(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158713
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】バレルめっきに使用するための水平回転バレル装置
(51)【国際特許分類】
C25D 17/20 20060101AFI20221006BHJP
C25D 17/12 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C25D17/20 C
C25D17/20 K
C25D17/20 Z
C25D17/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021063811
(22)【出願日】2021-04-02
(71)【出願人】
【識別番号】391028801
【氏名又は名称】株式会社三隆製作
(74)【代理人】
【識別番号】110002011
【氏名又は名称】特許業務法人井澤国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100072039
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 洵
(74)【代理人】
【識別番号】100123722
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 幹
(74)【代理人】
【識別番号】100157738
【弁理士】
【氏名又は名称】茂木 康彦
(74)【代理人】
【識別番号】100158377
【弁理士】
【氏名又は名称】三谷 祥子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 通正
(57)【要約】
【課題】 バレルめっき用の水平回転バレルの改良。
【解決手段】本体(1)、補助電極(2)、拡散棒(3)を含む、バレルめっきに使用するための水平回転バレル装置。拡散棒(3)は、筒状体(13)の内面に連結し、水平方向に延長し回転軸に向かって突出する長尺部材である。拡散棒(3)は、2つの傾斜面(32,33)と、2つの傾斜面(32,33)に挟まれた頂部面(31)とを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(1)、補助電極(2)、拡散棒(3)を含む、バレルめっきに使用するための水平回転バレル装置であって、
本体(1)は、
向かい合う平行な2つの側部(11,12)と、2つの側部(11,12)に挟まれた1つの筒状体(13)とを有し、
側部(11)が回転軸を囲む開口部(110)を有し、
側部(12)が回転軸を囲む開口部(120)を有し、
筒状体(13)は、回転軸に沿って向かい合う両端で2つの側部(11,12)に接続し、筒状体(13)の水平方向(回転軸方向)の寸法が側部(11)と側部(12)との距離に一致し、
筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(St)が、円形又は正多角形であり、
筒状体(13)に貫通孔(130)が形成されており、
補助電極(2)は、
側部(11)、側部(12)、筒状体(13)で囲まれた水平回転バレル装置の内部空間に配置され、
拡散棒(3)は、
筒状体(13)の内面に連結し、水平方向に延長し回転軸に向かって突出する長尺部材であって、
拡散棒(3)は、2つの傾斜面(32,33)と、2つの傾斜面(32,33)に挟まれた頂部面(31)とを有し、頂部面(31)は筒状体(3)の内表面から最も隔たる位置にあって水平方向(回転軸方向)に延長し、2つの傾斜面(32,33)は頂部面(31)に接続し筒状体(3)の内表面に向かって延長する、
水平回転バレル装置。
【請求項2】
拡散棒(3)が、筒状体(13)の周方向に対称な形状を有する、請求項1に記載の水平回転バレル装置。
【請求項3】
筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(St)が多角形である、
請求項1に記載の水平回転バレル装置。
【請求項4】
筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(St)が円形である、
請求項1に記載の水平回転バレル装置。
【請求項5】
補助電極(2)が板状の補助陽極(20)である、請求項1に記載の水平回転バレル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレルめっきに使用するための水平回転バレル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき(鍍金)は、素材の表面に金属材料を薄く被覆する技術である。めっきの歴史は長く、約3500年前に遡る。日本には3世紀なかばから6世紀末に伝わったと言われている。現在は、めっきによって、素材の表面に防食性、装飾性、耐摩耗性、電気的特性、光・熱的特性を与えている。めっきを適用する素材としては金属の他に、プラスチックやセラミックも用いられている。
【0003】
現在、めっきの方式は、水溶液を用いる湿式めっきとそれ以外の乾式めっきに大別されている。湿式めっきは、電気めっきと無電解めっきに分類される。電気めっきは、電気分解を応用してめっき液中の金属イオンを電気化学的に還元して被めっき物の表面に金属皮膜を生成させる。電気めっきは現在のめっき法で主流の方法である。なお、装飾めっきや防食めっき等の機能によって、あるいは、めっきで形成する金属の種類によって分類することもあるが、ここでは、めっきの原理や装置を基準とした分類を採用する。
【0004】
電気めっきは、使用する装置によって、めっきの対象となる物品を引っかけ治具に掛けてめっきする引っかけめっき、物品をバレル(樽)内で回転しながらめっきするバレルめっき、金属線(ワイヤー)や帯状物品(フープ)などの長尺物品を連続的にめっきする連続めっき、物品を固定して筆で塗るように部分的にメッキする筆めっき(ブラッシュめっき)に分類される。
【0005】
バレルめっきは、ボルト、ナット、ピン、ボタンなどの小型部品(以下、「ワーク」と言う)のめっきに用いられる。バレルめっきで用いるバレルは、水平向きの軸の周りに回転する水平回転バレルと、傾斜した軸の周りに回転する傾斜バレルとに大別される。
【0006】
本発明は、水平回転バレルの改良を目的としている。以下、特に水平回転バレルめっきについて紹介する。
【0007】
水平回転バレルめっきは生産性が著しく高く、また一旦操業条件がきまれば工程管理が比較的容易であるため、多用されている。バレルは、ワークを収納する中空柱状の容器である。バレルの本体は塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂などからなる。バレル本体には、ワークが落下せず、めっき液が出入りできるような孔が多数開いている。水平回転バレルめっきでは、バレルにワークを投入し、バレル全体をめっき槽に浸漬する。そして、バレルを横向きバレルの両端部を通る水平方向の軸の周りに回転させながら通電して、めっきする。
【0008】
めっきが均一につかない、すなわち、めっき厚が不均一になるという問題は、電気めっきにおける共通の課題である。水平回転電流はバレルの端部の孔から差し込まれたリード線を通じて、さらにバレル本体内のワーク同士の接触によって、バレル内のワーク全体に供給される。ワークはバレル内の底部に一つの「塊」となって堆積する。バレルの回転に伴って「塊」内のワークが混合され、「塊」の表面近くに現れたワークのみがカソードとなってめっきされる。1つのワークについて見ると、「塊」の中で混合されている期間中、「塊」の表面にある短い時間に大電流でめっきされ、その後は「塊」の内部に移動してほとんど電流ゼロの状態に戻る、という状態が繰り返される。この現象が、特にバレルめっきではめっき厚のばらつきが生じやすい原因となっている。
【0009】
ワークが「塊」内部と「塊」表面との間で頻繁に移動するようにバレルを高速回転すると、ワーク同士の衝突によってワークの変形が起こりやすい。バレルの回転が不足すると、平板状ワークでは混合が不足して無めっき部が生じやすい。
【0010】
このようなワークの状態変化や「塊」内の電流分布の基礎研究として、統計的な解析による膜厚保分布のモデル、ワークの「塊」内の電流分泌についての多孔質電極モデルが1970年代に提案された。しかし、その後、バレル内の電流分布や製品の混合状態を明らかにする基礎研究の進展は無い。
【0011】
このような事情から、今なお、水平回転バレルめっきでめっき厚を均一化するための理論や一般法則は、見出されていない。現在、バレルの形状や運転方法に関する多種多様な条件が経験的な指標に基づいて決定されている。めっきの品質と生産性を向上する手法は試行錯誤的である。このようなめっき技術の特徴については、以下の非特許文献1,2,3,4を参照されたい。
【0012】
特に水平回転バレルめっきの場合、ネジなどのワークは、金属イオンのサイズや挙動に対して、極めて複雑で且つ極めて大きい表面積を有する。バレル内のワークの移動の軌跡は、ワークの部位(突起部分、長尺部分、平板部分)によっても異なるパターンを示す。水平回転バレルめっきの場合、めっき厚はワークの複雑な形状と大きな表面積、バレル内での複雑な運動に影響を受け、さらに、バレルのサイズ、バレル表面の形状、孔の分布、通電条件、回転条件にも影響を受ける。したがって、水平回転バレルめっきだけを取り上げても、一つの装置や運転条件を他に応用或いは転用して、同じような結果を再現できる可能性は極めて小さい。
【0013】
例えば、以下の特許文献1,2には、水平回転バレルめっきのワークの動きを制御する仕組みが提案されている。特許文献1には、ワークの混合を促進するための突起凸部と呼ばれる構造が記載されている。特許文献2には、ワークの混合を促進するための撹拌突起と呼ばれる構造が記載されている。特許文献1,2には、これらの構造によってめっき性能を向上したことが記載されている。しかし、水平回転バレルの製造者や利用社が、これらの構造をそのまま手持ちの水平回転バレルに導入したとしても、特許文献1,2に記載された改善効果が再現されることは可能性が極めて低いと言わざるを得ない。これらの改善提案に限らず、バレルめっきの品質と生産性を向上する際に、従来技術の一部分を導入しても、あるいは、従来技術を組み合わせても、机上では期待できた効果が得られないことが、分かっている。
【0014】
出願人は先に特許文献3において、回転軸に沿った両端の開口部と補助電極とを備える水平回転バレルを提案した。この水平回転バレルでは、バレルめっきの運用に要する電気量を低減することに成功したが、さらに改善の余地があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「現代めっき教本」2011年12月26日 初版第1刷発行,ISBN 978-4-526-06805-8
【非特許文献2】「よくわかる最新めっきの基本と仕組み」2020年6月25日 第1版第1刷発行, ISBN 978-4-7980-6238-9
【非特許文献3】「技術大全シリーズ めっき大全」2017年6月30日初版第1刷発行, ISBN 978-4-526-07720-3
【非特許文献4】「図解めっき技術の基礎」2017年3月1日初版発行,ISBN 978-4-8163-6183-8
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005-281815号公報
【特許文献2】特開2005- 54263号公報
【特許文献3】特開2012- 77335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで本発明者は、先に出願人が提案した水平回転バレルのさらなる改良を目指し。試行錯誤を積み重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
その結果、本発明者は、先に出願人が提案した水平回転バレルに特定形状の拡散棒を取り付けることによって、先の水平回転バレルを用いたバレルめっきにおけるワークのめっき厚を均一化することに成功した。さらに本発明者は、先の水平回転バレルの形状を一新することによって、さらなるバレルめっき性能を向上することができた。すなわち本発明は以下のものである。
(発明1)
本体(1)、補助電極(2)、拡散棒(3)を含む、バレルめっきに使用するための水平回転バレル装置であって、
本体(1)は、
向かい合う平行な2つの側部(11,12)と、2つの側部(11,12)に挟まれた1つの筒状体(13)とを有し、
側部(11)が回転軸を囲む開口部(110)を有し、
側部(12)が回転軸を囲む開口部(120)を有し、
筒状体(13)は、回転軸に沿って向かい合う両端で2つの側部(11,12)に接続し、筒状体(13)の水平方向(回転軸方向)の寸法が側部(11)と側部(12)との距離に一致し、
筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(St)が、円形又は正多角形であり、
筒状体(13)に貫通孔(130)が形成されており、
補助電極(2)は、
側部(11)、側部(12)、筒状体(13)で囲まれた水平回転バレル装置の内部空間に配置され、
拡散棒(3)は、
筒状体(13)の内面に連結し、水平方向に延長し回転軸に向かって突出する長尺部材であって、
拡散棒(3)は、2つの傾斜面(32,33)と、2つの傾斜面(32,33)に挟まれた頂部面(31)とを有し、頂部面(31)は筒状体(3)の内表面から最も隔たる位置にあって水平方向(回転軸方向)に延長し、2つの傾斜面(32,33)は頂部面(31)に接続し筒状体(3)の内表面に向かって延長する、
水平回転バレル装置。
(発明2)
拡散棒(3)が、筒状体(13)の周方向に対称な形状を有する、発明1の水平回転バレル装置。
(発明3)
筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(St)が多角形である、
発明1の水平回転バレル装置。
(発明4)
筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(St)が円形である、
発明1の水平回転バレル装置。
(発明5)
補助電極(2)が板状の補助陽極(20)である、発明1の水平回転バレル装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の水平回転バレル装置は、バレルめっきの電流密度を制御して、より均一なめっき皮膜を形成することができる。また本発明の水平回転バレルはバレルめっきのエネルギー効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図5】本発明で用いる本体(1)と拡散棒(3)の1例。
【
図6】本発明で用いる本体(1)と拡散棒(3)の他の1例。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[水平回転バレル装置] 本発明の水平回転バレル装置はバレルめっきに用いられる水平回転バレルとその付属品を含む装置である。本発明の水平回転バレル装置は、本体(1)、補助電極(2)、拡散棒(3)を含む。本体(1)は、薄型材料からなる。本体(1)の材質は、バレルめっき用バレルに使用可能な限り、制限されない。一般的には、本体(1)は塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂などからなる。
【0022】
以下、本体(1)、補助電極(2)、拡散棒(3)の各部位について図面を参照しながら詳述する。説明で参照した図面は、各部位の関係を示すための模式図であり、実際の水平回転バレルを描写したものではない。図面上、水平回転バレルの細部は誇張又は省略されている場合があり、各部位の寸法比も誇張されている場合がある。
【0023】
[本体(1)] 本体(1)は、向かい合う平行な2つの側部(11,12)と、2つの側部(11,12)に挟まれた1つの筒状体(13)とを有する。本体(1)の外観はおおよそ太鼓のような形状であり、2つの側部(11,12)が太鼓の面に、筒状体(13)が胴に当たる。
【0024】
一般的には、予め成形した側部(11)、側部(12)、筒状体(13)等の構成部位を連結して本体(1)を製造する。側部(11)、側部(12)、筒状体(13)等の構成部位の連結方法は、これら部位の材質に適する限り制限されない。また、3Dプリンターのような手段によって、側部(11)、側部(12)、筒状体(13)を含む本発明の水平回転バレルの全体を一体として連続成形することもできる。本明細書では、本体(1)の各部位の関係を分かりやすくするために、本体(1)を、側部(11)、側部(12)、筒状体(13)に分けて、説明する。
【0025】
図1に、本発明の水平回転バレル装置の本体(1)の例を示す。この例では、円筒形の筒状体(13)が使用されている。
図1(a)は本体(1)を筒状部(13)に正対して見た様子を示す。
図1(b)は本体(1)を側部(11)に正対して見た様子を示す。筒状部(13)と側部(1)との連結部分(筒状部(13)の端部)は実際には見えないが、便宜上、点線で示されている。太い矢印は、水平回転バレルの稼働時の水平方向を示す。図の左右の向きが水平方向である。回転軸は、実際には視認できないが、便宜上、点線で示されている。
図1では便宜上、側部(1)、側部(12)、筒状体(13)を色分けしている。
図1では後述の拡散棒(3)は省略されている。
【0026】
図2に、本発明の水平回転バレル装置の本体(1)の他の例を、
図1と同様の手法で示す。この例では、六角柱形の筒状体(13)が使用されている。
【0027】
図3に、本発明の水平回転バレル装置の本体(1)の他の例を、
図1と同様の手法で示す。この例では、八角柱形の筒状体(13)が使用されている。
【0028】
本発明の水平回転バレル装置では、本体(1)において、側部(11)が回転軸を囲む開口部(110)を有し、側部(12)が回転軸を囲む開口部(120)を有する。筒状体(13)は、回転軸に沿って向かい合う両端で2つの側部(11,12)に接続し、筒状体(13)の水平方向(回転軸方向)の寸法(Wh)が側部(11)と側部(12)との距離(Wh)に一致する。
【0029】
本発明の水平回転バレル装置では、筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(面St)は、円形又は多角形、好ましくは円形又は正多角形である。
図1に示す本体(1)の面Stは円形、
図2に示す本体(1)の面Stは正六角形、
図3に示す本体(1)の面Stは正八角形である。
【0030】
筒状体(13)には貫通孔(130)が形成されている。貫通孔(130)は、めっき液がバレル内外を出入りするための孔である。貫通孔(130)の形状、サイズ、分布は、水平回転バレルに適用出来る形状である限り、制限されない。例えば、メッシュ状、スリット状、円孔、楕円孔、方形孔、これらの組み合わせのいずれであってもよい。
図1,2,3では貫通孔(130)を省略している。
【0031】
筒状体(13)の貫通孔(130)に突起を付属させてもよい。この場合、ワークの一部が筒状体(13)に引っかかり、筒状体(13)上でワークが大きな塊とならずに均一に広がることができる。
【0032】
筒状体(1)には、さらに、ワークを投入及び/又は排出するための蓋(5)と、この蓋(5)に適応する窓状の開口部(51)を設けることができる。開口部(51)は、バレルめっき時には閉まっている。
【0033】
ただし、開口部(110)及び/又は開口部(120)が十分な大きさであれば、開口部(110)及び/又は開口部(120)からワークを投入及び/又は排出することができる。この場合には、筒状体(1)に蓋や窓状の開口部を設ける必要がない。また、開口部(110)及び/又は開口部(120)は、電極類の挿入と取出に使用することができる。
【0034】
[補助電極(2)] 側部(11)、側部(12)、筒状体(13)で囲まれた水平回転バレル装置の内部空間には、補助電極(2)が配置されている。本発明にお言える補助電極(2)は、通常は、補助陽極(200)である。補助陽極(200)は電流めっきにおける電流分布を改善するための手段として知られている。本発明の補助陽極(200)の形状や位置は、補助陽極に適するものであれば制限されない。本発明の補助陽極(200)は、一般的には、開口部(110)と開口部(120)との間に差し渡された板状部材である。本発明では、このような板状の補助陽極(200)を配置することにより、本体(1)内部全体の電流密度を制御して、本体(1)内部に広がるワークあるいはワーク塊の凹部でのめっき皮膜の成長を促す。
【0035】
[拡散棒(3)] 本発明の水平回転バレル装置は、さらに拡散棒(3)を有する。拡散棒(3)は、筒状体(13)の内面に連結し、水平方向に延長し回転軸に向かって突出する長尺部材である。拡散棒(3)は、本体(1)の内側で移動するワークの一部を回転方向でせき止め、本体(1)の内部でワークを集積させず、適度に混合しつつ均一に拡散するという機能を有する。
【0036】
拡散棒(3)は、2つの傾斜面(32,33)と、2つの傾斜面(32,33)に挟まれた頂部面(31)とを有する。頂部面(31)は筒状体(3)の内表面から最も隔たる位置にあって水平方向(回転軸方向)に延長する。2つの傾斜面(32,33)は頂部面(31)に接続し筒状体(3)の内表面に向かって延長する。
【0037】
図4に、拡散棒(3)と本体(1)との関係を示す。矢印は水平方向(回転軸の向き)を表す。筒状体(3)及び拡散棒(3)の水平方向に沿った幅の中央部省略されている(省略部を400で示す)。拡散棒(3)の両端(301,302)は筒状体(13)の両端(1301,1302)と一体化されている。したがって、拡散棒(3)の水平方向(回転軸方向)の寸法は、筒状体(13)の水平方向の寸法(幅Wh)に等しい。
【0038】
拡散棒(3)の頂部面(31)が、筒状体(3)の内表面(1300)から最も突出する平面である。傾斜面(32)は、頂部面(31)に接続し、筒状体(13)の内表面(1300)に向かって延長する。傾斜面(33)は、頂部面(31)に対して傾斜面(32)と反対側の位置にある。傾斜面(33)は、頂部面(31)に接続し、筒状体(3)の内表面(1300)に向かって延長する。
【0039】
拡散棒(3)を回転軸に垂直な面で切った時、断面形状は、一方の端部(301)から他方の端部(302)に至るまで同一である。
【0040】
図5に、側部(11,12)、筒状部(13),拡散棒(3)の関係の1例を示す。点線は位置関係を理解するための目印であって実際には見えない。この例では、筒状体(13)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(面St)は円形である。点Pcは、面Stと回転軸との交点である。矢印は水平回転バレルの回転方向を示す。拡散棒(3)は、筒状部(13)の内面に沿って回転方向に等間隔に配置される。すなわち拡散棒(3)は面Stの周方向似等間隔に配置している。この例では、本体(1)の内部に合計8本の拡散棒(310,320,330,340,350,360,370,380)が配置されている。拡散棒(310~380)は互いに平行である。拡散棒(310~380)の形状や寸法は同一である。
【0041】
面Stが正多角形の場合にも、筒状体(3)に対して等間隔に拡散棒(3)を連結する。例えば、正多角形の各辺の中点から回転軸に沿って拡散棒(3)を配置することができる。また例えば、正多角形の各頂点から回転軸に沿って拡散棒(3)を配置することができる。
【0042】
図6に面Stが正九角形の場合を示す。点線は参考線であり実際には見えない。9本の拡散棒(310~390)が断面Stの各辺の中点に配置されている。
【0043】
本発明では、好ましくは、拡散棒(3)が、筒状体(13)の周方向に対称な形状を有する。すなわち、例えば
図7に示す断面形状を有する。
【0044】
図7は、回転軸から筒状体(13)の内面を見た様子を示す。筒状体(13)の内面(1300)に拡散棒(3)が結合している。拡散棒(3)の表面として、平面上の頂部面(31)、傾斜面(32),傾斜面(33)が見える。点線は、頂部面(31)を二等分し回転軸に平行な直線Lbである。直線Lbによって、頂部面(31)は対称な2つの面(3101,3102)に分かれる。傾斜面(32)と傾斜面(33)とは、同一形状であり、しかも、直線Lbに対して対称に傾斜している。
【0045】
図8に、
図7に示した部分を側部(
図7の右手)から見た様子を示す。
図8には拡散棒(3)を回転軸に垂直な面で切った時の断面(Sb)が示されている。回転軸(4)と直線Lbは、紙面の手前から奥を結ぶ直線である。回転軸(4)と直線Lbを通る平面(Sb)で拡散棒(3)を切った時、拡散棒(3)は、平面によって、筒状体(13)の周方向(紙面の左右の向き)に対称に二等分される。
【0046】
拡散棒(3)が
図7,
図8に示される、いわゆる山型形をなす場合、各部位の寸法は、本体(1)内で、ワークの撹拌しワーク塊の発生を防ぐこと、同時に、ワークとの接触による破損や変形が抑えられることが勘案されていれば、制限されない。
【0047】
図9に示す拡散棒(3)の断面形状において、頂部面(31)の高さに相当する寸法Hbは、一般的には5mm以上50mm以下、好ましくは10mm以上30mm以下、さらに好ましくは15mm以上25mm以下である。
【0048】
図9に示す拡散棒(3)の断面形状において、拡散棒(3)の基部の寸法Wbは、一般的には20mm以上100mm以下、好ましくは30mm以上70mm以下、さらに好ましくは40mm以上60mm以下である。
【0049】
図9に示す拡散棒(3)の断面形状において、拡散棒(3)の傾斜面(32,33)の傾き角θは、一般的には20度以上70度以下、好ましくは30度以上60度以下、さらに好ましくは40度以上50度以下である。
【0050】
図10に、拡散棒(3)を回転軸に垂直な面で切った時の断面Sbの他の例を示す。この例では、頂部面(31)が曲面をなす。
【0051】
[水平回転バレル装置の例]
図11に、本発明の水平回転バレル装置の1例を示す。
図11(a)は水平回転バレル装置(1000)を回転軸に垂直な面で切った時の断面を表す。
図11(b)は、回転軸を含む面で水平回転バレル装置(1000)を切った時の断面を表す。この例では、本体(1)内部に板状の補助陽極(20)と陰極(6)が挿入されている。陰極(6)は3本のリード線(60)からなる。複数の陰極端子(60)を配置することによって、本体(1)内に収納されたワークに均一に通電することができる。リード線(60)は2本または4本に変更することができる。
【実施例0052】
[比較例1]
図12に示す、比較用の水平回転バレル装置(2000)を用いて、小型ネジ(7)の表面をバレルめっき法で亜鉛めっきした。
図12は水平回転バレル装置(1000)を回転軸に垂直な面で切った時の断面を表す。
図12では陰極を省略している。水平回転バレル装置(2000)には補助陽極を設置しなかった。ワーク、めっき液、バレルめっきの条件を以下の表1に示す。バレルめっきの前後には、常法に従い、脱脂、酸洗浄、中和、化成処理による防錆化、乾燥を行った。
【0053】
【0054】
[実施例1]
図13に示す、比較用の水平回転バレル装置(1000)を用いて、小型ネジ(7)の表面をバレルめっき法で亜鉛めっきした。
図13は水平回転バレル装置(1000)を回転軸に垂直な面で切った時の断面を表す。
図13では陰極を省略している。水平回転バレル装置(1000)には板状の補助陽極を設置した。ワーク、めっき液、バレルめっきの条件を以下の表2に示す。バレルめっきの前後には、常法に従い、脱脂、酸洗浄、中和、化成処理による防錆化、乾燥を行った。
【0055】
【0056】
[めっき厚みの測定] 比較例1の亜鉛メッキが終了したワークから無作為に10個を取り出した。実施例1の亜鉛メッキが終了したワークから無作為に10個を取り出した。取り出した各ワークの、
図14で示す頭(71)と軸(72)の2箇所でめっき被膜の厚みを測定した。測定方法は、常法に従う蛍光X線法を用いた。結果を以下の表3に示す。
【0057】
【0058】
このように、本体(1)に補助陽極(2)を配置した実施例1では、比較例1の場合に比べて、より均一なめっき皮膜が得られた。
【0059】
このような改良効果は、筒状体(13)が円筒形の場合に、更に顕著に発現する。
本発明の水平回転バレル装置は、本体(1)、補助電極(2)、拡散棒(3)を兼ね備えることにより、ワークに対する電流密度を改善し、より均一なめっき皮膜を形成することに成功した。本発明の水平回転バレル装置は、バレルめっきの品質と生産性を向上することができる。