(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158657
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】検査チップ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20221006BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221006BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20221006BHJP
G01N 21/05 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
G01N21/78 A
G01N21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063704
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】文珠 卓也
【テーマコード(参考)】
2G054
2G057
2G058
【Fターム(参考)】
2G054AA02
2G054AB02
2G054AB05
2G054CA21
2G054CD03
2G054CE01
2G054EA05
2G054FA08
2G054GA03
2G054GB04
2G054GB10
2G054GE06
2G054GE10
2G057AA02
2G057AB01
2G057AB07
2G057AC01
2G057BA05
2G057BB06
2G057BB10
2G057BD02
2G057BD03
2G057BD04
2G057CA01
2G057CB01
2G057DC07
2G057GA06
2G058CC05
2G058CC08
2G058DA07
(57)【要約】
【課題】発色ムラが有意に抑制されるとともに、被検査液の導入量に依らず簡便に定量化を達成し得る検査チップを提供する。
【解決手段】一方の表面側の第1層と、他方の表面側の第2層とを備え、前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、前記第1層は、少なくとも検出確認部Bを有し、前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、所定の順で流通して、前記検出確認部Bまで到達するように構成されており、前記第1層の表面及び前記第2層の表面のうち、少なくとも前記液受入部A以外の素材Mの面が、フィルムで封止されている、ことを特徴とする、検査チップ。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の検査チップであって、
一方の表面側の第1層と、他方の表面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
前記第1層が1枚のシート状素材の一方の面に形成され、前記第2層が当該シート状素材の他方の面に形成されてなり、
前記液受入部A、前記液流路E、前記液流通部D、及び前記検出確認部Bは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできており、
前記素材M以外の部分は、被検査液の流通が発現されない素材でできており、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で流通して、前記検出確認部Bまで到達するように構成されており、
前記第1層の表面及び前記第2層の表面のうち、少なくとも前記液受入部A以外の素材Mの面が、フィルムで封止され、これにより、当該被検査液の検出確認部Bへの到達量が制御されている、ことを特徴とする、検査チップ。
【請求項2】
前記第1層が、前記検出確認部Bから離隔した前記液受入部Aを有し、
前記第2層は、前記液受入部Aに隣接し且つ前記液流路Eに接続された、前記素材Mでできた液流通部Cを有し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流通部C、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で流通して、前記検出確認部Bまで到達するように構成されている、請求項1に記載の検査チップ。
【請求項3】
前記素材Mが、ろ紙である、請求項1又は2に記載の検査チップ。
【請求項4】
前記被検査液の流通が発現されない素材が、前記素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’である、請求項1~3のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項5】
前記素材M’の気密度が、15秒以下である、請求項4に記載の検査チップ。
【請求項6】
前記素材M’における、前記素材Mへの前記疎水性材料の含浸率が70%以下である、請求項4又は5に記載の検査チップ。
【請求項7】
検出対象物質に起因した発色反応が前記検出確認部Bで起こる、請求項1~6のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の検査チップの製造方法であって、
疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する膜形成工程と、
前記第1基板上の第1疎水性膜を用い、前記検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する第1印刷工程と、
前記第2基板上の第2疎水性膜を用い、前記検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する第2印刷工程と、
1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させて、第1層を形成する第1転写工程と、
前記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させて、第2層を形成する第2転写工程と、
前記第1層の表面及び前記第2層の表面のうち、少なくとも液受入部A以外の含浸させていない面をフィルムで封止する封止工程と、
を備える、ことを特徴とする、検査チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査チップ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患者等のすぐそばで行える診断(その場診断)が重要であるという考えが、臨床現場において普及しつつある。このような考えの下、シート状基材上にマイクロサイズの流路及び反応スポットを設けることで、実用に即した分析を可能にする検査チップが開発されている。
【0003】
上記の検査チップの一例は、抗原等の対象物質を含有する被検査液を導入(滴下)した場合に、当該被検査液が流路を流れ、あらかじめ仕込んでおいた抗体等の標識媒体と対象物質とが反応して、顕色(発色)によって対象物質の存在を確認する、という機構を有するものである。妊娠検査薬などがその代表例である。
【0004】
上述したような検査チップとしては、紙を基材とし、ワックスプリンター又はインクジェットプリンターを用いて紙上に流路や反応スポットを形成させたマイクロ流体デバイスが既に報告されている(非特許文献1)。かかるデバイスは、「μ-PADs(microfluidic paper-based analytical devices)」とも称され、(1)安価、(2)ポンプレス、(3)大がかりな装置不要、(4)廃棄が容易などといった、多くの利点を有するものである。そして、このようなμ-PADsについて、改良のための研究が世界的に進められている。
【0005】
例えば特許文献1は、上述したような流路や反応スポットの外縁を紫外線硬化性インクで紙上に印刷し、紫外線を照射して当該インクを硬化させることにより、簡単で且つ低コストで検査チップを製造できることを開示している。また、例えば特許文献2は、熱可塑性材料を含む層を多孔質層に熱転写することにより、側壁面の凹凸が少ない流路を形成して、流速を安定化できることを開示している。
【0006】
ここで、上述したμ-PADs等の検査チップに対しては、検出対象物質の存在の有無を確認することに加えて、その定量化(即ち、定量分析)の実現も期待されている。そして、かかる定量化は、被検査液の導入量に依存することなく、簡便に行えるものであることも重要である。しかし、特許文献1,2では、この点について何ら検討されていないため、マイクロピペット等で被検査液を計量するといった煩雑な作業が、定量化のためには少なくとも必須となる。
【0007】
定量化への糸口として、例えば非特許文献2は、予め可溶性成分からなるブリッジを流路の途中に設けておくという技術を開示している。この技術では、一定量の被検査液が流通すると、当該ブリッジが溶解するため、その後の液流通が遮断し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2012/160857号
【特許文献2】特開2015-007604号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Whitesideら, Analytical Chemistry, Vol. 82, No. 1, January 1, 2010
【非特許文献2】Houghtalingら, Analytical Chemistry, Vol. 85, 11201-11204, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来の検査チップはいずれも、顕色(発色)のムラが生じ易く、検査結果にばらつきが生じる(再現性が十分でない)虞があった。その一例として、発色が検出エリアの端部近傍で生じることにより、その目視が困難となる問題があった。かかる問題は、重要な疾病の診断等に悪影響を及ぼし得る。そのため、従来の検査チップは、まず、発色ムラの抑制の点で改良の余地があった。特に、上述したような顕色(発色)のムラが抑制できれば、検査チップ中で顕色した部分の面積や色情報を特定し、画素解析技術を応用することで、定量化がより現実的なものとなる。
【0011】
また、非特許文献2の技術では、被検査液が検出の前に可溶性成分と接触することから、コンタミの問題、ひいては、反応システムへの悪影響が懸念される。そのため、簡便に定量化を達成し得る代替技術の確立が求められる。
【0012】
本発明は、従来における上記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、被検査液に含有される対象物質とあらかじめ仕込んでおいた標識媒体とが反応し、当該反応による発色によって当該対象物質の存在を確認するための検査チップにおいて、発色ムラが有意に抑制されるとともに、被検査液の導入量に依らず簡便に定量化を達成し得る検査チップを提供することを目的とする。また、本発明は、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することが可能な、検査チップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題への解決に当たり、まず本発明者は、発色が検出エリアの端部近傍で生じるという従来の検査チップにおける問題が、検出エリアに到達する液流の勢い及び/又は方向に起因していることを突き止めた。そして、本発明者は、鋭意検討を重ね、検出エリアへの液の到達をシートの厚み方向から行えるよう、液流路の適正化を図ることにより、発色を検出エリアの中央付近で生じさせられることを見出した。
【0014】
加えて、本発明者は、上述の通り液流路の適正化を図ったチップについて、両面における所定領域をフィルムで封止することで、検出エリアに到達する液量を制御できることも見出した。
【0015】
前記目的を達成するための手段としては以下の通りである。
【0016】
<1>シート状の検査チップであって、
一方の表面側の第1層と、他方の表面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
前記第1層が1枚のシート状素材の一方の面に形成され、前記第2層が当該シート状素材の他方の面に形成されてなり、
前記液受入部A、前記液流路E、前記液流通部D、及び前記検出確認部Bは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできており、
前記素材M以外の部分は、被検査液の流通が発現されない素材でできており、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で流通して、前記検出確認部Bまで到達するように構成されており、
前記第1層の表面及び前記第2層の表面のうち、少なくとも前記液受入部A以外の素材Mの面が、フィルムで封止され、これにより、当該被検査液の検出確認部Bへの到達量が制御されている、ことを特徴とする、検査チップ。
【0017】
<2>前記第1層が、前記検出確認部Bから離隔した前記液受入部Aを有し、
前記第2層は、前記液受入部Aに隣接し且つ前記液流路Eに接続された、前記素材Mでできた液流通部Cを有し、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流通部C、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で流通して、前記検出確認部Bまで到達するように構成されている、<1>に記載の検査チップ。
【0018】
<3>前記素材Mが、ろ紙である、<1>又は<2>に記載の検査チップ。
【0019】
<4>前記被検査液の流通が発現されない素材が、前記素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’である、<1>~<3>のいずれかに記載の検査チップ。
【0020】
<5>前記素材M’の気密度が、15秒以下である、<4>に記載の検査チップ。
【0021】
<6>前記素材M’における、前記素材Mへの前記疎水性材料の含浸率が70%以下である、<4>又は<5>に記載の検査チップ。
【0022】
<7>検出対象物質に起因した発色反応が前記検出確認部Bで起こる、<1>~<6>のいずれかに記載の検査チップ。
【0023】
<8>上記<1>~<7>のいずれかに記載の検査チップの製造方法であって、
疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する膜形成工程と、
前記第1基板上の第1疎水性膜を用い、前記検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する第1印刷工程と、
前記第2基板上の第2疎水性膜を用い、前記検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する第2印刷工程と、
1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させて、第1層を形成する第1転写工程と、
前記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させて、第2層を形成する第2転写工程と、
前記第1層の表面及び前記第2層の表面のうち、少なくとも液受入部A以外の非含浸面をフィルムで封止する封止工程と、
を備える、ことを特徴とする、検査チップの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被検査液に含有される対象物質とあらかじめ仕込んでおいた標識媒体とが反応し、当該反応による発色によって当該対象物質の存在を確認するための検査チップにおいて、発色ムラが有意に抑制されるとともに、被検査液の導入量に依らず簡便に定量化を達成し得る検査チップを提供することができる。また、本発明によれば、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することが可能な、検査チップの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】本発明の一例の検査チップの概略斜視図である(フィルムの図示は省略)。
【
図1B】
図1Aの検査チップの概略斜視図である(フィルムの図示は省略)。
【
図2】
図1Aの検査チップの、確認面及び裏面の概略平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態の検査チップを模式的に分解した図である。
【
図5A】
図1Aの検査チップの概略斜視図である(フィルム図示)。
【
図5B】
図1Aの検査チップの概略斜視図である(フィルム図示)。
【
図6】本発明の一例の検査チップの、確認面及び裏面の概略平面図である。
【
図8】本発明の一例の検査チップの、確認面及び裏面の概略平面図である。
【
図10】本発明の一例の検査チップの、確認面及び裏面の概略平面図である。
【
図11】本発明の一例の検査チップの、確認面及び裏面の概略平面図である。
【
図12】一比較例の検査チップの、確認面及び裏面の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0027】
(検査チップ)
本発明の検査チップは、シート状の検査チップであって、
一方の表面側の第1層と、他方の表面側の第2層とを備え、
前記第1層及び前記第2層は隣接し、
前記第1層又は前記第2層のいずれか一方が、液受入部Aを有し、
前記第1層は、少なくとも、検出確認部Bを有し、
前記第2層は、少なくとも、前記検出確認部Bに隣接する液流通部Dと、前記液流通部Dに接続された液流路Eとを有し、
前記第1層が液受入部Aを有する場合、前記液受入部Aは、前記検出確認部Bから離隔し、
上記第1層が1枚のシート状素材の一方の面に形成され、上記第2層が当該シート状素材の他方の面に形成されてなり、
前記液受入部A、前記液流路E、前記液流通部D、及び前記検出確認部Bは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできており、
前記素材M以外の部分は、被検査液の流通が発現されない素材でできており、
被検査液を前記液受入部Aに滴下したときに当該被検査液が、毛細管現象により、前記液受入部A、前記液流路E及び前記液流通部Dをこの順で流通して、前記検出確認部Bまで到達するように構成されている、ことを一特徴とする(第1の特徴)。
【0028】
また、本発明の検査チップは、上記第1層の表面及び上記第2層の表面のうち、少なくとも上記液受入部A以外の素材Mの面が、フィルムで封止されていることも一特徴とする(第2の特徴)。本発明の検査チップは、かかる特徴により、被検査液の検出確認部Bへの到達量が制御されている。
なお、本明細書において、「封止」とは、被覆などにより、気体又は液体の流出入を制限する又は遮断することを指す。
【0029】
本発明の検査チップにおいて、液受入部Aは、被検査液が滴下される部位である。また、本発明の検査チップにおいて、検出確認部Bは、液受入部Aに滴下された被検査液中に抗原等の対象物質が存在するか否かが、発色の有無により確認される部位である。そのため、本発明の検査チップは、検出対象物質と反応する媒体、及び/又は、検出対象物質に起因して発色反応を起こす標識媒体を適所に備えることができる。また、好適には、本実施形態の検査チップは、検出対象物質に起因した発色反応が、検出確認部Bで起こる。
【0030】
検査チップは、検出確認部B、液流通部D及び液流路Eの組み合わせを、複数セット有することもできる。この場合には、複数の検出対象物質の有無の確認を、1回の検査で同時に行うことができる。
【0031】
本発明の検査チップは、上述の通り、1枚のシート状素材(即ち、素材M)の両面に第1層及び第2層がそれぞれ形成されてなるため、例えば2枚以上のシート状素材を積層してなるチップや、1枚のシート状素材を折り畳んでなるチップとは構成が異なる。このような本発明の検査チップは、(1)積層(又は折り畳み)の手間及びコストを回避できる、(2)第1層及び第2層の間で、毛細管現象による被検査液の流通が確実になされる、(3)シート状素材の積層(又は折り畳み)を保持するための治具等が不要であるため、廃棄が容易である、等の様々な利点を有する。
なお、本発明の検査チップは、例えば、後述する検査チップの製造方法により、製造することができる。
【0032】
本発明の検査チップの厚みは、特に限定されないが、例えば、100~300μmとすることができる。
【0033】
(第1実施形態の検査チップ)
図1A及び
図1Bは、それぞれ、第1実施形態の検査チップ1の概略斜視図である(フィルムの図示は省略。以下、
図2~4,6~11についても同じ。)。上記検査チップ1は、一方の表面(使用時に検査結果を確認する面)側の第1層10と、他方の表面(裏面)側の第2層20とを備える。
図1Aは、検査チップ1の確認面を上側にしたときの斜視図であり、
図1Bは、検査チップ1の裏面を上側にしたときの斜視図である。
図1A及び
図1Bに示すように、検査チップ1は、シート状である。また、検査チップ1における第1層10及び第2層20は、間に介在する層が存在せず、互いに隣接している。なお、検査チップ1の平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、
図1A及び
図1Bに示すように矩形であってもよく、或いは、円形、楕円形等であってもよい。
【0034】
図2は、上記検査チップ1の確認面及び裏面の概略平面図であり、その構造は、
図1A及び
図1Bに示す検査チップ1に対応する。
図2に示すように、検査チップ1は、確認面側に配置される第1層10に、液受入部A及び検出確認部Bが設けられている。これら液受入部A及び検出確認部Bは、検査チップ1の第1層10中で離隔している。
【0035】
更に、検査チップ1の第1層10には、液受入部A及び検出確認部B以外の部位として、液非流通部Xが設けられている。そして、液受入部A及び検出確認部Bは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Xは、被検査液の流通が発現されない素材、特には、素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’でできている。
【0036】
また、
図2に示すように、検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に、液流通部Cと、液流通部Dと、液流路Eとが設けられている。液流路Eは、液流通部Dに接続されているとともに、液流通部Cにも接続されている。更に、検査チップ1の第2層20には、液流通部C、液流路E及び液流通部D以外の部位として、液非流通部Yが設けられている。そして、液流通部C、液流路E及び液流通部Dは、上述した液受入部A及び検出確認部Bと同様、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Yは、上述した液非流通部Xと同様、被検査液の流通が発現されない素材、特には、素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’でできている。
【0037】
図2の検査チップ1をa-a’線で切断した際の概略断面図を、
図3に示す。
図3に示すように、第1実施形態の検査チップ1においては、第1層10の液受入部Aと第2層20の液流通部Cとが隣接しており、また、第1層10の検出確認部Bと第2層20の液流通部Dとが隣接している。即ち、第1実施形態の検査チップ1においては、液受入部A、液流通部C、液流路E、液流通部D及び検出確認部Bが、この順で隣接し又は接続されている。換言すると、第1実施形態の検査チップ1は、被検査液を液受入部Aに滴下したときに、当該被検査液が、毛細管現象により、液受入部A、液流通部C、液流路E、液流通部Dをこの順で流通して、最終的に検出確認部Bに到達するように構成されている。
【0038】
ここで、従来の検査チップは、基材上で液受入部と検出確認部(検出エリア)とを流路で単純に接続させているため、被検査液を液受入部に滴下したときには、基材の面方向に進んで検出エリアに到達する液流の勢いに起因して、発色が検出エリアの端部近傍(特に、液受入部から遠い方の端部近傍)に偏在してしまうという発色ムラの問題があった。その一方で、上記検査チップ1においては、上述した構成を有するため、液受入部Aに滴下された被検査液が、最終的に、検査チップ1の厚み方向(液流通部Dから検出確認部Bに向かう方向)に向かって、検出確認部Bに到達することができる。そのため、発色箇所を検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラを有意に抑制することができる。
【0039】
なお、検査チップ1において、第1層10と第2層20との界面は、略平面状である必要はなく、第1層10が検出確認部B等の所定の部位を有し、且つ、第2層20が液流通部D等の所定の部位を有していればよい。また、
図1A、
図1B及び
図3等に図示される第1層10と第2層20との境界線としての点線は、模式的なものであり、通常、第1層10及び第2層20は一体化されている。
【0040】
図1A及び
図1Bの検査チップ1を模式的に分解した図を、
図4に示す。
図4の左側に示すように、検査チップ1(フィルム封止前)は、模式的には、上記素材Mと、第1層10のデザインを有した疎水性材料50からなるプレ第1層10’と、第2層20のデザインを有した疎水性材料50からなるプレ第2層20’とからなる。また、検査チップ1は、
図4の左側に示すように、プレ第1層10’及びプレ第2層20’が、素材Mに対して両面から含浸した構成を有する。そして、検査チップ1は、
図4の右側に示すように、素材の観点からは、例えば、素材Mと、当該素材Mに疎水性材料50を含浸させてなる素材M’とからなる。かかる構成のため、
図4の左側に示す素材Mの厚みと、
図4の右側に示す検査チップ1の厚みは、大きな相違がない。
【0041】
上記素材Mとしては、毛細管現象を生じさせるものであれば、特に限定されず、例えば、ろ紙等の紙、不織布、ニトロセルロース、ポリプロピレン等が挙げられる。これらの中でも、より簡便に、且つ低コストで検査チップを作製できる観点から、上記素材Mは、ろ紙であることが好ましい。また、素材Mの厚み及び目付量(密度)は、被検査液の粘度等を考慮して、適宜選択することができる。
【0042】
上記疎水性材料としては、素材Mに含浸することができ、且つ、素材Mにおける毛細管現象を阻害するものであれば、特に限定されず、例えば、ワックス又はそれを含有する組成物等が挙げられる。また、疎水性材料は、製造容易性の観点から、融点が90℃以下であることが好ましい。
【0043】
上記検査チップにおいて、確認面側における液非流通部Xの素材は、検査する人が確認面側の液受入部A及び検出確認部Bを容易に視認できるようにするため、着色されていることが好ましい。一方、上記検査チップの裏面側における液非流通部Yの素材M’は、着色されていてもよく、また、白色又は透明であるか、或いは着色されていなくてもよい。
【0044】
素材M’の着色は、例えば、疎水性材料に加えて着色剤を素材Mに含浸させることで、達成することができる。かかる着色剤としては、疎水性であることが好ましく、例えば、カーボンブラック(黒色顔料)をはじめとする顔料が挙げられる。また、着色剤としては、検査チップに用いる試薬に悪影響を及ぼさないものを選択することが好ましい。
【0045】
液受入部Aの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、
図2に示すように円形であってもよく、また、楕円形、矩形等であってもよい。
【0046】
検出確認部Bの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、
図2に示すように円形であってもよく、また、楕円形、矩形等であってもよい。
【0047】
液流通部Cの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、液受入部Aと同一形状であることが好ましい。また、液流通部Cは、検査チップの平面視で液受入部Aと実質的に一致する形状を有することが好ましい。
【0048】
液流通部Dの平面視の形状は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、検出確認部Bと同一形状であることが好ましい。また、液流通部Dは、検査チップの平面視で検出確認部Bと実質的に一致する形状を有することが好ましい。
【0049】
更に、本発明の検査チップは、第1層の表面及び第2層の表面のうち、少なくとも液受入部A以外の素材Mの面が、フィルムで封止される(第2の特徴)。
図5A及び
図5Bは、
図1A及び
図1Bの検査チップの図において、フィルムの図示を追加したものである。第1実施形態の検査チップ1は、
図5Aに示すように、第1層10の表面のうち、液受入部A以外の全ての面がフィルム61で被覆され、封止されている。また、第1実施形態の検査チップ1は、
図5Bに示すように、第2層20の全ての表面がフィルム62で被覆され、封止されている。なお、
図5A及び
図5Bにおいて、フィルム61,62中の点線は、下層(第1層10又は第2層20)における、素材Mでできた部位の輪郭を表している。
【0050】
第1実施形態の検査チップ1においては、既述した通り、被検査液を液受入部Aに滴下したときに、当該被検査液が、素材Mでできた部位、具体的には、液受入部A、液流通部C、液流路E、液流通部Dをこの順で流通して、最終的に検出確認部Bに到達するように構成されている。ここで、被検査液が最終的に検出確認部Bに到達するためには、被検査液が流通する空間に存在する気体が、系外に排出される必要がある。また、液が流通する際、上記気体は、その大部分が、素材Mが表面に露出している箇所から系外に排出されるものと考えられる。そこで、本発明では、第2の特徴として、検査チップ1の第1層10の表面及び第2層20の表面のうち、液受入部A以外の素材Mの面をフィルムで封止する。これにより、気体が系外に排出される箇所が制限される結果、被検査液の導入量に依らず、検査チップ1の検出エリア、即ち検出確認部Bに到達する液量を制御(一定化)することができる。
【0051】
なお、本発明の検査チップにおいて、フィルムで封止される表面は、液受入部A以外の全ての素材Mの面を含むことが好ましく、また、
図5A及び
図5Bのように実質的に液受入部A以外の全ての面とすることがより好ましい。なお、液受入部A以外の全ての面がフィルムで封止される場合、液の流通に伴う気体の排出は、主に検査チップの端面から行われるものと考えられる。
【0052】
フィルムの材質としては、封止性能を発現するものであれば特に限定されず、種々の樹脂や高分子などを用いることができる。また、フィルムとしては、接着フィルムを用いることができる。また、フィルムは、検出確認部Bにおける発色の有無の確認を容易に行うため、透明であることが好ましい。
【0053】
上述した検査チップ1が、素材M(毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材)と、素材M’(素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材)とでできている場合、当該素材M’の気密度は、15秒以下であることが好ましく、また、3秒以上であることが好ましい。上記気密度が3秒以上となるように検査チップを製造することで、流路からの液漏れを十分に回避し(バリア性の確保)、所望の流路構造を有する検査チップをより確実に得ることができる。また、上記気密度が15秒以下となるように検査チップを製造することで、素材Mに疎水性材料を含浸させる際に、閉塞などの不具合を十分に回避し、また、液の流通に伴う気体の排出が十分スムーズに行われ、検出確認部Bに到達する液量の一定化をより確実に且つ迅速に達成することができる。
なお、素材M’の気密度の測定にあたっては、40mm×40mmのサイズを有する素材M’の両面にフィルムを被覆したもの(一方のフィルムには開口を形成しておく)を測定用サンプルとする。そして、上記サンプルを、1kg/cm2の圧力でガラス平板に押し付け、上記サンプルの開口部分から吸引を行い、圧力差370mmHgになったときから10ccの気体がリークするまでの時間を、気密度として定義する。より具体的に、上記素材M’の気密度は、実施例に記載の方法により求めることができる。
また、上記気密度の調整は、例えば、含浸させる疎水性材料の量(後述の含浸率)、成分、粘度等の調節、素材Mの適切な選定などにより行うことができる。
【0054】
上述した検査チップ1が、素材M(毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材)と、素材M’(素材Mに疎水性材料を含浸させてなる、被検査液の流通が発現されない素材)とでできている場合、上記素材M’においては、上記素材Mへの疎水性材料の含浸率が70%以下であることが好ましく、また、14%以上であることが好ましい。上記含浸率が70%以下となるように検査チップを製造することで、素材Mに疎水性材料を含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避し、所望の流路構造を有する検査チップをより確実に得ることができる。また、上記含浸率が14%以上となるように検査チップを製造することで、流路からの液漏れを十分に回避し(バリア性の確保)、所望の流路構造を有する検査チップをより確実に得ることができる。
【0055】
なお、上記含浸率は、検査チップ1のうち、厚み方向全体に亘って素材M’でできている領域における当該素材M’に関する含浸率を指すものとする。
また、上記含浸率は、十分に低粘度となるように加熱した(例えば、120℃に加熱した)疎水性材料に素材Mを浸漬させ、温度を保持して十分な時間(例えば、3分間)放置して得られる素材M’については、100%と見なすことができる。より具体的に、上記含浸率は、実施例に記載の方法により求めることができる。
そして、上記含浸率の調整は、例えば、含浸させる疎水性材料の量(疎水性膜の厚みなど)の調節などにより行うことができる。
【0056】
(第2実施形態の検査チップ)
図6は、第2実施形態の検査チップ1の確認面及び裏面の概略平面図である(フィルムは省略)。
図6に示すように、検査チップ1は、確認面側に配置される第1層10に、液受入部A及び検出確認部Bが設けられている。これら液受入部A及び検出確認部Bは、検査チップ1の第1層10中で離隔している。また、検査チップ1は、確認面側に配置される第1層10に、液受入部Aに接続された液流路Fを有する。
【0057】
更に、検査チップ1の第1層10には、液受入部A、検出確認部B及び液流路F以外の部位として、液非流通部Xが設けられている。そして、液受入部A、検出確認部B及び液流路Fは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Xは、例えば、被検査液の流通が発現されない素材、特には、素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’でできている。
【0058】
また、
図6に示すように、検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に、液流通部Dと、液流路Eとが設けられている。液流路Eは、液流通部Dに接続されている。更に、検査チップ1の第2層20には、液流路E及び液流通部D以外の部位として、液非流通部Yが設けられている。そして、液流路E及び液流通部Dは、例えば、上述した液受入部A、検出確認部B及び液流路Fと同様、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Yは、例えば、上述した液非流通部Xと同様、被検査液の流通が発現されない素材、特には、素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’でできている。
【0059】
図6の検査チップ1をb-b’線で切断した際の概略断面図を、
図7に示す。
図7に示すように、第2実施形態の検査チップ1においては、第1層10の検出確認部Bと第2層20の液流通部Dとが隣接しており、また、第1層10の液流路Fと第2層20の液流路Eとが接続されている。即ち、第2実施形態の検査チップ1においては、液受入部A、液流路F、液流路E、液流通部D及び検出確認部Bが、この順で隣接し又は接続されている。換言すると、第2実施形態の検査チップ1は、被検査液を液受入部Aに滴下したときに、当該被検査液が、毛細管現象により、液受入部A、液流路F、液流路E、液流通部Dをこの順で流通して、最終的に検出確認部Bに到達するように構成されている。そのため、第2実施形態の検査チップ1においては、第1実施形態と同様、液受入部Aに滴下された被検査液が、最終的に、検査チップ1の厚み方向(液流通部Dから検出確認部Bに向かう方向)に向かって、検出確認部Bに到達することができる。
【0060】
上記検査チップにおいて、確認面側における液非流通部Xの素材は、検査する人が確認面側の液受入部A及び検出確認部Bを容易に視認できるようにするため、着色されていることが好ましい。一方、上記検査チップの裏面側における液非流通部Yの素材は、着色されていてもよく、また、白色又は透明であるか、或いは着色されていなくてもよい。
【0061】
上記以外で、第1実施形態と共通する事項については、説明を省略する。
【0062】
(第3実施形態の検査チップ)
図8は、第3態様を有する検査チップ1の確認面及び裏面の概略平面図である(フィルムは省略)。
図8に示すように、検査チップ1は、確認面側に配置される第1層10に、検出確認部Bが設けられており、液受入部Aは設けられていない。
【0063】
更に、検査チップ1の第1層10には、検出確認部B以外の部位として、液非流通部Xが設けられている。そして、検出確認部Bは、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Xは、被検査液の流通が発現されない素材、特には、素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’でできている。
【0064】
また、
図8に示すように、検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に、液受入部Aと、液流通部Dと、液流路Eとが設けられている。液流路Eは、液流通部Dに接続されているとともに、液受入部Aにも接続されている。更に、検査チップ1の第2層20には、液受入部A、液流路E及び液流通部D以外の部位として、液非流通部Yが設けられている。そして、液受入部A、液流路E及び液流通部Dは、例えば、上述した検出確認部Bと同様、毛細管現象により被検査液の流通が発現される素材Mでできている。また、液非流通部Yは、例えば、上述した液非流通部Xと同様、被検査液の流通が発現されない素材、特には、素材Mに疎水性材料を含浸させてなる素材M’でできている。
【0065】
図8の検査チップ1をc-c’線で切断した際の概略断面図を、
図9に示す。
図9に示すように、第3実施形態の検査チップ1においては、第1層10の検出確認部Bと第2層20の液流通部Dとが隣接している。即ち、第3実施形態の検査チップ1においては、液受入部A、液流路E、液流通部D及び検出確認部Bが、この順で隣接し又は接続されている。換言すると、第3実施形態の検査チップ1は、被検査液を液受入部Aに滴下したときに、当該被検査液が、毛細管現象により、液受入部A、液流路E、液流通部Dをこの順で流通して、最終的に検出確認部Bに到達するように構成されている。そのため、第3実施形態の検査チップ1においては、第1実施形態と同様、液受入部Aに滴下された被検査液が、最終的に、検査チップ1の厚み方向(液流通部Dから検出確認部Bに向かう方向)に向かって、検出確認部Bに到達することができる。
【0066】
上記検査チップにおいて、確認面側における液非流通部X及び裏面側における液非流通部Yの素材M’は、検査する人が確認面側の液受入部A及び検出確認部Bを容易に視認できるようにするため、着色されていることが好ましい。
【0067】
第3実施形態の検査チップは、例えば、フェールセーフの観点から、液受入部Aと検出確認部Bとを異なる面に配置したい場合などに、特に有用である。
【0068】
上記以外で、第1実施形態と共通する事項については、説明を省略する。
【0069】
更に、本実施形態の検査チップは、後述する特徴を適宜有することができる。以下、第1実施形態をベースにして説明するが、いずれの特徴も、第2実施形態及び第3実施形態を有する場合に対して適用可能である。
【0070】
図10は、一実施形態の検査チップ1の、確認面及び裏面の概略平面図である。
図10に示す検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20に設けられた液流通部Dが、環状構造であり、内側に液非流通部D’が形成されているという特徴を有する点以外は、
図2と同様である。かかる検査チップ1においては、液非流通部D’の存在により、被検査液が液流通部Dから検出確認部Bに向かって進んだ際に、検出確認部Bにおいて外側から中央に向かう液流を形成させることができる。そのため、発色箇所をより一層検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0071】
上述したような検査チップ1において、環状構造である液流通部Dは、円形、楕円形、矩形等の任意の輪郭形状を有することができるが、検査チップの平面視で検出確認部Bと実質的に一致する輪郭形状を有することが好ましい。また、液非流通部D’は、検査チップの平面視で液流通部Dの輪郭形状を縮尺した形状を有することが好ましい。更に、液非流通部D’は、検出確認部Bにおける発色の確認を阻害しないようにするため、白色又は透明であるか、或いは着色されていないことが好ましい。
【0072】
図11は、別の実施形態の検査チップ1の、確認面及び裏面の概略平面図である。
図11に示す検査チップ1は、裏面側に配置される第2層20が、液流路Eを複数本(
図11ではE1及びE2の2本)有するという特徴を有する点以外は、
図2と同様である。かかる検査チップ1においては、液流路Eが複数本存在することにより、被検査液が液流通部Dから検出確認部Bに向かって進む際に、各液流路Eからの液流の勢いが相殺して、検査チップ1の厚み方向の液流を促進することができる。そのため、発色箇所をより一層検出確認部Bの中央付近に留めることができるので、発色ムラをより一層有意に抑制することができる。
【0073】
上記の特徴に関し、第2実施形態の検査チップの場合には、液流路Eの数だけ液流路Fを複数本設け、第1層10の複数本の液流路Fと第2層20の複数本の液流路Eとをそれぞれ接続させることができる。
【0074】
(検査チップの製造方法)
本発明の一実施形態の検査チップの製造方法は、上述した検査チップの製造方法であって、
疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する膜形成工程と、
上記第1基板上の第1疎水性膜を用い、上記検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する第1印刷工程と、
上記第2基板上の第2疎水性膜を用い、上記検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する第2印刷工程と、
1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させて、第1層を形成する第1転写工程と、
上記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、前記シート状素材に含浸させて、第2層を形成する第2転写工程と、
上記第1層の表面及び上記第2層の表面のうち、少なくとも液受入部A以外の含浸させていない面をフィルムで封止する封止工程と、
を備える、ことを特徴とする。
かかる製造方法によれば、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することができる。
【0075】
<膜形成工程>
膜形成工程では、疎水性材料を用い、第1基板上に第1疎水性膜を形成し、第2基板上に第2疎水性膜を形成する。
【0076】
疎水性材料には、着色剤を配合することができる。また、疎水性材料には、粘度調整成分(例えば、樹脂等)、分散助剤、フィラー等を適宜配合することができる。なお、疎水性材料及び着色剤については、検査チップに関して既述した通りである。
【0077】
第1疎水性膜の形成に用いる疎水性材料の組成と、第2疎水性膜の形成に用いる疎水性材料の組成とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0078】
上述した疎水性材料は、膜を形成するに当たり、加熱して溶融させておくことが好ましい。加熱温度は、疎水性材料や粘度調整成分の融点を考慮して、適宜設定することができる。また、疎水性材料の溶融時の粘度は、のちに使用するシート状素材の厚みや目付量(密度)等を考慮し、所望通りにシート状素材に含浸させることができるよう、適宜選択することができる。
【0079】
疎水性材料の粘度としては、特に限定されないが、含浸させる際の閉塞などの不具合を十分に回避する観点から、140℃、せん断速度3000s-1における粘度が、100mPa・s以下であることが好ましく、50mPa・s以下であることがより好ましく、30mPa・s以下であることが更に好ましい。
【0080】
第1基板及び第2基板は、最終的に得られる検査チップの構成部材ではなく、検査チップの製造のために用いられる部材の一つである。第1基板及び第2基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルや、ポリフェニレンサルファイド(PPS)や、セロハン等でできたフィルムを用いることができる。第1基板及び第2基板は、リボン状、フィルム状など、任意の形状を有していてもよい。また、第1基板及び第2基板としては、同一の基板を用いてもよい。
【0081】
膜形成工程では、上述した疎水性材料を塗布することにより、第1基板上及び第2基板上に疎水性膜を形成することができる。なお、塗布の際には、第1基板及び第2基板をあらかじめ加熱保持しておくことが好ましい。また、形成する第1疎水性膜及び第2疎水性膜の厚みは、のちに使用するシート状素材の厚みや、含浸率等を考慮して、適宜選択することができる。
【0082】
<第1印刷工程及び第2印刷工程>
第1印刷工程では、上記第1基板上に形成した第1疎水性膜を用い、第1犠牲基材に印刷する。また、第2印刷工程では、上記第2基板上に形成した第2疎水性膜を用い、第2犠牲基材に印刷する。
【0083】
第1犠牲基材及び第2犠牲基材は、最終的に得られる検査チップの構成部材ではなく、検査チップの製造のために用いられる部材の一つである。第1犠牲基材及び第2犠牲基材としては、汎用的であって、印刷が高精度に行えるものであることが好ましく、例えば、上質紙、コート紙、合成紙等が挙げられる。第1犠牲基材及び第2犠牲基材としては、同一の基材を用いてもよい。
【0084】
第1犠牲基材への印刷及び第2犠牲基材への印刷には、特に限定されないが、例えば、事務用品として汎用されるラベルライターを好適に用いることができる。そして、第1印刷工程では、第1基板上の第1疎水性膜を用い、検査チップの第1層の反転デザインとなるように第1犠牲基材に印刷する。また、第2印刷工程では、第2基板上の第2疎水性膜を用い、検査チップの第2層の反転デザインとなるように第2犠牲基材に印刷する。この点、
図2に示す検査チップの製造を例に挙げると、第1犠牲基材に印刷されるデザインは、液受入部A及び検出確認部Bに対応する印刷膜を有するデザインである。また、第2犠牲基材に印刷されるデザインは、液流通部C、液流通部D及び液流路Eに対応する印刷膜を有するデザインである。
【0085】
なお、印刷するデザインは、例えば、パソコン等によりあらかじめ作成し、そのデータを印刷装置に取り込むことができる。また、第1印刷工程及び第2印刷工程は、同時に行ってもよい。
【0086】
<第1転写工程及び第2転写工程>
第1転写工程では、1枚のシート状素材の一方の面に、第1印刷工程後の第1疎水性膜を、転写し、当該シート状素材に含浸させて、第1層を形成する。また、第2転写工程では、上記1枚のシート状素材の他方の面に、第2印刷工程後の第2疎水性膜を、転写し、当該シート状素材に含浸させて、第2層を形成する。
【0087】
このとき、被検査液を流通させる部位(第1層又は前記第2層のいずれか一方が有する液受入部A、第1層が有する検出確認部B、第2層が有する液流通部D及び液流路E)は、含浸させていない部位に相当する。
【0088】
疎水性膜の転写には、ラミネーター等の転写装置を用いてもよい。また、第1基板上の第1疎水性膜の転写及び第2基板上の第2疎水性膜の転写の際には、所望する検査チップのデザインに従って、それぞれの転写位置を適宜調整することが好ましい。
【0089】
シート状素材については、素材Mに関して既述した通りである。
【0090】
シート状素材への疎水性膜の含浸は、例えば、加熱により達成することができる。この点に関し、例えば、加熱可能なラミネーター等の転写装置を用いれば、疎水性膜の転写及び含浸の両方を行うことができる。
【0091】
ここで、第1転写工程及び第2転写工程では、上記含浸により、第1基板上から転写した第1疎水性膜及び第2基板上から転写した第2疎水性膜の少なくとも一部が、素材M中で接触するようにする。換言すると、シート状素材のうち、厚み方向で見て両面に疎水性膜が転写された箇所においては、厚み方向全体に亘って疎水性膜が含浸するようにする。一方、シート状素材のうち、厚み方向で見て一方の表面にのみ疎水性膜が転写された箇所においては、他方の表面にまで含浸しないようにする。このような調節は、例えば、上述した疎水性材料の粘度、シート状素材の厚み、疎水性膜の厚み等を適宜調整することで行うことができる。
【0092】
第1転写工程及び第2転写工程では、転写した疎水性膜を全てシート状素材に含浸させることができる。その場合、シート状素材の厚みは、第1転写工程及び第2転写工程の前後で、ほとんど変化しない(但し、ラミネーター等の圧縮の影響による厚み低下の可能性は考えられる)。
【0093】
第1転写工程は、第2転写工程の前に行ってもよく、第2転写工程の後に行ってもよい。或いは、第1転写工程及び第2転写工程は、同時に一括で行ってもよい。その場合には、シート状素材を、第1基板と第2基板とで、疎水性膜が当該シート状素材に接触するように挟持することができる。
【0094】
第1転写工程及び第2転写工程の後には、適宜、第1基板及び第2基板を剥離することができる。また、発色反応を生じさせる物質(酵素など)を、含浸させていない部位の適所に配置することができる。
【0095】
<封止工程>
封止工程では、第1転写工程で形成した第1層の表面、及び第2転写工程で形成した第2層の表面のうち、少なくとも液受入部A以外の含浸させていない面をフィルムで封止する。こうして、最終的に本実施形態の検査チップを得ることができる。なお、フィルムについては、検査チップに関して既述した通りである。
【0096】
封止工程では、フィルムを配置したときに少なくとも液受入部Aの表面が露出するように、あらかじめフィルムをくり抜く又は裁断することが好ましい。
【0097】
本実施形態の検査チップの製造方法では、上述した所定の印刷工程及び転写工程を行うため、例えば市販のろ紙等の比較的粗い面を有するシート状素材を用いたとしても、転写不良やボイドの発生が少なく、検査チップをより高精度に製造することができる。
【0098】
また、本実施形態の検査チップの製造方法では、金型等を用いることなく、所望のデザインを有する第1層及び第2層を形成できるので、オンデマンドに基づく製造が可能である。
【0099】
また、本実施形態の検査チップの製造方法では、検査チップを1枚のシート状素材の両面に第1層及び第2層をそれぞれ形成して製造できるため、例えば2枚のシート状素材を用いて製造する場合(或いは1枚のシート状素材を折り畳んで製造する場合)に比べ、(1)積層(又は折り畳み)の手間及びコストを回避できる、(2)得られる検査チップの第1層及び第2層の間で、毛細管現象による被検査液の流通が確実になされる、(3)積層(又は折り畳み)を保持するための治具等が不要であるため、得られる検査チップの廃棄が容易である、等の様々な利点を有する。
【実施例0100】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に制限されるものではない。
【0101】
(実験1)
まず、フィルム封止無しの検査チップについて、第1層及び第2層のデザイン(流路構造)が色ムラに及ぼす影響について検討した。
【0102】
パラフィンワックス(日本精鑞株式会社製、「Paraffin Wax -155」)48質量部、合成ワックス(三菱ケミカル株式会社製、「ダイヤカルナ(登録商標)80」)48質量部、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(東ソー株式会社製、「ウルトラセン(登録商標)681」)2質量部、及び着色剤としてのカーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、「MA-100」)2質量部を配合し、100℃で溶融混合した。その際、サンドミルを用いて各成分の分散を図った。このようにして、疎水性材料を調製した。
【0103】
120℃に保持したホットプレート上に、基板(東レ株式会社製、「ルミラー(登録商標)♯5A-F531」、ポリエステルフィルム、片面を耐熱処理済)を、耐熱処理が施されていない面を上にして配置した。次いで、上記基板上に、120℃で溶融状態を維持した上述の疎水性材料を、メイヤーバーにより、厚み約6~12μmとなるように塗布し、リボン状の疎水性膜(第1疎水性膜及び第2疎水性膜)を形成した。
【0104】
次いで、ラベルライター(株式会社キングジム製、「テプラ SR750」)を用い、第1犠牲基材としての上質紙に対し、パソコン上であらかじめ作成した所望のデザインとなるよう、上述した疎水性膜を印刷した。同様に、第2犠牲基材としての上質紙に対し、パソコン上であらかじめ作成した所望のデザインとなるよう、上述した疎水性膜を印刷した。上質紙に印刷した上記の2つのデザインは、最終的に得られる検査チップの確認面(第1層)及び裏面(第2層)のデザインを反転したものにそれぞれ対応する。なお、印刷後の上質紙は、のちの工程において特に使用しない。
【0105】
ここで、比較例1では、確認面(第1層)のデザイン及び裏面(第2層)のデザインを、
図12の通りとした。即ち、比較例1は、確認面において液受入部A及び検出確認部Bが液流路で接続されており、確認面及び裏面のデザインを略同一としたものである。また、参考例1-1、参考例1-2では、確認面(第1層)のデザイン及び裏面(第2層)のデザインを、それぞれ
図2、
図10の通りとした。
【0106】
次いで、上記印刷後の基板を用い、シート状の素材Mとしてのろ紙(Whatman グレード41)を、疎水性膜がろ紙に接触するようにして、適宜位置調整をしながら挟持した。そして、90℃に保持したラミネーターを用い、疎水性膜をろ紙の両面に一括で転写させた。各疎水性膜は、ろ紙に対して両面からほぼ完全に含浸し、直下にあるろ紙部分を疎水化した。これにより、所定のデザインを有する第1層が、ろ紙の確認面側に形成され、所定のデザインを有する第2層が、ろ紙の裏面側に形成された。なお、ろ紙のうち、厚み方向で見て両面に疎水性膜が転写された箇所においては、厚み方向全体に亘って疎水性膜を含浸させるようにし、また、厚み方向で見て一方の表面にのみ疎水性膜が転写された箇所においては、他方の表面にまで含浸を到達させないようにした。
その後、両面の基板を剥離し、最終的に検査チップ(フィルム封止無し)を得た。
【0107】
<色ムラの評価>
得られた各検査チップについて、確認面(第1層)を上側にして配置し、検出確認部Bの中央に、水性タイプの赤色蛍光ペンで印を付けた。そして、液受入部Aに対して蒸留水をスポイトで3滴滴下して、水の流動による赤色印の変化を観察した。
【0108】
その結果、比較例1(
図12)では、検出確認部Bの中央にあった赤色印が、検出確認部Bの外周(特に、液受入部Aから遠い方)に移動し、赤色を目視で確認することが困難であった。従って、比較例1の検査チップは、発色ムラが生じると認められる。
【0109】
これに対し、参考例1-1(
図2)、参考例1-2(
図10)では、検出確認部Bの中央にあった蛍光ペンの印が、検出確認部Bの外周よりも内側に留まっていた。特に、参考例1-2(
図10)では、検出確認部Bの中央にあった蛍光ペンの印が、検出確認部Bのより中央付近に留まっていた。これは、比較例1と比較して、ろ紙内で水が3次元的に流通できるように、液流路の適正化が図れているためであると考えられる。従って、参考例1-1、参考例1-2の検査チップは、発色ムラが有意に抑制されると認められる。
【0110】
(実験2)
次に、フィルム封止が検出エリアへの液の到達挙動に及ぼす効果について検討した。
【0111】
パラフィンワックス(日本精鑞株式会社製、「Paraffin Wax -135」)72.0質量部、合成ワックス(三菱ケミカル株式会社製、「ダイヤカルナ(登録商標)30」)18.0質量部、着色剤としてのカーボンブラック(三菱ケミカル株式会社製、「MA-100」)1.8質量部、及び樹脂(東ソー株式会社製、「ウルトラセン(登録商標)722」)11.25質量部を配合し、疎水性材料(インク1)を調製した。なお、インク1の140℃、せん断速度3000s-1における粘度は23mPa・sであり、密度は0.85g/cm3であった。
【0112】
次いで、疎水性材料としてインク1を用いたこと以外は、実験1と概ね同様のやり方で、検査チップ(フィルム封止無し)を得た。その際、リボン状の疎水性膜(第1疎水性膜及び第2疎水性膜)の厚みはともに10.8μmとし、第1層及び第2層のデザインは、概ね
図2の通りとし、液受入部Aをφ5mmとした。
【0113】
更に、実施例2では、検査チップの第2層の表面全体をフィルム(ニチバン株式会社製「660PF」)で被覆(封止)するとともに、第1層の表面を、液受入部Aの表面は露出するようにして、φ6mmの孔を設けた上記フィルムで被覆(封止)して、検査チップを得た。一方、比較例2では、かかるフィルム封止を行わなかった。
【0114】
実施例2(フィルム封止有り)及び比較例2(フィルム封止無し)の検査チップを、第1層側の表面が上側を向くようにして配置した。そして、液受入部Aに対し、食紅を溶解させた着色水溶液を所定量秤量して滴下し、それぞれの場合において、滴下開始から5分後における検出確認部Bをデジタルカメラで撮影し、画像解析アプリ「ImageJ」を用いてLab値を求めた。実施例2及び比較例2のそれぞれにおいて、着色水溶液の滴下量を5μL、8μL、12μL、16μLに適宜変更して上記試験を行った。そして、着色水溶液の滴下量が5μLの場合のLab値を基準(ゼロ)として、滴下量を増やしたときのLab値の変化量を色差ΔEとして算出した。結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
表1より、実施例2では、比較例2に比べて、滴下量を増やしたときのΔEの変化量が小さい。このことから、検査チップの所定表面のフィルム封止により、液受入部Aへの滴下量が過剰になったとしても、検出確認部Bへの液到達量を一定化し得ることが分かる。
【0117】
次に、実施例2及び比較例2の検査チップについて、液受入部Aに対し、過剰量と見なされる16μLの着色水溶液を秤量し、滴下した。そして、滴下開始から3分後、5分後、7分後、9分後及び12分後の時点における検出確認部Bをデジタルカメラで撮影し、上記と同様にしてLab値を求めた。実施例2及び比較例2のそれぞれにおいて、滴下開始から3分後のLab値を基準(ゼロ)として、その後のLab値の変化量を色差ΔEとして算出した。結果を表2に示す。
【0118】
【0119】
表2より、実施例2では、比較例2に比べて、滴下してから5分後以降のΔEの値が総じて小さい。このことから、検査チップの所定表面のフィルム封止により、検出確認部Bへの液到達量そのものを低減できることが分かる。また、表2より、比較例2では、滴下してから7分後以降も依然としてΔEの値の増大が続いているのに対し、実施例2では、滴下してから5分後の時点で、ΔEの値の増大が概ね収まっている。即ち、検査チップの所定表面のフィルム封止により、検出確認部Bへの液到達量が早期に飽和するので、検査時間の削減も期待できる。
【0120】
(実験3)
次に、良好な液流通性及び流路バリア性を担保し得る検査チップの諸特性について、検討した。
【0121】
実験2で用いたものと同じろ紙(Whatman グレード41)を5cm×2cmのサイズに裁断し、120℃で3分間乾燥し、乾燥質量M0(g)を測定した。次いで、当該ろ紙を、実験2で用いたものと同じ疎水性材料(インク1)に浸漬させ、120℃で3分間放置した。浸漬後のろ紙を、同種のろ紙及びスライドガラスで挟持し、100gfの荷重下、120℃で1分間放置して、過剰な疎水性材料を除去した。その後、ろ紙の質量M1(g)を測定した。そして、(M1-M0)×1000より、単位面積当たりの最大含浸量Pmaxを算出したところ、Pmax=68.3g/m2であった。
【0122】
次いで、第1層の形成に用いる第1疎水性膜及び第2層の形成に用いる第2疎水性膜の厚みを表3に示す通りに適宜変更したこと以外は、実験2と概ね同様のやり方で、第1層及び第2層のデザインが概ね
図2の通りである検査チップ(フィルム封止無し)を得た。液受入部Aは、いずれもφ5mmとした。
【0123】
次いで、実験2の実施例2と同様に、検査チップの第2層の表面全体をフィルム(ニチバン株式会社製「660PF」)で被覆(封止)するとともに、第1層の表面を、液受入部Aの表面は露出するようにして、φ6mmの孔を設けた上記フィルムで被覆(封止)して、実施例3-1~実施例3-4の検査チップ(フィルム封止有り)を得た。なお、実施例3-2の条件は、実験2の実施例2に相当する。
【0124】
(疎水性材料の含浸率)
各例について、インク1の密度を用いて、単位面積当たりの実際の含浸量P(g/m2)を算出し、(P/Pmax)×100より、ろ紙への疎水性材料の含浸率(%)を算出した。含浸率の算出値を表3に示す。
【0125】
(含浸部分(素材M’)の気密度)
各例で用いたろ紙、即ち、Whatman グレード41を、40mm×40mmのサイズに裁断した。このろ紙の一方の表面全体に、各例における第1疎水性膜と同じ組成及び厚みを有する疎水性膜を転写すると同時に、このろ紙の他方の表面全体に、各例における第2疎水性膜と同じ組成及び厚みを有する疎水性膜を転写した。こうして、40mm×40mmのサイズのろ紙の全体に、疎水性材料を含浸させ、素材M’を得た。次いで、含浸後のろ紙の一方の表面全体を、各例で用いたフィルム、即ち、ニチバン株式会社製「660PF」で被覆(封止)するとともに、他方の表面を、φ6mmの開口を設けた同様のフィルムで被覆(封止)して、測定用のサンプルを作製した。そして、ベック平滑度計を用い、上記サンプルを、開口部分が吸引部に対向するようにしてガラス平板に1kg/cm2の圧力で押し付け、圧力差370mmHgになるまで吸引後、10ccの気体がリークするまでの時間(秒)を、素材M’の気密度として測定した。測定結果を表3に示す。なお、このときのリークは、サンプルの端部断面より面方向に吸引部へと導かれてなる。
【0126】
<液流通性の評価>
得られた各検査チップ(フィルム封止有り)を、第1層側の表面が上側を向くようにして配置した。次いで、液受入部Aに対し、水性蛍光インクを蒸留水に溶かした液をスポイトで約0.3mL滴下し、滴下開始から、液が検出確認部Bに到達するまでの時間(流通時間)を測定した。測定結果を表3に示す。流通時間が短いほど、液流通性が良好であることを示す。
【0127】
<流路バリア性の評価>
得られた各検査チップ(フィルム封止有り)を、第1層側の表面が上側を向くようにして配置した。次いで、液受入部Aに対し、水性蛍光インクを蒸留水に溶かした液を滴下した。このとき、流路からの液漏れの有無を、UVランプを用いて目視により確認した。液漏れが確認されなければ、流路バリア性は良好と評価した。結果を表3に示す。
【0128】
【0129】
表3より、実施例3-1~実施例3-4はいずれも、液流通性及び流路バリア性が良好といえる。このことから、素材M’の気密度については、およそ15秒以下であれば、良好な液流通性及び流路バリア性をより確実に担保し得ると考えることができる。同様に、疎水性材料の含浸率については、およそ70%以下であれば、液流通性及び流路バリア性をより確実に担保し得ると考えることができる。
本発明によれば、被検査液に含有される対象物質とあらかじめ仕込んでおいた標識媒体とが反応し、当該反応による発色によって当該対象物質の存在を確認するための検査チップにおいて、発色ムラが有意に抑制されるとともに、被検査液の導入量に依らず簡便に定量化を達成し得る検査チップを提供することができる。また、本発明によれば、上述した検査チップを簡便に、高精度に、且つ低コストで製造することが可能な、検査チップの製造方法を提供することができる。