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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158845
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】絶縁電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/08 20060101AFI20221006BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01B7/08
H01B7/00 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168394
(22)【出願日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2021060354
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 響真
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
【テーマコード(参考)】
5G309
5G311
【Fターム(参考)】
5G309AA01
5G311CA05
5G311CB02
5G311CC07
5G311CF05
(57)【要約】
【課題】導体の断面が扁平形状になった扁平部を有しながら、絶縁被覆の除去を伴う加工を簡便に行うことができる絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】複数の素線が撚り合わせられた導体11と、前記導体11の外周を被覆する絶縁被覆13と、を有する絶縁電線1であって、前記導体11を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆11を相互に連続させて、扁平部20と、低扁平部30と、を軸線方向に沿って有し、前記絶縁電線1の軸線方向xに直交する断面における前記導体11の外形が、前記扁平部20において、扁平形状をとり、かつ前記低扁平部30において、前記扁平部20よりも扁平度の小さい形状をとり、前記導体11と前記絶縁被覆13の間の密着力が、前記低扁平部30において、前記扁平部20よりも小さくなっている、絶縁電線1とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線が撚り合わせられた導体と、
前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、
前記導体を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆を相互に連続させて、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、
前記絶縁電線の軸線方向に直交する断面における前記導体の外形が、前記扁平部において、扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の小さい形状をとり、
前記導体と前記絶縁被覆の間の密着力が、前記低扁平部において、前記扁平部よりも小さくなっている、絶縁電線。
【請求項2】
前記導体と前記絶縁被覆の間の密着力が、前記低扁平部において、扁平部と比較して20%以上小さくなっている、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記断面における前記絶縁被覆の内周に囲まれた領域の面積のうち、素線に占められない空隙の割合である空隙率が、前記低扁平部において前記扁平部よりも大きい、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記断面における空隙率が、前記低扁平部において、前記扁平部と比較して20%以上大きくなっている、請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記低扁平部の前記断面において、前記扁平形状の幅方向および高さ方向に対応する方向に沿って、前記導体の外側の領域を、それぞれ、幅方向導体外領域および高さ方向導体外領域として、
前記幅方向導体外領域において、前記導体と前記絶縁被覆との間に、前記高さ方向導体外領域よりも大きな空隙が形成されている、請求項1から請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記断面において、前記扁平部と前記低扁平部との間における前記絶縁被覆の内周の長さの差が、前記扁平部における前記絶縁被覆の内周の長さの5%以下である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記扁平部として、前記扁平形状の方向が異なる複数の領域を有する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記絶縁電線は、軸線方向に沿って、前記扁平部の少なくとも片側に、前記低扁平部を有する、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
複数の素線が撚り合わせられた導体を扁平形状に圧縮し、外周を絶縁被覆で被覆して絶縁電線とした後、
前記絶縁電線の軸線方向に沿って一部の領域において、前記扁平形状の幅方向外側から内側に向かって力を加えて、前記導体の扁平度を低下させることで、低扁平部を形成するとともに、
前記低扁平部とした領域以外を、扁平部として残して製造される、絶縁電線。
【請求項10】
複数の素線が撚り合わせられた導体の外周を絶縁被覆で被覆して絶縁電線とした後、
前記絶縁電線の軸線方向に沿って一部の領域において、相互に対向する方向から前記絶縁電線を圧縮する力を加えて、前記導体の扁平度を上昇させることで、扁平部を形成するとともに、
前記扁平部とした領域以外を、低扁平部として残して製造される、絶縁電線。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の絶縁電線を含む、ワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
扁平状の導体を用いて構成したフラットケーブルが公知である。フラットケーブルを用いることで、断面略円形の導体を備えた一般的な電線を用いる場合と比較して、配策の際に占めるスペースを小さくすることができる。
【0003】
従来一般のフラットケーブルにおいては、特許文献1,2等に開示されるように、導体として、平角導体がしばしば用いられる。平角導体は、金属の単線を断面四角形に成形したものである。また、出願人らの出願による特許文献3~5には、柔軟性と省スペース性を両立する観点から、複数の素線を撚り合わせた撚線を扁平形状に成形した電線導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-130739号公報
【特許文献2】特開2019-149242号公報
【特許文献3】国際公開第2019/093309号
【特許文献4】国際公開第2019/093310号
【特許文献5】国際公開第2019/177016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3~5に開示されるように、撚線を扁平形状に成形した導体を備えた扁平電線は、省スペース化と柔軟性の両立に優れたものとなる。しかし、その種の扁平電線に対しては、絶縁被覆を除去するワイヤーストリッパー等の工具、また端末部に取り付ける端子として、従来一般の断面略円形の電線(丸電線)に対して用いられてきたものを、そのまま適用することはできない。また、扁平電線においては、同じ導体断面積の丸電線と比較して、導体の表面積が大きいことに起因して、絶縁被覆と導体の間の密着性が高くなる傾向がある。すると、端子の取り付け等のために、扁平電線の端末部において絶縁被覆を除去する際に、大きな力が必要となる。このように、扁平電線の端末部等において、絶縁被覆の除去を伴う加工を施す際には、困難が伴う場合がある。
【0006】
以上に鑑み、導体の断面が扁平形状になった扁平部を有しながら、絶縁被覆の除去を伴う加工を簡便に行うことができる絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第一の形態にかかる絶縁電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記導体を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆を相互に連続させて、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、前記絶縁電線の軸線方向に直交する断面における前記導体の外形が、前記扁平部において、扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の小さい形状をとり、前記導体と前記絶縁被覆の間の密着力が、前記低扁平部において、前記扁平部よりも小さくなっている。
【0008】
本開示の第二の形態にかかる絶縁電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体を扁平形状に圧縮し、外周を絶縁被覆で被覆して絶縁電線とした後、前記絶縁電線の軸線方向に沿って一部の領域において、前記扁平形状の幅方向外側から内側に向かって力を加えて、前記導体の扁平度を低下させることで、低扁平部を形成するとともに、前記低扁平部とした領域以外を、扁平部として残して製造されるものである。
【0009】
本開示の第三の形態にかかる絶縁電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体の外周を絶縁被覆で被覆して絶縁電線とした後、前記絶縁電線の軸線方向に沿って一部の領域において、相互に対向する方向から前記絶縁電線を圧縮する力を加えて、前記導体の扁平度を上昇させることで、扁平部を形成するとともに、前記扁平部とした領域以外を、低扁平部として残して製造されるものである。
【0010】
本開示のワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスは、導体の断面が扁平形状になった扁平部を有しながら、絶縁被覆の除去を伴う加工を簡便に行うことができる絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1A~1Cは、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線を示す概略図である。図1Aは斜視図である。図1B図1A中のA-A断面に相当する扁平部、図1C図1A中のB-B断面に相当する低扁平部を表示する断面図である。各図において、導体を構成する素線は省略している。
図2図2A,2Bはそれぞれ、上記実施形態にかかる絶縁電線の扁平部および低扁平部を示す断面図である。
図3図3は、扁平部として、扁平方向の異なる複数の領域を有する絶縁電線を示す概略図である。図3Aは斜視図である。図3B図3A中のC-C断面に相当する第一の領域およびE-E断面に相当する第三の領域を示す断面図である。図3C図3A中のD-D断面に相当する第二の領域を表示する断面図である。各図において、導体を構成する素線は省略している。
図4図4は、上記実施形態にかかる絶縁電線の製造方法を説明する図である。
図5図5は、本開示の別の実施形態にかかる絶縁電線の製造方法を説明する図である。
図6図6A,6Bは、それぞれ試料1および試料2の扁平部と低扁平部について、断面画像と各種評価の結果をまとめた表である。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示の第一の形態にかかる絶縁電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記導体を構成する前記素線のそれぞれ、および前記絶縁被覆を相互に連続させて、扁平部と、低扁平部と、を軸線方向に沿って有し、前記絶縁電線の軸線方向に直交する断面における前記導体の外形が、前記扁平部において、扁平形状をとり、かつ前記低扁平部において、前記扁平部よりも扁平度の小さい形状をとり、前記導体と前記絶縁被覆の間の密着力が、前記低扁平部において、前記扁平部よりも小さくなっている。
【0014】
上記絶縁電線は、導体が扁平形状となった扁平部と、扁平度の小さい形状をとる低扁平部とを連続して有している。低扁平部は、扁平部と比較して、断面形状が、従来一般の丸電線に近いため、絶縁被覆の除去、および端子をはじめとする外部の部材の取り付け等の加工を行う際に、低扁平部に対してそれらの加工を行うようにすれば、ワイヤーストリッパー等の工具や、端子等の外部の部材として、従来一般に丸電線に対して使用されているものを適用しやすい。さらに、導体と絶縁被覆の間の密着力が、低扁平部において扁平部よりも小さくなっていることで、低扁平部において、絶縁被覆の除去を小さな力で行うことができる。このように、扁平部による省スペース性向上の効果を得ながら、低扁平部に対して加工を施すようにすることで、絶縁被覆の除去を伴う絶縁電線の加工を、簡便に行うことができる。扁平部においては、絶縁被覆が導体に大きな密着力で密着しているので、低扁平部において密着力が小さくなっていても、絶縁電線全体として、絶縁被覆と導体の間での位置ずれが発生するのを抑制し、また、通電時に、絶縁被覆を介した導体からの放熱性も確保することができる。
【0015】
このように、扁平部と低扁平部をともに有し、かつ低扁平部において導体と絶縁被覆の間の密着力が小さくなった絶縁電線は、扁平形状の導体の外周に絶縁被覆を形成した扁平電線の一部の領域において、導体を扁平形状の幅方向外側から圧縮するように力を加えて変形させることで導体の扁平度を下げ、低扁平部を形成するという方法により、簡便に製造することができる。あるいは、丸電線等、扁平度の小さい導体の外周に絶縁被覆を形成した低扁平電線の一部の領域において、相互に対向する方向から圧縮するように力を加えて変形させることで導体の扁平度を上げ、扁平部を形成するという方法でも、そのような絶縁電線を簡便に製造することができる。
【0016】
ここで、前記導体と前記絶縁被覆の間の密着力が、前記低扁平部において、扁平部と比較して20%以上小さくなっているとよい。すると、低扁平部において、絶縁被覆の除去を特に容易に行えるようになる。
【0017】
前記断面における前記絶縁被覆の内周に囲まれた領域の面積のうち、素線に占められない空隙の割合である空隙率が、前記低扁平部において前記扁平部よりも大きいとよい。低扁平部において、導体と絶縁被覆の間に形成される空隙は、導体と絶縁被覆の間の密着力を低減するものとなる。また、そのように導体と絶縁被覆の間に形成された空隙、および導体を構成する素線の間に形成された空隙は、低扁平部の柔軟性を高めるものとなる。よって、低扁平部の空隙率が扁平部よりも大きくなっていることで、低扁平部における絶縁被覆の剥離容易性および柔軟性を、効果的に高めることができる。低扁平部において扁平部よりも空隙率が大きくなった絶縁電線は、扁平電線に力を加えて低扁平部を形成する形態により、製造しやすい。
【0018】
この場合に、前記断面における空隙率が、前記低扁平部において、前記扁平部と比較して20%以上大きくなっているとよい。すると、低扁平部における剥離容易性および柔軟性を、特に効果的に高めることができる。
【0019】
前記低扁平部の前記断面において、前記扁平形状の幅方向および高さ方向に対応する方向に沿って、前記導体の外側の領域を、それぞれ、幅方向導体外領域および高さ方向導体外領域として、前記幅方向導体外領域において、前記導体と前記絶縁被覆との間に、前記高さ方向導体外領域よりも大きな空隙が形成されているとよい。上記のように、導体と絶縁被覆の間に形成される空隙は、導体と絶縁被覆の間の密着力を低減するものとなる。扁平電線に幅方向外側から力を加えて低扁平部を形成する場合に、低扁平部において、導体の幅方向の寸法が小さくなる分、幅方向導体外領域において、導体と絶縁被覆との間に、空隙が形成されやすい。
【0020】
前記断面において、前記扁平部と前記低扁平部との間における前記絶縁被覆の内周の長さの差が、前記扁平部における前記絶縁被覆の内周の長さの5%以下であるとよい。扁平電線に力を加えて変形させて、低扁平部を形成する際には、絶縁被覆の内周面によって絶縁被覆の内周の長さの変化が制限される。よって、扁平部と低扁平部とで、絶縁被覆の内周の長さの差が、扁平部における絶縁被覆の内周の長さの5%以下に抑えられた絶縁電線は、扁平電線を原料として、簡便に製造できるものとなる。
【0021】
前記絶縁電線は、前記扁平部として、前記扁平形状の方向が異なる複数の領域を有してもよい。扁平部は、扁平形状の高さ方向への曲げにおいて、高い柔軟性を示す。そこで、絶縁電線において、扁平部として、扁平形状の方向が異なる複数の領域を設けておけば、それぞれの領域が、それぞれの扁平形状の高さ方向に曲がりやすくなるので、単一の絶縁電線の中に、曲がりやすい方向が異なる複数の部位を形成することができる。例えば、絶縁電線が、三次元的な配策等、複雑な形状への曲げを要する場合に、絶縁電線の部位ごとに、曲げたい方向に扁平形状の高さ方向が向くように、複数の領域を設定して扁平部を形成しておけば、複雑な形状であっても、電線を無理なく曲げることができる。
【0022】
前記絶縁電線は、軸線方向に沿って、前記扁平部の少なくとも片側に、前記低扁平部を有するとよい。端末部等、扁平電線の少なくとも片側に低扁平部を設けた絶縁電線は、扁平部の省スペース性を配策に活用しながら、低扁平部を利用して、絶縁被覆の除去、および端子やコネクタの取り付け等の加工を、簡便に行うことができる。扁平度が低い断面形状を有する低扁平部に対してそれらの加工を行うことで、端子やコネクタとして、扁平部の形状に合わせた扁平なものを用いる必要も生じない。
【0023】
本開示の第二の形態にかかる絶縁電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体を扁平形状に圧縮し、外周を絶縁被覆で被覆して絶縁電線とした後、前記絶縁電線の軸線方向に沿って一部の領域において、前記扁平形状の幅方向外側から内側に向かって力を加えて、前記導体の扁平度を低下させることで、低扁平部を形成するとともに、前記低扁平部とした領域以外を、扁平部として残して製造されるものである。
【0024】
上記第二の形態にかかる絶縁電線においては、扁平形状の導体を絶縁被覆で被覆した扁平電線に対して、幅方向外側から力を加えて導体を圧縮する操作を経ることで、低扁平部において、導体と絶縁被覆の間の密着力が小さくなる。そのため、低扁平部において、扁平度の低さ自体による効果と合わせて、絶縁被覆の除去を伴う加工を行いやすくなる。よって、扁平部による省スペース性と、低扁平部における加工容易性の両方に優れた絶縁電線となる。さらに、扁平電線に幅方向外側から力を加えて導体を圧縮する操作により、低扁平部において、絶縁被覆の内側の領域に、素線に占められない空隙が形成されやすい。そのような空隙は、低扁平部において、導体と絶縁被覆の間の密着力の低減、および柔軟性の向上に高い効果を示す。
【0025】
本開示の第三の形態にかかる絶縁電線は、複数の素線が撚り合わせられた導体の外周を絶縁被覆で被覆して絶縁電線とした後、前記絶縁電線の軸線方向に沿って一部の領域において、相互に対向する方向から前記絶縁電線を圧縮する力を加えて、前記導体の扁平度を上昇させることで、扁平部を形成するとともに、前記扁平部とした領域以外を、低扁平部として残して製造されるものである。
【0026】
上記第三の形態にかかる絶縁電線も、扁平度の低い絶縁電線を相互に対向する方向から圧縮する操作を経ることで、低扁平部において、扁平部よりも、導体と絶縁被覆の間の密着力が小さくなる。そのため、低扁平部において、扁平度の低さ自体による効果と合わせて、絶縁被覆の除去を伴う加工を行いやすくなっている。よって、扁平部による省スペース性と、低扁平部における加工容易性の両方に優れた絶縁電線となる。丸電線等、扁平度の低い導体を有する絶縁電線に力を加えて変形させて扁平部を形成することで、低扁平部と扁平部を一体に備えた絶縁電線を、汎用的な絶縁電線を原料として、簡便に形成することができる。
【0027】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、本開示にかかる前記絶縁電線を含む。上記のように、本開示にかかる絶縁電線は、扁平部が高い省スペース性と柔軟性を示すとともに、低扁平部において、絶縁被覆の除去を伴う加工を簡便に行うことができる。ワイヤーハーネス全体としても、それらの特性を利用し、自動車内等、スペースが限られた箇所において、機器間の接続等の用途に、好適に利用することができる。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスについて、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、絶縁電線の各部の形状に関して、直線、平行、垂直等、部材の形状や配置を示す概念には、長さにして概ね±15%程度、また角度にして概ね±15°程度のずれ等、この種の絶縁電線において許容される範囲で、幾何的な概念からの誤差を含むものとする。本明細書において、絶縁電線や導体の断面とは、特記しない限り、軸線方向(長手方向)に垂直に切断した断面を示すものとする。
【0029】
<絶縁電線の概略>
図1Aに、本開示の一施形態にかかる絶縁電線1を斜視図にて表示する。また、図1B,1Cに、それぞれ図1A中のA-A線およびB-B線にて切断した断面図を簡略化して示す。さらに、図2Aおよび図2Bに、それぞれ、図1Bに対応する扁平部、および図1Cに対応する低扁平部の断面を詳細に表示する。
【0030】
本実施形態にかかる絶縁電線1は、導体11と、絶縁被覆13とを有している。導体11は、複数の素線12を撚り合わせた撚線として構成されている。絶縁被覆13は、導体11の外周を、全周にわたって被覆している。絶縁電線1は、軸線方向(x方向)に沿って、扁平部20と低扁平部30を有している。扁平部20と低扁平部30は、絶縁電線1の軸線方向に沿って一体に連続している。つまり、扁平部20と低扁平部30の間で相互に、導体11を構成する各素線12が、一体に連続している。また、扁平部20と低扁平部30の間で相互に、導体11を被覆する絶縁被覆13も、一体に連続している。
【0031】
扁平部20においては、断面における導体11の外形が、扁平形状をとっている。ここで、導体11の外形が扁平形状をとっているとは、断面を構成する辺または径と平行に断面を横切り、断面全体を範囲に含む直線のうち、最長の直線の長さである幅wが、その直線に直交し、断面全体を範囲に含む直線の長さである高さhよりも、大きい状態を指す。導体11の断面は、扁平形状であれば、どのような具体的形状よりなってもよいが、本実施形態においては、導体11の断面は、長方形に近似できる形状を有している。長方形以外の扁平形状としては、例えば、楕円形、長円形、小判型(長方形の両端に円弧を接合した形状)を挙げることができる。省スペース性を高める、また低扁平部30との連続性を高める等の観点から、扁平部20における縦横比w/hは、例えば、2以上、6以下程度としておくとよい。以降、低扁平部30を含め、絶縁電線1の全域において、扁平部20の扁平形状の幅方向および高さ方向に対応する方向を、それぞれ、幅相当方向(y方向)および高さ相当方向(z方向)と称する。
【0032】
低扁平部30は、断面において、扁平部20よりも、導体11が扁平度の小さい形状をとっている。ここで、導体11の扁平度が小さいとは、導体11の断面における縦横比w/hが小さく、断面形状が扁平である程度が低いことを示す。低扁平部30の具体的な形状は特に限定されるものではなく、正方形や円形、六角形等、異方性がない、あるいは異方性が低い図形に近似できる形状の他、扁平部20よりも縦横比w/hの小さい長方形、楕円形、長円形等に近似できる形状を例示することができる。低扁平部30の扁平度は小さいほど良く、縦横比w/hが1となる、円形または正方形に近似できる形状を断面として有する形態が、特に好ましい。さらに、断面を円形に近似できる形態が、最も好ましい。ただし、低扁平部30における縦横比w/hを、例えば2以下としておけば、後述する低扁平部30の加工性を高める効果を、十分に得ることができる。また、低扁平部30における縦横比w/hを、扁平部20における縦横比w/hに対して、おおむね20%以上、また70%以下としておけばよい。なお、低扁平部30においては、幅相当方向の寸法wを、高さ相当方向の寸法hよりも小さくしないことが好ましい(w/h≧1とするとよい)。つまり、低扁平部30を縦長の断面形状としないことが好ましい。ただし、低扁平部30を縦長の断面形状とすることを妨げるものではなく、その場合には、低扁平部30における横縦比h/wを、扁平部20における縦横比w/hよりも小さくしておくことが好ましい。さらには、その低扁平部30の加工性を高める観点から、低扁平部30の横縦比h/wを、上に挙げた横長形状の場合の縦横比w/hと同様、2以下としておけばよい。また、低扁平部30における横縦比h/wを、扁平部20における縦横比w/hに対して、おおむね20%以上、また70%以下としておけばよい。
【0033】
このように、扁平部20と低扁平部30を一体に有する絶縁電線1は、図4に示すように、導体11を扁平形状に変形させた原料扁平電線9から、好適に製造することができる。原料扁平電線9は、複数の素線12が撚り合わせられた断面円形の導体11を扁平形状に圧縮し、その導体11の外周を絶縁被覆13で被覆することで、製造できる。この際、導体11の圧縮は、特許文献3~5に記載されるように、ローラを用いて、高さ方向両側から、さらには任意に幅方向両側から圧縮することで、好適に行うことができる。圧縮した導体11の外周への絶縁被覆13の形成は、樹脂組成物の押出成形によって行うことが好ましい。このようにして得られた原料扁平電線9のうち、軸線方向に沿って一部の領域、具体的には低扁平部30を形成したい領域において、原料扁平電線9の外から、幅方向(y方向)に沿って外側から内側に向かって、力F1を印加し、導体11を変形させる。力F1の印加によって、導体11の幅方向の寸法が小さくなり、導体11の扁平度が低下する。この操作によって、低扁平部30を形成することができる。力F1の印加は、手作業による加工、あるいはハンマー等の工具や、成形型、プレス機等の装置を用いた加工によって行うことができる。この際に導体11に加える力F1は、原料扁平電線9を形成する際に、導体11の扁平化のために加える力よりも小さいことが好ましい。原料扁平電線9において、力F1の印加によって低扁平部30を形成した領域以外の領域は、扁平部20として残される。
【0034】
なお、力F1の印加による低扁平部30の形成を行った後、低扁平部30を含む箇所で絶縁被覆13を加熱して、絶縁被覆13を導体11に密着させる操作は、行わない方がよい。後に説明するように、低扁平部30において、導体11と絶縁被覆13の間の密着力を小さく保ち、また絶縁被覆13に囲まれた領域に多くの空隙を残すためである。ただし、低扁平部30を含む箇所で絶縁被覆13を加熱して、絶縁被覆13を変形させることで、導体11と絶縁被覆13の間の所望の箇所に、空隙を配置するようにしてもよい。例えば、低扁平部30が縦長の断面形状をとる場合に(w/h<1)、導体11に対して高さ相当方向の外側、つまり縦長方向の外側の領域に、空隙を偏在させるように、絶縁被覆13を変形させる形態が考えられる。
【0035】
本実施形態にかかる絶縁電線1は、扁平な断面形状を有する扁平部20を備えることで、高い省スペース性を発揮するものとなり、狭い空間への配策や、他の部材と接近した状態での配策にも好適に用いることができる。一方で、低扁平部30が、扁平度の低い断面形状を有し、従来一般の丸電線に近い断面形状となっていることから、ワイヤーストリッパー等、従来の丸電線に適用される工具や装置を利用して、低扁平部30に対して、絶縁被覆13の除去等の加工を行いやすくなる。また、端子やコネクタ等、絶縁電線1に取り付ける外部の部材としても、扁平形状に合わせた特殊な形状のものを準備することなく、従来の丸電線用のものを適用しやすくなる。このように、低扁平部30を利用して絶縁電線1の加工を行うことで、絶縁被覆13の除去等の加工を、簡便に行うことができる。本実施形態にかかる絶縁電線1は、自動車内等、配策できるスペースが限られ、かつ外部の部材との接続等のために絶縁被覆13の除去を伴う加工が要求される箇所に、好適に適用することができる。
【0036】
本実施形態において、絶縁電線1の軸線方向において、低扁平部30を設ける位置や数は、特に限定されるものではなく、絶縁被覆13の除去等の加工が想定される任意の箇所に、低扁平部30を形成すればよい。上記のように、原料扁平電線9に対して、絶縁被覆13の外から導体11を変形させる力F1を加えるのみで、低扁平部30を形成できるので、共通の原料扁平電線9を用いて、低扁平部30が必要とされる箇所が異なる種々の絶縁電線1を、簡便に製造することができる。好適な形態として、絶縁電線1の軸線方向に沿って、扁平部20の少なくとも片側、あるいは両側に、低扁平部30をそれぞれ有する形態を挙げることができる。さらには、1本の絶縁電線1の少なくとも一方の端部あるいは両端部に、低扁平部30を形成し、2つの低扁平部30に挟まれた絶縁電線1の中途域等、残りの領域を扁平部20とする形態が好ましい。すると、絶縁電線1を配策する際に、中途域等における取り回しに、扁平部20の省スペース性を利用できるとともに、絶縁電線1の端部の少なくとも一方において、外部の部材との接続の利便性等の観点から、扁平部20よりも低扁平部30を設けることが好都合な場合には、その端部に低扁平部3を設けておくことで、絶縁被覆13の除去をはじめとして、端子やコネクタ等、外部の部材との接続に必要な加工を、簡便に行うことができる。
【0037】
本実施形態にかかる絶縁電線1において、導体11を構成する素線12の材質や線径、また導体断面積は、特に限定されるものではない。しかし、扁平部20による省スペース性向上の効果や、低扁平部30を設けることによる加工性向上の効果を高める観点から、ある程度導体断面積の大きい導体11を用いることが好ましい。その観点で、導体11の材質としては、銅や銅合金に比べて導電性が低いために、導体断面積を大きくされることが多いアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることが好ましい。また、導体断面積は、10mm以上、さらには50mm以上、100mm以上であることが好ましい。導体11を構成する素線12の外径としては、0.3mm以上、1.0mm以下の範囲を例示することができる。
【0038】
本実施形態にかかる絶縁電線1は、単独の状態で使用しても、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスの構成部材として用いてもよい。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記実施形態にかかる絶縁電線1を含むものである。ワイヤーハーネスは、上記絶縁電線1を複数含むものとしてもよく、また、上記絶縁電線1に加えて、他種の絶縁電線を含むものとしてもよい。複数の絶縁電線を含むワイヤーハーネスにおいては、端末部で、複数の絶縁電線を共通のコネクタに接続することが多い。この場合に、絶縁電線として端末が扁平形状のものが含まれていれば、その扁平形状に合わせるために、コネクタ全体が幅広なものになり、コネクタの配置に大きなスペースを要する場合がある。しかし、端末部に低扁平部30を形成した本実施形態にかかる絶縁電線1を用いてワイヤーハーネスを構成すれば、コネクタの過剰な幅広化を避けることができる。
【0039】
<扁平部と低扁平部の比較>
本実施形態にかかる絶縁電線1の扁平部20と低扁平部30は、導体11の断面形状における扁平度の違い以外にも、構造および特性に差異を有している。
【0040】
(1)導体と絶縁被覆の密着力
本実施形態にかかる絶縁電線1においては、導体11と絶縁被覆13の間の密着力が、低扁平部30において、扁平部20よりも小さくなっている。扁平部20においては、その扁平形状に由来して、表面積が大きくなっているため、絶縁被覆13と広い面積で接することになる。そのため、導体11と絶縁被覆13の間で、軸線方向に沿った単位長さあたりの密着力が大きくなる。しかし、低扁平部30においては、断面形状の扁平度が低いことにより、同じ導体断面積を有する扁平部20よりも導体の表面積が小さくなり、絶縁被覆13との接触面積が小さくなる。よって、低扁平部30においては、扁平部20よりも、導体11と絶縁被覆13の間で、軸線方向に沿った単位長さあたりの密着力が、小さくなる。
【0041】
また、原料扁平電線9を変形させて低扁平部30を形成する場合に、低扁平部30における導体11と絶縁被覆13の間の密着力が、さらに小さくなりやすい。扁平部20では、原料扁平電線9において、押出成形等によって、導体11の外周に密着させて絶縁被覆13を形成したままの状態が維持されるので、導体11と絶縁被覆13の間に、比較的大きな密着力が生じている。しかし、低扁平部30は、原料扁平電線9に対して絶縁被覆13の外から導体11に力F1を加えて変形させているため、力F1の印加および導体11の変形に伴って、絶縁被覆13と導体11の間の密着が解消または低減されている。そのため、低扁平部30において、扁平部20に比べて、絶縁被覆13と導体11の間の密着力が大幅に小さくなりやすい。
【0042】
低扁平部30において、導体11と絶縁被覆13の間の密着力が小さくなっていることにより、上で説明した扁平度が低いという形状自体による効果に加えてさらに、絶縁被覆13の除去を伴う低扁平部30の加工の簡便性が向上する。絶縁被覆13が導体11に対して低い密着力しか及ぼさないことにより、低扁平部30において、導体11の外周から絶縁被覆13を剥がして除去するのに、小さな力しか必要とされないからである。絶縁被覆13の剥離性向上の効果を高める観点から、低扁平部30における密着力は小さい方が好ましく、例えば、扁平部20における密着力に対して、5%以上、さらには10%以上、また20%以上、30%以上小さくなっているとよい。つまり、扁平部20の密着力をA1、低扁平部20の密着力をA2として、下記の式(1)で表現される密着力差分率ΔAが、ΔA≦-5%、さらにはΔA≦-10%、またΔA≦-20%、ΔA≦-30%となっているとよい。
ΔA=(A2-A1)/A1 (1)
絶縁被覆13の剥離性向上の観点からは、低扁平部30の密着力に特に下限は設けられないが、導体11に対する絶縁被覆13の位置ずれを防ぐ等の観点から、例えば、密着力差分率がΔA≧-90%、ΔA≧-80%以下の範囲に収まるようにしておくとよい。
【0043】
低扁平部30が、導体11と絶縁被覆13の間の密着性の低さにより、絶縁被覆13の剥離性を高めるものとなる一方で、扁平部20においては、導体11の外周に絶縁被覆13が大きな密着力で密着していることにより、導体11に対する絶縁被覆13の位置ずれが抑制される。また、導体11に通電して導体11が発熱した場合に、絶縁被覆13と導体11が密着した箇所において、空気の層を介することなく、熱が縁被覆13に効率的に伝達され、さらに外部の環境中に散逸されるため、扁平部20において高い放熱性が確保される。扁平部20におけるこれら位置ずれ抑制および放熱性向上の効果は、絶縁電線1全体の特性として発揮されるものとなる。
【0044】
導体11と絶縁被覆13の間の密着力は、引き抜き試験によって評価することができる。具体的な試験方法としては、例えば、絶縁電線1から、扁平部20のみを含む箇所、または低扁平部30のみを含む箇所を切り出し、端部の所定の長さの領域にわたって、絶縁被覆13を剥がして、導体11を露出させる。そして、導体11の外形と同等の形状を有する貫通孔に、露出させた導体11を挿通した状態で、導体11を所定の速度で引張り、導体11を絶縁被覆13から引き抜く。引き抜きに要する荷重をロードセル等で測定し、最大荷重を、導体11に対する絶縁被覆13の密着力とすればよい。そして、同じ長さに切り出した扁平部20と低扁平部30で、計測された密着力を相互に比較すればよい。
【0045】
(2)空隙の分布
本実施形態にかかる絶縁電線1の断面において、絶縁被覆13に囲まれた領域における空隙の分布にも、扁平部20と低扁平部30の間で差が存在する。本実施形態にかかる絶縁電線1においては、低扁平部30において、扁平部20よりも、空隙率が大きくなりやすい。ここで、空隙率とは、絶縁電線1の断面において、絶縁被覆13の内周に囲まれた領域の面積のうち、素線12に占められない空隙の面積の割合を指す。
【0046】
低扁平部30において空隙率が大きくなりやすいのは、低扁平部30の形成方法に関係している。原料扁平電線9の外から力F1を加えて、低扁平部30を形成する際に、絶縁電線1の断面において、導体11が変形するとともに、絶縁被覆13の形状も、扁平度が下がる方向に変化するが、絶縁被覆13の内周長は、ほぼ変化しない。絶縁被覆13の内周長が同じであれば、絶縁被覆13が扁平度の低い形状に変形するほど、絶縁被覆13の内周に囲まれた領域の面積は大きくなる。この際、絶縁被覆13の内周に囲まれた領域において、素線12が占める面積は変わらないので、素線12に占められない空隙の面積が増大することになり、空隙率が上昇する。
【0047】
低扁平部30を形成する際に、絶縁被覆13の外から導体11に力F1を印加しているため、空隙は、導体11の外周と絶縁被覆13の内周の間に形成されやすい。この導体11と絶縁被覆13の間への空隙の形成は、導体11と絶縁被覆13の間の密着力の低減にも寄与する。特に、導体11を変形させるための力F1の印加を、幅方向外側から内側に向かって行い、導体11の寸法を幅方向に圧縮しているため、図2Bに示すように、導体11の幅相当方向外側の領域に空隙が偏在しやすい。つまり、幅相当方向(y方向)に沿って導体11の外側の領域にあたる幅方向導体外領域Rwに、高さ相当方向(z方向)に沿って導体11の外側の領域にあたる高さ方向導体外領域Rhよりも、大きな空隙が形成されやすい。その結果として、導体11と絶縁被覆13の内周面との距離が、幅方向導体外領域Rwにおいて、高さ方向導体外領域Rhよりも大きくなりやすく、また、導体11と絶縁被覆13の間の密着力が、幅相当方向において、高さ相当方向よりも小さくなりやすい。なお、低扁平部30のみならず、低扁平部30と扁平部20の間の境界部においても、同様に、幅方向導体外領域Rwへの空隙の偏在が生じる場合がある。
【0048】
低扁平部30において、空隙率が大きくなっていることは、導体11と絶縁被覆13の間の密着力を低減することのみならず、低扁平部30における絶縁電線1の曲げ柔軟性を高めることにも効果を有する。導体11を曲げる際に、空隙への素線12の移動によって、絶縁電線1の柔軟な曲げが補助されるからである。幅方向導体外領域Rw等、導体11と絶縁被覆13の間に形成された空隙も、柔軟性の向上に効果を有するが、導体11の内部において、素線12の間に形成された空隙は、柔軟性の向上に特に高い効果を発揮する。そのため、低扁平部30における曲げ柔軟性を高める観点から、低扁平部30においては、絶縁被覆13の内周に囲まれた領域全体における空隙のみならず、導体11の内側の領域における空隙についても、扁平部20よりも空隙率が大きくなっていることが好ましい。
【0049】
低扁平部30における具体的な空隙率は、特に限定されるものではない。しかし、空隙率が、低扁平部30において、扁平部20と比較して、5%以上、さらには10%以上、また20%以上、30%以上、45%以上大きくなっているとよい。つまり、扁平部20における空隙率をV1(%)、低扁平部30における空隙率をV2(%)として、下記の式(2)で表現される空隙率差分率ΔVが、ΔV≧+5%、さらにはΔV≧+10%、またΔV≧+20%、ΔV≧+30%、ΔV≧+45%であるとよい。
ΔV=(V2ーV1)/V1 (2)
また、低扁平部30における空隙率の値(V2)が、30%以上、さらには35%以上、40%以上となっているとよい。すると、低扁平部30において、絶縁被覆13と導体の間の密着力を低減しやすくなるとともに、高い柔軟性を確保しやすくなる。扁平部20においても、高さ相当方向(z方向)への曲げ柔軟性を確保する観点から、扁平部20の空隙率(V1)は、10%以上、さらには20%以上であることが好ましい。柔軟性の観点からは、空隙率(V1,V2)に特に上限は設けられないが、扁平部20および低扁平部30のそれぞれにおいて、所定の導体11の外形を安定に保持する等の観点から、おおむね50%以下としておくとよい。
【0050】
上で説明したように、原料扁平電線9に力F1を印加して導体11を変形させることで低扁平部30を形成する場合に、絶縁被覆13の内周の長さ(内周長)はほぼ変化せず、絶縁被覆13の内周に囲まれた領域の低扁平化に伴う面積の増大によって、低扁平部30の空隙率が増大する。この機構による低扁平部30における空隙率の増大の効果を高める観点から、低扁平部30の形成に伴う絶縁被覆13の内周長の変化量、つまり扁平部20と低扁平部30での絶縁被覆13の内周長の差が、小さい方が好ましい。例えば、扁平部20と低扁平部30との間で、絶縁被覆13の内周長の差が、扁平部20における絶縁被覆13の内周長に対して、5%以下となるとよい。つまり、扁平部20における絶縁被覆13の内周長をD1、低扁平部30における絶縁被覆13の内周長をD2として、下記の式(3)で表現される周長差分率ΔDが|ΔD|≦5%となるとよい。さらには、|ΔD|≦2%であるとよい。
ΔD=(D2-D1)/D1 (3)
【0051】
また、上記機構による低扁平部30における空隙率増大の効果を高める観点から、低扁平部30の形成に伴って、絶縁被覆13の内周に囲まれた領域の面積(内面積)が大きく増加することが好ましい。つまり扁平部20と比較して、低扁平部30において、内面積が大きくなっている方が好ましい。例えば、低扁平部30における内面積が、扁平部20との比較において、30%以上、さらには50%以上大きくなっているとよい。つまり、扁平部20における内面積をS1、低扁平部30における内面積をS2として、下記の式(4)で表現される内面積差分率ΔSが、ΔS≧+10%、さらにはΔS≧+20%以上であるとよい。
ΔS=(S2-S1)/S1 (4)
【0052】
(3)素線の変形
本実施形態にかかる絶縁電線1を、原料扁平電線9に対して幅方向から力F1を印加することによる、低扁平部30の形成を伴って製造する場合には、その製造方法と対応して、扁平部20および低扁平部30において、断面の素線12の変形率に、不均一な分布が生じやすい。ここで、素線12の変形率とは、ある素線12が円形からどれだけ逸脱した断面形状を有しているかを示す指標であり、素線12の形状が円形から大きく逸脱しているほど、変形率が大きくなる。
【0053】
具体的には、図2A,2Bに示すように、扁平部20と低扁平部30の両方において、導体11の外周に面する外周部のうち、幅相当方向(y方向)に沿って外側(両端)の領域にあたる幅方向端部(例えば領域R2)において、外周部の内側に位置する中央部(例えば領域R1)や、高さ相当方向(z方向)に沿って外側(両端)の領域にあたる高さ方向端部(例えば領域R3)よりも、素線12の変形率が小さくなりやすい。つまり、扁平部20および低扁平部30において、中央部および高さ方向端部の素線12よりも、幅方向端部の素線12の方が、円形に近い形状をとりやすい。
【0054】
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1を、扁平に成形した撚線導体を含んだ原料扁平電線9から形成する場合に、その原料扁平電線9に含まれる導体11は、ローラを用いた撚線への穏やかな力の印加によって扁平に変形されたものである。そのことに起因して、特許文献3~5にも記載されるとおり、外周部、特に幅方向端部において、中央部に比べて、小さな素線変形率を有する。この原料扁平電線9から本実施形態にかかる絶縁電線1を製造する際に、扁平部20においては、原料扁平電線9における導体11の構造が実質的にそのまま引き継がれる。低扁平部30においても、導体11全体の外形としては、扁平度の低い形状に変形されるが、各素線12の形状までは、ほぼ変化を受けない。よって、原料扁平電線9において生じていた素線12の変形率の分布は、ほぼそのまま低扁平部30にも引き継がれる。よって、本実施形態にかかる絶縁電線1の扁平部20および低扁平部30においても、原料扁平電線9と同様に、素線12の変形率が、幅方向端部において、中央部および高さ方向端部よりも小さくなる。
【0055】
<変形形態:扁平部の扁平方向を変化させる形態>
上記では、1本の絶縁電線1の両端部に低扁平部30を形成するとともに、それら低扁平部30に挟まれた位置に、一様な形状の扁平部20を形成する形態を中心に、説明を行った。しかし、扁平部20および低扁平部30の数および配置はそれに限られず、それぞれ、任意の数を、任意の配列順に設けることができる。例えば、扁平部20として、扁平方向の異なる複数の領域を設けることができる。それら複数の領域は、隣接して設けても、間に低扁平部30を介して設けてもよい。
【0056】
扁平部に複数の領域を設ける例として、図3A~3Cに、扁平部20Aに、扁平方向が異なる複数の領域として、第一の領域21、第二の領域22、第三の領域23を設けた絶縁電線1Aを示す。これら3つの領域21~23は、絶縁電線1Aの軸線方向に沿って、この順に連続して設けられている。また、図示は省略しているが、絶縁電線1Aの軸線方向に沿って、第一の領域21および第三の領域23の外側(第二の領域22と反対側)の領域に相当する、絶縁電線1Aの両端部には、低扁平部が設けられている。扁平部20Aにおいて、第一の領域21、第二の領域22、第三の領域23は、扁平方向が相互に異なっている。ここで、扁平方向とは、断面の扁平形状の方向、つまり扁平形状が扁平に延びた方向である幅方向が向いている方向を指している。
【0057】
具体的には、第一の領域21および第三の領域23は、扁平方向がy方向に向いた横長の扁平形状を有している。一方で、第二の領域22は、扁平方向がz方向に向いた縦長の扁平形状を有している。各領域21~23は、扁平方向の急激な変化に伴って不可避的に生じる領域を除き、直接、相互に隣接している。
【0058】
絶縁電線の扁平部は、扁平形状の幅方向(つまり扁平方向)には、あまり高い柔軟性を示さず、絶縁電線を曲げにくいが、高さ方向には、高い柔軟性を示し、絶縁電線を曲げやすくなっている。このように、扁平部は柔軟性に異方性を有し、扁平部として、扁平方向の異なる複数の領域が存在している場合には、それら複数の領域において、絶縁電線を曲げやすい方向が異なっている。図3A~3Cに示した例では、横長の第一の領域21および第三の領域23は、縦方向(z方向)に曲がりやすい一方で、縦長の第二の領域22は、横方向(y方向)に曲がりやすい。
【0059】
このように、扁平部20Aとして、扁平方向の異なる複数の領域21~23を設けることで、絶縁電線1Aの扁平部20Aの各部が、異なる方向に、曲げやすくなる。それらの領域21~23において、絶縁電線1Aを異なる方向に曲げることで、三次元的な配策や、複雑な形状の物品に沿った配策等、複雑な形状への曲げを要する用途に、絶縁電線1Aを好適に利用することができる。具体的な配策経路等に応じて、絶縁電線1Aにおいて、曲げを形成すべき位置に、曲げるべき方向に扁平形状の高さ方向を向けた領域を、必要な数だけ形成しておけばよい。
【0060】
扁平部20Aの各領域21~23において、具体的な扁平方向は、上記のように、絶縁電線1Aを曲げるべき方向に応じて適宜定めればよく、隣接する領域の間の扁平方向の差も、特に限定されるものではない。例えば、隣接する領域の間の扁平方向の差を、10°以上としておけば、扁平方向の異なる複数の領域を設けることによって多様な方向への曲げを実現する効果を、十分に得ることができる。しかし、隣接する領域間の扁平方向の差を大きくしておくほど、複雑な形状への曲げに対応しやすくなる。例えば、図3A~3Cに示した形態においては、第一の領域21と第二の領域22の間、および第二の領域22と第三の領域23の間の扁平方向の差が、いずれも90°となっている。このように、扁平部20Aにおいて、隣接する領域の間の扁平方向の差を、45°以上、特に80°以上としておくことが好ましい。
【0061】
扁平部20Aにおいて、扁平方向の異なる複数の領域21~23を設ける場合に、それら複数の領域21~23のそれぞれが、低扁平部よりも高い扁平度を有していれば、各領域21~23の具体的な扁平度(断面の扁平形状の縦横比)、およびそれらの領域21~23の間の扁平度の関係は、特に限定されるものではない。しかし、各領域21~23を、それぞれの扁平形状の高さ方向に、同程度の柔軟性を示すものとし、絶縁電線1Aを各方向に同程度に柔軟に曲げられるようにするためには、扁平方向の異なる複数の領域21~23が、同程度の扁平度を示すものであることが好ましい。例えば、扁平部20Aにおいて、ある1つの領域の断面形状の縦横比を基準として、隣接する領域の断面形状の縦横比が、80%以上120%以下となっていることが好ましい。図示した形態では、3つの領域21~23の扁平度が同じになっている。
【0062】
このように、扁平部20Aとして、扁平方向の異なる複数の領域21~23を備えた絶縁電線1Aも、上記で詳細に説明した絶縁電線1と同様に、導体11を扁平形状に変形させた原料扁平電線9に対して、必要な領域に選択的に力を加えて、部分的に変形させることで、好適に製造することができる。この際、扁平方向の異なる複数の扁平領域のうち、1つの領域、あるいは扁平方向の揃った複数の領域を、もとの扁平形状から原料扁平電線9を変形させずに残すことで、形成すればよい。一方、原料扁平電線9に、幅方向(y方向)に沿って外側から内側に力を加えることで、必要な箇所に、低扁平部、および、扁平部20Aのうち、もとの原料扁平電線9と扁平方向の異なる領域を形成すればよい。この際、もとの原料扁平電線9と扁平方向の異なる扁平領域を形成する箇所において、低扁平部を形成する箇所よりも大きな力を加え、原料扁平電線9を、もとの状態から扁平方向が変化する状態にまで、大きく変形させる。図3A~3Cに示した絶縁電線1Aを製造する場合に、例えば、原料扁平電線9の扁平方向をy方向に向け、原料扁平電線9の軸線方向中途部において、幅方向(y方向)に沿って外側から内側に向かって力を印加し、断面形状を、横長から縦長の状態に変形させることで、第二の領域22を形成できる。一方、第二の領域22の軸線方向両側の部位において、原料扁平電線9の横長の扁平形状を変化させずにそのまま残すことで、第一の領域21および第三の領域23を形成できる。
【0063】
<別の実施形態>
上記で説明した実施形態にかかる絶縁電線1においては、扁平な導体11を備える原料扁平電線9に対して加工を行うことで、一部の領域に低扁平部30を形成し、それ以外の領域を扁平部20として残すことで、扁平部20と低扁平部30を共存させていた。しかし、扁平部と低扁平部が共存した絶縁電線は、別の方法によっても製造することができる。以下、別の方法によって形成される絶縁電線1’について、簡単に説明する。以下、上記で説明した実施形態と同様の構成については記載を省略し、上記と異なる点を中心に説明を行う。
【0064】
この別の実施形態にかかる絶縁電線1’は、図5に示すように、原料低扁平電線9’を用いて製造することができる。ここで、原料低扁平電線9’は、複数の素線12が撚り合わせられた導体11の外周を絶縁被覆13で被覆して絶縁電線1’としたものであり、導体11の断面が、略円形等、扁平度の低い外形を有している。例えば、原料低扁平電線9’として、汎用的な丸電線をそのまま利用することができる。
【0065】
原料低扁平電線9’に対して、一部の領域において、相互に対向する方向から圧縮する力F2を加えて、導体11の扁平度を上昇させることで、扁平部20’を形成する。そして、扁平部20’とした領域以外を、低扁平部30’として残す。これにより、扁平部20’と低扁平部30’を有する絶縁電線1’を製造することができる。つまり、上記で説明した実施形態にかかる絶縁電線1においては、原料扁平電線9に加工を施すことで低扁平部30を形成し、残りの箇所を扁平部20としたのに対し、この別の実施形態にかかる絶縁電線1’においては、原料低扁平電線9’に加工を施すことで扁平部20’を形成し、残りの箇所を低扁平部30’としている。
【0066】
この別の実施形態にかかる絶縁電線1’においても、上記で説明した絶縁電線1と同様に、扁平部20’において、低扁平部30’よりも、広い面積で導体11に絶縁被覆13が接するため、導体11と絶縁被覆13の間の密着力が、低扁平部30’において、扁平部20’よりも小さくなる。よって、絶縁電線1’の端末部等に、低扁平部30’を設けておくことで、外形の扁平度の低さ自体の効果と合わせて、導体11と絶縁被覆13の間の密着力の小ささの効果によって、絶縁被覆13の除去を伴う絶縁電線1’の加工を、低扁平部30’において簡便に行うことができる。この形態においても、例えば、低扁平部30’における密着力を、扁平部20’における密着力との比較において、20%以上、さらには30%以上小さいものとすることができる(ΔA≦-20%、さらにはΔA≦-30%)。
【0067】
ただし、この別の実施形態にかかる絶縁電線1’においては、後の実施例にも示すように、上記で説明した絶縁電線1とは異なり、低扁平部30’において、扁平部20’よりも空隙率が大きい状態は形成しにくい。また、扁平形状への原料低扁平電線9’の圧縮を行う際に、扁平度の増大に伴って、絶縁被覆13の内周長が引き伸ばされる場合がある。絶縁被覆13の内周長が引き伸ばされることで、幅方向外側の箇所で、導体11と絶縁被覆13の密着が強くなり、低扁平部30’よりも扁平部20’において密着力が大きくなる。絶縁被覆13の内周長が引き伸ばされる際に、絶縁被覆13に無理な負荷が印加されないように、絶縁被覆13としては、ある程度、引張弾性率が低く、伸長しやすい材料を用いることが好ましい。さらに、この形態の絶縁電線1’においては、原料低扁平電線9’の製造時、および原料低扁平電線9’からの加工時のいずれにおいても、低扁平部30’には、導体11を変形させる力は加えられない。よって、低扁平部30’の断面においては、位置によらず、素線12が、変形率の小さい、断面円形に近い形状を維持することになる。
【0068】
ここに説明した絶縁電線1’と同様の方法でも、図3A~3Cに示したような、扁平部20Aとして、扁平方向の異なる複数の領域21~23を含む絶縁電線1Aを製造することができる。この場合には、原料低扁平電線9’に力を加えて扁平部20Aを形成する際に、力を加える方向が異なる複数の領域を設定することで、扁平方向が異なる複数の領域21~23を形成することができる。図3A~3Cに示した形状の絶縁電線1Aを製造する場合、横長の第一の領域21および第三の領域23を形成すべき位置には、z方向に沿って原料低扁平電線9’を圧縮する力を印加し、縦長の第二の領域22を形成すべき位置には、y方向に沿って原料低扁平電線9’を圧縮する力を印加する。
【実施例0069】
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、2とおりの絶縁電線について、扁平部および低扁平部の間で状態を比較した。
【0070】
(試料の準備)
(1)試料1
最初に、原料扁平電線を作製した。まず、アルミニウム合金の素線を撚り合わせた断面略円形の撚線を準備し、その撚線をローラによって扁平形状に圧縮することで、導体を作製した。撚線としては、導体断面積が130mm、素線径が0.42mmのものを用いた。扁平形状の縦横比w/hは約3とした。作製した導体の外周に、押出成形によって、絶縁被覆を形成し、原料扁平電線を得た。絶縁被覆の構成材料としては、架橋ポリエチレンを用い、絶縁被覆の厚さは、2mmとした。
【0071】
上記の原料扁平電線に対して、一部の領域において、扁平形状の幅方向外側から内側に向かう力を印加して、導体の扁平形状の扁平度を低下させることで、低扁平部を形成した。力の印加を行わなかった領域は、扁平部として残した。低扁平部における導体の縦横比w/hは、約1とした。低扁平部の形成は、室温におけるプレス加工によって行った。
【0072】
(2)試料2
最初に、原料低扁平電線を作製した。まず、アルミニウム合金の素線を撚り合わせた断面略円形の撚線を準備した。撚線としては、導体断面積が60mm、素線径が0.32mmのものを用いた。作製した導体の外周に、押出成形によって、絶縁被覆を形成し、原料低扁平電線を得た。絶縁被覆の構成材料としては、ポリ塩化ビニルを用い、絶縁被覆の厚さは、2mmとした。
【0073】
上記の低原料扁平電線に対して、一部の領域において、対向する方向から挟み込む力を印加して、導体を圧縮して扁平度を上昇させることで、扁平部を形成した。力の印加を行わなかった領域は、低扁平部として残した。扁平部における導体の縦横比w/hは、約3とした。扁平部の形成は、室温におけるプレス加工によって行った。
【0074】
(評価方法)
上記で作製した試料1,2の扁平部および低扁平部について、それぞれ、断面観察を行った。各試料を、アクリル樹脂に包埋して固定した。そして、扁平部と低扁平部のそれぞれの箇所にて、絶縁電線を軸線方向に垂直に切断することで、断面試料を得た。得られた断面試料を顕微鏡にて観察し、観察像に対して画像解析を行うことで、絶縁被覆の内側の領域について、空隙面積、内面積、空隙率、内周長を評価した。試料1の低扁平部、および試料2の扁平部については、位置1~3の3か所で断面試料を作成して評価を行い、得られた値を3か所で平均した。
【0075】
別途、試料1,2の絶縁電線に対して、扁平部および低扁平部のそれぞれにおいて、導体と絶縁被覆の間の密着力を評価した。各試料の扁平部のみ、あるいは低扁平部のみを含む領域を70mmに切り出し、端部から25mmの領域の絶縁被覆を剥がして、導体を露出させた。導体の外形と同等の形状を有する貫通孔を金属板に形成し、その貫通孔に、露出した導体を挿通した。そして、導体を250mm/秒の速度で引張り、導体を絶縁被覆から引き抜いた。引き抜きに要する荷重をロードセルにて測定し、最大荷重を、導体に対する絶縁被覆の密着力とした。
【0076】
(評価結果)
図6A,6Bに、それぞれ試料1および試料2について、各位置における断面画像とともに、断面の状態の評価の結果と、密着力の測定結果を示す。なお、断面画像においては、扁平部と低扁平部で縮尺は適宜変更している。表中には合わせて、各測定値について、扁平部と低扁平部の間の差分率を表示している。ここで、差分率は、扁平部の値を基準として、低扁平部の値がどれだけの割合で変化しているかを表示している。つまり、差分率は、以下の式(5)によって表現される。
差分率=(低扁平部の値-扁平部の値)/扁平部の値×100% (5)
複数の位置で断面の評価を行っている場合には、平均値を差分率の算出に用いている。図6A,6Bにおいて、差分率の算出に用いた値および算出された差分率を太字で表示している。
【0077】
図6Aに示す試料1の断面画像によると、原料扁平電線に力を加えて形成した低扁平部が、扁平部よりも扁平度の低い形状を有していることが確認される。そして、扁平部と低扁平部で密着力の測定結果を比較すると、低扁平部の方が小さい値をとっており、差分率を見ても、ΔA≦-30%となっている。つまり、低扁平化によって、絶縁被覆と導体の間の密着力が、30%以上小さくなっている。
【0078】
断面画像において、素線に占められていない空隙の分布に着目すると、まず、扁平部では、導体の外周に絶縁被覆が密着しており、導体と絶縁被覆の間の空隙はごく小さくなっているのに対し、低扁平部においては、導体と絶縁被覆の間に、明らかな空隙が生じている。さらに、その空隙は、幅相当方向(画像の横方向)に偏在している。空隙の偏在は、位置2,3において特に顕著である。さらに、導体の内部の素線間の領域の空隙も、低扁平部において、扁平部よりも大きくなっているのが見て取れる。これらのことから、絶縁被覆の内周に囲まれた領域に形成された空隙が、低扁平部において、扁平部よりも大きくなっていることが分かる。これらの結果は、空隙面積および空隙率の測定値が、低扁平部において、扁平部より大きくなっていることにより、またそれらの差分値が正値をとっていることにより、一層明確に示される。空隙率については、扁平部の値を基準として、50%以上も、低扁平部の方で大きくなっている(ΔV≧+50%)。
【0079】
扁平部と低扁平部で、絶縁被覆の内周長は変化していない(ΔD=0%)。一方、絶縁被覆の内面積は、低扁平部において、扁平部の値に対して20%以上大きくなっている(ΔS≧+20%)。
【0080】
以上の結果から、原料扁平電線に幅方向外側から力を加えて低扁平部を形成する際に、絶縁被覆の内周長の変化が制限された空間の内部で、導体が低扁平形状に変形することで、絶縁被覆の内周面に囲まれた空間の面積が増大し、それによって空隙率が上昇すると解釈される。そして、空隙率の増加、特に導体と絶縁被覆の間の領域への空隙の形成により、絶縁被覆と導体の間の密着力が低減されると考えられる。
【0081】
次に、図6Bに示す試料2の断面画像によると、原料低扁平電線の構造を残した低扁平部が、原料低扁平電線に圧縮する力を加えて形成した扁平部よりも、扁平度の低い形状を有していることが確認される。そして、扁平部と低扁平部の密着力の測定結果を比較すると、低扁平部の方が小さい値をとっており、差分率を見ても、ΔA≦-30%となっている。つまり、原料低扁平電線の圧縮により、絶縁被覆と導体の間の密着力が上昇し、低扁平部は、圧縮を経て形成される扁平部よりも、30%以上密着力が小さい状態に留まる。
【0082】
断面画像において、空隙の分布に着目すると、扁平部、低扁平部とも、導体と絶縁被覆の間にはほぼ空隙が形成されていない。導体の内部の素線間の空隙については、低扁平部よりも扁平部の方が大きくなっていることが見て取れる。つまり、絶縁被覆の内周に囲まれた領域に形成された空隙が、低扁平部よりも扁平部において大きくなっていることが分かる。これらの結果は、空隙面積および空隙率の測定値が、扁平部において、低扁平部より大きくなっており、差分率も負値をとっていることにより、一層明確に示される。この結果は、低扁平形状から扁平形状への圧縮により、導体の内部の空隙が増大することを意味している。
【0083】
試料1では、力の印加による低扁平部の形成を経て、絶縁被覆の内周長が変化しなかったのに対し、試料2では、扁平部において、低扁平部よりも、絶縁被覆の内周長が長くなっており(差分率ΔD≦0)、力の印加による扁平部の形成を経て、絶縁被覆の内周長が伸びている。この現象は、力の印加によって導体を圧縮する際に、導体の変形に伴って絶縁被覆が伸長されたことによると考えられる。
【0084】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1,1’,1A 絶縁電線
11 導体
12 素線
13 絶縁被覆
20,20’,20A 扁平部
21 第一の領域
22 第二の領域
23 第三の領域
30,30’ 低扁平部
9 原料扁平電線
9’ 原料低扁平電線
h 導体の高さ
w 導体の幅
x 絶縁電線の軸線方向
y 幅相当方向
z 高さ相当方向
F1 力
F2 力
R1 中央部の領域
R2 幅方向端部の領域
R3 高さ方向端部の領域
Rh 高さ方向導体外領域
Rw 幅方向導体外領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6