(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159121
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ペルオキシドによるおよびヒドロペルオキシドによるレドックス開始コンポジットと共に使用される保存安定性歯科用接着剤セット
(51)【国際特許分類】
A61C 13/23 20060101AFI20221006BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20221006BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20221006BHJP
A61K 6/70 20200101ALI20221006BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20221006BHJP
【FI】
A61C13/23
A61K6/30
A61K6/60
A61K6/70
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053304
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】21166451
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】トルステン ボック
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル バルビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ケーラー
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BC06
(57)【要約】
【課題】ペルオキシドによるおよびヒドロペルオキシドによるレドックス開始コンポジットと共に使用される、保存安定性の歯科用接着剤セットを提供すること。
【解決手段】接着剤と、バナジウム(IV)塩でコーティングされたアプリケーターとを含有する歯科用接着剤セット。本発明の目的は、歯科目的に適した接着剤を提供することである。特に接着剤は、保存安定性であり、高度な施用安全性を提供するものである。接着剤は、ペルオキシドおよびヒドロペルオキシドによるレドックス開始コンポジットと共に使用するのに、ならびに直接および間接修復に適切なものである。本発明によれば、この目的は、接着剤およびアプリケーターを含有する歯科用接着剤セットによって達成される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤とアプリケーターとを含む、歯科用接着剤セットであって、前記アプリケーターがバナジウム(IV)塩でコーティングされることを特徴とする、歯科用接着剤セット。
【請求項2】
前記アプリケーターが、シュウ酸バナジル(IV)および/またはアセチルアセトン酸バナジル(IV)および/またはピコリン酸バナジル(IV)でコーティングされている、請求項1に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項3】
前記アプリケーターが、少なくとも1種のスルフィン酸および/またはスルフィン酸誘導体で、好ましくはスルフィン酸エステルおよび/またはスルフィン酸塩で、特に好ましくはベンゼンスルフィン酸ナトリウムおよび/またはベンゼンスルフィン酸リチウムで、さらにコーティングされている、請求項1または2に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項4】
前記アプリケーターが、還元剤で、好ましくはアスコルビン酸またはアスコルビン酸誘導体で、さらにコーティングされている、請求項1から3の一項に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項5】
前記接着剤が、
(a) 少なくとも1種のラジカル重合性酸性モノマー、
(b) 酸性基を持たない少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、
(c) 少なくとも1種の水混和性有機溶媒、
(d) 水、および必要に応じて
(e) 1種またはそれより多種の充填剤、および必要に応じて
(f) 1種またはそれより多種の安定化剤、および必要に応じて
(g) 前記ラジカル重合のための光開始剤、および必要に応じて
(h) 増粘剤
を含有する、先行する請求項の一項に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項6】
前記接着剤が、それぞれの場合に組成物の総質量に対して、
(a) 少なくとも1種の酸性ラジカル重合性モノマー1から40重量%、好ましくは2から30重量%、特に好ましくは5から20重量%、
(b) 少なくとも1種の非酸性ラジカル重合性モノマー1から80重量%、好ましくは1から60重量%、特に好ましくは5から55重量%、
(c) 少なくとも1種の溶媒、好ましくはメタノールまたはエタノール0から70重量%、好ましくは5から60重量%、特に好ましくは10から50重量%、
(d) 水0から70重量%、好ましくは5から60重量%、特に好ましくは8から50重量%、ならびに必要に応じて
(e) 少なくとも1種の充填剤0から20重量%、ならびに必要に応じて
(f) 少なくとも1種の安定化剤0.001~0.35重量%、好ましくは0.03から0.30重量%、特に好ましくは0.05から0.25重量%、ならびに必要に応じて
(g) 光開始剤0.01から10重量%、好ましくは0.1から4.5重量%、特に好ましくは0.5から4.0重量%、ならびに必要に応じて
(h) 増粘剤0.1から8重量%、特に好ましくは0.2から7重量%、特に非常に好ましくは3から6重量%
を含む、請求項5に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項7】
前記ラジカル重合のための開始剤としてヒドロペルオキシドまたはペルオキシドを含有するコンポジット材料をさらに含有する、先行する請求項の一項に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項8】
前記アプリケーターがシュウ酸バナジル(IV)でコーティングされており、前記コンポジット材料が、前記ラジカル重合のための開始剤としてヒドロペルオキシドを含有する、請求項7に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項9】
前記接着剤および前記アプリケーターが、単回用量容器内で空間的に離れて保存され、前記接着剤の量が、前記コーティングされたアプリケーター上のバナジウム(IV)塩ならびに必要に応じてスルフィン酸および/またはアスコルビン酸の量に適合され、それによって、前記アプリケーターと混合された後に前記接着剤が、ラジカル硬化に十分な量のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸誘導体を含有する、先行する請求項の一項に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項10】
アプリケーターと、そこから空間的に離れかつ多回用量容器内に保存された接着剤とを含有する、請求項1から8の一項に記載の歯科用接着剤セットであって、前記コーティングされたアプリケーター上のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸誘導体の量が、事前に定められた量の前記接着剤が前記アプリケーターと混合された後、前記接着剤が、ラジカル硬化に十分な量のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸誘導体を含有するように測定される、歯科用接着剤セット。
【請求項11】
損傷した歯の口腔内修復での治療的使用のための、請求項1から10の一項に記載の歯科用接着剤セット。
【請求項12】
コーティングされたアプリケーターを生成するための方法であって、下記のステップ:
(1) 適切な溶媒中の1種またはそれより多種のバナジウム(IV)塩の溶液を用意するステップ、
(2) アプリケーターを、ステップ(1)からの前記溶液中に、1回またはそれより多くの回数浸漬するステップ、
(3) ステップ(2)からの前記アプリケーターを乾燥するステップ、好ましくは
(4) 適切な溶媒中のスルフィン酸および/またはスルフィン酸誘導体の溶液を用意するステップ、
(5) 前記アプリケーターを、ステップ(4)からの前記溶液中に、1回またはそれより多くの回数浸漬するステップ、ならびに
(6) ステップ(5)からの前記アプリケーターを乾燥するステップ
を含む、方法。
【請求項13】
ステップ(1)の前記バナジウム(IV)塩を、メタノールに、好ましくは0.5から5重量%、特に好ましくは1から2重量%の濃度で溶解させ、ステップ(4)の前記スルフィン酸または前記スルフィン酸誘導体を、エタノールに、好ましくは1から10重量%、特に好ましくは約2重量%の濃度で溶解させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(1)において、前記バナジウム(IV)塩に加え、還元剤、好ましくはアスコルビン酸を、前記溶媒に好ましくは0.5から5重量%、特に好ましくは約1重量%の濃度でさらに溶解させる、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
請求項12から14に記載の方法によって生成することができるアプリケーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、ペルオキシドによるおよびヒドロペルオキシドによるレドックス開始コンポジットと共に使用するのに適したかつ高レベルの保存安定性を有する、歯科用接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
背景情報
メタクリレートをベースにしたコンポジット材料の接着剤セメンテーションは、直接および間接的な修復処置に広く使用される。このプロセスにおいて、メタクリレートをベースにした接着促進剤(「接着剤」)は、処置される歯の硬組織上に最初に堆積される。そのような接着剤の様々なタイプがあり、それらは主に使用するタイプが異なると共に成分の数も異なる。一部の接着剤は、リン酸による硬い歯の組織の前処理を必要とし(トータルエッチングまたはエッチング&リンス法)、その他の接着剤は、自己エッチング特性を有する(自己エッチング法)。接着剤は通常、異なるメタクリレート(「モノマー」)の溶媒中混合物からなる。モノマーは、1つまたはそれより多くのメタクリレート基およびさらなる官能基を含有することができる。例えばカルボン酸またはリン酸エステル基などのさらなる官能基が、自己エッチングのためのおよび歯の硬組織への接着を促進させるための特定の生成物特性を提供するのに使用される。接着剤はさらに、加工剤(例えば、レオロジー添加剤)、安定化剤(ラジカルスカベンジャー)、ならびに光開始剤および必要に応じてレドックス開始剤系の一部を含有することができる。
【0003】
接着剤が堆積された後、1種または複数種の溶媒は気流の通気によって除去され、接着剤層の形成は通常、光への曝露によって重合される。次いで充填剤およびメタクリレートを含有するコンポジットが、さらなるステップで接着剤の表面に堆積される。コンポジットの硬化中、接着剤およびコンポジットは共重合し、したがって、所望の機械的に弾力的な結合をもたらす。
【0004】
直接的な修復処置の場合、コンポジットは充填材料として作用する(「充填コンポジット」)。これは流動可能なまたはタンパブルなペーストとして、窩洞内に直接、硬化した接着剤層に適用され、所望の形状が実現されるように成形される。間接的修復処置では、コンポジットは、例えばクラウン、インレー、オンレー、またはベニアなど(「合着コンポジット」)、セラミック、金属、または予備重合されたコンポジットで作製された事前に製作された修復材料をセメントするのに使用される。合着コンポジットは、ここでは接着剤表面と修復材料との間のボリュームを架橋する。
【0005】
充填または合着コンポジットの硬化は、光化学ラジカル形成または光に依存しないレドックス化学ラジカル形成のいずれかによって行われる。接着剤およびコンポジットの両方の光硬化は、そこで使用される材料が通常は十分に半透明であるので、直接的修復処置では通常のことである。しかしながら間接的修復処置では、それほど半透明ではない材料、例えば酸化物セラミックなど、または全体として不透明な材料、例えば金属なども、広く使用される。そのような場合、光化学重合に必要な量の光をコンポジットに導入することは可能ではなく、例えば機械的回復力の欠如または大幅な低減をもたらす。したがってレドックス化学により重合される合着コンポジットは、好ましくは間接的修復処置に使用される。
【0006】
合着コンポジットの場合に通常使用されるレドックス開始重合は、レドックス系ペルオキシド/アミン(「ペルオキシドにより開始されるコンポジット」)またはヒドロペルオキシド/チオ尿素(「ヒドロペルオキシドにより開始されるコンポジット」)をベースにする。ヒドロペルオキシドにより開始されるコンポジットはしばしば、遷移金属化合物をさらに含有する。両方のレドックス系が広く使用されるが、通常は製造業者により明らかにされず、コンポジットの化学分析なしに当業者が区別することもできない。したがって歯科医は、合着コンポジットがペルオキシドまたはヒドロペルオキシドレドックス系を使用して重合するか否かを知ることができない。これは接着剤およびコンポジットが互いに適合されなければならないので、問題である。
【0007】
さらなる問題は、合着コンポジットで使用されるレドックス開始剤、特にペルオキシド/アミン系が、pH感受性でありかつ自己エッチング、例えばカルボン酸またはリン酸、接着剤によって阻害され、それが、接着剤とコンポジットとの間の結合強度の低減をもたらすことである。コンポジットの開始剤のこの阻害を防止するために、通常は接着剤製造業者によって、合着コンポジットを堆積する前に接着剤を光で硬化することが推奨される。このように、接着剤の酸基の移動性は、ポリマーマトリックスとの一体化を経て低減され、接着剤とコンポジットとの間の共重合が促進される。
【0008】
しかしながら接着剤の予備硬化は、接着剤層の厚さまたは窩洞床上の接着剤の蓄積(「プーリング」)を使用者が制御することは難しいので、間接的修復処置の場合に適合性の不正確さをもたらす。間接的修復は、修復しようとする歯の模型またはデジタルスキャンの助けを借りて、可能な限り正確にフィッティングされるように事前に製作される。しかしながら事前製作の精度は、接着剤層の適用など、模型が作製された後にまたはスキャンの後に作製される窩洞の幾何形状の小さい変化であっても、挿入されたときに詰まりを引き起こす可能性があるという結果を修復にもたらす。したがって、間接的修復処置で光硬化された接着剤の使用は、潜在的な欠陥の根源になる。
【0009】
EP0006757A2は、棒形の混合ツールとペースト様成分とを含有する、2成分歯科充填コンポジットを開示する。コンポジットの硬化は、ペルオキシドおよびアミンで作製された2部開始剤系により誘発される。一方の開始剤成分はペーストに溶解され;他方は混合ツールに適用される。活性化のため、ペーストを混合ツールで撹拌する。
【0010】
EP0923924A2は、酸基を持つラジカル重合性モノマー、光開始剤および/またはペルオキシド、水溶性有機溶媒、スルフィン酸またはバルビツール酸、および水を含有する歯科用接着剤キットを開示する。スルフィン酸またはバルビツール酸は、アプリケーターに適用することができる。
【0011】
WO2015/181227A1は、金属、金属含有化合物、または金属有機化合物で、および加えて、必要に応じてさらなる接着剤で、少なくとも部分的にコーティングされるマイクロアプリケーターに関する。金属は、好ましくは、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、銀、銅、スズ、および亜鉛から選択される。とりわけ、バルビツール酸、スルフィン酸、カルボン酸、およびアミン塩を、さらなる添加剤と称する。これらのアプリケーターが、歯科用接着剤を適用するのに使用される場合、コーティングされていないアプリケーターと比較して改善された接着値が、実現されると言われる。
【0012】
DE19956705A1は、触媒で、例えばベンゼンスルホン酸で、および必要に応じてアミン、例えばジエタノール-p-トルイジンでコーティングされた、歯科使用のためのブラシ形状のアプリケーターを開示する。使用のため、アプリケーターを例えば歯科用接着剤に浸漬し、次いで接着剤を、アプリケーターで歯に適用する。プロセスでは、触媒およびアミンを接着剤に溶解させ、硬化させる。触媒およびアミンは乾燥形態で存在するので、アプリケーターは特に安定であると言われる。このシステムによれば、最適な結果はヒドロペルオキシド含有コンポジットではなくペルオキシド含有コンポジットでのみ実現されるので、その非常に良好な保存性により普及し続けている。
【0013】
イオン性遷移金属化合物を含有する1成分歯科用接着剤が、WO2019/211724A2から公知である。接着剤は、ペルオキシド、ペルオキシエステル、過酸化ジアシル、または過硫酸塩を酸化剤として含有するコンポジットとの使用に適していると言われる。これらの組成物は、保存安定性を改善するために安定化剤を含有するが、それらの安定性は商用目的に不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0006757号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0923924号明細書
【特許文献3】国際公開第2015/181227号
【特許文献4】独国特許出願公開第19956705号明細書
【特許文献5】国際公開第2019/211724号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の目的は、歯科目的に適しておりかつ上述の欠点を持たない接着剤を提供することである。特に、接着剤は保存安定性であることおよび高度な適用安全性をもたらすことである。接着剤は、ペルオキシドによるおよびヒドロペルオキシドによるレドックス開始コンポジットとの使用に、ならびに直接および間接的修復に適したものになる。
【0016】
本発明によれば、この目的は、接着剤およびアプリケーターを含有する歯科用接着剤セットにより達成される。歯科用接着剤セットは、アプリケーターが少なくとも1種のバナジウム(IV)塩でコーティングされることを特徴とする。
本出願は、例えば、下記を提供する:
(リクレーム)
(項目1)
接着剤とアプリケーターとを含む、歯科用接着剤セットであって、前記アプリケーターがバナジウム(IV)塩でコーティングされることを特徴とする、歯科用接着剤セット。
(項目2)
前記アプリケーターが、シュウ酸バナジル(IV)および/またはアセチルアセトン酸バナジル(IV)および/またはピコリン酸バナジル(IV)でコーティングされている、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目3)
前記アプリケーターが、少なくとも1種のスルフィン酸および/またはスルフィン酸誘導体で、好ましくはスルフィン酸エステルおよび/またはスルフィン酸塩で、特に好ましくはベンゼンスルフィン酸ナトリウムおよび/またはベンゼンスルフィン酸リチウムで、さらにコーティングされている、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目4)
前記アプリケーターが、還元剤で、好ましくはアスコルビン酸またはアスコルビン酸誘導体で、さらにコーティングされている、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目5)
前記接着剤が、
(a) 少なくとも1種のラジカル重合性酸性モノマー、
(b) 酸性基を持たない少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、
(c) 少なくとも1種の水混和性有機溶媒、
(d) 水、および必要に応じて
(e) 1種またはそれより多種の充填剤、および必要に応じて
(f) 1種またはそれより多種の安定化剤、および必要に応じて
(g) 前記ラジカル重合のための光開始剤、および必要に応じて
(h) 増粘剤
を含有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目6)
前記接着剤が、それぞれの場合に組成物の総質量に対して、
(a) 少なくとも1種の酸性ラジカル重合性モノマー1から40重量%、好ましくは2から30重量%、特に好ましくは5から20重量%、
(b) 少なくとも1種の非酸性ラジカル重合性モノマー1から80重量%、好ましくは1から60重量%、特に好ましくは5から55重量%、
(c) 少なくとも1種の溶媒、好ましくはメタノールまたはエタノール0から70重量%、好ましくは5から60重量%、特に好ましくは10から50重量%、
(d) 水0から70重量%、好ましくは5から60重量%、特に好ましくは8から50重量%、ならびに必要に応じて
(e) 少なくとも1種の充填剤0から20重量%、ならびに必要に応じて
(f) 少なくとも1種の安定化剤0.001~0.35重量%、好ましくは0.03から0.30重量%、特に好ましくは0.05から0.25重量%、ならびに必要に応じて
(g) 光開始剤0.01から10重量%、好ましくは0.1から4.5重量%、特に好ましくは0.5から4.0重量%、ならびに必要に応じて
(h) 増粘剤0.1から8重量%、特に好ましくは0.2から7重量%、特に非常に好ましくは3から6重量%
を含む、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目7)
前記ラジカル重合のための開始剤としてヒドロペルオキシドまたはペルオキシドを含有するコンポジット材料をさらに含有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目8)
前記アプリケーターがシュウ酸バナジル(IV)でコーティングされており、前記コンポジット材料が、前記ラジカル重合のための開始剤としてヒドロペルオキシドを含有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目9)
前記接着剤および前記アプリケーターが、単回用量容器内で空間的に離れて保存され、前記接着剤の量が、前記コーティングされたアプリケーター上のバナジウム(IV)塩ならびに必要に応じてスルフィン酸および/またはアスコルビン酸の量に適合され、それによって、前記アプリケーターと混合された後に前記接着剤が、ラジカル硬化に十分な量のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸誘導体を含有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目10)
アプリケーターと、そこから空間的に離れかつ多回用量容器内に保存された接着剤とを含有する、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セットであって、前記コーティングされたアプリケーター上のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸誘導体の量が、事前に定められた量の前記接着剤が前記アプリケーターと混合された後、前記接着剤が、ラジカル硬化に十分な量のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸誘導体を含有するように測定される、歯科用接着剤セット。
(項目11)
損傷した歯の口腔内修復での治療的使用のための、先行する項目のいずれか一項に記載の歯科用接着剤セット。
(項目12)
コーティングされたアプリケーターを生成するための方法であって、下記のステップ:
(1) 適切な溶媒中の1種またはそれより多種のバナジウム(IV)塩の溶液を用意するステップ、
(2) アプリケーターを、ステップ(1)からの前記溶液中に、1回またはそれより多くの回数浸漬するステップ、
(3) ステップ(2)からの前記アプリケーターを乾燥するステップ、好ましくは
(4) 適切な溶媒中のスルフィン酸および/またはスルフィン酸誘導体の溶液を用意するステップ、
(5) 前記アプリケーターを、ステップ(4)からの前記溶液中に、1回またはそれより多くの回数浸漬するステップ、ならびに
(6) ステップ(5)からの前記アプリケーターを乾燥するステップ
を含む、方法。
(項目13)
ステップ(1)の前記バナジウム(IV)塩を、メタノールに、好ましくは0.5から5重量%、特に好ましくは1から2重量%の濃度で溶解させ、ステップ(4)の前記スルフィン酸または前記スルフィン酸誘導体を、エタノールに、好ましくは1から10重量%、特に好ましくは約2重量%の濃度で溶解させる、先行する項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
ステップ(1)において、前記バナジウム(IV)塩に加え、還元剤、好ましくはアスコルビン酸を、前記溶媒に好ましくは0.5から5重量%、特に好ましくは約1重量%の濃度でさらに溶解させる、先行する項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
先行する項目のいずれか一項に記載の方法によって生成することができるアプリケーター。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、接着剤と、バナジウム(IV)塩でコーティングされたアプリケーターとを含有する、歯科用接着剤セットを提供する。
【0018】
アプリケーターおよび接着剤は、使用前は互いに空間的に離れている。使用のため、接着剤を、コーティングされたアプリケーターと接触させる。バナジウム塩がコーティングから溶出し、接着剤と混合される。次いで接着剤を、アプリケーターで歯の表面に堆積し、その後ヒドロペルオキシドまたはペルオキシド含有コンポジットを乾燥接着剤層に適用する。コンポジットを適用した後、ヒドロペルオキシドまたはペルオキシドはコンポジットから接着剤中へと拡散し、そこでフリーラジカルを形成し、バナジウム塩との反応によってラジカル重合が開始される。
【0019】
本発明による好ましいバナジウム(IV)塩は、アセチルアセトン酸バナジル、シュウ酸バナジル、マルトール酸バナジル、およびピコリン酸バナジル;アセチルアセトン酸バナジル、シュウ酸バナジル、およびピコリン酸バナジルが特に好ましく、シュウ酸バナジルは特に非常に好ましい。これらの塩は、ペルオキシドの、特にヒドロペルオキシドの有効な分解をもたらし、したがって本発明による接着剤とコンポジットとの間に特に固い結合をもたらす。バナジウム(IV)塩は、Cu(II)塩と比較して、酸性条件下、即ち例えば酸性モノマーの存在下でも活性であることを特徴とする。
【0020】
バナジウム(IV)化合物は、ペルオキシドおよびヒドロペルオキシドとの反応中、バナジウム(V)に酸化される。したがってアプリケーターは、好ましくは還元剤も含有する。形成されたバナジウム(V)は、還元剤によって再びバナジウム(IV)に還元され、したがってさらなる反応に利用可能である。還元剤はさらに、例えばアプリケーターの生成中、雰囲気中の酸素との反応によってバナジウム(IV)塩の不活化を有効に防止する。アスコルビン酸は、好ましい還元剤である。ピコリン酸バナジルおよびアスコルビン酸、ならびにシュウ酸バナジルおよびアスコルビン酸は、バナジウム塩と還元剤との好ましい組合せである。そのアニオンの還元特性により、本発明によるバナジウム(IV)塩として特に好ましいシュウ酸バナジル(IV)は、追加の還元剤なしで使用することもできる。
【0021】
アスコルビン酸そのものに加え、アスコルビン酸の誘導体も、有利に使用することができる。好ましい誘導体は、アスコルビン酸の塩、エステル、およびエーテルである。好ましい塩は、アルカリおよびアルカリ土類金属塩、例えばアスコルビン酸ナトリウムおよびアスコルビン酸マグネシウムである。好ましいエステルは、C8~C18脂肪酸エステル、特にアスコルビン酸パルミトイルである。好ましいエーテルは、C1~C4アルキルエーテル、特に好ましくは3-O-C1~C4アルキルエーテル、特に非常に好ましくは3-O-エチルアスコルビン酸である。
【0022】
還元剤は、バナジウム(IV)塩として同じ層にまたは個別の層に存在することができる。本発明によれば、還元剤およびバナジウム(IV)塩は同じ層に位置付けられることが好ましい。
【0023】
本発明によるアプリケーターは、好ましくは、スルフィン酸および/またはスルフィン酸誘導体でさらにコーティングされる。スルフィン酸およびスルフィン酸誘導体は、ペルオキシドと一緒にフリーラジカルを形成し、したがって少なくとも1種のスルフィン酸またはスルフィン酸誘導体を持つアプリケーターの追加のコーティングは、特に本発明による接着剤とペルオキシドにより開始されるコンポジットとの結合を改善する。好ましいスルフィン酸は、ベンゼンスルフィン酸および4-メチルベンゼンスルフィン酸である。好ましいスルフィン酸誘導体は、スルフィン酸エステル、および特にスルフィン酸塩である。特に好ましい塩は、アルカリ金属塩であり;ベンゼンスルフィン酸のおよび4-メチルベンゼンスルフィン酸のアルカリ金属塩、特にベンゼンスルフィン酸ナトリウムまたはベンゼンスルフィン酸リチウムが、特に非常に好ましい。シュウ酸バナジル(IV)は、ペルオキシド含有コンポジットおよびヒドロペルオキシド含有コンポジットの両方で、スルフィン酸またはスルフィン酸誘導体なしでも高い接着値を実現することを特徴とする。したがって本発明の実施形態によれば、シュウ酸バナジル(IV)でコーティングされた、かつ還元剤を含有しない、スルフィン酸を含有しない、およびスルフィン酸誘導体を含有しないアプリケーターが、特に好ましい。
【0024】
簡略化のため、通常は、以下においてアスコルビン酸またはスルフィン酸のみを参照する。しかしながら両方の場合に、他に指示がない限りそれぞれのエステル、塩、および誘導体も意味する。
【0025】
名称が挙げられた物質に加え、本発明によるアプリケーターのコーティングは、さらなる添加剤、特に1種またはそれより多種のレオロジー添加剤を含有することができる。レオロジー添加剤は、チキソトロープ剤および増粘剤に分けられる。ヒュームドおよび沈降シリカが、チキソトロープ剤として特に適している。5から500nmの一次粒子直径を持つシリカが特に好ましい。球状粒子のシリカが特に好ましい。ポリマー、特にポリアクリル酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ならびにこれらの誘導体およびコポリマーが、増粘剤として好ましい。問題のポリマーの誘導体とは、本明細書ではエステルまたはエーテル基の結合によって修飾されたそれぞれのポリマーの誘導体を意味する。メタクリレートで修飾されたポリアクリル酸およびポリイタコン酸は、本発明による意味の範囲内で特に関心がもたれている。本明細書で使用されるポリマーは、好ましくは5,000から100,000g/molの重量平均モル質量を有する。ポリマーのモル質量は、好ましくは蒸気圧浸透法、沸点上昇法、または凝固点降下法を用いて決定される。
【0026】
本発明によるアプリケーターのコーティングは、好ましくはアミンを含有せず、特にN,N-ジアルキルアリールアミン、例えばChivacure EPD、N,N-ジメチル-エチル-p-アミノベンゾエート、またはDABA、N,N-ジエチルアミン-3,5-ジ-tert-ブチルアニリン、または脂肪族アミンなど、例えばメタクリル酸ジメチルアミノエチル、DMAEMAなどを含有せず、これはアミンが接着剤のエナメル質接着を損なう可能性が見出されているからである。
【0027】
接着剤の適用で広く使用されるマイクロブラシ、即ち棒形のブラシシャフトの一端に、液体を堆積するのに適したコーティング(フロック加工、スポンジ、剛毛、ゴムラメラなど)が設けられている小型のブラシが、アプリケーターとして特に適している。適切なアプリケーターは、例えばDE19956705A1に記載されている。適切な金属またはプラスチックチューブに、一端に液体を堆積するのに適したコーティング(フロック加工、スポンジ、剛毛、ゴムラメラなど)が設けられておりかつ他端に液体容器、例えばシリンジに適合する受容器(例えば、ルアーロック)を有している、シリンジカニューレまたはスナップオンカニューレを、同様に使用することができる。アプリケーターは、例えばペン型アプリケーターなど、接着剤を保持するのに使用される液体容器に接続することができる。
【0028】
意外にも、アプリケーターへの層の適用中のコーティング順序は、接着剤とコンポジットとの間の終わりのほうの接着に対して決定的な影響を及ぼすことを見出した。本発明によれば、アプリケーターは、好ましくは最初にバナジウム(IV)塩またはバナジウム(IV)塩の混合物でコーティングされ、この最初の層は、好ましくは還元剤も含有する。アプリケーターがスルフィン酸またはスルフィン酸の混合物でコーティングされた後でのみ、第2の(外側)層が形成されるという結果がもたらされる。記述される手法でコーティングされたアプリケーターは、スルフィン酸およびバナジウム(IV)塩が逆の順序でまたは同時にアプリケーターに適用されたアプリケーターよりも、ペルオキシドで開始されたコンポジットに対して非常に良好な接着値をもたらす。
【0029】
コーティングされたアプリケーターを生成するための方法および得られたアプリケーターも、本発明の対象である。本発明によれば、アプリケーターのコーティングは、好ましくは浸漬プロセスで行われ、このプロセスが下記のステップを含む:
(1) 適切な溶媒中の1種またはそれより多種のバナジウム(IV)塩の溶液を用意するステップ、
(2) アプリケーターを、ステップ(1)からの溶液中に1回またはそれより多くの回数、それぞれの場合に好ましくは少なくとも5秒間、好ましくは10から60秒間浸漬するステップ、
(3) ステップ(2)からのアプリケーターを、好ましくは≦70℃の温度で、および好ましくは最長15分間乾燥するステップ、好ましくは
(4) 適切な溶媒中の1種またはそれより多種のスルフィン酸および/またはスルフィン酸誘導体の溶液を用意するステップ、
(5) アプリケーターを、ステップ(4)からの溶液中に1回またはそれより多くの回数、それぞれの場合に好ましくは少なくとも5秒間、好ましくは10から60秒間浸漬するステップ、および
(6) ステップ(5)からのアプリケーターを、好ましくは≦70℃の温度で、および好ましくは最長15分間乾燥するステップ。
【0030】
1種または複数種のバナジウム(IV)塩に加え、ステップ(1)で使用される溶液は、好ましくは還元剤、特に好ましくはアスコルビン酸も含有する。アプリケーターの負荷を増大させるため、浸漬ステップをそれぞれの場合に1回またはそれより多くの回数実施することができる。アプリケーターをステップ(1)またはステップ(4)からの溶液中にステップ(2)および/またはステップ(5)で複数回浸漬するなら、各浸漬後に、好ましくは上記挙げられた条件下で乾燥することが好ましい。同じ溶液中への複数回の浸漬と、必要に応じて行われる後続の乾燥によって形成された層は、本発明による1層と見なされる。層は、この場合、数層により形成される。
【0031】
アプリケーターが1種超のスルフィン酸および/または1種超のスルフィン酸誘導体でコーティングされるなら、ステップ(4)はいくつかの個別のステップに分けることができ、その場合、アプリケーターは、最初に第1のスルフィン酸または第1のスルフィン酸誘導体を含む溶液中に浸漬され、次いで第2のスルフィン酸または第2のスルフィン酸溶液を含むさらなる溶液中に浸漬される。2種超のスルフィン酸またはスルフィン酸誘導体の場合、溶液の数は相応に適応させることができる。この場合も、アプリケーターは好ましくは、さらなる溶液中に浸漬させる前に乾燥させる。同様に同じことが、アプリケーターが複数種のバナジウム塩でコーティングされた場合に適用される。アプリケーターを単に1種またはそれより多種のバナジウム(IV)塩のみでコーティングしようとする場合、ステップ(4)から(6)を省略することができる。
【0032】
反復される浸漬ステップを回避するために、コーティング溶液の粘度は、レオロジー添加剤を添加することによって増大させることができ、その結果、より多量の溶液が、浸漬中にアプリケーターに接着したままになる。
【0033】
アプリケーターは、好ましくは、ステップ(2)および(5)でステップ(1)からの溶液中に部分的にのみ浸漬され、その結果、アプリケーターの一部のみがコーティングされかつ残りの部分はコーティングされないままになる。アプリケーターのコーティングされない部分を、例えばアプリケーターを保持するための取っ手として使用することができる。しかしながら、アプリケーターを完全にコーティングし、それを適切な取っ手に後で接続することも可能である。
【0034】
溶液の濃度および必要に応じた浸漬ステップの数は、適用される接着剤の量を硬化するのに適切であるような量の成分が、アプリケーター上に堆積されるように選択される。
【0035】
ステップ(1)でバナジウム(IV)塩溶液を生成するための好ましい溶媒はメタノールであり、それはコーティングに有利なバナジウム塩の濃度を本明細書で実現することができるからである。さらに溶媒は、コーティング後に除去するのが容易である。必要に応じてバナジウム(IV)塩を安定化させるのに使用される、例えばアスコルビン酸などの還元剤も、メタノールに非常に可溶である。バナジウム(IV)塩の濃度は、好ましくは0.5から5重量%、特に好ましくは1から2重量%である。還元剤の濃度は、好ましくは0.5から5重量%、特に好ましくは約1重量%である。約2重量%のピコリン酸バナジルおよび約1重量%のアスコルビン酸または1重量%のシュウ酸バナジルを含有する溶液が、特に非常に好ましい。
【0036】
他に指示がない限り、本明細書で与えられる全ての重量%およびppmは、それぞれの組成の総質量を指す。
【0037】
ステップ(4)でスルフィン酸溶液を生成するには、溶媒としてエタノールが好ましい。エタノールには、スルフィン酸およびベンゼンスルフィン酸ナトリウムなどのスルフィン酸塩がそれに非常に溶け易く、しかしバナジウム塩および還元剤はエタノールに比較的不完全にしか溶解しないという利点があり、その結果、先に適用されたバナジウム塩および還元剤の層は再度切り離されず、または機能的に関連する範囲にまで至らない。スルフィン酸またはスルフィン酸塩の濃度は、好ましくは1から10重量%、特に好ましくは約2重量%である。約2重量%のベンゼンスルフィン酸ナトリウムを含有する溶液が、特に非常に好ましい。
【0038】
一般に、コーティング溶液を生成するための溶媒は、1つの方法ステップで適用される層が後続のステップで再び切り離されないように選択される。異なるスルフィン酸またはバナジウム塩の溶解度は様々にすることができるので、相応に溶媒の選択肢を適合させる必要があり得る。
【0039】
ステップ(3)および(6)の乾燥するステップは、好ましくはそれぞれの場合に室温(20℃)から≦70℃の温度範囲、特に好ましくは40℃から70℃、特に非常に好ましくは約40℃で行われる。乾燥時間は、好ましくは5から10分である。乾燥するステップは、例えば乾燥キャビネットで行うことができる。乾燥するステップには、成分をアプリケーターに接着したままにするという効果がある。
【0040】
上記順序のステップを通して、接着剤が、ペルオキシドで開始するコンポジットと共に使用される場合およびヒドロペルオキシドで開始されるコンポジットと共に使用される場合の両方で、高レベルの保存安定性と、歯に対する最適な接着とが実現される。
【0041】
本発明によるアプリケーターの特定の利点は、バナジウム塩層とスルフィン酸またはスルフィン酸誘導体層との間に個別の層を使用する必要なしに、層を、記述される手法で順に直接適用することができることである。したがって好ましい実施形態によれば、アプリケーターは、ただ1つのバナジウム塩層と、必要に応じて1つのスルフィン酸またはスルフィン酸誘導体層とを有する。
【0042】
バナジル(IV)塩は、好ましくは30から100μg、特に好ましくは40から90μg、特に非常に好ましくは50から80μgの量でアプリケーターに適用される。全ての仕様は、アプリケーター当たりの量に関する。本発明によれば、平均して50から80μgのシュウ酸バナジル(IV)でコーティングされたマイクロブラシと、平均して約50μgのシュウ酸バナジル(IV)でコーティングされたスナップオンカニューレが、特に好ましい。
【0043】
スルフィン酸およびスルフィン酸誘導体は、アプリケーター当たり、好ましくは60から200μg、特に好ましくは80から180μg、および特に非常に好ましくは100から160μgの量で適用される。
【0044】
アスコルビン酸およびアスコルビン酸誘導体などの還元剤は、アプリケーター当たり、好ましくは15から50μg、特に好ましくは20から45μg、および特に非常に好ましくは25から40μgの量で適用される。
【0045】
本発明による接着剤は、好ましくは
(a) 少なくとも1種のラジカル重合性酸性モノマー、
(b) 酸性基を持たない少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、
(c) 少なくとも1種の水混和性有機溶媒、および
(d) 水
を含有する。
【0046】
さらに、接着剤は、好ましくは
(e) 1種またはそれより多種のチキソトロープ剤および/もしくは充填剤、ならびに/または
(f) 1種またはそれより多種の安定化剤
も、含有する。
【0047】
さらに接着剤は、光化学的に誘発されるラジカル重合のための1種もしくはそれより多種の開始剤(光開始剤)を成分(g)として、および/または増粘剤を成分(h)として含有することができる。接着剤は、好ましくは遷移金属化合物を含有せず、特にバナジウム(IV)塩を含有しない。
【0048】
本発明による接着剤は、好ましくは1種またはそれより多種の酸基含有ラジカル重合性モノマー(接着モノマー;酸性モノマー)を、構成成分(a)として含有する。少なくとも1つのカルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基、好ましくはリン酸一水素基、またはリン酸二水素基を、酸基として有する酸性モノマーが、好ましい。リン酸二水素エステル基を持つ酸性モノマーが、特に非常に好ましい。
【0049】
カルボン酸基を持つ好ましいモノマーは、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-N-フェニルグリシン、または4-ビニル安息香酸である。
【0050】
ホスホン酸基を持つ好ましいモノマーは、ビニルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、4-メタクリルアミド-4-メチル-ペンチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、または2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]アクリル酸エチル-および-2,4,6-トリメチルフェニルエステル、ならびにβ-ケトホスホン酸メタクリレート、例えば9-メタクリロイルオキシ-2-オキソノニルホスホン酸などである。WO2014/202176A1に記載されるβ-ケトホスホン酸メタクリレートが特に好ましい。
【0051】
リン酸エステル基を持つ好ましいモノマーは、リン酸一または二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一または二水素2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸ジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシ、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、リン酸モノ-(1-アクリロイル-ピペリジン-4-イル)エステル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、およびリン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピルアミノ)-プロパン-2-イルである。
【0052】
スルホン酸基を持つ好ましいモノマーは、ビニルスルホン酸、4-ビニルフェニルスルホン酸、または3-(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸である。
【0053】
特に好ましい酸性モノマーは、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、10-メタクリロイルオキシデシルマロン酸、2-メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2-メタクリルアミドエチルホスホン酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸、2-[4-(ジヒドロキシホスホリル)-2-オキサ-ブチル]-アクリル酸エチル、または-2,4,6-トリメチルフェニルエステル、リン酸一または二水素2-メタクリロイルオキシプロピル、リン酸一または二水素2-メタクリロイルオキシエチル、リン酸水素2-メタクリロイルオキシエチルフェニル、リン酸二水素6-(メタクリルアミド)ヘキシル、リン酸二水素1,3-ビス-(N-アクリロイル-N-プロピル-アミノ)-プロパン-2-イル、および特にリン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシルである。
【0054】
接着剤は、好ましくは、非酸性ラジカル重合性モノマー、またはラジカル重合性モノマーの混合物を、構成成分(b)として含有する。(メタ)アクリレートが好ましく、一および多官能性(メタ)アクリレートの混合物が特に好ましく、一および二官能性(メタ)アクリレートの混合物が特に非常に好ましい。モノ(メタ)アクリレートとは、1個のラジカル重合性基を持つ化合物を意味し、二および多官能性(メタ)アクリレートとは、2個またはそれよりも多くの、好ましくは2から4個のラジカル重合性基を持つ化合物を意味する。メタクリレートは、全ての場合においてアクリレートよりも好ましい。
【0055】
好ましい一または多官能性(メタ)アクリレートは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、またはイソボルニル(メタ)アクリレート、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、ビス-GMA(メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)、UDMA(2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)および2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジイソシアネートの付加生成物)、三環式UDMA(V-818;CAS No.1998085-44-1)、またはこれらの異性体混合物(CAS No.106981-29-7)、
【化1】
TMX-UDMA(HEMAおよびヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)の混合物の、α,α,α’,α’-テトラメチル-m-キシリレンジイソシアネート(TMXDI)との付加生成物)、ビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、例えば、3個のエトキシ基を持つビスフェノールAジメタクリレート2-[4-(3-メタクリロイルオキシエトキシエチル)フェニル]-2-[4-(3-メタクリロイルオキシエチル)フェニル]プロパン)(SR-348C)、または2,2-ビス[4-(2-(メタ)アクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、もしくはテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、およびグリセロールジ(メタ)アクリレートアセテート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、または1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリメタクリレート(GTMA)、ならびにこれらの混合物である。
【0056】
N-一またはN-二置換アクリルアミド、例えばN-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、もしくはN-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドなど、またはN-一置換メタクリルアミド、例えばN-エチルメタクリルアミド、もしくはN-(2-ヒドロキシエチル)エタクリルアミドなど、およびN-ビニルピロリドンまたはアリルエーテルが、さらに好ましい。これらのモノマーは、低粘度および高加水分解安定性によって特徴付けられ、希釈モノマーとして特に適している。
【0057】
架橋ピロリドン、例えば1,6-ビス(3-ビニル-2-ピロリドニル)-ヘキサンまたは市販のビスアクリルアミドなど、例えばメチレンもしくはエチレンビスアクリルアミド、またはビス(メタ)アクリルアミド、例えばN,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)-プロパン、1,3-ビス(メタクリルアミド)-プロパン、1,4-ビス(アクリルアミド)-ブタン、または1,4-ビス(アクリロイル)-ピペラジンなど、対応するジアミンと(メタ)アクリル酸塩化物との反応によって合成できるものも、同様に好ましい。これらのモノマーは、高い加水分解安定性によって特徴付けられ、架橋モノマーとして特に適している。
【0058】
特に好ましいモノマーは、HEMA、CMP-1E、ビス-GMA、三環式UDMA(V-818;CAS No.1998085-44-1または106981-29-7)、UDMA、TMX-UDMA、TCDMA、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、SR-348c、トリエチレングリコールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)、グリセロールトリメタクリレート(GTMA)、N,N’-ジエチル-1,3-ビス(アクリルアミド)プロパン、マレイン酸無水物、およびこれらの混合物である。一および二官能性(メタ)アクリレートの特に好ましい混合物は、HEMAとビス-GMAおよび1,10-デカンジオールジメタクリレートとの、またはHEMA、V-818、および1,10-デカンジオールジメタクリレートの混合物である。それぞれの場合に接着剤の総質量に対して、18から25重量%のHEMA、18から25重量%のV-818および/またはビス-GMA、ならびに6から10重量%の1,10-デカンジオールジメタクリレートを含有する接着剤が、特に非常に好ましい。
【0059】
本発明による接着剤は、水混和性有機溶媒、好ましくはエタノール、メタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、およびメチルエチルケトン、またはこれらの混合物を、構成成分(c)として含有する。
【0060】
構成成分(d)は、水、好ましくは蒸留水または脱イオン水である。水は、不純物を含まず、好ましくは滅菌されている。
【0061】
さらに接着剤は、好ましくは1種またはそれより多種のチキソトロープ剤および/または充填剤を、構成成分(e)として含有することもできる。少なくとも1種の有機、または特に好ましくは無機微粒子充填剤、またはそれらの混合物を含有する接着剤が、好ましい。充填剤の添加は、好ましくは機械的性質を改善して粘度を適合させかつレオロジー特性を最適化するために行われる。酸化物をベースにした非晶質球状材料、特にSiO2、例えばヒュームドシリカまたは沈降シリカ(重量平均粒径が10~1,000nm)およびミニ充填剤、例えば石英、ガラスセラミック、または、例えばバリウムまたはストロンチウムアルミニウムシリケートガラスのX線不透過ガラス粉末(重量平均粒径が0.01~10μm、特に好ましくは0.01~1μm、特に非常に好ましくは0.2~1μm)などが、充填剤として好ましい。さらに好ましい充填剤は、X線不透過性充填剤、例えば三フッ化イッテルビウムまたはナノ粒子酸化タンタル(V)もしくは硫酸バリウム、またはSiO2と酸化イッテルビウム(III)もしくは酸化タンタル(V)との混合酸化物(重量平均粒径が10~1,000nm)である。本発明による歯科用材料は、好ましくはイオン放出充填剤を含有せず、特に、Ca2+またはAl3+を放出するガラスを含有することはない。
【0062】
他に指示しない限り、全ての粒径は重量平均粒径(D50値)であり、0.1μmから1,000μmの範囲の粒径決定は、好ましくは静的光散乱を用いて、例えばLA-960静的レーザー散乱粒径分布分析器(堀場製作所、日本)を使用して行われる。ここで、波長655nmのレーザーダイオードおよび波長405nmのLEDが光源として使用される。異なる波長を持つ2つの光源の使用は、1回だけの測定パスで試料の粒径分布全体を測定するのを可能にし、この測定は、湿式測定として実施される。この目的のため、充填剤の0.1から0.5%水性分散体を調製し、その散乱光をフローセル内で測定する。粒径および粒径分布を計算するための散乱光分析を、DIN/ISO 13320によるMie理論に従い行う。5nmから0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは、水性粒子分散体からの動的光散乱(DLS)によって、好ましくは波長633nmのHe-Neレーザーを使用して、散乱角90°および25℃で、例えばMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern UK)を使用して行われる。
【0063】
0.1μmよりも小さい粒径も、SEMまたはTEM顕微鏡写真を用いて決定することができる。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、好ましくはPhilips CM30 TEMを使用して、加速電圧300kVで実施される。試料の調製のため、粒子分散体の液滴を、炭素がコーティングされた50Åの厚さの銅グリッド(メッシュサイズ 300メッシュ)に適用し、次いで溶媒を蒸発させる。粒子をカウントし、算術平均を計算する。
【0064】
充填剤粒子と架橋重合マトリックスとの間の結合を改善するために、SiO2をベースにした充填剤を、メタクリレート官能化シラン、例えば3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどで表面修飾することができる。
【0065】
接着剤は、好ましくは1種またはそれより多種の安定化剤を成分(f)として含有する。これらは、早期のポリ反応を防止するためのラジカル捕捉物質である。安定化剤は、重合阻害剤とも呼ばれる。阻害剤または安定化剤は、材料の保存安定性を改善する。
【0066】
好ましい阻害剤は、フェノール、例えばヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)または2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)である。フェノールは、好ましくは0.001から0.50重量%の濃度で使用される。さらに好ましい阻害剤は、フェノチアジン、2,2-ジフェニル-1-ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカル、ガルビノキシルラジカル、トリフェニルメチルラジカル、および2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシ(TEMPO)ラジカルである。これらの阻害剤は、好ましくは0.001から0.02重量%の量で使用される。重合は、これらの添加剤を使い切るまで生じない。量は、それぞれの場合で材料の総質量に関する。少なくとも1種のフェノールとさらなる開始剤の少なくとも1種とを含有する阻害剤の混合物が、好ましく使用される。
【0067】
本発明による接着剤の硬化は、接着剤、アプリケーター、およびコンポジットの相互作用によって行われる。使用のため、接着剤を、コーティングされたアプリケーターに接触させる。バナジウム塩および必要に応じてスルフィン酸を、コーティングから溶出させ、接着剤と混合させる。次いで後者をエナメル質または象牙質の表面に適用し、溶媒を除去することによって乾燥する。その後、ヒドロペルオキシドまたはペルオキシド含有コンポジットを、乾燥した接着剤層に適用する。コンポジットを適用した後、ヒドロペルオキシドまたはペルオキシドはコンポジットから接着剤中に拡散し、そこで重合を誘発させる。
【0068】
必要な場合に追加の光硬化を可能にするために、接着剤は、ラジカル重合のための光開始剤を構成成分(g)として含有することができる。好ましい光開始剤は、ベンゾフェノン、ベンゾインおよびそれらの誘導体、またはα-ジケトンもしくはその誘導体、例えば9,10-フェナントレンキノン、1-フェニル-プロパン-1,2-ジオン、ジアセチル、または4,4’-ジクロロベンジルである。特に好ましい開始剤は、カンファーキノンおよび2,2-ジメトキシ-2-フェニル-アセトフェノン、特に非常に好ましくはα-ジケトンを、還元剤としてのアミン、例えば4-(ジメチルアミノ)安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-sym.-キシリジン、またはトリエタノールアミンと組み合わせたものである。ノリッシュI型光開始剤、とりわけアシルまたはビスアシルホスフィンオキシド、モノアシルトリアルキルまたはジアシルジアルキルゲルマニウム化合物、例えばベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウム、またはビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムも、特に好ましい。有利には、異なる光開始剤の混合物、例えばジベンゾイルジエチルゲルマニウムをカンファーキノンおよび4-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせたものを使用することもできる。光開始剤は、特に接着剤が直接充填処置で使用されるときに添加される。
【0069】
少なくとも1種の増粘剤(h)をレオロジー添加剤として含有する接着剤がさらに好ましく、上記名称が挙げられた増粘剤、即ち、特にポリアクリル酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、および/またはこれらの誘導体もしくはコポリマーが好ましい。メタクリレート修飾ポリアクリル酸およびポリイタコン酸、例えばメタクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸2-イソシアナトエチルエステルで修飾されたポリアクリル酸が、特に好ましい。重量平均モル質量が5,000から100,000g/molである、特に5,000から50,000g/molであるポリマーが、特に非常に好ましい。それらの実際の機能に加え、本発明による好ましい増粘剤は、歯の硬組織に対する接着剤の接着を改善することが見出された。増粘剤は、好ましくは0.1から8重量%、特に好ましくは0.2から7重量%、および特に非常に好ましくは3から6重量%の量で使用される。
【0070】
少なくとも1種のアルカリ金属水酸化物、好ましくはNaOH、KOH、および/またはRbOH、特に好ましくはKOHおよび/またはRbOH、および特に非常に好ましくはKOHをさらに含有する接着剤は、本発明により好ましい。アルカリ金属水酸化物または水酸化物は、好ましくは接着剤100gあたり、3から15mmolの総量で、好ましくは6から12mmolで使用される。
【0071】
必要に応じて、本発明による組成物はさらに、さらなる添加剤、例えば着香剤、着色剤、殺菌性活性成分、フッ化物イオン放出添加剤、光増白剤、蛍光剤、可塑剤、連鎖移動試薬、および/またはUV吸収剤を含有することができる。
【0072】
本発明によれば、接着剤は、好ましくは下記の組成を有する:
(a) 1から40重量%、好ましくは2から30重量%、および特に好ましくは5から20重量%の酸性ラジカル重合性モノマー、
(b) 1から80重量%、好ましくは1から60重量%、および特に好ましくは5から55重量%の非酸性ラジカル重合性モノマー、
(c) 0から70重量%、好ましくは5から60重量%、および特に好ましくは10から50重量%の溶媒、
(d) 0から70重量%、好ましくは5から60重量%、および特に好ましくは8から50重量%の水、ならびに必要に応じて
(e) 0から20重量%、好ましくは1から15重量%の充填剤、ならびに必要に応じて
(f) 0.001から0.35重量%、好ましくは0.03から0.30重量%、および特に好ましくは0.05から0.25重量%の安定化剤。
【0073】
粘度およびレオロジー特性を設定するのに必要に応じて使用されるチキソトロープ剤は、充填剤の量に含まれる。
【0074】
必要に応じた実施形態によれば、接着剤はさらに
(g) 0.01から10重量%、好ましくは0.1から5.0重量%、および特に好ましくは0.5から4.5重量%の光開始剤、ならびに/または
(h) 0.1から8重量%、特に好ましくは0.2から7重量%、および特に非常に好ましくは3から6重量%の増粘剤、ならびに/または
6から12mmolのKOHを、接着剤100g当たりに含有することができる。
【0075】
接着剤は、特に好ましくは下記の組成:
(a) 1から30重量%、好ましくは2から30重量%、および特に好ましくは5から20重量%の酸性ラジカル重合性モノマー、
(b) 1から80重量%、好ましくは1から60重量%、および特に好ましくは5から55重量%の非酸性ラジカル重合性モノマー、
(c) 0から70重量%、好ましくは5から60重量%、および特に好ましくは10から50重量%の溶媒、好ましくはメタノールまたはエタノール、
(d) 0から70重量%、好ましくは5から60重量%、および特に好ましくは8から50重量%の水、ならびに必要に応じて
(e) 0から20重量%の充填剤
を有する。
【0076】
さらに接着剤は、必要に応じて
(f) 0.001から0.35重量%、好ましくは0.03から0.30重量%、および特に好ましくは0.05から0.25重量%の安定化剤、ならびに/または
(g) 0.01から10重量%、好ましくは0.1から4.5重量%、および特に好ましくは0.5から4.0重量%の光開始剤、ならびに/または
(h) 0.1から8重量%、特に好ましくは0.2から7重量%、および特に非常に好ましくは3から6重量%の増粘剤
を含有することができる。
【0077】
接着剤は、特に非常に好ましくは、下記の組成:
(a) 10から20重量%の酸性ラジカル重合性モノマー、好ましくはリン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル、
(b) 30から55重量%の非酸性ラジカル重合性モノマー、好ましくは18から25重量%の一官能性モノマー、特にHEMA、および24から35重量%の二官能性モノマー、特にビス-GMA、1,10-デカンジオールジメタクリレート、V-818、またはこれらの混合物、
(c) 10から15重量%の溶媒、好ましくはエタノール、
(d) 8から15重量%の水、
(e) 3から6重量%の充填剤、好ましくはヒュームドシリカ、
(f) 0.1から0.25重量%の安定化剤、
(g) 1.0から4.0重量%の光開始剤、
(h) 3から6重量%の増粘剤、好ましくは、重量平均モル質量が5,000から50,000g/molのメタクリレート修飾ポリアクリル酸、および
6から12mmolのKOHを、接着剤100g当たり
で有する。
【0078】
他に指示しない限り、全ての量は、接着剤の総質量に対する。個々の量の範囲は、個別に選択することができる。光開始剤に関する量は、例えば還元剤など、全ての開始剤構成成分を含む。
【0079】
名称が挙げられた物質からなるそれらの接着剤が、特に好ましい。さらに、個々の物質がそれぞれの場合に上述の好ましいおよび特に好ましい物質から選択されるそれらの接着剤が、好ましい。
【0080】
接着剤は、好ましくは多回用量容器に保存されるか、または特に好ましくは単回用量容器に保存される。
【0081】
例えばドロッパーボトルなどの多回用量容器は、数回の施用に十分な量の接着剤を含有し、1つまたはそれより多くの個別のアプリケーターと組み合わされ、このアプリケーターは、数回の施用に、好ましくは1回の施用に十分な量のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸および/またはアスコルビン酸で、コーティングされる。多回用量容器が使用される場合、必要な接着剤の量は、例えば滴板に滴下される。液滴の数は、接着剤のアプリケーターコーティングに対する比が所望の範囲にあるように、即ち良好な硬化および接着剤の作用が実現されるように、測定される。接着剤は、コーティングされたアプリケーターで滴板から吸い上げられ、処置される歯の表面に塗り付けられる。
【0082】
あるいは接着剤は、多回用量容器に保存することができ、そこから事前に設定された量の接着剤を、例えばペン型アプリケーターなどの投薬デバイスを用いて取り出すことができる。この取出しは、好ましくは、容器に接続されかつ記述される手法でコーティングされた、交換可能なカニューレを介して行われる。カニューレは、好ましくは、事前に設定された量の接着剤を硬化するのに必要であるような量の、バナジウム塩および必要に応じてスルフィン酸またはスルフィン酸誘導体でコーティングされる。カニューレは、好ましくは少なくとも部分的にフロック加工されまたはスポンジ、剛毛、もしくはゴムラメラが設けられている。1つのカニューレをいくつかの適用例で使用することができる。しかしながら新しいカニューレは、好ましくはさらなる部分を除去するのに使用される。本発明により適切なペン型アプリケーターは、US2009/0060624A1に記載されており、VivaPen(登録商標)という名称でIvoclar Vivadent AGから市販されている。接着剤3から15mgが、1回の施用当たり計量分配されることが好ましい。ペン型アプリケーターは、好ましくは接着剤を約2ml含有する。
【0083】
接着剤およびアプリケーターが単回用量容器内で空間的に離れて保存されている、歯科用接着剤セットが、本明細書によれば好ましく、この容器内の接着剤の量は、コーティングされたアプリケーター上のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸および/またはアスコルビン酸の量に適合され、それによって、アプリケーターで混合された後に接着剤は、ラジカル硬化に十分な量のバナジウム(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸誘導体を含有する。使用者によって混合することのみ必要とされる接着剤およびバナジウム塩の投薬前の部分を通して、不適切な混合比および施用誤差が回避され、高度な施用安全性が保証される。成分が互いに偶発的に接触しないように、コーティングされたアプリケーターをさらに保持することができる接着剤リザーバーを含むボトルが、例えば単回用量容器として適している。
【0084】
容器の例を
図1に示す。容器1は、上部2とハウジング3とを含む。上部2は、取っ手部6aおよび作動端6bを有するアプリケーター6を収容する。ハウジング3は、事前に分けられた量の接着剤5を含有するリザーバー4を有する。ハウジングは、異物の透過および内容物の揮発を防止するために、適切な手段によって、例えば膜または封止デバイスによって保護される。単回用量容器とアプリケーターとの組合せを、適用デバイスとも呼ぶ。適用デバイスは、アプリケーターを押し下げたときに、アプリケーターを、接着剤を含むリザーバー内に導入することによって、例えば膜を穿孔し(図示せず)または封止デバイスを切り抜けることによって(図示せず)、作動する。好ましい適用デバイスは、EP1103230A2およびEP1459697A2に記載されている。
【0085】
アプリケーターに適用されるバナジル(IV)塩および必要に応じてスルフィン酸の量は、接着剤約200mgを硬化するのに十分である。接着剤の量は、それぞれの場合に接着剤の量に対して、好ましくは接着剤中でバナジル(IV)塩の濃度が0.04から2重量%、特に好ましくは0.05から1.3重量%、および必要に応じてスルフィン酸の濃度が0.08から4重量%、特に好ましくは0.1から2.6重量%を実現するように計算される。
【0086】
90から110mgの接着剤を含有する単回用量容器が、本発明によれば好ましい。これらは好ましくは、50から80μgのバナジル(IV)塩でコーティングされたアプリケーターと組み合わされる。バナジウム塩が完全に溶解したとき、0.045から0.09重量%のバナジウム塩の濃度が接着剤中で実現される。多回用量容器の場合、事前に定められた量の接着剤を混合し、アプリケーターで吸い上げる。約30mgの接着剤が好ましくは提供され、アプリケーターで吸い上げられ、その結果、50から80μgのバナジウム塩でコーティングされたアプリケーターは、接着剤をいくつかの部分に適用するのに使用することができる。ペン型アプリケーターの場合、3から15mgの接着剤は、典型的には適用ごとに取り出され、その結果、ここでもやはり50μgのバナジウム塩でコーティングされたアプリケーター、例えばカニューレは、数回の適用に適している。
【0087】
本発明によりコーティングされたアプリケーターは、保存安定な形の接着剤を提供することを可能にする。メタクリレートに溶解したバナジウム塩およびスルフィネートは既に、空気から接着剤中に拡散する酸素の存在下で接着剤のラジカル形成および早期の重合をもたらす。本発明によれば、接着剤の早期の硬化は、バナジウム(IV)塩および接着剤の分離によって防止される。接着剤を適用する直前にのみアプリケーターは接着剤に接触するようになり、それによってコーティングがアプリケーターから切り離され、接着剤中に分散する。このように、雰囲気中の酸素による不安定化ラジカル形成が回避され、ペルオキシドまたはヒドロペルオキシドで開始されるコンポジットと確実に共重合する新たに生成された接着剤混合物が、各適用ごとに利用可能である。
【0088】
本発明による接着剤は、ペルオキシドおよびヒドロペルオキシドで開始されるコンポジット、即ちヒドロペルオキシドまたはペルオキシドをラジカル重合の開始剤として含有するコンポジット材料を使用するのに適している。従来の光硬化なしでも、それらはコンポジットと十分に共重合し、強力な結合強度をもたらす。しかしながらそれらは、例えば直接修復処置で一般に使用される光硬化コンポジットと一緒に使用することもできる。この場合、接着剤は、好ましくは光開始剤を含有する。
【0089】
本発明による接着剤セットは、好ましくは、ペルオキシドまたは好ましくはヒドロペルオキシドをラジカル重合の開始剤として含有するコンポジット材料も含有する。コンポジットとは、少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、好ましくは少なくとも1種の(メタ)アクリレートおよび少なくとも1種の充填剤を含有する歯科用材料を意味する。少なくとも1種のヒドロペルオキシドに加えて少なくとも1種のチオ尿素誘導体を含有するコンポジットが、特に好ましい。
【0090】
本発明により好ましいヒドロペルオキシドは、式R-(OOH)nの化合物(式中、Rは脂肪族または芳香族炭化水素ラジカルであり、nは1または2である)である。好ましいRラジカルは、アルキルおよびアリール基である。アルキル基は、直鎖、分岐、または環状とすることができる。環状アルキルラジカルは、脂肪族アルキル基によって置換することができる。4から10個の炭素原子を持つアルキル基が好ましい。アリール基は、非置換、またはアルキル基により置換することができる。好ましい芳香族炭化水素ラジカルは、1または2個のアルキル基で置換されたベンゼンラジカルである。芳香族炭化水素ラジカルは、好ましくは6から12個の炭素原子を含有する。特に好ましいヒドロペルオキシドは、t-アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-ヘキシルヒドロペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、p-イソプロピルクメンヒドロペルオキシド、およびこれらの混合物である。クメンヒドロペルオキシド(CHP)が特に非常に好ましい。
【0091】
好ましいチオ尿素誘導体は、EP1754465A1の段落[0009]に列挙された化合物である。特に好ましいチオ尿素誘導体は、アセチル、アリル、ピリジル、およびフェニルチオ尿素、ヘキサノイルチオ尿素、およびこれらの混合物である。アセチルチオ尿素(ATU)およびヘキサノイルチオ尿素が、特に非常に好ましい。
【0092】
式
【化2】
(式中、
Xは、HまたはYであり、
Yは、1から8個の炭素原子を有するアルキルラジカル、5または6個の炭素原子を有するシクロアルキルラジカル、1から8個の炭素原子を有する塩素、ヒドロキシ、またはメルカプト置換アルキルラジカル、3から4個の炭素原子を有するアルケニルラジカル、6から8個の炭素原子を有するアリールラジカル、塩素、ヒドロキシ、メトキシ、またはスルホニル置換フェニルラジカル、2から8個の炭素原子を有するアシルラジカル、塩素またはメトキシ置換アシルラジカル、7から8個の炭素原子を有するアラルキルラジカル、または塩素もしくはメトキシ置換アラルキルラジカルであり、
Zは、NH
2、NHX、またはNX
2である)を有するチオ尿素誘導体が、さらに好ましい。
【0093】
さらにコンポジットは、元素の銅、鉄、コバルト、ニッケル、およびマンガンの化合物から好ましくは選択される、遷移金属化合物を含有することもできる。金属の銅、特にCu+、鉄、特にFe3+、コバルト、特にCo3+、およびニッケル、特にNi2+の遷移金属化合物が、好ましい。遷移金属は、好ましくはその塩の形で使用される。好ましい塩は、硝酸塩、酢酸塩、2-エチルヘキサン酸塩、およびハロゲン化物であり、塩化物が特に好ましい。
【0094】
遷移金属は錯体形態で使用することもでき、キレート形成配位子を有する錯体が好ましい。好ましい単純な配位子は、2-エチルヘキサノエートおよびTHFである。好ましいキレート形成配位子は、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、脂肪族アミン、特に好ましくは1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、1,4,8,11-テトラアザ-1,4,8,11-テトラメチルシクロテトラデカン(Me4CYCLAM)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、および1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(CYCLAM);ピリジン含有配位子、特に好ましくはN,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、N,N-ビス(2-ピリジルメチル)アミン(BPMA)、N,N-ビス(2-ピリジルメチル)オクチルアミン(BPMOA)、2,2’-ビピリジン、および8-ヒドロキシキノリンである。特に非常に好ましい配位子は、アセチルアセトン、ジメチルグリオキシム、および1,10-フェナントロリンである。
【0095】
電気的に中性の配位子の場合、遷移金属イオンの電荷は、適切な対イオンとバランスをとらなければならない。特に、塩を形成するのに使用される上述のイオンがこの目的に適しており、酢酸塩および塩化物が特に好ましい。塩化物および錯体は、歯科用材料を生成するのに使用されるモノマーへの比較的良好な溶解性によって特徴付けられる。
【0096】
遷移金属錯体の代わりに、錯体形成有機化合物と組み合わせた遷移金属の非錯塩を使用して、歯科用材料を生成することができる。有機配位子は、遷移金属塩と混合した場合に触媒活性錯体を形成する。
【0097】
好ましい銅塩は、Cu(II)カルボキシレート(例えば、酢酸または2-エチルヘキサン酸の)、CuCl2、CuBr2、CuI2、特に好ましくはCuBrであり、特に非常に好ましくはCuClである。好ましい銅錯体は、配位子である、アセチルアセトン、フェナントロリン(例えば、1,10-フェナントロリン(phen))、脂肪族アミン、例えば1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)などとの錯体である。
【0098】
好ましい鉄塩は、FeCl3、FeBr2、およびFeCl2である。好ましい鉄錯体は、配位子である、アセチルアセトン、トリフェニルホスフィン、4,4’-ジ(5-ノニル)-2,2’-ビピリジン(dNbpy)、または1,3-ジイソプロピル-4,5-ジメチルイミダゾール-2-イリデン(PriIm)との錯体である。錯体Fe(acac)2およびFeCl2(PPh3)2が、特に非常に好ましい。
【0099】
好ましいニッケル塩は、NiBr2およびNiCl2であり、好ましいニッケル錯体は、ニッケルアセチルアセトネートおよびNiBr2(PPh3)2である。
【0100】
本発明によれば、銅化合物、銅錯体、および特に銅塩と錯化有機配位子との混合物が好ましく、特に、1価の銅(Cu+)の塩および錯体、例えば塩化銅(I)(CuCl)などである。1価の銅の塩を含有する組成物は、良好な保存安定性によって特徴付けられる。
【0101】
(a) 0.001から5.0重量%、好ましくは0.005から3.0重量%、特に好ましくは0.1から3.0重量%の少なくとも1種のチオ尿素誘導体、
(b) 0.01から5.0重量%、好ましくは0.05から4.0重量%、および特に好ましくは0.1から3.0重量%の少なくとも1種のヒドロペルオキシド、
(c) 5から95重量%、好ましくは10から95重量%、および特に好ましくは10から90重量%の少なくとも1種のラジカル重合性モノマー、
(d) 0から80重量%の充填剤、ならびに
(e) 0.01から5重量%、好ましくは0.1から3重量%、および特に好ましくは0.1から2重量%の添加剤、ならびに必要に応じて
(f) 0.0001から1重量%、好ましくは0.0005から0.5重量%、特に好ましくは0.0007から0.02重量%の少なくとも1種の遷移金属化合物
を含有するコンポジットが、本明細書によれば好ましい。
【0102】
他に指示しない限り、本明細書の全ての量は組成物の総質量に対するものである。接着剤の構成成分として上記に挙げられた成分は、モノマー、充填剤、および接着剤として好ましい。
【0103】
充填レベルは、材料の所望の意図される用途に向けて調整される。好ましくは、充填コンポジットは、50から80重量%の、特に好ましくは70から80重量%の充填剤含量を有し、歯科用セメントは、10から70重量%、特に好ましくは60から70重量%の充填剤含量を有する。プロテーゼ材料は、好ましくは0から10重量%、特に好ましくは0から5重量%の充填剤含量を有する。
【0104】
本発明による接着剤セットは、損傷した歯の修復のため、即ち治療的使用のために、主に歯科医による口腔内施用に適している。それらは特に、間接修復処置に、例えば接着剤セメントとして、またはセラミック、ガラスセラミック、金属、もしくは硬化したコンポジットで作製された歯科修復物を歯にセメントするための接着剤として、適している。しかしながら、それらは直接修復処置のための充填コンポジットと一緒に施用するのにも適している。さらに、例えばインレー、オンレー、クラウン、およびブリッジなどの歯科修復物の生成または修復において、口腔外(非治療的)で使用することができる。
【0105】
本発明を、図面および実施形態の実施例を参照しながら、以下に、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【
図1】
図1は、上部2および下部ハウジング3を備えた2部単回用量容器1を示す。ハウジングは、接着剤5用のリザーバー4を有する。上部は、コーティングされたアプリケーター6を含有する。
図1に示される上部2は、7に穴を有し、上部2が接着剤中に浸漬されると、その穴を通して接着剤5を上部に透過させる。
【0107】
【
図2】
図2は、本発明による接着剤の使用を示す。使用前、容器の下半分2および上半分3が一緒に押され、したがってアプリケーター6は接着剤5に接触するようになる(第1のステップ)。第2のステップでは、アプリケーター6が接着剤5に移動し、したがって使用する準備ができた接着剤7が形成される。第3のステップでは、これは、例えばアプリケーター6で歯の表面に適用することができる。
【実施例0108】
(実施例1から7)
コーティングされたアプリケーターの生成および接着の測定
コーティングされたアプリケーターを生成するために、小型ブラシ(Microbrush Tube Series、製造元:Microbrush)の先端を、指定された順序で表1に列挙される溶液中に浸漬した。各浸漬ステップ後、ブラシを5から10分間、40℃で、乾燥キャビネット内で乾燥した。次いでブラシを、表2に指定される組成を持つ接着剤(約90~110mg)中に浸漬し、接着剤を約3~5秒間、ブラシで撹拌し、次いで歯の表面に適用し、ブラシで歯の表面に20秒間こすり付け(ブラシのシャフトを僅かに変形させるのに十分な、接触圧力)、空気噴霧ユニットからの気流(4bar、油を含まず)で約5秒間乾燥した。接着剤層は、コンポジットを堆積する前に硬化しなかった。
【0109】
次いで二成分自己硬化型ペルオキシドまたはヒドロペルオキシド含有コンポジットを、接着剤でコーティングされた歯の表面に適用した。接着値を、ISO 29022に従いウシ象牙質で決定した。試料の調製および試験片の寸法は、ISO 29022に従った。圧力安定性歯科用コンポジットで作製された、予備重合された円筒(Tetric EvoCeram、高さ約1.5mm、直径約2.37mm)を生成し、端面をサンドブラスターで粗面化し(Renfert Basic Quattro、100μm 酸化アルミニウム、1bar)、試験がなされる合着コンポジットを含む接着剤で前処置した歯の表面に適用した。500gの重りを垂直にガイドすることにより、歯の表面および円筒の縦軸が確実に互いに直交するように配置された。円筒の縦軸に沿った接触圧力を、室温で、光を排除した状態で15分間維持した。コンポジットはこの時間内で完全に硬化した。次いで試験片を、水中に37℃で24時間保存し、ISO 29022に記載されるように破壊するまで負荷をかけた。結合強度の決定を、ISO 29022に従い、ZWICK-ROELL 010型の万能試験機で行った。測定された接着値を表1に列挙する。
【0110】
保存安定性を決定するために、コーティングされたアプリケーターおよび接着剤を50℃で2週間および8週間でも保存した。規則的な間隔で試料を採取し、上述のように接着性をウシ象牙質で決定した。ヒドロペルオキシド含有コンポジットに関する値を表1に示す。
【0111】
実施例1から7は、本発明によりコーティングされたブラシで実現された接着値を示す。ペルオキシド含有およびヒドロペルオキシド含有コンポジットは共に、良好な接着値を実現した。実施例1および2は、最初にバナジウム塩で、次いでスルフィン酸化合物でコーティングされたブラシに関する接着値を示す。これらの実施例では、逆のコーティング順序の場合よりも(実施例3および4)またはバナジウム化合物およびスルフィネートを一緒に適用した場合よりも(実施例5および6)、さらに良好な接着値がペルオキシドコンポジットで測定された。9MPaを超える接着が、エナメル質および象牙質で実現され、これは臨床使用に十分過ぎるほどである。接着剤は、それぞれ50℃で2および8週間の良好な保存安定性によって特徴付けられる。実施例7は、スルフィネートなしであっても、シュウ酸バナジウム(IV)がペルオキシド含有およびヒドロペルオキシド含有コンポジットにより共に優れた接着値を生じることを示す。
【表1】
【表2】