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特開2022-158799ポリエステル樹脂、繊維、およびポリエステル樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158799
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂、繊維、およびポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20221006BHJP
   C08G 63/87 20060101ALI20221006BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08G63/672
C08G63/87
D01F6/62 306A
D01F6/62 306C
D01F6/62 306P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021112888
(22)【出願日】2021-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2021059962
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021103565
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大山田 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】福林 夢人
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】冨森 康裕
(72)【発明者】
【氏名】天満 悠太
【テーマコード(参考)】
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AA05
4J029AB01
4J029AB04
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD06
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029BA03
4J029BA05
4J029BF09
4J029BF18
4J029BF25
4J029CA02
4J029CA06
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CC05A
4J029CH02
4J029DB02
4J029EG07
4J029EG09
4J029HA01
4J029HB01
4J029JC361
4J029KB02
4J029KB05
4L035AA05
4L035DD13
4L035FF05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】バインダー繊維として使用した際に、熱接着性に優れるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】下記の(1)~(3)を全て満足するポリエステル樹脂である。(1)ポリエステル樹脂を構成する全酸成分中、芳香族ジカルボン酸成分の含有量が70モル%以上であり、脂肪族カルボン酸成分の含有量が多くとも30モル%である。(2)ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分がエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとを主成分とし、かつエチレングリコールと1,4-ブタンジオールのモル比が90/10~30/70である。(3)グリコール成分として、ジエチレングリコールおよびトリエチレングリコールとを含み、トリエチレングリコールの含有量が0.1モル%を超え5.0モル%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)~(3)を全て満足することを特徴とするポリエステル樹脂。
(1)ポリエステル樹脂を構成する全酸成分中、芳香族ジカルボン酸成分の含有量が70モル%以上であり、脂肪族カルボン酸成分の含有量が多くとも30モル%である。
(2)ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分がエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとを主成分とし、かつエチレングリコールと1,4-ブタンジオールのモル比が90/10~30/70である。
(3)グリコール成分として、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールとを含み、全グリコール成分中、トリエチレングリコールの含有量が0.1モル%を超え5.0モル%以下である。
【請求項2】
全グリコール成分中、テトラエチレングリコールの含有量が2.0モル%以下である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
全グリコール成分中、ジエチレングリコールの含有量が1.0モル%以上である、請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
硫黄成分の含有量が5~120ppmである、請求項1~3の何れか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
融点が150℃以上230℃以下である、請求項1~4の何れか1項に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のポリエステル樹脂からなる、繊維。
【請求項7】
請求項1~5の何れか1項に記載のポリエステル樹脂を製造する方法であって、ポリエステル樹脂の原料に対して有機スルホン酸系化合物を添加する工程を含むことを特徴とする、ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂、繊維、およびポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等に代表されるポリエステル樹脂は、機械的特性、化学的特性に優れており、広範な分野(例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用等のフィルムまたはシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等)において使用されている。
さらに、ポリエステル樹脂を使用する用途として繊維があるが、まくらや寝装品用の詰め物、または不織布等を構成する繊維を接着する目的で、ホットメルト型バインダー繊維が広く使用されている。そして、ポリエステル系バインダー繊維として、共重合ポリエステル樹脂からなるものが知られている。例えば、特許文献1には、融点が130~200℃程度のバインダー繊維用の共重合ポリエステルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-12693号公報
【0004】
そして近年では、熱接着性や不織布等とした際の強力がさらに向上された繊維を、紡糸時の糸切れや延伸時の単糸密着が発生することなく、操業性よく得ることが要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、繊維とする際の操業性が良好で、熱接着性が良好で、不織布等の繊維製品とした際の強力に優れる、バインダー繊維に好適なポリエステル樹脂を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討の結果、特定組成を満足するポリエステル樹脂であれば、熱接着性に優れる繊維が操業性よく得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下<1>~<7>の通りである。
<1>下記の(1)~(3)を全て満足することを特徴とするポリエステル樹脂。
(1)ポリエステル樹脂を構成する全酸成分中、芳香族ジカルボン酸成分の含有量が70モル%以上であり、脂肪族カルボン酸成分の含有量が多くとも30モル%である。
(2)ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分がエチレングリコールと1,4-ブタンジオールとを主成分とし、かつエチレングリコールと1,4-ブタンジオールのモル比が90/10~30/70である。
(3)グリコール成分として、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールとを含み、全グリコール成分中、トリエチレングリコールの含有量が0.1モル%を超え5.0モル%以下である。
<2>全グリコール成分中、テトラエチレングリコールの含有量が2.0モル%以下である、<1>に記載のポリエステル樹脂。
<3>全グリコール成分中、ジエチレングリコールの含有量が1.0モル%以上である、<1>または<2>に記載のポリエステル樹脂。
<4>硫黄成分の含有量が5~120ppmである、<1>~<3>の何れかに記載のポリエステル樹脂。
<5>融点が150℃以上230℃以下である、<1>~<4>の何れか記載のポリエステル樹脂。
<6><1>~<5>の何れかに記載のポリエステル樹脂からなる、繊維。
<7><1>~<5>の何れかに記載のポリエステル樹脂を製造する方法であって、
ポリエステル樹脂の原料に対して有機スルホン酸系化合物を添加する工程を含む、ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂によれば、溶融紡糸時や延伸時などの繊維とする際の操業性(以下、単に操業性という)が良好で、バインダー繊維としたときの熱接着性(以下、単に熱接着性という)が良好で、強力に優れる不織布等の繊維製品を得ることができる繊維を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のポリエステル樹脂を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステルを構成する全酸成分中、芳香族ジカルボン酸成分の含有量が70モル%以上であり、80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましい。脂肪族カルボン酸成分の含有量は多くとも30モル%であり、20モル%以下であることが好ましく、15モル%以下であることがより好ましい。本発明のポリエステル樹脂を構成する酸成分は、芳香族ジカルボン酸成分を主成分とし、脂肪族カルボン酸成分を共重合成分とするもの、あるいは、酸成分のすべてが芳香族ジカルボン酸成分によって構成されるもののいずれかである。
【0010】
芳香族ジカルボン酸成分の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。中でも、得られるポリエステル樹脂の融点や結晶性を好ましい範囲としやすい点で、テレフタル酸が好ましい。
【0011】
脂肪族カルボン酸成分は、本発明のポリエステル樹脂の融点を低下させることに寄与する。脂肪族カルボン酸成分の割合が30モル%を超えて多くなると、融点が低くなりすぎ、耐熱性に劣るものとなるうえ、溶融紡糸時や延伸時などの繊維とする際の操業性(操業性)、糸質などが低下し、強力に劣る繊維となるため好ましくない。
【0012】
脂肪族カルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸成分、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分は脂肪族ラクトンの開環反応により得られるものであり、脂肪族ラクトンの具体例としては、炭素数4~11のラクトン及びこれらの単独重合体又は2種以上の共重合体が挙げられる。特に好適な脂肪族ラクトンとして、Ε―カプロラクトンやΔ―バレルラクトンが挙げられる。
【0013】
一方、ポリエステル樹脂中のグリコール成分としては、エチレングリコール(以下、EGと略記することがある。)と1,4-ブタンジオール(以下、BDと略記することがある。)を主成分とするものであり、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、両成分の含有量は、全グリコール成分の80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。両成分の含有量が80モル%未満であると、得られるポリエステル樹脂は結晶性や耐熱性に劣る場合がある。
【0014】
そして、両者のモル比(EG/BD)は、90/10~30/70であり、80/20~40/60であることが好ましく、70/30~40/60であることがより好ましい。この範囲を外れると、ポリエステル樹脂の融点が高くなる。このため、繊維とした場合の十分な熱接着性(熱接着性)を得ることができないので、熱接着時に高温をかける必要が生じ、熱分解が起こり得られる製品の強力が低下する。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂は、エチレングリコールと1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分として、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールを含有し、全グリコール成分中、トリエチレングリコールの含有量が0.1モル%を超え5.0モル%以下であることが必要である。全グリコール成分中、トリエチレングリコールの含有量が0.3モル%以上4.0モル%以下であることが好ましく、0.4モル%以上3.0モル%以下であることがより好ましい。0.1モル%以下であると、操業性や熱接着性に劣るものとなる。一方、5.0モル%を超えると、結晶性が低くなり、耐熱性や糸質が低下する。
【0016】
また、グリコール成分としてテトラエチレングリコールを含有することが好ましい。この場合、全グリコール成分中、トリエチレングリコールとテトラエチレングリコールの合計の含有量が、7.0モル%以下であることが好ましく、6.0モル%以下であることがより好ましく、0.6モル%以上4モル%以下であることがさらに好ましく、0.8モル%以上3モル%以下であることが特に好ましい。7.0モル%を超えると、耐熱性が低下し、操業性や糸質に劣るものとなる。一方、0.6モル%未満であると、操業性や熱接着性に劣る場合がある。
【0017】
全グリコール成分中、テトラエチレングリコールの含有量が0.0~2.0モル%であることが好ましく、0~1.0モル%であることがより好ましく、0.0~0.5モル%であることがさらに好ましい。2.0モル%を超えると、耐熱性、耐候性が低下する場合がある。
【0018】
ジエチレングリコールの含有量は、全グリコール成分中、1.0モル%以上であることが好ましく、2.0モル%以上であることがより好ましく、2.5モル%以上であることがさらに好ましい。ジエチレングリコールの含有量をこの範囲とすることで、操業性や熱接着性をいっそう向上させることができる。ジエチレングリコールの含有量の上限値は、例えば、繊維としたときの糸質にいっそう優れるために10モル%であることが好ましい。
【0019】
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの各々の含有量を調整するために、例えば、後述のポリエステル樹脂の製造方法における重合触媒として有機スルホン酸系化合物を用いたり、有機スルホン酸系化合物の添加量を好ましい範囲としたり、グリコール成分(G)と酸成分(A)とのモル比(G/A)を好ましい範囲としたり、エーテル化反応を行う工程を設けて、その温度または時間を調整したりすることができる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂は、上記以外のグリコール成分を含んでいてもよい。その具体例としては、1,2-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加体、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂は、融点が150℃以上230℃以下であることが好ましく、特に160℃以上210℃以下であることが好ましい。融点を上記範囲とすることで、一般的なポリエステル樹脂よりも融点が低くなり、バインダー繊維とした場合、熱処理の温度を低くすることができ、また、熱接着性も良好となることから、不織布等とした場合の強力にいっそう優れるものとなる。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂は、極限粘度が0.45dl/g以上であることが好ましく、0.5dl/g以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.6~0.8dl/gである。極限粘度が0.45dl/g未満であると、繊維にした際に、十分な糸質特性が得られない場合がある。なお、本発明における極限粘度とは、フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒として、温度20℃で測定したものである。
【0023】
本発明のポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の重合体、制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、難燃剤、その他の添加剤が添加されていてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が挙げられる。安定剤としては、リン酸またはリン酸エステル系等のリン系、硫黄系、アミン系等の安定剤が挙げられる。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、有機系、無機系または有機金属系のトナー、または蛍光増白剤等が添加されていてもよい。これにより、ポリエステル樹脂の黄み等の着色をさらに抑えることができる。または結晶性を向上させるため、ポリエチレンを初めとする他の樹脂、タルク等の無機核剤が添加されていてもよい。
【0025】
また、本発明のポリエステル樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、有機系、無機系または有機金属系のフィラーを添加してもよい。本発明のポリエステル樹脂がフィラーを含有することにより、このポリエステル樹脂により構成される繊維同士の摩擦(F/F摩擦)や、このポリエステル樹脂により構成される繊維と金属間の摩擦(F/M摩擦)を低減することができるため、繊維製造工程にて、繊維の摩擦抵抗が原因として生じる単糸切れ等を抑制することができる。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、色調改善等の目的で、コバルト化合物が添加されていてもよい。コバルト化合物としては特に限定されないが、具体的には例えば、酢酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトネート、ナフテン酸コバルト、それらの水和物等が挙げられる。中でも特に酢酸コバルト四水和物が好ましい。コバルト化合物の添加量は、コバルト原子として、ポリエステル樹脂に対して10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは5ppm以下であり、さらに好ましくは3ppm以下である。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂に、製造工程で発生した廃棄樹脂または市場から回収されたリサイクルポリエステル樹脂等(例えば、PETボトル等)を混合させてもよい。
【0028】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、ポリエステル樹脂の原料に対して有機スルホン酸系化合物を添加し、次いで、重縮合反応を行う。
【0029】
また、本発明においては、重縮合反応を行う前または同時に、特定条件でのエーテル化反応を行ってもよい。それにより、ジエチレングリコールとトリエチレングリコールの含有量を特定範囲に調整しやすくなる。その結果、操業性や熱接着性にいっそう優れるポリエステル樹脂を得ることができる。
【0030】
ポリエステル樹脂の原料としては、例えば、エチレングリコールを主たる成分として含むグリコール成分、ジカルボン酸成分、グリコール成分とジカルボン酸成分とからなる低次縮合物としてのエステル化物等が挙げられる。
【0031】
上記エステル化物を得る手法としては、例えば、ポリエステル樹脂としてポリエチレンテレフタレートを製造する場合は、テレフタル酸、エチレングリコ-ル、および、必要により他の共重合成分を直接反応させて水を留去し、エステル化して、ポリエステル樹脂の原料としてのエステル化物を得る。または、テレフタル酸ジメチル、エチレングリコ-ル、および必要により他の共重合成分を反応させてメチルアルコ-ルを留去し、エステル交換させてエステル化物を得る。
【0032】
以下、エステル化物の調製方法について、説明する。
ジカルボン酸、またはそのエステル誘導体1モルに対して好ましくは1.02~2.5モル、より好ましくは1.03~1.8モルのエチレングリコ-ルが含まれたスラリーを調製し、これをエステル化反応器に連続的に供給し、エステル化物を得る。
【0033】
エステル化反応は、エチレングリコ-ルが還流する条件下で、反応によって生成した水またはアルコ-ルを、精留塔で系外に除去しながら行う。エステル化反応は、複数のエステル化反応器を直列に連結した多段式装置を用いて行うことができる。
【0034】
第1段階のエステル化反応の温度は、150~270℃であることが好ましく、245~265℃であることがより好ましい。圧力は、0.2~3kg/cmGであることが好ましく、0.5~2kg/cmGであることがより好ましい。
【0035】
最終段階のエステル化反応の温度は、150~290℃であることが好ましく、255~275℃であることがより好ましい。圧力は、0~1.5kg/cmGであることが好ましく、0~1.3kg/cmGであることがより好ましい。
【0036】
3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、上記第1段階の反応条件と最終段階の反応条件の間の条件であることが好ましい。
多段階でのエステル化反応の反応率は、各段階で滑らかに上昇させることが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上に達することが好ましく、93%以上に達することがより好ましい。これらのエステル化反応によりエステル化物を得ることができ、その好ましい分子量は500~5000程度である。
【0037】
エステル化反応においてテレフタル酸を用いる場合、テレフタル酸の酸としての触媒作用により反応が進行する。
【0038】
上記のようにして得られたエステル化物に対し、1,4-ブタンジオールと、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンとを添加し、解重合反応を行った後、重合触媒として有機スルホン酸系化合物を添加し、重縮合反応を進行させて、本発明のポリエステル樹脂を得る。
【0039】
(解重合反応)
解重合反応について、以下に述べる。
エステル化反応によって得られたエステル化反応物(エチレンテレフタレートオリゴマー)150~220質量部に対し、1,4-ブタンジオール20~120質量部と、必要に応じて脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンを多くとも30質量部を撹拌しながら全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.2~3.0になるように添加する。
【0040】
解重合の反応条件としては、特に限定されるものではないが、温度は240~290℃であることが好ましく、250~280℃であることがより好ましい。解重合反応は、常圧または加圧下において進行させることが好ましく、その圧力は、0~3.0kg/cmGであることが好ましい。
【0041】
(触媒)
本発明においては、重合触媒として有機スルホン酸系化合物を用いることで、得られるポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールとテトラエチレングリコールの含有量を特定範囲とすることができる。有機スルホン酸系化合物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、m-またはp-ベンゼンジスルホン酸、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸、o-、m-またはP-スルホ安息香酸、ベンズアルデヒド-o-スルホン酸、アセトフェノン-p-スルホン酸、アセトフェノン-3,5-ジスルホン酸、o-、m-またはp-アミノベンゼンスルホン酸、スルファニル酸、2-アミノトルエン-3-スルホン酸、フェニルヒドロキシルアミン-3-スルホン酸、フェニルヒドラジン-3-スルホン酸、1-ニトロナフタレン-3-スルホン酸、チオフェノール-4-スルホン酸、アニソール-o-スルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、o-、m-またはp-クロルベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ブロモベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-ニトロベンゼンスルホン酸、ニトロベンゼン-2,4-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-3,5-ジスルホン酸、ニトロベンゼン-2,5-ジスルホン酸、2-ニトロトルエン-5-スルホン酸、2-ニトロトルエン-4-スルホン酸、2-ニトロトルエン-6-スルホン酸、3-ニトロトルエン-5-スルホン酸、4-ニトロトルエン-2-スルホン酸、3-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-o-キシレン-4-スルホン酸、2-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、5-ニトロ-m-キシレン-4-スルホン酸、3-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、5-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、6-ニトロ-p-キシレン-2-スルホン酸、2,4-ジニトロベンゼンスルホン酸、3,5-ジニトロベンゼンスルホン酸、o-、m-またはp-フルオロベンゼンスルホン酸、4-クロロ-3-メチルベンゼンスルホン酸、2-クロロ-4-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、4-スルホフタル酸、2-スルホ安息香酸無水物、3,4-ジメチル-2-スルホ安息香酸無水物、4-メチル-2-スルホ安息香酸無水物、5-メトキシ-2-スルホ安息香酸無水物、1-スルホナフトエ酸無水物、8-スルホナフトエ酸無水物、3,6-ジスルホフタル酸無水物、4,6-ジスルホイソフタル酸無水物、2,5-ジスルホテレフタル酸無水物、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、メチオン酸、シクロペンタンスルホン酸、1,1-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸無水物、3-プロパンジスルホン酸、β-スルホプロピオン酸、イセチオン酸、ニチオン酸、ニチオン酸無水物、3-オキシ-1-プロパンスルホン酸、2-クロルエタンスルホン酸、フェニルメタンスルホン酸、β-フェニルエタンスルホン酸、α-フェニルエタンスルホン酸、クロルスルホン酸アンモニウム、ベンゼンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸エチル、5-スルホサリチル酸ジメチル、4-スルホフタル酸トリメチル等、およびこれらの塩が挙げられる。中でも、汎用性の観点から、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩などが挙げられる。
【0042】
重合触媒として、金属系触媒を用いない場合には、得られる本発明のポリエステル樹脂中の、金属系触媒由来の金属成分の含有量を少なくすることができる。金属成分の含有量が多いと、環境負荷が高くなるのみならず、透明性に劣ったり、溶融加工時に異物が発生したりする場合がある。
金属系触媒由来の金属成分の含有量は、1ppm以下であることが好ましく、0.5ppm以下であることがより好ましく、0ppmであることがさらに好ましい。金属系触媒としては、例えばアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、鉄、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガン、ニッケル、コバルト等の化合物が挙げられる。
【0043】
有機スルホン酸系化合物は、例えば固体状、スラリー状または水、グリコール等に溶解させた溶液として添加することができる。
【0044】
有機スルホン酸系化合物の添加量は、その種類にもよるが、ポリエステル樹脂を構成する全酸成分1モルに対して0.5×10-4~10×10-4モルとすることが好ましく、2.0×10-4~6.0×10-4モルであることがより好ましい。添加量が上記範囲より少ないと、重合度の高いポリエステル樹脂を短時間で得ることができない場合、またジエチレングリコールやトリエチレングリコールの含有量を特定範囲とできない場合がある。一方、上記範囲を超えると、トリエチレングリコールの含有量を特定範囲とできない場合や、副反応物(例えば、テトラヒドロフラン等)の生成やポリエステル樹脂の着色の原因となったり、目標の重合度の樹脂を得ることができない場合がある。
【0045】
有機スルホン酸系化合物の添加量を上記の範囲とすることで、得られるポリエステル樹脂の硫黄成分の含有量を、好ましくは5~120ppm、より好ましくは8~100ppmとすることができる。硫黄成分の含有量が5ppm未満であると、糸質特性に劣る場合がある。一方、120ppmを超えると、副反応物(例えば、テトラヒドロフラン等)の生成やポリエステルの着色の原因となる場合がある。
【0046】
(重合反応)
重縮合反応としては、例えば溶融重縮合反応が挙げられる。重縮合反応は1段階で行ってもよいし、多段階に分けて行ってもよい。
【0047】
重縮合反応条件としては、特に限定されるものではないが、第1段階の重縮合反応の温度は250~290℃であることが好ましく、260~280℃であることがより好ましい。圧力は500~20hPaであることが好ましく、200~30hPaであることがより好ましい。
【0048】
多段階の場合、最終段階の重縮合反応の温度は265~300℃であることが好ましく、275~295℃であることが好ましい。圧力は10~0.1hPaが好ましく、5~0.5hPaであることがより好ましい。3段階以上で実施する場合には、中間段階の反応条件は、第1段階と最終段階の間の反応条件とすることが好ましい。これらの各段階において重合度を滑らかに上昇させることが好ましい。
【0049】
(エーテル化反応)
エーテル化反応は、エステル化反応や重縮合反応と同時に行ってもよい。または、有機スルホン酸系化合物を添加した後に、エーテル化反応を行ってもよい。重合触媒としての有機スルホン酸系化合物を添加し、脱水作用によるエーテル化反応が進行することにより、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールが生成しやすくなる。
【0050】
エーテル化反応の温度は200℃以上であることが好ましく、220~300℃であることがより好ましく、230~280℃であることがさらに好ましく、240~260℃であることが特に好ましい。200℃未満であると、反応が十分に進行しないので、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの含有量が特定範囲とならない場合があることから、熱接着性が不十分となることがある。300℃を超えると、反応中にエステル化物の分解が進行し、操業性や糸質特性が低下することがある。
【0051】
エーテル化反応の時間を調整することで、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールの含有量を特定範囲としやすくなる。エーテル化反応の時間としては、特に限定されるものではないが、例えば5~120分間が好ましく、10~60分間であることがより好ましい。反応時間が120分を超えると、エーテル化反応が進行しすぎてしまい、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの含有量が特定範囲とならない場合や、反応中にエステル化物の分解が進行する場合があることから、操業性や糸質特性が低下することがある。
【0052】
エーテル化反応は、常圧または加圧下および減圧下において進行させることが好ましく、その圧力は、0~3.0kg/cmGまたは1000~0.1hPaであることが好ましい。
【0053】
エーテル化反応に供される原料における、グリコール成分(G)と酸成分(A)のとのモル比(G/A)を調整することにより、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの生成量を調整することができる。G/Aは1.05~3.00であることが好ましく、1.10~2.00であることがより好ましい。G/Aを調整するために、必要に応じて、ポリエステル原料に対し、エチレングリコール等のグリコール成分を追加で添加してもよい。1.05未満であるとトリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの生成量が少なくなる傾向があり、一方、3.00を超えると、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの生成量が多くなる傾向がある。
【0054】
(ポリエステル樹脂の用途)
本発明のポリエステル樹脂は様々な用途に適用可能であり、例えば繊維、成形品、フィルム等に好適に用いることができる。
【0055】
本発明のポリエステル樹脂を含有する成形品の場合は、例えば本発明のポリエステル樹脂を含む原料を用いてプレス成形、押出成形、圧空成形、ブロー成形等の各種の成形方法を適用することにより製造することができる。これにより、容器をはじめ、各種の部品を提供することができる。
【0056】
本発明のポリエステル樹脂を用いて、本発明の繊維とすることができる。本発明の繊維は、常法の溶融紡糸法により製造することができ、こうした紡糸法としては、例えば、紡糸、延伸を2ステップで行う方法、または1ステップで行う方法が挙げられる。さらに、本発明の繊維としては、捲縮が付与されたもの、熱セットが施されたもの、カット工程により所望の長さのステープル(短繊維)やショートカット繊としたもの等が挙げられる。なお、カット工程を経ることなく、そのまま巻き取られて、連続繊維(長繊維)としてもよいことはいうまでもない。
【0057】
本発明の繊維の形態等としては、異型断面繊維、中空断面繊維、同種の樹脂や他の樹脂と複合化した複合繊維等であってもよいし、原着繊維であってもよい。また、本発明の繊維を用いて、例えば、混繊、混紡等の公知の糸加工手段を採用し、加工糸としてもよい。
【0058】
本発明の繊維としては、本発明のポリエステル樹脂を一部に用いたものであってもよく、例えばバインダー繊維とする際、本発明のポリエステル樹脂のみを用いた全融型のバインダー繊維のほか、本発明のポリエステル樹脂を鞘部にのみ用いた芯鞘型のバインダー繊維であってもよい。また、サイドバイサイドで2成分を貼り合わせた複合繊維の一方にのみ、本発明のポリエステル樹脂を用いたものであってもよい。なお、このような複合繊維とする際の他方の成分については、必要とされる繊維の特性や用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0059】
本発明の繊維の特性値としては、例えば単繊維繊度0.5~25.0dtex、強度0.1~6.0cN/dtex、伸度10~200%の範囲を有するものが挙げられる。
【0060】
本発明の繊維を用いて、種々の繊維製品とすればよいが、例えば、本発明の繊維をバインダー繊維として他の繊維と混合し、紡績糸や不織布とすることができる。
【0061】
不織布としては、乾式不織布であってもよいし、湿式不織布であってもよい。不織布の目付は特に限定するものではない。不織布化の手法としては、本発明の繊維を構成するポリエステル樹脂(本発明のポリエステル樹脂)が熱接着成分となり、繊維同士を熱接着することによって不織布形態とするものである。熱接着前に構成繊維同士を三次元的に交絡させてもよい。
【0062】
不織布には、本発明の繊維以外の繊維を含んでいてもよい。こうした繊維としては、例えば、本発明のポリエステル樹脂よりも融点の高いポリエステル樹脂からなる繊維が挙げられる。
【0063】
不織布の製造法について一例を挙げる。本発明の繊維を、その他の繊維と混合する場合は、その他の繊維を準備して任意の割合で計量する。混合する際の本発明の繊維の割合は、不織布の要求特性に応じて適宜選択すればよく、10~90質量%程度が好ましい。
【0064】
その後、乾式不織布を製造する場合は、計量した構成繊維となる繊維をカード機に投入し、解繊して乾式ウエブを作製する。得られたウエブを熱風処理がなされる連続熱処理機にて、本発明のポリエステル樹脂が融解または軟化する温度で熱接着処理を施し、構成繊維同士が熱接着により一体化した乾式不織布を得る。
【0065】
湿式不織布を製造する場合は、計量した原料に対し、パルプ離解機を用いて攪拌、解繊工程を行った後、抄紙機にて湿式抄造ウエブを作製する。得られたウエブを熱風処理がなされる連続熱処理機にて、本発明のポリエステル樹脂が融解または軟化する温度で熱接着処理を施し、構成繊維同士が熱接着により一体化した湿式不織布を得る。
【実施例0066】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、測定、評価は以下の方法により行った。
【0067】
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等重量混合液を溶媒として、温度20℃で測定した。
【0068】
(2)芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族カルボン酸成分、グリコール成分の組成
重水素化クロロホルム/重水素化トリフルオロ酢酸=11/1(体積比)の混合溶媒0.6mLに20mgの試料を溶解し、日本電子社製、核磁気共鳴装置JNM-ECZにて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピーク積分強度からジカルボン酸成分と、脂肪族ヒドロキシカルボン酸成分と、トリエチレングリコール成分とテトラエチレングリコール成分の合計量と、それ以外の各グリコール成分とのモル比を算出した。
【0069】
(3)トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール成分の定量
ポリエステル樹脂を濃度0.75規定の水酸化カリウム/メタノール溶液中で加水分解した後、テレフタル酸を添加して中和した。次に、濾過して得られた濾液について、ガスクロマトグラフ法による測定を行い、あらかじめ作製した検量線を用いて、トリエチレングリコールとテトラエチレングリコールとのモル比を算出し、これらのモル比と前述の1H-NMRの測定結果(トリエチレングリコールおよびテトラエチレングリコールの合計量と、それ以外の各グリコール成分とのモル比)とから、全グリコール成分中の、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールの含有量を算出した。
【0070】
(4)融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー社製示差走査熱量計DIAMOND DSCを用い、窒素気流中、温度範囲-50~240℃、昇温速度20℃/分で測定した。
【0071】
(5)硫黄成分の含有量
ポリエステル樹脂を300℃で溶融成形して直径3cm×厚み1cmの円盤状の成形板とし、リガク社製蛍光X線分析装置 ZSX PRIMUSを用いて、検量線法により定量分析を行った。
【0072】
(6)操業性(切糸、単糸密着)
24時間連続して溶融紡糸を行った間の切糸回数が3回/(日・錘)以下であり、かつ延伸工程時の単糸同士の密着がない場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」とした。
【0073】
(7)長繊維の強度、伸度
得られた長繊維をテンシロンRTC-1210(オリエンテック社製)を用いてJIS L 1013に基づいて測定した。
【0074】
(8)不織布強力
得られた不織布をMD方向150MM、CD方向50mmにサンプルを切り出し、オートグラフ(島津製作所製AG-50KNI)を用い、引張速度100mm/分、チャック間距離100mmの条件で不織布のMD強力を測定した。なおサンプル数はN=5とした。また、実施例で得られた乾式不織布および湿式不織布ともに、不織布強力が4000cN以上のものを熱接着性が良好であるとした。
【0075】
実施例1
〔ポリエステル樹脂〕
エステル化反応缶に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化物A(テレフタル酸:エチレングリコール=100:111(モル比))を得た。
加熱溶融したエステル化物Aを280℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、表1に示した仕込み量で、ε-カプロラクトン(εCL)、1,4-ブタンジオール(BD)を投入後、1時間の解重合反応を行った後、重縮合触媒として、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を6.0×10-4モル/酸成分モル添加した。次に、反応缶の温度を280℃に維持したまま、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を3時間行い、ポリエステル樹脂を得た。
【0076】
〔短繊維の製造〕
極限粘度0.70dl/gのポリエチレンテレフタレートを芯部に、得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するよう、孔数225、孔径0.5mmの紡糸口金を用い、吐出量1771g/分、芯部と鞘部との質量比率を50/50とし、紡糸温度280℃、紡糸速度776m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた未延伸糸を収束し、115ktexのトウとし、延伸温度76℃、延伸倍率4.0倍の条件で延伸した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、繊度4.4dtexの熱接着性芯鞘型複合短繊維を得た。
【0077】
〔乾式不織布の作製〕
ユニチカ社製のレギュラーポリエステル繊維「121」(1.7T51)を70質量%、得られた熱接着性芯鞘型複合繊維を30質量%の条件になるよう混綿し、熱処理後における不織布の目付が50g/mになるように、カード機(大和機工製、SC-500DI3HC)に繊維を投入し、ウェブを作製した。その後、連続熱処理機(辻井染機工業製、NFD-500E2)を用いて、風量57m/分、200℃×1分の条件にて熱処理し、乾式不織布を作製した。
【0078】
〔長繊維の製造〕
極限粘度0.74dl/gのポリエチレンテレフタレートを芯部に、実施例1で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するよう、孔数24、孔径0.4mmの紡糸口金を用い、芯部と鞘部との質量比率を60/40とし、紡糸温度288℃、紡糸速度3000m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた部分延伸糸を延伸温度73℃、熱セット温度131℃、延伸倍率1.9倍の条件で延伸し、繊度54dtexの熱接着性芯鞘型複合長繊維を得た。
【0079】
実施例2
〔ポリエステル樹脂、短繊維、乾式不織布、長繊維の作製〕
エステル化反応缶に、テレフタル酸とエチレングリコール(モル比1/1.6)のスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化物A(テレフタル酸:エチレングリコール=100:111(モル比))を得た。
加熱溶融したエステル化物を280℃に加熱した重縮合反応缶に投入し、表1に示した仕込み量で、ε-カプロラクトン、1,4-ブタンジオールを投入後、1時間の解重合反応を行った後、重縮合触媒として、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)を6.0×10-4モル/酸成分モル添加し、常圧下、280℃で10分間エーテル化反応を行った。次に、反応缶の温度を280℃に維持したまま、系の圧力を徐々に減じて60分後に0.5hPa以下にした。この条件で撹拌しながら重縮合反応を3時間行い、ポリエステル樹脂を得た。また、実施例2で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するようにした以外は、実施例1と同様にして、熱接着性芯鞘型複合短繊維、乾式不織布、芯鞘型複合長繊維を得た。
【0080】
実施例3~9、比較例1~5
〔ポリエステル樹脂、短繊維、乾式不織布、長繊維の作製〕
ε-カプロラクトン、1,4-ブタンジオール、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)の添加量、エーテル化反応条件を、表1に記載したように変更した以外は、実施例2と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。また、各例で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するようにした以外は、実施例1と同様にして、熱接着性芯鞘型複合短繊維、乾式不織布、熱接着性複合長繊維を得た。
【0081】
実施例10
ε-カプロラクトンに代えて、イソフタル酸(IPA)を表1に示した仕込み量で添加した以外は、実施例2と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。また、実施例10で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するようにした以外は、実施例1と同様にして、熱接着性芯鞘型複合短繊維、乾式不織布、熱接着性芯鞘型複合長繊維を得た。
【0082】
実施例11
ε-カプロラクトンに代えて、アジピン酸(AD)を表1に示した仕込み量で添加した以外は、実施例2と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。また、実施例11で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するようにした以外は、実施例1と同様にして、熱接着性芯鞘型複合短繊維、乾式不織布、熱接着性芯鞘型複合長繊維を得た。
【0083】
実施例12
酸成分としてε-カプロラクトンを添加しなかったこと、1,4-ブタンジオール、5-スルホサリチル酸二水和物(SS)の添加量、エーテル化反応条件を、表1に記載したように変更したこと以外は、実施例2と同様の操作を行った、ポリエステル樹脂を得た。また、実施例12で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するようにした以外は、実施例1と同様にして、熱接着性芯鞘型複合短繊維、乾式不織布、熱接着性芯鞘型複合長繊維を得た。
【0084】
実施例13
〔ショートカット繊維の製造〕
極限粘度0.70dl/gのポリエチレンテレフタレートを芯部に、実施例12で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するよう、孔数560、孔径0.35mmの紡糸口金を用い、吐出量312g/分、芯部と鞘部との質量比率を50/50とし、紡糸温度272℃、紡糸速度790m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた未延伸糸を収束し、50ktexのトウとし、延伸温度74℃、延伸倍率3.4倍の条件で延伸した。次いで、油剤を付与後、トウの水分率が約18質量%となるように絞り、ドラム式カッターで5mmの長さに切断し、繊度2.2dtexの熱接着性芯鞘型複合ショートカット繊維を得た。
〔湿式不織布の作製〕
次に、得られた熱接着性芯鞘型複合ショートカット繊維をバインダー繊維として用い、主体繊維として単繊維繊度が1.6dtex、長さが5mmのポリエチレンテレフタレートからなるショートカット繊維(ユニチカ社製<N801>1.6T5)を用い、バインダー繊維/主体繊維(質量比)=40/60として水中へ分散させ、円網抄紙機を用いて抄造ウエブを得た。その後、連続熱処理機(辻井染機工業製、NFD-500E2)を用いて、風量57m/分、200℃×1分の条件にて熱処理し、湿式不織布を作製した。
【0085】
実施例14
〔短繊維の製造、乾式不織布の作製〕
実施例12で得られたポリエステル樹脂を用いて、孔数120、孔径0.6mmの紡糸口金を用い、吐出量210g/分、紡糸温度270℃、紡糸速度850m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた未延伸糸を収束し、80ktexのトウとし、延伸温度60℃、延伸倍率4.0倍の条件で延伸した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、繊度5.5dtexの熱接着性複合短繊維を得た。
得られた熱接着性複合短繊維を用い、実施例1記載の乾式不織布作製と同様の方法で乾式不織布を作製した。
【0086】
実施例15
[ショートカット繊維の製造、湿式不織布の作製]
実施例12で得られたポリエステル樹脂を使用し、孔数720、孔径0.25mmの紡糸口金を用い、吐出量350g/分、紡糸温度275℃、紡糸速度850m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた未延伸糸を収束し、50ktexのトウとし、延伸温度50℃、延伸倍率3.8倍の条件で延伸した。次いで、油剤を付与後、トウの水分率が約18質量%となるように絞り、ドラム式カッターで5mmの長さに切断し、繊度1.7dtexの熱接着性芯鞘型複合ショートカット繊維を得た。
得られた熱接着性芯鞘型複合ショートカット繊維を用い、実施例13記載の湿式不織布作製と同様の方法で湿式不織布を作製した。
【0087】
比較例6
5-スルホサリチル酸二水和物(SS)に代えて、三酸化アンチモン(Sb)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂を得た。そして、実施例1と同様にして、熱接着性芯鞘型複合短繊維、乾式不織布を得た。
【0088】
実施例、比較例にて得られたポリエステル樹脂の製造条件を表1に、特性値を表2に示す。ポリエステル樹脂から得られた繊維、不織布の評価を表3に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表2に示すように、実施例1~12で得られたポリエステル樹脂は、芳香族ジカルボン酸や脂肪族カルボン酸の含有量、各グリコールの含有量が本発明で規定する範囲内であったため、表3に示すように、実施例1~15で得られた短繊維は、繊維製造における操業性が良好で、得られた繊維をバインダー繊維として用いて得た不織布は、バインダー繊維の熱接着性に優れることから、不織布強力に優れたものであった。また、実施例1~12で得られた長繊維は、繊維製造における操業性が良好であり、強度、伸度ともに優れたものであった。
【0093】
一方、比較例1では、ε-カプロラクトンの含有量が多く、芳香族ジカルボン酸の含有量が少なかったため、融点が低くなり過ぎ、耐熱性が悪い樹脂となった。その結果、繊維(短繊維、長繊維)の製造における操業性が悪かった。繊維製造の操業性が悪いため、比較例1の短繊維を用いた不織布は製造しなかった。
【0094】
比較例2では、1,4-ブタンジオールの比率が本発明の範囲を外れて少なかった。繊維(短繊維、長繊維)製造における操業性は良く、繊維の強度と伸度には問題なかったものの、得られた繊維をバインダー繊維として用いて得た不織布は、比較例2のポリエステル樹脂の融点が高かったため、得られた繊維の熱接着性が低くなり、不織布とした場合の強力が低くなった。
【0095】
比較例3では、1,4-ブタンジオールの比率が本発明の範囲を外れて多かった。繊維(短繊維、長繊維)の製造における操業性は良く、繊維の強度と伸度には問題なかったものの、得られた繊維をバインダー繊維として用いて得た不織布は、比較例3のポリエステル樹脂の融点が高かったため得られた繊維の熱接着性が低くなり、不織布とした場合の強力が低くなった。
【0096】
比較例4では、重合触媒として使用した5-スルホサリチル酸二水和物(SS)の添加量が少なかったため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの生成が少なくなり、本発明の範囲を外れた。その結果、繊維(短繊維、長繊維)の製造における操業性が悪かった。このため、得られた長繊維は強度が低かった。また繊維製造の操業性が悪いため、比較例4の短繊維を用いた不織布は製造しなかった。
【0097】
比較例5では、重合触媒として使用した5-スルホサリチル酸二水和物(SS)の添加量が多かったため、ポリエステル樹脂中のトリエチレングリコールの生成が多くなり、本発明の範囲を外れた。その結果、樹脂の耐熱性が低くなり、繊維(短繊維、長繊維)の製造における操業性が悪かった。このため、得られた長繊維は強度が低かった。また繊維製造の操業性が悪いため、比較例5の短繊維を用いた不織布は製造しなかった。
【0098】
比較例6においては、重合触媒として有機スルホン酸系化合物ではなく三酸化アンチモン(Sb)を用いたために、トリエチレングリコールの生成が少なくなり、本発明の範囲を外れた。その結果、繊維(短繊維、長繊維)の製造における操業性が悪かった。繊維製造の操業性が悪いため、比較例6の短繊維を用いた不織布は製造しなかった。