(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159003
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】防食塗装の耐久性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022039432
(22)【出願日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2021060738
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】永井 智之
(72)【発明者】
【氏名】山中 秀文
(72)【発明者】
【氏名】西田 周平
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050DA01
2G050EA01
2G050EA02
2G050EA04
2G050EA06
2G050EB07
2G050EC05
(57)【要約】
【課題】長期耐久性のある防食塗装等を見出すための防食塗装の耐久性評価方法を提供する。
【解決手段】鋼板の表面に耐久性評価の対象となる防食塗装を施した試験片を圧力容器の内部に設置する設置ステップS1と、圧力容器の内部空間の相対湿度を当該圧力容器の置かれた空間の相対湿度よりも高める加湿ステップS2と、圧力容器の内部空間の温度を常温よりも高める加温ステップS3と、圧力容器の内部空間の酸素分圧を0.1MPa以上1.0MPa以下とする加圧ステップS4と、加湿ステップS2による加湿状態、加温ステップS3による加温状態、及び、加圧ステップS4による加圧状態を、所定の時間が経過するまで維持する維持ステップS5と、維持ステップS5により塗膜下腐食に起因して試験片において防食塗装を施した表面に現れた膨れ部の状態を評価する評価ステップS6を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食塗装の耐久性評価方法であって、
鋼板の表面に耐久性評価の対象となる防食塗装を施した試験片を圧力容器の内部に設置する設置ステップと、
前記圧力容器の内部空間の相対湿度を当該圧力容器の置かれた空間の相対湿度よりも高める加湿ステップと、
前記圧力容器の内部空間の温度を常温よりも高める加温ステップと、
前記圧力容器の内部空間の酸素分圧を0.1MPa以上1.0MPa以下とする加圧ステップと、
前記加湿ステップによる加湿状態、前記加温ステップによる加温状態、及び、前記加圧ステップによる加圧状態を、所定の時間が経過するまで維持する維持ステップと、
前記維持ステップにより塗膜下腐食に起因して前記試験片において防食塗装を施した表面に現れた膨れ部の状態を評価する評価ステップを備えている耐久性評価方法。
【請求項2】
前記加圧ステップは、前記圧力容器の内部空間に濃度約100%の酸素が封入されて行われる請求項1に記載の耐久性評価方法。
【請求項3】
前記加温ステップは、前記圧力容器の内部空間の温度を40℃以上60℃以下とする請求項1又は2に記載の耐久性評価方法。
【請求項4】
前記加湿ステップは、前記圧力容器の内部空間の相対湿度を90%以上100%以下とする請求項1から3のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項5】
前記維持ステップによる前記所定の時間は前記圧力容器の内部空間の酸素分圧に応じて決定される請求項1から4のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項6】
前記評価ステップは、前記膨れ部の面積に基づいて行われる請求項1から5のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項7】
前記評価ステップは、単位面積当たりの前記膨れ部の個数に基づいて行われる請求項1から5のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項8】
前記評価ステップは、前記防食塗装を施した前記表面の面積のうち前記膨れ部が占める面積の割合に基づいて行われる請求項1から5のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項9】
前記評価ステップは、複数の前記膨れ部の面積の平均値に基づいて行われる請求項1から5のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項10】
前記評価ステップは、複数の前記膨れ部の体積の平均値に基づいて行われる請求項1から5のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項11】
前記評価ステップは、単位面積当たりの前記膨れ部の体積に基づいて行われる請求項1から5のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【請求項12】
前記鋼板は、腐食による錆が残った状態に素地調整されている請求項1から11のいずれか一項に記載の耐久性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食塗装の耐久性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフラ設備である鋼構造物は塗装による防食が行われている。ところで、実環境においては、塗装を行っても数年以内に腐食が発生する場合がある。このような腐食が発生したときには再塗装工事が実施される。
【0003】
しかし、再塗装を行っても短期間で再び腐食が発生する場合がある。この原因としては再塗装時の素地調整が大きく影響していると考えられる。例えば、素地調整としては電動工具を用いた方法が簡便で安価である。この方法では、発生した錆を完全に除去できない場合があり、そのような状態では、たとえ欠陥なく塗装を行っても残錆部が起点となって腐食が再発してしまうと考えられるからである。
【0004】
このような再塗装に係るメンテナンスコストの増大が従来から問題となっているため、電動工具によって素地調整された表面であっても長期耐久性のある防食塗装の開発が望まれている。
【0005】
ところで、従来、防食塗装の耐久性評価方法として、実環境における長期暴露試験がある。しかし、近年の防食塗装は耐久性が十数年以上あるため、この試験による評価には十数年以上を要することになる。
【0006】
そこで、実験室において短期間で防食塗装の耐久性を評価する手法が検討されており、その方法についてはJIS等(JIS-K-5600等)でも規定されている。当該JIS等では、試験板を塩水噴霧・乾燥・湿潤をサイクリックに組み合わせた環境中に曝す方法が規定されている。
【0007】
欠陥のない健全な塗装は前記試験を行っても腐食を促進することが困難であるため、塗装表面にカッター等で傷をつけて模擬欠陥のある状態で試験を行うことが一般的である。
【0008】
しかし、上述したような「塗膜下腐食」と呼ばれるケースに対しては塗装表面に模擬欠陥のある試験片を用いた従来の試験では評価することができない。
【0009】
なお、本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の従来技術となる耐久性評価方法について適当な先行技術文献が発見できなかったため、特許文献等の先行技術文献は示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、長期耐久性のある防食塗装等を見出すための防食塗装の耐久性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するための、本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の特徴構成は、防食塗装の耐久性評価方法であって、鋼板の表面に耐久性評価の対象となる防食塗装を施した試験片を圧力容器の内部に設置する設置ステップと、前記圧力容器の内部空間の相対湿度を当該圧力容器の置かれた空間の相対湿度よりも高める加湿ステップと、前記圧力容器の内部空間の温度を常温よりも高める加温ステップと、前記圧力容器の内部空間の酸素分圧を0.1MPa以上1.0MPa以下とする加圧ステップと、前記加湿ステップによる加湿状態、前記加温ステップによる加温状態、及び、前記加圧ステップによる加圧状態を、所定の時間が経過するまで維持する維持ステップと、前記維持ステップにより塗膜下腐食に起因して前記試験片において防食塗装を施した表面に現れた膨れ部の状態を評価する評価ステップを備えている点にある。
【0012】
発明者らは鋭意研究の結果、塗装表面に模擬欠陥を形成していない試験片であっても、温度や相対湿度が高く、酸素分圧が0.1MPa以上1.0MPa以下の範囲の環境中におくことで、比較的短期間で塗膜下腐食による膨れ部が現れるため、従来よりも短期間で防食塗装の耐久性を評価することができるという知見を得た。
【0013】
塗膜下腐食については、塩分が内在した状態で残存した残錆部において、塗装を透過した酸素や水蒸気によって腐食が進行すると考えられている。一方で未使用の鋼板に防食塗装を施した当該鋼板の表面においても長期間の使用において腐食が進行する場合があると考えられている。塗膜下腐食は塗装面に膨れ部が現れる原因の一つである。塗膜中の透過度について、酸素は水蒸気の10%程度であることから、前記腐食反応は酸素の拡散が律速していると考えられる。したがって、気相中の酸素分圧を高くして酸素の拡散を促進することにより、塗装表面に模擬欠陥を形成せずとも塗膜下腐食を促進できると考えられる。なお、酸素分圧は、上記0.1MPa以上1.0MPa以下であればよく、そのなかでも0.3MPa以上0.7MPa以下であることが好ましく、特に約0.5MPaであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記加圧ステップは、前記圧力容器の内部空間に濃度約100%の酸素が封入されて行われる点にある。
【0015】
発明者らは鋭意研究の結果、前記加圧ステップは、圧力容器の内部空間に濃度約100%の酸素が封入されて行われると、維持ステップにより塗膜下腐食に起因して塗装面に膨れ部が効果的に現れるという知見を得た。
【0016】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記加温ステップは、前記圧力容器の内部空間の温度を40℃以上60℃以下とする点にある。
【0017】
発明者らは鋭意研究の結果、前記加温ステップは、前記圧力容器の内部空間の温度を40℃以上60℃以下とすると、常温に比べて防食塗装に対する酸素の透過率が向上し、維持ステップにおいて塗膜下腐食に起因して塗装面に膨れ部が効果的に現れるという知見を得た。なお、温度は、上記40℃以上60℃以下であればよく、そのなかでも、45℃以上55℃以下であることが好ましく、特に約50℃程度であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記加湿ステップは、前記圧力容器の内部空間の相対湿度を90%以上100%以下とする点にある。
【0019】
発明者らは鋭意研究の結果、前記加湿ステップは、前記圧力容器の内部空間の相対湿度を90%以上100%以下とすると、維持ステップにより塗膜下腐食に起因して塗装面に膨れ部が効果的に現れるという知見を得た。なお、相対湿度は、上記90%以上100%以下であればよく、そのなかでも、95%以上であることが好ましく、特に100%であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記維持ステップによる前記所定の時間は前記圧力容器の内部空間の酸素分圧に応じて決定される点にある。
【0021】
発明者らは鋭意研究の結果、前記維持ステップによる前記所定の時間は前記圧力容器の内部空間の酸素分圧に応じて決定されると、維持ステップにおいて塗膜下腐食に起因して塗装面に膨れ部が効果的に現れるという知見を得た。なお、加圧ステップにおける圧力容器の内部空間の酸素分圧が約0.1MPaであるときは、維持ステップにおける所定の時間は約2週間であり、加圧ステップにおける圧力容器の内部空間の酸素分圧が約0.2MPaであるときは、維持ステップにおける所定の時間は約1週間である。加圧ステップにおける酸素分圧が高いほど、維持ステップにおける時間が短縮されるため、酸素分圧に応じて所定の時間が決定される。
【0022】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記評価ステップは、前記膨れ部の面積に基づいて行われる点にある。
【0023】
発明者らは鋭意研究の結果、膨れ部の面積を計測することにより塗膜下腐食の程度を把握することができるという知見を得た。
【0024】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記評価ステップは、単位面積当たりの前記膨れ部の個数に基づいて行われる点にある。
【0025】
発明者らは鋭意研究の結果、単位面積当たりの膨れ部の個数を計測することにより塗膜下腐食の程度を把握することができるという知見を得た。
【0026】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記評価ステップは、前記防食塗装を施した前記表面の面積のうち前記膨れ部が占める面積の割合に基づいて行われる点にある。
【0027】
発明者らは鋭意研究の結果、防食塗装を施した表面の面積のうち膨れ部が占める面積の割合を計測することにより塗膜下腐食の程度を把握することができるという知見を得た。
【0028】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記評価ステップは、複数の前記膨れ部の面積の平均値に基づいて行われる点にある。
【0029】
発明者らは鋭意研究の結果、複数の膨れ部の面積の平均値を計測することにより塗膜下腐食の程度を把握することができるという知見を得た。
【0030】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記評価ステップは、複数の前記膨れ部の体積の平均値に基づいて行われる点にある。
【0031】
発明者らは鋭意研究の結果、複数の膨れ部の体積の平均値を計測することにより塗膜下腐食の程度を把握することができるという知見を得た。
【0032】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記評価ステップは、単位面積当たりの前記膨れ部の体積に基づいて行われる点にある。
【0033】
発明者らは鋭意研究の結果、単位面積当たりの膨れ部の体積を計測することにより塗膜下腐食の程度を把握することができるという知見を得た。
【0034】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法の更なる特徴構成は、前記鋼板は、腐食による錆が残った状態に素地調整されている点にある。
【0035】
発明者らは鋭意研究の結果、塗装表面に模擬欠陥を形成していない試験片であっても、腐食による錆が残った状態に素地調整された鋼板を用いると、温度や相対湿度が高く、酸素分圧が0.1MPa以上1.0MPa以下の範囲の環境中におくことで、比較的短期間で塗膜下腐食による膨れ部が現れるため、従来よりも短期間で防食塗装の耐久性を評価することができるという知見を得た。
【0036】
塗膜下腐食については、塩分が内在した状態で残存した残錆部において、塗装を透過した酸素や水蒸気によって腐食が進行すると考えられている。塗膜中の透過度について、酸素は水蒸気の10%程度であることから、前記腐食反応は酸素の拡散が律速していると考えられる。したがって、気相中の酸素分圧を高くして酸素の拡散を促進することにより、塗装表面に模擬欠陥を形成せずとも塗膜下腐食を促進できると考えられる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、インフラ設備における塗装のメンテナンスコストの削減を目的とし、電動工具によって素地調整を施した表面であっても長期耐久性のある防食塗装等を見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図3】耐久性評価方法に係る試験装置の概略図である。
【
図4】耐久性評価方法に係る実験結果の説明図である。
【
図5】酸素分圧を約0.52MPaとしたときの試験片の塗装面の写真である。
【
図6】酸素分圧を約0.12MPaとしたときの試験片の塗装面の写真である。
【
図7】酸素分圧を約0.02MPaとしたときの試験片の塗装面の写真である。
【
図8】三次元表面測定装置を用いたときの試験片の塗装面の評価結果である。
【
図9】錆が発生していない未使用の鋼板を試験片として用いたときの塗装面の写真である。
【
図10】錆が発生していない未使用の鋼板の試験片の塗装面を三次元表面測定装置を用いて測定した測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
【0040】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法について説明するにあたり、まず当該耐久性評価方法に係る試験片及び圧力容器について説明する。
【0041】
図2には、試験片10の作成手順が示されている。すなわち、鋼板に対して塩水を噴霧して温度や湿度を高める等により腐食を発生させたものに対して、ディスクペーパー(#16)等を用いて、鋼板の表面に腐食による錆が点在する状態まで素地調整する。その後、鋼板の表面に耐久性評価の対象となる防食塗装を施すことにより作成される。なお、鋼板に対する発錆の手法は、上記のような塩水噴霧試験に限らず、実暴露試験等であってもよい。防食塗装は、素地調整された鋼板に対して試験対象となる防食塗装が所定の膜厚となるように塗装されて構成される。
【0042】
図3には、複数枚の試験片10を収容可能な内部空間を有する圧力容器11が示されている。圧力容器11は、恒温容器本体11aと、当該恒温容器本体11aを密閉可能な蓋11bを備えている。恒温容器本体11aは、内部空間を加湿可能な加湿機構(図示せず)と、内部空間を加圧可能な加圧機構(図示せず)と、内部空間を加温可能な加温機構(図示せず)や内部空間の相対湿度、圧力、温度をモニタリングするセンサ(図示せず)や、当該センサのモニタリング値に基づいて加湿機構、加圧機構、加温機構を制御する制御部(図示せず)等を適宜備えることができる。
【0043】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法は、上記のような試験片10及び圧力容器11を用いて実行される。当該耐久性評価方法は、
図1に示すように、設置ステップS1と、加湿ステップS2と、加温ステップS3と、加圧ステップS4と、維持ステップS5と、評価ステップS6を備えて構成されている。
【0044】
設置ステップS1は、複数枚の試験片10を圧力容器11の内部に設置するステップである。各試験片10には例えば異なる防食塗装が施されているため、一度に複数の防食塗装について耐久性評価をすることができる。
【0045】
加湿ステップS2は、圧力容器11の内部空間の相対湿度を常湿よりも高めるステップである。耐久性評価方法の実行時には、圧力容器11の内部空間には試験片10が没水しない程度の量の水が貯留され、内部空間の相対湿度が100%となるように圧力容器11内の環境が設定される。なお、常湿とは当該圧力容器11の置かれた空間の相対湿度(例えば50%程度)をいう。
【0046】
加温ステップS3は、圧力容器11の内部空間の温度を常温よりも高めるステップである。なお、常温とは当該圧力容器11の置かれた空間の温度(例えば25℃程度)をいう。
【0047】
加圧ステップS4は、圧力容器11の内部空間の酸素分圧を0.1MPa以上1.0MPa以下とするステップである。
【0048】
維持ステップS5は、加湿ステップS2による加湿状態、加温ステップS3による加温状態、及び、加圧ステップS4による加圧状態を、所定の時間(例えば1週間から10週間程度)が経過するまで維持するステップである。
【0049】
評価ステップS6は、維持ステップS5により塗膜下腐食に起因して前記塗装面に現れた膨れ部の状態を評価するステップである。評価ステップS6においては、膨れ部の高さや面積等を測定し、所定の基準と比較することにより行われる。
【0050】
本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法は、以上の各ステップを備えることにより、腐食試験の試験時間を短縮することができる。
【0051】
以下に、本発明に係る防食塗装の耐久性評価方法に係る実験1から3を説明する。実験1においては、試験片に錆が残っているか否か、圧力容器11の内部空間が大気圧の空気であるか高圧の酸素であるかの組み合わせについて、それぞれ所定の時間が経過したときの塗料の膨れ部の様子を確認した。
【0052】
〔実験1〕
図4に示すように、実験1において、実験例は、上述のように発錆させた試験片10を圧力容器11に設置し、圧力容器11の内部空間の相対湿度を100%とするために、当該圧力容器11の内部空間に少量の水を加え、圧力容器11の内部空間に高圧の酸素(例えば濃度約100%の酸素を約0.6MPa、すなわち酸素分圧約0.6MPa)を充填し、高温(例えば50℃)に保持し、8週間を経過させたものである。ただし、防食塗装の塗装面に膨れ部が評価可能な程度に現れていれば、必ずしも8週間経過させる必要はなく、後述するように例えば4週間でもよい。経過時間が長いほど膨れ部は高くなり明確になるが、高さの測定基準となる膨れの発生していない塗装面を特定することが困難になり、正確に膨れ部を評価することができなくなる場合があるからである。
【0053】
図4に示すように、比較例1は、発錆していない鋼板に対して、上述の試験片10と同様の防食塗装を施したものを、圧力容器11に設置し、当該圧力容器11の内部空間の相対湿度を100%とするために、当該圧力容器11の内部空間に少量の水を加え、圧力容器11の内部空間に大気圧の空気(約0.1MPa、すなわち酸素分圧は約0.02MPa)を充填し、高温(例えば50℃)に保持し、8週間を経過させたものである。
【0054】
図4に示すように、比較例2は、発錆していない鋼板に対して、上述の試験片10と同様の防食塗装を施したものを、圧力容器11に設置し、当該圧力容器11の内部空間の相対湿度を100%とするために、当該圧力容器11の内部空間に少量の水を加え、圧力容器11の内部空間に高圧の酸素(例えば濃度約100%の酸素を約0.6MPa、すなわち酸素分圧約0.6MPa)を充填し、高温(例えば50℃)に保持し、8週間を経過させたものである。
【0055】
図4に示すように、比較例3は、上述のように発錆させた試験片10を圧力容器11に設置し、当該圧力容器11の内部空間の相対湿度を100%とするために、当該圧力容器11の内部空間に少量の水を加え、圧力容器11の内部空間に大気圧の空気(例えば空気約0.1MPa、すなわち酸素分圧は約0.02MPa)を充填し、高温(例えば50℃)に保持し、8週間を経過させたものである。
【0056】
図4の比較例1及び比較例2から、試験片を構成する鋼板に錆がない場合には、圧力容器11の内部空間を高圧の酸素(酸素分圧約0.6MPa)としても8週間経過したものでは塗装面に膨れ部は確認できなかった。
【0057】
図4の比較例1及び比較例3から、試験片を構成する鋼板に錆がなくても、錆が残っていても、圧力容器11の内部空間が大気圧の空気(酸素分圧約0.02MPa)であれば塗装面に膨れ部は確認できなかった。
【0058】
図4の比較例2及び実験例から、圧力容器11の内部空間が高圧の酸素(酸素分圧約0.6MPa)であるとき、試験片を構成する鋼板に錆が残っていれば塗装面に膨れ部が確認できた。
【0059】
図4の比較例3及び実験例から、試験片を構成する鋼板に錆がある場合に、圧力容器11の内部空間を大気圧の空気としても塗装面に膨れ部は確認できないが、圧力容器11の内部空間が高圧の酸素(酸素分圧約0.6MPa)とすると塗装面に膨れ部が確認できた。
【0060】
当該実験1から、錆が残った状態の鋼板に防食塗装を施した試験片を高圧の酸素(酸素分圧約0.6MPa)中に所定の時間、実験1においては8週間保持することによって腐食に起因して膨れ部が現れることが確認できた。つまり、高圧の酸素(酸素分圧約0.6MPa)により腐食を加速させることができるため、腐食試験の試験時間を短縮できることが確認できた。
【0061】
〔実験2〕
実験2においては、鋼板に対して海水を1回/月の頻度で塗布し、屋外に暴露することにより腐食を発生させたものに対して、ディスクペーパー(#16)を用いて、鋼板の表面に腐食による錆が点在する状態まで素地調整する。その後、鋼板の表面にエポキシ系の下塗・中塗塗料とフッ素系の上塗り塗料とのそれぞれの膜厚が規格値となるように塗装されたものを用いて、酸素分圧の違いに応じて、塗装面に現れる膨れ部の様子を評価した。結果を
図5から
図7に示す。なお、圧力容器11の内部空間の温度は50℃、相対湿度は100%である。
【0062】
圧力容器11の内部空間に、大気圧の空気及び高圧の酸素(空気約0.1MPa、濃度約100%の酸素を約0.5MPa、すなわち酸素分圧は約0.52MPa)を充填し、2週間を経過させたときには、
図5に示すように塗装面に大きな膨れ部が現れていることが確認できた。
【0063】
圧力容器11の内部空間に、高圧の空気(空気約0.6MPa、すなわち酸素分圧は約0.12MPa)を充填し、2週間を経過させたときには、
図6に示すように、塗装面にいくらかの膨れ部が現れていることが確認できた。
【0064】
圧力容器11の内部空間に、大気圧の空気(空気約0.1MPa、すなわち酸素分圧は約0.02MPa)を充填し、2週間を経過させたときには、
図7に示すように、塗装面にはほとんど膨れ部が確認できなかった。
【0065】
当該実験2から、
図7に示すように、圧力容器11の内部空間が大気圧の空気(酸素分圧は約0.02MPa)であるときは、塗装面に膨れ部がほとんど確認できないものの、
図6に示すように、圧力容器11の内部空間が空気であっても酸素分圧が約0.12MPaの加圧状態とすることにより、わずか2週間で塗装面に視認できる膨れ部が現れていることが確認できることがわかった。また、
図5に示すように、圧力容器11の内部空間が高圧の酸素(酸素分圧約0.52MPa)であれば、2週間で塗装面に大きな膨れ部が現れていることが確認できることがわかった。つまり、高圧の酸素により腐食を加速させることができるため、腐食試験の試験時間を短縮できることが確認できた。
【0066】
なお、上述した実施形態における圧力、温度、湿度は例示である。例えば、酸素分圧は、上記0.1MPa以上1.0MPa以下であればよく、そのなかでも0.3MPa以上0.7MPa以下であることが好ましく、特に約0.5MPaであることが好ましい。温度は、上記40℃以上60℃以下であればよく、そのなかでも、45℃以上55℃以下であることが好ましく、特に約50℃程度であることが好ましい。相対湿度は、上記90%以上100%以下であればよく、そのなかでも、95%以上であることが好ましく、特に100%であることが好ましい。
【0067】
上記実験1,2においては、目視により膨れ部の確認、評価を行ったが、評価方法(評価ステップ)はこれに限られるものではない。例えば、既知の三次元表面測定装置を用いて試験片の膨れ部を評価してもよい。
図8(a)には、経過時間が4週間であること以外は上記実験1の実験例と同じ条件の耐久性評価方法により発錆させた試験片10aの写真が示されている。
図8(b)には、この試験片10aを三次元表面測定装置を用いて測定し、測定結果に基づいて描画した表面高さのプロファイルが示される。そして、
図8(c)には、膨れ部の高さが所定値(本実施形態においては80μm)以上の箇所を着色して抽出した図が示される。三次元表面測定装置を用いることにより、評価指標として、例えば、試験片10aの膨れ部密度(試験片の単位面積当たりの膨れ部の個数)、膨れ部面積率(試験片の塗装面の面積のうち膨れ部が占める面積の割合)、平均膨れ部面積(それぞれの膨れ部の面積の平均値)、平均膨れ部体積(それぞれの膨れ部の体積の平均値)、及び、面平均膨れ部体積(単位面積当たりの膨れ部の体積)等を計測することができる。そして、これらの評価指標に基づいて防食塗装条件の異なる試験片の相対評価を行うことで、防食塗装の耐久性を総合的に評価することができる。なお、防食塗装条件には、塗装後の試験片を評価するための相対湿度や酸素分圧、雰囲気温度のみならず、防食塗料の種類や防食塗料の塗布方法、防食塗料の厚さ(膜厚)、塗装時の温度、湿度も含まれる。
【0068】
〔実験3〕
上記の実験1,2においては、表面に腐食による錆が点在する状態まで素地調整された鋼板を用いたが、実験3においては、錆が発生していない未使用の鋼板の表面にブラスト処理を行って素地調整を行い、該表面に防食塗装として4種類の塗料をそれぞれスプレーにより塗装した。
【0069】
防食塗装を行った上記の4種類の鋼板からなる試験片10bを圧力容器11に設置し、圧力容器11の内部空間の相対湿度を100%とするために、当該圧力容器11の内部空間に少量の水を加え、圧力容器11の内部空間に高圧の酸素(例えば濃度約100%の酸素を約0.5MPa、すなわち酸素分圧約0.5MPa)を充填し、高温(例えば50℃)に保持し、24週間を経過させる。
図9(a)から
図9(d)には、ブラスト処理を行い4種類の塗料をスプレーで防食塗装した鋼板について、上記条件で24週間経過した後の試験片10bが示される。
【0070】
これらの試験片10bを目視により観察すると、
図9(a)と
図9(b)に示す試験片10bでは塗装面に多数の膨れ部が観察された。
図9(c)と
図9(d)に示す試験片10bでは塗装面に膨れ部が観察されなかった。このように、錆が発生していない鋼板(試験片10b)についても上記条件で24週間経過させることにより、腐食に起因する膨れ部が現れることが確認できた。これにより、防食塗料を評価するための腐食試験の試験時間を短縮することができる。
【0071】
実験3の評価において、三次元表面測定装置を用いて、
図9(a)~(d)に示す試験片10bの膨れ部密度、膨れ部面積率、平均膨れ部面積、平均膨れ部体積、及び、面平均膨れ部体積を計測した。その結果を
図10に示す。
図10の5種類のグラフは、
図9(a)~(d)に示す試験片10bにおける、それぞれ膨れ部密度、膨れ部面積率、平均膨れ部面積、平均膨れ部体積、及び、面平均膨れ部体積を表す。各グラフの横軸の(a)~(d)は、それぞれ
図9(a)~(d)の試験片10bに対応している。
【0072】
図10に示すように、膨れ部密度、膨れ部面積率、平均膨れ部面積、平均膨れ部体積、及び、面平均膨れ部体積の全ての項目で、
図9(a)~(d)の試験片10bの写真が示す結果と同じになった。すなわち、
図9(a)に示す試験片10bが腐食に起因する膨れ部が最も多く現れており、次いで
図9(b)に示す試験片10bに膨れ部が現れていた。
図9(c)、
図9(d)に示す試験片10bでは膨れ部は測定されなかった。
【0073】
図10の結果より、防食塗装の耐久性は、
図9(c)、
図9(d)>
図9(b)>
図9(a)の順に良好であることが確認された。このように、上記の評価指標に基づいて防食塗装条件の異なる鋼板の相対評価を行うことで、錆が発生していない未使用の鋼板についても、防食塗装の耐久性を総合的に評価することができる。
【0074】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 :試験片
10a :試験片
10b :試験片
11 :圧力容器
11a :恒温容器本体
11b :蓋
S1 :設置ステップ
S2 :加湿ステップ
S3 :加温ステップ
S4 :加圧ステップ
S5 :維持ステップ
S6 :評価ステップ