(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158649
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】吸脱着素子及び調湿装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/28 20060101AFI20221006BHJP
B01D 53/26 20060101ALI20221006BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20221006BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221006BHJP
F24F 3/14 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B01D53/28
B01D53/26 200
B01J20/26 A
B01J20/28 Z
F24F3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063690
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永井 哲
(72)【発明者】
【氏名】岡田 有希
(72)【発明者】
【氏名】井上 翔太
(72)【発明者】
【氏名】北尾 トモ子
【テーマコード(参考)】
3L053
4D052
4G066
【Fターム(参考)】
3L053BC03
3L053BC05
4D052AA08
4D052CB01
4D052CD00
4D052DA03
4D052DB01
4D052FA08
4D052GA01
4D052GA04
4D052GB00
4D052GB03
4D052GB07
4D052GB12
4D052GB14
4D052HA49
4D052HB02
4D052HB06
4D052HB07
4G066AA38A
4G066AA53A
4G066AB05A
4G066AB06A
4G066AB07A
4G066AB24B
4G066AC11B
4G066AC12D
4G066AC26C
4G066BA03
4G066BA07
4G066BA20
4G066BA22
4G066BA26
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA43
4G066DA03
4G066GA01
4G066GA06
(57)【要約】
【課題】耐水性及び撥水性が高く、透湿性に優れ、複雑な構成を有しない透湿シートを提
供する。
【解決手段】本発明の吸脱着素子は、通気流に含まれる水分の吸脱着が可能であり、金属イオン及び有機配位子で構成され、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率の差が20質量%以上である多孔性金属錯体を60質量%以上含有し、通気方向に貫通する空洞を、当該通気方向に垂直な断面積1cm
2あたり30個以上80個以下有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気流に含まれる水分の吸脱着が可能な吸脱着素子において、
金属イオン及び有機配位子で構成され、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率の差が20質量%以上である多孔性金属錯体を60質量%以上85質量%以下含有し、
通気方向に貫通する空洞を、当該通気方向に垂直な断面積1cm2あたり30個以上80個以下有する、ことを特徴とする吸脱着吸素子。
【請求項2】
フィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維と、水中溶解温度が65℃~100℃の有機バインダーと、を含有することを特徴とする請求項1に記載の吸脱着素子。
【請求項3】
前記フィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維と前記有機バインダーとのうち、少なくとも一方は、熱伝導率及び/又は熱容量が前記多孔性金属錯体以下であることを特徴とする請求項2に記載の吸脱着素子。
【請求項4】
前記多孔性金属錯体の中心金属は、Pb、Hg、As、Cd、Cr、Ni以外の金属イオンであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の吸脱着素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の吸脱着素子を備え、
前記吸脱着素子での水分の吸脱着により調湿対象空間の湿度を調整することを特徴とする調湿装置。
【請求項6】
前記吸脱着素子の吸着時間及び/又は脱着時間が1分間以下となるように制御することを特徴とする請求項5に記載の調湿装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を吸脱着可能な吸脱着素子、またそれを用いた、室内の空気を除湿及び加湿する調湿装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間内の空気を除湿したり加湿したりする調湿装置として、送風機と吸脱着素子を備えた調湿装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。吸脱着素子は、吸着剤を担持しており、吸脱着素子内部に設けられた空気の流通路流通路を高相対湿度の除湿対象空気が通過し吸着剤に接触することで、当該空気中の水分(水蒸気)を吸着して空気を除湿する。一方、低相対湿度の加湿対象空気との接触により、吸着剤から水分を脱着して空気を加湿する。この脱着により吸脱着素子はその吸着性能が回復し、再び除湿対象空気を除湿する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の吸脱着素子に担持される吸着剤としては、シリカゲルやゼオライト、活性炭等の無機系吸着剤が一般的に用いられている。無機系吸着剤は、その多孔構造から細孔内に水分を効率的に吸着できる一方で、吸着した水分に対する束縛が強いために、水分を脱着する脱着速度が遅い。よって、調湿装置は、加湿性能が低い、あるいは、加湿性能を担保しようとすると、脱着温度を過剰に上げる必要があるため、エネルギー効率が低くなる。また、無機系吸着剤は、水分を吸着する際に発する吸着熱が大きいために、水分が吸着された後の除湿空気はこの吸着熱により温度が大きく上昇する。よって、調湿装置は、除湿空気の温度を快適な温度まで低下させる冷却器(アフタークーラー)の熱負荷が大きくなるので、エネルギー効率の面でも課題がある。
【0005】
また、吸脱着素子の形状としても調湿装置の除加湿性能、及びエネルギー効率の向上の余地があると考えられる。
【0006】
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、従来よりも吸脱着性能に優れた吸脱着素子、及び省エネルギーで除加湿性能の高い調湿装置、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来の吸着剤よりも低い吸着熱かつ高い脱着速度を有する高性能な吸着剤を用いるとともに、当該吸着剤の高い除加湿性能を存分に引き出す吸脱着素子の設計をすることにより、従来よりも、省エネルギーかつ高い除加湿性能を有する吸脱着素子及び調湿装置を提供できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
つまり、本発明の吸脱着素子及び調湿装置は、以下の手段により達成される。
通気流の水分の吸脱着が可能な吸脱着素子において、金属イオン及び有機配位子で構成され、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率の差が20質量%以上である多孔性金属錯体を60質量%以上85質量%以下含有し、通気方向に貫通する空洞を、当該通気方向に垂直な断面積1cm2あたり30個以上80個以下有することを特徴とする。
【0009】
ここで、一定圧力下で吸着の進行が止まったように見える状態(吸着分子数=脱着分子数)のときの圧力を吸着平衡圧と言い、吸着平衡圧と飽和蒸気圧の比を相対圧と言う。
【0010】
上記本発明の吸脱着素子は、フィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維と、水中溶解温度が65℃~100℃の有機バインダーと、を含有するのが好ましい。
【0011】
また、上記本発明の吸脱着素子は、前記フィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維と前記有機バインダーとのうち、少なくとも一方は、熱伝導率及び/又は熱容量が前記多孔性金属錯体以下であるのが好ましい。
【0012】
また、上記本発明の吸脱着素子は、前記多孔性金属錯体の中心金属は、Pb、Hg、As、Cd、Cr、Ni以外の金属イオンであるのが好ましい
【0013】
本発明の調湿装置は、上記いずれかの本発明の吸脱着素子を備え、当該吸脱着素子での水分の吸脱着により調湿対象空間の湿度を調整することを特徴とする。
【0014】
また、上記本発明の調湿装置は、前記吸脱着素子の吸着時間及び/又は脱着時間が1分間以下となるように制御するのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の吸脱着素子及び調湿装置は、従来の吸脱着素子やそれを用いた調湿装置よりも省エネルギーかつ高い除加湿性能を有するものである。かかる性能を有する本発明の吸脱着素子及び調湿装置は、例えば、スペースが限られたモビリティの調湿装置として、あるいは、狭く限られた作業空間の湿度調整用途などで利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)~(C)は、実施形態の調湿装置の概略構成図であり、(B)及び(C)は吸脱着素子の吸脱着が入れ替わった状態を示している。
【
図2】(A)は吸脱着素子の斜視図であり、(B)は吸脱着素子1層分の正面図である。
【
図3】(A)は吸着シートの斜視図であり、(B)はフルートシートの斜視図、(C)は片段シートの斜視図である。
【
図4】(A),(B-1),(B-2),(C-1),(C-2)は、調湿装置の変形例を示す構成概略図である。
【
図5】(A),(B)は、調湿装置の他の変形例を示す構成概略図である。
【
図6】調湿装置の別の変形例を示す構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。図中、同じ構成部材
については同じ番号を付し説明は繰り返さない。
【0018】
図1の(A)は、本実施形態の調湿装置1の概略構成を示している。調湿装置1は、吸脱着素子2と送風ファン3とを備え、空間内の空気を除湿したり加湿したりする装置である。調湿装置1は、住宅、ビルディング、マンション、病院、工場、店舗等の各種施設内の限られた空間、自動車、電車、飛行機等の人や貨物を運搬する各種車両の空間等に、調湿された快適空気を供給する空調機器に利用される。
【0019】
図1おいて、OAは空間外(例えば屋外や室外)から調湿装置1に吸い込まれる空気(外気)を指し、SAは調湿装置1から空間内(例えば屋内や室内)に送り込まれる空気を指し、RAは空間内から調湿装置1に吸い込まれる空気(内気)を指し、EAは調湿装置1から空間外へ送り出される空気(排気)を指す。また、DAは調湿装置1の吸脱着素子2で除湿された空気を指し、WAは調湿装置1の吸脱着素子2で加湿された空気を指す。また、CAは調湿装置1の冷却器4で冷却された空気を指し、HAは調湿装置1の加熱器5で加熱された空気を指す。
【0020】
なお、調湿装置1において、空気清浄あるいは吸脱着素子2の保護を目的として、吸気口などに粗粒子あるいは菌、ウィルス除去性能を有したプレフィルターを設置することが好ましい。また、省エネルギーの観点から、加熱器5の加熱源は排熱や地熱、太陽光等から集熱したものを用いてもよい。
【0021】
図1の(B)及び(C)を用いて、調湿装置1の空気流路に関する構成を説明する。調湿装置1は、ブロック静置型のバッチ式調湿装置であり、図示しない空気流通路を兼ねたケーシング内に収納された吸脱着素子2(
図1では、吸脱着素子2a,2bの2つ)と送風ファン3(
図1では、吸脱着素子3a,3bの2つ)を備え、吸脱着素子2に接続される給気路40、50及び排気路41、51と、これら各流路を任意に切り替えることが可能な機構(
図1では、入口弁6a~6d、出口弁7a~7d)と、を備える。
【0022】
図1に示す実施形態の場合、バッチ式デシカント調湿システムを実現するために、吸脱着素子2として、吸脱着素子2aと吸脱着素子2bとの2つを備える。除湿運転時には、一方の吸着素子による除湿を行っている間、他方の吸着素子を脱着(再生)する。加湿運転時には、一方の吸着素子から脱着(水分を脱離)させて加湿を行っている間、他方の吸着素子に水分を吸着させる。
【0023】
図1に付された矢印は空気の流れる方向を示す。また、弁が白抜きの場合は、弁が開状態であり、黒抜きの場合は、弁が閉状態であり、太線は空気が流通している状態、細線は空気が流通していない状態を示す。例えば、
図1の(B)のバルブパターンによる空気流路構成の場合、給気路40から給気された空気は、給気路40bを流通し、開状態である弁6dを通過後に吸脱着素子2bによって除湿され、開状態である弁7dを通過して排気路41bから排気路41へと排出される。ここで、本調湿装置1が除湿運転時、前記除湿空気はSA(供給空気)として室内に送られ、加湿運転時、前記除湿空気はEA(排出空気)として大気放出される。一方、給気路50から給気された空気は、給気路50aを流通し、開状態である弁6aを通過後に吸脱着素子2aによって加湿され、開状態である弁7aを通過して排気路51aから排気路51へと排出される。ここで、本調湿装置1が除湿運転時、前記加湿空気はEA(排気空気)として大気放出され、加湿運転時、前記加湿空気はSA(供給空気)として室内に送られる。
【0024】
一方、
図1の(C)のバルブパターンによる空気流路構成の場合、給気路40から給気された空気は、給気路40aを流通し、開状態である弁6bを通過後に吸脱着素子2aによって除湿され、開状態である弁7bを通過して排気路41aから排気路41へと排出される。ここで、本調湿装置1が除湿運転時、前記除湿空気はSA(供給空気)として室内に送られ、加湿運転時、前記除湿空気はEA(排出空気)として大気放出される。一方、給気路50から給気された空気は、給気路50bを流通し、開状態である弁6cを通過後に吸脱着素子2bによって加湿され、開状態である弁7cを通過して排気路51bから排気路51へと排出される。ここで、本調湿装置1が除湿運転時、前記加湿空気はEA(排気空気)として大気放出され、加湿運転時、前記加湿空気はSA(供給空気)として室内に送られる。
図1の(B)及び(C)のバルブパターンを交互に繰り返すことによって、吸脱着素子2a及び2bの吸着と脱着も交互に繰り返すことができ、バッチ式デシカント調湿システムを成立させることが可能となる。
【0025】
図2の(A)に示す吸脱着素子2は、
図3の(A)に示す吸着シート22を平坦なまま用いたライナーシートと、吸着シート22を曲げた
図3の(B)に示すフルートシート23により構成された
図3の(C)に示す1層の片段シート20が積層された積層体であり、積層方向に対して水平方向にケーシングに格納される。
図2の(B)に示すように、吸脱着素子2の内部は空洞(セル)21により空気が通過可能であり、空気は、吸脱着素子の一方側(又は他方側)の端面から他方側(又は一方側)の端面に向かって積層方向に垂直な方向(吸脱着素子の長さ方向)に吸脱着素子2の内部を通過する。吸脱着素子2は、内部を通過する空気中の水分(水蒸気)を吸脱着可能な吸着剤を担持している。
【0026】
吸脱着素子2に担持される吸着剤は、調湿装置に一般的に用いられるシリカゲル、ゼオライト、活性炭等の無機系の多孔質材料ではなく、種々の配位形態をとり得る金属イオンと2座以上の配位座を有する有機系配位子とを組み合わせて自己集合させた多孔質材料、すなわち、多孔性金属錯体(MOF)もしくは多孔性配位高分子(PCP)と呼ばれる多孔質材料が用いられる。結節点となる金属イオンを有機配位子が架橋することによって、フレームワーク構造が構築され、このフレームワーク内の空隙が水分を取り込む空間として働く。多孔性金属錯体(もしくは多孔性配位高分子)は、通常、溶媒中の反応によって合成される。すなわち、金属イオン源と有機配位子を有する化合物を水や有機溶媒等の溶媒中に溶解させて加熱することによって、結晶性の化合物が得られる。合成直後は、フレームワークの格子内部に溶媒分子を包接しているが、この溶媒分子を除去することで、多孔質材料となる。
【0027】
多孔性金属錯体は、シリカゲル、ゼオライト、活性炭等の無機系の多孔質材料と比べて、高い比表面積、シャープな細孔分布を有するため、空気中の水分の吸着速度が速く、かつ、吸着できる水分容量が多いという特徴がある。また、水分を弱い結合力で吸脱着することが可能であるため、吸着した水分を脱着するために必要なエネルギーが低く、再生時に水分を脱着する脱着速度が速いという特徴がある。
【0028】
多孔性金属錯体を構成する金属としては、周期表第2族、第4族、第7~第14族に分類される金属の使用が好ましい。中でも、Mg、Ca、Baの第2族元素;Ti、Zrの第4族元素;Reの第7族元素;Fe、の第8族元素;Rh、Irの第9族元素;Pd、Ptの第10族元素;Cu、Ag、Auの第11族元素;Znの第12族元素;Alの第13族元素;B、Siの第14族元素が好ましく、さらに好ましくは第4族、第7族~第14族の元素であり、中でも本発明にはTi、Zr、Fe、Cu、Zn、Al、Siの使用が最適である。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、フマル酸、マロン酸、アジピン酸等のジカルボン酸及びその誘導体;ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、1,3,5-トリス(4’-カルボキシ[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸等のトリカルボン酸及びその誘導体;p-テルフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸〔別名称:5,5’-(1,4-フェニレン)ビスイソフタル酸〕、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン等のテトラカルボン酸及びその誘導体;イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類及びその誘導体;4,4’-ビピラゾレート、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビピラゾレート、1,3,5-トリス(1H-1,2-ピラゾール-4-イル)ベンゼン等のピラゾール類及びその誘導体;1,3,5-トリス(1H-1,2,3-トリアゾール-5-イル)ベンゼン等のトリアゾール類及びその誘導体;5,5’-ビステトラゾール、5,5’-アゾビス-1H-テトラゾール、1,3,5-トリス(2H-テトラゾール-5-イル)ベンゼン等のテトラゾール類及びその誘導体;1,2-ビス(4-ピリジル)エタン、4,4’-ビピリジン等のピリジン類及びその誘導体;トリエチレンジアミン、ピラジン、ピペラジン等が挙げられる。中でも本発明には、テレフタル酸、トリメシン酸の使用が好ましい。
【0029】
具体的な多孔性金属錯体としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウムイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体(例えばBASF社製のBasolite A100)、鉄イオンとトリメシン酸から構成される多孔性金属錯体(例えばBASF社製のBasolite F300)、チタンイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体、ジルコニウムイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体、を挙げることができる。これらの多孔性金属錯体は、同じ多孔性金属錯体であっても合成法や純度によりBET比表面積は様々である。これらの多孔性金属錯体の中でも、環境汚染配慮のために毒性の低い金属を用いる点、水と適度に結合できるサイトを兼ね備えている点から鉄イオンとトリメシン酸、チタンイオンとテレフタル酸、ジルコニウムイオンとテレフタル酸から構成される多孔性金属錯体を用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態では、多孔性金属錯体として、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率の差(以下、単に「飽和水分吸着率差」と称することもある)が20質量%以上であるものを用いる。低湿度(相対圧0.3)及び中湿度(相対圧0.6)における飽和水分吸着率差が大きいと、吸着した水分の脱着に対する駆動力が高く、その分、脱着時に水分を脱着する脱着速度が速い。多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差が20質量%以上であることで、多孔性金属錯体は優れた脱着速度を有し、水分を吸着した後の脱着に伴う空気の加湿性能を飛躍的に向上させることが可能である。多孔性金属錯体の上述の飽和水分吸着率差は、20質量%以上であれば特に限定されないが、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
加えて、多孔性金属錯体は、25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率が30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率が30質量%以上であることにより、上述の飽和水分吸着率差が大きくなるうえ、多孔性金属錯体を担持した後述の吸着シート22自体に水分を多く保持させることができるので、吸着シート22に柔軟性を付与することができる。これにより、吸着シート22に柔軟性を付与するために用いる後述の有機バインダーの含有量を少なくすることができるので、有機バインダーの側鎖等が多孔性金属錯体の細孔に吸着して細孔が閉塞することにより生じる多孔性金属錯体の吸着性能の低下を抑制することができる。なお、吸着シート22が良好な柔軟性を有することで、吸着シート22は後述のフルートシート23のような加工を容易に行うことができる。また、吸着シート22により形成される吸脱着素子2も柔軟性を有するので、繰り返しの使用に対する耐久性が向上する。
【0032】
多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6での飽和水分吸着率は、多孔性金属錯体(水又は有機溶媒処理前)約100mgを採取し、120℃で12時間真空乾燥して秤量した後、高精度ガス・蒸気吸着量測定装置(BELSORP-max、日本ベル社製)を使用し、25℃における水蒸気の吸着量を、相対圧を0.02~0.95の範囲で徐々に高めながら40点測定し、吸着等温線を作成する。そして、相対圧0.6における多孔性金属錯体1gあたりの水分吸着量[g]から下記式1にて飽和水分吸着率[%]を求めることができる。
【0033】
飽和水分吸着率[%]=吸着剤1gあたりの水分吸着量[g]×100・・・(式1)
【0034】
なお、多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.3での飽和水分吸着率は、上述の吸着等温線を作成後、相対圧0.3における多孔性金属錯体1gあたりの水分吸着量[g]から上記式1にて求めることができる。
【0035】
多孔性金属錯体の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、粉体状や粒体状とすることができる。多孔性金属錯体の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、0.1μm~200μmが好ましく、1μm~100μmがより好ましく、1μ~80μmがさらに好ましい。多孔性金属錯体の平均粒子径が0.1μm以上であることにより、多孔性金属錯体を担持させた吸着シート22を製造する際の歩留まりの低下を抑えることができ、一方で、200μm以下であることにより、吸着シート22に多孔性金属錯体を良好に担持させることができるので、吸着シート22からの多孔性金属錯体の脱落を抑制することができる。なお、多孔性金属錯体の平均粒子径は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0036】
多孔性金属錯体の77K窒素吸着法によるBET比表面積は、特に限定されるものではないが、900m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましく、1800m2/g以上であることがさらに好ましい。多孔性金属錯体のBET比表面積が900m2/g以上であることにより、無機系の多孔質材料よりも優れた多孔性金属錯体の吸着性能を効果的に発揮させることができる。なお、多孔性金属錯体のBET比表面積の上限は、特に限定されないが、6000m2/g以下であることが好ましい。BET比表面積が6000m2/g以下であることにより、多孔性金属錯体を容易に製造することができる。
【0037】
なお、多孔性金属錯体のBET比表面積は、多孔性金属錯体(水又は有機溶媒処理前)約100mgを採取し、120℃で12時間真空乾燥して秤量した後、自動比表面積測定装置(ジェミニ2375、マイクロメリティックス社製)を使用し、液体窒素の沸点(-195.8℃)における窒素ガスの吸着量を、相対圧を0.02~0.95の範囲で徐々に高めながら40点測定し、吸着等温線を作成する。そして、自動比表面積測定装置に付属の解析ソフト(GEMINI-PCW version1.01)にて、BET条件で、表面積解析範囲を0.01~0.15に設定することで、BET比表面積(m2/g)を求めることができる。
【0038】
吸着剤は、多孔性金属錯体を1種又は2種以上含んでいてもよい。さらに吸着剤は、多孔性金属錯体を主成分として含んでいれば、多孔性金属錯体以外の多孔質材料、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、活性アルミナ、アルミノリン酸塩、シリコアルミノリン酸、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体等の有機高分子多孔質体を含んでいてもよい。なお、主成分とは、吸着剤全体に対する割合が20質量%以上、好ましくは40質量%以上,より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であることを意味する。
【0039】
吸脱着素子2は、
図2に示すように、長さ方向に垂直な平面に沿って互いに区画された複数の空間21が密に並ぶハニカム構造を有する。つまり、複数の空間21は、上記平面内で縦、横、斜め等の方向に規則正しく又は不規則に間隔が狭く並び連ねられている。空間21は、吸脱着素子2の長さ方向の両端において開口しており、吸脱着素子2を長さ方向に貫通している。空間21は、除湿対象空気や加湿対象空気、再生用空気等の空気が通る流路となる。空間21の外形は、特に限定されず、図示例では三角形状であるが、その他に、例えば四角形状、菱形形状、六角形状、円形状等であってもよい。
【0040】
吸脱着素子2は、本実施形態では、
図3の(A)に示す平坦状の吸着シート22をライナーシートとして用い、
図3の(B)に示すフルートシート23と積層して形成する。フルートシート23は、凸状の山部230及び凹状の谷部231が交互に連なって波型形状となっている。フルートシート23は吸着シート22に折り曲げ等の段加工を施すことで形成される。吸脱着素子2は、
図3の(C)に示すように、フルートシート23の谷部231の底をライナーシートとして用いる吸着シート22に、例えば接着剤等により接合して片段シート20とした後、この片段シート20を積層させることで、
図2の(A)に示すブロック型のハニカム構造の吸脱着素子2が形成される。
図2の(B)に示す空間(セル)21は、フルートシート23及び吸着シート22により区画された空間である。
【0041】
なお、吸着シート22は、上記したフルートシート23のような加工以外にも、種々の形状の折り曲げ加工を施すことができる。また、吸脱着素子2の形成方法は、上述した吸着シート22を片段加工する方法には限定されず、複数の空洞21を密に並べたハニカム構造を有するのであれば、種々の公知の方法で形成することができる。また、吸脱着素子2は必ずしもハニカム構造である必要はなく、例えばフェルト等の多数の細孔を密に有するものであってもよい。
【0042】
本実施形態では、吸脱着素子2を形成するライナーシートとフルートシートとが、吸着シート22で形成されているが、少なくとも一方が吸着シート22で形成されていればよく、後述のように、吸脱着素子2全体として、上記説明した多孔性金属錯体を60%以上含有していればよい。
【0043】
吸着シート22の基材としては、特に限定されず、例えば紙、不織布、プラスチックフィルムを用いることができるが、吸着剤である多孔性金属錯体を担持しやすいとの観点から繊維を用いることが好ましい。基材を構成する繊維は、特に限定されないが、フィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維を含むことが好ましい。フィブリル化していない繊維を含むことにより、吸着シート22は、フルートシート23のような段加工を施した後に容易に自力で段形状を保持することが可能となり、加工性に優れる。一方、フィブリル化した繊維を含むことにより、吸着シート22は多孔性金属錯体を効率よく担持することが可能であり、多孔性金属錯体の担持性に優れる。そのうえ、本来、多孔性金属錯体の担持のために使用される有機バインダーの使用量を削減することが可能であり、有機バインダーによる多孔性金属錯体の細孔閉塞を減らすことができ、多孔性金属錯体の吸着性能を効果的に発揮させることができる。
【0044】
フィブリル化していない繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウール繊維等の無機繊維;アラミド繊維、メタアラミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維等の合成繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;、レーヨン繊維;キュプラ繊維等の再生繊維;綿、麻、及び木材を主成分とした繊維等の植物繊維を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。一方、フィブリル化した繊維としては、上述した繊維をフィブリル化した繊維に加え、パルプ等を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
フィブリル化していない繊維の繊維径は、特に限定されないが、5μm以上であることが好ましく、5μm~30μmであることがより好ましい。また、フィブリル化していない繊維の繊維長は1mm~10mmであることが好ましく、2mm~8mmであることがより好ましい。フィブリル化していない繊維の繊維径が5μm以上かつ繊維長が1mm以上であることにより、吸着シート22の強度を十分に確保できるので、フルートシート23のような段加工後に容易に自力で段形状を保持することができるうえ、吸着シート22を積層ブロック状の吸脱着素子2に容易に加工することができる。また、フィブリル化していない繊維の繊維径が30μm以下かつ繊維長が10mm以下であることにより、吸着シート22は良好な柔軟性を有し、フルートシート23のような加工を容易に行うことができるうえ、吸着シート22により形成される吸脱着素子2も柔軟性を有する。なお、繊維径が異なる繊維を混合してもよい。
【0046】
吸着剤である多孔性金属錯体を吸着シート22に担持させる方法は、特に限定されず、吸着シート22の表面や内部にバインダー等を用いて多孔性金属錯体を接着させてもよいし、多孔性金属錯体を含む含浸液を吸着シート22に塗布してもよいし、吸着シート22を含浸液に含浸させてもよい。本実施形態では、有機バインダーを用いて多孔性金属錯体を吸着シート22に担持させる。これにより、吸着シート22の柔軟性や強度を向上させることができる。
【0047】
有機バインダーは、多孔性金属錯体を吸着シート22の基材に接着できるものであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリフェニレンエーテル系ポリマー等を用いることができる。これらの中でも、取り扱い性の観点から、ポリビニルアルコール系ポリマーを用いることが好ましい。有機バインダーの形態は特に限定されないが、繊維状のものを使用すると、後述するように吸着シート22を簡便に作製できるため好ましい。
【0048】
有機バインダーは、特に限定されないが、その水中溶解温度が65℃~100℃と高融点であることが好ましく、70℃~100℃であることがより好ましい。水中溶解温度が65℃以上であることにより、有機バインダーにより多孔性金属錯体の細孔が閉塞するのを抑制できるので、多孔性金属錯体の吸着性能を効果的に発揮させることができ、一方で、100℃以下であることにより、良好な接着力で多孔性金属錯体を吸着シート22に担持させることができる。
【0049】
有機バインダーの水中溶解温度は、公知の方法で測定できる。例えば、純水100mlをビーカーに入れて撹拌しながら水温が50℃になるまでオイルバスにて加熱し、そこに有機バインダーを0.5g添加して、昇温速度2℃/minにて水温を上昇させ、目視でバインダーが溶解始め半透明な状態になった時の温度を測定することで、水中溶解温度を測定することができる。
吸着シート22(つまりは吸脱着素子2)における多孔性金属錯体の含有量は、特に限定されないが、60質量%~85質量%であることが好ましく、65重量%~80質量%であることがより好ましい。多孔性金属錯体の含有量が60質量%以上であることにより、吸着シート22は多量の多孔性金属錯体により優れた除湿及び/又は加湿性能を奏することができ、一方で、85質量%以下であることにより、吸着シート22に多孔性金属錯体を問題なく担持させることができるので、吸着シート22からの多孔性金属錯体の脱落を抑制することができるうえ、吸着シート22の強度低下も抑制することができる。
【0050】
また吸着シート22(つまりは吸脱着素子2)におけるフィブリル化していない繊維及びフィブリル化した繊維の合計の含有量は、特に限定されないが、5質量%~25質量%であることが好ましく、10重量%~25質量%であることがより好ましい。該繊維の含有量が5質量%以上であることにより、吸着シート22に多孔性金属錯体を良好に担持させることができるので、吸着シート22からの多孔性金属錯体の脱落を抑制することができるうえ、吸着シート22の強度低下も抑制することができ、一方で、25質量%以下であることにより、吸着シート22は多孔性金属錯体をより多く含ませることができるので、多量の多孔性金属錯体により優れた除湿及び/又は加湿性能を奏することができる。
【0051】
また吸着シート22(つまりは吸脱着素子2)における有機バインダーの含有量は、3質量%~15質量%であることが好ましく、4質量%~12質量%であることがより好ましい。有機バインダーの含有量が3質量%以上であることにより、吸着シート22による多孔性金属錯体の担持性や吸着シート22の柔軟性を良好にでき、一方で、15質量%以下であることで、有機バインダーにより多孔性金属錯体の細孔が閉塞されて多孔性金属錯体の吸着性能が低下することを抑制できるので、吸着シート22は優れた除湿及び/又は加湿性能を奏することができる。
【0052】
このように吸着シート22(つまりは吸脱着素子2)は、有機バインダーの含有量が少なくても、フィブリル化した繊維により多孔性金属錯体の担持性を十分に発揮し、多孔性金属錯体の高い水分吸着率により吸着シート22に十分な柔軟性を付与する。その結果、多孔性金属錯体は有機バインダーによりその高い吸着性能が阻害されないので、吸着シート22は多孔性金属錯体が有する高い吸着性能により、優れた除湿及び/又は加湿性能を奏することができる。
【0053】
上述した吸着シート22の厚みは、特に限定されないが、0.1mm~0.9mmであることが好ましく、0.1mm~0.7mmであることがより好ましい。吸着シート22の厚みが0.1mm以上であることにより、吸着シート22の強度を十分に確保することができるので、吸着シート22を積層ブロック状の吸脱着素子2に容易に加工することができ、一方で、厚みが0.9mm以下であることにより、積層ブロック状に加工した吸脱着素子2の内部を空気が通過する際の圧力損失を抑制することができる。
【0054】
上述した吸着シート22の坪量は、特に限定されないが、25g/m2~200g/m2であることが好ましく、40g/m2~150g/m2であることがより好ましい。吸着シート22の坪量が25g/m2以上であることにより、吸着シート22の強度を十分に確保することができるので、吸着シート22を積層ブロック状の吸脱着素子2に容易に加工することができ、一方で、坪量が200g/m2以下であることにより、積層ブロック状に加工した吸脱着素子2の内部を空気が通過する際の圧力損失を抑制することができる。
【0055】
上述した吸着シート22の柔軟性の指標である比引張伸度は、特に限定されないが、5%・m/g以上であることが好ましい。吸着シート22の比引張強伸度が5%・m/g以上であることにより、フルートシート23のような加工を行う等、吸着シート22を加工して吸脱着素子2を形成する際に吸着シート22に割れ等が生じることを抑制できる。
【0056】
なお、吸着シート22の比引張伸度は、吸着シートサンプルから切り出した15mm×100mmの試験片を120℃、1時間乾燥し、その重量を測定する。そして、乾燥したサンプルを22℃、40%RH雰囲気下で1時間静置し、引張・圧縮試験機(TENSILON RTG-1310、A&D社製)にて最大点伸度[%]を測定する。なお、チャック間距離は50mm、引張速度は15mm/minとする。得られたデータから下記式2にて比引張伸度を求めることができる。
【0057】
比引張伸度[%・m/g]=最大点伸度[%]/サンプル幅[m]/吸着シートの坪量[g/m2]・・・(式2)
【0058】
上述した吸着シート22を製造する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。その中でも好ましくは、上述した多孔性金属錯体、繊維及び有機バインダーを、水や有機溶媒(あるいはこれらの混合物)中に分散させた後、成形、脱水、乾燥することによりシート化する、湿式シート化法を挙げることができる。なお、シート化工程後に、吸着シート22内に含まれる溶媒を除去する脱溶媒処理工程を実施することが好ましい。また、シート化工程においては、多孔性金属錯体は、その細孔内に溶媒分子を吸着した状態で、上述した有機バインダー等と混合されることが好ましい。多孔性金属錯体が細孔内に溶媒分子を有していると、シート化工程において有機バインダーが当該細孔を閉塞するおそれがなく、シート化工程後、脱溶媒処理により当該細孔内から溶媒分子を除去することにより、多孔性金属錯体の高い吸着性能を確保することができる。通常、多孔性金属錯体は合成する段階で細孔内に溶媒分子が吸着しているが、当該細孔内に溶媒分子を吸着していない場合や溶媒分子の吸着量が不十分である場合には、当該細孔内に有機溶媒を吸着させることが好ましい。ここで、溶媒とは、水や一般的な有機溶媒を指す。
【0059】
脱溶媒処理の条件として、温度は特に限定されないが、50℃~300℃であることが好ましく、80℃~200℃であることがより好ましい。温度が50℃以上であることにより、溶媒の除去を問題なく行うことができ、多孔性金属錯体の高い吸着性能を確保することができる。一方で、温度が300℃以下であることにより、多孔性金属錯体の細孔構造が壊れることを抑制でき、多孔性金属錯体の高い吸着性能を確保することができる。また、脱溶媒処理は、減圧下で実施することで一層効率よく溶媒を除去することができる。圧力は特に限定されず、多孔性金属錯体の物性や配合量に応じて適宜調整すればよいが、例えば、10-3Pa~10-5Paを例示でき、より好ましくは10-1Pa~10-5Paを例示することができる。脱溶媒処理時間も特に限定されないが、例えば1時間~100時間を例示することができ、より好ましくは3時間~48時間、さらに好ましくは3時間~24時間を例示することができる。以上、最も好ましい脱溶媒処理の条件は、例えば真空条件下で温度が80℃~200℃、処理時間が3時間~24時間である。
【0060】
上記では、吸脱着素子2は、吸着シート22を積層したものとして説明したが、吸脱着素子2は、上記に限定されず、例えば、3Dプリンタで製造しても、押出成型で製造してもよい。
【0061】
図1に戻って、吸脱着素子2は、図示しないケーシングに積層方向が通風方向と垂直になるように所定の位置に格納されている。外気(OA)、還気(RA)、給気(SA)排気(EA)の各種空気流は、送風ファン3により空気流通の駆動力を与える強制流動であることが好ましい。
【0062】
吸脱着素子2は、空気流通方向の垂直方向に空気流通可能な空洞(セル)21を有しており、空洞21によって吸脱着素子2に担持される吸着剤と流通空気との接触効率や接触面積が担保され、これにより空気の除加湿を効率的に行うことが可能となる。空洞21は、下式(3)に示す水力直径DHによりその形状が規定されており、調湿装置1の除湿性能及び加湿性能は、水力直径DHに依存するところが大きい。吸脱着素子2の空洞23において、平均水力直径DHは、0.4~1.2mm、好ましくは、0.5~1.1mm、より好ましくは、0.6~1.0mmである。平均水力直径DHが0.4mm未満の場合には、成形加工が著しく困難となり、コスト向上の要因となり、平均水力直径DHが1.2mmを超える場合は、吸着剤と流通空気との接触効率が低下し、除加湿性能低下の要因となる。
【0063】
水力直径DH[m]=4×A(断面積)[m2]÷P(濡れ縁長さ)[m]・・・(式3)
【0064】
吸脱着素子2は、通気方向に貫通する空洞を、当該通気方向に垂直な断面積1cm2あたり30個以上80個以下有する。さらに好ましくは、40個以上、75個以下である。空洞21の数が上記範囲であると、吸着性能が向上し、また、通風時の圧力損失を低くできる。
【0065】
空洞21のサイズは、特に限定しないが、
図2の(B)に示すようなハニカム構造体の場合、高さHは、例えば0.8mm以上2.0mm以下、ピッチPは、例えば、2.0mm以上3.0mm以下としてもよい。さらに好ましくは、高さは、1.0mm以上1.6mm以下、ピッチPは、例えば、2.2mm以上2.6mm以下がよい。
【0066】
本実施形態において吸着剤に用いられる多孔性金属錯体は、従来の一般的な無機系の多孔質吸着剤よりも、バッチ式運転条件下における吸湿性能、及び脱着性能が高いため、水力直径DHを高めに設定可能であり、これは、吸脱着素子2の空気流通に対する圧力損失低減に寄与することが可能となり、送風ファン等の所要動力を鑑みると、システムとしてより省エネな方向へと働く。
【0067】
また、吸脱着素子2における基材(本実施形態では繊維と有機バインダー)の物性として、熱容量及び/又は熱伝導率が重要である。例えば、吸着剤を再生する際、基材の熱容量及び熱伝導率が高すぎれば、本来吸着剤に向かうはずの再生熱が基材に優先的に蓄熱され、吸着剤の再生効率が落ちてしまう。一方、吸着剤を吸着する際も、再生直後の温度の高い吸着剤を被除湿対象空気により冷却させる際、基材の熱容量及び熱伝導率が高すぎれば、基材が優先的に冷却され、吸着剤の吸着性能が発揮できない。故に、基材の熱容量と熱伝導率は、吸着剤の熱容量及び熱伝導率よりも低いことが好ましい。
【0068】
本実施形態において吸着剤に用いられる多孔性金属錯体は、従来の一般的に用いられる無機系の多孔質吸着剤よりも、再生時に水分を脱着する脱着速度が速い。また、金属と有機物との中間的な物性を有するために、通常の有機物と比較して高い熱物性を有する。そのため、基材を構成する材料の選択範囲を広げることに寄与している。
【0069】
また、本実施形態の調湿装置1において、吸脱着素子2の吸着時間及び/又は脱着時間が1分間以下となるように制御するのが好ましい。吸脱着素子2における吸着(除湿)及び脱着(加湿)の交互切替を行うサイクルタイムは1分以内、好ましくは50秒以内、より好ましくは45秒以内である。1分を超えて運転すると、吸脱着素子の吸脱着速度が急激に低下し、高い除加湿性能を得ることができない。また、例えば、10秒という短いサイクルで吸脱着素子の吸脱着の切替を行うと、放熱ロスが大きくなり、かつ、機械的な損耗が激しくなる。
【0070】
本実施形態において吸着剤に用いられる多孔性金属錯体は、従来の一般的に用いられる無機系の多孔質吸着剤よりも、1分以内という短時間での切替条件下において著しく高い吸脱着性能を有していることから、ローター回転式の連続調湿装置や吸着式ヒートポンプよりも、調湿装置1のようなバッチ式調湿装置に好適と言える。
【0071】
上述した構成の本実施形態の調湿装置1によれば、吸脱着素子2は、吸着剤として25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率の差が20質量%以上である多孔性金属錯体を60質量%以上含有しているため、吸脱着性能が高く、また、吸脱着素子2は、通気方向に貫通する空洞21を、当該通気方向に垂直な断面積1cm2あたり30個以上80個以下有するため、多孔性金属錯体と流通空気との接触効率が高いため、システムとしての高い除加湿性能を達成することができる。よって、本実施形態の調湿装置1は、非常に高性能で省エネルギーな空調システムである。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述の実施形態は、例示であって制限的なものではないため、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均質の意味及び範囲内での全ての変更を含むものであり、よって、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0073】
例えば、上述の実施形態では、吸脱着素子2を2つ備えた調湿装置1を説明したが、本発明の調湿装置は、吸脱着素子2を1つ備えることによりコンパクト化する設備構成としてもよい。
図4の(A)に吸脱着素子2を1つ備えた実施形態の調湿装置1Aを示す。調湿装置1Aは、空気流路を兼ねたケーシングに収納された吸脱着素子2、送風ファン3、冷却器4、加熱器5、給気路40、50、排気路41、51、三方弁6、7を備える。
図4に付された矢印は空気の流れる方向を示す。また、弁が白抜きの場合は、弁が開状態であり、黒抜きの場合は、弁が閉状態である。
図4の(B-1)は除湿運転時の吸着工程におけるバルブパターンであり、給気路40から給気された空気は、冷却器4により冷却され、三方弁6を通過して吸脱着素子2により吸着(除湿)され、三方弁7を通過して排気路41を通じてSA(供給空気)として室内へ給気される。
図4の(B-2)は除湿運転時の脱着工程におけるバルブパターンであり、給気路50から給気された空気は、加熱器5により加熱され、三方弁6を通過して吸脱着素子2を脱着(再生)し、三方弁7を通過して排気路51を通じてEA(排気空気)として大気放出される。
【0074】
図4の(C-1)は加湿運転時の吸着工程におけるバルブパターンであり、給気路40から給気された空気は、冷却器4により冷却され、三方弁6を通過して吸脱着素子2により吸着(除湿)され、三方弁7を通過して排気路51を通じてEA(排気空気)として大気放出される。
図4の(C-2)は加湿運転時の脱着工程におけるバルブパターンであるが、給気路50から給気された空気は、加熱器5により加熱され、三方弁6を通過して吸脱着素子2により脱着(加湿)され、三方弁7を通過して排気路41を通じてSA(供給空気)として室内へ給気される。
【0075】
また、上述の実施形態の調湿装置1、1Aでは、複数の空気流通路を有し、複数の切替弁を備えることによりバッチ式デシカント調湿システムを成立させている。これに限らず、例えば、
図5の(A),(B)に示す実施形態の調湿装置1Bように、1つの空気流通路で切替弁を用いることなく、モーターの回転方向を逆回転させることによって風向きを逆方向に変更可能なファンを用い、吸着と脱着とを切り替えることによって、バッチ式調湿システムを成立させることも可能である。
【0076】
本発明の吸脱着素子及び調湿装置は、上記に限定されない。別の実施形態として、
図6に示す調湿装置1Cは、ローター回転式の連続調湿装置であり、回転体として形成された吸脱着素子2Aを備えている。吸脱着素子2Aは、
図7に示すように上記した片段シート20をロール形状にして形成されている。
図6に示すように、調湿装置1Cは、筐体により回転軸Lが水平になる向きで支持され、かつモーター等の駆動機構により回転軸Lを中心にして周方向に回転するように駆動される。
【0077】
吸脱着素子2Aは、回転方向である周方向に沿って、室内からの還気(RA)が通過するゾーンと、外気(OA)が通過するゾーンとに区分けされており、還気(RA)と外気(OA)とが連続的に湿度交換することができる。つまり、還気(RA)が外気(OA)よりも湿度が高い場合は、還気(RA)が通過するゾーンで吸脱着素子2Aが吸湿し、外気(OA)が通過するゾーンで吸脱着素子2Aが放湿し、外気(OA)の湿度を高めた上で室内に給気(SA)する。一方、還気(RA)が外気(OA)よりも湿度が低い場合は、還気(RA)が通過するゾーンで吸脱着素子2Aが放湿し、外気(OA)が通過するゾーンで吸脱着素子2Aが吸湿し、外気(OA)の湿度を低下させた上で室内に給気(SA)する。これにより、還気(RA)の湿度条件に外気(OA)を近づけて室内に給気(SA)することにより、調湿における省エネを図ることが可能となる。
【0078】
吸脱着素子2Aの回転体長さ(回転軸Lの方向の大きさ)は、特に限定されるものではないが、例えば、50mm~400mmである。吸脱着素子2Aである回転体のSV(回転体を通過する空気の面風速/回転体の長さ)は、特に限定されないが、例えば、2~100s-1である。吸脱着素子2Aの回転速度は、特に限定されるものではないが、例えば、5~30rpmである。
【0079】
調湿装置1Cでは、還気(RA)が通過するゾーン、外気(OA)が通過するゾーンの流路には、各々送風ファンが設けられており、各ファンは、各々のゾーンに空気を供給する。
【0080】
本発明の調湿装置は、上記に限定されない。連続式調湿装置の場合、上記では、回転軸が水平方向に支持され、回転軸と並行に通気が行われる構成を説明したが、回転軸に直行する方向に通気が行われる構成でも、あるいは、回転軸が垂直方向に支持される構成であってもよい。
【実施例0081】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
<実施例1>
Fe(NO3)3・9H2O16.2g(40mmоl)とトリメシン酸7.5g(36mmоl)とを水32mlに溶解させ、95℃で15時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1,575m2/g、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差は28質量%であった。
【0083】
その後、上記得られた多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを66質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を13.6質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を8.5質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を11.9質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置(東洋紡エンジニアリング株式会社製、以下同様)を使い吸着シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、吸着シート22を得た。得られた吸着シート22の厚みは実測値で0.25mmであった。得られた吸着シート22について片段加工を行い、段高さ1.15mm、段ピッチ2.6mm、断面積3,600m2/m3の片段シート20を得た。
【0084】
<実施例2>
実施例1と同様に得られた吸着シート22片段加工を行い、段高さ1.47mm、段ピッチ2.6mm、断面積3,000m2/m3の片段シート20を得た。
【0085】
<実施例3>
実施例1と同様に得られた吸着シート22に片段加工を行い、段高さ0.98mm、段ピッチ2.2mm、断面積4,200m2/m3の片段シート20を得た。
【0086】
<実施例4>
オルトチタン酸テトライソプロピル3ml(10mmol)とテレフタル酸2.5g(15mmol)とをN,N-ジメチルホルムアルデヒド45ml及びメタノール5mlに溶解させ、150℃で15時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1199m2/g、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差は35質量%であった。
【0087】
その後、上記得られた多孔性金属錯体をN,N-ジメチルホルムアルデヒド中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを65質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を14質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を8.75質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を12.25質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置を使い吸着シートサンプルを作製した。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、吸着シート22を得た。得られた吸着シート22の厚みは実測値で0.25mmであった。得られた吸着シート22について片段加工を行い、段高さ1.15mm、段ピッチ2.6mm、断面積3,600m2/m3の片段シート20を得た。
【0088】
<実施例5>
塩化ジルコニウム5.3g(22.7mmol)とテレフタル酸3.78g(22.8mmol)とをN,N-ジメチルホルムアルデヒド500mlに溶解させ、120℃で24時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1,283m2/g、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差は33質量%であった。
その後、上記合成した多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを63質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を14.8質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を9.25質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を12.95質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置を使い吸着シートサンプルを作製した。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、吸着シート22を得た。得られた吸着シート22の厚みは実測値で0.25mmであった。得られた吸着シート22について片段加工を行い、段高さ1.15mm、段ピッチ2.6mm、断面積3,600m2/m3の片段シート20を得た。
【0089】
<比較例1>
実施例1と同様に得られた多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬もしくは室内に放置させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。多孔性金属錯体サンプル5.3g(サンプルの固形分:93%)、アルギン酸ナトリウム0.03g、及びアクリル樹脂エマルジョン3.8g(アクリル樹脂の固形分:33.4質量%)を8.7gのイオン交換水中に添加し、撹拌し、十分に分散させ、スラリーを調製した。
【0090】
続いて、厚さ0.015mmのアルミニウム箔を基材としたハニカム構造体(断面:六角形、853セル/インチ2)を前記スラリーに浸漬し、前記スラリーがハニカム構造体内部に十分に浸透したことを確認してから、ハニカム構造体を引き上げた。エアーブローでハニカム構造体から余分なスラリーを吹き落とした後、乾燥機内にて100℃で3時間乾燥させることでハニカム構造体の表面に吸着剤(多孔性金属錯体)を担持したハニカムフィルタを得た。吸着剤を担持させる前のハニカムフィルタの質量及び吸着剤を担持した後のハニカムフィルタの質量からハニカムフィルタにおける吸着剤の担持量を算出した結果、67mg/ccであった。
【0091】
<比較例2>
実施例5と同様に得られた多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬もしくは室内に放置させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。多孔性金属錯体サンプル5.3g(サンプルの固形分:93%)、アルギン酸ナトリウム0.03g、及びアクリル樹脂エマルジョン3.8g(アクリル樹脂の固形分:33.4質量%)を8.7gのイオン交換水中に添加し、撹拌し、十分に分散させ、スラリーを調製した。
【0092】
続いて、厚さ0.015mmのアルミニウム箔を基材としたハニカム構造体(断面:六角形、853セル/インチ2)を前記スラリーに浸漬し、前記スラリーがハニカム構造体内部に十分に浸透したことを確認してから、ハニカム構造体を引き上げた。エアーブローでハニカム構造体から余分なスラリーを吹き落とした後、乾燥機内にて100℃で3時間乾燥させることでハニカム構造体の表面に吸着剤(多孔性金属錯体)を担持したハニカムフィルタを得た。吸着剤を担持する前のハニカムフィルタの質量及び吸着剤を担持した後のハニカムフィルタの質量からハニカムフィルタにおける吸着剤の担持量を算出した結果、62mg/ccであった。
【0093】
<比較例3>
ZrOCl2・8H2O200g(0.62mol)とフマル酸72g(0.62mol)とをN,N-ジメチルホルムアルデヒド2L及びギ酸700mLに溶解させ、130℃で6時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は884m2/g、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差は7質量%であった。
【0094】
その後、上記合成した多孔性金属錯体をN,N-ジメチルホルムアルデヒド中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを65質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を14質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を8.75質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を12.25質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置を使い吸着シートサンプルを作製した。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、吸着シート22を得た。得られた吸着シート22の厚みは実測値で0.25mmであった。得られた吸着シート22について片段加工を行い、段高さ1.15mm、段ピッチ2.6mm、断面積3,600m2/m3の片段シート20を得た。
【0095】
<比較例4>
市販のA型シリカゲル(豊田化工製)について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は827m2/g、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差は16質量%であった。
【0096】
上記A型シリカゲルを水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着されたA型シリカゲルサンプルを得た。このA型シリカゲルサンプルを70質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を12.0質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を7.5質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を10.5質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置(東洋紡エンジニアリング株式会社製、以下同様)を使い吸着シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、吸着シート22を得た。得られた吸着シート22の厚みは実測値で0.25mmであった。得られた吸着シート22について片段加工を行い、段高さ1.15mm、段ピッチ2.6mm、断面積3,600m2/m3の片段シート20を得た。
【0097】
<比較例5>
Fe(NO3)3・9H2O16.2g(40mmоl)とトリメシン酸7.5g(36mmоl)とを水32mlに溶解させ、95℃で15時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1,575m2/g、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差は28質量%であった。
【0098】
その後、上記得られた多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを66質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を13.6質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を8.5質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を11.9質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置(東洋紡エンジニアリング株式会社製、以下同様)を使い吸着シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、吸着シート22を得た。得られた吸着シート22の厚みは実測値で0.25mmであった。得られた吸着シート22について片段加工を行い、段高さ2.05mm、段ピッチ3.3mm、断面積2,300m2/m3の片段シート20を得た。
【0099】
<比較例6>
Fe(NO3)3・9H2O16.2g(40mmоl)とトリメシン酸7.5g(36mmоl)とを水32mlに溶解させ、95℃で15時間加熱し多孔性金属錯体を合成した。得られた多孔性金属錯体について、窒素吸着測定及び水蒸気吸着測定により物性評価を行った結果、BET比表面積は1,575m2/g、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率差は28質量%であった。
【0100】
その後、上記得られた多孔性金属錯体を水中に24時間浸漬させた後に、ろ過し、細孔内に溶媒分子が吸着された多孔性金属錯体サンプルを得た。この多孔性金属錯体サンプルを30質量%(溶媒分子を除く)、フィブリル化していない繊維としてアラミド繊維を28.0質量%、フィブリル化した繊維としてアラミド繊維を17.5質量%、有機バインダーとして水中溶解温度が70℃(カタログ値)のポリビニルアルコール(PVA)繊維を24.5質量%、の比率で混合し、坪量60g/m2となる質量にて湿式抄紙装置(東洋紡エンジニアリング株式会社製、以下同様)を使い吸着シートサンプルを得た。さらに、130℃、真空条件下、24時間で脱溶媒処理を行い、吸着シート22を得た。得られた吸着シート22の厚みは実測値で0.25mmであった。得られた吸着シート22について片段加工を行い、段高さ1.15mm、段ピッチ2.6mm、断面積3,600m2/m3の片段シート20を得た。
【0101】
〔測定及び評価〕
[飽和水分吸着率]
多孔性金属錯体の25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率については、上述した方法により算出した。飽和水分吸着率の差については、この算出値を減算して求めた。
【0102】
[水中溶解温度]
実施例、比較例で用いた有機バインダーについて、以下の測定方法で、水中溶解温度を
実測した。純水4mL、有機バインダー0.02gを6mlガラス瓶にいれる。50℃から5℃刻みで加熱したウォーターバスに前記ガラス瓶を10分入れる。瓶内の有機バインダーは2分毎にスパチュラを用いて撹拌し、目視でバインダーが溶解初め半透明な状態になった時の温度を測定した。実測の結果、カタログ値と同じであった。
【0103】
[熱伝導率]
各種材料の熱伝導率は、Mentor Graphics社製 熱伝導率測定装置 T3Ster(登録商標) DynTIM TesterTMにより測定した。
【0104】
[熱容量]
各種材料の熱容量測定は、DSC法(JIS K 7123)に従って、TA Instrument製 DSC2500を用いて測定した。
【0105】
[ハニカムフィルタ]
上記実施例及び比較例で作成した片段シート20を用いて以下のようにハニカムフィルタを作成した。片段シート20を積層し、縦30mm、横30mm、高さ30mmのハニカムフィルタを作製した。実施例1の片段シートから実施例1のハニカムフィルタ(吸脱着素子)を得た。同様に、実施例2~5及び比較例3~6の片段シートから、それぞれ実施例2~5及び比較例3~6のハニカムフィルタ(吸脱着素子)を得た。
【0106】
上記片段シート20から成るハニカムフィルタと、比較例1,2のアルミニウム箔基材のハニカムフィルタとを、吸脱着素子2としてそれぞれ、
図1に示す調湿装置1に設置し、実施例1~5及び比較例1~6の調湿装置1を形成し、以下の測定と評価を行った。調湿装置1に設置された2つの吸脱着素子2において吸湿工程、再生工程の切替えを繰り返し行うことにより、吸脱着性能評価を行った。20℃及び60%RHの温湿度条件の処理対象空気(OA)を吸脱着素子2に通過させて吸湿し、80℃及び3%RHの温湿度条件の室内からの還気(RA)をもう一方の吸脱着素子2に通過させて脱着再生し、60秒間隔で2つの吸脱着素子2の吸湿と再生とを切り替えた。
【0107】
[除湿負荷(平均)]
除湿負荷(平均)は、吸脱着素子2を通過する処理対象空気(OA)と通過後の除湿空気(SA)の絶対湿度差の平均値に、吸脱着素子2を通過する処理対象空気(OA)の単位時間当たりの送風量(37L/min)と水の蒸発潜熱(2,400kJ/kg・℃)とを乗じた値として算出した。
【0108】
[除湿負荷当りの空気顕熱負荷(平均)]
除湿負荷当りの空気潜熱負荷(平均)は、吸脱着素子2を通過する処理対象空気(OA)の温度を変化させるのに共する熱、つまりは吸脱着素子が処理対象空気(OA)中の水分を吸着するときに発する吸着熱であり、吸脱着素子2を通過する前の処理対象空気(OA)と通過した後の除湿空気(SA)の温度差から空気の受熱量を算出し、除湿負荷(平均)で除した値として算出した。
【0109】
[加湿ピーク]
加湿ピークは、吸脱着素子2を80℃、3%RHに調節した室内からの還気(RA)により脱着させ、通過後の加湿空気(EA)の絶対湿度推移において、脱着開始0~20秒の間に観測される極大値として求めた。
【0110】
【0111】
表1から、実施例1~5は、比較例1~2,6に対して、吸脱着素子の吸着剤の含有率が多く、その結果、除湿負荷(平均)及び加湿ピークが大きくなっていることが分かる。これは即ち、装置の除加湿性能が高いことを意味している。また、比較例2,3のようにアルミを基材とした場合は、基材の熱容量が小さいために基材の蓄熱量が小さく、熱伝導率が高いために基材からの放熱が大きくなるため、除湿負荷当りの空気顕熱負荷(平均)が高くなり、省エネの観点からは望ましくない。
【0112】
また、実施例1~5と比較例3~4とで対比すれば、吸着剤として用いられる多孔性金属錯体は、25℃及び相対圧0.6と25℃及び相対圧0.3との飽和水分吸着率が20質量%以上あるものを採用することにより、除湿負荷(平均)および加湿ピークが大きな値となっており、即ち、除加湿性能が高いことが認められる。また、実施例1~5と比較例5とで対比すれば、通気可能な空洞が通気方向に垂直な断面積1cm2あたり30個未満の場合は、除湿負荷(平均)および加湿ピークともに小さな値となっており、即ち、除加湿性能が低くなってしまう。
【0113】
以上のように、同じ装置構成の実施例と比較例とを対比すれば、本発明の構成を有する実施例において、除加湿性能と省エネルギーを実現できることが分かる。
【0114】
なお、上記開示した実施形態および各実施例はすべて例示であり制限的なものではない。また、実施の形態および各実施例で開示した構成を適宜組み合わせた実施の形態や実施例も本発明に含まれる。つまり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって有効であり、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内のすべての変更・修正・置き換え等を含むものである。
本発明の吸脱着素子は、吸脱着性能に優れるものであり、またそれを用いた本発明の調湿装置は、省エネルギーで除加湿性能が高く、狭く限られた空間でも利用可能である。よって、産業界に大きく寄与することが期待できる。