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特開2022-158942モータ駆動装置、モータ駆動方法及びコンピュータ読み取り可能な媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158942
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】モータ駆動装置、モータ駆動方法及びコンピュータ読み取り可能な媒体
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/00 20160101AFI20221006BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H02P23/00
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021147
(22)【出願日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】202110347833.5
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】日本電産エレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】岩上 直記
(72)【発明者】
【氏名】立花 亮
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505EE49
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ28
5H505KK05
5H505LL44
5H505MM06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】適切な制限率で指令トルクを制限することができ、インバータ回路を確実に熱保護することができるモータ駆動装置、方法およびコンピュータ可読媒体を提供する。
【解決手段】モータ駆動装置は、指令トルクに基づいてモータを制御するモータ駆動装置であって、ケースと、ケース内に収納されたコンデンサおよびパワーモジュールとを備え、コンデンサのコンデンサ温度と、パワーモジュールのパワーモジュール温度と、ケース内のケース内温度とをそれぞれ検出する温度検出部と、指令トルクと、温度検出部が検出したコンデンサ温度と、パワーモジュール温度と、ケース内温度とに基づいて、指令トルクを制限するトルク制限率を決定する制限率決定部と、制限率決定部が決定したトルク制限率に基づいてトルク上限値を算出し、指令トルクとトルク上限値とのうち小さい方のトルクを目標トルクとしてモータを制御するトルク制御部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ駆動装置であって,該モータ駆動装置は外部からの指令トルクに基づいてモータを制御し,ケース及び前記ケース内に収納されるコンデンサ及びパワーモジュールを含み,その特徴は,以下を含むことである:
温度検出部であって,該温度検出部はそれぞれ前記コンデンサのコンデンサ温度、前記パワーモジュールのパワーモジュール温度及び前記ケース内のケース内温度を検出し、
制限率決定部であって,該制限率決定部は前記指令トルク、及び前記温度検出部により検出された前記コンデンサ温度、前記パワーモジュール温度及び前記ケース内温度に基づき,前記指令トルクを制限するトルク制限率を決定し、
トルク制御部であって、前記制限率決定部が決定した前記トルク制限率に基づいてトルク上限値を算出し、前記指令トルクと前記トルク上限値とのうち小さい方のトルクを目標トルクとして前記モータを制御する。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動装置であって,
前記制限率決定部は、
前記ケース内温度と前記コンデンサ温度とのうち高い方の温度が予め定められた第1温度閾値を超えたときに、該高い方の温度に基づいて第1制限率を決定し、
前記パワーモジュール温度が予め決定された第2温度閾値を超えた場合,前記パワーモジュール温度に基づいて第2制限率を決定し、
前記第1制限率と前記第2制限率のうち小さい方の制限率を前記トルク制限率とすることを特徴とする。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動装置であって,
前記制限率決定部は、前記指令トルクが予め定められたトルク閾値を超えたときに、前記第1温度閾値に代えて前記第1温度閾値よりも低い第3温度閾値で前記第1制限率を決定することを特徴とする。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のモータ駆動装置であって,
前記第1制限率及び前記第2制限率は、温度が上昇するにつれて、温度を横軸とし制限率を縦軸とする第1の曲線に沿って100%から0%まで徐々に減少することを特徴とする。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動装置であって,
前記トルク制御部が前記目標トルクで前記モータを制御した後、前記第1制限率および前記第2制限率は、温度の低下に伴って、前記第1の曲線より5℃低い第2の曲線に沿って徐々に100%に戻ることを特徴とする。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載のモータ駆動装置であって,
前記モータ駆動装置はさらに制御基板を含み,該制御基板に前記パワーモジュールを制御する制御部が取り付けられ,前記制御部は前記温度検出部、前記制限率決定部及び前記トルク制御部を含み,前記制御基板、前記コンデンサ及び前記パワーモジュールは前記モータ駆動装置の厚み方向に沿って順に積層して前記ケース内に配置され
前記温度検出部は以下を含む:
第1の温度検出素子であって,該第1の温度検出素子は前記コンデンサに取り付けられ,前記コンデンサの温度を検出し、
第2の温度検出素子であって,該第2の温度検出素子は前記パワーモジュールに取り付けられ,前記パワーモジュールの温度を検出し、
第3の温度検出素子であって,該第3の温度検出素子は前記制御基板に取り付けられ,前記ケース内の温度を検出する、
ことを特徴とする。
【請求項7】
モータ駆動方法であって,該モータ駆動方法はモータ駆動装置に用いられ,前記モータ駆動装置は外部からの指令トルクに基づいてモータを制御し,ケース及び前記ケース内に収納されるコンデンサとパワーモジュールを含み,前記モータ駆動方法の特徴は,以下を含むことである:
温度検出ステップであって,該温度検出ステップにおいて,それぞれ前記コンデンサのコンデンサ温度、前記パワーモジュールのパワーモジュール温度及び前記ケース内のケース内温度を検出し、
制限率決定ステップであって,該制限率決定ステップにおいて,前記指令トルク、及び前記温度検出ステップにより検出された前記コンデンサ温度、前記パワーモジュール温度及び前記ケース内温度に基づき,前記指令トルクを制限するトルク制限率を決定し、
トルク制御ステップであって、前記制限率決定ステップで決定された前記トルク制限率に基づいてトルク上限値を算出し、前記指令トルクと前記トルク上限値とのうち小さい方のトルクを目標トルクとして前記モータを制御する、
ことを特徴とする。
【請求項8】
請求項7に記載のモータ駆動方法であって,
前記制限率決定ステップにおいて
前記ケース内温度と前記コンデンサ温度とのうち高い方の温度が予め定められた第1温度閾値を超えたときに、該高い方の温度に基づいて第1制限率を決定し、
前記パワーモジュール温度が予め決定された第2温度閾値を超えた場合,前記パワーモジュール温度に基づいて第2制限率を決定し、
前記第1制限率と前記第2制限率とのうち小さい方の制限率を前記トルク制限率とすることを特徴とする。
【請求項9】
請求項8に記載のモータ駆動方法であって,
前記制限率決定ステップにおいて、
前記指令トルクが予め定められたトルク閾値を超えるときには、前記第1温度閾値に代えて前記第1温度閾値よりも低い第3温度閾値で前記第1制限率を決定することを特徴とする。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のモータ駆動方法であって,
前記第1制限率及び前記第2制限率が温度の上昇に伴って,温度を横軸とし、制限率を縦軸とする第1の曲線に沿って100%から0%まで徐々に減少することを特徴とする。
【請求項11】
請求項10に記載のモータ駆動方法であって,
前記トルク制御ステップにより前記目標トルクで前記モータを制御した後、前記第1制限率および前記第2制限率は、温度の低下に伴って、前記第1の曲線より5℃低い第2の曲線に沿って徐々に100%に戻ることを特徴とする。
【請求項12】
コンピュータ読み取り可能な媒体であって,該コンピュータ読み取り可能な媒体は以下のプログラムを記憶し,該プログラムは請求項7から11のいずれか一項に記載のモータ駆動方法を実行することに用いられることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置、モータ駆動方法、およびそのモータ駆動方法を実行するプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体に関し、特に、電気自動車等のモータを、車両コントローラからの指令トルクに応じてインバータ回路により駆動するモータ駆動装置およびモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ駆動装置に用いられるインバータ回路では、パワーモジュールを構成するサイリスタやIGBTなどのスイッチング素子が過熱破壊しやすいため、通常、インバータ回路の温度に応じてモータECU(Electronic Control Unit)の電流指令値に制限率を設ける。
具体的には、例えばインバータ回路の温度を横軸とし電流指令値の制限率を縦軸とする制限率低減曲線上において、制限率をスイッチング素子の温度がある特定の基準温度から別の基準温度まで上昇するまでの間に100%から0%に徐々に変化させる。
【0003】
しかしながら、上記2つの基準温度を固定値とすると、正確な制限率を算出することが困難であり、過保護や保護不足を招くおそれがあるという問題がある。
このような問題に対処するために、例えば、特許文献1では、インバータ回路の電流をスイッチング素子の温度とともに変数として制限率低減カーブの基準温度を調整することが提案されている。
この態様によれば、検出されたスイッチング素子の温度にばらつきがあっても、そのばらつきを補正することができ、過保護や保護不足の発生を防止することができる。
また、従来、VCUからの指令トルクに基づいてモータを制御する技術もある。
【0004】
この場合、過電流、過電圧、温度上昇等によるインバータ、モータ等の破損を防止するために、モータの回転数とトルクとの対応テーブルを参照し、回転数からトルク上限値を算出し、このトルク上限値に基づいて指令トルクを制限することが一般的である。
しかしながら、モータ回転数に応じて設定された固定値のみでトルク制限を行うと、上り坂や下り坂が続く場合など低回転、高トルクを維持する必要がある場合に対応することが困難である。
このような問題に対処するために、例えば、特許文献2では、モータ温度、スイッチング素子温度、およびスイッチング素子が実装された基板の温度のうちの少なくとも1つ以上の温度に基づいて指令トルクの制限率を算出し、制限された指令トルクに基づいてモータを制御することが提案されている。
【0005】
この態様によれば、上り坂や下り坂が続く場合など、テーブルを用いて指令トルクを制限することが困難な場合であっても、適切なトルク制限を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3430907号公報
【特許文献2】特開2019-193445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、温度に応じて指令トルクの制限率を決定するにあたっては、モータ、スイッチング素子、またはスイッチング素子が実装された基板の温度を考慮することが一般的であった。
しかしながら、スイッチング素子を有するパワーモジュールが、スイッチング素子を流れる電流を平滑するコンデンサと共にケース内に収納されている場合には、スイッチング素子に加えてインバータ回路における他の発熱素子の温度上昇がモータ駆動装置の熱保護に影響を与える。
また、指令トルクの大きさもモータ駆動装置の熱保護に影響を与える。
例えば、指令トルクが大きいほどインバータ回路の過熱の危険性が高くなるので、熱保護対策が厳しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、適切な制限率で指令トルクを制限することができ、インバータ回路を確実に熱保護して故障の発生を防止することができるモータ駆動装置、モータ駆動方法、およびそのモータ駆動方法を結果的に実行するプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体を得ることにある。
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るモータ駆動装置は、外部からの指令トルクに基づいてモータを制御するモータ駆動装置であって、ケースと、前記ケース内に収納されたコンデンサおよびパワーモジュールとを備えたモータ駆動装置において、前記コンデンサのコンデンサ温度、前記パワーモジュールのパワーモジュール温度および前記ケース内のケース内温度をそれぞれ検出する温度検出部と、前記指令トルク、および前記温度検出部が検出した前記コンデンサ温度、前記パワーモジュール温度および前記ケース内温度に基づいて、前記指令トルクを制限するトルク制限率を決定する制限率決定部と、前記制限率決定部が決定した前記トルク制限率に基づいてトルク上限値を算出し、前記指令トルクおよび前記トルク上限値のうち小さい方のトルクを目標トルクとして前記モータを制御するトルク制御部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
上記モータ駆動装置によれば、コンデンサおよびパワーモジュールの温度に加えて、ケース内の温度を検出し、コンデンサ温度、パワーモジュール温度およびケース内温度に基づいて、指令トルクを制限するトルク制限率を決定するので、従来に比べて、各発熱素子の温度上昇によるモジュール内の温度上昇を総合的に考慮した上で熱保護を行うことができ、故障の発生を確実に防止することができる。
【0010】
また、指令トルクの大きさに基づいてトルク制限率を決定するので、指令トルクが大きい場合に保護を強化する効果を得ることができる。
【0011】
また、本発明の請求項2に係るモータ駆動装置は、前記制限率決定部は、前記ケース内温度および前記コンデンサ温度のうち高い方の温度が予め定められた第1の温度閾値を超えたときに、当該高い方の温度に基づいて第1の制限率を決定し、前記パワーモジュール温度が予め定められた第2の温度閾値を超えたときに、前記パワーモジュール温度に基づいて第2の制限率を決定し、前記第1の制限率および前記第2の制限率のうち小さい方の制限率を前記トルク制限率とすることを特徴とする。
【0012】
上記モータ駆動装置によれば、各発熱素子の温度を総合的に考慮した上で、相対的に小さい、すなわち厳しい制限率を選択して指令トルクを制限することができ、より適切な制限率を得ることができ、故障の発生をより確実に防止することができる。
【0013】
また、本発明の請求項3に係るモータ駆動装置は、前記制限率決定部は、前記指令トルクが予め定められたトルク閾値を超えたときに、前記第1の温度閾値に代えて前記第1の温度閾値よりも低い第3の温度閾値で前記第1の制限率を決定することを特徴とする。
【0014】
上記モータ駆動装置によれば、指令トルクが大きい場合には、ケース内温度やコンデンサ温度が低くても、それを適切に制限することができるので、熱保護の効果が増し、故障の発生をさらに防止することができる。
【0015】
また、本発明の請求項4に係るモータ駆動装置は、前記第1の制限率および前記第2の制限率は、温度が高くなるにつれて、温度を横軸とし制限率を縦軸とする第1の曲線に沿って100%から0%まで徐々に減少することを特徴とする。
【0016】
上記モータ駆動装置によれば、高温時に制限率を小さくして、熱保護の効果を得ることができる。
【0017】
また、低温時に制限率を増大させることにより、過保護を回避することができる。
【0018】
また、本発明の請求項5に係るモータ駆動装置は、前記トルク制御部が前記目標トルクで前記モータを制御した後、前記第1の制限率および前記第2の制限率は、温度の低下に伴って、前記第1の曲線より5℃低い第2の曲線に沿って徐々に100%に戻ることを特徴とする。
【0019】
上記モータ駆動装置によれば、温度が低下した直後に制限率を回復させるのではなく、安定して5℃低下した後に徐々に回復を開始するので、熱保護効果を一定時間安定させて故障の発生をより確実に防止することができる。
【0020】
また、本発明の請求項6に係るモータ駆動装置は、前記モータ駆動装置は、前記パワーモジュールを制御する制御部が実装された制御基板をさらに備え、前記制御部は、前記温度検出部と、前記制限率決定部と、前記トルク制御部とを含み、前記制御基板と、前記コンデンサと、前記パワーモジュールとは、前記モータ駆動装置の厚み方向に順次積層されて前記ケース内に配置され、前記温度検出部は、前記コンデンサに実装され、前記コンデンサ温度を検出する第1の温度検出素子と、前記パワーモジュールに実装され、前記パワーモジュール温度を検出する第2の温度検出素子と、前記制御基板に実装され、前記ケース内温度を検出する第3の温度検出素子とを含むことを特徴とする。
【0021】
上記モータ駆動装置によれば、各発熱素子の温度上昇によるモジュール内の温度上昇を簡単な構成で総合的に検出することができ、より確実に熱保護を行うことができる。
また、本発明の請求項7に係るモータ駆動方法は、外部からの指令トルクに基づいてモータを制御するモータ駆動装置に用いられるモータ駆動方法であって、ケースおよび前記ケース内に収納されたコンデンサおよびパワーモジュールを備え、前記モータ駆動方法は、前記コンデンサのコンデンサ温度、前記パワーモジュールのパワーモジュール温度および前記ケース内のケース内温度をそれぞれ検出する温度検出ステップと、前記指令トルクおよび前記温度検出ステップで検出された前記コンデンサ温度、前記パワーモジュール温度および前記ケース内温度に基づいて、前記指令トルクを制限するトルク制限率を決定する制限率決定ステップと、前記制限率決定ステップで決定された前記トルク制限率に基づいてトルク上限値を算出し、前記指令トルクおよび前記トルク上限値のうち小さい方のトルクを目標トルクとして前記モータを制御するトルク制御ステップとを含むことを特徴とする。
【0022】
上記モータ駆動方法によれば、コンデンサおよびパワーモジュールの温度に加えて、ケース内の温度を検出し、コンデンサ温度、パワーモジュール温度およびケース内温度に基づいて、指令トルクを制限するトルク制限率を決定するので、従来に比べて、各発熱素子の温度上昇によるモジュール内の温度上昇を総合的に考慮した上で熱保護を行うことができ、故障の発生を確実に防止することができる。
【0023】
また、指令トルクの大きさに基づいてトルク制限率を決定するので、指令トルクが大きい場合に保護を強化する効果を得ることができる。
【0024】
また、本発明の請求項8に係るモータ駆動方法は、前記制限率決定ステップでは、前記ケース内温度および前記コンデンサ温度のうち高い方の温度が予め定められた第1の温度閾値を超えたときに、当該高い方の温度に基づいて第1の制限率を決定し、前記パワーモジュール温度が予め定められた第2の温度閾値を超えたときに、前記パワーモジュール温度に基づいて第2の制限率を決定し、前記第1の制限率および前記第2の制限率のうち小さい方の制限率を前記トルク制限率とすることを特徴とする。
【0025】
上記モータ駆動方法によれば、各発熱素子の温度を総合的に考慮した上で、相対的に小さい、すなわち厳しい制限率を選択して指令トルクを制限することができ、より適切な制限率を得ることができ、故障の発生をより確実に防止することができる。
【0026】
また、本発明の請求項9に係るモータ駆動方法は、前記制限率決定ステップでは、前記指令トルクが予め定められたトルク閾値を超えたときに、前記第1の温度閾値に代えて前記第1の温度閾値よりも低い第3の温度閾値で前記第1の制限率を決定することを特徴とする。
【0027】
上記モータ駆動方法によれば、指令トルクが大きい場合には、ケース内温度やコンデンサ温度が低くても、それを適時に制限することができるので、熱保護の効果が増し、故障の発生をさらに防止することができる。
【0028】
また、本発明の請求項10に係るモータ駆動方法は、前記第1の制限率および前記第2の制限率は、温度が高くなるにつれて、温度を横軸とし制限率を縦軸とする第1の曲線に沿って100%から0%まで徐々に減少することを特徴とする。
上記モータ駆動方法によれば、高温時に制限率を小さくすることにより、熱保護の効果を得ることができる。
【0029】
また、低温時に制限率を増大させることにより、過保護を回避することができる。
【0030】
また、本発明の請求項11に係るモータ駆動方法は、前記トルク制御ステップにより前記目標トルクで前記モータを制御した後、前記第1の制限率および前記第2の制限率は、温度の低下に伴い、前記第1の曲線より5℃低い第2の曲線に沿って徐々に100%に戻ることを特徴とする。
【0031】
上記モータ駆動方法によれば、温度が低下した直後に制限率を回復させるのではなく、安定して5℃低下した後に徐々に回復を開始するので、熱保護効果を一定時間安定させて故障の発生をより確実に防止することができる。
【0032】
また、本発明の第12の態様に係るコンピュータ読み取り可能な媒体は、本発明の第7の態様乃至第11の態様のいずれかに記載のモータ駆動方法を実行するためのプログラムを記憶している。
【0033】
上記コンピュータ読み取り可能な媒体によれば、本発明のモータ駆動方法のプログラムを、CPU等の制御部を用いて簡単に実行することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係るモータ駆動装置、モータ駆動方法、およびそのモータ駆動方法を実行させるプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体によれば、適切な制限率で指令トルクを制限することができ、インバータ回路を確実に熱保護して故障の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1は、本発明に係るモータ駆動装置の構成を示す模式図である。
【0036】
図2は、本発明に係るモータ駆動装置を含むモータ制御システムの構成を示すブロック図である。
【0037】
図3(a)は、指令トルクがトルク閾値を超えないときの第1制限率と温度との関係の一例を示すグラフである。
【0038】
図3(b)は、指令トルクがトルク閾値を超えたときの第1制限率と温度との関係の一例を示すグラフである。
【0039】
図4は、第2制限率と温度との関係の一例を示すグラフである。
【0040】
図5は、制限率復帰時の一例を示すグラフである。
【0041】
図6は、本発明に係るモータ駆動方法を示すフローチャートである。
【0042】
図7は、図6における制限率決定ステップの具体的な内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、図1および図2を参照して、本実施の形態に係るモータ駆動装置の構成について説明する。
【0044】
図1は、本実施形態に係るモータ駆動装置100の構成を示す模式図であり、図2は、モータ駆動装置100を含むモータ制御システムの構成を示すブロック図である。
【0045】
図1に示すように、モータ駆動装置100は、ケース4を備え、ケース4の内部には、パワーモジュール1、コンデンサ2および制御基板3が厚み方向(図中上下方向)に順次積層配置されている。
【0046】
なお、図1は積層配置を模式的に示したものに過ぎず、実際の位置関係はこれに限定されるものではない。
【0047】
パワーモジュール1は、例えば、インバータ回路を構成するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等のスイッチング素子およびFWD(Freewheeling Diode:フリーホイールダイオード)チップが特定の回路でブリッジパッケージされて構成されたモジュール化半導体である。
【0048】
インバータ回路40の動作時には、IGBTの性能は温度の影響を受けやすく、一般にピーク電流によって3秒程度で熱飽和する。
【0049】
コンデンサ2は、パワーモジュール1におけるIGBT等のスイッチング素子に流れる電流を平滑する。
【0050】
回路動作時には、コンデンサの性能も温度の影響を受けやすく、一般に定格電流に応じて60分程度で熱飽和する。
【0051】
制御基板3は、パワーモジュール1の駆動を制御するためのものである。
【0052】
制御基板3には、パワーモジュール1を制御するCPU(Central Processing Unit)等の制御部およびその周辺回路が搭載されている。
【0053】
また、図1に示すように、本実施形態では、コンデンサ2、パワーモジュール1および制御基板3に、それぞれ第1の温度検出素子10a、第2の温度検出素子10bおよび第3の温度検出素子10cが実装されている。
【0054】
コンデンサ2およびパワーモジュール1の内部には、それぞれ第1の温度検出素子10aおよび第2の温度検出素子10bが収納されている。
【0055】
制御基板3の表面には、第3の温度検出素子10cが実装されている。
【0056】
図1では、温度検出素子の位置関係のみを模式的に示しているが、温度検出素子の位置関係はこれに限定されない。
【0057】
ここで、第1の温度検出素子10aは、コンデンサ2の温度、すなわちコンデンサ温度を検出する。
【0058】
第2の温度検出素子10bは、パワーモジュール1の温度、すなわちパワーモジュール温度を検出する。
【0059】
また、制御基板3は、コンデンサ2およびパワーモジュール1とともにケース4内に配置されているので、制御基板3に取り付けられた第3の温度検出素子10cにより、ケース4内部の温度、すなわちケース内温度を検出することができる。
【0060】
これら温度検出素子10a、10b、10cは、共に後述する温度検出部10を構成する。
【0061】
図2に示すように、モータ駆動装置100は、例えば上流のVCU(Vehicle control unit)200と下流のモータ300とにそれぞれ接続され、VCU200(外部)からの指令トルクに基づいてモータ300を制御する。
【0062】
モータ駆動装置100は、温度検出部10と、制限率決定部20と、トルク制御部30とを備える。
【0063】
温度検出部10は、例えば、第1の温度検出素子10aと、第2の温度検出素子10bと、第3の温度検出素子10cとをコンデンサ2のコンデンサ温度、パワーモジュール1のパワーモジュール温度およびケース4内のケース内温度を検出する。
【0064】
温度検出素子としては、例えばサーミスタ、熱電対又は温度センサ等が挙げられる。
【0065】
制限率決定部20は、温度検出部10からコンデンサ温度、パワーモジュール温度およびケース内温度を取得するとともに、VCU200から指令トルクを取得し、取得したコンデンサ温度、パワーモジュール温度、ケース内温度および指令トルクに基づいて、指令トルクを制限するトルク制限率を決定する。
【0066】
トルク制限率を決定する具体的な方法については、後に詳述する。
【0067】
トルク制御部30は、その決定したトルク制限率を制限率決定部20から取得し、指令トルクをVCU200から取得するとともに、取得したトルク制限率に基づいてトルク上限値を算出し、指令トルクとトルク上限値のうち小さい方のトルクを目標トルクとしてモータ300を制御する。
【0068】
具体的には、トルク制御部30は、例えば、制限率決定部20からのトルク制限率とトルク制限値とを乗算することによりトルク上限値を算出し、算出したトルク上限値と指令トルクとのうち小さい方のトルクを目標トルクとしてもよい。
【0069】
トルク制限値とは、例えば、トルク制御部30が予め記憶している、モータ回転数を横軸、トルクを縦軸とするテーブルに基づいて、回転数に応じて決定されるトルク値である。
【0070】
このように、トルク上限値は、トルク制限値にトルク制限率を乗じた値であるため、トルク制限率が小さくても、必ずしも制限が弱いことを意味するものではない。
【0071】
本実施形態において、制限率決定部20およびトルク制御部30は、例えば、上述したような制御基板3上の制御部に含まれる。
【0072】
また、モータ駆動装置100は、インバータ回路40をさらに備える。
【0073】
このインバータ回路40は、上述したように、例えばIGBT等のスイッチング素子およびFWD等の素子により構成されている。
【0074】
図2では、インバータ回路40をトルク制御部30で直接制御する構成のみを模式的に示しているが、実際にはトルク制御部30とインバータ回路40との間に種々の変換回路を配置し、目標トルクを電流指令に変換し、さらに電圧指令に変換し、電圧指令のデューティ比に基づく三相PWM信号を駆動信号としてインバータ回路40に出力してインバータ回路40におけるIGBT等のスイッチング素子をスイッチング制御することにより、インバータ回路40がモータ300に電圧を印加してモータ300を制御するようにしてもよい。
【0075】
上記変換回路の詳細な構造及び動作方式については,従来技術における様々な構造及び方法を参照することができ,ここでは説明を省略する。
【0076】
本実施形態のモータ駆動装置100の上記構成によれば、コンデンサ2およびパワーモジュール1の温度に加えて、制御基板3に実装された第3の温度検出素子10cによりケース4内の温度を検出し、コンデンサ温度とパワーモジュール温度とケース内温度とに基づいて、指令トルクを制限するトルク制限率を決定するので、従来に比べて、各発熱素子の温度上昇によるモジュール内の温度上昇を総合的に考慮した上で熱保護を行うことができ、故障の発生を確実に防止することができる。
【0077】
また、種々の温度を考慮するとともに、指令トルクの大きさも考慮してトルク制限率を決定するので、指令トルクが大きい場合にさらに保護を強化する効果を得ることができる。
【0078】
次に、図3図5を参照して、制限率決定部20がトルク制限率を決定する具体的な方法について説明する。
【0079】
図3(a)は、指令トルクがトルク閾値を超えていないときの第1制限率と温度との関係の一例を示すグラフであり、図3(b)は、指令トルクがトルク閾値を超えているときの第1制限率と温度との関係の一例を示すグラフであり、図4は、第2制限率と温度との関係の一例を示すグラフであり、図5は、制限率復帰時の一例を示すグラフである。
【0080】
制限率決定部20は、まず、温度検出部10からのケース内温度とコンデンサ温度との両者を比較し、高い方の温度を選出する。
【0081】
次に、制限率決定部20は、VCU200からの指令トルクが予め定められたトルク閾値を超えたか否かを判断する。
【0082】
トルク閾値としては、連続駆動に影響を与えない値とすることが好ましい。
【0083】
例えば、トルク閾値は、トルク低下等の性能への影響がないように設定される。
【0084】
図3(a)に示すように、指令トルクがトルク閾値を超えていない場合、制限率決定部20は、第1の温度検出素子10aが検出した温度、および第3の温度検出素子10cが検出した温度のうち高い方の温度が、予め定められた第1温度閾値を超えているか否かを判断する。
【0085】
第1の温度閾値は、フィルムコンデンサが故障することなく動作できる最大温度に設定することが好ましい。
【0086】
そして、制限率決定部20は、上記高い方の温度に基づいて第1制限率を決定する。
【0087】
具体的には、上記高い方の温度が第1温度閾値に達していない場合には、図3(a)に破線左側に示すように、第1制限率を100%に保持する。
【0088】
上記高い方の温度が第1の温度閾値を超えた場合には、図3(a)に破線より右側に示すように、温度の上昇に伴って、第1の制限率を、温度を横軸とし制限率を縦軸とする降下カーブに沿って100%から徐々に減少させる。
【0089】
図示のように、温度が第1の温度閾値よりも高い温度、例えば10℃に上昇すると、第1の制限率は0%に低下する。
【0090】
一方、図3(b)に示すように、制限率決定部20は、指令トルクがトルク閾値を超えた場合には、上記高い方の温度が予め定められた第3温度閾値を超えているか否かを判定する。
【0091】
この第3温度閾値は、第1温度閾値よりも低い値である。
【0092】
そして、制限率決定部20は、上記高い方の温度に基づいて第1制限率を決定する。
【0093】
具体的には、上記高い方の温度が第3温度閾値に達していない場合には、図3(b)に破線左側に示すように、第1制限率を100%に保持する。
【0094】
上記高い方の温度が第3の温度閾値を超えた場合には、図3(b)に破線より右側に示すように、温度の上昇に伴って、第1の制限率を、温度を横軸とし制限率を縦軸とする降下カーブに沿って100%から徐々に減少させる。
【0095】
図に示すように、温度が第3の閾値よりも高い温度に上昇すると、第1の制限率は0%に低下する。
【0096】
その後、図4に示すように、制限率決定部20は、第2の温度検出素子10bからのパワーモジュール温度が予め定められた第2温度閾値を超えたか否かを判断する。
【0097】
第2温度閾値は、パワーモジュールが故障することなく動作できる最大温度とすることが好ましい。
【0098】
具体的には、パワーモジュール温度が第2温度閾値に達していないときには、図4において破線左側に示すように、第2制限率を100%に保持する。
【0099】
パワーモジュール温度が第2温度閾値に達したときにトルク制限を開始する、すなわち、図4において破線より右側に示すように、第2制限率を温度を横軸とし制限率を縦軸とする減少曲線に沿って100%から徐々に減少させる。
【0100】
図示するように、パワーモジュール温度が第2の温度閾値よりも例えば10℃高い温度まで上昇すると、インバータ回路40が有する限界値(すなわちインバータ回路の変換能力)の影響により、第2の制限率は0%まで低下し、トルクは0Nmに制限される。
【0101】
そして、制限率決定部20は、決定した第1制限率および第2制限率のうち小さい方の制限率をトルク制限率としてトルク制御部30に出力する。
【0102】
上記制限率決定部20によれば、各発熱素子の温度を総合的に考慮した上で、相対的に小さい、すなわち厳しい制限率を選択して指令トルクを制限することができ、より適切な制限率を得ることができ、故障の発生をより確実に防止することができる。
【0103】
また、上記制限率決定部20により、指令トルクが大きい場合には、ケース内温度やコンデンサ温度が低くても、これを適切に制限することができるので、熱保護の効果が増し、故障の発生をさらに防止することができる。
【0104】
また、上記制限率決定部20により、高温時に制限率を小さくすることで、熱保護の効果を得ることができる。
【0105】
また、低温時に制限率を増大させることにより、過保護を回避することができる。
【0106】
また、温度検出部10は、トルク制御部30が制限率決定部20からのトルク制限率に基づいて得られる目標トルクでモータ300を制御した後も、コンデンサ温度、パワーモジュール温度およびケース内温度の検出を継続する。
【0107】
制限率決定部20は、温度検出部10により検出された温度が低下し始めると、温度の低下に伴ってトルク制限率を図5の矢印方向に徐々に100%に戻す。
【0108】
具体的には、図5に示すように、温度が第1の温度閾値を超えて上昇したときに第1の制限率が第1の曲線Aに沿って100%から徐々に減少し、温度が第1の温度閾値よりも例えば10℃高い温度に達したときに第1の制限率が0%とする。
【0109】
一方、制限率決定部20は、トルク制限開始後に温度低下が生じた場合には、第1の制限率を第1の曲線Aより5℃低い第2の曲線Bに沿って徐々に100%に戻す。
【0110】
例えば、温度が低下し始めると、第1の制限率を0%に保ったまま、温度が第1の温度閾値よりも例えば5℃高い温度まで低下するまで、第1の制限率を徐々に回復させ始める。
【0111】
温度が第1の温度閾値よりも低い温度、例えば5℃に低下したとき、第1の制限率は100%に戻る。
【0112】
また、例えば、第1の温度検出素子10aが検出する温度と第3の温度検出素子10cが検出する温度とのうち高い方の温度が第1温度閾値より2℃高い温度であれば、第1の曲線Aに基づいて制限率が決定される。
【0113】
その後、温度が第1温度閾値よりも3℃低い温度まで低下すると、第2の曲線Bに基づいて制限率徐々に回復させる。
【0114】
ここで、第1の曲線A及び第2の曲線Bは、いずれもディレーティング曲線(Derating Curve)を意味する。
【0115】
以上、第1制限率を例にしてトルク制限率が回復する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0116】
上記トルク制限率復帰の場合は、第2制限率についても同様である。
【0117】
上記構成によれば、温度が低下した直後に制限率を回復させるのではなく、5℃の安定した低下後に徐々に回復を開始するので、熱保護効果を一定時間安定させて、故障の発生をより確実に防止することができる。
【0118】
次に、図6および図7を参照して、本実施形態のモータ駆動方法について説明する。
【0119】
図6は、本実施形態に係るモータ駆動方法を示すフローチャートであり、図7は、図6における制限率決定ステップの具体的な内容を示すフローチャートである。
【0120】
また、本発明に係るモータ駆動装置100は、図6に示す各ステップを全運転中に繰り返し実行する。
【0121】
まず、温度検出ステップが開始される。図6に示すように、まず、温度検出部10における第1の温度検出素子10aによりコンデンサ2のコンデンサ温度を検出し(ステップS1)、第2の温度検出素子10bによりパワーモジュール1のパワーモジュール温度を検出し(ステップS2)、第3の温度検出素子10cによりケース4内のケース内温度を検出する(ステップS3)。
【0122】
次に、制限率決定部20は、第1の温度検出素子10a~第3の温度検出素子10cのそれぞれからコンデンサ温度、パワーモジュール温度およびケース内温度を取得するとともに、VCU200から指令トルクを取得し、この指令トルクと、上記コンデンサ温度、パワーモジュール温度およびケース内温度とに基づいて、指令トルクを制限するトルク制限率を決定する(ステップS4)。
【0123】
このステップS4の具体的な方法については、後に詳述する。
【0124】
次に、トルク制御ステップが開始される。そして、トルク制御部30は、決定したトルク制限率を制限率決定部20から取得し、このトルク制限率に基づいてトルク上限値を算出する(ステップS5)。
【0125】
トルク上限値の具体的な算出方法については上述した通りであり、ここでは説明を省略する。
【0126】
その後、トルク制御部30は、VCU200から指令トルクを取得し、指令トルクがトルク上限値よりも大きいか否かを判定する(ステップS6)。
【0127】
指令トルクがトルク上限値より大きいと判断された場合には(ステップS6:Yes)、目標トルクをトルク上限値とする(ステップS7)一方、指令トルクがトルク上限値以下であると判断された場合には(ステップS6:No)、目標トルクを指令トルクとする(ステップS8)。
【0128】
最後に、トルク制御部30によりモータ300を目標トルクで制御した後、温度検出部10によりコンデンサ温度、パワーモジュール温度またはケース内温度が低下したか否かを判断する(ステップS9)。
【0129】
温度が低下していないと判断した場合(ステップS9:NO)、ステップS4に戻り、継続して現在のコンデンサ温度とパワーモジュール温度とケース内温度と指令トルクとに基づいてトルク制限率を決定する。
【0130】
一方、温度が低下していると判断された場合には(ステップS9:YES)、トルク制限率を、上記トルク制限率を決定する際に用いた、温度を横軸とし制限率を縦軸とする第1の曲線A(ディレーティング曲線)よりも5℃低い第2の曲線B(ディレーティング曲線)に沿って徐々に100%に戻し(ステップ:S10)、今回のループを終了する。
【0131】
次に、図6のステップS4の詳細について説明する。
【0132】
図7に示すように、制限率決定ステップを開始すると、まず、制限率決定部20は、ケース内温度がコンデンサ温度より大きいか否かを判断する(ステップS401)。
【0133】
ケース内温度がコンデンサ温度よりも大きいと判断した場合(ステップS401:Yes)、制限率決定部20は、高い方の温度であるケース内温度に基づいて第1制限率を決定し、次いで、指令トルクがトルク閾値以下であるか否かを判断する(ステップS402)。
【0134】
指令トルクがトルク閾値よりも大きいとされた場合(ステップS402:NO)、制限率決定部20は、ケース内温度が第1温度閾値より大きいか否かの判定を継続する(ステップS403)。
【0135】
ケース内温度が第1温度閾値以下であると判断した場合(ステップS403:NO)、第1制限率を100%に固定する(ステップS404)。
【0136】
一方、ケース内温度が第1温度閾値より大きいと判断された場合には(ステップS403:Yes)、ケース内温度の上昇に伴って、第1制限率を、温度を横軸とし制限率を縦軸とする減少曲線に沿って100%から0%まで徐々に減少させることにより、ケース内温度に基づいて第1制限率を決定する(ステップS405)。
【0137】
一方、ステップS402において指令トルクがトルク閾値以下であると判断された場合(ステップS402:Yes)、制限率決定部20は、第1温度閾値に代えて、第1温度閾値よりも低い第3温度閾値で第1制限率を決定する。
【0138】
具体的には、制限率決定部20は、ケース内温度が第3温度閾値よりも大きいか否かの判定を継続する(ステップS406)。
【0139】
ケース内温度が第3温度閾値以下であると判断した場合(ステップS406:NO)、第1制限率を100%に固定する(ステップS407)。
【0140】
一方、ケース内温度が第3温度閾値より大きいと判断された場合には(ステップS406:Yes)、ケース内温度の上昇に伴って、第1制限率を、温度を横軸とし制限率を縦軸とする減少曲線に沿って100%から0%まで徐々に減少させることにより、ケース内温度に基づいて第1制限率を決定する(ステップS408)。
【0141】
また、ステップS401においてケース内温度がコンデンサ温度以下であると判断された場合(ステップS401:NO)、ステップS409~ステップS415が実行される。
【0142】
ステップS409~ステップS415については、コンデンサ温度を用いて第1制限率を決定する以外は、上述したステップS402~ステップS408と基本的に同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0143】
第1制限率を決定した後、制限率決定部20は、パワーモジュール温度が第2温度閾値より大きいか否かを判断する(ステップS416)。
【0144】
パワーモジュール温度が第2温度閾値以下であると判断した場合(ステップS416:NO)、第2制限率を100%に固定する(ステップS418)。
【0145】
一方、パワーモジュール温度が第2温度閾値より大きいと判断された場合(ステップS416:Yes)、パワーモジュール温度の上昇に伴って、第2制限率を、温度を横軸とし制限率を縦軸とする降下カーブに沿って100%から0%まで徐々に減少させることにより、パワーモジュール温度に基づいて第2制限率を決定する(ステップS417)。
【0146】
そして、制限率決定部20は、第1制限率が第2制限率以下であるか否かを判断する(ステップS419)。
【0147】
第1制限率が第2制限率以下であると判断した場合(ステップS419:YES)、トルク制限率を第1制限率とし(ステップS420)、制限率決定処理を終了する。
【0148】
一方、第1制限率が第2制限率よりも大きいと判断した場合(ステップS421:NO)、トルク制限率を第2制限率とし(ステップS421)、制限率決定処理を終了する。
【0149】
以上、本発明のモータ駆動方法をハードウェアで実現する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0150】
本発明のモータ駆動方法は、ソフトウェアで実現してもよいし、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせで実現してもよい。
【0151】
また、本発明のモータ駆動方法を実行するためのプログラムを、各種のコンピュータ読み取り可能な媒体に格納し、必要に応じて例えばCPU等にロードして実行するようにしてもよい。
【0152】
コンピュータ読み取り可能な媒体としては、特に限定されず、例えば、HDD、CD-ROM、CD-R、MO、MD、DVD等の光ディスク、ICカード、フレキシブルディスク、マスクROM、EPROM、EEPROM、フラッシュROM等の半導体メモリ等を用いることができる。
【0153】
なお、上記において、制限率が小さいと言った場合には、制限が厳しい場合を意味し、制限率が大きいと言った場合には、制限が緩い場合を意味する。
【0154】
例えば、制限率決定部20により決定された制限率が80%である場合、トルク上限値はトルク制限値に80%を乗じた値となり、制限率が30%である場合、トルク上限値はトルク制限値に30%を乗じた値となり、後者は小さい値となる。
【0155】
さらに、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0156】
本発明の範囲は上記した実施形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0157】
以上説明したように、本発明に係るモータ駆動装置、モータ駆動方法、およびそのモータ駆動方法を実行させるプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な媒体は、インバータを用いてモータのトルクを制御する上で有用である。
【符号の説明】
【0158】
1 パワーモジュール
2 コンデンサ
3 制御基板
4 ケース
10 温度検出部
10a 第1の温度検出素子
10b 第2の温度検出素子
10c 第3の温度検出素子
20 制限率決定部
30 トルク制御部
40 インバータ回路
100 モータ駆動装置
200 VCU
300 モータ
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7