(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158929
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物、平板状成形体、および、多層体
(51)【国際特許分類】
C08L 25/08 20060101AFI20221006BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20221006BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08L25/08
C08L33/06
B32B27/30 A
B32B27/30 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016916
(22)【出願日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021061485
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 香里
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK12B
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AL05B
4F100AR00C
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4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 多層体としたきの熱曲げ加工性に優れ、かつ、ブツが発生しにくい平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)を提供可能な樹脂組成物、ならびに、樹脂組成物を用いた平板状成形体および多層体。
【解決手段】 芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)と環状酸無水物単量体単位(a2)を含む共重合体であり、樹脂組成物9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に波長600nmにおける光線透過率が90%以上である、樹脂組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、
前記芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)と環状酸無水物単量体単位(a2)を含む共重合体であり、
前記樹脂組成物9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に波長600nmにおける光線透過率が90%以上である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)を68~84質量%と環状酸無水物単量体単位(a2)を16~32質量%とを含む共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)を75~84質量%と環状酸無水物単量体単位(a2)を16~25質量%とを含む共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
芳香族ビニル共重合体(A)の重量平均分子量が80,000以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニル共重合体(A)における芳香族ビニル単量体単位(a1)がスチレン単位を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族ビニル共重合体(A)における環状酸無水物単量体単位(a2)が無水マレイン酸単位を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記芳香族ビニル共重合体(A)9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に波長600nmにおける光線透過率が90%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)との含有量の合計100質量部を基準として、前記芳香族ビニル共重合体(A)の含有量は85~30質量部であり、前記(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量は15~70質量部である、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度(Tg)が115℃以上130℃未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、前記樹脂組成物100質量部に対して、0.001~0.5質量部の酸化防止剤および/または0.001~0.5質量部の離型剤を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された平板状成形体。
【請求項12】
基材と、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された層とを有する、多層体。
【請求項13】
前記基材がポリカーボネート樹脂を含む、請求項12に記載の多層体。
【請求項14】
前記ポリカーボネート樹脂の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度(Tg)が100~140℃である、請求項13に記載の多層体。
【請求項15】
前記基材に含まれるポリカーボネート樹脂の含有量が90質量%以上である、請求項13または14に記載の多層体。
【請求項16】
さらに、前記樹脂組成物から形成された層の前記基材とは反対側の面に、ハードコート層を有する、請求項12~15のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項17】
前記多層体の少なくとも一方の面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、請求項12~16のいずれか1項に記載の多層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、平板状成形体、および、多層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れることに加え、ガラスと比較して加工性、耐衝撃性に優れ、また、他のプラスチック材料に比べて有毒ガスの心配もないため、様々な分野で広く用いられており、真空成形や圧空成形などの熱成形用材料としても使用されている。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂は、一般的に表面硬度が低いため、ポリカーボネート樹脂からなる成形体の表面に傷が入り易い傾向にある。そこで、ポリカーボネート樹脂をフィルム状にした場合、表面に(メタ)アクリル樹脂を含む層((メタ)アクリル樹脂層)やハードコート層(保護層)を形成し、製品表面に傷が入らないようにすることが検討されている。特に、(メタ)アクリル樹脂に、芳香族ビニル化合物と無水マレイン酸の共重合体を混ぜることで透明性を維持したまま、耐熱性を向上させることが知られている。
例えば、特許文献1には、メタクリル樹脂45~90質量%と、所定の構造を有する芳香族ビニル化合物に由来する構造単位および所定の構造を有する酸無水物に由来する構造単位とよりなる共重合体10~55質量%とを含有する樹脂組成物からなる層;と、ポリカーボネートからなる層;とを備える積層体が開示されている。また、特許文献1にはそのような積層体が高温高湿下における反りの発生が少なく、耐衝撃性が良好であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上述のような(メタ)アクリル樹脂と芳香族ビニル共重合体を含む樹脂組成物から形成された平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)と、ポリカーボネート樹脂等から形成された基材の多層体は、熱曲げ加工する成形体に用いられることがある。このような多層体は、熱曲げ加工性に優れることが求められる。また、本発明が検討したところ、前記平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)は、ブツが発生してしまう場合があることが分かった。このようなブツは外観に悪影響を与える。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、多層体としたときの熱曲げ加工性に優れ、かつ、ブツが発生しにくい平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)を提供可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた平板状成形体および多層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、(メタ)アクリル樹脂と芳香族ビニル共重合体を含む樹脂組成物において、樹脂組成物中の波長600nmにおける光線透過率を高くすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、前記芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)と環状酸無水物単量体単位(a2)を含む共重合体であり、前記樹脂組成物9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に波長600nmにおける光線透過率が90%以上である、樹脂組成物。
<2>前記芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)を68~84質量%と環状酸無水物単量体単位(a2)を16~32質量%とを含む共重合体である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)を75~84質量%と環状酸無水物単量体単位(a2)を16~25質量%とを含む共重合体である、<1>に記載の樹脂組成物。
<4>芳香族ビニル共重合体(A)の重量平均分子量が80,000以上である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記芳香族ビニル共重合体(A)における芳香族ビニル単量体単位(a1)がスチレン単位を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記芳香族ビニル共重合体(A)における環状酸無水物単量体単位(a2)が無水マレイン酸単位を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記芳香族ビニル共重合体(A)9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に波長600nmにおける光線透過率が90%以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)との含有量の合計100質量部を基準として、前記芳香族ビニル共重合体(A)の含有量は85~30質量部であり、前記(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量は15~70質量部である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記樹脂組成物の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度(Tg)が115℃以上130℃未満である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>さらに、前記樹脂組成物100質量部に対して、0.001~0.5質量部の酸化防止剤および/または0.001~0.5質量部の離型剤を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された平板状成形体。
<12>基材と、<1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された層とを有する、多層体。
<13>前記基材がポリカーボネート樹脂を含む、<12>に記載の多層体。
<14>前記ポリカーボネート樹脂の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度(Tg)が100~140℃である、<13>に記載の多層体。
<15>前記基材に含まれるポリカーボネート樹脂の含有量が90質量%以上である、<13>または<14>に記載の多層体。
<16>さらに、前記樹脂組成物から形成された層の前記基材とは反対側の面に、ハードコート層を有する、<12>~<15>のいずれか1つに記載の多層体。
<17>前記多層体の少なくとも一方の面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されている、<12>~<16>のいずれか1つに記載の多層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ポリカーボネート基材等の基材と平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)を含む多層体としたきの熱曲げ加工性に優れ、かつ、ブツが発生しにくい平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)を提供可能な樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いた平板状成形体および多層体を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、反射防止フィルムの一例の構成を示す模式図である。
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。本明細書では、置換および無置換を記していない表記は、無置換の方が好ましい。
本明細書において、「(メタ)アクリル単量体」は、アクリル単量体およびメタクリル単量体の双方、または、いずれかを表し、メタクリル単量体が好ましい。また、(メタ)アクリル樹脂は、アクリレートの(共)重合体に加え、メタクリレートの(共)重合体も含む。
本明細書における、平板状成形体、基材および多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
本明細書で示す規格が年度によって、測定方法等が異なる場合、特に述べない限り、2021年1月1日時点おける規格に基づくものとする。
【0010】
本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)と環状酸無水物単量体単位(a2)を含む共重合体であり、樹脂組成物9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に600nmの光線透過率が90%以上であることを特徴とする。このような構成とすることにより、ポリカーボネート基材等の基材と、前記樹脂組成物から形成された平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)を含む多層体としたきの熱曲げ加工性に優れ、かつ、ブツが発生しにくい平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)を提供可能な樹脂組成物が得られる。さらに、透明性に優れ、表面硬度が高い樹脂平板状成形体を提供可能な樹脂組成物が得られる。
この理由は以下のメカニズムによると推定される。芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)を含む樹脂組成物であって、芳香族ビニル共重合体(A)が芳香族ビニル単量体単位(a1)と、環状酸無水物単量体単位(a2)を含む共重合体を含む樹脂組成物から形成された平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)は、高いガラス転移温度、および、高い鉛筆硬度が達成できる。さらに、前記(メタ)アクリル樹脂層は、ポリカーボネート基材等の基材と共に多層体としたときに、熱曲げ加工性に優れたものとなる。しかしながら、本発明者が検討したところ、このような(メタ)アクリル樹脂層は、外観不良が発生する場合と発生しない場合があることを見出した。さらに詳細に検討したところ、(メタ)アクリル樹脂層を構成する芳香族ビニル共重合体(A)に由来する不純物によって、外観不良が発生する場合と発生しない場合があることが分かった。そして、より詳細に検討を行った結果、(メタ)アクリル樹脂層の外観不良は、芳香族ビニル単量体と環状酸無水物単量体を共重合させる際に発生してしまう不均一なオリゴマーやポリマーに由来するブツにもるものと推測された。特に、環状酸無水物単量体単位が過度に多く含まれている領域を有するオリゴマーやポリマーなどが、芳香族ビニル共重合体(A)や(メタ)アクリル樹脂(B)と相溶しにくく、(メタ)アクリル樹脂層中のブツとなると推測された。また、環状酸無水物単量体は塩化メチレンに可溶である一方、前記ブツは、塩化メチレンに不溶であることが分かった。以上の検討のもと、本実施形態では、芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)を含む樹脂組成物について、塩化メチレンに溶解したときの波長600nmにおける光線透過率が高くなるように調整することにより、ブツを抑制でき、外観に優れた平板状成形体が得られた。
【0011】
<芳香族ビニル共重合体(A)>
本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ビニル共重合体(A)を含む。芳香族ビニル共重合体(A)を含むことにより、(メタ)アクリル樹脂層のガラス転移温度を高くすることができ、熱曲げ加工性に優れた多層体が得られる。
芳香族ビニル共重合体(A)は、芳香族ビニル単量体単位(a1)と、環状酸無水物単量体単位(a2)を含む。芳香族ビニル単量体単位(a1)を含むことにより、屈折率が向上し、虹ムラ(外観不良)が発生しにくくなり、環状酸無水物単量体単位(a2)を含むことにより、耐熱性が向上し、(メタ)アクリル樹脂(B)との相溶性がより向上する傾向にある。
【0012】
芳香族ビニル単量体(a1)は、ビニル基と芳香環基を有する化合物であり、(メタ)アクリレートと共重合可能な化合物を広く採用できる。芳香族ビニル単量体(a1)は、CH2=CH-L1-Ar1で表される化合物であることが好ましい。ここで、L1は単結合または2価の連結基であり、単結合または式量14~500の2価の連結基であることが好ましく、単結合または式量14~100の2価の連結基であることがより好ましく、単結合であることがさらに好ましい。L1が2価の連結基の場合、脂肪族炭化水素基または、脂肪族炭化水素基と-O-との組み合わせからなる基であることが好ましい。ここで、式量とは、芳香族ビニル単量体(a1)のL1に相当する部分の1モル当たりの質量(g)を意味する。Ar1は芳香環基であり、置換または無置換の、ベンゼン環基またはナフタレン環(好ましくはベンゼン環)であることが好ましく、無置換のベンゼン環基であることがさらに好ましい。
【0013】
より具体的には、芳香族ビニル単量体(a1)は式(a-1)で表される芳香族ビニル単量体を含むことが好ましい。
式(a-1)
【化1】
(式(a-1)中、Ra
3は、置換基であり、naは、0~6の整数である。)
【0014】
式(a-1)中、Ra3は、置換基であり、ハロゲン原子(好ましくは、塩素原子、フッ素原子または臭素原子)、水酸基、アルキル基(好ましくは炭素数1~5のアルキル基)、アリール基(好ましくはフェニル基)、アルケニル基(好ましくは炭素数2~5のアルケニル基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~5のアルコキシ基)、アリールオキシ基(好ましくはフェノキシ基)が例示される。naが2以上のとき、複数のRa3は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。2つのRa3は結合して環を形成していてもよく、この場合の環は芳香環が好ましい。すなわち、置換または無置換のビニルナフタレンであってもよい。しかしながら、本実施形態では、2つのRa3は結合して環を形成していない方が好ましい。
naは、5以下の整数であることが好ましく、4以下の整数であることがより好ましく、3以下の整数であることがさらに好ましく、2以下の整数であることが一層好ましく、1以下の整数であることがより一層好ましく、0であることがさらに一層好ましい。
【0015】
芳香族ビニル単量体(a1)は、分子量104~600の化合物であることが好ましく、分子量104~400の化合物であることがより好ましい。
芳香族ビニル単量体(a1)は、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、トリブロモスチレン等に由来するスチレン系モノマー単位(スチレン誘導体単位)が挙げられ、特にスチレン単位を含むことが好ましい。
【0016】
一方、環状酸無水物単量体単位(a2)は、無水マレイン酸単位、グルタル酸無水物単位などが例示され、無水マレイン酸単位が好ましい。環状酸無水物単位、特に、無水マレイン酸単位を含むことにより、得られる芳香族ビニル共重合体(A)のガラス転移温度を高くできる傾向にある。無水マレイン酸単位を構成する無水マレイン酸およびグルタル酸無水物単位を構成するグルタル酸は、それぞれ、置換基を有していてもよいが、置換基を有していない方が好ましい。置換基を有さない無水マレイン酸等を用いることにより、芳香族ビニル共重合体(A)が着色してしまうことを効果的に抑制できる。
【0017】
無水マレイン酸単位を構成する無水マレイン酸および/またはグルタル酸無水物単位を構成するグルタル酸が置換基を有する場合、N置換マレイミドおよび/またはN置換グルタルイミドが例示され、N置換マレイミドが好ましい。N置換マレイミドは、N-フェニルマレイミドが好ましい。N-フェニルマレイミドを含むことで、耐熱性が向上するとともに、さらに屈折率が向上する傾向にある。
【0018】
芳香族ビニル共重合体(A)中の環状酸無水物単量体単位(a2)(好ましくは無水マレイン酸単位)の割合は、10質量%以上であることが好ましく、16質量%以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、芳香族ビニル共重合体(A)の耐熱性がより向上する傾向にある。芳香族ビニル共重合体(A)中の環状酸無水物単量体単位(a2)(好ましくは無水マレイン酸単位)の割合の上限値は、末端基を除く全構成単位中、32質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、21質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましく、19質量%以下であることがより一層好ましい。上記上限値以下とすることにより、(メタ)アクリル樹脂(B)との相溶性が高くなると共に、得られる(メタ)アクリル樹脂層のブツの発生をより効果的に抑制できる傾向にある。
芳香族ビニル共重合体(A)は、環状酸無水物単量体単位(a2)(好ましくは無水マレイン酸単位)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
芳香族ビニル共重合体(A)は、上記以外の他のモノマー単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、具体的には、N置換マレイミド単位、(メタ)アクリル単量体単位、シアン化アルケニル単位などが例示される。
【0020】
芳香族ビニル共重合体(A)は、上述の通り、芳香族ビニル単量体単位(a1)を68~84質量%と、環状酸無水物単位(a2)を16~32質量%含むことが好ましく、芳香族ビニル単量体単位(a1)75~84質量%と、環状酸無水物単量体単位(a2)を16~25質量%含むことがより好ましく、芳香族ビニル単量体単位(a1)79~84質量%と、環状酸無水物単量体単位(a2)を16~21質量%含むことがさらに好ましい。ただし、芳香族ビニル単量体単位(a1)と環状酸無水物単位(a2)の合計が100質量%を超えることはない。環状酸無水物単位(a2)を上記下限値以上とすることにより、耐熱性(ガラス転移温度)がより向上し、上記上限値以下とすることにより、平板状成形体の外観がより向上する傾向にある。
芳香族ビニル共重合体(A)において、芳香族ビニル単量体単位(a1)と環状酸無水物単位(a2)の合計が、芳香族ビニル共重合体(A)の末端を除く全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0021】
芳香族ビニル共重合体(A)9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に波長600nmの光線透過率が90%以上であることが好ましい。このような芳香族ビニル共重合体(A)を用いることにより、樹脂組成物の波長600nmの光線透過率を効果的に高くすることができる。芳香族ビニル共重合体(A)の波長600nmにおける光線透過率は、92%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましく、96%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが一層好ましく、99%以上であることがより一層好ましい。一方、前記樹脂組成物の波長600nmにおける光線透過率の上限は、100%が理想であるが、前記下限値以上であって100%未満であっても十分に要求性能を満たすものである。
芳香族ビニル共重合体(A)の波長600nmにおける光線透過率を高くする手段としては、芳香族ビニル単量体と環状酸無水物単量体をより均質なモノマー比率となるように重合させることが挙げられる。具体的には、重合時に均一な重合を行うには、重合条件やモノマーの添加の仕方(一度に投入するか、複数回に分けて行うなど)、加熱の均一性などを最適化することが例示される。また、芳香族ビニル共重合体(A)の波長600nmにおける光線透過率を高くする手段としては、環状酸無水物単量体が架橋構造を形成するのを抑制することも好ましい。
また、環状酸無水物単量体の比率を低めとすることも挙げられる。特に、芳香族ビニル単量体と環状酸無水物単量体の合計を100質量%としたときに、環状酸無水物単量体の割合を32質量%以下とすると、(メタ)アクリル樹脂(B)と相溶しやすく、波長600nmにおける光線透過率が高くなる傾向にある。
【0022】
芳香族ビニル共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、125℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラック抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記芳香族ビニル共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、180℃以下であることが好ましく、170℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましく、142℃以下であることが一層好ましく、140℃以下であることがより一層好ましく、134℃以下であることがさらに一層好ましく、131℃以下であることが特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物が芳香族ビニル共重合体(A)を2種以上含む場合、芳香族ビニル共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)とは、混合物のTgとする。また、ガラス転移温度の測定方法は後述する実施例に記載の方法に従う。
【0023】
前記芳香族ビニル共重合体(A)の重量平均分子量は、20,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、80,000以上であることがさらに好ましく、以上であることが一層好ましく、90,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる(メタ)アクリル樹脂層の耐衝撃性をより向上させることができる。また、前記芳香族ビニル共重合体(A)の重量平均分子量は、また、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましく、120,000以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くすることができる。
【0024】
<(メタ)アクリル樹脂(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、(メタ)アクリル樹脂(B)を含む。(メタ)アクリル樹脂(B)を含むことにより、透明性が高く、高硬度な(メタ)アクリル樹脂層が得られる。
(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル単量体単位を含むことが好ましく、その割合は、末端基を除く全構成単位中、50質量%超であることが好ましく、76質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが一層好ましく、95質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、(メタ)アクリル樹脂層の鉛筆硬度および耐衝撃性がより向上する傾向にある。ここで、(メタ)アクリル単量体単位とは、樹脂中の(メタ)アクリル単量体から構成される構成単位をいう。前記(メタ)アクリル樹脂(B)中の(メタ)アクリル単量体単位の割合の上限値は、末端基を除く全構成単位中、100質量%である。
(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル単量体単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル単量体としては、(メタ)アクリル基を含む限り特に定めるものではないが、式(a-2)で表される単量体が好ましい。
式(a-2)
【化2】
(式(a-2)中、Ra
1は、水素原子またはメチル基であり、Ra
2は、脂肪族基である。)
上記式(a-2)において、Ra
1は、水素原子またはメチル基であり、メチル基が好ましい。Ra
2は、脂肪族基であり、直鎖または分岐の脂肪族基であることが好ましく、直鎖の脂肪族基であることがより好ましい。脂肪族基は、アルキル基(シクロアルキル基を含む)、アルキニル基(シクロアルキニル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基を含む)等が例示され、アルキル基が好ましく、直鎖または分岐のアルキル基がより好ましく、直鎖のアルキル基がさらに好ましい。Ra
2である脂肪族基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましく、1~3であることがさらに好ましく、1または2であることが一層好ましく、1であることがより一層好ましい。
式(a-2)で表される(メタ)アクリレートは、アルキル(メタ)アクリレート(好ましくはアルキルメタクリレート)であることが好ましく、メチル(メタ)アクリレートであることがより好ましく、メチルメタクリレートであることがさらに好ましい。メチルメタクリレートを用いることにより、(メタ)アクリル樹脂層の衝撃強さが向上する傾向にある。
【0026】
(メタ)アクリル樹脂(B)は、(メタ)アクリル単量体単位以外のモノマー単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、環状酸無水物単位、N置換マレイミド単位、芳香族ビニル単量体単位、脂肪族ビニル単量体単位、グルタル酸、グルタルイミドが例示され、環状酸無水物単位、および/または、N置換マレイミド単位が好ましい。また、ラクトン環単位を形成するようなモノマーも好ましく用いられる。
前記他のモノマー単位の割合は、末端基を除く全構成単位の50質量%以下であることが好ましく、50質量%未満であることがより好ましく、23質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが一層好ましく、10質量%以下であることがより一層好ましく、5質量%以下であることがさらに一層好ましく、3質量%以下であることがよりさらに一層好ましく、1質量%以下であることが特に一層好ましい。
(メタ)アクリル樹脂(B)は、他のモノマー単位を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0027】
前記(メタ)アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、99℃以上であることが好ましく、102℃以上であることがより好ましく、105℃以上であることがさらに好ましく、107℃以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、熱曲げ時のクラック発生の抑制効果がより向上する傾向にある。また、前記(メタ)アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、117℃以下であることが好ましく、114℃以下であることがより好ましく、112℃以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、熱曲げ時におけるスプリングバックの抑制効果がより向上する傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物が(メタ)アクリル樹脂(B)を2種以上含む場合、(メタ)アクリル樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)とは、混合物のTgとする。また、ガラス転移温度の測定方法は後述する実施例に記載の方法に従う。
【0028】
前記(メタ)アクリル樹脂(B)の重量平均分子量は、50,000以上であることが好ましく、60,000以上であることがより好ましく、70,000以上であることがさらに好ましく、80,000以上であることが一層好ましく、90,000以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、得られる(メタ)アクリル樹脂層の衝撃強さをより向上させることができる。前記(メタ)アクリル樹脂(B)の重量平均分子量は、300,000以下であることが好ましく、250,000以下であることがより好ましく、200,000以下であることがさらに好ましく、170,000以下であることが一層好ましく、150,000以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、樹脂組成物の溶融粘度を効果的に低くでき、多層体の成形が容易となる。
【0029】
前記(メタ)アクリル樹脂(B)の鉛筆硬度は、H以上であることが好ましく、2H以上であることがより好ましく、3H以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐擦傷性がより向上する傾向にある。また、前記(メタ)アクリル樹脂(B)の鉛筆硬度は、4H以下であることが好ましく、3H以下であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)との含有量の合計100質量部を基準として、芳香族ビニル共重合体(A)の含有量は85~30質量部であり、(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量は15~70質量部であることが好ましく、芳香族ビニル共重合体(A)の含有量は84~40質量部であり、(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量は16~60質量部であることがより好ましく、芳香族ビニル共重合体(A)の含有量は80~40質量部であり、(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量は20~60質量部であることがさらに好ましく、芳香族ビニル共重合体(A)の含有量は77~43質量部であり、(メタ)アクリル樹脂(B)の含有量は23~57質量部であることが一層好ましい。
本実施形態では、また、芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)が樹脂組成物に含まれる樹脂成分の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、98質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上であることが一層好ましい。上限値としては、樹脂成分の100質量%以下であってもよい。
また、本実施形態では、芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)が脂組成物の90質量%以上を占めることが好ましく、94質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましい。上限値としては、樹脂組成物の99.9質量%以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、芳香族ビニル共重合体(A)と(メタ)アクリル樹脂(B)をそれぞれ1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0031】
<酸化防止剤(C)>
本実施形態の樹脂組成物は、酸化防止剤(C)を含有することが好ましい。
酸化防止剤(C)としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。中でも本実施形態においては、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤)が好ましい。リン系酸化防止剤は、成形体の色相に優れることから特に好ましい。
【0032】
リン系酸化防止剤は、ホスファイト系酸化防止剤が好ましく、以下の式(1)または(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化3】
(式(1)中、R
11およびR
12はそれぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基または炭素数6~30のアリール基を表す。)
【化4】
(式(2)中、R
13~R
17は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数6~20のアリール基または炭素数1~20のアルキル基を表す。)
【0033】
上記式(1)中、R11およびR12で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素数1~10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R11およびR12がアリール基である場合、以下の式(1-a)、(1-b)、または(1-c)のいずれかで表されるアリール基が好ましい。式中の*は結合位置を表す。
【0034】
【化5】
(式(1-a)中、R
Aは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表す。式(1-b)中、R
Bは、それぞれ独立に、炭素数1~10のアルキル基を表す。)
【0035】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、特開2018-090677号公報の段落0063、特開2018-188496号公報の段落0076の記載を参照でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0036】
酸化防止剤(C)は、上記の他、特開2017-031313号公報の段落0057~0061の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0037】
酸化防止剤(C)の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.008質量部以上であることがより好ましい。また、酸化防止剤(C)の含有量の上限値としては、樹脂組成物100質量部に対して、0.5質量部以下が好ましく、0.3質量部以下がより好ましく、0.2質量部以下がさらに好ましく、0.15質量部以下であることが一層好ましく、0.10質量部以下であることがさらに一層好ましく、0.08質量部以下であることが特に一層好ましい。
【0038】
酸化防止剤(C)の含有量を上記の下限値以上とすることにより、色相、耐熱変色性がより良好な平板状成形体を得ることができる。また、酸化防止剤(C)の含有量を上記上限値以下とすることにより、耐熱変色性を悪化させることなく、湿熱安定性が良好な平板状成形体を得ることができる。
酸化防止剤(C)は、1種のみ用いても、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0039】
<離型剤(D)>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤(D)を含むことが好ましい。
離型剤を含むことにより、平板状成形体を巻き取る際の巻取性を向上させることができる。
離型剤(D)の種類は特に定めるものではないが、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、数平均分子量100~5,000のポリエーテル、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0040】
離型剤の詳細は、国際公開第2015/190162号の段落0035~0039の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0041】
離型剤(D)の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.001質量部以上であることが好ましく、0.005質量部以上であることがより好ましく、0.01質量部以上であることがさらに好ましい。上限値としては、樹脂組成物100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましく、0.3質量部以下であることがより好ましく、0.2質量部以下であることがさらに好ましい。
離型剤(D)は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0042】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、上記成分の他、上記以外の熱可塑性樹脂、紫外線吸収剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記成分の含有量は、含有する場合、合計で樹脂組成物の0.1~5質量%であることが好ましい。
【0043】
<樹脂組成物の物性値>
本実施形態の樹脂組成物においては、前記樹脂組成物9gを60mLの塩化メチレンに溶解した溶液を光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて測定した際に波長600nmにおける光線透過率が90%以上である。このような構成とすることにより、樹脂組成物から得られる平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)のブツの発生を効果的に抑制し、外観に優れた平板状成形体ないし多層体が得られる。
前記樹脂組成物の波長600nmにおける光線透過率は、92%以上であることが好ましく、94%以上であることがより好ましく、96%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが一層好ましく、99%以上であることがより一層好ましい。一方、前記樹脂組成物の波長600nmにおける光線透過率の上限は、100%が理想であるが、前記下限値以上であって100%未満であっても十分に要求性能を満たすものである。
前記樹脂組成物の波長600nmにおける光線透過率を高くする手段としては、芳香族ビニル共重合体(A)として、波長600nmの光線透過率が高いものを用いることが挙げられる。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度(Tg)は、115℃以上であることが好ましく、118℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましく、122℃以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱成形時のクラックの発生をより効果的に抑制でき、得られる成形体(多層体)が熱環境において変形や割れを生じにくくすることができる。また、本実施形態の樹脂組成物の示差走査熱量測定に従ったガラス転移温度(Tg)は、130℃未満であることが好ましく、129℃以下であってもよく、128℃以下であってもよい。前記上限値以下とすることにより、低温での熱成形加工性が向上する傾向にある。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物は、1mm厚さの平板状成形体に成形したときの全光線透過率が90.0%以上であることが好ましく、91.0%以上であることがより好ましい。前記全光線透過率の上限は、100%が理想であるが、95.0%以下が実際的である。
全光線透過率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
本実施形態の樹脂組成物は、1mm厚さの平板状成形体に成形したときのヘイズが0.5%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがより好ましい。前記ヘイズの下限は、0%が理想であるが、0.01%以上が実際的である。
ヘイズは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、1mm厚さの平板状成形体に成形したときの鉛筆硬度が、F以上であることが好ましく、H以上であることが好ましい。また、前記鉛筆硬度の上限値は、例えば、3Hであり、2H以下であっても必要な要求性能を満たすものである。
鉛筆硬度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0047】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、平板状に成形して用いることができる。すなわち、本実施形態は、本実施形態の樹脂組成物から形成された平板状成形体に関する。
平板状成形体としては、プレート、フィルム、シート等が例示される。平板状成形体は単独の成形体であってもよいし、他の基材に積層された積層体であってもよい。平板状成形体の厚さは、下限値が5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、60μm以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、成形がより容易となるとともに、硬度が向上する傾向にある。また、平板状成形体の厚さの上限に特に制限は無いが、10,000μm以下であることが実際的である。
本実施形態の平板状成形体は、射出成形やTダイによる押出成形などにより成形される。
【0048】
本実施形態の平板状成形体の全光線透過率は、90.0%以上であることが好ましく、91.0%以上であることがより好ましい。前記全光線透過率の上限は、100%が理想であるが、95.0%以下が実際的である。
全光線透過率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
本実施形態の平板状成形体のヘイズは、0.5%以下であることが好ましく、0.4%以下であることがより好ましい。前記ヘイズの下限は、0%が理想であるが、0.01%以上が実際的である。
ヘイズは、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0049】
本実施形態の平板状成形体(本実施形態の樹脂組成物)の屈折率は、例えば、1.51以上であることが好ましく、1.52以上であることがより好ましく、1.53以上であることがさらに好ましい。上限値としては、例えば、1.58以下であることが好ましく、1.57以下であることがより好ましく、1.56以下であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、例えば、ポリカーボネート樹脂基材との屈折率の差を小さくでき、虹ムラを効果的に抑制できる。
屈折率は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0050】
本実施形態の平板状成形体の鉛筆硬度は、F以上であることが好ましく、H以上であることが好ましい。また、前記鉛筆硬度の上限値は、例えば、3Hであり、2H以下であっても必要な要求性能を満たすものである。
鉛筆硬度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0051】
本実施形態の多層体は、さらに、平板状成形体および/または基材上にハードコート層を有することが好ましく、平板状成形体上にハードコート層を有することがより好ましい。より具体的には、さらに、平板状成形体(本実施形態の樹脂組成物から形成された層)の前記基材とは反対側の面に、ハードコート層を有することが好ましい。
さらに、本実施形態の多層体は、前記ハードコート層上であって、前記基材とは反対側の面に、低屈折率層を有することも好ましい。すなわち、上記多層体は、反射防止フィルムとして用いることができる。
上記多層体は、反射防止フィルムとして用いることができる。
図1は、反射防止フィルムの一例を示す模式図であって、1は基材を、2は平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)を、3はハードコート層を、4は反射防止層を示している。
図1では、基材1、平板状成形体2、ハードコート層3および反射防止層4が、前記順に積層しているが、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で、他の層を有していてもよい。また、ハードコート層は、基材1側にも設けられていてもよい。
【0052】
次に、基材1について説明する。
基材1は、その種類について特に定めるものではなく、本実施形態の多層体に求められる性能を満たす限り、公知の基材を採用でき、樹脂基材が好ましい。
基材1に用いる樹脂は、具体的には、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂等が挙げられ、ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。これらは、1種単独でも、2種以上であってもよい。
樹脂基材(好ましくはポリカーボネート樹脂を含む基材)のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが一層好ましく、122℃以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、熱環境において変形や割れの発生を抑制できる傾向にある。また、前記ガラス転移温度(Tg)は、160℃以下であることが好ましく、140℃以下であることがより好ましく、135℃以下であることがさらに好ましく、130℃以下であることが一層好ましく、126℃以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、低温での熱成形性がより向上する傾向にある。
このようなガラス転移温度の基材を達成する手段としては、樹脂の種類を選択すること、基材の主成分となる熱可塑性樹脂に、他の熱可塑性樹脂や添加剤を添加することが例示される。例えば、(1)ガラス転移温度が低いポリカーボネート樹脂(例えば、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂や後述する式(PT1)で表される基を有するポリカーボネート樹脂)を用いること、(2)ポリカーボネート樹脂に数平均分子量が6000以下のポリエーテルを配合すること、(3)ポリカーボネート樹脂にポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートを配合すること、(4)ポリカーボネート樹脂にリン酸エステル化合物を配合することなどが例示される。
本実施形態の基材1に用いる樹脂(好ましくはポリカーボネート樹脂)のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが一層好ましく、125℃以上であってもよい。前記下限値以上とすることにより、熱環境において変形や割れを生じることが少なくできる傾向にある。また、前記ガラス転移温度は、140℃以下であることが好ましく、135℃以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、低温での熱成形性がより向上する傾向にある。
本実施形態の基材1に用いる樹脂(好ましくはポリカーボネート樹脂)の初期ガラス転移温度(Tg)は、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、115℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが一層好ましく、125℃以上であることがより一層好ましい。また、前記ガラス転移温度(Tg)は、140℃以下であることが好ましく、135℃以下であることがより好ましい。
本実施実施形態における基材が熱可塑性樹脂を2種以上含む場合、熱可塑性樹脂の混合物のガラス転移温度が上記範囲となることが好ましい。
【0053】
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましく、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂および/またはビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。
ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂はガラス転移温度が低めの傾向であるため、基材のガラス転移温度を低くする観点から好ましい。
【0054】
ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂の末端構造としては、アルキル基置換フェノキシ基およびアルコキシカルボニルフェノキシ基などが挙げられる。
前記アルキル基置換フェノキシ基が有するアルキル基の炭素数は1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましく、2~5であることがさらに好ましい。アルキル基置換フェノキシ基としては、m-メチルフェノキシ基、p-メチルフェノキシ基、m-プロピルフェノキシ基、p-プロピルフェノキシ基、p-tert-ブチルフェノキシ基が例示される。
前記アルコキシカルボニルフェノキシ基が有するアルコキシ基の炭素数は1~36であることが好ましく、式(PT1)で表される基がより好ましい。このような末端基構造を有するポリカーボネート樹脂を用いることにより、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が低くなり、基材のガラス転移温度を低くすることができる。
式(PT1)
【化6】
(式(PT1)中、R
1は、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表す。R
2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアルキル基を表す。nは0~4の整数を表す。*は、他の部位との結合部位である。)
【0055】
R1は、炭素数8~36のアルキル基、または、炭素数8~30のアルケニル基を表し、炭素数10以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、12以上のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましく、さらに14以上のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。これにより樹脂のガラス転移温度を低くし、多層体の熱曲げ性が向上する。また、R1は、炭素数22以下のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、18以下のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。これにより、他の樹脂との相溶性が向上する。R1は、アルキル基であることが好ましい。アルキル基およびアルケニル基は、直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基であることが好ましく、直鎖のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。
本実施形態では、R1は、特に、ヘキサデシル基であることが好ましい。
また、R1は、メタ位、パラ位、オルト位のいずれに位置していてもよいが、メタ位またはパラ位に位置していることが好ましく、パラ位に位置していることがより好ましい。
【0056】
R2は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、または、炭素数6~12のアリール基を表し、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、または、フェニル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子またはメチル基であることがより好ましい。
nは0~4の整数を表し、0~2の整数であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
式(PT1)で表される基は、p-ヘキサデシルオキシカルボニルフェノキシ基が熱曲げ加工温度の観点からより好ましい。
【0057】
式(PT1)で表される基は、パラヒドロキシ安息香酸ヘキサデシルエステル等の末端封止剤を用いることによって、ポリカーボネート樹脂に付加することができる。これらの詳細は、特開2019-002023号公報の段落0022~0030の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0058】
その他、ポリカーボネート樹脂の詳細は、特開2019-035001号公報の段落0040~0073の記載、特開2018-103518号公報の段落0016~0043の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0059】
基材1に含まれるポリカーボネート樹脂(好ましくは、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂)の含有量は、耐熱性や機械的特性の観点から、基材1の総質量の90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。
【0060】
基材1には、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂や各種樹脂添加剤を含有していてもよい。
ポリカーボネート樹脂以外の樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
樹脂添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、難燃剤、滴下防止剤、染料および顔料(カーボンブラックを含む)、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせおよび比率で含有されていてもよい。酸化防止剤および離型剤の詳細は、上述の本実施形態の樹脂組成物に配合してもよい酸化防止剤および離型剤が例示され、樹脂成分に対する配合量および好ましい範囲も同様である。
【0061】
また、基材1は単層であってもよいが、多層であってもよい。
基材1の厚みは、特に制限はないが、30μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることがさらに好ましく、50μm以上であることが一層好ましい。また、基材1の厚みは、10,000μm以下であることが好ましく、5,000μm以下であることがより好ましく、3,000μm以下であってもよい。
【0062】
基材1の屈折率は、例えば、1.610以下であることが好ましく、1.600以下であることがより好ましい。下限値としては、例えば、1.500以上、さらには1.510以上、特には1.520以上のものも用いることができる。
本実施形態では、基材1と平板状成形体2の屈折率差が0.050以下であることが好ましい。このような屈折率差とすることにより、虹ムラをより効果的に抑制できる。前記屈折率差の下限値は、0が理想であるが、例えば0.010以上、さらには0.030以上であっても十分に要求性能を満たすものとなる。
【0063】
次に、ハードコート層3について説明する。
ハードコート層3は、主に、耐擦傷性を向上させる目的で設けられる。
ハードコート層は、JIS K5600-5-4:1999で規定される鉛筆硬度試験で「H」以上の硬度を示すものであることが好ましい。
ハードコート層3は、その種類について特に定めるものではなく、平板状成形体2の表面に施すハードコート処理により形成されるものが好ましい。具体的には、熱硬化または活性エネルギー線による硬化が可能なハードコート材料を塗布後、硬化させることにより、ハードコート層3を積層することが好ましい。
活性エネルギー線を用いて硬化させる塗料の一例としては、単官能あるいは多官能の(メタ)アクリレートモノマーあるいはオリゴマーなどの単独あるいは複数からなる樹脂組成物、より好ましくは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを含む樹脂組成物等が挙げられる。これらの樹脂組成物には、硬化触媒として光重合開始剤が加えられることが好ましい。
また、熱硬化型樹脂塗料としてはポリオルガノシロキサン系、架橋型アクリル系などのものが挙げられる。この様な樹脂組成物は、アクリル樹脂またはポリカーボネート用ハードコート剤として市販されているものもあり、塗装ラインとの適正を加味し、適宜選択すればよい。
ハードコート層3としては、上記の他、特開2013-020130号公報の段落0045~0055の記載、特開2018-103518号公報の段落0073~0076の記載、特開2017-213771号公報の段落0062~0082の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0064】
また、ハードコート層3は単層であってもよいが、多層であってもよい。
【0065】
ハードコート層3の厚みは、特に制限されないが、好ましくは1~10μmであり、より好ましくは2~8μm、さらに好ましくは3~7μmである。
【0066】
ハードコート層3の屈折率は、例えば、1.550未満であることが好ましく、1.545以下であることがより好ましい。下限値としては、1.450以上であることが好ましく、1.470以上であることがより好ましく、特には1.490以上であることがさらに好ましい。
本実施形態では、ハードコート層3と平板状成形体2の屈折率差が0.050以下であることが好ましい。このような屈折率差とすることにより、虹ムラをより効果的に抑制できる。前記屈折率差の下限値は、0が理想であるが、例えば0.010以上、さらには0.030以上であっても十分に要求性能を満たすものとなる。
【0067】
次に、反射防止層4について説明する。
反射防止層4としては、低屈折率の単層(低屈折率層のみ)または低屈折率層と高屈折率層を交互に積層した多層が例示される。このような反射防止層4を、多層体に積層させることによって、反射防止フィルムとして用いることができる。低屈折率層は、反射防止機能を発現させるために、反射防止層4の最も外側に配置されることが好ましい。
低屈折率層は、その種類について特に定めるものではないが、一例として、含フッ素ウレタンアクリレートと(メタ)アクリレートとを含む樹脂材料を硬化、重合させて形成することが好ましく挙げられる。また、低屈折率層は、屈折率を低下させるための部材を含んでいてもよい。屈折率を低下させるための部材としては、シリカ、金属フッ化物微粒子などが好ましく、特に中空シリカが好ましい。
低屈折率層の屈折率は、通常、隣接する基材、平板状成形体、ハードコート層、および高屈折率層よりも低い。低屈折率層の屈折率は、好ましくは1.31~1.40であり、より好ましくは1.32~1.39である。
高屈折率層は、その種類について特に定めるものではないが、一例として、フルオレン系ジオール、イソシアネート、および(メタ)アクリレートの三成分を脱水縮合反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートと、(メタ)アクリレートの混合物を含む樹脂材料を硬化、重合させて形成することが好ましく挙げられる。また、高屈折率層は、屈折率を増加させるための部材を含んでいてもよい。屈折率を増加させるための部材としては、酸化チタンや酸化ジルコニウムなどの金属酸化物が好ましく、特に酸化ジルコニウムが好ましい。
高屈折率層の屈折率は、隣接する基材(層)、平板状成形体(層)、ハードコート層、低屈折率層よりも高い。高屈折率層の屈折率は、このましくは1.68~1.75であり、より好ましくは1.69~1.74である。
【0068】
本実施形態の多層体には、上記の他、他の層を有していてもよい。具体的には、接着層、粘着層、防汚層等が例示される。
【0069】
また、多層体の少なくとも一方の面に、耐指紋処理、反射防止処理、防眩処理、耐候性処理、帯電防止処理、防汚染処理およびアンチブロッキング処理のいずれか1つ以上が施されていてもよい。また、アンチブロッキング処理とは、フィルム同士が密着しても容易に剥離できるようにする処理をいい、アンチブロッキング剤を添加すること、多層体の表面に凹凸を設けることなどが例示される。
本実施形態の多層体は、ポリカーボネート樹脂などの基材を押出するメイン押出機と、本実施形態の樹脂組成物を押出するサブ押出機とを用い、各々用いる樹脂の条件にて樹脂を溶融し押し出しダイに導き、ダイ内部で積層しシート状に成形する、もしくはシート状に成形した後に積層することで多層体を形成することができる。
【0070】
本実施形態の多層体は、光学部品や意匠製品、反射防止フィルムなどに好適に用いることができる。
本実施形態の多層体は、表示装置、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、各種ディスプレイ、電気電子機器、OA機器、携帯情報末端および家電製品の筐体、照明機器および車輌部品(特に、車輌内装部品)、スマートフォンやタッチパネル等の表層フィルム、光学材料、光学ディスクに好適に用いられる。特に、本実施形態の成形体は、タッチパネルのセンサー用フィルムや各種ディスプレイの反射防止フィルムとして好ましく用いられる。
【実施例0071】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0072】
1.原料
<芳香族ビニル共重合体(A)>
(A1)Jiaxing Huawen Chemical社製、SMA-700、スチレン:無水マレイン酸=82質量%:18質量%、Tg:128℃、重量平均分子量:108,100
(A2)Fine-blend Polymer社製、SAM-020、スチレン:無水マレイン酸=83質量%:17質量%、Tg:129℃、重量平均分子量:107,200
(A3)Polyscope社製、XIBOND160、スチレン:無水マレイン酸=78質量%:22質量%、Tg:143℃、重量平均分子量:69,500
【0073】
<(メタ)アクリル樹脂(B)>
(B1)アルケマ社製、ALTUGLAS(登録商標)V020、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル=97質量%:3質量%、Tg:109℃、重量平均分子量:127,000
(B2)旭化成株式会社製、デルペット(商標)80HD、メタクリル酸メチル:アクリル酸メチル=99質量%:1質量%、Tg:108℃、重量平均分子量:125,000
【0074】
<酸化防止剤(C)>
(C1)ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(ADEKA製、PEP-36)
【0075】
<離型剤(D)>
(D1)グリセリンモノステアレート(理研ビタミン製、リケマールS-100A)
【0076】
<ポリカーボネート樹脂(P)>
(P1)三菱ガス化学株式会社製、T-1380、末端基がp-ヘキサデシルオキシカルボニルフェノキシ基であるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、重量平均分子量:55,000、Tg:124℃
(P2)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、E-2000:末端基がp-t-ブチルフェノキシ基であるビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、重量平均分子量:53,000、Tg:149℃
【0077】
2.実施例1~8、比較例1、2
<樹脂組成物のペレットの製造>
上に記載した各成分を、表1に記載の添加量(表1は質量比である)となるように計量した。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径26mmのベント付二軸混練押出機(芝浦機械製「TEM-26SS」)により、シリンダー温度240℃で溶融混練し、ストランドカットにより樹脂組成物(ペレット)を得た。
【0078】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
各種樹脂および樹脂組成物のペレットを約10mgになるようはさみでカットし、ガラス転移温度(Tg)を測定するサンプルを用意した。
ガラス転移温度は、下記の示差走査熱量測定(DSC)の測定条件のとおりに、昇温、降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点をガラス転移温度(単位:℃)とした。
1サイクル目
測定開始温度:30℃、昇温速度:20℃/分、到達温度:300℃、降温速度:20℃/分
2サイクル目
測定開始温度:30℃、昇温速度:10℃/分、到達温度:300℃、降温速度:30℃/分
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0079】
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
各種樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、LC-20AD system(島津製作所社製)を用い、カラムとして、LF-804(Shodex社製)を接続して用いた。カラム温度は40℃とした。検出器はRID-10A(島津製作所社製)のRI検出器を用いた。溶離液として、クロロホルムを用い、検量線は、東ソー社製の標準ポリスチレンを使用して作成した。
【0080】
<波長600nmにおける光線透過率の測定>
芳香族ビニル共重合体(A)およびペレット(樹脂組成物)の光線透過率は、以下の通り測定した。
試料9gを23℃で塩化メチレン60mLとともにスクリュー管瓶に入れ、ミックスローターで2時間ミキシングした溶液を、光路長50mmのガラスセルに入れて、D65光源、2°視野にて波長600nmにおける光線透過率を測定した。
測定装置は、分光色彩計(日本電色工業社製、「SD6000」)を使用した。
【0081】
<平板状成形体の製造>
上記で得られたペレット(樹脂組成物)を80~100℃で4~7時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、ベント付二軸射出成形機(Sodick社製「PE-100」、二軸スクリュー径29mmの噛合型同方向回転式、プランジャー直径28mm)により、シリンダー温度240~250℃で溶融混練し、金型温度40~60℃の条件にて平板状成形体(100×100×1mm)を成形した。
【0082】
<全光線透過率、ヘイズの測定>
得られた平板状成形体について、ヘイズメーターを用いて、D65光源の条件にて、上記で得られた平板状成形体の全光線透過率およびヘイズを測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いた。
【0083】
<屈折率の測定>
上記で得られた平板状成形体について、自動薄膜計測装置を用いて波長589nmの光の屈折率を求めた。
屈折率の測定に際し、自動薄膜計測装置として、分光エリプソメーター Auto SE(HORIBA社製)を用いた。
【0084】
<多層体の製造>
ポリカーボネート樹脂から得られた基材(ポリカーボネート基材)と、上記で得られた樹脂組成物から形成された平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)と、ハードコート層とからなる多層体を製造した。
【0085】
<<ポリカーボネート基材と(メタ)アクリル樹脂層の多層体の製造>>
軸径32mmの単軸押出機と、軸径65mmの単軸押出機と、全押出機に連結されたフィードブロックと、フィードブロックに連結された650mm幅のTダイとを有する多層押出機に各押出機と連結したマルチマニホールドダイとを有する多層押出装置を用いて、ポリカーボネート基材と(メタ)アクリル樹脂層の多層体を成形した。
軸径32mmの単軸押出機に上記で得られた樹脂組成物(ペレット)を導入し、シリンダー温度250℃、吐出量を3.6kg/hの条件で押し出した。また、軸径65mmの単軸押出機に、ポリカーボネート樹脂を連続的に導入し、シリンダー温度280℃、吐出量を32.4kg/hで押し出した。全押出機に連結されたフィードブロックは2種2層の分配ピンを備え、温度270℃にしてポリカーボネート基材と(メタ)アクリル樹脂層を形成した。その先に連結された温度270℃のTダイでシート状に押し出し、上流側から温度130℃、140℃、180℃とした3本の鏡面仕上げロールで鏡面を転写しながら冷却した。得られたポリカーボネート基材と(メタ)アクリル樹脂層の多層体の中央部の全体厚みは1000μm、樹脂組成物から形成された平板状成形体((メタ)アクリル樹脂層)の厚みは100μmであった。
【0086】
<<ハードコート層の塗工>>
次いで、ポリカーボネート基材と(メタ)アクリル樹脂層の多層体の(メタ)アクリル樹脂層側に、以下の通り、ハードコート層を設けた。
まず、6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(製品名:U6HA、新中村化学工業株式会社製)60質量部、PEG200#ジアクリレート(製品名:4EG-A、共栄社化学株式会社製)35質量部、および、含フッ素基・親水性基・親油性基・紫外線(UV)反応性基含有オリゴマー(製品名:RS-90、DIC株式会社製)5質量部の合計100質量部に対して、光重合開始剤(製品名:I-184〔化合物名:1-ヒドロキシ-シクロヘキシルフェニルケトン〕BASF株式会社製)を1質量%加えたハードコート層用塗料を準備した。
上記多層体の(メタ)アクリル樹脂層の表面に、上記ハードコート層用塗料をバーコーターにて塗布し、メタルハライドランプ(20mW/cm2)を5秒間当ててハードコート層用塗料を硬化させ、ハードコート層を形成した。ハードコート層の膜厚は6μmであった。
【0087】
<(メタ)アクリル樹脂層の鉛筆硬度>
上記で得られたポリカーボネート基材と(メタ)アクリル樹脂層の多層体(ハードコート層塗工前の多層体)の(メタ)アクリル樹脂層の表面について、JIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度試験機を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
【0088】
<熱曲げ成形加工性>
上記ハードコート層を塗装した多層体について、曲率半径が50mmRとなる凸型(オス型)と凹型(メス型)の金型を作製した。前記多層体は成形前に90℃で1分間予備加熱し、ハードコート層の表面が凸になるように、金型に置き、金型温度120℃で3分間プレスを行い、自然冷却することにより、熱プレス成形体を作製した。
上記熱プレス成形体の曲げ部分のクラックを目視で評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。
A:熱プレス成形体の曲げ部分にクラックが確認されなかった。
B:熱プレス成形体の曲げ部分にクラックが確認された。
【0089】
<スプリングバック>
上記ハードコート層を塗装した多層体について、曲率半径が50mmRとなる凸型(オス型)と凹型(メス型)の金型を作製した。前記多層体は成形前に90℃で1分間予備加熱し、ハードコート層の表面が凸になるように、金型に置き、金型温度120℃で10分間プレスを行い、自然冷却することにより、熱プレス成形体を作製した。
上記熱プレス成形体を50mmRの円筒に沿わせて、下記の基準でスプリングバックを評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。B以上が実用レベルである。
A:スプリングバック量が5mmR未満
B:スプリングバック量が5mmR以上25mmR未満
C:スプリングバック量が25mmR以上
【0090】
<(メタ)アクリル樹脂層の外観>
上記得られた多層体の(メタ)アクリル樹脂層の外観を目視にて観察し、以下の通り評価した。評価は、5人の専門家が行い、多数決で判断した。B以上が実用レベルである。
A:透明かつブツがほとんど認められなかった
B:若干のブツが認められたが、比較例1を基準として良外観であった
C:シート全面にブツが認められた
【0091】