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特開2022-158737ウィルス飛散範囲測定方法、ウィルス飛散可視化方法およびウィルス飛散可視化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158737
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ウィルス飛散範囲測定方法、ウィルス飛散可視化方法およびウィルス飛散可視化装置
(51)【国際特許分類】
   H04N 5/33 20060101AFI20221006BHJP
   G01J 1/02 20060101ALI20221006BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H04N5/33
G01J1/02 C
G01J1/02 Q
G01N21/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068484
(22)【出願日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2021058930
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英樹
【テーマコード(参考)】
2G059
2G065
5C024
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059AA10
2G059BB01
2G059BB09
2G059BB20
2G059CC04
2G059CC09
2G059CC19
2G059CC20
2G059EE01
2G059FF01
2G059HH01
2G059JJ03
2G059KK04
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA34
2G065BB27
5C024AX06
5C024EX42
5C024EX51
5C024GX07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ウィルス飛散範囲測定方法、ウィルス飛散可視化方法およびウィルス飛散可視化装置を提供する。
【解決手段】装置(カメラ101)は、波長が3μm以上5μm以下の赤外光11用の結像光学系12と、赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子14がマトリックス状に配置された画像センサー13を使用し、赤外光を結像光学系を介して画像センサー上に結像させ、観察大気環境中の結像による濃淡像が得られた範囲をウィルス飛散範囲とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が3μm以上5μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを使用し、
前記赤外光を、前記結像光学系を介して前記画像センサー上に結像させ、
観察大気環境中の前記結像による濃淡像が得られた範囲をウィルス飛散範囲とする、ウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項2】
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、請求項1記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項3】
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、請求項1記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項4】
前記光電変換層はInSbからなる、請求項1から3の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項5】
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、請求項1から4の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項6】
前記バンドパスフィルタは冷却されている、請求項5記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項7】
前記冷却の温度は50K以上250K以下である、請求項6記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項8】
前記画像センサーにより取得された濃淡像の空間周波数分布を用いて、空気感染が及ぶ範囲と飛沫感染が及ぶ範囲を分けて示す、請求項1から7の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項9】
前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素が占める場所に対する像の領域を飛沫感染が及ぶ範囲として示す、請求項1から7の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
【請求項10】
波長が3μm以上5μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを使用し、
前記赤外光を、前記結像光学系を介して前記画像センサー上に結像させ、
観察大気環境中の前記結像による濃淡像の動画を取得し、
前記濃淡像の範囲の時間変化をウィルス飛散範囲の変化として可視化する、ウィルス飛散可視化方法。
【請求項11】
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、請求項10記載のウィルス飛散可視化方法。
【請求項12】
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、請求項10記載のウィルス飛散可視化方法。
【請求項13】
前記光電変換層はInSbからなる、請求項10から12の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
【請求項14】
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、請求項10から13の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
【請求項15】
前記画像センサーにより取得された濃淡像の空間周波数分布を用いて、空気感染が及ぶ範囲と飛沫感染が及ぶ範囲を分けて可視化する、請求項10から14の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
【請求項16】
前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素の配置分布を用いて飛沫の拡散状況を可視化する、請求項10から14の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
【請求項17】
前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素の時間的軌跡を用いて飛沫の拡散状況を可視化する、請求項10から14の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
【請求項18】
カメラと画像処理手段を具備し、
前記カメラは、波長が3μm以上5μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを有し、
前記画像処理手段は、前記画像センサーにより取得された濃淡像の空間周波数分布を計算する、または/および前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素の時間的軌跡を計算する、ウィルス飛散可視化装置。
【請求項19】
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、請求項18記載のウィルス飛散可視化装置。
【請求項20】
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、請求項18記載のウィルス飛散可視化装置。
【請求項21】
前記光電変換層はInSbからなる、請求項18から20の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化装置。
【請求項22】
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、請求項18から21の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルス飛散範囲測定方法、ウィルス飛散可視化方法およびウィルス飛散可視化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナなどのウィルス蔓延によるパンデミックが大問題になっており、死者の数、医療の崩壊、緊急事態宣言やロックアウトによる経済的損失など世界規模で社会全体に大打撃を与えている。
【0003】
ウィルス蔓延を防止するには、ワクチンや治療薬の開発といった医療技術の開発とともに、ウィルスの拡散過程の把握や監視が重要になる。ここで、ウィルスは、飛沫感染、空気感染といった形で移ることが多い。
【0004】
新型コロナでは、富岳などのスーパーコンピュータを用いて飛沫が拡散していく様子がシミュレーションされ、三密(密閉、密集、密接)の基準づくりや食堂などでの運用基準に活用されてきた。このように、ウィルスの飛沫や空気感染による拡散の可視化、呼気や咳などの影響範囲の可視化は極めて重要である。特に、医療や介護現場、生活環境などでの実態での可視化は、ウィルス蔓延防止、その防止策策定にとても大きなインパクトを与える。
なお、呼気や咳等の及ぶ範囲の可視化としては、呼気の屈折率が大気とは僅かに異なることに着目してシュリーレン法を用いて測る方法があり、例えば特許文献1に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6796306号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.E.Bertie and Z.Lan,Applied Spectroscopy,50,1047-1057(1996)
【非特許文献2】E.V.Kochanov,et al.J.Quant.Spectrosc.Radiat.Transfer,177,15-30(2016)
【非特許文献3】John C.Russ,The Image Processing Handbook,2nd. Ed.,CRC Press,Inc.,p.p.211-480,1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、呼気等にてウィルスが空気感染、飛沫感染するときのその影響が及ぶ空間領域、すなわちウィルス飛散範囲を求める方法を提供すること、およびウィルスが飛散する状況を可視化する方法を提供することである。
また、そのウィルス飛散範囲測定およびウィルス飛散可視化を可能にする方法が、医療や介護現場、生活環境などでの実環境で実時間で簡便に測定可能で持ち運びも可能な装置によって提供されることも本発明の課題とする。
さらに、ウィルス飛散を可視化する装置を提供することも本発明の課題とする。
【0008】
なお、特許文献1に開示されたシュリーレン法に基づく方法は、僅かな屈折率差を用いる方法であるため、空気の温度ムラ、壁等の環境の温度分布、風などの気流など測定環境の影響を受けやすく、装置もプロジェクタを用いたりして比較的大掛かりになりやすいという問題がある。さらに、その方法では飛沫を捉えにくいという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
波長が3μm以上5μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを使用し、
前記赤外光を、前記結像光学系を介して前記画像センサー上に結像させ、
観察大気環境中の前記結像による濃淡像が得られた範囲をウィルス飛散範囲とする、ウィルス飛散範囲測定方法。
(構成2)
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、構成1記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成3)
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、構成1記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成4)
前記光電変換層はInSbからなる、構成1から3の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成5)
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、構成1から4の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成6)
前記バンドパスフィルタは冷却されている、構成5記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成7)
前記冷却の温度は50K以上250K以下である、構成6記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成8)
前記画像センサーにより取得された濃淡像の空間周波数分布を用いて、空気感染が及ぶ範囲と飛沫感染が及ぶ範囲を分けて示す、構成1から7の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成9)
前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素が占める場所に対する像の領域を飛沫感染が及ぶ範囲として示す、構成1から7の何れか1項に記載のウィルス飛散範囲測定方法。
(構成10)
波長が3μm以上5μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを使用し、
前記赤外光を、前記結像光学系を介して前記画像センサー上に結像させ、
観察大気環境中の前記結像による濃淡像の動画を取得し、
前記濃淡像の範囲の時間変化をウィルス飛散範囲の変化として可視化する、ウィルス飛散可視化方法。
(構成11)
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、構成10記載のウィルス飛散可視化方法。
(構成12)
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、構成10記載のウィルス飛散可視化方法。
(構成13)
前記光電変換層はInSbからなる、構成10から12の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
(構成14)
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、構成10から13の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
(構成15)
前記画像センサーにより取得された濃淡像の空間周波数分布を用いて、空気感染が及ぶ範囲と飛沫感染が及ぶ範囲を分けて可視化する、構成10から14の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
(構成16)
前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素の配置分布を用いて飛沫の拡散状況を可視化する、構成10から14の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
(構成17)
前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素の時間的軌跡を用いて飛沫の拡散状況を可視化する、構成10から14の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化方法。
(構成18)
カメラと画像処理手段を具備し、
前記カメラは、波長が3μm以上5μm以下の赤外光用の結像光学系と、
前記赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子が、マトリックス状に配置された画像センサーを有し、
前記画像処理手段は、前記画像センサーにより取得された濃淡像の空間周波数分布を計算する、または/および前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素の時間的軌跡を計算する、ウィルス飛散可視化装置。
(構成19)
前記赤外光の波長が4.15μm以上4.40μm以下である、構成18記載のウィルス飛散可視化装置。
(構成20)
前記赤外光の波長が4.20μm以上4.35μm以下である、構成18記載のウィルス飛散可視化装置。
(構成21)
前記光電変換層はInSbからなる、構成18から20の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化装置。
(構成22)
前記波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前または後ろに設置して、
前記バンドパスフィルタを介して、前記赤外光を前記画像センサー上に結像させる、構成18から21の何れか1項に記載のウィルス飛散可視化装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、呼気等にてウィルスが空気感染、飛沫感染するときのウィルス飛散範囲を求める方法、およびウィルスが飛散する状況を可視化する方法が提供される。さらに、本発明によれば、ウィルス飛散を可視化する装置も提供される。
ここで、そのウィルス飛散範囲測定およびウィルス飛散可視化を可能にする方法は、医療や介護現場、生活環境などでの実環境で実時間で簡便に測定可能で持ち運びも可能な装置により、提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の装置の構成を示す説明図である。
図2】CO、液相のHO、気相のHOの吸収スペクトルを示す特性図である。
図3】CO、液相のHO、気相のHOの厚さとその中を進行する波長4.20-4.35μmの赤外光の吸収率の関係を示す特性図である。
図4】実施例で用いた持ち運び可能な測定装置の写真である。
図5】実施例で用いたバンドパスフィルタの透過スペクトルを示す特性図である。
図6】実施例で用いたバンドパスフィルタの放射強度の温度特性を示す特性図である。
図7】本発明による呼気の観察例を示す写真である。
図8】本発明による排気の観察例を示す写真である。
図9】噴霧スプレーによる水滴噴霧の時間変化を観察した写真である。
図10】気相のHOの噴出の観察例を経過時間とともに示した写真である。
図11】本発明によるくしゃみの観察例を示す写真である。
図12】本発明の装置の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
なお、文中に出てくるA-Bは、A以上B以下を表す。
【0013】
(実施の形態1)
ウィルスは、その大きさが数100nm以下と小さいので、ウィルスを直接観察して空気感染や飛沫感染が及ぶ範囲を求めたり、その拡散の様子を可視化したりするのは困難である。
そこで、本発明では、呼気をキャリアとしてウィルスが拡散していくことに着目して、ウィルスの空気感染が及ぶ範囲を呼気に高濃度で含まれる二酸化炭素(CO)で、ウィルスの飛沫感染が及ぶ範囲を微小水滴で測定する。また、それらが及ぶ範囲を動画にてモニターして可視化する。
【0014】
大気のCOの濃度は、地球温暖化の影響を受けて年々増加する傾向があるが、2020年時点で約400ppm(0.04%)である。人の密集する屋内では一般により高い濃度になるが、ビル管理法では不特定多数の人が利用する建築物内のCO濃度を最大1000ppm(0.1%)以下に保つように定めており、これが一般的な環境中の上限濃度を与える。一方、人の呼気のCOの濃度は、安静時が約1%、重作業時が約9%で、一日平均は、軽作業時に相当する約3%とされている。
人の呼気が環境中に比べて1桁か2桁高い濃度のCOを含むことから、環境からくるベースライン(測定ノイズ)を十分抑えながら十分な感度をもって、したがって十分なS/Nを確保しながら、通常の生活の場や医療現場でも、呼気の及ぶ範囲や呼気の流れをCO測定によりモニターできる。ここで、上述のように、呼気の及ぶ範囲や呼気の流れは、ウィルスの拡がりの範囲やウィルスの拡散と等価と見なすことができる。
【0015】
呼気で排出される液滴の主成分は水(液相のHO分子)である。よって、ウィルスを含んだ飛沫は、その飛沫と同じくらいの大きさの水滴を検出することによってモニターすることができる。呼気中の飛沫の大きさは、10nmから数mmとされているが、個数濃度としては約2μmと120-150μmにピークをもつ。したがって、この辺りの大きさの水滴を測定すればよい。
【0016】
生活の場や医療現場は、100%に近いような極めて高い湿度環境から0%に近いような極めて乾燥した環境まで様々である。そして、インフルエンザが流行る乾燥環境から、ウィルスの活動を抑えるといわれる高湿度環境まで様々な湿度環境で、ウィルスの及ぶ範囲やその拡散状況の可視化が要求される。
湿度は、当然、ガス状の水(気相のHO分子)によるものである。このことから、飛沫を高湿度環境で測定するためには、100μm前後の水滴は十分な感度で検出できるが、ガス状の水は検知しないことが求められる。
しかも、空気感染と飛沫感染を簡便な1つの装置で同時に計測できることが運用上望ましい。
【0017】
発明者は、上記要求項目である(1)COガスを高感度に検出可能、(2)100μm前後の水滴は十分な感度で検出できるが、ガス状の水は検知しない、(3)#1と#2を簡便な1つの装置で同時に計測できる、という機能をもった測定法を、発明者の赤外光を用いた分子検出に関する長い経験に基づいて検討を行った。
【0018】
詳細な実験を行った結果、波長が3μm以上5μm以下、より感度とS/Nの向上のためには4.15μm以上4.40μm以下、さらにいっそう感度とS/Nを向上するためには4.20μm以上4.35μm以下の赤外光帯域で、結像手段(結像光学系)と画像センサーを使用した、いわゆるカメラで撮像するという本発明が創出された。
【0019】
図1(a)に、そのカメラ101の主要構成を示す。
カメラ101は、上記波長の赤外光11に適応する結像手段12、および赤外光感知素子からなる画像素子14がマトリックス状に配置された画像センサー13を有する。
【0020】
結像手段12は、カメラとしての十分な結像性能を有していれば特に規定はないが、例えばGe、Si、ZnSe、ZnS、サファイアを用いた光学レンズによるレンズ結像系、ミラーを用いた反射光学系、ミラーとレンズを併用した複合光学系を用いることができる。短焦点距離レンズでもズームレンズでも構わない。倍率やF値、許容収差なども特に限定はなく、コスト、使い勝手、重量、分解能、視野などを鑑みて適当な選択を行えばよい。
【0021】
画素素子14(赤外光感知素子)としては、InSb、HgCdTe、InAs/GaSb超格子、InGaAs/InAlAs量子井戸、GaAs/AlGaAs量子井戸などの3μm以上5μm以下波長帯域に感度をもつ光電変換素子を用いることができる。また、ボロメータ、サーモパイル、焦電素子を用いた熱型赤外光感知素子を用いても良い。この中でも特にInSbは、この波長帯域での感度とS/N特性に優れるため好んで用いることができる。
画素素子14の画素サイズおよび画素数は特に限定はない。
画素サイズを小さくすると画像センサー13の大きさも小さくなり、結像手段12も小型化が容易になる。画素サイズが大きい場合は、感度とS/Nの向上が容易になり、分解能も上げやすくなる。画素サイズとしては、例えば10×10―30×30μmとしてよい。
画素数は、特に限定はなく、装置の大きさや必要な分解能などを鑑みて適宜設定すればよい。画素数としては、例えば64×64―1920×1536を挙げることができる。
【0022】
測定する赤外光11の波長を、4.15μm以上4.40μm以下、あるいは4.20μm以上4.35μm以下に狭くするためには、バンドパスフィルタを用いることが有効である。バンドパスフィルタは小型、軽量で取り扱いも容易で、必要に応じて取り外すこともできる。なお、バンドパスフィルタとしては、例えばサファイアやゲルマニウム基板上に成膜したSiO、ZnS、Geなどから構成された多層膜などを用いることができる。
バンドパスフィルタを置く場所は、図1(b)のカメラ102におけるバンドパスフィルタ15aに示されるように、画像センサー13から見て結像手段12の前とすることも、図1(c)のカメラ103におけるバンドパスフィルタ15bに示されるように、結像手段12の後ろとすることもできる。前に置く場合は、バンドパスフィルタの交換や脱着が容易になるというメリットがあり、後ろに置く場合は、バンドパスフィルタが小さくて済むほか、後述の冷却を行う場合、画像センサー13とともに冷却できるというメリットがある。
【0023】
バンドパスフィルタ15a、15bや画像センサー13は、冷却されることが好ましい。冷却することにより環境や部品などからの熱輻射によるノイズを低減することができる。特にバンドパスフィルタ15a、15bが常温の場合は、そこからの熱輻射が画像センサー13の信号に大きなベースラインとして重畳し、得られる画像のコントラストを著しく低下させる。
冷却方法としては、スターリングクーラー、ペルチェ素子、液体窒素冷却などを挙げることができるが、スターリングクーラーとペルチェ素子は、取り扱いが容易なので好んで用いることができる。特に、スターリングクーラーは、ハンディサイズでも80K以下に冷却が可能であり、しかもバッテリーで稼働させることができるため特に好んで用いることができる。
【0024】
冷却温度は、50K以上250K以下が好ましい。250K以下とすることにより、ノイズレベルを1桁以上改善することができる。温度が低ければ低いほどノイズレベルは下がるが、50Kではノイズレベルが常温使用時の20桁以上下がり、このレベルでは電圧変動など他要因によるノイズが支配的になる。極低温にすると簡便性、取り扱いの容易性が低下するので、50K以上での使用が好ましい。
【0025】
本発明には3つの分子が関与する。液相のHO分子、気相のHO分子、気相のCO分子である。それら3つの分子の吸収係数を図2に示す。(a)は中赤外域全体の広域図、(b)は4.2μm近辺の拡大図である。
液相のHOは、2.7-3.5μm、5.7-6.5μmの1700cm-1ところにある主吸収帯の他、波長4.15-5.2μmのところにも弱い吸収帯(図2(a)中の1)をもつ。
図2の気相のHOの吸収係数は、1気圧、25℃の空気中に気相のHOが飽和蒸気圧まで含まれた空気(体積濃度3.1%のHOを含んだ空気)の吸収係数である。これは相対湿度100%に相当し、これ以上気相のHOが含まれることはない上限を示している。よく知られているように気相のHO分子は波長5-8μmに大きな吸収を示す。このことが中赤外域を波長3-5μmの中波帯(MWIR)と8-12μmの長波帯(LWIR)に分断する要因になっている。しかし、気相のHOの吸収は波長4μm近辺では極端に低く、液相のHOに対して8桁から10桁も低い。ウィルスの飛散範囲を測定、可視化する課題を解決するために、液相と気相という状態の違いにより同じHO分子の吸収係数にこれほどのコントラストが存在することに着目したことが本特許の一つの基盤である。
【0026】
一方、COガスの吸収帯は、図2に示すように波長4.20-4.35μmのところにある。この吸収係数は1気圧、25℃の空気中に気相のCOが体積濃度1%含まれた状態の吸収係数である。先述のように、これは人の呼気の中でも特にCO濃度の低い状態に相当する控えめな見積もりになっている。一般には人の呼気にはこの数倍から10倍近いCOを含む。4.20-4.35μmの吸収は非常に強く、この波長帯では、1%という控えめな見積もりにも関わらず、同じ気相のHOよりも液相のHOに近いほどの大きな吸収係数を示す。ウィルスの飛散範囲を測定、可視化する課題を解決するために、高性能な赤外光検知素子やカメラが容易に入手できる3-5μmの波長帯に存在する、CO分子のこの強い吸収帯の存在に着目したことが本特許のもう一つの基盤である。
なお、図2において、液相のHOの吸収係数は非特許文献1に従った。
また、気相のHOおよびCOの吸収係数は、データベースHITRANと、非特許文献2により提供されているHITRAN Application Programming Interface (HAPI)を用いて求めた。
【0027】
室温において、あらゆる物体はプランクの法則に従って赤外光を放射している。ウィーンの変位則に従うと、25℃の完全黒体の示す熱放射は波長9.7μmにピークをもつ。しかし、黒体放射は広い波長域に分布しており、25℃の物体は波長4μm近辺の赤外光も放射している、従って、室温では背景にあるすべての物体が自然の光源として働く。図1で赤外光11としていたのは、このような背景の物体が放射する赤外光である。しかし、必要に応じて黒体炉やホットプレートのような熱源を光源として利用しても良い。
背景とカメラ101、102,103の間に特定の波長の光を吸収する吸収体があると、その吸収体を透過した吸収帯の波長の光の強度は変化する。背景は広い波長域で発光しているので、狭い吸収帯の光が吸収されただけでは全体に対する変化は微小である。しかし、ここで、感知する波長を吸収体の吸収波長帯に制限しておくと、吸収体の存在によって、カメラに届く赤外光の強度は大きなコントラストで敏感に変化することになる。こうして吸収体の存在を可視化できる。
【0028】
吸収体の温度が背景の温度と同等あるいは低い場合、吸収体は単純に背景からの赤外光を吸収し、カメラに届く赤外光の強度は弱くなる。しかし、吸収体の温度が背景よりも高温の場合、吸収と熱放射の可逆性を示すキルヒホッフの法則に従い、吸収体はむしろその吸収波長において発光し、カメラに届く赤外光の強度は強くなる。より正確には、温度だけでなく、吸収体の吸収率、放射率(両者はキルヒホッフの法則により等しい)や背景の放射率、結像レンズ12などで決まる光学的関係など様々な要因により、吸収体の存在によりカメラに届く赤外光に生じる強度変化の起こり方は変化する。ここでは最も簡単な、背景が完全黒体に近い放射率を持ち、吸収体の温度が背景と等しい場合を想定して説明していく。この場合、吸収体の存在により、赤外光は吸収され、観察される赤外光11は弱くなる。
【0029】
図3には、背景からカメラの間に図2で示した液相のHO、気相のHO(1気圧、25℃、3.1%)、気相のCO(1気圧、25℃、1%)がある厚さで存在した時に、背景から放射された赤外光が波長4.20-4.35μmの波長帯においてどれだけの割合、吸収されるかを示している。これらは図2の各分子の波長域4.20-4.35μmにおける吸収係数の平均値に基づいて見積もったものである。その吸収係数の平均値は、液相のHOが236cm-1、COが0.297cm-1、気相のHOが2.17×10-7cm-1である。
【0030】
この波長帯での数桁にも渡る吸収係数の差のため、吸収体の種類により、距離依存性は大きく異なる。図3の横軸は1nmから1kmという広い範囲で表示されている。例えば、7ビット(128階調)の分解能で赤外光の強度が測定できる場合、約1%の吸収による強度変化が検出できる。どのくらいの厚さの吸収体を透過した時に、この検出可能な輝度変化が生じるかを、図3の縦軸が10-2となる厚さとして求めてみると、液相のHOは0.43μm、COは0.34mm、気相のHOは460mとなる。
液相のHOのこの波長帯の吸収は他に比べると弱い。しかし、上記の数値は、わずか0.43μmの液相のHOを透過すれば、十分に検出可能な強度変化が生じることを意味している。つまり、呼気に含まれる、ウィルスを含む可能性のある1μmかそれ以下のサイズの飛沫(水滴)が、この波長帯に注目すれば可視化できるということである。
【0031】
人の呼気の拡がりは数cmから数10cmというサイズであろう。濃度1%のCOが厚さ0.34mmもあれば検出できるという図3の結果から、この波長帯に注目すれば、ウィルスを含む可能性のある呼気が十分に可視化できるということである。また、図3で10-2の吸収を与える厚さ0.34mmとは、呼気が1%の濃度を維持して拡散したと仮定した場合の仮想的な検出限界厚さであり、この値はCOの濃度とそれが分布する厚さの積の限界値を与えている。例えば、吐出した呼気が拡散して行き、濃度(もともと環境中に存在するCO濃度からの増分)が1/100の0.01%=100ppmに低下しても、厚さが100倍の34mm以上に分布していれば、10-2以上の強度変化を与えるので視認できることになる。
現実には様々な画像強調手法が確立しており、検出できる強度変化は10-2よりは一般にはるかに高いので、現実の空気感染領域、飛沫感染領域の測定・可視化能力はもっと高いものになる。
【0032】
一方、湿度100%の気相のHOが検出可能な強度変化を与えるためには、数100mもの距離を伝搬させねばならない。数10cmから数m程度の実用的な距離での計測を考える場合、事実上、気相のHOの吸収は無視できる。この波長帯に注目すれば、いかなる湿度環境下であっても妨げられることなく、COが安定して可視化できるということである。
以上、見てきたように、波長3-5μmは、気相のCO、液相のHO、気相のHOの吸収帯をカバーし、これらの可視化を可能とする。中でも特に波長4.15-4.40μm、および4.20-4.35μmは、COガスの吸収帯をカバーし、水の弱い吸収帯の裾と被る。このことにより、上記(1)-(3)の要求を満たすことが可能になる。
【0033】
次に、COガスや水滴などの特定の波長の光を吸収する吸収体がある場合に、その吸収体を透過した吸収帯の波長の光がどのような濃淡像を形成するかを考える。この濃淡像は、COガスなどのガス状の場合は、少しずつ濃度が変化する空間的に拡がりをもった、言い換えれば空間周波数の低い濃淡分布をもった像となる。一方、水滴のような微小な粒の場合は、暗点や輝点等の局所的な拡がりの、言い換えれば空間周波数の高い濃淡分布をもった像になる。あるいはCOガスの濃度や水滴のサイズによっては、両者の輝度値がそれぞれ異なる領域に分布して、輝度値から識別できる場合もある。
【0034】
本発明では、このように気相のCOと液相のHOの濃淡像の2次元分布の特徴が異なることを利用して、ウィルスの空気感染と飛沫感染を分離して、その及ぶ範囲やその拡散の可視化を行う。あるいは濃淡像の2次元分布の時間的変化の違いから、ウィルスの空気感染と飛沫感染を分離して、その及ぶ範囲やその拡散の可視化を行う。
空間周波数による画像処理の方法は、特に限定はないが、例えばフーリエ変換によるローパスフィルタやハイパスフィルタを用いる方法などを挙げることができる。
その他、飛沫の抽出には、ラプラシアンフィルタ、ソーベルフィルタ、微分処理などのエッジ強調手法などを用いても良い。
こうして、濃淡像から暗点や輝点を抽出し、その暗点や輝点の拡がり範囲を飛沫が及ぶ範囲とし、またその範囲を表示して動画等で飛沫拡散状況を視覚化することができる。
【0035】
その1つの方法は、画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、輝度の範囲を外れた画素が占める場所に対する像の領域を飛沫感染が及ぶ範囲として示したり、輝度の範囲を外れた画素の配置分布を用いて飛沫の拡散状況を可視化する。
また、画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、オプティカルフローなどの方法で求めた輝度の範囲を外れた画素の時間的軌跡から、飛沫とそれ以外とを分離することもできる。また、このような動画像処理法を用いて飛沫の拡散状況を可視化すると、視覚的にわかりやすい飛沫感染拡散状況の可視化が可能になる。
なお、これらの具体的な画像処理方法としては既に様々な方法が開発、確立され、非特許文献3などにまとめられている。既知の技術であるので、ここでは詳細な説明は省略する。以上に述べた画像処理手法はいずれも実時間で適用できるので、実環境で実時間で簡便に測定できる。
【0036】
図12は、ウィルス飛散可視化装置201の装置構成を示す概要図である。
ウィルス飛散可視化装置201は、カメラ51と画像処理手段52を具備し、カメラ51は、図1に示す波長が3μm以上5μm以下の赤外光11用の結像光学系12と、赤外光を電気信号に変換する光電変換層を有する赤外光感知素子からなる画素素子14が、マトリックス状に配置された画像センサー13を有し、画像処理手段52は、画像センサー13により取得された濃淡像の空間周波数分布を計算する、または/および前記画像センサーの各画素の輝度情報を取得し、予め定めた輝度の範囲を外れた輝度を示した画素を抽出し、前記輝度の範囲を外れた画素の時間的軌跡を計算する。
【0037】
ここで、上記方法で述べたように、赤外光11の波長は4.15μm以上4.40μm以下が好ましく、4.20μm以上4.35μm以下がより好ましい。
また、上記方法で述べたように、光電変換層はInSbからなることが好ましい。
さらに、上記方法で述べたように、波長の赤外光のみを透過させるバンドパスフィルタを前記結像光学系の前(15a)または後ろ(15b)に設置して、バンドパスフィルタを介して、赤外光11を前記画像センサー上に結像させることが好ましい。
【実施例0038】
(実施例1)
実施例1では、装置構成とそれを用いて観察を行った実例について説明する。当然ながら、本発明はこのような特定の形式に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲により規定されるものである。
【0039】
用いた装置の全体写真を図4に示す。
装置は、カメラと、制御・観察・表示用のPC、それらを駆動するバッテリー、およびカメラを保持する三脚からなる持ち運び可能な装置である。カメラの重量は約2.5Kg、バッテリーの重量は約5Kgである。このカメラでは、家庭用のビデオカメラによる撮影と同様に、簡便に撮影を行うことができる。
【0040】
カメラ103の構成を図1(c)に示す。
カメラ103はFLIR社製のA6796型であり、カメラ103は、3-5μmの波長域の赤外光に適応する結像手段(結像レンズ)12、透過中心波長が4.25μm付近にあるバンドパスフィルタ15b、およびInSbを用いた赤外光感知素子からなる画像素子14が640×512のマトリックス状に配置された画像センサー13を有する。
ここで、バンドパスフィルタ15bはバッテリー駆動のスターリングクーラーによって画像センサー13(画素素子14)とともに80Kに冷却される。画像センサー13(画素素子14)は、階調14ビットであり、感応波長帯域は3-5μmである。結像レンズ12としては、例えば焦点距離25mm、50mm、100mm、F値2.5のものが入手できる。
【0041】
80Kに冷却されたバンドパスフィルタ15bの透過波長特性を図5に示す。4.0-4.4μmの波長域の赤外光を透過する。
また、図6にバンドパスフィルタ15bを冷却したときの効果を示す。縦軸はこのバンドパスフィルタがInSb赤外光感知素子の感度波長域3-5μm内で放射する赤外光強度の総量、すなわちバンドパスフィルタに由来する赤外光信号レベルを表しており、フィルタを80Kに冷却すれば、室温(300K)より10桁以上ベースラインが低減されたコントラストの高いクリアな像が得られることが示されている。
【0042】
図7は、室温25℃、湿度60%の通常の室内で撮影した吐息の動画像から切り出した一瞬の静止画である。見てわかるとおり、(a)は吐息直接、(b)は不織布マスク越し、(c)はマウスシールド越しの像である。
息は大気に比べて桁違いに多量のCOガスを含む。空気感染を及ぼす範囲である息の届く範囲は、COガスが漂う範囲として明確に可視化できていることがわかる。なお、この事例では、吐出されたCOの温度が室温よりも高い体温(約37℃)であることを反映して、COは吸収体でありながらむしろ発光体として明るく観察されている。先述のキルヒホッフの法則の効果がここに現れている。
図8は、同様の高温のCOの観察事例である。ファンヒータの排気口から排気される暖かいCOが明るく観察されている。
【0043】
図8は、ウィルスを含んだ飛沫に見立てた水滴を噴霧スプレーから吐出させたときの動画から0.1秒ごとに静止画を切り取って並べた写真である。0.85sから0.95sの間に噴霧されている。水滴の大きさは、球に換算した直径で10―100μmで、これは人の口から排出される飛沫と同程度の大きさと見込まれる。シャッター速度の関係で水滴の軌跡が求められ、勢いよく噴霧された後、重力の影響を受けて放物線状に下に落ちていく様子が可視化できていることがわかる。なお、このときの1コマ当たりの切り取り速度は40msである。より短い時間にすると、飛沫が漂う様子をより粒状に近くなった状態で可視化することができることが確認されている。なお、この実験は、温度25℃、湿度60%の一般の部屋で行った。
【0044】
図10は、温度25℃、湿度60%の環境中にノズルから噴出した気相のHOを0sから1sまで動画で撮影し、0.25sごとに切り取って静止画として並べたものである。ここで、気相のHOは、水にNガスをバブリングさせて発生させた。そのガスを密閉したビニール袋に補修し、湿度計を用いて測定したところ、ほぼ飽和水蒸気(湿度100%)に達していることを確認した。画像左側にノズルが位置し、そこから画像を左から右に横切るように気相のHOが噴出されているが、図10にはそのことを示す特徴はまったく観察されていない。本発明の方法では、環境の湿度の影響を受けずに、飛沫の観察と、飛沫が拡がっていく様子の可視化が行えることが確認された。
【0045】
(実施例2)
波長3-5μmにおけるカメラで呼気および飛沫を可視化する最も有効な方法を実施例1に示したが、より簡便に同様の効果を得る方法を実施例2として紹介する。本特許で想定している画素素子14(赤外光感知素子)は主に冷却の必要なものであるが、冷却の必要性は観察波長が短ければ短いほど下がる。注目する波長を短くすれば、同じ冷却温度ではより高い検出能が実現でき、同等の性能はより高い冷却温度でも実現でき、場合によっては冷却が不要になることもある。
【0046】
図2(a)によると、波長3-5μmでは基本的に気相のHOの吸収は小さいが、唯一、波長3.00-3.35μmにおいて、やや吸収が高くなっている。
人の呼気には1-9%のCOが含まれるが、それと同等以上に安定して含まれる分子が気相のHOである。肺から吐出された呼気は飽和状態、すなわち相対湿度100%と考えて良い。したがって、図2の気相のHOとは呼気の吸収係数を与えていると言ってもよい。その波長3.00-3.35μmの平均吸収係数は1.50×10-4cm-1である。決して高くはないが、4.20-4.35μmに比べれば3桁も高い。そこで、この波長帯を利用して、COの代わりに、HOを利用して空気感染領域を測定・可視化することも可能である。湿度の影響を受けることが欠点であるが、呼気中のHO濃度は飽和濃度に安定して保たれているので、環境の湿度が100%に達している特殊な状況を除いては、可視化が可能である。また、環境が湿度100%であっても、気体温度の違いにより可視化は可能である。
【0047】
この場合、図3と同様に吸収率10-2を与える吸収体厚さを求めると、67cmとなる。先述の通り、現実にはこれよりも小さな吸収を識別できるので、吸収率10-3を与える吸収体厚さを求めると、6.7cmとなる。呼気の厚さが6.7cmあれば、吐出された気相のHOがどこまで分布しているかが可視化できるということである。
一方、この波長帯の液相のHOの吸収は4.20-4.35μmに比べればさらに1-2桁高く、飛沫の可視化はいっそう容易である。
こうして、実施例1に用いた装置構成のバンドパスフィルタを3.00-3.35μmのものに変更することにより、空気感染領域、飛沫感染領域の測定・可視化がより安価なカメラで実現する。この場合も、空間周波数や輝度に注目した画像処理により、気相のHOと液相のHOの拡がりを分離できる。
【0048】
(実施例3)
実施例1に準拠した撮影条件でくしゃみの画像を取得した。但し、撮影条件の1コマ当たりの切り取り速度40msは20msに変更した。
その結果の一例を図11に示す。図11では、時間微分を施して、コントラストも強調している。
くしゃみに伴う呼気と、飛沫が明確に可視化され、撮影のタイミングでは呼気より飛沫の方が遠方に飛散していることがわかる。一方、呼気は広く拡散していることも見て取れる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、ウィルスが空気感染、飛沫感染するときのウィルス飛散範囲の提示および飛散状況の可視化が、持ち運びも可能で実環境で簡便に使用できる装置で、可能になる。
新型コロナやインフルエンザなどのウィルスは、健康、経済、生活など社会全体に多大な悪影響を及ぼしている。本発明によりウィルスが拡散するときの状況が把握でき、マスク、排気、パーティションなどへウィルス拡散防止のフィードバックがかけられる。
したがって、本発明は、社会的に大きなインパクトを有し、産業に与える影響も大きいと考える。
【符号の説明】
【0050】
1:HO吸収帯
11:赤外光
12:結像手段(結像レンズ)
13:画像センサー
14:画素素子(赤外光感知素子)
15a:バンドパスフィルタ
15b:バンドパスフィルタ
101:カメラ
102:カメラ
103:カメラ
51:カメラ
52:画像処理手段
201:ウィルス飛散計測装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12