(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158900
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】抗菌用鉄粉
(51)【国際特許分類】
A01N 59/16 20060101AFI20221006BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20221006BHJP
A01N 59/02 20060101ALI20221006BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20221006BHJP
A01N 59/26 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
A01N59/16 Z
A01P3/00
A01N59/02 A
A01N59/20 Z
A01N59/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005713
(22)【出願日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021061322
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】飯島 勝之
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA06
4H011BB18
4H011DA15
(57)【要約】
【課題】本発明は、安価で、かつ抗菌作用に優れる抗菌用鉄粉を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る抗菌用鉄粉は、金属鉄を主成分とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鉄を主成分とする抗菌用鉄粉。
【請求項2】
抗菌性発現元素をさらに含んでおり、
上記抗菌性発現元素が上記金属鉄に含有されている請求項1に記載の抗菌用鉄粉。
【請求項3】
上記抗菌性発現元素が硫黄又はリンである請求項2に記載の抗菌用鉄粉。
【請求項4】
上記抗菌性発現元素が硫黄であり、上記硫黄の含有率が0.02質量%以上5質量%以下である請求項3に記載の抗菌用鉄粉。
【請求項5】
上記抗菌性発現元素がリンであり、上記リンの含有率が1質量%以上5質量%以下である請求項3に記載の抗菌用鉄粉。
【請求項6】
上記抗菌性発現元素が銅である請求項2に記載の抗菌用鉄粉。
【請求項7】
水アトマイズ粉である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の抗菌用鉄粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌用鉄粉に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、衛生意識の高まり等から抗菌性物質に対する需要が高まっている。抗菌作用を有する金属としては、銀、銅等が知られている。例えば特許文献1には、銀又は銀イオンを有する抗菌性無機粒子Aと、亜鉛、チタン、銅又はニッケルを含有する抗菌性無機粒子Bとを含む抗菌性複合粒子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在広く用いられている銀、銅等の抗菌性金属は、優れた抗菌作用を有しているものの、高価である。これに対し、製品に対して求められる抗菌性は一律ではない。例えば、医療現場で求められる抗菌性と、日常品について求められる抗菌性とは程度が異なる。そのため、今日では、必要な抗菌作用を奏しつつ、製造コストを抑えることができる抗菌性物質への要求が高まっている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、安価で、かつ抗菌作用に優れる抗菌用鉄粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る抗菌用鉄粉は金属鉄を主成分とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様に係る抗菌用鉄粉は、安価で、かつ抗菌作用に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、No.1からNo.4における経過時間と黄色ブドウ球菌の生菌数との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、No.1からNo.4における経過時間と大腸菌の生菌数との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、No.16からNo.21における経過時間と黄色ブドウ球菌の生菌数との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、No.16からNo.21における経過時間と大腸菌の生菌数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0010】
本発明の一態様に係る抗菌用鉄粉は、金属鉄を主成分とする。
【0011】
当該抗菌用鉄粉は、金属鉄を主成分としているので、安価で、かつ抗菌作用に優れる。また、当該抗菌性鉄粉は、粉体であるので、表面積が大きく、かつ金属鉄の表面に錆が生じても自然に剥落し、金属鉄の新生面が継続的に表出し続けるため、抗菌作用の持続性に優れると共に、抗菌性が要求される種々の製品及びその材料に対して配合しやすい。
【0012】
当該抗菌性鉄粉が抗菌性発現元素をさらに含んでおり、上記抗菌性発現元素が上記金属鉄に含有されているとよい。このように、上記金属鉄に含有される抗菌性発現元素を含んでいることによって、抗菌作用を向上することができる。
【0013】
上記抗菌性発現元素が硫黄又はリンであるとよい。このように、上記抗菌性発現元素が硫黄又はリンであることによって、抗菌作用を著しく向上することができる。
【0014】
上記硫黄の含有率としては、0.02質量%以上5質量%以下が好ましい。上記硫黄の含有率が上記範囲内であることで、抗菌作用を容易かつ確実に向上することができる。
【0015】
上記リンの含有率としては、1質量%以上5質量%以下が好ましい。上記リンの含有率が上記範囲内であることで、抗菌作用を容易かつ確実に向上することができる。
【0016】
上記抗菌性発現元素は銅であってもよい。上記抗菌性発現元素が銅であることで、抗菌作用を容易かつ確実に向上することができる。
【0017】
当該抗菌性鉄粉は、水アトマイズ粉であるとよい。当該抗菌性鉄粉は、水アトマイズ粉であることで、鉄板等のバルク材料と比較して比表面積を大きくしやすい。その結果、抗菌作用を効果的に奏しやすい。
【0018】
なお、本発明において、「主成分」とは、質量換算で最も含有率の大きい成分をいい、例えば含有率が50質量%以上の成分を意味する。「抗菌性発現元素」とは、それ自体が抗菌性を有する元素、及び化学反応によって他の元素に抗菌性を発現させる元素を含む。
【0019】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載されている数値については、記載された上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な上限値から下限値までの数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0020】
[抗菌用鉄粉]
当該抗菌用鉄粉は、金属鉄を主成分とする鉄粉である。上記金属鉄としては、純鉄及び鉄化合物が挙げられる。中でも、上記金属鉄としては、純鉄が好ましい。当該抗菌用鉄粉は、二価鉄イオン(Fe2+)の溶出によって抗菌作用を奏すると考えられる。より詳しくは、二価鉄イオンが静電誘導によって原核生物(細菌)に引き寄せられ、この原核生物の細胞壁を還元すると共に、この細胞壁内に浸透した後にこの細胞壁内のDNAを還元することで抗菌作用を奏すると考えられる。この際、金属鉄が不純物を含有していると、この不純物によって二価鉄イオンの溶出が妨げられる場合がある。これに対し、上記金属鉄が純鉄であることで、二価鉄イオンを適切に溶出させ、所望の抗菌作用を奏しやすい。上記金属鉄における純鉄の含有率の下限としては、50質量%が好ましい。上記純鉄の含有率が上記下限以上であることで、二価鉄イオンの溶出量を十分に大きくすることができ、抗菌作用及びこの抗菌作用の持続性を高めることができる。なお、「純鉄」とは、工業用として容易に入手が可能であり、純度が90.0質量%以上のものを意味する。
【0021】
当該抗菌用鉄粉の平均粒径の下限としては、50μmが好ましく、60μmがより好ましい。一方、上記平均粒径の上限としては、150μmが好ましく、100μmがより好ましい。上記平均粒径が上記下限に満たないと、当該抗菌用鉄粉の製造コストが高くなるおそれがある。逆に、上記平均粒径が上記上限を超えると、当該抗菌用鉄粉の比表面積を十分に大きくし難くなることで、抗菌作用を十分に奏し難くなるおそれがある。なお、「平均粒径とは、JIS-Z8801-1:2019に規定されるふるいを用いた乾式ふるい分け試験により粒子径分布を求め、この粒子径分布において累積質量が50%となる粒径をいう。
【0022】
当該抗菌用鉄粉は、抗菌性発現元素を含んでいることが好ましい。また、この抗菌性発現元素は、上記金属鉄に含有されていることが好ましい。当該抗菌用鉄粉は、上記抗菌性発現元素が上記金属鉄に含有されていることで、抗菌作用を向上することができる。なお、本発明において、「抗菌性発現元素」は「金属鉄」とは別個の成分として区別される。
【0023】
上記抗菌性発現元素としては、例えば硫黄(S)及びリン(P)が挙げられる。当該抗菌用鉄粉は、上記金属鉄に硫黄又はリンが含有されていることで、二価鉄イオンの溶出を促進することができる。
【0024】
上記抗菌性発現元素が硫黄である場合、硫黄自体も抗菌作用の発現に関与するため、抗菌効果がより高められる。詳しく説明すると、上記金属鉄に硫黄が含有されていることで、鉄から硫黄への電子の移動によって二価鉄イオンの溶出を促進できる。さらに、例えば当該抗菌用鉄粉が液中に配置されている場合であれば、硫化物イオン(S2-)が水酸化物イオン(OH-)、硫酸(H2SO4)等の抗菌活性のある化学種を発生させることで、抗菌作用が高められると考えられる。
【0025】
上記抗菌性発現元素が硫黄である場合、当該抗菌用鉄粉における硫黄の含有率の下限としては、0.02質量%が好ましく、0.3質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましい。一方、上記含有率の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、2質量%がさらに好ましい。上記含有率が上記下限に満たないと、所望の抗菌性向上効果を発揮し難くなるおそれがある。逆に、上記含有率が上記上限を超えると、当該抗菌用鉄粉への硫黄の配合が困難になり、抗菌作用の向上効果に対して製造コストが大きくなり過ぎるおそれがある。
【0026】
上記抗菌性発現元素がリンである場合、当該抗菌用鉄粉におけるリンの含有率の下限としては、1質量%が好ましく、1.5質量%がより好ましく、2質量%がさらに好ましい。一方、上記含有率の上限としては、5質量%が好ましく、4質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。上記含有率が上記下限に満たないと、所望の抗菌性向上効果を発揮し難くなるおそれがある。逆に、上記含有率が上記上限を超えると、当該抗菌用鉄粉へのリンの配合が困難になり、抗菌作用の向上効果に対して製造コストが大きくなり過ぎるおそれがある。
【0027】
上記抗菌性発現元素は、銅であってもよい。銅は、抗菌作用を有することが知られており、従来、それ単体(銅単独)で、又は特許文献1に記載されているような混合粉として用いられている。これに対し、当該抗菌用鉄粉では、銅は鉄と合金化されている。当該抗菌用鉄粉にあっては、鉄に対してイオン化傾向の劣る銅は、イオンの溶解が進み難い一方、銅が鉄と合金化されていることで、局部電池反応等の相互作用により、銅単体、或いは鉄単体とは異なる挙動を示すと考えられる。つまり、当該抗菌用鉄粉は、銅自体の抗菌作用に着目したものではなく、銅と鉄とが合金化されることで、鉄の抗菌性を活性化できるという新たな知見に基づく。また、当該抗菌用鉄粉は、その表面に酸化皮膜が形成され得るが、この酸化皮膜は銅単体の表面に生じる酸化銅皮膜と異なり、鉄を主とするため剥落しやすいと考えられる。その結果、鉄の部分の新生面が継続的に表出し続けるため、抗菌性を持続的に発現させやすいと推測される。さらに、当該抗菌用鉄粉は、銅が鉄と合金化していることで、銅単体による抗菌性材料よりも製造コストを低く抑えやすい。
【0028】
上記抗菌性発現元素が銅である場合、当該抗菌用鉄粉における銅の含有率の下限としては、2質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、4質量%がさらに好ましい。一方、上記含有率の上限としては、10質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、6質量%がさらに好ましい。上記含有率が上記下限に満たないと、所望の抗菌性向上効果を発揮し難くなるおそれがある。逆に、上記含有率が上記上限を超えると、当該抗菌用鉄粉への銅の配合が困難になり、抗菌作用の向上効果に対して製造コストが大きくなり過ぎるおそれがある。
【0029】
当該抗菌用鉄粉の製造方法は、特に限定されるものではない。当該抗菌用鉄粉は、例えば還元法やガスアトマイズ法等によって製造されたものであってもよい。但し、当該抗菌用鉄粉の製造方法としては、水アトマイズ法が好ましい。すなわち、当該抗菌用鉄粉は、水アトマイズ粉であることが好ましい。水アトマイズ粉は、溶融した金属鉄に高圧の水を噴射することによってこの金属鉄を微細化して凝固させたものである。上記水アトマイズ粉は、表面に凹凸を有しているため、比表面積が大きくなる。そのため、上記水アトマイズ粉は、二価鉄イオンの溶出性に優れる。また、上記水アトマイズ粉は、金属鉄の溶融時に上記抗菌性発現元素を上記金属鉄に添加したものである。そのため、上記水アトマイズ粉は、不純物の混入を防止すると共に(つまり、上記抗菌性発現元素を選択的に含有させると共に)、上記抗菌性発現元素の含有率を制御しやすい。すなわち、上記水アトマイズ粉によると、当該抗菌用鉄粉全体の組成を容易かつ確実に制御することができる。従って、当該抗菌用鉄粉は、水アトマイズ粉であることで、二価鉄イオンの溶出を促すことができ、抗菌作用を効果的に奏しやすい。さらに、当該抗菌用鉄粉は、水アトマイズ粉であることで、製造コストを低減することができる。
【0030】
当該抗菌用鉄粉は、例えば雑貨、建材、家具等の製品及びその材料に配合して使用することができる。すなわち、当該抗菌用鉄粉は、日常に接するものであって、衛生上細菌の繁殖が望まれない製品及びその材料に配合して使用することができる。
【0031】
<利点>
当該抗菌用鉄粉は、金属鉄を主成分としているので、安価で、かつ抗菌作用に優れる。また、当該抗菌性鉄粉は、粉体であるので、表面積が大きく、かつ金属鉄の表面に錆が生じても自然に剥落し、金属鉄の新生面が継続的に表出し続けるため、抗菌作用の持続性に優れると共に、抗菌性が要求される種々の製品及びその材料に対して配合しやすい。
【0032】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0033】
例えば当該抗菌用鉄粉は、二価鉄イオンの溶出によって抗菌作用を奏することができる場合、上述の抗菌性発現元素を含んでいなくてもよい。
【実施例0034】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0035】
[試験例1]
<試験菌液の調製>
黄色ブドウ球菌及び大腸菌をそれぞれ試験菌として用い、各試験菌を普通寒天培地に接種し、30℃以上35℃以下内の温度で24時間培養した。その後、各試験菌について、生理食塩水を用いて菌数が108[CFU(Colony Forming Unit)/mL]となるように調製し、試験菌液を作成した。
【0036】
<試験試料の調製>
(No.1からNo.3)
純鉄に硫黄が1質量%の割合で含有されている水アトマイズ粉を検体として用いた。この検体を滅菌水に1g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.1の試験試料とした。また、上記検体を上記滅菌水に10g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.2の試験試料とし、上記検体を上記滅菌水に100g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.3の試験試料とした。
【0037】
(No.4)
検体を懸濁していない滅菌水をNo.4の試験試料とした。
【0038】
<生菌数の算出>
No.1からNo.4の試験試料にそれぞれ上述の試験菌液を0.1mL接種し、25℃で静置した。接種直後、接種から1時間後及び4時間後に、上記試験試料の10倍希釈系列をSCDLP液体培地(レシチン・ポリソルベート80添加ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト液体培地)で調製して試験液を得た。これらの試験液をSCDLP寒天培地に接種し、30℃以上35℃以下の温度内で、72時間培養した。この培養後、形成された集落をカウントし、生菌数を算出した。No.1からNo.3については、それぞれ3回試験を行い、3回の試験における平均値を生菌数として求めた。この算出結果を表1に示す。なお、表1における生菌数の値「0」とは、培養により菌が検出されなかったことを意味する。
【0039】
【0040】
<評価結果>
表1、並びに
図1及び
図2に示すように、純鉄に硫黄が含有されているNo.1からNo.3の検体では、黄色ブドウ球菌及び大腸菌共に、生菌数が大きく減少している。これは、硫黄が、二価鉄イオンの溶出を効果的に促進できているためと考えられる。なお、No.4に示すように、黄色ブドウ球菌と大腸菌とを比較した場合、黄色ブドウ球菌の生菌数については、接種から1時間後の生菌数よりも接種から4時間後の生菌数の方が増加している。これは、大腸菌と比較した際の試験菌種に起因する個体差が誤差として介在したためと考えられる。
【0041】
[試験例2]
上述のNo.1からNo.3の検体と、後述のNo.8からNo.15の検体とを用いて試験例1と同様の手順で黄色ブドウ球菌及び大腸菌の生菌数を算出した。No.1からNo.3及びNo.8からNo.15については、それぞれ3回試験を行い、3回の試験における平均値を生菌数として求めた。なお、試験例1と試験例2とでは、No.1からNo.3の検体の生菌数の算出結果が相違している。これは、試験菌等に起因する誤差であると考えられる。生菌数の算出結果を表2に示す。
【0042】
(No.8からNo.10)
純鉄に硫黄が0.3質量%の割合で含有されている水アトマイズ粉を検体として用いた。この検体を滅菌水に1g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.8の試験試料とした。また、上記検体を上記滅菌水に10g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.9の試験試料とし、上記検体を上記滅菌水に100g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.10の試験試料とした。
【0043】
(No.11)
純鉄に硫黄が0.02質量%の割合で含有されている水アトマイズ粉を検体として用いた。この検体を滅菌水に100g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.11の試験試料とした。
【0044】
(No.12)
純鉄に硫黄が0.005質量%の割合で含有されている水アトマイズ粉を検体として用いた。この検体を滅菌水に100g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.12の試験試料とした。
【0045】
(No.13からNo.15)
ガラスビーズを検体として用いた。この検体を滅菌水に1g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.13の試験試料とした。また、上記検体を上記滅菌水に10g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.14の試験試料とし、上記検体を上記滅菌水に100g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.15の試験試料とした。
【0046】
【0047】
<評価結果>
表2に示すように、硫黄の含有率が1質量%であるNo.1からNo.3は、黄色ブドウ球菌及び大腸菌共に、生菌数を大きく減少できている。また、硫黄の含有率が0.02質量%以上であるNo.8からNo.11についても、接種から4時間後の方が接種から1時間後よりも生菌数が減少している。また、硫黄の含有率が0.005質量%であるNо.12についても、比較例として示したガラスビーズ(Nо.13からNo.15)よりも生菌数は減少する傾向がみられる。このことから、当該抗菌用鉄粉は、金属鉄に硫黄が含有されていることで、抗菌作用を高めることができ、特に硫黄の含有率を0.02質量%以上とすることで、生菌数の減少効果を高められることが分かる。このことは、硫黄が重要な抗菌性発現元素であることを示している。
【0048】
[試験例3]
試験例1と同様の手順で試験菌液を作成し、上述のNo.1からNo.3の検体と、後述のNo.16からNo.21の検体とを用いて試験例1と同様の手順で黄色ブドウ球菌及び大腸菌の生菌数を算出した。生菌数の算出結果を表3に示す。なお、試験例1と試験例3とでは、No.1からNo.3の検体の生菌数の算出結果が相違している。これは、試験菌等に起因する誤差であると考えられる。また、表3における生菌数の値「0」とは、培養により菌が検出されなかったことを意味する。また、表3における抗菌性発現元素とは、金属鉄に含有されることで抗菌性向上効果が得られる元素を意味しており、表3における生菌数は、抗菌性発現元素単独による抗菌効果を示すものではない。
【0049】
(No.16からNo.18)
純鉄にリンが2質量%の割合で含有されている水アトマイズ粉を検体として用いた。この検体を滅菌水に1g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.16の試験試料とした。また、上記検体を上記滅菌水に10g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.17の試験試料とし、上記検体を上記滅菌水に100g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.18の試験試料とした。
【0050】
(No.19からNo.21)
純鉄に銅が5質量%の割合で含有されている水アトマイズ粉を検体として用いた。この検体を滅菌水に1g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.19の試験試料とした。また、上記検体を上記滅菌水に10g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.20の試験試料とし、上記検体を上記滅菌水に100g/Lとなるように懸濁し、試験管に10mL分注したものをNo.21の試験試料とした。
【0051】
【0052】
<評価結果>
表3に示すように、硫黄の含有率が1質量%であるNo.1からNo.3は、黄色ブドウ球菌及び大腸菌共に、生菌数を大きく減少できている。また、表3、並びに
図3及び
図4に示すように、抗菌性発現元素として銅を用いたNo.19からNo.21については、黄色ブドウ球菌及び大腸菌のどちらにおいても生菌数が大きく減少する傾向が確認できる。さらに、表3、並びに
図3及び
図4に示すように、抗菌性発現元素としてリンを用いたNo.16からNo.18については、特に検体を滅菌水に100g/Lとなるように懸濁したNo.18において、黄色ブドウ球菌及び大腸菌のどちらにおいても生菌数が微減する傾向が確認できる。このことから、当該抗菌用鉄粉における抗菌性発現元素としては、硫黄の他に、リン及び銅も好ましいことが分かる。
【0053】
表3、並びに
図3及び
図4に示すように、抗菌性発現元素として銅を用いたNo.19からNo.21において生菌数を大きく減少できていることは、銅による抗菌作用が金属鉄との複合によって減弱されていないことを示していると考えられる。このことから、当該抗菌用鉄粉は、例えば銅を含有する合金粉として構成されることでその抗菌効果を発揮しうることが分かる。