単な入力条件で、間仕切り壁の影響を考慮した、建物の床振動を解析することができる床振動解析システムを提供する。
【解決手段】床振動解析システムは、質量算出部31と、梁構造55の情報と床スラブ51の情報とから、評価領域56における床の固有振動数ωを算出し、固有振動数ωに基づいて、振動評価点Cの振動におけるばね定数kを算出するばね定数算出部32と、少なくとも間仕切り壁60Aの構造の情報から、振動評価点Cの振動における減衰定数cを算出する減衰定数算出部33と時間変化を伴う加振力F(T)、質量m、ばね定数k、および減衰定数cに基づいて、1自由度系の振動として、時間変化を伴う振動評価点cの加速度A(T)を算出する加速度算出部34と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨造の建物の大梁に囲まれた空間に小梁が配置された梁構造と、梁構造に支持された矩形状の床スラブとを含む、平面視が矩形状の評価領域において、前記評価領域に存在する振動評価点の振動を解析する床振動解析システムであって、
前記床振動解析システムは、間仕切り壁が配置された前記評価領域の前記振動評価点において、時間変化を伴う加振力が外力として作用したときに、前記時間変化を伴う前記振動評価点の上下方向の加速度を算出するものであり、
前記梁構造に作用する前記評価領域の前記床スラブの重量から、前記振動評価点の振動における質量を算出する質量算出部と、
前記梁構造の情報と前記床スラブの情報とから、前記評価領域における床の固有振動数を算出し、前記固有振動数に基づいて、前記振動評価点の振動におけるばね定数を算出するばね定数算出部と、
少なくとも前記間仕切り壁の情報から、前記振動評価点の振動における減衰定数を算出する減衰定数算出部と、
前記時間変化を伴う加振力、前記ばね定数、前記質量、および前記減衰定数に基づいて、前記床スラブおよび前記梁構造の1自由度系の振動として、時間変化を伴う前記振動評価点の加速度を算出する加速度算出部と、を備えることを特徴とする床振動解析システム。
【請求項2】
前記間仕切り壁の情報は、間仕切り壁の長さと、前記振動評価点から前記間仕切り壁までの距離とであり、
前記減衰定数算出部は、少なくとも前記間仕切り壁の長さおよび前記振動評価点から前記間仕切り壁までの距離に基づいて、前記減衰定数を算出することを特徴とする請求項1に記載の床振動解析システム。
【請求項3】
前記間仕切り壁は、複数あり、
前記間仕切り壁の情報は、前記各間仕切り壁の長さと、前記振動評価点から前記各間仕切り壁までの距離と、前記複数の間仕切り壁の配置状態とであり、
前記減衰定数算出部は、少なくとも、前記各間仕切り壁の長さ、および前記振動評価点から前記各間仕切り壁までの距離に基づいて、前記減衰定数を算出し、前記複数の間仕切り壁の配置状態に対応した数値で、前記減衰定数を補正することを特徴とする請求項1に記載の床振動解析システム。
【請求項4】
前記床振動解析システムは、前記加速度算出部で算出した前記振動評価点の加速度の波形を周波数応答解析することにより、振動周波数ごとの加速度を算出する解析部を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の床振動解析システム。
【請求項5】
前記建物は、前記床スラブの上に、制振装置が配置された構造であり、前記評価領域には、前記制振装置を含み、
前記加速度算出部は、前記制振装置と、前記床スラブおよび前記梁構造との2自由度系の振動における前記加速度を算出することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の床振動解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床振動を解析する床振動解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、床に外力が加わった際の振動を予測する床振動解析システムが提案されている。例えば、特許文献1では、建物概要データ、通りデータ、梁データ、壁データ、床データ、柱データなどの各種データなどの入力データから、レイリーリッツ法などの振動解析の手法を用いて、床振動を予測するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のシステムで、床振動を予測する際に、各種データとして、各部材の寸法以外にも、これを構成する材料の物性値等、様々なデータを入力しなければならず、解析に膨大な時間を要する。さらに、床振動解析は動的解析であるので、実測した結果と一致しないことも多い。これに加えて、建物の躯体を構成しない非構造部位(二次部材)としての間仕切り壁は、床振動の解析には反映されていないが、実際のところ、間仕切り壁の有無、間仕切り壁により、実測した振動の結果は、大きく変わることがある。
【0005】
本発明はこのような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より簡単な入力条件で、間仕切り壁の影響を考慮した、建物の床振動を解析することができる床振動解析システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る床振動解析システムは、鉄骨造の建物の大梁に囲まれた空間に小梁が配置された梁構造と、梁構造に支持された矩形状の床スラブとを含む、平面視が矩形状の評価領域において、前記評価領域に存在する振動評価点の振動を解析する床振動解析システムであって、前記床振動解析システムは、間仕切り壁が配置された前記評価領域の前記振動評価点において、時間変化を伴う加振力が外力として作用したときに、前記時間変化を伴う前記振動評価点の上下方向の加速度を算出するものであり、前記梁構造に作用する前記評価領域の前記床スラブの重量から、前記振動評価点の振動における質量を算出する質量算出部と、前記梁構造の情報と前記床スラブの情報とから、前記評価領域における床の固有振動数を算出し、前記固有振動数に基づいて、前記振動評価点の振動におけるばね定数を算出するばね定数算出部と、少なくとも前記間仕切り壁の構の情報から、前記振動評価点の振動における減衰定数を算出する減衰定数算出部と、前記時間変化を伴う加振力、前記ばね定数、前記質量、および前記減衰定数に基づいて、前記床スラブおよび前記梁構造の1自由度系の振動として、時間変化を伴う前記振動評価点の加速度を算出する加速度算出部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
発明者らは、床振動を解析する際に、間仕切り壁の有無により、床振動の解析結果がことなることが分かった。さらに、調査および検討を進める中で、間仕切り壁は、床振動の減衰への寄与率が高いことがわかった。これまでは、柱、外壁等の構造も、床振動解析において、考慮されてきたが、したがって、本発明によれば、床スラブと梁構造をバネとし、床スラブの重量を質点とし、間仕切り壁等をダンパとしたバネ・マス・ダンパ系の簡易的なモデルの振動として、前記床スラブおよび前記梁構造の1自由度系の振動における振動評価点の振動解析を行うことができる。これにより、間仕切り壁による床振動の影響を簡単に把握することができる。
【0008】
より好ましい態様としては、前記間仕切り壁の情報は、間仕切り壁の長さと、前記振動評価点から前記間仕切り壁までの距離とであり、前記減衰定数算出部は、少なくとも前記間仕切り壁の長さおよび前記振動評価点から前記間仕切り壁までの距離に基づいて、前記減衰定数を算出する。
【0009】
この態様によれば、振動評価点の振動の減衰特性は、間仕切り壁の長さと振動評価点までの距離とに大きく依存することから、これらの値の基づいた重回帰式や対応表等から、減衰定数を算出することで、より正確に床振動の解析を行うことができる。
【0010】
より好ましい態様としては、前記間仕切り壁は、複数あり、前記間仕切り壁の情報は、前記各間仕切り壁の長さと、前記振動評価点から前記各間仕切り壁までの距離と、前記複数の間仕切り壁の配置状態とであり、前記減衰定数算出部は、少なくとも前記各間仕切り壁の長さ、および前記振動評価点から前記各間仕切り壁までの距離に基づいて、前記減衰定数を算出し、前記複数の間仕切り壁の配置状態に対応した数値で、前記減衰定数を補正する。
【0011】
ここで、振動評価点の振動の減衰特性は、間仕切り壁の長さと振動評価点までの距離とに大きく依存することから、これらの値の基づいた重回帰式や、間仕切り壁のパラメータ等と減衰定数とを対応付けた対応テーブル等を含むデータから、減衰特性を算出することで、より正確に床振動の解析を行うことができる。特に、間仕切り壁が複数存在する場合には、それらの間仕切り壁の配置状態が、減衰特性に大きく寄与することから、これらの配置状態に対応付けられた補正係数等で補正を行うことにより、より正確に床振動の解析を行うことができる。間仕切り壁の長さおよび配置状態(レイアウト)の最適化を図ることができる。
【0012】
より好ましい態様としては、前記床振動解析システムは、前記加速度算出部で算出した前記振動評価点の加速度の波形を周波数応答解析することにより、振動周波数ごとの加速度を算出する解析部を備える。この態様によれば、解析部により、加速度の波形を解析することにより、振動の知覚確率を算出することができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記建物は、前記床スラブの上に、制振装置が配置された構造であり、前記評価領域には、前記制振装置を含み、前記加速度算出部は、前記制振装置と、前記床スラブおよび前記梁構造との2自由度系の振動における前記加速度を算出する。この態様によれば、制振装置が無い場合の、床スラブおよび梁構造の1自由度系の振動解析と、制振装置が有る場合の、制振装置と、前記床スラブおよび前記梁構造との2自由度系の振動解析とを行うことにより、制振装置の有無による床振動の影響を確認することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より簡単な入力条件で、間仕切り壁の影響を考慮した、対象建物の床振動を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の床振動解析システムの装置構成図である。
【
図3】
図1に示す床振動解析システムが行う解析モデルの一例である。
【
図4】(a)は、
図2に示すばね定数算出部の床スラブの有効幅を説明するための模式図であり、(b)は、評価領域を構成する床全体の断面二次モーメントの算出を説明するための模式図である。
【
図5】(a)および(b)は、複数の間仕切り壁の配置状態を説明するための解析モデルの一例である。
【
図6】
図2に示す加速度算出部による加速度の算出を説明するための振動方程式の1自由度系の振動モデルである。
【
図7】(a)は、評価点における加振力の波形であり、(b)は、評価点における加速度の波形である。
【
図8】
図2に示す解析部による振動周波数ごとの加速度を算出した結果を示したグラフである。
【
図9】変形例に係る
図2に示す加速度算出部による加速度の算出を説明するための振動方程式の2自由度系の振動モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の本実施形態に係る床振動解析システム1を、図面を参照しながら説明する。
【0017】
〔第1実施形態〕
1.床振動解析システム1の装置構成について
本実施形態に係る床振動解析システム1は、
図1に示すように、対象建物の床の振動評価点における床振動を解析するものである。以下に、床振動解析システム1を説明する。なお、振動評価点は、床振動を評価したい、床スラブ上の1点のことであり、床スラブの上に後述する制振装置が設けられている場合も、同様に床スラブ上の1点である。本実施形態で、床振動解析を行う建物の構造形式は、鉄骨造である。
【0018】
本実施形態で、解析するモデルは、
図3に示すような鉄骨造の建物5の大梁52に囲まれた空間に小梁54が配置された梁構造55と、梁構造55に支持された矩形状の床スラブ51とを含む、平面視が矩形状の評価領域56において、その評価領域56に存在する振動評価点Cの振動を床解析するためのモデルである。
【0019】
ここで、振動評価点Cは、平面視において、評価領域56の中央である。大梁52は、第1方向L1に沿った大梁52と、第1方向A1に直交する第2方向A2に沿った大梁52とがある。矩形状の評価領域56の周縁は、第1方向A1と第2方向A2に沿った縁部で構成される。本実施形態では、小梁54は、3本設けられており、各小梁54は、第2方向A2に沿って、大梁52.52の間にわたされており、3本の小梁54は、第1方向A1に等間隔に設けられている。
【0020】
評価領域56は、平面視において、長さL1の長辺と、長さL2の短辺とで構成される矩形状の評価領域であり、評価領域56の四隅には、柱57が設けられているが、本実施形態では、柱57を考慮せずに解析を行う。これは、なお、床スラブ51の上に、制振装置を設けた場合には、この評価領域56は、制振装置も含むものである。本実施形態では、床スラブ51の上に、間仕切り壁60Aが配置されている。
【0021】
床振動解析システム1は、入力装置2、演算装置3、および表示装置4を少なくとも備えている。入力装置2は、演算装置3に解析条件などを入力するキーボードなどの装置である。演算装置3は、床振動解析プログラムが記録されたRAMまたはROMなどのメモリーと、床振動解析プログラムを実行するCPUと、を備えている。表示装置4は、演算装置3で演算された結果を出力するディスプレイである。
【0022】
なお、本実施形態では、入力装置2と表示装置4とを個別に設けたが、例えば、これらの機能が一体化したタッチパネルディスプレイを備えているもよい。また、入力装置2および表示装置4と、演算装置3とが、ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0023】
床振動解析システム1の演算装置3は、間仕切り壁60Aが配置された評価領域56の振動評価点Cにおいて、時間変化を伴う加振力F(t)が外力として作用したときに、時間変化を伴う振動評価点Cの上下方向の加速度A(t)を算出するものである。
【0024】
具体的には、このような算出を行うべく、
図2に示すように、演算装置3は、ソフトウエアとして、質量算出部31、ばね定数算出部32、減衰定数算出部33、加速度算出部34、および解析部35を主に備えている。
【0025】
2.質量算出部31について
梁構造55に作用する評価領域56の床スラブ51の重量から、振動評価点Cの振動における質量を算出する。たとえば、
図4に示すように、小梁54に作用する床スラブ51の質量mは、床スラブ51の全体の質量に対して、0.25~0.3倍程度であるので、この範囲における値を、床スラブ51の全体の質量に乗じたものを質量mとして算出する。質量算出部31で算出した質量mは、加速度算出部34に入力される。
【0026】
3.ばね定数算出部32について
ばね定数算出部32は、梁構造55の情報と床スラブ51の情報とから、大梁52に囲まれた評価領域56内の固有振動数ωを算出し、固有振動数ωに基づいて、振動評価点Cの振動におけるばね定数kを算出する。具体的には、以下に示す式(1)を用いて、以下の質量算出部31で算出した有効質量mと、固有振動数(一次固有振動数)ωに基づいて、ばね定数kを算出する。
【0027】
【0028】
ここで、式(1)に示す固有振動数ωは、以下に示す式(2)を用いて算出することができる。式(2)に示す、αは、算出対象となる大梁52または小梁54(以下「梁」という)の支持条件であり、単純支持梁の場合には、α=1であり、固定支持梁の場合には、α=1.5を用いる。
【0029】
Lは、算出対象となる梁の長さであり、Eは、その梁のヤング率である。Iは、その梁とこれが支持する床スラブ51を含む断面二次モーメント(完全合成梁の有効等価断面二次モーメント)である。ρは、梁の単位長さあたりの質量である。したがって、大梁52および小梁54の固有振動数ωを算出し、この中の最小の固有振動数ωを、大梁52に囲まれた評価領域56内の床の固有振動数(スパン全体の一次固有振動数)とみなす。
【0030】
【0031】
ここで、式(2)に示す完全合成梁の有効等価断面二次モーメントIは、以下に示す式(3)を用いて算出することができる。式(3)に示す、Bは、床スラブ51の有効幅であり(
図4(a)参照)、tは、床スラブ51の厚みであり、X
nは、床スラブ51の表面から中立軸までの長さであり、I
sは、算出対象となる梁(大梁52または小梁54)の二次モーメントであり、A
sは、その梁(大梁52または小梁54)の断面である。なお、
図4(a)では、説明の便宜上、H形鋼である大梁52と小梁54の大きさを同じ大きさで描いているが、実際はこれらの大きさは異なる。
【0032】
さらに、式(3)に示す、dsは、床スラブ51の表面から、梁(大梁52または小梁54)の重心までに長さである。なお、デッキプレートを用いた床スラブでは、デッキプレート山上の平板状のコンクリートの厚さを床スラブの有効厚さとし、その長さは、たとえば、80mm以上とする。
【0033】
【0034】
ここで、合成梁の弾性剛性算出に用いる、床スラブ51の有効幅Bは、
図4(a)に示すように、梁の上フランジの幅bに、上フランジの両側または片側の床スラブ協力幅b
aを加えたものである。
【0035】
床スラブ協力幅baは、以下の式(4-1)~式(4-4)のいずれか1つを用いて算出することができる。式(4-1)と式(4-2)は、固定支持梁(すなわちラーメン材および連続梁)の場合に用いる式であり、式(4-3)と式(4-4)は、単純支持梁の場合に用いる式である。
【0036】
ここで、aは、
図4(a)に示すように、並列梁では鉄骨上フランジ端部から相隣る梁の上フランジ端部までの距離であり、単独T形梁または片持ちスラブよりなる梁では、その片側の上フランジ端面から床スラブ端までの距離の2倍である。lは、固定支持梁のスパンの長さであり、l
0は、単純支持梁のスパンの長さである。
【0037】
【0038】
ここで、xnおよびds-xnは、以下の式(5)および式(6)によって算出することができる。なお、中立軸が床スラブ外にある。ここで、式(5)に示す、t1は、t/dsであり、Ptは、As/(B・ds)であり、nは、ヤング係数比であり、15である。
【0039】
【0040】
なお、上の式(2)~式(6)を用いて固有振動数ωを算出したが、例えば、同じ方向に並設される小梁の本数が2本以下である場合には、以下に示す式(7)を用いてもよい。ここで、Lnは、算出対象となる梁と直交する方向の評価領域56(直交スラブ)の長さである。
【0041】
【0042】
このようにして、ばね定数算出部32では、大梁52のサイズ(具体的には、長さ、梁幅、梁成など)、小梁54のサイズ(具体的には、長さ、梁幅、梁成など)、小梁54の本数を含む、上の式で算出に要する梁構造55の情報と、床スラブ51の質量、厚さ、および必要に応じてその仕様等の含む床スラブ51の情報を入力し、ばね定数kを算出することができる。なお、小梁54の本数は、
図4(a)に示すように、並列梁では鉄骨上フランジ端部から相隣る梁の上フランジ端部までの距離aを算出する際に、簡易的に用いることができる。
【0043】
4.減衰定数算出部33について
減衰定数算出部33は、少なくとも間仕切り壁60Aの情報から、振動評価点Cの振動における減衰定数hを算出する。減衰定数hを算出する際には、大梁52の長さの情報(すなわち、スパン)をさらに用いてもよい。本実施形態では、減衰係数hは、床スラブ51および梁構造55に、間仕切り壁60Aの情報をさらに加えて算出されることが好ましい。すなわち、算出される減衰係数hは、さらに間仕切り壁60Aによる減衰特性と、床スラブ51および梁構造55の減衰特性との影響より算出したものであることが好ましい。なお、1自由度系の振動の場合には、後述する加速度算出部34において、算出した減衰定数hから、後述する式(8)に示す減衰係数cを算出する。
【0044】
ここで、間仕切り壁60Aの情報は、間仕切り壁60Aの長さG1と、振動評価点Cから間仕切り壁60A(たとえば中心g1)までの距離LG1とである。具体的には、減衰定数算出部33は、間仕切り壁60Aの長さG1および振動評価点Cから間仕切り壁60Aまでの距離LG1に基づいて、減衰定数hを算出する。
【0045】
振動評価点Cの振動の減衰特性は、間仕切り壁60Aの長さG1と振動評価点Cまでの距離とに大きく依存すことが、発明者の調査によりわかった。実際の建物において測定した減衰定数hと、長さG1および距離LG1とから、重回帰分析を行い、これらを変数とした回帰式や、長さG1および距離LG1と、減衰定数hとを対応付けた対応表から、減衰定数hを算出することができる。これにより、正確に床振動の解析を行うことができる。なお、この回帰式または対応表に、上述したスパンを変数として加えてもよい。さらに、これらの回帰式または対応表に、床スラブ51の物性値、短辺または長辺の長さ、梁構造55における大梁の長さ、または、スパン等のパラメータを変数として加えてもよい。
【0046】
さらに、
図5(a)および(b)に示すように、間仕切り壁60A、60Bなど、間仕切り壁が複数ある場合、間仕切り壁の情報は、各間仕切り壁60A、60Bの長さG1、G2と、振動評価点Cから各間仕切り壁60A、60Bまでの距離LG1、LG2と、複数の間仕切り壁60A、60Bの配置状態とである。
図5(a)では、2つの間仕切り壁60A、60Bが平行となるように配置されており、
図5(b)では、2つの間仕切り壁60A、60Bが直交となるように配置されている。
【0047】
減衰定数算出部33は、各間仕切り壁60A、60Bの長さG1、G2、および振動評価点Cから前記各間仕切り壁60A、60Bまでの距離LG1、LG2に基づいて、減衰定数hを算出する。ここで、実際の建物において測定した減衰定数hと、長さG1、G2および距離LG1、LG2とから、重回帰分析を行い、これらを変数とした重回帰式や、長さG1、G2および距離LG1、LG2と、減衰定数hとを対応付けた対応表から、減衰定数hを算出することができる。なお、重回帰式、対応表では、上に示したように、長さG1、G2をそれぞれの変数として取り扱わず、これらの総長さ(総和の値)を変数としてもよい。また、距離LG1、LG2も同様に総距離(総和の値)を変数としてもよい。さらに、上述した場合と同様に、これらの回帰式または対応表に、床スラブ51の物性値、短辺または長辺の長さ、梁構造55における大梁の長さ、または、スパン等のパラメータを変数として加えてもよい。
【0048】
図5(a)(b)に示すように、間仕切り壁60A、60Bの配置状態が変われば、減衰定数hも変わる。したがって、これらの配置状態に対応した数値を補正係数として設定し、算出した減衰定数hを補正係数で乗じることにより、減衰定数hを補正してもよい。なお、この補正は、間仕切り壁が2個の場合に限られず、間仕切り壁の個数とこれらの配置状態に応じて、設定すればよい。
【0049】
このように、振動評価点Cの振動の減衰特性は、間仕切り壁60A、60Bの長さと振動評価点Cまでの距離とに大きく依存することから、これらの値の基づいた重回帰式や、間仕切り壁のパラメータ等と減衰定数とを対応付けた対応テーブル等を含むデータから、減衰定数hを算出することで、より正確に床振動の解析を行うことができる。
【0050】
特に、間仕切り壁60A、60Bが複数存在する場合には、それら間仕切り壁60A、60Bの配置状態が、減衰特性に大きく寄与することから、これらの配置状態に対応付けられた補正係数等で補正を行うことにより、より正確に床振動の解析を行うことができる。これにより、間仕切り壁60A、60Bの長さG1、G2および配置状態(レイアウト)の最適化を図ることができる。
【0051】
5.加速度算出部34について
次に、加速度算出部は、時間変化を伴う加振力F(T)、ばね定数k、質量m、および減衰係数c(減衰定数hから算出された値)に基づいて、床スラブ51および梁構造55の1自由度系の振動として、時間変化を伴う振動評価点の加速度A(T)を算出する。なお、加速度算出部34において、減衰係数cは、減衰定数算出部33で算出された、減衰定数hから算出される値である。具体的には、
図6に示すような、1自由度系の振動モデルを想定し、式(8)に示す振動方程式が得られる。ここで、カッコ内のTは時間であり、(T)は、時間Tの関数であること意味する。
【0052】
時間変化を伴う加振力F(T)は、床スラブ51の評価領域56に付与される外力の条件である。たとえば評価領域56において、特定の人数の人が、飛び跳ね、歩行、小走り、かかと衝撃動作、またはエアロビクス屈伸運動などを行った際に、これらの条件に対応する数値である。
【0053】
A(T)は、上述した如く時間変化を伴う振動評価点の加速度であり、V(T)は、時間変化を伴う振動評価点Cの速度であり、X(T)は、時間変化を伴う振動評価点Cの変位である。なお、変位X(T)を時間で微分すれば、速度V(T)となり、速度V(T)を時間で微分すれば、加速度A(T)となる。
【0054】
【0055】
式(8)の微分方程式に基づいて、数値計算により、時間変化を伴う振動評価点Cの加速度A(T)を算出することができる。たとえば、このような手法としては、平均加速度法、線形加速度法、ニューマークβ法、ウィルソンθ法、ルンゲクッタ法、など一般的に知られている方法により、加速度A(T)を算出することができる。
【0056】
ここで、ニューマークβ法を簡単に説明すると、解析したい加振力F(T)を、時間間隔ΔTごとの数値データで構成される波形として準備し、m回分の時間間隔ΔTの経過した加振力を、加振力Fmとし、その時の加速度をAmとし、速度をVmとし、変位をXmとすると、m+1回分の時間間隔ΔTの経過した、速度をVm+1とし、変位をXm+1を以下の式(9)、式(10)で仮定することができる。なお、式(10)のβが、1/4のときは、平均加速度法であり、1/6のときは、線形加速度法であり、加速度の実測値と対比し、より精度の高い加速度の解析値となるようにβを設定すればよい。
【0057】
【0058】
この式(9)および式(10)を、式(8)をm+1回分の時間間隔ΔTだけ経過した振動方程式である式(11)に代入する。
【0059】
【0060】
Vm+1で整理すると、m+1回分の時間間隔ΔT経過した加速度をAm+1を、先に求めたばね定数k、質量m、1つ前のM回分経過した、加振力Fm、加速度Am、速度Vm、変位Xmを用いて算出することができる。このようにして、ΔTごとの、加速度を算出することができる。
【0061】
このようにして、
図7(a)に示す時間変化を伴う加振力の波形から、
図7(b)に示す、時間変化をともなる加速度の波形を演算することができる。
【0062】
6.解析部35について
解析部35は、加速度算出部34で算出した振動評価点Cの加速度A(T)の波形を周波数応答解析することにより(FFTにより)、振動周波数ごとの加速度を算出する。これにより、
図8に示すように、振動周波数ごとの加速度を算出した結果を示した振動の知覚確率のグラフ(具体的には、制振装置なしのグラフ)を得ることができる。
【0063】
本実施形態によれば、床スラブ51と梁構造55をバネとし、床スラブ51の重量を質点とし、間仕切り壁60A(60A、60B)をダンパ等としたバネ・マス・ダンパ系の簡易的なモデルの振動として、振動評価点Cの振動解析を行うことができる。これにより、間仕切り壁60A(60A、60B)による床振動の影響を簡単に把握することができる。
【0064】
たとえば、変形例として、建物は、床スラブ51の上に、制振装置80が配置された構造であり、評価領域56には、制振装置を含む。加速度算出部34は、制振装置80と、床スラブ51および梁構造55との2自由度系の振動における加速度A(T)を算出する。
【0065】
この場合には、
図9に示すモデルが想定でき、床スラブ51の質量をm1とし、ばね定数をk1とし、減衰定数をh1とし、これらの値は、上述した方法で梁構造55の情報と床スラブ51の情報とから算出することができる。さらに、制振装置80の質量をm2とし、ばね定数をk2とし、減衰定数をh2とし、これらの値は、装置固有の予め決定された値である。なお、制振装置80の有りによる床振動解析を行うことから、上に示す制振装置80が無い場合と同様に、床スラブ51に加振力F(t)を作用させ、床スラブ51の振動評価点Cにおける加速度A(T)から、制振装置80の有りによる床振動の評価を行う。
【0066】
具体的には、
図9に示す2自由度系の振動モデルから、これらの質量m1、m2、減衰定数h1、h2、ばね定数k1、k2で構成される、質量行列m、減衰行列c、ばね定数行列k(剛性行列)を用いて、式(8)と同様の振動方程式を作成し、上に示した方法と同様の方法で、加速度算出部34で、振動評価点Cの加速度A(T)を算出し、解析部35で、振動周波数ごとの加速度を算出してもよい。たとえば、減衰行列cは、床スラブ51および梁構造55の振動系、制振装置80の振動系の減衰定数h1、h2から算出される。これにより、制振装置80が無い場合の、床スラブ51および梁構造55の1自由度系の振動解析と、制振装置80が有る場合の、制振装置80と、床スラブ51および梁構造55との2自由度系の振動解析とを行うことで、
図8に示すように、制振装置80の有無による床振動の影響を確認することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0068】
1:床振動解析システム、31:質量算出部、32:ばね定数算出部、33:減衰定数算出部、34:加速度算出部、35:解析部、51:床スラブ、52:大梁、54:小梁、55:梁構造、56:評価領域、60A、60B:間仕切り壁、C:振動評価点