(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159126
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221006BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20221006BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20221006BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20221006BHJP
C08G 81/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/02
C08L1/02
C08K9/04
C08G81/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053790
(22)【出願日】2022-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2021062779
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】馬場 敦志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 颯太
(72)【発明者】
【氏名】河原 一文
【テーマコード(参考)】
4J002
4J031
【Fターム(参考)】
4J002AB012
4J002CL001
4J002FA042
4J002FB082
4J002GN00
4J002GQ00
4J031AA03
4J031AA55
4J031AB01
4J031AB06
4J031AC07
4J031AD01
4J031AF19
4J031AF23
(57)【要約】
【課題】低線膨張係数と高伸度とが両立された樹脂組成物の製造方法の提供。
【解決手段】ポリアミドと変性セルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、セルロースナノファイバーを、不飽和多価カルボン酸又はその無水物である酸成分で変性して、カルボキシル基を有する変性セルロースナノファイバーを得る変性工程、及び前記変性セルロースナノファイバーと、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たすポリアミドとを混合して、前記変性セルロースナノファイバーと前記ポリアミドとを共有結合させる混合工程、を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドと変性セルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
セルロースナノファイバーを、不飽和多価カルボン酸又はその無水物である酸成分で変性して、カルボキシル基を有する変性セルロースナノファイバーを得る変性工程、及び
前記変性セルロースナノファイバーと、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たすポリアミドとを混合して、前記変性セルロースナノファイバーと前記ポリアミドとを共有結合させる混合工程、
を含む、方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物、及び前記樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得た不溶分の窒素原子濃度(原子%)をX線光電子分光法で測定したときに、前記樹脂組成物の窒素原子濃度に対する前記不溶分の窒素原子濃度の比率が1~30原子%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアミドがポリアミド6であり、前記不溶分の窒素原子濃度が5~12原子%である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸成分が無水マレイン酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物の引張破断歪が、10%~100%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基濃度が、0.03mmol/g以上、0.7mmol/g以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記セルロースナノファイバーの平均置換度が、0.005~0.2である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記セルロースナノファイバーの表面カルボキシル基濃度が0.01mmol/g以上、0.7mmol以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記変性工程において、前記変性セルロースナノファイバーの水中スラリーを調製し、前記水中スラリーのpHが6~8である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアミドとセルロースナノファイバーとを混合する混合工程を含み、
前記樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得られる第1の不溶分の重量をW1とし、前記第1の不溶分を、温度25℃及びpH13の液中で24時間撹拌して得られる第2の不溶分の重量をW2としたときの重量減少率W2/W1×100(%)が、30%以上90%以下である、方法。
【請求項11】
前記ポリアミドが、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上1000nm以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記セルロースナノファイバーの結晶化度が、55%以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記セルロースナノファイバーの酸不溶成分平均含有率が、10質量%以下である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得られる第1の不溶分の重量をW1とし、前記第1の不溶分を、温度25℃及びpH13の液中で24時間撹拌して得られる第2の不溶分の重量をW2としたときの重量減少率W2/W1×100(%)が、30%以上90%以下である、樹脂組成物。
【請求項16】
前記ポリアミドが、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす、請求項15に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されているが、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多いことから、樹脂と各種フィラーとをコンポジットしたものが一般的に用いられている。近年、このようなフィラーとして、セルロースナノファイバー(CNF)等の天然物由来繊維を使用することが検討されている。CNFは、軽量性、及び廃棄時の少ない環境負荷に加えて、樹脂組成物に対する高い物性向上効果という利点を有する。特に、このようなCNFを、耐熱性、寸法安定性等に優れるポリアミドと組み合わせてなる樹脂組成物が、従来種々提案されている。
【0003】
特許文献1は、カルボキシル基を含有する変性セルロース繊維の少なくとも一部のカルボキシル基にアミン化合物がイオン結合又はアミド結合し、更に、該変性セルロース繊維の少なくとも一部の水酸基にカルボン酸がエステル結合してなる変性セルロース繊維であって、該アミン化合物及び該カルボン酸がそれぞれ炭素数5~30の脂肪族及び/又は芳香族の炭化水素基を有する、変性セルロース繊維を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される技術は、乾燥後に疎水性の溶媒や疎水性の高分子に十分に分散させることができるように疎水化された変性セルロースナノファイバーを得ようとするものである。例えば、このような変性セルロースナノファイバーを樹脂と組み合わせることで、寸法安定性にある程度優れる樹脂組成物を製造できると考えられる。しかし、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物において、近年、良好な寸法安定性(すなわち低い線膨張係数)に加えて高い伸度が求められる場合がある。従来のセルロースナノファイバー含有樹脂組成物は、線膨張係数を低く抑えつつ高い伸度を得るという点では満足できるものではなかった。
【0006】
本発明は上記の課題を解決し、低線膨張係数と高伸度とが両立された樹脂組成物及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] ポリアミドと変性セルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
セルロースナノファイバーを、不飽和多価カルボン酸又はその無水物である酸成分で変性して、カルボキシル基を有する変性セルロースナノファイバーを得る変性工程、及び
前記変性セルロースナノファイバーと、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たすポリアミドとを混合して、前記変性セルロースナノファイバーと前記ポリアミドとを共有結合させる混合工程、
を含む、方法。
[2] 前記樹脂組成物、及び前記樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得た不溶分の窒素原子濃度(原子%)をX線光電子分光法で測定したときに、前記樹脂組成物の窒素原子濃度に対する前記不溶分の窒素原子濃度の比率が1~30原子%である、上記項目1に記載の方法。
[3] 前記ポリアミドがポリアミド6であり、前記不溶分の窒素原子濃度が5~12原子%である、上記項目2に記載の方法。
[4] 前記酸成分が無水マレイン酸である、上記項目1~3のいずれかに記載の方法。
[5] 前記樹脂組成物の引張破断歪が、10%~100%である、上記項目1~4のいずれかに記載の方法。
[6] 前記変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基濃度が、0.03mmol/g以上、0.7mmol/g以下である、上記項目1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 前記セルロースナノファイバーの平均置換度が、0.005~0.2である、上記項目1~6のいずれかに記載の方法。
[8] 前記セルロースナノファイバーの表面カルボキシル基濃度が0.01mmol/g以上、0.7mmol以下である、上記項目1~7のいずれかに記載の方法。
[9] 前記変性工程において、前記変性セルロースナノファイバーの水中スラリーを調製し、前記水中スラリーのpHが6~8である、上記項目1~8のいずれかに記載の方法。
[10] ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
ポリアミドとセルロースナノファイバーとを混合する混合工程を含み、
前記樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得られる第1の不溶分の重量をW1とし、前記第1の不溶分を、温度25℃及びpH13の液中で24時間撹拌して得られる第2の不溶分の重量をW2としたときの重量減少率W2/W1×100(%)が、30%以上90%以下である、方法。
[11] 前記ポリアミドが、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす、上記項目10に記載の方法。
[12] 前記セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2nm以上1000nm以下である、上記項目1~11のいずれかに記載の方法。
[13] 前記セルロースナノファイバーの結晶化度が、55%以上である、上記項目1~12のいずれかに記載の方法。
[14] 前記セルロースナノファイバーの酸不溶成分平均含有率が、10質量%以下である、上記項目1~13のいずれかに記載の方法。
[15] ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得られる第1の不溶分の重量をW1とし、前記第1の不溶分を、温度25℃及びpH13の液中で24時間撹拌して得られる第2の不溶分の重量をW2としたときの重量減少率W2/W1×100(%)が、30%以上90%以下である、樹脂組成物。
[16] 前記ポリアミドが、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす、上記項目15に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、低線膨張係数と高伸度とが両立された樹脂組成物及びその製造方法が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の例示の態様(以下、本実施形態という。)について以下に具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0010】
本発明者らは、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物において低線膨張係数と高伸度とを両立する手法を種々検討し、その一方法としてポリアミドとセルロースナノファイバーとの間の界面形成を志向した。具体的には、セルロースナノファイバーの主鎖中の官能基とポリアミドの末端基との間に、物理的な相互作用ではなく化学的な共有結合を導入することを着想した。本実施形態は、より具体的には以下の第1及び第2の実施形態を包含する。
【0011】
≪第1の実施形態≫
本発明の一態様は、ポリアミドと変性セルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、セルロースナノファイバーを酸成分で変性して得られる酸変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基と、ポリアミドの末端アミノ基との結合を樹脂溶融混練中に形成する方法を提供する。
【0012】
より具体的には、本発明の一態様に係る方法は、ポリアミドと変性セルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物の製造方法であって、
セルロースナノファイバーを、不飽和多価カルボン酸又はその無水物である酸成分で変性して、カルボキシル基を有する変性セルロースナノファイバーを得る変性工程、及び上記変性セルロースナノファイバーと、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たすポリアミドとを混合して、変性セルロースナノファイバーとポリアミドとを共有結合させる混合工程、を含む。
【0013】
<変性工程>
本工程では、セルロースナノファイバーを酸成分で変性して、カルボキシル基を有する変性セルロースナノファイバーを得る。
【0014】
[セルロースナノファイバー]
変性に供するセルロースナノファイバーの原料(セルロース繊維原料ともいう)としては、天然セルロース及び再生セルロースを用いることができる。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(例えばホヤ類)や藻類、微生物(例えば酢酸菌)、が産生するセルロース集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。
【0015】
一態様において、セルロース繊維原料は、グラインダー、リファイナー等の機械力による叩解、フィブリル化、微細化等によって、繊維径、繊維長、フィブリル化度等を調整したり、酵素や薬品等を用いて漂白、精製し、セルロース以外の成分(リグニン等の酸不溶成分、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、等)の含有率を調整したりすることができる。
【0016】
一態様において、セルロース繊維原料は化学修飾されてよく、硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等をセルロース繊維原料として使用できる。
【0017】
セルロースナノファイバーは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロースを加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の粉砕法により解繊した微細なセルロース繊維を指す。一態様において、セルロースナノファイバーは、セルロース繊維原料を機械的に乾式、又は湿式で微細化することで得られる微細なセルロース繊維を指す。微細化に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、コニカルリファイナー、ディスク型リファイナー、1軸、2軸又は多軸の混練機・押出機等を使用することができる。この微細化処理は単独の装置を1回以上用いても良いし、複数の装置をそれぞれ1回以上用いても良い。一態様において、セルロースナノファイバーは数平均繊維径2nm以上1000nm以下である。セルロースナノファイバーは後述のように化学修飾されたものであってもよい。
【0018】
セルロースナノファイバーを液体媒体中に分散させることによってスラリーを調製してもよい。分散は、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等を用いて行ってよい。スラリー中の液体媒体は、一態様において、水、及び任意に1種又は2種以上の有機溶媒を含み得る。有機溶媒としては、一般的に用いられる水混和性有機溶媒、例えば:沸点が50℃~170℃のアルコール(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等)、等を使用できる。典型的な態様においては、スラリー中の液体媒体は実質的に水のみである。
【0019】
セルロース繊維原料は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしても良い。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、セルロースナノファイバーの重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が適切な範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
【0020】
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロース分子の分子量を低下させるため、これらの工程によって、セルロースナノファイバーが低分子量化すること、及びセルロース繊維原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース繊維原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
【0021】
(繊維径)
一態様において、セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、セルロースナノファイバーによる物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは2~1000nmである。セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、より好ましくは900nm以下、又は800nm以下、又は700nm以下、又は600nm以下、又は500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下、又は200nm以下である。
【0022】
セルロースナノファイバーの平均繊維長(L)/繊維径(D)比は、セルロースナノファイバーを含む樹脂組成物の機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで良好に向上させる観点から、好ましくは、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下、又は3000以下、又は2000以下、又は1000以下である。
【0023】
一態様において、本開示のセルロースナノファイバーの数平均繊維径(D)、数平均繊維長(L)、及びL/D比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて以下の手順で測定される値である。本開示で、セルロースナノファイバーの繊維長、繊維径、及びL/D比は、セルロースナノファイバーの水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。一態様においては、セルロースナノファイバーの水分散液をtert-ブタノールで置換し、0.001~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。SEM又はAFMでの計測は、具体的には、少なくとも100本のセルロースナノファイバーが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースナノファイバーの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロースナノファイバーについて、繊維長(L)の数平均値、繊維径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0024】
又は、樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの繊維長、繊維径、及びL/D比は、固体である樹脂組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。
【0025】
又は、樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの繊維長、繊維径、及びL/D比は、樹脂組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースナノファイバーを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水に置換した水分散液を調製し、上述の測定方法により測定することで確認することができる。
【0026】
(化学修飾)
一態様において、セルロースナノファイバーは不飽和多価カルボン酸又はその無水物以外の修飾基で化学修飾されていても良い。具体的には硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等が挙げられる。
【0027】
(結晶化度)
セルロースナノファイバーの結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロースナノファイバーを樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースナノファイバーの結晶化度について上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0028】
ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0029】
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =(h0-h1) /h0 ×100
【0030】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロースナノファイバーとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースナノファイバーを樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロースナノファイバーが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースナノファイバーがより好ましい。
【0031】
(重合度)
また、セルロースナノファイバーの重合度は、良好な機械特性発現の観点から、好ましくは、100以上、又は150以上、又は200以上、又は300以上、又は400以上、又は450以上であり、加工性の観点から、好ましくは、3500以下、又は3300以下、又は3200以下、又は3100以下、又は3000以下である。
【0032】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロースナノファイバーの重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0033】
セルロースナノファイバーの重合度とは、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーの重合度に関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾セルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料の重合度を化学修飾されたセルロースナノファイバーの重合度とみなしてもよい。
【0034】
(Mw/Mn)
一態様において、セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロースナノファイバーのセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロースナノファイバーが得られる。セルロースナノファイバーの重量平均分子量(Mw)は、セルロース繊維原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。セルロース繊維原料のMw及びMw/Mnの各々は一態様において上記範囲内であってもよい。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーのMw,Mn,Mw/Mnに関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾セルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のMw,Mn,Mw/Mnを化学修飾されたセルロースナノファイバーのMw,Mn,Mw/Mnとみなしてもよい。
【0035】
ここでいうセルロースナノファイバーの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースナノファイバーを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0036】
セルロースナノファイバーの重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロースナノファイバー内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
【0037】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース繊維原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースナノファイバーを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロースナノファイバー内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース繊維原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0038】
(アルカリ可溶分)
セルロースナノファイバーのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。
【0039】
セルロースナノファイバーが含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロースナノファイバーの強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0040】
一態様において、セルロースナノファイバー中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロースナノファイバーの良好な分散性を得る観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0041】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロー含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーのアルカリ可溶多糖類平均含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾されたセルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類含有率をセルロースナノファイバーのアルカリ可溶多糖類平均含有率とみなしてよい。
【0042】
(酸不溶成分)
セルロースナノファイバーが含み得る酸不溶成分は、植物(例えば木材)を溶媒抽出した脱脂試料を硫酸処理した後に残存する不溶成分として当業者に理解される。酸不溶成分は具体的には芳香族由来のリグニンであるが、それに限定されない。酸不溶成分はそれ自体が着色している場合が多く、樹脂組成物の外観を損なう、又、熱エージング時に黄変を引き起こすこと等の不都合を招来し得ることから、セルロースナノファイバー中の酸不溶成分平均含有率は少ない方が好ましい。
【0043】
一態様において、セルロースナノファイバー中の酸不溶成分平均含有率は、セルロースナノファイバーの耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロースナノファイバー100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0044】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバー濾紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。なお、化学修飾されたセルロースナノファイバーの酸不溶成分平均含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾されたセルロースナノファイバーの原料である化学修飾する直前のセルロースナノファイバー、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類含有率を化学修飾されたセルロースナノファイバーの酸不溶成分平均含有率とみなしてよい。
【0045】
(熱分解温度)
セルロースナノファイバーの熱分解開始温度(TD)は、車載用途等で望まれる耐熱性及び機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、150℃以上、又は160℃以上、又は170℃以上、又は180℃以上、又は190℃以上、又は200℃以上、又は210℃以上、又は220℃以上、又は230℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は300℃以下であってもよい。
【0046】
セルロースナノファイバーの1wt%重量減少時の温度(T1%)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、200℃以上、又は210℃以上、又は220℃以上、又は230℃以上、240℃以上、又は250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は280℃以上、又は290℃以上である。T1%は高いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、330℃以下、又は320℃以下、又は310℃以下であってもよい。
【0047】
本開示で、TDとは、熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である。セルロースナノファイバーを窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、つづいて、そのまま450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温する。セルロースナノファイバーの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
【0048】
セルロースナノファイバーの250℃重量減少率(T250℃)は溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、15%以下、又は12%以下、又は10%以下、又は8%以下、又は6%以下、又は5%以下、又は4%以下、又は3%以下である。T250℃は低いほど好ましいが、セルロースナノファイバーの製造容易性の観点から、例えば、0.1%以上、又は0.5%以上、又は0.7%以上、又は1.0%以上であってもよい。
【0049】
セルロースナノファイバーの250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、セルロースナノファイバーを250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。セルロースナノファイバーを窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持する。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求める。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
【0050】
[多孔質シート]
結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃の測定は測定サンプルの形態によって数値が大きく変動することがある。安定した再現性のある測定をするために、測定サンプルは歪みのない多孔質シートを用いる。多孔質シートの作製方法は以下のとおりである。
【0051】
まず、固形分率が10質量%以上のセルロースナノファイバーの濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行う。セルロースナノファイバー固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整する。得られたtert-ブタノール分散液100gを濾紙上で濾過する。濾過物は濾紙から剥離させずに、濾紙と共により大きな濾紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きな濾紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させる。その後、濾紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得る。このシートの透気抵抗度Rがシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用する。
透気抵抗度Rの測定方法は23℃、50%RHの環境で1日静置した多孔質シートサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(例えば旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定する。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出する。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0052】
[酸成分]
酸成分は、一態様において、不飽和多価カルボン酸又はその無水物である。このような酸成分でセルロースナノファイバーを変性させることで、セルロース中の水酸基の少なくとも一部が酸成分で変性され、当該酸成分由来のカルボキシル基(すなわち、多価カルボン酸のカルボキシル基、又は無水物開環物のカルボキシル基のうち、セルロースの水酸基と反応していないもの)を有する変性セルロースナノファイバーが得られる。
【0053】
変性セルロースナノファイバーとポリアミドとを後述の混合工程で反応させた後に未反応のカルボキシル基が残存すると、樹脂組成物の貯蔵時及び加工時の物性低下を招来する場合があることから、変性セルロースナノファイバー中のカルボキシル基濃度は適度な範囲内に調整されていることが望ましい。セルロースナノファイバーと反応させる酸成分の量は、セルロースナノファイバー中のグルコース単位に対するモル比で、ポリアミドとの共有結合を良好に形成する観点から、好ましくは、0.01以上、又は0.05以上、又は0.1以上であり、樹脂組成物中の未反応のカルボキシル基の残存量を抑えて樹脂組成物の物性低下を回避する観点から、好ましくは、0.2以下、又は0.15以下である。
【0054】
不飽和多価カルボン酸及びその無水物はそれぞれ2つ以上のカルボキシル基を与える。カルボキシル基のうち1つ以上を変性工程においてセルロースナノファイバーの水酸基と縮合させるとともに、残りの遊離のカルボキシル基を混合工程においてポリアミド末端のアミノ基と共有結合させることができる。カルボン酸化合物の中でも、不飽和多価カルボン酸及びその無水物は、セルロースの水酸基、及びポリアミドのアミノ基との反応性に優れることから、樹脂組成物に未反応のカルボキシル基を残存させ難い点で有利である。
【0055】
不飽和多価カルボン酸としては、マレイン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸、1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、3塩基以上の不飽和カルボン酸(例えば、アコニット酸等)が挙げられる。ポリアミドとの共有結合を良好に形成しつつ樹脂組成物の貯蔵時及び加工時の物性低下を回避する観点、及び、樹脂組成物の物性制御を容易にする観点では、ジカルボン酸が好ましい。不飽和多価カルボン酸の無水物の好適例は、上記で例示した不飽和多価カルボン酸の無水物である。
【0056】
不飽和多価カルボン酸又はその無水物の炭素数は、酸成分とセルロースナノファイバーとの反応、及び変性セルロースナノファイバーとポリアミドとの反応の制御を容易にする観点から、好ましくは、1以上、又は2以上、又は3以上であり、酸成分とセルロースナノファイバーとの反応性、及び変性セルロースナノファイバーとポリアミドとの反応性が良好であるとともに、酸成分自体の分子構造が樹脂組成物の物性に過度に影響しないようにする観点から、好ましくは、10以下、又は9以下、又は8以下である。不飽和多価カルボン酸又はその無水物が有する不飽和結合は、好ましくは二重結合である。より好ましい態様においては、不飽和多価カルボン酸のカルボキシル基又は不飽和多価カルボン酸無水物の酸無水物基においてカルボニル結合を形成している炭素と、二重結合を形成している炭素とが近接している。このような構造の酸成分による変性で得られる変性セルロースナノファイバーにおいては、カルボキシル基が水素イオンを解離しやすい。例えば変性セルロースナノファイバーが加熱された場合にも脱炭酸が生じ難く、飽和多価カルボン酸又はその無水物で変性された変性セルロースナノファイバーと比較し、耐熱性が良好である。一態様において、カルボニル結合を形成している炭素と二重結合を形成している炭素との間に介在する炭素原子の数は、好ましくは0(すなわちカルボニル結合を形成している炭素と二重結合を形成している炭素とが隣接している)であるが、一態様において、4以下、又は2以下であることができる。特に好ましい態様において、酸成分は、無水マレイン酸である。
【0057】
[変性反応]
変性は、セルロースナノファイバーの原料の解繊前、解繊中及び/又は解繊後に行ってよい。典型的には、セルロース繊維原料又はセルロースナノファイバーのスラリー(例えば水中スラリー)に酸成分を添加してよい。反応条件は、変性が所望の程度まで進行するように適宜設定してよい。スラリー(例えば水中スラリー)のpHは、変性反応を良好に進行させる観点から、好ましくは、9以下、又は8以下、又は7以下であり、未反応の酸成分による樹脂組成物の物性低下を回避する観点から、好ましくは、4以上、又は5以上、又は6以上である。一態様においては、有機溶剤置換スラリーを用いてもよい。一態様において、スラリーは、水、及び任意に1種又は2種以上の有機溶媒を含み得る。有機溶媒としては、一般的に用いられる水混和性有機溶媒、例えば:沸点が50℃~170℃のアルコール(例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール等);エーテル(例えばプロピレングリコールモノメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等);カルボン酸(例えばギ酸、酢酸、乳酸等);エステル(例えば酢酸エチル、酢酸ビニル等);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等);含窒素溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、ピリジン等)等を使用できる。有機溶媒は、好ましくは非プロトン性溶媒であり、炭素数2~6のエステル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等が好ましい。
【0058】
(触媒)
酸成分が無水物である場合には、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0059】
(反応条件)
反応温度は、使用する溶媒にも左右されるが、好ましくは、0℃以上、又は10℃以上、又は20℃以上であり、耐熱性の観点から、好ましくは、170℃以下、又は160℃以下、又は150以下である。反応時間は、好ましくは、5分以上、又は10分以上、又は20分以上であり、セルロースナノファイバーの最表層の修飾を志向して内部までの修飾率を上げないようにする観点から、好ましくは、24時間以下、又は12時間以下、又は6時間以下である。
【0060】
(精製工程)
変性工程後には、未反応の酸成分及び触媒等を除去してもよい。例えば、反応後のスラリーに水を添加してスラリーの固形分が1質量%程度となるように希釈し、ミキサーで混合撹拌した後、ろ過又は遠心分離等で濃縮する。必要に応じてこの操作を繰り返し、系内に残存する未反応の酸成分及び触媒を所望の濃度以下に低減させた変性セルロースナノファイバースラリーを得ることができる。
【0061】
変性セルロースナノファイバーの平均置換度は、以下の方法で確認される。すなわち、13C固体NMRにて100ppmから150ppmの範囲に現れるセルロースのC1位に由来するピークの面積強度をInp、150ppmから200ppmの範囲に表れる炭素-酸素二重結合由来のピークの面積強度をInmとしたとき、下記式で求められる。
平均置換度(DS)=Inm/Inp×(1/nc)
ここでncは修飾基に含まれる炭素-酸素二重結合の数を表し、例えば無水マレイン酸の場合、ncは2となる。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0062】
(カルボキシル基濃度)
変性工程で得られる変性セルロースナノファイバー中のカルボキシル基濃度は、好ましくは、0.03mmol/g以上、又は0.04mmol/g以上、又は0.05mmol/g以上であり、樹脂組成物中の未反応のカルボキシル基の残存量を抑えて樹脂組成物の貯蔵時及び加工時の物性低下を回避する観点から、好ましくは、0.7mmol/g以下、又は0.6mmol/g以下、又は0.5mmol/g以下である。
【0063】
カルボキシル基濃度は、平均置換度(DS)の値から変性セルロースナノファイバー1g当たりのカルボキシル基濃度として、下記式により算出する。
カルボキシル基濃度(mmol/g)=1000×DS/(162+98×DS)
【0064】
変性工程で得られる変性セルロースナノファイバー中のカルボキシル基濃度は、水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)から求められる値として表される。平均置換度は、混合工程でポリアミドとの共有結合を良好に形成する観点から、好ましくは、0.005以上、又は0.01以上、又は0.02以上、又は0.03以上であり、樹脂組成物中の未反応のカルボキシル基の残存量を抑えて樹脂組成物の物性低下を回避する観点から、好ましくは、0.2以下、又は0.1以下、又は0.08以下である。
【0065】
(表面カルボキシル基濃度の算出)
変性セルロースナノファイバーの表面カルボキシル基濃度は、以下の方法で確認される。すなわち、X線光電子分光法(XPS)を用いて、各元素由来の固有の結合エネルギー値におけるピーク面積強度を算出し、装置固有の感度係数を用いた相対感度因子法で、相対的な評価にて定量評価する。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。変性工程で得られる変性セルロースナノファイバー中の表面カルボキシル基濃度は、好ましくは、0.01mmol/g以上、又は0.02mmol/g以上、又は0.03mmol/g以上であり、樹脂組成物中の未反応のカルボキシル基の残存量を抑えて樹脂組成物の貯蔵時及び加工時の物性低下を回避する観点から、好ましくは、0.7mmol/g以下、又は0.6mmol/g以下、又は0.5mmol/g以下である。
【0066】
上述したセルロースナノファイバーの多孔質シートを2.5mmφの皿状試料台に載せ、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する変性工程で用いた不飽和カルボン酸のカルボキシル基由来のN個の炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×(5/N)/(Ixp)
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
分析サイズ :100μmφ×1.4mm
光電子取出角:45°
取込領域:
Survey scan:0~1,100eV
Narrow scan:C 1s、O 1s、N 1s
Pass Energy:
Survey scan:117.4eV
Narrow scan: 46.95eV
帯電補正基準:C 1s=286.3eV
【0067】
一態様において、変性セルロースナノファイバーは、置換度が低いことによって、変性前のセルロースナノファイバーの特性を良好に維持していてよい。一態様において、変性セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバーに関して前述したのと同様の特性、例えば、繊維長、繊維径、L/D比、結晶化度、重合度、重量平均分子量(Mw)、Mw/Mn比、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、及び/又は熱分解開始温度を有してよい。
【0068】
[樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの測定]
樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの各種物性(数平均繊維長、数平均繊維径、L/D比、結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃、平均置換度、及び表面カルボキシル基濃度)は以下の方法で分析する。樹脂組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースナノファイバーを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒をtert-ブタノールに置換する。その後、セルロースナノファイバーtert-ブタノールスラリーを前記手法と同様の測定法を用いて分析し、樹脂組成物中のセルロースナノファイバーの各種物性を算出する。
【0069】
<乾燥・造粒工程>
[乾燥機種]
セルロースナノファイバースラリーを乾燥させることにより、乾燥体を調製できる。セルロースナノファイバー以外の成分、例えば後述する分散剤は、セルロースナノファイバースラリーの乾燥前、乾燥中、及び/又は乾燥後に添加してよい。乾燥機としては、特に限定はされないが、ニーダー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、プロペラミキサー、リボンミキサー、単軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー、凍結乾燥機、棚乾燥機、スプレー噴霧乾燥機、流動層乾燥機等が挙げられる。
【0070】
<混合工程>
本工程では、上記の変性工程で得た変性セルロースナノファイバーと、ポリアミドとを含む混合成分を混合する。
【0071】
[ポリアミド]
ポリアミドとしては、脂肪族、芳香族又はこれらの組合せの構造を有する種々のポリアミドを使用できる。好ましいポリアミドの例示としては:ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド、例えば、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等;及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体、例えば、ポリアミド6,T/6,I等;が挙げられる。
【0072】
これらポリアミドの中でも:ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド;及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミド、がより好ましい。
【0073】
ポリアミドは、一態様において、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす。カルボキシル末端基濃度[COOH]に対するアミノ末端基濃度[NH2]の比であるアミノ末端基比率は、一態様において1よりも大きく、好ましくは、1.01以上、又は1.05以上、又は1.10以上であり、好ましくは、10000以下、又は1000以下、又は100以下、又は10以下である。
【0074】
ポリアミドのアミノ末端基濃度は、好ましくは、20μmol/g以上、又は30μmol/g以上であり、好ましくは、150μmol/g以下、又は100μmol/g以下、又は80μmol/g以下である。
【0075】
ポリアミドのカルボキシル末端基濃度は、好ましくは、20μmol/g以上、又は30μmol/g以上であり、好ましくは、150μmol/g以下、又は100μmol/g以下、又は80μmol/g以下である。
【0076】
ポリアミドのアミノ末端基濃度[NH2]とカルボキシル末端基濃度[COOH]との合計濃度は、混合工程における変性セルロースナノファイバーとの共有結合形成促進観点から、好ましくは、10μmol/g以上、又は50μmol/g以上、又は100μmol/g以上であり、ポリアミドの分子量が小さくなり過ぎないようにして樹脂組成物の良好な物性を維持する観点から、好ましくは、500μmol/g以下、又は300μmol/g以下、又は135μmol/g以下である。
【0077】
ポリアミドの末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの、末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0078】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば:酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸等のジカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物、が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びアジピン酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0080】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば:メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;
シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等のジアミン;及びこれらの任意の混合物、が挙げられる。
【0081】
これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン及びヘキサメチレンジアミンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0082】
これら、末端調整剤をポリアミドに添加し末端官能基と反応させる方法は特に制限されないが、一態様として、重合時に任意の割合で末端調整剤を添加し反応させる方法が挙げられる。
【0083】
アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003-055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。本開示のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、上記1H-NMR又は上記滴定の少なくとも一方において本開示の範囲内であることが意図される。
【0084】
ポリアミドの、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]は、樹脂組成物の良好な物性を得る観点から、好ましくは、0.6dL/g以上、又は0.7dL/g以上であり、樹脂組成物の製造及び加工の容易性、及び成形体の外観の観点から、好ましくは、2.0dL/g以下、又は1.4dL/g以下、又は1.2dL/g以下、又は1.0dL/g以下である。
【0085】
本開示で、固有粘度とは、一般的に極限粘度と呼ばれる粘度と同義である。固有粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、ポリマー濃度の異なるいくつかの測定溶液のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。固有粘度の求め方の詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。このときポリマー濃度の異なるいくつかの測定溶液の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。推奨される異なる粘度測定溶液のポリマー濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
【0086】
ポリアミドの数平均分子量は、樹脂組成物の良好な物性を得る観点から、好ましくは、5000以上、又は10000以上、又は15000以上、又は20000以上であり、混合工程における変性セルロースナノファイバーとの共有結合形成促進の観点から、好ましくは、100000以下、又は80000以下、又は60000以下、又は50000以下である。
【0087】
ポリアミドの重量平均分子量は、樹脂組成物の良好な物性を得る観点から、好ましくは、5000以上、又は10000以上、又は15000以上、又は20000以上であり、混合工程における変性セルロースナノファイバーとの共有結合形成促進の観点から、好ましくは、100000以下、又は80000以下、又は60000以下、又は50000以下である。
【0088】
ポリアミドのMw/Mnは、混合工程における変性セルロースナノファイバーとの共有結合形成促進の観点から、好ましくは、0.2以上、又は0.5以上、又は1以上であり、樹脂組成物の物性を精度良く制御する観点から、好ましくは、5以下、又は4以下、又は2以下である。
【0089】
上記の数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で求められる値である。
【0090】
ポリアミドの融点は、樹脂組成物の耐熱性が良好である点で、好ましくは、220℃以上、又は230℃以上であり、樹脂組成物の製造及び加工が容易である点で、好ましくは、350℃以下、又は320℃以下、又は300℃以下である。上記融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を指し、吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。
【0091】
ポリアミドのガラス転移点は、樹脂組成物の機械強度が良好である点で、好ましくは、0℃以上、又は10℃以上、又は30℃以上であり、樹脂組成物の靭性が良好であるとともに製造及び加工が容易である点で、好ましくは、100℃以下、又は90℃以下、又は70℃以下である。上記ガラス転移点とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度を指す。
【0092】
一態様において、混合成分中及び樹脂組成物中の各々において、ポリアミド100質量部に対する変性セルロースナノファイバーの量は、物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量部以上、又は0.5質量部以上、又は1質量部以上、又は2質量部以上であり、加工性の観点から、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は60質量部以下である。
【0093】
一態様において、混合成分の総質量100質量%基準、及び樹脂組成物の総質量100質量%基準の各々で、変性セルロースナノファイバーの量は、物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上であり、加工性の観点から、好ましくは、50質量%以下、又は40質量%以下、又は30質量%以下、又は20質量%以下である。
【0094】
混合成分において、ポリアミドのアミノ末端基濃度に対する、変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基濃度の比は、ポリアミドと変性セルロースナノファイバーとを良好に反応させる観点から、好ましくは、0.001以上、又は0.01以上、又は0.05以上であり、樹脂組成物中に未反応のカルボキシル基が残存することによる物性低下を回避する観点から、好ましくは、4以下、又は3以下、又は2以下である。
【0095】
[追加の成分]
混合成分は、変性セルロースナノファイバー及びポリアミドに加えて、必要に応じて追加の成分をさらに含んでも良い。追加の成分としては、分散剤;液状ゴム;セルロース以外の有機又は無機のフィラー成分;相溶化剤;可塑剤;着色剤;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;酸化防止剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等が挙げられる。任意の追加の成分の混合成分中(したがって得られる樹脂組成物中)の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択されるが、例えば0.01質量%~50質量%、又は0.1質量%~30質量%であってよい。
【0096】
(分散剤)
分散剤としては、セルロースの水酸基と反応又は水素結合し得る化合物が好ましい。分散剤の好適例は、セルロース誘導体、ポリアルキレンオキシド、及びアミドからなる群から選択される1種以上である。セルロース誘導体は、セルロース系物質であることからセルロースとの親和性が高い一方で、熱可塑性樹脂でもあることから、樹脂組成物中でのセルロースの分散安定性向上効果が高く好ましい。分散剤としては、水より高い沸点を有するものが好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
【0097】
セルロース誘導体としては、セルロースエステル、セルロースエーテル等を例示でき、セルロースエステルは、耐熱性の観点で優れており、好ましい。
【0098】
ポリアルキレンオキシドは、1種又は2種以上のオキシアルキレンユニットで構成されてよく、2種以上のオキシアルキレンユニットの配列はランダムでもブロックでもよい。セルロースとの良好な親和性という観点での好適例としては、ポリエチレンオキシドを例示できる。ポリアルキレンオキシドのアルキレンオキシド繰り返し数は、例えば500~100,000、又は1,000~80,000、又は2,000~50,000であってよい。
【0099】
アミド化合物は、分子中にアミド結合(-C(=O)NH-結合)を1つ以上有する化合物である。アミド化合物は、脂肪族若しくは芳香族又はこれらの組合せのアミドであってよい。アミド化合物は、セルロースの分散性向上効果が良好である点で、アミド結合を分子骨格中(すなわち、側鎖でない部位)に有することが好ましい。
【0100】
界面活性剤としては、親水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリエチレングリコール)、疎水性セグメントを与える化合物(例えば、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリブタジエンジオール等)をそれぞれ1種以上用いて得られる共重合体(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのブロック共重合体、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのブロック共重合体)等、及びその変性体(例えば酸変性体)等が挙げられる。
【0101】
樹脂組成物中、セルロースナノファイバー100質量部に対する分散剤の量は、セルロースの良好な分散及びネットワーク形成の観点から、好ましくは、1質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上であり、樹脂組成物の性能のばらつき低減の観点から、好ましくは、500質量部以下、又は300質量部以下、又は200質量部以下である。
【0102】
一態様において、分散剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを同一分子内に有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、樹脂中にセルロースナノファイバーをより均一に分散させる観点で更に好ましい。
【0103】
親水性セグメントは、親水性構造を含むことによって、セルロースナノファイバーとの良好な親和性を示す部分である。親水性構造としては、水酸基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸基、ボロン酸基、シラノール基、ソルビタン及びショ糖等の糖類に由来する基、グリセリンに由来する基、-OM、-COOM、-SO3M、-OSO3M、-HMPO4、及び-M2PO4(但し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。)で表される基、並びに、1~3級アミン及び4級アンモニウム塩等が挙げられる。上記4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、並びに、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェート、及びテトラフルオロボレートからなる群から選ばれる1つ以上が挙げられる。
【0104】
親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールのセグメント(すなわち複数のオキシエチレンユニットのセグメント)(PEGブロック)、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンのソフトセグメント(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましく、ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほどセルロースナノファイバーとの親和性が高まるが、樹脂成形体の所望の特性(例えば機械特性)とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
【0105】
疎水性セグメントとしては、炭化水素部位を有するセグメント、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、PPGブロック)、ポリマー構造を含むセグメント等を例示できる。
【0106】
炭化水素部位を有するセグメントとしては、アルキル型、アルケニル型、アルキルエーテル型、アルケニルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型等が好ましい。疎水基のアルキル鎖、又はアルケニル鎖の炭素数(アルキルフェニル、又はアルケニルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上であり、一態様において、40以下、又は35以下、又は30以下であってよい。
【0107】
ポリマー構造を含むセグメントとしては、アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等の構造を含むセグメントが挙げられる。
【0108】
両親媒性分子は、グラフト共重合体構造、及び/又はブロック共重合体構造を有することができる。これら構造は1種単独でもよいし、2種以上でもよい。2種以上の場合は、ポリマーアロイでもよい。またこれら共重合体の部分変性体、又は末端変性体(例えば酸変性体)でも良い。
【0109】
両親媒性分子としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用可能である。両親媒性分子は、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等であってもよい。セルロースナノファイバーとの親和性の点で、カチオン性界面活性剤、及びノニオン性イオン系界面活性剤が好ましく、耐熱性の観点でノニオン性界面活性剤がより好ましい。
両親媒性分子は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。
【0110】
(液状ゴム)
本開示の液状ゴムとは、23℃において流動性を有しており、且つ架橋(より具体的には加硫)及び/又は鎖延長によってゴム弾性体を形成する物質を意味する。すなわち液状ゴムは一態様において未硬化物である。また流動性を有しているとは、一態様において、シクロヘキサンに溶解させた液状ゴムを23℃にて胴径21mm×全長50mmのバイアル瓶に入れた後乾燥させることによって、液状ゴムを当該バイアル瓶内に高さ1mmまで充填して密閉し、当該バイアル瓶を上下逆にした状態で24時間静置したときに高さ方向に0.1mm以上の物質の移動が確認できることを意味する。
【0111】
液状ゴムは、一般的なゴムの単量体組成を有してよく、取り扱いの容易性、及びセルロースナノファイバーの良好な分散性が得られる観点から、比較的低分子量であることが好ましい。液状ゴムは、一態様において、数平均分子量(Mn)が80,000以下であることによって液体形状を呈する。なお、本開示の各種ゴムの数平均分子量及び重量平均分子量は、特記がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、クロロホルムを溶媒とし、40℃の測定温度にて標準ポリスチレン換算で求められる値である。
【0112】
一態様において、液状ゴムはセルロースナノファイバーと組合されてマスターバッチを形成してよく、このようなマスターバッチを樹脂と組合せて本開示の樹脂組成物を形成してよい。
【0113】
液状ゴムの数平均分子量(Mn)は、熱安定性、及び樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果の観点から、好ましくは、1,000以上、又は1,500以上、又は2,000以上であり、セルロースナノファイバーを液状ゴム中に分散させる場合の良分散に適した高い流動性を有する点で、好ましくは、80,000以下、又は50,000以下、又は40,000以下、又は30,000以下、又は10,000以下である。
【0114】
液状ゴムの重量平均分子量(Mw)は、熱安定性、及び樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果の観点から、好ましくは、1,000以上、又は2,000以上、又は4,000以上であり、セルロースナノファイバーを液状ゴム中に分散させる場合の良分散に適した高い流動性を有する点で、好ましくは、240,000以下、又は150,000以下、又は30,000以下である。
【0115】
液状ゴムの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)は、分子量がある程度ばらついていることによって、複数の特性の高度な両立(一態様において、セルロースナノファイバーの樹脂中での良分散と樹脂組成物の良好な曲げ弾性率との高度の両立)が可能である点で、好ましくは、1.5以上、又は1.8以上、又は2以上であり、分子量のばらつきが過度に大きくなく樹脂組成物の所望の物性が安定して得られる点、例えば流動性と耐衝撃性との両立の点で、好ましくは、10以下、又は8以下、又は5以下、又は3以下、又は2.7以下である。
【0116】
液状ゴムは、良好な熱安定性を有することができる。液状ゴムの熱分解開始温度(TD)は、良好な熱安定性の点で、一態様において、200℃以上、又は250℃以上、又は300℃である。熱分解開始温度は高い方が好ましいが、液状ゴムの入手容易性の観点から、一態様において、500℃以下、又は450℃以下、又は400℃以下であってよい。
【0117】
液状ゴムのガラス転移温度は、良好な熱安定性の点で、好ましくは、-150℃以上、又は-120℃以上、又は-100℃以上であり、良好な流動性の点で、好ましくは、25℃以下、又は10℃以下、又は0℃以下である。
【0118】
液状ゴムは、一態様において、ジエン系ゴムを含み、一態様において、共役ジエン系重合体若しくは非共役ジエン系重合体又はこれらの水素添加物を含む。上記の重合体又はその水素添加物はオリゴマーであってもよい。液状ゴムを構成する単量体は、非変性物又は変性物(例えば酸変性物、水酸基変性物等)であってよい。一態様において、液状ゴムは、両末端に反応性基(例えば、水酸基、カルボキシ基、イソシアナト基、チオ基、アミノ基及びハロ基からなる群から選択される1種以上)を有してよく、したがって2官能性であってよい。これら反応性基は液状ゴムの架橋及び/又は鎖延長に寄与する。
【0119】
{共役ジエン系重合体}
共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の共役ジエン単量体の共重合体若しくは共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。
【0120】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘプタジエン、及び1,3-ヘキサジエンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。
【0121】
一態様において、共役ジエン系重合体は、上記の共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体である。
芳香族ビニル単量体としては、共役ジエン単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、スチレン、m又はp-メチルスチレン、α-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン、及びジビニルベンゼンが挙げられ、これらを1種単独又は2種以上の組合せで用いてよい。樹脂組成物の成形加工性、及び成形体の耐衝撃性の観点からは、スチレンが好ましい。
【0122】
ランダム共重合体としては、ブタジエン-イソプレンランダム共重合体、ブタジエン-スチレンランダム共重合体、イソプレン-スチレンランダム共重合体、及びブタジエン-イソプレン-スチレンランダム共重合体が挙げられる。共重合体鎖中の各単量体の組成分布としては、統計的ランダムな組成に近い完全ランダム共重合体、及び組成分布に勾配があるテーパー(勾配)ランダム共重合体が挙げられる。共役ジエン系重合体の結合様式、すなわち1,4-結合、1,2-結合等の組成は、分子間で均一又は異なっていてよい。
【0123】
ブロック共重合体は、2つ以上のブロックからなる共重合体であってよい。例えば、芳香族ビニル単量体のブロックAと、共役ジエン単量体のブロック及び/又は芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体のブロックであるブロックBとが、A-B、A-B-A、A-B-A-B等の構造を構成しているブロック共重合体であってよい。なお各ブロックの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はなく、例えば、ブロックBが芳香族ビニル単量体と共役ジエン単量体との共重合体である場合、ブロックB中の芳香族ビニル単量体は均一又はテーパー状に分布してよい。また、ブロックBに、芳香族ビニル単量体が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がそれぞれ複数存在してもよい。さらに、ブロックBに、芳香族ビニル単量体含有量が異なるセグメントが複数存在してもよい。共重合体中にブロックA、ブロックBがそれぞれ複数存在する場合、それらの分子量及び組成は同一でも異なってもよい。
【0124】
ブロック共重合体は、結合形式、分子量、芳香族ビニル化合物種、共役ジエン化合物種、1,2-ビニル含量又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量、芳香族ビニル化合物成分含有量、水素添加率等のうち1つ以上が互いに異なる2種以上の混合物でもよい。
【0125】
共役ジエン系重合体における共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-又は3,4-結合)は、好ましくは、10モル%以上75モル%以下、又は13モル%以上65モル%以下である。
共役ジエン結合単位中のビニル結合量(例えばブタジエンの1,2-結合量)は、13C-NMR法(定量モード)によって求めることができる。すなわち、13C-NMRにおいて下記に現れるピーク面積を積分すれば、各構造単位のカーボン量に比例する値を得ることができ、結果として各構造単位の質量%に換算することができる。
スチレン 145~147ppm
ビニル 110~116ppm
ジエン(シス) 24~28ppm
ジエン(トランス) 29~33ppm
【0126】
共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体において、共役ジエン単量体と結合した芳香族ビニル単量体の量(本開示で、芳香族ビニル結合量ともいう。)は、共役ジエン系重合体の総モル100%に対して、好ましくは、5モル%以上70モル%以下、又は10モル%以上50モル%以下であってよい。
【0127】
共役ジエン系重合体の水素添加物としては、上記で例示した共役ジエン系重合体の水素添加物が挙げられ、例えば、ブタジエン単独重合体、イソプレン単独重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の水素添加物であってよい。
【0128】
好ましい態様において、液状ゴムは、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、及びポリクロロプレンからなる群から選択される1種以上である。これらは誘導体(例えば無水マレイン酸変性物や、メタクリル酸変性物、末端水酸基変性物、水添化物、及びこれらの組み合わせなど)であってもよい。
【0129】
{非共役ジエン系重合体}
非共役ジエン系重合体は、単独重合体であってよく、又は、2種以上の非共役ジエン単量体の共重合体若しくは非共役ジエン単量体と他の単量体との共重合体であってよい。共重合体はランダム、ブロックいずれでもよい。非共役ジエン系重合体としては、
エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴム、エチレン-αオレフィン共重合体等のオレフィン系重合体、ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、α,β-不飽和ニトリル-アクリル酸エステル-共役ジエン共重合ゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。
【0130】
エチレン-α-オレフィン共重合体において、エチレン単位と共重合できるモノマーとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、又はエイコセン-1、イソブチレンなどの脂肪族置換ビニルモノマー、及び、スチレン、置換スチレンなどの芳香族系ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステルなどのエステル系ビニルモノマー、アクリルアミド、アリルアミン、ビニル-p-アミノベンゼン、アクリロニトリルなどの窒素含有ビニルモノマー、ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレンなどのジエンなどを挙げることができる。
【0131】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、好ましくはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、更に好ましくはエチレンと炭素数3~16のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、最も好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン1種以上とのコポリマーである。
【0132】
エチレン-α-オレフィン共重合体の分子量は、耐衝撃性発現の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定装置で、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒とし、140℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量(Mn)として、10,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~100,000であり、より好ましくは10,000~80,000であり、更に好ましくは20,000~60,000である。
【0133】
また、エチレン-α-オレフィン共重合体のエチレン単位の含有率は、加工時の取り扱い性の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体全量に対し、好ましくは30~95質量%である。
【0134】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、特公平4-12283号公報、特開昭60-35006号公報、特開昭60-35007号公報、特開昭60-35008号公報、特開平5-155930号公報、特開平3-163088号公報、米国特許第5272236号明細書等に記載されるような従来公知の製造方法で製造可能である。
【0135】
一態様において、液状ゴムは、ジエン系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、及び多硫化ゴム並びにこれらの水素添加物からなる群から選択される1種以上を含む。
【0136】
液状ゴムの25℃での粘度は、セルロースナノファイバーを液状ゴムに良好に分散させる観点から、好ましくは、1,000,000mPa・s以下、又は500,000mPa・s以下、又は200,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、100mPa・s以上、又は300mPa・s以上、又は500mPa・s以上である。
【0137】
液状ゴムの80℃での粘度は、セルロースナノファイバーを液状ゴムに良好に分散させる観点、及び加熱混練によってセルロースナノファイバーを樹脂中に良好に分散させる観点から、好ましくは、1,000,000mPa・s以下、又は500,000mPa・s以下、又は250,000mPa・s以下、又は100,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、50mPa・s以上、又は100mPa・s以上、又は300mPa・s以上である。
【0138】
液状ゴムの0℃での粘度は、セルロースナノファイバーを液状ゴムに良好に分散させる点から、好ましくは、2,000,000mPa・s以下、又は1,000,000mPa・s以下、又は400,000mPa・s以下であり、熱安定性、樹脂中でのセルロースナノファイバーの分散性向上効果、及び樹脂組成物の機械特性の観点から、好ましくは、200mPa・s以上、又は600mPa・s以上、又は1,000mPa・s以上である。
【0139】
液状ゴムの粘度の温度依存性が小さいことは、広範な混合温度範囲で、セルロースナノファイバーを液状ゴム中に良好に分散させることができる点で好ましい。この観点から、液状ゴムの80℃、25℃及び0℃の全ての粘度が上記範囲内であることが特に好ましい。
【0140】
液状ゴムの粘度は、B型粘度計を用いて、回転数10rpmで測定される値である。
【0141】
[混合条件]
混合工程は、変性セルロースナノファイバーとポリアミドとが共有結合を形成し得る条件下で行い、典型的には混合成分を加熱混合、一態様において溶融混練する。変性セルロースナノファイバーは、乾燥体又はスラリー(例えば水中スラリー)の形態で混合工程に供されてよい。
【0142】
一態様において、溶媒にポリアミドを溶解させてなるポリアミド溶液に変性セルロースナノファイバースラリーを撹拌混合した後、乾燥することによりポリアミドと変性セルロースナノファイバーとの混合物をあらかじめ得ることができる。その後、混合物を加熱混合、一態様において溶融混練してよい。ポリアミド溶液の溶媒としては:ギ酸、濃硫酸等の酸;塩化カルシウム等の金属塩の溶液(例えばアルコール溶液);メタクレゾール等のフェノール系溶媒;非プロトン性のアミド系溶媒;トリフルオロ酢酸、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)等のフッ素系溶媒;等が挙げられる。操作性、及び変性セルロースナノファイバーのポリアミド樹脂組成物中での分散性の観点から、トリフルオロ酢酸、又はHFIPが好ましい。
【0143】
加熱温度は、混合成分の組成、特にポリアミドの種類に合わせて調整してよく、ポリアミドの融点以上であるが当該融点を大幅に上回らない温度が好ましい。加熱温度は、好ましくは、ポリアミドの融点以上、又は当該融点+20℃以上、又は当該融点+30℃以上、又は当該融点+40℃以上であり、混合成分の劣化抑制の観点から、好ましくは、当該融点+90℃以下、又は当該融点+80℃以下、又は当該融点+70℃以下である。上記融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのうち最も高温側のピークのピークトップ温度であり、混合成分が複数種のポリアミドを含む態様においては最も高温側の融点を意味する。
【0144】
溶融混練には、単軸押出機、二軸押出機等の押出機を使用できるが、二軸押出機がセルロースの分散性を制御する上で好ましい。押出機のシリンダー長(L)をスクリュー径(D)で除したL/Dは、40以上が好ましく、特に好ましくは50以上である。また、混練時のスクリュー回転数は、100~800rpmの範囲が好ましく、より好ましくは150~600rpmの範囲内である。これらはスクリューのデザインにより、変化する。樹脂組成物の熱劣化を抑制する観点から、弱練り(すなわち、小剪断力下での混練)が好適である。弱練りは、例えば、押出機のスクリュー構成において搬送ゾーンを多く設けること、スクリューの回転数を小さくすること等によって実現できる。
【0145】
押出機のシリンダー内の各スクリューは、楕円形の二翼のねじ形状のフルフライトスクリュー、ニーディングディスクと呼ばれる混練エレメント、等を組み合わせて最適化される。
【0146】
一態様においては、押出機のシリンダーの途中部分に添加口が設置され、添加口に投入された原料はシリンダー内のスクリューに導かれる。添加口の位置に特に制限は無いが、一態様において、添加口の位置は溶融混練ゾーンより下流に配置される。押出機を用いた通常の混練では、最初の樹脂溶融ゾーンが最も強く剪断がかかる領域であるため、搬送ゾーンを移動する未溶融状態の樹脂に対しフィラー成分を添加することにより、その後の加熱溶融下での剪断力でフィラーが微分散される。
【0147】
変性セルロースナノファイバーをポリアミドに微分散させる場合、樹脂溶融ゾーンの手前で変性セルロースナノファイバーを添加すると、樹脂溶融ゾーンでの強い剪断力が原因でセルロースの劣化が生じ、セルロース本来の強固な結晶構造の損失、強化樹脂としての力学的特性の低下、着色及び臭気といった問題が生じる場合がある。特に、ポリアミドのような高融点樹脂を用いる場合には混練温度が高温であるため、変性セルロースナノファイバーへの熱履歴が過酷になる傾向がある。上記観点から、予め溶融されたポリアミドに対して変性セルロースナノファイバーを添加する場合、セルロースが劣化の少ない状態でポリアミド中に分散され有利である。
【0148】
シリンダー内部を通過する際に混合成分が受ける熱履歴の軽減を目的とし、変性セルロースナノファイバーの添加口を、押出機の溶融混練ゾーンよりも下流側に設計することが好ましい。具体的には、シリンダーの全長(L1)に対し、シリンダーの出口から添加口までの長さ(L2)を1/2以下に設計することが好ましい。なおシリンダーの全長には混練に関与しない部分(例えば搬送ゾーン)も含まれる。添加口からは、セルロースが投入され、押出機内で溶融混練されたポリアミド中に混入される。
【0149】
変性セルロースナノファイバーが押出機内を搬送される距離を、ポリアミドと比較して短くする場合、変性セルロースナノファイバー混入後のシリンダー内のスクリューの構成を工夫することで確実な均質分散を実現することができる。具体的には、これに限定するものではないが、進行方向と逆向きのフィードを作り出す反時計回りのスクリューを1箇所以上、添加口よりも下流側のシリンダー内に設けることにより、セルロースナノファイバーの高度な分散をより確実に実現することができる。
【0150】
[共有結合の存在の確認)
樹脂組成物中の変性セルロースナノファイバーとポリアミドとが共有結合していることは、以下のように確認できる。すなわち、樹脂組成物、及び当該樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得た不溶分のそれぞれについて、窒素原子濃度(原子%)をX線光電子分光法で測定したときの、不溶分の窒素原子濃度は、樹脂組成物中で変性セルロースナノファイバーと共有結合していたポリアミドの量の指標となる。すなわち、変性セルロースナノファイバーとポリアミドがより多くの共有結合を有するとき、上記濃度が大きくなる。上記濃度は、変性セルロースナノファイバーとポリアミドとの共有結合量が多く樹脂組成物の伸度向上に有利である点で、好ましくは、1原子%以上、又は3原子%以上、又は5原子%以上であり、当該共有結合の量が多くなり過ぎないようにして、樹脂組成物の貯蔵時及び加工時に共有結合が切断されることによる物性低下を回避する観点から、好ましくは、30原子%以下、又は20原子%以下、又は15原子%以下、又は10原子%以下である。上記不溶分は、樹脂組成物をポリアミド溶解性溶媒(より具体的には、ヘキサフルオロ-2-プロパノール)中に浸漬し、25℃で24時間静置して残渣を回収することによって得られる。
【0151】
一態様において、ポリアミドがポリアミド6である場合、上記不溶分の窒素原子濃度は、好ましくは、5原子%以上、又は7原子%以上であり、好ましくは、12.5原子%以下、又は12原子%以下、又は10.5原子%以下である。
【0152】
≪第2の実施形態≫
本発明の一態様はまた、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを含む樹脂組成物であって、樹脂組成物中のポリアミドを溶解除去して得られる第1の不溶分の重量をW1とし、当該第1の不溶分を、温度25℃及びpH13の液中で24時間撹拌して得られる第2の不溶分の重量をW2としたときの重量減少率W2/W1×100(%)が、30%以上90%以下である樹脂組成物を提供し、更に、当該樹脂組成物の製造方法であって、ポリアミドとセルロースナノファイバーとを混合する混合工程を含む方法を提供する。
【0153】
上記第1の不溶分は、より具体的には、樹脂組成物をポリアミド溶解性溶媒(より具体的には、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール)中に浸漬し、pH7、温度25℃にて24時間静置して残渣を回収することによって得られる。また上記第2の不溶分は、より具体的には、第1の不溶分をpH13の液(より具体的には、水酸化ナトリウム水溶液)を用い、マグネチックスターラーを用い、温度25℃にて24時間撹拌して残渣を回収することによって得られる。
【0154】
上記重量減少率で表される量、すなわち、ポリアミド溶解性条件では溶出せず且つpH13での上記処理によっては溶解した成分の量は、樹脂組成物中でセルロースナノファイバーと強固に結合していた成分の量とみなすことができる。一態様において、このような成分は、第1の実施形態において前述したような、セルロースナノファイバーが酸成分で変性されている場合における当該セルロースナノファイバーに共有結合したポリアミドである。
【0155】
上記重量減少率は、セルロースナノファイバーと強固に結合している成分の量が多く樹脂組成物の伸度向上に有利である点で、好ましくは、30%以上、又は35%以上、又は40%以上であり、セルロースナノファイバーと他の成分との結合の量が多すぎないようにして当該樹脂組成物の貯蔵時及び加工時の結合切断による物性低下を回避する観点から、好ましくは、90%以下、又は85%以下、又は80%以下である。
【0156】
一態様において、ポリアミドは、アミノ末端基濃度[NH2]>カルボキシル末端基濃度[COOH]を満たす。このようなポリアミドのより具体的な例は、第1の実施形態において前述したのと同様であってよい。
【0157】
一態様において、セルロースナノファイバーは、第1の実施形態で説明した酸成分で変性されている。変性のより具体的な例は、第1の実施形態において前述したのと同様であってよい。
【0158】
≪樹脂組成物の形状≫
本実施形態の樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性及び運搬の容易性から好ましい。好ましい樹脂ペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、形状は押出加工時のカット方式により異なってよい。例えば、アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの好ましいペレット直径は、1mm以上3mm以下である。円柱状ペレットの好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0159】
≪樹脂組成物の特性≫
本実施形態の樹脂組成物は、例えば以下に例示する有利な特性のうち1つ以上を示し得る。
【0160】
<引張降伏強度>
樹脂組成物の引張降伏強度は、一態様において、80MPa以上、又は90MPa以上、又は100MPa以上であってよく、一態様において、150MPa以下、又は140MPa以下、又は130MPa以下であってよい。樹脂組成物の引張降伏強度の、ポリアミド単独の引張降伏強度を1.0としたときの比率は、好ましくは、1.1倍以上、又は1.15倍以上、又は1.2倍以上、又は1.3倍以上である。上記比率の上限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5.0倍以下、又は4.0倍以下であってよい。引張降伏強度は、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形し、JISK6920-2に準拠して測定される値である。
【0161】
<引張破断歪>
本実施形態の樹脂組成物は、セルロースナノファイバーとポリアミドとの強固な結合により高伸度、したがって優れた靭性を有することができる。一態様において、樹脂組成物の引張破断歪は、好ましくは、10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は40%以上、又は50%以上である。樹脂組成物の引張破断歪は高い方が好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、500%以下、又は200%以下、又は100%以下であってもよい。上記引張破断歪は、ISO 37 type 3の試験片について、引張試験機を用い、温度23℃,相対湿度50%の環境下にて引張速度5mm/分で引張試験を実施したときの、破断時の歪のデータ5点の算術平均として得られる値である。
【0162】
<線膨張係数>
本実施形態の樹脂組成物においては、セルロースナノファイバーとポリアミドとの強固な結合により、線膨張係数が低く抑えられていることができる。具体的には、樹脂組成物の温度範囲20℃~100℃における熱膨張係数は、好ましくは、70ppm/K以下、又は60ppm/K以下、又は50ppm/K以下、又は45ppm/K以下、又は40ppm/K以下、又は35ppm/K以下である。熱膨張係数の下限は特に制限されないが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、5ppm/K以上、又は10ppm/K以上であってよい。熱膨張係数は、ISO11359-2に準拠し、熱機械測定にて求められる値である。
【0163】
≪成形体の製造≫
本実施形態の樹脂組成物から、種々の形状の成形体を製造できる。一態様において、成形体の製造方法は、本実施形態の混合工程と、樹脂組成物を成形する成形工程とを含む。成形方法としては、射出成形(例えば射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、及び超高速射出成形)、各種押出成形(コールドランナー方式又はホットランナー方式)、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、各種異形押出成形(例えば二色成形及びサンドイッチ成形)等を例示できる。例えば、シート、フィルム、繊維等の成形には種々の押出成形が好適である。シート又はフィルムの成形にはインフレーション法、カレンダー法、キャスティング法等も用いることができる。さらに、特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また、回転成形又はブロー成形等により中空成形品とすることも可能である。デザイン性及びコストの観点から、成形方法としては射出成形が好ましい。
【0164】
成形温度は、樹脂組成物の組成等に応じて適宜選択できるが、例えば、使用されるポリアミドの融点以上、又は当該融点+20℃以上、又は融点+30℃以上であってよく、融点+90℃以下、又は融点+80℃以下、又は融点+70℃以下であってよい。
【0165】
≪樹脂組成物及び成形体の用途≫
本実施形態の樹脂組成物及び成形体は、鋼板、繊維強化プラスチック(例えば炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等)、無機フィラーを含む樹脂コンポジット、等の代替品として有用である。樹脂組成物及び成形体の好適な用途としては、産業用機械部品、一般機械部品、自動車・鉄道・車両・船舶・航空宇宙関連部品、電子・電気部品、建築・土木材料、生活用品、スポーツ・レジャー用品、風力発電用筐体部材、容器・包装部材、等を例示できる。
【実施例0166】
以下、本発明の例示の態様を実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0167】
≪評価方法≫
<ポリアミドの評価>
[アミノ末端基濃度[NH2]]
秤量した試料を、90質量%フェノール水溶液に溶解し、25℃にて1/50N塩酸で電位滴定して算出した。
【0168】
[カルボキシル末端基濃度[COOH]]
秤量した試料を、160℃のベンジルアルコールに溶解し、指示薬に25℃にて1/50N塩酸で電位滴定して算出した。
【0169】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
ポリマーペレットについて、ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で算出した。ミクロトーム(ライカ社製、型番:RM2245)でペレットを切削し、約5.0mgサンプリングした後、計算した樹脂分に対して1mg:1mLになるように0.0848%トリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたヘキサフルオロイソプロピルアルコールを加え、1時間静置し溶解させた。溶液を孔径0.22μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記のとおりである。
装置:東ソー社製 HLC-8320GPC
カラム:東ソー社製 SuperHM-M
ガードカラム:東ソー社製 TSK-GELガード
溶離液:ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(トリフルオロ酢酸ナトリウム 0.0848質量%)
流速:0.3mL/分
検出器:RI検出器
検量線サンプル:エーエムアール社製 EasiVialTMPM(PMMA)(分子量は、2,210,000、1,020,000、538,500、260,900、146,500、72,800、30,780、13,900、7,290、1,810、1,090、540のものを使用)
解析ソフト:EcoSEC-WorkStation
【0170】
[融点]
ポリマーペレットについて、示差走査熱量分析装置(PERKINELMER社製DSC8500)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温した際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を測定した。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を融点とした。
【0171】
[ガラス転移点]
ポリマーをISO294-1に準拠して成形して得た板状の多目的試験片の中央部について、動的粘弾性測定装置(TA Instruments社製 ARES G2)を用いて、-100℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップ温度を測定した。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度をガラス転移点とした。
【0172】
<セルロースナノファイバーの評価>
[多孔質シートの作製]
まず、ウェットケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。セルロース固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gを濾紙上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、濾紙を剥離してシートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
【0173】
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0174】
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
I(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
I(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0175】
[平均繊維径、L/D]
ウェットケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型顕微鏡で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロースが観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロースの長さ(L)、長径(D)及びこれらの比を求め、100本のセルロースの加算平均を算出した。
【0176】
[平均置換度(DS)及びカルボキシル基濃度]
13C-固体NMRにて100ppmから150ppmの範囲に現れるセルロースのC1位に由来するピークの面積強度をInp、150ppmから200ppmの範囲に表れる炭素-酸素二重結合由来のピークの面積強度をInmとし、下記式で平均置換度(DS)を求めた。
平均置換度(DS)=Inm/Inp×(1/nc)
ここでncは修飾基に含まれる炭素-酸素二重結合の数を表し、例えば無水マレイン酸の場合、ncは2となる。
具体的な測定条件は以下のとおりである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS(Dipolar Decoupling/ Magic
Angle Spinning)法
待ち時間 :75sec
NMR 試料管 :4mmΦ
積算回数 :640 回(約 14Hr 測定)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準 :グリシン(外部基準、176.03ppm)
また、平均置換度(DS)の値から変性セルロースナノファイバー1mg当たりのカルボキシル基濃度を算出した。
【0177】
[表面カルボキシル基濃度]
上記多孔質シートを用い、X線光電子分光法(XPS)にて、各元素由来の固有の結合エネルギー値におけるピーク面積強度を算出し、装置固有の感度係数を用いた相対感度因子法で、相対的な評価にて定量評価した。具体的な手順は以下のとおりである。
上述したセルロースナノファイバーの多孔質シートを2.5mmφの皿状試料台に載せ、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する変性工程で用いた不飽和カルボン酸のカルボキシル基由来のN個の炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×(5/N)/(Ixp)
用いたXPS測定の条件は以下の通りである。
分析サイズ :100μmφ×1.4mm
光電子取出角:45°
取込領域:
Survey scan:0~1,100eV
Narrow scan:C 1s、O 1s、N 1s
Pass Energy:
Survey scan:117.4eV
Narrow scan: 46.95eV
帯電補正基準:C 1s=286.3eV
使用した無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸は、それぞれN=2として算出した。
【0178】
[熱分解開始温度]
多孔質シートの熱分析を以下の測定法にて評価した。
装置:Rigaku社製、Thermo plus EVO2
サンプル:多孔質シートから円形に切り抜いたものをアルミ試料パン中に10mg分重ねて入れた。
サンプル量:10mg
測定条件:窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、30℃になるまで冷却した。つづいて、そのまま30℃から450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温した。
TD算出方法:横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた。多孔質シートの150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点としてさらに昇温を続け、1wt%重量減少時の温度と2wt%重量減少時の温度とを通る直線を得た。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる
点の温度を熱分解開始温度(TD)とした。
【0179】
<樹脂組成物の評価>
[樹脂組成物及び不溶分の窒素原子濃度]
樹脂組成物250mgをはかりとり、20mL容のバイアル瓶に入れ、そこにヘキサフルオロ-2-プロパノールを10mL添加した後、25℃で24時間静置して組成物の可溶性部分を溶解した。上記溶液を15,000rpmで15分間遠心分離し、残渣を回収した。残渣に対してヘキサフルオロ-2-プロパノールの添加と溶解、遠心分離による残渣の回収を計2回実施した。回収した残渣を25℃で48時間真空乾燥し、乾燥した残渣を得た。
【0180】
上記の手順で得られる乾燥残渣をX線電子分光法によって分析し、窒素原子濃度を測定した。X線電子分光法の測定条件は以下のとおりである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s、N 1s
Pass Energy:46.95eV
【0181】
[重量減少率]
樹脂組成物250mgをはかりとり、20mL容のバイアル瓶に入れ、そこにヘキサフルオロ-2-プロパノールを10mL添加した後、25℃で24時間静置して組成物の可溶性部分を溶解した。上記溶液を15,000rpmで15分間遠心分離し、残渣を回収した。残渣に対してヘキサフルオロ-2-プロパノールの添加と溶解、遠心分離による残渣の回収を計2回実施した。回収した残渣を25℃で48時間真空乾燥し、乾燥した残渣を得、その重量を測定してW1とした。
【0182】
上記手順で得られる乾燥残渣に0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10mLを添加し、マグネチックスターラーを用いて25℃で24時間撹拌して加水分解反応を行った。反応後、15,000rpmで15分間遠心分離し、残渣を回収した。残渣に20mLの蒸留水を加え、分散させた。分散と遠心分離を計6回行った。回収された残渣を120℃で2時間真空乾燥し、得られた乾燥固形物の重量をW2とした。重量減少率を下記の式により算出した。
重量減少率(%)=(W1-W2)/W1×100
【0183】
[熱膨張性(熱膨張係数)]
試験片(ISO 37 type 3)の中央部から、精密カットソーにて長さ10mm、幅4mm、厚み2mmのサンプルを切り出し、測定温度範囲-40~120℃で、成形時の樹脂の流動方向(すなわち、MD方向、サンプルの長さ方向)に関しての膨張率を測定し、0℃~60℃の間での熱膨張係数を算出した。この際、測定に先立ち、150℃環境下で2時間静置してアニーリングを実施した。
【0184】
[引張破断歪]
試験片(ISO 37 type 3)を用いて、温度23℃,相対湿度50%の環境下で引張速度5mm/minで引張試験を実施し、引張破断時の歪のデータ5点を算術平均し靭性の指標とした。
【0185】
[引張降伏強度]
試験片(ISO 37 type 3)を用いて、温度23℃,相対湿度50%の環境下で引張速度5mm/minで引張試験を実施し、降伏時の強度のデータ5点を算術平均し強度の指標とした。
【0186】
≪使用材料≫
<ポリアミド>
ポリアミド-1:「UBEナイロン 1013A」(宇部興産株式会社製)
ポリアミド-2:「UBEナイロン 1013B」(宇部興産株式会社製)
【0187】
<酸成分>
無水マレイン酸:関東化学社製 鹿特級 純度99.0%以上
無水コハク酸:関東化学社製 鹿特級 純度98.0%以上
無水フタル酸:関東化学社製 鹿1級 純度99.0%以上
【0188】
<変性セルロースナノファイバー>
[CNF-1~5](マレイン酸変性セルロースナノファイバー)
以下の手順で調製した。
コットンリンターパルプ3質量部を水27質量部に浸漬させてオートクレーブ内で130℃、4時間の熱処理を行った。得られた膨潤パルプを水洗し、水を含む精製パルプ(30質量部)を得た。つづいて、水を含む精製パルプ30質量部に水を170質量部入れて水中に分散させて(固形分率1.5質量%)、ディスクリファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを0.1mmとして叩解処理をすることで叩解水分散体(固形分濃度:1.5質量%)を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NSO15H)を用いて操作圧力100MPa下で15回微細化処理し、セルロース繊維スラリー(固形分濃度:1.5質量%)を得た。そして、脱水機により固形分率10質量%まで濃縮し、CNFケーキ(水分散)を得た。
【0189】
得られたCNFケーキ50gに対してN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFという。)を950g添加し高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用いて15,000rpmで3分間分散した後、9,000rpmで5分間遠心分離した。回収された残渣に対してDMFの添加から遠心分離までの工程を計2回繰り返した後、ろ過によって固形分率10%まで濃縮し、CNFケーキ(DMF分散)を得た。
【0190】
セパラブルフラスコに、CNFケーキ(DMF分散)1質量部に対してDMF9質量部、無水マレイン酸1質量部を添加して撹拌羽で均一に撹拌しながら120℃で2時間反応させた。反応を停止させるため、水100質量部を攪拌しながら加えた。つづいて、濾過により固形分を濾別した。得られた固形分に対して500質量部の水を加えてミキサーで分散させた後、濾過をする洗浄操作を4回実施し、マレイン酸変性セルロースナノファイバーの水中スラリー(固形分率10質量%)を得た。この水中スラリーのpHは、6.5であった。固体NMR分析の結果、平均置換度は0.03であった。
【0191】
[CNF-6](コハク酸変性セルロースナノファイバー)
無水マレイン酸を無水コハク酸にした他は[CNF-1]の調製と同じ手順でコハク酸変性セルロースナノファイバーの水中スラリー(固形分率10質量%)を得た。この水中スラリーのpHは、7.0であった。固体NMR分析の結果、平均置換度は0.03であった。
【0192】
[CNF-7](フタル酸変性セルロースナノファイバー)
無水マレイン酸を無水フタル酸にした他は[CNF-1]の調製と同じ手順でフタル酸変性セルロースナノファイバーの水中スラリー(固形分率10質量%)を得た。この水中スラリーのpHは、6.8であった。固体NMR分析の結果、平均置換度は0.02であった。
【0193】
[CNF-8](TEMPO酸化セルロースファイバー)
Cellulose Lab社より入手した(CNF-TEMPO-S)。固体NMR分析の結果、平均置換度は0.18であった。
【0194】
≪樹脂組成物の製造≫
<実施例1>
バイアル瓶に入れた1質量部の表1に示す配合2のポリアミドに対して、9質量部のヘキサフルオロ-2-プロパノールを添加し、25℃で24時間放置することでポリアミド溶液を調製した。次に別のバイアル瓶に、1質量部のCNF-1に対して15質量部のヘキサフルオロ―2-プロパノールを添加した後、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用いて15,000rpmで3分間分散することで、CNF分散液を得た。ポリアミド溶液及びCNF分散液を、ポリアミド-1とCNF-1固形分の重量比率が9:1となるように、株式会社シンキー製自転公転ミキサーARE-310を用いて5分間混合した後、混合物をエスペック株式会社製SPH-201を用いて80℃で乾燥させた。得られた乾燥体をラボネクト株式会社製ミニスピードミルMS-05で粉砕し、中間体組成物を得た。
【0195】
中間体組成物を小型混練機(Xplore instruments社製、製品名「Xplore」)を用いて、250℃、200rpmで2分間循環混練後に、付属の射出成型機にて250℃で溶融し、専用卓上射出成型機(DSM社製)を用いて金型温度80℃で試験片(ISO 37 type 3)を作製した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
【0196】
<実施例2~7、比較例1~7>
ポリアミド及び変性セルロースナノファイバーの配合を表3に示すとおりとした他は実施例1と同様の手順で、樹脂組成物の製造及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0197】
【0198】
【0199】