(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158905
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】穀物外皮、グルテンフィード、穀物外皮の製造方法、グルテンフィードの製造方法、昆虫育成用飼料、及び昆虫育成方法
(51)【国際特許分類】
A23K 10/37 20160101AFI20221006BHJP
A23K 50/60 20160101ALI20221006BHJP
【FI】
A23K10/37
A23K50/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006789
(22)【出願日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2021006782
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム「フードセキュリティ強化に寄与するミールワーム生産系の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(71)【出願人】
【識別番号】591014097
【氏名又は名称】サンエイ糖化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 猛
(72)【発明者】
【氏名】三浦 智恵美
(72)【発明者】
【氏名】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀飛
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005EA03
2B150AA20
2B150AB02
2B150AE02
2B150AE26
2B150BC03
2B150BD02
2B150BE01
2B150CA06
2B150CE05
2B150CE23
(57)【要約】
【課題】穀物の外皮やグルテンフィードは、繊維質を主成分とするため、栄養価が低いため、飼料や燃料以外の用途が見出されていない。また、外皮やグルテンフィードが動物用飼料として使用される場合も、他の飼料原料と比較して顕著な効果が見出された例はなく、外皮やグルテンフィードの利用価値が高い方法は見出されていなかった。
【解決手段】本発明は、ウェットミリングにより得られた穀物外皮及び/又はグルテンフィードであって、pHが弱酸酸性又は中性領域にある穀物外皮及び/又はグルテンフィードを提供する。さらに、当該穀物外皮及び/又はグルテンフィードを含む昆虫飼料、及び当該昆虫飼料を用いた昆虫育成方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェットミリングにより得られた穀物外皮であって、pHが弱酸性領域又は中性領域にある、穀物外皮
【請求項2】
ウェットミリングにより得られた穀物外皮とウェットミリングにより得られた穀物浸漬液とを含むグルテンフィードであって、pHが弱酸性領域又は中性領域にある、グルテンフィード
【請求項3】
前記穀物外皮又は前記グルテンフィードを浸漬した水のpHが4~8である、請求項1に記載の穀物外皮、又は請求項2に記載のグルテンフィード
【請求項4】
前記穀物外皮又は前記グルテンフィードを、4重量倍の水に浸漬した場合に、前記水の電気伝導度が10 mS/cm未満である、請求項1に記載の穀物外皮、又は請求項2に記載のグルテンフィード
【請求項5】
前記穀物がトウモロコシである、請求項1、3、及び4のいずれか一項に記載の穀物外皮、又は請求項2~4いずれか一項に記載のグルテンフィード
【請求項6】
ウェットミリングによる穀物外皮の製造方法であって、
前記穀物外皮のpHを高め、及び/又は前記穀物外皮を浸漬した水の電気伝導度を下げる調整工程を含む、請求項1、3、4、及び5のいずれか一項に記載の穀物外皮の製造方法
【請求項7】
ウェットミリングにより穀物外皮と穀物浸漬液とを混合してグルテンフィードを得るグルテンフィードの製造方法であって、
前記穀物浸漬液、前記外皮、及び前記グルテンフィードから選択される1若しくは複数のpHを高め、及び/又は、前記穀物浸漬液、前記外皮、及び前記グルテンフィードから選択される1若しくは複数を浸漬した水の電気伝導度を下げる調整工程を含む、請求項2~5いずれか一項に記載のグルテンフィードの製造方法
【請求項8】
前記調整工程が、アルカリ性溶液と混合する工程、又はアルカリ性溶液及び/若しくは水で洗浄する工程である、請求項6に記載の穀物外皮の製造方法、又は請求項7に記載のグルテンフィードの製造方法
【請求項9】
請求項1、3、4、及び5のいずれか一項に記載の穀物外皮、又は請求項2~5のいずれか一項に記載のグルテンフィードを含む、昆虫育成用飼料
【請求項10】
さらに、小麦ふすまを含む、請求項9に記載の昆虫育成用飼料
【請求項11】
前記昆虫が甲虫である、請求項9又は10に記載の昆虫育成用飼料
【請求項12】
請求項1、3、4、及び5いずれか一項に記載の穀物外皮、請求項6若しくは8に記載の製造方法によって得られた穀物外皮、請求項2~5いずれか一項に記載のグルテンフィード、又は請求項7若しくは8に記載の製造方法によって得られたグルテンフィードにより昆虫を育成する昆虫育成方法
【請求項13】
前記昆虫が甲虫である、請求項12に記載の昆虫育成方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物をウェットミリングにより加工して得られた穀物外皮、グルテンフィード、穀物外皮の製造方法、グルテンフィードの製造方法、昆虫育成用飼料、及び昆虫育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットミリングとは、湿式粉砕とも呼ばれ、主にトウモロコシ等の穀物を、外皮や胚芽、タンパク質、デンプン等の構成成分に分離する方法である。ウェットミリングでは、穀物を酸性溶液に浸漬させ、膨潤させて粉砕することで構成成分の分離を促す。外皮は、ブランとも呼ばれ、穀物のウェットミリングにより得られる副産物であり、家畜用飼料や燃料として使用される。また、グルテンフィードは、スチープリカーとも呼ばれる穀物を浸漬した液体を外皮と混合し、脱水及び/又は乾燥したものであり、外皮と比較して栄養価が高いことから、主に家畜用の飼料として使用される。
【0003】
外皮やグルテンフィードと同じく、ウェットミリングから得られるタンパク質は、グルテンミールと呼ばれ、家畜用飼料として使用される。ウェットミリングに亜硫酸水溶液を用いた場合には、グルテンミールに二酸化硫黄等の亜硫酸類が残存する。そこで、グルテンミールから亜硫酸類を除去した人間の食品用または飼料用であるコーングルテンミール加熱処理品(二酸化硫黄含量が30 ppm未満、タンパク質含量が乾燥重量基準で50~99重量%)が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、グルテンミールは、亜硫酸類が主に結合型として存在しているとされている。しかし、穀物外皮や、外皮を主な構成成分とするグルテンフィードでは、亜硫酸類等の酸が存在するか否かも知られていない。
【0006】
穀物外皮やグルテンフィードは、繊維質を主成分とするため、栄養価が低く、飼料や燃料以外の用途はない。また、外皮やグルテンフィードが動物用飼料として使用される場合も、他の飼料原料と比較して顕著な効果が見出された例はなく、穀物外皮やグルテンフィードの価値の高い利用方法は見出されていなかった。
【0007】
近年、昆虫が食料・飼料用の動物性タンパク質源として注目されているが、穀物外皮やグルテンフィードをそのまま飼料として昆虫を育成しても、ほとんど成長せず、昆虫育成用飼料としても不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ウェットミリングにより得られた穀物外皮であって、pHが弱酸性領域又は中性領域にある、穀物外皮である。また、別の本発明は、ウェットミリングにより得られた穀物外皮とウェットミリングにより得られた穀物浸漬液とを含むグルテンフィードであって、pHが弱酸性領域又は中性領域にある、グルテンフィードである。
【0009】
また、本発明の穀物外皮又はグルテンフィードは、前記穀物外皮又は前記グルテンフィードを浸漬した水のpHが4~8である。また、穀物外皮又はグルテンフィードは、前記穀物外皮又はグルテンフィードの4重量倍の水に浸漬した場合には、前記水の電気伝導度が10 mS/cm未満、例えば2~9 mS/cmであり得る。本発明における穀物はトウモロコシであり得る。
【0010】
本発明は、外皮のpHを高め、及び/又は電気伝導度を下げる調整工程、を含む、穀物外皮の製造方法を提供する。本発明の穀物外皮の製造方法は、穀物を酸性溶液に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、前記浸漬物から、穀物浸漬液と、前記穀物の胚芽及び外皮を含む固形物とを分離する第一分離工程、前記固形物から前記胚芽と前記外皮とを分離する第二分離工程、並びに、前記外皮のpHを高め、及び/又は電気伝導度を下げる調整工程、を含む、穀物外皮の製造方法であり得る。
【0011】
さらに本発明は、前記グルテンフィードから選択される1又は複数のpHを高め、及び/又は電気伝導度を下げる調整工程、を含む、グルテンフィードの製造方法を提供する。本発明のグルテンフィードの製造方法は、穀物を酸性溶液に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、前記浸漬物から、穀物浸漬液と、前記穀物の胚芽及び外皮を含む固形物とを分離する第一分離工程、前記固形物から前記胚芽と前記外皮とを分離する第二分離工程、前記外皮と前記穀物浸漬液とを混合しグルテンフィードを得る混合工程、並びに前記穀物浸漬液、前記外皮、及び前記グルテンフィードから選択される1又は複数のpHを高め、及び/又は電気伝導度を下げる調整工程、を含む、グルテンフィードの製造方法であり得る。
【0012】
本発明の穀物外皮の製造方法、又はグルテンフィードの製造方法において、前記調整工程は、アルカリ性溶液と混合する工程、又はアルカリ性溶液及び/若しくは水で洗浄する工程であり得る。
【0013】
本発明は、穀物外皮、又はグルテンフィードを含む、昆虫育成用飼料を提供する。本発明は、
さらに、小麦ふすまを含む、昆虫育成用飼料を提供する。前記昆虫は甲虫であり得る。さらに本発明は、穀物外皮、又はグルテンフィードで昆虫を育成する昆虫育成方法を提供する。前記昆虫は甲虫であり得る。
【発明の効果】
【0014】
ウェットミリングによって得られた穀物外皮やグルテンフィードのpHは酸性であるが、pHを調整し、弱酸性域又は中性域の穀物外皮やグルテンフィードとすれば、昆虫等の動物の育成を顕著に促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施例の昆虫飼育結果を示す図である。図中、異なったアルファベットは、統計検定(One-way ANOVA with bonferroni correction)によりp < 0.01の有意差が認められたことを示す。
【
図3】本実施例の昆虫飼育結果を示す図である。図中のアスタリスクは、統計検定(One-way ANOVA with Dunnett’s multiple comparisons test)により比較例との間に有意差が認められたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明は、ウェットミリングにより得られた穀物外皮であって、pHが弱酸性領域から中性領域である、穀物外皮である。
【0018】
ウェットミリングとは、湿式粉砕とも呼ばれ、トウモロコシや米等の硬い外皮(又は果皮)を持つ穀物からデンプンを製造する方法として開発された。ウェットミリングは、主にトウモロコシの加工に用いられ、穀物を酸性溶液に浸漬して膨潤させ、穀物浸漬液を分離除去し、膨潤した穀物を磨砕することで、穀物を、外皮、胚芽、タンパク質、デンプンにそれぞれ分離することができる。
【0019】
本発明における穀物とは、好ましくはトウモロコシである。ウェットミリングに供されるトウモロコシは馬歯種、いわゆるデントコーンが好ましく用いられる。デントコーンは、デンプン含量が他種のトウモロコシと比較して高いためである。
【0020】
トウモロコシのウェットミリングの具体例を示す。トウモロコシを、0.1~0.3容量%の亜硫酸水溶液に、45~55℃の温度で、30~48時間浸漬する。その後、固液分離により、主に膨潤したトウモロコシからなる固形分と、固形分を除いた浸漬液とを得る。
【0021】
膨潤したトウモロコシを粉砕し、さらに液状部と固形部とに分離する。固形部は、胚芽と外皮からなり、篩分け等の分級手段により、外皮が得られる。トウモロコシの外皮は、コーンブランとも呼称され、ヘミセルロースの一種であるアラビノキシランを主成分とする。胚芽及び外皮を分離した残りの液状部は、主にタンパク質とデンプンからなる。
【0022】
浸漬液はスチープリカーと呼ばれる。スチープリカーは、浸漬液を固形分約50%まで濃縮したものを指す場合もある。スチープリカーは、イノシトール等の核酸やその分解物、水溶性ビタミン、アミノ酸等が含まれる。スチープリカーを外皮と混合して、脱水・乾燥したものが、グルテンフィードである。すなわち、グルテンフィードは、主にウェットミリングより得られた穀物外皮と、ウェットミリングにより得られた穀物浸漬液を混合してなる。
【0023】
ウェットミリングにより得られた穀物外皮及び/又はグルテンフィードは、水で洗浄される場合もあるが、そのpHは酸性領域である。ここで、穀物外皮及び/又はグルテンフィードのpHが酸性領域であるとは、穀物外皮及び/又はグルテンフィードを浸漬した水のpHが酸性領域であることを言うが、具体的にはpHは3.9未満であり得る。水は、好ましくは蒸留水、イオン交換水、又は純水であり、水道水でもよい。穀物外皮及び/又はグルテンフィードを、3倍~100倍重量の水に浸漬し、その上清のpHを測定することで、穀物外皮及び/又はグルテンフィードのpHを把握することができる。
【0024】
本発明の穀物外皮及び/又はグルテンフィードのpHは、弱酸性領域又は中性領域であり、少なくとも、従来の穀物外皮及び/又はグルテンフィードのpHよりも高ければよい。具体的には、穀物外皮及び/又はグルテンフィードを浸漬した蒸留水のpHは4以上であり、好ましいpHは4.1以上、4.2以上、4.3以上、4.4以上、4.5以上であり、好ましくは4.1~8.0、より好ましくは5.0~7.5の範囲であり得る。
【0025】
本発明の穀物外皮及び/又はグルテンフィードは、従来の穀物外皮及び/又はグルテンフィードと比較して、浸漬した水の電気伝導度が低いものが好ましく用いられる。後述する洗浄工程により、穀物外皮及び/又はグルテンフィードに含まれる電解質が失われるためである。従来のグルテンフィードを4重量倍の水に浸漬した場合に、当該水の電気伝導度が12~13 mS/cmであるところ、本発明の穀物外皮及び/又はグルテンフィードを4重量倍の水に浸漬した場合に、当該水の電気伝導度は10 mS/cm未満であることが好ましく、より好ましくは2~9 mS/cmである。水としては、水道水や蒸留水、イオン交換水、純水等が用いられる。
【0026】
別の本発明は、穀物外皮の製造方法を提供する。すなわち、穀物を酸性溶液に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、浸漬物から、穀物浸漬液と、穀物の胚芽及び外皮を含む固形混合物とを分離する第一分離工程、固形混合物から胚芽と外皮とを分離する第二分離工程、外皮のpHを高め、及び/又は外皮の電気伝導度を下げる調整工程を含む、穀物外皮の製造方法である。ここで、浸漬工程、第一分離工程、及び第二分離工程は、ウェットミリングに含まれ、固形物とは、上述した膨潤したトウモロコシ等、膨潤した穀物を指す。
【0027】
調整工程は、外皮のpHを高める工程であり、好ましくは外皮のpHを弱酸性領域又は中性領域とする工程である。また、別の調整工程は、外皮の電気伝導度を下げる工程であり、好ましくは外皮を4重量倍の水に浸漬した場合に、当該水の電気伝導度を10 mS/cm未満とする工程である。以下、電気伝導度とは、測定対象物を4重量倍の水に浸漬した場合の、当該水の電気伝導度を言う。
【0028】
さらに別の本発明は、グルテンフィードの製造方法を提供する。すなわち、穀物を酸性溶液に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、浸漬物から、穀物浸漬液と、穀物の胚芽及び外皮を含む固形混合物とを分離する第一分離工程、固形混合物から胚芽と外皮とを分離する第二分離工程、外皮と穀物浸漬液とを混合する混合工程、及び調整工程を含む、グルテンフィードの製造方法である。ここで、浸漬工程、第一分離工程、及び第二分離工程は、ウェットミリングに含まれ、固形物とは、上述した膨潤したトウモロコシ等、膨潤した穀物を指す。
【0029】
本発明のグルテンフィードの製造方法においては、混合する前の外皮及び/又は穀物浸漬液のpHを高くし、好ましくは弱酸性領域又は中性領域としてから外皮と穀物浸漬液を混合してグルテンフィードを得る方法、外皮と穀物浸漬液とを混合してグルテンフィードを得てからグルテンフィードのpHを高くし、好ましくは弱酸性領域又は中性領域とする方法、混合する前の外皮及び/又は穀物浸漬液の電気伝導度を下げ、好ましくは電気伝導度を10 mS/cm未満としてから外皮と穀物浸漬液を混合してグルテンフィードを得る方法、並びにグルテンフィードを得てから電気伝導度を下げ、好ましくはグルテンフィードの電気伝導度を10 mS/cm未満とする方法から選択される1又は複数があり得る。外皮は、そのまま、又は外皮と穀物浸漬液とを混合してから、好ましくは脱水及び/又は乾燥し、乾燥した外皮又はグルテンフィードを得ることが望ましい。
【0030】
穀物外皮及び/又はグルテンフィードの調整工程は、酸性である穀物外皮及び/又はグルテンフィードのpHを高くし、及び/又は電気伝導度を下げるものであり、手法は限定されない。具体的には、加熱により残存する二酸化硫黄等の成分を除去する方法、アルカリ性溶液と混合する方法、アルカリ性溶液及び/又は水で洗浄する方法が挙げられる。調整工程により、穀物外皮及び/又はグルテンフィードのpHは、好ましくは中性領域又は弱酸性領域となり得る。また、調整工程により、穀物外皮及び/又はグルテンフィードの電気伝導度は10 mS/cm未満となり得る。
【0031】
中でも、アルカリ性溶液と混合する方法、並びにアルカリ性溶液及び/又は水で洗浄する方法は、加熱による方法と比較して、成分の変性が起こりにくい点、エネルギーコストが低廉である点で優位である。アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水等が挙げられる。
【0032】
アルカリ性溶液及び/又は水で洗浄する方法は、具体的には、穀物外皮及び/又はグルテンフィードに対して、アルカリ性溶液及び/又は水を加え、好ましくは撹拌し、アルカリ性溶液及び/又は水と穀物外皮及び/又はグルテンフィードとを分離する方法であり得る。水としては、水道水や蒸留水、イオン交換水、純水等が用いられる。
【0033】
穀物浸漬液の調整工程は、穀物浸漬液のpHを高くする、すなわち酸性である穀物浸漬液のpHを弱酸性領域又は中性領域とするものであり、手法は限定されない。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリにより中和する方法が挙げられる。
【0034】
さらに本発明は、穀物外皮及び/又はグルテンフィードを含む昆虫飼料、並びに当該昆虫飼料を用いた昆虫の育成方法を提供する。ここで、昆虫とは、容易に且つ効率的な飼育が可能である昆虫種や、人工的な飼育手法が確立した昆虫種が好適に用いられる。
【0035】
具体的には、双翅目、鞘翅目、直翅目に属する昆虫が用いられる。双翅目(Diptera)では、イエバエ科(Muscidae)に属するイエバエ(Musca domestica)、ニクバエ科(Sarcophagidae)に属するセンチニクバエ(Sarcophaga peregrina)、ミバエ科(Tephritidae)に属するミカンバエ(Tetradacus tsuneonis)、ミカンコミバエ(Strumeta dorsalis)、ウリミバエ(Bactrocera cucurbitae / Zeugodacus cucurbitae)、ミズアブ科(Stratiomyiidae)に属するアメリカミズアブ(Hermetia illucens)、コウカアブ(Ptecticus tenebrifer)等が挙げられる。
【0036】
甲虫、すなわち鞘翅目(Coleoptera)では、ゴミムシダマシ上科(Tenebrionoidea)、ゴミムシダマシ科 (Tenebrionidae)に属するコメノゴミムシダマシ(Tenebrio obscurus)、チャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)、ツヤケシオオゴミムシダマシ(Zophobas atratus)等のいわゆるミールワーム、直翅目(Orthoptera)では、コオロギ科(Grylloidea)に属するフタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)、ヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)等が挙げられる。本発明の昆虫飼料で育成する昆虫は、甲虫に属し、ミールワームと呼ばれる昆虫の幼虫が好ましい。
【実施例0037】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0038】
1.トウモロコシ外皮及び/又はグルテンフィードの製造(1)
【0039】
乾燥したトウモロコシ(デントコーン)に1tに対して、0.1重量%亜硫酸の含む水溶液を1立米加え、温度50℃で35時間浸漬した。浸漬液と固形分とを分離し、固形分を破砕した。外皮を胚芽からスクリーンで分離し、水で洗浄し、トウモロコシ外皮を得た。当該トウモロコシ外皮1 gに対し、30 mLのイオン交換水を加え、室温で1時間浸透後、遠心分離によって得られた上清のpHを測定したところ、pHは3.9であった。
【0040】
さらに、トウモロコシ外皮に、固形分約50%に濃縮した浸漬液(スティープリカー)を混合し、脱水・乾燥してグルテンフィードを得た。当該グルテンフィード1 gに対し、30 mLのイオン交換水を加え、室温で1時間浸透後、遠心分離によって得られた上清のpHを測定したところ、pHは3.9であった。
【0041】
このトウモロコシ外皮又はグルテンフィードのpHを調整した。200 gのトウモロコシ外皮又はグルテンフィードに対し、1Nの水酸化ナトリウム水溶液161 mL及び100 mLの蒸留水を加えて混合し、温度50℃で12時間浸漬し、温度70℃で乾燥した。当該トウモロコシ外皮又はグルテンフィード1 gに対し、30 mLのイオン交換水を加え、室温で1時間浸透後、遠心分離によって得られた上清のpHを測定したところ、pHは7.0であった。
【0042】
2.トウモロコシ外皮及び/又はグルテンフィードの製造(2)
酸性を示したトウモロコシ外皮を水道水で流水洗浄した。また、1Lのスティープリカー(pH 3.9)に対し、6Nの水酸化ナトリウム水溶液300mLを添加し、pHを測定したところ、pHは6.5であった。その後、遠心分離で沈殿物を除去した。(2)のトウモロコシ外皮とスチーププリカーとを混合、乾燥し、グルテンフィードを製造した。当該グルテンフィードを蒸留水に1時間浸漬し、遠心分離に得られた上清のpHを測定したところ、pHは5.1であり、電気伝導度を測定したところ、5.7 mS/cmであった。
【0043】
3.トウモロコシ外皮及び/又はグルテンフィードの製造(3)
pH3.9を示したグルテンフィードに対し、その4倍重量の蒸留水を混合して浸漬した。1時間の放置後、遠心分離し上清を捨てた。これを1回の洗浄とし、洗浄を合計4回行った。洗浄回数毎に上清のpH及び電気伝導度を室温にて測定した。測定結果を表1に示す。洗浄前と比較して、洗浄後のグルテンフィードはpHが上がり、浸漬した蒸留水の上清の電気伝導度は下がった。
【0044】
【0045】
4.グルテンフィードを含む飼料を用いた昆虫の育成試験(1)
甲虫であるミールワーム(T. molitor)の幼虫を用いた育成試験を行った。比較例にはpHが3.9を示すグルテンフィード、実施例1では、上述の1.に記載の方法で製造され、pHが7を示すグルテンフィードを昆虫育成用飼料とした。実施例2は、実施例1のグルテンフィードと小麦ふすまとを重量比1:1で混合した昆虫育成用飼料とした。飼料各10 gに対し、ミールワームの幼虫(1個体当たり平均重量12.6 mg)を20頭投入し、温度25℃で28日間育成した。開始時及び育成28日経過時の個体当たり重量の測定結果を
図1に示す。比較例は、小麦ふすま(陽性対照)に比べて有意に成長が劣ったが、実施例1では、小麦ふすまと同等の成長となった。さらに、実施例2は、小麦ふすま(陽性対照)よりも顕著に成長が促進された。生残率はいずれの条件でも90%以上であった。
【0046】
5.グルテンフィードを含む飼料を用いた昆虫の育成試験(2)
甲虫であるミールワーム(T. molitor)の幼虫を用いた育成試験を行った。実施例では2.に記載の方法で製造されたグルテンフィード、対照には小麦ふすまを昆虫育成用飼料とした。飼料各10 gに対し、ミールワームの幼虫(1個体当たり平均重量8.3 mg)を20頭投入し、温度25℃で28日間育成した。開始時及び育成28日経過時の個体当たり重量の測定結果を
図2に示す。実施例は、陽性対照の小麦ふすまと同等の成長であり、有意差はなかった。生残率はいずれも100%であった。
図1に示したように未調整のグルテンフィードで育成する幼虫は、小麦ふすまよりも有意に成長が劣るため、未調整のグルテンフィードと比較して、実施例により、幼虫の成長が促進されることが分かった。
【0047】
6.グルテンフィードを含む飼料を用いた昆虫の育成試験(3)
甲虫であるミールワーム(T. molitor)の幼虫を用いた育成試験を行った。実施例では4.に記載の方法で製造されたグルテンフィード、比較例にはpHが3.9を示すグルテンフィードを昆虫育成用飼料とした。飼料各10 gに対し、ミールワームの幼虫(1個体当たり平均重量5.7 mg)を22頭投入し、温度25℃で28日間育成した。開始時及び育成28日経過時の個体当たり重量の測定結果を
図3に示す。1回~4回洗浄したグルテンフィードを用いることで幼虫の成長が顕著に促進された。中でも3回洗浄したグルテンフィード(浸漬した水のpH 4.2、且つ電気泳動度3.2 mS/cm)を用いた場合に、幼虫の成長が最大となった。
【0048】
また、試験期間中の幼虫の生残率を表2に示す。1回~4回洗浄したグルテンフィードを用いることで、幼虫の生残率が比較例よりも改善した。
【0049】