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  • 特開-電気式人工喉頭 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158755
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】電気式人工喉頭
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20221006BHJP
   G10L 25/75 20130101ALI20221006BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20221006BHJP
   A61F 2/50 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G10K15/04 302F
G10L25/75
H04R1/00 310Z
A61F2/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021084943
(22)【出願日】2021-04-01
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】521214850
【氏名又は名称】竹内 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅樹
【テーマコード(参考)】
4C097
5D017
5D208
【Fターム(参考)】
4C097AA18
4C097BB02
4C097BB06
4C097BB09
4C097CC10
5D017AC16
5D208DE03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】首に装着することによりハンズフリーでかつ利用者等の特定の肉声に近い声を再現することができる電気式人工喉頭を提供する。
【解決手段】LPC残差波を用いた電気式人工喉頭において、回路部20は、ハンズフリー型でかつ自然の声に近い発声を生成するために異なる二つの振動子(狭域振動子11、広域振動子12)を用いる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの異なる振動子を備えた装着部と、装着部に振動音を提供する回路部と、回路部に振動音を提供するための振動音を保存する振動音保存装置と、振動音を作成し振動音保存装置に提供する原音生成装置を含むシステムからなることを特徴とする電気式人工喉頭。
【請求項2】
振動子の一つが60Hzから200Hzの周波数帯で振動音の周期成分を出力する狭域振動子で、他の一つが60Hzから200Hzの範囲では振動音の非周期成分を、200Hzより大きい範囲では振動音の周期成分を出力する広域振動子であることを特徴とする請求項1に記載の電気式人工喉頭。
【請求項3】
振動子二つを帯上に並列に配置し、喉部に巻き付け装着することによりハンズフリーで音声用の振動を入力することを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の電気式人工喉頭。
【請求項4】
事前に録音された人の声を基準にした音声合成技術により人の声に近い出力を得ることを特徴とする請求項1から請求項3に記載の電気式人工喉頭。
【請求項5】
音声合成技術が振動音の周期成分と非周期成分を生み出すアルゴリズムを用いることを特徴とする請求項4に記載の電気式人工喉頭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式人工喉頭に関する。
【背景技術】
【0002】
健常者は、自らの呼気が喉頭(声門) を経由する際に声帯を振動させることにより音を発生させ、その音の周波数成分を舌・顎や唇などの調音器官で変えることにより様々な発話を行っている。この声帯の振動により発生される音は、発話の基となる音であることから、「喉頭原音」などと呼ばれる。
【0003】
これに対し、喉頭を摘出してしまった喉頭摘出者は、通常であれば自らの意思による発声は不可能であるが、調音器官さえ残存していれば、人工的に作り出した音を喉頭原音の代わりに口腔内で発生させ、または、口腔内へ送り込んでやることにより、不完全ながらも発声ができるようになる。
【0004】
このような喉頭原音の代わりとなる音を人工的に作り出す装置の一つに電気式人工喉頭がある。電気式人工喉頭は、喉頭原音の代わりとなる音を、機械的、または、電気機械的に生成し、その音を頸部の振動などを通じて口腔内に導くことによって、喉頭摘出者自らによる発声を支援する。この種の電気式人工喉頭の中には、振動板と、その振動板を振動させて口腔内に音を発生させる、もしくは音を口腔内に導くためのボイスコイルモータとを搭載し、振動板の振動の周期や強度を変化させることによって、発生する音に変化をつけているものがある。
【0005】
例えば、特許文献1に開示された電気式人工喉頭では、特定の肉声データから線形予測分析によって算出された喉頭原音データを記憶する記憶部と、利用者の操作あるいは生体情報に応じて喉頭原音データの周期および/またはピーク値を制御する制御部と、制御部により制御された音データに基づく音を出力させる音出力部とを有し、利用者等の特定の肉声に近い声を再現することができる電気式人工喉頭を提供する。
【0006】
また、特許文献2に開示された電気式人工喉頭では、音を発生させるための基本となるパルス信号の波形に、周期または/およびデューティー比の微小変化を与えて得られる一連のパルス信号に応じた駆動をさせることで、声の自然性の向上、または個人性を付与し得るような仕組みを提供することが可能になっている。
【0007】
また、非特許文献1に開示された電気式人工喉頭では、電気式人工喉頭本体から分離した振動子を顎下部に装着具で固定し、リモコン化した指スイッチや脇スイッチ、足スイッチのいずれかで操作でき、会話中の身体的制約を解消するリモコン操作によるハンズフリー型人工喉頭の仕組みを提供することが可能になっている。
【先行技術文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6403448号
【特許文献2】特許第4940408号
【非特許文献1】株式会社電制。 リモコン操作によるハンズフリー型人工喉頭の製品化。障害者自立支援機器等開発促進事業,平成23年度、報告書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
健常者の声は、基本周波数を司る周期成分とそれ以外の部分を司る非周期成分とで構成されている。一方、特許文献1に開示された電気式人工喉頭は、周期成分しか考慮されておらず、音声の明瞭度は上がるものの機械的な音声の出力にとどまってしまう。
【0010】
また、特許文献2に開示された電気式人工喉頭では、パルス信号の周期およびデューティー比を、健常者あるいは喉頭摘出手術前の患者等から録音された音声の音波形を基に取得するようにしているため、受聴者に生理的に受け入れやすい微小変化を与えることができ、人間の声帯から発生する音により近い音を再現することができる。
【0011】
しかしながら、特許文献2に開示された電気式人工喉頭であっても、出力させる音に、声道による共鳴の影響等については考慮されていないため、利用者等の特定の肉声に近い声を再現することができないという課題がある。
【0012】
そして特許文献1および特許文献2のどちらもデバイス本体を手に持って、喉に押し付けて使用しなければならないという課題がある。
【0013】
非特許文献1はハンズフリー型で提供しているものの、振動音に関して特定の肉声に近づける声を再現するような処理はされていないという課題がある。
【0014】
特許文献1及び2そして非特許文献1で使用している振動子は共振周波数が60Hzから200Hzの間と限られているため、女性や子供の高域の振動音は生成できないという課題がある。
【0015】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、利用者等の特定のヒトの肉声に近い声を再現することができるハンズフリー型の電気式人工喉頭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る電気式人工喉頭は、振動子を二つにして広域用と狭域用でそれぞれを用意し、さらに人の声に近づけるためのアルゴリズムを用いて振動音を作成し、スマートフォンなどの音声保存装置を使用して操作する。
【0017】
狭域振動子は従来のELで使用されている振動子で60Hzから200Hzの範囲で音量が安定する。振動子はコイルと永久磁石によるローレンツ力によって軸が上下することで振動を発生する。この原理はボイスコイルに電流を通し、磁気回路により磁束を発生させることで、フレミングの左手の法則により推力が発生し、軸を押し上げて振動板に打ち付けている。電流をオフにすると反力がかかって逆に振動板から軸が離れる。この動作を繰り返すことで振動音を発生させている。
【0018】
広域振動子はフォスター電機株式会社が製作した、特開2020-199506と同構造のものである。振動音を発生させる原理は狭域振動子と同じであるが、55Hzから1000Hzの広い周波数帯域を安定して出せるように設計されている。しかしその分狭域振動子よりも出力音量は小さくなっている。
【0019】
振動音生成のアルゴリズムは、特定の音声の基本周波数が狭域振動子の共振周波数帯域である200Hzを境に、60Hzから200Hzの周波数帯では、狭域振動子が振動音の周期成分を出力し、広域振動子が非周期成分を出力する。200Hzより大きい範囲では狭域振動子は動作せず、広域振動子が周期成分を出力する。
【0020】
上記の周期成分とは特定の音声データのLPC残差波の基本周波数と倍音成分を増幅した振動音のことを指す。
【0021】
上記の非周期成分とはWORLDというソフトウェアを用いて特定の音声データから非周期性指標のみを取り出した振動音のことを指す。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、首に装着することによりハンズフリーでかつ利用者等の特定の肉声に近い声を再現することができる電気式人工喉頭を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】利用者等の特定の肉声データの基本周波数が60Hzから200Hzの範囲の際、本発明の第1実施形態に係る電気式人工喉頭の装着部10と、電気式人工喉頭の装着部10に振動音を提供する電気式人工喉頭の回路部20と、電気式人工喉頭の回路部20に振動音を提供するための振動音を保存する振動音保存装置30と、利用者等の特定の肉声データに線形予測分析等の所定の処理を実行して得られた声の元となる振動音の周期成分および非周期成分を作成し振動音保存装置30に提供する原音生成装置40とを含むシステムを説明するための図である。
図2】利用者等の特定の肉声データの基本周波数が200Hzより大きい場合、本発明の第1実施形態に係る電気式人工喉頭の装着部10と、電気式人工喉頭の装着部10に振動音を提供する電気式人工喉頭の回路部20と、電気式人工喉頭の回路部20に振動音を提供するための振動音を保存する振動音保存装置30と、利用者等の特定の肉声データに線形予測分析等の所定の処理を実行して得られた声の元となる振動音の周期成分を作成し振動音保存装置30に提供する原音生成装置40とを含むシステムを説明するための図である。
図3】電気式人工喉頭の装着部10の構成を装着時の前から見た図である。
図4】電気式人工喉頭の装着部10の構成を装着時の後ろから見た図である。
図5】狭域振動子11の内部構造である。
図6】自然発話による音声波形の700Hzから2000Hzまでの周波数スペクトル波形の図である。
図7】旧来型の電気式人工喉頭による音声波形の700Hzから2000Hzまでの周波数スペクトル波形の図である。
図8】本発明に係る電気式人工喉頭による、本発明に係る生成アルゴリズムで作成された振動音を用いて発声した音声波形の700Hzから2000Hzまでの周波数スペクトル波形の図である。
図9】本発明に係る電気式人工喉頭による、単なるLPC残差波の振動音を用いて発声した音声波形の700Hzから2000Hzまでの周波数スペクトル波形の図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、電気式人工喉頭の装着部10と、電気式人工喉頭の装着部10に振動音を提供する電気式人工喉頭の回路部20と、電気式人工喉頭の回路部20に振動音を提供するための振動音を保存する振動音保存装置30と、利用者等の特定の肉声データに線形予測分析等の所定の処理を実行して得られた声の元となる振動音の周期成分および非周期成分を作成し振動音保存装置30に提供する原音生成装置40とを含むシステムであり、基本周波数が60Hzから200Hzの男性の声の生成時に使用される。
【0026】
(第2実施形態)
図2は、電気式人工喉頭の装着部10と、電気式人工喉頭の装着部10に振動音を提供する電気式人工喉頭の回路部20と、電気式人工喉頭の回路部20に振動音を提供するための振動音を保存する振動音保存装置30と、利用者等の特定の肉声データに線形予測分析等の所定の処理を実行して得られた声の元となる振動音の周期成分を作成し振動音保存装置30に提供する原音生成装置40とを含むシステムであり、基本周波数が200Hzより大きいの女性の声の生成時に使用される。
【0027】
図3は、装着部を装着時に前から見た図で、図4は装着部を装着時に後ろから見た図である。狭域振動子11と広域振動子12、そしてバンド13とバックル14において構成されている。
【0028】
(狭域振動子の原理)
図5の狭域振動子は株式会社電制のEL「ユアトーン」に採用されている。ボイスコイルに電流を通し、磁気回路により磁束を発生させることで、フレミングの左手の法則により推力が発生し、軸を押し上げて振動板に打ち付けている。電流をオフにすると反力がかかって逆に振動板から軸が離れる。これを繰り返すことで振動音を発生させている。
【0029】
広域振動子の原理および構造は特開2020-199506を参照いただきたい。
【実施例0030】
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例にあっては、自然発話、旧来型の電気式人工喉頭、本発明に係る電気式人工喉頭のそれぞれで“こんにちは”を録音した。そして“こんにちは”の“は”の中の母音“あ”の音素開始時点から0.1秒抽出した音声にフーリエ変換をかけて周波数スペクトルを求めた。録音環境はパソコン(パナソニック、レッツノート、CF-5V)、マイク(オーディオテクニカ、ATR1100x)、マイク端子USB変換ケーブル(プラネックス、PL-US35AP)、そしてPraatのソフトウェアを用いた。
【0031】
図6から図8にかけて700Hzから2000Hzの範囲で自然発話、旧来型の電気式人工喉頭、本発明に係る電気式人工喉頭のそれぞれの周波数スペクトルを示した。横軸は周波数に、縦軸は音圧レベルを指す。母音“あ”の第1ホルマントが約780Hz、第2ホルマントが約1240Hzであるため、700Hzから2000Hzの範囲においてのスペクトルをプロットした。すると旧来型の電気式人工喉頭での発声に見られなかった第1ホルマントおよび第2ホルマントの特徴が本発明に係る電気式人工喉頭での発声では見られた。すなわちより自然発話に近づいたということが分かる。
【0032】
図9では本発明に係る電気式人工喉頭で単なるLPC残差波を振動音とした音声波形を示した。これよりも図8で示した本発明に係る生成アルゴリズムで作成した振動音の方が、第1ホルマントが特にはっきりと見えることが分かる。このことから“あ”の特徴が作成した振動音の方がLPC残差波よりもはっきり出ていると分かり、振動音として基本周波数とその倍音の±10Hzを12dB上げたLPC残差波を用いることは新規性及び有効性があるといえる。
【符号の説明】
【0033】
10…電気式人工喉頭装着部
11…狭域振動子、11A…振動板、11B…軸、11C…ゴム膜、11D…ボイスコイル、11E…永久磁石、11F…磁気回路
12…広域振動子
13…バンド
14…バックル
20…電気式人工喉頭 回路部、21…Bluetooth オーディオアンプ、22…充電/昇圧基板、23…リチウムイオンポリマー電池、24…振動音の周期成分、25…振動音の非周期成分
30…振動音保存装置
40…振動音生成装置、41…振動音の周期成分、42…振動音の非周期成分、43…記録媒体、43A…録音音声データ、44…録音用マイク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9