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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158897
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】銅合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20221006BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20221006BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20221006BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C22C9/06
C22C9/02
C22F1/08 G
C22F1/00 602
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 623
C22F1/00 630D
C22F1/00 630E
C22F1/00 630K
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003397
(22)【出願日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2021059496
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 由実子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 広樹
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れた銅合金を製造又は提供する。
【解決手段】Ni:5~25重量%、Sn:5~10重量%、Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物からなる、銅合金であって、上記銅合金に、Ni-M金属間化合物を含むNi基金属間化合物粒子が生成しており、上記銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数が、1.0×10~1.0×10個である、銅合金。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni:5~25重量%、
Sn:5~10重量%、
Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、
Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに
残部Cu及び不可避不純物
からなる、銅合金であって、前記銅合金に、Ni-M金属間化合物を含むNi基金属間化合物粒子が生成しており、前記銅合金の単位面積1mm当たりに存在する前記Ni基金属間化合物粒子の個数が、1.0×10~1.0×10個である、銅合金。
【請求項2】
前記銅合金が0.4以下の摩擦係数を有する、請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
前記元素MがZrである、請求項1又は2に記載の銅合金。
【請求項4】
前記元素AがMnである、請求項1~3のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項5】
前記元素Aの合計含有量が0.10~0.40重量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項6】
前記Ni基金属間化合物粒子が、0.1~100μmの粒径を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項7】
0.1μm以上の粒径を有する前記Ni基金属間化合物粒子の個数全体に占める、0.1μm以上の粒径を有する前記Ni-M金属間化合物粒子の個数の割合が、1.0~30%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の銅合金の製造方法であって、
Ni:5~25重量%、
Sn:5~10重量%、
Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、
Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに
残部Cu及び不可避不純物
からなる、原料合金を溶解及び鋳造して、鋳塊とする工程と、
前記鋳塊を熱間加工又は冷間加工して、中間品とする工程と、
前記中間品に対して、i)熱処理、ii)熱間加工又は冷間加工、及びiii)溶体化をこの順に施すことにより、加工熱処理を行う工程と、
前記加工熱処理後の中間品を時効処理して、前記銅合金を得る工程と、
を含む、銅合金の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理が、前記中間品を500~950℃で2~24時間保持することにより行われる、請求項8に記載の銅合金の製造方法。
【請求項10】
前記溶体化が、前記中間品を700~1000℃で5秒~24時間保持することにより行われる、請求項8又は9に記載の銅合金の製造方法。
【請求項11】
前記加工熱処理後であって、前記時効処理前に、前記中間品を仕上げ熱間加工又は仕上げ冷間加工する工程をさらに含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の銅合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、耐摩耗性を有する材料は自動車、建設機械、農業機械、船舶等の様々な分野で使用されている。このような耐摩耗性を有する材料は、ベアリング、ピストンブッシュ、メタルブッシュ等の摺動部品(すべり軸受)として用いられることが多く、例えばCu-Ni-Sn合金製、高力黄銅製、ケルメット製等のものが知られている。
【0003】
耐摩耗性を有する材料としては、荷重や回転速度等の使用箇所の条件に応じて上記の種々の合金が選択される。Cu-Ni-Sn合金製材料として、例えば、特許文献1(特開平8-283889号公報)には、重量%で、Ni:5~20%、Sn:3~15%、Mn:0.5~5%、残部Cu及び不可避不純物よりなる高強度・高硬度銅合金が開示されている。この銅合金のマトリックス中に硬い金属間化合物が晶出し、耐摩耗性と耐焼付性の向上に寄与することが記載されている。また、特許文献2(特表2019-524984号公報)には、(重量%で)Ni:2.0~10.0%、Sn:2.0~10.0%、Si:0.01~1.5%、B:0.002~0.45%、P:0.001~0.09%、任意成分としての所定の金属元素、残部Cu及び不可避不純物からなる、高強度Cu-Ni-Sn合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-283889号公報
【特許文献2】特表2019-524984号公報
【発明の概要】
【0005】
上記のようにCu-Ni-Sn合金製の耐摩耗性材料が研究されてはいるものの、耐摩耗性のさらなる向上が求められる。
【0006】
本発明者らは、今般、Ni基金属間化合物粒子が生成した、所定の組成を有する銅合金が優れた耐摩耗性を有するとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、耐摩耗性に優れた銅合金を製造又は提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、
Ni:5~25重量%、
Sn:5~10重量%、
Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、
Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに
残部Cu及び不可避不純物
からなる、銅合金であって、前記銅合金に、Ni-M金属間化合物を含むNi基金属間化合物粒子が生成しており、前記銅合金の単位面積1mm当たりに存在する前記Ni基金属間化合物粒子の個数が、1.0×10~1.0×10個である、銅合金が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、前記銅合金の製造方法であって、
Ni:5~25重量%、
Sn:5~10重量%、
Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、
Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに
残部Cu及び不可避不純物
からなる、原料合金を溶解及び鋳造して、鋳塊とする工程と、
前記鋳塊を熱間加工又は冷間加工して、中間品とする工程と、
前記中間品に対して、i)熱処理、ii)熱間加工又は冷間加工、及びiii)溶体化をこの順に施すことにより、加工熱処理を行う工程と、
前記加工熱処理後の中間品を時効処理して、前記銅合金を得る工程と、
を含む、銅合金の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】例1で得られた銅合金断面の電子顕微鏡観察画像である。
図2A】銅合金の摩擦摩耗試験で用いられるリング状の相手材を示す模式平面図である。
図2B】銅合金の摩擦摩耗試験で用いられるリング状の相手材を示す模式正面図である。
図3】銅合金の摩擦摩耗試験方法であるリングonディスク試験を説明するための概念図である。
図4】例2で得られた銅合金断面の電子顕微鏡観察画像である。
図5】例6で得られた銅合金断面の電子顕微鏡観察画像である。
図6】例7で得られた銅合金断面の電子顕微鏡観察画像である。
図7】例8で得られた銅合金断面の電子顕微鏡観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
銅合金
本発明による銅合金は、Ni:5~25重量%、Sn:5~10重量%、Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物からなる。また、この銅合金にはNi-M金属間化合物を含むNi基金属間化合物粒子が生成している。さらに、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数が、1.0×10~1.0×10個である。このような銅合金は耐摩耗性に優れる。前述したとおり、従来より、Cu-Ni-Sn合金製の耐摩耗性材料が研究されてはいるものの、耐摩耗性のさらなる向上が求められている。これに対し、本発明によれば耐摩耗性に優れる銅合金を提供することができる。
【0012】
本発明の銅合金は、0.4以下の摩擦係数を有するのが好ましく、より好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.3以下の摩擦係数を有する。このような耐摩耗性に優れる銅合金は、例えばすべり軸受等の摺動部品に用いられるが、耐摩耗性を必要とするものであれば特に限定されない。
【0013】
本発明の銅合金は、Ni:5~25重量%、Sn:5~10重量%、Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物で構成される。この銅合金は好ましくは、Ni:8.5~9.5重量%、Sn:5.5~6.5重量%、Zr:0.0~0.2重量%、Ti:0.0~0.2重量%、Fe:0.0~0.2重量%、Si:0.0~0.2重量%、Mn:0.2~0.9重量%、Zn:0.0~0.2重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物(ただし、Zr、Ti、Fe及びSiの少なくとも1種を合計で0.01~0.30重量%となる範囲内で含む)で構成されるものであるか、Ni:20.0~22.0重量%、Sn:4.5~5.7重量%、Zr:0.0~0.2重量%、Ti:0.0~0.2重量%、Fe:0.0~0.2重量%、Si:0.0~0.2重量%、Mn:0.2~0.9重量%、Zn:0.0~0.2重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物(ただし、Zr、Ti、Fe及びSiの少なくとも1種を合計で0.01~0.30重量%となる範囲内で含む)で構成されるものである。
【0014】
本発明の銅合金の結晶粒径は1.0~100μmであるのが好ましく、より好ましくは1.0~20μmである。こうすることで、銅合金の延性がより向上し、伸びの確保ができ、曲げ性を向上することができる。
【0015】
元素Mは、Zr、Ti、Fe及びSiのうち少なくとも1種の元素である。元素Mは、NiとともにNi-M金属間化合物を構成し、これを含むNi基金属間化合物粒子の生成に寄与する。Ni基金属間化合物粒子は、銅合金に生成してあたかも軸受のコロのように機能し、その結果、銅合金の耐摩耗性向上に寄与するものと考えられる。Ni-M金属間化合物の例としては、Ni-Zr金属間化合物、Ni-Ti金属間化合物、Ni-Fe金属間化合物、及びNi-Si金属間化合物である。元素Mは、少なくともZrを含むのが好ましく、より好ましくはZrである。よって、Ni-M金属間化合物は、好ましくはNi-Zr金属間化合物である。Zrは、銅合金とこれと接する相手材(例えばJIS G 4805:SUJ2(高炭素クロム軸受鋼鋼材)等の炭素鋼)との間で最適な硬さを有するNi基金属間化合物を生成するため、耐摩耗性向上への効果がより期待される。上述のとおり、Zrの他にもTi、Fe及びSiでもNi-M金属間化合物を生成するが、銅合金にTi、Fe及びSiよりもZrを含む方が銅合金製造時の圧延性の観点からも好ましい。すなわち、元素MがZrであることにより、耐摩耗性と圧延性の両方を効果的に実現することができる。
【0016】
本発明の銅合金には元素Mの他にSnも含まれるため、Ni基金属間化合物粒子として、Ni-M金属間化合物の他に、Ni-Sn金属間化合物(例えば、NiSn及びNiSn)も生成しうる。そのため、Ni基金属間化合物粒子は、好ましくはNi-M金属間化合物及びNi-Sn金属間化合物を含み、より好ましくはNi-M金属間化合物及びNi-Sn金属間化合物で構成される。技術的には、Ni-M金属間化合物粒子よりもNi-Sn金属間化合物粒子の方が銅合金に生成する個数の割合は多い可能性があるが、Ni-Sn金属間化合物粒子の個数を増やすだけでは耐摩耗性の効果は十分ではない。一方で、Ni-M金属間化合物粒子はNi-Sn金属間化合物粒子に比べて個数は少なくなる傾向にあるものの、Ni-M金属間化合物を銅合金に生成させることで、耐摩耗性のさらなる向上が期待できる。Ni-Sn金属間化合物も(Ni-M金属間化合物ほどではないが)ある程度は耐摩耗性の向上に寄与しうるため、例えば銅合金製造過程において熱処理条件を調整することで、Ni-Sn金属間化合物を多く生成させることができる。これらのことから、本発明の銅合金は、従来のものより多くのNi基金属間化合物粒子が生成していること、及びNi基金属間化合物粒子がNi-M金属間化合物を含むことを特徴としている。
【0017】
銅合金に生成する0.1μm以上の粒径を有するNi基金属間化合物粒子の個数全体に占める、0.1μm以上の粒径を有するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合は、耐摩耗性及び圧延性の向上の観点から、1.0~30%であるのが好ましく、より好ましくは1.0~15%である。なお、Ni-M金属間化合物粒子の個数割合を求めるための測定方法は、特に限定されないが、例えば、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)による組成分析を用いる方法が好ましい。この場合、以下の手順でNi-M金属間化合物粒子の個数割合を求めることができる。まず、銅合金の断面を研磨した後、エッチングを施して断面組織を出現させる。その断面にて任意に選択した5箇所を1000倍の倍率でSEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)によりそれぞれ撮影及び元素分析する。撮影したそれぞれの写真及び元素マッピング像上の直径60mm(面積2826mm)の領域において、結晶粒界及び結晶粒内に点在するNi基金属間化合物粒子(Ni-M金属間化合物粒子を含む)の個数とNi-M金属間化合物粒子の個数を測定する。このとき、0.1μm以上の粒径を有するもののみをNi基金属間化合物粒子(Ni-M金属間化合物粒子を含む)としてカウントするものとする。Ni-M金属間化合物粒子の個数をNi基金属間化合物粒子の個数で割って、100を乗じることにより、Ni基金属間化合物粒子の個数に対するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合(%)を算出する。5箇所の各写真及び元素マッピング像において得られた値の平均値を当該銅合金の代表値として採用するのが望ましい。
【0018】
元素Mの合計含有量は0.01~0.30重量%である。この含有量は0.01~0.20重量%であるのが好ましい。この含有量が0.30重量%以下であることにより、Ni基金属間化合物粒子の粗大化を抑制し微細化することができ、鋳造性及び圧延性を向上させることができる。この含有量が0.01重量%以上であることにより、Ni基金属間化合物粒子の粒径や個数を制御して、耐摩耗性及び熱間圧延性を向上させることができる。
【0019】
本発明の銅合金に生成しているNi基金属間化合物粒子は、0.1~100μmの粒径を有するのが好ましく、より好ましくは1.0~20μm、さらに好ましくは1.0~10μmの粒径を有する。また、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は、1.0×10~1.0×10個であり、好ましくは1.0×10~1.0×10個、より好ましくは1.0×10~1.0×10個である。Ni基金属間化合物粒子の上記粒径や上記個数の測定方法及び算出方法は特に限定されないが、粒径が0.1μm以上のものをNi基金属間化合物粒子としてカウントするのが好ましい。
【0020】
元素Aは、Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPのうち少なくとも1種の元素である。本発明の銅合金が元素Aを含むことにより、銅合金製造時にて、元素Aが原料合金中に固溶して溶湯の脱酸をする効果や、溶体化熱処理時における母相の結晶粒の粗大化を防止する効果が期待される。元素Aは、少なくともMnを含むのが好ましく、より好ましくはMnである。
【0021】
元素Aの合計含有量は、0.01~1.00重量%である。この含有量は、好ましくは0.10~0.40重量%、より好ましくは0.15~0.30重量%である。この含有量が0.01重量%以上であることにより、銅合金が元素Aを含むことによる上述した効果がより期待できる。この含有量が1.00重量%以下であることにより、銅合金が元素Aを含むことによる上述した効果がより期待できるが、これを超える量の元素Aを添加しても更なる効果は期待できないと考えられる。また、銅合金中に元素AとしてMnを含む場合は、Mnの含有量を0.10~0.40重量%とするのが好ましい。こうすることで、結晶粒が粗大化するのを抑制し、曲げ加工性を向上させることができる。
【0022】
本発明の銅合金には不可避不純物が含まれるところ、不可避不純物の例としてはBが挙げられる。銅合金中のBの含有量は0重量%又はそれに限りなく近いのが典型的である。
【0023】
銅合金の製造方法
本発明による銅合金の製造方法は、好ましくは、(a)Ni:5~25重量%、Sn:5~10重量%、Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物からなる、原料合金を溶解及び鋳造して、鋳塊とする工程と、(b)鋳塊を熱間加工又は冷間加工して、中間品とする工程と、(c)中間品に対して、i)熱処理、ii)熱間加工又は冷間加工、及びiii)溶体化をこの順に施すことにより、加工熱処理を行う工程と、(d)加工熱処理後の中間品を時効処理して、銅合金を得る工程とを含む。これにより、上述したような耐摩耗性に優れた銅合金を製造することができる。銅合金の好ましい態様については上述したとおりであるので、ここでの説明は省略する。
【0024】
(a)原料合金の溶解及び鋳造
まず、原料合金を用意する。原料合金はNi:5~25重量%、Sn:5~10重量%、Zr、Ti、Fe及びSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素M:合計で0.01~0.30重量%、Mn、Zn、Mg、Ca、Al及びPからなる群から選択される少なくとも1種の元素A:合計で0.01~1.00重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物で構成されるものであるのが好ましい。この原料合金はより好ましくは、Ni:8.5~9.5重量%、Sn:5.5~6.5重量%、Zr:0.0~0.2重量%、Ti:0.0~0.2重量%、Fe:0.0~0.2重量%、Si:0.0~0.2重量%、Mn:0.2~0.9重量%、Zn:0.0~0.2重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物(ただし、Zr、Ti、Fe及びSiの少なくとも1種を合計で0.01~0.30重量%となる範囲内で含む)で構成されるものであるか、Ni:20.0~22.0重量%、Sn:4.5~5.7重量%、Zr:0.0~0.2重量%、Ti:0.0~0.2重量%、Fe:0.0~0.2重量%、Si:0.0~0.2重量%、Mn:0.2~0.9重量%、Zn:0.0~0.2重量%、並びに残部Cu及び不可避不純物(ただし、Zr、Ti、Fe及びSiの少なくとも1種を合計で0.01~0.30重量%となる範囲内で含む)で構成されるものである。元素Mは、少なくともZrを含むのが好ましく、より好ましくはZrである。元素Aは、少なくともMnを含むのが好ましく、より好ましくはMnである。元素M及び元素Aの好ましい含有量は上述の銅合金について記載した説明と同様である。
【0025】
この工程では、用意した原料合金を溶解及び鋳造して、鋳塊とする。原料合金は、例えば高周波溶解炉で溶解するのが好ましい。鋳造方法は、特に限定されないが、全連続鋳造法、半連続鋳造法、バッチ鋳造法等の方法を用いてもよい。また、水平鋳造法、縦型鋳造法等の方法を用いてもよい。得られる鋳塊の形状は、例えば、スラブ、ビレット、ブルーム、板、棒、管、ブロック等の形状であってもよいが、特に限定されないためこれら以外の形状でもよい。
【0026】
(b)鋳塊の熱間加工又は冷間加工
得られた鋳塊を熱間加工又は冷間加工して、中間品とする。加工方法としては、鍛造、圧延、押出し、引き抜き等が挙げられる。この工程では、好ましくは鋳塊を熱間加工又は冷間加工することで粗圧延し、圧延材(中間品)を得る。
【0027】
(c)加工熱処理
得られた中間品に対して、i)熱処理、ii)熱間加工又は冷間加工、及びiii)溶体化をこの順に施すことにより、加工熱処理を行う。
【0028】
加工熱処理を行う工程では、まず、中間品に熱処理を行う。この熱処理は、500~950℃で2~24時間保持するのが好ましい。熱処理の温度はより好ましくは600~800℃、さらに好ましくは650~750℃である。上記温度での保持時間はより好ましくは2~12時間、さらに好ましくは5~10時間である。こうすることで、目的のNi基金属間化合物粒子を微細な生成物として銅合金に分散させることができ、Ni基金属間化合物粒子の粒径、及び銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数を上述のとおりに制御することができる。
【0029】
中間品に熱処理を行った後、熱間加工又は冷間加工を行う。加工方法としては上記(b)における方法と同様の方法を用いてもよい。ここで、例えば中間品に圧延を施して板状に形成する場合、次式:P=100×(T-t)/T(式中、Pは加工率(%)、Tは圧延前の中間品の板厚(mm)、tは圧延後の中間品の板厚(mm)である)により規定される加工率が、0~95%となるように圧延するのが好ましい。
【0030】
熱間加工又は冷間加工後の中間品に溶体化処理を行う。この処理は、700~1000℃で5秒~24時間保持するのが好ましい。溶体化処理の温度はより好ましくは750~950℃、さらに好ましくは800~900℃である。上記温度での保持時間はより好ましくは1分~5時間、さらに好ましくは1~5時間である。溶体化処理後は、中間品を急冷するのが好ましい。冷却方法は特に限定されないが、例えば水冷、油冷、空冷等が挙げられる。この冷却による降温速度は、20℃/s以上が好ましく、より好ましくは50℃/s以上である。Ni:9.0重量%前後、及びSn:6.0重量%前後を含み、残部がCu及び不可避不純物である銅合金又はこれに近い組成(例えばZrやMnをさらに含む)の銅合金や、Ni:21.0重量%前後、及びSn:5.0重量%前後を含み、残部がCu及び不可避不純物である銅合金又はこれに近い組成(例えばZrやMnをさらに含む)の銅合金を原料合金に用いる場合においては、中間品は750~850℃で5~500秒保持するのが好ましく、より好ましくは750~850℃で30~240秒保持する。また、これらのような中間品は溶体化処理後に直ちに水冷するのが好ましい。
【0031】
(d)中間品の時効処理
加工熱処理後の中間品を時効処理して、銅合金を得る。時効処理により、得られる銅合金の強度を高くすることができる。時効処理の温度は好ましくは300~500℃、より好ましくは350~450℃である。上記温度での保持時間は好ましくは1~24時間、より好ましくは2~12時間である。
【0032】
上記(a)~(d)の工程を経ることにより、耐摩耗性に優れた銅合金を好ましく製造することができる。
【0033】
また、上記(c)の加工熱処理後であって、上記(d)の時効処理前に、中間品を仕上げ熱間加工又は仕上げ冷間加工してもよい。すなわち、加工熱処理後であって、時効処理前に、中間品を仕上げ熱間加工又は仕上げ冷間加工する工程をさらに含むのが好ましい。例えば、加工熱処理後であって時効処理前に、中間品に対して仕上げ冷間加工による仕上圧延を行うことで、中間品の板厚を目標のものにすることができる。
【実施例0034】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0035】
例1
銅合金を以下の手順により作製し、評価した。
【0036】
(1)原料合金の溶解及び鋳造
原料合金(Ni:8.5~9.5重量%、Sn:5.5~6.5重量%、Zr:0.14重量%、Mn:0.35重量%、残部Cu及び不可避不純物)を用意した。この原料合金を高周波溶解炉で溶解し、縦型鋳造法により鋳造して、直径320mmの丸状の鋳塊を得た。
【0037】
(2)鋳塊の熱間加工又は冷間加工
得られた鋳塊に均熱処理をして、熱間加工及び冷間加工を行うことで、中間品を得た。
【0038】
(3)加工熱処理
得られた中間品に対して熱処理を行った。具体的には、中間品を730℃で6時間保持して、中間品にNi基金属間化合物粒子を生成させた。次いで、この中間品に加工率が50%となるように冷間加工することで圧延し、中間品を板状に成形した。さらに、この中間品を820℃で60秒加熱することで溶体化し、その直後に水冷により20℃/sの降温速度で急冷した。このようにして、中間品を加工熱処理した。
【0039】
(4)中間品の仕上げ熱間加工又は仕上げ冷間加工
加工熱処理した中間品を冷間圧延(仕上圧延)することで、中間品の厚さを1.5mmとした。
【0040】
(5)中間品の時効処理
仕上圧延した中間品を375℃で2時間保持することで、中間品を時効処理し、銅合金を得た。
【0041】
(6)評価
得られた銅合金に対して、以下の評価を行った。
【0042】
<断面観察>
上記(5)で得られた銅合金の断面を研磨した後エッチングを施し、当該断面を1000倍の倍率で電子顕微鏡により観察した。結果を図1に示す。図1において、黒色の点がNi基金属間化合物粒子を表しており、多くのNi基金属間化合物粒子が分散して生成していることが分かった。
【0043】
また、この銅合金に生成しているNi基金属間化合物粒子について、Ni基金属間化合物粒子の粒径、及び銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数を測定した。具体的には、以下の方法で測定した。銅合金の断面を研磨した後、エッチングを施して断面組織を出現させた。その断面にて任意に選択した10箇所を1000倍の倍率で電子顕微鏡によりそれぞれ撮影した。撮影したそれぞれの写真上の縦82mm、横118mm(面積9676mm)の領域において、結晶粒界及び結晶粒内に点在するNi基金属間化合物粒子の寸法と数を測定した。このとき、0.1μm以上の粒径を有するもののみをNi基金属間化合物粒子としてカウントした。各写真において、Ni基金属間化合物粒子の個数を単位面積1mm当たりの個数に換算した。これら10箇所における単位面積1mm当たりのNi基金属間化合物粒子の個数を算術平均して、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数を求めた。その結果、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は2.0×10個であった。また、各写真内に見られるNi基金属間化合物粒子の縦及び横の寸法を測定し、10枚の写真すべてに見られるNi基金属間化合物粒子の縦寸法の合計及び横寸法の合計を算出した。これら縦寸法の合計及び横寸法の合計をそれぞれ、10枚の写真すべてに見られるNi基金属間化合物粒子の合計個数で除することで、Ni基金属間化合物粒子の縦寸法及び横寸法それぞれの平均値を算出した。最後に算出した縦寸法及び横寸法それぞれの平均値を足して2で除することで、Ni基金属間化合物粒子の粒径を求めた。その結果、Ni基金属間化合物粒子の粒径は1.5μmであった。
【0044】
さらに、この銅合金に生成しているNi基金属間化合物粒子の個数全体に占める、Ni-M金属間化合物粒子の個数の割合を以下の手順で求めた。まず、銅合金の断面を研磨した後、エッチングを施して断面組織を出現させた。その断面にて任意に選択した5箇所を1000倍の倍率でSEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)によりそれぞれ撮影及び元素分析した。こうして取得したそれぞれの写真及び元素マッピング像上の直径60mm(面積2826mm)の領域において、結晶粒界及び結晶粒内に点在するNi基金属間化合物粒子(Ni-M金属間化合物粒子を含む)の個数とNi-M金属間化合物粒子の個数を測定した。このとき、0.1μm以上の粒径を有するもののみをNi基金属間化合物粒子(Ni-M金属間化合物粒子を含む)としてカウントした。Ni-M金属間化合物粒子の個数をNi基金属間化合物粒子の個数で割って、100を乗じることにより、Ni基金属間化合物粒子の個数に対するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合(%)を算出した。5箇所の各写真及び元素マッピング像における、Ni基金属間化合物粒子の個数に対するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合は、それぞれ7.5%、4.6%、6.4%、5.8%及び13.6%であり、これらの平均値は7.58%であった。
【0045】
<摩擦摩耗試験>
上記(5)で得られた銅合金を以下のように試験することで、銅合金の耐摩耗性を評価した。この銅合金を、一辺が30mm及び厚さが1.0~5.0mmの形状の試験片(角板)に機械加工した。また、図2A及び2Bに示されるような形状の鋼材(リング)を銅合金に対する相手材に用いた(図2B中の数値の単位はmmである)。図3に示されるように、試験片と相手材を用いて、摩擦摩耗試験機EFM-3-H(株式会社エー・アンド・デイ製)により、リングonディスク試験を室温(25℃)で行った。この試験により得られた試験片の摩耗量と摩擦係数から、耐摩耗性を評価した。このときの試験条件及び試験方法の詳細を以下に示す。
【0046】
(試験条件)
‐ 荷重:40N
‐ 滑り速度:3m/s
‐ 試験片寸法:30mm×30mm
‐ 試験片及び相手材の表面粗さ:Ra0.4μm以下
‐ 相手材材質:軸受鋼(JIS G 4805:SUJ2)、HRC60以上
【0047】
(試験方法)
図3に示すように、試験片と相手材とをすべり面で接触させた状態で、固定した相手材に荷重40Nで加圧し、30分間試験片を回転させた。設定した荷重及び滑り速度で回転摺動させ、剪断力を摩擦力として検出し、摩擦係数を算出した。また、試験前と試験後の試験片の質量をそれぞれ測定し、摩耗量(mg)を算出した。摩擦係数が小さく摩耗量が少ない方が、耐摩耗性が良好であるといえる。
【0048】
試験の結果、試験片の摩耗量は3.6mgであり、摩擦係数は0.30であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは1.32μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは8.21μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は200μmであった。
【0049】
例2
上記(3)の加工熱処理を行う工程において、熱処理により中間品を565℃で6時間保持して、中間品にNi基金属間化合物粒子を生成させたこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0050】
断面観察の結果、図4において、Ni基金属間化合物粒子が生成していることが分かった。また、Ni基金属間化合物粒子の粒径は1.0μmであり、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は1.0×10個であった。SEM-EDXにより取得した5箇所の各写真及び元素マッピング像において、Ni基金属間化合物粒子の個数に対するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合は、それぞれ17.9%、19.3%、14.5%、11.5%及び13.4%であり、これらの平均値は15.32%であった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は6.8mgであり、摩擦係数は0.32であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは1.47μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは9.84μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は450μmであった。
【0051】
例3
上記(1)の原料合金として、Ni:10.6重量%、Sn:5.5重量%、Si:0.45重量%、Mn:0.37重量%、残部Cu及び不可避不純物の組成のもの(すなわち元素MとしてSiのみを添加したもの)を用いたこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0052】
断面観察の結果、Ni基金属間化合物粒子が生成していることが分かった。また、Ni基金属間化合物粒子の粒径は10μmであり、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は1.0×10個であった。SEM-EDXにより取得した5箇所の各写真及び元素マッピング像において、Ni基金属間化合物粒子の個数に対するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合は、それぞれ5.2%、10.2%、6.6%、3.8%及び3.7%であり、これらの平均値は5.90%であった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は0.7mgであり、摩擦係数は0.32であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは0.92μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは5.49μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は300μmであった。
【0053】
例4
上記(1)の原料合金として、Ni:10.5重量%、Sn:5.4重量%、Fe:1.38重量%、Si:0.02重量%、Mn:0.18重量%、残部Cu及び不可避不純物の組成のもの(すなわち元素MとしてFeとSiを添加したもの)を用いたこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0054】
断面観察の結果、Ni基金属間化合物粒子が生成していることが分かった。また、Ni基金属間化合物粒子の粒径は1.0μmであり、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は2.0×10個であった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は3.9mgであり、摩擦係数は0.38であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは1.47μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは8.71μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は400μmであった。
【0055】
例5
上記(1)の原料合金として、Ni:10.6重量%、Sn:5.4重量%、Ti:0.75重量%、Si:0.07重量%、Mn:0.41重量%、残部Cu及び不可避不純物の組成のもの(すなわち元素MとしてTiとSiを添加したもの)を用いたこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0056】
断面観察の結果、Ni基金属間化合物粒子が生成していることが分かった。また、Ni基金属間化合物粒子の粒径は25μmであり、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は2.0×10個であった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は5.0mgであり、摩擦係数は0.40であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは1.41μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは6.94μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は200μmであった。
【0057】
例6
上記(1)の原料合金として、Ni:20.0~22.0重量%、Sn:4.5~5.7重量%、Zr:0.21重量%、Mn:0.34重量%、残部Cu及び不可避不純物の組成のものを用いたこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0058】
断面観察の結果、図5において、Ni基金属間化合物粒子が生成していることが分かった。また、Ni基金属間化合物粒子の粒径は3.0μmであり、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は5.0×10個であった。SEM-EDXにより取得した5箇所の各写真及び元素マッピング像において、Ni基金属間化合物粒子の個数に対するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合は、それぞれ6.9%、14.1%、5.7%、4.3%及び15.8%であり、これらの平均値は9.36%であった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は6.8mgであり、摩擦係数は0.33であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは0.53μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは5.24μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は100μmであった。
【0059】
例7(比較)
上記(1)の原料合金として、Ni:9.14重量%、Sn:6.18重量%、Zr:0.10重量%、Mn:0.33重量%、残部Cu及び不可避不純物の組成のものを用いたこと、並びに上記(2)~(5)を行わず以下のように溶体化処理及び時効処理を行ったこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0060】
(溶体化処理及び時効処理)
上記(1)で得られた鋳塊に対し、溶体化熱処理(800~900℃で2~8時間保持後、水冷する処理)と時効熱処理(300~400℃で0.5~4保持後、空冷する処理)を行ない、銅合金を得た。すなわち、上記(2)における鋳塊を熱間加工又は冷間加工して中間品とする工程、上記(3)における溶体化以外の工程、及び上記(4)の仕上圧延を行う工程を行わなかった。
【0061】
断面観察結果、図6において、Ni基金属間化合物粒子が生成していることが分かった。また、Ni基金属間化合物粒子の粒径は2.0μmであり、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は8.0×10個であった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は6.8mgであり、摩擦係数は0.53であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは4.04μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは18.2μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は500μmであった。
【0062】
例8(比較)
上記(1)の原料合金として、Ni:8.5~9.5重量%、Sn:5.5~6.5重量%、Mn:0.35重量%、残部Cu及び不可避不純物の組成のもの(すなわち元素Mを添加していないもの)を用いたこと、並びに上記(3)の加工熱処理を行わなかったこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0063】
断面観察の結果、図7において、Ni基金属間化合物粒子が生成していないことが分かった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は6.8mgであり、摩擦係数は0.46であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは2.86μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは16.22μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は500μmであった。
【0064】
例9
上記(1)の原料合金として、Ni:20.0~22.0重量%、Sn:4.5~5.5重量%、Zr:0.16重量%、Mn:0.35重量%、残部Cu及び不可避不純物の組成のものを用いたこと以外は、例1と同様にして銅合金の作製及び評価を行った。
【0065】
断面観察の結果、Ni基金属間化合物粒子が生成していることが分かった。また、Ni基金属間化合物粒子の粒径は4.8μmであり、銅合金の単位面積1mm当たりに存在するNi基金属間化合物粒子の個数は1.66×10個であった。SEM-EDXにより取得した5箇所の各写真及び元素マッピング像において、Ni基金属間化合物粒子の個数に対するNi-M金属間化合物粒子の個数の割合は、それぞれ4.3%、7.1%、7.4%、7.8%及び8.1%であり、これらの平均値は6.94%であった。摩擦摩耗試験の結果、試験片の摩耗量は3.3mgであり、摩擦係数は0.25であった。試験後の試験片表面を観察したところ、JIS B0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaは1.21μm、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisは7.54μmであった。試験片由来の摩耗粉の粒径は37μmであった。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7