IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

特開2022-158570異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム
<>
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図1
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図2
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図3
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図4
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図5
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図6
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図7
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図8
  • 特開-異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158570
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20221006BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063565
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】広江 隆治
(72)【発明者】
【氏名】井手 和成
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
(57)【要約】
【課題】機械設備の異常診断を高速に行うことができる異常検出装置を提供する。
【解決手段】機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置は、前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得する処理と、過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間を基準として、前記機械設備を評価する時点において取得された前記計測値のマハラノビス距離を算出する処理と、算出された前記マハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定する処理と、を実行するプロセッサを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置であって、
前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得する処理と、
過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間を基準として、前記機械設備を評価する時点において取得された前記計測値のマハラノビス距離を算出する処理と、
算出された前記マハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定する処理と、
を実行するプロセッサを備える、
異常検出装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、
前記機械設備の振動を計測する第2振動センサから出力された検出信号に基づいて、前記機械設備の特徴周波数を検出する処理を更に実行し、
前記計測値を取得する処理において、検出された前記特徴周波数を前記周波数点に設定して前記計測値を取得する、
請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、
前記機械設備の複数の計測点における特徴周波数の関係を表した振動周波数モデルと、前記特徴周波数を検出する処理において検出された前記機械設備の一の計測点の前記特徴周波数とに基づいて、複数の前記計測点それぞれの特徴周波数を推定する処理を更に実行し、
前記計測値を取得する処理において、推定された複数の前記計測点それぞれの前記特徴周波数を前記周波数点に設定して、複数の前記計測点それぞれに対応する前記計測値を取得する、
請求項2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置であって、
前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得する処理と、
前記計測値からなる計測値ベクトルを、異常の指標として定めた指標ベクトルの方向に分解した複数の成分を算出する処理と、
算出された前記成分の絶対値が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定する処理と、
を実行するプロセッサを備える、
異常検出装置。
【請求項5】
機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置であって、
前記機械設備の振動を計測する第1振動センサにより計測された計測値からなる計測値ベクトルを取得する処理と、
異常の指標として定めた指標ベクトルを予め定めた周波数点の位相角を用いて実数部及び虚数部に分けて、前記実数部及び前記虚数部それぞれと前記計測値ベクトルとの内積を算出する処理と、
算出された前記内積の一周期分の時間平均の絶対値が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定する処理と、
を実行するプロセッサを備える、
異常検出装置。
【請求項6】
前記プロセッサは、過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間から得られる特異ベクトルを前記指標ベクトルとして用いる、
請求項4又は5に記載の異常検出装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記機械設備に固有のモード形状ベクトルを前記指標ベクトルとして用いる、
請求項5に記載の異常検出装置。
【請求項8】
機械設備の異常の有無を検出する異常検出方法であって、
前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得するステップと、
過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間を基準として、前記機械設備を評価する時点において取得された前記計測値のマハラノビス距離を算出するステップと、
算出された前記マハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定するステップと、
を有する異常検出方法。
【請求項9】
機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置のコンピュータに、
前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得するステップと、
過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間を基準として、前記機械設備を評価する時点において取得された前記計測値のマハラノビス距離を算出するステップと、
算出された前記マハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定するステップと、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常検出装置、異常検出方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械設備などの検査対象の健全性を診断する技術として、MT(マハラノビス・タグチ)法を用いて異常を検知する方法が知られている。MT法では、基準データ(例えば、正常状態における各種特性項目の計測値の集団)の共分散行列の逆行列を用いてマハラノビス距離を計算する。そして、計算されたマハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、検査対象の状態が異常であると判断することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、振動センサによる計測信号yを周波数分析した結果に基づいて、回転機械の異常振動を検出する異常検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-144111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
周波数分析の結果とは具体的には離散フーリエ変換の結果として得られるフーリエ係数である。特許文献1に記載された異常検出装置は、計測した信号yの時刻歴{y(ΔT),y(2ΔT),…,y(NΔT)}の時間間隔ΔTと、周波数分析にかけるデータの点数Nとから定まる周波数点{0Δf,1Δf,2Δf,…,(N-1)Δf}について得られる複素数のフーリエ係数{a(0Δf)+jb(0Δf),a(1Δf)+jb(1Δf),a(2Δf)+jb(2Δf),…,a((N-1)Δf)+jb((N-1)Δf)}に基づき異常を検出する。jは虚数単位である。離散フーリエ変換は、演算速度の点から、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform(FFT))が用いられる。これを機械設備の制御装置で実行することは演算処理の量の点、および検出の即時性の点で課題がある。
【0006】
FFTでは、一つの信号あたり、例えば256点、例えば1024点、のように、周波数標本点数が2の冪乗になるように設定し、設定したひとつの周波数点数についてフーリエ係数を一つ算出するので、フーリエ係数の計算回数も256点、1024点と増加する。つまり、FFTでは、周波数標本点数と同じ数のフーリエ係数を計算しなければならない。
【0007】
信号が1chであるならば、FFTによる周波数分析は可能である。しかし、例えば、16chの計測信号がある場合には困難となる可能性がある。周波数標本点数が256点であれば、16ch×256点、すなわち4096点ものフーリエ係数を計算することになる。そうすると、いかに計算速度が向上した今日といえども一般の制御装置で処理しきれるものではなく、専用の演算装置(周波数分析装置)を備えなければならない。これは、製品コストの観点では好ましいことではない。
【0008】
さらに、一つのチャンネルあたり256点の周波数点のフーリエ係数を計算したとしても、その一部のみを振動診断に使うことが多い。異常が現れやすい周波数点は、事前に分かるので、その周波数帯域に属する周波数点のフーリエ係数さえわかればよい。計算したフーリエ係数のほとんどは使われないのが普通である。しかし、フーリエ係数の計算では、周波数点を限定してフーリエ係数を計算することはできない。このため、従来の技術では、使う事もない周波数点のフーリエ係数まで計算することが行われているが、これは無駄である。
【0009】
計算の無駄ばかりではない。FFTは即時性の点でも課題がある。FFTでは、計測信号の時間間隔をΔT[s]、FFTの対象とする計測点数をNとすると、周波数分解能、すなわち周波数点の刻みはΔf=(ΔTN)-1[Hz]のように計算され、周波数点{0Δf,1Δf,2Δf,…,(N-1)Δf}についてフーリエ係数を計算する。例えば、ΔT=0.01secであり、分解能を0.01Hzで評価するためには、データ長はN=1024点あれば充分である。このときデータを蓄積する時間が問題になる。ΔT=0.01secで1024点を蓄積するには10.24秒の時間がかかる。興味の対象が、例えば、0.1Hzの成分(10秒周期)であるならば蓄積に10秒かかっても問題ではない。しかし、仮に、例えば、1Hzの周波数成分(1秒周期)を調べたいなら、10秒かけずに1秒で調べたい。異常や兆候を早く検知するためには、短いデータで判定することが重要である。したがって、データの蓄積に時間がかかる点については、従来技術であるFFTの課題である。
【0010】
さらに、FFTでは蓄積したN点の平均的な周波数特性が分るのみである。例えば、1Hzの成分に異常が現れるとして、蓄積されたN点のデータ区間の途中の1秒間に、異常の特徴が表れたとしよう。FFTでは、10秒間の平均的な周波数特性が計算されるので、ある1秒に出現する異常の特徴は、それ以外の9秒のデータに薄められて希薄化し、異常検知は困難となる。このように特徴の希薄化もFFTの課題である。
【0011】
本開示は、このような課題に鑑みてなされたものであって、機械設備の異常診断を高速に行うことができる異常検出装置、異常検出方法、およびプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一態様によれば、機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置は、前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得する処理と、過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間を基準として、前記機械設備を評価する時点において取得された前記計測値のマハラノビス距離を算出する処理と、算出された前記マハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定する処理と、を実行するプロセッサを備える。
【0013】
また、本開示の一態様によれば、機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置は、前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得する処理と、前記計測値からなる計測値ベクトルを、異常の指標として定めた指標ベクトルの方向に分解した複数の成分を算出する処理と、算出された前記成分の絶対値が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定する処理と、を実行するプロセッサを備える。
【0014】
また、本開示の一態様によれば、機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置は、前記機械設備の振動を計測する第1振動センサにより計測された計測値からなる計測値ベクトルを取得する処理と、異常の指標として定めた指標ベクトルを予め定めた周波数点の位相角を用いて実数部及び虚数部に分けて、前記実数部及び前記虚数部それぞれと前記計測値ベクトルとの内積を算出する処理と、算出された前記内積の一周期分の時間平均の絶対値が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定する処理と、
を実行するプロセッサを備える。
【0015】
また、本開示の一態様によれば、機械設備の異常の有無を検出する異常検出方法は、前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得するステップと、過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間を基準として、前記機械設備を評価する時点において取得された前記計測値のマハラノビス距離を算出するステップと、算出された前記マハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定するステップと、を有する。
【0016】
また、本開示の一態様によれば、プログラムは、機械設備の異常の有無を検出する異常検出装置のコンピュータに、前記機械設備の振動を計測する第1振動センサから出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値を取得するステップと、過去の複数の時点において取得された複数の前記計測値により構成される単位空間を基準として、前記機械設備を評価する時点において取得された前記計測値のマハラノビス距離を算出するステップと、算出された前記マハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、前記機械設備に異常が発生していると判定するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る異常検出装置、異常検出方法、およびプログラムによれば、機械設備の振動の異常診断を高速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本開示の第1の実施形態に係る異常検出システムの全体構成を示す図である。
図2】本開示の第1の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
図3】本開示の第2の実施形態に係る異常検出システムの全体構成を示す図である。
図4】本開示の第2の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
図5】本開示の第3の実施形態に係る異常検出装置の機能構成を示す図である。
図6】本開示の第3の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
図7】本開示の第4の実施形態に係る異常検出装置の機能構成を示す図である。
図8】本開示の第4の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
図9】本開示の第5の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1の実施形態>
以下、本開示の第1の実施形態に係る異常検出装置2について、図1図2を参照しながら説明する。
【0020】
(全体構成)
図1は、本開示の第1の実施形態に係る機械設備の全体構成を示す図である。
図1に示すように、異常検出システム100は、機械設備10と、異常検出装置2と、制御装置3と、を備えている。
【0021】
機械設備10は、異常検出装置2による異常診断の対象となる機械、装置群である。また、機械設備10の各計測点には、それぞれ第1振動センサ11(11A~11D)が取り付けられている。第1振動センサ11は、例えば加速度計や、振動により生じる音を計測するマイク、振動により生じる圧力を計測する圧力計、振動により生じる応力を計測する応力計、等である。第1振動センサ11は、機械設備10の振動を計測した検出信号を異常検出装置2に出力する。
【0022】
異常検出装置2は、機械設備10の第1振動センサ11から取得した検出信号に基づいて、機械設備10の異常の有無を検出する。異常検出装置2の機能構成については後述する。
【0023】
制御装置3は、機械設備10の動作を制御するための制御信号を生成する。たとえば、制御装置3は、異常検出装置2から機械設備10に異常な振動が発生していることを示す判定結果を受信した場合、機械設備10の運転を停止する制御信号、機械設備10の出力を下げる制御信号などを生成する。
【0024】
(異常検出装置の機能構成)
次に、図1を参照しながら、異常検出装置2の機能構成について説明する。
図1に示すように、異常検出装置2は、プロセッサ21と、入出力部22と、主記憶装置23と、補助記憶装置24とを備えている。
【0025】
プロセッサ21は、異常検出装置2の動作全体の制御を司る。プロセッサ21は、所定のプログラムに従って動作することにより、計測値取得部210、単位空間生成部211、マハラノビス距離算出部212、判定部213、周波数点指定部214としての機能を発揮する。
【0026】
計測値取得部210は、機械設備10の第1振動センサ11から出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における振動の振幅及び位相からなる計測値を取得する。
【0027】
単位空間生成部211は、過去の複数の時点において取得された複数の計測値を含む単位空間を生成する。また、単位空間生成部211は、生成した単位空間を補助記憶装置24に記憶する。
【0028】
マハラノビス距離算出部212は、単位空間を基準として、機械設備10を評価する時点において取得された計測値のマハラノビス距離を算出する。
【0029】
判定部213は、算出されたマハラノビス距離に基づいて、機械設備10に異常が発生しているか否かを判定する。具体的には、判定部213は、算出されたマハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、機械設備10に異常が発生していると判定する。
【0030】
周波数点指定部214は、計測値取得部210に対し、予め定めた周波数点を指定する。
【0031】
入出力部22は、機械設備10の第1振動センサ11から検出信号の入力を受け付ける。また、入出力部22は、異常検出装置2による異常の有無の判定結果を制御装置3に出力する。
【0032】
主記憶装置23は、プロセッサ21の動作に必要な記憶領域を有する。
【0033】
補助記憶装置24は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの大容量記憶デバイスである。補助記憶装置24には、異常検出装置2の各部が取得または生成した各種データが記憶される。
【0034】
(異常検出装置の処理)
図2は、本開示の第1の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
以下、図2を参照しながら、異常検出装置2の異常診断処理について詳しく説明する。
【0035】
本実施形態の特徴は、異常検出装置2において実行される周波数分析の手段にある。前述のように、FFTには、(ア)演算量が重く処理装置を要する、(イ)データ点数を貯めるのに時間がかかる、(ウ)異常の特徴が希薄化される、という課題がある。そこで、本実施形態に係る異常検出装置2において、計測値取得部210は、FFTの代わりにフーリエ変換の原理式(1A)、(1B)を利用して、各検出信号の周波数特性を表す計測値を取得する。
【0036】
【数1A】
【0037】
【数1B】
【0038】
ここに、nは予め定める検出信号の通し番号である。例えば、図1に示すように、4個の振動センサ11それぞれから検出信号を取得するのであれば、nは{1,2,3,4}のどれかであり、nの値によりそれぞれ周期{T,T,T,T}の周波数成分のフーリエ係数を計算する。周期{T,T,T,T}の値は同一であっても良い。
【0039】
なお、検出信号{y,y,y,y}には、同一の振動センサ11の信号を分岐した同一の信号が含まれていても良い。しかし、検出信号{y,y,y,y}に同一の信号が複数含まれるときには、その複数の信号に対する周期{T,T,T,T}の値は変えることが一般的である。具体的に、例えばyとyが同一の振動センサ11Aの信号を分岐したものであるならば、TとTは別の値に設定するのが一般的である。分岐配線の断線などの特殊な状況でなければ、同一の振動センサを分岐したyとyの同一の周期成分のフーリエ係数は同一であるので、どちらか一方だけを計算すれば充分だからである。
【0040】
式(1A)、式(1B)は周期一つ時刻歴データ、すなわち現在時刻をtとするとt-Tからtまでの時刻歴データから計算することができるので、上記した(イ)と(ウ)の課題が解決される。また,式(1A)、式(1B)は簡単な積分式であるので、上記した(ア)の課題も解決される。さらに、式(1A)、式(1B)によると時刻歴データは等間隔である必要はない。FFTでは、周期Tは計測信号の時間間隔ΔTの整数倍でなければならなかった。しかし、式(1A)、式(1B)ではその必要はなく、次式(2)のようにΔTの整数倍でない周波数点についても計算が可能である。周期Tが次式(2)で表されるとする。
【0041】
【数2】
【0042】
ここに、mはTの除数ΔTについての商であり、rはその剰余である。
【0043】
例えば、機械設備10の開発者、運用者などは、各検出信号について特徴が表れやすい周波数点を事前知識として有している。周期{T,T,T,T}は、このような事前知識に基づいて設定されたものである。周波数点指定部214は、図2に示すように、第1振動センサ11の検出信号{y,y,y,y}のそれぞれに対して、予め定められた周期{T,T,T,T}を指定する。
【0044】
そして、式(1A)、式(1B)を次式(3A)、(3B)で計算する。
【0045】
【数3A】
【0046】
【数3B】
【0047】
すなわち、計測値取得部210は、現在時刻tに振動センサ11から取得した検出信号yそれぞれについて、上式(3A)、(3B)を用いて、周波数点指定部214が指定した周期Tにおけるフーリエ係数{a,b}を求める。このフーリエ係数{a,b}は、予め定めた周波数点における振動の振幅および位相からなる計測値に相当するものである。
【0048】
また、マハラノビス距離算出部212は、補助記憶装置24に記憶されている単位空間を基準として、計測値取得部210が取得した時刻tの計測値{a,b}のマハラノビス距離を算出する。なお、単位空間は、機械設備10が正常運転を行っていた期間に取得した複数の計測値(フーリエ係数)に基づいて、単位空間生成部211により予め生成されたものである。単位空間の生成方法、およびマハラノビス距離の算出方法については、既存の技術(たとえば、特許文献1に記載の技術)を利用可能であるため、説明を省略する。
【0049】
次に、判定部213は、マハラノビス距離算出部212により算出されたマハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、機械設備10に異常が発生していると判定する。一方、判定部213は、マハラノビス距離が閾値以下である場合、機械設備10に異常が発生していないと判定する。また、判定部213は、判定結果を制御装置3に出力する。制御装置3は、異常検出装置2から異常発生を示す判定結果を受信した場合、機械設備10の運転を停止する、出力を下げるといった制御を行う。
【0050】
異常検出装置2は、上記した処理を繰り返し実行することにより、機械設備10の異常の有無を検出する。
【0051】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常検出装置2は、検出信号yに対して予め定めた周期Tにおける振動の振幅および位相からなる計測値(フーリエ係数a,b)を取得し、取得した計測値のマハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、機械設備10に異常が発生していると判定する。
【0052】
このようにすることで、異常検出装置2は、特定の周波数点におけるフーリエ係数のみを計算すればよいので、従来の技術と比較して演算負荷を大幅に低減することができる。これにより、異常検出装置2は、機械設備10の異常診断を高速に行うことが可能となる。また、異常検出装置2は、周波数分析装置を別に用意することなく、自身でフーリエ係数を計算することができるので、異常検出システム100全体のコストを下げることができる。
【0053】
また、異常検出装置2は、フーリエ変換の原理式を利用して、ひとつの検出信号yに対しひとつの周期Tを指定して、フーリエ係数{a,b}を計算する。
【0054】
このようにすることで、異常検出装置2は、周期ひとつ分の時刻歴データから異常診断を行うことができるので、データを蓄積する時間を短縮することができる。たとえば、ある検出信号について、1Hzの周波数成分(1秒周期)を調べたい場合には、数秒間のデータを蓄積することなく、過去1秒間の時刻歴データから診断を行うことが可能である。また、異常検出装置2は、少ないデータ点数で診断を行うことができるので、異常の特徴が希薄化することを抑制できる。これにより、異常検出装置2は、異常に対する感度を向上させることができる。
【0055】
<第2の実施形態>
次に、本開示の第2の実施形態に係る異常検出装置2について図3図4を参照しながら説明する。
第1の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0056】
(全体構成)
図3は、本開示の第2の実施形態に係る異常検出システムの全体構成を示す図である。
図3に示すように、本実施形態に係る異常検出システム100において、異常検出装置2は、機械設備10に設けられた第2振動センサ14からさらに検出信号を取得する。第2振動センサ14は、第1振動センサ11と同様に、加速度計、マイク等である。
【0057】
例えば、機械設備10は、動力装置12と、ギア13とを有している。動力装置12は、機械設備10を駆動する。ギア13は、動力装置12の回転数(周波数)を変えて、機械設備10に伝達する。図3に示すように、第2振動センサ14は、例えば動力装置12の振動を計測する。
【0058】
(異常検出装置の機能構成)
また、図3に示すように、本実施形態に係る異常検出装置2のプロセッサ21は、周波数点指定部214に代えて、周波数検出部215を機能部として有している。周波数検出部215は、機械設備10の振動の特徴を表す特徴周波数を検出する。
【0059】
計測値取得部210は、第1振動センサ11の各検出信号について、周波数検出部215が検出した特徴周波数におけるフーリエ係数を取得する。
【0060】
(異常検出装置の処理)
図4は、本開示の第2の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
以下、図4を参照しながら、異常検出装置2の異常診断処理について詳しく説明する。
【0061】
本実施形態の特徴は、異常検出装置2において、診断対象とする機械設備10の特徴的な周波数(特徴周波数)を検出するところにある。特徴周波数とは、例えば、機械設備10の動力装置12の回転数などである。
【0062】
従来技術のFFTでは、周波数分析の対象とする周波数点は、検出信号のデータ点数Nと、計測の時間間隔ΔTに依存した離散値である。すなわち、FFTでは、検出信号の時間間隔をΔT[s]、FFTの対象とする計測点数をNとすると、周波数分解能はΔf=(ΔTN)-1[Hz]となり、フーリエ係数は周波数分解能の倍数の周波数点{0Δf,1Δf,2Δf,…,(N-1)Δf}について計算される。前述の説明と同じく、ΔT=0.01[s]、N=1024を例に説明する。このとき、周波数分解能Δfは約0.098Hzである。例えば計測値の振動の特徴成分は1.025Hzに出現するとしよう。FFTでは周波数点は分解能の倍数に制約されるので、1.025Hzに最も近いのは、11番目の周波数点である0.98Hzと、12番目の1.07Hzである。このようなとき、1.025Hzの周波数特性を、0.98Hzまたは1.025Hzの周波数点の周波数特性で代用することが簡単である。しかし、そのような取り扱いでは、1.025Hzの振動は0.98Hzの成分と1.07Hzの成分に二分される。そうすると、FFTでは特徴周波数である1.025Hzの成分を正しく計ることができない。
【0063】
これに対し、第1の実施形態に係る異常検出装置2は、周波数点を周波数分解能Δfと独立に、連続的に設定できるという利点がある。しかし、支配的な周波数成分が1.025Hzで一定ではなく、例えば、0.9Hzから1.1Hzの間で時間的に変動するような場合はどうであろう。実際の機械設備10は、運転条件や経年劣化によって特性が変わるものが少なくないから、支配的な周波数成分の変化に対応することは価値がある。
【0064】
これに対応するため、本実施形態に係る異常検出装置2は、第1の実施形態に係る周波数点指定部214に代えて、周波数検出部215を有している。周波数検出部215は、以下に説明する処理を行って、機械設備10の特徴的な周波数(特徴周波数)を検出する。
【0065】
まず、周波数検出部215は、特徴的な振動を検出するための信号zを計測し、これを式(4A)、式(4B)でフーリエ変換する。
【0066】
【数4A】
【0067】
【数4B】
【0068】
zは具体的には、電動機などの動力装置12の振動などがある。例えば、第1の実施形態と同様に、4個の検出信号を考えると、信号zは{z,z,z,z}のどれかである。zの要素は、別々の振動センサ14の出力であってもよいし、同一の振動センサ14の出力信号を分岐したものであっても良い。
【0069】
ここに、式(4A)、(4B)のθはzの特徴周波数成分の位相と一致させるように、例えば式(5)のようにPI制御器で調節する。式(5)において、atanは正接(tangent)関数の逆関数であり、atan(d/c)は、zの特徴周波数成分の位相[rad]を近似したものであり、atan(d/c)=0のときに近似誤差がゼロになる。
【0070】
【数5】
【0071】
周波数検出部215は、zの特徴周波数を表す信号として、式(5)で求めたωを出力する。
【0072】
計測値取得部210は、周波数検出部215から得たωを用いて、式(6)からフーリエ変換に使う位相角θを得る。
【0073】
【数6】
【0074】
また、計測値取得部210は、mとrを、第1の実施形態の式(2)に代えて、式(7)を満たすように決定する。
【0075】
【数7】
【0076】
そして、計測値取得部210は、式(8A)、式(8B)により、検出信号yのフーリエ係数a及びbを計算する。
【0077】
【数8A】
【0078】
【数8B】
【0079】
フーリエ係数a及びbを得た後の処理は、第1の実施形態と同様である。
【0080】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常検出装置2は、第2振動センサ14から取得した検出信号zに基づいて、機械設備10の特徴周波数ωを検出し、検出された特徴周波数ωにおける振動の振幅および位相からなる計測値(フーリエ係数a,b)を取得する。
【0081】
このようにすることで、異常検出装置2は、機械設備10の運転条件や経年劣化などに応じて変化する周波数成分を自動的に検出することができる。これにより、異常検出装置2は、より正確なフーリエ係数を取得することができるので、異常検出の精度をさらに向上させることができる。
【0082】
<第3の実施形態>
次に、本開示の第3の実施形態に係る異常検出装置2について図5図6を参照しながら説明する。
第1及び第2の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0083】
(異常検出装置の機能構成)
図5は、本開示の第3の実施形態に係る異常検出装置の機能構成を示す図である。
図5に示すように、本実施形態に係る異常検出装置2のプロセッサ21は、推定部216を更に有している。推定部216は、第2振動センサ14から取得した検出信号と、機械設備10の振動周波数モデルとに基づいて、機械設備10の各計測点の特徴周波数を推定する。
【0084】
機械設備10には、例えば動力装置12の回転数やその整数倍の高調波が特徴周波数として現れる。動力装置12の回転数以外にも、機械設備10の剛性や質量などから定まる固有周波数や、配管の流体の密度や圧縮性から定まる共鳴周波数などが特徴として現れる。これらの振動は、機械設備10の場所ごとに独立ではなく互いに連動する。最も起きやすい連動は、同じ周波数で振動するものである。または、ある部位の特徴周波数を整数倍した値が他の場所に現れる場合もある。
【0085】
第2の実施形態に係る異常検出装置2は、複数のフーリエ係数を入力し、各時刻の複数のフーリエ係数の連動の仕方を、予め定めた正常状態の連動の仕方とマハラノビス距離の尺度で対比して、異常の有無を検出する。このとき、フーリエ係数を評価する周波数に誤差があると、フーリエ係数の計算結果に誤差が含まれ、正しく異常検出することが困難となる可能性がある。
【0086】
例えば、4つの計測点が1Hz付近で、同一の周波数で振動する性質があることがわかっており、周波数検出部215から{1.07Hz,1.07Hz,0.98Hz,1.07Hz}が出力されたとしよう。これらの周波数を用いてマハラノビス距離を評価すると、3番目のフーリエ係数は他と違う周波数となり整合がとれない。このような場合は、各計測点が同一の周波数で振動することを優先し、全てを共通の周波数{1.07Hz,1.07Hz,1.07Hz,1.07Hz}でフーリエ変換すべきである。本実施形態はそれを行うための技術である。
【0087】
(異常検出装置の処理)
図6は、本開示の第3の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
以下、図6を参照しながら、異常検出装置2の異常診断処理について詳しく説明する。
【0088】
例えば、検出信号を4個(計測点を4か所)とすると、連動の仕方は式(10)で表される。ここに、A,A,A,Aは、それぞれ、サイズが3×1の列ベクトルである。
【0089】
【数10】
【0090】
例えば、これら計測点の連動の仕方を一つ定めると、ωからωまでのいずれか一つが分れば他は推定できる。ωからω,ω,ωを推定する場合について説明する。周波数の推定値を、記号{^ω,^ω,^ω,^ω}により示すと、その値は式(11)で計算される。式(11)は、機械設備10の各計測点の振動の特徴を表す特徴周波数の間に成り立つ関係性を表した振動周波数モデルである。
【0091】
【数11】
【0092】
図5に示すように、本実施形態に係る周波数検出部215は、機械設備10のひとつの計測点(例えば、動力装置12)に設けられた第2振動センサ14から検出信号zを取得して、特徴周波数ωを検出する。そして、推定部216は、周波数検出部215が検出したωから、式(11)を用いて他の計測点の特徴周波数ω,ω,ωを推定する。
【0093】
このように、各計測点の特徴周波数ω,ω,ωの推定値は、周波数検出部215が検出した特徴周波数ωに連動した値となる。これにより、第2の実施形態に係る周波数検出部の誤差を排除することができる。なお、フーリエ変換に使う位相角θは式(12)により、積分計算のための諸量(m,r)は式(13)を満たすように決定する。
【0094】
【数12】
【0095】
【数13】
【0096】
そうすると、計測値取得部210は、第2の実施形態と同様に、上記した式(8A)、式(8B)により、検出信号yのフーリエ係数a及びbを計算する。また、フーリエ係数a及びbを得た後の処理は、第1および第2の実施形態と同様である。
【0097】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常検出装置2は、振動周波数モデルと、ひとつの計測点で検出された特徴周波数ωとに基づいて、機械設備10の複数の計測点それぞれの特徴周波数ω,ω,ωを推定し、推定した特徴周波数における振動の振幅および位相からなる計測値(フーリエ係数a,b)を取得する。
【0098】
このようにすることで、異常検出装置2は、振動センサの計測誤差などに起因するフーリエ係数の計算誤差を抑制することができる。これにより、異常検出装置2は、異常検出の精度をさらに向上させることができる。
【0099】
<第4の実施形態>
次に、本開示の第4の実施形態に係る異常検出装置2について図7~8を参照しながら説明する。
第1~第3の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0100】
上述の第1~第3の実施形態に係る異常検出装置2は、計測値取得部210が取得したフーリエ係数からなる計測値のマハラノビス距離を算出し、このマハラノビス距離が閾値を超える場合に機械設備10が異常であると判定した。しかし、機械設備10の異常を検出するための手法は、マハラノビス距離に限られない。本実施形態では、異常検出装置2がマハラノビス距離に代えて、計測値ベクトルの成分に基づき異常の有無を検出する態様について説明する。
【0101】
(異常検出装置の機能構成)
図7は、本開示の第4の実施形態に係る異常検出装置の機能構成を示す図である。
図7に示すように、本実施形態では、異常検出装置2のプロセッサ21は、マハラノビス距離算出部212に代えて、成分算出部217を有している。
【0102】
成分算出部217は、計測値取得部210が取得した計測値からなる計測値ベクトルを、異常の指標として定めた指標ベクトルの方向に分解した複数の成分を算出する。なお、本実施形態では、指標ベクトルとは、単位空間を特異値分解して得る特異ベクトルである。
【0103】
(異常検出装置の処理)
図8は、本開示の第4の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
以下、図8を参照しながら、異常検出装置2の異常診断処理について詳しく説明する。
【0104】
本実施形態に係る計測値取得部210は、第1~第3の実施形態と同様の処理を行い、各計測点の所定の周波数点におけるフーリエ係数(計測値)を取得する。図8の例では、計測値取得部210は、第3の実施形態と同様の処理を行う。
【0105】
計測値取得部210が取得したフーリエ係数をベクトルとしてフーリエ係数ベクトルx(計測値ベクトル)で表す。式(14)は、フーリエ係数の数がMの場合であり、フーリエ係数ベクトルxのサイズはM×1である。
【0106】
【数14】
【0107】
単位空間生成部211は、フーリエ係数ベクトルxの正常状態の値を用いて単位空間を生成する。単位空間とは、機械設備が正常状態にあるときに取得したフーリエ係数ベクトルxの共分散行列Qであり、以下の式(15)及び式(16)で表される。なお、式(15)のXは複数のフーリエ係数ベクトルxを列方向に並べた行列である。Lは単位空間の作成に使うフーリエ係数ベクトルの数であり、XはサイズがM×Lの複素数行列である。式(16)のX はXの共役転置を表す。
【0108】
【数15】
【0109】
【数16】
【0110】
ここでは、単位空間生成部211は、このように過去の時点において取得されたフーリエ係数ベクトルxに基づいて単位空間を生成済みであり、この単位空間は補助記憶装置24に記憶されているとする。
【0111】
第1~第3の実施形態において、異常検出装置2は、マハラノビス距離算出部212により、以下の式(17)により、時刻tのマハラノビス距離MDを算出していた。
【0112】
【数17】
【0113】
これに対し、本実施形態に係る異常検出装置2は、成分算出部217において、フーリエ係数ベクトルxの成分ρ(k=1,2,…,M)を計算する。具体的には、成分算出部217は、以下のような手順で成分ρを計算する。
【0114】
単位空間は、以下の式(18)のように特異値分解することができる。
【0115】
【数18】
【0116】
ここで、Mは第1振動センサ11の数である。u(k=1,2,…,M)は特異ベクトルであり、サイズがM×1であり、一般的には複素数を要素とする列ベクトルである。σ(k=1,2,…,M)は特異値であり、非負の実数である。
【0117】
成分算出部217は,フーリエ係数ベクトルxを特異ベクトルu(k=1,2,…,M)の方向に分解した成分ρ(k=1,2,…,M)を、以下の式(19)を用いて求める。
【0118】
【数19】
【0119】
なお、本変形例に係る成分算出部217は、フーリエ係数ベクトルxを特異ベクトルuの方向に分解した成分ρを判定部213に出力する。なお、成分算出部217は、成分ρの絶対値を判定部213に出力してもよい。成分ρの絶対値は、以下の式(20)で表される。
【0120】
【数20】
【0121】
判定部213では、フーリエ係数ベクトルxを特異ベクトルuの方向に分解した成分ρの絶対値と、特異ベクトルuに対応する特異値σの平方根とを、特異ベクトルごとに個々に対比する対比処理を行う。単位空間Qは、機械設備10が正常状態にあるときに取得された複数のフーリエ係数ベクトルxの共分散行列であるので、その特異値σは正常状態であるときの成分ρの絶対値の二乗値のばらつきを表している。したがって、ある時刻において機械設備10が正常であるならば、ρρ の期待値は特異値σに近い値となる。すなわち、期待値をEで表すと式(21)となる。
【0122】
【数21】
【0123】
そして、ρρ は式(22)に示すように,マハラノビス距離の成分となっている。
【0124】
【数22】
【0125】
したがって、マハラノビス距離による異常の判定は、式(22)の右辺の成分の和で異常を判定することになる。以下では、和を取る前の段階で、成分の段階で値をしらべて異常を判定する手法について述べる。
【0126】
このような前提に基づき、判定部213は、成分ρの絶対値と、特異値σの平方根とを、特異ベクトルu(k=1,2,…,M)ごとに対比し、その判定結果を出力する。
【0127】
例えば、判定部213は、成分ρの絶対値が、特異値σに基づく閾値未満である場合は正常を示す判定結果を出力する。一方、判定部213は、成分ρの絶対値が閾値以上である場合は異常を示す判定結果を出力する。具体的には、判定部213は、次式(23)が成立すれば異常と判定する。
【0128】
【数23】
【0129】
ここに、式(23)におけるγ1k,γ2kは特異ベクトルu(k=1,2,…,M)ごとに定める正の定数である。
【0130】
なお、図7図8には、第3の実施形態のマハラノビス距離算出部212に代えて、成分算出部217を追加する例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、第1または第2の実施形態のマハラノビス距離算出部212に代えて、成分算出部217を追加してもよい。
【0131】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常検出装置2は、計測値取得部210が取得した計測からなる計測値ベクトル(フーリエ係数ベクトルx)を、単位空間を特異値分解して得る特異ベクトルuの方向に分解した複数の成分ρを算出し、算出したρの絶対値が所定の閾値を超える場合に、機械設備10に異常が発生していると判定する。
【0132】
このようにすることで、異常検出装置2は、成分を合計したマハラノビス距離ではなく、成分それぞれについて異常の有無を監視することができるので、異常に対する感度を向上させることができる。また、異常検出装置2は、第1~第3の実施形態と同様に、機械設備10の特徴周波数におけるフーリエ係数のみを計算すればよいので、周波数分析装置を別途用意することなく、異常診断を高速に行うことが可能である。
【0133】
<第5の実施形態>
次に、本開示の第5の実施形態に係る異常検出装置2について図9を参照しながら説明する。
第1~第4の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0134】
上述の第1~第3の実施形態に係る異常検出装置2は、第1振動センサ11毎にフーリエ係数を計算していた。すなわち、第1の実施形態に係る異常検出装置2では式(3A)及び式(3B)を、第2および第3の実施形態に係る異常検出装置2では式(8A)及び式(8B)を、第1振動センサ11毎に計算してフーリエ係数を計算していた。このようなやり方に従うと、センサ(計測点)の数が増えるほどフーリエ係数を計算する演算量も増える。
【0135】
これに対し、本実施形態に係る異常検出装置2は,異常についての事前知識を利用してフーリエ係数の計算を減らすことが特徴である。これにより、計算機のコストが下がるなど、実用上のメリットとなる。
【0136】
(異常検出装置の処理)
図9は、本開示の第5の実施形態に係る異常検出装置の処理の一例を示す図である。
以下、図9を参照しながら、異常検出装置2の異常診断処理について詳しく説明する。
【0137】
図9に示すように、本実施形態に係る計測値取得部210は、機械設備10の第1振動センサ11により計測された計測値からなる計測値ベクトル{y,y,…,y}を取得する。
【0138】
成分算出部217は、異常の指標として定めた特異ベクトルuを予め定めた周波数点(特徴周波数ω)の位相角θを用いて実数部及び虚数部に分けて、実数部及び虚数部それぞれと計測値ベクトルとの内積を算出する。なお、図9には、第3の実施形態に係る周波数検出部215及び推定部216により推定された特徴周波数ωが成分算出部217に入力される例が示されているが、これに限られることはない。成分算出部217には、第1の実施形態に係る周波数点指定部が指定した周期Tが入力されてもよいし、第2の実施形態に係る周波数検出部215が検出した特徴周波数ωが入力されてもよい。
【0139】
本実施形態に係る異常検出装置2が実行する異常診断処理は、第4の実施形態に記載した処理を更に改良したものである。第4の実施形態では、フーリエ係数ベクトルxを特異ベクトルu(k=1,2,…,M)の方向に分解した成分ρに基づき式(23)で異常を判定した。機械設備10の異常には、頻度の多いものと少ないものがある。異常の種類は、特異ベクトルu(k=1,2,…,M)に対応付けることができるので、M個の特異ベクトルの中で、式(23)の判定式に抵触しやすい成分とそうでないものがある。そして、抵触しやすい成分だけを毎タイムステップ異常判定し、他は、100タイムステップに一度のように間引いて異常判定することは、演算能力に制約がある場合などにおいて合理的である。
【0140】
本実施形態は、このような、特定の1つの特異ベクトルに関する異常判定を、高速に行うことを可能とする技術であり、従来、振動センサの観測値{y,y,…,y}対して、M回のフーリエ変換を要していたものを、1回にすることが特徴である。ただし、第3の実施形態で述べたように、M個の振動の特徴が表れる特徴周波数は互いに関連し、1番目の振動の特徴周波数から2番目~M番目の特徴周波数がわかるものとする。以下では、説明の簡単のため、すべての特徴周波数が式(24)のように同じであるとする。
【0141】
【数24】
【0142】
したがって、推定部216は、周波数検出部215が検出した特徴周波数ω1から、式(24)を使って各計測点の特徴周波数を推定する。
【0143】
そして、異常検出装置2がk番目の特異ベクトルuに関して異常判定する場合について説明する。kは{1,2,…,M}のどれか一つの値である。
【0144】
成分算出部217は、各計測点(第1振動センサ11)の特徴周波数の位相角θについて、第3の実施形態と同様に式(12)で計算する。成分算出部217は、特異ベクトルuを実数部と虚数部に分け、式(25A)、式(25B)のように、各計測点の計測値{y1,y2,…,y}との内積を計算する。ここに、記号[uは、特異ベクトルuの第1要素を表している。
【0145】
【数25A】
【0146】
【数25B】
【0147】
次に、成分算出部217は、式(26)のように、内積を一周期分、時間平均する。M個の振動の特徴周波数は式(24)のように互いに等しいので、一周期の長さはTである。M個の振動の特徴周波数の中に値の違うものがある場合、一周期の長さを周期の最小公倍数として式(26)を計算する。
【0148】
【数26】
【0149】
式(26)で得たρを、上述の式(20)に適用する。また、判定部213は、上述の式(23)で異常を判定する。
【0150】
式(26)の計算には、過去値として{α(t―ΔT),α(t-2ΔT),…,α(t-mΔT)}と、{β(t―ΔT),β(t-2ΔT),…,β(t-mΔT)}との値を記憶しなければならない。第4の実施形態に係る異常検出装置2は、合計M×2m個の値を記憶しなければならなかった。これに対し、本実施形態に係る異常検出装置2は、合計2m個の過去値を記憶すればよい。したがって、本実施形態によれば、過去値の記憶量と積和演算を更に節約できる。これにより、例えば異常検出装置2の機能を、通常の制御装置に組み込んで実行させることも可能となる。
【0151】
なお、式(26)は、1次のローパスフィルタに置き換えてもよい。これにより、過去値の数を2個にすることができる。なお、その場合、ローパスフィルタが整定するまでにTの数倍の時間を要し、異常の判定に時間がかかる。このため、速応性を要する用途では、上記したとおり式(26)を用いる手法の方が有効である。
【0152】
(作用効果)
以上のように、本実施形態に係る異常検出装置2は、特異ベクトルuを特徴周波数ωの位相角θを用いて実数部と虚数部とに分けて、実数部及び虚数部それぞれと計測値ベクトルyとの内積を算出し、算出された内積の一周期分の時間平均ρの絶対値が所定の閾値を超える場合、機械設備10に異常が発生していると判定する。
【0153】
このようにすることで、異常検出装置2は、診断毎のフーリエ変換の回数を1回に減らすことができるので、演算負荷を大幅に低減することができる。また、異常検出装置2は、異常診断に使う過去値を減らすことができるので、記憶量及び積和演算の負荷を低減することができる。
【0154】
<変形例>
上述の第4及び第5の実施形態では、マハラノビス距離に関する単位空間Qを特異値分解した特異ベクトルuに基づき異常を判定した。しかし、機械設備10について、予め異常な振動のモード形状が分かっているならば、そのモード形状が出現すればすぐに異常を判別できる。本変形例は、それを実現するものである。ここでは、第5の実施形態に係る異常検出装置2に、本変形例を適用する例について説明する。
【0155】
本変形例に係る異常検出装置2において、成分算出部217は、特異ベクトルuに代えて予め定めたモード形状ベクトルφを指標ベクトルとして用いる。すなわち、第5の実施形態の式(25A)、式(25B)に代えて、式(27A)、式(27B)を用いる。なお、モード形状ベクトルφは、たとえばモーダル解析など、既知の技術を利用して得ることができる。
【0156】
【数27A】
【0157】
【数27B】
【0158】
そして、成分算出部217は、式(28)で、モード形状ベクトルの成分ρを計算する。
【0159】
【数28】
【0160】
判定部213が異常判定を行う式(23)において、σは正常時のα及びβから式(27)で定める。
【0161】
(作用効果)
以上のように、本変形例に係る異常検出装置2は、モード形状ベクトルφを指標ベクトルとして用いる。
【0162】
このようにすることで、異常検出装置2は、特異ベクトルuを求める計算を省略することができるので、演算負荷を更に低減することができる。
【0163】
なお、上述した第1~第5の実施形態及びその変形例においては、上述した異常検出装置2の各種処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって上記各種処理が行われる。また、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0164】
上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。更に、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0165】
また、他の実施形態においては、第1~第5の実施形態及びその変形例で説明した異常検出装置2が有する各機能部を、制御装置3が有する態様であってもよい。
【0166】
以上のとおり、本発明に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形例は、発明の要旨および技術的範囲に含まれる。
【0167】
<付記>
上述の実施形態に記載の異常検出装置、異常検出方法、およびプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0168】
(1)第1の態様によれば、機械設備(10)の異常の有無を検出する異常検出装置(2)は、機械設備(10)の振動を計測する第1振動センサ(11)から出力された検出信号(y)に基づいて、予め定めた周波数点における振動の振幅及び位相からなる計測値(a,b)を取得する処理と、過去の複数の時点において取得された複数の計測値により構成される単位空間を基準として、機械設備(10)を評価する時点において取得された計測値のマハラノビス距離を算出する処理と、算出されたマハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、機械設備(10)に異常が発生していると判定する処理と、を実行するプロセッサ(21)を備える。
【0169】
このようにすることで、異常検出装置は、特定の周波数点におけるフーリエ係数(振幅及び位相)のみを計算すればよいので、従来の技術と比較して演算負荷を大幅に低減することができる。これにより、異常検出装置は、機械設備の異常診断を高速に行うことが可能となる。また、異常検出装置は、周波数分析装置を別に用意することなく、自身でフーリエ係数を計算することができるので、異常検出システム全体のコストを下げることができる。
【0170】
(2)第2の態様によれば、第1の態様に係る異常検出装置(2)において、プロセッサ(21)は、機械設備(10)の振動を計測する第2振動センサ(14)から出力された検出信号に基づいて、機械設備(10)の特徴周波数(ω)を検出する処理を更に実行し、計測値を取得する処理において、検出された特徴周波数ωを周波数点に設定して計測値(a,b)を取得する。
【0171】
このようにすることで、異常検出装置は、機械設備の運転条件や経年劣化などに応じて変化する周波数成分を自動的に検出することができる。これにより、異常検出装置は、より正確なフーリエ係数を取得することができるので、異常検出の精度をさらに向上させることができる。
【0172】
(3)第3の態様によれば、第2の態様に係る異常検出装置(2)において、プロセッサ(21)は、機械設備(10)の複数の計測点における特徴周波数の関係を表した振動周波数モデルと、特徴周波数を検出する処理において検出された機械設備(10)の一の計測点の特徴周波数(ω)とに基づいて、複数の計測点それぞれの特徴周波数(^ω)を推定する処理を更に実行し、計測値を取得する処理において、推定された複数の計測点それぞれの特徴周波数(^ω)を周波数点に設定して、複数の計測点それぞれに対応する計測値(a,b)を取得する。
【0173】
このようにすることで、異常検出装置は、振動センサの計測誤差などに起因するフーリエ係数の計算誤差を抑制することができる。これにより、異常検出装置は、異常検出の精度をさらに向上させることができる。
【0174】
(4)第4の態様によれば、機械設備(10)の異常の有無を検出する異常検出装置(2)は、機械設備(10)の振動を計測する第1振動センサ(11)から出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における振動の振幅及び位相からなる計測値(a、b)を取得する処理と、計測値からなる計測値ベクトルを、異常の指標として定めた指標ベクトル(u又はφ)の方向に分解した複数の成分(ρ)を算出する処理と、算出された成分(ρ)の絶対値が所定の閾値を超える場合、機械設備(10)に異常が発生していると判定する処理と、を実行するプロセッサを備える。
【0175】
このようにすることで、異常検出装置は、成分それぞれについて異常の有無を監視することができるので、異常に対する感度を向上させることができる。また、異常検出装置は、第1~第3の態様と同様に、機械設備の特徴周波数におけるフーリエ係数のみを計算すればよいので、周波数分析装置を別途用意することなく、異常診断を高速に行うことが可能である。
【0176】
(5)第5の態様によれば、機械設備(10)の異常の有無を検出する異常検出装置(2)は、機械設備(10)の振動を計測する第1振動センサ(11)により計測された計測値からなる計測値ベクトル(y)を取得する処理と、異常の指標として定めた指標ベクトル(u又はφ)を予め定めた周波数点の位相角(θ)を用いて実数部及び虚数部に分けて、実数部及び虚数部それぞれと計測値ベクトル(y)との内積を算出する処理と、算出された内積の一周期分の時間平均(ρ)の絶対値が所定の閾値を超える場合、機械設備(10)に異常が発生していると判定する処理と、を実行するプロセッサを備える。
【0177】
このようにすることで、異常検出装置は、診断毎のフーリエ変換の回数を1回に減らすことができるので、演算負荷を大幅に低減することができる。また、異常検出装置は、異常診断に使う過去値を減らすことができるので、記憶量及び積和演算の負荷を低減することができる。
【0178】
(6)第6の態様によれば、第4又は第5の態様に係る異常検出装置(2)において、プロセッサ(21)は、過去の複数の時点において取得された複数の計測値により構成される単位空間から得られる特異ベクトル(u)を指標ベクトルとして用いる。
【0179】
このようにすることで、異常検出装置は、成分を合計したマハラノビス距離ではなく、成分それぞれについて異常の有無を監視することができるので、異常に対する感度を向上させることができる。
【0180】
(7)第7の態様によれば、第4又は第5の態様に係る異常検出装置(2)において、プロセッサ(21)は、機械設備(10)に固有のモード形状ベクトル(φ)を指標ベクトルとして用いる。
【0181】
このようにすることで、異常検出装置2は、特異ベクトルを求める計算を省略することができるので、演算負荷を更に低減することができる。
【0182】
(8)第8の態様によれば、機械設備(10)の異常の有無を検出する異常検出方法は、機械設備(10)の振動を計測する第1振動センサ(11)から出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における振動の振幅及び位相からなる計測値(a,b)を取得するステップと、過去の複数の時点において取得された複数の計測値により構成される単位空間を基準として、機械設備(10)を評価する時点において取得された計測値のマハラノビス距離を算出するステップと、算出されたマハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、機械設備(10)に異常が発生していると判定するステップと、を有する。
【0183】
(9)第9の態様によれば、プログラムは、機械設備(10)の異常の有無を検出する異常検出装置(2)のコンピュータに、機械設備(10)の振動を計測する第1振動センサ(11)から出力された検出信号に基づいて、予め定めた周波数点における前記振動の振幅及び位相からなる計測値(a,b)を取得するステップと、過去の複数の時点において取得された複数の計測値により構成される単位空間を基準として、機械設備(10)を評価する時点において取得された計測値のマハラノビス距離を算出するステップと、算出されたマハラノビス距離が所定の閾値を超える場合、機械設備(10)に異常が発生していると判定するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0184】
100 異常検出システム
10 機械設備
11,11A,11B,11C,11D 第1振動センサ
12 動力装置
13 ギア
14 第2振動センサ
2 異常検出装置
21 プロセッサ
210 計測値取得部
211 単位空間生成部
212 マハラノビス距離算出部
213 判定部
214 周波数点指定部
215 周波数検出部
216 推定部
217 成分算出部
22 入出力部
23 主記憶装置
24 補助記憶装置
3 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9