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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159163
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】紡糸引取装置
(51)【国際特許分類】
   D01D 7/00 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
D01D7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056565
(22)【出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021060845
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】森永 遼
(72)【発明者】
【氏名】北山 太
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀平
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA03
4L045DA41
4L045DB14
4L045DB17
4L045DC01
4L045DC28
4L045DC30
4L045DC31
(57)【要約】
【課題】糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業を容易に行う。
【解決手段】紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yを糸巻取装置4で巻き取るように構成された紡糸引取装置1であって、複数の糸Yが走行する糸走行方向と直交する左右方向に並んだ複数の溝部71を有し、複数の糸Yが複数の溝部71内を走行することにより左右方向に並ぶ複数の糸Yの左右方向への移動を規制する糸道規制ガイド7と、糸道規制ガイド7よりも糸走行方向の下流側であって糸道規制ガイド7への糸掛けが可能となる所定位置に、サクションガン40の吸引口40aを位置決めする位置決め部と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出される複数の糸を糸巻取装置で巻き取るように構成された紡糸引取装置であって、
前記複数の糸が走行する糸走行方向と直交する配列方向に並んだ複数の溝部を有し、前記複数の糸が前記複数の溝部内を走行することにより前記配列方向に並ぶ前記複数の糸の前記配列方向への移動を規制する糸道規制ガイドと、
前記糸道規制ガイドよりも前記糸走行方向の下流側であって前記糸道規制ガイドへの糸掛けが可能となる所定位置に、サクションガンの吸引口を位置決めする位置決め部と、を備えることを特徴とする紡糸引取装置。
【請求項2】
前記所定位置は、前記糸走行方向及び前記配列方向の両方と直交する直交方向から見たときに、前記位置決め部に位置決めされた前記サクションガンの前記吸引口に吸引される前記複数の糸と前記複数の溝部とが重なるように決められた位置であることを特徴とする請求項1に記載の紡糸引取装置。
【請求項3】
前記糸走行方向における前記糸道規制ガイドと前記位置決め部との間に、前記位置決め部に位置決めされた前記サクションガンの前記吸引口に吸引される前記複数の糸が接触する糸揺れ抑制部材が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の紡糸引取装置。
【請求項4】
前記位置決め部に前記サクションガンの前記吸引口が位置決めされているときにおいて、前記配列方向から見たときに、前記糸揺れ抑制部材よりも前記糸走行方向の上流側を走行する前記複数の糸と前記糸揺れ抑制部材よりも前記糸走行方向の下流側を走行する前記複数の糸とがなす角度であって、前記糸揺れ抑制部材が配置されている側の角度が165度以下であることを特徴とする請求項3に記載の紡糸引取装置。
【請求項5】
前記糸揺れ抑制部材は、前記糸巻取装置による糸の巻き取り時における前記複数の糸の糸道から退避可能であることを特徴とする請求項3又は4に記載の紡糸引取装置。
【請求項6】
前記位置決め部は、前記糸巻取装置による糸の巻き取り時における前記複数の糸の糸道から退避可能であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の紡糸引取装置。
【請求項7】
前記位置決め部及び前記糸揺れ抑制部材は、前記糸巻取装置による糸の巻き取り時における前記複数の糸の糸道と重ならない位置に配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の紡糸引取装置。
【請求項8】
前記紡糸装置の下方において前記配列方向に等間隔に配置され、前記紡糸装置から紡出される前記複数の糸を個別に案内する複数の案内ガイドをさらに備え、
前記糸道規制ガイドは、前記複数の案内ガイドの下方に配置され、前記複数の案内ガイドによって個別に案内された複数の糸を前記配列方向に等間隔となるように収束させることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の紡糸引取装置。
【請求項9】
前記位置決め部は、上下方向に移動可能であることを特徴とする請求項8に記載の紡糸引取装置。
【請求項10】
前記位置決め部は、水平面に対して傾斜していることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の紡糸引取装置。
【請求項11】
前記位置決め部は、配列方向に移動可能であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の紡糸引取装置。
【請求項12】
前記位置決め部は、V字断面形状を有することを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の紡糸引取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸道規制ガイドを有する紡糸引取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸装置から紡出される複数の糸を糸巻取装置で巻き取るように構成された紡糸引取装置が知られている。例えば、特許文献1には、紡糸装置から紡出された複数の糸を延伸する複数のローラと、ローラで延伸させた複数の糸を巻き取ってパッケージを形成する糸巻取装置とを備える紡糸引取装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の紡糸引取装置は、複数の糸に対応して配列方向に並んだ複数の溝からなる櫛歯状の糸道規制ガイドを有している。複数の糸が、それぞれ、複数の溝内を走行することにより、ローラに巻き掛けられる複数の糸の間隔が決められるとともに、配列方向に並ぶ複数の糸の配列方向への移動が規制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-057148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紡糸装置から紡出された複数の糸を紡糸引取装置に糸掛けする際は、複数の糸を纏めて吸引するサクションガンが用いられる。従って、上記のような糸道規制ガイドに糸を掛ける際にも当然複数の糸を纏めて吸引するサクションガンが用いられる。従来、糸道規制ガイドへの糸掛け作業は、作業者がサクションガンの糸の吸引口を適切な作業位置で保持しつつ、手作業で行っていた。
【0006】
しかしながら、サクションガンの吸引口を適切な作業位置に配置することは時間を要する上、糸掛け作業を行っている間、サクションガンの吸引口を適切な作業位置に保持し続けることは困難である。糸掛けに時間を要すると、その分だけ廃棄される糸が増加し、生産コストも上がる。
【0007】
本発明の目的は、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業を容易に行うことができる紡糸引取装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の紡糸引取装置は、紡糸装置から紡出される複数の糸を糸巻取装置で巻き取るように構成された紡糸引取装置であって、前記複数の糸が走行する糸走行方向と直交する配列方向に並んだ複数の溝部を有し、前記複数の糸が前記複数の溝部内を走行することにより前記配列方向に並ぶ前記複数の糸の前記配列方向への移動を規制する糸道規制ガイドと、前記糸道規制ガイドよりも前記糸走行方向の下流側であって前記糸道規制ガイドへの糸掛けが可能となる所定位置に、サクションガンの吸引口を位置決めする位置決め部と、を備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、糸道規制ガイドへの糸掛け作業時に、サクションガンの吸引口を位置決め部によって、糸道規制ガイドへの糸掛けが可能となる所定位置に位置決めすることができる。このため、サクションガンの吸引口を適切な作業位置に配置させるのに時間を要さない。また、吸引口を位置決め部に配置しつつサクションガンを保持すればよいため、糸掛け作業の間、サクションガンを保持し続けることの困難性も解消できる。これにより、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0010】
第2の発明の紡糸引取装置は、第1の発明において、前記所定位置は、前記糸走行方向及び前記配列方向の両方と直交する直交方向から見たときに、前記位置決め部に位置決めされた前記サクションガンの前記吸引口に吸引される前記複数の糸と前記複数の溝部とが重なるように決められた位置であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、サクションガンの吸引口が位置決め部によって位置決めされることにより、直交方向から見たときに、位置決め部に位置決めされたサクションガンの吸引口に吸引される複数の糸と複数の溝部とが重なる。これにより、糸道規制ガイドへの糸掛け作業時に、複数の糸それぞれの配列方向の位置を調整することが不要となるため、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0012】
第3の発明の紡糸引取装置は、第1又は第2の発明において、前記糸走行方向における前記糸道規制ガイドと前記位置決め部との間に、前記位置決め部に位置決めされた前記サクションガンの前記吸引口に吸引される前記複数の糸が接触する糸揺れ抑制部材が配置されていることを特徴とするものである。
【0013】
サクションガンの内部には旋回流が発生している。旋回流による糸揺れが、位置決め部よりも糸走行方向の上流側の糸道規制ガイド付近を走行する糸まで伝わると、糸道規制ガイドへの糸掛け作業が困難となる。本発明によれば、糸道規制ガイドと位置決め部との間に、複数の糸と接触する糸揺れ抑制部材が配置されていることにより、サクションガンの内部に発生する旋回流による糸揺れが、糸道規制ガイド付近を走行する複数の糸まで伝わるのを抑制することができる。これにより、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0014】
第4の発明の紡糸引取装置は、第3の発明において、前記位置決め部に前記サクションガンの前記吸引口が位置決めされているときにおいて、前記配列方向から見たときに、前記糸揺れ抑制部材よりも前記糸走行方向の上流側を走行する前記複数の糸と前記糸揺れ抑制部材よりも前記糸走行方向の下流側を走行する前記複数の糸とがなす角度であって、前記糸揺れ抑制部材が配置されている側の角度が165度以下であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば、配列方向から見たときに、糸揺れ抑制部材よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸と糸揺れ抑制部材よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸とがなす角度であって、糸揺れ抑制部材が配置されている側の角度が165度より大きい場合と比べて、糸揺れ抑制部材を複数の糸に対して強く押し当てることができる。これにより、サクションガンの内部に発生する旋回流による糸揺れが、糸道規制ガイド付近を走行する複数の糸まで伝わるのをより確実に抑制することができる。
【0016】
第5の発明の紡糸引取装置は、第3又は第4の発明において、前記糸揺れ抑制部材は、前記糸巻取装置による糸の巻き取り時における前記複数の糸の糸道から退避可能であることを特徴とするものである。
【0017】
本発明によれば、糸道規制ガイドへの糸掛け作業が完了した後の、糸巻取装置による糸の巻き取り時において、糸揺れ抑制部材が走行する糸と接触することを回避できる。これにより、糸揺れ抑制部材との接触により糸の品質が低下することを防ぐことができる。
【0018】
第6の発明の紡糸引取装置は、第1~第5の発明において、前記位置決め部は、前記糸巻取装置による糸の巻き取り時における前記複数の糸の糸道から退避可能であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明によれば、糸道規制ガイドへの糸掛け作業が完了した後の、糸巻取装置による糸の巻き取り時において、位置決め部が走行する糸と接触することを回避できる。これにより、位置決め部との接触により糸の品質が低下することを防ぐことができる。
【0020】
第7の発明の紡糸引取装置は、第3又は第4の発明において、前記位置決め部及び前記糸揺れ抑制部材は、前記糸巻取装置による糸の巻き取り時における前記複数の糸の糸道と重ならない位置に配置されていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、糸道規制ガイドへの糸掛け作業が完了した後の、糸巻取装置による糸の巻き取り時において、位置決め部及び糸揺れ抑制部材が走行する糸と接触することを回避できる。これにより、位置決め部及び糸揺れ抑制部材との接触により糸の品質が低下することを防ぐことができる。
【0022】
第8の発明の紡糸引取装置は、第1~第7の発明において、前記紡糸装置の下方において前記配列方向に等間隔に配置され、前記紡糸装置から紡出される前記複数の糸を個別に案内する複数の案内ガイドをさらに備え、前記糸道規制ガイドは、前記複数の案内ガイドの下方に配置され、前記複数の案内ガイドによって個別に案内された複数の糸を前記配列方向に等間隔となるように収束させることを特徴とするものである。
【0023】
本発明では、紡糸装置から紡出される複数の糸は、複数の案内ガイドに案内されることで配列方向に等間隔に配列される。そして、複数の案内ガイドに案内された複数の糸は最短距離でサクションガンの吸引口に向かうため、糸道規制ガイドへの糸掛け作業時に糸道規制ガイド上においても等間隔となる。このため、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業を容易に行うことができる。一方で、案内ガイドによって案内された複数の糸は吸引口に収束しており、複数の糸の間隔は糸走行方向の上流側から下流側に向かうにつれて狭まっている。互いに隣接する糸の間隔が糸走行方向の上流側から下流側に向かうにつれて狭くなる領域に配置された糸道規制ガイドは、互いに隣接する糸が略平行に走行している領域に配置された糸道規制ガイドと比べて、糸掛け作業を行うことが難しい。本発明によれば、従来、このように糸掛け作業が難しかった領域においても、位置決め部を設けたことにより糸掛け作業をより容易に行うことができる。
【0024】
第9の発明の紡糸引取装置は、第8の発明において、前記位置決め部は、上下方向に移動可能であることを特徴とするものである。
【0025】
一般に、紡糸引取装置における案内ガイドの上下方向の位置は、紡糸装置から紡出される糸の種類などによって適宜調整される。案内ガイドの上下方向の位置が変わると、サクションガンの吸引口を位置決めする所定位置を規定する位置決め部の上下方向の位置も変更する必要が生じる。本発明によれば、案内ガイドの上下方向の位置に対応して、位置決め部の上下方向の位置を適宜調節することができる。これにより、案内ガイドの位置が変わったとしても、位置決め部を適切な位置に配置することができ、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0026】
第10の発明の紡糸引取装置は、第1~第9の発明において、前記位置決め部は、水平面に対して傾斜していることを特徴とするものである。
【0027】
本発明によれば、水平面に対して傾斜した位置決め部に対して、吸引口が斜め上を向くように下方からサクションガンを配置することで、傾斜に沿って下方からサクションガンを支えることができるため、重量の大きいサクションガンを支えやすくなる。これにより、糸掛け作業をより容易に行うことができる。
【0028】
第11の発明の紡糸引取装置は、第1~第10の発明において、前記位置決め部は、配列方向に移動可能であることを特徴とするものである。
【0029】
本発明によれば、位置決め部の配列方向の位置を適宜調節することができる。このため、直交方向から見たときに、位置決め部に位置決めされたサクションガンの吸引口に吸引される複数の糸と複数の溝部とが重なるように決められた所定位置を規定できるように、位置決め部の位置を調節することができる。これにより、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0030】
第12の発明の紡糸引取装置は、第1~第11の発明において、前記位置決め部は、V字断面形状を有することを特徴とするものである。
【0031】
本発明によれば、サクションガンの吸引口を含む先端部分を、位置決め部のV字断面形状となった部分に配置することで、糸掛け作業中にサクションガンの吸引口を含む先端部分が移動することを抑制することができる。このため、糸掛け作業の間、サクションガンを容易に保持し続けることができ、糸道規制ガイドに対して、糸掛け作業をより容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0032】
糸掛け作業を容易にすることで、糸掛け作業時間を短縮できるとともに、廃棄される糸を減少することもできるので、生産コストを減少させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施形態に係る紡糸引取装置の正面図である。
図2】糸道規制ガイドへの糸掛け時における、位置決め部の側面図である。
図3】糸巻取装置による糸の巻き取り時における、位置決め部の側面図である。
図4】糸道規制ガイドへの糸掛け時における、位置決め部の正面図である。
図5】位置決め部の拡大斜視図である。
図6】実施例及び比較例の糸道規制ガイドへの平均糸掛け時間を示す図である。
図7】糸道規制ガイドへの糸掛け時における、第1変形例の位置決め部の側面図である。
図8】糸巻取装置による糸の巻き取り時における、第1変形例の位置決め部の側面図である。
図9】第1変形例の位置決め部の拡大斜視図である。
図10】第2変形例の位置決め部の拡大斜視図である。
図11】その他の変形例の糸道規制ガイドへの糸掛け時における、位置決め部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(紡糸引取装置1の全体構成)
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、紡糸引取装置1の概略構成を示す図である。以下、図1の紙面上下方向を上下方向、紙面左右方向を左右方向とする。また、図1の紙面に垂直な方向を前後方向とし、紙面手前側を前方とする。以下、上記の方向語を適宜使用して説明する。
【0035】
紡糸引取装置1は、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yを糸巻取装置4で巻き取るように構成されている。紡糸装置2は、溶融したポリマーを糸Yとして下方に紡出する装置である。紡糸引取装置1は、図1に示すように、油剤ノズルを各々備えた複数の油剤ガイド5と、複数の案内ガイド6と、糸道規制ガイド7と、位置決め部31と、糸揺れ抑制部材32と、2つのゴデットローラ11及び12と、紡糸延伸装置3と、糸巻取装置4とを含む。紡糸装置2と、その下方に配置された複数の油剤ガイド5及び複数の案内ガイド6とは、上階(2階)に配置されている。糸道規制ガイド7と、2つのゴデットローラ11及び12と、紡糸延伸装置3と、糸巻取装置4とは、下階(1階)に配置されている。
【0036】
複数の油剤ガイド5は、紡糸装置2の下方に配置され、紡糸装置2から下方に紡出された複数の糸Yのそれぞれに油剤を付与する。複数の案内ガイド6は、複数の油剤ガイド5のそれぞれの下方において左右方向に等間隔に配置され、油剤が付与された複数の糸Yを個別に案内する。
【0037】
糸道規制ガイド7は、複数の案内ガイド6の下方に配置され、複数の案内ガイド6によって個別に案内された複数の糸Yを左右方向に等間隔となるように収束させる。糸道規制ガイド7は、複数の糸Yが走行する糸走行方向と直交する配列方向、すなわち左右方向に並んだ複数の溝部71(図4参照)を有する。溝部71は前側が開口している。複数の糸Yが、それぞれ、複数の溝部71内を走行することにより、左右方向の間隔が決められるとともに、左右方向に並ぶ複数の糸Yの左右方向への移動が規制されている。
【0038】
糸道規制ガイド7は、図2に示すように、連結部材18を介して紡糸引取装置1の機台本体17の前側に取り付けられている。また、糸道規制ガイド7には糸規制バー72が取り付けられている。糸規制バー72は、図2に示すように、糸道規制ガイド7への糸掛け時に、複数の糸Yを糸道規制ガイド7に案内し、糸道規制ガイド7への糸掛け後は糸道規制ガイド7から複数の糸Yが外れることを防止するためのものである。糸規制バー72は、図4に示すように、複数の溝部71にわたって、左右方向に延びている。糸規制バー72は、左端部において、レバー73の先端部に片持ち支持されている。レバー73は、左右方向に延びた軸74を中心に回転可能である。糸規制バー72は、糸道規制ガイド7への糸掛け時には、図2に示すように、複数の糸Yよりも前側の規制位置に位置している。また、糸規制バー72は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時には、図3に示すように、左右方向から見たときにおいてレバー73が軸74を中心に時計回りに回転することで、規制位置における糸規制バー72の位置よりも下方かつ後方の規制解除位置に位置している。糸規制バー72が規制解除位置に位置している状態では、糸規制バー72は糸Yと干渉することなく、糸Yの糸道規制ガイド7の溝部71への導入を規制しない。
【0039】
位置決め部31は、糸道規制ガイド7よりも糸走行方向の下流側に配置されている。糸道規制ガイド7への複数の糸Yの糸掛けは、サクションガン40(図3参照)で糸Yを吸引保持した状態で、作業員により糸掛け作業が行われる。位置決め部31は、糸道規制ガイド7への糸掛けが可能となる位置に、サクションガン40の吸引口40aを位置決めする。糸揺れ抑制部材32は、糸走行方向における糸道規制ガイド7と位置決め部31との間に配置されている。位置決め部31及び糸揺れ抑制部材32については、後に詳細に説明する。
【0040】
ゴデットローラ11、12は、図1に示すように、糸道規制ガイド7及び位置決め部31の糸走行方向の下流側に配置されており、不図示のモータによって回転駆動される。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド5、案内ガイド6、糸道規制ガイド7を経由して、ゴデットローラ11に巻き掛けられており、ゴデットローラ11によって紡糸延伸装置3へ送られる。紡糸延伸装置3によって加熱延伸された複数の糸Yは、ゴデットローラ12に巻き掛けられており、ゴデットローラ12によって糸巻取装置4へ送られる。
【0041】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを加熱延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱20と、保温箱20の内部に収容された5つのゴデットローラ91~95とを有している。保温箱20の右側面部の下部には、複数の糸Yを保温箱20の内部に導入するための糸導入口20aが形成され、保温箱20の右側面部の上部には、複数の糸Yを保温箱20の外部に導出するための糸導出口20bが形成されている。
【0042】
下側3つのゴデットローラ91~93は、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、上側2つのゴデットローラ94、95は、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラである。上側2つのゴデットローラ94、95のローラ表面温度は、下側3つのゴデットローラ91~93のローラ表面温度よりも高い温度に設定されている。また、上側2つのゴデットローラ94、95の糸送り速度は、下側3つのゴデットローラ91~93よりも速くなっている。
【0043】
糸導入口20aを介して保温箱20に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ91~93によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ93とゴデットローラ94との間の糸送り速度の差によって延伸される。さらに、複数の糸Yは、ゴデットローラ94、95によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、糸導出口20bを介して保温箱20の外に導出される。
【0044】
糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13やコンタクトローラ14等を有している。ボビンホルダ13は、前後方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ13には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻き取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ14は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0045】
(位置決め部31)
次に、位置決め部31について詳細に説明する。位置決め部31は、糸道規制ガイド7の下流側であって、糸道規制ガイド7への糸掛けが可能となる所定位置に、サクションガン40の吸引口40aを位置決めする。所定位置とは、図4に示すように、前後方向(本発明の直交方向)から見たときに、位置決め部31に位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yと複数の溝部71とが重なるように決められた位置である。
【0046】
位置決め部31は、図5に示すように、前後方向に延びたアーム部51の先端部に取り付けられている。アーム部51の後端は、左右方向を軸方向とする回転軸52を介して、昇降板53に回転可能に片持ち支持されている。糸道規制ガイド7への糸掛け時には、アーム部51は、図2,図5に示すように、昇降板53から前方に向かって延びた状態となっている。このとき、アーム部51の先端部に取り付けられた位置決め部31は、サクションガン40の吸引口40aを上述の所定位置に位置決め可能である。糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時には、アーム部51は、図3に示すように、回転軸52を中心に先端部が下方となるように回転する。このとき、位置決め部31は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避する。
【0047】
昇降板53は、固定部材55によって固定板54に固定されている。より詳細に説明すると、固定板54には、上下方向に沿って延びる昇降溝57が形成されている。また、固定板54の後側に昇降板53が配置され、固定板54の前側に第2昇降板56が配置され、固定板54は昇降板53と第2昇降板56とによって挟み込まれている。そして、固定部材55が、前後方向に第2昇降板56と昇降溝57と昇降板53とを貫通することで、昇降板53が固定板54に固定されている。固定部材55は例えば、ネジである。固定板54は、機台本体17に取り付けられている。
【0048】
また、固定部材55による昇降板53の固定板54への固定を緩めた状態で、固定部材55を昇降溝57に沿って昇降させることで、昇降板53及び第2昇降板56は上下方向に移動可能である。昇降板53の上下方向の移動に伴い、アーム部51及び位置決め部31も上下方向に移動する。すなわち、本実施形態において、位置決め部31は、上下方向に移動可能である。位置決め部31を上下方向に移動させることで、糸道規制ガイド7への糸掛け作業時において、左右方向において、糸道規制ガイド7上の複数の溝部71と複数の糸Yとを一致させることができる。
【0049】
さらに、位置決め部31は、図2に示すように、糸道規制ガイド7への糸掛け時において、水平面に対して傾斜する構成となっている。詳細には、位置決め部31は前後方向に延びる形状を有しており、前端部が後端部よりも下方に位置するように傾斜している。本実施形態においては、糸道規制ガイド7への糸掛け時には、図2に示すように、傾斜した位置決め部31に対して、吸引口40aが斜め上を向くように下方からサクションガン40が配置される。さらに、位置決め部31は、図4に示すように、前後方向から見たときにV字型となるようにV字断面形状を有している。本実施形態においては、糸道規制ガイド7への糸掛け時には、サクションガン40の吸引口40aを含む先端部分は、位置決め部31のV字断面形状となった部分に配置される。
【0050】
(糸揺れ抑制部材32)
続いて、糸揺れ抑制部材32について詳細に説明する。糸揺れ抑制部材32は、図2及び図4に示すように、糸走行方向における糸道規制ガイド7と位置決め部31との間に配置される。糸揺れ抑制部材32には、位置決め部31に位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yが接触する。
【0051】
本実施形態において、糸揺れ抑制部材32は、位置決め部31の後方部に取り付けられており、位置決め部31と一体的に移動する。上述したように、位置決め部31は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避可能である。したがって、位置決め部31と一体的に移動する糸揺れ抑制部材32も、図3に示すように、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避可能である。また、上述したように、位置決め部31は上下方向に移動可能である。したがって、位置決め部31と一体的に移動する糸揺れ抑制部材32も、上下方向に移動可能である。
【0052】
糸揺れ抑制部材32は、軸心が左右方向となる円柱形状である。位置決め部31に位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yは、糸揺れ抑制部材32の周面に接触する。
【0053】
また、図2に示すように、位置決め部31にサクションガン40の吸引口40aが位置決めされているときにおいて、左右方向から見たときに、糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸Yと糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸Yとがなす角度であって、糸揺れ抑制部材32が配置されている側の角度θが165度以下である。なお、本実施形態において、左右方向から見たときに糸揺れ抑制部材32が配置されている側の角度とは、左右方向から見たときの複数の糸Yは1本となっているように見えると仮定した場合において、糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸Yと糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸Yとがなす角度のうちの、前後方向における機台本体17に近い方、すなわち後側の角度のことである。
【0054】
(実施例)
次に、比較例1、比較例2、比較例3及び実施例の糸道規制ガイド7への平均糸掛け時間(秒)の比較を行った。比較例1~3は、上記実施形態の位置決め部31及び糸揺れ抑制部材32を有していない構成の紡糸引取装置1の糸道規制ガイド7に対して、作業者が糸掛け作業を行ったときの平均糸掛け時間を測定した。実施例は、上記実施形態と同様の紡糸引取装置1、すなわち位置決め部31及び糸揺れ抑制部材32を有している構成の紡糸引取装置1の糸道規制ガイド7に対して、作業者が糸掛け作業を行ったときの平均糸掛け時間を測定した。
【0055】
比較例1は、糸道規制ガイド7への糸掛け作業の熟練者が糸掛け作業を行ったときの平均糸掛け時間である。比較例2は、糸道規制ガイド7への糸掛け作業の経験がある経験者が糸掛け作業を行ったときの平均糸掛け時間である。比較例3は、糸道規制ガイド7への糸掛け作業の経験がない初心者が糸掛け作業を行ったときの平均糸掛け時間である。実施例は、経験者、初心者のそれぞれが糸掛け作業を行ったときの平均糸掛け時間である。なお、熟練者とは、糸掛け作業をすることができ、かつ、毎日糸掛け作業を行っている者のことを指す。経験者とは、糸掛け作業をすることができるが、毎日は糸掛け作業を行っていない者のことを指す。初心者とは、今までに糸掛け作業を行ったことがない者のことを指す。また、比較例1における平均糸掛け時間は、1名の熟練者Aが7回糸掛け作業を行った時にかかった糸掛け時間の平均値である。比較例2における平均糸掛け時間は、経験者Aが2回糸掛け作業を行ったときにかかった糸掛け時間の平均と、経験者Bが1回糸掛け作業を行った時にかかった糸掛け時間とを平均した値である。比較例3における平均糸掛け時間は、初心者Aが2回糸掛け作業を行ったときにかかった糸掛け時間の平均と、初心者Bが1回糸掛け作業を行ったときにかかった糸掛け時間とを平均した値である。実施例における平均糸掛け時間は、経験者A、初心者Aがそれぞれ2回ずつ糸掛け作業を行ったときにかかった糸掛け時間の平均値である。
【0056】
図6に示すように、比較例1では平均糸掛け時間が12秒であったのに対し、比較例2では20秒、比較例3では56秒であった。すなわち、糸掛け作業の経験が浅いものほど、糸道規制ガイド7への糸掛け作業に時間を要することがわかった。一方で、実施例では平均糸掛け時間が10秒であった。したがって、糸掛け作業の習熟度に関係なく、糸道規制ガイド7への糸掛け作業の時間が短縮されていることがわかった。
【0057】
(効果)
本実施形態の紡糸引取装置1は、左右方向に並んだ複数の溝部71を有する糸道規制ガイド7と、糸道規制ガイド7よりも糸走行方向の下流側であって糸道規制ガイド7への糸掛けが可能となる所定位置に、サクションガン40の吸引口40aを位置決めする位置決め部31と、を含んでいる。本実施形態によれば、糸道規制ガイド7への糸掛け作業時に、サクションガン40の吸引口40aを位置決め部31によって、糸道規制ガイド7への糸掛けが可能となる所定位置に位置決めすることができる。このため、サクションガン40の吸引口40aを適切な作業位置に配置させるのに時間を要さない。また、吸引口40aを位置決め部31に配置しつつサクションガン40を保持すればよいため、糸掛け作業の間、サクションガン40を保持し続けることの困難性も解消できる。これにより、糸道規制ガイド7に対して、糸掛け作業を容易に行うことができる。
【0058】
また、本実施形態では、所定位置は、前後方向から見たときに、位置決め部31に位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yと複数の溝部71とが重なるように決められた位置である。本実施形態によれば、サクションガン40の吸引口40aが位置決め部31によって位置決めされることにより、前後方向から見たときに、位置決め部31に位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yと複数の溝部71とが重なる。これにより、糸道規制ガイド7への糸掛け作業時に、複数の糸Yそれぞれの左右方向の位置を調整することが不要となるため、糸道規制ガイド7に対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0059】
また、本実施形態の紡糸引取装置1は、糸走行方向における糸道規制ガイド7と位置決め部31との間に、位置決め部31に位置決めされた吸引口40aに吸引される複数の糸Yが接触する糸揺れ抑制部材32が配置されている。サクションガン40の内部には旋回流が発生している。旋回流による糸揺れが、位置決め部31よりも糸走行方向の上流側の糸道規制ガイド7付近を走行する糸Yまで伝わると、糸道規制ガイド7への糸掛け作業が困難となる。本実施形態によれば、糸道規制ガイド7と位置決め部31との間に、複数の糸Yと接触する糸揺れ抑制部材32が配置されていることにより、サクションガン40の内部に発生する旋回流による糸揺れが、糸道規制ガイド7付近を走行する複数の糸Yまで伝わるのを抑制することができる。これにより、糸道規制ガイド7に対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0060】
また、本実施形態では、位置決め部31にサクションガン40の吸引口40aが位置決めされているときにおいて、左右方向から見たときに、糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸Yと、糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸Yとがなす角度であって、左右方向において糸揺れ抑制部材32が配置されている側の角度θが165度以下である。本実施形態によれば、左右方向から見たときに、角度θが165度より大きい場合と比べて、糸揺れ抑制部材32を複数の糸Yに対して強く押し当てることができる。これにより、サクションガン40の内部に発生する旋回流による糸揺れが、糸道規制ガイド7付近を走行する複数の糸Yまで伝わるのをより確実に抑制することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、糸揺れ抑制部材32は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避可能である。本実施形態によれば、糸道規制ガイド7への糸掛け作業が完了した後の、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時において、糸揺れ抑制部材32が走行する糸Yと接触することを回避できる。これにより、糸揺れ抑制部材32との接触により糸Yの品質が低下することを防ぐことができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、位置決め部31は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避可能である。本実施形態によれば、糸道規制ガイド7への糸掛け作業が完了した後の、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時において、位置決め部31が走行する糸Yと接触することを回避できる。これにより、位置決め部31との接触により糸Yの品質が低下することを防ぐことができる。
【0063】
また、本実施形態の紡糸引取装置1は、紡糸装置2の下方において左右方向に等間隔に配置され、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yを個別に案内する複数の案内ガイド6をさらに含み、糸道規制ガイド7は、複数の案内ガイド6の下方に配置され、複数の案内ガイド6によって個別に案内された複数の糸Yを左右方向に等間隔となるように収束させる。本実施形態では、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yは、複数の案内ガイド6に案内されることで左右方向に等間隔に配列される。そして、複数の案内ガイド6に案内された複数の糸Yは最短距離でサクションガン40の吸引口40aに向かうため、糸道規制ガイド7への糸掛け作業時に糸道規制ガイド7上においても等間隔となる。このため、糸道規制ガイド7に対して、糸掛け作業を容易に行うことができる。一方で、案内ガイド6によって案内された複数の糸Yは吸引口40aに収束しており、複数の糸Yの間隔は糸走行方向の上流側から下流側に向かうにつれて狭まっている。互いに隣接する糸Yの間隔が糸走行方向の上流側から下流側に向かうにつれて狭くなる領域に配置された糸道規制ガイド7は、互いに隣接する糸Yが略平行に走行している領域に配置された糸道規制ガイド7と比べて、糸掛け作業を行うことが難しい。本実施形態によれば、従来、このように糸掛け作業が難しかった領域においても、位置決め部31を設けたことにより糸掛け作業をより容易に行うことができる。
【0064】
また、本実施形態では、位置決め部31は、上下方向に移動可能である。一般に、紡糸引取装置1における案内ガイド6の上下方向の位置は、紡糸装置2から紡出される糸Yの種類などによって適宜調整される。案内ガイド6の上下方向の位置が変わると、サクションガン40の吸引口40aを位置決めする所定位置を規定する位置決め部31の上下方向の位置も変更する必要が生じる。本実施形態によれば、案内ガイド6の上下方向の位置に対応して、位置決め部31の上下方向の位置を適宜調節することができる。これにより、案内ガイド6の位置が変わったとしても、位置決め部31を適切な位置に配置することができ、糸道規制ガイド7に対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0065】
また、本実施形態では、位置決め部31は、水平面に対して傾斜している。本実施形態によれば、水平面に対して傾斜した位置決め部31に対して、吸引口40aが斜め上を向くように下方からサクションガン40を配置することで、傾斜に沿って下方からサクションガン40を支えることができるため、重量の大きいサクションガン40を支えやすくなる。これにより、糸掛け作業をより容易に行うことができる。
【0066】
さらに、本実施形態では、位置決め部31は、V字断面形状を有する。本実施形態によれば、サクションガン40の吸引口40aを含む先端部分を、位置決め部31のV字断面形状となった部分に配置することで、糸掛け作業中にサクションガン40の吸引口40aを含む先端部分が移動することを抑制することができる。このため、糸掛け作業の間、サクションガン40を容易に保持し続けることができ、糸道規制ガイド7に対して、糸掛け作業をより容易に行うことができる。
【0067】
(変形例)
以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0068】
(第1変形例)
上記実施形態では、位置決め部31は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避可能である。しかしながら、位置決め部31は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道と重ならない位置に配置されていてもよい。例えば、図7図9に示す第1変形例では、位置決め部131は、昇降板153に取り付けられており糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道と重ならない位置に配置されている。
【0069】
昇降板153は、図9に示すように、固定部材155によって固定板154に固定されている。より詳細に説明すると、図9に示すように、固定板154には、上下方向に沿って延びる昇降溝157が形成されている。また、固定板154の後側に昇降板153が配置され、固定板154の前側に第2昇降板156が配置され、固定板154は昇降板153と第2昇降板156とによって挟み込まれている。そして、固定部材155が、前後方向に第2昇降板156と昇降溝157と昇降板153とを貫通することで、昇降板153が固定板154に固定されている。固定部材155は例えば、ネジである。固定板154は、機台本体17に取り付けられている。
【0070】
また、固定部材155による昇降板153の固定板154への固定を緩めた状態で、固定部材155を昇降溝157に沿って昇降させることで、昇降板153及び第2昇降板156は上下方向に移動可能である。昇降板153の上下方向の移動に伴い、位置決め部131も上下方向に移動する。すなわち、第1変形例において、位置決め部131は、上下方向に移動可能である。位置決め部131を上下方向に移動させることで、糸道規制ガイド7への糸掛け作業時において、左右方向において、糸道規制ガイド7上の複数の溝部71と複数の糸Yとを一致させることができる。なお、第1変形例では、位置決め部131は、上下方向に移動した場合でも、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道と重ならない位置をとる。
【0071】
さらに、位置決め部131は、図7に示すように、糸道規制ガイド7への糸掛け時において、水平面に対して傾斜する構成となっている。第1変形例においては、糸道規制ガイド7への糸掛け時には、図7に示すように、水平面に対して傾斜した位置決め部131に対して、吸引口40aが斜め上を向くように下方からサクションガン40が配置される。さらに、位置決め部131は、図9に示すように、前後方向から見たときにV字型となるようにV字断面形状を有している。第1変形例においては、糸道規制ガイド7への糸掛け時には、サクションガン40の吸引口40aを含む先端部分は、位置決め部131のV字断面形状となった部分に配置される。
【0072】
また、上記実施形態では糸揺れ抑制部材32は円柱形状であるが、第1変形例では糸揺れ抑制部材132は板状部材である。当該板状部材は、複数の糸Yとの接触部分に関して、複数の糸Yとの接触によって断糸を発生させないように加工及び処理が施されている。そして、糸揺れ抑制部材132の後端部分は、左右方向を軸方向とする回転軸141を介して、固定板154に回転可能に片持ち支持されている。糸道規制ガイド7への糸掛け時には、糸揺れ抑制部材132は、図7に示すように、固定板154から前方に向かって延びた状態となっている。このとき、位置決め部131に位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yは、糸揺れ抑制部材132の前側面に接触する。糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時には、糸揺れ抑制部材132は、図8に示すように、回転軸141を中心に先端部が下方となるように回転する。このとき、糸揺れ抑制部材132は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避する。
【0073】
また、図7に示すように、位置決め部131にサクションガン40の吸引口40aが位置決めされているときにおいて、左右方向から見たときに、糸揺れ抑制部材132よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸Yと、糸揺れ抑制部材132よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸Yとがなす角度であって、糸揺れ抑制部材132が配置されている側の角度θ’が165度以下である。なお、第1変形例において、左右方向から見たときの糸揺れ抑制部材132が配置されている側の角度とは、左右方向から見たときの複数の糸Yは1本となっているように見えると仮定した場合において、糸揺れ抑制部材132よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸Yと糸揺れ抑制部材132よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸Yとがなす角度のうちの、機台本体17に近い方、すなわち後側の角度のことである。
【0074】
なお、上記実施形態では、糸揺れ抑制部材32は、位置決め部31と一体的に移動するが、第1変形例では、糸揺れ抑制部材132は位置決め部131と一体的に移動しない。よって、位置決め部131は上下方向に移動可能であるが、糸揺れ抑制部材132は上下方向に移動しない構成となっている。
【0075】
第1変形例では、位置決め部131は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道と重ならない位置に配置されている。また、糸揺れ抑制部材132は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避可能である。これによれば、糸道規制ガイド7への糸掛け作業が完了した後の、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時において、位置決め部131及び糸揺れ抑制部材132が走行する糸Yと接触することを回避できる。これにより、位置決め部131及び糸揺れ抑制部材132との接触により糸Yの品質が低下することを防ぐことができる。
【0076】
なお、位置決め部131及び糸揺れ抑制部材132のいずれも、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道と重ならない位置に配置されていてもよい。
【0077】
(第2変形例)
続いて、第2変形例について、図10を参照しつつ説明する。第2変形例の位置決め部231は、2つの固定部材262によって昇降板253に固定されている。より詳細に説明すると、図10に示すように、昇降板253は、前方に向かうにつれて上方に位置するように傾斜した傾斜部分253aを有し、傾斜部分253aには、左右方向に沿って延びる左右溝254が形成されている。そして、2つの固定部材262が傾斜部分253aと直交する方向に位置決め部231と左右溝254とを貫通することで、位置決め部231が昇降板253の傾斜部分253aに固定されている。固定部材262は例えば、ネジである。
【0078】
また、固定部材262による位置決め部231の昇降板253への固定を緩めた状態で、固定部材262を左右溝254に沿って移動させることで、位置決め部231は左右方向に移動可能である(図10の実線両矢印を参照)。
【0079】
なお、第2変形例では、位置決め部231は、V字断面形状を有しており、傾斜部分253aに固定された位置決め部231のV字型断面形状となっている部分の内側面が水平面に対して傾斜している。第2変形例では、糸道規制ガイド7への糸掛け時には、水平面に対して傾斜した位置決め部231に対して、吸引口40aが斜め上を向くように下方からサクションガン40が配置される。
【0080】
また、昇降板253は、固定部材257によって固定板255に固定されている。より詳細に説明すると、図10に示すように、固定板255には、上下方向に沿って延びる昇降溝256が形成されている。そして、固定部材257が、前後方向に昇降板253と昇降溝256とを貫通することで、昇降板253が固定板255に固定されている。固定部材257は例えば、ネジである。固定板255は、機台本体17に取り付けられている。
【0081】
また、固定部材257による昇降板253の固定板255への固定を緩めた状態で、固定部材257を昇降溝256に沿って昇降させることで、昇降板253は上下方向に移動可能である。昇降板253の上下方向の移動に伴い、位置決め部231も上下方向に移動する。すなわち、第2変形例において、位置決め部231は、上下方向に移動可能である。なお、第2変形例では、位置決め部231は、上下方向に移動した場合でも、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道と重ならない位置に配置されている。
【0082】
また、第2変形例では、糸揺れ抑制部材232は板状部材である。当該板状部材は、複数の糸Yとの接触部分に関して、複数の糸Yとの接触によって断糸を発生させないように加工及び処理が施されている。そして、糸揺れ抑制部材232の後端部分は、左右方向を軸方向とする回転軸241を介して、昇降板253の上端部分に片持ち支持されている。糸道規制ガイド7への糸掛け時には、糸揺れ抑制部材232は、図10に示すように、昇降板253から前方に向かって延びた状態となっている。このとき、位置決め部231に位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yは、糸揺れ抑制部材232の前側面に接触する。糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時には、糸揺れ抑制部材232は、回転軸241を中心に先端部が下方となるように回転する(図10の実線矢印を参照)。このとき、糸揺れ抑制部材232は、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避する。
【0083】
また、糸揺れ抑制部材232は、昇降板253の上下方向の移動に伴い、上下方向に移動可能である。
【0084】
第2変形例では、位置決め部231は、左右方向移動可能である。これによれば、位置決め部231の左右方向の位置を適宜調節することができる。このため、前後方向から見たときに、位置決め部に231位置決めされたサクションガン40の吸引口40aに吸引される複数の糸Yと複数の溝部71とが重なるように決められた所定位置を規定できるように、位置決め部231の位置を調節することができる。これにより、糸道規制ガイド7に対して、糸掛け作業をさらに容易に行うことができる。
【0085】
なお、第2変形例において、位置決め部231及び糸揺れ抑制部材232のいずれも、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道と重ならない位置に配置されていてもよく、糸巻取装置4による糸Yの巻き取り時における複数の糸Yの糸道から退避可能であってもよい。
【0086】
(その他の変形例)
本発明の紡糸引取装置1は、糸揺れ抑制部材32を含んでいなくてもよい。また、本発明の糸道規制ガイド7は、複数の案内ガイド6によって個別に案内された複数の糸Yを収束させるガイドでなくてもよい。例えば、糸道規制ガイド7は、2つのローラ(例えば、ゴデットローラ)の間において、互いに隣接する糸Yが略平行に走行している箇所に配置されたガイドであってもよい。
【0087】
また、本発明の位置決め部は、水平面に対して傾斜していなくてもよく、V字断面形状を有していなくてもよい。例えば、位置決め部は、U字断面形状やコの字断面形状を有していてもよい。
【0088】
上記実施形態の糸道規制ガイド7は、前側に開口した溝部71を有しており、糸道規制ガイド7の前側を走行する複数の糸Yを左右方向に等間隔となるように収束させる。しかしながら、糸道規制ガイド7はこのような形態に限られない。例えば、図11に示すように、糸道規制ガイド107は、後側に開口した溝部を有しており、糸道規制ガイド107の後側を走行する複数の糸Yを左右方向に等間隔となるように収束させるものでもよい。糸道規制ガイド107は、左右方向に並んだ複数の糸Yよりも右側(紙面奥側)において前後方向に延びる連結部材118を介して機台本体17の前側に取り付けられている。この場合において、図11に示すように、位置決め部31にサクションガン40の吸引口40aが位置決めされているときにおいて、左右方向から見たときに、糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸Yと糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸Yとがなす角度であって、糸揺れ抑制部材32が配置されている側の角度θ’’が165度以下であることが好ましい。左右方向から見たときに糸揺れ抑制部材32が配置されている側の角度とは、左右方向から見たときの複数の糸Yは1本となっているように見えると仮定した場合において、糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の上流側を走行する複数の糸Yと糸揺れ抑制部材32よりも糸走行方向の下流側を走行する複数の糸Yとがなす角度のうちの、機台本体17に近い方、すなわち後側の角度のことである。なお、糸道規制ガイド107は、左右方向に並んだ複数の糸Yよりも左側(紙面手前側)において前後方向に延びる連結部材118を介して機台本体17の前側に取り付けられていてもよい。
【0089】
また、本発明において、糸道規制ガイド7と連結部材18は一体化したものでもよく、糸道規制ガイド107と連結部材118は一体化したものでもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 紡糸引取装置
2 紡糸装置
4 糸巻取装置
6 案内ガイド
7 糸道規制ガイド
17 機台本体
31 位置決め部
32 糸揺れ抑制部材
40 サクションガン
40a 吸引口
71 溝部
131 位置決め部
132 糸揺れ抑制部材
231 位置決め部
232 糸揺れ抑制部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11