(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158838
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】エポキシ系充填剤およびそれを用いたコンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20221006BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
E04G23/02 B
E21D11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161761
(22)【出願日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2021061264
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】茅野 己矢和
(72)【発明者】
【氏名】菅井 正
【テーマコード(参考)】
2D155
2E176
【Fターム(参考)】
2D155CA03
2D155JA00
2D155JA02
2D155KB08
2D155LA16
2E176AA01
2E176BB14
(57)【要約】
【課題】ジャンカ等の空隙内における充填を向上することが可能な2液硬化型のエポキシ
系充填剤を提供すること。
【解決手段】エポキシ系充填剤は、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入するための2液硬化型のエポキシ系充填剤であって、エポキシ系充填剤の23℃における可使時間が15分未満、かつ硬化後の伸び率が10%超である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入するための2液硬化型のエポキシ系充填剤であって、
前記エポキシ系充填剤の23℃における可使時間が15分未満、かつ硬化後の伸び率が10%超である、エポキシ系充填剤。
【請求項2】
硬化後の伸び率が100%以下である、請求項1に記載のエポキシ系充填剤。
【請求項3】
前記エポキシ系充填剤の23℃における粘度が、100~2000mPa・sである、
請求項1または2に記載のエポキシ系充填剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ系充填剤を2液混合型吐出装置を用いて、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入する、コンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
前記コンクリート構造物がトンネルである、
請求項4に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コンクリート構造物のジャンカ、又は鉄筋周囲の空隙に注入するための2液硬化型のエポキシ系充填剤およびそれを用いたコンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
戦後の高度経済成長期に多くのトンネルが建設され、その後の経年によって老朽化の進むトンネルが増え続けている。また、当時の工事事情に伴うジャンカ等の施工不良によって、経年以上の早期劣化が生じているトンネルも存在している。
【0003】
そのため、トンネルの維持管理の重要性が増しており、安全かつ効率の良い検査と、不良箇所の補修方法が数多く検討されているものの、未だ検査精度や補修方法には課題が多かった。
【0004】
例えば、特許文献1には、コンクリート構造物の亀裂部等にドリルで穴を穿孔し,該穴に高圧注入バルブのノズルを差し込みエポキシ樹脂を注入して補修する高圧工法や,注射器形状をした注入器において,シリンダとピストン間に弾性体を介在させ,同様にコンクリート構造物の亀裂部等にドリルで穴を穿孔し,該穴に注入器のノズルを差し込み弾性体の圧縮力でシリンダ内のエポキシ樹脂を注入して補修する工法に用いる樹脂の注入器が開示されている。
【0005】
また、特許文献2及び3には、コンクリート構造物のひび割れやジャンカの空隙や鉄筋周囲の空隙にエポキシ樹脂を注入することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-031661号公報
【特許文献2】特開2018-104996号公報
【特許文献3】特開2015-030987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、特許文献1~3に記載された接着剤をジャンカ(豆板)の空隙に注入した場合、ジャンカの砂利間の空隙を一度は接着剤が満たすものの、硬化までの時間に注入側や予期し得ない空隙からの垂れや流出によって、ジャンカ内に十分充填が出来ないという問題を見いだした。
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、その目的はコンクリート構造物のジャンカ補修において、ジャンカ等の空隙内における充填を向上することが可能な2液硬化型のエポキシ系充填剤及びそれを用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、通常の施工であれば、制限が多く、施工難度も高くなる程に可使時間が短く、硬化後の伸び率が特定範囲にある2液硬化型充填剤をコンクリート構造物の補修に用いることで、上記課題を解決できることを見いだした。
【0010】
即ち本発明の要旨は下記の通りである。
【0011】
第1の発明にかかるエポキシ系充填剤は、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入するための2液硬化型のエポキシ系充填剤であって、エポキシ系充填剤の23℃における可使時間が15分未満、かつ硬化後の伸び率が10%超である。
【0012】
このように、本発明のエポキシ系充填剤は、低粘度で可使時間が短い為、垂れや流出が低減でき、ジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に良好に充填することができる。
【0013】
また、硬化後に高強度でかつ適度な伸びがあるため、構造物を強度復元できるとともに変形にも追従できる。
【0014】
第2の発明にかかるエポキシ系充填剤は、第1の発明にかかるエポキシ系充填剤であって、硬化後の伸び率が100%以下である。
【0015】
このように硬化後の伸び率が100%以下であるため、硬化後に高強度でかつ適度な伸びを得ることができる。
【0016】
第3の発明にかかるエポキシ系充填剤は、第1または第2の発明にかかるエポキシ系充填剤であって、エポキシ系充填剤の23℃における粘度が、100~2000mPa・sである。
【0017】
100mPa・sより低いと、流動性はよいがコンクリートへの浸み込み量が多くなり、空隙体積以上に樹脂量が多く必要になる。2000mPa・sより高いと抵抗が大きくなるので充填範囲が狭くなり、注入に時間がかかるという問題がある。
【0018】
このような粘度の充填剤を用いることによって、ジャンカの空隙に良好に充填することができる。
【0019】
第4の発明にかかるコンクリート構造物の補修方法は、第1~3のいずれかの発明にかかるエポキシ系充填剤を2液混合型吐出装置を用いて、コンクリート構造物のジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に注入する。
【0020】
このように、本発明のエポキシ系充填剤を2液混合吐出装置を用いて注入することで、混合直後にジャンカ(豆板)の空隙、鉄筋周期の空隙、または打ち継ぎ部の空隙に樹脂が注入され、低粘度で速やかに空隙に侵入し、かつ可使時間が短い為、垂れや流出が低減でき、ジャンカ内に良好に充填することができる。
【0021】
また、硬化後に高強度でかつ適度な伸びがあるため、構造物を強度復元できるとともに変形にも追従できる。
【0022】
第5の発明にかかるコンクリート構造物の補修方法は、第4の発明にかかるコンクリート構造物の補修方法であって、コンクリート構造物がトンネルである。
【0023】
これによって、トンネルに発生したジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙、または打ち継ぎ部の空隙等を補修することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コンクリート構造物の補修において、ジャンカの空隙、鉄筋周囲の空隙または打ち継ぎ部の空隙における充填を向上することが可能な2液硬化型のエポキシ系充填剤及びそれを用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】トンネルの豆板(ジャンカ)に樹脂を注入している状態を示す模式図。
【
図2】トンネルの豆板(ジャンカ)の補修方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態の2液硬化型のエポキシ系充填剤について図面を参照しながら説明する。
【0027】
(エポキシ系充填剤)
本実施の形態のエポキシ系充填剤は、コンクリート構造物の打ち継ぎ部の空隙、ジャンカの空隙、または鉄筋周囲の空隙を補修するために充填される。
【0028】
本実施の形態に用いる2液硬化型のエポキシ系充填剤は、主剤と硬化剤を含む。主剤は、エポキシ樹脂であり、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、およびビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む。硬化剤は、アミン化合物を含む。本実施の形態のエポキシ系充填剤は、23℃における可使時間が15分未満、かつ硬化後の伸び率が10%超である。また、硬化後の伸び率が100%以下であるほうが好ましい。
【0029】
本実施の形態のエポキシ系充填剤の23℃における粘度が、100~2000mPa・sであるほうが好ましい。これにより、充填の際に吐出しやすい。
【0030】
なお、ビスフェノールF型エポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂に比べて低粘度であり、これによって、ジャンカ内に良好に充填することができる。
【0031】
(エポキシ系樹脂を用いた補修方法)
図1は、コンクリート構造物の一例として軌道トンネル100の内壁101の内部におけるジャンカ102(豆板)の補修を行っている状態を示す図である。
図2は、トンネルの豆板(ジャンカ)の補修方法を示すフロー図である。トンネル100は、軌道用のトンネルに限らず、一般道のトンネル、または高速道路のトンネルであってもよい。また、本実施の形態では、コンクリート構造物の一例としてトンネルを用いて説明するが、トンネルに限らなくてもよく、橋梁、道路等であってもよい。
【0032】
図1では、トンネル100(コンクリート構造物の一例)の内壁101の内部にジャンカ102による空隙部が生じている。なお、ジャンカ(豆板)とは、軌道トンネル覆工コンクリートの欠陥の一つである。豆板とは、トンネル築造時にコンクリートの流動性およびポンプ打設等の施工方法により影響を受けた初期不良である。原因としては、圧縮空気で圧送打設されたための材料分離などである。
【0033】
はじめに、ステップS10において、ジャンカ102に向かって内壁101に注入孔が穿たれる。そして、ステップS20において、注入孔に、樹脂注入パイプ1が装着される。樹脂注入パイプ1の構造は特に限定されるものではないが、例えば、筒状であって、一端の開口にスタテックミキサー5が装着され、他端の開口から樹脂が吐出される。
【0034】
次に、ステップS30において、樹脂注入パイプ1に2液混合吐出装置が接続される。詳しくは、樹脂注入パイプ1には、スタテックミキサー5が接続される。スタテックミキサー5は、材料輸送ホース6a、6bを介して注入装置7に接続されている。注入装置7は、2液混合吐出装置である。
【0035】
ステップS30における接続後、ステップS40において、注入装置7によって主剤と硬化剤が所定の比率で、それぞれ材料輸送ホース6a、6bに吐出される。吐出された主剤と硬化剤は、材料輸送ホース6a、6bを通って、スタテックミキサー5に運ばれる、スタテックミキサー5において、主剤と硬化剤が攪拌され、攪拌された主剤と硬化剤が注入パイプ1を通って、ジェンガ102に充填される。
【0036】
次に、ステップS50において、充填したエポキシ系充填剤が硬化するまで放置される。
【0037】
次に、ステップS60において、樹脂注入パイプ1の内壁101から突出している部分を石頭ハンマー等でたたき折ることによって、樹脂注入パイプ1がトンネル100の内壁101の内部で折れ、折れた部分にシール材を塗布し、注入穴が塞がれる。
【0038】
以上の動作によって、トンネル100の内壁101の内側に生じたジャンカ102にエポキシ系充填剤を注入して、ジャンカ102を補修することが出来る。
【実施例0039】
次に、実施例を用いて説明する。
【0040】
本実施例では、充填剤の種類を変更して、圧縮強さと繰り返し疲労試験の評価を行った。
【0041】
実施例1では、充填剤として、2液混合型エポキシ樹脂を使用した。
主剤はビスフェノールF型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂と1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを用いて粘度を800mPa・sになるように比率を調整した。エポキシ等量は173g/eqであった。硬化剤はメタキシレンジアミンを含むアミン化合物を使用し、粘度400mPa・sに調整した。アミン価は324mgKOH/gであった。主剤と硬化剤の混合比率は重量割合で、主剤:硬化剤=2:1で行った。混合物の粘度は550mPa・sであり、可使時間が11分、23℃1週間硬化養生後の引張破断伸び率が23%である。
【0042】
比較例1では、充填剤として、デンカ株式会社製 製品名:DK550-003を用いた。DK550-003は、アクリルを含み、粘度は240mPa・sであり、可使時間が17分であり、23℃1週間硬化養生後の引張破断伸び率が3%である。
【0043】
比較例2では、充填剤として、コニシ株式会社製 製品名:ボンド E206Sを用いた。E206Sは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含んでおり、粘度は580mPa・sであり、可使時間が34分であり、23℃1週間硬化養生後の引張破断伸び率が7%である。
【0044】
比較例3では、充填剤として、積水化学工業株式会社製 製品名:インフラガード CRJを用いた。CRJは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を含んでおり、粘度は725mPa・sであり、可使時間が115分であり、23℃1週間硬化養生後の引張破断伸び率が122%である。
【0045】
(表1)に結果を示す。
粘度、可使時間、伸び率(引張破断伸び)、圧縮強さの評価はJIS A6024に準拠した。
繰返し疲労試験は、サーボパルサーEHF-ED1KNX4-4LA(島津製作所製)を使用し、小型ダンベル試験片にて以下の条件で行った。周波数:1Hz、波形:正弦波、温度:23℃、変位:1.5%
【0046】
【表1】
(表1)より、可使時間が15分以下であり、伸び率が10%超である実施例1において、圧縮強さおよび繰り返し疲労試験ともに良好となることがわかる。
本発明の2液硬化型のエポキシ系充填剤及びそれを用いたコンクリート構造物の補修方法によれば、ジャンカ等の空隙内における充填を向上することが可能な効果を有し、高い強度を有しながら変形への追従性も有する事から、トンネル等の補修に有用である。