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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159122
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】セメント質組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20221006BHJP
   C04B 14/04 20060101ALI20221006BHJP
   C04B 14/48 20060101ALI20221006BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20221006BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/04 Z
C04B14/48 Z
C04B24/02
C04B24/26 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053347
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021061705
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】石井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】石田 征男
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 竜
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MD01
4G112PA03
4G112PA19
4G112PB04
4G112PB31
4G112PC03
(57)【要約】
【課題】フレッシュ時(未硬化時)には、現場打ちでの打設作業に適する流動性を有し、硬化後には、高い圧縮強度及び小さな自己収縮率を有するとともに、勾配を有する施工箇所に打設する場合であっても、流下による形状の変化がほとんど生じない繊維補強セメント質組成物を提供する。
【解決手段】セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比が1.30~3.00であり、水粉体比が10~30%である、セメント質組成物。セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維と、収縮低減剤を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比が3.00~5.00であり、水粉体比が、10~30%であり、繊維のアスペクト比が25~150である、セメント質組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維を含むセメント質組成物であって、
ペースト細骨材空隙比が、1.30~3.00であり、
水粉体比が、10~30%であることを特徴とするセメント質組成物。
【請求項2】
上記粉体は、BET比表面積が5~25m/gのポゾラン質微粉末を含む請求項1に記載のセメント質組成物。
【請求項3】
上記セメント質組成物は、「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合におけるフロー値が、90~180mmの範囲内となるものである請求項1又は2に記載のセメント質組成物。
【請求項4】
「JIS A 1147:2007 コンクリートの凝結時間試験方法」に記載されているモルタルの物性の測定方法による凝結の終結時間が、8時間以内である請求項1~3のいずれか1項に記載のセメント質組成物。
【請求項5】
上記セメント質組成物は、ブレーン比表面積が3,500~10,000cm/gの無機粉末(ただし、セメントを除く。)と、膨張材のいずれか一方または両方を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のセメント質組成物。
【請求項6】
上記セメント質組成物が、収縮低減剤を含む請求項1~5のいずれか1項に記載のセメント質組成物。
【請求項7】
上記細骨材の粗粒率が、1.0~2.4である請求項1~6のいずれか1項に記載のセメント質組成物。
【請求項8】
セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維と、収縮低減剤を含むセメント質組成物であって、
ペースト細骨材空隙比が、3.00~5.00であり、
水粉体比が、10~30%であり、
上記繊維のアスペクト比が、25~150であることを特徴とするセメント質組成物。
【請求項9】
上記セメントを含む粉体100質量部に対する上記細骨材の量が、15~50質量部である請求項8に記載のセメント質組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のセメント質組成物を製造するための方法であって、
上記ペースト細骨材空隙比の値が特定の範囲内で、かつ、上記水粉体比が10~30%となるように、上記粉体、上記水、及び、上記細骨材の各量を定める材料組成決定工程、
を含むセメント質組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維を含むモルタル等のセメント質組成物(本明細書中、「繊維補強セメント質組成物」ともいう。)が知られている。
例えば、特許文献1に、セメント、シリカフューム、石炭ガス化フライアッシュ、石膏、特定の膨張材、特定の収縮低減剤、及び金属繊維の各々を、特定の量で含有することを特徴とする低収縮超高強度繊維補強セメント組成物が記載されている。
また、繊維補強セメント組成物を現場打ちで施工することが、知られている。
例えば、特許文献2に、セメント、ポゾラン質微粉末、粒径2mm以下の細骨材、セメント分散剤(例えば、ポリカルボン酸系高性能減水剤)、硬化促進剤、補強用繊維(例えば、鋼繊維)および水を含む、特定の物性を有するセメント組成物が記載されている。
このセメント組成物は、現場打ちで打設する時の作業性が良好であり、早期に交通開放が可能な舗装等の用途に好適に用いうるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-84095号公報
【特許文献2】特開2018-168037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維補強セメント質組成物は、フレッシュ時(未硬化時)には、適度な流動性を有し、硬化後には、圧縮強度が高くかつ自己収縮率が小さいことが望ましい。
このような優れた物性を有する組成物を得るためには、水粉体比(水/(セメントを含む粉体)の質量比)を高めて、流動性を向上させたり、あるいは、セメント分散剤(例えば、高性能減水剤)を用いて、水量の過度な増大を抑えつつ硬化後の物性(圧縮強度及び自己収縮率)を向上させるといった、材料組成の最適化が考えられる。
しかし、繊維補強セメント質組成物を、勾配を有する施工箇所に現場打ちで打設する場合、該組成物に、わずかな流下が生じ、該組成物からなる硬化体の形状が、設計上の形状とは若干、異なる場合がある。
本発明の目的は、フレッシュ時(未硬化時)には、現場打ちでの打設作業に適する流動性を有し、硬化後には、高い圧縮強度及び小さな自己収縮率を有するとともに、勾配を有する施工箇所に打設する場合であっても、流下による形状の変化がほとんど生じない繊維補強セメント質組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比(本明細書中、「Kp」と表記することがある。)が、特定の範囲内であり、水粉体比が、10~30%であるセメント質組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の[1]~[10]を提供するものである。
【0006】
[1] セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比(Kp)が、1.30~3.00であり、水粉体比が、10~30%であることを特徴とするセメント質組成物。
[2] 上記粉体は、BET比表面積が5~25m/gのポゾラン質微粉末を含む、上記[1]に記載のセメント質組成物。
[3] 上記セメント質組成物は、「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合におけるフロー値が、90~180mmの範囲内となるものである、上記[1]又は[2]に記載のセメント質組成物。
[4] 「JIS A 1147:2007 コンクリートの凝結時間試験方法」に記載されているモルタルの物性の測定方法による凝結の終結時間が、8時間以内である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[5] 上記セメント質組成物は、ブレーン比表面積が3,500~10,000cm/gの無機粉末(ただし、セメントを除く。)と、膨張材のいずれか一方または両方を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[6] 上記セメント質組成物が、収縮低減剤を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[7] 上記細骨材の粗粒率が、1.0~2.4である、上記[1]~[6]のいずれかに記載のセメント質組成物。
[8] セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維と、収縮低減剤を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比が、3.00~5.00であり、水粉体比が、10~30%であり、上記繊維のアスペクト比が、25~150であることを特徴とするセメント質組成物。
[9] 上記セメントを含む粉体100質量部に対する上記細骨材の量が、15~50質量部である、上記[8]に記載のセメント質組成物。
[10] 上記[1]~[9]のいずれかに記載のセメント質組成物を製造するための方法であって、上記ペースト細骨材空隙比の値が特定の範囲内で、かつ、上記水粉体比が10~30%となるように、上記粉体、上記水、及び、上記細骨材の各量を定める材料組成決定工程、を含むセメント質組成物の製造方法。
【0007】
本発明のセメント質組成物は、フレッシュ時(未硬化時)には、現場打ちでの打設作業に適する流動性を有し、硬化後には、高い圧縮強度及び小さな自己収縮率を有するとともに、勾配を有する施工箇所に打設する場合であっても、流下による形状の変化がほとんど生じないものである。
本発明のセメント質組成物は、勾配を有する床版の補修の用途等に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[A.本発明のセメント質組成物の第一の実施形態]
本発明のセメント質組成物(以下、「組成物」と略すことがある。)は、セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維を含む組成物であって、ペースト細骨材空隙比が、1.30~3.00であり、水粉体比が、10~30%の組成物である。
セメントの例としては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等が挙げられる。
【0009】
セメントを含む粉体中のセメント以外の粉体の例としては、BET比表面積が5~25m/gのポゾラン質微粉末(以下、「ポゾラン質微粉末」と略すことがある。)や、ブレーン比表面積が3,500~10,000cm/gの無機粉末(以下、「無機粉末」と略すことがある。)等が挙げられる。
ここで、ポゾラン質微粉末としては、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ粉末、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。
中でも、シリカフューム及びシリカダストは、BET比表面積が5~25m/gであり、粉砕を行う必要がないので、本発明において好ましく用いられる。
【0010】
ポゾラン質微粉末のBET比表面積は、5~25m/g、好ましくは7~20m/g、より好ましくは8~16m/gである。該値が5m/g以上であると、組成物中のポゾラン質微粉末の充填性が向上し、組成物の硬化体の圧縮強度等が増大する。該値が25m/g以下であると、所望の流動性を得るための水量が少なくなり、組成物の硬化後の圧縮強度等が増大する。
ポゾラン質微粉末の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは3~45質量部、より好ましくは5~40質量部、さらに好ましくは8~35質量部、さらに好ましくは10~33質量部、特に好ましくは12~30質量部である。該量が3質量部以上であると、組成物の流動性、圧縮強度等をより向上させることができる。該量が45質量部以下であると、組成物の流動性をより向上させることができる。
【0011】
ブレーン比表面積が3,500~10,000cm/gの無機粉末としては、石英粉末、石灰石粉末、アルミナ粉末等が挙げられる。
無機粉末のブレーン比表面積は、3,500~10,000cm/g、好ましくは5,000~9,500cm/g、6,500~8,500cm/gである。該値が3,500cm/g以上であると、セメントとのブレーン比表面積の差が大きくなり、組成物の流動性をより向上させることができる。該値が10,000cm/g以下であると、粉砕の手間をより軽減することができ、また、組成物の流動性をより向上させることができる。
無機粉末の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは20~55質量部、より好ましくは25~50質量部、特に好ましくは30~45質量部である。該量が20質量部以上であると、無機粉末が有する粒度に起因して、組成物の流動性をより向上させることができる。該量が55質量部以下であると、所望の流動性を得るために水量を過度に増大させなくてもよいので、圧縮強度等の低下を避けることができる。
【0012】
本発明で用いる粉体の一部として、膨張材を配合してもよい。
膨張材としては、石灰系膨張材等が挙げられる。
膨張材の量は、組成物の単位体積(1m)中、好ましくは1~100kg、より好ましくは5~80kg、さらに好ましくは10~60kg、特に好ましくは20~50kgである。該量が1kg以上であると、組成物の硬化体の収縮量をさらに低減させることができる。該量が100kg以下であると、異常な膨張による耐久性の低下を避けることができる。
【0013】
細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等が挙げられる。
細骨材の粒度分布は、好ましくは、2.0mm以下の粒径を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものであり、より好ましくは、1.5mm以下の粒径を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものであり、さらに好ましくは、1.0mm以下の粒径を有する粒体を80質量%以上の割合で含むものであり、特に好ましくは、0.15~0.6mmの粒径を有する粒体を80質量%以上(好ましくは90質量%以上)の割合で含むものである。
1.5mmを超える粒径を有する粒体の割合を小さくすることによって、組成物の流動性、硬化後の圧縮強度等を高めることができる。0.15mm以下(特に、75μm未満)の粒径を有する粒体の割合を小さくすることによって、組成物の流動性を向上させることができる。
【0014】
細骨材の実積率は、好ましくは54%以上、より好ましくは57%以上である。該値が54%以上であると、組成物の流動性をより向上させることができる。
細骨材の実積率の上限値は、特に限定されないが、通常、65%である。
細骨材の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは230質量部以下、より好ましくは30~210質量部、さらに好ましくは50~200質量部、特に好ましくは60~180質量部である。該量が230質量部以下であると、組成物の曲げ強度が、より大きくなる。
【0015】
本発明において、細骨材に加えて、粗骨材を配合することができる。
粗骨材としては、川砂利、陸砂利、砕石等が挙げられる。
粗骨材の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、特に好ましくは80質量部以下である。該量が120質量部以下であると、組成物の圧縮強度等をより高めることができる。
【0016】
水の量は、水粉体比が10~30%となる量である。
水粉体比は、10~30%、好ましくは11~25%、より好ましくは12~21%、さらに好ましくは13~19%、特に好ましくは14~17%である。該比が10%未満であると、組成物の流動性が低下する。該比が30%を超えると、組成物の圧縮強度が小さくなる。
水粉体比は、以下の式によって算出される。
水粉体比(%)=[水の質量]×100÷[セメントを含む粉体の質量]
【0017】
セメント分散剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、または高性能AE減水剤が挙げられる。
中でも、減水効果が大きい等の点で、高性能減水剤が好ましい。
特に、組成物の流動性及び圧縮強度等の向上の点で、ポリカルボン酸系の高性能減水剤が、より好ましい。
セメント分散剤の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは0.5~3.0質量部、より好ましくは0.7~2.5質量部、特に好ましくは0.9~2.1質量部である。該量が0.5質量部以上であると、減水効果がより高くなる。該量が2.5質量部以下であると、強度発現性がより向上する。
【0018】
本発明において、収縮低減剤を用いることができる。
収縮低減剤としては、低級アルコール系(例えば、低級アルコールのアルキレンオキシド付加物)、高級アルコール系(例えば、高級アルコールのアルキレンオキシド付加物)等が挙げられる。
収縮低減剤の量は、組成物の単位体積(1m)中、好ましくは1~30kg、より好ましくは3~25kg、特に好ましくは5~20kgである。該量が1kg以上であると、組成物の硬化体の収縮量をさらに低減させることができる。該量が30kg以下であると、収縮低減剤の過剰な配合によるコストの増大を抑えることができる。
本発明において、硬化促進剤を用いることができる。
硬化促進剤としては、亜硝酸塩系、チオシアン酸塩系、硫酸塩系、チオ硫酸塩系、塩化物系、アルミナ系等の硬化促進剤や、トリエタノールアミン、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、カルシウムシリケート水和物等が挙げられる。
中でも、亜硝酸塩系の硬化促進剤は、組成物の流動性を低下させずに、凝結の始発時間を早めることができる点で、本発明で好ましく用いられる。
【0019】
繊維としては、金属繊維、有機繊維、炭素繊維等が挙げられる。
金属繊維としては、鋼繊維等が挙げられる。
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維、高強力アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、高強力ポリアリレート繊維、バサルト繊維、PBO繊維等が挙げられる。
繊維の寸法は、組成物中における繊維の材料分離の防止や、組成物の流動性及び引張強度の向上等の観点から、好ましくは、直径が0.05~0.5でかつ長さが5~30mmであり、より好ましくは、直径が0.1~0.4でかつ長さが8~25mmであり、特に好ましくは、直径が0.1~0.3でかつ長さが12~20mmである。
繊維の量は、組成物中、好ましくは0.5~4体積%、より好ましくは1~3体積%、特に好ましくは1.5~2.5体積%である。該量が0.5体積%以上であると、繊維を配合することによる効果(曲げ強度の増大等)をより高めることができる。該量が4体積%を超えると、組成物の流動性が低下する。
【0020】
本発明の組成物のペースト細骨材空隙比(Kp)は、1.30~3.00、好ましくは1.30~2.80、さらに好ましくは1.30~2.60、さらに好ましくは1.30~2.30、さらに好ましくは1.35~2.20、特に好ましくは1.38~2.10である。
該値が1.30未満であると、組成物の圧縮強度が、小さくなる。該値が3.00を超えると、勾配を有する傾斜面に、組成物を打設したときに、組成物の硬化物の形状の設計寸法に対する精度が低くなる。
【0021】
ペースト細骨材空隙比(Kp)とは、細骨材の粒体間の空隙に対するペーストの体積比(ペースト/細骨材の粒体間の空隙)をいう。
具体的には、ペースト細骨材空隙比(Kp)は、以下の式で表される。
Kp=[組成物の単位体積当たりのペーストの体積(L/m)]÷[組成物の単位体積当たりの細骨材の粒体間の空隙の体積(L/m)]
上記式中、組成物の単位体積当たりのペーストの体積(L/m)は、以下の式によって算出することができる。
[組成物の単位体積当たりのペーストの体積(L/m)]={[単位水量(kg/m)]÷[水の密度(g/cm)]}+{[単位粉体量(kg/m)]÷[粉体の密度(g/cm)]}
ここで、単位水量及び単位粉体量は、配合設計にて設定する値である。
水の密度は、一般的に用いられている「温度と密度の換算表」から求まる値である。
粉体の密度は、「JIS R 5201」(セメントの物理試験方法)に準拠する方法、または、ガスを使用した乾式の密度測定機器等を用いて、実験にて求まる値である。
【0022】
また、上記式中、[組成物の単位体積当たりの細骨材の粒体間の空隙の体積(L/m)]は、以下の式によって算出することができる。
[組成物の単位体積当たりの細骨材の粒体間の空隙の体積(L/m)]=[粒体間の空隙を含む細骨材の体積(L/m)]-[単位細骨材体積(L/m)]
ここで、式中の[粒体間の空隙を含む細骨材の体積(L/m)]、及び、[単位細骨材体積(L/m)]は、各々、以下の式によって算出することができる。
[粒体間の空隙を含む細骨材の体積(L/m)]=[単位細骨材体積(L/m)]÷{[細骨材の実積率(%)]÷100}
[単位細骨材体積(L/m)]=[単位細骨材量(kg/m)]÷[[細骨材の密度(g/cm)]
ここで、単位細骨材量は、配合設計にて設定する値である。
細骨材の密度は、「JIS A 1109」(細骨材の密度及び吸水率試験方法)に準拠する方法を用いて、実験にて求まる値である。
【0023】
本発明の組成物は、以下の物性を有する。
(a)硬化前(フレッシュ状態)の物性
(a-1)0打フロー
「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法において15回の落下運動を行わない場合におけるフロー値(本明細書中、「0打フロー」ともいう。)は、好ましくは90~170mm、より好ましくは90~150mm、さらに好ましくは90~130mm、特に好ましくは100~120mmである。
該値が90mm以上であると、組成物の流動性がより良好になり、組成物の打設時の作業性がより良好になる。該値が130mm以下であると、勾配を有する傾斜面に組成物を打設した場合における組成物の硬化物の形状の設計寸法に対する精度が、より高くなる。
なお、0打フローの測定は、0打フローが非常に大きくても、通常、90秒以内で0打ちフローの増大が止まるため、フローコーンを取り去った時から90秒が経過した時に行うのが好ましいが、0打フローが90~170mmの範囲内の場合、90秒を経過せずとも、フローコーンを取り去った直後から0打ちフロー値に変化はないため、90秒を経過する前の値を0打フローの測定値としてもよい。
【0024】
(a-2)15打フロー
「JIS R 5201:2015 セメントの物理試験方法」に記載されているフロー値の測定方法に準拠して測定されるフロー値(上記「0打フロー」と異なり、15回の落下運動を行うので、本明細書中、「15打フロー」ともいう。)は、好ましくは120~200mm、より好ましくは120~185mm、さらに好ましくは120~175mm、より好ましくは125~170mm、特に好ましくは130~165mmである。
該値が120mm以上であると、組成物の流動性がより良好になり、組成物の打設時の作業性がより良好になる。該値が200mm以下であると、勾配を有する傾斜面に組成物を打設したときの組成物の硬化物の形状の精度が、より高くなる。
【0025】
(b)硬化後の物性
(b-1)圧縮強度
土木学会規準「JSCE-G 505-2010」(円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法(案))に準拠して測定した圧縮強度は、材齢28日の値として、好ましくは90N/mm以上、より好ましくは110N/mm以上、特に好ましくは130N/mm以上である。
(b-2)凝結時間
「JISA1147:2019」(コンクリートの凝結時間試験方法)に準拠して測定した凝結時間は、以下のとおりである。
始発時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは2時間10分以上、特に好ましくは2時間20分以上である。始発時間が2時間以上であると、組成物の可使時間を十分に確保することができる。
終結時間は、好ましくは8時間以下、より好ましくは7時間45分以下、特に好ましくは7時間30分以下である。終結時間が8時間以下であると、例えば、組成物を舗装の補修用材料として用いた場合に、より早く交通を開放することができる。
なお、凝結時間は、繊維を配合しないで測定するものとする。
【0026】
(b-3)勾配を与えた場合の寸法差
型枠(内寸:長さ40cm×幅10cm×高さ10cm)内に組成物を収容した後、長さ方向の一端を持ち上げて、11%(長さ100cm当たり高さ11cm)の勾配を与えた。以下、持ち上げた側の型枠の端部を、「上側」と称し、持ち上げた側とは反対側の型枠の端部を、「下側」と称する。
材齢1日で、組成物の硬化体を脱型して、この硬化体の長さ方向の両端の各高さ寸法を測定し、得られた寸法と、型枠の内寸(高さ10cm)との寸法差を算出した。
具体的には、以下の2つの値を算出した。
[硬化体の下側の端部における寸法差]=[脱型した硬化体の下側の端部の高さ寸法]-[100mm(型枠の内寸における高さ寸法)]
[硬化体の上側の端部における寸法差]=[脱型した硬化体の上側の端部の高さ寸法]-[100mm(型枠の内寸における高さ寸法)]
【0027】
(b-4)収縮量
日本コンクリート工学会(JCI)の超流動コンクリート研究委員会の「高流動コンクリートの自己収縮試験方法」に準拠して、型枠(内寸:長さ160cm×幅40cm×高さ40cm)内に組成物を収容し、この組成物(試験体)の中央に、埋込型ひずみゲージを設置することによって、試験体の自己収縮量を測定した。
試験体は、材齢1日で脱型し、封緘状態にて恒温(20℃)で養生した。組成物の硬化体(試験体)の自己収縮量の測定は、材齢182日の時点で行った。
【0028】
次に、本発明の組成物の製造方法について説明する。
本発明の組成物の製造方法は、ペースト細骨材空隙比の値が1.30~3.00で、かつ、水粉体比が10~30%となるように、粉体(セメント及び他の粉末)、水、及び、細骨材の各量を定める材料組成決定工程、を含む。
本発明の組成物の製造方法は、材料組成決定工程に加えて、組成物を構成する各材料を混練して、組成物を得る組成物調製工程、を含むことができる。
混練の方法の一例としては、材料の一部(例えば、セメント、他の粉体、及び、細骨材)をミキサに投入して混合(空練り)した後、材料の残部の一部(例えば、水、及び、セメント分散剤)を投入して混練し、最後に、材料の残部の残り(例えば、繊維)をミキサに投入して混練する方法が挙げられる。
【0029】
[B.本発明のセメント質組成物の第二の実施形態]
本発明のセメント質組成物は、セメントを含む粉体と、細骨材と、水と、セメント分散剤と、繊維と、収縮低減剤を含むセメント質組成物であって、ペースト細骨材空隙比(Kp)が、3.00~5.00であり、水粉体比が、10~30%であり、上記繊維のアスペクト比が、25~150のセメント質組成物である。
該セメント質組成物は、ペースト細骨材空隙比(Kp)の数値範囲等が異なることを除き、上述の第一の実施形態のセメント質組成物と同じである。
【0030】
上述の第一の実施形態においては、ペースト細骨材空隙比が1.30~3.00でありかつ水粉体比が10~30%であるなどの条件を満たすセメント質組成物によって、フレッシュ時(未硬化時)には、材料分離を生じさせずに、打設作業に適する流動性を得ることができ、硬化後には、大きな圧縮強度、及び、小さな収縮量が得られるとともに、勾配を有する施工箇所に打設する場合であっても、流下による形状の変化がほとんど生じないなどの効果を得ることができる。
しかし、狭隘な場所にセメント質組成物(モルタル)を充填する場合や、厚みの小さいモルタル成形物を作製する場合などにおいては、勾配を有する施工箇所における寸法精度の向上よりも、流動性をより向上させることのほうが、より重要となるケースがある。
また、部材の厚さを大きくすることができない場合や、大型車の交通量が多い道路に適用する場合などでは、引張強度をさらに向上させることが望ましい。このような観点から、細骨材の量を減らしたセメント質組成物のニーズがある。この場合、細骨材の量を減らすことによって、モルタル硬化体の収縮量が大きくなるという問題がある。
そこで、本発明の第二の実施形態では、第一の実施形態で得られる上述の優れた物性に加えて、細骨材の量が小さいにもかかわらず、硬化時の収縮量を小さくすることのできる、上述の構成を有するセメント質組成物を提供する。
【0031】
本発明(第二の実施形態)において、ペースト細骨材空隙比(Kp)は、3.00~5.00である。
該比が3.00未満であると、流動性が低下する。該比が5.00を超えると、勾配を有する傾斜面に、組成物を打設したときに、組成物の硬化物の形状の設計寸法に対する精度が低くなる。
水粉体比は、10~30%、好ましくは11~20%、特に好ましくは12~15%である。
該比が10%未満であると、流動性が低下する。該比が30%を超えると、圧縮強度等が低下する。
繊維のアスペクト比は、25~150である。
該比が25未満であると、引張強度等が低下する。該比が150を超えると、流動性が低下する。
細骨材の量は、セメントを含む粉体100質量部に対して、好ましくは15~50質量部、より好ましくは18~46質量部、特に好ましくは21~44質量部である。
【0032】
第二の実施形態においては、上述の第一の実施形態で説明した0打フロー等の物性に優れることに加えて、硬化体の引張強度が大きいという利点がある。
引張強度は、日本コンクリート工学会規準「JCI-S-002-2003」(切欠きはりを用いた繊維コンクリートの荷重-変位曲線試験方法」に準拠して測定することができる。
該引張強度は、好ましくは7.5N/mm以上、より好ましくは8.0N/mm以上、さらに好ましくは8.5N/mm以上、さらに好ましくは9.0N/mm以上、さらに好ましくは9.5N/mm以上、特に好ましくは10.0N/mm以上である。
【0033】
本発明の組成物(第一の実施形態、及び、第二の実施形態)は、例えば、床版の補修用の材料として用いることができる。
本発明の組成物は、床版の補修すべき箇所に、組成物を打設して用いるものである。この際、床版の上面が傾斜していても、傾斜面において組成物が流下することなく、補修を行うことができる。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)セメント:中庸熱ポルトランドセメント(ブレーン比表面積:3,180cm/g)
(2)ポゾラン質微粉末:シリカフューム(BET比表面積:11m/g)
(3)無機粉末:石英粉末(ブレーン比表面積:7,500cm/g)
(4)膨張材:石灰系膨張材
(5)骨材A:珪砂(0.15~0.6mmの粒径を有する粒体を95質量%以上の割合で含むもの;実積率:59%;粗粒率:1.9)
(6)骨材B:珪砂(0.15~0.6mmの粒径を有する粒体を95質量%以上の割合で含むもの;実積率:60%;粗粒率:1.3)
(7)繊維(第一の実施形態;実施例1~13、比較例1~9):鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:15mm)
(8)繊維(第二の実施形態;実施例14~19、比較例10~14):鋼繊維(直径:0.20mm、長さ:3~34mm)
(9)セメント分散剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤(液状;固形分の含有率:27.4質量%)
(10)収縮低減剤:低級アルコール系収縮低減剤
(11)水:上水道水
【0035】
[本発明のセメント質組成物の第一の実施形態に関する実験例]
[実施例1]
表1に示す各材料を用いて、セメント質組成物を調製した。
具体的には、セメント、他の粉体、及び、細骨材をパン型ミキサ(容量:55リットル)に投入して、30秒間、空練りした後、水、及び、セメント分散剤を投入して、7分間、混練し、最後に、繊維(及び、後述の実施例6等では収縮低減剤)をミキサに投入して、さらに2分間、混練し、組成物(体積:20リットル)を得た。
得られた組成物について、表2に示す各試験を行った。なお、各試験の詳細は、上述のとおりである。
【0036】
[実施例2~13、比較例1~9]
表1に示す材料を用いた以外は実施例1と同様にして、実験を行った。
以上の結果を表2に示す。
なお、表1中、「Kp」はペースト細骨材空隙比である。「水粉体比(%)」は質量基準である。「微粉末」はポゾラン質微粉末である。「無機粉末」は石英粉末である。「分散剤」は、セメント分散剤である。「部」は「質量部」である。「繊維(%)」は、組成物中の体積基準の割合(内割)である。
ここで、「内割」とは、繊維を除く組成物の材料の合計量100体積%に対する繊維の量(体積割合)ではなく、繊維を含む組成物の材料の合計量100体積%に対する繊維の量(体積割合)を意味する。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
表2から、実施例1~13では、フロー値(流動性)、凝結時間(可使時間及び早期道路開放)、圧縮強度(舗装の補修部分の強さ)、勾配を与えた時の寸法差(勾配を有する舗装への適用性)、及び、収縮量のいずれについても、優れた結果を得ていることがわかる。
なお、実施例5では、水粉体比が10%で小さいため、他の実施例に比べて、混練に要する時間が長かった。
一方、比較例2、5~9では、少なくとも、勾配を与えた時の寸法差が大きいという点で、実施例1~13に比べて、劣っていた。
比較例3では、勾配を与えた時の寸法差については、実施例と同等に優れていたものの、圧縮強度が非常に小さいという点で、劣っていた。
【0040】
[本発明のセメント質組成物の第二の実施形態に関する実験例]
[実施例14~19、比較例10~14]
表3に示す各材料を用いた以外は実施例1と同様にして、セメント質組成物(実施例14~19、比較例10~14)を調製し、表4に示す各物性を測定した。
結果を表4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
表3~表4に示すとおり、実施例14~19では、適度な流動性(0打フロー、15打フロー)を有し、引張強度が大きく、勾配を与えた場合の寸法精度が高く、収縮量が小さいなどの結果を得ている。
一方、比較例10では、Kp(ペースト細骨材空隙比)が、本発明で規定する範囲(3.00~5.00)を下回るため、流動性(フロー値)が劣り、また、収縮量も大きい。比較例11では、本発明で規定する範囲(3.00~5.00)を上回るため、勾配を与えた場合の寸法精度が、非常に低い。
比較例12では、繊維のアスペクト比が、本発明で規定する範囲(25~150)を下回るため、引張強度が小さい。比較例13では、繊維のアスペクト比が、本発明で規定する範囲(25~150)を上回るため、流動性(フロー値)が劣る。
比較例14では、収縮低減剤を配合していないため、収縮量が非常に大きい。