IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特開2022-158987セラミック電子部品、回路基板構造、およびセラミック電子部品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158987
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】セラミック電子部品、回路基板構造、およびセラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20221006BHJP
   H01G 2/06 20060101ALI20221006BHJP
   H01G 4/224 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
H01G4/30 512
H01G2/06 500
H01G4/30 311Z
H01G4/30 517
H01G4/224 100
H01G4/30 201K
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037133
(22)【出願日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2021059573
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】岡田 晏珠
(72)【発明者】
【氏名】天野 美娜
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴久
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AD02
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AF06
5E001AG01
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC33
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG15
5E082FG18
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG11
5E082GG28
5E082HH47
5E082JJ03
5E082JJ12
5E082JJ23
(57)【要約】
【課題】セラミック電子部品の信頼性の低下を抑制しながら誘電体層の厚さを低減する。
【解決手段】セラミック電子部品は、誘電体、少なくとも1つの第1の内部電極、および第1の内部電極と第2の内部電極の間に介在する誘電体を介して第1の内部電極上に積層された少なくとも1つの第2の内部電極を有する素体と、第1の外部電極と、第2の外部電極を有する。素体は、上面、下面、一対の側面、第1の端面、および第2の端面を有し、ほぼ直方体の形状を有する。第1の内部電極は第1の端面で露出し、第2の内部電極は第2の端面に露出し、素体の両側面は長手方向に沿って凹状に湾曲し、素体は、端面の幅よりも小さい幅を有する長手方向中央部を有する。第1の外部電極は、第1の端面に形成され、第1の内部電極と電気的に接続され、第2の外部電極は、第2の端面に形成され、第2の内部電極と電気的に接続されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体、少なくとも1つの第1の内部電極、および第1の内部電極と第2の内部電極の間に介在する誘電体を介して前記第1の内部電極上に積層された少なくとも1つの第2の内部電極を有する素体と、
第1の外部電極と、
第2の外部電極を有し、
前記素体は、上面、下面、一対の側面、第1の端面、および第2の端面を有し、それにより、前記素体はほぼ直方体の形状を有し、
前記第1の内部電極は前記第1の端面で露出し、前記第2の内部電極は前記第2の端面で露出し、
前記素体の両側面は長手方向に沿って凹状に湾曲し、前記素体は、前記第1の端面と前記第2の端面の幅よりも小さい幅を有する長手方向中央部を有し、
前記第1の外部電極は、前記第1の端面に形成され、前記第1の内部電極と電気的に接続され、前記第2の外部電極は、前記第2の端面に形成され、前記第2の内部電極と電気的に接続されている
セラミック電子部品。
【請求項2】
前記素体の両側面は、高さ方向に沿って凹状に湾曲し、各側面は、高さ方向に沿った曲率半径を有し、高さ方向に沿った前記曲率半径は前記素体の前記長手方向中央部で最小であり、端面に向かって増加する
ことを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記素体は、0<(W3-W1)/W3≦0.15を満たし、W1は素体の高さ方向の中央における前記長手方向中央部での幅であり、W3は素体の高さ方向の中央における端面での幅である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記素体は、0.04<(W3-W1)/W3≦0.12を満たすことを特徴とする請求項3に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記素体の前記上面と前記下面は、長手方向に沿って凸状に湾曲し、前記素体の前記長手方向中央部は、端面での厚さよりも大きい厚さを有する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記素体の前記上面と前記下面は幅方向に沿って凸状に湾曲し、前記素体の横方向中央部は、横方向の両側部での厚さよりも大きい厚さを有する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記素体は、3.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦30を満たし、W1は素体の高さ方向中央における前記長手方向中央部での幅であり、W2は両上端および両下端における前記素体の前記長手方向中央部での幅であり、T1は前記素体の幅方向中央部での前記長手方向中央部での厚さであり、T2は前記素体の横方向両側部での前記長手方向中央部での厚さである
ことを特徴とする請求項6に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記素体は、5.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦20を満たすことを特徴とする請求項7に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記セラミック電子部品は、前記素体の上面、前記第1の外部電極および前記第2の外部電極の各々の上面、前記素体の両側面の上部、および前記第1の外部電極および前記第2の外部電極の各々の両側面の上部を覆う封止樹脂層をさらに有することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
セラミック電子部品は、0.25mmから0.4mmの範囲の長さ、0.125mmから0.2mmの範囲の幅、および0.125mmから0.2mmの範囲の高さを有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
前記第1の内部電極と前記第2の内部電極の間の誘電体は、0.2μmから0.5μmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項12】
前記素体の前記誘電体は、80nmから2請求項nmの範囲の平均結晶粒径を有することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項13】
前記第1の内部電極と前記第2の内部電極は、0.2μmから0.8μmの範囲の厚さを有することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項14】
セラミック電子部品は、10μFから1000μFの範囲内の容量を有することを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項15】
前記第1の外部電極および前記第2の外部電極の材料の主成分は、Niであっことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載のセラミック電子部品。
【請求項16】
回路基板と、
前記回路基板に実装された請求項1から15のいずれか1項に記載のセラミック電子部品を有し、
前記セラミック電子部品は、前記第1の外部電極および前記第2の外部電極に接着されたはんだ層を介して前記回路基板に接続されており、前記第1の外部電極または前記第2の外部電極の端面には、各はんだ層が濡れ上がり、前記素体の前記上面には、各はんだ層が存在しない
ことを特徴とする回路基板構造。
【請求項17】
誘電体、内部電極、およびカバー層を有し、上面、下面、一対の側面、および一対の端面を有していて、ほぼ直方体の形状を有し、前記内部電極の各々は前記端面の1つで露出し、前記カバー層は前記上面と前記下面を形成しており、前記カバー層は、前記内部電極の材料の収縮温度よりも高い収縮温度を有する材料で形成されている素体を形成すること、
前記素体を焼成すること、
前記素体の長手方向の両端部に配置されて、前記素体の前記上面、前記下面、両側面、および対応する端面を覆う外部電極の下地層を形成すること、および
下地層にそれぞれめっき層を形成することを有する
ことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項18】
前記内部電極の材料の収縮温度Ta(℃)と、前記カバー層の材料の収縮温度Tx(℃)は、1.20≦Tx/Ta≦1.85を満たすことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記内部電極の材料の収縮温度Ta(℃)と、前記カバー層の材料の収縮温度Tx(℃)は、1.30≦Tx/Ta≦1.60を満たすことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記内部電極の材料の収縮温度Ta(℃)と、前記カバー層の材料の収縮温度Tx(℃)は、1.30≦Tx/Ta≦1.40を満たすことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品、回路基板構造、およびセラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化および高機能化に伴って、より小型で大容量の積層セラミックコンデンサの需要がある。小型で大容量の積層セラミックコンデンサを製造するには、セラミック誘電体層を薄くし、セラミック誘電体層と内部電極層の数を増加させることが考えられる。しかし、この方法では、デラミネーションが発生することがあり、 積層セラミックコンデンサの特性および信頼性が低下を招くことがある。
【0003】
特許文献1は、側面が高さ方向に沿って凹状に湾曲したコンデンサ本体を有し、残留圧縮応力が250MPa以上である積層セラミックコンデンサを開示する。
特許文献2は、セラミック体の積層方向の少なくとも1つの表面が凸状に湾曲した第1湾曲面であり、セラミック本体の積層方向における膨張率が絶対値で5%以上であって、第1湾曲面の曲率半径が5.2mm以下であるチップ型電子部品を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-123835号公報
【特許文献2】特開2012-015543号公報
【特許文献3】特開2015-65284号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に開示された構成では、電荷を蓄積する積み重ねられた内部電極の周りの残留応力が大きい。その結果、積層セラミックコンデンサに外部衝撃や電気的負荷が与えられると、積層セラミックコンデンサにクラックが発生し、絶縁抵抗および信頼性が低下する場合がある。
【0006】
そこで本発明は、信頼性の低下を抑制しながら誘電体層の厚さを低減できるセラミック電子部品、セラミック電子部品を有する回路基板構造、およびセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の一態様によれば、誘電体、少なくとも1つの第1の内部電極、および第1の内部電極と第2の内部電極の間に介在する誘電体を介して前記第1の内部電極上に積層された少なくとも1つの第2の内部電極を有する素体と、第1の外部電極と、第2の外部電極を有するセラミック電子部品が提供される。前記素体は、上面、下面、一対の側面、第1の端面、および第2の端面を有し、それにより、前記素体はほぼ直方体の形状を有する。前記第1の内部電極は前記第1の端面で露出し、前記第2の内部電極は前記第2の端面で露出し、前記素体の両側面は長手方向に沿って凹状に湾曲し、前記素体は、前記第1の端面と前記第2の端面の幅よりも小さい幅を有する長手方向中央部を有する。前記第1の外部電極は、前記第1の端面に形成され、前記第1の内部電極と電気的に接続され、前記第2の外部電極は、前記第2の端面に形成され、前記第2の内部電極と電気的に接続されている。
【0008】
前記素体の両側面は、高さ方向に沿って凹状に湾曲してよく、各側面は、高さ方向に沿った曲率半径を有してよく、高さ方向に沿った前記曲率半径は前記素体の前記長手方向中央部で最小であり、端面に向かって増加してよい。
【0009】
前記素体は、0<(W3-W1)/W3≦0.15を満たしてよく、ここでW1は素体の高さ方向の中央における前記長手方向中央部での幅であり、W3は素体の高さ方向の中央における端面での幅である。
【0010】
前記素体は、0.04<(W3-W1)/W3≦0.12を満たしてよい。
【0011】
前記素体の前記上面と前記下面は、長手方向に沿って凸状に湾曲してよく、前記素体の前記長手方向中央部は、端面での厚さよりも大きい厚さを有してよい。
【0012】
前記素体の前記上面と前記下面は幅方向に沿って凸状に湾曲してよく、前記素体の横方向中央部は、横方向の両側部での厚さよりも大きい厚さを有してよい。
【0013】
前記素体は、3.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦30を満たしてよく、ここで、W1は素体の高さ方向中央における前記長手方向中央部での幅であり、W2は両上端および両下端における前記素体の前記長手方向中央部での幅であり、T1は前記素体の幅方向中央部での前記長手方向中央部での厚さであり、T2は前記素体の横方向両側部での前記長手方向中央部での厚さである。
【0014】
前記素体は、5.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦20を満たしてよい。
【0015】
セラミック電子部品は、前記素体の上面、前記第1の外部電極および前記第2の外部電極の各々の上面、前記素体の両側面の上部、および前記第1の外部電極および前記第2の外部電極の各々の両側面の上部を覆う封止樹脂層をさらに有してよい。
【0016】
セラミック電子部品は、0.25mmから0.4mmの範囲の長さ、0.125mmから0.2mmの範囲の幅、および0.125mmから0.2mmの範囲の高さを有してよい。
【0017】
前記第1の内部電極と前記第2の内部電極の間の誘電体は、0.2μmから0.5μmの範囲の厚さを有してよい。
【0018】
前記素体の前記誘電体は、80nmから200nmの範囲の平均結晶粒径を有してよい。
【0019】
前記第1の内部電極と前記第2の内部電極は、0.2μmから0.8μmの範囲の厚さを有してよい。
【0020】
セラミック電子部品は、10μFから1000μFの範囲内の容量を有してよい。
【0021】
前記第1の外部電極および前記第2の外部電極の材料の主成分は、Niであってよい。
【0022】
本発明の他の態様によれば、回路基板構造が提供される。回路基板構造は、回路基板、および前記回路基板に実装されたセラミック電子部品を有し、前記セラミック電子部品は、前記第1の外部電極および前記第2の外部電極に接着されたはんだ層を介して前記回路基板に接続されており、前記第1の外部電極または前記第2の外部電極の端面には、各はんだ層が濡れ上がり、前記素体の前記上面には、各はんだ層が存在しない。
【0023】
本発明の他の態様によれば、セラミック電子部品を製造する方法が提供される。この方法は、誘電体、内部電極、およびカバー層を有し、上面、下面、一対の側面、および一対の端面を有していて、ほぼ直方体の形状を有し、前記内部電極の各々は前記端面の1つで露出し、前記カバー層は前記上面と前記下面を形成しており、前記カバー層は、前記内部電極の材料の収縮温度よりも高い収縮温度を有する材料で形成されている素体を形成すること、前記素体を焼成すること、前記素体の長手方向の両端部に配置されて、前記素体の前記上面、前記下面、両側面、および対応する端面を覆う外部電極の下地層を形成すること、および下地層にそれぞれめっき層を形成することを有する。
【0024】
前記内部電極の材料の収縮温度Ta(℃)と、前記カバー層の材料の収縮温度Tx(℃)は、1.20≦Tx/Ta≦1.85を満たしてよい。
【0025】
前記内部電極の材料の収縮温度Ta(℃)と、前記カバー層の材料の収縮温度Tx(℃)は、1.30≦Tx/Ta≦1.60を満たしてよい。
【0026】
前記内部電極の材料の収縮温度Ta(℃)と、前記カバー層の材料の収縮温度Tx(℃)は、1.30≦Tx/Ta≦1.40を満たしてよい。
【0027】
本発明の態様によれば、信頼性の低下を抑制しつつ、誘電体層の厚さを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図である。
図2A図1の線B1-B2に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。
図2B図1の線B3-B4に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。
図3図1の線C1-C2に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。
図4図1の線A1-A2に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。
図5】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を示すフローチャートである。
図6A】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法を説明するための断面図である。
図6B図6Aの後のステップを示す図である。
図6C図6Bの後のステップを示す図である。
図6D図6Cの後のステップを示す図である。
図6E図6Dの後のステップを示す図である。
図6F図6Eの後のステップを示す図である。
図6G図6Fの後のステップを示す図である。
図6H図6Gの後のステップを示す図である。
図6I図6Hの後のステップを示す図である。
図7】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの各材料の温度上昇時の変形と温度との関係を示すグラフである。
図8A図2Aと同様のやり方で切断された本発明の第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
図8B図2Bと同様のやり方で切断された第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
図8C図4と同様のやり方で切断された第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る積層セラミックコンデンサを回路基板に搭載した構造を示す断面図である。
図10】本発明の第4実施形態に係るセラミック電子部品を示す斜視図である。
図11】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの異なる試料の寸法、クラックの発生、および耐久性の関係を示す表である。
図12】第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの異なる試料の寸法、クラックの発生、および耐久性の関係を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の実施形態は本発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の構成に必須のものとは限らない。実施形態の構成は、本発明が適用される装置の仕様や各種条件(使用条件、使用環境等)によって適宜修正または変更され得る。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、以下の個別の実施形態によって限定されない。また、以下の説明に用いる図面は、各構成を分かり易くするため、実際の構造と縮尺および形状などを異ならせることがある。
【0030】
第1実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態に係る積層セラミックコンデンサを示す斜視図である。図2Aは、図1の線B1-B2に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。図2Bは、図1の線B3-B4に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。図3は、図1の線C1-C2に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。図4は、図1の線A1-A2に沿って切断された積層セラミックコンデンサの断面図である。
【0031】
図1図2A図2B図3図4に示すように、積層セラミックコンデンサ1Aは、素体2と、外部電極6A,6Bを備える。素体2は、積層体2A、下カバー層5A、および上カバー層5Bを備える。積層体2Aは、内部電極層3Aと、他の内部電極層3Bと、隣り合う内部電極層3A,3Bの間に介在する誘電体層4を有する。
図2A図2B図3では、下カバー層5Aと積層体2Aの境界、ならびに上カバー層5Bと積層体2Aの境界を点線で示すが、後述する焼成の後、これらの境界は識別できない。
【0032】
積層体2Aの下面は下カバー層5Aで覆われ、積層体2Aの上面は上カバー層5Bで覆われている。内部電極層3A,3Bは、それらの間に誘電体層4が介在するように、交互に積層されている。図1図2A図2B図3では、合計7つの内部電極層3A,3Bが積層されている例を示すが、積層される内部電極層3A,3Bの数は限定されない。
【0033】
以下の説明では、素体2の端面MA,MBを鉛直に通過する方向を素体2の長手方向DLと呼ぶことがある。長手方向DLに鉛直で内部電極層3A,3Bに平行な方向を素体2の幅方向DWと呼ぶことがある。また、長手方向DLと幅方向DWに直交する方向を素体2の積層方向(高さ方向)DHと呼ぶことがある。
内部電極層3A,3Bは、誘電体層4を間に挟むようにして高さ方向DHに積層されている。左端面MAは、長手方向DLにおいて右端面MBの反対側にある。
【0034】
積層セラミックコンデンサ1Aは、回路基板に実装され、回路基板に実装された半導体チップに加えられるノイズを除去するなどの目的で使用される。
回路基板とほぼ平行であって互いに反対側にある素体2の一対の面を、上面TSおよび下面BSと呼ぶことがある。また、回路基板にほぼ鉛直であって内部電極層3A,3Bが露出していない互いに反対側にある素体2の一対の面を、一対の側面SA,SBと呼ぶことがある。幅方向DWは、素体2の側面SA,SBをほぼ鉛直に通過する。
明細書において、用語、「上面」、「下面」、「側面」、「高さ」、「厚さ」、「幅」等は、理解を容易にするために使用され、回路基板への実装時の積層セラミックコンデンサ1Aの姿勢を限定する意図ではない。
【0035】
図4に示すように、素体2の側面SA,SBは、長手方向DLに沿って凹状に湾曲しており、素体2は、長手方向DLにおいて、幅W1が端面MA,MBにおける幅W3よりも小さい中央部C1を有する。これは、長手方向DLにおける中央部C1の少なくともいずれかの部分が、長手方向DLにおける他の部分と比較して、同じ高さレベルで幅を比較した場合に、最も幅が狭いということを意味する。
図示された実施形態では、素体2の側面SA,SBの間隔(素体2の幅)は、端面MA,MBから中央部C1の側面SA,SBの点Q1,Q1’に向かって、徐々に小さくなる。各側面は、素体2の長手方向DLにおける中央に位置して幅方向DWに沿って通過する図4に示す素体2の中心線Ce1を中心に線対称であってよい。
長手方向中央部C1は、例えば、長手方向DLにおいて素体2を(2N+1)等分した場合の、長手方向DLにおける素体2の中間部として定義される。Nは正の整数である。例えば、長手方向DLにおいて素体2を3等分した場合の、長手方向DLにおける素体2の中間部を長手方向中央部C1であると定義する。
【0036】
図2Aおよび図2Bに示すように、素体2の側面SA,SBは高さ方向DHに沿って凹状に湾曲しており、素体2は、高さ方向DHにおいて、他の部分における幅よりも幅が小さい中央部CA3,CB3を有する。各側面は、素体2の高さ方向DHにおける中央に位置して幅方向DWに沿って通過する図2Aおよび図2Bに示す素体2の中心線Ce2,Ce3を中心に線対称であってよい。
図2A図2Bを比較すると理解できるように、高さ方向DHに沿った各側面の曲率半径は、長手方向中央部C1で最小であり、素体2の長手方向両端部に向かって徐々に大きくなってよい。図4における上記の点Q1,Q1’は、高さ方向DHに沿った各側面の曲率半径が最小となる長手方向DLにおける点であり、長手方向中央部C1の範囲内に位置する。各側面の高さ方向DHに沿った凹状の形状も、図4に示す素体2の中心線Ce1を中心に線対称であってよい。
【0037】
図2Bに示すように、素体2の中央部C1の幅W1は、正確には、高さ方向DHにおける中央部での長手方向中央部C1での幅であると定義される。図2Aに示すように、素体2の端面MA,MBにおける幅W3は、正確には、高さ方向DHにおける中央部での端面MA,MBにおける幅であると定義される。
後述するように、0<(W3-W1)/W3≦0.15であることが好ましく、0.04<(W3-W1)/W3≦0.12であることがさらに好ましい。
【0038】
図3に示すように、素体2の上面TSおよび下面BSは、長手方向DLに沿って凸状に湾曲しており、素体2は、長手方向DLにおいて、厚さ(高さ)T1が端面MA,MBにおける厚さ(高さ)T3よりも大きい中央部C2を有する。これは、長手方向DLにおける中央部C2の少なくともいずれかの部分が、長手方向DLにおける他の部分と比較して、同じ垂直面で厚さを比較した場合に、最も厚いことを意味する。
図示された実施形態では、素体2の上面TSと下面BSの間隔(素体2の厚さ)は、端面MA,MBから長手方向の中心に向かって徐々に大きくなる。
長手方向中央部C2は、例えば、長手方向DLにおいて素体2を(2N+1)等分した場合の、長手方向DLにおける素体2の中間部として定義される。Nは正の整数である。例えば、長手方向DLにおいて素体2を3等分した場合の、長手方向DLにおける素体2の中間部を長手方向中央部C2であると定義する。中央部C2は中央部C1と一致してもしなくてよい。
【0039】
上記から明らかなように、素体2は、長手方向DLに沿って凸状に湾曲した上面TSと下面BSを有し、端面MA,MBよりも厚い中央部C2を有する。上面および下面の各々は、素体2の長手方向DLにおける中央に位置して高さ方向DHに沿って通過する図3に示す素体2の中心線Ce4を中心に線対称であってよい。
図3の断面では、素体2の最も厚い部分は中央部C2に位置する。
【0040】
図2Aおよび図2Bにおいて、端面MA,MBに平行な素体2の断面において、素体2の長手方向DLの両端における高さ方向DHの中央部を中央部CA3と呼ぶことにする。そして、素体2の長手方向DLの中央における高さ方向DHの中央部を中央部CB3と呼ぶことにする。また、端面MA,MBに平行な素体2の断面において、素体2の長手方向DLの両端における幅方向DWの中央部を中央部CA4と呼び、素体2の長手方向DLの中央における幅方向DWの中央部を中央部CB4と呼ぶことにする。
素体2の側面SA,SBは長手方向DLに沿って凹状に湾曲しているので(素体2の長手方向中央部の幅W1が長手方向端部の幅W3よりも小さいので)、素体2の長手方向中央部での高さ方向中央部CB3での幅は、素体2の長手方向端部での高さ方向中央部CA3での幅よりも小さい。これは、長手方向中央部での高さ方向DHにおける中央部CB3の少なくともいずれかの部分が、長手方向DLにおける他の部分と比較して、同じ高さレベル、例えば、中間の高さレベルで幅を比較した場合に、最も狭いことを意味する。
高さ方向中央部CB3は、例えば、高さ方向DHにおいて素体2を(2N+1)等分した場合の、高さ方向DHにおける素体2の中間部として定義される。Nは正の整数である。例えば、高さ方向DHにおいて素体2を3等分する場合の、高さ方向DHにおける素体2の中間部を高さ方向中央部CB3であると定義する。
【0041】
素体2の上面TSと下面BSが長手方向DLに沿って凸状に湾曲しているので(素体2の長手方向中央部の厚さT1が長手方向両端部の厚さT3よりも大きいので)、素体2の長手方向中央部での横方向中央部CB4での厚さは、素体2の長手方向端部での横方向中央部CA4での厚さよりも大きい。これは、長手方向中央部での幅方向DWにおける中央部CB4の少なくともいずれかの部分が、長手方向DLにおける他の部分と比較して、同じ横方向位置、例えば幅方向DWの中間で厚さを比較した場合に、最も厚いことを意味する。
横方向中央部CB4は、例えば、幅方向DWにおいて素体2を(2N+1)等分した場合に、幅方向DWにおける素体2の中央部と定義される。Nは正の整数である。例えば、幅方向DWで素体2を3等分した場合の幅方向DWにおける素体2の中間部として、高さ方向中央部CB3が定義されている。
【0042】
図2Aおよび図2Bに示すように、素体2は、幅方向DWに沿って凸状に湾曲した上面TSおよび下面BSを有しており、素体2の横方向の両側部よりも厚い横方向中央部CA4およびCB4を有する。上面および下面の各々は、幅方向DWにおける素体2の中央部に位置して高さ方向DHに沿って通過する図2Aおよび図2Bに示す素体2の中心線Ce5,Ce6を中心に線対称であってよい。
図2A図2Bを比較すると理解できるように、幅方向DWに沿った上面および下面の各々の曲率半径は、長手方向中央部C1またはC2で最小であり、素体2の長手方向両端部に向かって徐々に大きくなってよい。図4における上記の点Q1,Q1’は、幅方向DWに沿った上面および下面の曲率半径が最小となる長手方向DLにおける点であり、長手方向中央部C1またはC2の範囲内に位置する。幅方向DWに沿った凸状の形状も、図4に示す素体2の中心線Ce1を中心に線対称であってよい。
【0043】
図2Bに示すように、素体2の長手方向中央部C1またはC2における厚さT1は、正確には、素体2の長手方向中央部C1またはC2における断面での幅方向DWにおける中央部CB4での厚さであると定義される。素体2の長手方向中央部C1またはC2における断面での幅方向DWにおける素体2の両側部での厚さを、厚さT2と呼ぶ。素体2の長手方向中央部C1またはC2における幅W1は、正確には、素体2の長手方向中央部C1またはC2における断面での高さ方向DHの中央部CB3での幅であると定義される。素体2の長手方向中央部C1またはC2における断面での高さ方向DHの両上端および両下端での幅を、幅W2と呼ぶ。
3.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦30であることが好ましく、5.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦20であることがさらに好ましい。
【0044】
図2A図2B図3図4に示す素体2の輪郭は、図2A、2B、3、4の断面に沿って切断して得られた切断面を観察し、その切断面を研磨することで確認することができる。また、素体2の上記寸法は、それらの切断面で測定することによって確認することができる。
【0045】
外部電極6A,6Bは、素体2の反対側の端部にそれぞれ配置されているので、外部電極6A,6Bは、長手方向DLにおいて互いに間隔をおいて(分離して)配置されている。外部電極6A,6Bの各々は、素体2の上面TS、下面BS、側面SA,SB,および対応する端面MAまたはMBを連続的に覆っている。
【0046】
図3に示すように、積層体2Aでは、長手方向DLにおいて、内部電極層3A,3Bが異なる位置に交互に配置されている。内部電極層3Aは内部電極層3Bよりも素体2の左端面MAに近く配置されてよく、内部電極層3Bは内部電極層3Aよりも素体2の右端面MBに近く配置されてよい。
内部電極層3Aの左端は、左端面MAにおいて誘電体層4の左端で露出しており、外部電極6Aに接続されている。内部電極層3Bの右端は、右端面MBにおいて誘電体層4の右端で露出しており、外部電極6Bと接続されている。
一方、図4に示すように、幅方向DWでは、内部電極層3A,3Bの側面は誘電体層4を形成する誘電体材料で覆われている。幅方向DWでは、内部電極層3Aの両側は、内部電極層3Bの両側と一致していてよい。
したがって、素体2は、誘電体材料で作られて、幅方向DWにおいて内部電極層3A,3Bを覆うサイドマージン部10を有する。素体2は、素体2のそれぞれの稜線に沿って面取りされていてよい。
【0047】
内部電極層3A,3Bの厚さは、0.2μmから0.8μmの範囲内であってよい。
内部電極層3A,3Bの材料の主成分は、例えば、Cu(銅)、Fe(鉄)、Zn(亜鉛)、Sn(スズ)、Ni(ニッケル)。Ti(チタン)、Ag(銀)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)などの金属であってよいし、これらの金属のうち少なくとも1つを含む合金であってよい。内部電極層3A,3Bの材料の主成分は、NiまたはCuであることが好ましい。
【0048】
誘電体層4の厚さは、0.2μm~0.5μmの範囲であってよい。誘電体層4に含まれる誘電体の平均結晶粒径は、80nmから200nmの範囲内であってよい。
誘電体層4に用いられる材料の主成分は、例えば、ペロブスカイト構造を有するセラミック材料であってよい。主成分は、50at%以上の割合で含まれていてよい。誘電体層4のセラミック材料は、例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム、または酸化チタンであってよい。
【0049】
下カバー層5Aおよび上カバー層5Bの材料の主成分は、例えば、セラミック材料であってよい。下カバー層5Aおよび上カバー層5Bのセラミック材料の主成分は、誘電体層4のセラミック材料の主成分と同じであってよい。
【0050】
素体2の上面TSと下面BSの凸状に湾曲した形状と、素体2の側面SA,SBの凹状に湾曲した形状は、素体2に作用する内部応力の分布によって得ることができる。これは、後述する素体2の焼成時に、積層体2A(図2A図3参照)の収縮温度と、カバー層5A,5Bの収縮温度との差によって生じる。この差を大きくすると、素体2に発生する内部応力も大きくなるため、凸型形状および凹型形状の曲率も大きくなる。
カバー層5A,5Bの収縮温度を変化させるには、カバー層5A,5Bに含まれる誘電体すなわちセラミック材料の結晶粒径を変化させてよいし、カバー層5A,5Bの材料に含まれるガラス相の添加物(例えば、Si)の量を変化させてもよいし、カバー層5A,5Bの材料に混入するバインダーの量を変化させてよい。
【0051】
外部電極6A,6Bの材料の主成分は、例えば、Cu,Fe,Zn,Al,Ni,Pt,Pd,Ag,Au,Snなどの金属であってよいし、これらの金属のうち少なくとも1つを含む合金であってよい。外部電極6A,6B用の材料の主成分は、内部電極3A,3Bとの電気的接続性の観点から、Niであることが好ましい。
【0052】
図6Iに示すように、外部電極6A,6Bの各々は、素体2上に形成された導電層としての下地層7と、下地層7上に形成されためっき層9を有する。
外部電極6A,6Bの下地層7は、素体2の互いに反対側にある端部にそれぞれ配置されており、外部電極6A,6Bの下地層7は、長手方向DLにおいて互いに間隔をおいて(分離して)配置されている。外部電極6A,6Bの各々の下地層7は、素体2の上面TSと下面BS,側面SA,SB,および対応する端面MAまたはMBを連続的に覆う。
【0053】
下地層7の導電材料は、例えば、Cu,Fe,Zn,Al,Ni,Pt,Pd,Ag,Au,Snなどの金属であってよいし、これらの金属のうち少なくとも1つを含む合金であってよい。また、下地層7は、金属に分散した共材の粒子をさらに含んでよい。ここで、「粒子」とは、個々の小粒子だけでなく、後述する焼成ステップ後の複数の小粒子の組み合わせで形成されるブロックも含む意味である。共材は、下地層7に島状に分散することで、素体2と下地層7の熱膨張率の差を小さくし、下地層7に発生する熱応力を緩和する。共材は、例えば、誘電体層4の主成分であるセラミック成分である。また、下地層7は、ガラス成分を含んでもよい。下地層7に含まれるガラス成分は、下地層7を緻密化することができる。ガラス成分は、例えば、Ba(バリウム)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、Zn、Al、Si(ケイ素)、B(ホウ素)等の酸化物であってよい。
【0054】
下地層7は、金属を含む導電性ペーストの焼結体で形成されていることが好ましい。これにより、素体2と下地層7との密着性を確保しつつ、下地層7を厚くすることが可能となるので、外部電極6A,6Bの強度が確保され、下地層7と内部電極層3A,3Bの導電性が確保される。
【0055】
外部電極6A,6Bの各々のめっき層9は、対応する下地層7を連続的に覆う。めっき層9は、対応する下地層7を介して内部電極層3Aまたは3Bと電気的に接続されている。また、外部電極6A,6Bの各々のめっき層9は、はんだを介して回路基板上の電極と電気的に接続されている。
【0056】
めっき層9の材料の主成分は、例えば、Cu,Fe,Zn,Al,Ni,Pt,Pd,Ag,Au,Snなどの金属であってよいし、これらの金属のうち少なくとも1つを含む合金であってよい。めっき層9は、単一の金属成分の単層であっても、異なる金属成分の複数層であってよい。
外部電極6A,6Bの各々のめっき層9は、例えば、下地層7の上に形成されたCuめっき層、Cuめっき層の上に形成されたNiめっき層、Niめっき層の上に形成されたSnめっき層からなる3層構造を有してよい。Cuめっき層は、めっき層9と下地層7との密着性を向上させ、Niめっき層は、外部電極6A,6Bのはんだ付け時の耐熱性を向上させることができる。Snめっき層は、めっき層9に対するはんだの濡れ性を向上させることができる。
【0057】
実施形態では、図4に示すように、素体2の側面SA,SBが長手方向DLに沿って凹状に湾曲しているため、積層体2A(図2A,2B参照)において、特に、下カバー層5Aと積層体2Aの境界、上カバー層5Bと積層体2Aの境界付近の領域RE(図2A、2Bでは仮想線で表示)において発生する局所的な残留応力を緩和することができる。これにより、カバー層5A,5Bが積層体2Aから分離しにくくなり、素体2のクラック、機械的強度の低下、絶縁抵抗の低下、信頼性の低下を防ぐことができる。カバー層5A,5Bが積層体2Aから分離する現象をデラミネーションと呼ぶ。
【0058】
また、カバー層5A,5Bに含まれる誘電体(セラミック)材料の結晶粒径、カバー層5A,5Bに含まれるガラス相の添加物の量および/またはバインダーの量を調整することにより、素体2の上面TSと下面BSの凸状湾曲形状と、素体2の側面SA,SBの凹状湾曲形状を得ることができる。これにより、素体2を焼成した後に、凸状湾曲形状や凹状湾曲形状を得るための加工を行う必要がなくなり、素体2のコスト上昇を抑制することができる。
【0059】
積層セラミックコンデンサ1Aの外形サイズは、日本工業規格(JIS)の「0201」(長さ=0.25mm、幅=0.125mm、高さ=0.125mm)からJISの「3225」(長さ=3.2mm、幅=2.5mm、高さ=2.5mm)までの範囲にあることが好ましい。また、外形サイズは、JISの「0201」から「0402」(長さ=0.4mm、幅=0.2mm、高さ=0.2mm)の範囲であることがさらに好ましい。上記の寸法値は設計値であり、実際の製品は寸法公差を含む寸法値を有する。積層セラミックコンデンサ1Aの外形サイズが「0201」~「0402」の範囲にある場合、積層セラミックコンデンサ1Aを高い容量で小型化することができる。
【0060】
積層セラミックコンデンサ1Aの容量は、10μF~1000μFの範囲であることが好ましい。積層セラミックコンデンサ1Aの容量は、470μF~1000μFの範囲内であることがさらに好ましい。積層セラミックコンデンサ1Aの容量が470μFから1000μFの範囲にある場合には、積層セラミックコンデンサ1Aを小型化することができ、電源回路の平滑用コンデンサとして使用することができ、リップル電流を効果的に低減することができる。
【0061】
図5は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示すフローチャートである。図6A~6Iは、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法の一例を示す断面図である。図6Cから図6Iは、説明のために、3つの内部電極層3Aと3つの内部電極層3Bのみを、誘電体層4が間に介在するような方法で交互に積層したものを示す。
【0062】
図5のステップS1(混合ステップ)では、誘電体材料粉末に分散剤および成形助剤としての有機バインダーおよび有機溶剤を添加し、粉砕・混合してスラリーを生成する。誘電体材料粉末としては、例えば、セラミック粉末を含む。誘電体材料粉末は、添加物を含んでよい。添加物は、例えば、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Y(イットリウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユーロピウム)、Gd(カドミウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Co(コバルト)、Ni、Li(リチウム)、B、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Siのいずれかの酸化物、またはガラスであってよい。有機バインダーは、例えば、ポリビニルブチラール樹脂またはポリビニルアセタール樹脂である。また、有機溶剤は、例えば、エタノールまたはトルエンである。
【0063】
次に、図5のステップS2(スラリー塗布ステップ)では、図6Aに示すように、グリーンシート24を製造する。具体的には、セラミック粉末を含むスラリーを、シート状のキャリアフィルム上に塗布し、乾燥させることで、グリーンシート24を製造する。キャリアフィルムは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。スラリーの塗布は、例えば、ドクターブレード法、ダイコーター法、グラビアコーター法などを用いて行うことができる。ステップS2を繰り返して、複数のグリーンシート24を用意する。
【0064】
次に、図5のステップS3(電極印刷ステップ)では、図6Bに示すように、ステップS1で用意したグリーンシートのうち、図2Bに示す内部電極層3Aまたは3Bを配置すべきグリーンシート24の各々に、内部電極層となる導電性ペーストを所定のパターンで塗布し、グリーンシート24上に内部電極パターン23を形成する。ステップS3では、グリーンシート24の長手方向に内部電極パターン23が互いに離れるようにして、1枚のグリーンシート24上に複数の内部電極パターン23を形成してもよい。
内部電極層用の導電性ペーストは、内部電極層3A,3Bの材料として用いられる金属の粉末を含む。例えば、内部電極層3A,3Bの材料として使用される金属がNiである場合、内部電極層用の導電性ペーストはNiの粉末を含む。また、内部電極層用の導電性ペーストは、バインダー、溶剤、および必要に応じて助剤を含む。内部電極層用の導電性ペーストは、共材として、誘電体層4の材料の主成分と同じ組成の主成分を有するセラミック材料を含んでよい。
内部電極層用の導電性ペーストの塗布は、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、グラビア印刷法などを用いて行ってよい。したがって、ステップS3は、電極印刷ステップと呼んでよい。このようにして、内部電極パターン23が形成されたグリーンシート24が複数用意される。
【0065】
次に、図5のステップS4(積層ステップ)では、図6Cに示すように。内部電極パターン23が形成されたグリーンシート24と、内部電極パターン23が形成されていないグリーンシート25A,25Bとを、所定の順序で積層して、グリーンシートのブロック30を作成する。内部電極パターン23が形成されていないグリーンシート25A,25Bが外層(下カバー層5A,上カバー層5B)として使用される。
内部電極パターン23Aまたは23Bを有するグリーンシート24は、2つのグループに分類される。内部電極パターン23A(内部電極層3Aを形成する)を有するグリーンシート24と、内部電極パターン23B(内部電極層3Bを形成する)を有するグリーンシート24である。内部電極パターン23Aを有するグリーンシート24と、内部電極パターン23Bを有するグリーンシート24とが、積層方向に交互に積層されている。グリーンシート24の内部電極パターン23Aと次のグリーンシート24の内部電極パターン23Bが交互にグリーンシート24の長手方向にずれるように積層されている。
さらに、グリーンシートブロック30には、3種類の部分が定義されている。具体的には、グリーンシートブロック30は、内部電極パターン23Aのみが積層方向に積層されている部分と、内部電極パターン23Aと23Bとが積層方向に交互に積層されている部分と、内部電極パターン23Bのみが積層方向に積層されている部分を有する。
【0066】
下カバー層5Aと上カバー層5Bのためのグリーンシート25A,25Bは、内部電極パターン23が形成されたグリーンシート24よりも厚い。
上記のように、カバー層5A,5Bの収縮温度を変化させるためには、カバー層5A,5Bに含まれる誘電体(セラミック)材料の結晶粒径を変化させてよいし、カバー層5A,5B用の材料に含まれるガラス相の添加物の量(例えばSi)の量を変化させてもよいし、カバー層5A,5Bの材料に混入するバインダーの量を変化させてよい。
グリーンシート25A,25Bに含まれる誘電体粉末の平均結晶粒径が、グリーンシート24に含まれる誘電体粉末の平均結晶粒径よりも大きい場合には、焼成時にカバー層5A,5Bの収縮温度を積層体2Aの収縮温度よりも高いように調整することができる。
グリーンシート25A,25Bに含まれる誘電体粉末中のガラス相の添加物の量を増やせば、焼成時にカバー層5A,5Bの収縮温度を低くなるように調整することができる。
グリーンシート25A,25Bに含まれる誘電体粉末中のバインダー量を増やせば、焼成前のグリーンシート25A,25B内の誘電体粒子間の距離が大きくなるため、焼成時の誘電体粒子の固化を遅くすることができる。これにより、焼成時にカバー層5A,5Bの収縮温度が積層体2Aの収縮温度よりも高くなる。
【0067】
次に、図5のステップS5(圧着ステップ)において、図6Dに示すように、図5のステップS4の積層ステップで得られた積層体ブロック30を、グリーンシート24、25A、25Bが加圧接合されるように加圧する。積層体ブロック30の加圧は、例えば、樹脂フィルムで囲まれた積層体ブロック30を静水圧で加圧することで行ってよい。
【0068】
図5(切断ステップ)のステップS6では、図6Eに示すように、加圧された積層体ブロック30は、複数の直方体の素体に分離されるように切断される。各素体は6つの表面を有する。積層体ブロック30の切断は、複数の縦の点線27で示されるように、内部電極パターン23Aのみが積層方向に積層された部分と、内部電極パターン23Bのみが積層方向に積層されている部分とで行われる。積層体ブロック30の切断は、例えば、ブレードダイシングなどの方法で行うことができる。
【0069】
得られた素体2’は、図6Fに拡大して示されている。図6Fに示されるように、内部電極層3A,3Bは、個々の素体2’の各々において、誘電体層4がそれらの間に介在するように、交互に積層されている。内部電極層3Aは各素体2’の一方の端面MAで露出しており、内部電極層3Bは各素体2’の他方の端面MBで露出している。
下カバー層5Aと上カバー層5Bが各素体2’に形成されている。
【0070】
次に、図5のステップS7(バインダー除去ステップ)では、図5のステップS6で分離された各素体2’に含まれるバインダーが除去される。バインダーの除去は、例えば、素体2’をN雰囲気中で約350℃に加熱することによって行われる。
【0071】
次に、図5のステップS8(下地層用ペーストを塗布するステップ)では、図6Gに示すように。下地層用の導電性ペースト7’を、ステップS7でバインダーが除去された各素体2の両端面MA,MBに塗布し、両端面MA,MBに隣接する残りの4面(上面、下面、両側面)にも塗布する。下地層用の導電性ペースト7’の塗布には、例えば、ディッピング法を用いることができる。その後、導電性ペースト7’を乾燥させる。
下地層用導電性ペースト7’は、下地層7の導電性材料として用いられる金属の粉末またはフィラーを含む。例えば、下地層7の導電性材料として用いられる金属がNiである場合、下地層用導電性ペースト7’は、Niの粉末またはフィラーを含む。また、下地層用導電性ペースト7’は、共材として、例えば誘電体層4の共材の主成分であるセラミック成分を含む。下地層用導電性ペースト7’には、共材として、例えば、チタン酸バリウムを主成分とする酸化物セラミックの粒子(例えば、D50粒径が0.1μm~4μm)が混合されている。下地層用導電性ペースト7’は、さらにバインダーと溶剤を含む。
ただし、下地層用の導電性ペースト7’は、素体2を焼成した(ステップS9)後に塗布して焼成してよい。この場合、導電性ペースト7’は、例えば、N雰囲気で780℃の温度で10分~30分程度焼成してよい。
【0072】
次に、図5のステップS9(焼成ステップ)では、図6Hに示すように、ステップS8で下地層7のための導電性ペーストが塗布された素体2は、内部電極層3A,3Bが各素体2の誘電体層4と一体化し、下地層7が素体2と一体化するように焼成ステップを行う。素体2および導電性ペースト7’の焼成は、例えば、焼成炉において、1000℃~1400℃の温度範囲で、10分~2時間行われる。
内部電極層3A,3Bの材料として、NiやCuなどの卑金属を用いる場合には焼成ステップは、内部電極層3A,3Bの酸化を防ぐために、焼成炉内を還元雰囲気にして行ってよい。
上記のように、焼成ステップでは、積層体2Aの収縮温度とカバー層5A,5Bの収縮温度が異なるため、素体2の位置に応じて内部応力が変化し、素体2の上面TSと下面BSは凸状に湾曲し、素体2の側面SA,SBは凹状に湾曲する。
焼成ステップでは、素体2の誘電体材料に含まれる一部の酸化物成分が減少しうるため、焼成ステップの後に再酸化ステップを行ってよい。また、再酸化ステップは、N雰囲気中で、600℃~1000℃の温度範囲で行ってよい。
【0073】
次に、図5のステップS10(めっき層形成ステップ)では、図6Iに示すように、下地層7上にめっき層9を形成する。めっき層9を形成する際には、例えば、Cuめっき層、Niめっき層、Snめっき層を順次形成してよい。めっき層の形成は、下地層7が形成された素体2をバレルに収容し、バレル内のメッキ液に浸し、バレルを回転させながら通電することで行うことができる。
【0074】
図7は、昇温時の第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1Aの材料の変形と温度の関係を示す。
図7は、積層セラミックコンデンサ1Aの材料のThermal Mechanical Analysis(TMA)によって得られた。
グラフでは、曲線M1が積層体2Aの内部電極層3A,3Bの材料の熱収縮挙動に対応し、曲線M2~M4がカバー層5A,5Bの異なる材料の熱収縮挙動を示している。
各々の曲線に示されているように、温度の上昇に伴い収縮率が大幅に増加する。収縮が開始する温度を収縮開始温度、収縮が終了する温度を収縮終了温度と呼ぶことができる。
また、収縮率が最大となる温度(曲線の傾斜角が最大となる温度)を収縮温度と呼ぶことができる。曲線M1では、内部電極層3A,3Bの材料の収縮温度はTa(℃)である。曲線M3では、カバー層5A,5Bの材料の収縮温度はTx(℃)である。
【0075】
カバー層5A,5Bの収縮温度は、内部電極層3A,3Bの収縮温度よりも高いため、内部電極層3A,3Bは、カバー層5A,5Bが収縮し始める前に収縮し始める。内部電極層3A,3Bの収縮は主に幅方向DWで起こるため、図2A,2Bに示すように、素体2の側面SA,SBは高さ方向DHに沿って凹状に湾曲するよう変形し、このため、積層体2Aの内側部分が大きく圧縮される。圧縮内部応力により、要素本体2の上面TSおよび下面BSが幅方向DWに沿って凸状に湾曲し、圧縮内部応力自体が解放される。
カバー層5A,5Bの収縮温度が内部電極層3A,3Bの収縮温度に比べて非常に高い場合、内部電極層3A,3Bは、カバー層5A,5Bの変形に比べて早く収縮し、積層体2A内の応力が増加する。この結果,素体2の外面の凹状の湾曲と凸状の湾曲が大きくなる。
【0076】
しかし、素体2内の応力が高すぎると、素体2の機械的および/または電気的な疲労に対する耐久性が低下し、積層セラミックコンデンサ1Aの信頼性が低下することになる。
一方、カバー層5A,5Bの収縮温度と内部電極層3A,3Bの収縮温度が近すぎると、積層体2Aとカバー層5A,5Bの間にデラミネーションが発生しやすい。
発明者は、積層セラミックコンデンサ1Aの異なる試料のデラミネーションの発生と信頼性を確認する実験を行った。表1は、各試料の内部電極層3A,3Bの材料の収縮温度Ta(℃)と、カバー層5A,5Bの材料の収縮温度Tx(℃)を示す。これらの試料は異なるTAと異なるTxを持つ。収縮温度Ta,TbはTMAによって得られる。
TMAの条件は、昇温速度10℃/分、雰囲気は窒素(99%)と水素(1%)の混合ガスとした。
試料の信頼性は、試料の耐久性試験(HALT(高加速寿命試験))によって確認した。
【0077】
【表1】
【0078】
試料1では、焼成ステップの後にデラミネーションが発生したが、問題のないレベルであった。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
試料2では、焼成ステップの後にデラミネーションが発生したが、問題ないレベルであった。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
試料3では、焼成ステップの後にデラミネーションがほとんど発生しなかった。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
試料4では、焼成ステップの後にデラミネーションがまったく発生しなかった。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
試料5では、焼成ステップの後にデラミネーションがほとんど発生しなかった。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
試料6では、焼成ステップの後にデラミネーションがまったく発生しなかった。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
試料7では、焼成ステップの後にデラミネーションがまったく発生しなかった。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
試料8では、焼成ステップの後に問題のあるデラミネーションが発生した。製造後の耐久性試験では不十分な結果を得た。
試料9では、焼成ステップの後に問題のあるデラミネーションが発生した。製造後の耐久性試験では良好な結果が得られた。
上記の実験結果から、1.20≦Tx/Ta≦1.85であることが好ましく、1.30≦Tx/Ta≦1.60であることがさらに好ましい。また、1.30≦Tx/Ta≦1.40であることがさらに好ましい。
【0079】
上述したように、図4に示すように、素体2の側面SA,SBは、長手方向DLに沿って凹状に湾曲している。図3に示すように、素体2の上面TSと下面BSは、長手方向DLに沿って凸状に湾曲している。図2Aおよび2Bに示すように、側面SA,SBは高さ方向DHに沿って凹状に湾曲し、上面TSおよび下面BSは幅方向DWに沿って凸状に湾曲している。
【0080】
素体2の上面TS、下面BS、および側面SA,SBの好ましい形状は、(i)カバー層5A,5Bに含まれる誘電体(セラミック)材料の結晶粒径、(ii)カバー層5A,5Bの材料に含まれるガラス相の添加物の量、および(iii)カバー層5A,5Bに含まれる誘電体粉末に混入されるバインダーの量の少なくとも1つを調整することによって得ることができる。
(i)カバー層5A,5Bに含まれる誘電体材料の結晶粒径を大きくすれば、焼成時のカバー層5A,5Bの収縮開始温度を上げることができ、このため、長手方向DLに沿って凹状に湾曲している側面SA,SB(図4参照)の凹状湾曲量を大きくすることができる。
(ii)カバー層5A,5Bに含まれる誘電体材料の粉末に添加されるガラス相の添加物の量を増やすと、焼成時のカバー層5A,5Bの収縮開始温度と収縮温度を下げることができ、このため、長手方向DLに沿って凹状に湾曲している側面SA,SB(図4参照)の凹状湾曲量を減少させることができる。
(iii)カバー層5A,5Bに含まれる誘電体粉末に混入されるバインダーの量を増やせば、焼成時のカバー層5A,5Bの収縮開始温度を上げることができ、このため、長手方向DLに沿って凹状に湾曲している側面SA,SB(図4参照)の凹状湾曲量を大きくすることができ、長手方向DLに沿って凸状に湾曲している上面TSと下面BS(図3参照)の凸状の湾曲量を大きくすることができる。
【0081】
第2実施形態
図8Aは、図2Aと同様のやり方で切断された本発明の第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1Bの断面図である。図8Bは、図2Bと同様のやり方で切断された第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1Bの断面図である。図8Cは、図4と同様のやり方で切断された第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1Bの断面図である。
図8A~8Cに示すように、積層セラミックコンデンサ1Bは、素体2と外部電極6A,6Bに加えて、封止樹脂層8を有する。積層セラミックコンデンサ1Bは、封止樹脂層8を除いて、積層セラミックコンデンサ1Aと同じである。
【0082】
封止樹脂層8は、素体2の上面TS、外部電極6A,6Bの各々の上面、素体2の側面SA,SBの上部、および外部電極6A,6Bの各々の側面の上部を覆う。封止樹脂層8は、回路基板上の電極と電気的に接続された外部電極6A,6Bの下面を除いて、積層セラミックコンデンサ1Bの全体を覆ってよい。
樹脂層8は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などで形成されてよい。樹脂層8の材料は、スプレーで塗布してよいし、ディッピングで塗布してよい。
【0083】
素体2と外部電極6A,6Bに樹脂層8を塗布することで、素体2内の電荷蓄積部への水分の浸入を防ぎ、耐衝撃性を向上させることができ、積層セラミックコンデンサ1Bの信頼性を向上させることができる。また、外部電極6A,6Bと回路基板上の電極とを接続するはんだを用いて、積層セラミックコンデンサ1Bを回路基板に実装する場合、封止樹脂層8は、外部電極6A,6Bの上面まではんだが濡れ上がるのを防ぐことができる。これにより、基板への実装後に積層セラミックコンデンサ1Bの高さが高くなるのを防ぐことができる。
【0084】
図8A,8Bに示すように、素体2の側面SA,SBは、高さ方向DHに沿って凹状に湾曲している。したがって、硬化前の樹脂が側面SA,SBに沿って落下することを防ぐことができる。また、封止樹脂層8は、素体2の各側面SA,SBの高さ方向中央部で厚くすることにより、素体2内の電荷蓄積領域に水分が侵入するのを防ぐことができる。これにより、積層セラミックコンデンサ1Bの信頼性を確保することができる。
【0085】
第3実施形態
図9は、積層セラミックコンデンサが回路基板に実装された本発明の第3実施形態に係る構造を示す断面図である。
図9に示すように、回路基板11上には、ランド電極12A,12Bが形成されている。回路基板11は、プリント基板であってよいし、例えばSiから形成された半導体基板であってもよい。積層セラミックコンデンサ1Aは、外部電極6A,6Bのめっき層9にそれぞれ取り付けられたはんだ層13A,13Bを介して、ランド電極12A,12Bに接続されている。
【0086】
はんだ層13A,13Bの各々は、対応する外部電極6A,6Bの端面に濡れ上がる。積層セラミックコンデンサ1Aが小さい高さを有する場合、はんだ層13A,13Bの各々は対応する外部電極6Aまたは6Bの上面まで濡れ上がるかもしれない。
【0087】
しかし、素体2の上面TSは、長手方向DLに沿って凸状に湾曲しているため、各外部電極6A,6Bの高さは、素体2の端面MA,MBに向かって徐々に低くなっていく。このため、外部電極6A,6Bの上面まではんだ層13A,13Bが濡れ上がったとしても、はんだ層13A,13Bが素体2の上面TSに到達しにくい。この結果、積層セラミックコンデンサ1Aを実装した場合の高さの増加を防ぐことができる。
【0088】
第4実施形態
図10は、本発明の第4実施形態に係るセラミック電子部品を示す斜視図である。図10では、セラミック電子部品として、チップインダクタを例に挙げている。
チップインダクタ61は、素体62と、2つの外部電極66A,66Bを有する。素体62は、両端に形成された2つの端部片63A,63Bを有するコイルパターン63と、磁性体材料64を有する。
コイルパターン63の端部片63A,63Bを含む部分は薄い平板状に形成されており、コイルパターン63全体は螺旋状に形成されている。
磁性体材料64は、コイルパターン63で形成された内部電極層を絶縁する誘電体として用いられる。
素体62の下部には下カバー層5Aと同様の下カバー層65Aが設けられ、素体62の上部には上カバー層5Bと同様の上カバー層65Bが設けられている。
カバー層65A,65Bの収縮温度はコイルパターン63のそれよりも高い。
【0089】
素体62の形状は、ほぼ直方体の形状であってよい。
ただし、素体62の側面SA,SBは、長手方向DLに沿って凹状に湾曲しており、素体62は、長手方向端部の幅よりも小さい幅を持つ長手方向中央部を有する。
【0090】
素体62の上面TSと下面BSは、長手方向DLに沿って凸状に湾曲しており、素体62は、長手方向端部の厚さよりも大きい厚さを持つ長手方向中央部を有する。
【0091】
また、素体62の側面SA,SBは、高さ方向DHに沿って凹状に湾曲しており、素体62は、高さ方向端部の幅よりも小さい幅を持つ高さ方向中央部を有する。高さ方向DHに沿った各側面の曲率半径は、長手方向中央部で最小であり、素体62の長手方向両端部に向かって徐々に大きくなってよい(上記の図2A,2Bの比較と同様)。
【0092】
素体62の上面TSおよび下面BSは、幅方向DWに沿って凸状に湾曲しており、素体62は、横方向両側部の厚さよりも大きい厚さを持つ横方向中央部を有する。幅方向DWに沿った上面および下面の各々の曲率半径は、長手方向中央部で最小であり、素体62の長手方向両端部に向かって徐々に大きくなってよい(上記の図2A,2Bの比較と同様)。
【0093】
コイルパターン63は、磁性体材料64に埋め込まれている。しかし、端部片63Aは、磁性体材料64から素体62の一方の端面MAで露出しており、外部電極66Aに接続されている。一方、端部片63Bは、素体62の他方の端面MBで磁性体材料64から露出しており、外部電極66Bに接続されている。
【0094】
コイルパターン63および端部片63A,63Bの材料は、例えば、Cu,Fe,Zn,Al,Sn,Ni,Ti,Ag,Au,Pt,Pd,Ta,Wなどの金属、または、これらの金属のうち少なくとも1つを含む合金であってよい。磁性体材料64は、例えば、フェライトである。
【0095】
外部電極66A,66Bは、長手方向DLにおいて互いに間隔をおいて(離して)配置されるように、それぞれ素体62の反対側に配置されている。外部電極66A,66Bの各々は、素体62の対応する端面MAまたはMBから、素体62の側面および上面および下面へと連続的に延びている。
【0096】
実験
発明者は、積層セラミックコンデンサ1Aの異なる試料について、クラックの発生および耐久性を確認する実験を行った。
図11および図12は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサの異なる試料の寸法、クラックの発生および耐久性(HALTの結果)の関係を示す。
図11の試料は、JISの「3225」に対応し、誘電体層4の材料はチタン酸バリウムであり、内部電極層3A,3B間の各誘電体層4の厚さは1.5μmであった。内部電極層3A,3Bの材料はニッケルであり、各層の厚さは1.0μmであり、内部電極層3A,3Bの合計数は200であった。
図12の試料は、JISの「1608」(長さ=1.6mm,幅=0.8mm,高さ=0.8mm)に対応し、誘電体層4の材料はチタン酸バリウムであり、内部電極層3A,3B間の各誘電体層4の厚さは0.8μmであった。内部電極層3A,3Bの材料はニッケルであり、各層の厚さは0.6μmであり、内部電極層3A,3Bの合計数は200であった。
実験に使用された試料は異なる寸法(W1、W2、W3、T1、T2、T3)を有する。また、これらの試料は、1.20≦Tx/Ta≦1.85を満たす。
図11図12の「HALTの結果」は、50%の試料がHALTで破損する寿命を示す。
クラックの発生状況とHALTの結果から、試料を良品と不良品に分類した。
試料A~I,L~Tは良品、試料J,K,U,Vは不良品であった。
【0097】
素体2の側面SA,SB上の幅方向DWの凹状の湾曲が大きいと、幅W2とW1の差が大きいため、上記の比{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}が大きい(図2B参照)。また、素体2の側面SA,SB上の長手方向DLの凹状の湾曲が大きいと、幅W3とW1の差が大きいため、上記の比(W3-W1)/W3が大きい(図2A参照)。
素体2の側面SA,SB上の幅方向DWの凹状の湾曲が大きく、かつ素体2の側面SA,SB上の長手方向DLの凹状の湾曲が大きいと、クラックの発生を抑え、積層セラミックコンデンサ1Aの寿命を長くして、積層セラミックコンデンサ1Aの信頼性を確保することができる。
【0098】
ただし、素体2の側面SA,SB上の幅方向DWの凹状の湾曲が大きすぎると、積層セラミックコンデンサ1Aの耐久性が低下する。したがって、3.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦30であることが好ましく、5.5≦{(W2-W1)/W2}/{(T1-T2)/T2}≦20であることがさらに好ましい。
【0099】
また、素体2の側面SA,SB上の幅方向DWの凹状の湾曲が大きすぎると、積層セラミックコンデンサ1Aの耐久性が低下してしまう。したがって、0<(W3-W1)/W3≦0.15であることが好ましく、0.04<(W3-W1)/W3≦0.12であることがさらに好ましい。
【0100】
上述の実施形態では、セラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサとチップインダクタを例に挙げたが、本発明によるセラミック電子部品は、チップ抵抗器またはセンサチップであってよい。また、上述の実施形態では、各セラミック電子部品は、2つの外部電極を含むが、セラミック電子部品は、3つ以上の外部電極を含んでよい。
【符号の説明】
【0101】
1 積層セラミックコンデンサ
2 素体
2A 積層体
3A、3B 内部電極層
4 誘電体層
5A、5B カバー層
6A、6B 外部電極
7 下地層
9 めっき層
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12