IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ポリケム株式会社の特許一覧

特開2022-159184金属錯体、当該金属錯体を含むオレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒、並びに、当該オレフィン重合用触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159184
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】金属錯体、当該金属錯体を含むオレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒、並びに、当該オレフィン重合用触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/04 20060101AFI20221006BHJP
   C08F 4/80 20060101ALI20221006BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20221006BHJP
   C08F 4/70 20060101ALI20221006BHJP
   C07F 15/00 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C07F15/04 CSP
C08F4/80
C08F10/00 510
C08F4/70
C07F15/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057776
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021061464
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】303061270
【氏名又は名称】日本ポリケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】河島 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】小西 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直正
【テーマコード(参考)】
4H050
4J015
4J128
【Fターム(参考)】
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB40
4H050WB13
4H050WB16
4H050WB21
4J015DA05
4J015DA09
4J015DA37
4J128AA01
4J128AC45
4J128AC48
4J128AF00
4J128AF03
4J128BA01B
4J128BB01B
4J128BC15B
4J128BC16B
4J128BC24B
4J128EB02
4J128EB03
4J128EB04
4J128EB05
4J128EB07
4J128EB08
4J128EB09
4J128EB10
4J128EB21
4J128EB22
4J128EB23
4J128EB24
4J128EB25
4J128EC01
4J128EC02
4J128FA01
4J128FA02
4J128FA04
4J128GA01
4J128GA06
4J128GA26
4J128GB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高活性に高分子量のポリプロピレン系重合体が得られる新規な金属錯体を提供することを主目的とする。
【解決手段】下式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である、金属錯体。

またはRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。Eは、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。Xは、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。また、式[I]中、Zは、水素原子、または脱離基を表し、mはZの価数を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である、金属錯体。
【化1】
[式[I]および[II]中のR~R、E、およびXは以下の通りである。
は、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基を表す。
、RおよびRは、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基
(iv)OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、またはエポキシ含有基。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
、RおよびRは隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
またはRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。
は、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
は、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。
また、一般式[I]中、
Zは、水素原子、または脱離基を表し、
mはZの価数を表す。]
【請求項2】
前記遷移金属化合物が、周期表の10族に属する遷移金属を含む、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
下記一般式[III]で表される金属錯体。
【化2】
[一般式[III]中、
は、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基を表す。
、RおよびRは、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基
(iv)OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、またはエポキシ含有基。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
、RおよびRは隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
またはRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。
は、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
は、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。
Mは、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属原子を表す。
は、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。
は、Mに配位したリガンドを表す。
とLが互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項4】
前記Mが、周期表の10族に属する遷移金属を含む、請求項3に記載の金属錯体。
【請求項5】
またはRが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい3つ以上の環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項6】
またはRが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、フルオレニル基または9,10-ジヒドロアントラセニル基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項7】
が、炭素数6~30のアリール基、または炭素数7~30のアルキルアリール基である、請求項1~6のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項8】
が、下記一般式(1)で表される置換基である、請求項1~7のいずれか1項に記載の金属錯体。
【化3】
(前記一般式(1)において、Rはそれぞれ独立に、炭素数が2以上の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、*は結合手を表す。)
【請求項9】
が、2,6-ジイソプロピルフェニル基である、請求項1~8のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項10】
前記遷移金属化合物が、ニッケル原子またはパラジウム原子を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項11】
が、リン原子である、請求項1~10のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項12】
が、酸素原子である、請求項1~11のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の金属錯体を含む、オレフィン重合用触媒成分。
【請求項14】
下記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物を含む、オレフィン重合用触媒。
【化4】
[式[I]および[II]中のR~R、E、およびXは以下の通りである。
は、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基を表す。
、RおよびRは、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基
(iv)OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、またはエポキシ含有基。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
、RおよびRから隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
またはRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。
は、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
は、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。
また、一般式[I]中、
Zは、水素原子、または脱離基を表し、
mはZの価数を表す。]
【請求項15】
前記遷移金属化合物が、周期表の10族に属する遷移金属を含む、請求項14に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項16】
またはRが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい3つ以上の環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基である、請求項14または15に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項17】
またはRが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、フルオレニル基または9,10-ジヒドロアントラセニル基である、請求項14~16のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項18】
が、炭素数6~30のアリール基、または炭素数7~30のアルキルアリール基である、請求項14~17のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項19】
が、下記一般式(1)で表される置換基である、請求項14~18のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【化5】
(前記一般式(1)において、Rはそれぞれ独立に、炭素数が2以上の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、*は結合手を表す。)
【請求項20】
が、2,6-ジイソプロピルフェニル基である、請求項14~19のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項21】
前記遷移金属化合物が、ニッケル原子またはパラジウム原子を含む、請求項14~20のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項22】
が、リン原子である、請求項14~21のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項23】
が、酸素原子である、請求項14~22のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
【請求項24】
請求項13に記載のオレフィン重合用触媒成分を含む、オレフィン重合用触媒。
【請求項25】
さらに下記成分(B)を含む、請求項14~24のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒。
成分(B):有機アルミニウム化合物。
【請求項26】
請求項14~25のいずれか1項に記載のオレフィン重合用触媒の存在下に、オレフィンを重合または共重合する、オレフィン重合体の製造方法。
【請求項27】
前記オレフィンがプロピレンである、請求項26に記載のオレフィン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンの重合体及び共重合体の製造に有用な金属錯体、並びに、当該金属錯体を用いたオレフィン重合用触媒成分およびオレフィン重合用触媒、並びに、当該オレフィン重合用触媒を用いたオレフィン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンと極性基含有モノマーとの共重合体は産業上有用なポリマーである。この共重合体を直接重合によって得るには、通常高圧ラジカル法が用いられる。ただし、この方法は、プロピレンや高級α-オレフィンを重合できない点が欠点である。
高圧ラジカル法以外で共重合体を得ることは工業的に困難であり、チーグラー触媒やメタロセン触媒を用いた場合には触媒失活が避けられなかった。
【0003】
その後、メタロセン触媒においては有機希土類金属錯体系メタロセン触媒により、エチレンとメチルメタクリレートとの共重合が可能となり、1990年代以降には、後期遷移金属錯体触媒による、エチレンと極性基含有コモノマーとの共重合が精力的に研究されている。例えば、Brookhartらにより報告された(α-ジイミン)パラジウム錯体(非特許文献1参照)や、Grubbsらにより報告された(サリチルアミジナート)ニッケル触媒(非特許文献2参照)が知られている。これらの触媒を用いる場合には、連鎖移動の頻発を抑制するために重合温度を低くすることから、コポリマーの生産性は低く、分子量も低いのが一般的であった。
【0004】
近年、エチレンと極性基含有モノマーとの共重合において、上記課題は、(リンスルホネート)パラジウム錯体(特許文献1参照)や、いわゆるSHOP系触媒と呼ばれる、リンと酸素を配位原子とする配位子を有するニッケル触媒である、(リンフェノレート)ニッケル錯体(特許文献2,3および4、非特許文献3および4参照)などの発見により克服されてきている。
このように、(リンフェノレート)ニッケル錯体は、エチレンと極性基含有モノマーとの共重合触媒として有用であったが、オレフィン特にプロピレン重合やプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合については、活性や分子量の観点から改善の余地が残されていた。
【0005】
また、リン上にフルオレニル基を有するホスフィノスルホン酸配位子とパラジウム(0)化合物とを組み合わせた触媒が開示されている(特許文献5、6参照)。
当該パラジウム錯体も、エチレンと極性基含有モノマーとの共重合触媒として有用であることは示されているが、プロピレン重合又はプロピレンと極性基含有モノマーとの共重合が進行することは開示されておらず、やはりオレフィン特にプロピレン重合における高分子量化の観点から改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-150246号公報
【特許文献2】国際公開第2010/050256号
【特許文献3】米国特許第6559326号明細書
【特許文献4】特開2005-307021号公報
【特許文献5】国際公開第2020/175482号
【特許文献6】特開2020-164828号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Brookhart et al.、「J. Am. Chem. Soc. 」、1996、118、267-268.
【非特許文献2】R. H. Grubbs et al.、「Science」、 2000、287、460-462.
【非特許文献3】J.Heinicke et al.、「Chem. Eur. J.」、 2003、9、6093-6107.
【非特許文献4】J.Heinicke et al.、「European Journal of Inorganic Chemistry」、2000、3、431-440.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、オレフィン、特にプロピレン重合体及び共重合体の製造に用いられる、高活性でより分子量が高い重合体を与える新規な金属錯体、触媒成分、並びにそれを用いたオレフィン、特にプロピレン重合体及び共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、一般式[I]または[II]で表される化合物であって、遷移金属と反応し得るE上に2つの縮合多環式炭化水素基を有し、遷移金属と反応し得るXのオルト位(R)に特定の置換基を有する配位子と、周期表の9~11族の遷移金属化合物との反応生成物である新規な金属錯体を触媒成分として用いると、オレフィン、特にプロピレン重合が高い活性で進行し、E上に1つの縮合多環式炭化水素基を有する配位子と比較して、分子量が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一実施形態は、下記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である、金属錯体を提供する。
【0011】
【化1】
[式[I]および[II]中のR~R、E、およびXは以下の通りである。
は、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基を表す。
、RおよびRは、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基
(iv)OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、またはエポキシ含有基。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
、RおよびRは隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
またはRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。
は、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
は、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。
また、一般式[I]中、
Zは、水素原子、または脱離基を表し、
mはZの価数を表す。]
【0012】
本発明の一実施形態は、下記一般式[III]で表される金属錯体を提供する。
【0013】
【化2】
[一般式[III]中、R~R、E、およびXは前記と同様である。
Mは、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属原子を表す。
は、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。
は、Mに配位したリガンドを表す。
とLが互いに結合して環を形成してもよい。]
【0014】
本発明の他の実施形態は、前記本発明の金属錯体を含む、オレフィン重合用触媒成分を提供する。
【0015】
本発明の他の実施形態は、前記本発明のオレフィン重合用触媒成分を含む、オレフィン重合用触媒を提供する。
【0016】
本発明の他の実施形態は、下記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物を含む、オレフィン重合用触媒を提供する。
【0017】
【化3】
[式[I]および[II]中のR~R、E、およびXは前記と同様である。
また、一般式[I]中のZおとびmは前記と同様である]
【0018】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、前記遷移金属化合物が、周期表の10族に属する遷移金属を含むものであってよい。
【0019】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、RまたはRが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい3つ以上の環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基であってよい。
【0020】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、RまたはRが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、フルオレニル基または9,10-ジヒドロアントラセニル基であってよい。
【0021】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、Rが、炭素数6~30のアリール基、または炭素数7~30のアルキルアリール基であってよい。
【0022】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、Rが、下記一般式(1)で表される置換基であってよい。
【0023】
【化4】
(前記一般式(1)において、Rはそれぞれ独立に、炭素数が2以上の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、*は結合手を表す。)
【0024】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、Rが、2,6-ジイソプロピルフェニル基であってよい。
【0025】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、前記遷移金属化合物が、ニッケル原子またはパラジウム原子を含むものであってよい。
【0026】
本発明の金属錯体、オレフィン重合用触媒成分、及びオレフィン重合用触媒においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、Eが、リン原子であってよい。
また、本発明の金属錯体においては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、Xが、酸素原子であってよい。
【0027】
本発明のオレフィン重合用触媒においては、さらに下記の成分(B)を含むものであってよい。
成分(B):有機アルミニウム化合物。
【0028】
本発明の他の実施形態は、前記本発明のオレフィン重合用触媒の存在下に、オレフィンを重合または共重合する、オレフィン重合体の製造方法を提供する。
本発明のオレフィン重合体の製造方法は、前記オレフィンがプロピレンであってよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、オレフィン、特にプロピレン重合体及び共重合体の製造に用いられる、高活性でより分子量が高い重合体を与える新規な金属錯体、触媒成分、並びにそれを用いたオレフィン、特にプロピレン重合体及び共重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、一般式[I]または[II]で表される化合物と、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)、Co(コバルト)、Cu(銅)またはRh(ロジウム)等の周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体、一般式[III]で表される金属錯体、これらの金属錯体を含むオレフィン重合用触媒成分、及びそれを触媒成分とした触媒、並びに、当該触媒の存在下に行うオレフィンの重合体又は共重合体の製造方法を提供する。
本発明において、「重合」とは、1種類のモノマーの単独重合と複数種のモノマーの共重合を総称するものであり、特に両者を区別する必要がない場合には、総称して単に「重合」と記載する。また、本発明において、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの両方を含む。
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0031】
1.金属錯体
本発明の金属錯体は、下記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である。
【0032】
【化5】
[式[I]および[II]中のR~R、E、およびXは以下の通りである。
は、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基を表す。
、RおよびRは、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基
(iv)OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、またはエポキシ含有基。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
、RおよびRは隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
またはRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。
は、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
は、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。
また、一般式[I]中、
Zは、水素原子、または脱離基を表し、
mはZの価数を表す。]
【0033】
本発明の金属錯体である、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9、10または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物は、例えば、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させることにより得ることができる。
本発明において「接触」とは、前記一般式[I]または[II]中のEが、前記遷移金属と配位結合を形成でき、かつ/又は、これら一般式中のXが、前記遷移金属と単結合を形成できるように、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、前記遷移金属化合物とが十分近傍に存在することを意味する。そして、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と前記遷移金属化合物とを接触させるとは、これらの化合物を十分近傍に存在させ、前記2種類の結合の少なくともいずれか一方が形成できるように、これらの化合物を混合することを意味する。
前記一般式[I]または[II]で表される化合物と前記遷移金属化合物とを混合する条件は、特に限定されない。これらの化合物を直に混合してもよいし、溶媒を用いて混合してもよい。特に、均一な混合を達成する観点から、溶媒を用いることが好ましい。
得られる金属錯体中において、前記一般式[I]または[II]で表される化合物は配位子となることから、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と前記遷移金属化合物との反応は、通常、配位子交換反応となる。得られる金属錯体が前記遷移金属化合物よりも熱力学的に安定である場合には、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と前記遷移金属化合物とを室温(15~30℃)で混合することにより配位子交換反応が進行する。一方、得られる金属錯体が前記遷移金属化合物よりも熱力学的に不安定である場合には、配位子交換反応を十分に進行させるため、前記混合物を適宜加熱することが好ましい。
【0034】
一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させることにより得られる金属錯体としては、後述する一般式[III]で表される構造を有すると推定される。
しかし、一般式[I]または[II]で表される化合物は、二座配位子であるから、当該化合物を周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物と接触させた場合には、一般式[III]で表される構造以外の構造を有する金属錯体が生成する可能性がある。例えば、一般式[I]または[II]中のXのみが遷移金属と結合を形成する場合や、これらの式中のEのみが遷移金属と結合を形成する場合も考えられる。また、一般式[III]で表される金属錯体は、一般式[I]または[II]で表される化合物と遷移金属化合物との1:1反応生成物であるところ、遷移金属の種類によっては異なる組成比の反応生成物が得られることも考えられる。例えば、2分子以上の一般式[I]または[II]で表される化合物とが1つの遷移金属と錯体を形成する場合も考えられるし、一般式[I]または[II]で表される化合物1分子が2つ以上の遷移金属と反応して多核錯体を形成する場合も考えられる。
従って、本発明の金属錯体は2種以上の反応生成物が含まれる混合物であってもよく、金属錯体組成物であってもよい。
本発明においては、このような一般式[III]で表される構造以外の構造を有する金属錯体が、一般式[III]で表される金属錯体と同様に、オレフィン(共)重合体の製造に用いることが可能であることを否定するものではない。
【0035】
本発明の金属錯体を使用すると、より分子量が高いオレフィン(共)重合体、特により分子量が高いプロピレン(共)重合体を高活性で得ることができる。
中心金属Mと反応し得るE上に嵩高い2つの縮合多環式炭化水素基を有し、且つ、遷移金属と反応し得る嵩高いXのオルト位(R)に特定の炭化水素基を有するため、中心金属Mの周りの立体的な混み具合が適切に制御されることから、β-水素脱離が抑制されるために、得られるポリマー鎖の分子量が向上すると考えられる。
これらの相乗効果により、本発明の金属錯体を使用すると、より高活性で、分子量が高いオレフィン(共)重合体を得ることができると推定される。
【0036】
以下、一般式[I]および[II]中のR~R、E、X、ならびに、一般式[I]中のZ、mについて説明する。
は、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基を表す。
上記直鎖状アルキル基、分岐した非環状アルキル基、アルケニル基、側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、及びアルキルアリール基の各炭素数の上限は、好ましくは25であり、より好ましくは20であり、さらに好ましくは15である。
【0037】
の例のうち、炭素数1~30の直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~10の直鎖状アルキル基が挙げられる。
の例のうち、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基(t-ブチル基)、sec-ブチル基、イソペンチル基(3-メチルブチル基)、t-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、sec-ペンチル基(1-メチルブチル基)、2-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、1,2-ジメチルプロピル基、イソヘキシル基(4-メチルペンチル基)等の炭素数3~10の分岐した非環状アルキル基が挙げられ、炭素数3~8の分岐した非環状アルキル基であってよい。
の例のうち、炭素数2~30のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基、シンナミル基が挙げられ、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基等の炭素数3~8のアルケニル基であってよく、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、スチリル基等の炭素数4~8のアルケニル基であってよい。
【0038】
の例のうち、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、4-エチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、デカヒドロナフチル基(ビシクロ[4,4,0]デシル基)等の炭素数3~10の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基が挙げられ、炭素数3~6の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基であってよい。
の例のうち、炭素数6~30のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基、ビフェニル基、アントラセニル基、テルフェニル基、フェナントレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、ピレニル基、テトラセニル基等の炭素数6~18のアリール基が挙げられ、炭素数6~12のアリール基であってよい。
の例のうち、炭素数7~30のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基(2-フェニルエチル基)、9-フルオレニル基、ナフチルメチル基、1-テトラリニル基等の炭素数7~15のアリールアルキル基が挙げられ、炭素数7~10のアリールアルキル基であってよい。
【0039】
の例のうち、炭素数7~30のアルキルアリール基としては、炭素数1~10の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基が1つ以上置換したアリール基であってよく、例えば、前記炭素数1~10の直鎖状アルキル基及び前記炭素数3~10の分岐した非環状アルキル基の少なくとも1種が1つ以上、前記炭素数6~18のアリール基に置換したアルキルアリール基が挙げられ、前記炭素数1~10の直鎖状アルキル基及び前記炭素数3~10の分岐した非環状アルキル基の少なくとも1種が2つ、前記炭素数6~18のアリール基に置換したアルキルアリール基であってよい。炭素数7~30のアルキルアリール基は、具体的には例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7~20のアルキルアリール基等が挙げられる。
【0040】
は、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、好ましくは、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基が挙げられ、より好ましくは炭素数6~30のアリール基、または炭素数7~30のアルキルアリール基が挙げられ、さらに好ましくは炭素数7~30のアルキルアリール基が挙げられる。
【0041】
は、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、中でも好ましくは、前記炭素数1~10の直鎖状アルキル基及び前記炭素数3~10の分岐した非環状アルキル基の少なくとも1種が1つ以上、前記炭素数6~12のアリール基に置換したアルキルアリール基が挙げられ、より好ましくは、前記炭素数1~10の直鎖状アルキル基及び前記炭素数3~10の分岐した非環状アルキル基の少なくとも1種が2つ以上、前記炭素数6~12のアリール基に置換したアルキルアリール基が挙げられ、更に好ましくは、下記一般式(1)で表される置換基が挙げられる。
【0042】
【化6】
(前記一般式(1)において、Rはそれぞれ独立に、炭素数が2以上の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基を表し、*は結合手を表す。)
【0043】
一般式(1)において、Rにおける炭素数が2以上の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基としては、炭素数が2以上10以下の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基であってよく、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数2~10の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基(t-ブチル基)、sec-ブチル基、イソペンチル基(3-メチルブチル基)、t-ペンチル基(1,1-ジメチルプロピル基)、sec-ペンチル基(1-メチルブチル基)、2-メチルブチル基、ネオペンチル基(2,2-ジメチルプロピル基)、1,2-ジメチルプロピル基、イソヘキシル基(4-メチルペンチル基)等の炭素数3~10の分岐した非環状アルキル基が挙げられる。
一般式(1)において、Rにおける直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基としては、炭素数が1以上10以下の直鎖状若しくは分岐した非環状アルキル基であってよく、Rにおいてあげたアルキル基の他、メチル基であってもよい。
【0044】
における一般式(1)で表される置換基としては、例えば、2,6-ジエチルフェニル基、2,6-ジ-n-プロピルフェニル基、2,6-ジ-n-ブチルフェニル基、2,6-ジ-n-ペンチルフェニル基、2,6-ジ-n-ヘキシルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジイソブチルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基、2,6-ジ-sec-ブチルフェニル基、2,6-ジイソペンチルフェニル基、2,6-ジ-t-ペンチルフェニル基、2,6-ジ-sec-ペンチル基フェニル基、2,4,6-トリエチルフェニル基、2,4,6-トリ-n-プロピルフェニル基、2,4,6-トリ-イソプロピルフェニル基、2,4,6-トリ-n-ブチルフェニル基等が挙げられる。
これらの中でより好ましいものとしては、2,6-ジイソプロピルフェニル基、2,6-ジ-t-ブチルフェニル基等が挙げられ、Rが2,6-ジイソプロピルフェニル基であることがさらに好ましい。
【0045】
,RおよびRは、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基
(iv)OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、またはエポキシ含有基。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
、RおよびRは隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
【0046】
(ii)ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子が好ましい。
【0047】
(iii)に使用されるヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子、ケイ素原子、ハロゲン原子、ホウ素原子が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
(iii)に使用される「ヘテロ原子を含有する基」としては、具体的には、後述する(iv)ヘテロ原子含有置換基と同様の基が挙げられる。「ヘテロ原子を含有する基」としては、例えば、アルコキシ基(OR)、エステル基(CO)等が挙げられる。
なお、Rは後述の通りである。
以上の(iii)においては、R~Rに相当する置換基の総炭素数が、好ましくは1~30であり、より好ましくは2~25であり、さらに好ましくは4~20である。
以上を踏まえ、(iii)「ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい特定の基」とは、(iii-A)炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、及び炭素数7~30のアルキルアリール基、(iii-B)上記(iii-A)のそれぞれの基に上記ヘテロ原子が1又は2以上置換している基、(iii-C)上記(iii-A)のそれぞれの基に上記「ヘテロ原子を含有する基」が1又は2以上置換している基、並びに、(iii-D)上記(iii-A)のそれぞれの基に、上記ヘテロ原子が1又は2以上置換し、かつ、上記「ヘテロ原子を含有する基」が1又は2以上置換している基を指す。(iii-C)については、例えば、アルコキシ基が置換しているアルキル基や、エステル基が置換しているアリール基等が挙げられる。
【0048】
(iv)ヘテロ原子含有置換基とは、具体的には、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、及びエポキシ含有基を指す。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。本発明において炭化水素基としては、飽和、不飽和の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素が含まれ、炭素数1~20の炭化水素基としては、前記直鎖状アルキル基、分岐した非環状アルキル基、アルケニル基、側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、またはアルキルアリール基のうち、炭素数が1~20のものが挙げられる。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
【0049】
,RおよびRは、それぞれ独立に、好ましいものとして、(i)水素原子;(ii)フッ素原子、塩素原子、臭素原子;(iii)メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基;(iv)メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、ニトリル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシロキシ基、シクロヘキシルアミノ基、スルフォン酸ナトリウム、スルフォン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられる。
これらの中で特に好ましいものとしては、(i)水素原子;(iii)メチル基、イソブチル基、tert-ブチル基(t-ブチル基)、sec-ブチル基、ペンタフルオロフェニル基;(iv)メトキシ基、トリメチルシリル基、トリメチルシリルオキシ基、シクロヘキシルアミノ基等が挙げられる。特に、Rは、水素原子、メチル基又はt-ブチル基であることが好ましく、Rは水素原子又はt-ブチル基であることがより好ましい。
【0050】
なお、R,RおよびRは隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素、窒素、硫黄からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
また、R内に含まれる複数の基が互いに連結し、R上に環を形成してもよい。R、又はRのいずれかが複数の基を含む場合も同様である。
【0051】
およびRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。
前記縮合多環式炭化水素基としては、例えば、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基等の2つの環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基;ビフェニレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、アセナフチレニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、9,10-ジヒドロアントラセニル基等の3つの環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基;フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、プレイアデニル基等の4つの環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基;ピセニル基、ペリレニル基、ペンタフェニル基、ペンタセニル基およびテトラフェニレニル基等の5つの環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基等が挙げられる。
前記縮合多環式炭化水素基としては、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、3つ以上の環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基が好ましく、3つの環が縮合してなる縮合多環式炭化水素基がより好ましく、フルオレニル基、as-インダセニル基、s-インダセニル基、フェナントリル基、アントラセニル基および9,10-ジヒドロアントラセニル基の少なくとも1種がさらに好ましく、フルオレニル基または9,10-ジヒドロアントラセニル基がよりさらに好ましい。
【0052】
前記縮合多環式炭化水素基はそれぞれ、置換基を有していてもよい。この置換基の例としては、前記(ii)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基であって良く、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルコキシ基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、炭素数6~10のアリールオキシ基で置換された炭素数7~20の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、及び炭素数6~10のアリールオキシ基からなる群より選ばれる置換基であってよい。ここでの炭化水素基は前記と同様のものであって良い。
前記縮合多環式炭化水素基の置換基としては、好ましくは、フッ素原子、塩素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、t-ペンチル基、ベンジル基、フェニル基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基;メトキシ基、エトキシ基、1-プロポキシ基、イソプロポキシ基、1-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチロキシ基、メトキシメチル基、2-メトキシエチル基、イソプロポキシメチル基、2-イソプロポキシエチル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基;フェノキシメチル基、2-フェノキシエチル基、2-フェノキシフェニル基、3-フェノキシフェニル基、4-フェノキシフェニル基;メトキシ基、エトキシ基、1-プロポキシ基、イソプロポキシ基、1-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチロキシ基;フェノキシ基、1-ナフトキシ基、2-ナフトキシ等が挙げられる。
【0053】
およびRは、それぞれ独立に、高活性で分子量が高い重合体を与える点から、好ましくは置換基を有していてもよいフルオレニル基または置換基を有していてもよい9,10-ジヒドロアントラセニル基が挙げられ、中でも好ましくは、下記一般式(2)または(3)で表される置換基が挙げられる。
【0054】
【化7】
(前記一般式(2)において、R、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルコキシ基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、炭素数6~10のアリールオキシ基で置換された炭素数7~20の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、または炭素数6~10のアリールオキシ基を表す。*は結合手を表す。)
【0055】
、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~10の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、または炭素数6~10のアリールオキシ基であってよい。
、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、中でも、水素原子、または炭素数1~10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子または炭素数1~5の直鎖状アルキル基若しくは分岐した非環状アルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1~4の直鎖状アルキル基若しくは分岐した非環状アルキル基であることが更に好ましい。
一般式(2)において、立体障害の影響の点から、水素原子以外の置換基は3個以下であることが好ましく、2個以下であることが好ましい。
また、R、R、R、R、R、R、R、及びRの全てが水素原子であるか;R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ水素原子であり、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であるか;及びR、R、R、R、R、及びRはそれぞれ水素原子であり、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であるか;R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ水素原子であり、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基である場合が、立体障害の影響の点から好ましい。
【0056】
一般式(2)の具体例としては、9-フルオレニル基、1-メチル-9-フルオレニル基、2-メチル-9-フルオレニル基、3-メチル-9-フルオレニル基、4-メチル-9-フルオレニル基、1-エチル-9-フルオレニル基、2-エチル-9-フルオレニル基、3-エチル-9-フルオレニル基、4-エチル-9-フルオレニル基、1-n-プロピル-9-フルオレニル基、2-n-プロピル-9-フルオレニル基、3-n-プロピル-9-フルオレニル基、4-n-プロピル-9-フルオレニル基、1-イソプロピル-9-フルオレニル基、2-イソプロピル-9-フルオレニル基、3-イソプロピル-9-フルオレニル基、4-イソプロピル-9-フルオレニル基、1-n-ブチル-9-フルオレニル基、2-n-ブチル-9-フルオレニル基、3-n-ブチル-9-フルオレニル基、4-n-ブチル-9-フルオレニル基、1-イソブチル-9-フルオレニル基、2-イソブチル-9-フルオレニル基、3-イソブチル-9-フルオレニル基、4-イソブチル-9-フルオレニル基、1-sec-ブチル-9-フルオレニル基、2-sec-ブチル-9-フルオレニル基、3-sec-ブチル-9-フルオレニル基、4-sec-ブチル-9-フルオレニル基、1-t-ブチル-9-フルオレニル基、2-t-ブチル-9-フルオレニル基、3-t-ブチル-9-フルオレニル基、4-t-ブチル-9-フルオレニル基、1-メトキシ-9-フルオレニル基、2-メトキシ-9-フルオレニル基、3-メトキシ-9-フルオレニル基、4-メトキシ-9-フルオレニル基、1-エトキシ-9-フルオレニル基、2-エトキシ-9-フルオレニル基、3-エトキシ-9-フルオレニル基、4-エトキシ-9-フルオレニル基、1-フェノキシ-9-フルオレニル基、2-フェノキシ-9-フルオレニル基、3-フェノキシ-9-フルオレニル基、4-フェノキシ-9-フルオレニル基、1-トリフルオロメチル-9-フルオレニル基、2-トリフルオロメチル-9-フルオレニル基、3-トリフルオロメチル-9-フルオレニル基、4-トリフルオロメチル-9-フルオレニル基、
【0057】
1,2-ジメチル-9-フルオレニル基、1,3-ジメチル-9-フルオレニル基、1,4-ジメチル-9-フルオレニル基、1,5-ジメチル-9-フルオレニル基、1,6-ジメチル-9-フルオレニル基、1,7-ジメチル-9-フルオレニル基、1,8-ジメチル-9-フルオレニル基、2,3-ジメチル-9-フルオレニル基、2,4-ジメチル-9-フルオレニル基、2,5-ジメチル-9-フルオレニル基、2,6-ジメチル-9-フルオレニル基、2,7-ジメチル-9-フルオレニル基、3,4-ジメチル-9-フルオレニル基、3,5-ジメチル-9-フルオレニル基、3,6-ジメチル-9-フルオレニル基、4,5-ジメチル-9-フルオレニル基、1,2-ジエチル-9-フルオレニル基、1,3-ジエチル-9-フルオレニル基、1,4-ジエチル-9-フルオレニル基、1,5-ジエチル-9-フルオレニル基、1,6-ジエチル-9-フルオレニル基、1,7-ジエチル-9-フルオレニル基、1,8-ジエチル-9-フルオレニル基、2,3-ジエチル-9-フルオレニル基、2,4-ジエチル-9-フルオレニル基、2,5-ジエチル-9-フルオレニル基、2,6-ジエチル-9-フルオレニル基、2,7-ジエチル-9-フルオレニル基、3,4-ジエチル-9-フルオレニル基、3,5-ジエチル-9-フルオレニル基、3,6-ジエチル-9-フルオレニル基、4,5-ジエチル-9-フルオレニル基、1,2-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、1,3-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、1,4-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、1,5-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、1,6-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、1,7-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、1,8-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、2,3-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、2,4-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、2,5-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、2,6-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、2,7-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、3,4-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、3,5-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、3,6-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、4,5-ジ(n-プロピル)-9-フルオレニル基、1,2-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、1,3-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、1,4-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、1,5-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、1,6-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、1,7-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、1,8-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、2,3-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、2,4-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、2,5-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、2,6-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、2,7-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、3,4-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、3,5-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、3,6-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、4,5-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、
【0058】
1,2-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、1,3-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、1,4-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、1,5-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、1,6-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、1,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、1,8-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、2,3-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、2,4-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、2,5-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、2,6-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、3,4-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、3,5-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、3,6-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、4,5-ジ(t-ブチル)-9-フルオレニル基、1,2-ジメトキシ-9-フルオレニル基、1,3-ジメトキシ-9-フルオレニル基、1,4-ジメトキシ-9-フルオレニル基、1,5-ジメトキシ-9-フルオレニル基、1,6-ジメトキシ-9-フルオレニル基、1,7-ジメトキシ-9-フルオレニル基、1,8-ジメトキシ-9-フルオレニル基、2,3-ジメトキシ-9-フルオレニル基、2,4-ジメトキシ-9-フルオレニル基、2,5-ジメトキシ-9-フルオレニル基、2,6-ジメトキシ-9-フルオレニル基、2,7-ジメトキシ-9-フルオレニル基、3,4-ジメトキシ-9-フルオレニル基、3,5-ジメトキシ-9-フルオレニル基、3,6-ジメトキシ-9-フルオレニル基、4,5-ジメトキシ-9-フルオレニル基等が挙げられる。
【0059】
これらのうち、好ましくは、9-フルオレニル基、2,7-ジメチル-9-フルオレニル基、2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、3,6-ジメチル-9-フルオレニル基、3,6-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、4,5-ジメチル-9-フルオレニル基、または4,5-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基であり、特に好ましくは9-フルオレニル基、または3,6-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基である。
【0060】
【化8】
(前記一般式(3)において、R、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~10の炭化水素基、炭素数1~10のアルコキシ基で置換された炭素数2~20の炭化水素基、炭素数6~10のアリールオキシ基で置換された炭素数7~20の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、または炭素数6~10のアリールオキシ基を表す。*は結合手を表す。)
【0061】
、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~10の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1~10の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、または炭素数6~10のアリールオキシ基であってよい。
、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、中でも、水素原子、または炭素数1~10の炭化水素基であることが好ましく、水素原子または炭素数1~5の直鎖状アルキル基若しくは分岐した非環状アルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1~4の直鎖状アルキル基若しくは分岐した非環状アルキル基であることが更に好ましい。
一般式(3)において、立体障害の影響の点から、水素原子以外の置換基は3個以下であることが好ましく、2個以下であることが好ましい。
【0062】
また、R、R、R、R、R、R、R、R、R、及びRの全てが水素原子であるか;Rk、Rl、Rm、Rn、Rq、Rr、Rs、Rt及びRoはそれぞれ水素原子であり、Rpが炭素数1~10の炭化水素基であるか;Rk、Rl、Rm、Rn、Rq、Rr、Rs、及びRtはそれぞれ水素原子であり、Ro及びRpがそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であるか;R、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ水素原子であり、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であるか;R、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ水素原子であり、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基であるか;R、R、R、R、R、R、R、及びRはそれぞれ水素原子であり、R及びRがそれぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基である場合が、立体障害の影響の点から好ましい。
【0063】
一般式(3)の具体例としては、9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-メチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-メチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-メチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-メチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-エチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-エチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-エチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-エチル-9,10―ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-n-プロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-n-プロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-n-プロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-n-プロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-イソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-イソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-イソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-イソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-n-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-n-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-n-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-n-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-イソブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-イソブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-イソブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-イソブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-sec-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-sec-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-sec-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-sec-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、
【0064】
1-メトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-メトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-メトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-メトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-エトキシ-9,10―ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-エトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-エトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-エトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-フェノキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-フェノキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-フェノキシ-9,10―ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-フェノキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1-トリフルオロメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2-トリフルオロメチル-9,10―ジヒドロ-9-アントラセニル基、3-トリフルオロメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4-トリフルオロメチル-9,10―ジヒドロ-9-アントラセニル基、
【0065】
1,2-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,3-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,4-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,5-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,6-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,7-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,8-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,3-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,4-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,5-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,6-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,4-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,5-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,6-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,2-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,3-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,4-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,5-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,6-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,7-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,8-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,3-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,4-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,5-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,6-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,4-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,5-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,6-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、
【0066】
1,2-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,3-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,4-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,5-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,6-ジ(n-プロピル)-9,10―ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,7-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,8-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,3-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,4-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,5-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,6-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,4-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,5-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,6-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,2-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,3-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,4-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,5-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,6-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,7-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,8-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,3-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,4-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,5-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,6-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,4-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,5-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,6-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,2-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,3-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,4-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,5-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,6-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,7-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,8-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,3-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,4-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,5-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,6-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,4-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,5-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,6-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジ(t-ブチル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、
【0067】
1,2-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,3-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,4-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,5-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,6-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,7-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、1,8-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,3-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,4-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,5-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,6-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,4-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,5-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,6-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、
【0068】
10-メチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-エチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-n-プロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-イソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-n-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-イソブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-sec―ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-メトキシ-9,10―ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-エトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-フェノキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-トリフルオロメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジエチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジ(n-プロピル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジイソプロピル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジ(n-ブチル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジイソブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジ(sec―ブチル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジ(t-ブチル)-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジメトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジエトキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジフェノキシ-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジトリフルオロメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基等が挙げられる。
【0069】
これらのうち、好ましくは、9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、2,7-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3、6-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、3,6-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、4,5-ジ-t-ブチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-メチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基、10-ジメチル-9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基であり、特に好ましくは9,10-ジヒドロ-9-アントラセニル基である。
【0070】
は、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。この中でも、Eはリン原子であることが、金属への配位力の点から好ましい。
は、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。この中でも、Xは酸素原子であることが、脱プロトンのための酸性度の点から好ましい。
Zは、水素原子、または脱離基を表す。Zは、具体的には、水素原子、ハロゲン原子、RSO基(ここでRは、前記したとおりである)、CFSO基などを挙げることができる。ハロゲン原子としては、臭素原子、またはヨウ素原子であってよく、RSO基の具体例としては、トシル基(p-トルエンスルホニル基)、メシル基(メタンスルホニル基)等が挙げられる。
mはZの価数を表す。
【0071】
一般式[II]は、アニオンの形で表されているが、そのカウンターカチオンは、本発明における遷移金属化合物との反応を阻害しない限りにおいて、任意のものを用いることができる。カウンターカチオンとしては、具体的には、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウム、周期表1族~14族の金属イオンを挙げることができる。これらのうち好ましくは、NH 、R (ここでRは、前記したとおりであり、4つのRは、同じでも異なっていてもよい。以下同様である。)、R 、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、Al3+であり、さらに好ましくは、R 、Li、Na、Kである。
【0072】
本発明における前記一般式[I]及び[II]中の置換基等の具体的な組み合わせを、下記表1及び2に示す。Z及びmは一般式[I]のみに関わる。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
一般式[I]、[II]で示される化合物については、公知の合成法に基づいて合成することができる。
【0076】
本発明で用いられる周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物は、一般式[I]または[II]で表される化合物と反応して、重合能を有する錯体を形成可能なものが使用される。これらは、プリカーサー(前駆体)とも呼ばれることがある。
9族、10族または11族の遷移金属を含む遷移金属化合物としては、下記一般式[IV]で表される遷移金属化合物を使用することができる。を使用することができる。
一般式[IV]:MR7’ 13
(ここで、Mは、9族、10族または11族の遷移金属原子であり、R7’は、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位した中性リガンドを表し、Lは、Mに配位したリガンドを表し、R7’とLが互いに結合して環を形成してもよい。R13は、水素原子、ハロゲン原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’またはエポキシ含有基(ここで、Rは、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表し、Rは、炭素数1~20の炭化水素基を表し、M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0~3の整数を表し、yは0~2の整数を表す。)を表す。pは1以上の整数、qは1以上の整数、rは0以上の整数であり、p+q+rはMの価数を満たす。)
【0077】
本発明において、Mは、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属原子である。Mは、好ましくは、10族のニッケル原子、パラジウム原子、白金原子および9族のコバルト原子、ロジウム原子および11族の銅原子であり、さらに好ましくは、10族のニッケル原子、パラジウム原子、白金原子であり、最も好ましくは10族のニッケル原子またはパラジウム原子である。
Mの価数については2価であってもよい。ここでMの価数とは、有機金属化学で用いられる形式酸化数(formal oxidation number)を意味する。すなわち、ある元素が関与する結合中の電子対を電気陰性度の大きい元素に割り当てたとき、その元素の原子上に残る電荷の数を指す。例えば、後述する一般式[III]において、Eがリン原子、Xが酸素原子、Mがニッケル原子、R7’がフェニル基、Lがピリジンであり、ニッケル原子がリン原子、酸素原子、フェニル基の炭素原子、ピリジンの窒素原子と結合を形成している場合、ニッケル原子の形式酸化数、すなわちニッケル原子の価数は2価となる。なぜならば、上述の定義に基づき、これらの結合において、電子対は、ニッケル原子よりも電気陰性度の大きいリン原子、酸素原子、炭素原子、窒素原子に割り当てられ、電荷は、リン原子が0、酸素原子が-1、フェニル基が-1、ピリジンが0で、錯体は、全体として電気的に中性であるため、ニッケル原子上に残る電荷は+2となるからである。
2価の遷移金属としては、例えば、ニッケル(II)、パラジウム(II)、白金(II)、コバルト(II)が好ましく、2価以外では、銅(I)またはロジウム(III)であってもよい。
【0078】
本発明においてR7’は、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位した中性リガンドを表す。
7’の具体的な例としては、ヒドリド基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、p-メチルフェニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
また、Mがニッケル原子で0価の遷移金属化合物の場合、R7’は、Mに配位した中性リガンドであってよい。R7’においてMに配位した中性リガンドとしては、中性の電子供与性リガンドである。一つの例としては、電気的に中性であり不対電子を金属Mに配位させることで配位結合を形成しうるリガンドであり、不対電子を有する窒素原子、リン原子、ヒ素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子などを有する炭素数1~20の炭化水素化合物が挙げられる。また別の例としては、遷移金属に配位可能な炭素-炭素不飽和結合を有するヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素化合物、具体的には、π電子を供与することによってπ供与結合を形成するエチレン、シクロオクタジエンのような化合物、金属に配位する不飽和結合及びヘテロ原子を有するジベンジリデンアセトン(dba)のような化合物が挙げられる。これらの例として、アセトニトリル、イソニトリル、一酸化炭素、エチレン、テトラヒドロフランなど、金属錯体の中性リガンドとして公知のもの、アリルやシクロペンタジエニルなどπ電子を供与するリガンドを用いることができる。
【0079】
本発明におけるリガンドLは、配位結合可能な原子として、不対電子を有する窒素原子、リン原子、ヒ素原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子を有する炭素数1~20の炭化水素化合物である。また、Lとして、遷移金属に配位可能な炭素-炭素不飽和結合を有するヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素化合物も使用することができる。好ましくは、Lの炭素数は、1~16であり、さらに好ましくは1~10である。後述する一般式[III]中のMと配位結合するLとしては、電荷を持たない化合物が好ましい。
【0080】
本発明における好ましいLとしては、環状不飽和炭化水素類、ホスフィン類、ピリジン類、ピペリジン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル誘導体、アリールニトリル誘導体、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、アミン類などを挙げることができる。さらに好ましいLとしては、環状オレフィン類、ホスフィン類、ピリジン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類が挙げられ、特に好ましいLとして、トリアルキルホスフィン、ピリジン、ルチジン(ジメチルピリジン)、ピコリン(メチルピリジン)、RCO(Rの定義は、前記の通り)を挙げることができる。
なお、R7’とLが互いに結合して環を形成してもよい。そのような例として、1,5-シクロオクタジエンや、下記一般式[IV-1]で示されるπ-アリル結合様式を挙げることができ、これも本発明における好ましい様態である。
下記一般式[IV-1]で示されるπ-アリル結合様式は、一般式[IV]中、MおよびR7’とLが一つになりπ-アリル結合を形成した部分のみを示す。
【0081】
【化9】
[式[IV-1]中、ここでR13は、前記のとおりである。]
【0082】
一般式[IV-1]中、R13としては、水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基が好ましい。
【0083】
前記一般式[IV]において、R13は含まれなくてもよく、含まれる場合は、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と置換されて、反応生成物である金属錯体には残らないものを表す。R13におけるハロゲン原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~30の炭化水素基、OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’またはエポキシ含有基は、前記と同様であってよい。
【0084】
用いられる遷移金属化合物のうち、例えば、ニッケル原子を含む遷移金属化合物としては、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、一般式:Ni(CHCR13CHで表される錯体[ここでR13は、前記のとおりである。]、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)、一般式:Ni(CHSiR13 で表される錯体(ここでR13、Lは、前記の通りである。)、一般式:NiR7’ で表される錯体(ここでR7’、Lは、前記のとおりである。)等を使用することができる。
【0085】
これらの遷移金属化合物のうち、好ましく用いられるものは、ニッケル(0)ビス(1,5-シクロオクタジエン)、NiPhCl(PEt(以下、Phはフェニル、Etはエチルを表す。)、NiPhCl(PPh2、NiPhCl(TMEDA)(以下、TMEDAはテトラメチルエチレンジアミンを表す。)、NiArBr(TMEDA)(ここで、Ar=4-フルオロフェニルである。)、Ni(acac)(以下acacはアセチルアセトンを表す)、一般式:Ni(CHCR13CHで表される錯体で表される錯体(ここでR13は前記の通りである。)、一般式:Ni(CHSiR13 で表される錯体(ここでR13、Lは前記の通りである。)、一般式:NiR7’ で表される錯体(ここでR7’、Lは、前記の通りである。)、Pd(dba)、Pd(dba)、Pd(dba)(ここで、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す。)、Pd(OCOCH、(1,5-シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
特に好ましくは、ニッケル(0)ビス(1,5-シクロオクタジエン)、NiPhCl(PEt、NiPhCl(PPh2、NiPhCl(TMEDA)、NiArBr(TMEDA)、Ni(acac)、Ni(CHCHCH、Ni(CHCMeCH、Ni(CHSiMe(Py)(以下Pyは、ピリジンを表す。)、Ni(CHSiMe(Lut)(以下Lutは、2,6-ルチジンを表す。)、NiPh(Py)、NiPh(Lut),Pd(dba)、Pd(dba)、Pd(dba)(ここで、dbaは、ジベンジリデンアセトンを表す。)、Pd(OCOCH、(1,5-シクロオクタジエン)Pd(メチル)(クロリド)である。
【0086】
本発明の反応生成物は、前述の一般式[I]または[II]で表される化合物と前述の遷移金属化合物([IV]とする)とを、例えば[I]+[II]:[IV]=1:99~99:1(モル比)を、0~100℃のトルエンやベンゼン等の有機溶媒中で、減圧~加圧下で1秒~86400秒間接触させることにより、得ることができる。遷移金属化合物として、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(COD))のトルエンやベンゼン溶液を用いる場合には、溶液の色が黄色から、例えば赤色に変化することにより、反応生成物の生成が確認できる。
【0087】
本反応後、遷移金属化合物を構成している成分であって、当該化合物中の遷移金属以外の一部が、一般式[I]中のZを除いた部分や一般式[II]の化合物によって置換されて、下記一般式[III]で表される金属錯体等の、一般式[I]または[II]で表される化合物と遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体が生成する。この置換反応は、定量的に進行する方が好ましいが、場合によっては完全に進行しなくてもよい。反応終了後、一般式[III]で表される錯体等の、一般式[I]または[II]で表される化合物と遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体以外に、一般式[I]、[II]、及び遷移金属化合物由来の他の成分が共存し得るが、本発明の重合反応または共重合反応を行う際に、これらの他の成分は、除去してもよいし、除去しなくてもよい。一般的には、これらの他の成分は、除去した方が、高活性が得られるので好ましい。
【0088】
前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物中に、下記一般式[III]で表される金属錯体が含まれると考えられる。前記一般式[I]または[II]で表される化合物に類似の骨格を有する化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物として、下記一般式[III]で表される金属錯体と類似の骨格を有する金属錯体の構造が報告されており、当該金属錯体が触媒活性を示すことが報告されている(例えば、ACS Macro Lett.2018,7,213-217.、前記非特許文献3、及び前記非特許文献4等)。従って、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物は、その反応機構から下記一般式[III]で表される金属錯体が含まれると推定される。後述のように、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物は、優れた触媒活性を示すので、反応機構から推定される下記一般式[III]で表される構造が、触媒活性を示す化合物の1つであると推定される。
ただし、上述したように、当該反応生成物である金属錯体の構造は、一般式[III]で表される構造のみに限定されるものではない。
【0089】
なお、下記一般式[III]で表される金属錯体を製造する際には、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応を行う際に、さらに、配位性化合物(L)や一般式[III]におけるRに置換するための共有結合性化合物を共存させてもよい。
本発明に係るMとして、ニッケル原子やパラジウム原子を用いた場合には、ルイス塩基性の配位性化合物を系内に共存させることによって、生成した金属錯体の安定性が増す場合があり、このような場合には、配位性化合物が本発明の重合反応または共重合反応を阻害しない限りにおいて、配位性化合物を共存させてもよい。
本発明で用いられる配位性化合物とは、配位結合可能な原子として、酸素原子、窒素原子、リン原子、ヒ素原子、硫黄原子、セレン原子を有する炭素数1~20の炭化水素化合物、または、遷移金属に配位可能な炭素-炭素不飽和結合を有するヘテロ原子を含有していてもよい炭化水素化合物を使用することができ、前記Lと同義であって良い。
【0090】
また、本発明で用いられる前記共有結合性化合物とは、遷移金属化合物由来の配位子を一般式[III]におけるRに置換可能な化合物であって、有機金属化合物であってよい。Rは重合反応の開始末端としてポリマー中に取り込まれるとともに、重合反応の初速度に大きく寄与することができ、状況に応じてRを導入するための共有結合性化合物も併用することが好ましい。
前記共有結合性化合物としては、有機リチウム化合物を挙げることができ、RLi(ここで、Rはヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基)であってよく、炭素数1~10の炭化水素基を有する有機リチウム化合物であってよい。炭素数1~10の炭化水素基を有する有機リチウム化合物としては、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、フェニルリチウム等が挙げられる。この中でも好ましくは、メチルリチウム、フェニルリチウムであり、さらに好ましくはメチルリチウムである。
【0091】
また、本発明の金属錯体は、下記一般式[III]で表される金属錯体である。
【0092】
【化10】
【0093】
[一般式[III]中のR~R、E、X、M、Lは以下の通りである。
は、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基を表す。
、RおよびRは、それぞれ独立に、下記(i)~(iv)からなる群より選ばれる原子または基を表す。
(i)水素原子
(ii)ハロゲン原子
(iii)ヘテロ原子およびヘテロ原子を含有する基からなる群より選ばれる基を有していてもよい、炭素数1~30の直鎖状アルキル基、炭素数3~30の分岐した非環状アルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30の側鎖を有していてもよいシクロアルキル基、炭素数6~30のアリール基、炭素数7~30のアリールアルキル基、または炭素数7~30のアルキルアリール基
(iv)OR、CO、COM’、C(O)N(R、C(O)R、OC(O)R、SR、SO、SOR、OSO、P(O)(OR2-y(R、CN、NHR、N(R、Si(OR3-x(R、OSi(OR3-x(R、NO、SOM’、POM’、P(O)(ORM’、またはエポキシ含有基。ここで、Rは水素原子または炭素数1~20の炭化水素基を表す。また、Rは炭素数1~20の炭化水素基を表す。M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウムまたはホスホニウムを表し、xは0から3までの整数、yは0から2までの整数を表す。
、RおよびRは隣接置換基同士が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、または酸素原子、窒素原子および硫黄原子からなる群より選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5~8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
またはRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい縮合多環式炭化水素基を表す。
は、リン原子、砒素原子またはアンチモン原子を表す。
は、酸素原子、硫黄原子またはSOを表す。
Mは、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属原子を表す。
は、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。
は、Mに配位したリガンドを表す。
とLが互いに結合して環を形成してもよい。]
【0094】
前記一般式[III]中、R~R、E、Xは前記の通りである。このように、前記反応生成物中の金属錯体と、一般式[III]で表される金属錯体との間には、ベンゼン環を含む主骨格や、これら置換基(R~R、E、X)の点において錯体構造の共通性がある。
また、一般式[III]中のM、及び、Lは、前記遷移金属化合物において説明した通りである。
【0095】
本発明においてRは、水素原子、ヘテロ原子を含有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基、またはMに配位したリガンドを表す。
MがNiで0価の遷移金属化合物におけるR7’は、Mに配位した中性リガンドであってよいが、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、MがNiで0価の遷移金属化合物とが反応する場合、Niは2価になるため、反応後のRは、中性リガンドではなく、アニオン性リガンドになる。例えば、前記一般式[I]または[II]で表される化合物と、ニッケル(0)ビス(1,5-シクロオクタジエン)とが反応した場合、遷移金属化合物由来の配位子は、RとLが互いに結合して環を形成したシクロオクテン-1-イル基となる。
本発明における重合または共重合反応は、MとRの結合に本発明におけるプロピレン等のオレフィンまたはその共重合モノマーが挿入されることによって、開始されると考えられる。したがって、Rの炭素数が過度に多いと、この開始反応が阻害される傾向にある。このため、好ましいRとしては、置換基に含まれる炭素数を除く炭素数が1~16、さらに好ましくは当該炭素数が1~10である。
の具体的な例としては、ヒドリド基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、フェニル基、p-メチルフェニル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
なお、RとLが互いに結合して環を形成してもよい。そのような例として、シクロオクテン-1-イル基、アセチルアセトナート基等を挙げることができ、これも本発明における好ましい様態である。
【0096】
本発明における前記一般式[III]中の置換基等の具体的な組み合わせを、下記表2に示す。ただし、具体例は、下記例示に限定されるものではない。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
なお、表3及び4において、1,4,5-η-COEは、(1,4,5-η)-4-シクロオクテン-1-イル基を表す。
【0099】
また、表2に例示した錯体番号1~41の化合物の中心金属MがNiの代わりに、Pdに代わった化合物も例示される。
【0100】
本発明において、反応をプロピレン等のオレフィンの重合やオレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器とは別の容器で、予め行ったうえで、得られた一般式[I]または[II]で表される化合物と遷移金属化合物との反応生成物である金属錯体をプロピレン等のオレフィンの重合やオレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に供してもよいし、反応をこれらのモノマーの存在下に行ってもよい。また、反応を、プロピレン等のオレフィンの重合やオレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器の中で行ってもよい。この際に、これらのモノマーは存在していてもよいし、存在していなくてもよい。また、一般式[I]及び[II]で表される化合物については、それぞれ単独の成分を用いてもよいし、それぞれ複数種の成分を併用してもよい。特に、分子量分布やコモノマー含量分布を広げる目的には、こうした複数種の併用が有用である。
【0101】
上述したように、一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物とを接触させ、必要に応じて更に前記配位性化合物や前記共有結合性化合物を用いて反応させることにより、一般式[I]または[II]で表される化合物と、周期表の9族、10族または11族に属する遷移金属を含む遷移金属化合物との反応生成物である、本発明の金属錯体、一般式[III]で表される金属錯体を製造することができる。
【0102】
2.オレフィン重合用触媒成分
本発明のオレフィン重合用触媒成分は、前記本発明の金属錯体を含むことを特徴とする。
本発明においては、前記本発明の金属錯体を、オレフィンの重合または共重合の触媒成分として使用することができる。前記したように、前記本発明の金属錯体は、一般式[I]または[II]で表される化合物と遷移金属化合物との反応によって、生成させることができる。前記本発明の金属錯体を触媒成分に用いる場合、そのまま反応溶液を用いてもよいし、単離したものを用いてもよいし、担体に担持したものを用いてもよい。担体への担持は、オレフィンの重合やオレフィンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合に使用する反応器中で、これらのモノマーの存在下または非存在下で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。
【0103】
使用可能な担体としては、本発明の主旨をそこなわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。一般に、無機酸化物やポリマー担体が好適に使用できる。具体的には、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO等またはこれらの混合物が挙げられ、SiO-Al、SiO-V、SiO-TiO、SiO-MgO、SiO-Cr等の混合酸化物も使用することができ、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、ポリイミド担体などが使用可能である。これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0104】
無機ケイ酸塩としては、粘土、粘土鉱物、ゼオライト、珪藻土等が使用可能である。これらは、合成品を用いてもよいし、天然に産出する鉱物を用いてもよい。粘土、粘土鉱物の具体例としては、アロフェン等のアロフェン族、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロイサイト、ハロイサイト等のハロイサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、アタパルジャイト、セピオライト、パイゴルスカイト、ベントナイト、木節粘土、ガイロメ粘土、ヒシンゲル石、パイロフィライト、リョクデイ石群等が挙げられる。
これらは混合層を形成していてもよい。人工合成物としては、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライト等が挙げられる。これら具体例のうち好ましくは、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト等のカオリン族、メタハロサイト、ハロサイト等のハロサイト族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられ、特に好ましくはモンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト、バーミキュライト等のバーミキュライト鉱物、合成雲母、合成ヘクトライト、合成サポナイト、合成テニオライトが挙げられる。
【0105】
これらの担体は、そのまま用いてもよいが、塩酸、硝酸、硫酸等による酸処理および/または、LiCl、NaCl、KCl、CaCl、MgCl、LiSO、MgSO、ZnSO、Ti(SO、Zr(SO、Al(SO等の塩類処理を行ってもよい。該処理において、対応する酸と塩基を混合して反応系内で塩を生成させて処理を行ってもよい。また粉砕や造粒等の形状制御や乾燥処理を行ってもよい。
【0106】
3.オレフィン重合用触媒
本発明のオレフィン重合用触媒は、下記の成分(A)及び(B)を含むことを特徴とする。
成分(A):前記本発明の金属錯体
成分(B):有機アルミニウム化合物
【0107】
成分(A)は、前記本発明の金属錯体であり、1種類の金属錯体のみを用いてもよいし、2種類以上の金属錯体を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
成分(B)として使用される、有機アルミニウム化合物の一例は、次の一般式で表される。
Al(R(3-a)
一般式中、Rは、炭素数1~20の炭化水素基、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基又はシロキシ基を示し、aは0より大きく3以下の数を示す。
一般式で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムモノメトキシドなどのハロゲン原子又はアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられる。
【0109】
これらの中では、トリイソブチルアルミニウムまたはトリノルマルオクチルアルミニウムが好ましい。また、上記の有機アルミニウム化合物を2種以上併用してもよい。また、上記のアルミニウム化合物をアルコール、フェノールなどで変性して用いてもよい。これらの変性剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、フェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノールなどが例示され、好ましい具体例は、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノールである。
【0110】
本発明に係るオレフィン重合用触媒の調製法においては、成分(A)及び成分(B)を接触させる方法は、特に限定されない。
各成分中で別種の成分を混合物として用いてもよい。また、この接触は、触媒調製時だけでなく、オレフィンによる予備重合時又はオレフィンの重合時に行ってもよい。
上記の成分(A)及び成分(B)の接触は、窒素などの不活性ガス中において、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどの不活性炭化水素溶媒中で行うことが好ましい。接触は、-20℃から溶媒の沸点の間の温度で行うことができ、特に室温から溶媒の沸点の間での温度で行うのが好ましい。
【0111】
4.オレフィン重合体の製造方法
本発明のオレフィン重合体の製造方法の一実施形態は、前記本発明のオレフィン重合用触媒の存在下に、オレフィンを重合または共重合するものである。
本発明におけるオレフィンは、一般式:CH=CHR10で表される。ここで、R10は、水素原子または炭素数1~20の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R10の炭素数が20より大きいと、十分な重合活性が発現しない傾向がある。このため、なかでも、好ましいオレフィンとしては、R10が水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であるオレフィンが挙げられる。
さらに好ましいオレフィンとしては、エチレン、プロピレンや1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテンなどのα-オレフィン、ビニルシクロヘキセン、スチレンが挙げられる。なお、単独のオレフィンを使用してもよいし、複数のオレフィンを併用してもよい。
本発明のオレフィン重合体の製造方法、及びオレフィン共重合体の製造方法においては、オレフィンがプロピレンであることが特に好ましい。
【0112】
本発明のオレフィン重合体の製造方法の他の実施形態は、上記重合用触媒の存在下に、(a)オレフィンと、(b)(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ビニルモノマー又はアリルモノマーとを共重合するものである。
【0113】
本発明における(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、一般式:CH=C(R11)CO(R12)で表される。ここで、R11は、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。R12は、炭素数1~30の炭化水素基であり、分岐、環、および/または不飽和結合を有していてもよい。さらに、R12内の任意の位置にヘテロ原子を含有していてもよい。
11の炭素数が11以上であると、十分な重合活性が発現しない傾向がある。したがって、R11は、水素原子または炭素数1~10の炭化水素基であるが、好ましい(メタ)アクリル酸エステルとしては、R11が水素原子または炭素数1~5の炭化水素基であるものが挙げられる。より好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、R11がメチル基であるメタクリル酸エステルまたはR11が水素原子であるアクリル酸エステルが挙げられる。同様に、R12の炭素数が30を超えると、重合活性が低下する傾向がある。よって、R12の炭素数は1~30であるが、R12は、好ましくは炭素数1~12であり、さらに好ましくは炭素数1~8である。
また、R12内に含まれていても良いヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、リン原子、窒素原子、ケイ素原子、フッ素原子、ホウ素原子等が挙げられる。これらのヘテロ原子のうち、酸素原子、ケイ素原子、フッ素原子が好ましく、酸素原子が更に好ましい。また、R12は、ヘテロ原子を含まないものも好ましい。
【0114】
さらに好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル、(メタ)アクリル酸-2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸-3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エチレンオキサイド、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチル、(メタ)アクリル酸-2-トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロエチル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジメチルアミド、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。なお、単独の(メタ)アクリル酸エステルを使用してもよいし、複数の(メタ)アクリル酸エステルを併用してもよい。
【0115】
本発明におけるビニルモノマーは、含ハロゲン原子、含窒素原子、含酸素原子、含硫黄原子等の極性基を有するビニルモノマーで、特にハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホルミル基、エステル基、エポキシ基、ニトリル基等を含有するビニルモノマーである。具体的には、5-ヘキセン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オール、10-ウンデセン酸エチル、10-ウンデセン-1-オール、12-トリデセン-2-オール、10-ウンデカノイック酸、メチル-9-デセネート、t-ブチル-10-ウンデセネート、1,1-ジメチル-2-プロペン-1-オール、9-デセン-1-オール、3-ブテン酸、3-ブテン-1-オール、N-(3-ブテン-1-イル)フタルイミド、5-ヘキセン酸、5-ヘキセン酸メチル、5-ヘキセン-2-オン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。この中でも、特に3-ブテン-1-オール、10-ウンデセン酸エチル、10-ウンデセン-1-オールが好ましい。
【0116】
本発明におけるアリルモノマーは、炭素数3のアリルモノマー(プロぺニルモノマー)、アリル基を有する、炭素数4以上のアリル系モノマーが例示される。アリルモノマーは、含ハロゲン原子、含窒素原子、含酸素原子、含硫黄等原子の極性基を有するアリルモノマーで、特にハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボキシル基、ホルミル基、エステル基、エポキシ基、ニトリル基等を含有するビニルモノマーである。好ましい具体例として、酢酸アリル、アリルアルコール、アリルアミン、N-アリルアニリン、N-t-ブトキシカルボニル-N-アリルアミン、N-ベンジルオキシカルボニル-N-アリルアミン、N-アリル-N-ベンジルアミン、塩化アリル、臭化アリル、アリルエーテル、ジアリルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、特に酢酸アリル、アリルアルコールが好ましく、酢酸アリル、アリルエーテル、ジアリルエーテルがより好ましい。
【0117】
本発明の重合反応は、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素溶媒や液化α-オレフィン等の液体、また、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のような極性溶媒の存在下あるいは非存在下に行われる。また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。さらに、イオン液体も溶媒として使用可能である。なお、高い重合活性や高い分子量を得るうえでは、上述の炭化水素溶媒やイオン液体がより好ましい。
【0118】
本発明では、公知の添加剤の存在下または非存在下で重合反応を行うことができる。添加剤としては、ラジカル重合を禁止する重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体などが好ましい添加剤の例として挙げられる。具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6-ジ-t-ブチル4-メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。また、添加剤として、無機およびまたは有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行っても良い。さらに、本発明に係るLやイオン液体を添加剤として用いてもよい。
【0119】
本発明における好ましい添加剤として、ルイス塩基が挙げられる。適切なルイス塩基を選択することにより、活性、分子量、アクリル酸エステルの共重合性を改良することができる。ルイス塩基の量としては、重合系内に存在する触媒成分中の遷移金属Mに対して、0.0001当量~1000当量、好ましくは0.1当量~100当量、さらに好ましくは、0.3当量~30当量である。ルイス塩基を重合系に添加する方法については、特に制限はなく、任意の手法を用いることができる。例えば、本発明の触媒成分と混合して添加してもよいし、モノマーと混合して添加してもよいし、触媒成分やモノマーとは独立に重合系に添加してもよい。また、複数のルイス塩基を併用してもよい。また、本発明に係るLと同じルイス塩基を用いてもよいし、異なっていてもよい。
【0120】
ルイス塩基としては、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、アルキルエーテル類、アリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類、環状エーテル類、アルキルニトリル類、アリールニトリル類、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、ホスフェート類、ホスファイト類、チオフェン類、チアンスレン類、チアゾール類、オキサゾール類、モルフォリン類、環状不飽和炭化水素類などを挙げることができる。これらのうち、特に好ましいルイス塩基は、芳香族アミン類、脂肪族アミン類、環状エーテル類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類であり、なかでも好ましいルイス塩基は、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、ピペリジン誘導体、イミダゾール誘導体、アニリン誘導体、ピペリジン誘導体、トリアジン誘導体、ピロール誘導体、フラン誘導体である。
【0121】
具体的なルイス塩基化合物としては、ピリジン、ペンタフルオロピリジン、2,6-ルチジン、2,4-ルチジン、3,5-ルチジン、ピリミジン、N、N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、2,2’-ビピリジン、アニリン、ピペリジン、1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(2-ピリジル)-s-トリアジン、キノリン、8-メチルキノリン、フェナジン、1,10-フェナンスロリン、N-メチルピロール、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデカ-7-エン、1,4-ジアザビシクロ-[2,2,2]-オクタン、トリエチルアミン、ベンゾニトリル、ピコリン、トリフェニルアミン、N-メチル-2-ピロリドン、4-メチルモルフォリン、ベンズオキサゾール、ベンゾチアゾール、フラン、2,5-ジメチルフラン、ジベンゾフラン、キサンテン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、ジベンゾチオフェン、チアンスレン、トリフェニルホスフォニウムシクロペンタジエニド、トリフェニルホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリピロリジノホスフィン、トリス(ピロリジノ)ボランなどを挙げることができる。
【0122】
本発明において、重合形式に特に制限はない。媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、または、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが好ましく用いられる。また、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの形式でもよい。また、リビング重合であってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。さらに、いわゆるchain transfer agent(CSA)を併用し、chain shuttlingや、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
【0123】
未反応モノマーや媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。
リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成共重合体と未反応モノマーおよび媒体との分離には、従来公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
重合温度、重合圧力および重合時間に、特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。すなわち、重合温度は、通常-20℃~290℃、好ましくは0℃~250℃、共重合圧力は、0.1MPa~300MPa、好ましくは、0.3MPa~250MPa、重合時間は、0.1分~10時間、好ましくは、0.5分~7時間、さらに好ましくは1分~6時間の範囲から選ぶことができる。
【0124】
本発明において、重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じてさまざまな供給法をとることができる。たとえばバッチ重合の場合、あらかじめ所定量のモノマーを重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を重合反応器に連続的に、または間歇的に供給し、重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0125】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
重合体の分子量を制御する必要がある場合には、従来公知の方法を使用することができる。すなわち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中のリガンド構造の制御により分子量を制御する等が挙げられる。連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキルなどを使用することができる。
【0126】
特に本発明により得られる極性基含有モノマーとの共重合体は、共重合体の極性基にもとづく効果により、良好な塗装性、印刷性、帯電防止性、無機フィラー分散性、他樹脂との接着性、他樹脂との相溶化能などが発現する。こうした性質を利用して、本発明の共重合体は、さまざまな用途に使用することができる。例えば、フィルム、シート、接着性樹脂、バインダー、相溶化剤、ワックスなどとして使用可能である。
【実施例0127】
以下の実施例および比較例において本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
以下の合成例で、とくに断りのない限り、操作は精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。
また、記載中の略語は以下のとおりである。
nBu:ノルマルブチル基,iBu:イソブチル基,tBu:ターシャリーブチル基
iPr:イソプロピル基,Me:メチル基,Et:エチル基,Ph:フェニル基
OMOM:メトキシメトキシ基(-OCHOCH
AcOH:酢酸,EtOAc:酢酸エチル,THF:テトラヒドロフラン,DMF:ジメチルホルムアミド
dba:ジベンジリデンアセトン
【0128】
1.評価法
(1)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよび分子量分布Mw/Mnは、以下のGPC測定により求めた。
はじめに、試料約20mgをポリマーラボラトリー社製高温GPC用前処理装置PLSP260VS用のバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを含有するo-ジクロロベンゼン(BHT濃度=0.5g/L)を加え、ポリマー濃度が0.1質量%になるように調整した。ポリマーを上記高温GPC用前処理装置PL-SP 260VS中で135℃に加熱して溶解させ、グラスフィルターにて濾過して試料を調製した。なお、本発明におけるGPC測定において、グラスフィルターに捕捉されたポリマーはなかった。次に、カラムとして、東ソー社製TSKgel GMH-HT(30cm×4本)およびRI検出器を装着したウォーターズ社製GPCV 2000を使用してGPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液注入量:約520μL、カラム温度:135℃、溶媒:o-ジクロロベンゼン、流量:1.0mL/minを採用した。分子量の算出は以下のように行った。すなわち、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料およびエチレン系重合体の粘度式から、保持時間と分子量に関する校正曲線を作成し、該校正曲線に基づいて分子量の算出を行った。なお、粘度式としては、[η]=K×Mαを使用し、ポリスチレンに対しては、K=1.38E-4、α=0.70を使用し、プロピレン系重合体に対しては、K=1.03E-4、α=0.78を使用した。
【0129】
(2)共重合体中のコモノマー含量:以下のIR分析により求めた。
SHIMADZU社製FTIR-8700を用いて、熱プレスによってシートにしたサンプルをIR測定することにより、コモノマー含量(mol%)を求めた。その際、アクリル酸エステル(Acrylate)の場合は、1,740cm-1/730-720cm-1の面積比を、以下の式を用いて換算した値である。
[Acrylate]=1.276(面積比)-0.0434
【0130】
2.配位子の合成
(合成例1):配位子B-482の合成
以下のスキームに従って配位子B-482を合成した。
【0131】
【化11】
【0132】
(i)化合物2と4の合成
特開2019-172983に従って合成した。
(ii)化合物5の合成
化合物4(1.0g,3.35mmol)のTHF(20mL)溶液にBuLi(2.5M,1.47mL)を0℃で加え、25℃で2時間撹拌した。-78℃に冷却し30分撹拌した後、この溶液にPCl(1.38g,10.05mmol)を-78℃で加え、25℃で1時間撹拌して黄色懸濁液を得た。溶液を濃縮してオイル状の黄色液体を得た。この混合物を精製することなく、次の反応に用いた。
【0133】
(iii)化合物7の合成
化合物6(5.0g,30.08mmol)のTHF(80mL)溶液にBuLi(2.5M,13.24mL)を-78℃で滴下し、25℃に昇温して2時間撹拌した。
化合物5(6.01g,15.04mmol)のTHF(30mL)溶液を-78℃で滴下し、25℃で14時間撹拌して黄色の懸濁液を得た。BH-MeS(10M,9.02mL)を0℃で滴下し、25℃で16時間撹拌して黄色の懸濁液を得た。溶液を濃縮して黄色固体を得た。黄色固体をヘキサン(40mL)で洗浄し、化合物7(7.0g,7.91mmol,26%)を白色固体として得た。
【0134】
(iv)配位子B-482の合成
化合物7(2.2g,3.27mmol)のジクロロメタン(5mL)溶液にHCl/EtOAc(10M,100mL)を20℃で加え、20℃で2時間撹拌して無色溶液を得た。溶媒を減圧留去した後、NaHCO(100mL)を加えてpH=6.5~7.0に調整し、ジクロロメタン(80mL×2)で抽出し、溶媒を減圧留去すると白色固体を得た。ヘキサン(15mL×2)とEtO(15mL×2)で洗浄し、B-482(0.85g,1.38mmol,42%)を白色固体として得た。得られたB-482のHNMRおよび31PNMRの測定結果を以下に示した。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.84(m,6H),7.42(m,4H),7.32(m,3H),7.25(m,3H),7.11(d,2H),6.85(d,1H),6.50(t,1H),6.44(br,1H),5.87(d,1H),5.21(s,2H),2.14(m,2H),0.979(d,6H),0.896(d,6H)
31PNMR(CDCl,δ,ppm):-24.0(s).
【0135】
(合成例2):配位子B-504の合成
以下のスキームに従って配位子B-504を合成した。
【0136】
【化12】
【0137】
(i)化合物9の合成
化合物8(2.0g,7.13mmol)、HIO(650.22mg,2.85mmol)、I(1.45g,5.71mmol)のAcOH(10mL)溶液にHO(1.28mL,71.31mmol)とHSO(499.60mg,4.99 mmol)を20℃で加え撹拌し、75℃で20時間加熱し、黒色溶液を得た。溶液を氷水に注ぎ、酢酸エチル 150 mL×2)で抽出した。有機層をNaSO溶液と水と食塩水で洗浄し、NaSOで脱水後ろ過を行い、濃縮して鮮やかな黄色のオイルを得た。シリカゲルクロマトグラフィーにより単離し、化合物9(2.2g,4.13mmol,58%)を白色固体として得た。
【0138】
(ii)化合物10の合成
PPh(394.24mg,1.50mmol)とNiCl(PPh(122.91mg,187.89μmol)とZn(368.58mg,5.64mmol)を反応容器に量りとり、DMF(20mL)に加えた。この溶液を70℃で1時間撹拌させ、化合物9(1.0g,1.88 mmol)のDMF(20mL)溶液をゆっくり滴下し、70℃にて24h撹拌させることで黒色懸濁液を得た。更に20℃にて12h撹拌させることで灰色懸濁液に変化した。HCl(1M,30mL)を加え、酢酸エチル(50mL×2)で抽出した。有機層を水と食塩水で洗浄し、NaSOで乾燥させろ過後、溶媒を留去させた。シリカゲルクロマトグラフィーで単離し、化合物10(0.05g,111.34μmol)を淡黄色液体として得た。
【0139】
(iii)化合物11の合成
化合物10(4.0g,14.37mmol)のTHF(50mL)溶液にnBuLi(2.5M,6.32mL)を-78℃で加え、25℃で2時間撹拌した。-78℃に冷却後、化合物5(2.87g,7.18mmol)のTHF(20mL)溶液を滴下し、25℃で12時間撹拌して黄色懸濁液を得た。溶液を濃縮して黄色のオイル状液体を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて単離し、ヘキサン(40mL×2)で洗浄し、化合物11(1.7g,1.92mmol,27%)を白色固体として得た。
【0140】
(iV)配位子B-504の合成
化合物11(1.6g,1.81mmol)のジクロロメタン(1.0mL)溶液にHCl/EtOAc(4M,130mL)を0℃で加え、20℃で2時間撹拌して淡黄色溶液を得た。溶媒を減圧留去後、NaHCO(500mL)を加えてpH=6.5~7.0に調整し、ジクロロメタン(150mL×2)で抽出し、有機層を減圧留去してB-504(1.5 g,1.79mmol,99%)を淡黄色固体として得た。得られたB-502のHNMRおよび31PNMRの測定結果を以下に示した。
HNMR(CDCl,δ,ppm):7.90(s,2H),7.86(s,2H),7.74(br,2H),7.30(m,6H),7.14(d,2H),6.93(d,1H),6.69(m,1H),6.56(t,1H),6.26(d,1H),5.18(s,2H),2.40(m,2H),1.47(s,18H),1.43(s,18H),1.06(d,6H),0.865(d,6H)
31PNMR(CDCl,δ,ppm):-29.0(s).
【0141】
(比較合成例1):配位子B-549の合成
以下のスキームに従って配位子B-549を合成した。
【0142】
【化13】
【0143】
(i)化合物13の合成
化合物12(2.25g,13.29mmol)のTHF(20mL)溶液にnBuLi(2.5M,5.62mL)を0℃で加え、20℃で2.5時間撹拌した。化合物5(5.35g,13.39mmol)のTHF(20mL)溶液に-78℃で滴下し、20℃で2時間撹拌して黄色溶液を得た。この反応溶液を精製することなく、次の反応に用いた。
【0144】
(ii)化合物14の合成
化合物6(2.23g,13.39mmol)のTHF(30mL)溶液にnBuLi(2.5M,5.89mL)を-78℃で加え、20℃で2時間撹拌した。化合物13(7.11g,13.39mmol)のTHF(40mL)溶液を加え、20℃で12時間撹拌して黄色懸濁液を得た。溶液を濃縮してガム状の黄色固体を得た。シリカゲルクロマトグラフィーにて単離し、化合物14(4.85g,7.34mmol,55%)を白色固体として得た。化合物14のHNMRおよび31PNMRの測定結果を以下に示した。
【0145】
(iii)B-549の合成
化合物14(4.65g,7.04mmol)のジクロロメタン(10mL)溶液にHCl/EtOAc(4M,80mL)を0℃で加え、20℃で2時間撹拌して無色溶液を得た。溶媒を減圧留去後、NaHCO(300mL)を加えてpH=6.5~7.0に調整し、ジクロロメタン(100mL)で抽出し、有機層を減圧留去して白色固体を得た。ジクロロメタン/ヘキサン(1:20,10mL)で洗浄し、B-549(3.0g)を得た。得られたB-549のHNMR測定結果を以下に示した。
HNMR(CDCl,δ,ppm):8.12(m,1H),7.82(m,2H),7.34(m,3H),7.21(m,4H),7.06(m,3H),6.75(d,1H),6.73(d,1H),6.20(d,2H),6.02(s,1H),3.88(s,3H),3.81(s,6H),2.73(m,1H),2.55(m,1H),1.17(d,3H),1.08(d,3H),1.06(d,3H),1.00(d,3H)
31PNMR(CDCl,δ,ppm):-49.8(s).
【0146】
(合成例3):配位子X-146の合成
以下のスキームに従って配位子X-146を合成した。
【0147】
【化14】
【0148】
(i)化合物2と4の合成
特開2019-172983に従って合成した。
(ii)化合物5の合成
化合物4(1.0g,3.35mmol)のTHF(20mL)溶液にBuLi(2.5M,1.47mL)を0℃で加え、25℃で2時間撹拌した。-78℃に冷却し30分撹拌した後、この溶液にPCl(1.38g,10.05mmol)を-78℃で加え、25℃で1時間撹拌して黄色懸濁液を得た。溶液を濃縮してオイル状の黄色液体を得た。この混合物を精製することなく、次の反応に用いた。
【0149】
(iii)化合物16の合成
化合物15(6.0g,33.29mmol)のTHF(100mL)溶液にBuLi(2.5M,14.65mL)を-78℃で滴下し、-78℃で2時間撹拌した。
化合物5(6.65g,16.64mmol)のTHF(50mL)溶液を-78℃で滴下し、20℃で16時間撹拌して黄色の懸濁液を得た。反応を水(250mL)でゆっくりクエンチし、酢酸エチル(250mL×3)で抽出し、Na2SO4で乾燥させろ過し、溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィーにて化合物16を白色固体として得た。
【0150】
(iv)配位子X-146の合成
化合物16(700mg,1.02mmol)のジクロロメタン(10mL)溶液にHCl/EtOAc(4M,10.19mL)を0℃で加え、20℃で16時間撹拌して無色溶液を得た。溶媒を減圧留去した後、NaHCO(100mL)を加えてpH=6.5~7.0に調整し、ジクロロメタン(80mL×2)で抽出し、溶媒を減圧留去すると白色固体を得た。ヘキサン(15mL×2)とEtO(15mL×2)で洗浄し、X-146を白色固体として得た。
得られたX-146のHNMRおよび31PNMRの測定結果を以下に示した。
HNMR(CDCl,δ,ppm):0.930(br,12H),2.09(br,2H),3.51(m,2H),3.67(m,2H),4.85(br,1H),6.62(m,1H),6.60-7.09(m,22H).
31PNMR(CDCl,δ,ppm):-27.1(s).
【0151】
3.重合評価
(実施例1):配位子B-482を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体の合成
以下の操作は、全て窒素雰囲気下で行った。以下、ビス-1.5-シクロオクタジエンニッケル(0)をNi(COD)と記載する。
Ni(COD)(70.8mg,0.257mmol)を2口ナスフラスコに秤量し、トルエン(12.85mL)を加えて0.02mmol/mLの溶液とした。このNi(COD)のトルエン溶液6.95mLを、合成例1で得られたB-482(85.8mg,0.139mmol)の入った2口ナスフラスコに加え、室温で30分撹拌した。
反応溶液の色が黄色から橙色に変化した。B-482とNi(COD)の反応生成物((B-482)Ni((1,4,5-η)-COE))の0.02mmol/mL溶液を得た。ここで、反応生成物の濃度は、B-482とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0152】
(ii)プロピレンのホモ重合
内容積2Lの誘導撹拌式オートクレーブに、トリ-n-オクチルアルミニウム(0.1mmol)を導入した。プロピレン(500mL)をオートクレーブに供給した後、上記(i)で得られたB-482とNi(COD)の反応生成物0.02mmol/mL溶液(5.0mL)を供給し、撹拌しながらオートクレーブを50℃に昇温し、重合を開始させた。1時間重合させた後、残留したプロピレンを除去して反応を停止させた。その後オートクレーブを開放し、重合体を得た。重合結果は表5に記載した。また、活性は、重合に用いた錯体1molあたりの重合体収量(g)を表す。得られた重合体に関するGPCの結果についても表5に記載した。なお、活性は配位子B-482とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0153】
(実施例2):配位子B-504を用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体の合成
配位子として合成例2で得られたB-504(87.4mg,0.104mmol)を用いて、Ni(COD)のトルエン溶液(0.02mmol/mL)を5.2mL用いた以外は、実施例1(i)と同様に錯体の合成を行い、B-504とNi(COD)の反応生成物((B-504)Ni((1,4,5-η)-COE))の0.02mmol/mL溶液を得た。ここで、反応生成物の濃度は、B-504とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0154】
(ii)プロピレンのホモ重合
B-482とNi(COD)の反応生成物0.02mmol/mL溶液の代わりに、上記(i)で得られたB-504とNi(COD)の反応生成物((B-504)Ni((1,4,5-η)-COE))0.02mmol/mL溶液を5.2mL用いた以外は、実施例1(ii)と同様に重合を行った。結果を表5に示す。なお、活性は配位子B-504とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0155】
(実施例3):配位子B-482を用いたプロピレンと10-ウンデセン酸エチルの共重合
(i)金属錯体の合成
配位子として合成例1で得られたB-482(80.2mg,0.130mmol)を用いて、Ni(COD)のトルエン溶液(0.02mmol/mL)を6.5mL用いた以外は、実施例1(i)と同様に錯体の合成を行い、B-482とNi(COD)の反応生成物((B-482)Ni((1,4,5-η)-COE))の0.02mmol/mL溶液を得た。ここで、反応生成物の濃度は、B-482とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0156】
(ii)プロピレンと10-ウンデセン酸エチルの共重合
上記(i)で得られたB-482とNi(COD)の反応生成物((B-482)Ni((1,4,5-η)-COE))0.02mmol/mL溶液を5.0mLとさらに10-ウンデセン酸エチル(12mL,50mmol)を用いた以外は、実施例1(ii)と同様に重合を行った。結果を表5に示す。なお、活性は配位子B-482とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0157】
(比較例1):配位子B-549を用いたプロピレンのホモ重合
(i)比較金属錯体の合成
配位子として比較合成例1で得られたB-549(51.6mg,0.187mmol)を用いて、Ni(COD)のトルエン溶液(0.02mmol/mL)を9.35mL用いた以外は、実施例1と同様にして錯体の合成を行い、B-549とNi(COD)の反応生成物((B-549)Ni((1,4,5-η)-COE))の0.02mmol/mL溶液を得た。ここで、反応生成物の濃度は、B-549とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0158】
(ii)プロピレンのホモ重合
上記(i)で得られたB-549とNi(COD)の反応生成物((B-549)Ni((1,4,5-η)-COE))(0.02mmol/mL)溶液を5.0mL用いた以外は、実施例1(ii)と同様に重合を行った。結果を表5に示す。なお、活性は配位子B-549とNi(COD)が1対1で反応してニッケル錯体を形成しているとして計算した。
【0159】
(実施例4):(B-482)NiMePyを用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体の合成
以下のスキームに従って(B―482)NiMePyを合成した。
【0160】
【化15】
【0161】
全ての作業は窒素雰囲気下で実施した。また、脱水溶媒を使用した。100mLの二口ナスフラスコに、塩化ニッケル六水和物(0.51g,2.1mmol)を入れ、室温でピリジン(2.0mL,25.8mmol)を加え、40℃で30分攪拌した。反応物は緑色からターコイズ色に瞬間的に変わった。その後、反応物の揮発成分を減圧下で留去しNiClPyを得た。そこに、トルエン/THF溶液(9/1vol%,20mL)、ピリジン(1.0mL,12.9mmol)を加え、0℃で15分間攪拌し、スラリー溶液を調製した。そこに、メチルリチウムのジエチルエーテル溶液(1.09mol/L,3.9mL,4.3mmol)をゆっくりと加えた。溶液は、黄褐色を経て赤褐色に変化した。その後、速やかに、0℃にてB-482(902.9mg,1.47mmol)のトルエン溶液(20mL)をキャニュラー経由で滴下し、40℃に昇温し1時間攪拌した。反応溶液は赤褐色のままで、色相は若干薄くなった。その後、反応溶液はセライトでろ過し、ろ液を濃縮した。そこにヘキサン(10mL)を加え、0℃まで冷却し、析出した固形分を回収した。その後、得られた固形分はトルエン(30mL)に再溶解し、不溶分をろ過し、ろ液を濃縮することで(B-482)NiMePy(0.518g,収率45%)を得た。
得られた(B-482)NiMePyのHNMRおよび31PNMRの測定結果を以下に示した。
HNMR(C,23℃,δ):-1.23(d,J=5.40Hz,3H),0.93(br,6H),1.12(br,6H),2.38-2.85(br,2H),5.20(s,1H),5.23(s,1H),6.07(t,J=7.83Hz,1H),6.18(t,J=7.02Hz,1H),6.47-6.63(br,1H),6.86(d,J=7.55Hz,1H),7.11-7.35(m,19H),7.65-7.74(br,4H).
31PNMR(C,23℃,δ):42.6(s,1P).
【0162】
得られた(B-482)NiMePy(76.5mg,0.100mmol)の入った2口ナスフラスコにトルエン(8mL)を加え、室温で30分間撹拌し、(B-482)NiMePyのトルエン溶液0.0125mmol/mLを調製した。
【0163】
(ii)プロピレンのホモ重合
B-482とNi(COD)の反応生成物0.02mmol/mL溶液の代わりに、上記(i)で得られた(B-482)NiMePyのトルエン溶液を8.0mL用いた以外は、実施例1(ii)と同様に重合を行った。結果を表6に示す。
【0164】
(実施例5):(X-146)NiMePyを用いたプロピレンのホモ重合
(i)金属錯体の合成
以下のスキームに従って(X-146)NiMePyを合成した。
【0165】
【化16】
【0166】
全ての作業は窒素雰囲気下で実施した。また、脱水溶媒を使用した。100mLの二口ナスフラスコに、塩化ニッケル六水和物(0.51g,2.1mmol)を入れ、室温でピリジン(2.0mL,25.8mmol)を加え、40℃で30分攪拌した。反応物は緑色からターコイズ色に瞬間的に変わった。その後、反応物の揮発成分を減圧下で留去しNiClPyを得た。そこに、トルエン/THF溶液(9/1vol%,20mL)、ピリジン(1.0mL,12.9mmol)を加え、0℃で15分間攪拌し、スラリー溶液を調製した。そこに、メチルリチウムのジエチルエーテル溶液(1.09mol/L,3.9mL,4.3mmol)をゆっくりと加えた。溶液は、黄褐色を経て赤褐色に変化した。その後、速やかに、0℃にてX-146(944.1mg,1.47mmol)のトルエン溶液(20mL)をキャニュラー経由で滴下し、40℃に昇温し1時間攪拌した。反応溶液は赤褐色のままで、色相は若干薄くなった。その後、反応溶液はセライトでろ過し、ろ液を濃縮した。そこにヘキサン(10mL)を加え、0℃まで冷却し、析出した固形分を回収した。その後、得られた固形分はトルエン(30mL)に再溶解し、不溶分をろ過し、ろ液を濃縮することで(X-146)NiMePy(0.435g,収率35%)を得た。
得られた(X-146)NiMePyのHNMRおよび31PNMRの測定結果を以下に示した。
HNMR(C,23℃,δ):-1.11(d,J=4.30Hz,3H),0.99(d,J=7.00Hz,6H),1.20(d,J=7.00Hz,6H),2.51-2.61(m,2H),3.67(s,1H),3.72(s,1H),5.03(d,J=6.86Hz,1H),5.07(d,J=6.86Hz,1H),5.18(s,1H),5.21(s,1H),6.04(t,J=7.44Hz,1H),6.19(t,J=7.35Hz,1H),6.86(d,J=6.69Hz,1H),7.04-7.35(m,22H),7.64(br,2H).
31PNMR(C,23℃,δ):43.6(s,1P).
【0167】
得られた(X-146)NiMePy(83.7mg,0.100mmol)を用いた以外は、実施例4(i)と同様に錯体溶液の調製を行った。
【0168】
(ii)プロピレンのホモ重合
B-482とNi(COD)の反応生成物0.02mmol/mL溶液の代わりに、上記(i)で得られた(X-146)NiMePyのトルエン溶液を8.0mL用いた以外は、実施例1(ii)と同様に重合を行った。結果を表6に示す。
【0169】
【表5】
【0170】
【表6】
【0171】
4.考察
上記表5の比較例1から分かるように、従来の錯体(比較例1)を用いたポリプロピレン重合では、得られる重合体の分子量Mwは2,000と小さい。これに対し、上記表5の実施例1~実施例2から分かるように、本発明の金属錯体(実施例1~実施例2)を用いたポリプロピレン重合では、重合活性が1.4×10(g/mol/hr)以上と高く、得られる重合体の分子量Mwは10,000以上と大きい。
さらに、実施例3から分かるように、本発明の金属錯体を用いると、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして10-ウンデセン酸エチルをコモノマーに用いた共重合においても、7.1×10と重合活性も高く、得られる共重合体の分子量Mwは10,000以上とプロピレンのホモ重合と同様に大きい。
また、上記表6から、遷移金属化合物の種類を変更した本発明の金属錯体を用いた実施例4および5においても、得られる重合体の分子量Mwは10,000以上と大きい。
このように、遷移金属と反応し得るE上に2つの縮合多環式炭化水素基を有し、且つ遷移金属と反応し得るXのオルト位(R)に特定の置換基を有する配位子を用いた本発明の金属錯体は、E上に1つの縮合多環式炭化水素基しか有しない配位子を用いた場合(比較例1)と比較して、著しく高分子量のポリプロピレンが得られることが示された。
以上より、本発明の金属錯体は、従来よりも高分子量のオレフィン単独重合体が高い活性で得られ、優れた技術的意義を持つことが明らかである。