IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧 ▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-回転子および回転電機 図1
  • 特開-回転子および回転電機 図2
  • 特開-回転子および回転電機 図3
  • 特開-回転子および回転電機 図4
  • 特開-回転子および回転電機 図5
  • 特開-回転子および回転電機 図6
  • 特開-回転子および回転電機 図7
  • 特開-回転子および回転電機 図8
  • 特開-回転子および回転電機 図9
  • 特開-回転子および回転電機 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022015845
(43)【公開日】2022-01-21
(54)【発明の名称】回転子および回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 17/16 20060101AFI20220114BHJP
   H02K 1/32 20060101ALI20220114BHJP
   H02K 1/26 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
H02K17/16 Z
H02K1/32 B
H02K1/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020118962
(22)【出願日】2020-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 聡
(72)【発明者】
【氏名】坪井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】笹井 拓真
(72)【発明者】
【氏名】米谷 晴之
【テーマコード(参考)】
5H013
5H601
【Fターム(参考)】
5H013LL07
5H013NN05
5H601AA01
5H601CC01
5H601CC19
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD29
5H601EE25
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GE12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】回転子スロットの底部に軸方向の通風路を設けた場合でも応力上昇を緩和する。
【解決手段】かご形誘導回転電機のかご形回転子は、ロータシャフトと、複数の回転子スロット70が形成された回転子鉄心12と、複数の二次導体15を有する。回転子スロット70の径方向内側に回転子鉄心内軸方向流路70fが形成されている。回転子スロット70は、保持部内側面72と、2つのスロット側面71と、回転子鉄心内軸方向流路70fを形成するスロット底部曲面74を有する。スロット側面71とスロット底部曲面74は、径方向に対する傾きが連続的で、スロット側面71からスロット底部曲面74の周方向の中央までの径方向に対する傾きは単調に増加し、スロット側面71とスロット底部曲面74を結ぶスロット接続面75の径方向に対する傾きは、二次導体側面15aと二次導体底面15cを結ぶ二次導体接続面15bの径方向に対する傾きよりも小さい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かご形誘導回転電機に用いるかご形回転子であって、
軸方向に延びて回転可能に支持されたロータシャフトと、
前記ロータシャフトに取り付けられて、径方向外側に周方向に互いに間隔をあけて配されて前記軸方向に貫通する複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心と、
前記複数の回転子スロット内を貫通し前記回転子鉄心の前記軸方向の両外側において互いに結合する複数の二次導体と、
を有し、
前記複数の回転子スロットのそれぞれには、前記複数の二次導体のそれぞれが占有する空間の径方向の内側に冷却用ガスの前記軸方向の流路である回転子鉄心内軸方向流路が形成されており、
前記複数の回転子スロットのそれぞれは、
前記複数の二次導体のそれぞれを保持する保持部の径方向の内側の面である保持部内側面と、
前記複数の二次導体のそれぞれを収納し周方向に互いに対向し径方向に拡がった平面状の2つのスロット側面と、
前記2つのスロット側面の径方向の内側にあり、前記回転子鉄心内軸方向流路を形成するスロット底部曲面と、
を有し、
前記2つのスロット側面と前記スロット底部曲面とは、径方向に対する傾きが連続的に変化し、前記2つのスロット側面から前記スロット底部曲面の周方向の中央までの径方向に対する傾きは、単調に増加し、
前記スロット底部曲面における前記軸方向に垂直な断面の曲率半径が、前記二次導体の底面における前記軸方向に垂直な断面の曲率半径よりも小さい、
ことを特徴とするかご形回転子。
【請求項2】
前記2つのスロット側面のそれぞれと前記スロット底部曲面との境界となる仮想直線L1と、前記回転子スロットの周方向の中央の仮想直線L2とを含む仮想平面P1の径方向に対する傾きは、所定の角度以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のかご形回転子。
【請求項3】
前記所定の角度は、遠心力により当該回転子スロットの底部に付加される周方向への引張応力についての前記所定の角度以下としたことで得られる減少分が、前記回転子スロットに前記回転子鉄心内軸方向流路を形成したことにより前記スロット底部曲面が径方向に前記ロータシャフトに近接したことによる前記回転子鉄心と前記ロータシャフトとの間のタガ締め応力の増加分を、相殺可能な角度であることを特徴とする請求項2に記載のかご形回転子。
【請求項4】
前記複数の回転子スロットのそれぞれは、前記回転子鉄心の径方向外側表面に部分的に開口する開口部を有し、
前記保持部は、前記開口部を挟んだ周方向の両側に形成され、
前記複数の二次導体のそれぞれには、前記軸方向に互いに間隔をおいて複数の二次導体通風孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のかご形回転子。
【請求項5】
軸方向に延びて回転可能に支持されたロータシャフトと、前記ロータシャフトに取り付けられて、径方向外側に周方向に互いに間隔をあけて配されて前記軸方向に貫通する複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心と、前記複数の回転子スロット内を貫通し前記回転子鉄心の前記軸方向の両外側において互いに結合する複数の二次導体と、を有するかご形回転子と、
前記ロータシャフトの前記軸方向の両側を回転可能に支持する2つの軸受と、
前記かご形回転子の径方向外側に配された固定子と、
前記固定子を囲むように配された筒状のフレームと、
前記フレームの両端に取り付けられ前記2つの軸受をそれぞれ静止支持する2つの軸受ブラケットと、
を備えるかご形誘導回転電機であって、
前記複数の回転子スロットのそれぞれには、前記複数の二次導体のそれぞれが占有する空間の径方向の内側に冷却用ガスの前記軸方向の流路である回転子鉄心内軸方向流路が形成されており、
前記複数の回転子スロットのそれぞれは、
前記複数の二次導体のそれぞれを収納する保持部の径方向の内側の面である保持部内側面と、
前記複数の二次導体のそれぞれを収納し周方向に互いに対向し径方向に拡がった平面状の2つのスロット側面と、
前記2つのスロット側面の径方向の内側にあり、前記回転子鉄心内軸方向流路を形成するスロット底部曲面と、
を有し、
前記2つのスロット側面と前記スロット底部曲面とは、径方向に対する傾きが連続的に接続され、前記2つのスロット側面から前記スロット底部曲面の周方向の中央までの径方向に対する傾きは、単調に増加し、
前記2つのスロット側面と前記スロット底部曲面とを結ぶ接続面の径方向に対する傾きは、前記二次導体の側面と底面とを結ぶ接続面の径方向に対する傾きよりも小さい、
ことを特徴とするかご形誘導回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次導体を有する回転子、およびこれを用いた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
かご形誘導回転電機あるいは巻線型回転電機、あるいは同期回転電機においては、回転子鉄心の径方向の表面近傍に、周方向に互いに間隔をあけて配置されて軸方向に貫通する複数の回転子スロットが形成される。それぞれの回転子スロットを、たとえば導体バーや回転子巻線などの二次導体が貫通する。
【0003】
回転子スロットの底部、すなわち、径方向内側の部分に、二次導体の径方向内側の空間を設けて、軸方向の通風路を形成する場合がある(引用文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-184529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転子スロットの底部に軸方向の通風路を設けた場合、スロットが通常より深くなるので、スロット底部は、より径方向に中心側に近くなる。通常、回転子鉄心の応力は、径方向内側が高く、径方向外側になるほど低下する。このため、スロット底部が、より中心側に近づくことにより、応力的には、より厳しい側となる。
【0006】
そこで、本発明は、回転子スロットの底部に軸方向の通風路を設けた場合でも、応力の上昇を緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明に係るかご形回転子は、かご形誘導回転電機に用いるかご形回転子であって、軸方向に延びて回転可能に支持されたロータシャフトと、前記ロータシャフトに取り付けられて、径方向外側に周方向に互いに間隔をあけて配されて前記軸方向に貫通する複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心と、前記複数の回転子スロット内を貫通し前記回転子鉄心の前記軸方向の両外側において互いに結合する複数の二次導体と、を有し、前記複数の回転子スロットのそれぞれには、前記複数の二次導体のそれぞれが占有する空間の径方向の内側に冷却用ガスの前記軸方向の流路である回転子鉄心内軸方向流路が形成されており、前記複数の回転子スロットのそれぞれは、前記複数の二次導体のそれぞれを保持する保持部の径方向の内側の面である保持部内側面と、前記複数の二次導体のそれぞれを収納し周方向に互いに対向し径方向に拡がった平面状の2つのスロット側面と、前記2つのスロット側面の径方向の内側にあり、前記回転子鉄心内軸方向流路を形成するスロット底部曲面と、を有し、前記2つのスロット側面と前記スロット底部曲面とは、径方向に対する傾きが連続的に変化し、前記2つのスロット側面から前記スロット底部曲面の周方向の中央までの径方向に対する傾きは、単調に増加し、前記スロット底部曲面における前記軸方向に垂直な断面の曲率半径が、前記二次導体の底面における前記軸方向に垂直な断面の曲率半径よりも小さい、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るかご形誘導回転電機は、軸方向に延びて回転可能に支持されたロータシャフトと、前記ロータシャフトに取り付けられて、径方向外側に周方向に互いに間隔をあけて配されて前記軸方向に貫通する複数の回転子スロットが形成された円柱状の回転子鉄心と、前記複数の回転子スロット内を貫通し前記回転子鉄心の前記軸方向の両外側において互いに結合する複数の二次導体と、を有するかご形回転子と、前記ロータシャフトの前記軸方向の両側を回転可能に支持する2つの軸受と、前記かご形回転子の径方向外側に配された固定子と、前記固定子を囲むように配された筒状のフレームと、前記フレームの両端に取り付けられ前記2つの軸受をそれぞれ静止支持する2つの軸受ブラケットと、を備えるかご形誘導回転電機であって、前記複数の回転子スロットのそれぞれには、前記複数の二次導体のそれぞれが占有する空間の径方向の内側に冷却用ガスの前記軸方向の流路である回転子鉄心内軸方向流路が形成されており、前記複数の回転子スロットのそれぞれは、前記複数の二次導体のそれぞれを収納する保持部の径方向の内側の面である保持部内側面と、前記複数の二次導体のそれぞれを収納し周方向に互いに対向し径方向に拡がった平面状の2つのスロット側面と、前記2つのスロット側面の径方向の内側にあり、前記回転子鉄心内軸方向流路を形成するスロット底部曲面と、を有し、前記2つのスロット側面と前記スロット底部曲面とは、径方向に対する傾きが連続的に接続され、前記2つのスロット側面から前記スロット底部曲面の周方向の中央までの径方向に対する傾きは、単調に増加し、前記2つのスロット側面と前記スロット底部曲面とを結ぶ接続面の径方向に対する傾きは、前記二次導体の側面と底面とを結ぶ接続面の径方向に対する傾きよりも小さい、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転子スロットの底部に軸方向の通風路を設けた場合でも、応力の上昇を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るかご形誘導回転電機の構成を示す立断面図である。
図2】実施形態に係るかご形回転子の構成を示す部分横断面図である。
図3】実施形態に係るかご形回転子の回転子スロットと二次導体との関係を示す回転子鉄心の部分横断面図である。
図4】実施形態に係るかご形回転子の回転子スロットと二次導体との関係を示すそれぞれの表面の径方向に対する傾きの、径方向距離に対する変化を示すグラフである。
図5】実施形態に係るかご形回転子の二次導体を示す斜視図である。
図6】実施形態に係るかご形回転子の回転子鉄心の部分横断面図である。
図7】かご形回転子の回転子鉄心のロータシャフトへの嵌め合いに起因する応力分布の例を示すグラフである。
図8】実施形態に係るかご形回転子の作用を説明する横断面図である。
図9】実施形態に係るかご形回転子の作用を説明するための比較例を示す横断面図である。
図10】実施形態に係るかご形回転子の応力集中の緩和効果を模式的に説明する比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係るかご形誘導回転電機、それに用いるかご形回転子について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係るかご形誘導回転電機の構成を示す立断面図である。
かご形誘導回転電機100は、かご形回転子10、固定子20、2つの軸受31、2つの軸受ブラケット32、フレーム40、および冷却器50を有する。
【0013】
かご形回転子10は、ロータシャフト11、回転子鉄心12、複数の二次導体15、および短絡環16を有する。ロータシャフト11は、軸方向の両端付近を軸受31により回転可能に支持されている。
【0014】
回転子鉄心12は、ロータシャフト11の径方向外側に取り付けられている。回転子鉄心12は、通常、複数の円板状の電磁鋼板が積層された積層構造を有する。それぞれの電磁鋼板は、中央にロータシャフト11の貫通孔である中央開口12a(図6)が形成されている。回転子鉄心12は、通常、焼嵌めによってロータシャフト11に取り付けられる。
【0015】
回転子鉄心12には、周方向に互いに間隔をもって配され、軸方向に貫通する複数の回転子スロット70が形成されている。
【0016】
それぞれの回転子スロット70には、二次導体15が収納されており、それぞれの二次導体15は、両端が、回転子鉄心12の軸方向の両側の端部から突出している。本実施形態では、二次導体15として、導体バーの場合を例にとって示している。回転子鉄心12のそれぞれの端部から突出した複数の二次導体15である導体バーは、短絡環16によって機械的および電気的に接続されている。
【0017】
固定子20は、固定子鉄心21および複数の固定子巻線22を有する。
固定子鉄心21は、円筒形であり、回転子鉄心12の径方向の外側に、空隙19を介して配されている。
【0018】
固定子鉄心21の径方向内側表面には、軸方向に貫通する複数の固定子スロット(図示せず)が形成されている。複数の固定子巻線22は、固定子スロット内を貫通し、固定子鉄心21の軸方向の両側端部に突出している。
【0019】
固定子鉄心21は、複数の電磁鋼板が積層された複数の積層構造を有する。互いに軸方向に隣接する積層構造の間には、それぞれ固定子ダクト21aが形成されている。それぞれの固定子ダクト21aは、冷却用気体が、空隙19から流入し、固定子鉄心21の径方向外側の固定子出口側空間61aに流出する径方向外側に向けての流路を形成する。
【0020】
フレーム40は、軸方向に延びた筒状であり、固定子20を囲むように、固定子20の径方向の外側に配されている。フレーム40の軸方向の両端部には、それぞれ軸受ブラケット32が取り付けられている。それぞれの軸受ブラケット32は、それぞれの軸受31を静止支持している。
【0021】
フレーム40の上方には、冷却器50が設けられている。
冷却器50は、冷却管を有する冷却部51、冷却部51を収納する冷却器カバー52を有する。
【0022】
冷却器カバー52内の空間と、フレーム40内の空間とは、冷却器入口開口53および2つの冷却器出口開口54により連通している。この結果、冷却器カバー52とフレーム40は互いに相まって、冷却用気体が循環する閉空間61を形成している。
【0023】
閉空間61は、フレーム40内の固定子出口側空間61a、冷却器カバー52内の冷却器出口側空間61b、およびフレーム40内の回転子等入口空間61cを有する。
【0024】
図2は、実施形態に係るかご形回転子10の構成を示す部分横断面図である。図2は、かご形回転子10の全円周角の約4分の1を示している。
【0025】
複数の回転子スロット70は、周方向に互いに間隔をおいて配されている。それぞれの回転子スロット70には、二次導体15が収納されている。回転子スロット70の底部付近すなわち径方向の最も内側の部分に囲まれた部分は二次導体15に占有されていない部分であり、回転子鉄心12内で、冷却用気体の軸方向の流路となる回転子鉄心内軸方向流路70fを形成する。
【0026】
また、回転子スロット70の径方向外側は、開口部73を介して回転子鉄心12の径方向の表面に連通している。
【0027】
図3は、実施形態に係るかご形回転子の回転子スロットと二次導体との関係を示す回転子鉄心の部分横断面図である。
回転子スロット70は、2つのスロット側面71、2つの保持部内側面72、スロット底部曲面74、およびスロット接続面75を有する。
【0028】
2つの保持部内側面72は、開口部73を挟んで形成され、二次導体15に印加される遠心力による二次導体15の径方向外側への突出を防止するために二次導体15を保持する保持部12bの径方向の内側面である。
【0029】
2つのスロット側面71は、二次導体15を挟んで周方向に互いに対向し、径方向および軸方向に拡がった平面である。
【0030】
スロット底部曲面74は、2つのスロット側面71の径方向の内側にあり、回転子鉄心内軸方向流路70fを形成する。
【0031】
また、それぞれのスロット側面71と、スロット底部曲面74とは、スロット接続面75で接続されている。なお、スロット底部曲面74とスロット接続面75とは、互いに区分されておらず、一つのスロット底部曲面74とみなされる場合であってもよい。その場合は、以下について、スロット接続面75をスロット底部曲面74と読み替えるものとする。
【0032】
スロット側面とスロット接続面75、およびスロット接続面75とスロット底部曲面とは、それぞれ径方向に対する傾きが連続的に接続されている。
【0033】
いま、スロット底部曲面74の周方向の中央の仮想線L1を通る回転子スロット70の中央を通る仮想平面Sを想定する。図3の場合は、仮想平面Sは、鉛直方向に延びた平面であり、径方向に延びた平面となっている。まず、スロット側面71は、仮想平面Sに平行なので、径方向に対する傾きはゼロである。次にスロット接続面75は、仮想線L1の方向に向けて、水平な方向に傾いてくる。すなわち、傾きΘが正となり、増加しながらスロット底部曲面74に接続される。スロット底部曲面74では、最終的にその中央の仮想線L1の位置において水平になるまで順次傾きを増していく。すなわち、最終的に、仮想線L1で径方向に対する傾きが90度になるまで増加する。
【0034】
以上のように、スロット側面71からスロット底部曲面74の周方向の中央までの径方向に対する傾きは、単調に増加している。
【0035】
二次導体15は、断面がほぼ矩形で、径方向内側、すなわち底部が曲面状である。すなわち、平面状の2つの二次導体側面15a、曲面状の二次導体底面15c、2つの曲面状の二次導体接続面15b、および平面上の二次導体頂面15dを有する。
【0036】
二次導体15は、2つのスロット側面71、2つの保持部内側面72、および2つのスロット接続面75で制限される空間内に収納されている。
【0037】
図4は、実施形態に係るかご形回転子の回転子スロットと二次導体との関係を示すそれぞれの表面の径方向に対する傾きの、径方向距離に対する変化を示すグラフである。
横軸は、径方向の距離である。具体的には、一方のスロット側面71の径方向位置を起点(径方向距離ゼロ)として、仮想平面S(径方向中心)に至るまでの距離である。
縦軸は、それぞれの径方向距離Xにおける平面Pの仮想平面Sに対する傾き、すなわち、Θ径方向距離Xにおいて接する平面Pの仮想平面Sに対する傾きΘである。実線で示す曲線G1は回転子スロット70についての傾き、破線で示す曲線G2は二次導体15についての傾きを示す。
【0038】
図4に示すように、接続部の領域においては、スロット側面71とスロット底部曲面74とを結ぶスロット接続面75の径方向に対する傾きは、二次導体15の二次導体側面15aと二次導体底面15cとを結ぶ二次導体接続面15bの径方向に対する傾きよりも小さい。すなわち、径方向距離Xにおける回転子スロット70の仮想平面Sに対する傾きは、径方向距離Xにおける二次導体15の仮想平面Sに対する傾きよりも大きい。
【0039】
別の表現をすれば、スロット側面71とスロット底部曲面74とを結ぶスロット接続面75の曲率半径は、二次導体15の二次導体側面15aと二次導体底面15cとを結ぶ二次導体接続面15bの曲率半径よりも大きい。
【0040】
図5は、実施形態に係るかご形回転子10の二次導体15を示す斜視図である。二次導体15には、軸方向に互いに間隔をおいて、複数の二次導体通風孔15hが形成されている。それぞれの二次導体通風孔15hは、二次導体15を、径方向内側から径方向外側に向けて流通可能に形成されている。
【0041】
図6は、実施形態に係るかご形回転子10の回転子鉄心12の部分横断面図である。
いま、図6に示すように、ロータシャフト11の回転軸芯11rから、回転子鉄心12の中央開口12aまでの長さをR1、回転子スロット70の底部すなわちスロット底部曲面74までの長さをR2、二次導体15の底部までの長さをR20、回転子鉄心12の表面までの長さすなわち回転子鉄心12の半径をR3とする。
【0042】
図7は、かご形回転子10の回転子鉄心12のロータシャフト11への嵌め合いに起因する応力分布の例を示すグラフである。
前述のように、回転子鉄心12はロータシャフト11に焼嵌めにより取り付けられている。したがって、回転子鉄心12には、周方向に引張応力が付加されている。この周方向の引張応力は、径方向の外側になるに従って、回転子鉄心12の周長が増加するため、これにほぼ反比例するように低減する。
【0043】
ロータシャフト11の回転軸芯11rからの距離がR1、すなわち、回転子鉄心12の中央開口12a付近で、周方向応力がσh1であり、半径がR3すなわち回転子鉄心12の表面近傍で、周方向応力がσh3となるとする。
【0044】
半径がR1とR3の間にある回転子スロット70の底部については、回転子鉄心内軸方向流路70fを形成せずに二次導体15の収納部分のみであるような回転子スロットの場合は、その底部までの半径がR20である。一方、本実施形態における回転子スロット70では、そのスロット底部曲面74までの半径は回転子鉄心内軸方向流路70fの高さ分小さなR2となる。すなわち、それぞれの場合の周方向応力は、σh20およびσh2となり、回転子スロット70での周方向応力は、回転子鉄心内軸方向流路70fを設けない場合に比べて大きくなる。
【0045】
図8は、実施形態に係るかご形回転子の作用を説明する横断面図である。また、図9は、実施形態に係るかご形回転子の作用を説明するための比較例を示す横断面図である。
図8では、本実施形態に係るかご形回転子10の回転子スロット70を示している。一方、図9では、比較例である回転子スロット70aを示している。比較例による回転子スロット70aは、本実施形態での回転子スロット70に比べて、底部の形状が異なっている。なお、説明の便宜上、対応する箇所は同じ名称、符号を用い、形状が異なる箇所には、同じ名称でかつ異なる符号を付すものとする。
【0046】
比較例による回転子スロット70aのスロット底部曲面74aとスロット接続面75aの形状が、本実施形態による回転子スロット70のスロット底部曲面74とスロット接続面75の形状と異なっている。具体的には、回転子スロット70aの底部のスロット接続面75aを介して互いに隣接するスロット底部曲面74aとスロット側面71とがなす傾き角度Θ1’は、本実施形態での回転子スロット70の底部のスロット接続面75を介して互いに隣接するスロット底部曲面74とスロット側面71とがなす傾き角度Θ1に比べて大きい点が異なる。
【0047】
このような違いがもたらす作用について以下に説明する。
【0048】
まず、基本的に、本実施形態での回転子スロット70の場合に沿って説明する。
かご形回転子10の回転状態においては、二次導体15は回転子鉄心12の保持部12bの保持部内側面72に密着し、開口部73を挟んだ保持部12bにそれぞれ、遠心力による荷重Fが付加される。
【0049】
保持部12bに付加された荷重Fにより、回転子鉄心12には、径方向外側に向く引張荷重が分布する。この引張荷重を、回転子スロット70の縁に沿ってみてみると、まず、スロット側面71に沿って、径方向内側になるにつれて、半径にほぼ逆比例するように、引張荷重f1からそれよりも大きな引張荷重f2へと増加してゆく。
【0050】
スロット接続面75を介してスロット側面71に隣接するスロット底部曲面74においても、さらに大きな引張荷重f3となる。引張荷重f3は、引張荷重f2などとは、傾き角度Θ1だけ方向が傾いているので、これを、径方向と周方向の引張荷重に分解すると、それぞれ、径方向引張荷重f3rおよび周方向引張荷重f3hとなる。
【0051】
以上の内容を、比較例による回転子スロット70aについてみてみると、引張荷重f2までは、本実施例による回転子スロット70の場合と同様である。回転子スロット70aの場合、スロット接続面75を介してスロット側面71に隣接するスロット底部曲面74aにおいても、さらに大きな引張荷重f3aとなる。引張荷重f3aは、引張荷重f2などとは、傾き角度Θ1’だけ方向が傾いているので、これを、径方向と周方向の引張荷重に分解すると、それぞれ、径方向引張荷重f3arおよび周方向引張荷重f3ahとなる。
【0052】
ここで、本実施形態による回転子スロット70の場合のスロット底部曲面74aにおける周方向引張荷重f3ahは、比較例による回転子スロット70aの場合のスロット底部曲面74aにおける周方向引張荷重f3ahに比べて、明らかに小さい。
すなわち、本実施形態による回転子スロット70の効果が示されている。
【0053】
以上、説明の便宜上、図8および図9では、スロット接続面75を介してスロット側面71に隣接するスロット底部曲面74および74aの形状が、直線的であるように表示しているが、この部分も曲面状であってよい。
【0054】
発明者らは、このような、直線部分を含まない曲面状の底部曲面について、径方向にこの部分を短縮したような形状の場合に比べて、回転子スロット70の底部の引張応力の低減効果があることを解析によって確認している。
【0055】
図7を引用して説明したように、回転子鉄心12を焼嵌めによりロータシャフト11に取り付けたことに起因する周方向の引張応力は、回転子スロットに回転子鉄心内軸方向流路70fを設けない場合に比べて大きくなる。
【0056】
一方、図8および図9を引用して説明したように、本実施形態によれば、遠心力に起因する回転子スロットの底部にかかる周方向の引張応力を、引用例に比べて減少させることができる。
【0057】
したがって、回転子スロットに回転子鉄心内軸方向流路70fを設けた場合であっても、焼嵌めに起因する周方向の引張応力がそのために増大する分を、遠心力に起因する回転子スロットの底部にかかる周方向の引張応力を減少させることにより、両者を合計した周方向の引張応力の増加を抑制することができる。
【0058】
図10は、実施形態に係るかご形回転子の応力集中の緩和効果を模式的に説明する比較図である。(a)は、従来の一般的な形態における回転子スロットの形状を示す。(b)は、従来の一般的な形態で応力を緩和する場合の回転子スロットの形状を示す。(c)は、本実施形態による回転子スロット70の場合を示す。
【0059】
図10(a)に示す従来の一般的な形態における回転子スロットの形状では、回転子スロットの底部Aaと二次導体の底部Acは、ほぼ平面状である。この結果、回転子スロットの底部と側部の接続部分であるAb部について回転軸に垂直方向の断面(以下同様)の曲率半径Rbは、二次導体の曲率半径Rdと実質同程度に形成されている。このような形態では、回転子スロットにおいてAb部で、最大の応力集中が生ずる。
【0060】
ここで、応力集中の改善のために、図10(b)に示すように、底部を平面から曲面にして、回転軸に垂直方向の断面における回転子スロットの底部Bbの曲率半径rbと二次導体の底部Bdの曲率半径rdをほぼ同程度とする。この結果、側部との接続部分はより曲面状となり、回転子スロットのBb部の曲率半径Rbおよび二次導体のBd部の曲率半径Rdが大きくなることにより、応力集中を緩和することができる。
【0061】
一方、図10(c)に示す本実施形態による回転子スロット70の場合は、回転軸に垂直方向の断面における回転子スロット70の底部Caの曲率半径Raを、二次導体15の底部Ccの曲率半径Rcより小さくしている。すなわち、曲率半径Ra<曲率半径Rcとする。この結果、二次導体のCd部の曲率半径Rdは上述のBd部の曲率半径Rdと同程度である一方、回転子スロット70のCb部の曲率半径Rbは、前述の図10(b)におけるBb部の曲率半径RBbより大きくなっている。すなわち、曲率半径Rb>曲率半径Rdの条件が成立している。この結果、従来方式とは異なり、最大の応力集中が生ずる部分は、底部と側部との接続部ではなく、底部の中央部であるが、底部の中央部は、底部と側部との接続部に比べて、大きな曲率半径をとることができる。この結果、本実施形態における回転子スロット70は、従来に比べて応力集中を十分に緩和することができる。
【0062】
なお、付帯的な効果として、二次導体のCd部の曲率半径Rdを確保することにより二次導体15の断面積を大きくできかご形回転子10の温度低減効果が得られる。また、二次導体のCd部の曲率半径Rdを確保することにより冷却用気体との接触面積を増加させかご形回転子10の温度低減効果が得られる。
【0063】
以上のように、本実施形態によれば、回転子スロットの底部に軸方向の通風路を設けた場合でも、応力の上昇を緩和することができる。
【0064】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。さらに、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0065】
10…かご形回転子、11…ロータシャフト、11r…回転軸芯、12…回転子鉄心、12a…中心開口、12b…保持部、13…回転子ティース、15…二次導体、15a…二次導体側面、15b…二次導体接続面、15c…二次導体底面、15d…二次導体頂面、15h…二次導体通風孔、16…短絡環、19…空隙、20…固定子、21…固定子鉄心、21a…固定子ダクト、22…固定子巻線、31…軸受、32…軸受ブラケット、40…フレーム、50…冷却器、51…冷却部、52…冷却器カバー、53…冷却器入口開口、54…冷却器出口開口、61…閉空間、61a…固定子出口側空間、61b…冷却器出口側空間、61c…回転子等入口空間、70、70a…回転子スロット、70f…回転子鉄心内軸方向流路、71…スロット側面、72…保持部内側面、73…開口部、74、74a…スロット底部曲面、75、75a…スロット接続面、100…かご形誘導回転電機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10