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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158880
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
B41J2/01 205
B41J2/01 207
B41J2/01 213
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206253
(22)【出願日】2021-12-20
(62)【分割の表示】P 2021063205の分割
【原出願日】2021-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】596117773
【氏名又は名称】株式会社トライテック
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一義
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB40
2C056EC69
(57)【要約】
【課題】吐出異常状態の発生したノズルがあるインクジェットヘッドであっても、インクを被記録媒体上の意図する位置に確実に着弾させることができる印刷装置及び印刷装置の制御方法を提供する。
【解決手段】インクジェットヘッドの所定方向に配列された複数のノズルの内、画像の記録に使用しない不使用ノズルに係る情報を取得し、不使用ノズルを除いた他のノズルによって、不使用ノズルに対応した記録を代替させるための、インクジェットヘッドと被記録媒体との所定方向へのシフト量を、不使用ノズルのインクジェットヘッド内の位置に応じて設定し、不使用ノズルを除いた他のノズルを用いて画像を記録し、第1の記録動作後、シフト量に応じて第1の記録動作時における不使用ノズルに対応した位置に他のノズルを位置させ、さらに第1の記録動作時における不使用ノズルの位置に移動した他のノズルを用いて、不使用ノズルに対応する画像を記録する。
【選択図】 図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数のノズルが所定方向に配列されたノズル列を備えるインクジェットヘッドを用いて被記録媒体に画像の記録を行う印刷装置において、
前記インクジェットヘッドの前記複数のノズルの内、画像の記録に使用しない不使用ノズルに係る情報を取得する取得手段と、
前記複数のノズルの内の、前記取得手段により取得された前記情報に応じた前記不使用ノズルを除いた他のノズルによって、前記不使用ノズルに対応した記録を代替させるための、前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との、前記所定方向への相対的なシフト量を、前記不使用ノズルの前記インクジェットヘッド内における位置に応じて設定する設定手段と、
前記複数のノズルの内の前記不使用ノズルを除いた、前記他のノズルを含む前記ノズルを用いて、前記被記録媒体に画像を記録する第1の記録動作を実行させる記録制御手段と、
前記第1の記録動作後、前記設定手段により設定された前記シフト量に応じて前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体とを、前記所定方向に相対的に移動させることにより、前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルに対応した位置に前記他のノズルを位置させる移動手段とを有し、
前記記録制御手段は、前記移動手段により前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルの位置に移動した前記他のノズルを用いて、前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録する第2の記録動作を1回又は複数回繰り返し実行させるものであって、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動手段による前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における全ての前記複数の前記不使用ノズルの位置に前記ノズル列内における複数の前記他のノズルを位置させることが可能な場合、前記記録制御手段は、1回の前記第2の記録動作を実行させることにより、前記移動手段により全ての前記複数の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記複数の前記他のノズルを用いて、前記複数の前記不使用ノズルに対応する画像を、前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録させ、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動手段による前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における前記複数の前記不使用ノズルの内の一部の前記不使用ノズルの位置に前記ノズル列内における複数の前記他のノズルの一部の前記他のノズルを位置させることが可能で、残りの前記不使用ノズルの位置に前記他のノズルを位置させることが不可能な場合、前記記録制御手段は、前記第2の記録動作を複数回繰り返し実行させ、前記複数回の前記第2の記録動作の内の一の前記第2の記録動作において、前記移動手段により前記一部の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記一部の前記他のノズルを用いて、前記一部の前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録させ、更なる一の前記第2の記録動作において、前記移動手段により前記残りの前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記他のノズルを用いて前記残りの前記不使用ノズルに対応する画像を前記被記録媒体に更に記録させることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記記録制御手段は、さらに前記第2の記録動作の繰り返しの回数を所定の回数以下に制限するものであって、
前記第2の記録動作の繰り返しの実行において、前記第2の記録動作の繰り返しの回数が前記所定の回数に達する前に前記不使用ノズル全てに対応する画像の前記被記録媒体への記録が終了した場合、及び前記不使用ノズル全てに対応する画像の前記被記録媒体への記録が終了する前に前記第2の記録動作の繰り返しの回数が前記所定の回数に達した場合は以降の前記第2の記録動作を実行させないことを特徴とする、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記不使用ノズルの数と前記ノズル列内における前記不使用ノズルの位置とに応じて、前記シフト量を設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記設定手段は、前記不使用ノズルが複数存在する場合、前記ノズル列内における前記複数の前記不使用ノズルの位置に、前記ノズル列内における前記他のノズルを最も多く位置させることができるように前記シフト量を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記設定手段は、前記不使用ノズルが複数存在する場合、前記第2の記録動作の繰り返しの回数が最小となるように前記シフト量を設定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項6】
インクを吐出する複数のノズルが所定方向に配列されたノズル列を備えるインクジェットヘッドを用いて被記録媒体に画像の記録を行う印刷装置の制御方法において、
前記インクジェットヘッドの前記複数のノズルの内、画像の記録に使用しない不使用ノズルに係る情報を取得する取得ステップと、
前記複数のノズルの内の、前記取得ステップにより取得された前記情報に応じた前記不使用ノズルを除いた他のノズルによって、前記不使用ノズルに対応した記録を代替させるための、前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との、前記所定方向への相対的なシフト量を、前記不使用ノズルの前記インクジェットヘッド内における位置に応じて設定する設定ステップと、
前記複数のノズルの内の前記不使用ノズルを除いた、前記他のノズルを含む前記ノズルを用いて、前記被記録媒体に画像を記録する第1の記録動作を実行させる第1の記録ステップと、
前記第1の記録動作後、前記設定ステップにより設定された前記シフト量に応じて前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体とを、前記所定方向に相対的に移動させることにより、前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルに対応した位置に前記他のノズルを位置させる移動ステップと、
前記移動ステップにより前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルの位置に移動した前記他のノズルを用いて、前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録する第2の記録動作を実行させる第2の記録ステップとを有し、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動ステップによる前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における全ての前記複数の前記不使用ノズルの位置に、前記ノズル列内における複数の前記他のノズルを位置させることが可能な場合、前記第2の記録ステップにおいて、1回の前記第2の記録動作を実行して、前記移動ステップにより全ての前記複数の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記複数の前記他のノズルを用いて、前記複数の前記不使用ノズルに対応する画像を、前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録し、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動ステップによる前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における前記複数の前記不使用ノズルの内の一部の前記不使用ノズルの位置に、前記ノズル列内における複数の前記他のノズルの一部の前記他のノズルを位置させることが可能で、残りの前記不使用ノズルの位置に前記他のノズルを位置させることが不可能な場合、前記第2の記録ステップにおいて、前記移動ステップによる前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動及び前記第2の記録動作を複数回繰り返し実行し、前記複数回の前記第2の記録動作の内の一の前記第2の記録動作により、前記移動ステップにより前記一部の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記一部の前記他のノズルを用いて、前記一部の前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録し、更なる一の前記第2の記録動作において、前記移動ステップにより前記残りの前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記他のノズルを用いて、前記残りの前記不使用ノズルに対応する画像を前記被記録媒体に更に記録することを特徴とする印刷装置の制御方法。
【請求項7】
前記第2の記録動作の繰り返しの実行において、前記第2の記録動作の繰り返しの回数が所定の回数に達する前に前記不使用ノズル全てに対応する画像の前記被記録媒体への記録が終了した場合、及び前記不使用ノズル全てに対応する画像の前記被記録媒体への記録が終了する前に前記第2の記録動作の繰り返しの回数が前記所定の回数に達した場合は、以降の前記第2の記録動作を実行しないことを特徴とする、請求項6に記載の印刷装置の制御方法。
【請求項8】
前記設定ステップは、前記不使用ノズルの数と前記ノズル列内における前記不使用ノズルの位置とに応じて前記シフト量を設定することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の印刷装置の制御方法。
【請求項9】
前記不使用ノズルが複数存在する場合、前記設定ステップにおいて、前記ノズル列内における前記複数の前記不使用ノズルの位置に、前記ノズル列内における複数の前記他のノズルを最も多く位置させることができるように、前記シフト量を設定することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の印刷装置の制御方法。
【請求項10】
前記不使用ノズルが複数存在する場合、前記設定ステップにおいて、前記第2の記録動作の繰り返しの回数が最小となるように、前記シフト量を設定することを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の印刷装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷装置および印刷装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インクを吐出するノズルが所定の方向に複数配列されたノズル列を有するインクジェットヘッドを走査させながら被記録媒体に対してインクを吐出して印刷を実施するインクジェット印刷装置が知られている。
【0003】
ところで、インクジェットヘッドのノズル列を構成するノズル各々の直径は一般に数μm程度と微細であることから、インク経路内部に滞留する気泡、微細な異物の詰まり、ノズル各々に対応する駆動素子の劣化などの様々な要因により、インクを適正量吐出できない吐出不良、不吐出、吐出方向の不良などの吐出異常状態が生じることがある。また、ノズル列には多数のノズル(例えば1000個以上)を有することが通常であることから、通常の使用によっても、かかる吐出異常状態が発生する確率が高くなる。そして、一部のノズルにでも吐出異常状態が発生すると、印刷画質の劣化が顕著に生じうる。
【0004】
そこで、一部のノズルに吐出異常状態が発生したインクジェットヘッドを使用した場合においても印刷画質を改善することのできる印刷装置が種々提案されている。例えば、特許文献1おいては、吐出異常状態のあるノズルが形成する予定の座標の周囲に吐出するインク量を多くすることにより視覚上の印刷画質を改善する方法が提案されている。また特許文献2においては、記録ヘッドのノズル列を複数のブロックに分割し、それぞれのブロックにより同一領域を走査して記録を行うマルチパス記録において、吐出異常状態のノズルと同一ラスターを記録する他のノズルを吐出異常状態のあるノズルの代わりに使用して補完して記録する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-179552号公報
【特許文献2】特許第3862450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、インクジェット印刷装置においては、写真画像等の視覚的に閲覧される用途の印刷物の印刷に使用されるのみならず、機能性材料等の特殊なインクの塗布に用いられる場合があり、インクの液滴が被記録媒体表面上に、意図する位置に確実に着弾するというインク着弾の絶対位置精度が要求される場合がある。
この場合、視覚的に閲覧される用途の印刷物の場合と異なり、特許文献1に記載された様な方法を用いて視覚上の印刷画質を改善するのみでは不十分である。また特許文献2のようなマルチパス記録による補完記録の場合は、パス数に応じて同一ラスターを記録する複数のノズルが一意的に決まるため、同一ラスターを記録する複数のノズルがすべて吐出異常状態の場合はそのラスターについては補完記録を行うことができないことになる。
【0007】
上記の通り、インクジェットヘッドにおいては、通常の使用によっても、複数のノズルの一部に吐出異常状態のノズルが発生しうるため、一部のノズルに吐出異常状態が発生するごとにインクジェットヘッドを交換するのでは、ランニングコストが著しく悪化し、実用に耐えない。
【0008】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、上記の問題を解決し、吐出異常状態の発生したノズルがあるインクジェットヘッドであっても、インクを被記録媒体上の意図する位置に確実に着弾させることができる印刷装置及び印刷装置の制御方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の発明者は、鋭意工夫の結果、以下の構成を見出した。
【0010】
すなわち、本発明においては、 インクを吐出する複数のノズルが所定方向に配列されたノズル列を備えるインクジェットヘッドを用いて被記録媒体に画像の記録を行う印刷装置において、
前記インクジェットヘッドの前記複数のノズルの内、画像の記録に使用しない不使用ノズルに係る情報を取得する取得手段と、
前記複数のノズルの内の、前記取得手段により取得された前記情報に応じた前記不使用ノズルを除いた他のノズルによって、前記不使用ノズルに対応した記録を代替させるための、前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との、前記所定方向への相対的なシフト量を、前記不使用ノズルの前記インクジェットヘッド内における位置に応じて設定する設定手段と、
前記複数のノズルの内の前記不使用ノズルを除いた、前記他のノズルを含む前記ノズルを用いて、前記被記録媒体に画像を記録する第1の記録動作を実行させる記録制御手段と、
前記第1の記録動作後、前記設定手段により設定された前記シフト量に応じて前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体とを、前記所定方向に相対的に移動させることにより、前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルに対応した位置に前記他のノズルを位置させる移動手段とを有し、
前記記録制御手段は、前記移動手段により前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルの位置に移動した前記他のノズルを用いて、前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録する第2の記録動作を1回又は複数回繰り返し実行させるものであって、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動手段による前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における全ての前記複数の前記不使用ノズルの位置に前記ノズル列内における複数の前記他のノズルを位置させることが可能な場合、前記記録制御手段は、1回の前記第2の記録動作を実行させることにより、前記移動手段により全ての前記複数の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記複数の前記他のノズルを用いて、前記複数の前記不使用ノズルに対応する画像を、前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録させ、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動手段による前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における前記複数の前記不使用ノズルの内の一部の前記不使用ノズルの位置に前記ノズル列内における複数の前記他のノズルの一部の前記他のノズルを位置させることが可能で、残りの前記不使用ノズルの位置に前記他のノズルを位置させることが不可能な場合、前記記録制御手段は、前記第2の記録動作を複数回繰り返し実行させ、前記複数回の前記第2の記録動作の内の一の前記第2の記録動作において、前記移動手段により前記一部の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記一部の前記他のノズルを用いて、前記一部の前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録させ、更なる一の前記第2の記録動作において、前記移動手段により前記残りの前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記他のノズルを用いて前記残りの前記不使用ノズルに対応する画像を前記被記録媒体に更に記録させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明においては、インクを吐出する複数のノズルが所定方向に配列されたノズル列を備えるインクジェットヘッドを用いて被記録媒体に画像の記録を行う印刷装置の制御方法において、
前記インクジェットヘッドの前記複数のノズルの内、画像の記録に使用しない不使用ノズルに係る情報を取得する取得ステップと、
前記複数のノズルの内の、前記取得ステップにより取得された前記情報に応じた前記不使用ノズルを除いた他のノズルによって、前記不使用ノズルに対応した記録を代替させるための、前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との、前記所定方向への相対的なシフト量を、前記不使用ノズルの前記インクジェットヘッド内における位置に応じて設定する設定ステップと、
前記複数のノズルの内の前記不使用ノズルを除いた、前記他のノズルを含む前記ノズルを用いて、前記被記録媒体に画像を記録する第1の記録動作を実行させる第1の記録ステップと、
前記第1の記録動作後、前記設定ステップにより設定された前記シフト量に応じて前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体とを、前記所定方向に相対的に移動させることにより、前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルに対応した位置に前記他のノズルを位置させる移動ステップと、
前記移動ステップにより前記第1の記録動作時における前記不使用ノズルの位置に移動した前記他のノズルを用いて、前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録する第2の記録動作を実行させる第2の記録ステップとを有し、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動ステップによる前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における全ての前記複数の前記不使用ノズルの位置に、前記ノズル列内における複数の前記他のノズルを位置させることが可能な場合、前記第2の記録ステップにおいて、1回の前記第2の記録動作を実行して、前記移動ステップにより全ての前記複数の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記複数の前記他のノズルを用いて、前記複数の前記不使用ノズルに対応する画像を、前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録し、
前記不使用ノズルが複数存在する場合であって、前記移動ステップによる前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動により、前記ノズル列内における前記複数の前記不使用ノズルの内の一部の前記不使用ノズルの位置に、前記ノズル列内における複数の前記他のノズルの一部の前記他のノズルを位置させることが可能で、残りの前記不使用ノズルの位置に前記他のノズルを位置させることが不可能な場合、前記第2の記録ステップにおいて、前記移動ステップによる前記インクジェットヘッドと前記被記録媒体との相対的な移動及び前記第2の記録動作を複数回繰り返し実行し、前記複数回の前記第2の記録動作の内の一の前記第2の記録動作により、前記移動ステップにより前記一部の前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記一部の前記他のノズルを用いて、前記一部の前記不使用ノズルに対応する画像を前記第1の記録動作が行われた前記被記録媒体に記録し、更なる一の前記第2の記録動作において、前記移動ステップにより前記残りの前記不使用ノズルに対応する位置に移動した前記他のノズルを用いて、前記残りの前記不使用ノズルに対応する画像を前記被記録媒体に更に記録することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記の構成とすることで、上記課題を解決し、吐出異常状態の発生したノズルがあるインクジェットヘッドであっても、インクを被記録媒体上の意図する位置に確実に着弾させることができる印刷装置及び印刷装置の制御方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態におけるインクジェット印刷装置の構成例を示す概要図である。
図2】本実施形態で用いられるインクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
図3】インクジェットヘッドの各ノズルから吐出されるインクの着弾位置とサイズを計測するために使用される印刷データの構成例を示す模式図である。
図4】インクジェットヘッドの各ノズルとノズルテストデータを構成する印刷画素との対応関係を説明する模式図である。
図5】インクジェットヘッドのノズルから吐出されたインクが被記録媒体表面に着弾しインクドットが形成される過程を説明する模式図である。
図6】2列に分けて配列されたノズルの列を一つのノズル列として取り扱うインクジェットヘッドの各ノズルとノズルテストデータを構成する印刷画素との対応関係の一例を説明する模式図である。
図7】テストデータ印刷物を撮像することにより得られたノズルデータ測定用画像データに基づいたインクドットの形状例を示す拡大模式図である。
図8】ノズルテストデータを印刷した場合に、本来形成されるべきインクドット各々のXY座標上の理想点の位置関係を説明する模式図である。
図9】実際に測定されたインクドットデータの位置座標と、理想点との位置座標との差をプロットした様子を示す模式図である。
図10】ノズル補完例を示す模式図である。
図11】ノズル補完例を示す模式図である。
図12】ノズル補完例を示す模式図である。
図13】さらなるノズル補完例を示す模式図である。
図14】複数のインクジェットヘッドを一つのインクジェットヘッドとして取り扱う場合のインクジェットヘッドの搭載例を示す模式図である。
図15】複数のインクジェットヘッドを一つのインクジェットヘッドとして取り扱う場合のインクジェットヘッドの搭載例を示す模式図である。
図16】本実施形態におけるノズル補完印刷シーケンス例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態であるインクジェット印刷装置及びインクジェット印刷装置に用いられるインクジェットヘッドについて図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は本実施形態におけるインクジェット印刷装置の構成例を示す概要図である。
【0016】
キャリッジ2には、複数のノズルがノズル列方向に並ぶノズル面を有するインクジェットヘッド1、これを制御する制御基板3、インクジェットヘッド1にインクを供給するサブタンク4、被記録媒体7に印刷した画像を撮像するカメラ5とカメラ用照明6などが搭載されていて、Y軸駆動ユニット8の駆動により、左右(Y軸方向)に移動する。
【0017】
サブタンク4には、下方のインクジェットヘッド1に供給するためのインクが設定された所定の液量供給されている。図示されていない液面センサーの信号によりポンプ11を作動させ、メインタンク10からサブタンク4にインクを供給することで、サブタンク4内のインクが設定した液量になるようほぼ一定の液面を保持している。また、サブタンク4内の気体部分は、インクジェットヘッド1のノズルからインクが漏出することなく安定して吐出動作できるよう、負圧ポンプ9により負圧となるよう制御されている。図示されていない負圧センサーの測定値を負圧ポンプ9にフィードバックする事で常に一定の負圧値がサブタンク内気体部分に印加される。
【0018】
制御パソコン12はインターフェースボード13を介しキャリッジ2に搭載される制御基板3に接続されており、制御パソコン12から印刷データや印刷条件を設定することができる。
【0019】
被記録媒体7は、インクジェットヘッド1のノズル面と被記録媒体7の表面との間に所定の距離をあけてテーブル14に吸着されて載置されている。テーブル14はX軸駆動ユニット15の駆動により、上記のY軸方向と略直交する方向の図1の手前、奥方向(X軸方向)に移動させることができる。
【0020】
Y軸駆動ユニット8の駆動によりインクジェットヘッド1をY軸方向に所定距離移動させ、インクジェットヘッド1のY軸方向の位置を固定した状態で、X軸駆動ユニット15の駆動により、テーブル14をX軸方向に移動させながらインクジェットヘッド1のノズルから被記録媒体7に対してインクを吐出することで印刷を行う。
【0021】
そして、かかるインクジェットヘッド1のY軸方向への移動と、テーブル14のX軸方向への移動とを交互に繰り返すことをもって、テーブル14の全面に渡り載置される被記録媒体7の表面に対して、そのX軸方向とY軸方向との全面に印刷する事が出来る。
また、Y軸駆動ユニット8を支えるための図示されていない門型架台やX軸駆動ユニット15などは全て、頑丈で平面精度が高いベース板16の上に固定されている。
【0022】
なお、本実施形態において使用されるインクジェット印刷装置の構成はあくまで一例であり、上記に限られるものではなく、必要に応じて適宜設定しうる。
【0023】
図2は本実施形態で用いられるインクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
インクジェットヘッド1下面のノズル面には、インクの吐出口である複数のノズル19がノズル列方向に所定の間隔をあけて配置されている。
【0024】
インクはインク供給路20から図示されていないインクジェットヘッド1内部のインク経路に供給され、ノズル19から必要量のインクを吐出し、被記録媒体7の表面に着弾させることで印刷を行う。
【0025】
インクジェットヘッド1は、一般には、ノズル19やインク経路内部に搭載されるピエゾ素子やヒーターの電気的な駆動によって、ノズル19からインクを吐出する。そのため、インクジェットヘッド1には、インクジェットヘッド1と制御基板3との間で電気信号等を交換するためのコネクタ22が搭載されている。インクジェットヘッド1と制御基板3とは、インクジェットヘッド1を駆動するための電力供給、駆動させるノズル19の選択とその駆動タイミングの設定により意図するノズル19から適時にインクを吐出させるよう制御するための制御信号、ヘッド供給路内部のヒーターを駆動させるための信号、インクジェットヘッド1のインク経路内部の温度を検出するための信号など、様々な信号等を、コネクタ22を介して交換している。
【0026】
ところで、インクジェットヘッド1のノズル19の直径は一般に数μm程度であり、また、1000個以上のノズル19を有することが通常であることから、通常の使用によっても、一部のノズル19に、インク経路内部に滞留する気泡や微細な異物の詰まり、ノズル19の劣化等により、一部のノズル19に、インクを正常に吐出できない吐出異常が発生することがある。また、製造段階の個体差によっても、一部のノズル19に吐出異常が生じている場合も想定しうる。なお、吐出異常には、その程度に応じて、インクが吐出できない不吐出、正常な量のインクを吐出できない吐出不良、正常な方向に吐出されずインクの着弾位置がずれる吐出方向異常等が想定される。
【0027】
そこで、吐出異常を改善するために、インクジェットヘッド1は、一般に、ノズル19から強制的にインクを押し出して排出することで、気泡や微細な異物を排出する回復動作を実施することができる。本実施形態におけるインクジェット印刷装置において回復動作を実施する場合、図1に示す三方弁17を切替えて、正圧ポンプ18から、1気圧以上の気体を、サブタンク4内に印加し正圧にする。これにより、インクジェットヘッド1より上部に位置するサブタンク4内が正圧であり、ノズル19の開口部付近は大気圧であることから、ノズル19からインクが強制的に排出されるとともに、気泡や異物をノズル19から排出することができる。
【0028】
なお、回復動作のほかにも、気泡や微細な異物の排出や、劣化したインクの入れ替えのために、前回の印刷の際には使用されずにインクジェットヘッド1のインク経路内に残留しているインクをインク排出路21から外部に排出するという方法をとることもできる。この場合、排出したインクは処分または再利用することもできる。
【0029】
これらの方法は、インクの特性、インクジェットヘッド1の種類、インクジェット印刷装置の用途(例えば、エレクトロニクス用途等の絶対的なインクの着弾位置精度(絶対位置精度)が高度に要求される用途であるか、絶対位置精度の要求程度が比較的低い加飾用途であるか等)によって要求される印刷精度や印刷安定性の程度などの複合的要因に応じた総合判断により適宜選択される。
【0030】
しかし、上記の回復動作等を実施しても、インクジェットヘッド1が有する複数のノズル19の一部について吐出異常が改善しない場合が想定され、吐出異常のノズル19が存在する場合印刷画質の劣化につながる。
【0031】
この場合、絶対位置精度の要求の程度が比較的低い加飾等の用途である場合において、吐出異常のノズル19の数が少ない場合、吐出異常の程度が低い(吐出不良、吐出方向異常)場合などであれば、例えば吐出異常が発生しているノズル19に隣接するノズル19からのインクの吐出量を増やすなどの方法により、視覚上の印刷画質は一定程度改善することができる。
【0032】
しかし、絶対位置精度が高度に要求される用途である場合、視覚上の印刷画質が良好であることでは不十分であり、意図する所定の位置にインクを着弾させる必要があるため、加飾等の用途で実施される上記の対策では対応できない。また、一部のノズル19に吐出異常が発生するごとにインクジェットヘッド1を交換するのではランニングコストが著しく高額になる。
【0033】
そこで、上記問題を解決し、インクジェットヘッド1のノズル19の一部に吐出異常が発生していてもすべてのノズル19の吐出状態が正常である場合の印刷と同等の印刷品質を実現するために、下記に説明するノズル補完印刷の実施が有効となる。以下、ノズル補完印刷について詳述する。
【0034】
本実施形態においては、ノズル補完印刷は、使用不可能ノズル情報取得シーケンスと、ノズル補完方法決定シーケンスと、ノズル補完印刷シーケンスの3つのシーケンスにより実施される。
【0035】
このうち使用不可能ノズル情報取得シーケンスは、ノズルテストデータ印刷ステップ、テストデータ印刷物撮像ステップ及び使用不可能ノズル判定ステップの3つのステップを含む。
【0036】
なお、使用不可能ノズル情報取得シーケンスは、ノズル補完印刷シーケンスの実施に先行して所定の機会に少なくとも1回実施すればよく、ノズル補完印刷シーケンスの実施ごとに毎回実施しなくてもよい。使用不可能ノズル情報取得シーケンスは、吐出異常のノズル19がさらに増加した場合など、改めて印刷品質に問題が生じた際に、ノズル補完方法決定シーケンスと補完印刷シーケンスの実施前に必要に応じて再度実施すればよい。
【0037】
まず、使用不可能ノズル情報取得シーケンスについて説明する。
【0038】
上記の通り、使用不可能ノズル情報取得シーケンスにおいては、ノズルテストデータ印刷ステップ、テストデータ印刷物撮像ステップ、使用不可能ノズル判定ステップの3つのステップが順次実施される。以下、各々のステップについて順に説明する。
【0039】
第1に、ノズルテストデータ印刷ステップについて図3から図6を用いて説明する。
ノズルテストデータ印刷ステップは、インクジェットヘッド1が有する複数のノズル19各々の吐出状態を把握するために、所定の画像データを用いて実際に印刷を行うステップである。
【0040】
図3はインクジェットヘッド1の各ノズル19から吐出されるインクの着弾位置とサイズを計測し、ノズル19各々の吐出状態を把握するために使用される画像データの構成例を示す模式図である。以下、かかる画像データをノズルテストデータと称する。
【0041】
図3内に示されるノズルテストデータ23は、点線で表示される格子により囲まれる領域によって示されている単位画素が、矢印により示されるX方向27とY方向28の方向に各々複数並び構成されている。ノズルテストデータ23を構成する単位画素のうち、斜線で塗られた単位画素が、インクを吐出すべき対象としてノズルテストデータ23により指定された画素である印刷画素25を示している。また、図3で示されるノズルテストデータ23では、印刷画素25がY方向28の方向に並ぶ列として、印刷画素25A1からA6までのA列、印刷画素25B1からB6までのB列、印刷画素25C1からC6までのC列、印刷画素25D1からD6までのD列の4個の列を有している。
さらに、ノズルテストデータ23の例における印刷画素25の配置関係について、説明する。
【0042】
まず、ノズルテストデータ23を構成する画素のうち、X方向27の最上流かつY方向28の最上流に配置される左上の原点画素26が原点となる。
【0043】
次に、印刷画素25A1は、原点画素26からX方向27の下流方向に1画素、Y方向28の下流方向に1画素ずれて配置されている。
【0044】
また、印刷画素25B1は、印刷画素25A1からX方向27の下流に4画素、Y方向28の下流に1画素ずれて配置されている。同様に、印刷画素25C1は、印刷画素25B1からX方向27の下流に4画素、Y方向28の下流に1画素ずれて配置され、印刷画素25D1は、印刷画素25C1からX方向27の下流に4画素、Y方向28の下流に1画素ずれて配置されている。
【0045】
さらに、印刷画素25A2は、印刷画素25A1からY方向28の下流方向に4画素ずれて配置され、印刷画素25A3からA6も同様に各々4画素ずつずれて配置される。同様に、印刷画素25B2は、印刷画素25B1からY方向28の下流方向に4画素ずれて配置されて、印刷画素25B3からB6も同様に各々4画素ずつずれて配置され、印刷画素25C2は、印刷画素25C1からY方向28の下流方向に4画素ずれて配置されて、印刷画素25C3からC6も同様に各々4画素ずつずれて配置され、印刷画素25D2は、印刷画素25D1からY方向28の下流方向に4画素ずれて配置されて、印刷画素25D3からD6も同様に各々4画素ずつずれて配置される。
【0046】
また、図4はインクジェットヘッドの各ノズルとノズルテストデータを構成する印刷画素との対応関係の一例を説明する模式図である。
【0047】
図4の左辺に図示されるインクジェットヘッド1では、#1から#12までのノズル19がノズル列方向(図4の例ではY方向28の方向)へ、所定の間隔Sをあけて、1列に並んでいる。また、図4において使用されるノズルテストデータは、図3に図示したノズルテストデータ23と同様のものを用いている。
【0048】
図4のインクジェットヘッド1とノズルテストデータの場合、ノズル19#1は印刷画素A1の印刷に使用され、ノズル19#2は印刷画素B1の印刷に使用され、ノズル19#3は印刷画素C1の印刷に使用され、ノズル19#4は印刷画素D1の印刷に使用される。また、同様に、ノズル19#5は印刷画素A2の印刷に使用され、ノズル19#6は印刷画素B2の印刷に使用され、ノズル19#7は印刷画素C2の印刷に使用され、ノズル19#8は印刷画素D2の画素の印刷に使用される。以下、ノズル19♯9以降と印刷画素A3以降も同様の対応関係となる。
【0049】
ここで、ノズルテストデータ23における印刷画素各々の配置と、ノズル19各々と対応する印刷画素各々を上記のように設定する趣旨を説明する。
【0050】
この説明の前提として、まず、インクジェットヘッド1のノズル19からインクが吐出され、被記録媒体7表面に着弾させることでテストデータ印刷物が作成される過程について説明する。
【0051】
図5は、インクジェットヘッドのノズルから吐出されたインクが被記録媒体表面に着弾しインクドットが形成される過程を説明する模式図である。
【0052】
インクジェットヘッド1のノズル19から吐出されたインク滴32は、図5に示すように空中でほぼ球状になり、被記録媒体7の表面に着弾して、被記録媒体7の表面上において、断面は略椀型、上面は略円形にぬれ広がり、インクドット33を形成する。インクドット33の断面の形状はインクと基材の物性(濡れ性等)に大きく依存する。ぬれ広がりが大きい場合は、背が低く底面積が大きな断面略椀型になり、逆にぬれ広がりが小さい場合は、背が高く底面積が小さな断面略椀型になる。
【0053】
通常は、ノズル19から吐出されたインクが紙などの被記録媒体の表面に着弾すると、インクと被記録媒体との表面張力に応じて濡れ広がることで、インクドットは、被記録媒体表面上に、ノズル19の開口径よりも、また隣接するノズル19各々の配置間隔よりも大きな円形に形成されうる。よって、例えば、ノズル19♯1に対応する印刷画素と、ノズル19♯2に対応する印刷画素とを、ノズル19♯1とノズル19♯2との配列間隔そのままに設定してしまうと、ノズル19♯1によって形成されたインクドットとノズル19♯2によって形成されたインクドットとが、ぬれ広がりにより重なってしまうことが想定される。インクドット各々が重なってしまうと、ノズル19各々から吐出されるインクの着弾位置とサイズを正確に計測して、ノズル19の吐出状態を正確に判定することができない。
【0054】
そこで、ノズル19各々の吐出状態の正確な判定のために、ノズルテストデータにおいては着弾したインク各々が重ならないように印刷画素を配置することが有効となる。図3及び図4の例では、上記のように、ノズル19#1は印刷画素A1に、ノズル19#2は印刷画素B1に、ノズル19#3は印刷画素C1に、ノズル19#4は印刷画素D1に、以下ノズル19#5以降と印刷画素A2以降も同様に、各々対応するような対応関係にすることで、着弾したインクドット各々が重ならないようにしている。
【0055】
なお、ノズル列の1につき1000個のノズル19を有するインクジェットヘッド1の例では、1000=4×250であるため、印刷画素の列は、A列、B列、C列、D列いずれも、1番から250番までの印刷画素により構成することができる。また、ノズル列の1につき2010個のノズル19を有するインクジェットヘッドの例であれば、2010=4×502+2であるため、A列は印刷画素A1からA503、B列は印刷画素B1からB503、C列は印刷画素C1からC502、D列は印刷画素D1からD502の印刷画素により、各々構成することができる。
【0056】
なお、図2及び図4では説明の簡略化のため、ノズル19が一列に並ぶインクジェットヘッド1の例をもって説明したが、ノズル19各々の配列間隔を相対的に狭くして実現可能な印刷解像度を向上させるために、実際のノズル19の配置関係としてはノズル19の列を複数列に分けて配列し、印刷の際には一つのノズル列として取り扱うインクジェットヘッド1も使用しうる。
【0057】
図6は、2列に分けて配列されたノズルの列を一つのノズル列として取り扱うインクジェットヘッドの各ノズルとノズルテストデータを構成する印刷画素との対応関係の一例を説明する模式図である。
【0058】
図6におけるインクジェットヘッド1では、図示する通り、奇数番のノズル19が構成する列のノズル19各々の配置間隔と、偶数番のノズル19が構成する列のノズル19各々の配置間隔は、いずれも図4のノズル列を構成するノズル19各々の配置間隔の2倍の間隔2Sをあけて配置されている。
【0059】
また、図6におけるインクジェットヘッド1は、奇数番と偶数番の2つのノズル19の列の各々のノズル19の2Sの間隔の半分の間隔であるSの間隔だけ、ノズル列方向にずらし、千鳥配置となるよう配置している。
【0060】
そしてこれらのノズル19の列を一つのノズル列として取り扱うことで、実際のノズル19の列の配置間隔の2倍の印刷解像度を実現するインクジェットヘッド1となり、図6のインクジェットヘッド1は図4のインクジェットヘッド1と同様の印刷解像度として取り扱われる。
【0061】
よって、この場合のノズルテストデータは、図4において説明した場合と同様に、図3に図示したノズルテストデータ23と同様のものを用いることができる。そして、ノズル19と印刷画素との対応関係は、ノズル19#1は印刷画素A1の印刷に使用され、ノズル19#2は印刷画素B1の印刷に使用され、ノズル19#3は印刷画素C1の印刷に使用され、ノズル19#4は印刷画素D1の印刷に使用される。さらに、ノズル19#5は印刷画素A2の印刷に使用され、ノズル19#6は印刷画素B2の印刷に使用され、ノズル19#7は印刷画素C2の印刷に使用され、ノズル19#8は印刷画素D2の画素の印刷に使用される、という関係になる。以下、ノズル19♯9以降と印刷画素A3以降も同様の対応関係となる。
【0062】
そして、以上の説明に従い作成したノズルテストデータ23を用いて、インクジェット印刷装置により、インクジェットヘッド1のノズル19からインクを吐出し、被記録媒体7の表面にノズルテストデータを印刷し、ノズル19の状態の測定に用いられるノズルテストデータの印刷物(以下、かかる印刷物を「テストデータ印刷物」と称する)を作成する。
【0063】
第2に、テストデータ印刷物撮像ステップについて図7を用いて説明する。
【0064】
まず、ノズル19の吐出状態を測定する必要があることから、ノズルテストデータ印刷ステップにおいて作成したテストデータ印刷物の表面に形成されたインクドット33を所定の撮像手段により撮像して、ノズル19各々に対応したインクドット33の画像データであるインクドットデータ31を取得する。インクドットデータ31は、A1、B1、C1,D1,A2・・・と続く各印刷ドットを含むエリアに対応したノズルデータ測定用の画像データを含むように取得される。
【0065】
撮像手段は、カメラ、光学スキャナー等任意のものを選定できる。本実施形態においては、図1等で説明した通り、カメラを用いており、カメラ5を用いて撮像している。カメラ5はキャリッジ2に搭載されているためY方向に移動する事ができ、また、被記録媒体7はY軸駆動ユニット8の駆動によりY方向に移動し、カメラ5は被記録媒体7の任意の位置の撮像を行う事が出来る。
【0066】
図7は、テストデータ印刷物を撮像することにより得られたノズルデータ測定用画像データに基づいたインクドットの形状例を示す拡大模式図であり、(b-1)、(b-2)、(b-3)、(b-4)は各々異なるノズル19により形成されたインクドット33を撮像して取得されたインクドットデータ31の例を示す。
【0067】
図7において、撮像されたインクドット33の画像の形状がインクドット画像29として示され、インクドット画像29は、内部の点線より囲われて示された画素30の集合により構成されていることを示している。
【0068】
第3に、使用不可能ノズル判定ステップについて、図7から、図9を用いて説明する。
【0069】
使用不可能ノズル判定ステップでは、テストデータ印刷物撮像ステップにおいて取得されたノズルデータ測定用画像データを用いて、ノズル19各々の状態を測定し、使用不可能ノズルを判定するステップとなる。
【0070】
本実施形態においては、ノズル19各々の状態が使用不可能ノズルであるか、正常なノズルであるかを、インクドットデータ31を用いて、インクドット画像の面積と、着弾位置のずれの程度との二つのスクリーニングを経て判定される。
【0071】
まず、インクドット画像の面積によるスクリーニングについて説明する。
【0072】
前提として、一般に、インクジェットヘッド1に搭載される正常なノズル19各々から吐出されるインク量は、若干の誤差は生じうるが、基本的にはインクジェットヘッド1の仕様として設定された所定量吐出される。そして、インクの吐出量が所定量より著しく多いまたは少ない場合に、正常な量のインクを吐出できないノズル19として吐出不良として取り扱われ、全くインクを吐出できないノズル19は不吐出のノズルとして取り扱われ、いずれも吐出異常のあるノズル19と判断される。
【0073】
そして、実際にテストデータ印刷物の表面に形成されているインクドット33各々は、上記の通り、インクと被記録媒体との表面張力によるインクのぬれ広がりにより形成されるため、同一の被記録媒体に対して同一量のインクを吐出して、インクドットを形成すれば、インクドットの表面積は、基本的に一定となる。そこで、ノズル19により形成されたインクドットの表面積を測定することで、当該ノズル19からのインク吐出量が正常か否かを判定することができ、もって、正常か、吐出不良か、不吐出か判定することができる。
【0074】
以下、インクドットデータ31の測定例と対応するノズル19の判定例について、図7を用いて説明する。
【0075】
まず、撮像手段の撮像により取得されるインクドットデータ31のノズルデータ測定用画像データは、上記の通り実際のインクドット33の形状そのままではなく、画素30の集合であるインクドット画像29として取得される。
【0076】
例えば、(b-1)のインクドット画像29の例では縦横7画素の上下左右対称の形状を示しており、円形に近い形状を示している。ここでカメラの解像度、すなわち画素30の1画素あたりの撮像サイズを7μm角とすると、(b-1)のインクドット画像29は、直径約49μmの円形状と測定することができる。
【0077】
また、インクドット画像29に対して、ラベリング画像処理技術を用いて連結する画素を抽出し、各画素の座標の平均値をもってインクドット画像29の重心を算出でき、これにより、当該重心の位置を、インクドット33の着弾位置を示す位置座標として測定することが出来る。
【0078】
さらに、(b-1)のインクドット画像29を形成する画素30の数を算出する事で面積を測定する事が出来る。(b-1)のインクドット画像29の例では25画素であり、1画素あたり7×7=49μm平方とすると49×25=1225μm平方と測定されることになる。
【0079】
そこで、インクドット画像の面積によるスクリーニングにおいては、インクドット画像29を構成する画素数によって、面積を算出し、もって対応するノズル19から吐出されるインク量が正常であるか否かを判定することができる。
【0080】
そして、上記の通り、正常なノズル19各々であっても、ノズル19によりインクの吐出量の若干の誤差も生じうる。さらに、カメラによる撮像状況に応じて、正常なノズル19より吐出されたインクにより形成されたインクドット33であっても取得されるインクドット画像29の形状にも若干の誤差が生じうる。
【0081】
そこで、本実施形態においては、インクドット画像29を構成する画素数について閾値を設定し、閾値の範囲に含まれるものを正常な面積(吐出量)とし、閾値の範囲に含まれないものを異常のある面積(吐出量)であるとし、異常のある面積のインクドット画像29に対応するインクドット33を形成したノズル19を吐出異常が発生しているノズル19と判定している。
【0082】
ノズル19から吐出されるインクの標準量が6ピコリットルのインクジェットヘッド1において、6ピコリットルのプラスマイナス1ピコリットルの吐出量を誤差の範囲として正常なノズル19と判定する例であれば、1ピコリットル当たり4画素の面積を形成できるとして、インクドット画像29を構成する画素数が20画素以上、28画素以下であるインクドット画像29が正常な面積であり正常なインクの吐出量のノズル19と判定されることになる。そして、この閾値の範囲を外れる場合は、その程度に応じて、吐出異常(不吐出、吐出不良)と判定されることになる。
【0083】
図7のインクドット画像29の形状例に対して上記の画素数が20画素以上、28画素以下を正常とする閾値例を適用した場合の、判定は次の通りとなる。
【0084】
(b-1)のインクドットデータ31におけるインクドット画像29の例では上記の通り25画素であり、上記閾値の範囲内として正常な面積であると判定される。
【0085】
(b-2)のインクドットデータ31におけるインクドット画像29の例ではインクドット画像29の形状的には四角と円の中間のようであり面積は(b-1)より広く37画素であり1813μm平方となる。よって閾値の範囲外となり、正常なインクの量より多い量が吐出されていると判定されるため、吐出不良のノズル19であると判定される。
【0086】
また、(b-3)のインクドットデータ31におけるインクドット画像29の例では8画素しかなくかなり小さい。よって、全く吐出されていないわけではないが、閾値の範囲外となり、正常なインクの量より少ない量しか吐出されていないと判定することができるため、吐出不良のノズル19であると判定される。
【0087】
さらに、(b-4)のインクドットデータ31には画素30が全く写っておらず、インクドット画像29が取得されていない。この場合、全くインク液滴の跡がなくノズルからインクが吐出していないと判定することができ、一切吐出できない不吐出のノズル19と判定することができる。
【0088】
次に、着弾位置のずれの程度によるスクリーニングについて説明する。
【0089】
インクドット画像29の面積が正常であっても、形成される位置が理想点から離れる場合、例えば、インク滴が本来の方向と異なる方向に飛んでしまう場合など(ヨレ)等が生じている場合がある。そこで、吐出異常が発生したノズル19であるか否かを判定するために、さらに、着弾位置のずれの程度により正常な位置に着弾しているか否かを測定することが有効となる。以下、着弾位置のずれの程度によるスクリーニングについて説明する。
【0090】
図8は、ノズルテストデータを印刷した場合に、本来形成されるべきインクドット各々のXY座標上の理想点の位置関係を説明する模式図である。なお、図8図3のノズルテストデータ23の例を用いて説明している。
【0091】
ノズル19各々からインクを吐出することにより、被記録媒体7の表面上にインクドット33をノズルテストデータ23による指定通りに等間隔に配置することができるという前提から理想点を算出することになる。
【0092】
まず、図8中理想位置のインクドット33であるA1からA4、B1からB4、C1からC4、D1からD4は図3の印刷画素A1からA4、印刷画素B1からB4、印刷画素C1からC4、印刷画素D1からD4に各々対応する。
【0093】
図3での説明の際に述べた通り、印刷画素A1、B1、C1、D1は、各々が、X方向27の下流に4画素、Y方向28の下流に1画素ずれて等間隔に配置され、印刷画素A1からA4、B1からB4、C1からC4、D1からD4は、それぞれがいずれも、各々がY方向28の下流方向に4画素ずれて等間隔に配置されている。
【0094】
そこで、A1とB1はX方向27に距離a、Y方向28に距離bの距離を有するとすると、B1とC1、C1とD1も同様の距離を有することになる。さらに、A1からA2の距離が4bの距離を有するとすると、A2からA3及びA3からA4も同様に4bずつの距離をあけて配置されており、B1からB2、B2からB3、B3からB4、C1からC2、C2からC3、C3からC4、D1からD2、D2からD3及びD3からD4も同様の位置関係で配置されることになる。
【0095】
そこで、A1の理想座標を、(x0、y0)として上記の配置関係を総合すれば、B1は(x0+a、y0+b)、C1は(x0+2a、y0+2b)、D1は(x0+3a、y0+3b)、A2は(x0、y0+4b)、B2は(x0+a、y0+5b)、C2は(x0+2a、y0+6b)、D2は(x0+3a、y0+7b)、A3は(x0、y0+8b)、B3は(x0+a、y0+9b)、C3は(x0+2a、y0+10b)、D3は(x0+3a、y0+11b)、A4は(x0、y0+12b)、B4は(x0+a、y0+13b)、C4は(x0+2a、y0+14b)、D4は(x0+3a、y0+15b)・・・・という座標が設定される。なお、X方向27、Y方向28の考え方は図3と同様となる。
【0096】
以上により確認されたインクドット33の理想座標をもとに、取得されたインクドットデータ31のインクドット画像29の重心を求めることで測定されるインクドット33の着弾位置と理想座標との差について測定する。
【0097】
前述の図3において説明したノズルテストデータ23を印刷し、前述の図7において説明した方法で撮像し、取得されたインクドットデータ31のインクドット画像29の重心を求めた時のA1の座標を(Xa1、Ya1)、B1の座標を(Xb1、Yb1)とすると、C1は(Xc1、Yc1)、D1は(Xd1、Yd1)となり次の行は(Xa2、Ya2)、(Xb2、Yb2)、(Xc2、Yc2)、(Xd2、Yd2)、その次の行は(Xa3、Ya3)、(Xb3、Yb3)、(Xc3、Yc3)、(Xd3、Yd3)・・・となる。
【0098】
一方、理想点データは、(x0、y0)、(x0+a、y0+b)、(x0+2a、y0+2b)、(x0+3a、y0+3b)、(x0、y0+4b)、(x0+a、y0+5b)、(x0+2a、y0+6b)、(x0+3a、y0+7b)、(x0、y0+8b)、(x0+a、y0+9b)、(x0+2a、y0+10b)、(x0+3a、y0+11b)、(x0、y0+12b)、(x0+a、y0+13b)・・・となり、対応する距離の差の合計が最も小さくなるようにx0、y0、a、bの4個の定数を求める事になる。本実施形態においては、最小二乗法によりこれらの定数を求めている。その例は次の通りになる。
【0099】
A1の距離の差ΔA1=√{(x0―Xa1)^2+(y0―Ya1)^2}
B1の距離の差ΔB1=√[{(x0+a)―(Xb1)}^2+{(y0+b)―Yb1)}^2]
C1の距離の差ΔC1=√[{(x0+2a)―(Xc1)}^2+{(y0+2b)―Yc1)}^2]
D1の距離の差ΔD1=√[{(x0+3a)―(Xd1)}^2+{(y0+3b)―Yd1)}^2]
A2の距離の差ΔA2=√[{(x0)―(Xa2)}^2+{(y0+4b)―Ya2)}^2]
B2の距離の差ΔB2=√[{(x0+a)―(Xb2)}^2+{(y0+5b)―Yb2)}^2]
C2の距離の差ΔC2=√[{(x0+2a)―(Xc2)}^2+{(y0+6b)―Yc2)}^2]
D2の距離の差ΔD2=√[{(x0+3a)―(Xd2)}^2+{(y0+7b)―Yd2)}^2]
以下同様になる。
【0100】
差の合計Δ=ΔA1+ΔB1+ΔC1+ΔD1+ΔA2+ΔB2+ΔC2+ΔD2+ΔA3+ΔB3+ΔC3+ΔD3+ΔA4+ΔB4+ΔC4+ΔD4+ΔA5+ΔB5+ΔC5+ΔD5・・・・となり、Δが最小となるx0、y0、a、bの4個の定数を求める事になる。
【0101】
図9は、実際に測定されたインクドットの重心の位置座標と、理想点の位置座標との差をプロットした模式図である。図9では、インクドット画像29の重心により求められた実際の座標の測定データ(Xa1、Ya1)、(Xb1、Yb1)、(Xc1、Yc1)、(Xd1、Yd1)、(Xa2、Ya2)、(Xb2、Yb2)・・・と上記で求めたx0、y0、a、bを使った理想点データ(x0、y0)、(x0+a、y0+b)、(x0+2a、y0+2b)、(x0+3a、y0+3b)、(x0、y0+4b)、(x0+a、y0+5b)・・・の差をXY平面上にプロットしている。
【0102】
原点36(0と表示)に近い測定データほど理想点に近い値であり、かかるインクドット画像29の測定データに対応するノズル19は性能のいいノズル19といえる。逆に原点36から離れる測定データほど、理想点に遠く、かかるインクドット画像29の測定データに対応するノズル19は性能の悪いノズルと19いえる。不吐出のノズルはこの上にプロットもされず、インクドット画像29の面積による判定の時点ですでに吐出異常(不吐出)のノズル19と判定されている。
【0103】
そして、着弾位置のずれの程度による吐出異常の一例として、原点からある値の距離を閾値として設定し、閾値より離れた測定データに対応するノズル19は吐出異常のあるノズル19として判断する。図9において、点線円52として示した値をしきい値とする例であれば、例えば点線円52の内側にあるインクドット画像29の測定データ37に対応するノズル19は正常なノズル19と判定でき、点線円52の外側にあるインクドット画像29の測定データ38に対応するノズル19は吐出異常(吐出方向異常)のあるノズル19と判定できる。
【0104】
そして、以上のインクドット画像の面積と、着弾位置のずれの程度との二つのスクリーニングを経て吐出異常と判定されたノズル19について、使用不可能ノズルであるか否かを最終的に判定する。
【0105】
吐出異常のあるノズル19のうち、いずれを使用不可能ノズルと判定するかについては、絶対位置精度の要求の程度、要求される生産タクト等から総合的に判断し、使用不可能ノズルとなる閾値の範囲をさらに設定することが考えられる。
【0106】
例えば絶対位置精度を高度に要求される場合は使用不可能ノズルとなる閾値を狭くし、より理想的な形状、着弾位置のものを正常なノズル19と判定することが想定される。
【0107】
また、例えば生産タクトが要求される場合においては、補完印刷シーケンスを実施する場合は後述の通り、同じ範囲を印刷するために複数回のスキャンを必要とするため、正常であると判定されるノズル19の数を多くなるよう使用不可能ノズルとなる閾値の範囲を相対的に広く設定することで、スキャンの回数を減らすことができる。
一例として、絶対位置精度が厳格に要求される場合は、吐出異常のあるノズル19のすべてを使用不可能ノズルと判定することが考えられる。
【0108】
この例による場合、インクドット画像29が図7の例であれば、(b-1)に対応するノズル19は、インクドット画像29の構成画素数が20画素以上28画素以下の範囲内のため使用可能な正常なノズル19と判定される。一方、(b-2)、(b-3)、(b-4)に対応するノズルは、インクドット画像29の構成画素数が20画素以上28画素以下の範囲外のため、すべてが使用不可能ノズルとなる。
【0109】
また、図9の例であれば、点線円52の外側にある測定データに対応するノズル19はすべて使用不可能な特定のノズルと判定することができ、測定データ37に対応するノズル19を含む点線円52の内側にある測定データに対応するノズル19はすべて使用可能な正常なノズルと判定され、測定データ38に対応するノズル19を含む点線円52の外側にある測定データに対応するノズル19はすべて使用不可能ノズルと判定される。
【0110】
以上の方法のほかにも、取得されたノズル19のデータに応じて、使用不可能ノズルを任意に指定することも可能である。
【0111】
以上により取得された使用不可能ノズルと判定されたノズルの情報又は使用不可能ノズルとして指定されたノズルの情報を、不使用ノズル情報としてインクジェット印刷装置に適宜記録し格納することができる。本実施形態におけるインクジェット印刷装置の例であれば、図1のメモリー手段51に格納する。メモリー手段51に格納された情報に対応したノズルは、記録動作には用いられない不使用ノズルとなる。
【0112】
使用不可能ノズル情報取得シーケンスは以上の3個のステップを含み実施される。
【0113】
なお、使用不可能ノズル情報は、本実施形態のように、所定のメモリーなどの記録媒体に登録される場合が多い。そこで、上記の通り、一度取得された使用不可能ノズルが記録媒体に登録されている場合は、当該記録媒体から使用不可能ノズル情報を読み取ればよく、図3から図9を用いて説明したノズルテストデータ印刷ステップ、テストデータ印刷物撮像ステップ、使用不可能ノズル判定ステップまでの使用不可能ノズル情報取得シーケンスを、印刷ごとに実施する必要はない。この場合、使用不可能ノズル情報から、2回目の印刷情報、3回目以降の必要性などを判断すればよい。また、上記の通り、ユーザーが使用不可能ノズルを特に指定する場合は、図1の制御パソコン12のGUIから手動で入力することもできる。
【0114】
次のシーケンスとして、ノズル補完方法決定シーケンスを、図10から図15を用いて説明する。
【0115】
本実施形態におけるノズル補完印刷は、本来使用不可能ノズルでインクドットの形成を実施するべき位置に対して、使用不可能ノズルの代わりに使用可能ノズルを用いて補完して印刷する方法となる。
【0116】
本実施形態においては、被記録媒体に対して、インクジェットヘッド1の複数のノズルの内、使用不可能ノズルを不使用ノズルとして使用せず、使用不可能ノズルを除いた他のノズルを用いて1回記録動作を行う。その後、使用不可能ノズルに対応した記録を、使用不可能ノズルを除いた他のノズルにより代替させて行うために、インクジェットヘッド1と被記録媒体7とをノズル列方向の上流方向又は下流方向に相対的に移動(シフト)させて、使用不可能ノズルに対応する位置に他のノズルを位置させる。そして使用不可能ノズルの位置に対応する位置に位置した他のノズルを用いて、記録動作が行われた記録媒体に対して代替記録動作を行う。全ての使用不可能ノズルに対する代替記録が完了する迄、インクジェットヘッド1と被記録媒体7とをノズル列方向の上流方向又は下流方向に相対的に移動(シフト)させて使用不可能ノズルに対応する位置に他のノズルを位置させる相対移動動作及び使用不可能ノズルの位置に対応する位置に位置した他のノズルを用いた代替記録動作を繰り返してノズル補完印刷を実行する。
【0117】
なお、本実施形態においては、インクジェットヘッド1をノズル列方向の上流方向又は下流方向に、所定の距離を移動(シフト)させることで、ノズル補完を実施している。
【0118】
そこで、ノズル補完方法決定シーケンスでは、使用不可能ノズルに代えて使用可能なノズル19を使用した補完印刷を実施するために、使用不可能ノズル判定ステップで取得された使用不可能ノズルの位置情報に基づいて、どのようにノズルの補完を実施するかを設定する。
【0119】
まず、図10から図12を用いてノズル補完例(1)を説明する。図10から図12は、いずれも、ノズル補完例を示す模式図である。図10から図12においては、説明の簡略化のため16個のノズルを有するインクジェットヘッド1の例を用いて説明する。また、使用不可能ノズル判定ステップにおいて使用不可能ノズルと判断された使用不可能ノズル39は斜線で示す。
【0120】
さらに、図10から図12の例では、上段には左から3番、6番、7番、12番の4ノズルが使用不可能と判定されている。また、下段には、各々のノズル補完例を示している。まず、上段の状態で所定の領域に対して1回目のスキャンを実施して印刷を行い、次に、下段で示す通りノズル列方向の上流または下流(左または右)にインクジェットヘッド1と被記録媒体7とを相対的に移動(シフト)させ、ノズル補完を実施して、再度、上記所定の領域に対して印刷を行う。
【0121】
図10下段の例では、インクジェットヘッド1を左に1ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完している。この場合、2回目のスキャンで、1回目のスキャンの際に本来3番、7番、12番の3ノズルで印刷すべき位置は、それぞれ4番、8番、13番の3ノズルで補完できる(図中〇で示す)。しかし、1回目のスキャンの際に6番ノズルで印刷すべき位置に2回目のスキャンの際に使用不可能な7番ノズルが対応しているため、2回目のスキャン(1回の補完印刷)では補完できない(図中×で示す)事がわかる。
【0122】
図11下段の例では、インクジェットヘッド1を右に1ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完している。この場合、2回目のスキャンで、1回目のスキャンの際に本来3番、6番、12番の3ノズルで印刷すべき位置は、それぞれ2番、5番、11番の3ノズルで補完できる(図中〇で示す)。しかし、1回目のスキャンの際に7番ノズルで印刷すべき位置に2回目のスキャンの際に使用不可能な6番ノズルが対応しているため、2回目のスキャン(1回の補完印刷)では補完できない(図中×で示す)事がわかる。
【0123】
図12下段の例では、インクジェットヘッド1を左に2ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完している。この場合、2回目のスキャンで、1回目のスキャンの際に本来3番、6番、7番、12番の3ノズルで印刷すべき位置は、それぞれ5番、8番、9番、14番の4ノズルで補完できる(図中〇で示す)。この場合、2回目のスキャン(1回目の補完印刷)で4ノズルとも補完できる事がわかる。
【0124】
よって、図10から図12の例のインクジェットヘッド1を使用した場合、1回目の印刷の後、インクジェットヘッド1を左に2ノズル分移動して2回目の印刷をする事で、最も効率よく使用不可能ノズルを補完して全画像を印刷できることが分かる。
【0125】
なお、同じ回数の印刷ですべての使用不可能ノズルを補完できるのであれば、その補完方法に限定は無く、より少ない補完回数ですべての仕様不可能ノズルを補完できる補完方法を適宜選定することになる。
【0126】
このように、本実施形態におけるノズル補完方法決定シーケンスでは、使用不可能ノズル情報に基づき、最も少ない補完回数で補完印刷を完了できる効率的なノズル補完方法を設定している。
【0127】
さらに、図13を用いてもう一つのノズル補完例(2)を説明する。
【0128】
図13はさらなるノズル補完例を示す模式図である。図13では、図10から図12と同様に説明の簡略化のため16個のノズルを有するインクジェットヘッド1の例を用いて説明する。使用不可能ノズル判定ステップにおいて使用不可能ノズルと判断された使用不可能ノズル39は斜線で示す。
【0129】
図13の例で用いるインクジェットヘッド1では、3番、6番、7番、10番、12番ノズルの5ノズルが使用不可能ノズルになっている。
【0130】
まず、図13の1段目の状態で所定の領域に対して1回目のスキャンを行い、印刷を実施する。そして、図13の2段目から7段目は、いずれも補完例を示している。
【0131】
2段目は、ヘッドを左に1ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完する例であるが6番ノズルが補完できない事がわかる。
3段目は、ヘッドを左に2ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完する例であるが10番のノズルが補完できない事がわかる。
4段目は、ヘッドを左に3ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完する例であるが3番、7番のノズルが補完できない事がわかる。
5段目は、ヘッドを左に4ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完する例であるが3番、6番のノズルが補完できない事がわかる。
これ以上左に移動しては、12番目のノズルを補完する事が不可能になるので、意味がない事が分かる。
6段目は、ヘッドを右に1ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完する例であるが7番のノズルが補完できない事がわかる。
7段目は、ヘッドを右に2ノズル分移動して使用不可能ノズルを補完する例であるが12番のノズルが補完できない事がわかる。
これ以上右に移動しては、左から3番目のノズルを補完する事が不可能になるので、意味がない事が分かる。
【0132】
以上の通り、図13の例で用いるインクジェットヘッド1の使用不可能ノズルの例では、2回目のスキャン(1回目の補完印刷)では、使用不可能のノズルを全て補完できない事、3回目の補完印刷が必要な事が分かる。図13の例で用いるインクジェットヘッド1、の例では左に1ノズル分移動して2回目の印刷(1回目の補完印刷)を行い、左に2ノズル分移動して3回目の印刷(2回目の補完印刷)を行う事で使用不可能ノズルを全て補完できることになる。
【0133】
なお、同じ回数の印刷ですべての使用不可能ノズルを補完できるのであれば、その補完方法に限定は無く、より少ない補完回数ですべての仕様不可能ノズルを補完できる補完方法を適宜選定することになる。
【0134】
ところで、印刷可能幅の向上や印刷解像度の向上のため、複数のインクジェットヘッド1を1つのキャリッジに搭載するなどにより、複数のインクジェットヘッド1を一つのインクジェットヘッド1として取り扱うインクジェット印刷装置が想定しうる。
【0135】
図14及び図15は、いずれも複数のインクジェットヘッドを一つのインクジェットヘッドとして取り扱う場合のインクジェットヘッドの搭載例を示す模式図である。
【0136】
12個のノズルを有するインクジェット1を、図14の例では横に2つのインクジェットヘッド1をキャリッジ2に並べて、等価的に同じ解像度でノズルの間隔がSとなるように24個のノズル19が並ぶインクジェットヘッド1として取り扱う構成例を示し、また図15では横に半ノズル分ずらして2つのインクジェットヘッド1をキャリッジ2に並べて配置し、等価的に2倍の解像度でノズルの間隔がSとなるように24個のノズル19が並ぶインクジェットヘッド1として取り扱う構成例を示す。このような複数のインクジェットヘッド1を一つのインクジェットヘッド1として取り扱うインクジェット印刷装置の場合においても、使用不可能ノズルの補完に関する考え方は、1つのインクジェットヘッド1を用いて補完印刷を行う場合と同様に実施できる。なお、言うまでもなく、搭載されるうち1つのインクジェットヘッド1のノズル補完に他のインクジェットヘッド1のノズルを使用することができる。
【0137】
なお、ノズル補完方法決定シーケンスは、後述のノズル補完印刷シーケンスを実施する際に、インクジェット印刷装置の記録手段に格納された使用不可能ノズル情報を用いて、インクジェット印刷装置に搭載された制御ソフトウェアにより随時、上記の補完方法を決定する処理を行うことで実施する方式をとることができる。また、ノズル補完印刷シーケンスを実施する前に、予め取得された使用不可能ノズル情報を用いてノズル補完方法決定シーケンスを実施しておき、上記の記録手段に、決定されたノズル補完方法の情報を格納しておき、ノズル補完印刷シーケンスを実施する際にかかる格納されたノズル補完方法の情報を使用する方式をとることもできる。
【0138】
本実施形態においては、ノズル補完印刷シーケンスを実施する際に、制御パソコン12のメモリー手段51に保存された使用不可能ノズル情報を用いて、同じく制御パソコン12のメモリー手段51に格納された制御ソフトウェアによって上記の補完方法を決定する処理を行うことで、ノズル補完方法決定シーケンスを実施している。
【0139】
次に、ノズル補完印刷シーケンスについて説明する。
【0140】
図16は本実施形態におけるノズル補完印刷シーケンス例を説明するフローチャートである。
【0141】
なお、前提として、上記の通り、図16のフローを実施する前の任意のタイミングで使用不可能ノズル情報取得シーケンスを実施している必要がある。また、図16のフローの例においては、上記の通り、ノズル補完印刷シーケンスを実施する際に、ノズル補完方法決定シーケンスを実施している。
【0142】
以下、図16に基づき、ノズル補完印刷シーケンスのフローを説明する。
【0143】
まず、ステップ40にて図1の制御パソコン12を操作して印刷する任意の印刷画像データを選択する。次にステップ41にて任意の印刷条件を同じく制御パソコン12を操作して設定する。そしてステップ42にて印刷開始の指示を発信する。次にステップ43にて最大印刷回数を読み込む。また、ステップ44にて使用不可能ノズル情報取得シーケンスにおいて取得された使用不可能ノズル情報を、所定の記憶先から読み出す。ステップ45にて使用不可能なノズルを用いない最初の印刷を行う。ステップ46にて補完可能なノズル数が最大になる移動位置を算出する。ステップ47にて補完ノズルだけで印刷する。
ステップ48にて最大印刷回数が終了したかどうかを判断する。最大印刷回数が2の場合は、ステップ47を1回動作するだけで終了になる。ステップ49にて全ての使用不可能なノズルの補完印刷が終了したかを判断する。補完印刷が完了した場合はステップ50に到達し印刷終了となり、終了しない場合は、再度ステップ46に戻り補完可能なノズル数が最大になる移動位置を算出する。そして補完ノズルだけで印刷する。これをあらかじめ設定された最大印刷回数が終了するか、使用不可能なノズルの補完が完了するまで繰り返す。
なお、最大印刷回数は、ステップ47の補完ノズルでの印刷の回数の上限として任意に設定するものである。上記の通り、ステップ47の補完ノズルでの印刷の回数が増えるほど印刷完了までに必要な時間が増加する。そこで、印刷速度の両立のため、例えば、最大印刷回数を5回、10回など、要求される印刷速度に応じて設定することができる。
また、使用不可能なノズルの補完を完了するために必要となるステップ47の補完ノズルでの印刷の回数が著しく多くなる場合、印刷速度も著しく遅くなることが想定される。そこで、例えば設定した最大印刷回数内で全ての使用不可能なノズルの補完を完了することができないインクジェットヘッド1は、ノズル補完印刷を実施しても実用に耐えないほど多数の使用不可能ノズルを有するまでに劣化したインクジェットヘッド1であると判断することもできる。このように最大印刷回数内で全ての使用不可能なノズルの補完を完了することが出来るか否かを、インクジェットヘッド1を交換するか否かの判断基準の一つとすることもできる。
【0144】
この際、ステップ45にて示す使用不可能ノズルを使わない1回目の印刷動作と、ステップ47にて示す補完ノズルを用いた2回目以降の印刷動作とにおいて用いる印刷画像データは、1回目の印刷動作においては、使用不可能ノズルに対する印刷画像データは強制的に非吐出を示すデータに設定し、2回目以降の印刷動作においては、使用不可能ノズルの補完を行う使用可能ノズルに対して使用不可能ノズルを用いて本来印刷すべきであったデータを設定し、ほかのノズルについては強制的に非吐出を示すデータにしている。
【0145】
なお、一般的に使用されているインクジェットヘッド1には通常は数百個以上のノズルが搭載されている(500個以上、1000個以上、2000個以上など)場合が多い。
【0146】
上記の通り、搭載されるノズルの内、数個のノズルが不吐出状態であり全く使用できないとか、数10個ノズルにヨレ(着弾精度が目的の用途に入らない、吐出方向異常)が大きくて使用できないという問題が発生しうる。そこで、一部のノズルに吐出異常が生じているインクジェットヘッドが搭載されたインクジェット印刷装置であっても、複数回スキャンによるノズル補完印刷を効率的に実施することで、極めて高度なインクドットの着弾位置精度を実現した高品質の印刷が実施可能となる。
【0147】
また、使用不可能ノズル情報取得シーケンスにおいて、例えば吐出異常のあるノズルをすべて使用不可能ノズルと指定するなど使用不可能ノズルと判定する閾値の設定により、すべてのノズルに吐出異常が無い正常なノズルであるインクジェットヘッド1による印刷と同等の印刷を実現することができる。
【0148】
本実施形態による補完印刷は、使用不可能ノズルのノズル列内における位置にかかわらず、また多数のノズルが使用不可能の場合であっても確実に使用不可能ノズルを補完して印刷することが可能となるため、絶対的な着弾位置精度が要求される場合において、特に顕著な効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0149】
1 インクジェットヘッド
2 キャリッジ
3 制御基板
4 サブタンク
5 カメラ
6 カメラ用照明
7 被記録媒体
8 Y軸駆動ユニット
9 負圧ポンプ
10 メインタンク
11 ポンプ
12 制御パソコン
13 インターフェースボード
14 テーブル
15 X軸駆動ユニット
16 ベース板
17 三方弁
18 正圧ポンプ
19 ノズル
20 インク供給路
21 インク排出路
22 コネクタ
23 ノズルテストデータ
25 印刷画素
26 原点画素
27 X方向
28 Y方向
29 インクドット画像
30 画素
31 インクドットデータ
32 インク滴
33 インクドット
51 メモリー手段
52 点線円
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16