IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社プライムポリマーの特許一覧

特開2022-159006プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレン系樹脂組成物
<>
  • 特開-プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレン系樹脂組成物 図1
  • 特開-プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレン系樹脂組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159006
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20221006BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221006BHJP
   C08L 23/14 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08F293/00
C08K3/013
C08L23/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022040604
(22)【出願日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2021060010
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 喬
(72)【発明者】
【氏名】板倉 啓太
(72)【発明者】
【氏名】古田 貴憲
【テーマコード(参考)】
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4J002BB052
4J002BB141
4J002BB152
4J002BP022
4J002DA016
4J002DE206
4J002DE236
4J002DJ006
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002GN00
4J026HA04
4J026HA27
4J026HA35
4J026HA38
4J026HB03
4J026HB04
4J026HB20
4J026HB35
4J026HB38
4J026HB42
4J026HB43
4J026HB45
4J026HC03
4J026HC04
4J026HC20
4J026HC25
4J026HC35
4J026HC38
4J026HC43
4J026HC44
4J026HE03
(57)【要約】
【課題】ゴム成分等と混合して成形体に使用する際に、金型内での流動性に優れ、かつ耐衝撃性に優れた成形体を製造することのできるプロピレン系材料を提供すること。
【解決手段】下記(1)~(4)を満たすプロピレン系ブロック共重合体。
(1)Dsolが10~50質量%、Dsolの極限粘度[η]が2.0~6.0dl/g、かつDsolのエチレン含有量が30~80モル%である。
(2)MFRが1~500g/10分である。
(3)融点が155~170℃である。
(4)粘弾性測定において貯蔵弾性率が102Pa、104Paとなる角周波数をそれぞれω1、ω2とし、Dsol量(質量%)とDsolの極限粘度(dl/g)との積をαとすると、下記式(A)-αの両対数プロットにおいて、下記式(B)および式(C)が満たされる。
ω2/10ω1 …(A)
5.88×ln(α)-21.1<ln(式(A))<5.88×ln(α)-17.8 …(B)
2≦ln(式(A))≦6 …(C)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(1)~(4)を満たすプロピレン系ブロック共重合体。
要件(1):23℃n-デカン可溶部量が10~50質量%であり、23℃n-デカン可溶部の、135℃テトラリン中で測定される極限粘度[η]が2.0~6.0dl/gであり、かつ23℃n-デカン可溶部のエチレン含有量が30~80モル%である。
要件(2):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1~500g/10分である。
要件(3):示差走査熱量測定計により測定される融点が155~170℃である。
要件(4):粘弾性測定において貯蔵弾性率が102Pa、104Paとなる角周波数(rad/s)をそれぞれω1、ω2とし、23℃n-デカン可溶部量(質量%)と23℃n-デカン可溶部の極限粘度(dl/g)との積をαとすると、下記式(A)-αの両対数プロットにおいて、下記式(B)および式(C)が共に満たされる。
ω2/10ω1 …(A)
5.88×ln(α)-21.1<ln(式(A))<5.88×ln(α)-17.8 …(B)
2≦ln(式(A))≦6 …(C)
【請求項2】
さらに以下の要件(5)~(6)を満たす請求項1に記載のプロピレン系ブロック共重合体。
要件(5):23℃n-デカン不溶部の13C-NMRで測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が96.0~99.9%である。
要件(6):23℃n-デカン不溶部のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が50~1000g/10分である。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプロピレン系ブロック共重合体を含有するプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
さらに無機フィラー(F)を含有する請求項3に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のプロピレン系ブロック共重合体を50~99質量部、および
前記無機フィラー(F)を1~50質量部(ただし、プロピレン系ブロック共重合体および無機フィラー(F)の合計量を100質量部とする。)
含有する請求項4に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
さらにエラストマー(E)を含有する請求項3に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載のプロピレン系ブロック共重合体を50~99質量部、および
前記エラストマー(E)を1~50質量部(ただし、プロピレン系ブロック共重合体およびエラストマー(E)の合計量を100質量部とする。)
含有する請求項6に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載のプロピレン系ブロック共重合体を50~98質量部、
無機フィラー(F)を1~49質量部、および
エラストマー(E)を1~49質量部(ただし、プロピレン系ブロック共重合体、無機フィラー(F)およびエラストマー(E)の合計量を100質量部とする。)
含有するプロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載のプロピレン系ブロック共重合体または請求項3~8のいずれか一項に記載のプロピレン系樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項10】
射出成形体である請求項9に記載の成形体。
【請求項11】
自動車部品である請求項9または10の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、剛性、耐熱性に優れた材料として広い用途を有している。プロピレン系重合体の中でも多段重合法によってプロピレンと他のオレフィン(エチレン等)との非結晶性共重合体成分が導入されたプロピレン系ブロック共重合体は、上述の特性に加えて耐衝撃性にも優れている。このためプロピレン系ブロック共重合体は、たとえばバンパー、インストルメンタルパネル(ダッシュボード)、ドアトリム、ピラーなどの自動車部品の材料として広く利用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、成形体にした場合の剛性と耐衝撃性、および低温耐衝撃性のバランスに優れるプロピレン系ブロック共重合体を提供することを目的として、所定の要件を満たすように。第一工程においてプロピレン系重合体成分(1)を製造し、第二工程において該成分(1)の存在下にプロピレン系共重合体成分(2)を製造し、第三工程において該成分(1)および該成分(2)の存在下にエチレン系共重合体成分(3)を製造して得られた、所定の要件を満たすプロピレン系ブロック共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/072790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のプロピレン系ブロック共重合体には、ゴム成分等と混合して成形体に使用する際に、金型内での流動性、および成形体の耐衝撃性の観点からさらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、ゴム成分等と混合して成形体に使用する際に、金型内での流動性に優れ、かつ耐衝撃性に優れた成形体を製造することのできるプロピレン系材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決すべく検討した結果、以下に記載のプロピレン系ブロック共重合体により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、たとえば以下の[1]~[11]に関する。
【0008】
[1]
下記要件(1)~(4)を満たすプロピレン系ブロック共重合体。
要件(1):23℃n-デカン可溶部量が10~50質量%であり、23℃n-デカン可溶部の、135℃テトラリン中で測定される極限粘度[η]が2.0~6.0dl/gであり、かつ23℃n-デカン可溶部のエチレン含有量が30~80モル%である。
要件(2):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1~500g/10分である。
要件(3):示差走査熱量測定計により測定される融点が155~170℃である。
要件(4):粘弾性測定において貯蔵弾性率が102Pa、104Paとなる角周波数(rad/s)をそれぞれω1、ω2とし、23℃n-デカン可溶部量(質量%)と23℃n-デカン可溶部の極限粘度(dl/g)との積をαとすると、下記式(A)-αの両対数プロットにおいて、下記式(B)および式(C)が共に満たされる。
ω2/10ω1 …(A)
5.88×ln(α)-21.1<ln(式(A))<5.88×ln(α)-17.8 …(B)
2≦ln(式(A))≦6 …(C)
【0009】
[2]
さらに以下の要件(5)~(6)を満たす前記[1]のプロピレン系ブロック共重合体。
要件(5):23℃n-デカン不溶部の13C-NMRで測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が96.0~99.9%である。
要件(6):23℃n-デカン不溶部のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が50~1000g/10分である。
【0010】
[3]
前記[1]または[2]のプロピレン系ブロック共重合体を含有するプロピレン系樹脂組成物。
【0011】
[4]
さらに無機フィラー(F)を含有する前記[3]のプロピレン系樹脂組成物。
【0012】
[5]
前記[1]または[2]のプロピレン系ブロック共重合体を50~99質量部、および
前記無機フィラー(F)を1~50質量部(ただし、プロピレン系ブロック共重合体および無機フィラー(F)の合計量を100質量部とする。)
含有する前記[4]のプロピレン系樹脂組成物。
【0013】
[6]
さらにエラストマー(E)を含有する前記[3]のプロピレン系樹脂組成物。
【0014】
[7]
前記[1]または[2]のプロピレン系ブロック共重合体を50~99質量部、および
前記エラストマー(E)を1~50質量部(ただし、プロピレン系ブロック共重合体およびエラストマー(E)の合計量を100質量部とする。)
含有する前記[6]のプロピレン系樹脂組成物。
【0015】
[8]
前記[1]または[2]のプロピレン系ブロック共重合体を50~98質量部、
無機フィラー(F)を1~49質量部、および
エラストマー(E)を1~49質量部(ただし、プロピレン系ブロック共重合体、無機フィラー(F)およびエラストマー(E)の合計量を100質量部とする。)
含有するプロピレン系樹脂組成物。
【0016】
[9]
前記[1]または[2]のプロピレン系ブロック共重合体または前記[3]~[8]のいずれかのプロピレン系樹脂組成物から形成された成形体。
【0017】
[10]
射出成形体である前記[9]の成形体。
【0018】
[11]
自動車部品である前記[9]または[10]の成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、ゴム成分等と混合して成形体に使用する際に金型内での流動性に優れ、かつ耐衝撃性に優れた成形体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、要件(4)における貯蔵弾性率と角周波数との関係を示す図である。
図2図2は、要件(4)におけるln(式(A))とln(α)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
[プロピレン系ブロック共重合体]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体は、以下に説明する要件(1)~(4)を満たすことを特徴としている。
【0022】
(要件(1))
要件(1)は、プロピレン系ブロック共重合体の、23℃n-デカン可溶部(以下「Dsol」とも記載する。)量が10~50質量%であり、Dsolの、135℃テトラリン中で測定される極限粘度[η]が2.0~6.0dl/gであり、かつDsolのエチレン含有量が30~80モル%である、というものである。
【0023】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体において、23℃n-デカン可溶部(Dsol)とは、通常、主にプロピレンおよびエチレン由来の構成単位からなる成分である。Dsolは結晶性を示さないか、もしくは結晶性が低い成分であり、ガラス転移温度が低く、耐衝撃性を発現し、および他の重合体と混合する際には他の重合体との相溶性を発現すると考えられる。これはゴム成分と言われることもある。
【0024】
一方、本発明のプロピレン系ブロック共重合体において、23℃n-デカン不溶部(以下「Dinsol」とも記載する。)とは、通常、主にプロピレン由来の構成単位からなる成分であり、結晶性を有し、高い剛性を示すと考えられる。
【0025】
solの割合は、好ましくは10~40質量%、より好ましくは15~35質量%である。なお、Dsolの割合とDinsolの割合との合計を100質量%とする。
solの割合が上記範囲を下回ると、プロピレン系ブロック共重合体から得られる成形体の耐衝撃性が低下する傾向にある。Dsolの割合が減ることにより衝撃に対しての吸収エネルギーが低下するためと考えられる。
【0026】
一方、Dsolの割合が上記範囲を上回ると、プロピレン系ブロック共重合体を用いての高速での成形性が劣る場合があり、またプロピレン系ブロック共重合体から得られる成形体の剛性(座屈強度)が劣る場合がある。
【0027】
前記Dsolの割合および前記Dinsolの割合は、後述する実施例で採用した方法により測定した場合のものである。
solの、135℃デカリン中における極限粘度は、好ましくは3.0~6.0dl/g、より好ましくは3.0~5.0dl/gである。
【0028】
前記極限粘度が上記範囲を上回るかもしくは下回ると、プロピレン系ブロック共重合体から得られる成形体の耐衝撃性が低下する場合がある。
前記極限粘度の値は、後述する実施例で採用した方法により測定した場合のものである。
【0029】
solにおけるエチレン由来の構成単位の割合は、好ましくは35~60モル%、より好ましくは40~55モル%である。
前記構成単位の割合が上記範囲を下回ると、プロピレン系ブロック共重合体から得られる成形体の耐衝撃性が劣る傾向がある。Dsolのエチレンの割合が減ることによりガラス転移温度が低下し、結晶化度が高くなり、衝撃に対しての吸収エネルギーが低下するためと考えられる。
【0030】
一方、前記構成単位の割合が上記範囲を上回ると、プロピレン系ブロック共重合体を含む材料の高速での成形性が劣る場合がある。
前記構成単位の割合は、後述する実施例で採用した方法により測定した場合のものである。
【0031】
(要件(2))
要件(2)は、プロピレン系ブロック共重合体のメルトフローレート(以下「MFR」とも記載する。)(ASTM D-1238に準拠、230℃、2.16kg荷重)が1~500g/10分である、というものである。MFRは、好ましくは10~300g/10分であり、より好ましくは30~150g/10分である。
MFRが上記範囲を下回ると、プロピレン系ブロック共重合体を含む材料を射出成形した際にショートショットが生じることがある。またMFRが上記範囲を上回ると、プロピレン系ブロック共重合体を含む材料を射出成形した際にバリが生じることがある。
【0032】
(要件(3))
要件(3)は、示差走査熱量測定計(DSC)により測定される融点が155~170℃である、というものである。測定条件の詳細は以下のとおりである。
具体的には、JIS K7121に従って、示差走査熱量測定計(DSC)を用いて、下記条件下で測定を行い、第3stepにおける吸熱ピークの頂点における温度を融点と定義する。吸熱ピークが複数ある場合は最大吸熱ピーク頂点における温度を融点と定義する。
【0033】
(測定条件)
雰囲気:窒素ガス雰囲気
サンプル量:5mg
サンプル形状:プレスフィルム(230℃成形、厚み200~400μm)
第1step:30℃より速度10℃/分で240℃まで昇温し、10分間保持する。
第2step:10℃/分で60℃まで降温する。
第3step:10℃/分で240℃まで昇温する。
【0034】
前記融点は、好ましくは160~170℃である。
融点が上記範囲を下回ると、プロピレン系ブロック共重合体を用いて形成される成形体の耐熱性が劣る場合がある。
【0035】
(要件(4))
要件(4)は、プロピレン系ブロック共重合体の粘弾性測定において貯蔵弾性率が102Pa、104Paとなる角周波数(rad/s)をそれぞれω1、ω2とし、前記Dsolの量(質量%)と前記Dsolの極限粘度[η](dl/g)との積をαとすると、下記式(A)-αの両対数プロットにおいて、下記式(B)および式(C)が共に満たされる、というものである
ω2/10ω1 …(A)
5.88×ln(α)-21.1<ln(式(A))<5.88×ln(α)-17.9 …(B)
2≦ln(式(A))≦6 …(C)
要件(4)の技術的意義を、図1および2を参照しながら説明する。
【0036】
図1は、プロピレン単独重合体部(以下「ホモPP部」とも記載する。)およびプロピレン・エチレン共重合体部(以下「ゴム部」とも記載する。)を有するプロピレン系ブロック共重合体の粘弾性測定における貯蔵弾性率と角周波数との関係を示す。
【0037】
式(A)は、図1で表されるような、プロピレン系ブロック共重合体の2つの貯蔵弾性率における角周波数の比に関するものである。
ホモPP部に対してゴム部の割合が高いほど、低ずり速度における緩和速度が遅くなり、ω1が小さくなるので、式(A)の値は大きくなる。・・・(i)
ゴム部の極限粘度[η]が大きいほど、低ずり速度における緩和速度が遅くなり、ω1が小さくなるので、式(A)の値は大きくなる。・・・(ii)
加えて、プロピレン系ブロック共重合体において形成される海島構造において、ゴムの分散性が優れるほど、島相であるゴム部の表面積が大きくなるので、海相であるホモPP部との摩擦が大きくなり、その結果、式(A)の値は大きくなる。・・・(iii)
以上から、ゴム部の割合とゴム部の極限粘度[η]に起因して決まる式(A)の値は、ゴム部の分散性が優れると、より大きくなると言える。
【0038】
フローカーブは貯蔵弾性率と角周波数とを対数プロットしたものであり、上記(i)および(ii)を考慮して、ゴム部の割合とゴム部の極限粘度[η]との積の対数を固定した時に、式(A)の値の対数が大きいことは、上記(iii)に起因すること、すなわち海島構造においてゴム部の分散性が優れることを意味する。
【0039】
図2は、要件(4)におけるln(式(A))とln(α)との関係を示しており、中央の四角形で囲まれた領域が、要件(4)を満たす範囲である。ln(α)の係数は、後述する実施例等に基づいて決定されたものである。Dsolの量およびDsolの極限粘度[η]は、それぞれゴム部の割合(以下「ゴム量」とも記載する。)およびゴム部の極限粘度[η](以下「ゴム[η]」とも記載する。)に対応しており、Dsolの量とDsolの極限粘度[η]との積αは、ゴム部の割合とゴム部の極限粘度[η]との積(以下「ゴム量×ゴム[η]」とも記載する。)に対応している。
【0040】
ゴム量とゴム[η]との関係には、大きく分けて、
1.ゴム量が少なく、ゴム[η]が大きい
2.ゴム量が少なく、ゴム[η]が小さい
3.ゴム量が多く、ゴム[η]が大きい
4.ゴム量が多く、ゴム[η]が小さい
の4つのパターンが存在する。
【0041】
ゴム量の範囲は0~100質量%であるのに対し、ゴム[η]の範囲は0~10dl/g程度であることから、ゴム量とゴム[η]との積(以下「ゴム量×ゴム[η]」とも記載する。)は、ゴム[η]の変化よりもゴム量の変化により大きく影響される。
【0042】
ゴム量に対応するDsolの量、およびゴム[η]に対応するDsolの極限粘度[η]が要件(1)を満たさない場合には、ln(α)とln(式(A))との関係は以下のように変化すると考えられる。
【0043】
1.ゴム量が少なく、かつゴム[η]が大きい場合:
ゴム量が少ないためln(α)が小さくなるものの、ゴム[η]大きいためln(式(A))は大きくなると考えられる(図2中の領域(1))。
【0044】
2.ゴム量が少なく、かつゴム[η]が小さすぎる場合:
ln(α)が小さくなるとともにln(式(A))も小さくなると考えられる。(図2中の領域(2))。
【0045】
3.ゴム量が多く、かつゴム[η]が大きすぎる場合:
ln(α)が大きくなるとともにln(式(A))も大きくなると考えられる。(図2中の領域(3))。
【0046】
4.ゴム量が多く、かつゴム[η]が小さい場合:
ゴム量が多いためln(α)は大きくなるものの、ゴム[η]が小さいため、ln(式(A))は小さくなると考えられる(図2中の領域(4))。
【0047】
プロピレン系ブロック共重合体の自動車材として利用を考えた場合、図2中の領域(1)~(4)のプロピレン系ブロック共重合体には、下記のような問題が生じると想定される。
【0048】
領域(1):
ゴム量が少ないため、衝撃性が低下する恐れがある。また、ゴム量が少なくゴム[η]が大きいため、ゴム[η]が大きい成分の分散性が悪くなり、そのためブツなどが生じやすくなり、面衝撃性が悪化するおそれがある。
領域(2):
ln(α)が小さく、ゴム量、ゴム[η]とも小さいため、衝撃性が低いおそれがある

領域(3):
ゴム量、ゴム[η]とも大きいので、流動性が低くなり、成形性が不良となるおそれがある。
領域(4):
後述する比較例A1の重合体混合物およびその調整に用いた共重合体が領域(4)に属する。領域(4)のプロピレン系ブロック共重合体は、比較例と同様に、剛性と耐衝撃性とのバランスが劣る恐れがある。
【0049】
比較例について詳述すると、後述する重合体製造例1および2で製造された重合体(共重合槽単段のプロピレン系共重合体)は、高分子量成分を含まないため、ln(式(A))の値が本発明のプロピレン系ブロック共重合体の値よりも低くなることから、領域(4)に属する。
【0050】
比較例A1の重合体混合物(重合体製造例1および2で製造された重合体の押出機溶融ブレンド品)は、高分子量成分を含むものの、その分散性が本発明のプロピレン系ブロック共重合体よりも劣る。これにより、海島構造の島相であるゴム部の表面積が小さくなり、海相であるホモPP部との摩擦が小さくなることでln(式(A))の値が本発明のプロピレン系ブロック共重合体よりも小さく低くなると考えられ、比較例A1のような重合体混合物は領域(4)(または領域(2))に存在する。
【0051】
一方、図2中央の四角形の領域のプロピレン系ブロック共重合体、すなわち要件(4)を満たす本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、領域(1)~(4)で生じる上述の問題がない、あるいは抑制されることから、特に自動車材として利用するのに適している。
【0052】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、好ましくは下記式(B')を、より好ましくは下記式(B")を満たす。
5.88×ln(α)-20.8<ln(式(A))<5.88×ln(α)-17.8 …(B')
5.88×ln(α)-20.5<ln(式(A))<5.88×ln(α)-18.1 …(B")
【0053】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、好ましくは下記式(C')を、より好ましくは下記式(C")を満たす。
3≦ln(式(A))≦6 …(C')
4≦ln(式(A))≦5.5 …(C")
【0054】
要件(4)を満たすプロピレン系ブロック共重合体は、たとえば後述する製造方法のように、ゴム部を、エチレン含量が高く極限粘度[η]が小さいゴム部を製造する工程と、エチレン含量が低く極限粘度[η]が大きいゴム部を製造する工程との2段階に分けて連続的に重合をすることにより、製造することができる。
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、好ましくは以下の要件(5)を満たす。
【0055】
(要件(5))
要件(5)は、前記Dinsol13C-NMRにより測定されるメソペンタッド分率(mmmm分率)が96.0~99.9%である、というものである。測定条件等の詳細は、後述する実施例の欄に記載のとおりである。メソペンタッド分率(mmmm分率)は、好ましくは97.0~99.9%である。
要件(5)が満たされるとホモPP部の立体規則性が高いことから結晶化の際に結晶化度が高くなるので、プロピレン系ブロック共重合体は高剛性となる。
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、好ましくは以下の要件(6)を満たす。
【0056】
(要件(6))
要件(6)は、前記Dinsolのメルトフローレート(MFR)(230℃、荷重2.16kg)が50~1000g/10分である、というものである。このMFRは、好ましくは80~800g/10分、より好ましくは100~500g/10分である。
要件(6)が満たされると、本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、射出成型する際に流動性に優れる。
また、本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、バイオマス由来プロピレンに由来する構成単位および/またはバイオマス由来エチレンに由来する構成単位を含んでいてもよい。重合体を構成するモノマー(プロピレンおよび/またはエチレン)がバイオマス由来モノマー(プロピレンおよび/またはエチレン)のみでもよいし、化石燃料由来モノマー(プロピレンおよび/またはエチレン)のみでもよいし、バイオマス由来モノマー(プロピレンおよび/またはエチレン)と化石燃料由来モノマー(プロピレンおよび/またはエチレン)の両方を含んでもよい。バイオマス由来プロピレンおよびバイオマス由来エチレンは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む、植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣を原料としてなるモノマーであり、炭素として14C同位体を1×10-12程度の割合で含有し、ASTM D6866に準拠して測定したバイオマス炭素濃度(pMC)が100(pMC)程度である。バイオマス由来プロピレン、バイオマス由来エチレンは、たとえば従来から知られている方法により得られる。
本発明のプロピレン系ブロック共重合体がバイオマス由来プロピレンに由来する構成単位および/またはバイオマス由来エチレンに由来する構成単位を含むことは環境負荷低減の観点から好ましい。重合用触媒、重合温度などの重合体製造条件が同等であれば、原料プロピレンがバイオマス由来プロピレン、および/またはバイオマス由来エチレンを含むプロピレン系ブロック共重合体であっても、14C同位体を1×10-12程度の割合で含む以外の分子構造は化石燃料由来プロピレン、化石燃料由来エチレンからなるプロピレン・エチレンブロック重合体と同等である。従って、性能もこれらと変わらないとされる。
【0057】
[プロピレン系ブロック共重合体の製造方法]
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、たとえば
プロピレン系重合体成分(1)を製造する工程(1)、
前記プロピレン系重合体成分(1)の存在下でプロピレン系共重合体成分(2A)を製造する工程(2A)、および
前記プロピレン系重合体成分(1)およびプロピレン系共重合体成分(2A)の存在下でプロピレン系共重合体成分(2B)を製造する工程(2B)
をこの順序で含み、以下に説明する要件(i)~(iv)を満たす製造方法により、製造することができる。
【0058】
(要件(i))
要件(i)は、プロピレン系共重合体成分(2A)またはプロピレン系共重合体成分(2B)の一方が、エチレン由来の構成単位の含有量(以下「エチレン含量」とも記載する。各共重合体成分中の構成単位の全量を100mol%とする。)が40~80mol%であり、135℃テトラリン中で測定される極限粘度[η]が1.5~4.0dl/gである成分である、というものである。
エチレン含量は、好ましくは45~70mol%であり、より好ましくは50~60mol%である。
また、極限粘度[η]は、好ましくは2.0~4.0dl/gであり、より好ましくは2.0~3.5dl/gである。
要件(i)は、2つのプロピレン系共重合体成分のうち、好ましくはプロピレン系共重合体成分(2A)が満たす。
【0059】
(要件(ii))
要件(ii)は、プロピレン系共重合体成分(2A)またはプロピレン系共重合体成分(2B)の他方が、エチレン含量が30~50mol%であり、135℃テトラリン中で測定される極限粘度[η]が5.0~10dl/gである成分である、というものである。
エチレン含量は、好ましくは35~50mol%であり、より好ましくは35~48mol%である。
また、極限粘度[η]は、好ましくは6.0~10dl/gであり、より好ましくは7.0~10dl/gである。
要件(ii)は、2つのプロピレン系共重合体成分のうち、好ましくはプロピレン系共重合体成分(2B)が満たす。
【0060】
(要件(iii))
要件(iii)は、プロピレン系共重合体成分(2A)の、プロピレン系共重合体成分(2B)に対する質量比(すなわち、成分(2A)の質量/成分(2B)の質量。以下「質量比(iii)」とも記載する。)が10/1~1/1である、というものである。
質量比(iii)は8/1~2/1であり、より好ましくは6/1~2/1である。
質量比(iii)が上記上限値を上回ると剛性と耐衝撃性のバランスが劣るおそれがあり、上記下限値を下回ると流動性が低くなり成形不良になるおそれがある。
【0061】
(要件(iv))
要件(iv)は、プロピレン系重合体成分(1)の、プロピレン系共重合体成分(2A)およびプロピレン系共重合体成分(2B)に対する質量比(すなわち、成分(1)の質量/成分(2A)および成分(2B)の合計の質量。以下「質量比(iv)」とも記載する。)が10/1~1/1である、というものである。
質量比(iv)は、好ましくは8/1~1/1であり、より好ましくは6/1~2/1である。
質量比(iv)が上記上限値を上回ると衝撃性が低くなるおそれがあり、上記下限値を下回ると流動性が低くなり、成形不良になるおそれがある。
【0062】
<工程(1)、(2A)および(2B)>
上述した工程(1)、(2A)および(2B)では、通常は、メタロセン化合物含有触媒存在下、またはチーグラーナッタ触媒存在下で、好ましくはチーグラーナッタ触媒存在下で、プロピレンの単独重合、またはプロピレンおよびエチレンの共重合が実施される。
チーグラーナッタ触媒存在下で重合を行うと、分子量分布が広く成形性が良好なプロピレン系ブロック共重合体が得られ易い。
【0063】
(メタロセン化合物含有触媒)
前記メタロセン化合物含有触媒としては、メタロセン化合物、並びに、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物およびメタロセン化合物と反応してイオン対を形成することのできる化合物から選ばれる少なくとも1種以上の化合物、さらに必要に応じて粒子状担体とからなるメタロセン触媒を挙げることができ、好ましくはアイソタクチック等の立体規則性重合をすることのできるメタロセン触媒を挙げることができる。前記メタロセン化合物の中では、国際公開第01/27124号に例示されている架橋性メタロセン化合物、国際公開第2010/74001号の[0068]~[0076]に記載のメタロセン化合物などが好ましい。また、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、および遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物、さらには必要に応じて用いられる粒子状担体としては、国際公開第01/27124号、特開平11-315109号公報等に開示された化合物を制限無く使用することができる。
【0064】
(チーグラーナッタ触媒)
プロピレン系ブロック共重合体は、高立体規則性チーグラーナッタ触媒を用いることにより製造することができる。前記高立体規則性チーグラーナッタ触媒としては、公知の種々の触媒が使用できる。たとえば、(a)マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を含有する固体状チタン触媒成分と、(b)有機金属化合物触媒成分と、(c)シクロペンチル基、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基およびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する有機ケイ素化合物触媒成分とからなる触媒を用いることができ、この触媒成分は公知の方法、たとえば国際公開第2010/74001号の[0078]~[0094]に記載の方法で製造することができる。
【0065】
上記のような固体状チタン触媒成分(a)、有機金属化合物触媒成分(b)、および有機ケイ素化合物触媒成分(c)からなる触媒を用いてプロピレンの重合を行うに際して、予め予備重合を行うこともできる。予備重合は、固体状チタン触媒成分(a)、有機金属化合物触媒成分(b)、および必要に応じて有機ケイ素化合物触媒成分(c)の存在下に、オレフィンを重合させる。
【0066】
予備重合するオレフィンとしては、炭素数2~8のα-オレフィンを用いることができる。具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテンなどの直鎖状のオレフィン;3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセンなどの分岐構造を有するオレフィン等を用いることができる。これらは共重合させてもよい。
【0067】
予備重合は、固体状チタン触媒成分(a)1g当り0.1~1000g程度、好ましくは0.3~500g程度の重合体が生成するように行うことが望ましい。予備重合量が多すぎると、本重合における(共)重合体の生成効率が低下することがある。予備重合では、本重合における系内の触媒濃度よりもかなり高い濃度で触媒を用いることができる。
【0068】
本重合の際には、固体状チタン触媒成分(a)(または予備重合触媒)を重合容積1L当りチタン原子に換算して約0.0001~50ミリモル、好ましくは約0.001~10ミリモルの量で用いることが望ましい。有機金属化合物触媒成分(b)は、金属原子の量に換算して、重合系中のチタン原子1モルに対して約1~2000モル、好ましくは約2~500モル程度の量で用いることが望ましい。有機ケイ素化合物触媒成分(c)は、有機金属化合物触媒成分(b)の金属原子1モル当り約0.001~50モル、好ましくは約0.01~20モル程度の量で用いることが望ましい。
【0069】
重合は、気相重合法あるいは溶液重合法、懸濁重合法などの液相重合法いずれで行ってもよく、工程(1)、工程(2A)および工程(2B)を別々の方法で行ってもよい。また連続式、半連続式のいずれの方式で行ってもよく、前記各工程を複数の重合器たとえば2~10器の重合器に分けて行ってもよい。工業的には連続式の方法で重合することが最も好ましい。
【0070】
重合媒体として、不活性炭化水素類を用いてもよく、また液状のプロピレンを重合媒体としてもよい。また各段の重合条件は、重合温度が約-50~+200℃、好ましくは約20~100℃の範囲で、また重合圧力が常圧~10MPa(ゲージ圧)、好ましくは約0.2~5MPa(ゲージ圧)の範囲内で適宜選択される。
【0071】
本発明の製造方法においては、たとえば、3つ以上の重合器を直列につなげた反応装置で、工程(1)、工程(2A)および工程(2B))を連続的に実施する。2つ以上の反応機を直列に連結した重合装置を用いそれぞれの重合装置で工程(1)を行ってもよく、また二つ以上の反応機を直列に連結した重合装置を用いそれぞれの重合装置で工程(2A)を行ってもよく、二つ以上の反応機を直列に連結した重合装置を用いそれぞれの重合装置で工程(2B)を行ってもよい。
【0072】
工程(1)は、重合温度0~100℃、重合圧力常圧~5MPaゲージ圧で、プロピレンと任意にエチレンとを重合させる工程であって、エチレンを供給しないか、またはプロピレンのフィード量に比べて少量のエチレンを供給することによって、Dinsolの主成分となるプロピレン系重合体成分(1)を製造する工程である。また、必要に応じて水素ガスに代表される連鎖移動剤も導入し、工程(1)で生成されるプロピレン系重合体成分(1)の極限粘度[η]を調整してもよい。
【0073】
工程(2A)は、重合温度0~100℃、重合圧力常圧~5MPaゲージ圧で、プロピレン系重合体成分(1)の存在下でプロピレンとエチレンとを共重合させる工程であって、プロピレンのフィード量に対するエチレンのフィード量の割合を工程(1)のときよりも大きくすることによって、Dsolの主成分となるプロピレン-エチレン共重合ゴムのうちプロピレン系共重合体成分(2A)を製造する工程である。また、必要に応じて水素ガスに代表される連鎖移動剤も導入し、プロピレン系共重合体成分(2A)の極限粘度[η]を調整してもよい。
【0074】
工程(2B)は、重合温度0~100℃、重合圧力常圧~5MPaゲージ圧で、工程(1)で製造されたプロピレン系重合体成分(1)および工程(2A)で製造されたプロピレン系共重合体成分(2A)の存在下でプロピレンとエチレンとを共重合させる工程であり、Dsolの主成分となるプロピレン-エチレン共重合ゴムのうちプロピレン系共重合体成分(2B)を製造する工程である。
【0075】
要件(i)または(ii)におけるエチレン含量は、それぞれ工程(2A)または工程(2B)を行う際のプロピレンフィード量に対するエチレンフィード量の割合を調整することにより調整できる。つまり、このフィード量の割合を大きくすることにより、エチレン含量を大きくすることができ、このフィード量の割合を小さくすることにより、エチレン含量を小さくすることができる。
【0076】
要件(i)または(ii)における極限粘度[η]は、それぞれ工程(2A)または工程(2B)を行う際に連鎖移動剤として用いる水素ガスのフィード量により調整できる。つまり、モノマー(すなわち、プロピレンおよびエチレン)のフィード量に対する水素ガスのフィード量の割合を大きくすることにより極限粘度[η]を小さくすることができ、モノマーのフィード量に対する水素ガスのフィード量の割合を小さくすることにより極限粘度[η]を大きくすることができる。
【0077】
要件(iii)におけるプロピレン系共重合体成分(2A)の、プロピレン系共重合体成分(2B)の対する質量比(iii)は、たとえば、各工程の重合時間を調整することによりすることにより、調整することが出来る。つまり、全重合時間に占める工程(2A)の重合時間の割合を高めることで、質量比(iii)を大きくすることができる。また、全重合時間に占める工程(2B)の重合時間の割合を高めることで、質量比(iii)を小さくすることができる。
【0078】
要件(iv)におけるプロピレン系重合体成分(1)の、プロピレン系共重合体成分(2A)およびプロピレン系共重合体成分(2B)の対する質量比(iv)は、たとえば、各工程の重合時間を調整することにより、調整することが出来る。つまり、全重合時間に占める工程(1)の重合時間の割合を高めることで、質量比(iv)を大きくすることができる。また、全重合時間に占める工程(2A)および工程(2B)の重合時間の割合を高めることで、質量比(iv)を小さくすることができる。
【0079】
要件(v)、すなわちプロピレン系ブロック共重合体のMFRは、工程(1)~工程(2B)を行う際のモノマー(すなわち、プロピレンの単独重合の場合にはプロピレンを、共重合の場合にはプロピレンおよびエチレン)のフィード量に対する連鎖移動剤としての水素ガスのフィード量の割合を調整することにより調整できる。すなわち、この割合を大きくすることでMFRを高くすることができ、この割合を小さくすることでMFRを低くすることができる。
【0080】
要件(v)、すなわちプロピレン系ブロック共重合体の融点は、重合に用いる触媒や外部ドナー系を調整することにより調整することができる。
重合終了後、必要に応じて公知の触媒失活処理工程、触媒残渣除去工程、乾燥工程等の後処理工程を行ってもよい。
【0081】
[プロピレン系樹脂組成物]
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、上述した本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体を含有することを特徴としている。
【0082】
(無機フィラー(F))
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、本発明のプロピレン系ブロック共重合体に加え、剛性、耐熱性の改良等の観点から、さらに無機フィラー(F)を含有してもよい。
【0083】
無機フィラー(F)としては、タルク、クレー、炭酸カルシウム、マイカ、けい酸塩類、炭酸塩類、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。これらの中では、タルク、炭酸カルシウムが好ましく、特にタルクが好ましい。
【0084】
タルクの平均粒径は、1~5μm、好ましくは1~3μmの範囲内にあることが望ましい。無機フィラー(F)は、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0085】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体と無機フィラー(F)との合計100質量部に対して、無機フィラー(F)の含有量は1~50質量部であり、好ましくは3~40質量部であり、更に好ましくは5~25質量部である。本発明のプロピレン系ブロック共重合体の含有量は、50~99質量部であり、好ましくは60~97質量部であり、更に好ましくは75質量部~95質量部である。
【0086】
(エラストマー(E))
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、本発明のプロピレン系ブロック共重合体に加え、成形収縮率の調整、塗装性の付与などの観点から、さらにエラストマー(E)を含有してもよい。
【0087】
エラストマー(E)としては、エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(E-a)、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(E-b)、水素添加ブロック共重合体(E-c)、その他弾性重合体、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0088】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体とエラストマー(E)との合計100質量部に対して、エラストマー(E)の含有量は、通常1~50質量部であり、好ましくは1~30質量部、さらに好ましくは1~15質量部である。本発明のプロピレン系ブロック共重合体の含有量は、通常50~99質量部であり、好ましくは70~99質量部であり、さらに好ましくは85~99質量部である。
【0089】
前記エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(E-a)は、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとのランダム共重合体ゴムである。上記炭素数3~20のα-オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンは、単独でまたは組み合せて用いることができる。これらの中では、特にプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましく用いられる。
【0090】
エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(E-a)は、エチレンとα-オレフィンとのモル比(エチレン/α-オレフィン)が通常95/5~70/30、好ましくは90/10~75/25であるのが望ましい。エチレン・α-オレフィンランダム共重合体(E-a)は、190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.1g/10分以上、好ましくは0.5~5g/10分であるのが望ましい。
【0091】
前記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(E-b)は、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンと非共役ポリエンとのランダム共重合体ゴムである。上記炭素数3~20のα-オレフィンとしては、前記と同じものが挙げられる。前記非共役ポリエチレンとしては、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの非環状ジエン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエンなどの鎖状の非共役ジエン;2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネンなどのトリエン等が挙げられる。これらの中では、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンが好ましく用いられる。
【0092】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(E-b)は、エチレンとα-オレフィンと非共役ポリエンとのモル比(エチレン/α-オレフィン/非共役ポリエン)が90/5/5~30/45/25、好ましくは80/10/10~40/40/20であるのが望ましい。
【0093】
エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(E-b)は、190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.05g/10分以上、好ましくは0.1~10g/10分であるものが望ましい。エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(E-b)の具体的なものとしては、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)などが挙げられる。
【0094】
前記水素添加ブロック共重合体(E-c)は、ブロックの形態が下記式(a)または(b)で表されるブロック共重合体の水素添加物であり、水素添加率が90モル%以上、好ましくは95モル%以上の水素添加ブロック共重合体である。
X(YX)n ・・・(a)
(XY)n ・・・(b)
【0095】
前記式(a)または(b)において、Xはモノビニル置換芳香族炭化水素を示し、Yは共役ジエンを示す。nは1~5の整数、好ましくは1または2である。
【0096】
前記式(a)または(b)のXで示される重合ブロックを構成するモノビニル置換芳香族炭化水素としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、クロロスチレン、低級アルキル置換スチレン、ビニルナフタレン等のスチレンまたはその誘導体などがあげられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0097】
前記式(a)または(b)のYで示される重合ブロックを構成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどがあげられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0098】
水素添加ブロック共重合体(E-c)の具体的なものとしては、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)およびスチレン・エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)等のスチレン系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0099】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、本発明のプロピレン系ブロック共重合体と共に、剛性や耐熱性および寸法精度改良、塗装性等の物性のバランスを高度にとる観点から、上述した無機フィラー(F)およびエラストマー(E)の両方を含んでいてもよい。
【0100】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体とエラストマー(E)と無機フィラー(F)との合計100質量部に対して、プロピレン系ブロック共重合体は50~98質量部、好ましくは60~98質量部、さらに好ましくは70~98質量部であり、エラストマー(E)は1~49質量部、好ましくは1~39質量部、さらに好ましくは1~29質量部であり、無機フィラー(F)は1~49質量部、好ましくは1~39質量部、さらに好ましくは1~29質量部である。
【0101】
(他の添加剤)
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、これらの成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で適宜中和剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、気泡防止剤、分散剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、架橋剤、架橋助剤等の添加剤;染料、顔料等の着色剤で例示される成分(以下「他の成分」と記載する。)を含んでいてもよい。
【0102】
本発明のプロピレン系樹脂組成物が、他の成分を含む場合には、他の成分の量は、本発明のプロピレン系ブロック共重合体100質量部に対して、合計で通常0.01~5質量部である。
【0103】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、上記の各成分を従来公知の方法、たとえば各成分を混練機で溶融混練することにより、製造することができる。
【0104】
[成形体]
本発明の成形体は、上述した本発明のプロピレン系ブロック共重合体または本発明のプロピレン系樹脂組成物から形成された成形体である。
【0105】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体または本発明のプロピレン系樹脂組成物を成形する方法としては、従来公知の方法、たとえば射出成形、押出成形、中空成形、フィルム成形、シート成形、発泡成形、射出発泡成形、延伸成形、射出延伸ブロー成形、真空成形、プレス成形が挙げられる。
【0106】
本発明の成形体は、インストルメンタルパネルやドアパネル等の自動車内装材、バンパーやフェンダー等の自動車外装材、その他剛性と衝撃性のバランスを必要とする部材に対して好ましく用いることができる。また、家電部品、食品容器、医療容器など様々な分野にも好適に用いることができる。
【実施例0107】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0108】
(測定方法および評価方法)
(1)重合体または重合体混合物:
[MFR]
ASTM D-1238(測定温度230℃、荷重2.16kg)に従って、メルトフローレート(MFR)を測定した。
【0109】
[極限粘度[η]]
試料約25mgをテトラリン25mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このテトラリン溶液にテトラリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求め、この値を極限粘度[η]とした。
【0110】
[エチレン由来の構成単位の割合]
測定試料について、下記条件にて13C-NMRの測定を行った。
13C-NMR測定条件)
測定装置:日本電子製LA400型核磁気共鳴装置
測定モード:BCM(Bilevel Complete decoupling)
観測周波数:100.4MHz
観測範囲:17006.8Hz
パルス幅:C核45°(7.8μ秒)
パルス繰り返し時間:5秒
試料管:5mmφ
試料管回転数:12Hz
積算回数:20000回
測定温度:125℃
溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン:0.35ml/重ベンゼン:0.2ml
試料量:約40mg
【0111】
測定で得られたスペクトルより、下記文献(1)に準じて、モノマー連鎖分布(トリアッド(3連子)分布)の比率を決定し、測定試料中のエチレン由来の構成単位のモル分率(mol%)(以下E(mol%)と記す)およびプロピレン由来の構成単位のモル分率(mol%)(以下P(mol%)と記す)を算出した。求められたE(mol%)およびP(mol%)から下記(式1)に従い、測定試料中のエチレン由来の構成単位の割合(質量%)(以下E(質量%)と記す。)を算出した。
【0112】
文献(1):Kakugo,M.; Naito,Y.; Mizunuma,K.; Miyatake,T., Carbon-13 NMR determination of monomer sequence distribution in ethylene-propylene copolymers preparedwith delta-titanium trichloride-diethylaluminum chloride. Macromolecules 1982, 15, (4), 1150-1152
E(質量%)=E(mol%)×28×100/[P(mol%)×42+E(mol%)×28](式1)
【0113】
[融点]
JIS K7121に従って、示差走査熱量計(DSC、パーキンエルマー社製(Diamond DSC))を用いて、下記条件下で測定を行い、第3stepにおける吸熱ピークの頂点における温度を融点(Tm)と定義した。吸熱ピークが複数ある場合は最大吸熱ピーク頂点における温度を融点(Tm)と定義する。
【0114】
(測定条件)
雰囲気:窒素ガス雰囲気
サンプル量:5mg
サンプル形状:プレスフィルム(230℃成形、厚み200~400μm)
第1step:30℃より速度10℃/分で240℃まで昇温し、10分間保持する。
第2step:10℃/分で60℃まで降温する。
第3step:10℃/分で240℃まで昇温する。
【0115】
[メソペンタッド分率(mmmm分率)]
重合体の立体規則性の指標の1つであり、そのミクロタクティシティーを調べたメソペンタッド分率(mmmm分率,%)は、プロピレン単独重合体においてA.ZambelliらのMacromolecules 8,687(1975)に基づいて帰属により定められた値であり、13C-NMRにより、下記条件で測定し、メソペンタッド分率=(21.7ppmでのピーク面積)/(19~23ppmでのピーク面積)×100とした。
【0116】
(測定条件)
装置:ブルカー・イオスピン製
AVANCE III cryo-500型核磁気共鳴装置
測定核:13C(125MHz)
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:45°(5.00マイクロ秒)
繰り返し時間:5.5秒
積算回数:256回
測定溶媒:o-ジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20体積%)混合溶媒
試料濃度:50mg/0.6mL
測定温度:120℃
ケミカルシフト基準:21.59ppm
【0117】
[粘弾性特性]
試料4gをΦ45mm×2mmのスペーサーを用いて下記条件で圧縮成形したサンプルを用いて粘弾性測定を実施した。
【0118】
圧縮成形機:(株)神藤金属工業所製 SFA-20H/C
成形温度:210℃
冷却温度:30℃
余熱時間:180秒
一次加圧時間:10秒、ガス抜き回数:7回
二次加圧時間:60秒、成形圧力:100kgf/cm2
冷却時間:180秒、冷却圧力:100kgf/cm2
【0119】
式(A)は測定温度200℃における貯蔵弾性率(G')の角速度〔ω(rad/秒)〕を0.0101≦ω≦101の範囲で測定することにより決定した。測定には、アントンパールジャパン社製レオメーターMCR301を用い、サンプルホルダーとしてパラレルプレートを用い、サンプル厚みを約1.0mmとした。測定点はω一桁当たり5点とした。歪み量は、測定範囲でのトルクが検出可能で、かつトルクオーバーにならないよう、3~10%の範囲で適宜選択した。
【0120】
[D insol の割合およびD sol の割合]
試料5gにn-デカン200mlを加え、145℃で、30分間加熱溶解を行い、溶液(1)を得た。
次に約2時間かけて、溶液(1)を23℃まで冷却し、23℃で30分間放置し、析出物(α)を含む溶液(2)を得た。その後、溶液(2)から析出物(α)を目開き約15μmの濾布でろ別し、析出物(α)を乾燥させた後、析出物(α)の質量を測定した。析出物(α)の質量をサンプル質量(5g)で除したものを、23℃n-デカン不溶部(Dinsol)の割合とした。
【0121】
また、析出物(α)をろ別した溶液(2)を、溶液(2)の約3倍量のアセトン中に入れ、n-デカン中に溶解していた成分を析出させ、析出物(β)を得た。その後、析出物(β)をガラスフィルター(G2、目開き約100~160μm)でろ別し、乾燥させた後、析出物(β)の質量を測定した。析出物(β)の質量をサンプル質量(5g)で除したものを23℃n-デカン可溶部(Dsol)の割合とした。
【0122】
(2)成形体の評価:
[曲げ弾性率]
JIS K7171に準拠して、実施例のプロピレン系ブロック共重合体および比較例の重合体混合物からそれぞれ試験片を作製し、下記の条件で曲げ弾性率を測定した。
【0123】
《測定条件》
試験片:10mm(幅)×80mm(長さ)×4.0mm(厚さ)
曲げ速度:2mm/分
曲げスパン:64mm
【0124】
[シャルピー衝撃強さ]
JIS K7111に準拠して、実施例のプロピレン系ブロック共重合体および比較例の重合体混合物からそれぞれ試験片を作製し、下記の条件でノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。
【0125】
《測定条件》
温度:-30℃および23℃
試験片:10mm(幅)×80mm(長さ)×4mm(厚さ)
ノッチは機械加工である。
【0126】
[高速面衝撃試験]
-30℃において、5m/sの速度で先端径1/2インチのロードセル付き撃芯を厚み3mmの角板の試験片に衝突させた。試験片の裏面には受け台として先端径(受け径)3インチの台を使用した。これにより、試験片の全吸収エネルギー(J)を求めた。
【0127】
[スパイラルフロー]
厚さ3mm、幅10mmのスパイラル上の流路を持つ樹脂流動長測定用金型を用いた。
下記のスパイラルフロー測定射出成形条件で測定した。
射出成形機:J110AD、(株)日本製鋼所製
シリンダー温度:230℃
金型温度:40℃
射出時間:10秒(保圧設定無し)
【0128】
[製造例1]
(固体状チタン触媒成分)
特開2020-114909号公報の製造例3における<固体状チタン触媒成分(i-1)>の調製に従って、チタン1.3重量%、マグネシウム20重量%、ジイソブチルフタレート13.8重量%、ジエチルフタレート0.8重量%を含有する固体状チタン触媒成分を得た。
【0129】
[製造例2]
(予備重合触媒の調製)
製造例1で合成した固体状チタン触媒成分112.0g、トリエチルアルミニウム83.0mL、ジエチルアミノトリエトキシシラン23.6mL、およびヘプタン10Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15~20℃に保ちプロピレンを672g挿入し、120分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去及びヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた予備重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体状チタン触媒成分の濃度が0.7g/Lとなるよう、ヘプタンの添加による調整を行った。この予備重合触媒は、1g当りポリプロピレンを6g含んでいた。
【0130】
[実施例A1]
(プロピレン系ブロック共重合体(A-1)の製造)
<工程(1)>
内容量1000Lの撹拌機付きベッセル第1重合器に、プロピレンを300L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを118kg/h、予備重合触媒を固体触媒成分として1.2g/h、トリエチルアルミニウムを13.3mL/h、およびジエチルアミノトリエトキシシランを5.1mL/h、連続的に供給した。温度を73.5℃、圧力を3.39MPa-G、平均滞留時間を1.1時間として重合を行った。得られたスラリーを、内容量500Lの撹拌機付きベッセル第2重合器へ送り、更に重合を行った。第2重合器では、プロピレンを300L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを14.5kg/h、ジシクロペンタジエニルジクロロチタンを3.2g/h、水素を気相部の水素濃度が7.3mol%となるように連続的に供給した。温度を73.5℃、圧力を3.27MPa-G、平均滞留時間を1.0時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(H-1)を得た。
【0131】
<工程(2A)>
得られたホモプロピレン重合体(H-1)のスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル第3重合器へ送り、更に重合を行った。第3重合器では、プロピレンを260L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを16.9kg/h、活性調整剤としてエトキシエトキシエチルアセテートを0.28ml/h、エチレンを、プロピレン液相中に溶解しているエチレンの濃度がプロピレン1molに対して0.198molとなるように、水素を気相部の水素濃度が5.9mol%となるように連続的に供給した。温度を53.2℃、圧力を3.24MPa-G、平均滞留時間を0.75時間、気相部のエチレン濃度を29.1mol%として重合を行い、ブロック共重合体(B-1)を得た。
【0132】
<工程(2B)>
得られた共重合体(B-1)のスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル第4重合器へ送り、更に重合を行った。第4重合器では、プロピレンを260L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを52.1kg/h、ジシクロペンタジエニルジクロロチタンを35.2mg/h、エチレンを、プロピレン液相中に溶解しているエチレンの濃度がプロピレン1molに対して0.129molとなるように、水素を気相部の水素濃度が0.16mol%となるように連続的に供給して重合を行った。この時の温度は60.4℃、圧力は3.16MPa-G、平均滞留時間は0.55時間、気相部のエチレン濃度は19.7mol%であった。
【0133】
得られたスラリーについて失活、気化後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行った。これにより、プロピレン系ブロック共重合体(A-1)が得られた。
得られたホモプロピレン重合体(H-1)、ブロック共重合体(B-1)、プロピレン系ブロック共重合体(A-1)の特性は次のとおりであった。
【0134】
・ホモプロピレン重合体(H-1)
極限粘度[η]=0.78dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=240g/10分
・ブロック共重合体(B-1)
極限粘度[η]=1.04dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=127g/10分
エチレン含量=13.0質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=16.7重量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=53.6mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=2.1dl/g
・プロピレン系ブロック共重合体(A-1)
極限粘度[η]=1.39dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=54g/10分
エチレン含量=15.4質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=19.3重量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=52.3mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=3.3dl/g
【0135】
これらの特性に基づいて決定されたプロピレン系ブロック共重合体(A-1)等の物性を表1に示す。なお、プロピレン系重合体成分(1)は23℃n-デカン不溶部であり、プロピレン系共重合体成分(2A)および(2B)は23℃n-デカン可溶部であるものとみなした。
【0136】
[実施例A2]
(プロピレン系ブロック共重合体(A-2)の製造)
<工程(1)>
内容量1000Lの撹拌機付きベッセル第1重合器に、プロピレンを300L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを118kg/h、予備重合触媒を固体触媒成分として1.2g/h、トリエチルアルミニウムを17mL/h、ジエチルアミノトリエトキシシランを6.8mL/h、および水素を気相部の水素濃度が7.5mol%となるように660NL/h、連続的に供給した。温度を73℃、圧力を3.5MPa-G、平均滞留時間を1.1時間として重合を行った。
【0137】
得られたスラリーを、内容量500Lの撹拌機付きベッセル第2重合器へ送り、更に重合を行った。第2重合器では、プロピレンを300L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを15kg/h、ジシクロペンタジエニルジクロロチタンを3.2g/h、水素を気相部の水素濃度が8.1mol%となるように350NL/h、連続的に供給した。温度を73℃、圧力を3.4MPa-G、平均滞留時間を1.0時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(H-2)を得た。
【0138】
<工程(2A)>
得られたホモプロピレン重合体(H-2)のスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル第3重合器へ送り、更に重合を行った。第3重合器では、プロピレンを260L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを17kg/h、活性調整剤としてエトキシエトキシエチルアセテートを0.46ml/h、エチレンを19kg/h、水素を気相部の水素濃度が6.0mol%となるように380NL/h、連続的に供給した。温度を53℃、圧力を3.2MPa-G、平均滞留時間を0.75時間、気相部のエチレン濃度を29.0mol%として重合を行い、ブロック共重合体(B-2)を得た。
【0139】
<工程(2B)>
得られた共重合体スラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル第4重合器へ送り、更に重合を行った。第4重合器では、プロピレンを260L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを52kg/h、ジシクロペンタジエニルジクロロチタンを25mg/h、エチレンを0.49kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.17mol%となるように23NL/h、連続的に供給して重合を行った。この時の温度は60℃、圧力は3.2MPa-G、平均滞留時間は0.55時間、気相部のエチレン濃度は19.2mol%であった。
【0140】
得られたスラリーについて失活、気化後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行った。これにより、プロピレン系ブロック共重合体(A-2)が得られた。
得られたホモプロピレン重合体(H-2)、ブロック共重合体(B-2)、プロピレン系ブロック共重合体(A-2)の特性は次のとおりであった。
【0141】
・ホモプロピレン重合体(H-2)
極限粘度[η]=0.78dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=250g/10分
メソペンタッド分率(mmmm分率)=98.1mol%
・ブロック共重合体(B-2)
極限粘度[η]=0.89dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=162g/10分
エチレン含量=10.1質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=11.5質量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=54mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=2.0dl/g
・プロピレン系ブロック共重合体(A-2)
極限粘度[η]=1.23dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=95g/10分
エチレン含量=11.8質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=14質量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=52mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=2.8dl/g
【0142】
これらの特性に基づいて決定されたプロピレン系ブロック共重合体(A-2)等の特性を表1に示す。なお、プロピレン系重合体成分(1)は23℃n-デカン不溶部であり、プロピレン系共重合体成分(2A)および(2B)は23℃n-デカン可溶部であるものとみなした。
【0143】
[実施例A3]
(プロピレン系ブロック共重合体(A-3)の製造)
<工程(1)>
内容量1000Lの撹拌機付きベッセル第1重合器に、プロピレンを300L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを118kg/h、予備重合触媒を固体触媒成分として1.2g/h、トリエチルアルミニウムを17mL/h、ジエチルアミノトリエトキシシランを6.8mL/h、および水素を気相部の水素濃度が7.1mol%となるように641NL/h、連続的に供給した。温度を73℃、圧力を3.5MPa-G、平均滞留時間を1.1時間として重合を行った。
【0144】
得られたスラリーを、内容量500Lの撹拌機付きベッセル第2重合器へ送り、更に重合を行った。第2重合器では、プロピレンを300L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを15kg/h、ジシクロペンタジエニルジクロロチタンを3.1g/h、水素を気相部の水素濃度が8.9mol%となるように345NL/h、連続的に供給した。温度を73℃、圧力を3.4MPa-G、平均滞留時間を1.0時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(H-3)を得た。
【0145】
<工程(2A)>
得られたホモプロピレン重合体(H-3)のスラリーを内容量500Lの撹拌機付きベッセル第3重合器へ送り、更に重合を行った。第3重合器では、プロピレンを260L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを17kg/h、活性調整剤としてエトキシエトキシエチルアセテートを0.40ml/h、エチレンを20kg/h、水素を気相部の水素濃度が5.9mol%となるように300NL/h、連続的に供給した。温度を53℃、圧力を3.2MPa-G、平均滞留時間を0.74時間、気相部のエチレン濃度を28.9mol%として重合を行い、ブロック共重合体(B-3)を得た。
【0146】
<工程(2B)>
得られた共重合体スラリーは内容量500Lの撹拌機付きベッセル第4重合器へ送り、更に重合を行った。第4重合器では、プロピレンを260L装入し、この液位を保ちながら、プロピレンを52kg/h、ジシクロペンタジエニルジクロロチタンを25mg/h、エチレンを0.59kg/h、水素を気相部の水素濃度が0.20mol%となるように24NL/h、連続的に供給して重合を行った。この時の温度は60℃、圧力は3.2MPa-G、平均滞留時間は0.55時間、気相部のエチレン濃度は20.0mol%であった。
【0147】
得られたスラリーについて失活、気化後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行った。これにより、プロピレン系ブロック共重合体(A-3)が得られた。
得られたホモプロピレン重合体(H-3)、ブロック共重合体(B-3)、プロピレン系ブロック共重合体(A-3)の特性は次のとおりであった。
【0148】
・ホモプロピレン重合体(H-3)
極限粘度[η]=0.78dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=240g/10分
メソペンタッド分率(mmmm分率)=98.1mol%
・ブロック共重合体(B-3)
極限粘度[η]=0.89dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=144g/10分
エチレン含量=11.6質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=14.1重量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=54mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=2.1dl/g
・プロピレン系ブロック共重合体(A-3)
極限粘度[η]=1.10dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=76g/10分
エチレン含量=13.5質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=17重量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=53mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=3.1dl/g
【0149】
これらの特性に基づいて決定されたプロピレン系ブロック共重合体(A-3)等の特性を表1に示す。なお、プロピレン系重合体成分(1)は23℃n-デカン不溶部であり、プロピレン系共重合体成分(2A)および(2B)は23℃n-デカン可溶部であるものとみなした。
【0150】
[重合体製造例1]
(ブレンド用重合体(ブロック共重合体(a-1))の製造)
内容量8Lの管型重合器に、プロピレンを20kg/h、水素を0.5NL/h、予備重合触媒を固体触媒成分あたり0.38g/h、トリエチルアルミニウムを2.1mL/h、およびジエチルアミノトリエトキシシランを1.6mL/h連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は16℃であり、圧力は3.6MPa-Gであった。
【0151】
得られたスラリーは、内容量58Lの管型重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へはプロピレンを23kg/hおよび水素を172NL/h連続的に供給し、温度は70℃、圧力は3.6MPa-G、平均滞留時間は0.61時間であった。得られたスラリーは内容量70Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/h、水素を気相部の水素濃度が9.6mol%になるように水素を連続的に供給した。温度を68.0℃、圧力を3.2MPa-G、平均滞留時間は0.35時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(h-1)を得た。
【0152】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、移送管内にて、活性調整剤(アトマー163、クローダジャパン(株)製)を1.83g/h、付着防止剤(L-71(商品名)、(株)ADEKA製)を0.51g/h供給し、スラリーと接触させた。接触させたスラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にパウダー量が12.4kgとなるようにホモプロピレン重合体(h-1)のパウダーを送り、その後、気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.3295(モル比)、水素/エチレン=0.1460(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給し、温度を70℃、圧力を1.2MPa-G、滞留時間を0.68時間として、重合を行った。
【0153】
その後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行い、ブロック共重合体(a-1)を得た。得られたホモプロピレン(h-1)、ブロック共重合体(a-1)の特性は次のとおりであった。
【0154】
・ホモプロピレン重合体(h-1)
極限粘度[η]=0.74dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=252g/10分
メソペンタッド分率(mmmm分率)=98.2mol%
・ブロック共重合体(a-1)
極限粘度[η]=0.94dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=90g/10分
エチレン含量=15.1質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=19.5質量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=53mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=2.1dl/g
【0155】
[重合体製造例2]
(ブレンド用重合体(ブロック共重合体(a-2))の製造)
内容量8Lの管型重合器に、プロピレンを20kg/h、水素を0.5NL/h、予備重合触媒を固体触媒成分あたり0.30g/h、トリエチルアルミニウムを1.7mL/h、およびジエチルアミノトリエトキシシランを1.3mL/h、連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は16℃であり、圧力は3.2MPa-Gであった。得られたスラリーは、内容量58Lの管型重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へはプロピレンを23kg/h、水素を172NL/hを連続的に供給し、温度は63℃、圧力は3.2MPa-G、平均滞留時間は0.60時間であった。
【0156】
得られたスラリーは内容量70Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/h、水素を気相部の水素濃度が9.5mol%になるように水素を連続的に供給した。温度を62.0℃、圧力を2.8MPa-G、平均滞留時間を0.35時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(h-2)を得た。
【0157】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、移送管内にて、付着防止剤(L-71(商品名)、(株)ADEKA製)を0.32g/hを供給し、スラリーと接触させた。接触させたスラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にパウダー量が20.6kgとなるようにホモプロピレン重合体(h-2)のパウダーを送り、その後、気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.1465(モル比)、水素/エチレン=0.0030(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度を75℃、圧力を1.6MPa-G、滞留時間を1.42時間として、重合を行った。
【0158】
その後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行い、ブロック共重合体(a-2)を得た。得られたホモプロピレン重合体(h-2)、ブロック共重合体(a-2)の特性は次のとおりであった。
【0159】
・ホモプロピレン重合体(h-2)
極限粘度[η]=0.77dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=250g/10分
メソペンタッド分率(mmmm分率)=98.2mol%
・ブロック共重合体(a-2)
極限粘度[η]=4.06dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=0.8g/10分
エチレン含量=23.8質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=39.7質量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=45mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=8.0dl/g
【0160】
[重合体製造例3]
(ブレンド用重合体(ブロック共重合体(a-3))の製造)
内容量8Lの管型重合器に、プロピレンを20kg/h、水素を1.0NL/h、予備重合触媒を固体触媒成分あたり0.39g/h、トリエチルアルミニウムを2.2mL/h、およびジエチルアミノトリエトキシシランを1.7mL/h連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は20℃であり、圧力は3.5MPa-Gであった。
【0161】
得られたスラリーは、内容量58Lの管型重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へはプロピレンを23kg/h、および水素を176NL/h連続的に供給し、温度は70℃、圧力は3.5MPa-G、平均滞留時間は0.60時間であった。
【0162】
得られたスラリーは内容量70Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/h、水素を気相部の水素濃度が9.6mol%になるように382NL/h、連続的に供給した。温度を67℃、圧力を3.1MPa-G、平均滞留時間は0.36時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(h-3)を得た。
【0163】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、移送管内にて、付着防止剤(L-71(商品名)、(株)ADEKA製)を0.60g/h供給し、スラリーと接触させた。接触させたスラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にパウダー量が10kgとなるようにホモプロピレン重合体(h-3)のパウダーを送り、その後、気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.321(モル比)、水素/エチレン=0.168(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給し、温度を70℃、圧力を1.2MPa-G、滞留時間を0.56時間として、重合を行った。
【0164】
その後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行い、ブロック共重合体(a-3)を得た。得られたホモプロピレン(h-3)、ブロック共重合体(a-3)の特性は次のとおりであった。
【0165】
・ホモプロピレン重合体(h-3)
極限粘度[η]=0.74dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=252g/10分
メソペンタッド分率(mmmm分率)=98.2mol%
・ブロック共重合体(a-3)
極限粘度[η]=0.92dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=137g/10分
エチレン含量=11.3質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=15.9質量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=53mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=2.1dl/g
【0166】
[重合体製造例4]
(ブレンド用重合体(ブロック共重合体(a-4))の製造)
内容量58Lの管型重合器に、プロピレンを23kg/h、予備重合触媒を固体触媒成分あたり0.30g/h、トリエチルアルミニウムを1.6mL/h、およびジエチルアミノトリエトキシシランを1.2mL/h、および水素を246NL/h、連続的に供給し、温度は63℃、圧力は3.5MPa-G、平均滞留時間は0.60時間であった。
【0167】
得られたスラリーは内容量70Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/h、水素を気相部の水素濃度が15mol%になるように515NL/h、連続的に供給した。温度を62℃、圧力を3.1MPa-G、平均滞留時間は0.35時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(h-4)を得た。
【0168】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、移送管内にて、付着防止剤(L-71(商品名)、(株)ADEKA製)を0.32g/h供給し、スラリーと接触させた。接触させたスラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にパウダー量が24kgとなるようにホモプロピレン重合体(h-4)のパウダーを送り、その後、気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.115(モル比)、水素/エチレン=0.00280(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給し、温度を75℃、圧力を1.6MPa-G、滞留時間を1.4時間として、重合を行った。
【0169】
その後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行い、ブロック共重合体(a-4)を得た。得られたホモプロピレン(h-4)、ブロック共重合体(a-4)の特性は次のとおりであった。
【0170】
・ホモプロピレン重合体(h-4)
極限粘度[η]=0.66dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=436g/10分
メソペンタッド分率(mmmm分率)=97.3mol%
・ブロック共重合体(a-4)
極限粘度[η]=5.28dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=1.2g/10分
エチレン含量=20.5質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=40.0質量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=40mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=7.9dl/g
【0171】
[重合体製造例5]
(ブレンド用重合体(ブロック共重合体(a-5))の製造)
内容量8Lの管型重合器に、プロピレンを20kg/h、水素を1.0NL/h、予備重合触媒を固体触媒成分あたり0.30g/h、トリエチルアルミニウムを1.7mL/h、およびジエチルアミノトリエトキシシランを1.3mL/h連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は20℃であり、圧力は3.5MPa-Gであった。
【0172】
得られたスラリーは、内容量58Lの管型重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へはプロピレンを23kg/h、および水素を172NL/h連続的に供給し、温度は63℃、圧力は3.2MPa-G、平均滞留時間は0.60時間であった。
【0173】
得られたスラリーは内容量70Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/h、水素を気相部の水素濃度が9.5mol%になるように、連続的に供給した。温度を62℃、圧力を2.8MPa-G、平均滞留時間は0.35時間として重合を行い、ホモプロピレン重合体(h-5)を得た。
【0174】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、移送管内にて、付着防止剤(L-71(商品名)、(株)ADEKA製)を0.32g/h供給し、スラリーと接触させた。接触させたスラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にパウダー量が19kgとなるようにホモプロピレン重合体(h-5)のパウダーを送り、その後、気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.166(モル比)、水素/エチレン=0.00293(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給し、温度を75℃、圧力を1.6MPa-G、滞留時間を1.3時間として、重合を行った。
【0175】
その後、気固分離を行い、80℃で真空乾燥を行い、ブロック共重合体(a-5)を得た。得られたホモプロピレン(h-5)、ブロック共重合体(a-5)の特性は次のとおりであった。
【0176】
・ホモプロピレン重合体(h-5)
極限粘度[η]=0.77dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=250g/10分
メソペンタッド分率(mmmm分率)=98.2mol%
・ブロック共重合体(a-5)
極限粘度[η]=4.15dl/g
MFR(2.16kg荷重、230℃)=0.80g/10分
エチレン含量=26.2質量%
23℃n-デカン可溶部の割合=39.5質量%
23℃n-デカン可溶部のエチレン含量=46mol%
23℃n-デカン可溶部の極限粘度[η]=8.1dl/g
【0177】
[比較例A1]
(重合体混合物(A'-1)の製造)
重合体製造例1で製造したブロック共重合体(a-1)を83質量部、重合体製造例2で製造したブロック共重合体(a-2)を7.8質量部、ホモプロピレン重合体(プライムポリプロ(登録商標)J137G(商品名)、(株)プライムポリマー製)を9.2質量部、ステアリン酸カルシウム(日油(株)製)を0.1質量部、および酸化防止剤としてIRGANOX(登録商標)1010(BASFジャパン(株)製)を0.1質量部、IRGAFOS168(BASFジャパン(株)製)を0.1質量部、H-BHT(本州化学工業(株))を0.1質量部配合してタンブラーミキサーにてドライブレンドした。その後、二軸押出機(ナカタニ機械(株)製:NR-II、同方向回転2軸押出機)により、バレル温度(混練温度)190℃、スクリュー回転速度200rpm、押出し量20kg/hの条件で溶融混練して、重合体混合物(A'-1)を得た。重合体混合物(A'-1)の物性を表1に示す。
【0178】
[比較例A2]
(重合体混合物(A'-2)の製造)
ブロック共重合体(a-1)およびブロック共重合体(a-2)に替えて、重合体製造例3で製造したブロック共重合体(a-3)を75質量部、および重合体製造例4で製造したブロック共重合体(a-4)を5.4質量部配合し、ホモプロピレン重合体(プライムポリプロJ137G)の配合量を19.6質量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして、重合体混合物(A'-2)を得た。重合体混合物(A'-2)の物性を表1に示す。
【0179】
[比較例A3]
(重合体混合物(A'-3)の製造)
ブロック共重合体(a-1)およびブロック共重合体(a-2)に替えて、重合体製造例5で製造したブロック共重合体(a-3)を88.3質量部、および重合体製造例5で製造したブロック共重合体(a-5)を6質量部配合し、ホモプロピレン重合体(プライムポリプロJ137G)の配合量を5.7質量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして、重合体混合物(A'-3)を得た。重合体混合物(A'-3)の物性を表1に示す。
【0180】
【表1】
【0181】
(組成物の製造)
[実施例B1]
実施例A1で製造されたプロピレン系ブロック共重合体(A-1)を62質量部、エチレン・1-ブテン共重合体(タフマー(登録商標)A-1050S(商品名)、三井化学(株)製)を17質量部、タルク(JM-209(商品名)、浅田製粉(株)製)を21質量部、ステアリン酸カルシウム(日油(株)製)を0.1質量部、および酸化防止剤としてIRGANOX1010(商品名、BASFジャパン(株)製)を0.1質量部、IRGAFOS168(商品名、BASFジャパン(株)製)を0.1質量部配合してタンブラーミキサーにてドライブレンドした。その後、二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX(登録商標)30α)により、シリンダー温度180℃、スクリュー回転750rpm、押出し量60kg/hの条件で溶融混練してペレット化した。このペレットを射出成形機にて試験片に成形し、前記評価を行った。結果を表2に示す。
【0182】
[実施例B2]
プロピレン系ブロック共重合体(A-1)の量を69質量部に、かつエチレン・1-ブテン共重合体の量を10質量部に変更したこと以外は実施例B1と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0183】
[実施例B3]
62質量部のプロピレン系ブロック共重合体(A-1)を61質量部のプロピレン系ブロック共重合体(A-2)に、かつエチレン・1-ブテン共重合体の量を18質量部に変更したこと以外は実施例B1と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0184】
[実施例B4]
62質量部のプロピレン系ブロック共重合体(A-1)を60質量部のプロピレン系ブロック共重合体(A-3)に、かつエチレン・1-ブテン共重合体の量を19質量部に変更したこと以外は実施例B1と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0185】
[実施例B5]
プロピレン系ブロック共重合体(A-3)の量を67質量部に、かつエチレン・1-ブテン共重合体の量を12質量部に変更したこと以外は実施例B4と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0186】
[比較例B1]
62質量部のプロピレン系ブロック共重合体(A-1)を、62質量部の重合体混合物(A'-1)に変更したこと以外は実施例B1と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0187】
[比較例B2]
重合体混合物(A'-1)の量を69質量部に、かつエチレン・1-ブテン共重合体の量を10質量部に変更したこと以外は比較例B1と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0188】
[比較例B3]
61質量部のプロピレン系ブロック共重合体(A-2)を、61質量部の重合体混合物(A'-2)に変更したこと以外は実施例B3と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0189】
[比較例B4]
60質量部のプロピレン系ブロック共重合体(A-3)を、60質量部の重合体混合物(A'-3)に変更したこと以外は実施例B4と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0190】
[比較例B5]
重合体混合物(A'-3)の量を67質量部に、かつエチレン・1-ブテン共重合体の量を12質量部に変更したこと以外は比較例B4と同様にして、組成物を製造し、評価した。評価結果を表2に示す。
【0191】
【表2】
図1
図2