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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158586
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】湿式穿孔工具
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/14 20060101AFI20221006BHJP
   B28D 7/02 20060101ALI20221006BHJP
   B23B 47/00 20060101ALI20221006BHJP
   B25F 5/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B28D1/14
B28D7/02
B23B47/00 B
B25F5/00 H
B25F5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063596
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】510118101
【氏名又は名称】株式会社丸高工業
(74)【代理人】
【識別番号】100099324
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 正剛
(72)【発明者】
【氏名】高木 一昌
(72)【発明者】
【氏名】高木 栄造
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 一弥
(72)【発明者】
【氏名】神川 雄次
【テーマコード(参考)】
3C036
3C064
3C069
【Fターム(参考)】
3C036LL05
3C064AA03
3C064AB02
3C064AC02
3C064BA06
3C064BA13
3C064BA32
3C064BB41
3C064BB82
3C064CA41
3C064CA53
3C064CB17
3C064CB31
3C064CB62
3C064CB69
3C064CB71
3C064CB82
3C064CB84
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB03
3C069BC03
3C069CA10
3C069DA06
3C069DA07
3C069EA01
3C069EA03
(57)【要約】
【課題】湿式穿孔工具において、穿孔の深さの調節が可能で穿孔部位の汚れを確実に抑制できる構造とする。
【解決手段】
冷媒循環領域を有する貯水ホルダ16を可動パイプ18に随動して変位自在に形成し、湿式コアビット12の先端部を貯水ホルダ16から被穿孔部位の方向に突出させるとともにその突出量を被穿孔部位からの応力に応じて制御するシャフト20を備える。シャフト20は、湿式コアビット12の貯水ホルダ16からの突出量が大きくなると縮む可動パイプ18と随動し、内部にスプリングバネが内設されたシャフト収容体30に収容されて、穿孔開始時又は穿孔中に湿式コアビット12の先端部を被穿孔部位の方向に付勢する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式コアビットの外表面と当該湿式コアビットに穿孔される被穿孔部位とをその一部に含む冷媒循環領域を変位自在に形成し、前記冷媒循環領域において所定の冷媒を循環させる冷媒循環機構と、
前記湿式コアビットの先端部を前記冷媒循環領域から前記被穿孔部位の方向に突出させるとともにその突出量を前記被穿孔部位からの応力に応じて制御する制御機構とを備え、
前記制御機構は、穿孔開始時又は穿孔中に前記湿式コアビットの先端部を前記被穿孔部位の方向に付勢することを特徴とする、
湿式穿孔工具。
【請求項2】
前記制御機構は、前記被穿孔部位における穿孔の深さに応じて前記湿式コアビットの軸心と平行に変位し、これにより前記冷媒循環領域を変位させる可動チューブと、
前記可動チューブの変位に連動する棒状のシャフトと、
前記可動チューブを収容する固定チューブと、
前記シャフトを収容するシャフト収容体と、を含んで構成され、
前記固定チューブまたは前記シャフト収容体の内壁に、前記可動チューブまたは前記シャフトを前記被穿孔部位の方向に付勢するバネが設けられていることを特徴とする、
請求項1に記載の湿式穿孔工具。
【請求項3】
前記冷媒循環領域が前記被穿孔部位から離脱したことを検知するセンサと、
前記センサが前記離脱を検知したときに前記冷媒循環領域への前記冷媒の供給動作の態様を切り替える供給制御手段と、をさらに備えたことを特徴とする、
請求項1又は2に記載の湿式穿孔工具。
【請求項4】
前記冷媒を前記冷媒循環空間へ注入する注入装置又は穿孔により生じた塵混じりの冷媒を吸引するバキューム装置の一方又は両方のオン動作とオフ動作とを切り替えるスイッチをさらに備えており、
前記シャフトは、その軸心が前記スイッチのオン動作又はオフ動作の動作線上に配置されることを特徴とする、
請求項2に記載の湿式穿孔工具。
【請求項5】
前記制御機構は、前記可動チューブの変位量を視覚的に表すゲージをさらに含むことを特徴とする、
請求項2又は4に記載の湿式穿孔工具。
【請求項6】
湿式コアビットの外表面と当該湿式コアビットに穿孔される被穿孔部位とをその一部に含む冷媒循環領域を変位自在に形成し、前記冷媒循環領域において所定の冷媒を循環させる冷媒循環機構と、
前記湿式コアビットの先端部を前記冷媒循環領域から前記被穿孔部位の方向に突出させるとともにその突出量を前記被穿孔部位からの応力に応じて制御する制御機構とを備え、
前記冷媒循環機構は、前記冷媒を前記湿式コアビットを介して前記冷媒循環領域へ注入するとともに、回転駆動機構から付与された回転駆動力を前記湿式コアビットへ伝達する給水シャンクを備えており、
前記給水シャンクに連結された状態の前記湿式コアビットの軸心と前記回転駆動機構からの回転軸とが一致しており、
前記給水シャンクは、前記湿式コアビットの基端部を連結させる第1連結部と前記回転駆動機構を連結させる第2連結部との少なくとも一方が雄ネジ構造又は雌ネジ構造であることを特徴とする、湿式穿孔工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の内装工事などに用いられる湿式穿孔工具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の湿式穿孔工具として、特許文献1に開示された湿式電動ドリルが知られている。この湿式の湿式電動ドリルは、注水セットから水を滴下して穿孔する工具であり、穿孔刃の外周形状を動力源から穿孔面方向に拡開した円錐形状としている。この湿式電動ドリルによれば、穿孔後の切削水が外周に飛び散らず、電動ドリルにも浸入しないようになる。
【0003】
また、手持ちの電動ドリルにおいて、ダイヤモンドビットを嵌着した湿式用シャンクに給水チューブを介して冷却水を供給し、バキューム装置と接続されたリング状の吸引パッドから削孔により生じる粉塵とともに冷却水を吸引して、排水する手持ちの湿式ドリル、及びそのバキュームセット等も市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-256063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された湿式電動ドリルや市販の手持ちの湿式ドリルは、コアビットの長さが一定であり、深さ調節機構も存在しないので、穿孔深さを大きくしたり、調節することが困難であった。また、バキューム装置のスイッチを作動した後、給水装置及び湿式ドリルを作動し、削孔後は、給水装置及び湿式ドリルの作動を停止した後、バキューム装置のスイッチを切る必要がある。動作の順番を間違えたり、スイッチに間違って触れてしまい意図せずバキューム装置のスイッチを切ってしまったりすると、削孔屑を含んだ汚水で周囲が汚染されてしまう。特に、仕上げ面が、多孔質である陶器質タイルやリシン仕上げ等である場合、汚水が接触して汚れた部分を清掃することが極めて困難であり、ヒューマンエラーなどの誤動作でバキューム装置のスイッチが切れてしまうことや誤動作で給水装置のスイッチを入れてしまうことを、より確実に防止する必要がある。
【0006】
本発明は、穿孔の深さを大きくしつつ穿孔部位の汚れを確実に抑制することができる構造の湿式穿孔工具を提供することを主たる目的とする。
本発明の他の目的は、後述する実施の形態例から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の一態様となる湿式穿孔工具は、湿式コアビットの外表面と当該湿式コアビットに穿孔される被穿孔部位とをその一部に含む冷媒循環領域を変位自在に形成し、前記冷媒循環領域において所定の冷媒を循環させる冷媒循環機構と、前記湿式コアビットの先端部を前記冷媒循環領域から前記被穿孔部位の方向に突出させるとともにその突出量を前記被穿孔部位からの応力に応じて制御する制御機構とを備え、前記制御機構は、穿孔開始時又は穿孔中に前記湿式コアビットの先端部を前記被穿孔部位の方向に付勢することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の湿式穿孔工具によれば、深さを大きくしつつ穿孔部位の汚れを確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る湿式電動ドリルの構造例を示す斜視図。
図2】(a)は湿式電動ドリルの正面図、同(b)は右側面図、同(c)は左側面図、同(d)は背面図、同(e)は上面図。
図3】給排水制御機構の分解組立図。
図4】給排水制御機構の組立後の外観斜視図。
図5】(a)はシャフト収容体の構造例を示す断面図、(b)は(a)に円で示されている部分の部分拡大図。
図6】湿式コアビットが外されている湿式電動ドリルの側面図。
図7】湿式コアビットを装着しようとするときの湿式電動ドリルの状態を示す側面図。
図8】給水シャンクの正面図。
図9】給水シャンクの側面図。
図10図9のH-H断面図。
図11】湿式電動ドリルの初期状態を示す側面図。
図12】初期状態における検知板金と近接センサとの相対位置関係を示す図。
図13】湿式電動ドリルが切削を開始し始めるときの状態の側面図。
図14図14の状態における検知板金と近接センサとの相対位置関係を示す図。
図15】可動チューブ及びシャフトが最も縮んだ状態を示す湿式電動ドリルの側面図。
図16図14の状態における検知板金と近接センサとの相対位置関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を手持ち式の湿式電動ドリルに適用した場合の実施の形態例を説明する。
本実施形態の湿式電動ドリルは、市販の乾式電動ドリルに、冷媒の供給および排出を行う給排水制御機構を付加することで実現することができる。冷媒は、圧縮空気、ジェル等の半液体であってもよいが、汎用性を考慮して、本明細書では、水道水等の給水装置から給水される冷却水を冷媒として用い、冷却水に削屑等が混じった汚水の排出は、公知のバキューム装置を用いる場合の例について説明する。給水装置とバキューム装置は、それぞれ、電源オン時に作動し、電源オフ時に作動を停止するが、電源のオン・オフの順序を間違うと、漏水などの問題が生じるため、本実施形態では、そのような事態を回避するための工夫が施されている。
【0011】
本明細書に添付の図面では、説明の便宜上、XYZの直交三次元軸を設定する。Z軸は湿式電動ドリルの鉛直高さ方向、X軸は前後方向、Y軸は幅方向を表す。また、湿式電動ドリル等をZ軸方向(上方)から見ることを平面視又は上面視、X軸の前方から見ることを正面視、X軸の後方から見ること背面視、Y軸の左横方向から見ることを左側面視、Y軸の右横方向から見ることを右側面視と呼ぶ場合がある。
【0012】
図1は、本実施形態に係る湿式電動ドリル1の構造例を示す斜視図である。図2(a)は湿式電動ドリル1の正面図、同(b)は右側面図、同(c)は左側面図、同(d)は背面図、同(e)は上面図である。湿式電動ドリル1は、例えば、スピンドル及びスピンドルの回転駆動機構を有する市販の電動ドリル100に、給排水制御機構を付加して構成することができる。電動ドリル100は、所定形状のハウジング内に、回転駆動力をスピンドルに付与するための電動モータやその制御装置が収容されている。また、ハウジングの外表面に、操作者が作業するときに使用されるハンドル101、操作スイッチ102及びバッテリー103などが設けられている。
【0013】
給排水制御機構は、給水シャンク11、湿式コアビット12、パイプ等取付ホルダ13、固定パイプ15、貯水ホルダ16、可動パイプ18、シャフト20、シャフトホルダ30、誤動作防止用のスイッチボックス40等を含んで構成される。固定パイプ15の-X方向の端部には、図示しないバキューム装置に接続される排水ホース80が固定されている。
【0014】
給水シャンク11は、シャンク本体111と、シャンク本体111の横側面に固定されたドレイン112と開閉レバー113とを備えている。シャンク本体111は、硬質部材、例えばステンレス鋼製の成型品であって、その内部に冷却水が供給される貯水空間が形成されている。シャンク本体111は、また、貯水空間において対向する一対の面部を有し、一方の面部には電動ドリル100のスピンドルが固定され、他方の面部には湿式コアビット12が固定される。このシャンク本体111は、単なる冷却水の供給のみならず、作業時における電動ドリル100のモータ、スピンドル、湿式コアビット12のそれぞれの回転軸の軸線を一致させ、回転時の軸線のぶれを逓減させる役割を果たす。そのための構造については、後で詳しく説明する。湿式コアビット12は、例えばダイヤモンドビットなどを用いることができるが、本実施形態では、その基端部を給水シャンク11の構造に応じた形状に成形している。これらの構造についても後述する。
【0015】
給水シャンク11のドレイン112には、図示しない給水装置に接続される給水ホースが装着される。給水ホースは、それ自体は軟質部材であるが、ドレイン112への取付部はアタッチメント等で水密に接続される。開閉レバー113は、給水ホースからシャンク本体111に向かう給水路を機械的に開閉する内部弁の調節部材である。作業者が開閉レバー113を例えばZ方向と平行に回動操作することで内部弁の開口面積が最大となり、X方向と平行に回動操作することで内部弁の開口面積が最小となる。つまり、ドレイン112の開閉レバー113を回動操作することにより、貯水空間への冷却水の単位時間あたりの給水量や水圧などを微調整できるようになっている。
【0016】
湿式コアビット12は、内部又は側部に先端部に向かう給水路が形成されている硬質の工具部品である。湿式コアビット12の基端部は、それを固定する給水シャンク11側の固定構造に適合する形状、構造を有する。本実施形態では、給水シャンク11におけるシャンク本体111の固定構造に適合するように、ネジが螺刻されている場合の例を示す。湿式コアビット12の先端部は、穿孔(削孔)径に応じて設計された形状およびサイズに成型されている。また、湿式コアビット12は、給水シャンク11のシャンク本体111に離脱自在に固定される。
【0017】
パイプ等取付ホルダ13は、いわゆる多目的ホルダであり、可動パイプ18、シャフトホルダ30などを位置決めされた部位に所定姿態で支持可能にするとともに、これらを支持した状態で、自らを固定パイプ15及び電動ドリル100のハウジングに固定する。より具体的には、可動パイプ18とシャフト20とを摺動自在に保持する孔が形成された第1ホルダ131と、第1ホルダ131と一体成形されて固定パイプ15の外周を取り囲むΩ状の第2ホルダ132と、第2ホルダ132を締め付ける締付レバー133とを備えてパイプ等取付ホルダ13を構成する。
【0018】
固定チューブ15は筒状体であり、電動ドリル100内のスピンドルの回転軸、シャフト20及び湿式コアビット12の回転軸とそれぞれ平行に位置決めされた状態で、電動ドリル100のハウジングに、直接又はパイプ等取付ホルダ13を介して固定される。
【0019】
可動チューブ18は、固定チューブ15の内径よりもその外径が小さい筒状体であり、電動ドリル100内のスピンドルの回転軸、シャフト20及び湿式コアビット12の回転軸とそれぞれ平行に位置決めされた状態で、固定チューブ15内に収容されたり、固定チューブ15の開口部から突出したりする。具体的には、可動チューブ18の中心軸線が固定チューブ15の中心軸線の延長線上にあり、可動チューブ18の基端部が固定チューブ15内に摺動自在に収容される。固定チューブ15と可動チューブ18の内部空間には、排水ホース80に連通される排水路が形成されている。
【0020】
可動チューブ18の反対側の端部すなわち先端部には、貯水ホルダ16が固定されている。貯水ホルダ16は、略円環状の貯水部161、吸水部162、吸引パッド163、吸水キャップ164、ホルダ取付環166を含んで構成される。ホルダ取付環166の所定部位には、上記の排水路への連通機構が設けられている。
【0021】
なお、図2(c)等に示される通り、可動チューブ18の外表面にゲージ182が設けられている。このゲージ182は、可動チューブ18がどの程度変位したか、つまり、可動チューブ18に随動して変位する湿式コアビット12の先端が被穿孔部位において、どの程度の深さになっているかを作業者が視覚的かつ定量的に把握できるようにしたものである。
【0022】
湿式コアビット12は、貯水ホルダ16の吸水部162から侵入し、貯水部161及び吸水キャップ164の開口部165を貫通して、図示しない被穿孔部位に向かう。吸水部162は、湿式コアビット12を通じて冷却水が供給されるときにその冷却水を貯水部161に取り込む。貯水部161には、穿孔時に湿式コアビット12の先端部付近に冷却水を送り込んで摩擦により発熱する湿式コアビット12の先端部付近を冷却するとともに、穿孔により生じる塵埃等を取り込んだ汚水を水密に取り込んで、ホルダ取付環166へ送り込む。
【0023】
吸水キャップ164は、例えば、先端部に開口部165が形成された略円錐台状で内部が空洞の弾性材、例えばゴム材を成形した部材などで形成される。そのため、貯水部161に貯留される冷却水と汚水、特に汚水が、吸水部162よりも吸水キャップ164の開口部165付近で流速が増して吸引パッド163に案内され、汚水の吸引が効果的に行われる。
【0024】
また、吸水キャップ164の開口部165は、湿式コアビット12で穿孔する孔の径よりも僅かに大きい。本発明者らの実験によれば、湿式コアビット12の外径に対して1.01~1.1倍未満の小径の開口とし、略円錐の角度が湿式コアビット12の回転軸に対して30度以上80度未満とすることで、物理的には開口部165と湿式コアビット12との間に間隙が生じても、吸水キャップ164の弾性力と汚水の流速力により、穿孔時にその空隙から汚水が漏れにくい構造となることが判明した。これにより、汚水が接触して汚れる仕上げ面の面積を極力少なくすることができるという効果を得ることができた。
なお、湿式コアビット12は、用途に応じて様々な外径のものを用いることができる。この場合、吸水キャップ164の開口部165は、湿式用コアビット12の外径に応じた上記倍率のものに装着し直すのが望ましい。
【0025】
吸水キャップ164で供給時よりも流速が増した汚水は、吸引パッド163で吸引され、ホルダ取付環166、可動チューブ18、固定チューブ15及び排水ホース80を介してバキューム装置に吸引される。
【0026】
上記の吸水シャンク11のシャンク本体111、貯水ホルダ16、貯水ホルダ16内における湿式コアビット12の外表面、図示しない被穿孔部位をその一部に含む領域を本明細書では、「冷媒循環領域」と称し、この冷媒循環領域において冷却水を循環させるための一連の機構を「冷媒循環機構」と称する。貯水ホルダ16は、可動チューブ18の先端部に固定されるため、可動チューブ18の変位に随動してその位置が変位する。つまり、冷媒循環領域もまた、作業状況に応じて変位することになる。
【0027】
次に、図3図4図5をも参照して、シャフト20、シャフト収容体30及びセンサ60の取付構造について説明する。図3は、これらの部品を含む給排水制御機構の分解組立図であり、図4は、給排水制御機構の組立後の外観斜視図である。図5(a)はシャフト収容体30の構造例を示す断面図であり、図5(b)は図5(a)に円で示されている部分の部分拡大図である。シャフト20は可動チューブ18の中心軸線と平行に配され、可動チューブ18と連動して、可動チューブ18と同じ方向に同じ量だけ変位して、その基端部がシャフト収容体30に収容される金属棒である。シャフト20は、先端部がスイッチボックス40のガイド部、すなわち、シャフト20の直径よりも僅かに小さい径の孔が形成された板状部品を貫通し、基端部には、シャフト収容体30からの離脱を抑制するとともに後述するスプリングバネ31の端部と当接するフランジ23が固定されている。
【0028】
シャフト収容体30は、開口部301に、シャフト係合部302が形成され、底部の径が開口部301からテーパ状に小さくなるように成形された有底筒状体である。シャフト収容体30の筒内壁には、スプリングバネ31が当接されている。このスプリングバネ31は、シャフト20を筒内に収容する際に、シャフト20をシャフト収容体30から離間する方向、つまりシャフト20を被穿孔部位の方向に付勢する。シャフト20の基端付近には、上記スプリングバネを押し込むためのフランジ23と検知板金62とが固定され、先端付近の側面には、雄ネジが螺刻されている。雄ネジ部分には、所定量以上のシャフト収容体30への収容を阻止するストッパとして機能するナット22が変位自在に設けられている。ナット22の位置がシャフト収容体30の方向に向かうほど、シャフト20のシャフト収容体30への収容サイズを短く(つまり、湿式コアビット12による穿孔の深さを浅く)することができる。ナット22の外径はシャフト収容体30の開口部よりも大きいものが選定される。
【0029】
シャフト20とシャフト収容体30とで、被穿孔部位における穿孔の深さ(湿式コアビット12の穿孔時の突出量)の調節を可能とし、かつ、穿孔時に湿式コアビット12が被穿孔部位から受ける応力に応じて制御する制御機構を構成することができる。つまり、穿孔開始前後あるいは穿孔中に、湿式コアビット12の先端部及び貯水ホルダ16を被穿孔部位の方向に付勢することができる。そのため、少なくとも作業中における貯水ホルダ16からの冷却水や汚水の漏れを抑制することができる。
【0030】
検知板金62は、L字型の金属板であり、シャフト20の基端部付近に固定された後、シャフト20と直交する方向に延びる脚部と、脚部からシャフト20と平行に延びる平面部とが一体になった部品である。検知板金62はシャフト20の変位に随動するが、初期位置のときの直下には近接センサ63が、センサホルダ64に収容されてシャフト収容体30に固定されている。近接センサ63は、例えば誘導式の近接センサであり、検知板金62が近接している初期状態ではオフであるが、検知板金62が離れるとオン信号をスイッチボックス40へ出力する。このオン信号は、給排水循環を開始するための信号である。あるいは、近接センサ63は、検知板金62が近接しているときはオフ信号をスイッチボックス40に出力し、給水装置及びバキューム装置の電源を強制的にオフにさせるようにしても良い。検知板金62と近接センサ63とセンサホルダ64とでセンサ部60を構成している。
【0031】
上記のスイッチボックス40は、貯水ホルダ16のホルダ取付環166に固定されている。スイッチボックス40は、上記のガイド部のほか、平板状の操作レバーを揺動してオン又はオフするスイッチ部とを有する。スイッチ部は、給水装置の電源およびバキューム装置の電源と連動する。スイッチ部は、オン時に冷却水の給排水循環の動作を許容し、オフ時に給排水循環の動作を停止させるロッカスイッチであって良い。スイッチボックス40は、スイッチ部のオン/オフの動作線が、シャフト20の中心軸線の延長線上に位置するように固定される。ガイド部を貫通したシャフト20の先端が、スイッチ部の動作線と交差すると、作業者等によるバキューム装置のオフ操作ができないように固定される。このため、湿式電動ドリル1の穿孔時に誤ってスイッチボックス40をオフにしてバキューム装置を停止してしまうおそれがなくなる。
【0032】
固定チューブ15及び可動チューブ18は、正面視で湿式コアビット12の中心軸線からやや左よりに配置され、スイッチボックス40は、正面視で湿式コアビット12の中心軸線からやや右よりに配置される。これにより、シャフト20およびシャフト収容体30を設けたときのZ方向のサイズを小さくすることができる。
【0033】
湿式コアビット12が、穿孔したい部位の径に応じて交換自在であることは、上述の通りである。図6は、湿式コアビット12が外されている湿式電動ドリル1の側面図であり、図7は、湿式コアビット12を装着しようとするときの湿式電動ドリル1の状態を示す側面図である。これらの図に示されるように、湿式コアビット12は、その先端を貯水ホルダ16に貫通させた後に、吸水シャンク11のシャンク本体111に装着すれば良い。取り外すときも同様に、吸水シャンク11のシャンク体111から離脱させ、貯水ホルダ16に収容した後、貯水ホルダ16から引き抜けば良い。
このように、湿式コアビット12を離脱自在に取り付ける構造が簡略化されているのも本実施形態の湿式電動ドリル1の特徴の一つである。
【0034】
次に、給水シャンク11、特にシャンク本体111の構造について詳しく説明する。図8は給水シャンク11の正面図、図9は給水シャンク11の側面図である。シャンク本体111は、例えば固定金具112で電動ドリル100のハウジングに固定される。開閉レバー113を有するドレイン112は、本例の場合は、ナット114でシャンク本体111に固定されるが、他の手段ないし構造によりシャンク本体111に固定されるようにしても良い。
【0035】
図10図9のH-H断面図、すなわちスピンドルや湿式コアビット12が装着されていない状態を示す断面図である。チャック本体111のうち、スピンドルとの連結部分は円柱の対向する側面部分を平面状、残部を弧状に成形したナット115が形成され、その内部には雌ネジ111aが螺刻されている。また、チャック本体111のうち、湿式コアビット12との連結部分には雄ネジ116が形成されている。これに対応して、スピンドルの端部は雄ネジが螺刻され、湿式コアビット12の基端部には雌ネジが螺刻されている。図10において、符号117は、図示しない吸水ホースとのアタッチメントである。
【0036】
給水シャンクを有する湿式電動ドリルの場合、給水シャンクとスピンドルとの連結部分は、ワンタッチで着脱するために六角軸等を受け入れるチャック形式(あるいはスリーブ形式)となっているものが多い。コアビットとの連結部分も同様である。このようなチャック形式等の場合、必然的にチャック間に隙間が生じる。また、各チャック間の押圧力が均等にならなかったりする。そのため、スピンドルやコアビットの離脱と装着は便利であるが、漏水が生じる場合がある。また、スピンドルやコアビットの回転時に上記隙間に起因する振動音が発生する。また、各チャックの圧力が均等にならない場合、スピンドルやコアビットの軸心が回転時にぶれ、それに伴う振動音が発生する。さらに、スピンドルやコアビットの軸心が回転時にぶれると、穿孔径が大きくなったり、湿式コアドリルに予期しない力が作用して、湿式コアドリルが壊れやすくなったりする。
本実施形態の湿式電動ドリル1では、給水シャンク11のシャンク本体111を図9及び図10に示される固定構造とすることにより、スピンドルの回転軸線と湿式コアビット12の回転軸線とを一致させ、上記の問題を解消している。
【0037】
次に、本実施形態の湿式電動ドリル1の動作について説明する。
図11は、湿式電動ドリル1の初期状態を示す側面図である。湿式コアビット12の先端部は貯水ホルダ16に収容されている。図12は初期状態における検知板金62と近接センサ63との相対位置関係を示す図である。この状態では、スイッチボックス40によるバキューム装置の電源オフのロック機能が働かない状態であるが、近接センサ63がスイッチボックス40にオフ信号を出力し、あるいはオン信号を出さないので、給水装置及びバキューム装置の電源が作業時の誤操作によりオンにならない。そのため、漏水が確実に防止され、作業時の安全性をより高めることができる。
【0038】
図13は湿式電動ドリル1が切削を開始し始めるときの状態の側面図である。湿式コアビット12の先端部は貯水ホルダ16から突出し始めている。このように可動チューブ16が縮み始めると、それに随動してシャフト20の先端がスイッチボックス40のガイド部の孔を貫通してスイッチのオン/オフ動作線上に到達し、バキューム装置が誤ってオフにならないようにロックする。シャフト20の先端が所定量だけ貫通すると、ガイド部の孔がシャフト20のナット22に接触し、それ以上のシャフト20の変位、すなわち、湿式コアビット12による穿孔深さがそれ以上になることが抑制される。
【0039】
図14はこの状態における検知板金62と近接センサ63との相対位置関係を示す図である。近接センサ63は、オン信号をスイッチボックス40に送信し、あるいは、オフ信号の出力を停止する。これにより給水装置の電源をオンにできる状態となり、スイッチボックス40を通じて、電源制御がなされる。
【0040】
図15は湿式電動ドリル1において、可動チューブ18及びシャフト20が最も縮んだ状態を示す側面図である。つまり、シャフト20のナット22を外すか、あるいは右側面視で最右側のネジ溝まで移動させた状態である。この状態では、湿式コアビット12の先端部は貯水ホルダ16から突出している。図16はこの状態における検知板金62と近接センサ63との相対位置関係を示す図であり、給水装置もバキューム装置も電源オンの状態が維持されている。
【0041】
このように、本実施形態の湿式電動ドリル1は、シャフト20とシャフト収容体30とを備え、随動する可動チューブ18と湿式コアビット12の変位量を大きくすることができるので、より深い穿孔が可能となる。また、シャフト20のネジ溝に螺合しているナット22の位置を変えることにより、穿孔が深くなりすぎないように、穿孔深さの微調整も可能となる。さらに、センサ部60を設けたので、図11のような初期状態において、誤って給水装置から給水がなされたり、騒音源となるバキューム装置が不用意に動作する事態を回避することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、スイッチボックス40のスイッチとしてスイッチ部を例示したが、本発明に係るスイッチは、操作部を押圧してオン又はオフする押しボタンスイッチや棒状の操作部を揺動してオン又はオフするトグルスイッチなど他の種類のスイッチであっても構わない。その場合であっても、可動チューブ18が縮んだ時にシャフト20がスイッチのオン動作の動作線と交差し、スイッチのオフ動作を阻害するようにスイッチを取り付ける。例えば、押しボタンスイッチの場合、可動チューブ18が縮んだ時にシャフト20が押しボタン等の操作部の押し動作の動作線上に配置されるようにスイッチを取り付けると好ましい。
【0043】
本実施形態では、シャフト20とスプリングバネ31内蔵のシャフト収容体30とで、弾性力を持つ穿孔深さの調節機能を持たせる例について説明したが、可動チューブ18の長さをより長くする一方、固定チューブ15の内壁にスプリングバネを内設する構成であっても良い。
【0044】
本実施形態では、湿式電動ドリル1の例を説明したが、本発明の湿式穿孔工具は、給排水制御機構を取付可能な穿孔工具であれば良く、電動ドリルだけでなく、電動パンチ、ハンドドリル、電動リーマ、電動カッター等においても適用が可能である。
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