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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158528
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L21/52 A
H01L21/52 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063497
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 章良
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 賢一
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA17
5F047BA21
5F047BA32
5F047BC40
5F047CA01
(57)【要約】
【課題】半導体チップが接合材を介して基板等に搭載され、半導体チップの上面にワイヤが接合された半導体装置において、半導体チップの応力低減および応力分布の発生抑制を両立しつつ、ワイヤの接合強度を確保する。
【解決手段】半導体装置は、半導体チップ2が被搭載物5の上にヤング率可変材料によりなる接合材4を介して搭載され、半導体チップ2の上面2aにワイヤ3が接合されている。接合材4は、半導体チップ2へのワイヤ接合時に、圧力、または光、電界および磁界の少なくとも1つの外部刺激が加えられることで、ワイヤ接合後よりもヤング率が大きくなるヤング率可変材料である。
【選択図】図2D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップ(2)と、
一面(5a)を有し、前記一面の上に前記半導体チップが配置される被搭載物(5、7、9)と、
前記半導体チップのうち前記被搭載物の側の下面(2b)とは反対側の上面(2a)に接合されるワイヤ(3)と、
前記半導体チップの前記下面の側に配置される接合材(4)と、を備え、
前記接合材は、前記半導体チップに前記ワイヤを接合する際におけるヤング率が、前記ワイヤを接合した後のヤング率よりも大きくなるヤング率可変材料により構成されている、半導体装置。
【請求項2】
前記半導体チップと前記接合材との間に配置される接着層(6)をさらに有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記被搭載物は、回路チップ(9)であり、
前記接合材は、前記半導体チップと前記被搭載物との間に配置され、前記半導体チップおよび前記被搭載物それぞれに接触している、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記接合材は、光、磁界および電界のうち少なくとも1つの外部刺激によりヤング率が変化する刺激応答性材料、または発泡体により構成されている、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項5】
半導体装置の製造方法であって、
表裏の関係にある上面(2a)と下面(2b)とを有する半導体チップ(2)を用意することと、
発泡体によりなり、圧縮された状態におけるヤング率が圧縮前よりも大きい接合材(4)を用意することと、
前記下面の側に前記接合材を配置し、前記接合材を介して前記半導体チップを前記半導体チップとは異なる部材である被搭載物(5、7、9)の上に搭載することと、
前記半導体チップを押圧し、前記半導体チップを介して前記接合材を圧縮した状態で、前記半導体チップの前記上面にワイヤ(3)を接合することと、
前記ワイヤを接合した後、前記半導体チップの押圧を止め、前記接合材のヤング率を前記ワイヤの接合時よりも小さくすることと、を含む半導体装置の製造方法。
【請求項6】
半導体装置の製造方法であって、
表裏の関係にある上面(2a)と下面(2b)とを有する半導体チップ(2)を用意することと、
光、磁界および電界のいずれか1つの外部刺激を加えることでヤング率が変化する刺激応答性材料によりなる接合材(4)を用意することと、
前記下面の側に前記接合材を配置し、前記接合材を介して前記半導体チップを前記半導体チップとは異なる部材である被搭載物(5、7、9)の上に搭載することと、
前記接合材の上に配置された前記半導体チップの前記上面にワイヤ(3)を接合することと、
前記半導体チップに前記ワイヤを接合する前、または前記ワイヤを接合した後に、前記接合材に前記外部刺激を加えることにより、前記接合材の前記ワイヤの接合後におけるヤング率を前記ワイヤの接合時よりも小さくすることと、を含む半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップにワイヤが接続された構造を有する半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印加された物理量に応じた電気信号を出力するセンサ部を有する半導体チップが、回路基板等に接合材を介して搭載されると共に、半導体チップのうち回路基板と向き合う搭載面とは反対側の上面にワイヤが接続された構造の半導体装置が知られている。
【0003】
この種の半導体装置では、半導体チップと回路基板との熱膨張差に起因して半導体チップに応力が生じたり、回路基板の反りに半導体チップが追従したりすることで、半導体チップに反りが発生し、センサ特性が低下するおそれがある。この課題を解決する手法としては、低ヤング率の材料で構成された接合材を用い、回路基板の変形が半導体チップに伝わりにくくすることが考えられる。しかし、この方法では、半導体チップに生じる応力ひいては反りを低減できるものの、半導体チップへのワイヤ接合において、ワイヤ接合の力が低ヤング率の接合材により分散してしまい、半導体チップとワイヤとの接合強度が低下してしまう。そこで、半導体チップの反り低減とワイヤの接合強度の確保とを両立する構造としては、例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-197795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の半導体装置は、半導体チップが低ヤング率材料からなる接合材を介して基板上に搭載されると共に、半導体チップの搭載面のうちワイヤ接合部分の直下が突出しており、接合材のうちワイヤ接合の直下領域の厚みが薄い構成となっている。
【0006】
しかし、この構成では、半導体チップの上面におけるワイヤ接合強度を確保できるものの、半導体チップの厚みが部分的に異なることに起因し、応力の低減効果が減少すると共に、半導体チップの応力分布が生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、半導体チップが接合材を介して基板等に搭載され、半導体チップの上面にワイヤが接合された半導体装置において、半導体チップの応力低減および応力分布の発生抑制を両立しつつ、ワイヤの接合強度を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の半導体装置は、半導体チップ(2)と、一面(5a)を有し、一面の上に半導体チップが配置される被搭載物(5、7、9)と、半導体チップのうち被搭載物の側の下面(2b)とは反対側の上面(2a)に接合されるワイヤ(3)と、半導体チップの下面の側に配置される接合材(4)と、を備え、接合材は、半導体チップにワイヤを接合する際におけるヤング率が、ワイヤを接合した後のヤング率よりも大きくなるヤング率可変材料により構成されている。
【0009】
この半導体装置では、被搭載物の上に半導体チップを搭載するための接合材が、ワイヤ接合時にワイヤ接合後よりもヤング率が大きくなるヤング率可変材料により構成されている。半導体チップの下地となる接合材がワイヤ接合時には硬いため、半導体チップのワイヤ接合強度を確保できる一方、ワイヤ接合後にはワイヤ接合時よりも柔らかくなるため、接合材による半導体チップの応力緩和が可能となる。また、半導体チップの搭載面に凹凸を設ける必要がないため、半導体チップの応力低減および応力分布の発生抑制を両立しつつ、ワイヤの接合強度が確保された半導体装置となる。
【0010】
請求項5に記載の半導体装置の製造方法は、表裏の関係にある上面(2a)と下面(2b)とを有する半導体チップ(2)を用意することと、発泡体によりなり、圧縮された状態におけるヤング率が圧縮前よりも大きい接合材(4)を用意することと、下面の側に接合材を配置し、接合材を介して半導体チップを半導体チップとは異なる部材である被搭載物(5、7、9)の上に搭載することと、半導体チップを押圧し、半導体チップを介して接合材を圧縮した状態で、半導体チップの上面にワイヤ(3)を接合することと、ワイヤを接合した後、半導体チップの押圧を止め、接合材のヤング率をワイヤの接合時よりも小さくすることと、を含む。
【0011】
これによれば、被搭載物の上に半導体チップを搭載するにあたって、発泡体によりなり、圧縮された状態におけるヤング率が圧縮前よりも大きい接合材を用意する。その後、半導体チップを接合材上に載置後、半導体チップを介して接合材を押圧して圧縮し、ヤング率を高めた状態で半導体チップにワイヤ接合を行う。そして、ワイヤ接合後に、半導体チップの押圧を止め、弾性座屈していた接合材が押圧前の元の状態、すなわち押圧時よりもヤング率が小さく、柔らかい状態に戻り、接合材によって他の部材から半導体チップにかかる応力が緩和される。そのため、この製造方法では、半導体チップの搭載面に凹凸を設ける必要がなく、半導体チップの応力低減および応力分布の発生抑制を両立しつつ、ワイヤの接合強度が確保された半導体装置を製造できる。
【0012】
請求項6に記載の半導体装置の製造方法は、表裏の関係にある上面(2a)と下面(2b)とを有する半導体チップ(2)を用意することと、光、磁界および電界のいずれか1つの外部刺激を加えることでヤング率が変化する刺激応答性材料によりなる接合材(4)を用意することと、下面の側に接合材を配置し、接合材を介して半導体チップを半導体チップとは異なる部材である被搭載物(5、7、9)の上に搭載することと、接合材の上に配置された半導体チップの上面にワイヤ(3)を接合することと、半導体チップにワイヤを接合する前、またはワイヤを接合した後、接合材に外部刺激を加えることにより、接合材のワイヤの接合後におけるヤング率をワイヤの接合時よりも小さくすることと、を含む。
【0013】
これによれば、被搭載物の上に半導体チップを搭載するにあたって、外部刺激によりヤング率が変化する刺激応答性材料によりなる接合材を用意し、半導体チップにワイヤ接合を行う。そして、ワイヤ接合前またはワイヤ接合後に、接合材に外部刺激を加えてヤング率を変化させ、接合材のワイヤ接合後のヤング率をワイヤ接合時のヤング率よりも小さくする。よって、接合材は、ワイヤ接合時にはヤング率が大きく、硬い状態であることでワイヤ接合を安定させる一方で、ワイヤ接合後にはヤング率が小さく、柔らかい状態となることで、他の部材から半導体チップにかかる応力を緩和できる。そのため、この製造方法では、半導体チップの搭載面に凹凸を設ける必要がなく、半導体チップの応力低減および応力分布の発生抑制を両立しつつ、ワイヤの接合強度が確保された半導体装置を製造できる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図2A図1の半導体装置の製造工程のうち接合材の配置工程を示す断面図である。
図2B図2Aに続く工程を示す断面図である。
図2C図2Bに続く工程を示す断面図である。
図2D図2Cに続く工程を示す断面図である。
図3】第2実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図4A図3の半導体装置の製造工程のうち接合材のヤング率調整工程を示す図であって、光を用いる例を示す断面図である。
図4B図4Aの工程に相当する工程であって、電界または磁界を印加するヤング率調整工程の一例を示す断面図である。
図5】第3実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図6】第4実施形態の半導体装置を示す断面図である。
図7】第4実施形態の半導体装置の第1の変形例を示す断面図である。
図8】第4実施形態の半導体装置の第2の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
第1実施形態の半導体装置1について、図1を参照して説明する。
【0018】
〔基本構成〕
本実施形態の半導体装置1は、例えば図1に示すように、半導体チップ2と、ワイヤ3と、接合材4と、被搭載物5とを備える。半導体装置1は、本実施形態では、回路基板である被搭載物5に、接合材4を介して半導体チップ2が搭載されると共に、半導体チップ2にワイヤ3が接合されたベアチップ構造となっている。
【0019】
半導体チップ2は、例えば、圧力、加速度や角速度等の物理量が印加されたとき、物理量に応じた電気信号を出力する図示しないセンサ部を備えるセンサチップである。半導体チップ2は、例えば、主としてSi(シリコン)やSiC(炭化珪素)などにより構成され、通常の半導体プロセスにより形成される。半導体チップ2は、例えば、図1に示すように、表裏の関係にある上面2aと下面2bとを有する板状とされ、上面2a上には電極パッド21が複数形成されている。半導体チップ2は、接合材4を介して被搭載物5に搭載され、下面2bが接合材4に接触している。下面2bは、上面2aの反対面であって、半導体チップ2とは異なる他の部材と接合材4を挟んで向き合う搭載面である。半導体チップ2は、上面2aの電極パッド21にワイヤ3が接合され、ワイヤ3を介して被搭載物5と電気的に接続されている。これにより、半導体チップ2は、外部の図示しない電源や制御回路等との電気的なやり取りが可能となっている。
【0020】
電極パッド21は、例えば、Al(アルミニウム)などにより構成され、スパッタリング、蒸着などの真空成膜法などにより形成される。電極パッド21は、半導体チップ2に形成された図示しない配線などに電気的に接続され、図示しないセンサ部の駆動信号や出力信号の伝送などに用いられる。
【0021】
ワイヤ3は、例えば、AlやAu(金)などの金属材料により構成され、ワイヤボンディングにより半導体チップ2の電極パッド21および被搭載物5のランド51それぞれに接合され、これらを電気的に接続している。
【0022】
接合材4は、半導体チップ2を他の部材に接着させると共に、半導体チップ2にワイヤ3を接合する際に硬い状態となることでワイヤの接合強度を確保しつつ、ワイヤ接合後には柔らかい状態となることで半導体チップ2の応力緩和を可能とする部材である。接合材4は、一時的にヤング率が変化する材料(以下「ヤング率可変材料」という)で構成されており、本実施形態では、ワイヤ3を半導体チップ2に接合するタイミングでヤング率が変化する。
【0023】
具体的には、接合材4は、本実施形態では、外力で圧縮された状態にされることでヤング率が大きくなる材料、例えば、接着性のある発泡体により構成されている。より具体的には、接合材4は、例えば、信越ポリマー社の自己接着シリコーンゴムを発泡化した材料や三福工業社のフッ素ゴムスポンジが用いられ得る。例えば、接合材4のヤング率は、外力が加えられてない圧縮前の状態では0.01~0.1MPa程度といった1MPa未満の極めて低い値を示すが、圧縮された状態では1~数十MPa程度というように元の値の10倍~数百倍となる。このように、接合材4は、半導体チップ2のワイヤ接合時に一時的に硬くなり、ワイヤ接合後に柔らかい状態に戻ることで、ワイヤ3の接合強度の確保と半導体チップ2の応力緩和とを両立する役割を果たす。
【0024】
なお、本明細書でいう「ヤング率可変材料」とは、圧力、または後述する光、磁界および電界のうち少なくとも1つの外部刺激を加えることにより、ヤング率が変化する性質を示す材料を意味する。具体的には、ヤング率可変材料としては、圧力を加えることによりヤング率が2倍以上となるか、または上記の外部刺激を加えることで、ヤング率が外部刺激を加える前の2倍以上もしくは半分以下となる性質を示す材料を意味する。
【0025】
被搭載物5は、一面5aを有し、半導体チップ2が接合材4を介して直接的または間接的に搭載される部材であり、例えば、回路基板、半導体チップ2よりも平面サイズが大きい回路チップ、筐体などである。本実施形態では、被搭載物5が回路基板であり、一面5aにAlやCu(銅)などの導電性材料によりなるランド51を備える場合を代表例として説明するが、この例に限定されるものではない。
【0026】
以上が、本実施形態の半導体装置1の基本的な構成である。
【0027】
〔製造方法〕
次に、本実施形態の半導体装置1の製造方法の一例について、図2A図2Dを参照して説明する。
【0028】
まず、例えば図2Aに示すように、被搭載物5(回路基板)および接着性のある発泡体(例えば発泡化した自己接着シリコーンゴムやフッ素ゴムスポンジ)によりなる接合材4を用意し、被搭載物5の一面5a上に図示しない搬送装置等により接合材4を配置する。そして、図示しないセンサ部を有する半導体チップ2を用意し、例えば図2Bに示すように、接合材4の上に載置する。これにより、半導体チップ2は、接合材4を介して被搭載物5に接着された状態となる。
【0029】
次に、例えば図2Cにおいて白抜き矢印で示すように、図示しない押圧機構(例えばプレス機など)により、半導体チップ2を上面2a側から押圧し、接合材4を変形させ圧縮した状態にする。これにより、接合材4は、構成材料である発泡体中のセルが押し潰され、押圧前よりもヤング率が大きくなり、一時的に硬い状態となる。なお、このとき、半導体チップ2に加える圧力は、例えば、発泡体で構成された接合材4の厚みが押圧前の60%程度となるようにすればよく、半導体チップ2の平面サイズにより適宜変更されうる。
【0030】
続けて、例えば図2Dに示すように、半導体チップ2を押圧したままの状態、すなわち接合材4が硬い状態を維持しつつ、半導体チップ2の電極パッド21にAu等によりなるワイヤ3をワイヤボンディングで接合する。このとき、接合材4が硬い状態となっているため、半導体チップ2へのワイヤ接続時の力が逃げにくく、半導体チップ2とワイヤ3との接合強度を確保することができる。その後、ワイヤ3を被搭載物5のランド51等に接合し、半導体チップ2と被搭載物5とを電気的に接続する。
【0031】
ワイヤ3を接合した後、半導体チップ2を介した接合材4の押圧を止め、接合材4に外力が作用していない状態とし、接合材4を押圧前の柔らかい状態に戻す。これにより、半導体チップ2と被搭載物5との熱膨張差がある場合であっても、これらの間に柔らかい接合材4が介在することで、半導体チップ2に生じる応力が低減される。
【0032】
上記の製造方法により、図1に示す構造の半導体装置1を製造することができる。これによれば、半導体チップ2の下面2bすなわち搭載面に凹凸形状を設ける必要がなく、接合材4の厚みが一様となるため、接合材4の厚みバラつきが低減され、半導体チップ2にかかる応力のバラつきが抑制される。また、接合材4をワイヤ接合時に押圧により一時的にヤング率が大きい状態とすることで、半導体チップ2とワイヤ3との接合強度を確保できる。さらに、半導体チップ2とワイヤ3との接合後に、接合材4の押圧を止め、接合材4を押圧前の状態、すなわちヤング率が小さく、柔らかい状態に戻すことで、半導体チップ2への応力を緩和できる構造となる。
【0033】
本実施形態によれば、接合材4がワイヤ3の接合時にヤング率が大きい状態となり、その後にヤング率がワイヤ3の接合時よりも小さい状態となるヤング率可変材料で構成されているため、半導体チップ2とワイヤ3との接合強度が確保された半導体装置1となる。また、ワイヤ3の接合後に接合材4のヤング率が小さくなり、かつ接合材4の厚みにバラつきが低減されるため、半導体チップ2にかかる応力自体が低減されると共に、その応力のバラつきも低減された半導体装置1となる。
【0034】
(第2実施形態)
第2実施形態の半導体装置1について、図3図4Bを参照して説明する。
【0035】
本実施形態の半導体装置1は、接合材4が光、磁界および電界の少なくとも1つの外部刺激を受けた状態におけるヤング率が一時的に大きくなる刺激応答性材料により構成されている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0036】
接合材4は、本実施形態では、ヤング率可変材料が上記した刺激応答性材料であり、光、磁界および電界の少なくとも1つの外部刺激を受けることで、一時的にヤング率が変化する構成となっている。
【0037】
本実施形態の半導体装置1は、ワイヤ3の接合前または接合後に、接合材4のヤング率調整工程を外部刺激により行う点が異なるものの、基本的には上記第1実施形態と同様の製造方法により製造される。
【0038】
具体的には、接合材4は、例えば図4Aに示すように、半導体チップ2が載置された後に、側面から光が照射されることでヤング率が変化する光応答性、および接着性を有する材料で構成され得る。この場合、接合材4は、例えば、東京化成社製の4,4′-ビス(ドデシルオキシ)-3-メチルアゾベンゼンが用いられ得る。当該材料は、例えば、図示しない光照射装置により波長365nmの紫外光を照射強度50mW/cmの条件で照射されることで、ヤング率が10MPa~数十MPaから0.1MPa~1MPaに変化する。そして、接合材4は、上記の材料例の場合、ワイヤ接合後に波長436nmの可視光を照射強度50mW/cmの条件で照射されることで、ヤング率が紫外光照射前の10MPa程度に戻る。接合材4は、光の外部刺激に応答させる場合には、例えば、所定の波長の光エネルギーが加えられることで、接着性のある樹脂材料の結合状態が変化し、ヤング率がワイヤ接合時に大きく、ワイヤ接合後に小さく変化する材料構成となっている。
【0039】
接合材4は、例えば図4Bに示すように、電界または磁界の印加によりヤング率が一時的に大きくなる電気または磁気応答性および接着性を有する材料で構成され得る。例えば、電界印加の場合には、接合材4は、Smart Technology社製の電気粘性流体が用いられ得、図示しない電界印加装置により電界強度3kV/mmが印加されることで、ヤング率が0.001MPa~0.1MPaから数倍~数十倍に変化する。また、例えば、磁界印加の場合には、接合材4は、LORD社製のMR流体が用いられ得、図示しない電界印加装置により電界強度400kA/mが印加されることで、ヤング率が0.001MPa~0.1MPaから数倍~数十倍に変化する。そして、接合材4は、電界印加を止めることで、ヤング率が電界印加前の状態に戻る。接合材4は、電界または磁界の外部刺激に応答させる場合には、例えば、接着性のある樹脂材料中に含まれるフィラーが、印加された電界または磁界により樹脂材料中で配向することで、ヤング率がワイヤ接合時に一時的に大きくなる材料構成となっている。
【0040】
このように、本実施形態では、接合材4は、光、電界および磁界のうち少なくとも1つの外部刺激により、半導体チップ2へのワイヤ3の接合後よりもワイヤ接合時のほうがそのヤング率が大きい状態となる刺激応答性材料で構成される。接合材4の厚みは、例えば、第1実施形態に比べて薄くされるが、同じか同程度であっても構わない。
【0041】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様に、半導体チップ2とワイヤ3との接合強度の確保、および半導体チップ2の応力低減並びに応力バラツキの抑制の効果が得られる半導体装置1となる。
【0042】
(第2実施形態の変形例)
上記第2実施形態では、接合材4として、外部刺激によりヤング率が大きくなるヤング率可変材料を用いる例について説明したが、外部刺激によりヤング率が小さくなるヤング率可変材料を用いてもよい。
【0043】
具体的には、例えば、外部刺激が光である場合には、上記した刺激応答性材料を用い、半導体チップ2へのワイヤ3の接合前には可視光線照射を行わず、ワイヤ3の接合後に紫外線照射を行ってもよい。この場合、ワイヤ3の接合時においては、接合材4のヤング率が可視光線を照射した状態と紫外線を照射した状態との中間程度の値を示すこととなる。このとき、ワイヤ3の接合強度の確保の観点で、半導体チップ2へのワイヤ接合時におけるヤング率が十分である場合には、ワイヤ3の接合後に紫外線照射を行うだけでもよい。これにより、ワイヤ3の接合強度を確保しつつも、ワイヤ3の接合後に接合材4を柔らかい状態に変化させ、半導体チップ2への応力緩和が可能となる。このように、外部刺激によりヤング率が小さくなるヤング率可変材料を接合材4として用いても構わない。
【0044】
本変形例によっても、上記第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0045】
(第3実施形態)
第3実施形態の半導体装置1について、図5を参照して説明する。
【0046】
本実施形態の半導体装置1は、半導体チップ2と接合材4との間、および接合材4と被搭載物5との間それぞれに接着層6が配置されている点が上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0047】
接合材4は、本実施形態では、ヤング率が一時的に大きくなるヤング率可変性のみを有し、接着性を有しないか、あるいは弱い材料が用いられる。接合材4は、本実施形態では、例えば、接着性のない発泡体、接着性のない樹脂材料に電界または磁界に反応する微粒子を含有させたものや、接着性がなく、光により組成あるいは結合状態が変化する樹脂材料などが用いられ得る。
【0048】
接着層6は、接着性を有する任意の樹脂材料であり、半導体チップ2と接合材4、接合材4と被搭載物5をそれぞれ接着固定するために用いられる。接着層6は、例えば、任意の接着剤や両面テープとされ、任意の方法で配置される。
【0049】
本実施形態によれば、半導体チップ2と被搭載物5との間にヤング率可変の接合材4が介在しているため、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。また、接着層6を別途用いることにより、接合材4として接着性を有しない材料を用いることもできるため、材料選択の自由度も大きい構造となる。
【0050】
(第4実施形態)
第4実施形態の半導体装置1について、図6を参照して説明する。
【0051】
本実施形態の半導体装置1は、半導体チップ2が、凹部71を有する筐体7と蓋材8とによりなる内部空間72に配置され、接合材4を介して筐体7に搭載されたパッケージ構造である点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0052】
筐体7は、例えば、セラミックなどの絶縁性材料によりなり、図6に示すように、段差部711を有する凹部71が形成されたパッケージ部材である。筐体7は、被搭載物5に相当し、半導体チップ2が搭載される部材であるが、回路基板等の基板以外の部材である。筐体7は、例えば、複数の段差を有する段差部711に図示しない電極パッド等が形成されると共に、段差部711と外部とを電気的に繋ぐ図示しない内部配線や外部端子を有する構成とされる。筐体7は、例えば凹部71の底面71aに接合材4を介して半導体チップ2が搭載され、ワイヤ3を介して半導体チップ2と電気的に接続される。
【0053】
蓋材8は、図示しない接着材により筐体7に取り付けられ、筐体7の凹部71を覆う部材である。蓋材8は、筐体7と同じ材料で構成されてもよいし、筐体7と異なる材料で構成されてもよい。
【0054】
本実施形態の半導体装置1は、被搭載物5の代わりに筐体7を用い、半導体チップ2へのワイヤ3の接続後に蓋材8を取り付けることを除き、基本的に上記の第1実施形態または第2実施形態と同じ工程により製造される。
【0055】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。
【0056】
(第4実施形態の第1の変形例)
半導体チップ2は、例えば図7に示すように、半導体チップ2とは異なる回路チップ9を介して筐体7に搭載されてもよい。この場合であっても、半導体チップ2は、回路チップ9との間にヤング率可変材料によりなる接合材4が介在しているため、ワイヤ3の接合強度を確保されると共に、接合材4により応力およびそのバラツキが低減される。
【0057】
回路チップ9は、被搭載物5に相当し、例えば、半導体チップ2の図示しないセンサ部からの出力信号のAD変換を行う等の所定の処理回路、すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuitの略)を有する構成とされる。回路チップ9は、例えば、半導体チップ2が搭載される面に電極パッド91を有し、ワイヤ3を介して半導体チップ2および筐体7それぞれと電気的に接続される。回路チップ9は、例えば、半導体チップ2よりも平面サイズが大きく、半導体チップ2がその外郭内側に位置するように配置される。回路チップ9は、例えば、はんだ等によりなる接着材92により筐体7の底面71aに搭載される。
【0058】
本変形例によっても、半導体チップ2とこれが搭載される他の部材との間に接合材4が介在しているため、上記第4実施形態と同様の効果が得られる。
【0059】
(第4実施形態の第2の変形例)
半導体装置1は、例えば図8に示すように、半導体チップ2とは異なる回路チップ9に接着材92を介して搭載されると共に、回路チップ9が接合材4を介して筐体7に配置されたパッケージ構造であってもよい。この半導体装置1は、例えば、筐体7に接合材4を配置し、半導体チップ2を貼り付けた回路チップ9を載置した後、接合材4のヤング率調整をしつつ、半導体チップ2にワイヤ3を接合することで製造される。この場合であっても、半導体チップ2と被搭載物5に相当する筐体7との間に接合材4が介在することで、半導体チップ2へのワイヤ3の接合が安定し、ワイヤ接合強度を確保できる。
【0060】
本変形例によっても、上記第4実施形態と同様の効果が得られる。
【0061】
(他の実施形態)
本発明は、実施例に準拠して記述されたが、本発明は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本発明は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本発明の範疇や思想範囲に入るものである。
【0062】
例えば、上記第1ないし第3実施形態において、回路チップ9が被搭載物5に搭載され、回路チップ9上に接合材4を介して搭載されてもよい。このような構成であっても、半導体チップ2にかかる応力およびそのバラツキを低減しつつ、ワイヤ3の接合強度を確保できる。つまり、半導体チップ2がヤング率可変材料によりなる接合材4を介して他の部材に搭載される構成の半導体装置1であれば、応力およびそのバラツキの低減、並びにワイヤ3の接合強度の確保の効果が得られる。
【符号の説明】
【0063】
2 半導体チップ
2a 上面
2b 下面
3 ワイヤ、
4 接合材
5 被搭載物
6 接着層
9 回路チップ
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8