(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159032
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブからなる紡績糸の製造方法及びカーボンナノチューブからなる紡績糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/16 20060101AFI20221006BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20221006BHJP
【FI】
D02G3/16
C01B32/168
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045006
(22)【出願日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021063529
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國友 晃
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和彦
(72)【発明者】
【氏名】林 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】上原 健輔
【テーマコード(参考)】
4G146
4L036
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AC03B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC21B
4G146AC22B
4G146AD40
4G146CB01
4G146CB02
4G146CB11
4L036MA04
4L036PA01
4L036PA09
4L036PA17
4L036PA26
4L036PA31
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、高強度のカーボンナノチューブからなる紡績糸を作製する手段を提供する。
【解決手段】本発明の一態様は、カーボンナノチューブからなる紡績糸の製造方法であって、以下の工程:カーボンナノチューブフォレストから複数のカーボンナノチューブを引き出し、複数のカーボンナノチューブにカーボンナノチューブフォレストの幅1 cmあたり6 mN以下の張力を印加しながら該複数のカーボンナノチューブを紡績し、カーボンナノチューブからなる紡績糸前駆体αを作製する、紡績糸前駆体α作製工程;紡績糸前駆体αに対して、紡績糸前駆体α作製工程よりも高い張力を印加して、紡績糸前駆体αを緻密化させた紡績糸前駆体βを作製する、紡績糸前駆体β作製工程;紡績糸前駆体βに対して、張力を印加しながら通電加熱を行って、カーボンナノチューブからなる紡績糸を作製する、紡績糸作製工程;を含む、前記方法に関する。本発明の別の一態様は、カーボンナノチューブからなる紡績糸に関する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブからなる紡績糸の製造方法であって、以下の工程:
カーボンナノチューブフォレストから複数のカーボンナノチューブを引き出し、複数のカーボンナノチューブにカーボンナノチューブフォレストの幅1 cmあたり6 mN以下の張力を印加しながら該複数のカーボンナノチューブを紡績し、カーボンナノチューブからなる紡績糸前駆体αを作製する、紡績糸前駆体α作製工程;
紡績糸前駆体αに対して、紡績糸前駆体α作製工程よりも高い張力を印加して、紡績糸前駆体αを緻密化させた紡績糸前駆体βを作製する、紡績糸前駆体β作製工程;
紡績糸前駆体βに対して、張力を印加しながら通電加熱を行って、カーボンナノチューブからなる紡績糸を作製する、紡績糸作製工程;
を含む、前記方法。
【請求項2】
紡績糸前駆体β作製工程において、紡績糸前駆体αを、メタノール、エタノール、アセトン、水、パラフィン及びトルエン、並びにそれらの混合物からなる群より選択される液体と接触させながら、該紡績糸前駆体αに張力を印加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
紡績糸前駆体β作製工程において、紡績糸前駆体αに対して複数回に亘って段階的に張力を印加する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
紡績糸作製工程において、3200 K以下の温度で通電加熱を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
紡績糸作製工程において、紡績糸前駆体βに対して480 MPa未満の張力を印加しながら通電加熱を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
紡績糸作製工程で得られたカーボンナノチューブからなる紡績糸を、硫化物の塩を含む水溶液に含浸させる、架橋工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
硫化物の塩が、四硫化ナトリウム又は二硫化ナトリウムである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カーボンナノチューブからなる紡績糸であって、
ラマン分光分析により得られるスペクトルのGバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)との比(IG/ID)が5以上であり、且つ
カーボンナノチューブの少なくとも一部にグラフェンが存在する、
前記カーボンナノチューブからなる紡績糸。
【請求項9】
カーボンナノチューブ間が、ジスルフィド結合、トリスルフィド結合又はテトラスルフィド結合によって架橋されている、請求項8に記載の紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブからなる紡績糸の製造方法及びカーボンナノチューブからなる紡績糸に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記載する)は、高い機械強度、熱伝導性及び導電性を有する。また、複数のCNTを紡績して、CNTからなる紡績糸(以下、「CNT紡績糸」とも記載する)を作製することができる。CNT紡績糸もまた、高い機械強度、熱伝導性及び導電性を有することから、各種製品の材料として開発が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1は、2450℃の温度、12 ミリ秒の加熱時間(電圧パルス幅)、60 mNの張力の条件で通電加熱処理を行うことにより、結果として得られるCNT紡績糸の強度が、3.2 GPaの破断応力、123 GPaのヤング率まで向上することを記載する。
【0004】
特許文献1は、CNTフォレストを備える紡績源部材から紡績された、構造体の製造方法であって、開口基板が筒状であるCNTフォレストの開放部側の端全体を紡ぎ出し可能部とし、前記紡ぎ出し可能部から前記CNTを引き出して紡績する紡績工程を備えている、互いに交絡した複数のカーボンナノチューブを備えており、内側面および外側面を有する筒状のウェブ状の構造体の製造方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Songら, Nanoscale 11, 13909-13917 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、CNT紡績糸を作製する方法が開発されている。しかしながら、従来技術の方法にはいくつかの課題が存在した。例えば、CNTフォレストから引き出した複数のCNTを紡績して得られるCNT紡績糸の場合、CNTバンドル間のファンデルワールス力によって紡績されるため、通常は0.7 g/cm3程度の密度となる。この程度の密度のCNT紡績糸の場合、強度が不十分となる可能性がある。CNT紡績糸の強度向上には、張力の印加による緻密化、及び加熱による非晶質カーボンからグラフェンへの構造変化が有効であることが知られている。しかしながら、前記密度のCNT紡績糸の場合、通電加熱処理の温度及び印加する張力を高くすると、高温での張力印加に耐えられず紡績糸が破断するという問題が存在した。他方、CNT紡績糸の破断を回避するために極短時間で通電加熱処理を行うと、CNT紡績糸の破断は回避し得るものの、非晶質カーボンからグラフェンへの構造変化が不十分となり、強度の向上も不十分となるという問題が存在した。
【0008】
それ故、本発明は、高強度のCNT紡績糸を作製する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、CNT紡績糸を通電加熱処理する前に、CNT紡績糸が破断しない範囲で予備的に高い張力を印加してCNT紡績糸を緻密化することにより、通電加熱処理の温度及び印加する張力を従来技術の方法より高くすることができることを見出した。本発明者らは、前記手順でCNT紡績糸を作製することにより、結果として得られるCNT紡績糸は、高い結晶性及び高い強度を有することを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) カーボンナノチューブからなる紡績糸の製造方法であって、以下の工程:
カーボンナノチューブフォレストから複数のカーボンナノチューブを引き出し、複数のカーボンナノチューブにカーボンナノチューブフォレストの幅1 cmあたり6 mN以下の張力を印加しながら該複数のカーボンナノチューブを紡績し、カーボンナノチューブからなる紡績糸前駆体αを作製する、紡績糸前駆体α作製工程;
紡績糸前駆体αに対して、紡績糸前駆体α作製工程よりも高い張力を印加して、紡績糸前駆体αを緻密化させた紡績糸前駆体βを作製する、紡績糸前駆体β作製工程;
紡績糸前駆体βに対して、張力を印加しながら通電加熱を行って、カーボンナノチューブからなる紡績糸を作製する、紡績糸作製工程;
を含む、前記方法。
(2) 紡績糸前駆体β作製工程において、紡績糸前駆体αを、メタノール、エタノール、アセトン、水、パラフィン及びトルエン、並びにそれらの混合物からなる群より選択される液体と接触させながら、該紡績糸前駆体αに張力を印加する、前記実施形態(1)に記載の方法。
(3) 紡績糸前駆体β作製工程において、紡績糸前駆体αに対して複数回に亘って段階的に張力を印加する、前記実施形態(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 紡績糸作製工程において、3200 K以下の温度で通電加熱を行う、前記実施形態(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 紡績糸作製工程において、紡績糸前駆体βに対して480 MPa未満の張力を印加しながら通電加熱を行う、前記実施形態(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 紡績糸作製工程で得られたカーボンナノチューブからなる紡績糸を、硫化物の塩を含む水溶液に含浸させる、架橋工程をさらに含む、前記実施形態(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 硫化物の塩が、四硫化ナトリウム又は二硫化ナトリウムである、前記実施形態(6)に記載の方法。
(8) カーボンナノチューブからなる紡績糸であって、
ラマン分光分析により得られるスペクトルのGバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)との比(IG/ID)が5以上であり、且つ
カーボンナノチューブの少なくとも一部にグラフェンが存在する、
前記カーボンナノチューブからなる紡績糸。
(9) カーボンナノチューブ間が、ジスルフィド結合、トリスルフィド結合又はテトラスルフィド結合によって架橋されている、前記実施形態(8)に記載の紡績糸。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高強度のCNT紡績糸を作製する手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、試験I-4において、異なる荷重で張力を印加しながら紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで通電加熱を行わずに紡績糸作製工程を実施することによって得られたCNT紡績糸のヤング率を示す。図中、横軸は、紡績糸前駆体β作製工程における荷重(mN)であり、縦軸は、ヤング率(GPa)である。図中の値は、3回の試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【
図2】
図2は、試験I-4において、異なる荷重で張力を印加しながら紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで通電加熱を行わずに紡績糸作製工程を実施することによって得られたCNT紡績糸の破断応力を示す。図中、横軸は、紡績糸前駆体β作製工程における荷重(mN)であり、縦軸は、破断応力(GPa)である。図中の値は、3回の試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【
図3】
図3は、試験I-4において、異なる荷重で張力を印加しながら紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで通電加熱を行わずに紡績糸作製工程を実施することによって得られたCNT紡績糸の密度を示す。図中、横軸は、紡績糸前駆体β作製工程における荷重(mN)であり、縦軸は、密度(g/cm
3)である。図中の値は、6箇所の断面積測定値から得られた試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【
図4】
図4は、試験II-1において、種々の処理条件で得られたCNT紡績糸の密度を示す。図中、横軸は、紡績糸作製工程における処理条件(張力及び通電加熱の温度)であり、縦軸は、密度(g/cm
3)である。また、白抜きの棒は、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合の結果であり、黒塗りの棒は、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合の結果である。図中の値は、6箇所の断面積測定値から得られた試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【
図5】
図5は、試験II-2において、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の1000~2000 cm
-1の範囲のラマンスペクトルを示す。図中、横軸は、ラマンシフト(cm
-1)であり、縦軸は、ラマン散乱光の強度(a.u.)である。
【
図6】
図6は、試験II-2において、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の2200~3400 cm
-1の範囲のラマンスペクトルを示す。図中、横軸は、ラマンシフト(cm
-1)であり、縦軸は、ラマン散乱光の強度(a.u.)である。
【
図7】
図7は、試験II-2において、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の2200~3400 cm
-1の範囲のラマンスペクトルを示す。図中、Aは、非処理対照のCNT紡績糸及び2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸のラマンスペクトルであり、Bは、非処理対照のCNT紡績糸及び3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸のラマンスペクトルである。図中、横軸は、ラマンシフト(cm
-1)であり、縦軸は、ラマン散乱光の強度(a.u.)である。
【
図8】
図8は、試験II-3において、CNT紡績糸を透過型電子顕微鏡で観察した画像を示す。図中、Aは、非処理対照のCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像であり、Bは、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像であり、Cは、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像であり、Dは、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像である。図中、スケールバーは、10 nmである。
【
図9】
図9は、試験II-4において、紡績糸作製工程における通電加熱の温度と結果として得られるCNT紡績糸のヤング率との関係を示す。図中、横軸は、紡績糸作製工程における通電加熱の温度(K)であり、縦軸は、CNT紡績糸のヤング率(GPa)である。また、図中の点線は、荷重なし又はありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した非処理対照のCNT紡績糸のヤング率を示す。図中の値は、3回の試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【
図10】
図10は、試験II-4において、紡績糸作製工程における通電加熱の温度と結果として得られるCNT紡績糸の破断応力との関係を示す。図中、横軸は、紡績糸作製工程における通電加熱の温度(K)であり、縦軸は、CNT紡績糸の破断応力(GPa)である。また、図中の点線は、荷重なし又はありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した非処理対照のCNT紡績糸の破断応力を示す。図中の値は、3回の試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【
図11】
図11は、試験III-2において、架橋工程を含む方法で得られたCNT紡績糸の表面を走査型電子顕微鏡で観察した画像を示す。図中、Aは、架橋工程において2時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Bは、架橋工程において24時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Cは、架橋工程において48時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像である。図中、スケールバーは、10 μmである。
【
図12】
図12は、試験III-2において、架橋工程を含む方法で得られたCNT紡績糸の直径及び密度を示す。図中、Aは、CNT紡績糸の直径を示すグラフであり、Bは、CNT紡績糸の密度を示すグラフである。横軸は、架橋工程における含浸時間であり、縦軸は、CNT紡績糸の直径(μm)又は密度(g/cm
3)である。
【
図13】
図13は、試験III-3において、架橋工程を含む方法で得られたCNT紡績糸の断面を走査型電子顕微鏡で観察した画像を示す。図中、Aは、架橋工程において2時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Bは、架橋工程において24時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Cは、架橋工程において48時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像である。画像中の点は、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いてマッピングされた、CNT紡績糸の断面に存在する硫黄原子を示す。
【
図14】
図14は、試験III-3において、EDSを用いて定量した、架橋工程を含む方法で得られたCNT紡績糸の断面に存在する硫黄原子の定量結果を示す。図中、Aは、CNT紡績糸の断面に存在する原子の総数に対する硫黄原子数の百分率を示すグラフであり、Bは、CNT紡績糸の断面に存在する原子の総質量に対する硫黄原子質量の百分率を示すグラフである。横軸は、架橋工程における含浸時間であり、縦軸は、硫黄原子数の百分率(%)又は硫黄原子質量の百分率(%)である。
【
図15】
図15は、試験III-4において、架橋工程を含む方法で得られたCNT紡績糸の応力ひずみ曲線を示す。図中、横軸は、ひずみ率(%)であり、縦軸は、CNT紡績糸の破断応力(GPa)である。
【
図16】
図16は、試験III-5において、架橋工程を含む方法で得られたCNT紡績糸の応力ひずみ曲線を示す。図中、横軸は、ひずみ率(%)であり、縦軸は、CNT紡績糸の破断応力(GPa)である。
【
図17】
図17は、試験III-5において、架橋工程を含む方法で得られたCNT紡績糸の応力ひずみ曲線を示す。図中、横軸は、ひずみ率(%)であり、縦軸は、CNT紡績糸の破断応力(GPa)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0014】
<1. カーボンナノチューブからなる紡績糸の製造方法>
本発明者らは、CNTからなる紡績糸(CNT紡績糸)を通電加熱処理する前に、CNT紡績糸が破断しない範囲で予備的に高い張力を印加してCNT紡績糸を緻密化することにより、通電加熱処理の温度及び印加する張力を従来技術の方法より高くすることができることを見出した。本発明者らは、前記手順でCNT紡績糸を作製することにより、結果として得られるCNT紡績糸は、高い結晶性及び高い強度を有することを見出した。それ故、本発明の一態様は、CNTからなる紡績糸の製造方法に関する。
【0015】
本発明の各態様において、CNTは、グラファイトの単層面が筒状の構造を有するカーボン材料を意味する。通常は、1層の筒状の構造を有するCNTを単層CNTと、2層以上の筒状の構造を有するCNTを多層CNTと、それぞれ分類する。本発明の各態様に適用されるCNTは、単層CNT及び多層CNTのいずれであってもよい。
【0016】
本態様の方法は、紡績糸前駆体α作製工程、紡績糸前駆体β作製工程及び紡績糸作製工程を少なくとも含む。以下、各工程について詳細に説明する。
【0017】
[1-1. CNTフォレスト準備工程]
本態様の方法は、CNTフォレストを準備する、CNTフォレスト準備工程を含んでもよい。
【0018】
本発明の各態様において、CNTフォレストは、複数のCNTが、長軸方向の少なくとも一部について一定の方向に配向された構造を有するCNTの集合体を意味する。
【0019】
本工程において準備されるCNTフォレストの形状及び寸法は、特に限定されず、任意の形状及び寸法であればよい。CNTフォレストは、例えば、一辺が5~1000 mmの範囲、好ましくは10~40 mmの範囲の長さを有する四角形の形状である。
【0020】
本工程において準備されるCNTフォレストは、当該技術分野で公知の様々な方法によって調製することができる。CNTフォレストは、例えば、金属製基板の表面に成長核となる触媒粒子を配置して、反応炉中で炭素を含有する原料ガスを該基板の表面に接触させることにより、形成することができる。本工程において、CNTフォレストは、当該技術分野で公知の様々な方法によって自ら準備してもよく、購入等して準備してもよい。
【0021】
[1-2. 紡績糸前駆体α作製工程]
本工程は、CNTフォレストから複数のCNTを引き出し、複数のCNTに張力を印加しながら該複数のCNTを紡績し、CNTからなる紡績糸前駆体α(以下、「CNT紡績糸前駆体α」とも記載する)を作製することを含む。
【0022】
本工程において、CNTフォレストから複数のCNTを引き出す手段としては、当該技術分野で通常使用される各種の手段を使用することができる。例えば、CNTフォレスト基板の上面に、複数のブレードを有するコーミング用ブレードを配置して、ブレードの間から複数のCNTからなるCNTウェブを引き出せばよい。本実施形態の場合、コーミング用ブレードは、3個以上のブレードを有することが好ましい。
【0023】
本工程において、形成されたCNT紡績糸前駆体αは、回転体の周面に巻き付けることによって回収される。回転体は、例えば、ボビン又はローラーである。CNT紡績糸前駆体αを回転体の周面に巻き付けることにより、所望の引出速度でCNTフォレストから複数のCNTを引き出すとともに、所望の張力を複数のCNTに印加することができる。
【0024】
本工程において、CNTフォレストから複数のCNTを引き出す引出速度は、100~1000 mm/分の範囲であることが好ましく、200~500 mm/分の範囲であることがより好ましい。
【0025】
本工程において、CNTフォレストを所定の回転速度で回転させることにより、複数のCNTを紡績することが好ましい。本実施形態の場合、CNTフォレストの回転速度は、2000 rpm未満であることが好ましく、100~1000 rpmの範囲であることがより好ましく、200~500 rpmの範囲であることがさらに好ましい。また、CNTフォレストの回転速度/複数のCNTの引出速度の比は、0.25 rev/mm超且つ25 rev/mm未満の範囲であることが好ましい。
【0026】
本工程において、複数のCNTに印加する張力は、通常は、CNTフォレストの幅1 cmあたり6 mN以下である。複数のCNTに印加する張力は、CNTフォレストの幅1 cmあたり0.1~6 mNの範囲であることが好ましく、CNTフォレストの幅1 cmあたり0.3~3 mNの範囲であることがより好ましく、CNTフォレストの幅1 cmあたり0.3~1 mNの範囲であることがさらに好ましい。例えば、CNTフォレストが前記で例示した形状及び寸法を有する場合、複数のCNTに印加する張力は、通常は、10 mN(複数のCNTに対して30 MPa)以下であり、0.15~10 mNの範囲であることが好ましく、0.5~5 mN(複数のCNTに対して1.6~16 MPa)の範囲であることがより好ましく、0.5~2 mN(複数のCNTに対して1.6~6.4 MPa)の範囲であることがさらに好ましい。張力が前記下限値未満である場合、結果として得られるCNT紡績糸前駆体αの密度が低くなる可能性がある。また、張力が前記上限値を超える場合、CNTが破断してCNT紡績糸前駆体αを得られない可能性がある。それ故、前記範囲の張力を複数のCNTに印加しながら本工程を実施することにより、高い密度のCNT紡績糸前駆体αを得ることができる。
【0027】
本工程において、張力は、通常は、CNTフォレストから引き出された複数のCNTに対して、テンショニングロッド、スライダーシステム又はモーター等を用いて荷重を付与することにより、印加することができる。
【0028】
本工程において、CNTフォレストから引き出された複数のCNTを液体と接触させながら、該複数のCNTに張力を印加することが好ましい。本実施形態の場合、液体は、メタノール、エタノール、アセトン、水、パラフィン及びトルエン、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることが好ましく、メタノール、エタノール、アセトン及び水、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることがより好ましい。前記液体は、金属塩類(例えば、塩化鉄、又は塩化ニッケル)又は金属酸化物(例えば、酸化鉄)等の1種以上のさらなる成分を含んでもよい。特に好ましくは、前記液体は、メタノール、エタノール、アセトン又は水である。本実施形態において、複数のCNTを液体と接触させる手段としては、限定するものではないが、例えば、複数のCNTを液体に含浸させる、複数のCNTに液体を噴霧する、複数のCNTに液体を滴下する、及び複数のCNTに液体の蒸気を曝露する等を挙げることができる。複数のCNTを液体に含浸させることにより、複数のCNTを液体と接触させることが好ましい。本実施形態の場合、液体と接触させた複数のCNTを、室温又はそれ以上の温度で乾燥させることが好ましい。前記手段で複数のCNTを液体と接触させることにより、液体の気化による凝集力を利用して複数のCNTを凝集させて、結果として得られるCNT紡績糸前駆体αの密度を向上させることができる。
【0029】
本工程において形成されるCNT紡績糸前駆体αの撚り角は、通常は、約4°である。CNT紡績糸前駆体αの密度は、通常は、0.7 g/cm3未満である。CNT紡績糸前駆体αのヤング率は、通常は、100 GPa未満である。また、CNT紡績糸前駆体αの破断応力は、通常は、1.4 GPa未満である。前記性質を有するCNT紡績糸前駆体αを以下の工程で用いることにより、本態様の方法において高い強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0030】
[1-3. 紡績糸前駆体β作製工程]
本工程は、紡績糸前駆体αに対して、紡績糸前駆体α作製工程よりも高い張力を印加して、紡績糸前駆体αを緻密化させた紡績糸前駆体βを作製することを含む。本工程は、紡績糸作製工程において紡績糸前駆体βを通電加熱処理する前に、紡績糸前駆体αが破断しない範囲で予備的に高い張力を印加して、紡績糸前駆体αを緻密化させることを目的とする。
【0031】
本工程は、例えば、紡績糸前駆体α作製工程で得られた紡績糸前駆体αを、回転体の周面から引き出し、張力を印加することによって実施することができる。形成された紡績糸前駆体βは、回転体の周面に巻き付けることによって回収される。回転体は、例えば、ボビン又はローラーである。紡績糸前駆体βを回転体の周面に巻き付けることにより、所望の引出速度で紡績糸前駆体αを引き出すとともに、所望の張力を紡績糸前駆体αに印加することができる。
【0032】
本工程において、紡績糸前駆体αを引き出す引出速度は、4000 mm/分未満であることが好ましく、1000~3000 mm/分の範囲であることがより好ましい。
【0033】
本工程において、紡績糸前駆体αに印加する張力は、紡績糸前駆体α作製工程よりも高い。紡績糸前駆体αに印加する張力は、例えば、150 mN(紡績糸前駆体αに対して480 MPa)未満であり、0.5~120 mN(紡績糸前駆体αに対して1.6~380 MPa)の範囲であることが好ましく、1~100 mN(紡績糸前駆体αに対して3~300 MPa)の範囲であることがより好ましい。張力が前記下限値未満である場合、結果として得られるCNT紡績糸前駆体βの密度が低くなる可能性がある。また、張力が前記上限値を超える場合、紡績糸前駆体αが破断してCNT紡績糸前駆体βを得られない可能性がある。それ故、前記範囲の張力を紡績糸前駆体αに印加しながら本工程を実施することにより、紡績糸前駆体αを緻密化して、高い密度のCNT紡績糸前駆体βを得ることができる。また、それにより、高い強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0034】
本工程において、紡績糸前駆体αに対して複数回に亘って段階的に張力を印加することが好ましい。本実施形態の場合、紡績糸前駆体α作製工程と実質的に同じ張力から段階的に張力を増加させて、紡績糸前駆体αに対して複数回に亘って繰り返し段階的に張力を印加すればよい。この場合、張力印加の繰り返し回数は、2回以上であることが好ましく、2~5回の範囲であることがより好ましく、3回であることがさらに好ましい。また、1回目に印加する張力は、0.5~10 mN(紡績糸前駆体αに対して1.6~30 MPa)の範囲であることが好ましく、1~10 mN(紡績糸前駆体αに対して3~30 MPa)の範囲であることがより好ましい。最終段階に印加する張力は、10~120 mN(紡績糸前駆体αに対して30~380 MPa)の範囲であることが好ましく、20~100 mN(紡績糸前駆体αに対して64~300 MPa)の範囲であることがより好ましく、50~100 mN(紡績糸前駆体αに対して160~300 MPa)の範囲であることがさらに好ましい。特定の実施形態において、紡績糸前駆体αに対して、1 mN、50 mN又は100 mN(紡績糸前駆体αに対して3 MPa、160 MPa又は300 MPa)の順に張力を増加させて、3回に亘って繰り返し段階的に張力を印加することが好ましい。繰り返し回数が前記下限値未満の場合、及び1回目に印加する張力が前記上限値を超える場合、張力が急激に増加し、紡績糸前駆体αが破断してCNT紡績糸前駆体βを得られない可能性がある。また、繰り返し回数が前記上限値を超える場合、処理時間が長くなり、本態様の方法のコストが増大する可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、紡績糸前駆体αを緻密化して、安定して高い密度のCNT紡績糸前駆体βを得ることができる。また、それにより、高い強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0035】
本工程において、張力は、通常は、回転体の周面から引き出された紡績糸前駆体αに対して、テンショニングロッド、スライダーシステム又はモーター等を用いて荷重を付与することにより、印加することができる。
【0036】
本工程において、紡績糸前駆体αを液体と接触させながら、該紡績糸前駆体αに張力を印加することが好ましい。本実施形態の場合、液体は、メタノール、エタノール、アセトン、水、パラフィン及びトルエン、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることが好ましく、メタノール、エタノール、アセトン及び水、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることがより好ましい。前記液体は、金属塩類(例えば、塩化鉄、又は塩化ニッケル)又は金属酸化物(例えば、酸化鉄)等の1種以上のさらなる成分を含んでもよい。特に好ましくは、前記液体は、メタノール、エタノール、アセトン又は水である。本実施形態において、紡績糸前駆体αを液体と接触させる手段としては、限定するものではないが、例えば、紡績糸前駆体αを液体に含浸させる、紡績糸前駆体αに液体を噴霧する、紡績糸前駆体αに液体を滴下する、及び紡績糸前駆体αに液体の蒸気を曝露する等を挙げることができる。紡績糸前駆体αを液体に含浸させることにより、紡績糸前駆体αを液体と接触させることが好ましい。本実施形態の場合、液体と接触させた紡績糸前駆体αを、室温又はそれ以上の温度で乾燥させることが好ましい。前記手段で紡績糸前駆体αを液体と接触させることにより、液体の気化による凝集力を利用して複数のCNTを凝集させて、結果として得られるCNT紡績糸前駆体βの密度を向上させることができる。
【0037】
前記条件で本工程を実施することにより、紡績糸前駆体αを緻密化して、安定して高い密度のCNT紡績糸前駆体βを得ることができる。本工程において形成される紡績糸前駆体βの密度は、通常は、1.0 g/cm3以上であり、例えば、1.0~1.2 g/cm3の範囲である。CNT紡績糸前駆体βのヤング率は、通常は100 GPa以上であり、例えば、100~150 GPaの範囲である。また、CNT紡績糸前駆体βの破断応力は、通常は、1.4 GPa以上であり、例えば、1.4~2 GPaの範囲である。前記性質を有する紡績糸前駆体βを以下の工程で用いることにより、本態様の方法において高い強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0038】
[1-4. 紡績糸作製工程]
本工程は、紡績糸前駆体βに対して、張力を印加しながら通電加熱を行って、カーボンナノチューブからなる紡績糸を作製することを含む。
【0039】
本工程は、例えば、紡績糸前駆体β作製工程で得られた紡績糸前駆体βを、回転体の周面から引き出し、張力を印加しながら通電加熱処理することによって実施することができる。形成されたCNT紡績糸は、回転体の周面に巻き付けることによって回収される。回転体は、例えば、ボビン又はローラーである。CNT紡績糸を回転体の周面に巻き付けることにより、所望の引出速度で紡績糸前駆体αを引き出すとともに、所望の張力を紡績糸前駆体αに印加することができる。
【0040】
本工程において、紡績糸前駆体αを引き出す引出速度は、60超且つ6000 mm/分の範囲であることが好ましく、100~1000 mm/分の範囲であることがより好ましく、100~600 mm/分の範囲であることがさらに好ましい。
【0041】
本工程において、紡績糸前駆体βに印加する張力は、紡績糸前駆体β作製工程と同一又はそれ以上であればよい。紡績糸前駆体βに印加する張力は、例えば、150 mN(紡績糸前駆体βに対して480 MPa)未満であり、0.5~120 mN(紡績糸前駆体βに対して1.6~380 MPa)の範囲であることが好ましく、1~100 mN(紡績糸前駆体βに対して3~300 MPa)の範囲であることがより好ましい。張力が前記下限値未満である場合、結果として得られるCNT紡績糸の密度が低くなる可能性がある。また、張力が前記上限値を超える場合、紡績糸前駆体βが破断してCNT紡績糸を得られない可能性がある。それ故、前記範囲の張力を紡績糸前駆体βに印加しながら本工程を実施することにより、紡績糸前駆体βを緻密化して、高い密度のCNT紡績糸を得ることができる。また、それにより、高い強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0042】
本工程において、張力は、通常は、回転体の周面から引き出された紡績糸前駆体βに対して、テンショニングロッド、スライダーシステム又はモーター等を用いて荷重を付与することにより、印加することができる。
【0043】
本工程において、紡績糸前駆体βに対して通電加熱を行う手段は特に限定されず、当該技術分野で通常使用される各種の手段を適用することができる。本工程は、例えば、不活性ガス(例えば、アルゴン等のガス)雰囲気下で、ヒーター(例えば、クオーツヒーター等)を用いて実施してもよく、張力印加機構を備える超高温加熱可能な雰囲気炉を用いて実施してもよい。本実施形態の場合、ヒーターの電極間距離は、1~50 mmの範囲であることが好ましく、1~10 mmの範囲であることがより好ましい。
【0044】
本工程において、通電加熱の温度は、3200 K以下であることが好ましく、室温を超える温度且つ3200 K以下の範囲であることがより好ましく、1000~3200 Kの範囲であることがさらに好ましく、2000~3000 Kの範囲であることが特に好ましい。通電加熱の温度が前記下限値未満の場合、紡績糸前駆体βに含まれるCNTにおける非晶質カーボンのグラフェン化が十分に進行しない可能性がある。また、通電加熱の温度が前記上限値を超える場合、紡績糸前駆体βが破断してCNT紡績糸を得られない可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、紡績糸前駆体βに含まれるCNTにおける非晶質カーボンの少なくとも一部をグラフェン化して、高い強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0045】
本工程において、通電加熱の時間は、0.1超且つ10秒間未満の範囲であることが好ましく、0.5~10秒間の範囲であることがより好ましく、0.5~1秒間の範囲であることがさらに好ましい。通電加熱の時間が前記下限値未満の場合、紡績糸前駆体βに含まれるCNTにおける非晶質カーボンのグラフェン化が十分に進行しない可能性がある。また、通電加熱の時間が前記上限値を超える場合、紡績糸前駆体βが破断してCNT紡績糸を得られない可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、紡績糸前駆体βに含まれるCNTにおける非晶質カーボンの少なくとも一部をグラフェン化して、高い強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0046】
本工程において、紡績糸前駆体βを液体と接触させながら、該紡績糸前駆体βに張力を印加することが好ましい。本実施形態の場合、液体は、メタノール、エタノール、アセトン、水、パラフィン及びトルエン、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることが好ましく、メタノール、エタノール、アセトン、水及びパラフィン、並びにそれらの混合物からなる群より選択されることがより好ましい。前記液体は、金属塩類(例えば、塩化鉄、又は塩化ニッケル)又は金属酸化物(例えば、酸化鉄)等の1種以上のさらなる成分を含んでもよい。特に好ましくは、前記液体は、メタノール、エタノール、アセトン、水、パラフィン又は塩化鉄エタノール溶液である。本実施形態において、紡績糸前駆体βを液体と接触させる手段としては、限定するものではないが、例えば、紡績糸前駆体βを液体に含浸させる、紡績糸前駆体βに液体を噴霧する、紡績糸前駆体βに液体を滴下する、及び紡績糸前駆体βに液体の蒸気を曝露する等を挙げることができる。紡績糸前駆体βを液体に含浸させることにより、紡績糸前駆体βを液体と接触させることが好ましい。本実施形態の場合、液体と接触させた紡績糸前駆体βを、室温又はそれ以上の温度で乾燥させることが好ましい。前記手段で紡績糸前駆体βを液体と接触させることにより、液体の気化による凝集力を利用して複数のCNTを凝集させて、結果として得られるCNT紡績糸の密度を向上させることができる。
【0047】
前記条件で本工程を実施することにより、紡績糸前駆体βを緻密化し、且つ/又は紡績糸前駆体βに含まれる非晶質カーボンの少なくとも一部をグラフェン化して、高い密度及び強度のCNT紡績糸を得ることができる。
【0048】
[1-5. 架橋工程]
本態様の方法は、紡績糸作製工程で得られたカーボンナノチューブからなる紡績糸を、硫化物の塩を含む水溶液に含浸させる、架橋工程をさらに含んでもよい。
【0049】
本発明の各態様において、架橋工程で使用する硫化物の塩を「硫化剤」と記載する場合がある。CNT紡績糸を硫化剤で処理するとCNT間がジスルフィド結合によって架橋され、この架橋されたCNT紡績糸に引張力を付与すると、ジスルフィド結合が再結合を繰り返して引張強度が向上することが、シミュレーションによって予測されている(Composite Science and Technology, 2018年, 第166巻, p. 3-9)。本態様の方法において、紡績糸作製工程で得られたCNT紡績糸を、硫化剤を含む水溶液で処理することにより、CNT紡績糸を構成するCNT間がジスルフィド結合、トリスルフィド結合又はテトラスルフィド結合によって架橋されて空隙が減少し、CNT紡績糸が高密度化することが判明した。それ故、架橋工程を実施することにより、結果として得られるCNT紡績糸の密度及び強度をさらに向上させることができる。
【0050】
本工程において、硫化剤として使用される硫化物の塩は、四硫化物、三流化物又は二硫化物の塩であることが好ましく、四硫化物又は二硫化物の塩であることがより好ましく、四硫化物又は二硫化物と、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン又はマグネシウムイオンとの塩であることがさらに好ましく、四硫化ナトリウム又は二硫化ナトリウムであることが特に好ましい。硫化物の塩が四硫化物と前記で例示した対イオンとの塩、特に四硫化ナトリウムである場合、本工程を実施することにより、CNT紡績糸のひずみ耐性をより向上させることができる。また、硫化物の塩が二硫化物と前記で例示した対イオンとの塩、特に二硫化ナトリウムである場合、本工程を実施することにより、CNT紡績糸の破断応力をより向上させることができる。それ故、前記で例示した硫化物の塩を使用して本工程を実施することにより、結果として得られるCNT紡績糸の強度をさらに向上させることができる。
【0051】
本工程において、硫化物の塩の水溶液における硫化物の塩の濃度は、1 mmol/L以上であることが好ましく、1~500 mmol/Lの範囲であることがより好ましく、1~200 mmol/Lの範囲であることがさらに好ましく、1~100 mmol/Lの範囲であることが特に好ましい。硫化物の塩の濃度が前記下限値未満の場合、CNT紡績糸を構成するCNT間へのジスルフィド結合等の導入が不十分となり、結果として得られるCNT紡績糸の密度及び/又は強度の向上が不十分となる可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、結果として得られるCNT紡績糸の密度及び強度をさらに向上させることができる。
【0052】
本工程において使用する硫化物の塩の水溶液は、所望により水混和性有機溶媒等の1種以上のさらなる成分を含んでもよい。水混和性有機溶媒としては、メタノール、エタノール及びアセトン等を挙げることができる。
【0053】
本工程において、CNT紡績糸を、硫化物の塩を含む水溶液に含浸する含浸時間は、通常は1時間以上であり、2時間以上であることが好ましく、24時間以上であることがより好ましく、48時間以上であることがさらに好ましい。また、含浸時間の上限は特に限定されないが、通常は72時間以下であり、例えば60時間以下であり、特に48時間以下である。含浸時間が前記下限値未満の場合、CNT紡績糸を構成するCNT間へのジスルフィド結合等の導入が不十分となり、結果として得られるCNT紡績糸の密度及び/又は強度の向上が不十分となる可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、結果として得られるCNT紡績糸の密度及び強度をさらに向上させることができる。
【0054】
本工程において、CNT紡績糸を、硫化物の塩を含む水溶液に含浸する含浸温度は、通常は室温以上であり、10℃以上であることが好ましく、10~60℃の範囲であることがより好ましい。含浸温度が前記下限値未満の場合、CNT紡績糸を構成するCNT間へのジスルフィド結合等の導入が不十分となり、結果として得られるCNT紡績糸の密度及び/又は強度の向上が不十分となる可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、結果として得られるCNT紡績糸の密度及び強度をさらに向上させることができる。
【0055】
本工程において、硫化物の塩を含む水溶液に含浸させたCNT紡績糸を乾燥させることが好ましい。本実施形態の場合、乾燥温度は、通常は室温以上であり、20℃以上であることが好ましく、20~100℃の範囲であることがより好ましい。また、乾燥時間は、通常は数分間以上であり、5分間以上且つ数日間以下であることが好ましく、5分間~1日間の範囲であることがより好ましく、5分間~1時間の範囲であることがさらに好ましい。特定の実施形態において、硫化物の塩を含む水溶液に含浸させたCNT紡績糸を、室温で1日間自然乾燥させるか、又は80℃で1時間真空乾燥させることが好ましい。含浸温度及び/又は含浸時間が前記下限値未満の場合、CNT紡績糸の乾燥が不十分となる可能性がある。それ故、前記条件で本工程を実施することにより、所望の特性を有するCNT紡績糸を得ることができる。
【0056】
本態様の方法において、前記で説明した各工程は、逐次的に実施してもよく、連続的に実施してもよい。本態様の方法において、前記で説明した各工程を連続的に実施することが好ましい。本態様の方法の各工程を連続的に実施することにより、高い密度及び強度のCNT紡績糸を効率的に且つ低コストで製造することができる。
【0057】
<2. カーボンナノチューブからなる紡績糸>
前記で説明したように、本発明の一態様の製造方法により、高い密度及び強度のCNT紡績糸を得ることができる。それ故、本発明の別の一態様は、本発明の一態様の製造方法により得られ得る、好ましくは該方法によって得られたカーボンナノチューブからなる紡績糸(CNT紡績糸)に関する。
【0058】
本発明の各態様において、CNT紡績糸前駆体α、CNT紡績糸前駆体β及びCNT紡績糸の密度は、限定するものではないが、例えば、下記の手順により、嵩密度として測定することができる。マイクロ天秤を用いて、CNT紡績糸前駆体α、CNT紡績糸前駆体β又はCNT紡績糸の単位長さあたりの重量を測定する。走査型電子顕微鏡を用いて、CNT紡績糸前駆体α、CNT紡績糸前駆体β又はCNT紡績糸の断面積を測定する。次いで得られた単位長さあたりの重量及び断面積から、嵩密度を算出する。
【0059】
本発明の各態様において、CNT紡績糸前駆体α、CNT紡績糸前駆体β及びCNT紡績糸の強度は、例えば、ヤング率及び破断応力を指標として評価することができる。CNT紡績糸前駆体α、CNT紡績糸前駆体β及びCNT紡績糸のヤング率及び破断応力は、限定するものではないが、例えば、ISO11566:1996(JIS R 7606 :2000)に基づき、1 mm/分の試験速度及び25 mmのつかみ具間距離の条件で測定することができる。
【0060】
本態様のCNT紡績糸は、通常は1.6 g/cm3未満、例えば、1.0 g/cm3超且つ1.6 g/cm3未満の範囲、特に1.2~1.5 g/cm3の範囲の密度を有する。これに対し、紡績糸前駆体β作製工程における予備的な張力印加を実施しない従来技術の方法で得られるCNT紡績糸は、通常は1.0 g/cm3以下の密度を有する。それ故、本態様のCNT紡績糸は、従来技術の方法で得られるCNT紡績糸を超える緻密な構造を有することができる。
【0061】
本態様のCNT紡績糸において、ラマン分光分析により得られるスペクトルのGバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)との比(IG/ID)は、通常は、5以上であり、例えば、5~35の範囲であり、特に、5~25の範囲である。これに対し、紡績糸前駆体β作製工程における予備的な張力印加を実施しない従来技術の方法で得られるCNT紡績糸において、IG/IDは、通常は、2未満であり、例えば、1.2未満である。当該技術分野において、CNT及びCNTからなる紡績糸のラマン分光分析により得られるスペクトル(以下、「ラマンスペクトル」とも記載する)において、Gバンドピークは、結晶性のsp2構造に由来し、Dバンドピークは、欠陥又は非晶質を示すsp3構造に由来することが知られている。このため、CNT及びCNTからなる紡績糸のラマンスペクトルにおいて、IG/IDは、CNTの結晶性を示す指標となる。また、CNTにおける非晶質カーボンからグラフェンへの構造変化の推定は、例えば、CNTを透過型電子顕微鏡で観察して得られる画像における、グラフェンの存在を示すフレーク状の結晶構造の存在により、確認することができる。本態様のCNT紡績糸は、従来技術の方法で得られるCNT紡績糸と比較して、より高いIG/IDを有することから、本態様のCNT紡績糸は、従来技術の方法で得られるCNT紡績糸を上回る高いCNTの結晶性を有する。また、本態様のCNT紡績糸は、透過型電子顕微鏡画像において、フレーク状の結晶構造が確認されることから、本態様のCNT紡績糸は、CNTの少なくとも一部にグラフェンが存在し得る。それ故、本態様のCNT紡績糸は、従来技術の方法で得られるCNT紡績糸では観察されない、高い結晶性及びグラフェン構造を有する。
【0062】
本態様のCNT紡績糸は、高い結晶性及びグラフェン構造に起因して、高い強度を有する。本態様のCNT紡績糸は、通常は100 GPa以上、例えば、100~300 GPaの範囲、好ましくは、120~260 GPaの範囲、特に、190~260 GPaの範囲のヤング率を有する。また、本態様のCNT紡績糸は、通常は1.4 GPa以上、例えば、1.4~3.6 GPaの範囲、好ましくは、1.6~3.4 GPaの範囲、特に、2.2~3.2 GPaの範囲の破断応力を有する。これに対し、紡績糸前駆体β作製工程における予備的な張力印加を実施しない従来技術の方法で得られるCNT紡績糸は、通常は、100 GPa未満のヤング率及び1.4 GPa未満の破断応力を有する。それ故、本態様のCNT紡績糸は、従来技術の方法で得られるCNT紡績糸を超える高い強度を有することができる。
【0063】
特定の一実施形態において、本態様のCNT紡績糸は、CNT間が、ジスルフィド結合、トリスルフィド結合又はテトラスルフィド結合によって架橋されていてもよい。本実施形態のCNT紡績糸は、ジスルフィド結合、トリスルフィド結合及びテトラスルフィド結合からなる群より選択される1種以上の結合をCNT間に有する。本実施形態のCNT紡績糸は、前記で説明した架橋工程を含む本発明の一態様の本製造方法により得ることができる。本実施形態のCNT紡績糸は、より高い密度及び強度を有する。
【0064】
本態様のCNT紡績糸は、熱伝導性及び導電性に加えて、高い強度を有することから、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に代わる高強度炭素材料として使用することができる。本態様のCNT紡績糸は、例えば、自動車用の部品(例えば、高圧タンク又はボディ等)、風力発電機用の部品(例えば、ブレード)又は航空機の部品(例えば、ボディ)等の部品の材料として使用することができる。
【実施例0065】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
<I:CNTからなる紡績糸の製造(1)>
[I-1:紡績糸前駆体α作製工程]
金属製基板の表面に形成された18×18 mmのCNTフォレストの上面に、3個のブレードを有するコーミング用ブレードを配置した。ブレードの間から、500 rpmの基板回転速度、500 mm/分の引出速度の条件で複数のCNTからなるCNTウェブを引き出した。CNTウェブに1 mN(複数のCNTからなるCNTウェブに対して3 MPa)未満の荷重で張力を印加しながら紡績して、約4°の撚り角を有するCNTからなる紡績糸前駆体αを回転体の周面に巻き付けた。前記手順において、1 mN(複数のCNTからなるCNTウェブに対して3 MPa)未満の荷重は、CNTフォレストの幅1 cmあたり0.55 mNの張力に相当する。前記手順により、紡績糸前駆体αを作製した。基板回転速度は、200 rpm未満の範囲で、基板回転速度/引出速度の比は、0.25 rev/mm超且つ25 rev/mm未満の範囲で、荷重は、10 mN(CNTフォレストの幅1 cmあたり5.5 mN、複数のCNTからなるCNTウェブに対して30 MPa)未満の張力の範囲で、それぞれ変化させた。また、CNTフォレストから引き出されたCNTウェブに荷重を印加しながら、CNTウェブをメタノール、エタノール、アセトン又は水に含浸させた後、回転体の周面に巻き付ける手順でも本工程を実施した。
【0067】
[I-2:紡績糸前駆体β作製工程]
回転体の周面から、2000 mm/分の引出速度の条件で紡績糸前駆体αを引き出した。紡績糸前駆体αに対して、紡績糸前駆体α作製工程よりも高い張力を印加しながら、エタノールに含浸させた後、回転体の周面に巻き付けた。前記手順を、1 mN、50 mN又は100 mN(紡績糸前駆体αに対して3 MPa、160 MPa又は300 MPa)の順に荷重を増加させて、3回に亘って繰り返し段階的に張力を印加した。前記手順により、紡績糸前駆体αを緻密化させて、紡績糸前駆体βを作製した。引出速度は、4000 mm/分未満の範囲で、荷重は、150 mN(紡績糸前駆体αに対して480 MPa)未満の範囲で、それぞれ変化させた。また、エタノールに代えて、メタノール、アセトン又は水に含浸させる手順でも本工程を実施した。
【0068】
[I-3:紡績糸作製工程]
回転体の周面から、600 mm/分の引出速度の条件で紡績糸前駆体βを引き出した。紡績糸前駆体βに対して、1 mN、10 mN又は100 mN(紡績糸前駆体βに対して3 MPa、30 MPa又は300 MPa)の荷重で張力を印加しながら、1500~3000 Kの温度、1秒間の時間及び10 mmの電極間距離の条件で通電加熱を行った後、回転体の周面に巻き付けた。前記手順により、CNT紡績糸を作製した。引出速度は、60超且つ6000 mm/分の範囲で、荷重は、150 mN(紡績糸前駆体βに対して480 MPa)未満の範囲で、通電加熱の温度は、室温を超える温度且つ3200 K以下の範囲で、通電加熱の時間は、0.1超且つ10秒間未満の範囲で、それぞれ変化させた。また、紡績糸前駆体βをメタノール、エタノール、アセトン、水、パラフィン又は塩化鉄エタノール溶液に含浸させた後、通電加熱を行って回転体の周面に巻き付ける手順でも本工程を実施した。
【0069】
[I-4:紡績糸前駆体β作製工程における荷重の効果]
紡績糸前駆体β作製工程において、1 mN、50 mN又は100 mN(紡績糸前駆体αに対して3 MPa、160 MPa又は300 MPa)の荷重で張力を印加しながら紡績して紡績糸前駆体βを作製した。次いで、紡績糸作製工程において、通電加熱を行わずにCNT紡績糸を作製した。対照として、紡績糸前駆体β作製工程において荷重を印加せず紡績して紡績糸前駆体βを作製した他は前記と同様の手順で、CNT紡績糸を作製した。得られた紡績糸のヤング率及び破断応力を、ISO11566:1996(JIS R 7606 :2000)に基づき、1 mm/分の試験速度及び25 mmのつかみ具間距離の条件で、それぞれ測定した。また、得られた紡績糸の密度を、以下の手順で測定した。マイクロ天秤を用いて、紡績糸の単位長さあたりの重量を測定した。走査型電子顕微鏡を用いて、紡績糸の断面積(6箇所)を測定した。次いで、得られた単位長さあたりの重量及び断面積から嵩密度を算出した。得られた紡績糸のヤング率、破断応力及び密度を
図1、2及び3にそれぞれ示す。図中、横軸は、紡績糸前駆体β作製工程における荷重(mN)である。
図1及び2において、図中の値は、3回の試験結果の平均値及び標準偏差を示す。また、
図3において、図中の値は、6箇所の断面積測定値から得られた試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【0070】
図1~3に示すように、紡績糸前駆体β作製工程において、1 mN、50 mN又は100 mN(紡績糸前駆体αに対して3 MPa、160 MPa又は300 MPa)の荷重を印加しながら紡績した場合、得られたCNT紡績糸のヤング率、破断応力及び密度のいずれも、対照の紡績糸の値と比較して顕著に高くなった。
【0071】
[I-5:紡績糸作製工程における通電加熱処理の効果]
紡績糸前駆体β作製工程において、荷重なし又は100 mN(紡績糸前駆体αに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら紡績して紡績糸前駆体βを作製した。次いで、紡績糸作製工程において、紡績糸前駆体βに対して、1 mN、10 mN又は100 mN(紡績糸前駆体βに対して3 MPa、30 MPa又は300 MPa)の荷重で張力を印加しながら、1500、2000、2500、3000又は3500 Kの温度、1秒間の時間及び10 mmの電極間距離の条件で通電加熱を行ってCNT紡績糸を作製した。荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合の、紡績糸作製工程における通電加熱の温度とCNT紡績糸との関係を表1に、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合の、紡績糸作製工程における通電加熱の温度とCNT紡績糸との関係を表2に、それぞれ示す。表中、×は、通電加熱処理において紡績糸前駆体βが破断したことを、○は、良好にCNT紡績糸を作製できたことを示す。
【0072】
【0073】
【0074】
表1に示すように、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合、3000 K以上の温度で通電加熱すると、通電加熱処理において紡績糸前駆体βが破断してCNT紡績糸を得ることができなかった。これに対し、荷重ありの条件で、紡績糸前駆体αに対して張力を印加しながら紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合、3000 Kで通電加熱しても紡績糸前駆体βが破断することなく、良好にCNT紡績糸を得ることができた。以下において説明するように、紡績糸作製工程における通電加熱の温度が高い程、結果として得られる紡績糸の強度は向上する。それ故、紡績糸前駆体αに対して張力を印加しながら紡績糸前駆体β作製工程を実施することにより、結果として得られる紡績糸の強度を向上させることができる。
【0075】
<II:CNTからなる紡績糸の性質分析>
[II-1:CNT紡績糸の密度]
紡績糸前駆体β作製工程において、荷重なし又は100 mN(紡績糸前駆体αに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら紡績して紡績糸前駆体βを作製した。次いで、紡績糸作製工程において、紡績糸前駆体βに対して、1 mN、10 mN又は100 mN(紡績糸前駆体βに対して3 MPa、30 MPa又は300 MPa)の荷重で張力を印加しながら、2500又は3000 Kの温度、1秒間の時間及び10 mmの電極間距離の条件で通電加熱を行ってCNT紡績糸を作製した。対照として、通電加熱非処理の条件でCNT紡績糸を作製した。種々の処理条件で得られたCNT紡績糸の密度を
図4に示す。図中、横軸は、紡績糸作製工程における処理条件(張力及び通電加熱の温度)であり、縦軸は、密度(g/cm
3)である。また、白抜きの棒は、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合の結果であり、黒塗りの棒は、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合の結果である。図中の値は、6箇所の断面積測定値から得られた試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【0076】
図4に示すように、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合、2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の密度は、非処理対照のCNT紡績糸の密度と実質的に同程度であった。また、3000 K以上の温度で通電加熱すると、通電加熱処理において紡績糸前駆体βが破断してCNT紡績糸を得ることができなかった。これに対し、荷重ありの条件で、紡績糸前駆体αに対して張力を印加しながら紡績糸前駆体β作製工程を実施した場合、100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の密度は、非処理対照の紡CNT績糸の密度より有意に高かった。また、3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の密度は、1 mN、10 mN又は100 mN(紡績糸前駆体βに対して3 MPa、30 MPa又は300 MPa)のいずれの荷重で張力を印加した場合であっても、非処理対照のCNT紡績糸の密度より有意に高かった。
【0077】
[II-2:CNT紡績糸のラマンスペクトルで観測されたピーク分析]
II-1で得られたCNTからなる紡績糸をラマン分光分析に供した。荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の1000~2000 cm
-1の範囲のラマンスペクトルを
図5に、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の2200~3400 cm
-1の範囲のラマンスペクトルを
図6に、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の2200~3400 cm
-1の範囲のラマンスペクトルを
図7に、それぞれ示す。図中、横軸は、ラマンシフト(cm
-1)であり、縦軸は、ラマン散乱光の強度(a.u.)である。また、
図7において、Aは、非処理対照のCNT紡績糸及び2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸のラマンスペクトルであり、Bは、非処理対照のCNT紡績糸及び3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸のラマンスペクトルである。
【0078】
図5に示すように、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸のラマンスペクトルにおいて、結晶性のsp
2構造に由来するGバンドピーク、及び欠陥又は非晶質を示すsp
3構造に由来するDバンドピークが観測された。CNTの結晶性を示す指標であるGバンドピークの強度(IG)とDバンドピークの強度(ID)との比(IG/ID)は、非処理対照のCNT紡績糸の場合、1.2であり、100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の場合、2.0であったのに対し、100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の場合、13であった。同様の条件で複数回実験を行ったところ、IG/IDは、非処理対照のCNT紡績糸の場合、0.8超且つ1.2未満の範囲であったのに対し、張力を印加しながら通電加熱して得られたCNT紡績糸の場合、1.2超且つ35未満、特に25未満の範囲であった。
【0079】
ラマンスペクトルにおいて、G
*バンドピークは、グラフェンに由来することが知られている(N. Ferralis, J. Mater. Sci. 45, 5135-5149 (2010)、及びM. S. Dresselhaus, et al., Nano Lett. 10 (3), 751-758 (2010))。
図6及び7に示すように、いずれの条件で得られたCNT紡績糸のラマンスペクトルにおいても、二次的なDバンドピークである2Dバンドピーク及びグラフェンに由来するG
*バンドピークが観測された。特に、3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸のG
*バンドピークは、非処理対照のCNT紡績糸のG
*バンドピークと比較して、2倍以上の強度を示した。
【0080】
[II-3:CNT紡績糸の結晶構造分析]
II-1で得られたCNT紡績糸を透過型電子顕微鏡で観察した画像を
図8に示す。図中、Aは、非処理対照のCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像であり、Bは、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像であり、Cは、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら2500 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像であり、Dは、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで100 mN(紡績糸前駆体βに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の透過型電子顕微鏡画像である。図中、スケールバーは、10 nmである。
【0081】
図8Aに示すように、非処理対照のCNT紡績糸には、非晶質カーボン(
図8Aの矢印a-C)が確認された。これに対し、荷重なし又はありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで張力を印加しながら通電加熱して得られたCNT紡績糸には、非晶質カーボンは確認されなかった(
図8B~D)。また、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の場合、グラフェンの存在を示すフレーク状の結晶構造が確認された(
図8C及び8Dの矢印)。この結果から、CNTの少なくとも一部にグラフェンが存在し得ることが示唆される。フレーク状の結晶構造は、3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸でより多く確認されたことから、3000 Kの温度で通電加熱することにより効果的に非晶質カーボンからグラフェンへの構造変化が進行したと推測される。
【0082】
[II-4:CNT紡績糸の強度分析]
II-1で得られたCNTからなる紡績糸において、紡績糸作製工程における通電加熱の温度と結果として得られるCNT紡績糸のヤング率との関係を
図9に、紡績糸作製工程における通電加熱の温度と結果として得られるCNT紡績糸の破断応力との関係を
図10に、それぞれ示す。図中、横軸は、紡績糸作製工程における通電加熱の温度(K)であり、縦軸は、CNT紡績糸のヤング率(GPa)又は破断応力(GPa)である。また、図中の点線は、荷重なし又はありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施した非処理対照のCNT紡績糸のヤング率又は破断応力を示す。図中の値は、3回の試験結果の平均値及び標準偏差を示す。
【0083】
図9に示すように、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸のヤング率は、非処理対照のCNT紡績糸のヤング率と実質的にほぼ同程度の値であった。また、紡績糸作製工程における通電加熱の温度が高くなっても、結果として得られるCNT紡績糸のヤング率に顕著な変化は確認されなかった。これに対し、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸のヤング率は、紡績糸作製工程における通電加熱の温度が高くなるにしたがって顕著に向上した。特に、3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸のヤング率は、190~220 GPaの範囲に達した。
【0084】
図10に示すように、荷重なしの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の破断応力は、非処理対照のCNT紡績糸の破断応力と実質的にほぼ同程度の値であった。また、紡績糸作製工程における通電加熱の温度が高くなっても、結果として得られるCNT紡績糸の破断応力に顕著な変化は確認されなかった。これに対し、荷重ありの条件で紡績糸前駆体β作製工程を実施して得られたCNT紡績糸の破断応力は、紡績糸作製工程における通電加熱の温度が高くなるにしたがって顕著に向上した。特に、3000 Kの温度で通電加熱して得られたCNT紡績糸の破断応力は、2.0~2.8 GPaの範囲に達した。
【0085】
本実施例の結果より、荷重ありの条件で紡績糸前駆体αに対して高い張力を印加しながら紡績糸前駆体β作製工程を実施し、次いで張力を印加しながら通電加熱を行うことにより、高い強度を有するCNT紡績糸を得られることが明らかとなった。また、得られたCNT紡績糸は、ラマンスペクトルのIG/IDが5以上であり、且つCNTの少なくとも一部にグラフェンが存在することが明らかとなった。
【0086】
<III:CNTからなる紡績糸の製造(2)>
[III-1:架橋工程]
紡績糸前駆体α作製工程において、CNTフォレストの幅1 cmあたり1 mN mNの張力を印加しながら複数のCNTを紡績して、紡績糸前駆体αを作製した。次いで、紡績糸前駆体β作製工程において、100 mN(紡績糸前駆体αに対して300 MPa)の荷重で張力を印加しながら紡績して紡績糸前駆体βを作製した。さらに、紡績糸作製工程において、紡績糸前駆体βに対して、1 mN(紡績糸前駆体βに対して3 MPa)の荷重で張力を印加しながら、3000 Kの温度、1秒間の時間及び10 mmの電極間距離の条件で通電加熱を行って残留酸素、残留触媒金属及び非晶質カーボンを除去して、CNT紡績糸を作製した。
【0087】
純水を30分間窒素バブリング処理することで、純水内の酸素を取り除いて、超純水を作製した。Na2S4粉末(硫化剤)を超純水に溶解させて、100 mmol/L(17.4 mg/mL) Na2S4を含む水溶液を調製した。前記手順で作製したCNT紡績糸を、20℃の条件下、Na2S4を含む水溶液に所定の時間含浸させ、次いで20℃で1日間の条件下、自然乾燥させて、CNT間がジスルフィド結合によって架橋されたCNT紡績糸を得た。非処理対照として、紡績糸作製工程における通電加熱処理のみを実施し架橋工程を実施せずに得られたCNT紡績糸を使用した。
【0088】
[III-2:架橋されたCNT紡績糸の表面観察及び密度測定]
前記手順で得られたCNT紡績糸の表面を、走査型電子顕微鏡で観察した。得られた画像を
図11に示す。図中、Aは、架橋工程において2時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Bは、架橋工程において24時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Cは、架橋工程において48時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像である。図中、スケールバーは、10 μmである。また、CNT紡績糸の直径及び重量を測定して、密度(嵩密度)を算出した。種々の処理条件で得られたCNT紡績糸の直径及び密度を
図12に示す。図中、Aは、CNT紡績糸の直径を示すグラフであり、Bは、CNT紡績糸の密度を示すグラフである。横軸は、架橋工程における含浸時間であり、縦軸は、CNT紡績糸の直径(μm)又は密度(g/cm
3)である。
【0089】
図11及び
図12に示すように、架橋工程における含浸時間が長くなるにしたがって、CNT紡績糸の直径が顕著に減少し、それに伴ってCNT紡績糸の密度が顕著に増加した。例えば、非処理対照のCNT紡績糸の直径は18.4 μmであったのに対し、48時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の直径は16.8 μmであった。
【0090】
[III-3:架橋されたCNT紡績糸の断面観察及び構成原子分析]
前記手順で得られたCNT紡績糸を、集束イオンビーム(FIB)で切断した。エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて、得られたCNT紡績糸の断面に存在する硫黄原子を定量した。切断したCNT紡績糸の断面の走査型電子顕微鏡画像を
図13に示す。図中、Aは、架橋工程において2時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Bは、架橋工程において24時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像であり、Cは、架橋工程において48時間の含浸処理で得られたCNT紡績糸の走査型電子顕微鏡画像である。画像中の点は、EDSを用いてマッピングされた、CNT紡績糸の断面に存在する硫黄原子を示す。また、EDSを用いて定量した、切断したCNT紡績糸の断面に存在する硫黄原子の定量結果を
図14に示す。図中、Aは、CNT紡績糸の断面に存在する原子の総数に対する硫黄原子数の百分率を示すグラフであり、Bは、CNT紡績糸の断面に存在する原子の総質量に対する硫黄原子質量の百分率を示すグラフである。横軸は、架橋工程における含浸時間であり、縦軸は、硫黄原子数の百分率(%)又は硫黄原子質量の百分率(%)である。
【0091】
図13及び
図14に示すように、架橋工程を含む方法によって得られたCNT紡績糸の内部には、硫黄原子が導入されたことが確認された。また、架橋工程における含浸時間が長くなるにしたがって、CNT紡績糸の内部に導入された硫黄原子の数及び質量が顕著に増加した。
【0092】
[III-4:架橋されたCNT紡績糸の強度分析]
前記手順で得られたCNT紡績糸の破断応力を、ISO11566:1996(JIS R 7606 :2000)に基づき、1 mm/分の試験速度及び10 mmのつかみ具間距離の条件で測定した。種々の処理条件で得られたCNT紡績糸の応力ひずみ曲線を
図15に示す。図中、横軸は、ひずみ率(%)であり、縦軸は、CNT紡績糸の破断応力(GPa)である。
【0093】
図15に示すように、架橋工程を含む方法によって得られたCNT紡績糸は、対照のCNT紡績糸と比較してひずみ耐性及び破断応力が向上した。特に、架橋工程における含浸時間が48時間の場合、ひずみ耐性及び破断応力のいずれも顕著に向上した。
【0094】
[III-5:異なる硫化剤で架橋されたCNT紡績糸の強度分析]
架橋工程で使用する硫化剤をNa
2S
4、Na
2S
3又はNa
2S
2に、含浸時間を48時間又は24時間に、それぞれ変更した他は前記と同様の手順で、架橋されたCNT紡績糸を得た。得られたCNT紡績糸の破断応力を、ISO11566:1996(JIS R 7606 :2000)に基づき、1 mm/分の試験速度及び10 mmのつかみ具間距離の条件で測定した。種々の処理条件で得られたCNT紡績糸の応力ひずみ曲線を
図16及び17に示す。図中、横軸は、ひずみ率(%)であり、縦軸は、CNT紡績糸の破断応力(GPa)である。
【0095】
図16及び17に示すように、いずれの硫化剤を使用して得られたCNT紡績糸も、非処理対照のCNT紡績糸と比較してひずみ耐性及び破断応力が顕著に向上した。Na
2S
4を使用する架橋工程を実施することによって得られたCNT紡績糸は、Na
2S
2を使用する架橋工程を実施することによって得られたCNT紡績糸と比較してより高いひずみ耐性を示した(
図16)。また、Na
2S
2を使用する架橋工程を実施することによって得られたCNT紡績糸は、Na
2S
4を使用する架橋工程を実施することによって得られたCNT紡績糸と比較してより高い破断応力を示した(
図16)。さらに、Na
2S
3を使用する架橋工程を実施することによって得られたCNT紡績糸は、24時間の含浸処理によって高い破断応力及びひずみ耐性を示した(
図17)。Na
2S
3を使用する架橋工程を実施することによって得られたCNT紡績糸は、Na
2S
4を使用する架橋工程を実施することによって得られたCNT紡績糸と比較してより高いひずみ耐性を示した(
図16及び17)。
【0096】
CNT紡績糸を硫化剤で処理するとCNT間がジスルフィド結合等によって架橋され、この架橋されたCNT紡績糸に引張力を付与すると、ジスルフィド結合が再結合を繰り返して引張強度が向上することが、シミュレーションによって予測されている(Composite Science and Technology, 2018年, 第166巻, p. 3-9)。本実施例の結果より、架橋工程を実施することにより、CNT紡績糸を構成するCNT間がジスルフィド結合、トリスルフィド結合又はテトラスルフィド結合によって架橋されて空隙が減少し、CNT紡績糸が高密度化することが明らかとなった。また、得られたCNT紡績糸は、架橋工程を実施しない場合と比較してひずみ耐性及び破断応力が顕著に向上して、高い強度を有することが明らかとなった。
【0097】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。