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特開2022-158994エチレン性不飽和化合物およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022158994
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】エチレン性不飽和化合物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08F 218/04 20060101AFI20221006BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20221006BHJP
   C07C 69/675 20060101ALI20221006BHJP
   C07C 67/10 20060101ALI20221006BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221006BHJP
【FI】
C08F218/04 ZAB
C08F8/12 ZBP
C07C69/675 CSP
C07C67/10
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038453
(22)【出願日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2021059096
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4J100
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB46
4H006AC48
4H006BA25
4H006BA32
4H006BN10
4H006KA04
4H006KC12
4H006KD00
4H039CA66
4H039CL25
4J100AG04Q
4J100AG08P
4J100BA03P
4J100CA01
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA72
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA08
4J100HA09
4J100HE12
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA05
4J100JA11
4J100JA13
4J100JA32
4J100JA43
4J100JA50
4J100JA57
(57)【要約】      (修正有)
【課題】3HBに由来する骨格を有していても、高分子量の樹脂を調製可能な新規なエチレン性不飽和化合物、このエチレン性不飽和化合物に由来する構成単位を含む樹脂(重合体)、ならびにこれらの製造方法および用途を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物であり、そのR体(1R)であってもよい。

(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)
また、本発明の熱可塑性樹脂は、式(4)で表される構成単位を含む。式(4)で表される構成単位は、そのR体(4R)を含んでいてもよい。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す。)
で表される化合物。
【請求項2】
前記式(1)が、下記式(1R)
【化2】
(式中、Rは前記式(1)に同じ。)
である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記式(1)において、Rが水素原子またはC1-4アルキル基である請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
下記式(2)
【化3】
で表される3-ヒドロキシ酪酸と、下記式(3)
【化4】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示し、Rは前記式(1)に同じ。)
で表される化合物とを反応させて、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を製造する方法。
【請求項5】
下記式(4)
【化5】
(式中、Rは請求項1記載の式(1)に同じ。)
で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂。
【請求項6】
前記式(4)で表される構成単位が、下記式(4R)
【化6】
(式中、Rは請求項1記載の式(1)に同じ。)
で表される構成単位を含む請求項5記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
前記式(4)で表される構成単位の割合が、構成単位全体に対して、5~100モル%である請求項5または6記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
重量平均分子量Mwが、5000~2000000である請求項5~7のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項9】
非水溶性樹脂である請求項5~8のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項10】
生分解性樹脂である請求項5~9のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項11】
嫌気条件下における7日経過後のバイオガス化率が、2%以上である請求項5~10のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物を含む重合成分を重合する工程、および、
請求項4記載の式(3)で表される化合物を含む重合成分の重合体またはそのけん化物に対して、請求項4記載の式(2)で表される3-ヒドロキシ酪酸を反応させる工程から選択された少なくとも一種の工程を含む請求項5~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂を製造する方法。
【請求項13】
請求項5~7のいずれか一項に記載の式(4)で表される構成単位を熱可塑性樹脂に導入して、熱可塑性樹脂の生分解性を向上する方法。
【請求項14】
請求項5~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂を好気または嫌気条件下に晒して、熱可塑性樹脂を分解する方法。
【請求項15】
水中に浸漬または土壌中に埋没させる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項5~11のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂を含む成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシ酪酸(3HBともいう)に由来する骨格を有する新規なエチレン性不飽和化合物、このエチレン性不飽和化合物に由来する構成単位を含む樹脂(重合体)、ならびにこれらの製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
環境保全や持続可能な社会の実現などの観点からプラスチック原料の一部または全部のバイオマス化が進められ、バイオベースプラスチックまたは生分解性プラスチックの利用が進んでいる。プラスチックは人類の生活において必要不可欠な素材であるものの、環境中に放出されてしまうと、海洋上などを漂って紫外線などにより崩壊、細分化され、直径5mm以下のマイクロプラスチックが生成してしまう。このマイクロプラスチックは、鳥類、魚類などの生体内に取り込まれると、内分泌かく乱を引き起こすことが懸念されている。
【0003】
近年、上記マイクロプラスチック問題の解決に向け、例えば、ごみ袋への生分解性の付与が進められている。生分解性プラスチックとしては、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリカプロラクトン(PCL)などが挙げられる。しかし、これらの生分解性プラスチックは、嫌気条件での生分解性が低い(またはバイオガス化し難い)ため、海洋中での生分解性が低い。前記生分解性プラスチックは密度が高く水中(海洋中など)に沈むため、マイクロプラスチック問題の解決には、海洋中などの嫌気条件においても高い生分解性を有する(またはマイクロプラスチックとして海洋中などに残存しない)プラスチックの開発が必要である。
【0004】
H.Yagi et al., Polymer Degradation and Stability, 110, (2014), 278-283(非特許文献1)には、各種生分解性ポリエステルの嫌気条件における生分解性が評価されており、PLA、PCL、PBSに比べて、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)が嫌気条件で高い生分解性を示すことが開示されている。しかし、微生物によって産生(生合成)されるPHBなどのポリ-3-ヒドロキシアルカン酸は、汎用のプラスチック成形体に必要な機械的特性が不足している上に、経済性も低いため、普及が進んでいなかった。
【0005】
一方、化学合成により3HBを導入した生分解性プラスチックとして、特開2017-025138号公報(特許文献1)には、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)単位の割合が、全構成単位に対して1~20モル%である生分解性コポリマーが開示されている。特許文献1には、3HB単位がランダムに導入された生分解性コポリマーが好気条件下および嫌気条件下において高い生分解性を有すること、コポリマー中の3HB単位の割合を変化させることにより、生分解速度を制御できることなどが記載されている。
【0006】
なお、Nihed Ben Halima, RSC Adv., 6, 2016, 39823-39832(非特許文献2)には、生体適合性が高いポリビニルアルコール(PVA)は、好気性および嫌気性のいずれの条件下においても生分解性を示すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-025138号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H.Yagi et al., Polymer Degradation and Stability, 110, (2014), 278-283(Table 1)
【非特許文献2】Nihed Ben Halima, RSC Adv., 6, 2016, 39823-39832
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の実施例では、PBS、PBSAなどを形成するモノマーと、(R)-3HBとを一括で添加し重合して、3HB単位を4.6または8.7モル%の割合で含むコポリエステルを調製しており、その重量平均分子量Mwは5790~6820であったことが記載されている。
【0010】
しかし、3HBなどの3-ヒドロキシアルカン酸(3HA)は、反応性の高いカルボキシル基と反応性の低い第2級アルコールのヒドロキシル基とを有するため、3HAを重合成分(樹脂原料またはモノマー)として用いて樹脂を調製する場合、前記第2級アルコールのために重合反応が進行し難いだけでなく、前記カルボキシル基のα位の水素原子とβ位のヒドロキシル基(第2級アルコール)との間で、加熱や酸による分子内脱水が生じ、不飽和モノカルボン酸であるクロトン酸などに分解され易いことから、3HA単位を有する高分子量のポリマーを合成することは困難であった。
【0011】
そのため、モノマーの反応性が低い上、容易に分解されてしまう特許文献1に記載の生分解性コポリマーは製造し難く、製造できても高分子量化が困難で樹脂特性が不十分な場合もあり、用途が制限されるおそれがある。
【0012】
また、PVAは、非特許文献2に示されるように、生体適合性が高く生分解性を示すものの、水溶性高分子であるために用途が制限されるとともに、水溶性の制御には、けん化度の調整や架橋を行う必要がある。
【0013】
従って、本発明の目的は、3HBに由来する骨格を有していても、高分子量の樹脂を調製可能な新規なエチレン性不飽和化合物、このエチレン性不飽和化合物に由来する構成単位を含む樹脂(重合体)、ならびにこれらの製造方法および用途を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、使用中は非水溶性であっても、使用後に水中(例えば、海洋中)などの嫌気条件下で生分解性を示す樹脂を調製可能なエチレン性不飽和化合物、このエチレン性不飽和化合物に由来する構成単位を含む樹脂(重合体)、ならびにこれらの製造方法および用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明者らは、前記課題の解決を達成するため鋭意検討した結果、3HB骨格を有する特定のエチレン性不飽和化合物では、3HB骨格を有するにもかかわらず、容易に高分子量化できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明のエチレン性不飽和化合物は、下記式(1)で表される。また、前記式(1)で表される化合物は、下記式(1R)で表される化合物(R配置またはR体)であってもよい。
【0017】
【化1】
【0018】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)。
【0019】
前記式(1)において、Rは水素原子またはC1-4アルキル基であってもよい。
【0020】
本発明は、下記式(2)で表される3-ヒドロキシ酪酸と、下記式(3)で表される化合物とを反応させて、前記式(1)で表される化合物を製造する方法を包含する。
【0021】
【化2】
【0022】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示し、Rは前記式(1)に同じ)。
【0023】
また、本発明は、下記式(4)で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂も包含する。前記式(4)で表される構成単位は、下記式(4R)で表される構成単位を含んでいてもよい。
【0024】
【化3】
【0025】
(式中、Rは前記式(1)に同じ)。
【0026】
前記式(4)で表される構成単位の割合は、前記熱可塑性樹脂の構成単位全体に対して、5~100モル%程度であってもよい。前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwは、5000~2000000程度であってもよい。前記熱可塑性樹脂は、非水溶性樹脂であってもよい。前記熱可塑性樹脂は、生分解性樹脂であってもよい。前記熱可塑性樹脂は、嫌気条件下における7日経過後のバイオガス化率が、2%程度以上であってもよい。
【0027】
本発明は、前記式(1)で表される化合物を含む重合成分を重合する工程、および、
前記式(3)で表される化合物を重合成分に含む重合体またはそのけん化物に対して、前記式(2)で表される3-ヒドロキシ酪酸を反応させる工程から選択された少なくとも一種の工程を含む前記熱可塑性樹脂の製造方法を包含する。
【0028】
また、本発明は、前記式(4)で表される構成単位を熱可塑性樹脂に導入して、熱可塑性樹脂の生分解性を向上(または付与)する方法を包含する。
【0029】
さらに、本発明は、前記熱可塑性樹脂を好気または嫌気条件下に晒して、熱可塑性樹脂を分解する方法も包含する。この方法において、熱可塑性樹脂は、特に嫌気条件下、例えば、水中(例えば、海洋中)に浸漬または土壌中に埋没(または埋設)させてもよい。
【0030】
本発明は、前記熱可塑性樹脂を含む成形体も包含する。
【0031】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、3-ヒドロキシ酪酸由来の骨格(または3HB骨格)とは、特に断りのない限り、3HBのカルボキシル基からOH(ヒドロキシル基)を除いた下記式で表される化学構造(または1価の基)を意味する。
【0032】
【化4】
【発明の効果】
【0033】
本発明の前記式(1)で表される特定のエチレン性不飽和化合物を重合成分として用いると、3HBに由来する骨格を有していても、高分子量な樹脂を調製できる。また、前記式(4)で表される構成単位を含む樹脂は、非水溶性(耐水性または耐熱水性)が必要な用途で使用でき(使用中は非水溶性であっても)、使用後に水中(例えば、海洋中)などの嫌気条件下で3HB骨格を比較的速やかに生分解することができる。さらに、前記樹脂は、生分解性を示す化学構造を主として構成することができるため、海洋中などでマイクロプラスチックとならない樹脂とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[式(1)で表される化合物およびその製法]
本発明の3HB骨格を有するエチレン性不飽和化合物は、下記式(1)で表される。
【0035】
【化5】
【0036】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)。
【0037】
前記式(1)において、Rで表されるアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1-12アルキル基であってもよい。好ましいアルキル基は以下段階的に、C1-8アルキル基、C1-6アルキル基、C1-4アルキル基、C1-2アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0038】
好ましいRは水素原子またはC1-4アルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはC1-2アルキル基(水素原子またはメチル基など)であり、生分解性を向上する点から、特に水素原子が好ましい。
【0039】
前記式(1)において、3HB骨格の立体配置(不斉炭素原子における立体配置)は、R配置(R体)およびS配置(S体)のいずれであってもよいが、生分解性向上の観点から、R配置(R体)であるのが好ましい。すなわち、前記式(1)で表される化合物は、下記式(1R)で表される化合物(R体)であるのが好ましい。
【0040】
【化6】
【0041】
(式中、Rは好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0042】
(式(1)で表される化合物の製造方法)
前記式(1)で表される化合物の製造方法は特に制限されないが、代表的な方法としては、下記式(2)で表される3-ヒドロキシ酪酸(3HB)と、下記式(3)で表される化合物(カルボン酸アルケニルエステル)とを反応(エステル交換反応)させる方法などが挙げられる。
【0043】
【化7】
【0044】
(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示し、Rは前記式(1)に同じ)。
【0045】
前記式(2)で表される3HBは、光学異性体(R体またはS体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、生分解性の観点から、R体((R)-3-ヒドロキシ酪酸)を少なくとも含むのが好ましい。3HB中のR体の割合、すなわち光学純度(鏡像体または光学異性体過剰率)は、例えば50%e.e.程度以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)である。光学純度が低すぎると生分解性が低下するおそれがある。なお、前記式(2)で表される3HBは、市販品を用いてもよく、バイオマス原料(生物由来の資源)を利用してもよい。
【0046】
前記式(3)において、Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1-12アルキル基であってもよい。好ましいRは以下段階的に、C1-8アルキル基、C1-4アルキル基、C1-2アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0047】
前記式(3)で表される化合物(アルケニルエステル)としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸ビニル、プロピオン酸イソプロペニルなどのC1-4アルカン酸C2-4アルケニルエステルなどが挙げられ、好ましくはC2-3アルカン酸C2-3アルケニルエステルなどが挙げられ、さらに好ましくは酢酸ビニルであってもよい。
【0048】
なお、前記式(3)で表される化合物は市販品を用いてもよく、慣用の方法で合成してもよい。特に、酢酸ビニルである場合、エチレン、酸素(または空気)および酢酸を反応させるエチレン法によって一般的に合成されるが、エチレンは自然界(例えば、植物ホルモンなどとして植物中)に広く存在し、酢酸も酢酸菌などを利用して製造可能なため、バイオマス原料(生物由来の資源)から合成することもできる。また、前記式(2)で表される3HBもバイオマス原料を利用できるため、これらを反応させて得られる前記式(1)で表される化合物は、石油由来の原料を用いることなく合成でき、環境負荷を有効に低減できる。
【0049】
前記式(3)で表される化合物の割合は、前記式(2)で表される3HB 1モルに対して、例えば1~20モル、好ましくは5~15モル、さらに好ましくは8~12モル程度であってもよい。
【0050】
反応は、慣用のエステル交換触媒の存在下で行ってもよい。エステル交換触媒は特に制限されず、水銀化合物(酢酸水銀、硫酸水銀など)やルテニウム化合物などであってもよいが、安全性の点からパラジウム化合物が好ましい。パラジウム化合物としては、例えば、パラジウムカルボン酸塩(例えば、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、ピバル酸パラジウムなど)、パラジウムハロゲン化物(例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウムなど)、硝酸パラジウム、パラジウム錯体などが挙げられる。
【0051】
これらの触媒は単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの触媒のうち、酢酸パラジウムなどのパラジウムカルボン酸塩が好ましい。触媒(主触媒)の割合は、前記式(2)で表される3HB 1モルに対して、例えば0.0001~0.1モル、好ましくは0.001~0.02モル、さらに好ましくは0.003~0.01モル程度であってもよい。
【0052】
反応は、エステル交換触媒(主触媒)とともに、必要に応じて、さらに助触媒の存在下で行ってもよく、助触媒は用いなくてもよい。助触媒としては、例えば、アルカリ金属化合物[例えば、アルカリ金属炭酸塩(炭酸リチウムなど)、アルカリ金属炭酸水素塩(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウムなど)、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アルカリ金属ハロゲン化物(塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなど)、アルカリ金属カルボン酸塩(酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸リチウムなどのC1-20カルボン酸塩など)、アルカリ金属リン酸塩(第三リン酸リチウム、第三リン酸ナトリウム、第二リン酸リチウム、第二リン酸ナトリウムなど)、アルカリ金属硝酸塩(硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなど)、アルカリ金属亜硝酸塩(亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなど)など]、アルカリ土類金属化合物(例えば、炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩、炭酸水素マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸水素塩、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、酢酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属カルボン酸塩など)、銅化合物(臭化銅などの銅ハロゲン化物、酢酸銅などの銅カルボン酸塩など)、亜硝酸アルキルエステル(亜硝酸プロピルなどの亜硝酸C1-10アルキルエステルなど)などが挙げられる。
【0053】
これらの助触媒は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの助触媒のうち、緩衝作用のためか、室温であっても反応を容易にまたは効率よく進行できるとともに、生成した前記式(1)で表される化合物の分解を抑制できる観点から、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0054】
助触媒(特に、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物)を用いる場合、その割合は、触媒(主触媒)1モルに対して、例えば0.1~10モル(例えば1~8モル)、好ましくは1.5~7モル(例えば2~6モル)、さらに好ましくは2.5~5モル(例えば3~4モル)であってもよい。
【0055】
反応は、エステル交換触媒とともに、必要に応じて、さらにレドックス剤の存在下で行ってもよく、レドックス剤は用いなくてもよい。レドックス剤としては、例えば、塩化鉄、臭化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄などの鉄化合物などが挙げられる。
【0056】
反応は、不活性ガス(例えば、窒素ガス;ヘリウムガス、アルゴンガスなどの希ガスなど)の雰囲気中、または空気中で行ってもよく、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気が好ましい。反応温度は、例えば20~150℃、好ましくは30~100℃(例えば40~80℃)、さらに好ましくは50~70℃程度であってもよく、助触媒(特に、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物)を用いる場合、室温程度、例えば10~40℃、好ましくは20~30℃程度であってもよい。反応温度が高すぎると、生成する前記式(1)で表される化合物が分解するおそれがある。反応時間は特に制限されず、例えば1~48時間、好ましくは12~36時間、さらに好ましくは16~24時間程度であってもよい。
【0057】
なお、反応終了後、慣用の分離方法、例えば、中和、濾過、濃縮、乾燥、抽出、晶析、再結晶、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、蒸留(減圧蒸留など)などの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。また、前記式(1)で表される化合物は熱により分解し易いため、低温環境下で保存(例えば冷蔵、特に冷凍)してもよい。
【0058】
前記式(1)で表される化合物は、光学異性体(R体またはS体)であってもよく、ラセミ体であってもよいが、生分解性の観点から、R体((R)-3HB)を少なくとも含むのが好ましい。前記式(1)で表される化合物中のR体の割合、すなわち光学純度(または鏡像体過剰率)は、例えば50%e.e.程度以上(例えば80%e.e.以上)、好ましくは90%e.e.以上(例えば95~100%e.e.)、さらに好ましくは98~100%e.e.(例えば99~100%e.e.、特に実質的に100%e.e.)である。光学純度が低すぎると生分解性が低下するおそれがある。
【0059】
[式(4)で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂]
前記式(1)で表されるエチレン性不飽和化合物は、3HB骨格を有する構成単位を含む重合体(熱可塑性樹脂または鎖状もしくは線状高分子)を形成するための重合成分(モノマー)として利用できる。前記式(1)で表される化合物を重合成分とすることにより、3HBの分解などを有効に抑制しつつ、比較的高い分子量の熱可塑性樹脂を容易にまたは効率よく調製できる。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂は、下記式(4)で表される構成単位を少なくとも含んでいる。
【0060】
【化8】
【0061】
(式中、Rは好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0062】
前記式(4)で表される構成単位は、生分解性向上の観点から、下記式(4R)で表される構成単位(すなわち、前記式(1)で表される化合物のR体に由来する構成単位)を少なくとも含むのが好ましい。
【0063】
【化9】
【0064】
(式中、Rは好ましい態様を含めて前記式(1)に同じ)。
【0065】
前記式(4)で表される構成単位の割合は、前記熱可塑性樹脂の構成単位(重合成分に由来する単位)全体に対して、例えば10~100モル%程度の範囲から選択してもよく、好ましくは50~100モル%(例えば70~100モル%)、さらに好ましくは80~100モル%(例えば90~100モル%)、特に95~100モル%(例えば98~100モル%などの実質的に100モル%(ホモポリマー))であってもよい。
【0066】
また、前記式(4R)で表される構成単位の割合は、前記式(4)で表される構成単位全体に対して、例えば5~100モル%(例えば10~100モル%)程度の範囲から選択してもよく、生分解性向上の点から、好ましくは50~100モル%(例えば70~100モル%)、さらに好ましくは80~100モル%(例えば90~100モル%)、特に95~100モル%(例えば98~100モル%などの実質的に100モル%)であってもよい。
【0067】
前記式(4)(特に(4R))で表される構成単位の割合が少なすぎると、生分解性が低下するおそれがある。
【0068】
(共重合単位)
本発明の熱可塑性樹脂は、前記式(4)(特に(4R))で表される構成単位の単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、共重合単位として、前記式(4)とは異なる他の構成単位をさらに含む共重合体(コポリマー)であってもよい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体などであってもよく、ランダム共重合体が好ましい。
【0069】
前記共重合単位としては特に制限されず、例えば、エチレン性不飽和結合を有する化合物[例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などのアルケニル基や、(メタ)アクリロイル基などを有する慣用の重合性化合物など]に由来する構成単位であってもよい。代表的な共重合単位(他の構成単位)としては、下記式(5)で表される構成単位であってもよい。
【0070】
【化10】
【0071】
[式中、Rは水素原子またはアルキル基を示し、Rは水素原子または基[-C(=O)-A-R4a](式中、Aは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基(またはアルキリデン基)を示し、R4aは水素原子またはヒドロキシル基を示す。)を示す]。
【0072】
前記式(5)において、Rで表されるアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1-12アルキル基であってもよい。好ましいアルキル基は以下段階的に、C1-8アルキル基、C1-6アルキル基、C1-4アルキル基、C1-2アルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0073】
好ましいRは水素原子またはC1-4アルキル基であり、さらに好ましくは水素原子またはC1-2アルキル基(水素原子またはメチル基など)であり、生分解性向上および分解後の水溶性向上の観点から、特に水素原子が好ましい。
【0074】
で表される基[-C(=O)-A-R4a]において、Aで表される直鎖状または分岐鎖状アルキレン基(またはアルキリデン基)としては、例えば、メチレン基(またはメチリデン基)、エチレン基、エチリデン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基などのC1-12アルキレン基(またはアルキリデン基)などが挙げられる。好ましいAは以下段階的に、C1-8アルキレン基(またはアルキリデン基)、C1-6アルキレン基(またはアルキリデン基)、C1-4アルキレン基(またはアルキリデン基)であってもよい。
【0075】
で表される基[-C(=O)-A-R4a]において、R4aが水素原子であるアシル基(またはアルカノイル基)としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基などのC2-12アシル基などが挙げられる。好ましいアシル基としては以下段階的に、C2-8アシル基、C2-6アシル基、C2-4アシル基、C2-3アシル基であり、さらに好ましくはアセチル基である。
【0076】
で表される基[-C(=O)-A-R4a]において、R4aがヒドロキシル基であるヒドロキシアシル基(またはヒドロキシアルキルカルボニル基)としては、例えば、グリコロイル基(ヒドロキシアセチル基またはヒドロキシメチルカルボニル基)、ラクトイル基[2-ヒドロキシプロピオニル基または(1-ヒドロキシエチル)カルボニル基]、3-ヒドロキシプロピオニル基[または(2-ヒドロキシエチル)カルボニル基]、2-ヒドロキシブチリル基、4-ヒドロキシブチリル基、2-ヒドロキシバレリル基、2-ヒドロキシ-3-メチルブチリル基、3-ヒドロキシバレリル基、3-ヒドロキシ-2-メチルブチリル基、3-ヒドロキシ-3-メチルブチリル基、5-ヒドロキシバレリル基、2-ヒドロキシヘキサノイル基、2-ヒドロキシ-2-メチル-バレリル基、2-ヒドロキシ-4-メチル-バレリル基、3-ヒドロキシヘキサノイル基、3-ヒドロキシ-3-メチル-バレリル基、6-ヒドロキシヘキサノイル基、3-ヒドロキシヘプタノイル基、7-ヒドロキシヘプタノイル基、3-ヒドロキシオクタノイル基、8-ヒドロキシオクタノイル基、3-ヒドロキシノナノイル基、9-ヒドロキシノナノイル基、3-ヒドロキシデカノイル基、10-ヒドロキシデカノイル基などのC1-6アルキル基を有していてもよいヒドロキシC2-15アルカノイル基などが挙げられる(ただし、3-ヒドロキシブチリル基[または(2-ヒドロキシプロピル)カルボニル基]は除く)。好ましいヒドロキシアシル基としては、ラクトイル基、C1-4アルキル基を有していてもよい3-ヒドロキシC3-12アルカノイル基などが挙げられる。
【0077】
なお、前記式(5)で表される構成単位は、対応するエチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して熱可塑性樹脂中に導入してもよく、異なる構成単位から化学反応により変換してもよい。
【0078】
また、前記式(5)において、Rが基[-C(=O)-A-R4a]である構成単位の場合、対応するエチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合して導入してもよく、R4aが水素原子(R4aがアシル基)の場合、例えば、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸ビニルなどのC2-12アルカン酸C2-6アルケニル、好ましくは酢酸ビニルなどのC2-6アルカン酸C2-3アルケニルなどを共重合成分としてもよく;R4aがヒドロキシル基(R4aがヒドロキシアシル基)の場合、例えば、前記ヒドロキシアシル基の例示に対応するヒドロキシアルカン酸、すなわち、グリコール酸、2-ヒドロキシプロパン酸(または乳酸)、3-ヒドロキシプロパン酸、2-ヒドロキシブタン酸(または2-ヒドロキシ酪酸)、4-ヒドロキシブタン酸、2-ヒドロキシペンタン酸(2-ヒドロキシ吉草酸)、2-ヒドロキシ-3-メチル-ブタン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシ-2-メチル-ブタン酸、3-ヒドロキシ-3-メチル-ブタン酸、5-ヒドロキシペンタン酸、2-ヒドロキシヘキサン酸、2-ヒドロキシ-2-メチル-ペンタン酸、2-ヒドロキシ-4-メチル-ペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシ-3-メチル-ペンタン酸、6-ヒドロキシヘプサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、8-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシノナン酸、9-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシデカン酸、10-ヒドロキシデカン酸などのC1-6アルキル基を有していてもよいヒドロキシC2-15アルカン酸(好ましくは乳酸、または3-ヒドロキシアルカン酸(例えば、C1-4アルキル基を有していてもよい3-ヒドロキシC3-12アルカン酸など、ただし、3HBは除く))などと、前記式(3)で表される化合物(カルボン酸アルケニルエステル)とのエステル交換反応で得られるエチレン性不飽和結合を有する化合物を共重合成分としてもよい。
【0079】
なお、前記ヒドロキシアルカン酸(または前記式(5)におけるR)が不斉炭素原子を有する場合の立体配置は、R配置(R体)およびS配置(S体)のいずれであってもよいが、生分解性向上の観点から、R配置(R体)であるのが好ましい。
【0080】
これらの前記式(5)で表される構成単位は、単独でまたは2種以上組み合わせて含んでいてもよい。生分解性向上の観点から、Rが水素原子またはメチル基(好ましくは水素原子)、Rが水素原子または基[-C(=O)-A-R4a](式中、Aは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基(またはアルキリデン基)、R4aがヒドロキシル基を示す。)である構成単位が好ましい。また、調達(調達容易性または環境負荷低減)の観点から、Rが水素原子またはメチル基(好ましくは水素原子)、Rが基[-C(=O)-A-R4a](式中、Aは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基(またはアルキリデン基)、R4aが水素原子を示す。)である構成単位が好ましい。
【0081】
また、熱可塑性樹脂は、前記式(5)で表される共重合単位とは異なる他の共重合単位を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。生分解性向上の観点から、前記式(5)で表される共重合単位が好ましい。
【0082】
共重合単位の割合(合計割合)は、熱可塑性樹脂の構成単位全体に対して、例えば0~99モル%(例えば0~90モル%)程度の範囲から選択してもよく、好ましくは70モル%以下(例えば10~60モル%)、さらに好ましくは50モル%以下(例えば20~30モル%)程度であってもよい。なお、用途などに応じて、前記共重合単位の割合(合計割合)は、熱可塑性樹脂の構成単位全体に対して、例えば30~99モル%(例えば50~97モル%)程度、好ましくは70~95モル%(例えば80~93モル%)程度であってもよい。前記共重合単位の割合が多すぎると生分解性が低下するおそれがあり、逆に少なすぎると共重合体を効率よく得られないおそれがある。
【0083】
また、熱可塑性樹脂が共重合単位を含む場合、前記式(5)で表される構成単位の割合[特に、Rが水素原子またはメチル基(好ましくは水素原子)、Rが水素原子または基[-C(=O)-A-R4a](式中、Aは直鎖状または分岐鎖状アルキレン基(またはアルキリデン基)、R4aがヒドロキシル基を示す。)である構成単位の割合]は、共重合単位全体に対して、例えば0~100モル%(例えば10~100モル%)程度の範囲から選択してもよく、好ましくは50モル%以上(70~100モル%)、さらに好ましくは80モル%以上(90~100モル%)、特に95モル%以上(例えば、実質的に100モル%、すなわち、共重合単位が前記式(5)で表される構成単位のみ)であってもよい。共重合単位中の前記式(5)で表される構成単位の割合が少なすぎると、生分解性が低下するおそれがある。
【0084】
(熱可塑性樹脂の製造方法)
前記熱可塑性樹脂の製造方法は特に制限されないが、例えば、前記式(1)で表される化合物を含む重合成分を重合する工程(重合工程)、および、高分子反応により3HBを重合体の側鎖に反応させる工程(3HB側鎖導入工程)から選択された少なくとも一種の工程を含む製造方法により調製してもよい。
【0085】
重合工程
重合方法は、前記式(1)で表される化合物と、必要に応じて、前記式(5)で表される単位などの共重合単位を導入するためのエチレン性不飽和結合を有する化合物とを重合可能な限り特に制限されず、例えば、ラジカル重合、イオン重合(アニオン重合など)、配位重合などであってもよく、ラジカル重合が好ましい。ラジカル重合は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などであってもよく、溶液重合または懸濁重合が好ましく、分子量分布を狭く(Mw/Mnを低く)調整し易い点で懸濁重合が、Mwを大きく調整し易い点で溶液重合がさらに好ましい。
【0086】
ラジカル重合は重合開始剤の存在下または非存在下で行ってもよい。重合開始剤は熱および/または光によりラジカルを生成可能な重合開始剤であってもよい。
【0087】
熱重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキシドなどのジアルキルパーオキシド類;ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキシド類;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、過酢酸t-ブチルなどの過酸(又は過酸エステル)類;ケトンパーオキシド類;パーオキシカーボネート類;パーオキシケタール類が挙げられる。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)などのアゾニトリル化合物、アゾアミド化合物、アゾアミジン化合物が挙げられる。
【0088】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、キサントン類などが挙げられる。なお、光重合開始剤は、第3級アミン類などの慣用の光増感剤と組み合わせてもよく、光増感剤は単独でまたは二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0089】
また、重合開始剤は、油溶性の重合開始剤であってもよいが、重合方法などに応じて水溶性の重合開始剤を用いてもよく、例えば、過酸化水素などの過酸化物、過硫酸塩(例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム(APSまたはペルオキソ二硫酸アンモニウム))、水性アゾ化合物やレドックス重合開始剤などを使用してもよい。
【0090】
これらの重合開始剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの重合開始剤のうち、熱重合開始剤が好ましく、なかでも、APSなどの水溶性の重合開始剤が好ましい。
【0091】
重合開始剤の割合は用途などに応じて適宜選択してもよく、重合成分の総量1モルに対して、例えば0.01×10-3~50×10-3モル(例えば0.05×10-3~10×10-3モル)、好ましくは0.1×10-3~5×10-3モル(例えば0.5×10-3~3×10-3モル、特に0.5×10-3~1×10-3モル)程度であってもよい。
【0092】
ラジカル重合は、熱可塑性樹脂の分子量を調整するため、連鎖移動剤、例えば、重合成分に可溶な有機過酸化物、有機アゾ化合物、ハロゲン化炭化水素(四塩化炭素など)、メルカプタン類、チオール類などを用いてもよい。連鎖移動剤の使用量は、例えば、熱可塑性樹脂に対して5質量%以下であってもよい。
【0093】
ラジカル重合は、溶媒(または分散媒)の存在下、または非存在下で行ってもよい。溶媒(または分散媒)としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、2-プロパノールなどのC1-6アルコールなど)、エーテル類(例えば、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの鎖状ケトン類など)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)などが挙げられ、水、アルコール類、エーテル類、アセトンなどの水性溶媒、なかでも水が好ましく、後述するようにエマルションなどの液状組成物とする場合において特に好ましい。
【0094】
これらの溶媒は単独でまたは二種以上組み合わせた混合溶媒として使用することもでき、例えば、水と、メタノールなどのアルコール類との混合溶媒が好ましい。溶媒の割合は用途などに応じて適宜選択してもよく、重合成分の総量100質量部に対して、例えば10~10000質量部(例えば50~3000質量部)、好ましくは100~1000質量部程度であってもよい。
【0095】
ラジカル重合反応は、不活性ガス、例えば、窒素ガス;ヘリウムガス、アルゴンガスなどの希ガスなどの雰囲気中で行うのが好ましい。反応温度(重合温度)は、例えば10~150℃(例えば30~120℃)、好ましくは60~100℃、さらに好ましくは70~90℃程度であってもよく、例えば40~80℃、特に好ましくは50~70℃程度であってもよい。反応温度(重合温度)が高すぎると、分子量を向上し難くなるおそれがある。反応時間は、例えば0.5~24時間、好ましくは1~12時間、さらに好ましくは2~8時間程度であってもよい。
【0096】
なお、反応終了後、慣用の分離方法、例えば、濾過、濃縮、乾燥、抽出、再沈殿、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。また、反応終了後の反応液に特に精製することなく、熱可塑性樹脂を含む液状組成物(溶液、分散液、エマルションなど)の形態で、接着剤または粘着剤(または糊)、塗料、コーティング剤などとして用いてもよい。
【0097】
3HB側鎖導入工程
また、熱可塑性樹脂は、必ずしも前記重合工程を経て調製しなくてもよく、3HBを高分子反応により樹脂の側鎖に反応させる3HB側鎖導入工程により調製してもよい。
【0098】
代表的な方法としては、前記式(3)で表される化合物を重合成分に含む重合体(例えば、酢酸ビニルなどのアルカン酸アルケニルに由来する構成単位を含む重合体など)またはこの重合体のけん化物[部分または完全けん化物(例えば、ポリ酢酸ビニルのけん化物であるポリビニルアルコールなど)]に対して、前記式(2)で表される3-ヒドロキシ酪酸を反応(エステル交換反応またはエステル化反応)させる方法であってもよい。例えば、エステル交換反応は、前述の(式(1)で表される化合物の製造方法)の項に記載の条件と同様の反応条件(触媒、温度など)で反応させてもよく、エステル化反応も慣用の反応条件で反応させてもよい。
【0099】
(熱可塑性樹脂の特性)
熱可塑性樹脂は、3HBに由来する骨格(3HB単位)を有するにもかかわらず、容易にまたは効率よく分子量を向上できるため、樹脂特性、成形性(生産性)などに優れている。なお、前記式(1)で表される化合物(モノマー)は、熱に弱く分解し易いものの、その重合体である熱可塑性樹脂は熱に対して安定なようである。
【0100】
前記熱可塑性樹脂の平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などによりポリスチレン換算で測定でき、重量平均分子量Mwは、例えば5000~2000000(例えば10000~1000000)、好ましくは30000~300000(例えば50000~100000)、さらに好ましくは40000~200000(例えば60000~150000)程度であってもよい。また、数平均分子量Mnは、例えば5000~1000000(例えば7000~100000)、好ましくは10000~50000(例えば10000~40000)程度であってもよく、30000~80000程度であってもよい。分子量分布(多分散度)Mw/Mnは、例えば1~30(例えば1.2~10)、好ましくは1.5~6(例えば2~4)程度であってもよい。重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnなどの平均分子量が低すぎると、樹脂特性(高分子としての物性)や成形性(生産性)が低下し易くなるおそれがある。
【0101】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mnは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0102】
また、熱可塑性樹脂は、水や水性溶媒(例えば、メタノールなどのアルコール類など)に、例えば20~30℃程度で溶解せず、好ましくは50~90℃(例えば60~80℃)程度であっても溶解しない非水溶性樹脂であってもよく、ある程度の耐水性(耐熱水性または非水溶性)が必要な用途に利用してもよい。
【0103】
さらに、熱可塑性樹脂は嫌気条件などの所定条件下で生分解可能な生分解性樹脂であってもよく、嫌気条件下における7日経過後のバイオガス化率(熱可塑性樹脂(試験片)中の炭素を基準とした炭素モル%)が、2%以上(例えば5~70%)、好ましくは10%以上(例えば20~50%)、さらに好ましくは25%以上(例えば30~45%、好ましくは35~40%)程度であってもよい。
【0104】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、バイオガス化率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0105】
このように、本発明の熱可塑性樹脂は、所定条件下で3HB骨格を比較的速やかに生分解できるため、本発明は、前記式(4)で表される構成単位を熱可塑性樹脂に導入[例えば、前記重合工程のように前記式(1)で表される化合物を重合成分として用いたり、前記3HB側鎖導入工程のように側鎖に3HB骨格を導入したり]して、熱可塑性樹脂の生分解性を向上(または付与)する方法、および、熱可塑性樹脂を嫌気条件下に晒して分解する方法も包含する。特に、前記式(4)で表される構成単位を熱可塑性樹脂に導入すると、分解し難い他の構成単位を含んでいても、容易にまたは効率よく分解性を向上(促進または誘導)できるようである。
【0106】
なお、熱可塑性樹脂を生分解するための条件は好気または嫌気条件のいずれであってもよいが、一般的に嫌気条件下で分解可能な生分解性樹脂は貴重である点から、嫌気条件下であっても有効に分解できる本発明の熱可塑性樹脂は有用性が高い。そのため、本発明の熱可塑性樹脂は、例えば、水中[例えば、海洋、河川、湖沼などの自然環境(自然界)中、または嫌気槽などの人工的に調整された環境中など]に浸漬したり、または土中(または土壌中)に埋没(または埋設)させてもよく、なかでも自然環境中(水中、土中)に放置、特に海洋中(海底など)などの水中に放置してもよい。熱可塑性樹脂は非水溶性が必要な用途で使用しても(使用中は非水溶性であっても)、使用後に自然環境中(例えば、海洋中)などの嫌気条件下において、前記式(4)で表される構成単位の3HB骨格を比較的速やかに生分解できる。側鎖部分である3HB骨格が生分解した際に、主鎖部分にはPVA単位(前記式(5)におけるRが水素原子である単位に相当)が残されるものの、PVA自体は前記非特許文献2に記載されるように水溶性で、かつ生分解性樹脂であるため、海洋中などでマイクロプラスチックとならない樹脂とすることもできる。
【0107】
本発明は、熱可塑性樹脂を少なくとも含む成形体も包含する。前記成形体は、優れた樹脂特性または生産性を活かして様々な用途に利用できるのみならず、特に生分解性を示すこともできるため、使い捨て製品(ディスポーザブル製品)などにも有効に利用できる。
【0108】
前記成形体は、前記熱可塑性樹脂とは異なる他の熱可塑性樹脂や、慣用の添加剤などを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。添加剤としては、例えば、充填剤または補強剤、染顔料などの着色剤、導電剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、加水分解抑制剤、炭素材、安定剤、低応力化剤などを含んでいてもよい。安定剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。低応力化剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0109】
成形体中の他の熱可塑性樹脂および慣用の添加剤の合計割合は、例えば50質量%以下(例えば0~30質量%)、好ましくは10質量%以下(例えば0~5質量%)程度であってもよい。他の熱可塑性樹脂および慣用の添加剤の割合が多すぎると生分解性が低下するおそれがある。
【0110】
成形体の形状は特に限定されず、例えば、線状、繊維状、糸状などの一次元的構造、フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造、棒状、中空状(管状)、容器または袋状などの三次元的構造などが挙げられる。
【0111】
成形体の製造方法は特に限定されず、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などを利用して製造してもよく、液状組成物(溶液、分散液、エマルションなど)の形態でコーティングまたは塗布することにより、フィルム状または膜状に形成してもよい。
【実施例0112】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、評価方法について下記に示す。
【0113】
[評価方法]
H-NMR)
実施例1~3では、核磁気共鳴装置(日本分光(株)製「JNM-GSX270」)を用いて、試料をCDClに溶解して、H-NMRスペクトル(270MHz)を測定した。
【0114】
また、実施例4~5では、核磁気共鳴装置(ブルカーバイオスピン社製「AVANCE III HD 300MHz」)を用いて、試料をCDClに溶解して、H-NMRスペクトル(300MHz)を測定した。
【0115】
(GC/MS)
ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)計(JEOL社製「JMSQ1050GC Ultra Quad GC/MS」)を用いて、イオン化温度250℃、イオン化電流100μA、イオン化エネルギー70eVの条件下で測定した。
【0116】
(GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ))
GPC測定装置(日本分光(株)製「GL-7400シリーズ」)を用いて、試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して1mL/分の条件下、RIで検出して測定し、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mwを標準ポリスチレン換算で算出した。
【0117】
(生分解試験)
実施例または比較例で得られた重合物(乾燥重量換算125mg)とメタン発酵汚泥30mLとを混合し、嫌気雰囲気55℃でインキュベートした。このメタン発酵処理により生じたメタンガス量を測定し、下記式に従ってバイオガス化率(または生分解率)を算出した。なお、本試験では、メタン発酵汚泥として、発酵温度が55℃で運転されているメタン発酵施設の発酵槽内から採取された汚泥を使用した。
【0118】
(バイオガス化率または生分解率)[%]=100×(発生メタンCOD等量)/(重合物のCOD等量)
【0119】
[実施例1](R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニルエステルの合成1
【0120】
【化11】
【0121】
式(2-1)で表される99%e.e.以上の(R)-3-ヒドロキシ酪酸((R)-3HB)30.3g(291mmol)を式(3-1)で表される酢酸ビニル(VAc)279.6g(3247mmol)に溶解し、酢酸パラジウム0.91g(1.96mmol)を添加した。この混合液を60℃に設定したオイルバスで17時間加熱攪拌した。得られた反応液を60℃に設定したエバポレータで減圧濃縮して未反応の酢酸ビニルを留去し、粗体37.4gを得た。この粗体を減圧蒸留したところ、0.4~0.6kPa、登頂温度(塔頂温度または蒸留装置(蒸留塔)の最上段の温度)63~73℃の範囲で合計19.33gの透明液体(収率51%)を得た。H-NMRおよびGC/MS測定から、この透明液体は式(1-1)で表される(R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニルエステル(以下、(R)-VHBともいう)であることが支持された。H-NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
【0122】
H-NMR(270MHz,CDCl):δ(ppm)=1.27(d,3H,CH3-)、2.50-2.68(d,2H,-CH-CH2-C(=O)-O-)、3.10-3.70(br,1H,-O)、4.27(m,1H,CH3-C-)、4.78(dd,2H,-O-CH=CH2)、7.28(t,1H,-O-C=CH2)。
【0123】
[実施例2]ポリ-(R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニルの合成1
【0124】
【化12】
【0125】
実施例1で得られた(R)-VHB 5.23g(40.2mmol)を水50mLに懸濁した。(R)-VHBは水に完全に溶解せず、相分離した。この懸濁液にペルオキソ二硫酸アンモニウム(以下、APSともいう)0.01g(0.04mmol)を添加し、アルゴン気流下、オイルバス温度80℃で5時間加熱攪拌した。反応液は均一溶液でなく、相分離した(すなわち、重合物は非水溶性を示した)。反応液を減圧濃縮して重合物を得た。H-NMRスペクトルにより、得られた重合物は、式(4-1)で表される繰り返し単位を有するポリ-(R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニル[以下、Poly((R)-VHB)またはP((R)-VHB)ともいう]であることが支持された。また、GPC測定により、この重合物の数平均分子量Mnは18532、重量平均分子量Mwは61597であることが分かった。得られたPoly((R)-VHB)のH-NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。
【0126】
H-NMR(270MHz,CDCl):δ(ppm)=1.10-1.32(3H,CH3-)、1.70-1.95(2H,-CH2-CH(-O-)-)、2.32-2.73(2H,-CH-CH2-C(=O)-O-)、4.15-4.31(1H,CH3-C-)、4.70-5.10(1H,-CH2-C(-O-)-)、6.70-6.88(1H,-O)。
【0127】
[実施例3]ポリ-(R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニルの合成2
実施例1で得られた(R)-VHB 10.42g(80.1mmol)をメタノール10mLに溶解した。次にAPS 0.0268g(0.12mmol)を水10mLに溶解した。この2つの溶液を混合し、アルゴン気流下、オイルバス温度80℃で6時間加熱攪拌したところ、粘度の高い透明液体が得られた。反応前の混合液は均一であったが、反応後は2層に分離していた。この反応液のうち、8.64gを分取し、60℃に設定したエバポレータで減圧濃縮し、濃縮物を50mLのトルエンに滴下した。この混合液の上清を除去し、60℃に設定したエバポレータで減圧乾燥し、濃縮物0.31gを得た。H-NMRより、得られた重合物はPoly((R)-VHB)であることが支持された。また、GPC測定により、この重合物の数平均分子量Mnは11029、重量平均分子量Mwは80054であることが分かった。得られたPoly((R)-VHB)のH-NMRスペクトルの測定結果は、実施例2と同様であった。
【0128】
[実施例4](R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニル-酢酸ビニル共重合体の合成1
【0129】
【化13】
【0130】
実施例1で得られた(R)-VHB 0.4g(3.08mmol)および酢酸ビニル2.39g(27.72mmol)をメタノール0.4mLに溶解した。次にAPS 0.014g(0.064mmol)を水3mLに溶解した。この2つの溶液を混合し、窒素気流下、オイルバス温80℃で7時間加熱攪拌したところ、粘度の高い透明液体が得られた。反応液にトルエン30mLを加え、生じた白色沈殿を吸引ろ過で回収した。これを60℃で真空乾燥し、1.8gの濃縮物(重合物)が得られた。GPC測定により、この重合物((R)-VHB-酢酸ビニル共重合体)の数平均分子量Mnは34962、重量平均分子量Mwは946989であり、非水溶性であることが分かった。得られた共重合体の乾燥物500mgを蒸留水10mLに添加し、70℃に加熱して1時間保持したところ、蒸留水には溶解することなく固体のままであり、高い耐水性(耐熱水性)を備えていた。得られた(R)-VHB-酢酸ビニル共重合体のH-NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。また、共重合体中の(R)-VHB由来の単位と、酢酸ビニル由来の単位との割合(モル比)は、10/90(仕込み比と同等)程度であった。
【0131】
H-NMR(300MHz,CDCl):δ(ppm)=1.15-1.35(3H,CH3-C(-OH)-CH2-)、1.70-1.98(2H,-CH2-CH(-O-)-)、1.98-2.15(3H,CH3-C(=O)-O-)、2.35-2.55(2H,-CH-CH2-C(=O)-O-)、4.15-4.32(1H,CH3-C-)、4.75-5.15(1H,-CH2-C(-O-)-)、3.20-3.70(1H,-O)。
【0132】
[実施例5](R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニル-酢酸ビニル共重合体の合成2
実施例1で得られた(R)-VHB 2.00g(15.38mmol)および酢酸ビニル1.32g(15.33mmol)をメタノール0.4mLに溶解した。次にAPS 0.014g(0.064mmol)を水3mLに溶解した。この2つの溶液を混合し、窒素気流下、オイルバス温80℃で7時間加熱攪拌したところ、粘度の高い透明液体が得られた。反応液にトルエン30mLを加え、生じた白色沈殿を吸引ろ過で回収した。これを60℃で真空乾燥し、2.5gの濃縮物(重合物)が得られた。得られた重合物((R)-VHB-酢酸ビニル共重合体)のH-NMRスペクトルの測定結果を以下に示す。なお、前記共重合体は非水溶性であり、得られた共重合体の乾燥物500mgを蒸留水10mLに添加し、70℃に加熱して1時間保持したところ、蒸留水には溶解することなく固体のままであり、高い耐水性(耐熱水性)を備えていた。共重合体中の(R)-VHB由来の単位と、酢酸ビニル由来の単位との割合(モル比)は、50/50(仕込み比と同等)程度であった。
【0133】
H-NMR(300MHz,CDCl):δ(ppm)=1.12-1.37(3H,CH3-C(-OH)-CH2-)、1.65-2.00(2H,-CH2-CH(-O-)-)、2.00-2.15(3H,CH3-C(=O)-O-)、2.32-2.57(2H,-CH-CH2-C(=O)-O-)、4.13-4.37(1H,CH3-C-)、4.71-5.16(1H,-CH2-C(-O-)-)。なお、-Oはブロードで帰属困難であった。
【0134】
[実施例6]
実施例2で得られたPoly((R)-VHB)の生分解試験を行ったところ、7日後に36.8%がバイオガス化していることが分かった。また、7日後では、Poly((R)-VHB)の多くは溶解していたが、一部が固体のまま存在していた。
【0135】
[比較例1]
市販のポリビニルアルコール(PVA)(関東化学(株)製「ポリビニルアルコール500」、重合度500、けん化度=86.5~89.0%)の生分解試験を行ったところ、7日後のバイオガス化率は4.1%であり、ゆっくりと分解が進行していた。7日後のポリビニルアルコールは全て溶解しており、固形物は確認されなかった。
【0136】
実施例6および比較例1の生分解性の評価結果から、Poly((R)-VHB)は嫌気条件下において下記式に示すように、まず高い生分解性を有する側鎖の3HB骨格から優先的に生分解され、残部として主鎖に相当するPVAが生成し、この生成したPVAが水に溶解しつつ徐々に生分解するものと推測され、海洋中に放出されてもマイクロプラスチックにはならないと考えられる。
【0137】
【化14】
【0138】
[実施例7]
実施例5で得られた(R)-VHB-酢酸ビニル共重合体(共重合比(モル比)=50/50)の生分解試験を行ったところ、210日後のバイオガス化率が67%であった。
【0139】
[比較例2]
ポリ酢酸ビニル(PVAc)の生分解試験を行ったところ、210日後においても分解は確認されなかった。なお、PVAcは、以下のように調製したものを用いた。
【0140】
すなわち、酢酸ビニル・モノマー2.8gをメタノール4mLに溶解した後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.01gと蒸留水4mLとの混合溶液を添加し、80℃で8時間反応した。得られた反応物をろ別し、トルエン20mLで洗浄した後、60℃で真空乾燥して、得られたPVAcを用いた。
【0141】
比較例2ではPVAcが分解しなかったのに対して、実施例7では共重合体の半分以上が分解していることから、共重合体中の(R)-VHB単位が酢酸ビニル単位の分解を促進(または誘導)しているものと考えられる。
【0142】
[比較例3]
市販のポリビニルアルコール(PVA)(関東化学(株)製「ポリビニルアルコール500」、重合度500、けん化度=86.5~89.0%)の生分解試験を行ったところ、210日後のバイオガス化率は24%であった。
【0143】
[実施例8](R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニルエステルの合成2
99%e.e.以上の(R)-3HB 61.11g(587mmol)を酢酸ビニル536g(6226mmol)に溶解した。酢酸パラジウム0.51g(2.27mmol,0.0039eq.)および水酸化カリウム0.43g(7.66mmol,0.013eq.)を添加した。アルゴン雰囲気下、反応液を室温で攪拌した。17時間後に反応液を採取してGC-MS分析した。(R)-3HBはほぼ消費されていた。反応液に飽和NaHCO水溶液を加え攪拌し、さらに発泡が治まるまでNaHCOを添加した。有機相を分離し無水MgSOで乾燥後、室温で減圧濃縮した。濃縮残渣を減圧蒸溜した。GC純度>99%、トータル収率48%で(R)-VHBを得た。
【0144】
[実施例9]ポリ-(R)-3-ヒドロキシ酪酸ビニルの合成3
APS(10h半減温度62℃)50.0mgを水10.0mLに溶解したAPS溶液を調製した。別途、実施例8で得た(R)-VHB 7.0005gを50%MeOHaq 7.00mLに溶解した(R)-VHB溶液を調製した。(R)-VHB溶液全量をアルゴンで5分間脱気し、APS溶液1.75mLを添加し、反応液(APS/(R)-VHB≒0.0007mol/mol)を調製した。アルゴン雰囲気で、反応液を60℃に加熱した。6時間後粘稠液体になった。得られた反応液をGPC測定したところ、数平均分子量Mnは55006、重量平均分子量Mwは139860であった。得られた反応液を60℃で減圧乾燥して得られた乾燥物[Poly((R)-VHB)]500mgを蒸留水10mLに添加し、70℃に加熱して1時間保持したところ、蒸留水には溶解することなく固体のままであり、高い耐水性(耐熱水性)を備えていた。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明のエチレン性不飽和化合物は樹脂原料(または重合成分)[特に生分解性樹脂の樹脂原料]として好適に利用でき、化学合成で樹脂に3HB単位を導入しても、得られる熱可塑性樹脂の分子量を有効に、または容易に(または効率よく)向上できるため、樹脂特性や成形性(または生産性)を向上できる。
【0146】
そのため、各種の分野で利用でき、例えば、接着剤または粘着剤(または糊)、塗料、インキ、紙加工剤(サイジング剤、コーティング剤など)、チューインガムベース、研磨剤(歯磨き粉、洗顔料、全身洗浄料などのスクラブ剤など)、帯電防止剤、電気・電子材料(例えば、キャリア輸送剤、発光体、有機感光体など)、電気・電子部品または機器(例えば、光学レンズ、光学フィルム、光ディスク、インクジェットプリンタ、デジタルペーパ、有機半導体レーザ、色素増感型太陽電池など)、機械部品または機器(例えば、自動車、航空・宇宙材料、センサなど)などに利用できる。
【0147】
また、3HB由来の骨格を含むことから、好気性および嫌気性条件下(特に好ましくは嫌気性条件下)における生分解性などに起因して、食器類(ストロー、コップ、皿、箸、スプーン、フォークなど)、包装材料(例えば、食品、日用品、電気、電子機器および部品などの容器;レジ袋、エコバッグ(登録商標)、ゴミ袋、紙袋などの袋など)などの使い捨て製品(ディスポーザブル製品)、特に、これらの使い捨て製品で使用される接着剤もしくは粘着剤(または糊)[例えば、紙器(紙コップなどの食器類など)に使用される糊など]などに好適に利用できる。そのため、近年重要視されているマイクロプラスチックなどの環境問題の解決に有用である。また、医療分野(例えば、医療機器、医療用ディスポーザブル製品など)、化粧品分野などの生体適合性などが求められる用途にも利用できる。