(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158963
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20221006BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
G01N33/543 551A
G01N33/543 541Z
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030768
(22)【出願日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2021063362
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】椛嶋 恭平
(57)【要約】
【課題】中和抗体等の被検出物質が検体に含まれるか否かを簡便に検査できる検査方法を提供する。
【解決手段】被検出物質Aが検体に含まれるか否かを検査する方法であって、前記被検出物質Aは、作用物質Bに結合することにより、前記作用物質Bと被作用物質Cが所定の様式で結合することを阻害するものであり、少なくとも下記の第1処理~第2処理をこの順で行う、検査方法。(第1処理:前記検体と、標識物質が結合した前記作用物質Bと、を含む検体処理液を得る。)(第2処理:前記被作用物質Cを担持した粒子状不溶性担体を有する吸着体を、前記検体処理液に接触させた後、前記吸着体に対する前記標識物質の吸着量を計測する。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出物質Aが検体に含まれるか否かを検査する方法であって、
前記被検出物質Aは、作用物質Bに結合することにより、前記作用物質Bと被作用物質Cが所定の様式で結合することを阻害するものであり、
少なくとも下記の第1処理~第2処理をこの順で行う、検査方法。
(第1処理)
前記検体と、標識物質が結合した前記作用物質Bと、を含む検体処理液を得る。
(第2処理)
前記被作用物質Cを担持した粒子状不溶性担体を有する吸着体を、前記検体処理液に接触させた後、前記吸着体に対する前記標識物質の吸着量を計測する。
【請求項2】
前記第2処理において、前記計測の前に、前記吸着体と、前記吸着体に接触した後の前記検体処理液とをより分ける、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記より分ける方法が静置又は遠心分離であり、前記静置又は前記遠心分離によって生じた上清を除去した後で、前記計測を行う、請求項2に記載の検査方法。
【請求項4】
前記標識物質が金コロイドである、請求項1~3の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記計測の方法が比色法である、請求項1~4の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記第2処理で計測した前記吸着量が、所定値よりも小さい場合、
前記検体に前記被検出物質Aが含まれると判定し、
前記第2処理で計測した前記吸着量が、所定値よりも大きい場合、
前記検体に前記被検出物質Aが含まれないと判定する、
請求項1~5の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項7】
前記被検出物質Aが中和抗体であり、前記作用物質Bが病原体に由来するタンパク質であり、前記被作用物質Cは前記病原体が感染する細胞に由来するタンパク質である、請求項1~6の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項8】
前記被検出物質Aが中和抗体であり、前記作用物質Bは、コロナウイルスが有するスパイクタンパク質の一部又は全部であり、前記被作用物質Cは、ヒト又は動物の細胞が有する受容体タンパク質の一部又は全部である、請求項1~7の何れか一項に記載の検査方法。
【請求項9】
前記被検出物質Aが中和抗体であり、前記作用物質Bは、コロナウイルスが有するスパイクタンパク質の一部又は全部であり、前記被作用物質Cは、ヒト又は動物の細胞が有する受容体タンパク質の一部又は全部であり、前記標識物質が金コロイドであり、前記第2処理において、前記計測の前に、前記吸着体と、前記吸着体に接触した後の前記検体処理液とを静置又は遠心分離により分け、前記静置又は遠心分離によって生じた上清を除去した後で、前記計測を比色法で行う、請求項1に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体に中和抗体が含まれるか否かを検査することが可能な検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスが蔓延している現状、同ウイルスの感染に対する防御力を有しているか否かを判定することは大きな意義がある。同ウイルスは、ウイルス中に含まれるスパイクタンパク質(S1)とヒト又は動物の細胞が有する受容体タンパク質(アンジオテンシン変換酵素2、ACE2と称する場合がある)との結合を介して感染する。従って、ウイルス感染に対する防御力を有するということは、S1タンパク質とACE2の結合を阻害することが可能な「中和抗体」を体内に保有していることと言い換えられる。現在、被験者から得た血液などの検体中に中和抗体を検出する手法には、実際のウイルスを用いて行う培養細胞実験やELISA法と呼ばれる技術が存在している。しかし、高度な専門技術や専用の設備を要するため、検査を簡便に実施することができない。
【0003】
特許文献1には、ニトロセルロース膜に抗体等のタンパク質を固定したイムノクロマト法に関する器具が開示されている。
非特許文献1には、イムノクロマト法によって、被験者の血液等の検体に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する中和抗体があるか否かを検査する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】medRxiv preprint“A lateral flow test detecting SARS-CoV-2 neutralizing antibodies”Nan Zhang, Shuo Chen, Jin V. Wu, Xinhai Yang, Jianfu J. Wang、doi: https://doi.org/10.1101/2020.11.05.20222596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図11に、非特許文献1の検査方法(イムノクロマト法)の要部を模式的に示す。ここで、S1は新型コロナウイルスのスパイクタンパク質であり、ACE2はヒト細胞膜に存在する受容体ACE2である。
基本構成として、テープ状のニトロセルロース基材の上流側から下流側に向けて順に、領域W1、領域W2、領域W3が設けられている。
領域W1の上流側に検体を滴下し、基材に含浸させると、検体は下流側へ向けて基材に浸潤しながら流れる。検体の一例は中和抗体と非中和抗体を含む。領域W1には、金コロイドで標識されたS1が予め含浸されている。検体がW1に到達すると、検体はW1上でS1と接触し、これにより、中和抗体がS1に結合して複合体を形成し、非中和抗体もS1に結合して複合体を形成する。これらの複合体はさらに下流側へ向けて基材に浸潤しながら流れて、領域W2に到達する。
領域W2には、ACE2が予め固定化されている。S1とACE2は所定の様式で結合することが知られており、非中和抗体はS1とACE2の結合を阻害しないので、非中和抗体-S1複合体は領域W2においてACE2に捕捉され、領域W2に留まる。一方、中和抗体はS1とACE2の結合を阻害するので、中和抗体-S1複合体はACE2に捕捉されることなく、さらに下流側へ向けて基材に浸潤しながら流れて、領域W3に到達する。
領域W3には、抗ヒト抗体が予め固定化されている。中和抗体-S1複合体はこれに捕捉され、領域W3に留まる。S1には予め標識物質が結合されているので、領域W3に到達した標識物質を検出することにより、中和抗体が領域W3に到達したことを検知することができる。この結果から、検体に中和抗体が含まれると判定する。
【0007】
非特許文献1の検査方法を要約すると、次の3段階の処理を基材上で連続的に行う。
1)ヒトから得た検体を、標識されたS1と基材上で接触させ、処理液を得る。
2)処理液を、基材に固定されたACE2と接触させる。
3)処理液を、基材に固定された抗ヒト抗体と接触させる。
1)において、検体に含まれ得る中和抗体と非中和抗体がS1に結合して複合体となる。2)において、非中和抗体-S1複合体がACE2に捕捉され、処理液から除かれる。
3)において、中和抗体-S1複合体が抗ヒト抗体に捕捉される(基材上に固定される)。
最後に、3)で捕捉された中和抗体-S1複合体の有無を、S1が有する標識物質を検知することにより判定する。
【0008】
非特許文献1の検査方法では、ニトロセルロース基材の上流側から下流側へ検体が流れることによって上記1)~3)の処理が順に行われるが、上記2)の処理が不完全であっても検体は下流側に流され、上記3)の処理に移行してしまう問題がある。ニトロセルロース基材上の小さな面積に固定された少数のACE2が、全ての非中和抗体-S1複合体を捕捉して下流側への流出を防ぐことができない場合がある。このため、上記2)の処理が不充分になるリスクが常につきまとう。
また、非特許文献1の方法では、ACE2をニトロセルロース基材上に固定する必要がある。固定処理には乾燥が必要であり、製造プロセスの効率化のために加熱を行うことが多い。ACE2は立体的に高度な構造を有するタンパク質であり、加熱により変性し、機能が失活又は減弱するという問題がある。加熱工程を行う場合、上記2)の処理が不十分になるリスクが常につきまとう。
上記2)において処理液から非中和抗体が完全に除かれない場合、上記3)において中和抗体-S1複合体だけでなく、非中和抗体-S1複合体が抗ヒト抗体に捕捉される。この結果、検体中に中和抗体が存在せず、非中和抗体のみが存在する場合においても、上記判定において、陽性(中和抗体が存在する)という誤った判定(偽陽性)がなされてしまう、という問題がある。
また、加熱せずに乾燥を行うためには長時間の乾燥工程が必要となり、製造の効率が著しく低下する。
【0009】
本発明は、中和抗体等の被検出物質が検体に含まれるか否かを簡便に検査できる検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 被検出物質Aが検体に含まれるか否かを検査する方法であって、前記被検出物質Aは、作用物質Bに結合することにより、前記作用物質Bと被作用物質Cが所定の様式で結合することを阻害するものであり、少なくとも下記の第1処理~第2処理をこの順で行う、検査方法。
(第1処理)
前記検体と、標識物質が結合した前記作用物質Bと、を含む検体処理液を得る。
(第2処理)
前記被作用物質Cを担持した粒子状不溶性担体を有する吸着体を、前記検体処理液に接触させた後、前記吸着体に対する前記標識物質の吸着量を計測する。
[2] 前記第2処理において、前記計測の前に、前記吸着体と、前記吸着体に接触した後の前記検体処理液とをより分ける、[1]に記載の検査方法。
[3] 前記より分ける方法が静置又は遠心分離であり、前記静置又は前記遠心分離によって生じた上清を除去した後で、前記計測を行う、[2]に記載の検査方法。
[4] 前記標識物質が金コロイドである、[1]~[3]の何れか一項に記載の検査方法。
[5] 前記計測の方法が比色法である、[1]~[4]の何れか一項に記載の検査方法。
[6] 前記第2処理で計測した前記吸着量が、所定値よりも小さい場合、前記検体に前記被検出物質Aが含まれると判定し、前記第2処理で計測した前記吸着量が、所定値よりも大きい場合、前記検体に前記被検出物質Aが含まれないと判定する、[1]~[5]の何れか一項に記載の検査方法。
[7] 前記被検出物質Aが中和抗体であり、前記作用物質Bが病原体に由来するタンパク質であり、前記被作用物質Cは前記病原体が感染する細胞に由来するタンパク質である、[1]~[6]の何れか一項に記載の検査方法。
[8] 前記被検出物質Aが中和抗体であり、前記作用物質Bは、コロナウイルスが有するスパイクタンパク質の一部又は全部であり、前記被作用物質Cは、ヒト又は動物の細胞が有する受容体タンパク質の一部又は全部である、[1]~[7]の何れか一項に記載の検査方法。
[9] 前記被検出物質Aが中和抗体であり、前記作用物質Bは、コロナウイルスが有するスパイクタンパク質の一部又は全部であり、前記被作用物質Cは、ヒト又は動物の細胞が有する受容体タンパク質の一部又は全部であり、前記標識物質が金コロイドであり、前記第2処理において、前記計測の前に、前記吸着体と、前記吸着体に接触した後の前記検体処理液とを静置又は遠心分離により分け、前記静置又は遠心分離によって生じた上清を除去した後で、前記計測を比色法で行う、[1]に記載の検査方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被検出物質A(実施形態の一例:中和抗体)が検体に含まれるか否かを簡便に検査することができる。
被作用物質C(実施形態の一例:ACE2)は不溶性担体に担持されており、この不溶性担体と検体処理液を混合するため、検体処理液中の成分と充分に接触できる。このため、被作用物質Cと作用物質B(実施形態の一例:S1)とが結合する機会が充分に得られる。
また、被作用物質Cは不溶性担体に担持されているので、湿潤状態に保ちやすく、被作用物質Cの作用物質Bに対する結合力(結合機能)を充分に保持することができる。
また、被作用物質Cは不溶性担体に担持されているので、1つの検体の量(検体処理液の体積)が増えても、検体処理液に接触させる前記不溶性担体の量を増やすことは容易である。つまり、従来のイムノクロマト法では微量(数μL~数百μL)の検体しか取り扱えないが、本発明にあっては上限なく1つの検体の量を増やすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】金コロイドにストレプトアビジンを結合させる処理の概念図である。
【
図2】金コロイドで標識されたS1タンパク質を得る処理の概念図である。
【
図3】ACE2が表面に担持されたアガロースビーズを得る処理の概念図である。
【
図4】夾雑物質の存在下で、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される様子の概念図である。
【
図5】非中和抗体の存在下で、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される様子の概念図である。
【
図6】中和抗体の存在下で、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される様子の概念図である。
【
図7】中和抗体及び非中和抗体の存在下で、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される様子の概念図である。
【
図8】実施例1~2の結果の一つを示す写真である。
【
図9】実施例1~2の結果の一つを示す写真である。
【
図10】実施例1~2の結果の一つを示すグラフである。
【
図11】非特許文献1の検査方法の要点を説明するための模式図である。
【
図14】実施例7~8の結果の一つを示す写真である。
【
図16】実施例9~10の結果を示すグラフである。
【
図17】実施例11の結果の一つを示す写真である。
【
図19】実施例11の結果を近似する曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
本発明の一態様は、被検出物質Aが検体に含まれるか否かを検査する方法である。被検出物質Aは、例えば、作用物質Bに結合することにより、作用物質Bと被作用物質Cが所定の様式で結合することを阻害するものである。本態様の検査方法は、少なくとも下記の第1処理及び第2処理をこの順で行うことが好ましい。また、第1処理及び第2処理に加えて任意に他の処理を行ってもよい。
【0015】
第1処理は、前記検体と、標識物質が結合した作用物質Bと、を含む検体処理液を得る処理である。
第2処理は、被作用物質Cを担持した粒子状不溶性担体を有する吸着体を、前記検体処理液に接触させた後、前記吸着体に対する前記標識物質の吸着量を計測する処理である。
【0016】
前記検体は、被検出物質Aが含まれているか否かを検査する検査対象である。検査対象として、例えば、生体に由来する試料が挙げられる。ここではウイルスも生体に該当するものとする。
生体試料として、例えば、血液(全血)、血清、血漿、リンパ液、涙、唾液、鼻水、喀痰、皮脂、鼻腔や咽頭の付着物、尿、汗、糞便、その他の体液等が挙げられる。これらの生体試料は、必要に応じて適当な液性媒体に溶解又は分散することにより、液性試料とすることができる。
【0017】
生体試料として血液(全血)を用いる場合、血液中の血球成分、特に赤血球が混入すると、比色試験を妨害し、正確な値を得ることができない場合があるため、第1処理の前に、血清や血漿を得る前処理を行うことが好ましい。前処理の方法として、例えば、遠心分離法(上清を回収する)、ガラス繊維濾紙や血球成分が完全に通過できないポアサイズの多孔性シートによるフィルター法、多孔性膜担体を用いた分離法、コンドロイチン硫酸などとの接触により赤血球を凝集させた後に上清を回収する方法等が挙げられる。好ましい前処理方法としては、コンドロイチン硫酸などとの接触により赤血球を凝集させた後に上清を回収する方法である。
【0018】
被検出物質Aは、本態様の検査方法によって定性的又は定量的に検出する物質である。このような物質の例として、例えば、物質bと物質cが相互作用する(例えば互いに結合する)ことを阻害する物質aが挙げられる。
被検出物質Aは、例えば生体由来物質であり、タンパク質、脂質又は核酸が挙げられる。
前記タンパク質として、例えば抗体が挙げられる。一般に抗体は抗原の特定部位(エピトープ)に結合することが知られている(抗原抗体反応)。抗原の一例は、病原体そのもの又は病原体に由来するものである。抗原に結合することにより抗原の機能を阻害する抗体は、中和抗体と呼ばれる。一方、抗原に結合するが、結合された抗原の機能を阻害しない抗体は、非中和抗体と呼ばれる。
【0019】
作用物質Bと被作用物質Cは、例えば、互いに物理的な接触を介して相互作用するものである。作用物質Bと被作用物質Cは、所定の様式で互いに結合するものであることが好ましい。
【0020】
本態様の検査方法において、被検出物質Aは、作用物質Bに結合することにより、作用物質Bと被作用物質Cが所定の様式で結合することを阻害するものである、という関係性を有することが好ましい。
【0021】
前記関係性を有する例として、被検出物質Aが中和抗体であり、作用物質Bが病原体に由来する生体物質(例えばタンパク質)であり、被作用物質Cは前記病原体が感染する細胞に由来する生体物質(例えばタンパク質)である場合が挙げられる。
ここで、前記病原体に由来する生体物質は、自然界に存在するときのネイティブ(native)な状態又はインタクト(intact)な状態であってもよいし、前記所定の様式で結合する機能が損なわれない範囲で人為的に改変された状態であってもよい。
【0022】
前記病原体として、例えば、コロナウイルス、インフルエンザウイルス等のウイルスが挙げられる。コロナウイルスとして、例えば新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が挙げられる。
【0023】
前記関係性を有する例として、被検出物質Aが中和抗体であり、作用物質Bは、コロナウイルスが有するスパイクタンパク質の一部又は全部であり、被作用物質Cは、前記コロナウイルスが感染するヒト又は動物の細胞が有する受容体タンパク質の一部又は全部である場合が挙げられる。
前記スパイクタンパク質の一部としては、例えば、前記受容体に対する結合ドメイン(RBD)を含むものが挙げられる。
前記受容体としては、例えば、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)、シアル酸受容体等が挙げられる。
なお、新型コロナウイルスは、スパイクタンパク質(例えばS1タンパク質)をACE2に所定の様式で結合することにより、細胞内へ侵入して感染することが知られている。
【0024】
前記関係性を有する例として、被検出物質Aが中和抗体であり、作用物質Bは、インフルエンザウイルスが有するHAタンパク質の一部又は全部であり、被作用物質Cは、前記インフルエンザウイルスが感染するヒト又は動物の細胞が有する、シアル酸若しくは受容体タンパク質の一部又は全部である場合が挙げられる。
なお、インフルエンザウイルスは、HAタンパク質を、シアル酸を有する電位依存性Ca2+チャネル(受容体)に所定の様式で結合することにより、細胞内へ侵入して感染することが知られている。
【0025】
第1処理において、前記検体と、標識物質が結合した作用物質Bと、を含む検体処理液を得る方法としては、例えば、前記検体と作用物質Bを任意の液体中で接触させる方法が挙げられる。
具体的には、例えば、血液とS1タンパク質(以下、S1ということがある)とをpH緩衝液中で接触させ、これらが含まれた検体処理液を得る方法が挙げられる。血液にS1に結合する抗体が含まれている場合、検体処理液中でS1-抗体複合体が形成される。ここでpH緩衝液は、検体処理液中で前記複合体の形成が安定に行われるpH範囲に調整するものである。
【0026】
第1処理で使用する作用物質Bには予め標識物質が結合されていることが好ましい。つまり、前記検体処理液において被検出物質Aが作用物質Bに結合する前に、作用物質Bに予め標識物質が結合されていることが好ましい。
前記標識物質は、任意の方法でその存在を検知することが可能なものであれば特に制限されない。前記標識物質としては、例えば、金属粒子、色素、顔料、酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、ビオチン、アビジン若しくはストレプトアビジン、ポリリジン、ポリヒスチジン等が挙げられる。また、これらの標識物質の何れかを含有する又は担持する担体が挙げられる。このような担体としては、例えば、ラテックス、アガロース、ポリスチレン等の高分子化合物によって形成された粒子や、シリカ、金属等の無機物質によって形成された粒子が挙げられる。
【0027】
好ましい標識物質として、金コロイド(水等の分散媒に分散してコロイド状態になり得る金粒子)が挙げられる。金コロイドの色は、液の状態や金微粒子の粒子径によって変わるが、例えば後述する比色法では、被験出物質Aの検出感度や精度の点から赤色が好ましく、この場合、金コロイドは赤色の微粒子であると理解してもよい。
金コロイドの形状は特に制限されず、例えば、球状、棒状、板状、ウニ状等の種々の形状が挙げられる。
金コロイドの平均粒子径は、例えば、5nm~400nmであることが好ましい。S1タンパク質に結合させる金コロイドの平均粒子径は、結合が容易であり、検出も容易であることから、10nm~80nmであることが好ましい。例えば、免疫染色に使用される一般的な金コロイドを前記標識物質として使用することができる。
金コロイド以外の好ましい標識物質としては、ポリスチレンマイクロスフェア(ポリスチレンを構成成分とする)が挙げられる。ポリスチレン中に着色剤が内部まで染色されている標準品が市販されている。ポリスチレンマイクロスフェアの色は、着色剤の種類によって変わり、具体的には赤色、黄色、黒色、青色、紫色、橙色、緑色が挙げられるが、例えば後述する比色法では、被験出物質Aの検出感度や精度の点から青色、赤色が好ましく、この場合、ポリスチレンマイクロスフェアは青色、赤色の微粒子であると理解してもよい。
ポリスチレンマイクロスフェアの平均粒子径は、例えば、0.02μm~150μmであることが好ましい。S1タンパク質に結合させるポリスチレンマイクロスフェアの平均粒子径は、結合が容易であり、検出も容易であることから、0.1μm~20μmであることが好ましい。
【0028】
前記標識物質は作用物質Bに直接に結合していてもよいし、連結体(リンカー)を介して間接的に結合していてもよい。
前記標識物質が作用物質Bに結合する方法としては、例えば、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等による受動吸着が挙げられる。また、前記標識物質及び作用物質Bの少なくとも一方が有するカルボキシ基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基等の反応性基の反応によって形成される共有結合が挙げられる。また、前記標識物質及び作用物質Bのうち、一方が有するプロテインA、プロテインG、又はプロテインLと、他方が有する抗体又はその一部とのアフィニティ結合が挙げられる。また、前記標識物質及び作用物質Bのうち、一方が有するアビジン又はストレプトアビジンと、他方が有するビオチンとのアフィニティ結合が挙げられる。
前記標識物質による作用物質Bの標識は、バイオ実験の一般的な技法(受動吸着標識、共有結合標識、アフィニティ結合標識)によって行うことができる。
【0029】
第2処理において使用する、被作用物質Cを担持するための不溶性担体は、被作用物質Cが外部から作用を受けることが可能な状態で担持できるものであればよい。ここで、不溶性であるとは、前記検体処理液中において溶解せずに元の形態を保持し得る性質をいう。
前記不溶性担体を構成する材料としては、例えば、バイオ実験において一般的に利用されるアガロース、デキストラン、セルロース、ニトロセルロース等の多糖類や、アクリルアミド等の重合体によって形成されたヒドロゲルが挙げられる。また、ポリスチレンやポリプロピレン等の合成樹脂、セラミックス、金属(磁性体)が挙げられる。
前記不溶性担体の色は、後述する比色法において標識物質の色を識別することが容易になることから、標識物質と異なる色であればよく、例えば、透明無色、半透明の白色、又は不透明の白色であることが好ましい。これらの色の不溶性担体は、上記の材料によって不溶性担体を形成すれば容易に得られる。
前記不溶性担体の形態は、例えば、粒子状、糸(ストランド)状、網状、多孔質状、ファイバー状等が挙げられる。ただし、前記不溶性担体は、イムノクロマト法で使用されるニトロセルロース膜とは異なるものであること、すなわち、ニトロセルロースシート(フィルム、膜)以外の不溶性担体であることが好ましい。検体処理液との接触効率を高める観点から、粒子状であることがより好ましい。
前記粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、板状、ウニ状等の種々の形状が挙げられる。
【0030】
前記粒子の平均粒子径は、例えば、1μm~10mmが好ましく、10μm~1000μmがより好ましく、20μm~500μmがさらに好ましく、40μm~200μmが特に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、粒子の表面に充分な量の被作用物質Cを担持することが容易になる。また、粒子と上清の分離も容易になる。
上記範囲の上限値以下であると、前記検体処理液中における分散性が高まり、また第2処理において検体処理液との接触頻度が高くなるので、作用物質Bに対する接触が容易になる。
なお、前記粒子の平均粒子径は、ロータップ法、レーザー回折散乱法、コールターカウンター式電気抵抗法、光学顕微鏡法等を用いて測定することができ、コールターカウンター式電気抵抗法や光学顕微鏡法で測定される個数分布平均粒子径であることが好ましい。
【0031】
このような粒子状の不溶性担体としては、例えば、バイオ実験に使用される市販のアガロースビーズ(平均粒子径:40μm~200μm程度)や磁性ビーズ(平均粒子径:1μm~10μm程度)が挙げられる。
【0032】
被作用物質Cは不溶性担体に直接に結合していてもよいし、連結体(リンカー)を介して間接的に結合していてもよい。
被作用物質Cが不溶性担体に結合する方法としては、例えば、静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等による受動吸着が挙げられる。また、被作用物質C及び不溶性担体の少なくとも一方が有するカルボキシ基、アミノ基、チオール基、ヒドロキシ基等の反応性基の反応によって形成される共有結合が挙げられる。また、被作用物質C及び不溶性担体のうち、一方が有するアルキン(アルキニル基)と、他方が有するアジド(アジド基)の反応によって形成される共有結合が挙げられる。また、被作用物質C及び不溶性担体のうち、一方が有するプロテインA、プロテインG、プロテインLと、他方が有する抗体又はその一部とのアフィニティ結合が挙げられる。また、被作用物質C及び不溶性担体のうち、一方が有するアビジン又はストレプトアビジンと、他方が有するビオチンとのアフィニティ結合が挙げられる。
被作用物質Cを不溶性担体に担持させる方法は、バイオ実験の一般的な技法(受動吸着標識、共有結合標識、アフィニティ結合標識)を適用することができる。
【0033】
吸着体が有する不溶性担体は被作用物質Cを担持しており、被作用物質Cが安定に保たれる状態で吸着体を保管することが容易である。例えば、温度管理されたpH緩衝液中で保管することができる。また、不溶性担体に被作用物質Cを担持させる製造工程だけでなく、吸着体を第2処理で使用する時まで、被作用物質Cを一度も乾燥させることなく、湿潤状態に保つことができる。このため、被作用物質Cがタンパク質である場合、被作用物質Cの乾燥による変性を防止し、作用物質Bに対する結合力(結合機能)を充分に保持することができる。
【0034】
第2処理において、吸着体を前記検体処理液に接触させる方法としては、例えば、前記検体処理液に吸着体を添加する方法が挙げられる。
具体的には、例えば、ACE2が担持されたアガロースビーズからなる吸着体を前記検体処理液に添加して穏やかに撹拌する方法が挙げられる。また、ACE2が担持されたアガロースビーズからなる吸着体が充填されたカラムに、前記検体処理液を流す方法が挙げられる。
【0035】
吸着体が有する被作用物質Cの量は、前記検体処理液に含まれる作用物質Bの量よりも多いことが好ましい。この量比であると、一部の作用物質Bが結合することによって吸着体の被作用物質Cが飽和し、残りの作用物質Bが吸着体に結合できずに前記検体処理液中に残存することを防止することができる。ここで、各物質の量比は、質量基準で定められてもよいし、個数基準(モル比)で定められてもよい。
【0036】
前記検体処理液に前記標識物質によって標識されたS1が含まれている場合、そのS1と、吸着体が有するACE2とが結合する性質を利用して、吸着体を前記標識物質によって標識することができる。ただし、前記検体処理液にS1とACE2の結合を阻害する中和抗体が含まれている場合、吸着体の少なくとも一部は標識されない。
【0037】
第2処理において、吸着体に対する前記標識物質の吸着量を計測する方法は、前記標識物質を定性的又は定量的に計測できる方法であれば特に制限されず、前記標識物質の性質に応じて適宜選択される。
例えば、前記標識物質が吸着体と異なる色として視認できるものである場合、吸着体の色の変化を計測することにより、前記標識物質が吸着体に吸着したことが分かる。さらに吸着体の色の変化の程度を計測することにより、吸着体に吸着した前記標識物質を定量することができる。
吸着体の色の変化を計測する方法は特に制限されず、公知の比色法を適用することができ、例えば、目視による計測、画像解析による計測、比色分析装置による計測等が挙げられる。
【0038】
第2処理において、前記計測を行う前に、吸着体と、吸着体に接触した後の前記検体処理液とをより分けることが好ましい。より分けておくことにより、吸着体に結合しない状態で前記検体処理液に含まれている前記標識物質を、吸着体から離れた位置におけるので、前記計測の精度を高めることができる。
より分ける方法としては、例えば、自然沈降、遠心分離、濾過、磁性分離等が挙げられる。より分けた後、分取した吸着体について前記計測を行うことが好ましい。
【0039】
第2処理で計測した前記吸着量が、予め任意に定めた所定値よりも小さい場合、前記検体に被検出物質Aが含まれると判定することができる。一方、前記吸着量が、前記所定値よりも大きい場合、前記検体に被検出物質Aが含まれないと判定することができる。
また、前記吸着量が上限の飽和値よりも少なくなる程、前記検体に含まれる被検出物質Aの量が多いと判定できる。一方、前記吸着量が上限の飽和値に達している場合、前記検体に含まれる被検出物質Aの量は検出限界以下であるとみなせる。
被検出物質Aが含まれる濃度を段階的に高めた標準試料を用いて、被検出物質Aの濃度と前記吸着量の対応関係を予め調べておき、検量線を作成しておくと、検体に含まれる被検出物質Aの濃度を高い精度で推定することができる。
また、検量線を作成する場合、検体自身の色の影響を排除するため、上清の色を計測し、吸着体の色の計測値を補正することで、検量線の精度を向上することができる。
【0040】
<具体的な実施形態の一例>
本態様の検査方法の一例として、検体が血液であり、被検出物質Aが中和抗体であり、作用物質BがS1であり、被作用物質CがACE2であり、標識物質が金コロイドである場合について、ここでまとめて簡単に説明する。
まず、金コロイドにストレプトアビジンを結合させる(
図1参照)。予めビオチンが結合されたS1タンパク質を準備し、これにストレプトアビジンが結合した金コロイドを混ぜると、金コロイドで標識されたS1タンパク質「S1タンパク質-金コロイド」が得られる(
図2参照)。また、予めプロテインAが結合されたアガロースビーズに、予めIgGのFc領域が融合されたACE2を混ぜると、ACE2が表面に担持されたアガロースビーズ「ACE2ビーズ」が得られる(
図3参照)。
通常、血液にはACE2と相互作用しない夾雑物質が含まれている。この血液にS1タンパク質-金コロイドを混合した後、さらにACE2ビーズを混合すると、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される(
図4参照)。つまり、夾雑物質はACE2とS1の結合を阻害しないので、夾雑物質は無視することができる。
さて、血液に非中和抗体が含まれている場合、この血液にS1タンパク質-金コロイドを混合すると、S1タンパク質に非中和抗体が結合する。その後、さらにACE2ビーズを混合すると、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される(
図5参照)。
一方、血液に中和抗体が含まれている場合、この血液にS1タンパク質-金コロイドを混合すると、S1タンパク質に中和抗体が結合する。その後、さらにACE2ビーズを混合すると、中和抗体が結合したS1タンパク質はACE2ビーズに結合せず、中和抗体が結合していない残りのS1タンパク質のみがACE2ビーズに捕捉される(
図6参照)。つまり、検体に中和抗体が含まれている場合、ACE2ビーズに捕捉されるS1タンパク質-金コロイドが少なくなる。同様の結果は、検体に中和抗体及び非中和抗体が含まれている場合にも得られる(
図7参照)。
従って、ACE2ビーズに吸着した金コロイドを計測することにより、血液に中和抗体が含まれるか否かを検査することができる。
【0041】
本態様の実施形態の一例として、検体が血液であり、被検出物質Aが中和抗体であり、作用物質BがS1であり、被作用物質CがACE2であり、標識物質が金コロイドである場合の検査器具について説明する。
生体試料として血液(全血)を用いる場合、夾雑物質はACE2とS1の結合を阻害しないので、通常夾雑物質は無視することができるが、赤血球は比色試験を妨害し、正確な値を得ることができない場合があるため、第1処理の前に、血清や血漿を得る前処理が行えることが好ましく、前記前処理と第1処理と第2処理が一つの検査器具に組み込まれている実施形態が好ましい。
具体的には、フィルター一体型ろ過バイアル(例えば、サイティバ製「ミニユニG」)のフィルター部を、ガラス繊維濾紙や血球成分が完全に通過できないポアサイズの多孔性シートによるフィルターに置換し、「S1タンパク質-金コロイド」をサンプル注入部に充てんし、ろ液捕集部には「ACE2ビーズ」を充てんした検査器具が挙げられる。なお、「S1タンパク質-金コロイド」をサンプル注入部に充てんせず、フィルターに含浸させてもよく、また、別途含浸させたフィルターを装着してもよい。血液をサンプル注入部に充てんしろ過処理を行うと、前処理と第1処理が同時に進行し、ろ液捕集部には第1処理された検体処理液が捕集される。また、サンプル注入部にトロンビン等の血液凝固因子を加えると、赤血球のろ過をより効率的に実施できるため好ましい。血液凝固因子を加える場合は、上記フィルターの材質やポアサイズは限定されない。
ろ液捕集部において第2処理が行われるため、中和抗体が含まれていない場合、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される。一方、中和抗体が含まれている場合、ACE2ビーズに捕捉されるS1タンパク質-金コロイドが少なくなる。ろ液捕集部のACE2ビーズに吸着した金コロイドを計測することにより、血液に中和抗体が含まれるか否かを検査することができる。また、予め中和抗体量と対応した色味見本を準備し、ACE2ビーズの色と対比させることで、中和抗体量を推定することも可能である。
検査器具の別の一例としては、ヘッド部にパッドが装着された遠心用チューブ本体(例えば、栄研化学製「かんたんチューブ ‘栄研’」)のチューブ本体に「S1タンパク質-金コロイド」、赤血球を凝集させるコンドロイチン硫酸、「ACE2ビーズ」を含有させた検査器具が挙げられる。なお、「S1タンパク質-金コロイド」はチューブ本体に含有させず、パッド部に含浸させてもよく、また、別途含浸させたパッドを装着してもよい。血液をパッド部に染み込ませ、検査器具を遠心機で遠心処理すると、パッド部もしくはチューブ本体内で第1処理され、コンドロイチン硫酸の分離部を通過することで前処理が完了する。続いて、「ACE2ビーズ」との接触により第2処理が行われるため、血液に中和抗体が含まれていない場合、ACE2ビーズにS1タンパク質-金コロイドが捕捉される。一方、中和抗体が含まれている場合、ACE2ビーズに捕捉されるS1タンパク質-金コロイドが少なくなる。捕集部のACE2ビーズに吸着した金コロイドを計測することにより、血液に中和抗体が含まれるか否かを検査することができる。また、予め中和抗体量と対応した色味見本を準備し、ACE2ビーズの色と対比させることで、中和抗体量を推定することも可能である。
【実施例0042】
<標識物質の準備>
ストレプトアビジンに4mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.79)を加え、330μg/mLとなるように調製したストレプトアビジン液を得た。
1800μLの20nm金コロイド液に対して72μLの100mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.79)を加え、その後、上記ストレプトアビジン液を180μL添加した。室温(20~25℃、以下の室温記載も同様)で攪拌しながら30分間インキュベーションして反応させた後、反応液を遠心し(6,500g、4℃、30分)、上清を除去し、沈殿aを得た。
BSA(ウシ血清アルブミン)に30mMトリスバッファー(pH7.5)を加え、0.1%w/vとなるように調製したBSA液を得た。
上記沈殿aを1800μLのBSA液に懸濁した後、懸濁液を遠心して再び沈殿させる処理(懸濁・遠心処理によるバッファー置換処理)を1回繰り返した。このようにして得た液を「ストレプトアビジン-金コロイド液」として、後の実験に使用した(
図1参照)。
なお、金コロイド(金微粒子の集合体)は、赤色に見える標識物質である。
【0043】
<作用物質Bの標識>
ストレプトアビジン-金コロイド液40μLに、1.5μLのビオチン-S1タンパク質溶液(50μg/mL)、7μLの30mMトリスバッファー(pH7.0)及び0.5μLの10%Tween20溶液(前記トリスバッファーに溶解されたもの)を添加した。この混合液を室温で攪拌しながら5分間インキュベーションし、得られた液を「S1タンパク質-金コロイド液」として、後の実験に使用した(
図2参照)。
【0044】
<被作用物質Cを担持した吸着体の準備>
100μLのプロテインAビーズ懸濁液(ビーズ含量が50%v/vとなるように30mMトリスバッファー(pH7.0)に懸濁されたもの)に、7.63μLのFc-ACE2溶液(1.31mg/mL)を加え、4℃にて16時間反応させた。この反応によりFc-ACE2が、ビーズ表面に担持されたプロテインAに結合した。この反応を経たビーズを、以下では単にビーズということがある。
続いて上記の反応液を12,000g、4℃、1分間の条件で遠心し、ビーズを沈殿させた。上清を除去し、ビーズと同体積の上記トリスバッファーを加え、遠心により再度ビーズを沈殿させる処理(懸濁・遠心処理によるバッファー置換処理)を数回繰り返し、最後に得た懸濁液を「ACE2ビーズ懸濁液」として、後の実験に使用した(
図3参照)。
【0045】
<検体の準備>
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のS1の特定部位(RBDドメイン)に結合し、S1とACE2の結合を阻害することが確認されている市販の中和抗体(マウス由来中和抗体)の溶液(濃度1mg/ml)を「検体1」として、後の実験に使用した。
一般に、新型コロナウイルスのS1タンパク質に結合するが、S1とACE2の結合を阻害しない抗体を非中和抗体という。本実施例で使用する上記のビオチン-S1タンパク質は、組換えタンパク質であり、S1のACE2に対する結合機能を阻害しないC末端側にHisタグを含む。従い、本実施例では、Hisタグに結合する抗体を非中和抗体として使用した。具体的には、市販のHisタグ抗体(マウス由来)の溶液(濃度1mg/ml)を「検体2」として、後の実験に使用した。
【0046】
[実施例1]
(第1処理)
1μLの「検体1」に、49μLの「S1タンパク質-金コロイド液」を加え、穏やかに攪拌しながら、4℃で60分間反応させた(
図6参照)。
【0047】
(第2処理)
上記の反応液(検体処理液)から20μLを分取し、これに25μLの「ACE2ビーズ懸濁液」を加え、穏やかに撹拌しながら、室温で30分間反応させた(
図6参照)。
上記の反応液を10分程度静置し、自然にビーズを沈殿させた。この状態の反応液を含むマイクロチューブを
図8の写真(中和抗体と表示した方)に示す。目視したところ、上清の色は濃い赤色であり、沈殿したビーズの色は元の白色に近い薄い赤色であった。
次に、上清を除去して、沈殿したビーズが底部に付着したマイクロチューブを、天地逆さまに置いた様子を
図9の写真(中和抗体と表示した方)に示す。目視したところ、チューブに付着したビーズの色は元の白色に近い薄い赤色であった。
さらに、撮影した写真について、公知の画像解析ソフトウェア(Image J 1.52a 、米国National Institutes of Health製)を使用して、ビーズの赤味を測定した。この結果を
図10のグラフ(中和抗体と表示した方)に示す。測定した赤味は、48.6(任意単位)であった。
なお、上記の測定値にはビーズが本来的に有する色味の値(赤味=30)を含む。
以下の別の実施例においても各測定値にはビーズが本来的に有する色味の値をバックグラウンドとして含む。
【0048】
以上の結果は、ビーズが担持するACE2に対して結合したS1の量が少ないことを示している。S1の結合量が基準値(中和抗体が入っていないことが事前に分かっている対照検体を同様に試験した場合の結合量)よりも少ないことは、検体1に中和抗体が含まれていると判定する根拠となる。この判定は、使用した検体1には中和抗体が含まれている事実と符合する。
【0049】
[実施例2]
(第1処理)
1μLの「検体2」に、49μLの「S1タンパク質-金コロイド液」を加え、穏やかに攪拌しながら、4℃で60分間反応させた(
図5参照)。
【0050】
(第2処理)
上記の反応液(検体処理液)から20μLを分取し、これに25μLの「ACE2ビーズ懸濁液」を加え、穏やかに撹拌しながら、室温で30分間反応させた(
図5参照)。
上記の反応液を10分程度静置し、自然にビーズを沈殿させた。この状態の反応液を含むマイクロチューブを
図8の写真(非中和抗体と表示した方)に示す。目視したところ、上清の色はほとんど無色透明であり、沈殿したビーズの色は元の白色ではなく、濃い赤色であった。
次に、上清を除去して、沈殿したビーズが底部に付着したマイクロチューブを、天地逆さまに置いた様子を
図9の写真(非中和抗体と表示した方)に示す。目視したところ、チューブに付着したビーズの色は元の白色ではなく、濃い赤色であった。
さらに、撮影した写真について、実施例1と同様に画像解析を行い、ビーズの赤味を測定した。この結果を
図10のグラフ(非中和抗体と表示した方)に示す。測定した赤味は、66.2(任意単位)であった。
【0051】
以上の結果は、ビーズが担持するACE2に対して結合したS1の量が多いことを示している。S1の結合量が基準値(中和抗体が入っていないことが事前に分かっている対照検体を同様に試験した場合の結合量)と同程度に多いことは、「検体2に中和抗体が含まれていない」と判定する根拠となる。この判定は、使用した検体2に中和抗体が含まれていない事実と符合する。
【0052】
なお、実施例2で使用した「検体2」が中和抗体を含まないことは事前に分かっているので、実施例2の結果は、上記の基準値を定める試験であると理解してもよい。つまり、実施例2の測定値「66.2」を基準値としたとき、実施例1の測定値「48.6」は、基準値を大きく下回っているので、「検体1」に中和抗体が入っていることを事前に知らなくても、実施例1の測定結果から「検体1」に中和抗体が入っていると判定することができる。
【0053】
同様に、中和抗体が入っているか否か未知の検体Sを使用した場合においても、実施例1と同様に試験し、その測定結果が予め定めた基準値を下回っていれば、検体Sに中和抗体が入っていると判定でき、その測定結果が予め定めた基準値と同等であれば、検体Sに中和抗体は含まれていないと判定できる。
【0054】
<作用物質Bの標識(2)>
15nmストレプトアビジン-金コロイド液40μLに1.5μLのビオチン-S1タンパク質溶液(50μg/mL)、7μLの30mLトリスバッファー(pH7.0)及び0.5μLの10%Tween20溶液(前記トリスバッファーに溶解されたもの)を添加した。この混合液を室温で攪拌しながら5分間インキュベーションし、得られた液を「S1タンパク質-金コロイド液(15nm)」として後の実験に使用した。
上記と同様に、60nmストレプトアビジン-金コロイド液を使用して、「S1タンパク質-金コロイド液(60nm)」を調製し、後の実験に使用した。
【0055】
[実施例3]
(第1処理)
1μLの「検体1」に、49μLの「S1タンパク質-金コロイド液(15nm)」を加え、穏やかに攪拌しながら、室温で30分間反応させた。
【0056】
(第2処理)
上記の反応液(検体処理液)から20μLを分取し、これに25μLの「ACE2ビーズ懸濁液」を加え、穏やかに撹拌しながら、室温で30分間反応させた(
図6参照)。
上記の反応液を10分程度静置し、自然にビーズを沈殿させた。この状態の反応液を含むマイクロチューブの様子は
図8と同様であり、目視したところ、上清の色は濃い赤色であり、沈殿したビーズの色は元の白色に近い薄い赤色であった。
次に、このビーズを撮影した写真について、前記画像解析ソフトウェアを使用し、ビーズの赤味を測定した。この結果を
図12のグラフ(中和抗体と表示した方)に示す。測定した赤味は、91.4(任意単位)であった。
【0057】
[実施例4]
検体の種類を「検体2」に変更した以外は、実施例3と同様に行った。最終的に沈殿して得たビーズの色は目視で濃い赤色であった。その結果を
図12のグラフ(非中和抗体と表示した方)に示す。測定したビーズの赤味は、105.7(任意単位)であった。
【0058】
[実施例5]
作用物質Bの種類を「S1タンパク質-金コロイド液(60nm)」に変更した以外は、実施例3と同様に行った。その結果を
図13のグラフ(中和抗体と表示した方)に示す。測定したビーズの赤味は、114.2(任意単位)であった。
【0059】
[実施例6]
検体の種類を「検体2」に変更した以外は、実施例5と同様に行った。その結果を
図13のグラフ(非中和抗体と表示した方)に示す。測定したビーズの赤味は、128.0(任意単位)であった。
【0060】
<標識物質の準備(2)>
200μLの0.5μm青着色ポリスチレンマイクロスフェア(以下では単に青着色剤ということがある)に100mMホウ酸バッファー(pH8.5)を500μL加え、14,000g、4℃、10分間の条件で遠心し、青着色剤を沈殿させた。上清を除去し、500μLの上記ホウ酸バッファーを加え、遠心により再度青着色剤を沈殿させる処理(懸濁・遠心によるバッファー置換処理)を2回繰り返し、最後に200μLの30mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)に懸濁させた液を「青着色剤液」として、後の実験に使用した。
【0061】
<作用物質Bの標識(3)>
8μLの青着色剤液を192μLの上記リン酸ナトリウムバッファーにて希釈した後、7.5μLの非標識S1タンパク質(500μg/mLとなるようにPBSで調製)を添加し、この混合液を4℃で攪拌しながら16時間インキュベーションした。この反応により、非標識S1タンパク質が青着色剤に受動的に結合した。14,000g、4℃、10分間の条件で遠心し、青着色剤で標識されたS1タンパク質を沈殿させた。上清を除去し、500μLのPBSを加え、遠心により再度沈殿させる処理(懸濁・遠心によるバッファー置換処理)を2回繰り返し、最後に200μLのPBSで懸濁させた液を「青着色S1液」として、後の実験に使用した。
【0062】
<被作用物質Cを担持した吸着体の準備(2)>
100μLのストレプトアビジンビーズ懸濁液(ビーズ含量が50%v/vとなるようにPBSに懸濁されたもの)に、12μLのビオチン-ACE2溶液(0.25mg/mL)を加え、4℃にて1時間反応させた。この反応によりビオチン-ACE2が、ビーズ表面に担持されたストレプトアビジンに結合した。この反応を経たビーズを、以下では単にビーズということがある。
続いて上記の反応液を14,000g、4℃、1分間の条件で遠心し、ビーズを沈殿させた。上清を除去し、ビーズと同体積のPBSを加え、遠心により再度ビーズを沈殿させる処理(懸濁・遠心処理によるバッファー置換処理)を数回繰り返し、最後に得た懸濁液を「ACE2ビーズ懸濁液(#2)」として、後の実験に使用した。
【0063】
[実施例7]
(第1処理)
2μLの「検体1」に、40μLの「青着色S1液」及び8μLのPBSを加え、穏やかに攪拌しながら、室温で30分間反応させた。
【0064】
(第2処理)
上記の反応液(検体処理液)から50μLを分取し、これに15μLの「ACE2ビーズ懸濁液(#2)」を加え、穏やかに撹拌しながら、室温で30分間反応させた。
上記の反応液を10分程度静置し、自然にビーズを沈殿させた。この状態の反応液を含むマイクロチューブを
図14の写真(中和と表示した方)に示す。目視したところ、上清の色は濃い青色であり、沈殿したビーズの色は元の白色に近い薄い青色であった。
次に、撮影した写真について、前記画像解析ソフトウェアを使用して、ビーズの青味を測定した。この結果を
図15のグラフ(中和抗体と表示した方)に示す。測定したビーズの青味は、96.2(任意単位)であった。
【0065】
[実施例8]
検体の種類を「検体2」に変更した以外は、実施例7と同様に行った。最終的に沈殿して得たビーズの色は目視で濃い青色であった。その結果を
図15のグラフ(非中和抗体と表示した方)に示す。測定したビーズの青味は、151.8(任意単位)であった。
【0066】
<検体の準備(2)>
インフルエンザウイルス(H10N8型)のHAタンパク質の特定の部位に結合し、HAタンパク質とシアル酸の結合を阻害することが確認されている市販のHA中和抗体(マウス由来中和抗体)の溶液(濃度1mg/mL)を「検体3」として、後の実験に使用した。
インフルエンザウイルスのHAタンパク質に結合するが、HAタンパク質とシアル酸の結合を阻害しない抗体を非中和抗体という。後述の実施例で使用するHAタンパク質は、組換えタンパク質であり、HAタンパク質のシアル酸に対する結合機能を阻害しないC末端側にHisタグを含む。従って、後述の実施例においても、Hisタグに結合する抗体を非中和抗体として使用した。具体的には、前記「検体2」を使用した。
【0067】
<作用物質Bの標識(4)>
500μLの20nm金コロイド液に対して20μLの100mMトリスバッファー(pH7.0)を加え、その後、50μLのHAタンパク質(250μg/mLとなるように4mMトリスバッファー(pH7.0)で調製したもの)を添加し、この混合液を室温で攪拌しながら30分間インキュベーションした。この反応により、HAタンパク質が金コロイドに受動的に結合した反応液を得た。
続いて、ウシ血清アルブミン(BSA)に4mMトリスバッファー(pH7.0)を加え、BSA濃度0.1%w/vとなるように調製したBSA液を得た。
上記反応液に上記BSA液500μLを添加し、室温で攪拌しながら30分間インキュベーションした後、6,500g、4℃、30分間の条件で遠心し、20nm金コロイドで標識されたHAタンパク質を沈殿させた。上清を除去し、500μLの上記BSA液を加えた。この懸濁液40μLに8.5μLの前記トリスバッファー及び0.5μLの10%Tween20溶液(前記トリスバッファーに溶解されたもの)を添加した。この混合液を「HAタンパク質-金コロイド液」として、後の実験に使用した。
【0068】
<被作用物質Cを担持した吸着体の準備(3)>
100μLのアルキンビーズ懸濁液(ビーズ含量が50%v/vとなるように0.1mMアスコルビン酸、0.02mM硫酸銅水溶液に懸濁されたもの)に、5μLのシアル酸アジド溶液(1mMとなるようにジメチルスルホキシドに溶解されたもの)を加え、4℃にて16時間反応させた。この反応によりシアル酸が、ビーズ表面に担持されたアルキンに共有結合した。この反応を経たビーズを、以下では単にビーズということがある。
続いて上記の反応液を12,000g、4℃、1分間の条件で遠心し、ビーズを沈殿させた。上清を除去し、ビーズと同体積のPBSを加え、遠心により再度ビーズを沈殿させる処理(懸濁・遠心処理によるバッファー置換処理)を数回繰り返し、最後に得た懸濁液を「シアル酸ビーズ懸濁液」として、後の実験に使用した。
【0069】
[実施例9]
(第1処理)
1μLの「検体3」に、49μLの「HAタンパク質-金コロイド液」を加え、穏やかに攪拌しながら、室温で10分間反応させた。
【0070】
(第2処理)
上記の反応液(検体処理液)50μLに、15μLの「シアル酸ビーズ懸濁液」を加え、穏やかに撹拌しながら、室温で30分間反応させた。
上記の反応液を10分程度静置し、自然にビーズを沈殿させた。この状態の反応液を含むマイクロチューブの様子は
図8と同様であり、目視したところ、上清の色は濃い赤色であり、沈殿したビーズの色は元の白色に近い薄い赤色であった。
次に、このビーズを撮影した写真について、前記画像解析ソフトウェアを使用して、ビーズの赤味を測定した。この結果を
図16のグラフ(中和抗体と表示した方)に示す。測定したビーズの赤味は、165.8(任意単位)であった。
【0071】
[実施例10]
検体の種類を「検体2」に変更した以外は、実施例9と同様に行った。最終的に沈殿して得たビーズの色は目視で濃い赤色であった。その結果を
図16のグラフ(非中和抗体と表示した方)に示す。測定したビーズの赤味は、188.1(任意単位)であった。
【0072】
<検体の準備(3)>
新型コロナウイルスに対する中和抗体を含まないヒト血漿サンプルを「検体4」として、新型コロナウイルスに対する中和抗体を含み、その中和活性が44、95、210、1473IU/mLのヒト血漿サンプルをそれぞれ「検体5」、「検体6」、「検体7」、「検体8」として、後の実験に使用した。なお、IUとはInternational Unitを省略した表記であり、同単位は世界保健機関にて定められた新型コロナウイルスに対する中和活性の強さを示す単位である。
【0073】
<作用物質Bの標識(5)>
500μLの20nm金コロイド液に対して20μLの100mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)を加え、その後、50μLの非標識S1タンパク質(500μg/mLとなるようにPBSで調製したもの)を添加し、この混合液を室温で攪拌しながら30分間インキュベーションした。この反応により、非標識S1タンパク質が金コロイドに受動的に結合した反応液を得た。
続いて、ウシ血清アルブミン(BSA)にPBSを加え、BSA濃度0.1%w/vとなるように調製したBSA液を得た。
上記反応液に上記BSA液500μLを添加し、室温で攪拌しながら30分間インキュベーションした後、6,500g、4℃、30分間の条件で遠心し、20nm金コロイドで標識されたS1タンパク質を沈殿させた。上清を除去し、62.5μLの上記BSA液を加えた液を「S1タンパク質-金コロイド液(#2)」として、後の実験に使用した。
【0074】
[実施例11]
(第1処理)
10μLの「検体4」、「検体5」、「検体6」、「検体7」、「検体8」、「PBS」のそれぞれに、6μLの「S1タンパク質-金コロイド液(#2)」を添加し、16μLの「金コロイド-検体混合液」もしくは「金コロイド-PBS混合液」を得た。これらを穏やかに攪拌しながら室温で30分間反応させた。
【0075】
(第2処理)
各「金コロイド-検体混合液」15μLと前記「ACE2ビーズ懸濁液(#2)」の15μLとをそれぞれ混合し、穏やかに撹拌しながら、室温で30分間反応させた。これと同時に、「金コロイド-PBS混合液」15μLと前記「ACE2ビーズ懸濁液(#2)」15μLとを混合した反応液(ポジティブコントロール)を準備した。さらに、「金コロイド-PBS混合液」15μLと「ストレプトアビジンビーズ懸濁液」15μLとを混合した反応液(ネガティブコントロール)を準備した。これらを穏やかに撹拌しながら、室温で30分間反応させた。
攪拌後、各反応液を10分程度静置し、自然にビーズを沈殿させた。この状態の各反応液を含むマイクロチューブを
図17の写真に示す。目視したところ、ポジティブコントロールにおいては上清の色はほとんど無色透明であり、沈殿したビーズの色は元の白色ではなく、濃い赤色であった。また、ネガティブコントロールにおいては上清の色は濃い赤色であり、沈殿したビーズの色は元の白色に近い薄い赤色であった。「検体4」~「検体8」を加えた反応液においては、中和活性(IU/mL)が高いほど上清の色は赤く、沈殿したビーズの色は元の白色に近い薄い赤色を示した。撮影した写真について、前記画像解析ソフトウェアを使用して、後述の方法により解析した。
解析の結果、既知の中和活性と、本実施例により算出された中和活性(%)には明瞭な相関が認められ、本発明による臨床検体の中和活性(中和抗体量)の定量性が確認された。その結果のグラフを
図18に示す。
【0076】
<解析方法>
(ステップ1)
各サンプルについて「ビーズの赤味」及び「上清の赤味」を測定し、「ビーズの赤味」/「上清の赤味」で表される比(α)を算出した。この比(α)を算出する理由は、一般的に黄色もしくは赤色を呈する血漿による「ビーズの赤味」への影響を低減するためである。
(ステップ2)
下記式の計算値を中和活性(%)とした。
{((検体のα)-(ポジコンのα))/((ネガコンのα)-(ポジコンのα))}×100
なお、ポジコンはポジティブコントロールの略語であり、ネガコンはネガティブコントロールの略語である。
上記の解析方法を実施例11に適用すると、表1に示す値が得られる。なお、赤味の測定値は任意単位である。
【0077】
【0078】
X軸に既知の中和活性(IU/mL)の10を底とする対数をとり、Y軸に算出した中和活性(%)をとり、表1を参照して各サンプルをプロットした散布図を
図19に示す。
各プロットの近似曲線を表す式(フィッティング式)は下記が妥当であると考えられた。
y =-8.552+118.652/(1+10^((1.904-x)×1.312))
R
2=0.9694
上記フィッティング式は、医学統計解析ソフトウェアPrism9(GraphPad社製)を用いて求めた。R
2は相関係数であり、1に近い値であるほど、妥当な近似であることを意味する。フィッティング式を求めるにあたり、各プロットは線型的に表わされるものではないと推定されることから、シグモイド曲線を前提とした。この前提が妥当であることは、相関係数が高いことから支持される。このようにシグモイド曲線で近似することは、作用物質B(例えばS1)と被作用物質C(例えばACE2)の結合が被検出物質A(例えば中和抗体)により競合的に阻害されていることを考慮しても妥当である。
【0079】
[使用材料]
20nm金コロイド液は、製品名:Gold Nanoparticle Size Optimization Panel、製造会社:Cytodiagnostics、型番:G-SIZE-01を使用した。その金コロイドの平均粒子径は20nmである。
ストレプトアビジンは、製造会社:富士フイルム和光純薬、型番:192-17864を使用した。
ビオチン-S1タンパク質は、製品名:Biotinylated Recombinant SARS-CoV-2 Spike S1-His-Avi Protein、製造会社:Syd Labs、型番:BP003055を使用した。S1にビオチンが結合した複合体である。
プロテインAビーズは、製品名:Immunoprecipitation Starter Pack、製造会社:Cytiva、型番:17-6002-35を使用した。ビーズ本体はアガロース(商品名:セファロース)によって形成されたものであり、ビーズ本体の粒径の幅は45~165μmであり、平均粒子径は90μmである。
Fc-ACE2は、製品名:ACE-2 Fc Chimera, Human、製造会社:Genscript、型番:Z03484を使用した。FcとACE2の融合タンパク質である。
マウス由来中和抗体は、製品名:SARS-CoV-2 Neutralizing Antibody (5B7D7)、製造会社:Genscript、型番:A02057-100を使用した。
マウス由来非中和抗体は、製品名:Anti-6X His tag 抗体 [HIS.H8]、製造会社:Abcam、型番:ab18184を使用した。
15nmストレプトアビジン-金コロイド液は、製品名:Streptavidin, Gold Colloidal Particle 15nm、製造会社:Cytodiagnostics、型番:AC-15-04-05を使用した。金コロイドにストレプトアビジンが結合したものであり、その金コロイド部分の平均粒子径は15nmである。
60nmストレプトアビジン-金コロイド液は、製品名:Streptavidin, Gold Colloidal Particle 60nm、製造会社:Cytodiagnostics、型番:AC-60-04-05を使用した。金コロイドにストレプトアビジンが結合したものであり、その金コロイド部分の平均粒子径は60nmである。
0.5μm青着色ポリスチレンマイクロスフェアは、製品名Polybead(登録商標) Blue Dyed Microsphere Sampler Kit、製造会社:Polysciences, Inc.、型番:19821-1のうち、平均粒子径0.5μmのものを使用した。
非標識S1タンパク質は、製品名:SARS-CoV-2 Spike Protein (S1, His Tag)、製造会社:GenScript、型番:Z03485-100を使用した。
ビオチン-ACE2溶液は、製品名:Human ACE2/Angiotensin-Converting Enzyme 2 Protein (His Tag), Biotinylated、製造会社:SinoBiological、型番:10108-H08H-Bを使用した。ビオチンが結合したACE2タンパク質の溶液である。
ストレプトアビジンビーズ懸濁液は、製品名:Streptavidin Sepharose High Performance、製造会社:Cytiva、型番:17511301を使用した。ビーズの平均粒子径は34μmであり、セファロース製ビーズの表面にストレプトアビジンが担持されたものである。
アルキンビーズ懸濁液は、製品名:Alkyne Agarose、製造会社:Merck、型番:901982-2MLを使用した。粒子径の幅は50~150μmであり、アガロース製ビーズの表面に、末端アルキンを有する官能基が備えられたものである。
HAタンパク質は、製品名:Influenza A H10N8 (A/Jiangxi-Donghu/346/2013) Hemagglutinin/HA Protein (His Tag)、製造会社:SinoBiological、型番:40359-V08Bを使用した。
シアル酸アジド溶液は、製品名:Disialylnonasaccharide-β-ethylazide、製造会社;東京化成工業、型番:D4217を使用した。
HA中和抗体は、製品名:Influenza A H10 Hemagglutinin/HA Neutralizing Antibody、製造会社:SinoBiological、型番:40359-M001を使用した。
血漿サンプルは、製品名:1st International Reference Panel for anti-SARS-CoV-2 immunoglobulin、製造元:National Institute for Biological Standards and Control、型番:20/268を使用した。