(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158659
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】多層フィルムおよび液剤容器
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20221006BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20221006BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B32B27/32 C
B32B27/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063708
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】時枝 純司
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬譲
(72)【発明者】
【氏名】大谷 真悟
(72)【発明者】
【氏名】梶原 康幸
(72)【発明者】
【氏名】庄司 英生
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AD01
3E086BA15
3E086BB21
3E086BB41
3E086BB85
3E086CA28
4F100AK02B
4F100AK03D
4F100AK04C
4F100AK07D
4F100AK42A
4F100BA04
4F100BA05
4F100GB15
4F100GB16
4F100JA04C
4F100JA05B
4F100JA06C
4F100JA06D
4F100JA13D
4F100JJ02
4F100JN01
(57)【要約】
【課題】外層にポリブチレンテレフタレートを使用した多層フィルムから形成された液剤容器であって、このポリブチレンテレフタレートに由来する成分が多層フィルムを透過して内容液中に溶出することが抑制ないし防止された液剤容器、およびこのような液剤容器を形成するための多層フィルムを提供すること。
【解決手段】多層フィルムであって、少なくとも、(1)ポリブチレンテレフタレートを含む層、(2)環状オレフィン系重合体を含む層、(3)エチレン系樹脂を含む柔軟層、および(4)ポリオレフィンを含む層が積層されてなり、前記層(1)、前記層(2)、および前記多層フィルムの一方の表面をなす前記層(4)がこの順序で積層されている多層フィルム、ならびにこの多層フィルムから、前記層(4)が最内層となるように形成された液剤容器。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層フィルムであって、
少なくとも、
(1)ポリブチレンテレフタレートを含む層、
(2)環状オレフィン系重合体を含む層、
(3)エチレン系樹脂を含む柔軟層、および
(4)ポリオレフィンを含む層
が積層されてなり、
前記層(1)、前記層(2)、および前記多層フィルムの一方の表面をなす前記層(4)がこの順序で積層されている多層フィルム。
【請求項2】
前記環状オレフィン系重合体のガラス転移温度が80~145℃である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記環状オレフィン系重合体が下記一般式(2)で表される構造単位を有する、請求項1または2に記載の多層フィルム。
【化1】
〔式(2)において、R
3およびR
4は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成してもよく、
xは1以上の整数であり、yは0または1以上の整数であり、zは1以上の整数である。〕
【請求項4】
前記エチレン系樹脂の示差走査熱量分析によって得られる吸熱曲線において、下記要件[a]、[b]および[c]が満たされる請求項1~3のいずれか一項に記載の多層フィルム。
[a]:t=107℃のとき、Ht=55~75%である。
[b]:t=121℃のとき、Ht=65~80%である。
[c]:t=127℃のとき、Ht=70~95%である。
〔ただし、前記[a]、[b]および[c]において、Htは、示差走査熱量計により、前記エチレン系樹脂を、窒素雰囲気下で-20℃から昇温速度10℃/分で230℃まで昇温し、その温度で10分間保持し、次いで降温速度10℃/分で30℃まで降温し、その温度で1分間保持し、次いで昇温速度10℃/分で230℃まで昇温し、2度目の昇温の際に観測される吸熱曲線から、融解熱総量(ΔHm)、および融解開始温度からt℃までの間に観測される融解熱量(ht)を求め、式:Ht=ht/ΔHmにより算出される融解成分量である。〕
【請求項5】
前記エチレン系樹脂のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.01~10g/10分である、請求項1~4のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記ポリオレフィンが下記要件[d]および[e]を満たす、請求項1~5のいずれか一項に記載の多層フィルム。
要件[d]:密度が0.900~0.960kg/cm3である。
要件[e]:メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.1~10g/10分である。
【請求項7】
前記ポリオレフィンがポリエチレンおよびポリプロピレンの混合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項8】
前記層(1)、前記層(3)、前記層(2)、前記層(3)、前記層(4)の順に積層されてなる、請求項1~7のいずれか一項に記載の多層フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の多層フィルムから、前記層(4)が最内層となるように形成された液剤容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層フィルムおよび多層フィルムから形成された液剤容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、輸液などの薬液を収容するための容器としては、柔軟なプラスチックフィルムからなる薬液バッグが主流である。この種の薬液バッグは、取扱いやすく、廃棄が容易であるという利点を有している。そして、この種の薬液バッグは、薬液と直接に接触するものであることから、安全性が確立されているポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンで形成されたものが汎用されている。
【0003】
薬液バッグ等の液剤容器を形成するフィルムには、従来、様々な観点からの改良がなされている。
たとえば、輸液などの液剤を収容する容器には、高温状態で高圧蒸気滅菌が行われるため、耐熱性が必要とされる。このため、ポリブチレンテレフタレートを外層に用いた医療用積層フィルムが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、輸液などの液剤が収容されたフィルム製の容器を長期保存中に、フィルムを通過して容器内に外部から空気が侵入すること、およびフィルムを通過して容器内の水分が外部に漏れ出すことを防ぐ目的で、すなわち、ガス遮蔽性および水分遮蔽性を向上させる目的で、環状ポリオレフィンを中間層に用いた多層フィルムも提案されている(特許文献2)。
【0005】
さらに、耐熱性、透明性、柔軟性に優れた医薬用耐熱容器を提供すべく、滅菌温度での残存結晶化度を特定したエチレン系樹脂組成物からなる医薬用容器ないし多層医薬用容器も提案されている(特許文献3および4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/8007号
【特許文献2】特開2002-301796号公報
【特許文献3】特開2008-253478号公報
【特許文献4】特開2013-81494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが鋭意研究したところ、液剤容器を形成する多層フィルムの外層にポリブチレンテレフタレートを使用した場合、このポリブチレンテレフタレートに由来する成分が多層フィルムを透過して内容液中に溶出するという問題があることを見い出した。
【0008】
本発明は、従来技術におけるこのような問題に鑑み、一層(たとえば外層)にポリブチレンテレフタレートを使用した多層フィルムから形成された液剤容器であって、このポリブチレンテレフタレートに由来する成分が多層フィルムを透過して内容液中に溶出することが抑制ないし防止された液剤容器、およびこのような液剤容器を形成するための多層フィルムを提供することを第1の目的としている。
【0009】
また、本発明は、耐熱性、透明性および耐衝撃性に優れた液剤容器、ならびにこのような液剤容器を形成するための多層フィルムを提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、たとえば以下の[1]~[9]に関する。
[1]
多層フィルムであって、
少なくとも、
(1)ポリブチレンテレフタレートを含む層、
(2)環状オレフィン系重合体を含む層、
(3)エチレン系樹脂を含む柔軟層、および
(4)ポリオレフィンを含む層
が積層されてなり、
前記層(1)、前記層(2)、および前記多層フィルムの一方の表面をなす前記層(4)がこの順序で積層されている多層フィルム。
【0011】
[2]
前記環状オレフィン系重合体のガラス転移温度が80~145℃である、前記[1]の多層フィルム。
【0012】
[3]
前記環状オレフィン系重合体が下記一般式(2)で表される構造単位を有する、前記[1]または[2]の多層フィルム。
【0013】
【化1】
〔式(2)において、R
3およびR
4は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成してもよく、
xは1以上の整数であり、yは0または1以上の整数であり、zは1以上の整数である。〕
【0014】
[4]
前記エチレン系樹脂の示差走査熱量分析によって得られる吸熱曲線において、下記要件[a]、[b]および[c]が満たされる前記[1]~[3]のいずれかの多層フィルム。
[a]:t=107℃のとき、Ht=55~75%である。
[b]:t=121℃のとき、Ht=65~80%である。
[c]:t=127℃のとき、Ht=70~95%である。
〔ただし、前記[a]、[b]および[c]において、Htは、示差走査熱量計により、前記エチレン系樹脂を、窒素雰囲気下で-20℃から昇温速度10℃/分で230℃まで昇温し、その温度で10分間保持し、次いで降温速度10℃/分で30℃まで降温し、その温度で1分間保持し、次いで昇温速度10℃/分で230℃まで昇温し、2度目の昇温の際に観測される吸熱曲線から、融解熱総量(ΔHm)、および融解開始温度からt℃までの間に観測される融解熱量(ht)を求め、式:Ht=ht/ΔHmにより算出される融解成分量である。〕
【0015】
[5]
前記エチレン系樹脂のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.01~10g/10分である、前記[1]~[4]のいずれかの多層フィルム。
【0016】
[6]
前記ポリオレフィンが下記要件[d]および[e]を満たす、前記[1]~[5]のいずれかの多層フィルム。
要件[d]:密度が0.900~0.960kg/cm3である。
要件[e]:メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.1~10g/10分である。
【0017】
[7]
前記ポリオレフィンがポリエチレンおよびポリプロピレンの混合物である、前記[1]~[6]のいずれかの多層フィルム。
【0018】
[8]
前記層(1)、前記層(3)、前記層(2)、前記層(3)、前記層(4)の順に積層されてなる、前記[1]~[7]のいずれかの多層フィルム。
【0019】
[9]
前記[1]~[8]のいずれかの多層フィルムから、前記層(4)が最内層となるように形成された液剤容器。
【発明の効果】
【0020】
本発明の多層フィルムを用いることにより、多層フィルムの一層(たとえば外層)にポリブチレンテレフタレートを使用しつつも、ポリブチレンテレフタレートに由来する成分が多層フィルムを透過して内容液中に溶出することが抑制ないし防止された液剤容器を製造することができる。
さらに、前記[4]の多層フィルムから形成された液剤容器は、耐熱性、透明性および耐衝撃性に特に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[多層フィルム]
本発明に係る多層フィルムは、
少なくとも、
(1)ポリブチレンテレフタレートを含む層、
(2)環状オレフィン系重合体を含む層、
(3)エチレン系樹脂を含む柔軟層、および
(4)ポリオレフィンを含む層
が積層されてなり、
前記層(1)、前記層(2)、および前記多層フィルムの一方の表面をなす前記層(4)がこの順序で積層されている
ことを特徴としている。
【0022】
(1)ポリブチレンテレフタレートを含む層:
層(1)は、ポリブチレンテレフタレートを含んでなる層である。
ポリブチレンテレフタレートとしては、従来公知のポリブチレンテレフタレートを使用することができる。その具体例として、市販品であれば、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ノバデュラン(登録商標)」が挙げられる。
【0023】
前記ポリブチレンテレフタレートのメルトボリュームフローレート(ISO 1133に準拠、250℃、2.16kg荷重)は、フィルムの成型性の観点からという観点から、好ましくは1~30cm3/10分である。
【0024】
前記ポリブチレンテレフタレートの曲げ弾性率(ISO 178に準拠)は、フィルムの柔軟性のという観点から低い方がよく、200~3000MPa、好ましくは500~2000MPa、さらに好ましくは500~1000MPaである。
【0025】
前記層(1)は、ポリブチレンテレフタレートに由来する成分、またはポリブチレンテレフタレートの製造に使用される1,4-ブタンジオ-ル等に由来する成分(たとえば、下記式で表される化合物
【0026】
【化2】
)を少量含んでいてもよい。本発明の多層フィルムにおいては、前記層(1)がこのような成分を含んでいたとしても、液剤と接する面にまでこのような成分が透過することが抑制ないし防止される。
【0027】
前記層(1)の厚さは、多層フィルムを安定に成形する観点からは、好ましくは1μm以上であり、多層フィルムから形成される液剤容器の強度を低下させない観点からは、好ましくは50μm以下である。
【0028】
(2)環状オレフィン系重合体を含む層:
層(2)は環状オレフィン系重合体を含んでなる層である。
環状オレフィン系重合体としては、従来公知の環状オレフィン系重合体を使用することができる。その具体例として、下記一般式(1)および/または下記一般式(2)で表わされる構造単位を有する重合体が挙げられる。
【0029】
【化3】
〔式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成していてもよい。mは1以上の整数であり、nは0または1以上の整数である。〕
【0030】
【化4】
〔式(2)において、R
3およびR
4は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であり、互いに結合して環を形成していてもよい。xは1以上の整数であり、yは0または1以上の整数であり、zは1以上の整数である。〕
【0031】
なお、前記一般式(2)は、重合体中に環状オレフィン由来の構造単位がx個、およびエチレン由来の構造単位がz個存在することを表しており、必ずしも、x個の環状オレフィン由来の構造単位からなるブロックとz個のエチレン由来の構造単位からなるブロックとからなるブロック共重合体を表すものではない。
【0032】
前記一般式(1)で表わされる構造単位を有する重合体は、単量体として、例えば
ノルボルネン、ならびにそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体(例えば、5-メチル-2-ノルボルネン、5,6-ジメチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン)(以下「ノルボルネン系モノマー」とも記載する。);
シクロペンタジエン、2,3-ジヒドロジシクロペンタジエン、及びこれらのメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル置換体;
メタノオクタヒドロナフタレン、ならびにそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体(例えば、6-メチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、6-エチリデン-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン);
シクロペンタジエンの3~4量体(例えば、4,9:5,8-ジメタノ-3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-1H-ベンゾインデン、5,8-メタノ-3a,4,4a,5,8,8a,9,9a-オクタヒドロ-1H-ベンゾインデン、5,8-メタノ-1,4,4a,4b,5,8,8a,9b-オクタヒドロ-1H-フルオレン、4,11:5,10:6,9-トリメタノ-3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a-ドデカヒドロ-1H-シクロペンタアントラセン)
から選ばれる単量体を使用し公知の開環重合法により重合して得られる開環重合体を、通常の水素添加方法によって水素添加して製造される飽和重合体である。
【0033】
前記一般式(2)で表わされる構造単位を有する重合体は、前記ノルボルネン系モノマーとエチレンとを公知の方法により共重合して得られる重合体および/またはその水素添加物であって、いずれも飽和重合体である。
【0034】
前記一般式(1)で表わされる構造単位を有する環状オレフィン系重合体としては、市販品であれば日本ゼオン(株)製の「ゼオノア(登録商標)」が挙げられる。
前記一般式(2)で表わされる構造単位を有する環状オレフィン系重合体としては、市販品であれば三井化学(株)製の「アペル(登録商標)」、TOPAS ADVANCED POLYMERS GmbH製の「トパス(登録商標)」が挙げられる。
【0035】
前記層(1)を構成するポリブチレンテレフタレートに由来する溶出物の透過を防止する観点からは、前記一般式(2)で表わされる構造単位を有する環状オレフィン系重合体が特に好ましい。
【0036】
前記環状オレフィン系重合体の、以下の方法で測定されるガラス転移温度(Tg)は、前記層(1)を構成するポリブチレンテレフタレートに由来する溶出物の透過を防止する観点からは、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、多層フィルムから形成された液剤容器の柔軟性を低下させない観点から、好ましくは145℃以下であり、より好ましくは135℃以下である。
【0037】
<ガラス転移温度の測定方法>
示差走査熱量計を用いて、約10mgの試料を窒素雰囲気下で30℃から昇温速度50℃/分で200℃まで昇温し、その温度で10分間保持した。さらに降温速度10℃/分で-100℃まで冷却し、その温度で5分間保持した後、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温する。2度目の昇温の際に、比熱の変化によりDSC曲線が屈曲し、ベースラインが平行移動する形で感知される。この屈曲より低温のベースラインの接線と、屈曲した部分で傾きが最大となる点の接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とする。
【0038】
前記環状オレフィン系重合体の、トルエンを溶媒としてゲルパーミエーション分析により測定される分子量は、好ましくは1~10万、より好ましくは1~8万である。
前記層(2)の厚さは、多層フィルムを安定に成形する観点からは、好ましくは5μm以上であり、多層フィルムの透明性の観点からは、好ましくは20μm以下である。
【0039】
前記層(2)は、隣接する層との溶着性を高めるため、環状ポリオレフィン以外の樹脂を含んでいてもよい。このような樹脂の例としては、後述するポリオレフィンを含む層(4)に用いられるポリオレフィンが挙げられる。
【0040】
(3)エチレン系樹脂を含む柔軟層:
柔軟層(3)はエチレン系樹脂を含んでなる層である。
前記エチレン系樹脂の例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、および高密度ポリエチレンが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記エチレン系樹脂としては、耐熱性、透明性および耐衝撃性の観点から、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの混合物が好ましい。この混合物における(高密度ポリエチレンの質量)/(直鎖状低密度ポリエチレンの質量)の値は、たとえば95/5~5/95、好ましくは10/90~50/50である。また、この混合物における高密度ポリエチレンとしてはエチレン単独重合体が好ましい。
【0042】
これらのエチレン系樹脂の製造方法としては、スラリー法、溶液法、気相法などが挙げられる。これらの方法でエチレン系樹脂を製造する場合、用いられるオレフィン重合用触媒の例としては、塩化マグネシウム担持チタン触媒、フィリップス触媒、およびメタロセン触媒が挙げられる。
【0043】
前記エチレン系樹脂の密度は、好ましくは955~900kg/m3、より好ましくは930~905kg/m3である。
また、前記エチレン系樹脂のメルトフローレート(ASTM D1238に準拠、190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.01~10g/10分、より好ましくは0.1~2g/10分である。
【0044】
前記エチレン系樹脂の示差走査熱量分析によって得られる吸熱曲線において、好ましくは下記要件[a]、[b]および[c]が満たされる。
[a]:t=107℃のとき、Ht=55~75%である。
[b]:t=121℃のとき、Ht=65~80%である。
[c]:t=127℃のとき、Ht=70~95%である。
〔ただし、前記[a]、[b]および[c]において、Htは、示差走査熱量計により、前記エチレン系樹脂を、窒素雰囲気下で-20℃から昇温速度10℃/分で230℃まで昇温し、その温度で10分間保持し、次いで降温速度10℃/分で30℃まで降温し、その温度で1分間保持し、次いで昇温速度10℃/分で230℃まで昇温し、2度目の昇温の際に観測される吸熱曲線から、融解熱総量(ΔHm)、および融解開始温度からt℃までの間に観測される融解熱量(ht)を求め、式:Ht=ht/ΔHmにより算出される融解成分量である。〕
【0045】
前記エチレン系樹脂が前記要件[a]、[b]および[c]を満たすと、本発明の多層フィルムから形成される液剤容器は、121℃の高温条件下での滅菌を行っても大きなシワ等の変形の発生が起こらず、十分な耐熱性を有し、滅菌後の日本薬局方(第十七改正)の透明性試験第1法に記載される紫外可視吸光度測定法による波長450nmの透過率が55%以上と高く、さらに落袋等による内溶液漏れが防止され、耐衝撃性に優れる。
【0046】
前記要件[a]、[b]および[c]を満たすエチレン系樹脂は、たとえば上述した高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの混合物を製造する際に、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとの割合、直鎖状低密度ポリエチレンの密度または融点などを適宜調整することにより製造することができる。
【0047】
前記柔軟層(3)の厚さは、多層フィルムを安定に成形する観点からは、好ましくは5μm以上であり、多層フィルムの透明性の観点からは、好ましくは200μm以下である。
【0048】
(4)ポリオレフィンを含む層:
層(4)は、ポリオレフィンを含んでなる層である。ただし、層(4)は、通常、ポリブチレンテレフタレート、および環状オレフィン系重合体のいずれも含まない。
【0049】
このポリオレフィンとしては、多層フィルムから形成された液剤容器の最内層に従来使用されているポリオレフィンを使用することができる。
前記ポリオレフィンの例としては、エチレン系重合体およびプロピレン系重合体が挙げられる。
【0050】
前記ポリオレフィンは各種ポリオレフィン、たとえば前記エチレン系重合体と前記プロピレン系重合体との混合物であってもよい。
前記ポリオレフィンの密度(ASTM D1505に準拠、23℃)は、たとえば900~960kg/m3、好ましくは920~950kg/m3である(要件[d])。
【0051】
前記ポリオレフィンのメルトフローレート(ASTM D1238に準拠、190℃、2.16kg荷重)は、たとえば0.1~10g/10分、好ましくは1~10g/10分である(要件[e])。
【0052】
前記エチレン系重合体の例としては、市販品であればハイゼックス(登録商標)65150B、ウルトゼックス(登録商標)4020B(いずれも、プライムポリマー(株)製)などが挙げられる。
【0053】
前記プロピレン系重合体の例としては、市販品であればプライムポリプロ(登録商標)J102WA(プライムポリマー(株)製)などが挙げられる。
前記エチレン系重合体は、主要構造単位がエチレンから誘導される構造単位(以下「エチレン単位」という。)である重合体である。前記エチレン系重合体の例としては、エチレンホモポリマー、および少量たとえば10モル%以下、好ましくは5モル%以下の炭素数3~20のα-オレフィンから誘導される構造単位を含むエチレン・α-オレフィンランダム共重合体が挙げられる。
【0054】
前記エチレン系重合体のメルトフローレート(ASTM D1238に準拠、190℃、2.16kg荷重)は、たとえば0.1~20g/10分、好ましくは1~10g/10分である。
【0055】
前記エチレン系重合体の密度(ASTM D1505に準拠、23℃)は、たとえば900~960kg/m3、好ましくは920~950kg/m3である。
前記プロピレン系重合体は、主要構造単位がプロピレンから誘導される構造単位(以下「プロピレン単位」という。)である重合体である。前記プロピレン系重合体の例としては、プロピレンホモポリマー、および少量たとえば10モル%以下、好ましくは5モル%以下の炭素数2または4~20のα-オレフィンから誘導される構造単位を含むプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体が挙げられる。
【0056】
前記プロピレン系重合体のメルトフローレート(ASTM D1238に準拠、230℃、2.16kg荷重)は、たとえば0.1~20g/10分、好ましくは1~10g/10分である。
前記層(4)の厚さは、多層フィルムを安定に成形する観点からは、好ましくは5μm以上であり、多層フィルムの透明性の観点からは、好ましくは50μm以下である。
【0057】
(多層フィルム)
本発明に係る多層フィルムは、少なくとも、前記層(1)、前記層(2)、前記柔軟層(3)および前記層(4)が積層され、かつ前記層(1)、前記層(2)、および前記多層フィルムの一方の表面をなす前記層(4)がこの順序で積層されている。
【0058】
本発明の多層フィルムを用いることにより、多層フィルムの一層(たとえば外層)にポリブチレンテレフタレートを使用しつつも、ポリブチレンテレフタレートに由来する成分が多層フィルムを透過して内容液中に溶出することが抑制ないし防止された液剤容器を製造することができる。また、本発明の多層フィルムは、前記柔軟層(3)が前記要件[a]、[b]および[c]を満たす場合には、とりわけ耐熱性、透明性および耐衝撃性にも優れている。
【0059】
本発明の多層フィルムの層構成の例としては、層(1)、層(2)、柔軟層(3)および層(4)がこの順序で積層された構成、層(1)、柔軟層(3)、層(2)、柔軟層(3)および層(4)がこの順序で積層された構成が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る多層フィルムから形成される液剤容器の強度を向上させる観点からは、層(1)、柔軟層(3)、層(2)、柔軟層(3)および層(4)がこの順序で積層された構成が好ましい。
【0060】
本発明に係る多層フィルムの、前記多層フィルムの一方の表面をなす前記層(4)とは反対側の面には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の樹脂製フィルム、またはこれらの樹脂製フィルムに無機酸化物等が蒸着されたフィルム、あるいはアルミニウム等の金属箔が積層されていてもよい。
【0061】
隣接する各層の間、層同士の接着性を高めるための接着層が設けられていてもよい。たとえば、前記層(1)と前記柔軟層(3)とが前記接着層を介して隣接していてもよい。前記接着層は接着性樹脂を含んでなる層であってもよい。
【0062】
本発明に係る多層フィルムの厚さは、用途に応じて、たとえば本発明に係る多層フィルムから液剤容器を形成する場合であれば、液剤容器に要求される強度、柔軟性等に応じて適宜設定され、通常100~300μm、好ましくは100~200μmである。
【0063】
(多層フィルムの製造方法)
本発明に係る多層フィルムは、各層の材料として上記の材料を用いる点を除けば従来公知の方法、たとえば、水冷式または空冷式共押出しインフレーション法、共押出しTダイ法、ドライラミネーション法および押出しラミネーション法により製造することができる。これらの方法の中でも、とりわけ、透明性および衛生性などの観点から、水冷共押出しインフレーション法および共押出しTダイ法が好ましい。
【0064】
[液剤容器]
本発明の液剤容器は、上述した本発明の多層フィルムから、前記層(4)が最内層となるように、すなわち収容物と接する面となるように形成されていることを特徴としている。
【0065】
本発明の液剤容器によれば、この液剤容器を形成する多層フィルムの一層(たとえば外層)にポリブチレンテレフタレートを使用しつつも、ポリブチレンテレフタレートに由来する成分が多層フィルムを透過して内容液中に溶出することが抑制ないし防止される。また、本発明の液剤容器は、前記柔軟層(3)が前記要件[a]、[b]および[c]を満たす場合には、とりわけ耐熱性、透明性および耐衝撃性にも優れている。
【0066】
本発明の液剤容器は、2枚の本発明の多層フィルムを、前記層(4)同士を重ね合わせ、その周縁部を加熱圧着することによって製造することができる。
また、たとえば、本発明の多層フィルムを、前記層(4)が収容物に接する面となるように、インフレーション法によって袋状に形成し、こうして得られた袋状の本発明の多層フィルムの周縁部を加熱圧着することによっても形成することができる。
【0067】
加熱圧着の条件は、たとえば、温度は、好ましくは130~200℃、さらに好ましくは150~180℃であり、圧力は、好ましくは0.1~0.8MPa、さらに好ましくは0.15~0.5MPaであり、加圧時間は、好ましくは1~5秒、さらに好ましくは1.5~3秒である。
【0068】
本発明の液剤容器には、液剤容器内部に収容されている薬液等の液剤を、液剤容器外部へ流出させ、または、液剤容器外部から液剤容器内部へと薬液を流入させるための部材として、筒状部材が配置されていてもよい。
【0069】
さらに本発明の液剤容器は、容器内に易剥離シール部を形成し、使用時にシールを剥離し収容物を混合することが可能な複室容器としてもよい。
本発明の液剤容器を滅菌する場合、その方法としては、従来行われている方法を適用することができ、たとえば、液剤容器内部に薬液、その他の収容物を収容し、密閉した後に、液剤容器を滅菌処理する方法が挙げられる。
【0070】
滅菌処理方法としては、たとえば高圧蒸気滅菌、熱水シャワー滅菌等の、公知の加熱滅菌方法が挙げられる。
加熱滅菌処理における滅菌処理温度は、一般に、105~110℃程度であるが、薬液の種類、用法、使用環境などに合わせて、滅菌処理温度を118~121℃に設定してもよい。本発明の液剤容器は、前記柔軟層(3)が前記要件[a]、[b]および[c]を満たす場合には、とりわけ耐熱性に優れ、121℃で滅菌処理を行っても、大きなシワ等の変形が発生しない。
【実施例0071】
以下、実施例等に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
<樹脂物性の測定方法>
実施例等で使用された樹脂の物性は、以下の方法で測定した。
【0072】
[メルトフローレート(MFR)]
ASTM D1238Eに準拠して、2.16kg荷重でメルトフローレートを測定した。測定温度は190℃または230℃とした。
【0073】
[密度]
密度は、ASTM D1505に従い、23℃にて測定した。
【0074】
[融点(Tm)、融解成分量(Ht)]
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7)を用いて、約5mgの試料をアルミパンに詰め、窒素雰囲気下で-20℃から昇温速度10℃/分で230℃まで昇温し、その温度で10分間保持した。次に、降温速度10℃/分で30℃まで降温し、その温度で1分間保持した後、昇温速度10℃/分で230℃まで昇温した。
【0075】
さらに、上述した2度目の昇温の際に観測される吸熱曲線において、融解熱総量(ΔHm)、および融解開始温度からt℃までの間に観測される融解熱量(ht)を測定し、下式により融解成分量(Ht)を算出した。
Ht=ht/ΔHm
【0076】
<使用樹脂>
実施例等では、多層フィルムの各層の原料として、以下の樹脂(1)~樹脂(4-5)が使用された。代表的物性ないし商品名を示す。
(1)ポリブチレンテレフタレート
樹脂(1-1):ノバデュラン(登録商標)5505S(三菱ケミカル(株)製)
(2)環状オレフィン系重合体
樹脂(2-1):APEL(登録商標)6011T(三井化学(株)製、ガラス転移温度:105℃)
樹脂(2-2):TOPAS(登録商標)5013S-4(TOPAS ADVANCED POLYMERS GmbH製、ガラス転移温度:134℃)
(3)エチレン系樹脂組成物
樹脂(3-1):20質量部の高密度ポリエチレン(エチレン単独重合体)と80質量部のエチレン・α-オレフィン共重合体(直鎖状低密度ポリエチレン)とを混合して、
密度が912kg/m3、
メルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)が0.5g/10分、かつ
融解成分量(Ht)がt=107℃のとき71%、t=121℃のとき79%かつt=127℃のとき95%
となるように調製されたエチレン系樹脂組成物
(4)ポリオレフィン等
樹脂(4-1):ポリエチレン(密度:937kg/m3、MFR(190℃、2.16kg荷重):2g/10分)
樹脂(4-2):ポリエチレン(密度:957kg/m3、MFR(190℃、2.16kg荷重):1g/10分)
樹脂(4-3):ポリエチレン(密度:959kg/m3、MFR(190℃、2.16kg荷重):15g/10分)
樹脂(4-4):ポリプロピレン(MFR(230℃、2.16kg荷重):4g/10分)
樹脂(4-5):ポリエチレン(密度:900kg/m3、MFR(190℃、2.16kg荷重):0.4g/10分)
【0077】
<多層フィルムおよび液剤容器の製造>
[実施例1~3]
(1.多層フィルムの製造)
下記表1に示す、第1層、第2層、第3層、第4層および第5層がこの順序で積層されてなる構成の多層フィルムを、5層共押出し水冷インフレーション成形により製造した。
【0078】
【0079】
(2.液剤容器の製造)
得られた多層フィルムを15cm×14cmの大きさに切り取り、第5層を内側にして2枚を重ねあわせ、周縁部を5mm幅で熱シールして液剤容器を製造した。
【0080】
<液剤容器の評価>
(1.溶出成分量)
各実施例等で製造された液剤容器に、大豆油15g/L、ブドウ糖70g/L、さらにアミノ酸、電解質、およびビタミンを含有する液剤150mLを封入し、121℃で高圧蒸気滅菌を行った。その後、60℃75%RHの条件下で2週間保存した。保存後、ポリブチレンテレフタレートからの溶出物(表3に示す。)を、液体クロマトグラフィー(条件は以下のとおりである。)にて確認した。
【0081】
液体クロマトグラフィー測定条件:
抽出液を10mL正確にとり、塩化ナトリウム1g、アセトニトリル10mLおよび硫酸マグネシウム4gをそれぞれ加え、1分間激しく振り混ぜた後、毎分2000回転にて5分間遠心分離を行い、上層をナス型フラスコに分取する。残った下層に、アセトニトリル10mLを加え、1分間激しく振り混ぜた後、毎分2000回転で5分間遠心分離を行い、上層を先の上層にあわせ、40℃±10℃で減圧留去する。残留物に水/アセトニトリル混液(1:1)を加えて正確に10mLとし、試料溶液とする。別に、PBT-CD(表3、4参照)を10mg正確に測り、アセトンを加えて溶かし正確に100mLとする。この液10mLを正確に取り、アセトニトリルを加えて正確に100mLとし、標準原液とする。各標準原液それぞれを5mL正確に量り、アセトニトリルを加えて正確に50mLとする。この液4mLを正確にとり、5mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.0)を加えて正確に50mLとし、標準溶液とする。標準溶液および試料溶液100μLずつを正確に採り、次の条件で液体クロマトグラフィーにより試験を行い、それぞれの液の溶出物質のピーク面積AtおよびAsを測定する。下式によって、液剤中のPBT-CDの濃度(μg/L)を算出する。
【0082】
液剤中のPBT-CDの濃度(μg/L)
=(M/10)×(At/As)×0.08×C×1000
M:PBT-CDの秤取量(mg)
As:標準液中のPBT-CDのピーク面積
At:試料液中のPBT-CDのピーク面積
C:補正係数:10/7
【0083】
試験条件:
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:260nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する(ZORBAX SB-C18、4.6mmID×150mm、5μm、agilent社製)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:5mM酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.0)
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相Aおよび移動相Bの混合比を次のように変えて濃度勾配制御
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
結果を表5に示す。
【0088】
【表5】
実施例1~3の何れにおいても、ポリブチレンテレフタレート由来の溶出物が液剤中へ溶出することは、防止されていた。
【0089】
(2.耐熱性、透明性および耐衝撃性)
耐熱性:
実施例で得られた多層フィルムを20cm×28cmの大きさに切り取り、第5層を内側にして2枚を重ねあわせ、周縁部を5mm幅で熱シールして液剤容器を製造した。得られた液剤容器に蒸留水1000mLを封入し、121℃、15分間の高圧蒸気滅菌で処理後、液剤容器の四隅でシワの発生の有無および程度を目視で観察し、観察結果に基づいて、以下の基準で耐熱性を評価した。
◎:シワを認めない
○:顕著なシワを認めない(僅かなシワを認める)
×:顕著なシワを認める
【0090】
透明性:
前記耐熱性試験時と同様に作製した液剤容器に蒸留水1000mLを封入し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌処理後、液剤容器から溶剤と接触していた部分の多層フィルムを切り取って試料片を作製し、この試料片について、紫外可視分光光度計によりを用い、450nmでの水中光線透過率(%)を測定し、測定結果に基づいて、以下の基準で透明性を評価した。
◎:水中光線透過率が70%以上
○:水中光線透過率が65%以上、70%未満
×:水中光線透過率が65%未満
【0091】
耐衝撃性:
前記耐熱性試験時と同様に作製した液剤容器に蒸留水1000mLを封入し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌処理後、0℃の温度条件下で48時間以上保管した。その後、平らな作業台上に液剤容器を設置し、その上方の50cmの高さから、重さ6.4kgの鉄板(幅30cm、長さ32cm)を水平に落下させ、以下の基準で耐衝撃性を評価した。
○:破袋が生じなかった。
×:破袋が生じた。
【0092】
【0093】
<多層フィルムおよび液剤容器の製造>
[実施例4、比較例1]
(1.多層フィルムの製造)
下記表7に示す、第1層、第2層、第3層、第4層、および第5層がこの順序で積層されてなる構成の多層フィルムを、5層共押出し水冷インフレーション成形により製造した(実施例4)。また、第1層、第2層、および第5層がこの順序で積層されてなる構成の多層フィルムを、3層共押出し水冷インフレーション成形により製造した(比較例1)。
【0094】
【0095】
(2.液剤容器の製造)
得られた多層フィルムを15cm×14cmの大きさに切り取り、第6層を内側にして2枚を重ねあわせ、周縁部を5mm幅で熱シールして液剤容器を製造した。
【0096】
<液剤容器の評価>
(溶出成分量)
各実施例等で製造された液剤容器に、(1)水、(2)塩化アンモニウムを1.33g量り取り、1,000mLの水に溶かし、アンモニア水(28%)を少量ずつ滴下しながらpH8.5とした液剤(pH8.5緩衝液)、または(3)ギ酸アンモニウムを1.58g量り取り、1,000mLの水に溶かし、ギ酸を加えてpH3.5とした液剤(pH3.5緩衝液)を、それぞれ150mL封入し、121℃で高圧蒸気滅菌を行った。その後、60℃75%RHの条件下で2週間保存した。保存後、ポリブチレンテレフタレートからの溶出物(表8に示す。)を、液体クロマトグラフィー(条件は実施例1~3と同じである。)にて確認した。
【0097】
【0098】
結果を表9に示す。
【0099】
【0100】
比較例1に比べて実施例4では、ポリブチレンテレフタレート由来の溶出物が液剤中へ溶出することは、防止されていた。