(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159148
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ヘキサフルオロイソプロパノール基を含む医療用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/06 20060101AFI20221006BHJP
C08F 20/12 20060101ALI20221006BHJP
C08G 77/24 20060101ALI20221006BHJP
A61L 33/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C08L101/06
C08F20/12
C08G77/24
A61L33/06 200
A61L33/06 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055624
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021060384
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021074187
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秋山 勝宏
(72)【発明者】
【氏名】野上 栄美子
(72)【発明者】
【氏名】萩原 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】及川 祐梨
(72)【発明者】
【氏名】松澤 翼
(72)【発明者】
【氏名】昆野 祐
(72)【発明者】
【氏名】山中 一広
【テーマコード(参考)】
4C081
4J002
4J100
4J246
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AB31
4C081AC08
4C081BA02
4C081BA17
4C081BB01
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4J002AA051
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4J246AA03
4J246BA12X
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4J246CA54X
4J246FA071
4J246FA471
4J246FB081
4J246GA01
4J246GA02
4J246GC30
4J246HA52
(57)【要約】
【課題】高すぎる撥水性を回避しつつ、フッ素に基づく、適度な水滴接触角を有する、医療用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)成分と下記(B)成分を含む医療用樹脂組成物。
(A):下記式(1)で表される原子団を含む樹脂
(B):溶剤
【化1】
(前記式(1)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
前記(A)成分は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルからなる群から選ばれる1種以上であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分と下記(B)成分を含む医療用樹脂組成物。
(A):下記式(1)で表される原子団を含む樹脂
(B):溶剤
【化1】
(前記式(1)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【請求項2】
前記(A)成分が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、下記式(1-1)~下記式(1-6)で表される構造からなる群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の医療用樹脂組成物。
【化2】
(前記式(1-1)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化3】
(前記式(1-2)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化4】
(前記式(1-3)中、Ar1は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されて いても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、maは1~3の整数を表し、naは1~4の整数を表す。前記式(1-3)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化5】
(前記式(1-4)中、Ar2は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されていても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、mbは1~3の整数を表し、nbは1~4の整数を表す。前記式(1-4)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化6】
(前記式(1-5)中、R
1は水素原子、または炭素数1~4のアルキル基であり、R
2は水素原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~24の芳香族炭化水素を含む基であり、R
3は炭素数1~4のアルキル基であり、tは1~2の整数、pは0~2の整数、ncは1~3の整数を表し、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化7】
(前記式(1-6)中、Ar3は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されていても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、mdは1~3の整数を表し、ndは1~4の整数を表す。前記式(1-6)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【請求項4】
前記式(1-3)中、Ar1に含まれる炭素数6~24の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を含む基である、請求項3に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(1-4)中、Ar2に含まれる炭素数6~24の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を含む基である、請求項3に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項6】
前記式(1-6)中、Ar3に含まれる炭素数6~24の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を含む基である、請求項3に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項7】
前記式(1-3)で表される構造が、下記式(1-3a)~下記式(1-3f)で表される構造からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項3または4に記載の医療用樹脂組成物。
【化8】
(前記式(1-3a)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化9】
(前記式(1-3b)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化10】
(前記式(1-3c)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化11】
(前記式(1-3d)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化12】
(前記式(1-3e)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化13】
(前記式(1-3f)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【請求項8】
前記式(1-4)で表される構造が、下記式(1-4a)~下記式(1-4c)で表される構造からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項3または5に記載の医療用樹脂組成物。
【化14】
(前記式(1-4a)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化15】
(前記式(1-4b)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化16】
(前記式(1-4c)中、nは1~3の整数を表し、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【請求項9】
前記式(1-6)で表される構造が、下記式(1-6a)で表される構造であることを特徴とする、請求項3または6に記載の医療用樹脂組成物。
【化17】
(前記式(1-6a)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【請求項10】
前記(B)成分が、
水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1,1,1-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、乳酸エチル、酢酸ブチル、γ―ブチロラクトン、ジアセトンアルコール、ジグライム、メチルイソブチルケトン、酢酸3-メトキシブチル、2-ヘプタノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチルピロリドンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項11】
前記(A)成分が、さらに重合性部位を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項12】
さらに架橋剤を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物。
【請求項13】
請求項11または12に記載の医療用樹脂組成物を硬化してなる、医療用部材。
【請求項14】
請求項11または12に記載の医療用樹脂組成物の硬化方法。
【請求項15】
請求項1~12に記載の医療用樹脂組成物を成形してなる、医療用部材。
【請求項16】
25℃±2.0℃で、pHが2、4、7、9、及び10である水溶液(pH=7は純水)2μLを、それぞれ滴下し、1秒後の液滴の接触角を測定したときの、接触角の標準偏差が2.9以下である、請求項13または15に記載の医療用部材。
【請求項17】
請求項1~12に記載の医療用樹脂組成物の成形方法。
【請求項18】
樹脂からなる抗血栓性部材であって、
前記樹脂は、主鎖と、側鎖とを有し、
前記側鎖及び/又は前記主鎖の末端は、下記式(1)で表される原子団を含み、以下1)2)3)の手順による血小板付着試験結果による血小板付着数が70以下である、抗血栓性部材。
【化18】
1)抗血栓性部材と、参照樹脂からなる抗血栓性参照部材の双方に血小板を付着させる。
2)抗血栓性参照部材の所定エリアに付着した血小板付着数を相対値として100とする。
3)抗血栓性部材の所定エリアに付着した血小板付着数を、前記2)と相対比較する。
ここで、参照樹脂とは、以下と定義される。
抗血栓性部材がポリシロキサンからなる場合;
目的とした、前記式(1)で表される原子団を、側鎖及び/又は主鎖の末端に含む樹脂を前提に、前記式(1)で表される原子団部を有する側鎖を、フェニル基、又は炭化水素基として含む樹脂。
抗血栓性部材がポリシロキサン以外の樹脂からなる場合;
目的とした、前記式(1)で表される原子団を、側鎖及び/又は主鎖の末端に含む樹脂を前提に、前記式(1)で表される原子団部を、水素原子として含む樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、ヘキサフルオロイソプロパノール基を含む医療用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
診断、創薬、再生医療などの先端医療やバイオ研究に不可欠な医療用材料の開発では、細胞や生体と接触する部材に細胞接着性の制御、抗血栓性や生体適合性が求められる。医療用材料には高分子が応用されており、ホスファチジルコリン基、グルコシド基、アミノ酸残基の生体適合性を利用している。
【0003】
一方で、人工臓器や細胞移植シートなどに代表される医療用材料には、優れた力学特性が求められており、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、セルロース、セルロース誘導体、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSと呼ぶことがある)などの高分子素材が用いられている。
【0004】
PDMSは安価で成型し易く、低毒性であることから、マイクロ流路などの医療用部材に応用されているが、疎水性が高く、バイオファウリングなどの原因となることが知られており、非特許文献1では種々の親水化処理の検討が報告されている。
【0005】
疎水性の高い高分子では、同様にバイオファウリングを抑制する必要がある。バイオファウリングを抑制する手段の一つとして高分子の親水化処理が挙げられる。親水化処理には、プラズマ表面処理、薬品などを用いた化学的処理が知られている。前者のプラズマ表面処理は親水性が短期間で失われること、後者の化学的処理では薬品が生体に悪影響を与えないことなどの制約がある。
【0006】
一方で、特許文献1では、フッ素樹脂は、その高い撥水性、表面自由エネルギーが小さく分子間凝集力が低いことから、細胞の非接着性に優れており、耐薬品性にも優れることから、バイオチップとしての応用例が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hongbin Zhang、Mu Chiao、”Anti-fouling Coatings of Poly(dimethylsiloxane) Devices for Biological and Biomedical Applications”、J. Med. Biol. Eng., 35: 143-155 (2015)
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で示されるようにフッ素樹脂は、細胞の非接着性を期待できる。他方で、これらフッ素樹脂は、撥水性が高すぎることから、疎水性が高いものであり、継続的な使用では、細胞の非接着性の低下が生じることも懸念される。
以上を考慮し、本発明では、高すぎる撥水性を回避しつつ、フッ素に基づく、小さな表面自由エネルギーによる低い分子間凝集力を活用できる、医療用樹脂組成物が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、検討を重ねた。その結果、一般式(1)で表されるヘキサフルオロイソプロパノール基(以下、HFIP基と呼ぶことがある)を含有する医療用樹脂組成物が、高すぎる撥水性を回避しつつ、適度な水滴接触角を有する医療用樹脂組成物を提供できることを見出した。
【0011】
本発明は以下である。
【0012】
1.
下記(A)成分と下記(B)成分を含む医療用樹脂組成物。
(A):下記式(1)で表される原子団を含む樹脂
(B):溶剤
【化1】
(前記式(1)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
2.
前記(A)成分が、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、1.に記載の医療用樹脂組成物。
3.
前記(A)成分が、下記式(1-1)~下記式(1-6)で表される構造からなる群から選ばれる1種以上を含むことを特徴とする、1.または2.に記載の医療用樹脂組成物。
【化2】
(前記式(1-1)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化3】
(前記式(1-2)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化4】
(前記式(1-3)中、Ar1は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されて いても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、maは1~3の整数を表し、naは1~4の整数を表す。前記式(1-3)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化5】
(前記式(1-4)中、Ar2は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されていても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、mbは1~3の整数を表し、nbは1~4の整数を表す。前記式(1-4)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化6】
(前記式(1-5)中、R
1は水素原子、または炭素数1~4のアルキル基であり、R
2は水素原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~24の芳香族炭化水素を含む基であり、R
3は炭素数1~4のアルキル基であり、tは1~2の整数、pは0~2の整数、ncは1~3の整数を表し、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化7】
(前記式(1-6)中、Ar3は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されていても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、mdは1~3の整数を表し、ndは1~4の整数を表す。前記式(1-6)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
4.
前記式(1-3)中、Ar1に含まれる炭素数6~24の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を含む基である、3.に記載の医療用樹脂組成物。
5.
前記式(1-4)中、Ar2に含まれる炭素数6~24の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を含む基である、3.に記載の医療用樹脂組成物。
6.
前記式(1-6)中、Ar3に含まれる炭素数6~24の芳香族炭化水素基が、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を含む基である、3.に記載の医療用樹脂組成物。
7.
前記式(1-3)で表される構造が、下記式(1-3a)~下記式(1-3f)で表される構造からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、3.または4.に記載の医療用樹脂組成物。
【化8】
(前記式(1-3a)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化9】
(前記式(1-3b)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化10】
(前記式(1-3c)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化11】
(前記式(1-3d)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化12】
(前記式(1-3e)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化13】
(前記式(1-3f)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
8.
前記式(1-4)で表される構造が、下記式(1-4a)~下記式(1-4c)で表される構造からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、3.または5.に記載の医療用樹脂組成物。
【化14】
(前記式(1-4a)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化15】
(前記式(1-4b)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【化16】
(前記式(1-4c)中、nは1~3の整数を表し、波線は他の原子団との結合手を表す。)
9.
前記式(1-6)で表される構造が、下記式(1-6a)で表される構造であることを特徴とする、3.または6.に記載の医療用樹脂組成物。
【化17】
(前記式(1-6a)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
10.
前記(B)成分が、
水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1,1,1-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、乳酸エチル、酢酸ブチル、γ―ブチロラクトン、ジアセトンアルコール、ジグライム、メチルイソブチルケトン、酢酸3-メトキシブチル、2-ヘプタノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチルピロリドンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、1.~9.のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物。
11.
前記(A)成分が、さらに重合性部位を含む、1.~10.のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物。
12.
さらに架橋剤を含む、1.~11.のいずれか1項に記載の医療用樹脂組成物。
13.
11.または12.に記載の医療用樹脂組成物を硬化してなる、医療用部材。
14.
11.または12.に記載の医療用樹脂組成物の硬化方法。
15.
1.~12.に記載の医療用樹脂組成物を成形してなる、医療用部材。
16.
25℃±2.0℃で、pHが2、4、7、9、及び10である水溶液(pH=7は純水)2μLを、それぞれ滴下し、1秒後の液滴の接触角を測定したときの、接触角の標準偏差が2.9以下である、13.または15.に記載の医療用部材。
17.
1.~12.に記載の医療用樹脂組成物の成形方法。
18.
樹脂からなる抗血栓性部材であって、
前記樹脂は、主鎖と、側鎖とを有し、
前記側鎖及び/又は前記主鎖の末端は、下記式(1)で表される原子団を含み、以下1)2)3)の手順による血小板付着試験結果による血小板付着数が70以下である、抗血栓性部材。
【化18】
1)抗血栓性部材と、参照樹脂からなる抗血栓性参照部材の双方に血小板を付着させる。
2)抗血栓性参照部材の所定エリアに付着した血小板付着数を相対値として100とする。
3)抗血栓性部材の所定エリアに付着した血小板付着数を、前記2)と相対比較する。
ここで、参照樹脂とは、以下と定義される。
抗血栓性部材がポリシロキサンからなる場合;
目的とした、前記式(1)で表される原子団を、側鎖及び/又は主鎖の末端に含む樹脂を前提に、前記式(1)で表される原子団部を有する側鎖を、フェニル基、又は炭化水素基として含む樹脂。
抗血栓性部材がポリシロキサン以外の樹脂からなる場合;
目的とした、前記式(1)で表される原子団を、側鎖及び/又は主鎖の末端に含む樹脂を前提に、前記式(1)で表される原子団部を水素原子として含む樹脂。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ヘキサフルオロイソプロパノール基を含有する医療用樹脂組成物が提供される。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、高すぎる撥水性を回避しつつ、適度な水滴接触角を有する医療用樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明の実施形態は、以下に示す実施形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
本明細書中、数値範囲の記載における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表すものとする。
本明細書中、基(原子団)の表記は、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書中、「ポリシロキサン」はシロキサン結合を含む高分子化合物のことを表す。
本明細書中、「生体適合性」は、生体組織や器官と親和性があり、異物反応や拒絶反応を生じにくい性質を意味する。
【0016】
本発明の詳細な実施形態を以下の順番で説明する。
1.医療用樹脂組成物
2. 医療用樹脂組成物を用いた医療用部材、当該部材の形成方法
【0017】
1.医療用樹脂組成物
本発明の医療用樹脂組成物は、
(A)成分:下記式(1)で表される原子団を含む樹脂。
(B)成分:溶剤
【化19】
(前記式(1)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
を含むことを特徴とする。
【0018】
[(A)成分]
(A)成分は、下記式(1)で表される原子団を、当該樹脂の側鎖及び/又は前記主鎖の末端に含む樹脂である。
【化20】
(前記式(1)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【0019】
当該樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0020】
これらのうち、当該樹脂は、下記式(1-1)、下記式(1-2)で表される珪素を含有する構造、下記式(1-3)で表される窒素とAr1で表される基を含有する構造、下記式(1-4)で表される酸素とAr2で表される基を含有する構造、下記式(1-5)で表されるノボラックを含有する構造、下記式(1-6)で表されるケイ素とAr3で表される基を含有する構造からなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【化21】
(前記式(1-1)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【化22】
(前記式(1-2)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【0021】
前記式(1-1)、前記式(1-2)で表される珪素含有樹脂は、合成方法は特に限定されないが、例えば、Si-Hで表される構造を含む珪素化合物とCH2=CH-CH-C(CF3)2-OHとのヒドロシリル化反応により重合性モノマーを得た後、当該重合性モノマーを既報(FR2815354、Materials Letters 237 (2019) 282-285)の通り重合することによって、合成される。
【0022】
【化23】
前記式(1-3)中、Ar1は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されていても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、maは1~3の整数を表し、naは1~4の整数を表す。前記式(1-3)中、波線は他の原子団との結合手を表す。
【0023】
炭素数6~24の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などを含む基を挙げることができる。前述のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香族環は、単独で含まれてもよく、2つ以上の芳香族環が連結して含まれても良い。2つ以上の芳香族環が連結している構造としては、例えばビフェニル構造を挙げることができる。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。Ar1は、-CH2-、-CO-、-SO2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-で表される構造を含んでも良く、例えば、ベンゼン環が-CH2-で連結された構造を例示することができる。
【0024】
【化24】
前記式(1-4)中、Ar2は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されていても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、mbは1~3の整数を表し、nbは1~4の整数を表す。前記式(1-4)中、波線は他の原子団との結合手を表す。
【0025】
炭素数6~24の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などを含む基を挙げることができる。前述のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香族環は、単独で含まれてもよく、2つ以上の芳香族環が連結して含まれても良い。2つ以上の芳香族環が連結している構造としては、例えばビフェニル構造を挙げることができる。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。Ar2は、-CH2-、-CO-、-SO2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-で表される構造を含んでも良く、例えば、ベンゼン環が-CH2-で連結された構造を例示することができる。
【0026】
【化25】
(前記式(1-5)中、R
1は水素原子、または炭素数1~4のアルキル基であり、R
2は水素原子、炭素数1~10のアルキル基、または炭素数6~24の芳香族炭化水素を含む基であり、R
3は炭素数1~4のアルキル基であり、tは1~2の整数、pは0~2の整数、ncは1~3の整数を表し、波線は他の原子団との結合手を表す。)
前記式(1-5)で表される構造を含有する樹脂は、合成方法は特に限定されないが、既報(特開2014-141655号)に記載の方法を参考にして、合成される。
【0027】
【化26】
前記式(1-6)中、Ar3は炭素数6~24の芳香族炭化水素基を含む基であって、前記芳香族炭化水素基の水素原子の一部または全部は、炭素数1~3のアルキル基によって置換されていても良く、-CH
2-、-CO-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C(CF
3)
2-で表される構造を含んでも良く、mdは1~3の整数を表し、ndは1~4の整数を表す。前記式(1-6)中、波線は他の原子団との結合手を表す。
【0028】
炭素数6~24の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などを含む基を挙げることができる。前述のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香族環は、単独で含まれてもよく、2つ以上の芳香族環が連結して含まれても良い。2つ以上の芳香族環が連結している構造としては、例えばビフェニル構造を挙げることができる。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基を挙げることができる。Ar3は、-CH2-、-CO-、-SO2-、-C(CH3)2-、-C(CF3)2-で表される構造を含んでも良く、例えば、ベンゼン環が-CH2-で連結された構造を例示することができる。
【0029】
前記式(1-3)で表される構造は、下記式(1-3a)~下記式(1-3f)からなる群から選ばれる1種以上の構造であることが好ましい。当該構造を含有する樹脂は、合成方法は特に限定されないが、既報(特開2007-119503号)、既報(特開2007-119504号)、既報(特開2008-150534号)、既報(特開2013-10096号)、既報(特開2014-125455号)、既報(特開2014-128787号)、既報(特開2014-128788号)、既報(特開2014-129339号)、既報(特開2014-129340号)、既報(特開2016-137484号)に記載の方法を参考にして、合成される。
【化27】
(前記式(1-3a)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【化28】
(前記式(1-3b)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【化29】
(前記式(1-3c)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【化30】
(前記式(1-3d)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【化31】
(前記式(1-3e)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【化32】
(前記式(1-3f)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【0030】
前記式(1-4)で表される構造は、下記式(1-4a)~下記式(1-4c)からなる群から選ばれる1種以上の構造であることが好ましい。当該構造を含有する樹脂は、合成方法は特に限定されないが、既報(WO2012/165435号)、既報(WO2012/165436号)、既報(WO2014/34541号)に記載の方法を参考にして、合成される。
【化33】
(前記式(1-4a)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【化34】
(前記式(1-4b)中、波線は他の原子団との結合手を表す)
【0031】
【化35】
前記式(1-4c)中、nは1~3の整数を表し、波線は他の原子団との結合手を表す。
前記式(1-4c)で表される構造を含有する樹脂は、合成方法は特に限定されないが、既報(特開2010-235501号)、既報(特開2007-45820号)をもとに、2-(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン-2-オール、3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-ヒドロキシイソプロピル)フェノール等を合成し、当該化合物へアクリル基又はメタクリル基を導入することで重合性の誘導体に変換した後、得られた重合性化合物を重合することにより、合成される。アクリル基又はメタクリル基の導入は、公知の方法を用いることができる。
【0032】
前記式(1-6)で表される構造は、下記式(1-6a)で表される構造であることが好ましい。当該構造を含有する樹脂は、合成方法は特に限定されないが、既報(WO2019/167770)に記載の方法を参考にして、合成される。
【化36】
(前記式(1-6a)中、波線は他の原子団との結合手を表す。)
【0033】
上述の式(1)で表される原子団を含む樹脂は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
前記(A)成分は、さらに重合性部位を含むことができる。重合性部位は、エポキシ基、オキセタン基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの基を挙げることができる。これらの基は、樹脂内で重合することにより、後述の樹脂組成物の硬化に寄与すると推測される。
【0035】
前記の、(A)成分である、前記式(1)で表される原子団を含む樹脂の重量平均分子量(Mw)は、膜、チューブ、その他成型体に加工した医療用部材の耐久性や機械強度を高める観点や加工性の観点から、800~500,000が好ましく、1,000~200,000が特に好ましい。前記式(1)で表される原子団を含む樹脂の重量平均分子量(Mw)が前記下限値以上であれば、耐久性や機械強度に優れる。前記式(1)で表される原子団を含む樹脂の重量平均分子量(Mw)が前記上限値以下であれば、加工性に優れる。
なお、本明細書において、前記重量平均分子量(Mw)は、下記条件のゲル浸透クロマトグラフィ法により、ポリスチレンを標準物質として検量線を作成して測定値を算出したものを指す。
装置:東ソー株式会社製、商品名:HLC-8320GPC
カラム:東ソー株式会社製、商品名:TSK gel GMHXL を3本直列に接続
溶離液:テトラヒドロフラン
【0036】
本実施形態の樹脂組成物を用いて得られる医療用部材は、高すぎる撥水性を回避しつつ、適度な水滴接触角を有する。これは、樹脂中の前記式(1)で表される原子団に由来すると推測される。樹脂中の式(1)で表される原子団を有することで、当該原子団を有さない樹脂と比較して、撥水性を抑制しながらも、適度な水滴接触角を有することが推測される。
【0037】
[(B)成分]
(B)成分は溶剤である。溶剤としては、前記(A)成分を溶解または分散できる限り、水、または任意の有機溶剤を用いることができる。具体的には、水、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素化合物、脂肪族炭化水素化合物、エーテル類、エステル類、アミド類などを挙げることができる。
【0038】
好ましく使用可能な溶剤としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1,1,1-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、HFIPと呼ぶことがある)、などのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素化合物、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、乳酸エチル、酢酸ブチル、γ―ブチロラクトン、ジアセトンアルコール、ジグライム、メチルイソブチルケトン、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、酢酸3-メトキシブチル、2-ヘプタノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。
【0039】
また、グリコール類、グリコールエーテル類、グリコールエーテルエステル類なども使用可能な溶剤として挙げることができる。具体的には、株式会社ダイセル製のセルトール(登録商標)、東邦化学工業株式会社製のハイソルブ(登録商標)などが挙げられる。より具体的には、シクロヘキサノールアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールメチル-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、1,4-ブタンジオールジアセテート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリアセチン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0040】
溶剤は、単独溶剤であっても混合溶剤であってもよい。
【0041】
溶剤の使用量は特に限定されないが、樹脂組成物中の全固形分濃度(揮発性溶剤以外の成分の濃度)が、通常5~60質量%、好ましくは10~50質量%となるように用いられる。全固形分濃度を適切に調整することで、例えば成形の一例として製膜した際には薄膜の形成しやすさや、該薄膜の膜厚の均一性などが良化する傾向がある。
【0042】
溶剤は、当該医療用樹脂組成物を、後述の樹脂膜の形成に用いる場合は、基材を侵さない溶剤を用いることが好ましい。
【0043】
溶剤は、当該医療用樹脂組成物を、後述の樹脂膜の形成に用いる場合は、基材の耐熱性に応じて適切な溶剤を用いることが好ましい。基材の熱分解温度、ガラス転移温度または融点よりも沸点の低い溶剤を用いることで、加熱により溶媒を除去する工程を実施する場合、基材への影響を抑えることができる。
【0044】
[医療用樹脂組成物]
本発明の医療用樹脂組成物は、前記(A)成分である前記式(1)で表される原子団を含む樹脂と、(B)成分である溶剤を含む。換言すると、本発明の医療用樹脂組成物は、前記(A)成分を、前記(B)成分である溶剤に溶解または分散させたものである。
【0045】
[その他成分(第三成分)]
本発明の効果を著しく損なわない範囲において、医療用樹脂組成物にその他成分(第三成分)を含んでも良い。その他成分(第三成分)としては、特に限定されないが、ホスファチジルコリン基、グルコシド基、アミノ酸残基、エチレンオキシドやプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシド結合、リン酸エステル、リン酸、スルホン酸エステル、スルホン酸、カルボン酸エステル、カルボン酸、及び四級アンモニウムからなる群から選ばれる一種以上を含有した樹脂、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニルピロリドン、及びヒドロキシエチル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる一種以上の重合性モノマーを重合して得られる樹脂(以下、重合性モノマーを重合して得られる樹脂をポリマーと呼ぶことがある)が挙げられる。これらの樹脂は、本発明の医療用樹脂組成物から得られる医療用部材の生体適合性や親水性を調節するために用いても良い。
【0046】
その他成分(第三成分)として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、セルロース、セルロース誘導体、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(以下、PDMSと呼ぶことがある)などの樹脂も挙げられる。これらの樹脂は、本発明の医療用樹脂組成物から得られる医療用部材の機械強度を調節するために用いても良い。
【0047】
その他成分(第三成分)として、架橋剤を含んでも良い。架橋剤としては、メラミン構造を有する架橋剤、尿素構造を有する架橋剤、多塩基酸構造を有する架橋剤、イソシアネート基を有する架橋剤またはエポキシ基を有する架橋剤を例示することができる。これらの架橋剤は主に、(A)成分に含まれるヒドロキシ基と反応し、架橋構造を形成すると考えられる。架橋構造を形成することで、樹脂組成物の硬化に寄与すると推測される。
【0048】
その他成分(第三成分)として、光重合開始剤もしくは熱重合開始剤などを含んでも良い。これらの成分は、前述の重合性部位の重合反応を促進させることにより、後述の樹脂組成物の硬化に寄与すると推測される。
【0049】
光重合開始剤もしくは熱重合開始剤は、光ラジカル重合開始剤または光カチオン重合開始剤、熱ラジカル重合開始剤、熱カチオン重合開始剤が好ましい。光カチオン重合開始剤や熱カチオン重合開始剤は、前述の重合性部位がエポキシ基やオキセタン基であるとき、おのおのの重合反応を促進させることが可能なため好ましい。光ラジカル重合開始剤や熱ラジカル重合開始剤は、前述の重合性部位がアクリロイル基、メタクリロイル基であるとき、おのおのの重合反応を促進させることが可能なため好ましい。
【0050】
前記その他成分の使用量は特に限定されないが、医療用樹脂組成物の全量を100質量%としたときに、その他成分の使用量が、0.1質量%~40質量%が好ましい。1質量%~30質量%が特に好ましい。
【0051】
2. 医療用樹脂組成物を用いた医療用部材、当該部材の成型方法
本発明の医療用樹脂組成物は、基材上に塗布、スプレー、蒸着などの方法によって樹脂膜を形成して医療用部材としてもよい。また、マイクロ流路などのチューブ状、溝状、糸状、不織布、多孔質形状、ブロックや塊などの所望の形状に成型して医療用部材としてよい。
【0052】
本発明の医療用樹脂組成物を用いて得られる上記医療用部材は、25℃±2.0℃で、pHが2、4、7、9、及び10である水溶液(pH=7は純水)2μLを、それぞれ滴下し、1秒後の液滴の接触角を測定したときの、接触角の標準偏差が2.9以下であることが好ましい。前述の標準偏差が小さいほど、当該医療用部材の物性の変化が小さいことが推測される。特にアルカリ性の溶液に対して前述の変化量が小さい場合、当該医療用部材がアルカリ耐性を有すると推測できる。
【0053】
医療用部材、特に有機物が付着した医療用部材の洗浄には、アルカリ性の洗浄液または酵素を含む中性の洗浄液が使用されることが多い。医療用部材がアルカリ耐性を有することで、アルカリ性洗浄液を用いた洗浄を行った際に、当該医療用部材の物性変化が低減されることが推測される。このため、医療用部材の継続的な使用や、有機物の付着による汚染の危険性を低減する観点から、当該医療用部材がアルカリ耐性を有することは好ましいと推測される。
【0054】
上述のアルカリ耐性の観点で、本発明の医療用樹脂組成物の(A)成分は、前記式(1-1)、(1-3)または前記式(1-6)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましく、特に前記式(1-1)、(1-3a)または前記式(1-6a)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましい。
【0055】
本発明の医療用樹脂組成物を用いて得られる上記医療用部材は、25℃±2.0℃で、pHが2、4、7、9、及び10である各水溶液(pH=7は純水)2μLを、それぞれ滴下し、1秒後の液滴の接触角が、60°~100°であることが好ましく、65°~95°であることがより好ましい。
本発明の医療用樹脂組成物を用いて得られる上記医療用部材は、pH変化に対する物性(接触角)変化を抑制する観点から、全pH領域での上記液滴の接触角の標準偏差が2.9以下であることが好ましい。同観点から、前記標準偏差は小さいほど好ましく、2.0以下がより好ましく、1.0以下が特に好ましい。また、酸性領域(pH2~7)におけるpH変化に対する物性(接触角)変化を抑制する観点から、前記式(1-1)及び前記式(1-4)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましく、特に前記式(1-1)及び前記式(1-4c)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましい。また、塩基性領域(pH7~10)におけるpH変化に対する物性(接触角)変化を抑制する観点から、前記式(1-1)及び前記式(1-6)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましく、特に前記式(1-1)及び前記式(1-6a)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましい。
【0056】
さらに、本発明の医療用樹脂組成物を用いて得られる上記医療用部材は、抗血栓性が向上する。すなわち、前記式(1)で表される原子団を、側鎖及び/又は主鎖の末端に含む樹脂からなる部材を抗血栓性部材として適用することができる。そして、本発明での抗血栓性部材は、血小板付着試験によって評価され、その優劣は、参照樹脂からなる抗血栓性参照部材の血小板付着試験との相対比較によって評価することができる。
抗血栓性を評価する血小板付着試験の手順は以下のとおり;
1)抗血栓性部材と、抗血栓性参照部材の双方に血小板を付着させる。
2)抗血栓性参照部材の所定エリアに付着した血小板付着数を相対値として100とする。
3)抗血栓性部材の所定エリアに付着した血小板付着数は、前記2)との相対比較したときに、70以下であることで優れた抗血栓性部材と考える。この数値は、50以下であることがより好ましく、20以下であることがさらにより好ましい。
詳細の実験手順などは後述する実施例で確認することができる。
尚、抗血栓性参照部材、すなわち、前記参照樹脂とは、以下手順で作製されたものである。
<ポリシロキサンの場合>
目的とした、前記式(1)で表される原子団を、側鎖及び/又は主鎖の末端に含む樹脂を前提に、前記式(1)で表される原子団部を有する側鎖を、フェニル基、又は炭化水素基として含む樹脂。詳細は、実施例の合成例3、比較合成例1などで確認できる。
<エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテルなどのポリシロキサン以外の樹脂の場合>
目的とした、前記式(1)で表される原子団を、側鎖及び/又は主鎖の末端に含む樹脂を前提に、前記式(1)で表される原子団部を、水素原子として含む樹脂。詳細は、実施例の実施例8、比較例4などで確認できる。尚、参照樹脂は、合成の観点から主鎖の性状を変えない範囲でとのカルボン酸などの他の側鎖を含むことがある。
【0057】
上述の抗血栓性向上の観点で、本発明の医療用樹脂組成物の(A)成分は、前記式(1-1)、(1-3a)または、前記式(1-6a)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましく、特に前記式(1-1)または、前記式(1-6a)で表される構造から選ばれる1種以上を含む樹脂であることが好ましい。これらの樹脂は、抗血栓性を有するため、抗血栓性部材として用いることが出来る。
【0058】
前記樹脂の式(1)で表される原子団の含有量は、樹脂の総量に対して1質量%以上95質量%以下であれば良く、好ましくは30質量%以上90質量%以下であり、さらに好ましくは、50質量%以上85質量%以下である。上記の数値の範囲内であるとき、本発明の樹脂は、前記参照樹脂より高い抗血栓性を有する。
【0059】
[樹脂膜]
本発明の医療用樹脂組成物を基材上に塗布した後、溶剤を除去することで、基材上に樹脂膜(以下、重合や縮合による硬化や架橋を経て形成されたものを「硬化膜」と呼ぶ場合がある。また、硬化や架橋を経て形成されたもの、及び硬化や架橋を経ずに形成されたものを、総称して「樹脂膜」または「被膜」と呼ぶことがある)を形成することができる。溶剤の除去方法は特に限定されないが、常温での乾燥や、加熱や減圧などの方法により、溶剤が十分に除去されることが望ましい。
【0060】
樹脂膜を形成する基材は特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシロキサン、ガラス、セラミック、金属などが挙げられる。これらの素材は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。当該基材は必要に応じて、溶剤による表面洗浄や、UVオゾン、プラズマ、電子線処理などの前処理を施した後に、本発明の医療用組成物から得られる被膜を形成してもよい。
【0061】
樹脂膜を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、刷毛やローラーやスピンコーターなどを用いた塗布、スプレーによる噴霧塗布、蒸着、浸漬などの方法を用いることができる。
【0062】
[医療用樹脂成型体]
本発明の医療用樹脂組成物は、溶剤を除去するとともに成形することにより成形体を得ることができる。
【0063】
成形体を得る方法は特に限定されないが、例えば、樹脂組成物の溶媒を除去してから成形して、あるいは除去しながら成形して、成形体を得る方法が挙げられる。
なお、硬化や架橋を経て、硬化してなる成形体(硬化物)を得てもよい。硬化物を得る方法は特に限定されないが、例えば、成形しながら樹脂組成物の溶媒除去と硬化や架橋を実施して成形された硬化物を得る方法が挙げられる。硬化の方法は特に限定されないが、必要に応じて、架橋剤、光重合開始剤もしくは熱重合開始剤などを併用して、硬化や架橋を促進してもよい。
溶剤の除去方法は特に限定されないが、常温での乾燥や、加熱や減圧などの方法により、溶剤が十分に除去されることが望ましい。
【0064】
成形体の形態は、成型体、積層体、注型物、フィルム、であることができる。また、得られた硬化物を、マイクロ流路などのチューブ状、溝状、糸状、不織布など所望の医療用部材に適した形状に成形可能である。
【0065】
成形方法は特に限定されないが、一般的に知られる成形方法が適用可能である。射出成型、貼り合わせ成形、シート成形、通常紡糸、電解紡糸などがあげられ、マイクロ流路などのチューブ状、溝状、糸状、不織布、多孔質形状、ブロックや塊などの所望の形状などに成形される。得られた成形物を組み合わせて、別の成形物を得ることもできる。
【0066】
成形体の作製方法は特に限定されないが、医療用部材の均一性の観点から、前記(A)成分を前記(B)成分に溶解した樹脂組成物からの成形が好ましい。
【0067】
医療用部材として採用されているフッ素樹脂は、一般的に、前記(B)成分の溶剤に溶解し難い。特殊な溶剤に対してのみ溶解性を示すこともあるが、汎用性は改善の余地があった。一方で、本発明の医療用樹脂組成物は、前記式(1)で表されるHFIP基を含有する前記(A)成分が、前記(B)成分として挙げることができる汎用性の高い溶剤に対して溶解性を示す。溶剤に対する樹脂の溶解性の観点からも、本発明の樹脂組成物は、医療用樹脂組成物として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ヘキサフルオロイソプロパノール基を含有する医療用樹脂組成物を提供することができる。ヘキサフルオロイソプロパノール基を含有することにより、高すぎる撥水性を回避しつつ、適度な水滴接触角を有する、医療用樹脂組成物が提供される。これにより、本発明の医療用樹脂組成物は、細胞接着性の制御、生体適合性、抗血栓性、バイオファウリング抑制に好適な医療用樹脂組成物、医療用部材、医療用部材の成形方法を提供することに好適である。具体的な医療用部材の例としては、医薬品、医薬部外品、ドラッグデリバリーシステム材、pH調整剤、成型補助剤、マイクロ流路、検査キット、細胞足場材、包装材、人工血管、血液透析膜、カテーテル、血液フィルター、血液保存パック、人工臓器などがあげられる。
【実施例0069】
本発明の実施形態を、実施例および比較例、参考例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0070】
以下の合成例で合成したポリマーの物性評価は、以下に示す方法で行った。
【0071】
[ポリマーの分子量分布の測定]
ポリマーの重量平均分子量(Mw)と分子量分散度(数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwの比;Mw/Mn)は、下記条件のゲル浸透クロマトグラフィ(以下、GPCと呼ぶことがある)法により、ポリスチレンを標準物質として検量線を作成して測定値を算出した。
装置:東ソー株式会社製、商品名:HLC-8320GPC
カラム:東ソー株式会社製、商品名:TSK gel GMHXL を3本直列に接続
溶離液:テトラヒドロフラン(以下、THFと呼ぶことがある)
【0072】
後述の合成例にて原料として用いた、4-ヒドロキシ-α、α-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンメタノールは、既報(特開2012-201608)を参考に合成することができる。また、後述の合成例にて原料として用いた、3,3’-ビス(1-ヒドロキシ-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル)-4,4’-メチレンジアニリン(以下、HFA-MDAと呼ぶことがある)は、既報(特開2019-199459号)を参考に合成することができる。また、後述の合成例にて原料として用いた、3-(トリエトキシシリル)-α、α-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンメタノール(以下、HFA-Siと呼ぶことがある)は、既報(WO2019/167770)を参考に合成することができるが、これらの化合物の合成方法については特に限定されない。
【0073】
[モノマーの合成]
(合成例1) モノマーM-1の合成
100mL三口フラスコ内に、1,1,1-トリフルオロ-2-(トリフルオロメチル)-4-ペンテン-2-オール (30.5g、168 mmоl)、メチルジエトキシシラン(23.7g、201.7mmоl)を入れ、攪拌しながら内温80℃まで昇温した。カーステッド触媒(2%Ptキシレン溶液、Aldrich社品)を滴下した後、7時間攪拌した。その後、反応液を蒸留温度100℃、減圧度1.0kPaにて蒸留精製することで、5-(ジエトキシメチルシリル)-1,1,1-トリフルオロ-2-トリフルオロメチル-2-ペンタノール(モノマーM-1)を42.7g、収率67.4%で得た。
【化37】
【0074】
(合成例2) モノマーM-2の合成
500mLの4口フラスコ内に、30.0g(115mmol)の4-ヒドロキシ-α、α-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンメタノールを入れた。次に230mLのテトラヒドロフラン(以下、THFと呼ぶことがある)、15.2g(149.5mmol、1.3eq.)のトリエチルアミンを窒素置換された該フラスコ内に加えて、フラスコを氷冷し、内温を5℃以下とした。滴下漏斗を用いて、13.3g(126.5mol、1.1eq.)の塩化メタクリロイルを1時間かけて滴下した後、室温下2時間攪拌した。その後、10%塩酸水溶液150mLを加えて攪拌し、分液ロートに移して水層を除去した。有機層を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗浄した後、エバポレーターにてTHFを減圧留去した。ヘプタンとトルエンを用いた再結晶による精製を行うことで、2-メチル-2-プロペン酸-4-[2,2,2-トリフルオロ-1-ヒドロキシ-1-(トリフルオロメチル)エチル]フェニルエステル(モノマーM-2)を33.0g、収率87.0%で得た。
【化38】
【0075】
[ポリマーの合成]
(合成例3) ポリマーP-1の合成
100mL三口フラスコ内に、モノマーM―1(10.0g、29.2mmоl)、トリメトキシメチルシラン(5.2g、29.2mmоl)を入れ、攪拌しながら酢酸水(酢酸4.4mg、0.07mmоl、水6.6g、365mmоl)を加えた。その後、75℃で7時間攪拌し、加水分解および縮合反応を行った。反応終了後、反応液を室温に戻し、蒸留水洗操作を3回行った後、エバポレーターで減圧濃縮することによりポリマー(P-1)を粘性液体として得た(7.0g)。GPC重量平均分子量(Mw)は2,310、分子量分散度(Mw/Mn)は1.1であった。
【0076】
(合成例4) ポリマーP-2の合成
窒素置換されたフラスコ内に14.5g(30.5mmol)のモノマー(M-2)、33.9gのメチルエチルケトン(モノマー濃度は30質量%)、重合開始剤として0.4g(1.6mmol、5mol%)の2,2’-アゾビス(イソ酪酸)ジメチルを加え、80℃で4時間攪拌し、重合反応を行った。反応終了後、反応生成物を150gのヘプタンで再沈殿により精製し、得られた固体を濾過により回収した。その後、得られた固体を減圧乾燥してポリマー(P-2)を白色固体として14.0g、収率97%で得た。GPC重量平均分子量(Mw)は50,870、分子量分散度(Mw/Mn)は2.6であった。
【化39】
【0077】
(合成例5) ポリマーP-3の合成
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの四口フラスコ内に、ジメチルアセトアミド134gを加え、HFA-MDA21.2g(40mmol)を攪拌して溶解させた。その後、4,4‘-オキシジフタル酸二無水物12.4g(40mmol)を加え、室温(20℃)で3時間攪拌し、ポリアミド酸溶液(ポリマーP-3)を得た。ポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は24,700、分子量分散度(Mw/Mn)は6.0であった。
【化40】
【化41】
【0078】
(合成例6) ポリマーP-4の合成
窒素導入管および攪拌翼を備えた容量500mLの四口フラスコ内に、N-メチル-2-ピロリドン132gを加え、HFA-MDA21.2g(40mmol)を攪拌溶解させた。続いて、ピリジン6.6g(84mmol)を加え、内温10℃に冷却した後、4,4'-オキシビス(ベンゾイルクロリド)11.8g(40mmol)を加え20分間攪拌し、次いで、室温(20℃)で2時間攪拌した。反応終了後、得られた溶液を10%メタノール水溶液1Lに投入し、析出した固体を濾過で回収した。その後、減圧乾燥してポリアミド(ポリマーP-4)を得た。ポリアミドの重量平均分子量(Mw)は25,700、分子量分散度(Mw/Mn)は4.3であった。
【化42】
【0079】
(合成例7) ポリマーP-8の合成
300mL三口フラスコ内に、HFA-Si(50.0g、158mmоl)を入れ、攪拌しながら酢酸水(酢酸474mg、7.90mmоl、水8.97g、498mmоl)を加えた。その後、75℃で24時間攪拌し、加水分解および縮合反応を行った。反応終了後、反応液を室温に戻し、ジイソプロピルエーテル50.0gを加え、次いで蒸留水洗操作を2回行った。その後、ポリマー濃度が50質量%になるように酢酸2-メトキシ-1-メチルエチルを加え、エバポレーターで減圧濃縮することによりポリマーP-8の溶液を得た。GPC重量平均分子量(Mw)は1,760、分子量分散度(Mw/Mn)は1.1であった。
【化43】
【0080】
(比較合成例1)
合成例3において、モノマーM-1をジメチルジエトキシシランに変更した以外は、合成例3と同様の手順で操作を行い、ポリマー(P-5)を無色透明の粘性液体として得た(14.0g)。GPC重量平均分子量(Mw)は1,300、分子量分散度(Mw/Mn)は1.3であった。
【0081】
(比較合成例2)
合成例4において、モノマーM-2をフェニルメタクリレートに変更した以外は、合成例4と同様の手順で操作を行い、ポリマーP-6を白色固体として得た(14.0g)。得られたポリマーの収率は97%で、GPC重量平均分子量(Mw)は16,270、分子量分散度(Mw/Mn)は3.0であった。
【化44】
【0082】
(比較合成例3)
合成例5において、HFA-MDAを4,4‘-メチレンジアニリンに変更した以外は、合成例5と同様な手順で操作を行い、ポリマーP-7(ポリアミド酸溶液)を得た。ポリマーP-7の重量平均分子量(Mw)は25,100、分子量分散度(Mw/Mn)は5.6であった。
【化45】
【0083】
(比較合成例4)
合成例7において、HFA-Siをフェニルトリエトキシシランに変更した以外は、合成例7と同様な手順で操作を行い、ポリマーP-9の溶液を得た。ポリマーP-9の重量平均分子量(Mw)は980、分子量分散度(Mw/Mn)は1.2であった。
【化46】
【0084】
[接触角測定]
ガラス基板上に成膜した各ポリマー膜の水平な面に、室温(25℃±2.0℃)条件下、シリンジにてイオン交換水2μLを置き、液滴を置いてから1秒後の液滴の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社、型式DMs-601)を用いて測定した。
<pH依存性の評価>
滴下水溶液は、pH標準液セット:シュウ酸塩標準液(pH=2)、フタル酸塩標準液(pH=4)、リン酸塩標準液(pH=7)、ホウ酸塩標準液(pH=9)、炭酸塩標準液(pH=10)(いずれも(株)堀場アドバンスドテクノ製)を使用し、接触角のpH依存性を評価した。
【0085】
(実施例1)
合成例3で得られたポリマーP-1を20質量%の酢酸ブチル溶液に調整し、当該溶液をガラス基板上に、スピンコート塗布(1000rpmで1分間)した後、180℃で2時間加熱処理し、1~2μmの膜厚を有するポリシロキサン硬化膜を得た。
【0086】
(実施例2)
合成例4で得られたポリマーP-2を10質量%の酢酸ブチル溶液に調整し、当該溶液をガラス基板上に、スピンコート塗布(1000rpmで1分間)した後、120℃で10分間加熱処理し、1~2μmの膜厚を有する被膜を得た。
【0087】
(実施例3)
合成例5で得られたポリマーP-3溶液をガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度600rpmに達した後、60秒間保持することでガラス基板上に均一な厚さの膜を形成した。この膜を、窒素雰囲気下、温度250℃で2時間加熱した。その後、室温まで冷却し、ポリイミド膜(膜厚2.4μm)を得た。
【0088】
(実施例4)
実施例3の加熱条件を300℃、2時間に変更した以外は実施例3と同様の手順で操作を行い、ポリイミド膜(膜厚1.6μm)を作製した。
【0089】
(実施例5)
合成例6で得られたポリマーP-4をγ-ブチロラクトンに溶解(固形分濃度20質量%)させた後、溶液をガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度800rpmに達した後、60秒間保持することでガラス基板上に均一な厚さの膜を形成した。この膜を、窒素雰囲気下、温度150℃で2時間加熱した。その後、室温まで冷却し、ポリアミド膜(膜厚2.2μm)を得た。固形分濃度は溶液の揮発性溶剤以外の成分の濃度のことを指す。
【0090】
(実施例6)
実施例5の加熱条件を250℃に変更した以外は実施例5と同様の手順で操作を行い、ポリアミド膜(膜厚1.3μm)を得た。
【0091】
(実施例9)
合成例7で得られたポリマーP-8溶液をガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度1000rpmに達した後、30秒間保持することでガラス基板上に均一な厚さの膜を形成した。この膜を、温度100℃で1分間加熱し、次いで130℃で1時間加熱した。その後、室温まで冷却し、ポリシロキサン硬化膜(膜厚4.2μm)を得た。
【0092】
(比較例1)
実施例1において、ポリマーP-1をポリマー(P-5)に変更した以外は、実施例1と同様の手順で操作を行い、1~2μmの膜厚を有するポリシロキサン硬化膜を得た。
【0093】
(比較例2)
実施例2において、ポリマーP-2をポリマー(P-6)に変更した以外は、実施例2と同様の手順で操作を行い、1~2μmの膜厚を有するポリメタクリル酸エステルの被膜を得た。
【0094】
(比較例5)
実施例9において、ポリマーP-8をポリマー(P-9)に変更した以外は、実施例9と同様の手順で操作を行い、0.56μmの膜厚を有するポリシロキサン硬化膜を得た。
【0095】
(参考例1)
シルポット184(Dow製、PDMSエラストマー)から作製したシートを水洗した後に、室温で3時間、減圧乾燥した後に得られたシート(1mm厚)を用いた。表1中には、PDMSと記載した。
【0096】
前記で得られた1~5μmの膜厚を有する硬化膜の水滴の接触角を、接触角計を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
【表1】
【0097】
ポリマーの主鎖がシロキサン骨格である、実施例1の硬化膜(P-1由来)と比較例1の硬化膜(P-5由来)とを比較すると、前記式(1)で表される原子団を含む実施例1のほうが、高すぎる撥水性を回避できており、前記原子団のフッ素に基づく、小さな表面自由エネルギーによる低い分子間凝集力を活用できている。
また、ポリマーの主鎖がシロキサン骨格で側鎖に芳香環を有する、実施例9の硬化膜(P-8由来)と比較例5の硬化膜(P-9由来)とを比較すると、前記式(1)で表される原子団を含む実施例9のほうが、高すぎる撥水性を回避できており、前記原子団のフッ素に基づく、小さな表面自由エネルギーによる低い分子間凝集力を活用できている。
また、ポリマーの主鎖がエチレン骨格である、実施例2の被膜(P-2由来)と比較例2の被膜(P-6由来)とを比較すると、前記式(1)で表される原子団を含む実施例2のほうが、高すぎる撥水性を回避できており、前記原子団のフッ素に基づく、小さな表面自由エネルギーによる低い分子間凝集力を活用できている。
このように、ポリマーの主鎖が同じ(近い)構造で比較すると、前記式(1)で表される原子団を含む実施例に係る膜は、それぞれ、対応する比較例に係る膜よりも低い接触角を示すことが分かった。なお、上記の傾向は幅広いpH領域(pH=2~10)において確認された。また、実施例に係る膜は、参考例で示すPDMSの接触角よりも大幅に低い値である。また実施例3~6のポリマーに係る膜も、実施例1、2、9のポリマーに係る膜と同等の接触角を示している。つまり、これらの膜はHFIP基により親水性が付与されていることを示唆している。この結果から、これらのポリマーは、高すぎる撥水性を回避しつつ、適度な水滴接触角を有するポリマーであることが判る。
【0098】
表1に示すように実施例1~6及び9のポリマーに係る膜は、pHが2、4、7、9、及び10である水溶液(pH=7は純水)に対する接触角において、接触角の標準偏差が2.9以下であることがわかった。実施例の中でも、実施例1、4、6または9のポリマーからなる膜は、pH7~10における上記標準偏差が、より小さいため、良好なアルカリ耐性を有することを示唆している。
【0099】
(実施例7)
実施例1で得られたポリシロキサン硬化膜の血小板付着試験を以下の通り実施した。
ウシ保存血液(ROCKLAND社製)を2400rpmで7分間遠心分離し、上澄みの血漿を採取した。得られた血漿を再度、3000rpmで10分間遠心分離して、沈降部分から多血小板血漿(PRP:platelet rich plasma)を採取した。得られたPRPをリン酸緩衝生理食塩水で50倍希釈し、血小板濃度が4.7×107cell/mLの血小板溶液を作製した。
得られた血小板溶液400μLを、実施例1で得られたポリシロキサン硬化膜上に滴下し、37℃で1時間静置した。その後、リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄し、1%グルタルアルデヒド水溶液に37℃で2時間浸漬処理して組織を固定化した。その後、イオン交換水で洗浄後、風乾した。得られたサンプルをSEM観察して、所定のエリア(4600μm2)内の血小板数を計測した。当該エリアを計4か所計測し、合計の血小板数を算出した。なお、SEM観察による血小板の付着数が少ないほど抗血栓性に優れる。
実施例7の血小板数は、後述の比較例3の血小板数を100とした相対値として、表2に示す。
【0100】
(比較例3)
比較例1で得られたポリシロキサン硬化膜に対して、実施例7と同様の血小板付着試験を実施した。結果を表2に示す。
【0101】
(実施例8)
合成例5で得られたポリマーP-3溶液をガラス基板上に展開し、スピンコーターにて10秒で回転速度600rpmに達した後、60秒間保持することでガラス基板上に均一な厚さの膜を形成した。この膜を、窒素雰囲気下、温度280℃で2時間加熱した。その後、室温まで冷却し、ポリイミド膜(膜厚2.2μm)を得た。
得られたポリイミド膜に対して、実施例7と同様の血小板付着試験を実施した。実施例8の血小板数は、後述の比較例4の血小板数を100とした相対値として、表3に示す。
【0102】
(比較例4)
実施例8において、ポリマーP-3をポリマーP-7に変更した以外は、実施例8と同様の手順で操作を行い、ポリイミド膜(膜厚2.5μm)を得た。
得られたポリイミド膜に対して、実施例7と同様の血小板付着試験を実施した。結果を表3に示す。
【0103】
(実施例10)
合成例7で得られたポリマーP-8溶液をガラス基板上に展開し、この膜を、温度100℃で1分間加熱し、次いで130℃で1時間加熱した。その後、室温まで冷却し、ポリシロキサン膜(膜厚188μm)を得た。
得られたポリシロキサン膜に対して、実施例7と同様の血小板付着試験を実施した。実施例10の血小板数は、後述の比較例6の血小板数を100とした相対値として、表4に示す。
【0104】
(比較例6)
実施例10において、ポリマーP-8をポリマーP-9に変更した以外は、実施例10と同様の手順で操作を行い、ポリシロキサン膜(膜厚54μm)を得た。
得られたポリシロキサン膜に対して、実施例10と同様の血小板付着試験を実施した。結果を表4に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
【表4】
実施例8のポリイミド膜(血小板数の相対値は60)は、HFIP基を含有しない比較例4のポリイミド膜に比べて、血小板付着数が少なくなることがわかった。同様に、実施例10のポリシロキサン膜(血小板数の相対値は42)は、HFIP基を含有しない比較例6のポリシロキサン膜に比べて、血小板付着数が少なくなることがわかった。また、実施例1のポリシロキサン硬化膜(血小板数の相対値は10)は、HFIP基を含有しない比較例1のポリシロキサン硬化膜に比べて、血小板付着数が顕著に少なくなることがわかった。
上述の結果より本発明の医療用樹脂組成物は、抗血栓性に優れることがわかった。
【0108】
これらの結果から、本発明の医療用樹脂組成物は医療用組成物への適用が期待される。