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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158708
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】摺動部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20221006BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20221006BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
F16C33/12 B
F16C33/14 A
F16C33/12 A
F04C29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063790
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】山本 絢子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良文
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 紀仁
(72)【発明者】
【氏名】井上 大嵩
(72)【発明者】
【氏名】松岡 明宏
【テーマコード(参考)】
3H129
3J011
【Fターム(参考)】
3H129AA01
3H129AB03
3H129BB50
3H129CC09
3H129CC38
3J011DA01
3J011DA02
3J011LA01
3J011MA02
3J011SB03
3J011SB05
3J011SB19
3J011SC01
(57)【要約】
【課題】冷凍機等の圧縮機に用いられる摺動部材の摺動面の端縁の耐焼付き性に変化を与えるべく簡易な方法を提供する。
【解決手段】青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には多孔質基材と樹脂材料とがともに露出する冷凍機用圧縮機の摺動部材の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
裏金層の表面に青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで多孔質基材を形成するステップと、
多孔質基材へ樹脂材料を含浸させるステップと、
該裏金層の端縁を摺動面から離れる方向に変形するステップと、
樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、
を備えてなる摺動部材の製造方法。
【選択図】 図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材であって、
前記摺動面の中央部に比べその端縁における前記多孔質基材の露出面積割合が小さい、摺動部材。
【請求項2】
前記端縁の幅は5mm以下である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記摺動面の前記端縁を構成する前記多孔質基材は、それ以外の部分より厚い、請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記多孔質基材は裏金層の表面に形成され、前記裏金層は前記端縁を支える部分において前記摺動面から離れる方向に変形されている、請求項3に記載の摺動部材。
【請求項5】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成するステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させるステップと、
該裏金層の端縁を前記摺動面から離れる方向に変形するステップと、
前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、
を備えてなる摺動部材の製造方法。
【請求項6】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成するステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させるステップと、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた前記裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成するステップと、
前記第1中間体を所定の円筒形状に成形し、端縁を摺動面から離れる方向に変形して、第2中間体を形成するステップと、
前記第2中間体において前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、を備えてなる摺動部材の製造方法。
【請求項7】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成するステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させるステップと、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた前記裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成するステップと、
前記第1中間体の端縁を摺動面から離れる方向に変形するステップと、
該変形された第1中間体を所定の円筒形状に形成して第2中間体を形成するステップと、
該第2中間体において前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、を備えてなる摺動部材の製造方法。
【請求項8】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材とハウジングとを備える摺動装置の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成するステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させるステップと、
該裏金層の端縁を前記摺動面から離れる方向に変形するステップと、
前記裏金層を前記ハウジングに圧入するステップと、
前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、
を備えてなる摺動装置の製造方法。
【請求項9】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材とハウジングとを備える摺動装置の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成するステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させるステップと、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた前記裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成するステップと、
前記第1中間体を所定の円筒形状に成形し、端縁を摺動面から離れる方向に変形して、第2中間体を形成するステップと、
該第2中間体を前記ハウジングに圧入するステップと、
前記第2中間体において前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、を備えてなる摺動装置の製造方法。
【請求項10】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材とハウジングとを備える摺動装置の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成するステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させるステップと、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成するステップと、
前記第1中間体の端縁を摺動面から離れる方向に変形するステップと、
該変形された第1中間体を所定の円筒形状に形成して第2中間体を形成するステップと、
第2中間体を前記ハウジングに圧入して、前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、を備えてなる摺動装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍機用圧縮機に用いられる摺動部材及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機用圧縮機に用いられる摺動部材は裏金層と摺動層とを備える。摺動層は多孔質基材とそこに含浸される樹脂材料とからなる。多孔質基材は青銅系合金の粒子を積層してそれを焼結した構造である。樹脂材料は四フッ化エチレン系合成樹脂と潤滑剤との複合物質であり、塩素フリーである昨今の冷凍機用冷媒に対応している。
かかる摺動部材の摺動面には、青銅系合金からなる多孔質基材と樹脂材料がともに表出しており、多孔質基材の露出面積割合を5%以上かつ60%以下とすることが特許文献1で提案されている。
また、特許文献2では、摺動部材の摺動面の端縁を青銅系合金からなる多孔質基材よりも耐焼付き性が高い材料で構成することが提案されている。摺動部材の摺動面の端縁を耐焼付き性の高い材料で形成することにより、片当たりに起因する焼付き等の不具合を未然に防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-132540号公報
【特許文献2】特開2020-193626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摺動部材の摺動面の端縁を青銅系合金からなる多孔質基材よりも耐焼付き性が高い材料で構成するため、特許文献2に開示の技術では、摺動面の中央を構成する第1材料と端縁を構成する第2材料とを異なるものとしている。特許文献2に記載のように、摺動面の中央部とその端縁と別の材料で形成するためには、摺動面の中央部を第1材料で形成した後、第2材料でその端縁を形成するものと考えられる。
このような2色成形を実行することには手間がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは摺動部材の摺動面の端縁の耐焼付き性を向上する方法を検討してきた。そして、青銅系合金の粒子を焼結してなる多孔質基材はその厚さ方向に密度が異なることを利用して、耐焼付性を向上する簡易な方法を検討した。即ち、多孔質基材はその表面において密度が最も小さく、深くなるにつれてその密度が大きくなることに気が付いた。
摺動部材の多孔質基材には樹脂材料が充填されているので、多孔質基材の密度が小さくなれば樹脂材料の密度が大きくなり、もってその耐焼付き性が向上する。かかる多孔質基材の特性に着目して、この発明に想到した。
【0006】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には多孔質基材と樹脂材料とがともに露出する摺動部材を製造するに際し、まずは裏金層3を準備し、その後、裏金層3の端縁4を予め凹ませる(摺動面Sから離れる方向へ変形させておく)こととした(図1A図3B参照)。このように加工された裏金層3の全表面へ、予定された摺動層10(図3B参照)より厚くなるように、均等に青銅系合金の粒子5を積層し、これを焼結させて多孔質基材7とする。(図1B参照)。その後、樹脂材料9を含浸させる(図2)。
次に、図3Aに示すように、樹脂材料9を含浸させた多孔質基材7を面Kにおいて切断する。この面Kは、裏金層3の軸に対して等距離にある面である。
裏金層の変形は、多孔質基材へ樹脂材料を含浸させた後に行うことが好ましいが、多孔質基材を形成する前であっても、多孔質基材の形成と樹脂材料の含浸の間であってもよい。
また、図1の例では、端縁4を傾斜面としているが、端縁4と他の部分(中央部)との間に段差を設け、この段差から傾斜を設けて端縁4とすることができる。段差から先端までを平坦(中央部と平行)とすることもできる。
【0007】
切断された面が摺動面Sとなる(図3B参照)。
この摺動面Sにおいて、裏金層3の端縁4に該当する端縁SEと中央部SCとでは、多孔質基材7の厚さが異なり、前者が後者より厚くなっている。
ここに、多孔質基材7は表面側になるにつれ密度が小さくなるので、摺動面Sの端縁SEは中央部SCに比べて、多孔質基材7の密度が小さくなる。
換言すれば、摺動面Sの中央部SCに比べその端縁SEにおける多孔質基材7の露出面積割合が小さくなる。
その結果、特に材料に変化を与えることなく、換言すれば、2色成形をすることなく、当該端縁SEの耐焼付き性を中央部SCのそれに比べて向上させられる。
【0008】
以上より、この発明の第1局面は次のように規定できる。
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成するステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させるステップと、
該裏金層の端縁を前記摺動面から離れる方向に変形するステップと、
前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成するステップと、
を備えてなる摺動部材の製造方法。
【0009】
このようにして製造される摺動部材は、その構造からみて次のように規定される。
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材であって、
前記摺動面の中央部に比べその端縁における前記多孔質基材の露出面積割合が小さい、摺動部材。
このように規定される摺動部材によれば、摺動面の端縁において多孔質基材の露出面積割合が小さくされ、摺動性が向上する。その結果、片当たりによる焼付き等を防止できることとなる。
【0010】
なお、既述の第1局面の製造方法以外の製造方法によって、摺動面における多孔質基材の露出面積割合を制御可能である。例えば、摺動面の中央部に比べ端縁を構成する青銅系合金粒子の粒径を大きくすることで、端縁における多孔質基材の露出面積割合を小さくすることができる。
【0011】
本発明者らの検討によれば、摺動面においてその多孔質基材の露出面積割合を小さくすべき端縁の幅は5mm以下とすることが好ましい。5mm以下とすることで片当たりによる焼付き等を効果的に防止できる。5mmを超えると摺動面全体の耐久性が低下するおそれがある。
別の見方をすれば、端縁の幅は摺動全体の10~90%とすることができる。
端縁と中央部との境界は線引きできるように明確に現れるものではないが、例えば中央部に比べて、露出面積割合が5%以上少なくなった領域をもって端縁とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はこの発明の摺動部材の製造方法において準備される裏金層(A)と該裏金層の表面に形成された多孔質基材(B)を示す模式図である。
図2図2は同じく多孔質基材に樹脂材料を含浸させた状態を示す模式図である。
図3図3(A)は多孔質基材に樹脂材料を含浸させたものに対する切断面K示し、切断後の構造を(B)に示す。
図4図4は多孔質基材の深さと露出面積割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
裏金層3は鋼材からなる部材である。その径、長さ及び厚さは適用される冷凍機用圧縮機に応じて適宜選択される。
この例では、裏金層3の両端縁4へいわゆるクラウニング加工が施されてそこが凹まされており、摺動面から離れる方向の傾斜面とされている。端縁4の長さは任意に設計可能であるが、5mm以下とすることが好ましい。
端縁4の賦形方法は後述する。
【0014】
裏金層として例えば平板状の鋼板を準備し、その表面に青銅系合金粒子を積層する。青銅系合金粒子の積層が可能であれば、裏金層となる鋼板の形状は特に限定されない。
銅-スズ合金からなる青銅系合金粒子の粒径は軸受部材に要求される特性に応じて任意に選択可能であるが、その平均粒径は50~200μmとすることができる。使用した粒子は真球状だけではなく、異なった形状でもよい。
積層の方法は裏金層3の材質や求める厚さに応じて任意に選択可能であるが、例えば青銅系合金を裏金層3の表面に散布し、その後、ヘラ等で厚さを均一にする。
青銅系合金粒子を積層した後、その粒子の形状を維持する条件で焼結する。これにより、粒子同士が融着して多孔質基材7が構成される。この多孔質基材7は裏金層3にも融着する。
【0015】
このようにして形成される多孔質基材7は、図1(B)に模式的に示すように、裏金層3側から表面側に向かうにつれて漸次その密度が小さくなる。
図4は多孔質基材7の厚さと露出面積割合との関係を示す。グラフの横軸は樹脂材料9が含浸された多孔質基材7を表面から削った厚さ(μm)、縦軸はその削ったときの露出面積割合(%)を示す。図4において上側の線は裏金層3の中央部の値を示し、下側の線は端縁4の値を示す。露出面積割合(%)は削った深さにおける表面の画像を撮影し、多孔質基材7の部分と他の部分との明度の差を二値化処理し、その面積割合から求めることができる。
なお、図4の結果を得るため、鋼材製裏金層3の表面へ青銅系合金粒子を300μmの厚さまで散布し、ヘラ等で厚さを均一にした。その後、還元雰囲気で900℃×20分の条件で焼結した。その後、樹脂材料を含浸させた多孔質基材を各深さまで切削して得た表面を画像処理し、それぞれの深さにおける表出面積割合を算出した。
【0016】
図1(B)に示した多孔質基材7の空隙を埋めるように含浸される樹脂材料9は摺動部材の用途に応じて任意に選択できる。
樹脂材料9の母材となる樹脂としてはフッ素樹脂等の耐久性に優れた合成樹脂を採用することが好ましい。この樹脂材料9には潤滑剤や耐摩耗剤を含有させることが好ましい。潤滑剤としては二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を挙げられる。耐摩耗剤としては硫酸バリウムのような無機材料や金属材料等を挙げられる。
【0017】
このように準備されたフッ素樹脂からなる樹脂材料9を多孔質基材7へ含浸させる。
含浸させたこの樹脂材料9を加熱等の方法で焼成する。
これにより、多孔質基材7の孔(空隙)を樹脂材料9が埋めた構造体(ハイブリッド体)が得られる(図2参照)。図4によれば、表面から120μm削ったとき、その表面における多孔質基材7の露出面積割合は60%である。
【0018】
このようにして平板状の裏金層の表面に多孔質基材7と樹脂材料9のハイブリッド体が積層される。これを製品幅に切断して第1中間体を形成する。ハイブリッド体が内周面側となるようにこの第1中間体を円筒形状に賦形する。円筒形状に賦形されたものの端縁を外周面側に、即ち摺動面から離れるように、変形させて端縁を賦形し、もって第2中間体とする。なお、第1中間体の端縁を予め変形させおくことで第2中間体を得ることもでききる。
かかる第2中間体を冷凍機等の圧縮機のハウジングに圧入する。そして、その内周面を図3(A)に示す通り、K面でカットする。カットされた面が摺動面Sとなる。裏金層3の中央部における削り深さを60μmとなるようにK面を設定すると、図4の例に従えば、摺動面Sの中央部SCにおける露出面積割合は33%であるのに対し、摺動面Sの端縁SEでは露出面積割合は20%弱となる。
なお、摺動面における露出面積割合は、図4の結果をもとに、任意に選択できる。
【実施例0019】
外径寸法が40mm、厚さ2mm、長さ35mmの鋼材製の円筒を裏金層3として、その内周面の両端縁に軸方向に5mm幅のクラウニング加工が施されている。最端部における切削深さは20μmであった。
青銅系合金粒子を準備し、裏金層3の全域に積層した。
積層の厚さは300μmであった。
その後、還元雰囲気で900℃×20分の条件で焼結して、粒子同士の表面を融着させた。
【0020】
樹脂材料9の樹脂マトリックスには旭硝子社製の「CD097」PTFEを採用し、潤滑剤には二硫化モリブデンを採用した。両者の配合比は85:15である。
樹脂マトリックスへ潤滑剤を分散させ、これを多孔質基材に含浸した。その後、加熱処理して樹脂材料を焼成した。
焼成後、裏金層3の中央部において多孔質基材7の削り深さが60μmとなるように、多孔質基材7と樹脂材料9のハイブリッド体を切削し、摺動面Sを形成した。かかる摺動面Sの中央部SCにおける多孔質基材の7の露出面積割合は33%であった。他方、端縁SEにおける露出面積割合は18%であった。この例では端縁SEの中央での露出面積割合を採用しているが、端縁SEの全域の平均値を採用してもよい。
【0021】
多孔質基材7の切削面Kは摺動部材の軸心を中心とした仮想円筒面に存在するものとし、切削後の面が摺動面Sとなる。なお、摺動面Sの端縁SEを更にクラウニング加工することができる。かかるクラウニング加工により形成される傾斜面は、裏金層3に形成された端縁4の傾斜面より、その傾斜角を小さくすることが好ましい。当該端縁SEにおける多孔質基材7の密度を中央部SCのそれより確実に小さくするためである。
【0022】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本発明の摺動部材を用いた内燃機関等の軸受機構使用装置は、優れた摺動特性を発揮する。
【符号の説明】
【0023】
3 裏金層
4 端縁
5 青銅系合金粒子
7 多孔質基材
9 樹脂材料
S 摺動面
SE 端縁
SC 中央部


図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2022-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材であって、
前記摺動面の中央部に比べその端縁における前記多孔質基材の露出面積割合が小さい、摺動部材。
【請求項2】
前記端縁の幅は5mm以下である、請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記摺動面の前記端縁を構成する前記多孔質基材は、それ以外の部分より厚い、請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記多孔質基材は裏金層の表面に形成され、前記裏金層は前記端縁を支える部分において前記摺動面から離れる方向に変形されている、請求項3に記載の摺動部材。
【請求項5】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成する多孔質基材形成ステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させる含浸ステップと、
該裏金層の端縁を前記摺動面から離れる方向に変形する変形ステップと、
前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成する切削ステップと
を備えてなる摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記変形ステップは前記含浸ステップの後に行う、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記変形ステップは前記含浸ステップの前に行う、請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記含浸ステップの後に、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた前記裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成し、
前記第1中間体を所定の円筒形状に成形し、端縁を摺動面から離れる方向に変形して、第2中間体を形成し、
前記第2中間体において前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成する請求項5に記載の製造方法。
【請求項9】
前記含浸ステップの後に、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた前記裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成し、
前記第1中間体の端縁を摺動面から離れる方向に変形し、
該変形された第1中間体を所定の円筒形状に形成して第2中間体を形成し、
該第2中間体において前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成する、請求項5に記載の製造方法。
【請求項10】
青銅系合金からなる多孔質基材に樹脂材料を含浸させてなり、その摺動面には前記多孔質基材と前記樹脂材料とがともに露出する摺動部材とハウジングとを備える摺動装置の製造方法であって、
裏金層を準備するステップと、
前記裏金層の表面に前記青銅系合金の粒子を積層し、焼結することで前記多孔質基材を形成する多孔質基材形成ステップと、
前記多孔質基材へ前記樹脂材料を含浸させる含浸ステップと
該裏金層の端縁を前記摺動面から離れる方向に変形する変形ステップと
前記裏金層を前記ハウジングに圧入する圧入ステップと、
前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成する切削ステップと、
を備えてなる摺動装置の製造方法。
【請求項11】
前記変形ステップは前記含浸ステップの後に行う、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記変形ステップは前記含浸ステップの前に行う、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
前記含浸ステップの後に、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた前記裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成し、
前記第1中間体を所定の円筒形状に成形し、端縁を摺動面から離れる方向に変形して、第2中間体を形成し、
前記圧入ステップでは、前記第2中間体の裏金層を前記ハウジングに圧入する、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記含浸ステップの後に、
前記樹脂材料を含浸させた前記多孔質基材を備えた前記裏金層を製品幅に切断して第1中間体を形成し、
前記第1中間体の端縁を摺動面から離れる方向に変形し、
該変形された第1中間体を所定の円筒形状に形成して第2中間体を形成し、
該第2中間体において前記樹脂材料を含浸させた多孔質基材を切削して摺動面を形成し、
前記圧入ステップでは、前記第2中間体の裏金層を前記ハウジングに圧入する、請求項10に記載の製造方法。