(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159139
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】構造体、振動デバイス及び体感音響装置
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20221006BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B06B1/04 S
H04R1/00 310G
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055077
(22)【出願日】2022-03-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2021058978
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519366237
【氏名又は名称】NatureArchitects株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134094
【弁理士】
【氏名又は名称】倉持 誠
(72)【発明者】
【氏名】須藤 海
【テーマコード(参考)】
5D017
5D107
【Fターム(参考)】
5D017AA11
5D107BB08
5D107CC08
5D107CC10
5D107FF10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】振動源の振動を増幅又は減衰可能であって、かつ想定される荷重を支えるために必要な静的な剛性を有する構造体を提供する。
【解決手段】構造体100は、振動体を保持する振動部110と、振動部を少なくとも部分的に収容する筐体120と、振動部と筐体とを連結して振動部を支持する支持部130SR,130SLとを具備する。支持部は、振動体を保持した状態の振動部が少なくとも1つの方向に発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅又は減衰させる動剛性を備え、かつ振動体を保持した状態の振動部を支持するために必要な静剛性を備える。構造体及び振動体を含む系は、少なくとも1つの方向における振動の振動周波数が高くなるにつれて、振動伝達率が高くなる励起された振動モードが発現した後に振動伝達率が漸減する特性を有する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体を保持する振動部と、前記振動部を少なくとも部分的に収容する筐体と、前記振動部と前記筐体とを連結して前記振動部を支持する支持部とを具備し、
前記支持部は、前記振動体を保持した状態の振動部が少なくとも1つの方向に発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅又は減衰させる動剛性を備え、かつ前記振動体を保持した状態の振動部を支持するために必要な静剛性を備えるように構成されており、
前記構造体及び前記振動体を含む系は、前記少なくとも1つの方向における振動の振動周波数が高くなるにつれて、振動伝達率が高くなる励起された振動モードが発現した後に前記振動伝達率が漸減する特性を有し、
前記支持部は、前記少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅させる前記動剛性を備える場合には、前記所定の周波数における前記振動伝達率が1よりも大きくなるように前記励起された振動モードを発現させる前記動剛性をさらに備え、前記少なくとも所定の周波数の振動の伝達を減衰させる前記動剛性を備える場合には、前記所定の周波数における前記振動伝達率が1よりも小さくなるように前記励起された振動モードを発現させる前記動剛性をさらに備えており、
前記支持部は、前記振動部を第1の軸に沿って直線往復振動するように支持するように構成されており、
前記支持部は、
前記振動部に連結される第1支持体と、前記筐体に連結される第2支持体とを含む第1の組と、
前記振動部に連結される第1支持体と、前記筐体に連結される第2支持体とを含む第2の組であって、前記第1の軸方向に沿って前記第1の組から離間した位置に配置された第2の組と、
前記第1の組の前記各支持体と前記第2の組の前記各支持体とを連結する連結部と、
を含む、
構造体。
【請求項2】
前記支持部は、前記第1支持体および前記第2支持体の弾性変形により、前記筐体に対する前記振動部の相対位置が前記第1の軸に沿って変位可能に前記振動部を支持する、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記第1支持体および前記第2支持体は、前記第1の軸に沿う方向の寸法が、前記第1の軸に直交する方向の寸法に比べて小さい外形を備える梁である、
請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記筐体は、当該筐体の前記第1の軸に沿った方向の少なくとも一方の端部にフランジを備える、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構造体。
【請求項5】
前記フランジは、前記振動部および前記支持部よりも前記第1の軸に沿った方向に突出した位置に配置され、かつ前記振動部および前記支持部に接触しないように構成される、
請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記振動部、前記筐体および前記支持部のうち2つ以上は均質な材料からなる、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記振動部、前記筐体および前記支持部のうち2つ以上は一体成形されている、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の構造体と、
前記構造体の振動部に保持された振動体と、
を備えた振動デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載された振動デバイスを複数具備した、
体感音響装置。
【請求項10】
前記複数の振動デバイスは、ユーザの身体に振動を伝達するための振動伝達面を形成し、
前記複数の振動デバイスの各々は、前記振動伝達面の当該振動デバイスの位置における法線に沿って前記振動部が直線往復振動するように構成される、
請求項9に記載の体感音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、構造体、振動デバイス及び体感音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動デバイスを備えた体感音響装置が知られている。振動デバイスは、例えば電気信号を機械的な振動に変換する電磁石によって駆動される。振動デバイスがユーザの身体に直接または間接的に接触させた状態で振動デバイスを駆動することにより、ユーザは振動デバイスの振動によって生じる音響を体感することができる。
【0003】
椅子またはクッションの内部に振動デバイスを埋め込むことで構成される体感音響装置が知られている(特許文献1参照)。かかる体感音響装置は、映像及び音からなるコンテンツに対する没入感を強化するために用いられることがある。ユーザは、体感音響装置に座り、またはもたれかかった状態でコンテンツを視聴する。ユーザは、コンテンツの映像および音に加えて、体感音響装置から振動によって生じる音響を体感することで、高い没入感を味わうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
体感音響装置に用いられる振動デバイスには、ユーザに音響を体感させるために必要な強度の振動を発生させることと、ユーザの体重等による荷重に対する剛性(つまり、耐荷重性)を備えることとが求められる。しかしながら、これら2つの要件にはトレードオフが存在する。一般に、振動デバイスの振動部を支持する支持部を高剛性に構成すると、振動デバイスの耐荷重性が向上する一方で振動部の振動の振幅が制限されるため振動強度を高めることが困難となる。また、体感音響装置に用いられる振動デバイスには、例えば、ある周波数の振動の強度を高めたい一方で、それとは異なる周波数の振動の強度は弱めたいというニーズもある。
【0006】
また、複数の振動デバイスを備える体感音響装置では、振動デバイス間の相互干渉が体感音響の品質を損なうことがある。具体的には、振動デバイスで生じた振動が外部に伝播し、他の振動デバイスの振動と干渉する(共振する、または打ち消し合う)ことがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る構造体は、振動体を保持する振動部と、振動部を少なくとも部分的に収容する筐体と、振動部と筐体とを連結して振動部を支持する支持部とを具備し、支持部は、振動体を保持した状態の振動部が少なくとも1つの方向に発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅又は減衰させる動剛性を備え、かつ振動体を保持した状態の振動部を支持するために必要な静剛性を備えるように構成されており、構造体及び振動体を含む系は、少なくとも1つの方向における振動の振動周波数が高くなるにつれて、振動伝達率が高くなる励起された振動モードが発現した後に振動伝達率が漸減する特性を有し、支持部は、少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅させる動剛性を備える場合には、所定の周波数における振動伝達率が1よりも大きくなるように励起された振動モードを発現させる動剛性をさらに備え、少なくとも所定の周波数の振動の伝達を減衰させる動剛性を備える場合には、所定の周波数における振動伝達率が1よりも小さくなるように励起された振動モードを発現させる動剛性をさらに備えている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態の構造体を含む系を示す図である。
【
図3】
図1の系における振動モデルを示す図である。
【
図4】
図3のモデルの振動伝達率の周波数特性を示すグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施形態の構造体の支持部の静剛性の解析モデルを示す。
【
図6】本発明の第1の実施形態の一実施例の構造体を正面側の斜め上から見た斜視図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態の一実施例の構造体を、その上部のフランジ部を切断した状態で示す平面図である。
【
図8】
図7に示したフランジ部を切断した状態の構造体を
図6とは異なる方向から見た斜視図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態の一実施例の構造体の振動部に振動体を収容した状態を示す斜視図である。
【
図10】剛性に関する異方性を有する構造の一例を示す斜視図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態の体感音響装置における複数の振動デバイスの配置を上方から見た図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態の体感音響装置における複数の振動デバイスの振動方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本発明のコンセプト>
最初に、本発明のコンセプトについて説明する。
【0010】
上述したように、従来技術には、支持可能な荷重(耐荷重性)を高めて静的性能をアップさせると動的性能がダウンして達成可能な振動強度が低下し、これとは逆に、達成可能な振動強度を高めるために動的性能をアップさせると静的性能がダウンして支持可能な荷重が低下するトレードオフの関係が存在する。これに対し、本発明の発明者は、種々の構造体の設計と解析を行った結果、振動強度を高めたい又は弱めたい振動方向の振動モードをその他の方向の振動モードから孤立化させ、その振動方向においては振動源の振動を増幅又は減衰させつつも、想定される荷重を支持することが可能な剛性を持たせることで上記トレードオフを解決するという着想を得て、本発明に係る構造体及びその設計方法を考案した。
【0011】
このように、本発明のコンセプトは、振動強度を高めたい又は弱めたい方向に振動体の振動を増幅させつつも、想定される荷重を支持することが可能な剛性を構造体に付与することである。本発明は、一例として、振動強度を高めたい又は弱めたい方向の動的な剛性のみを柔軟にすることにより振動源の振動を増幅又は減衰可能であって、かつ想定される荷重を支えるために必要な静的な剛性を有する構造体を提供する。
【0012】
<本発明の実施形態>
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0013】
以降の説明において、所定の姿勢にある構造体を基準として、上方(T方向)、下方(B方向)、前方(F方向)、後方(R方向)、左方向(SL方向)、および右方向(SR方向)を定義する。
【0014】
本明細書の以降の説明及び添付する特許請求の範囲の記載において、回転とは、一方向(時計回り、または反時計回り)の回転のみならず、双方向(時計回りおよび反時計回り)への交互な回転をも意味し得る。
【0015】
(1)第1の実施形態
第1の実施形態について説明する。第1の実施形態の構造体は、振動部と、筐体と、支持部とを備える。振動部は、振動体を保持する。筐体は、振動部を少なくとも部分的に収容する。支持部は、振動部と筐体とを連結して振動部を支持する。振動体を保持した状態の振動部は、少なくとも1つの方向に振動する。
【0016】
第1の実施形態の構造体の支持部は、振動体を保持した状態の振動部が発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数において振動を増幅させる動剛性を備えるように構成される。同時に、この支持部は、少なくとも振動体を保持した状態の振動部を支持するために必要な静剛性を備えるように構成される。つまり、この支持部は、想定される荷重に抗して振動体を保持した状態の振動部の位置姿勢を安定させるのに十分な剛性(静剛性)を確保するとともに、当該振動部が発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数に対して振動強度を高めることができる。
【0017】
一例として、「動剛性」は、動的な力又は動的なモーメントと、それによる動的な変位との関係で表される剛性を意味し、「静剛性」は、静的な力又は静的なモーメントと、それによる静的な変位・変形との関係で表される剛性を意味する。
【0018】
・基本原理
第1の実施形態の構造体の基本原理について説明する。
図1は、第1の実施形態の構造体を含む系を示す図である。
図2は、
図1の別の例を示す図である。
【0019】
図1に示すように、第1の実施形態の支持部SPTは、振動体を保持した状態の振動部OSと筐体HSとを連結して振動部OSを支持する。振動部OSは、振動周波数fで振動する。
【0020】
なお、
図1では、一例として振動体を保持した状態の振動部OSが直線往復運動による振動(以下、「直線往復振動」と称する)をするかのように描かれているが、振動部OSの振動方向は任意である。例えば、振動部OSは、
図2(a)に示すように回転運動による振動(以下、「回転振動」と称する)をしてもよく、
図2(b)に示すように揺動運動による振動(以下、「揺動振動」と称する)をしてもよい。或いは、振動部OSの振動は、上記各振動態様の任意の組み合わせであってもよい。
【0021】
・動剛性
第1の実施形態の構造体の支持部の動剛性について説明する。
図3は、
図1の系における振動モデルを示す図である。
図4は、
図3のモデルの振動伝達率の周波数特性を示すグラフである。
【0022】
支持部SPTは、振動体を保持した状態の振動部OSが発生させる振動のうち少なくとも振動周波数fにおいて振動を増幅させる動剛性を備えるように構成される。これを振動部OSから筐体HSへの振動伝達特性として
図3を用いて説明すると、各周波数において、振動部OSから筐体HSへの振動伝達特性は、振動部OSの質量mと、振動部OSの振動方向に関する支持部SPTの動剛性kdとによって決まる。
【0023】
振動体を保持した状態の振動部OSの発生する加振力F0に対する、筐体HSに伝達する加振力Fの比率F/F0は、振動伝達率と定義される。
図4中の実線のグラフで示すように、
図3のモデルは、周波数が高くなるにつれて、振動伝達率が高くなる励起された振動モードが発現した後に振動伝達率が漸減する周波数特性を呈する。具体的には、
図3のモデルの振動伝達率は、周波数がfu以下の範囲では周波数が高くなるほど増加し、fuにおいて極大となる。ここで、fuは、
図3のモデルの固有振動数である。
図3のモデルの振動伝達率は、周波数が固有振動数fu以上の範囲では漸減し、√2fuでゼロクロスする。つまり、
図3のモデルは、周波数が√2fu未満の範囲では振動伝達率が1よりも大となる、つまり振動強度を増幅させることができる。
【0024】
図3のモデルの固有振動数は、質量mおよび動剛性kdによって決まる。そして、動剛性kdを小さくして固有振動数を低くするほど、低周波域における振動伝達率を高めることができ、反対に、動剛性kdを大きくして固有振動数を高くするほど、高周波域における振動伝達率を高めることができる。
【0025】
一例として固有振動数を低くする場合について説明すると、
図4からわかるように、固有振動数をfuよりも小さいfu’とした系の周波数特性(
図4中の点線で示されたグラフ)における低周波域(例えば、fu’以下の周波数域)の振動伝達率は、
図4中に実線で示された固有振動数fuの系の周波数特性における振動伝達率に比べて増加する。質量mは定数であるから、動剛性kdを小さくすることで、固有振動数fuを低下させることができる。故に、低周波域における振動伝達率向上の観点からすると、振動体を保持した状態の振動部OSの振動方向に関する支持部SPTの動剛性kdは、小さいほど好ましい。
【0026】
上記知見に基づき、本実施形態の支持部SPTは、振動体を保持した状態の振動部OSが発生させる振動の周波数成分のうち、少なくとも、特に振動伝達を増幅させたい所定の振動周波数fにおける振動伝達率が1よりも大となる固有振動数fuを有するように、動剛性kdが定められる。かかる動剛性kdを備えた支持部SPTおよび振動部OSを含む系は、振動周波数fにおける振動伝達率が1よりも大となる、励起された振動モードを発現させる。具体的には、支持部SPTは、与えられた振動部OSの振動方向、質量m、および振動周波数fに対して、支持部SPTおよび振動部OSを含む系の固有振動数fuを振動周波数fの1/√2倍よりも高く、かつ好ましくは振動周波数fに一致させる動剛性kdを備えるように構成される。
【0027】
なお、支持部SPTおよび振動体を保持した状態の振動部OSを含む系の固有振動数fuをどの程度とするか、そのために動剛性kdの大きさをどのように定めるかは、振動強度を高める必要のある所定の振動周波数fにおいてどの程度の増幅効果を得たいか、すなわち所定の振動周波数fにおける振動伝達率をどれだけ高くしたいかに応じて、適宜決定することができる。
【0028】
ここで、支持部SPTの動剛性kdは、例えば以下の手順で導出することができる。
(1)支持部SPTの一端を筐体HSに接続し、支持部SPTの他端を、振動体を保持した状態の振動部OSと同じ質量mのおもりに接続する。
(2)(1)の系に対して固有振動解析を行い、1組以上の固有振動数および固有振動モードを特定する。
(3)(2)において特定した固有振動数および固有振動モードの組から、おもりが対象となる加振方向(振動部OSの振動方向)に振動している組を抽出する。
(4)(3)において抽出した組を固有振動数の小さい順にソートする。
(5)(4)で得られた最小の固有振動数をfu1として、動剛性kdを以下の数式で算出する。
kd=m*(2π*fu1)2
上記数式によれば、振動強度を高めたい所定の振動周波数fにおいて所望の振動伝達率を得るために必要とされる固有振動数fu’を特定することにより、その固有振動数fu’を実現するための動剛性kd’を算出することができる。
【0029】
なお、本実施形態における支持部の「動剛性」に関する上記説明において「振動伝達率」の概念を用いているが、これは、本実施形態における支持部が振動部の振動強度を高めるために備えるべき動剛性を説明することを意図したものであり、本実施形態の構造体が振動部の振動を筐体に伝達させるものであることを意味するものではない。以下において詳しく説明するように、本実施形態の構造体は、振動部の振動強度を高めたい所定の振動周波数fにおいて振動増幅効果を発揮できる動剛性を支持部に付与し、振動部の振動方向における支持部の変位量(振幅)を大きくすることで、振動部の振動強度を高めることが可能である。一方、本実施形態の構造体では、振動部が支持部によって筐体に対して懸架された状態で支持されるため、振動部による振動が筐体へ伝達することが抑制され、さらにはその振動が構造体の外部に伝播することが抑えられる。
【0030】
・静剛性
第1の実施形態の構造体の静剛性について説明する。
図5は、第1の実施形態の構造体の支持部の静剛性の解析モデルを示す。
【0031】
支持部SPTは、振動体を保持した状態の振動部OSを支持するために必要な静剛性を備えるように構成される。具体的には、
図5に示すように、支持部SPTは、振動部OSに印加される設計荷重Flに対して振動部OSを支持するために必要な静剛性ksを備える。振動部OSを支持するとは、例えば、設計荷重Flが加えられた場合でも振動部OSの位置姿勢を安定させることを意味し得る。位置姿勢を安定させることとは、設計荷重Flの印加による変位(回転変位を含む)を許容範囲内に抑えることを意味し得る。
【0032】
設計荷重Flは、振動体を保持した状態の振動部OSおよび支持部SPTを含む系の使用環境において想定される各種の荷重である。一例として、設計荷重Flは、以下の少なくとも1つを含むことができる。
・重力(例えば、振動体を保持した状態の振動部OSの自重および振動部OSに作用するユーザの体重による重力)
・慣性力
【0033】
図5のモデルでは、支持部SPTのうち振動体を保持した状態の振動部OSとの接点CPに設計荷重Flを印加した時の支持部SPTの変位量をdとすると、静剛性ksは以下の数式で導出可能である。
ks=Fl/d
【0034】
ここで、設計荷重Flの印加方向に関する静剛性ksが大きいほど、当該設計荷重Flによる支持部SPTの変位量dは小さくなる(つまり、設計荷重Flが加えられた場合でも振動体を保持した状態の振動部OSの位置姿勢が安定する)。設計荷重Flに抗して振動部OSを支持するために必要な静剛性ksは、例えば、
図5のモデルにおいて設計荷重Flの大きさを想定上の最大値とした時に支持部SPTの変位量が設計上の許容範囲内に収まるような静剛性と定義することができる。
【0035】
このように設計荷重Flに抗して振動体を保持した状態の振動部OSを支持するために必要な静剛性ksを支持部SPTに持たせることで、支持部SPTは振動部OSを支持するために必要な静的強度を備えるように構成される。具体的には、
図5のモデルにおいて設計荷重Flの大きさを想定上の最大値とした時に支持部SPTに亘る応力の連続的な分布が解析により求められる。そして、応力分布の最大値(つまり、設計荷重Flによって支持部SPTに局所的に生じると想定される応力の最大値)が支持部SPTを構成する材料の許容応力以下となるように、支持部SPTの形状、位置、材料、またはそれらの組み合わせを決定する。これにより、想定上最大の設計荷重Flが振動部OSに印加されたとしても、支持部SPTは、破損することなく振動部OSの位置姿勢を安定させることができる。
【0036】
[実施例]
第1の実施形態の構造体の一実施例について説明する。
【0037】
・構成
図6は、第1の実施形態の一実施例の構造体を正面側の斜め上から見た斜視図である。
図7は、第1の実施形態の一実施例の構造体を、その上部のフランジ部を切断した状態で示す平面図である。
図8は、
図7に示したフランジ部を切断した状態の構造体を
図6とは異なる方向から見た斜視図である。
図9は、第1の実施形態の一実施例の構造体の振動部に振動体を収容した状態を示す斜視図である。
図10は、剛性に関する異方性を有する構造の一例を示す斜視図である。
【0038】
振動部が第1の軸に沿って直線往復振動する振動体を保持する場合に、支持部は、振動部が振動により第1の軸に沿って変位することを許容する一方で、振動部が自身または振動体にはたらく重力、または振動によって第1の軸とは異なる方向に変位しないように振動部を支持することが求められる。そのため、かかる構造体は、振動体の振動方向における動剛性が振動の伝達を増幅させることができる程度に低く、かつ、振動部をその位置姿勢を安定させた状態で支持できる程度に静剛性が高いことが望まれる。
【0039】
本実施例の構造体100は上記着想に基づいてなされたものである。本例では構造体100の支持部が第1の軸に沿った方向である上下(T-B)方向に振動する振動体140(
図9参照)を保持した状態の振動部を支持する例について以下に説明する。ただし、振動部110の変位可能な方向および振動部110によって保持される振動体の振動方向はこれに限られない。
【0040】
図6~
図9に示すように、構造体100は、振動体140を保持する振動部110と、振動部110を収容する筐体120と、筐体120内で振動部110を懸架した状態で支持する2つの支持部130SL、130SRとを備える。2つの支持部130SL、130SRは、配置が異なるものの、互いに同様の構成を備えている。故に、各支持部に共通する事項は、「130」の符号を用いて説明する。
【0041】
本実施例の構造体100は一例として、前後(F-R)軸及び左右(SR-SL)軸を含む平面が水平面と概ね一致し、上下(T-B)軸方向が鉛直方向と概ね一致するように配置されている。
【0042】
振動部110は、一例として、底面部110bを有し図示上方が開口した中空の略円筒状形状を有しており、その円筒内部の中空部分に
図9に示すように振動体140を収容する。振動体140は、例えば底面部110bに形成されているねじ穴を通して底面部110bにねじ止め固定される。振動部110の内径は、それに収容される略円筒形状の振動体140の外径とほぼ同じであることが好ましい。このように振動体140を内部に保持した振動部110は、振動体140と一体となって変位可能となる。振動体140は例えばボイスコイルモータ等のリニアモータであり、振動部110に保持された振動体140は図示上下(T-B)軸に沿って直線往復振動する。振動部110は、振動体140が発生する振動に伴って図示上下(T-B)軸に沿って直線往復振動する。
【0043】
振動部110の側面の対向する2か所には開口部110aが形成されている。これらの開口部110aは、振動部110内への振動体140の取付けや取外しのために作業者の手が届くようにするとともに、振動体140を駆動させることにより振動体140が発生する熱を振動部110の外部に放熱する役割を有する。
【0044】
筐体120は、一例として、少なくとも図示上方が開口した略円筒状に構成され、筐体120の中心軸周囲の円柱状の中空部分に振動部110の全体あるいは少なくとも一部を収容する。
図6等に示す例では、筐体120は、振動部110の周囲全体に取り囲むように振動部110を収容している。
【0045】
筐体120の側面の対向する2か所であって、内部に収容した振動部110の側面に形成された各開口部110aと重なる位置には、開口部120aが形成されている。これらの開口部120aも、振動部110内への振動体140の取付けや取外しのために作業者の手が届くようにするとともに、振動体140を駆動させることにより振動体140が発生する熱を筐体120の外部に放熱する役割を有する。
筐体120の図示上部の開口部の周囲には、フランジ部120bが形成されている。本例では、一例として、フランジ部120bは筐体120の図示左右方向に延びた形状を有している。フランジ部120bは、筐体120の図示上部にユーザが座ったり、もたれかかったりしたときにその荷重を支える役割を果たす。
【0046】
また、筐体120の図示下部の外周周囲には、ねじ穴が形成された取付フランジ部120cが形成されている。本例の筐体120では、筐体120の図示正面側および背面側の2か所に取付フランジ部120cが形成されている。構造体100を取り付ける対象物(不図示)に対して、例えば取付フランジ部120cのねじ穴を通してねじ止めを施すことで、構造体100を対象物に固定することができる。
【0047】
さらに、
図7および
図8においてより明確に示されているように、筐体120の図示左右の側面の上部領域と下部領域には切欠き部120d,120eがそれぞれ形成されている。これらの切欠き部120d,120eは、後述する支持部130のうち振動部110の側面に固定される支持体132が筐体120の側壁を通って筐体120の外部に延出することを可能にし、かつ支持体132が変位したときに支持体132が筐体120の側壁に接触するのを防ぐ。
【0048】
支持部130は、振動部110が第1の軸(図示の例では上下(T-B)方向)に沿って直線往復振動するように、筐体120内で振動部110を懸架した状態で支持するように構成される。より詳しくは、振動部110は、筐体120の内部空間内に、筐体120の中心軸と同心となり、かつ振動部110の外周面と筐体120の内周面との間に隙間が生じるように配置される。さらに、振動部110は、上下方向に振動する際に想定される最大変位量で変位した場合でも振動部110の底面が筐体120の底面あるいは構造体100が取り付けられた対象物に接触しない高さ位置に配置される。振動部110は、このような配置位置において支持部130によって支持される。
【0049】
支持部130の構成について図示左側の支持部130SLを参照して説明すると、支持部130SLは、構造体100の図示上部側で振動部110に一方の端部(第1の端部)が固定された第1支持体としての支持体132SLAおよび筐体120に一方の端部(第1の端部)が固定された第2支持体としての支持体131SLAと、構造体100の図示下部側で振動部110に一方の端部(第1の端部)が固定された第1支持体としての支持体132SLBおよび筐体120に一方の端部(第1の端部)が固定された第2支持体としての支持体131SLBと、それら支持体131SLA,132SLA,131SLB,132SLBの他方の端部(第2の端部)が固定された連結部133SLとを含む。図示上部側の支持体131SLAおよび支持体132SLAは第1の組を構成し、図示下部側の支持体131SLBおよび支持体132SLBは第2の組を構成する。第1の組の支持体131SLAおよび支持体132SLAの他方の端部は、連結部133SLの図示上端部付近において連結部133SLに固定され、第2の組の支持体131SLBおよび支持体132SLBの他方の端部は、連結部133SLの図示下端部付近において連結部133SLに固定されている。したがって、第1の組の支持体131SLAおよび支持体132SLAと、第2の組の支持体131SLBおよび支持体132SLBとは、図示上下(T-B)軸方向に沿って互いに離間して配置されている。
【0050】
図7に明瞭に示されているように、第1の組の支持体131SLAおよび支持体132SLAのうち、振動部110に一方の端部が固定された支持体132SLAの図示左右(SL-SR)方向の長さは、筐体120に一方の端部が固定された131SLAの同方向の長さよりも長くなっている。
図7では第1の組の支持体131SLAおよび支持体132SLAの下に隠れているが、第2の組の支持体131SLBおよび支持体132SLBについても同様に、振動部110に一方の端部が固定された支持体132SLBの図示左右(SL-SR)方向の長さが、筐体120に一方の端部が固定された131SLBの同方向の長さよりも長くなっている。
【0051】
第1の組を成す図示上部側の支持体131SLAおよび支持体132SLAは、振動部110及び筐体120の図示上側において連結部133SLを介して振動部110と筐体120とを連結して、振動部110を支持する。また、第2の組を成す支持体131SLBおよび支持体132SLBは、振動部110及び筐体120の図示下側において連結部133SLを介して振動部110と筐体120とを連結して、振動部110を支持する。このように構成された支持部130SLは、各支持体131SLA,132SLA,131SLB,132SLBの弾性変形により、筐体120に対する振動部110の相対位置が上下(T-B)軸に沿って変位可能に振動部110を支持する。
【0052】
なお、説明は省略するが、他方の支持部130SRも支持部130SLと同様の構成を備える。これら2つの支持部130SL,130SRは、構造体100の中心軸(振動部110と筐体120の同心中心軸でもある)を中心として対称に互いに対向するように配置されている。
【0053】
図6~9は、振動部110に加振力が作用していない状態において、振動部110が筐体120に対する中立位置に位置する状態を示している。この状態から、振動部110に対して図示上向き(T方向)への加振力が作用し、振動部110が筐体120に対して図示上方向に変位すると、振動部110に固定された支持体132SLAおよび支持体132SLBの一方の端部もそれに伴って図示上方向に変位する。これにより、それらの支持体132SLAおよび支持体132SLBは、振動部110に固定されたそれぞれの一方の端部と、連結部133SLに固定されたそれぞれの他方の端部とを拘束端として、振動部110に固定された端部が図示上側となるように弾性変形領域内で曲げ変形させられた状態で、図示上方向に変位する。
【0054】
すると、それらの支持体132SLAおよび支持体132SLBの他方の端部が固定された連結部133SLもそれに伴って図示上方向にいくらか変位する。連結部133SLが図示上方向に変位することに伴い、連結部133SLに固定された支持体131SLAおよび支持体1321LBの他方の端部もそれに伴って図示上方向に変位し、それらの支持体131SLAおよび支持体131SLBも、連結部133SLに固定されたそれぞれの一方の端部と、筐体120に固定されたそれぞれの一方の端部とを拘束端として、連結部133SLに固定された端部が図示上側となるように弾性変形領域内で曲げ変形させられた状態で、図示上方向に変位する。
【0055】
これに対し、
図6~9に示す状態から振動部110に対して図示下向き(B方向)への加振力が作用すると、振動部110、各支持体131SLA,132SLA,131SLB,132SLB、および連結部133SLの各部は上記と反対の方向に変位ないし変形する。なお、説明は省略するが、他方の支持部130SRの各部も支持部130SLの各部と同様に動作する。支持部130SL,130SRに支持された振動部110は、振動体140による加振力により上述のようにして図示上下(T-B)方向に往復直線振動する。
【0056】
このように、支持部130は、第1支持体としての図示上下の支持体132SLA,132SLBおよび第2支持体としての図示上下の支持体131SLA,131SLBの弾性変形により、筐体120に対する振動部110の相対位置が第1の軸(図示上下(T-B)軸方向)に沿って変位可能に振動部110を支持する。
【0057】
なお、
図9に示すように振動部110内に振動体140を収容した状態では、振動部110に振動体140を収容していない状態に比べて、振動体140の重量により振動部110がいくらか図示下方に変位する。さらに、振動部110内に振動体140を収容した状態では、振動体140の図示上部が筐体120の上部のフランジ部120bの上面から筐体120の外部にわずかに突出した状態となる。そのため、筐体120の図示上部にユーザが座ったり、もたれかかったりしたときには、振動体140の図示上部上面が筐体120の上部のフランジ部120bの上面と実質的に同じ高さになるまで振動部110が図示下方にさらに押し下げられ、振動部110はその位置を中立位置として支持部130SL,130SRに保持される。なお、このときユーザの身体による荷重は筐体120のフランジ部120bによって支持され、振動部110と共に図示下方に押し下げられた振動体140の図示上部上面がユーザの身体に接触した状態となる。
【0058】
支持部130は、振動体140を保持した状態の振動部110が上下(T-B)軸に沿って発生させる直線往復振動のうち少なくとも所定の振動周波数の振動、換言すれば、当該所定の振動周波数を含む周波数帯域における振動を増幅させる動剛性を備えるように構成される。支持部130の上記動剛性は、振動部110を介して支持部130に印加されることが想定される荷重(例えば、振動体140を保持した振動部110の重量による荷重や、構造体100に座ったりもたれかかったりしたユーザの身体により振動部110に作用する荷重)を考慮して定めることができる。
【0059】
振動部110は、振動体140が生じさせる直線往復振動の速度に応じて異なる周波数の振動を発生させ得る。支持部130は、それらの周波数のうち、より高い振動強度を達成したい所定の周波数を含む周波帯域における振動を増幅させることを可能にする。その一方で、支持部130は、振動部110を支持するために必要な静剛性を備えるように構成される。つまり、支持部130は、想定される荷重に対して振動部110の位置姿勢を安定させるのに十分な剛性(静剛性)を確保するとともに、当該振動部110が発生させる直線往復振動のうち少なくとも上記所定の振動周波数に対して高い振動強度を実現することができる。
【0060】
具体的には、支持部130は、振動体140を保持した状態の振動部110の振動方向に沿って印加される力(つまり、上下(T-B)軸に沿って印加される力)に対する動剛性が低い一方で、設計荷重に対する静剛性が得られるように構成されている。支持部130は、例えば剛性に関して異方性を有する構造を含むことで、動剛性に関する制約と静剛性に関する制約との双方を満足させることができる。
【0061】
さらに、一例として、支持部130は、振動体140を保持した状態の振動部110の振動方向に沿って印加される力に対する剛性よりも、それとは別の方向に沿って印加される力に対する剛性が高くなるように構成されている。
【0062】
別の方向に沿って印加される力に対する剛性は、例えば以下の全部、または少なくとも1つである。
・上下(T-B)軸周りのモーメントに対する剛性
・前後(F-R)軸に沿って印加される力に対する剛性
・前後(F-R)軸周りのモーメントに対する剛性
・左右(SL-SR)軸に沿って印加される力に対する剛性
・左右(SL-SR)軸周りのモーメントに対する剛性
【0063】
図10に示す梁BMは、剛性に関して異方性を有する構造の一例であり、本実施例における各支持体131SLA,132SLA,131SLB,132SLBに相当する。梁BMは、振動体140を保持した状態の振動部110の振動方向(つまり、上下(T-B)軸)の寸法aが、前後(F-R)軸の寸法bおよび左右軸(SL-SR)軸の寸法lに比べて小さい。
【0064】
梁BMの左端(SL端)を固定した状態で梁BMの右端(SR端)に上下(T-B)軸に沿って力を加える場合の剛性は、Kb1∝Ea3b/l3で表される。ここで、Eはヤング率である。他方、梁BMの左端(SL端)を固定した状態で梁BMの右端(SR端)に前後(F-R)軸に沿って力を加える場合の剛性は、Kb2∝Eab3/l3である。つまり、Kb2/Kb1∝b2/a2となる。このように、上下(T-B)軸の寸法aを前後(F-R)軸の寸法bおよび左右軸(SL-SR軸)の寸法lに比べて小さくすることで、上下(T-B)軸に沿って印加される力に対する剛性を、他の方向に沿って印加される力に対する剛性に比べて低くすることが可能である。
【0065】
上下(T-B)方向に波打つ形状を備える構造(いわゆる波板)も、上下(T-B)軸に沿って印加される力に対する剛性が、他の方向に沿って印加される力に対する剛性に比べて低い。
【0066】
このように、構造を適切な形状・寸法で構成することで、特定の方向に関する剛性を低く、かつその他の方向に関する剛性を高くすることができる。具体的には、支持部130の備える各支持体(例えば、支持体131SLA、支持体131SLB、支持体132SLA、および支持体132SLB)を、第1の軸に沿う方向(つまり上下(T-B)方向)の寸法が、第1の軸に直交する方向(前後(F-R)方向または左右(SL-SR)方向)の寸法に比べて小さい外形を備える梁として構成することで、支持部130の第1の軸に沿った方向に関する動剛性を低くすることができる。
【0067】
本実施例においては、各支持部130の支持体131,132が上述した剛性特性を備えるように構成され、かつ、2つの支持部130SL,130SRが構造体100の中心軸(振動部110と筐体120の同心中心軸でもある)を中心として対称に互いに対向するように配置されていることにより、振動部110は、筐体120に対して図示上下(T-B)方向に変位可能であるが、それ以外の方向へは実質的に変位しないように、支持部130によって支持される。なお、支持部130の各支持体131SLA,132SLA,131SLB,132SLBは、上記のように図示上下(T-B)方向に比較的低い動剛性を備える一方で、同じく図示上下(T-B)方向において、振動体140を支持した状態の振動部110の重量による荷重と、上述したように振動体140を支持した振動部110がユーザの身体により図示下方(B)方向に押し下げられたときに振動部110に加えられる荷重とを少なくとも支持することができる静剛性を備える。
【0068】
支持部130の備える連結部(例えば連結部133SL)は、振動体140を保持した状態の振動部110の振動方向(つまり上下(T-B)方向)に直交する方向に関して、筐体120から離間して配置されている。したがって、例えば
図7に示すように、支持部130の備える各支持体(例えば、支持体131SLA、支持体131SLB、支持体132SLA、および支持体132SLB)は、上方(T方向)から見ると筐体120の外周面からその径方向外方に延出している。
【0069】
支持部130の備える連結部133と振動部110および筐体120との間の距離を大きくするほど、各支持体の上下(T-B)軸に沿う方向の寸法に対する、上下(T-B)軸に直交する方向(左右(SL-SR)方向)の寸法の比が大きくなるので、支持部130の振動方向(図示上下(T-B)方向)に関する動剛性をより低くすることができる。他方、支持部130の備える連結部133と振動部110および筐体120との間の距離を小さくするほど、構造体100をコンパクトに構成することができる。各支持体の長さを含む各部寸法は、構造体100の大きさや振動体140の重量等を考慮して、支持部130が所望の振動周波数を含む帯域の周波数で振動する振動部110の振動を増幅させることができるように適宜設定することができる。
【0070】
・作用
本実施例の構造体の作用について説明する。
【0071】
振動体140を保持した状態の振動部110が非振動状態にある場合には、支持部130に加振力は印加されない。他方、振動部110が非振動状態にある場合であっても、支持部130には、上述したような荷重(例えば、振動体140を保持した振動部110の重量による荷重や、構造体100に座ったりもたれかかったりしたユーザの身体により振動部110に作用する荷重)が印加され得る。しかしながら、支持部130は、設計荷重の印加方向に関して、支持部130の変位量が設計上の許容範囲内に収まるような静剛性を備えている。故に、振動部110が非振動状態にある場合には、支持部130の各支持体の変形は許容範囲内の変形に留まり、支持部130は上記荷重が印加されて変位した後の中立位置に位置する。
【0072】
振動部110に保持された振動体140が振動状態となり、振動体140を保持した振動部110が図示上方(T方向)に変位すると、支持部130にも図示上方(T方向)に沿った加振力が印加される。他方、振動体140を保持した振動部110が図示下方(B方向)に変位すると、支持部130にも図示下方(B方向)に沿った加振力が印加される。
【0073】
支持部130は、振動体140を保持した状態の振動部110が発生させる図示上下(T-B)方向の直線往復振動のうち、少なくとも上記所定の周波数の振動を増幅させる動剛性を備えるように構成されている。これにより、振動部110の少なくとも上記所定の振動周波数において、図示上下(T-B)方向における振動部110の直線往復振動の振動強度を高めることができる。
【0074】
したがって、振動部110に振動体140が保持された本実施例の構造体100で構成される振動デバイス(
図9参照)によれば、振動体140の上部上面をユーザの身体に接触させた状態で振動体140を図示上下(T-B)方向に往復直線振動させると、それを保持する振動部110が同じ方向に往復直線振動を開始し、やがてその振動周波数が上記所定の周波数に達すると、振動体140を保持した振動部110および支持部130を含む系の図示上下(T-B)方向に関する振動の固有振動数と共振し、振動体140を保持した振動部110の図示上下(T-B)方向における往復直線振動が増幅される。そのため、振動部110に保持された振動体140の上部上面が図示上(T)方向に変位する度に、振動体140の上部上面がユーザの身体により強く当接するようになるので、ユーザは当該周波数領域において振動デバイスによる音響体感効果をより強く感じることができる。このとき、ユーザは、視聴しているオーディオ・ビジュアルコンテンツ(映画、音楽ライブ映像等)の音や映像に加えて身体でも振動を感じることになるので、そのコンテンツへのより強い没入感を得ることができる。
【0075】
さらに、本実施例の構造体100によれば、振動部110が筐体120の内壁面や底面等に接触することがないように、支持部130によって懸架(サスペンド)された状態で支持され、この懸架状態は振動部110が図示上下(T-B)方向に往復直線振動する間も維持される。これにより、振動部110による振動が筐体120に対して分離される。このように、振動部110が図示上下(T-B)方向に往復直線振動する際に、振動部110やそれに保持された振動体140が筐体120の内壁面や底面等に接触することがないので、振動部110の振動が筐体120に伝達することが抑えられ、その結果、筐体120からその外部に伝達する振動を抑制することができる。これにより、例えば複数の振動デバイスを並べて配置して使用するような場合において、ある振動デバイスからの振動が他の振動デバイスに伝播して、当該他の振動デバイスによる振動と干渉するような事態を抑制することができ、個々の振動デバイスによる振動をより高い解像度でユーザに知覚させることができる。
【0076】
本実施例の構造体100と振動体140とを含む振動デバイスは、振動部110に保持された振動体140の往復直線振動の振動方向と、支持部130によって支持された振動部110の変位可能な方向とが図示上下(T-B)方向で一致しており、振動部110がその他の方向への変位が生じることは実質的に無い。そのため、振動体140による振動エネルギーのほとんどは振動部110を図示上下(T-B)方向に往復直線振動させることに用いられる。なお、振動部110を図示上下(T-B)方向に往復直線振動させる場合、その振動周波数が次第に高くなるにつれて振動部110に2次、3次、・・・n次の振動モードが順次発生し、振動モードの態様によっては振動部110が図示上下(T-B)方向以外の方向に振動し得るが、その場合であっても、上記のように本実施例の構造体100は振動部110が図示上下(T-B)方向以外の方向への変位が生じることは実質的に無いように構成されているので、図示上下(T-B)方向以外の方向に生じうる振動によって振動部110がその振動方向に変位することを抑えることができる。そのため、ある振動モードにおいて振動部110に図示上下(T-B)方向以外の方向に振動が生じたとしても、例えば振動部110の外周面が筐体120の内周面に接触するようなことを防ぐことができる。
【0077】
なお、ここで再び
図4を参照して説明すると、より低い周波数において振動部110の図示上下(T-B)方向における往復直線振動の振動強度を高める場合は、支持部130の支持体131SLA,132SLA,131SLB,132SLB全体による図示上下(T-B)方向における動剛性kdがより低くなるように各支持体の形状や各部寸法がそれぞれ設計される。これにより、振動体140を保持した振動部110と支持部130とで構成される系の図示上下(T-B)方向に関する振動の固有振動数fuがより低い周波数領域にシフトし、そのより低い周波数領域における振動強度を高めることができるようになる。他方、より高い周波数において振動部110の図示上下(T-B)方向における往復直線振動の振動強度を高める場合は、支持部130の支持体131SLA,132SLA,131SLB,132SLB全体による図示上下(T-B)方向における動剛性kdがより高くなるように各支持体の形状や各部寸法がそれぞれ設計される。これにより、振動体140を保持した振動部110と支持部130とで構成される系の図示上下(T-B)方向に関する振動の固有振動数fuがより高い周波数領域にシフトし、そのより高い周波数領域における振動強度を高めることができるようになる。
【0078】
以上説明したように、本実施例の構造体100は、支持部130を備える。支持部130は、振動体140を保持した状態の振動部110が発生させる直線往復振動の方向に関して、当該振動のうち少なくとも所定の振動周波数の振動(当該所定の振動周波数を含む周波数帯域における振動)を増幅させる動剛性を備えるように構成される。所定の振動周波数は、一例として、振動部110の振動を増幅させてより高い振動強度を得たい周波数である。その一方で、支持部130は、設計外力の印加される方向に関して、想定される荷重に抗して振動部110を支持するために必要な静剛性を備えるように構成される。故に、この構造体100によれば、設計時の想定範囲内の荷重に対して振動部110の位置姿勢が安定するように支持し、かつ当該振動部110が発生させる直線往復振動のうち、少なくとも上記所定の周波数の振動を増幅させることができる。つまり、この構造体100によれば、振動デバイスに求められる耐荷重性および振動強度を満足させることができる。
【0079】
さらに、実施例の構造体100は、振動部110の変位(振動)可能な方向と振動部110に保持された振動体140の振動方向とが一致し、また、振動部110が筐体120の内部で支持部130によって懸架(サスペンド)された状態で支持されているので、振動部110による振動方向の振動、およびそれとは異なる方向への振動の発生を抑制することができ、そのような振動が構造体100の外部に伝播することを抑えることができる。
【0080】
なお、本実施例では、振動体140を保持した状態の振動部110が鉛直方向と概ね一致する図示上下(T-B)軸に沿って直線往復振動を発生し、かつ設計外力として例えば振動体140を保持した振動部110の重量、それらの加振力(慣性力)、およびユーザの身体からの荷重が振動部110に印加される例を説明した。本実施例では、支持部130が、振動部110の振動方向である上下(T-B)方向に関して、振動部110の少なくとも上記所定の振動周波数の振動を増幅させる動剛性を備えるように構成される一方で、設計外力の印加される方向に関して、振動部110を支持するために必要な静剛性を備えるように構成されている例を挙げて説明した。しかしながら、支持部130が支持する振動部110の振動方向及び支持部130に設計外力が印加される方向はこれに限られない。また、支持部130が支持する振動部110の振動方向は一方向に限られない。振動部110が複数の異なる方向に直線往復振動する場合は、支持部130は、各振動方向に関して、所定の振動周波数の振動を増幅させる動剛性を備えるように構成してもよい。
【0081】
また、本実施例では、構造体100がその中心軸に対して対称に互いに対向配置された2つの支持部130SL,130SRを備えた例を説明したが、構造体100が備える支持部130の数はこれに限られず、例えば3以上の任意の数の支持部130を備えた構成としてもよい。このとき、それらの支持部130は構造体100の中心軸周りに等間隔に配置されることが好ましい。なお、構造体100が1つの支持部130のみを備えた場合であっても、振動体140を保持した振動部110が振動したときに振動体140や振動部110が筐体120の内面に接触することが無いようなある一定の条件の下では、構造体100は1つの支持部130のみを備えた構成としてもよい。
【0082】
(2)第2の実施形態
第2の実施形態について説明する。
図11は、第2の実施形態の体感音響装置における複数の振動デバイスの配置を上方から見た図である。
図12は、第2の実施形態の体感音響装置における複数の振動デバイスの振動方向を示す図である。
【0083】
図11に示すように、体感音響装置1000は、ハウジング1100を備える。ハウジング1100は、例えばクッション、椅子、ソファー、ベッド、敷マット等であってもよく、あるいはそれらの一部であってもよい。ハウジング1100の内部には、一例として、複数の振動デバイス1200が水平面に沿ってマトリクス状に配置されている。なお、ハウジング1100の内部における複数の振動デバイス1200の配置はマトリクス状に限られず、例えばアレイ状等の他の任意の配置構成としてもよい。
【0084】
振動デバイス1200は、一例として、第1の実施形態の実施例の構造体100の振動部110に振動体140を組み込むことで構成される。
【0085】
図12に示すように、複数の振動デバイス1200は、体感音響装置1000のユーザの身体に振動を伝達するための振動伝達面1200Sを形成する。この振動伝達面1200Sは、
図9を参照して示した例では、各々の振動デバイス1200の振動部110に保持された振動体140の上部上面で形成される。振動伝達面1200Sは平面に限られず、曲面、複数の平面の組み合わせ、複数の曲面の組み合わせ、またはN個(N≧1)の平面およびM個(M≧1)の曲面の組み合わせであってもよい。体感音響装置1000は、振動伝達面1200Sを介して複数の振動デバイス1200の振動によりユーザの身体を刺激することでユーザに音響体感を提供する。複数の振動デバイス1200は、図示しないコントローラによって、振動の振幅、周波数、または位相の少なくとも1つを個別に制御可能に構成され得る。複数の振動デバイス1200の各々の動作をコントローラで制御することで、例えば、ユーザが視聴しているオーディオ・ビジュアルコンテンツの場面に合わせて、複数の振動デバイス1200の振動強度分布を変化させることができる。そのような振動強度分布の変化としては、例えば、ユーザが波の動きを感じるように、複数の振動デバイス1200のうちの一部の振動デバイス1200の振動強度を高くして、その振動強度が高い領域が移動していくようなことを含む。
【0086】
各々の振動デバイス1200は、振動体を保持した状態の振動部が、振動伝達面1200Sの当該振動デバイス1200の位置における法線に沿って直線往復振動するように構成される。
図12の例では、振動伝達面1200Sは水平面に対して略平行であり、振動デバイス1200は概ね鉛直方向に振動する。
【0087】
ここで、振動デバイス1200が、例えば第1の実施形態の実施例において
図6~
図9を参照して説明したように、振動部が支持部によって筐体に対して懸架された状態で支持され、さらに、振動部に保持された振動体の振動方向と、支持部によって支持された振動部の変位可能な方向とが一致するように構成されている場合には、ある振動デバイス1200で発生する振動がハウジング1100に伝達することが抑制され、したがってその振動がハウジング1100を介して他の振動デバイス1200で発生する振動と干渉する(共振する、または打ち消し合う)ことを防止することができる。これにより、ユーザは、個々の振動デバイス1200によって発生した振動を、他の振動デバイス1200による振動に影響されることなくクリアに感じることができる。つまり、本実施形態の体感音響装置1000によれば、高解像度の音響体感をユーザに提供することができる。
【0088】
以上説明したように、第2の実施形態の体感音響装置1000は、複数の振動デバイス1200を備える。各振動デバイス1200は、例えば、第1の実施形態の各実施例の構造体100に振動体を組み込むことで構成される。これにより、耐荷重性および振動強度に優れた体感音響装置1000を提供することができる。つまり、この体感音響装置1000は、ユーザの体重による荷重に抗し、かつユーザに高解像度の音響体感を提供することができる。
【0089】
なお、体感音響装置1000は、第1の実施形態の実施例に示した振動デバイスで構成してもよい。
【0090】
(3)第3の実施形態
本発明の第3の実施形態について説明する。上述した各実施形態は、振動強度を高めたい振動方向の振動モードをその他の方向の振動モードから孤立化させ、その振動方向においては振動源の振動を増幅させつつも、想定される荷重を支持することが可能な剛性を持たせることを可能にする構造体等を提供することに関するものであるのに対し、第3の実施形態は、振動強度を弱めたい振動方向の振動モードをその他の方向の振動モードから孤立化させ、その振動方向においては振動源の振動を減衰させつつも、想定される荷重を支持することが可能な剛性を持たせることを可能にする構造体等を提供することに関する。
【0091】
本実施形態の構造体における支持部の動剛性について、再び
図3及び
図4を参照して説明する。
図3は
図1の系における振動モデルを示す図であり、
図4は
図3のモデルの振動伝達率の周波数特性を示すグラフである。
【0092】
本実施形態における支持部SPTは、振動体を保持した状態の振動部OSが発生させる振動のうち少なくとも振動周波数fにおいて振動を減衰させる動剛性を備えるように構成される。これを振動部OSから筐体HSへの振動伝達特性として
図3を用いて説明すると、各周波数において、振動部OSから筐体HSへの振動伝達特性は、振動部OSの質量mと、振動部OSの振動方向に関する支持部SPTの動剛性kdとによって決まる。
【0093】
第1の実施形態において説明した通り、振動体を保持した状態の振動部OSの発生する加振力F0に対する、筐体HSに伝達する加振力Fの比率F/F0は、振動伝達率と定義される。
図4中の実線のグラフで示すように、
図3のモデルは、周波数が高くなるにつれて、振動伝達率が高くなる励起された振動モードが発現した後に振動伝達率が漸減する周波数特性を呈する。具体的には、
図3のモデルの振動伝達率は、周波数がfu以下の範囲では周波数が高くなるほど増加し、fuにおいて極大となる。ここで、fuは、
図3のモデルの固有振動数である。
図3のモデルの振動伝達率は、周波数が固有振動数fu以上の範囲では漸減し、√2fuでゼロクロスする。つまり、
図3のモデルは、周波数が√2fuを超える範囲では振動伝達率が1未満、つまり振動減衰効果を発揮させることができる。
【0094】
図3のモデルの固有振動数は、質量mおよび動剛性kdによって決まる。そして、動剛性kdを小さくして固有振動数を低くするほど、振動減衰(振動伝達率<1)が可能な周波数領域(防振領域)を拡大することができる。
図4からわかるように、固有振動数をfuよりも小さいfu’とした系の周波数特性(
図4中の点線で示されたグラフ)における振動減衰領域’は、
図4中に実線で示された固有振動数fuの系の周波数特性における防振領域に比べて拡大する。質量mは定数であるから、動剛性kdを小さくすることで、固有振動数fuを低下させることができる。故に、振動減衰効果の観点からすると、振動体OSの振動方向に関する構造体STRの動剛性kdは、小さいほど好ましい。
【0095】
上記知見に基づき、本実施形態の支持部SPTは、振動体を保持した状態の振動部OSが発生させる振動の周波数成分のうち、少なくとも、特に振動伝達を低減させたい所定の振動周波数fにおける振動伝達率が1未満となる固有振動数fuを有するように、動剛性kdが定められる。かかる動剛性kdを備えた支持部SPTおよび振動部OSを含む系は、振動周波数fにおける振動伝達率が1未満となる、励起された振動モードを発現させる。具体的には、支持部SPTは、与えられた振動部OSの振動方向、質量m、および振動周波数fに対して、支持部SPTおよび振動部OSを含む系の固有振動数fuを振動周波数fの1/√2倍よりも低くさせる動剛性kdを備えるように構成される。
【0096】
なお、支持部SPTおよび振動体を保持した状態の振動部OSを含む系の固有振動数fuをどの程度とするか、そのために動剛性kdの大きさをどのように定めるかは、振動周波数fにおいてどの程度の振動減衰効果を得たいか、すなわち所定の振動周波数fにおける振動伝達率をどれだけ低くしたいかに応じて、適宜決定することができる。
【0097】
本実施形態の構造体が備える静剛性は第1の実施形態において
図5を参照して説明した静剛性と同様であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0098】
本実施形態における構造体も、第1の実施形態の実施例に示した構造体100と同様の構成を備えることができる。ただし、第1の実施形態の実施例の構造体における支持部は、少なくとも1つの方向に発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅させる動剛性を備えるように構成されているのに対し、本実施形態の構造体における支持部は、少なくとも1つの方向に発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数の振動の伝達を減衰させる動剛性を備えるように構成される。
【0099】
[実施例]
ここで、第3の実施形態の構造体の実施例について説明する。
【0100】
本実施形態の一実施例の構造体は、
図6~
図9を参照して説明した構造体100と同様の構成を有する。ただし本実施例では、構造体100における支持部130(130SR,130SL)は、振動体140を保持した状態の振動部110が上下(T-B)軸に沿って発生させる直線往復振動のうち少なくとも所定の振動周波数の振動、換言すれば、当該所定の振動周波数を含む周波数帯域における振動を減衰させる動剛性を備えるように構成され、振動体140が生じさせる直線往復振動の速度に応じて異なる周波数の振動のうち、振動を減衰させたい所定の周波数を含む周波帯域における振動を減衰させることを可能にする。その一方で、支持部130は、振動部110を支持するために必要な静剛性を備える。
【0101】
なお、上記実施例の構造体における各々の支持部の各部寸法(高さ、十字部分の長さと厚み等)は、構造体の大きさや振動体の重量等を考慮して、支持部が所望の振動周波数で振動する振動部の振動を減衰させることができるように適宜設定することができる。
【0102】
このように、本実施形態によれば、振動強度を弱めたい振動方向の振動モードをその他の方向の振動モードから孤立化させ、その振動方向においては振動源の振動を減衰させつつも、想定される荷重を支持することが可能な剛性を持たせることを可能にする構造体を提供することができる。
【0103】
(4)変形例
実施形態の変形例について説明する。
【0104】
上記説明では、支持部が均質な材料からなることを前提とし、当該支持部の剛性に関する異方性を当該支持部の形状によって実現する例を示した。均質な材料からなる支持部は、一般に製造性が高いという利点がある。ただし、支持部の剛性に関する異方性は、当該支持部の材料の構成(例えば異種の材料の組み合わせ)によって実現することも可能である。
【0105】
上記説明では、複数の支持部が振動部を複数の接点で支持する例を示した。しかしながら、任意の数の支持部が振動部の任意の数の接点で支持してよい。なお、接点なる用語は、支持部と振動部とが接触している面積の大きさを何ら限定しない。接点は、必要に応じて、接触領域、または接触面などの別の用語で読み替え可能である。
【0106】
支持部、振動部、および筐体のうち2つ以上が異なる物体(器物)の一部であってもよい。
【0107】
支持部、振動部、および筐体のうち2つ以上が一体成形されていてもよい。これにより、構造体を構成する部品点数を削減し、構造体の製造性を向上させることができる。
【0108】
第1,3の実施形態の実施例では、連結部が、第1支持体および第2支持体をそれぞれ含む複数の組を連結する例を示した。しかしながら、複数の組は、互いに連結されていなくてもよい。より詳細に説明すると、
図6等を参照して説明した第1の実施形態の実施例に係る構造体100においては、第1の組を構成する支持体131SLA,132SLAは、第2の組を構成する支持体131SLB,132SLBと連結部133SLを介して連結されているが、これに代えて、第1の組を構成する支持体131SLA,132SLA同士が連結され、また、第2の組を構成する支持体131SLB,132SLB同士が連結されているが、第1の組の支持体131SLA,132SLAと第2の組の支持体131SLB,132SLBとが連結されていない構成としてもよい。
【0109】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。また、上記の実施形態及び変形例は、組合せ可能である。
【手続補正書】
【提出日】2022-05-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体を保持する振動部と、前記振動部を少なくとも部分的に収容する筐体と、前記振動部と前記筐体とを連結して前記振動部を支持する支持部とを具備し、
前記支持部は、前記振動体を保持した状態の振動部が少なくとも1つの方向に発生させる振動のうち少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅又は減衰させる動剛性を備え、かつ前記振動体を保持した状態の振動部を支持するために必要な静剛性を備えるように構成されており、
前記構造体及び前記振動体を含む系は、前記少なくとも1つの方向における振動の振動周波数が高くなるにつれて、振動伝達率が高くなる励起された振動モードが発現した後に前記振動伝達率が漸減する特性を有し、
前記支持部は、前記少なくとも所定の周波数の振動の伝達を増幅させる前記動剛性を備える場合には、前記所定の周波数における前記振動伝達率が1よりも大きくなるように前記励起された振動モードを発現させる前記動剛性をさらに備え、前記少なくとも所定の周波数の振動の伝達を減衰させる前記動剛性を備える場合には、前記所定の周波数における前記振動伝達率が1よりも小さくなるように前記励起された振動モードを発現させる前記動剛性をさらに備えており、
前記支持部は、前記振動部を第1の軸に沿って直線往復振動するように支持するように構成されており、
前記支持部は、
一方の端部が前記振動部に連結される第1支持体と、一方の端部が前記筐体に連結される第2支持体とを含む第1の組と、
一方の端部が前記振動部に連結される第1支持体と、一方の端部が前記筐体に連結される第2支持体とを含む第2の組であって、前記第1の軸方向に沿って前記第1の組から離間した位置に配置された第2の組と、
前記第1の組の前記各支持体の他方の端部と、前記第2の組の前記各支持体の他方の端部とを連結する連結部と、
を含む、
構造体。
【請求項2】
前記支持部は、前記第1支持体および前記第2支持体の弾性変形により、前記筐体に対する前記振動部の相対位置が前記第1の軸に沿って変位可能に前記振動部を支持する、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記第1支持体および前記第2支持体は、前記第1の軸に沿う方向の寸法が、前記第1の軸に直交する方向の寸法に比べて小さい外形を備える梁である、
請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記筐体は、当該筐体の前記第1の軸に沿った方向の少なくとも一方の端部にフランジを備える、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の構造体。
【請求項5】
前記フランジは、前記振動部および前記支持部よりも前記第1の軸に沿った方向に突出した位置に配置され、かつ前記振動部および前記支持部に接触しないように構成される、
請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記振動部、前記筐体および前記支持部のうち2つ以上は均質な材料からなる、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記振動部、前記筐体および前記支持部のうち2つ以上は一体成形されている、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の構造体と、
前記構造体の振動部に保持された振動体と、
を備えた振動デバイス。
【請求項9】
請求項8に記載された振動デバイスを複数具備した、
体感音響装置。
【請求項10】
前記複数の振動デバイスは、ユーザの身体に振動を伝達するための振動伝達面を形成し、
前記複数の振動デバイスの各々は、前記振動伝達面の当該振動デバイスの位置における法線に沿って前記振動部が直線往復振動するように構成される、
請求項9に記載の体感音響装置。