(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158357
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】高性能半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/739 20060101AFI20221006BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20221006BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01L29/78 655A
H01L29/78 652T
H01L29/78 655D
H01L29/78 652E
H01L29/78 655B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063174
(22)【出願日】2021-04-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 電気学会、論文誌D(産業応用部門誌)、140巻,12号,972頁~982頁,2020年12月1日発行
(71)【出願人】
【識別番号】509260466
【氏名又は名称】菅原 良孝
(72)【発明者】
【氏名】菅原 良孝
(57)【要約】 (修正有)
【課題】逆導通IGBT半導体装置の性能を損ねることなく、ターンオン時の第1次スナップバック現象や高次スナップバック現象を抑制し、且つ、スナップバック現象による半導体本体の劣化も抑制し、より縮小された面積と高い信頼性を有する高性能半導体装置及びその動作方法を提供する。
【解決手段】逆導通IGBT100をワイドギャップ半導体で形成し、その活性領域をパイロット機能を具備した標準セルで構成し、1次スナップバック現象のみならず高次スナップバック現象も抑制もしくは解消し高い信頼性を達成する。また、スナップバック現象の主要因子の一つである標準セルのバッファー層104を2重バッファー層とし、逆導通IGBTチップを大幅に小型化し低オン抵抗化するとともに、標準セル内のMOSFET表面部を複数にして低オン抵抗化し、チップ面積を低減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイドギャップ半導体で構成された逆導通半導体装置において、
その活性領域をパイロット機能を具備したパイロット機能付標準セルで構成したことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
〔請求項1〕において、半導体装置がワイドギャップ半導体で構成された逆導通IGBTであり、その活性領域をパイロット機能を具備したパイロット機能付IGBT標準セルで構成したことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
〔請求項1〕もしくは〔請求項2〕において、前記半導体装置はバッファー層を有し、このバッファー層が一重構成、もしくは2重以上の多重構成であることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
〔請求項1〕および〔請求項3〕において、半導体装置がワイドギャップで構成された逆導通IGBT半導体装置であり、前記パイロット機能を具備した標準セルのpコレクタ幅Wpが、臨界コレクタ幅Wpc即ちスナップバック現象を解消できる最小pコレクタ幅以上であり、この標準セル内には1個以上のMOSFET表面部が設けられており且つこの標準セルの両端にはn短絡部が設けられていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
〔請求項1〕から〔請求項4〕において、半導体装置がワイドギャップ半導体で構成された逆導通IGBT半導体装置であり、前記標準セルのコレクタ幅Wpが臨界コレクタ幅Wpc以上であり、この標準セル内には一個以上のMOSFET表面部が設けられており、この標準セルの一方の端部のみに前記短絡部が設けられている標準セルと、
この標準セルの前記短絡部が設けていない他方の端部を軸として反転させた反転標準セルとを一対として配置し活性領域を構成することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
〔請求項1〕から〔請求項5〕において、パイロット機能付標準セルの高次スナップバック現象を抑制もしくは解消するために、第1次スナップバック現象を解消できるコレクタ幅Wpcと短絡部の幅Wnとで規定される標準セル幅内に収まる最大のMOSFET表面部の数よりも少ない数のMOSFET表面部に低減した構成にすることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に係わり、特に小チップサイズで信頼性の高い高性能逆導通半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高耐圧の大電力および中電力用途では主にシリコン(Si)を材料とした半導体装置が使用され、なかでもSi-IGBTが主要半導体装置として種々の応用分野で多用されており、6.5kV級まで製品が供給されている。近年これらのSi-IGBTの低損失化などの高性能化が追求され、ターンオフ速度を短くし損失を低減するために様々な工夫がこらされている。その代表的な例として、
図7に示す従来例1や
図8に示す従来例2のSi逆導通IGBTが開発され、各々非特許文献1や2に開示されている。
従来例1の短絡コレクタSi-IGBTではn
-ドリフト層がpコレクタ層に設けたn
+短絡部によりコレクタ電極に短絡されており、ターンオフ時にn
-ドリフト層内に残存するキャリアをこのn
+短絡部を介して排除する
ことによりターンオフ時間を短くし損失の低減を図っている。
【0003】
一方、従来例2のSi逆導通IGBTは、逆導通Si-IGBT領域とパイロットIGBT領域とから構成されている。Si逆導通IGBT領域には従来例1と同様にnドリフト層がpコレクタ層に設けたn+短絡部によりコレクタ電極に短絡されており、ターンオフ時にnドリフト層内に残存するキャリアをこのn+短絡部を介して排除することによりターンオフ時間を短くし損失の低減を図っている。また、パイロットIGBT領域のコレクタの幅は逆導通IGBT領域のコレクタの幅よりも大幅に大きくし、パイロットIGBT領域が逆導通IGBT領域に先駆けてオンするようにしている。
なお、これらの開示されているIGBTはnドリフト層がn+短絡部によりコレクタ電極に短絡されているので、逆電圧に対する阻止能力がないために、近年逆導通IGBTと総称されている。それ故、以下ではいずれも逆導通IGBTと呼ぶ。
なお、近年SiC半導体のようなワイドギャップ半導体を用いて高耐圧の大電力および中電力用半導体装置の開発が推進され、Si半導体装置比べ大幅な性能改善が進められているが、SiC半導体のようなワイドギャップ半導体逆導通IGBTの試作開発や実用化例は見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ハジメ・アキヤマ (Hajime AKIYAMA)、他5名、イヘクト オブ ショーテドコレクタ オン キャラクタリスティックス オブ IGBTS (EFECTS OF SHORTED COLLECTOR ON CHARACTERISTICS OF IGBTS)、プロシーディングス オブ ザ セカンド インターナショナル シンポジューム オン パワー セミコンダクタ デバイシズ アンド ICs (Proceedings of The 2nd International Symposium on Power Semiconductor Devices & ICs),1990年4月、p.131-136
【非特許文献2】リウタウラス ストラスタ (Litauras Storasta),他2名、ア コンパリソン オブ チャージ ダイナミックス イン ザ レヴァースーコンダクテング RCIGBT アンド バイモード インシュレイテド ゲイト トランジスタ BiGT)(A Comparison of charge dynamics in the Reverse-Conducting RCIGBT and Bi-mode Insulated Gate Transistor BiGT)、プロシーディングス オブ ザ トエンテイセカンド インターナショナル シンポジューム オン パワー セミコンダクタ デバイシズ アンド ICs (Proceedings of The 22nd International Symposium on Power Semiconductor Devices & ICs),1010年6月、p.391-394
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、開示されている従来例1および2のSi逆導通IGBTの出力特性、すなわちコレクターエミッタ間電圧(以下、Vceと記す)とコレクターエミッタ間電流(以下、Iceと記す)の間のIce-Vce特性には、オン直前のコレクターエミッタ間電圧がオン直後のコレクターエミッタ間電圧よりも大きいというスナップバック現象が発生する。オン直前のコレクターエミッタ間電圧を、従来例1ではknee point voltageと呼び、従来例2ではスナップバック前ピーク電圧と呼んでいるが、以下ではスナップバック電圧と呼び、Vsbと記述する。また、このVsbにおけるコレクターエミッタ間電流をスナップバック電流と呼びIsbと記述する。
【0006】
ところで、これらの逆導通IGBTはオン直前から直後に推移するまでの時間すなわちターンオン時間が短いので、スナップバック現象が存在するとターンオン時に 急峻な電圧変化(以下dV/dtと表記)や急峻な電流変化(以下dI/dtと表記)を生じる。この結果、回路内に存在する寄生容量により急峻な跳ね上がり電流(C・dv/dt)が、また寄生リアクトルにより急峻な跳ね上がり電圧(L・dI/dt)が生じ、これに起因して大きな過度現象が誘発される。このため、この逆導通IGBTを用いた回路に大きな擾乱を招いてしまい誤動作を起したり、場合によっては素子や回路の破壊に至る。従ってスナップバック現象の抑制もしくは解消は極めて深刻な第1の課題である。
【0007】
また、従来例2のSi逆導通IGBTでは、多数の逆導通IGBTセルから構成される逆導通IGBT領域に隣接してパイロットIGBT領域を設けている。パイロットIGBT領域のpコレクタ幅は逆導通IGBT領域のIGBTセルのpコレクタ幅よりも大幅に大きくすることによりpコレクタ上のバッファー層の横方向抵抗を大きくしており、従ってまず小さいIceでパイロットIGBT領域をオンさせるようにしている。これにより、パイロットIGBT領域のスナップバック現象を抑制している。この結果、まずスナップバック現象が抑制されたパイロットIGBT領域が小さなIceでオンしてより大きなオン電流が流れ、このオン電流が拡がって最隣接の逆導通IGBTセルに流れ込む。最隣接の逆導通IGBTセルのpコレクタは幅が小さいためpコレクタ上のバッファー層の横方向抵抗が小さいが、パイロットIGBTのオン電流の一部が大きな拡がり電流となって流れ込むために、最隣接の逆導通IGBTセルのpコレクタ接合が容易にビルトイン電圧に達してオンする。この結果、オン電流が更に増大し、この最近接の逆導通IGBTセルに隣接する逆導通IGBTセルが同様にオンする。このような動作を繰り返して、パイロットIGBT領域に近接する逆導通IGBTセルから順次オンしてゆき、逆導通Si-IGBT全体がオンするに至る。
【0008】
チップ面積縮小分に集積する標準セルの短絡幅を広げて残存キャリアの排除機能を大。
しかし、この引例2の場合は全体のIGBTチップ面積に占めるパイロットIGBT領域の面積がかなり大きくなってしまう。例えば、引例2の場合、データから読み取ると、3.3kV設計のSi逆導通IGBT標準セルのpコレクタ幅が240ミクロンメートルであるのに対し、パイロットIGBTのpコレクタ幅を約3倍以上の650ミクロンメートル以上にすることにより、Vsbをビルトイン電圧である0.7V程度にしている。半導体装置の耐圧が高くなるとスナップバック現象が激しくなり、このパイロットIGBTのpコレクタ幅は更に大幅に増加する。この結果、スナップバック現象は解消されるが、所定面積のIGBTチップ全体に占める逆導通IGBT領域の面積が少なくなるので集積する標準セル数が減少し、オン抵抗が増大するとともにターンオフ時に残存するキャリアを排除するという本来の逆導通IGBTの機能が有効に発揮できなくなってしまう。また、歩留まりなどの経済性の点から素子のチップサイズが通常15mmx15mm以下程度に設定されている現状では重要問題であり、解決すべき第2の課題である。
【0009】
SiC IGBTにおいては〔0007〕に記載のように、パイロットIGBT領域に近接する逆導通IGBTセルから順次オンしてゆき、逆導通Si-IGBT全体がオンするに至るという動作をするので、第1次に引続いて高次のスナップバックが生じる。第1次のスナップバックには上記のパイロットIGBTのような抑制策が開示されているが、この高次のスナップバック現象の抑制策は明らかになっていない。半導体装置が高耐圧・大電流になるほど高次のスナップバック現象は大きくなり、用いた回路に大きな擾乱を招いてしまい誤動作を起したり、場合によっては素子や回路の破壊に至る。この高次のスナップバック現象の抑制により信頼性の向上を図ることは重要な第3の課題である。
【0010】
SiC IGBTにおいてはオン電圧劣化と呼ばれる劣化現象が存在する。これは通電電流ストレスによりオン電圧の経時増加が生じる現象であり、適用電力変換装置の効率の経時減少やモジュール内SiC IGBT間のバランスが崩れ特定チップへの過度の電流集中が生じ素子破壊に到るなどの信頼性上の大きな問題となっている。また、第1次のスナップバック現象や更なる高次のスナップバック現象に伴う電流・電圧ストレスがSiCのようなワイドギャップ半導体逆導通IGBTにおけるオン電圧劣化をどのように加速するかどのように抑制するかは明らかになっていない。第1次のスナップバック現象や更なる高次のスナップバック現象に起因するオン電圧劣化の抑制により信頼性の向上を図ることは重要な第4の課題である。
なお、ワイドギャップ半導体逆導通IGBTの稼働に伴うオン電圧劣化と区別して、以下ではスナップバック現象にともなう劣化を急速オン電圧劣化と定義しこの名称で記述する。
【0011】
本発明は、前記の従来技術の課題を解消し、Vsbを抑制もしくは解消でき且つターンオフ時の残存キャリアの排除機能を効果的にできる高性能逆導通IGBTを提供することを目的にする。またより小さい専有面積でVsbを抑制もしくは解消できチップサイズを低減できる高性能逆導通半導体装置を提供することを目的にする。また高次のスナップバック現象を抑制もしくは解消できる信頼性の高い高性能逆導通半導体装置を提供することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下では、煩雑さを避け理解を容易にするために、nチャネルタイプのIGBTを対象にして説明する。
上記した課題を解決し本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置は
ワイドギャップ半導体材料を用いて半導体装置を構成し、半導体装置チップの活性領域を従来の標準セルは使用しないでパイロット半導体セルのみで構成することを特徴とする。例えばワイドギャップ半導体材料を用いた半導体装置がSiC逆導通IGBTの場合は、その活性領域をパイロットIGBTセルのみで構成することを特徴とする。
なお、この場合の活性領域を構成するセルであるパイロットIGBTセルは、パイロット機能付IGBT標準セルと定義し、以下ではパイロット機能付IGBTセルルの名称で記述する。
【0013】
この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、
nバッファー層が一重構成、もしくは2重以上の多重構成であることを特徴とする。
【0014】
この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、
半導体装置がワイドギャップで構成された逆導通IGBT半導体装置であり、前記パイロット機能付IGBTセルのpコレクタ幅Wpが、スナップバック現象を解消できる最小pコレクタ幅以上であり、この標準セル内には1個以上のMOSFET表面部が設けられており且つこの標準セルの両端にはn短絡部が設けられていることを特徴とする。
なお、上記のスナップバック現象を解消できる最小pコレクタ幅は臨界コレクタ幅とし定義し、以下では臨界コレクタ幅Wpcと記述する。
【0015】
この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、
第1次スナップバック現象を解消できる臨界コレクタ幅Wpcと短絡部の幅Wnとで規定される標準セル幅に収まる最大のMOSFET表面部の数よりも少ない数のMOSFET表面部数に低減することにより、低減数に比例して高次スナップバック現象を抑制もしくは解消することを特徴とする。
【0016】
この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、
発明者の既発明になるTEDEREC法またはMach-TEDREC法の適用により、オン電圧劣化のみならず急速オン電圧劣化も抑制もしくは解消されることを特徴とする。なお、TEDERECおよびMach-TEDRECは本発明者により発明された動作方法であり、各々特許第4741630号および特許第6232687号にて開示されている。
【0017】
上記した課題を解決し本発明の目的を達成するため、本発明によれば、
逆導通IGBTのスナップバック現象におけるVsbとIsbは発明者の解析により(1)式により近似的に算出できる。
Vsb=IsbxRch+KxIsbxRdrift+Vbi (1)
ここでRchはMOSゲートのチャネル抵抗、Rdriftはドリフト層の抵抗、Vbiはコレクタ接合のビルトイン電圧である。KはIsbの電流拡がり率であり、寄生JFET幅を小さくすることにより1に近づけることができる。高耐圧逆導通IGBTではRchはRdriftに比べて著しく小さいため無視できる。
【0018】
ワイドギャップ半導体材料はSiに比べ優れた物性値を有しているのでパイロットIGBTのVsbを大幅に小さくできる。例えば、SiC半導体の場合はVbiが約2.7VでSiの約4倍でありVsb低減に不利である一方、Rdriftは理論的には約1/1000と大幅に小さくできるので結果としてパイロットIGBTのVsbを大幅(約1/250)に低減でき、Vbiによる不利を補ってあまりある。
この結果、SiC半導体を用いることにより構成されたパイロット機能付標準セルを適用することより、Vsbを大幅に小さしくでき誘発される過度現象を大幅に抑制でき、この逆導通IGBTを用いた回路の誤動作やそれに伴う素子や回路の破壊を抑制でき、信頼性を向上できる。
【0019】
更に、上記した課題を解決し本発明の目的を達成するため、本発明によれば、
上記のように、Siに比べてSiCを用いるとVsbを大幅に抑制できるので、同じVsbの場合はpコレクタ幅を大幅に小さくできる。従って、引例2のように標準セルとパイロットIGBTの組み合わせでチップを構成するのではなく、大幅に小さくできるパイロットIGBT自体を標準セルとして用いてチップを構成する。上記のように、この標準セルはパイロット機能付き標準セルと定義している。
Vsbを同じにした場合、所定の数のパイロット機能付きIGBT標準セルにより構成されたSiCチップの面積は、標準セルとパイロットIGBTの組み合わせで構成されたSiチップの面積よりも遙かに小さい。例えば、引例2の3.3kVのSi逆導通IGBTの場合、標準セル幅は240ミクロンメートル、パイロットIGBTの幅は650ミクロンメートル以上であるが、15kV級SiCの場合はパイロット機能付きIGBT標準セルを適用することにより、耐圧が著しく高いにもかかわらずその標準セル幅は後述の解析計算によれば196ミクロンメートルと大幅に小さくできる。しかも大きな幅のパイロットIGBTは不要にできる。
従って同一チップサイズで同耐圧の逆導通IGBTの場合は、Siチップに比べてSiCチップでは大きな余剰スペースが確保できる。従ってこの余剰スペースに複数個のパイロット機能付き標準セルを追加して設けることによりオン抵抗を低減できるとともに、余剰スペースを活用して標準セル中の短絡領域幅をより大きくすることにより逆導通機能も向上できる。
【0020】
上記した課題を解決し本発明の目的を達成するため、本発明によれば、
半導体装置は上記のように、チップ内の各標準セルは全てパイロット機能を具備している。この結果チップの全セルはいわば同一サイズのパイロットIGBTより構成されるので稼働させる時にはほぼ同時にオンさせることができる。
また、パイロット機能付き標準セル内にn個のMOSFET表面部を設けた場合は第n次の高次スナップバックまでしか発生しない。これらの高次スナップバックは1次スナックバック現象を抑制もしくは解消できることに依り、付随して抑制もしくは解消でき、高次スナップバックに起因する回路上の諸問題の発生を抑制することができる。
【0021】
更に、標準セルの両端にn短絡層を設けその間にコレクタのみを設けることにより、標準セルの幅を効果的に活用できコレクタ幅を最大限大きくできる。また、標準セルのWpが臨界Wp以上であり、標準セル内には偶数のMOSFET表面部が設けられているのでpコレクタをVbi抑制に最も効果的に活用できる。
【0022】
本発明によれば、上記した発明において、
一重構成のnバッファー層を設けているのでVsbを高精度で制御できる。また2重以上の多重構成であるので小さいコレクタ幅でVsbを抑制もしくは解消できる。これは2重化することによりバッファー層の横抵抗を大きくできその結果低いVbsで半導体装置をオンできることに依るものである。2重nバッファー層はpコレクタに接する高濃度で薄い第1バッファー層とnドリフト層に接する低濃度で厚い第2バッファー層からなる2重構造で構成している。第1バッファー層はコレクタとバッファー層間の接合にそのビルトイン電圧Vbiが印加される時には完全に空乏化する厚さと不純物濃度に設定することが肝要であり、第2バッファー層は一部のみが空乏化し空乏化しない残りのバッファー層部分は高い横抵抗を達成する厚さと不純物濃度に設定することが肝要である。
2重以上の多重構成の場合はドリフト層に接する低濃度で厚い第2バッファー層に相当する第N層以外の層は全てビルトイン電圧Vbiが印加される時には完全に空乏化する厚さと不純物濃度に設定することが肝要である。この結果、第Nバッファー層は容易に更に低濃度化でき、空乏化していない第Nバッファー層部分は2層の場合よりもより高い横抵抗を容易に実現でき、バッファー層幅とpコレクタ幅を更に縮小でき、セルサイズひいてはチップサイズを更に縮小でき大きな経済効果を達成できる。
【0023】
本発明によれば、上記した発明において、
高次スナップバック現象が抑制もしくは解消できる。これは上記のように、SiC逆導通IGBTの場合Si逆導通IGBTに比べて飛躍的に小さいコレクタ幅にでき、1次スナックバック現象を抑制もしくは完全に解消できることに付随するものである。
また、第1次スナップバック現象を解消できるコレクタ幅Wpcと短絡部幅Wnとで規定される標準セル幅内に収まる最大のMOSFET表面部の数N個よりも少ない数のMOSFET表面部数に低減することにより、パイロット機能付標準セルの高次スナップバックを抑制もしくは解消できることによる。この際、パイロット機能付標準セルのオン抵抗が増えることになるが、標準セルが大幅に小さくなるのでチップ内の標準セル数を増やすことにより十分相殺できるものである。
【0024】
本発明によれば、上記した発明において、
Mach-TEDREC法の適用によりオン電圧劣化が抑制もしくは解消できる。すなわち、第1次のスナップバック現象および高次のスナップバック現象伴う電流・電圧ストレスに起因する上記の急速オン電圧劣化は、始動時および稼働時の素子温度を劣化抑制温度以上に上昇させることにより抑制もしくは解消できるので、SiC逆導通IGBTの短絡領域を介してSiC MOSFET部のみ動作させて劣化を生じない多数キャリア電流のみを流して素子温度を劣化抑制温度以上に上昇させることにより抑制もしくは解消できる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明により、ワイドギャップ半導体を用いて逆導通IGBTを構成し、Siの標準セルよりも大幅に小面積にできるパイロット機能付標準セルを用いてSiCチップを構成することにより、チップ面積縮小と、スナップバック現象抑制による回路動作の擾乱や破壊を低減できることによる高信頼性と、ターンオフ時の残存キャリアの排除もより効果的にできターンオフ時間をより短くできることによるスイッチング損失の低減とを達成できる。また第1次および高次スナップバックを大幅に抑制でき、スナップバック現象に起因する急速オン電圧劣化やその悪影響を抑制し信頼性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施の形態1にかかるSiC逆導通IGBTの模式的断面図
【
図2】実施の形態1にかかる15kV級SiC逆導通IGBTの出力特性
【
図3】実施の形態1にかかる15kV級SiC逆導通IGBTのVsbとWpの関係
【
図4】実施の形態2にかかるSiC逆導通IGBTの模式的断面図
【
図5】実施の形態2にかかる15kV級SiC逆導通IGBTのVsbとWpの関係
【
図6】実施の形態3にかかるSiC逆導通IGBTの模式的断面図
【
図7】従来例1の高耐圧Si逆導通IGBTの模式的断面図
【
図8】従来例2の高耐圧Si逆導通IGBTの模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。図面中の層や領域を示す番号と矢印は同じ層や領域の場合、原則的に各々代表して1個のみに記し他は省略してある。また、各図は発明をよりよく説明うるためのもので各図内および各図間の寸法には比例などの相関はない。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置を模式的に示す断面図である。
図1に示す実施の形態1にかかる半導体装置は、SiC(炭化珪素)半導体を用いて作製された例えば設計耐圧15kV級のプレーナゲート構造の逆導通IGBT100である。
Siに比べてSiCを用いるとVsbを大幅に抑制できるので、同じVsbの場合はpコレクタ幅を大幅に小さくできる。従って、引例2のように標準セルとパイロットIGBTの組み合わせでチップを構成するのではなく、本SiC逆導通IGBTでは大幅に小さくできたパイロットIGBT自体を標準セルとするセルすなわちパイロット機能付き標準セルを用いてチップを構成することを特徴とする。
本SiC逆導通IGBTは、高耐圧においてスナップバック現象を抑制する必要面からの制約と性能面からのMOSFET部の制約と実用面からのチップ面積による制約とを協調させてpコレクタ幅Wpを設定していることを特徴とする。
【0029】
まず、本SiC逆導通IGBT100の構造を説明する。
図1には、逆導通IGBT100の活性領域の一部のみを示している。SiC逆導通IGBT100は、例えば活性領域を囲むように耐圧構造部(不図示)を備えている。活性領域とは、半導体装置のオン時に電流が流れる領域であり、耐圧構造部とは、半導体装置を構成するpn接合付近の電界強度を緩和し、所望の耐圧を実現する構造部である。チップサイズは8mmx8mmであり、活性領域は6mmx6mmであり、活性領域を囲んでいる耐圧構造部の幅は1mmである。活性領域中の逆導通IGBT標準セルはストライブ状であり、標準セルの幅は196ミクロンメートルである。なお標準セルの幅はn短絡部103の幅Wnとpコレクタ領域102の幅Wpの和として定義している。
【0030】
図1に示すように、SiC逆導通IGBT100において、コレクタ電極101に接する面にはpコレクタ層103とこの層を貫通する複数のn
+短絡部が設けられ、pコレクタ領域102とn
+短絡部領域103とが交互に形成されている。pコレクタ領域102の不純物濃度および厚さは、例えば、それぞれ3.5×10
17cm
-3および1.5ミクロンメートルであってもよい。n+短絡部103の不純物濃度および厚さは、例えば、それぞれ1×10
19cm
-3および1.5ミクロンメートルであってもよい。これらの領域102と103のおもて面には、nバッファー層104が設けられている。
【0031】
バッファー層104の表面には、n-ドリフト層106が設けられている。n-ドリフト層106の不純物濃度は、nバッファー層104の不純物濃度よりも低い。具体的には、n-ドリフト層106の不純物濃度および厚さは、例えば、それぞれ2×1014cm-3および150ミクロンメートルであってもよい。概略的にこの程度の不純物濃度の場合、n-ドリフト層106の厚さ10ミクロンメートル当たり例えば耐圧1kVは容易に実現することができる。このため、n-ドリフト層106の厚さを150ミクロンメートルとすることで、15kVの耐圧が期待できる
【0032】
n-ドリフト層106の表面層には、MOSFETを構成するpボディ領域107が選択的に1個以上設けられている。pボディ領域107の不純物濃度は、n-ドリフト層106よりも高い。具体的には、pボディ領域107の不純物濃度および厚さは、例えば、それぞれ1×1018cm-3および0.3ミクロンメートルであってもよい。隣り合うpボディ領域107に挟まれたn-ドリフト層106の、pボディ領域107が並列する方向(以下、水平方向とする)の幅は、例えば3ミクロンメートル以上12ミクロンメートル以下であってもよい。なお、この隣り合うpボディ領域107とこれらに挟まれたn-ドリフト層106とは寄生接合FET部としても機能する。
pボディ領域107は、例えばアルミニュームのイオン注入によって形成された半導体層である。 この寄生接合FET部としても機能するn-層114の不純物濃度はn-ドリフト層106と同じく5×1016cm-3であってもよく、寄生接合FET部としての機能を損なわない範囲で異なっても良い。厚さは0.6ミクロンメートルであってもよい。
【0033】
なお、SiC半導体は深さ方向に直行する方向の不純物拡散がシリコン半導体に比べて少ないので、
図1において半導体層を矩形状に図示する(以下の図に示す逆導通IGBTにおいても同様に、半導体層を矩形状に図示する)。
【0034】
pボディ領域107の表面層には、MOSFET部のソースとして機能するn+エミッタ領域108およびp-低濃度チャネル領域109やp+コンタクト領域110が選択的に設けられている。n+エミッタ領域108およびp-低濃度チャネル領域109やp+コンタクト領域110は、例えばイオン注入によって形成された半導体層である。p-低濃度チャネル領域109は、pボディ領域107の一方の端部に設けられ寄生接合FET部に接する。n+エミッタ領域108は、p-低濃度チャネル領域109の寄生接合FET部に接する端部に対して反対側の端部に接する。
【0035】
MOSFET部のn+エミッタ領域108の、p-低濃度チャネル領域109に接していない側の端部は、p+コンタク領域110に接している。各pボディ領域107に設けられたp-低濃度チャネル領域109およびn+エミッタ領域108は、pボディ領域107上でp+コンタク領域110を介して隣り合う他のn+エミッタ領域108およびp-低濃度チャネル領域109と対称に配置されている。
【0036】
MOSFET部のp-低濃度チャネル領域109の不純物濃度は、pボディ領域107の不純物濃度よりも低い。具体的には、p-低濃度チャネル領域109の不純物濃度および厚さは、例えば、それぞれ1×1016cm-3以上7×1018cm-3以下であってもよく、厚さは0.3ミクロンメートルであってもよい。
n+エミッタ領域108の不純物濃度は、n-ドリフト層106の不純物濃度よりも高い。具体的には、n+エミッタ領域108の不純物濃度および厚さは、例えば、それぞれ5×1019cm-3および0.3ミクロンメートルであってもよい。p+コンタク領域110の不純物濃度および厚さは、例えば1×1019cm-3および0.3ミクロンメートルであってもよい。
p-低濃度チャネル領域109およびn+エミッタ領域108は、pボディ領域107の表面層にそれぞれイオン注入によって形成される。p-低濃度チャネル領域109およびn+エミッタ領域108はpボディ領域107の表面層に例えば0.3ミクロンメートルの深さで設けられるので、pボディ領域107の、p-低濃度チャネル領域109およびn+エミッタ領域108とに挟まれた部分の厚さは例えば0.3ミクロンメートルとなる。
【0037】
p-低濃度チャネル領域109の水平方向の幅は、例えば0.75ミクロンメートルであってもよい。n+エミッタ領域108の水平方向の幅は、例えば6ミクロンメートルであってもよい。
【0038】
p-低濃度チャネル領域109の表面には、ゲート絶縁膜111を介してゲート電極(制御電極)112が設けられている。ゲート絶縁膜111の厚さは約600オングストロームであってもよい。エミッタ電極113は、n+エミッタ領域108に接するとともにp+コンタクト層110を介してpボディ領域107にも電気的に接する。また、エミッタ電極113はゲート電極112から絶縁されている。
上記のn-ドリフト層106上のMOSFET構成部は、総称してMOSFET表面部と定義し以下ではこの名称で記載する。
【0039】
次に、本実施の形態になるSiC逆導通IGBTの新規な特徴を説明する。
SiC逆導通IGBTの耐圧が高くなるほどn-ドリフト層106の厚さは厚く不純物濃度は小さくする必要があるのでRdriftが大きくなる。従って、スナップバック電圧Vsbが高くなる《(1)式参照》。このため、pコレクタ102の幅を極力大きくする方が好ましい。しかしこの場合pコレクタ102に対向するMOSFET表面部の幅を大きくする必要があるが、SiC逆導通IGBTのオン損失が増大するなどのために性能上好ましくない。従って、本SiC逆導通IGBTは、高耐圧においてスナップバック現象を解消もしくは許容範囲に抑制する必要面からの制約と低損失化といった性能面からのMOSFET部の制約と実用面からのチップ面積による制約等を協調させてpコレクタ幅Wpを設定している。その上で、パイロットIGBTの機能を標準セル本体に担わせるという新規に発想し定義したパイロット機能付きIGBT標準セルでチップを構成することを特徴とする。このようなセル幅を縮小したパイロット機能付きIGBT標準セルのみでチップの活性領域を埋め尽くすことにより、1次スナップバックを解消もしくは大幅に抑制でき且つ高次スナップバックも解消もしくは抑制できるものである。
【0040】
図2に本実施の形態の15kV級SiC逆導通IGBT100の出力特性すなわちJceとVceの関係のシミュレーション結果を示す。コンピュータの計算能力の点からシミュレーションモデルは
図1の本実施の形態そのものでなく、7個のMOSFET表面部うち中央部の1個のみが存在する構造にしている(後述の
図4において第1バッファー層204が存在しない一重のバッファー層の構造に該当する構造である)。出力特性にスナップバック現象が観察されVsbは約7.2Vである。素子の自己発熱密度が300W/cm
2の点線曲線と出力特性の交点から、175℃における出力電流密度Jceは約4.5Vで約65A/cm2であり、耐圧15kV級素子としては十分に高い値である。このSiC逆導通IGBTはVce約3.8Vでほぼ完全にオンしている。従って、スナップバック電圧を3,7V以下にすればスナップバック現象はほぼ解消できることが明らかである。
【0041】
図3は本実施の形態の15kV級SiC逆導通IGBT100のVsbとWpの関係の解析計算結果を示す。
解析モデルは上記の
図2と同じである。これよりバッファー層の不純物濃度が1×10
15cm
-3の場合Wpを175ミクロンメートル以上とすれば、Vsbを3.7V以下にできスナップバック現象を解消できることが判る。スナップバック現象を解消できるWpを臨界コレクタ幅と定義しWpcと記載する。ここでは若干の余裕をとってWpを180ミクロンメートルに設定する。またWnは8ミクロンメートルを基本にしているが、ターンオフ時のスイッチング損失を更に低減するためWnを2倍の16ミクロンメートルと設定する。従って、セル幅は196ミクロンメートルとなる。ところで、この196ミクロンメートルのセル幅は上記の標準セル内のMOSFET表面部を24ミクロンメートルから28ミクロンメートルにするとその7倍なのでMOSFET表面部を図示したように7個に増やすことができる。この結果、オン抵抗を1/7にでき低損失にできる。更に、短絡部103の幅Wnを2倍にしたため、逆導通IGBT本来のターンオフ時のキャリアの排除機能を大幅に増加でき、この結果ターンオフ時間を低減できスイッチング損失も大幅に低減できトータルで飛躍的な低損失化が図れる。
【0042】
このSiCチップの面積を、引例2のような標準セルとパイロットIGBTの組み合わせで構成されたSi逆導通IGBTと比較してみると、Siチップの面積よりも遙かに小さい。例えば、引例2の3.3kVの逆導通IGBTの場合、パイロットIGBTの臨界コレクWpcは約650ミクロンメートルであり標準セル幅は240ミクロンメートルである。上記のパイロット機能付きSiC逆導通IGBTの標準セル幅は耐圧15kVであるにもかかわらず3,3kVのSi逆導通IGBTの標準セル幅の82%であり小さい。これにパイロットIGBTのコレクタ幅を加味すると更に小さくなり、更に耐圧が数倍高くなることを加味すると遙かに小さくなる。
従って、同一チップサイズの場合で且つ同じ耐圧の場合は、Siチップに比べてSiCチップでは十分大きな余剰スペースが確保できる。従ってこの余剰スペースに複数個のパイロット機能付き標準セルを追加することによりオン抵抗を大幅に低減できるとともに、標準セル中の短絡領域幅をより大きくすることにより逆導通機能も向上できる。
【0043】
次に、本SiC逆導通IGBT100の特性について説明する。
本IGBTチップ100は高耐圧パッケージにダイボンデングし、更にゲート電極のワイヤボンディングを施し、更にエミッタ電極113とダイボディング金属面間を複数本のAlワイヤボンデングにより結線してコレクタ電極101と電気的に接続し、ついで保護用の高耐圧高耐熱レジン(ナノテクレジン)でチップとAlワイヤを完全に被覆して半導体装置にしたのち動作試験に供した。
ゲート電圧を印加しない状態でエミッタ電極113とコレクタ電極101間に順方向電圧を印加すると、リーク電流が流れるが良好な順阻止特性を示し、室温での耐圧すなわちなだれ降伏を示す電圧は約15.2kVである。また、なだれ降伏前のリーク電流は室温で7×10-6A/cm2以下、250℃の高温でも9x10-5A/cm2以下と良好である。
【0044】
コレクタ電極301とエミッタ電極313間に順方向電圧を印加し、ついでゲート電極312に閾値電圧以上のゲート電圧を印加するとMOSFET部がオンする。更にゲート電圧を増加してゆくと順方向電圧に比例した電流が流れる。この電流はオン電圧劣化抑制に活用される。更にコレクタ電極-エミッタ電極間の順方向電圧を増大し、ある電圧(スナップバック電圧)でIGBT部をオンさせても、オン電圧が急減する1次から高次に渡るスナップバック現象は全て観察されなかった。
【0045】
更に順方向電圧を増加してゆくと電流は非線形的に増加してゆき、コレクタ-エミッタ間電圧(以下Vce)が5Vでのコレクタ-エミッタ間電流密度Jceは約120A/cm2となり良好である。
引例2のデータからから推定すると、耐圧3.3kVのSi逆導通IGBTの場合スナップ電圧がVbiと等しくなりスナップバック現象を解消するにはWpを約650ミクロンメートル以上にする必要がある。耐圧15kVの場合は更に大幅なWpの増大が必要となるので、Wpc175ミクロンメートルでスナップバック現象が解消できる本発明の効果が明らかである。
【0046】
本実施の形態になる15kV級逆導通SiC-IGBTに、直流電源電圧5kVを印加してオンさせ電流密度50A/cmを通電している条件で測定した時のターンオフ時間は約2.4μsであり、同耐圧クラスSiC-IGBTの約1/2であり短い。このようにターンオフ時間を低減でき高速化できる結果、スイッチング損失を著しく低減でき低損失化できる。
【0047】
スナップバック現象は低次ほどVsbが大きくIsbが小さいが、高次ほどVsbは小さくなりIsbは大きくなる。一方、オン電圧劣化はSiC-IGBTのようなバイポーラ素子に特有な劣化現象であり、通電電流ストレスにより積層欠陥が拡大して進行する。従って、高次のスナップバックに伴う大きいIsbによるストレスほど、より積層欠陥を拡大し急速オン電圧劣化の増大をもたらす懸念がある。本実施の形態では標準セル内のMOSFET表面部が7個なので、7次のスナップバックまで発生する。
【0048】
上記のパイロット機能付き標準セルの適用により標準セルの幅が大幅に小さくなり、標準セルの通電電流密度や高次スナップバック時の電流密度が大幅に高くなるため、オン電圧劣化や急速オン電圧劣化の深刻化が懸念された。そこで上記のMach-TEDREC法を適用し上記のMach-TEDREC法を適用し通電試験とオン・オフ繰り返し試験実施し、オン電圧劣化や急速オン電圧劣化の発生状況を検討した。いづれの試験においても劣化によるオン電圧の増大は極めて小さく、ほとんどの素子がSi逆導通IGBTと同等の0.2V以下にとどまり顕著な信頼性への悪影響は見られず高い信頼性が確認でき、本実施の形態の効果が明らかである。
なお、パイロット機能付SiC逆導通IGBT構成により、スナップバック現象が完全に解消できた素子の場合は高次のスナップバック現象も必然的に解消できる。この場合も、上記の試験結果はほぼ同様であり顕著な信頼性への悪影響は見られず、高い信頼性が確認できた。
【0049】
以上に説明したように、実施の形態1にかかる半導体装置によれば、スナップバック現象を解消もしくは抑制でき、更なる高速・低損失化により高性能化できるとともに、オン電圧劣化も抑制でき信頼性も高い逆導通IGBT100を実現できる。
【0050】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2にかかるSiC逆導通IGBT半導体装置200を模式的に示す断面図である。設計耐圧が15kV級のSiC逆導通IGBTである。上記の実施の形態1の半導体装置に比べて、バッファー層を2重バッファー層にしてパイロット機能付標準セルのpコレクタ幅Wpを短くしセルの幅を小さくしている点、標準セル内にMOSFET表面部を1個設けている点を除けば、その他はほぼ同じ構造である。
【0051】
本実施の形態はバッファー層を2重バッファー層にしている。この2重nバッファー層は、SiCエピタキシャル層もしくはイオン打込み層であってもよい。
2重nバッファー層はpコレクタに接する高濃度で薄い第1バッファー層204とnドリフト層に接する低濃度で厚い第2バッファー層205からなる2重構造で構成している。第1バッファー層204はビルトイン電圧Vbiが印加される時には完全に空乏化する厚さと不純物濃度に設定することが肝要であり、第2バッファー層205は一部のみが空乏化し高い横抵抗を達成する厚さと不純物濃度に設定することが肝要である。第1バッファー層204の不純物濃度Nd1と厚さは1×1016cm-3 と0.3ミクロンメートル、更に第2バッファー層205の不純物濃度Nd2と厚さは1×1015cm-3 と 1.5ミクロンメートルであってもよい。なお2重nバッファー層の効果をよりよく発揮させるためにはSiC逆導通素子がノンパンチスルー構造である方が好ましいが、パンチスルー構造でも2重nバッファー層の構造因子の変更により可能である。
2重nバッファー層の適用によりパイロット機能付標準セルのpコレクタ幅を大幅に小さくでき、小さい面積でスナップバック現象を解消するとともに、同Vsbで同耐圧のSi逆導通IGBTに比較してチップに大きな余剰スペースが生じる。この余剰スペースに複数のパイロット機能付標準セルを追加することによりチップサイズの低減およびオン抵抗の低減による低損失化が同時にできる。また、この余剰スペースを活用してパイロット機能付標準セルの短絡部203の幅Wnを大きくすることにより、逆導通IGBT本来のターンオフ時のキャリアの排除機能を大幅に増加できるので、ターンオフ時間の低減によるスイッチング損失の低減ができ低損失化が図れる。
【0052】
図5は本パイロットIGBT機能付標準セルについて、Vsbとpコレクタ幅Wpの関係を解析計算した結果を示す。第1バッファー層204の不純物濃度Nd1と厚さは1×10
16cm
-3 と0.3ミクロンメートル、更に第2バッファー層205の厚さは
1.5ミクロンメートルに固定し、不純物濃度Nd2をパラメータとして算出している。スナックバックがほぼ解消できるVsbは前記のように約4Vであり、このためには不純物濃度Nd2を1×10
15cm
-3 とした場合、前記のようにスナップバックが解消される3.7V以下のVsbにできるコレクタ幅Wpcは44ミクロンメートルである。なお、n+短絡部203の幅Wnは8ミクロンメートルであってもよく、この場合セルの幅は52ミクロンメートルとなる。
SiC半導体素子のチップ面積を8mmx8mmにした場合、活性領域の面積は6mmx6mmである。SiC半導体素子を高性能化するには、この制約されたチップ面積内に上記のパイロットIGBTの機能付標準セルを極力多く設けるのが定常オン損失を低減でき好ましい。この場合6mm幅の活性領域に115個のストライブセルが集積でき好適である。
【0053】
本実施の形態2にかかるSiC逆導通IGBTにゲート電圧を印加しない状態でエミッタ電極213とコレクタ電極201間に順方向電圧を印加すると、リーク電流が流れるが良好な順阻止特性を示し、大多数の半導体装置の室温での耐圧すなわちなだれ降伏を示す電圧は16.2kV付近である。また、なだれ降伏前のリーク電流は室温で1.5×10-6A/cm2以下、250℃の高温でも2×10-5A/cm2以下と良好である。
ゲート電極212に閾値電圧以上のゲート電圧を印加し、ついでコレクタ-エミッタ間に順方向電圧を印加し増加してゆくと順方向電圧に比例した電流が流れ、ある電圧でIGBTがオンするがスナップバック現象は一次を含め高次も全く観察されず、本発明の効果が明らかである。
更に順方向電圧を増加してゆくと電流は非線形的に増加してゆく。コレクタ-エミッタ間電圧(以下Vce)が5VでのJceは75A/cm2と良好である。
【0054】
また、耐圧3.3kVのSi逆導通IGBTのVsbをVbi(0/7V)以下にするにはパイロットIGBTのWpの実験値が約650ミクロンメートル以上であり、耐圧を高くするとVsbが更に大幅に増大する。本実施の形態2によれば、標準セルは耐圧が約15kVと大幅に高いにもかかわらずWpを44ミクロンメートル以上とすればよく、大幅に低減でき本発明の効果が明らかである。
2重nバッファー層の適用により生じるこの余剰スペースに複数のパイロット機能付標準セルを追加することによりチップサイズの低減およびオン抵抗の低減による低損失化が同時にできる。また、この余剰スペースを活用してパイロット機能付標準セルの短絡部203の幅Wnを大きくすることにより、逆導通IGBT本来のターンオフ時のキャリアの排除機能を大幅に増加できるので、ターンオフ時間の低減によるスイッチング損失の低減ができ低損失化が図れる。
【0055】
上記のパイロット機能付き標準セルの適用により標準セルの幅が大幅に小さくなり、標準セルの通電電流密度や高次スナップバック時の電流密度が大幅に高くなるため、オン電圧劣化や急速オン電圧劣化の深刻化が懸念された。そこで上記のMach-TEDREC法を適用し通電試験とオン・オフ繰り返し試験を実施し、オン電圧劣化や急速オン電圧劣化の発生状況を検討した。しかし、両試験においても劣化によるオン電圧の増大は極めて小さく、ほとんどの素子がSi逆導通IGBTと同等の0.2V以下にとどまり顕著な信頼性への悪影響は見られず、本実施の形態の効果が確認された。
【0056】
以上に説明したように、実施の形態2にかかる半導体装置によれば、スナップバック現象を解消でき、且つ更なるチップ縮小や低損失化および高速化による更なる高性能化ができるとともに、高次スナップバックにともなう急速オン電圧劣化も解消できる信頼性の高いSiC逆導通IGBTを実現できる。また、本発明になる新しい動作方法によれば、オン電圧劣化のみならず急速オン電圧劣化も解消もしくは抑制ができ、更に信頼性の高いSiC逆導通IGBTの動作方法を実現できる。
【0057】
(実施の形態3)
図6は、実施の形態3にかかるSiC逆導通IGBT半導体装置300を模式的に示す断面図である。設計耐圧が15kV級のSiC逆導通IGBTである。上記の実施の形態1の半導体装置に比べて、
標準セルの一方の端部のみにn短絡部が設けられ、この標準セル1個とこの標準セルをn短絡部が設けていない他方の端部を反転軸として反転させた反転標準セル1個とを一対としたハイブリッドセル構成にして配置し活性領域を構成している点、更にこの標準セルのpコレクタに対抗して実施の形態1と同サイズのMOSFET表面部を複数設けている点を除けばその他はほぼ同じ構造である。
本SiC逆導通IGBTは、ハイブリッドセル構成にすることにより1個のセル内のpコレクタの幅を実施の形態2のほぼ2倍の幅のコレクタとして活用し、スナップバック現象を更に大幅に抑制できることを特徴とする。
【0058】
本実施の形態では各セルにおいて上記反転軸に最近接のMOSFET表面部がそれぞれパイロットIGBTとして機能する。この部分に注目すると、標準セルのpコレクタの全幅を効率的に使用できる結果、スナップバック現象を大幅に抑制もしくは解消できる。ちなみに
図6の場合、
図2の解析結果からVsbを3.7Vにしスナップバック現象をほぼ解消できるWpは44ミクロンメートルであり両端のn短絡部を加えた標準セル幅は52ミクロンメートルである。一方、MOSFET表面部の幅は24ミクロンメートルであるので、集積されるMOSFET表面部を2個に増やすことができる。この結果、標準セル当たりのオン抵抗を1/2にでき大幅に低損失化できる。なお、パイロットIGBTとして機能するMOSFET表面部のIGBTがオンした後に引き続き他のMOSFET表面部のIGBTがオンするので2次スナップバックが生じるが、MOSFET表面部のIGBTのVsbが約3.7Vであり1次スナップバックがほぼ解消されているので2次スナップバックのVsbは当然3.7Vよりも小さいのでその影響は実用上問題とならないものである。
【0059】
本実施の形態3にかかるSiC逆導通IGBTはゲート電圧を印加しない状態でエミッタ電極314とコレクタ電極301間に順方向電圧を印加すると、リーク電流が流れるが良好な順阻止特性を示し、大多数の室温での耐圧すなわちなだれ降伏を示す電圧は15.5kV付近である。また、なだれ降伏前のリーク電流は室温で3×10-6A/cm2以下、250℃の高温でも3.5×10-5A/cm2以下と良好である。
【0060】
ゲート電極312に閾値電圧以上のゲート電圧たとえば20Vを印加し、ついでコレクタ-エミッタ間に順方向電圧を印加し増加してゆくと、順方向電圧に比例したMOSFET電流が流れ、ある電圧でIGBTがオンするがスナップバック現象は一次を含め高次も全く観察されず、本発明の効果が明らかである。
更に順方向電圧を増加してゆくと電流は非線形的に増加してゆく。コレクタ-エミッタ間電圧(以下Vce)が5VでのJceは145A/cm2と良好である。
【0061】
本実施の形態になるSiC逆導通IGBTの場合は、Wnが8ミクロンメートルであり、標準セル幅は52ミクロンメートルであり、4Vと同程度のスナップバック電圧をもつSi逆導通IGBTに比べるとWpひいてはセル幅がはるかに小さい。従って、耐圧が低い3.3kVSi逆導通IGBTに比べても同一チップ面積の場合セル数を約4倍増やすことができ、その分オン抵抗を下げ低損失化ができる。また、標準セル数を目一杯増やさないで、一部を各セル内のWn幅を大きくすることに用いることにより、逆導通IGBT本来のターンオフ時のキャリアの排除機能を増加できる。この結果、ターンオフ時間を低減でき高速化できスイッチング損失も大幅に低減でき、上記のオン抵抗低減分と併せてトータルで飛躍的な低損失化ができる。
【0062】
上記のパイロット機能付き標準セルの適用により標準セルの幅が大幅に小さくなり、標準セルの通電電流密度や高次スナップバック時の電流密度が大幅に高くなるため、オン電圧劣化や急速オン電圧劣化の深刻化が懸念された。そこで上記のMach-TEDREC法を適用し通電試験とオン・オフ繰り返し試験を実施し、オン電圧劣化や急速オン電圧劣化の発生状況を検討した。しかし、両試験においても劣化によるオン電圧の増大は極めて小さく、ほとんどの素子がSi逆導通IGBTと同等の0.2V以下にとどまり顕著な信頼性への悪影響は見られず、本実施の形態の効果が確認された。
【0063】
以上に説明したように、実施の形態3にかかる半導体装置によれば、スナップバック現象を解消もしくは抑制でき、且つ更なる低損失化や高速化による大幅な高性能化ができるとともに、2次スナップバックにともなう急速オン電圧劣化も解消もしくは抑制でき、信頼性の高いSiC逆導通IGBTを実現できる。
【0064】
以上、第1から第3の実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく各種の変形応用が容易に出来ることは当業者には自明である。例えば、構造諸元の数値の変更やセル構造の拡張などにより、3kVといった低い耐圧や25kVといった更に高い耐圧のワイドギャップ半導体逆導通IGBTに展開できることは当然である。セル形状も言及したストライブ形状以外にメッシュ形状等の種々の形状が採用できることは当然である。また、言及したプレーナ型IGBT以外にトレンチ型IGBTに適用できることも当然である。また、セルの幅やn短絡部の幅およびpコレクタの幅も言及した値以外に逆導通IGBTの仕様等によって種々の値を採用できることも当然のことである。また、n型逆導通SiC-IGBTに言及したが、極性の異なるp型逆導通SiC-IGBTにも同様に展開できることは自明である。更に、逆導通SiC-IGBTについて言及したが、GaNやダイヤモンドといった他のワイドギャップ半導体を用いた逆導通IGBTにも展開できるものである。また、逆導通IGBT以外にも逆導通IGBTのようにユニポーラデバイスとバイポーラデバイスを融合したデバイス、例えばSIトランジスタとSIサイリスタの融合デバイス等にもスナップバック現象が生じるので、その対策にも本発明を展開できることは自明である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は配電系統に直結する高耐圧インバータ等に利用でき、この場合はトランスの大幅な小型化やトランス自体を除去することもでき、システムの大幅な小型軽量化や省エネルギー化・省資源化が可能になる。また、現在の配電系統にとどまらず、次世代の系統網であるスマートグリッドへの利用が可能である。更に、半導体装置の耐圧を下げることにより、大型ファンやポンプ、圧延機といった産業用機器の制御装置や新幹線および地下鉄といった電鉄車両のインバータ、大型EVやHEVのインバータ等にも効果的に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1、101,101,301 :コレクタ電極
2、102,202,302 :pコレクタ層
3、103,203,303 :n+短絡部
4、104,204、304 :nバッファー層もしくは第1バッファー層
5.105,305 :n第2バッファー層
6、106,206,306 :n-ドリフト層
7、107,207,307 :pボディ領域
8、108,208,308 :n+エミッタ領域
9、109,209,309 :チャネル領域
10、110,210,310:p+コンタクト領域
11,111、211,311:ゲート酸化膜
12,112,212,312:ゲート電極
13、113,213,313:エミッタ電極
14、114、214,314:寄生JFET部
【手続補正書】
【提出日】2021-12-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイドギャップ半導体で構成された逆導通半導体装置において、その活性領域の標準セルのより多くをパイロット機能を具備したパイロット機能付標準セルで構成したことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
〔請求項1〕において、前記半導体装置がワイドギャップ半導体で構成された逆導通IGBTであり、その活性領域の標準セルのより多くをパイロット機能を具備したパイロット機能付IGBT標準セルで構成したことを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
〔請求項1〕もしくは〔請求項2〕において、前記半導体装置はバッファー層を有し、このバッファー層が一重構成、もしくは2重以上の多重構成であることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
〔請求項1〕から〔請求項3〕において、前記パイロット機能付標準セルのコレクタ幅Wpが、臨界コレクタ幅Wpc即ちスナップバック現象を解消できる最小コレクタ幅以上であり、このパイロット機能付標準セルの表面には1個以上のMOSFET表面部が設けられており、且つこのパイロット機能付標準セルの表面に対向する裏面の中心部には短絡部が設けられており、この短絡部の両端には各々1/2の幅のコレクタが設けられていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
〔請求項1〕から〔請求項3〕において、前記パイロット機能付標準セルのコレクタ幅Wpが臨界コレクタ幅Wpc以上であり、この前記パイロット機能付標準セルの表面には一個以上のMOSFET表面部が設けられており、且つこのパイロット機能付標準セルの裏面の一方の端部のみには短絡部が設けられている標準セルAと、この標準セルAの裏面の短絡部が設けられていない他方の端部を軸として反転させた反転標準セルBとを構成し、AとB両方のセルを前記反転軸を介して接続し一対にしてパイロット機能付ハイブリッド標準セルを構成して、より多く配置し前記活性領域を構成したことを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
〔請求項1〕から〔請求項5〕において、前記パイロット機能付標準セルの高次スナップバック現象を抑制もしくは解消するために、第1次スナップバック現象を解消できるコレクタ幅Wpcと短絡部の幅Wnの和としてセル幅が規定された前記パイロット機能付標準セルにおいて、このセル幅内に収まる最大のMOSFET表面部の数よりも少ない数のMOSFET表面部で前記パイロット機能付標準セルを構成したことを特徴とする半導体装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
しかし、この引例2の場合は全体のIGBTチップ面積に占めるパイロットIGBT領域の面積がかなり大きくなってしまう。例えば、引例2の場合、データから読み取ると、3.3kV設計のSi逆導通IGBT標準セルのpコレクタ幅が240ミクロンメートルであるのに対し、パイロットIGBTのpコレクタ幅を約3倍以上の650ミクロンメートル以上にすることにより、Vsbをビルトイン電圧である0.7V程度にしている。半導体装置の耐圧が高くなるとスナップバック現象が激しくなり、このパイロットIGBTのpコレクタ幅は更に大幅に増加する。この結果、スナップバック現象は解消されるが、所定面積のIGBTチップ全体に占める逆導通IGBT領域の面積が少なくなるので集積する標準セル数が減少し、オン抵抗が増大するとともにターンオフ時に残存するキャリアを排除するという本来の逆導通IGBTの機能が有効に発揮できなくなってしまう。また、歩留まりなどの経済性の点から素子のチップサイズが通常15mmx15mm以下程度に設定されている現状では重要問題であり、解決すべき第2の課題である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
以下では、煩雑さを避け理解を容易にするために、nチャネルタイプのIGBTを対象にして説明する。 上記した課題を解決し本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置はワイドギャップ半導体材料を用いて半導体装置を構成し、半導体装置チップの活性領域を従来の標準セルに変えてパイロット半導体セルで構成することを特徴とする。例えばワイドギャップ半導体材料を用いた半導体装置がSiC逆導通IGBTの場合は、その活性領域をパイロットIGBTセルで構成することを特徴とする。なお、この場合の活性領域を構成するセルであるパイロットIGBTセルは、パイロット機能付IGBT標準セルと定義し、以下ではパイロット機能付IGBTセルの名称で記述する。 上記の構成にすることに依り後述するが、チップ面積縮小に加えてスナップバック現象の抑制およびこれに起因する急速オン電圧劣化の抑制による信頼性の向上という効果が得られ本発明の目的を達成できる。ところで、例えばSiC逆導通IGBTの場合、上記の活性領域をパイロット機能付IGBTセルのみで構成することにより本発明の効果がフルに得られ理想的であるが、種々の理由からパイロット機能付IGBTセルの他に従来の標準セルを含めて活性領域を構成してもかまわない。この場合もフルではないが、パイロット機能付IGBTセルをより多く含めることにより、その含有比率に対応してより大きく上記の本発明の効果を発揮することができる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
この発明にかかる半導体装置は、上述した発明において、半導体装置が
ワイドギャップ半導体で構成された逆導通IGBT半導体装置であり、前記パイロット機能付IGBTセルのpコレクタ幅Wpが、スナップバック現象を解消できる最小コレクタ幅Wpc以上であり、この標準セルの
表面には1個以上のMOSFET表面部が設けられており
、且つこの標準セルの裏面の中心部には短絡部が設けられており、この短絡部の両端には各々1/2の幅のコレクタが設けられていることを特徴とする。 なお、上記のスナップバック現象を解消できる最小コレクタ幅は臨界コレクタ幅と定義し、以下では臨界コレクタ幅Wpcと記述する。
また、上記の両端のコレクタ幅が1/2である理由は臨界コレクタ幅Wpcの導出モデルとその解析式に依るものであり、本発明者による特許6383971号の図1の導出モデル図や論文( 電気学会、論文誌D(産業応用部門誌)140巻、12号、980頁、 2020年12月1日発行 )の解析式(2)を参照されたい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
次に、本SiC逆導通IGBT100の特性について説明する。本IGBTチップ100は3端子の高耐圧パッケージにダイボンデングし、更にゲート電極のワイヤボンディングとエミッタ電極のワイヤボンディングを施し、ついで保護用の高耐圧高耐熱レジン(ナノテクレジン)でチップとAlワイヤを完全に被覆して半導体装置にしたのち動作試験に供した。ゲート電圧を印加しない状態でエミッタ電極113とコレクタ電極101間に順方向電圧を印加すると、リーク電流が流れるが良好な順阻止特性を示し、室温での耐圧すなわちなだれ降伏を示す電圧は約15.2kVである。また、なだれ降伏前のリーク電流は室温で7×10-6A/cm2以下、250℃の高温でも9x10-5A/cm2以下と良好である。