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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159190
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C11B 3/00 20060101AFI20221006BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20221006BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20221006BHJP
   A23L 33/115 20160101ALN20221006BHJP
【FI】
C11B3/00
A23D9/00 506
A23D7/01
A23L33/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058140
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021062788
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東方 和也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勝義
【テーマコード(参考)】
4B018
4B026
4H059
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD10
4B018MD14
4B018MD90
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF14
4B026DC05
4B026DC06
4B026DG01
4B026DG04
4B026DG11
4B026DG12
4B026DG20
4B026DH05
4B026DH10
4B026DK01
4B026DL09
4B026DP01
4B026DP10
4H059BB05
4H059BB07
4H059BC03
4H059BC13
4H059CA05
4H059CA24
4H059CA33
4H059CA48
(57)【要約】
【課題】膵リパーゼによって、油脂中のエイコサペンタエン酸は加水分解され易く、飽和脂肪酸は加水分解され難い油脂組成物の提供。
【解決手段】油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が15~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(1);
X×0.6+Y>60 (1)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が15~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(1);
X×0.6+Y>60 (1)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物。
【請求項2】
油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量が15質量%以下である請求項1記載の油脂組成物。
【請求項3】
油脂中のモノアシルグリセロールの含有量が15質量%以下である請求項1又は2記載の油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エイコサペンタエン酸(C20:5、EPA)は、5個の二重結合をもつ炭素数20の直鎖高度不飽和脂肪酸である。エイコサペンタエン酸は、生理活性物質のプロスタグランジンやトロンボキサンA3の前駆体といわれ、ドコサヘキサエン酸(C22:6、DHA)と共に魚油や鯨油中にアシルグリセロールとして存在する。
エイコサペンタエン酸の生理作用として、抗炎症作用、血小板凝集抑制作用等が報告されている。また、エイコサペンタエン酸のがん悪液質の改善作用が報告され、例えば、脂肪酸油混合物の重量に対して少なくとも50重量%のEPA及びDHAから選ばれる少なくとも1種の脂肪酸を含む脂肪酸油混合物を含む組成物であって、脂肪酸油混合物の脂肪酸の少なくとも15重量%がモノアシルグリセリドの形態にある悪液質の治療及び/又は予防処置のための組成物が提案されている(特許文献1)。
【0003】
通常、食事として摂取した脂質の消化・吸収は小腸で行われる。脂質は、先ず胆汁酸により乳化される。その後、アシルグリセロールは膵臓から分泌される膵リパーゼにより加水分解を受け脂肪酸を遊離する。遊離した脂肪酸は、小腸粘膜上皮細胞に吸収された後、リン脂質やトリアシルグリセロール等に再合成され血中を運搬されるか、或いは下部消化管において生理作用を示す。
従って、膵リパーゼによる加水分解を受け、油脂からエイコサペンタエン酸が遊離することが当該脂肪酸の生理作用を得る上で重要であると考えられる。しかしながら、膵リパーゼのエイコサペンタエン酸エステルに対する加水分解作用は小さく、油脂中のエイコサペンタエン酸は加水分解され難いことが報告されている(非特許文献1)。一方、非特許文献1によれば、炭素数14、16及び18の飽和脂肪酸は、エイコサペンタエン酸に比べて膵リパーゼにより加水分解され易い脂肪酸である。そのため、消化過程において、油脂の膵リパーゼによる加水分解の際には飽和脂肪酸が多く遊離してしまうが、飽和脂肪酸は遊離状態では炎症作用により膵臓機能障害等の慢性疾患を引き起こすことが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2020-503388号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Food Chem., 2014 160: 61-66
【非特許文献2】Cell Metabolism, 2012 15: 518-533
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、膵リパーゼによって、油脂中のエイコサペンタエン酸は加水分解され易く、飽和脂肪酸は加水分解され難い油脂組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、小腸内での消化を考慮した消化モデル試験系を用い、油脂中の脂肪酸の分解・放出挙動を検討した。その結果、油脂中にジアシルグリセロールと、ジアシルグリセロール中にエイコサペンタエン酸を所定量ずつ含有し、ジアシルグリセロールとエイコサペンタエン酸について、両者が一定の関係を満たす場合に、膵リパーゼによる加水分解の際、油脂中のエイコサペンタエン酸は加水分解され易いこと、及び飽和脂肪酸の加水分解は抑えられることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が15~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(1);
X×0.6+Y>60 (1)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、膵リパーゼによって、油脂中のエイコサペンタエン酸は加水分解され易く、飽和脂肪酸は加水分解され難い油脂組成物を提供することができる。本発明の油脂組成物は、消化過程において、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量が多く、且つ飽和脂肪酸量は少ないため、飽和脂肪酸の影響を回避しながら、エイコサペンタエン酸の生理作用を生体内で発揮させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の油脂組成物は、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%であり、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が15~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(1);
X×0.6+Y>60 (1)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)の関係を満たす。
【0011】
本発明において、油脂組成物中の油脂の含有量は、使用性の点から、好ましくは90質量%(以下、単に「%」とする)以上、より好ましくは95%以上であり、また、好ましくは100%以下、より好ましくは99.9%以下である。
油脂組成物中の油脂の含有量は、好ましくは90~100%であり、より好ましくは95~99.9%である。
本発明において、油脂は、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール及びトリアシルグリセロールのいずれか1種以上を含むものである。油脂の種類に特に制限はなく、食用油脂として使用できるものであれば何れでもよい。
【0012】
本発明において、油脂中のジアシルグリセロールの含有量は60~100%である。油脂中のジアシルグリセロールの含有量は、膵リパーゼによる加水分解の際に、油脂中の飽和脂肪酸が多く加水分解されることを抑制する点、及び生理効果の点から、60%以上であって、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上であり、また、油脂の工業的生産性の点から、100%以下であって、好ましくは99.5%以下、より好ましくは98%以下、更に好ましくは95%以下、更に好ましくは90%以下である。
油脂中のジアシルグリセロールの含有量は、60~100%であって、好ましくは60~99.5%、より好ましくは60~98%、更に好ましくは70~95%、更に好ましくは70~90%、更に好ましくは80~90%である。
【0013】
本発明において、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は15~99%である。ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は、膵リパーゼによる加水分解の際に、油脂中の飽和脂肪酸が多く加水分解されることを抑制する点、生理効果の点から、15%以上であって、好ましくは18%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上、更に好ましくは40%以上、更に好ましくは45%以上であり、また、酸化安定性の点から、99%以下であって、好ましくは98%以下、より好ましくは95%以下である。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は、15~99%であって、好ましくは18~99%、より好ましくは20~99%、更に好ましくは25~99%、更に好ましくは30~99%、更に好ましくは40~98%、更に好ましくは45~98%、更に好ましくは45~95%である。
なお、本明細書における脂肪酸量は遊離脂肪酸換算量である。
【0014】
ジアシルグリセロールを構成するエイコサペンタエン酸以外の構成脂肪酸としては、特に限定されず、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
油脂の風味・工業的生産性の点からは、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは60~100%、より好ましくは70~99.8%、更に好ましくは80~99.5%である。不飽和脂肪酸の炭素数は、生理効果の点から、好ましくは14~24、より好ましくは16~22である。
なかでも、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のリノール酸(C18:2)の含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは0.4%以上、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは1%以上、更に好ましくは1.5%以上であり、また、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0015】
また、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のオレイン酸(C18:1)の含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上、更に好ましくは7%以上、更に好ましくは10%以上であり、また、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下である。
【0016】
また、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のドコサヘキサエン酸(C22:6)の含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは0.3%以上、より好ましくは3%以上、更に好ましくは4%以上、更に好ましくは5%以上であり、また、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下である。
【0017】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは15%以下、より好ましくは12%以下、更に好ましくは10%以下であり、また、好ましくは0.5%以上である。
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、好ましくは0~15%、より好ましくは0.5~12%、更に好ましくは0.5~10%である。
本明細書において、飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは14~24、より好ましくは16~22である。
【0018】
本発明においては、ジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(1);
X×0.6+Y>60 (1)
を満たす。ここで、式(1)中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。
油脂中にジアシルグリセロールと、ジアシルグリセロール中にエイコサペンタエン酸を所定量ずつ含有した上で、式(1)を満たすとき、膵リパーゼによって、油脂中のエイコサペンタエン酸は加水分解され易いのに対して飽和脂肪酸の加水分解は抑えられるため、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量は多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくなる。
【0019】
本発明においては、膵リパーゼによる加水分解の際に、油脂中の飽和脂肪酸が多く加水分解されることを抑制する点、生理効果の点から、ジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが、下記式(2)の関係を満たすことが好ましく、下記式(3)の関係を満たすことがより好ましく、下記式(4)の関係を満たすことが更に好ましく、下記式(5)の関係を満たすことが更に好ましく、下記式(6)の関係を満たすことが更に好ましい。
【0020】
X×0.6+Y>62 (2)
X×0.6+Y>65 (3)
X×0.6+Y>70 (4)
X×0.6+Y>75 (5)
X×0.6+Y>80 (6)
(式中、X及びYは前記と同義である。)
【0021】
本発明の油脂は、トリアシルグリセロールを含有してもよい。油脂中のトリアシルグリセロールの含有量は、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、更に好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上であり、また、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下である。
油脂中のトリアシルグリセロールの含有量は、好ましくは1~35%、より好ましくは2~30%、更に好ましくは5~25%、更に好ましくは10~20%である。
【0022】
油脂中のモノアシルグリセロールの含有量は、風味、油脂の工業的生産性、及び酸化安定性の点から、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、更に好ましくは1.5%以下であり、また、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上である。油脂中のモノアシルグリセロールの含有量は、0%でもよい。
油脂中のモノアシルグリセロールの含有量は、好ましくは0~15%、より好ましくは0~10%、更に好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%、更に好ましくは0.1~2%、更に好ましくは0.1~1.5%である。
【0023】
油脂中の遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、風味、酸化安定性の点から、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下であり、また、好ましくは0%超である。油脂中の遊離脂肪酸又はその塩の含有量は、0%でもよい。
【0024】
本発明において、油脂を構成する脂肪酸は、前述したジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の組成と同じであっても異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
油脂を構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量は、好ましくは15~99%であり、より好ましくは15~98%、更に好ましくは18~98%、更に好ましくは20~98%、更に好ましくは25~97%、更に好ましくは30~95%、更に好ましくは40~95%、更に好ましくは45~95%、更に好ましくは45~90%である。
また、油脂を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは60~100%、より好ましくは70~99.8%、更に好ましくは80~99.5%である。
【0025】
また、油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点から、好ましくは15%以下であり、より好ましくは12%以下、更に好ましくは10%以下であり、また、好ましくは0.5%以上である。
油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量は、好ましくは0~15%、より好ましくは0.5~12%、更に好ましくは0.5~10%である。
【0026】
本発明の油脂組成物は、酸化安定性の点から、抗酸化剤を含有することが好ましい。
油脂組成物中の抗酸化剤の含有量は、風味、酸化安定性、着色抑制等の点から、好ましくは0.005%以上、3%以下、より好ましくは0.04%以上、2%以下、更に好ましくは0.08%以上、1%以下、更に好ましくは0.2%以上、0.8%以下である。
抗酸化剤としては、食品に使用するものであれば特に制限はないが、天然抗酸化剤、レシチン、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及びブチルヒドロキシアニソール(BHA)等から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0027】
本発明の油脂組成物は、構成脂肪酸中にエイコサペンタエン酸を含むジアシルグリセロール含有油脂から調製することができる。必要に応じて通常の食用油脂を配合してもよい。
【0028】
構成脂肪酸中にエイコサペンタエン酸を含むジアシルグリセロール含有油脂は、油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応(グリセロリシス)等により得ることができる。
エステル化反応とグリセロリシス反応は、アルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド等の化学触媒を用いる化学法と、リパーゼ等の酵素を用いる酵素法とに大別される。
なかでも、脂肪酸組成を制御する点から、後述する油脂由来の分別脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応が好ましい。
【0029】
本発明において、油脂(食用油脂)は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、米油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、ハトムギ油、小麦胚芽油、シソ油、アマニ油、エゴマ油、チアシード油、サチャインチ油、クルミ油、キウイ種子油、サルビア種子油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、椿油、茶実油、ボラージ油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、やし油、パーム核油、カカオ脂、サル脂、シア脂、藻油等の植物性油脂;魚油、アザラシ油、鯨油、ラード、牛脂、バター脂等の動物性油脂;あるいはそれらのエステル交換油、水素添加油、分別油等の油脂類を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
油脂由来の脂肪酸は、油脂を加水分解して得ることができる。油脂を加水分解する方法としては、高温高圧分解法と酵素分解法が挙げられる。高温高圧分解法とは、油脂に水を加えて、高温、高圧の条件で反応することにより、脂肪酸とグリセリンを得る方法である。また、酵素分解法とは、油脂に水を加えて、油脂加水分解酵素を触媒として用い、低温の条件で反応することにより、脂肪酸とグリセリンを得る方法である。
加水分解反応は、常法に従って行うことができる。
【0031】
油脂の加水分解後は、加水分解反応物を分別して固体を除去することが好ましい。分別方法としては、溶剤分別法、自然分別法(ドライ分別法)、湿潤剤分別法が挙げられる。
析出した固体の除去手段としては、静置分離、濾過、遠心分離、脂肪酸に湿潤剤水溶液を混合し分離する方法等が挙げられる。
【0032】
油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応は、酵素法により温和な条件で行うのが風味等の点で優れており好ましい。
酵素の使用量は、酵素の活性を考慮して適宜決定することができるが、反応速度を向上する点から、固定化酵素を使用する場合は、エステル化反応原料の合計質量に対して、好ましくは1~30%、より好ましくは2~20%である。
エステル化反応の反応温度は、反応速度を向上する点、酵素の失活を抑制する点から、好ましくは0~100℃、より好ましくは20~80℃、更に好ましくは30~60℃である。また、反応時間は、油脂の工業的な生産性の点から、好ましくは15時間以内、より好ましくは1~12時間、更に好ましくは2~10時間である。
脂肪酸とグリセリンとの接触手段としては、浸漬、攪拌、固定化リパーゼを充填したカラムにポンプ等で通液する方法等が挙げられる。
【0033】
エステル化反応の後は、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的には、蒸留処理、酸処理、水洗、脱色、脱臭等の工程を挙げることができる。
【0034】
後掲の実施例に示すとおり、本発明の油脂組成物は、膵リパーゼによって、油脂中のエイコサペンタエン酸は加水分解され易いのに対して飽和脂肪酸の加水分解は抑えられるため、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量は多く、且つ飽和脂肪酸量は少ない。
本発明の油脂組成物において、実施例に記載のin vitro消化モデル試験により生成する遊離飽和脂肪酸の量に対する遊離エイコサペンタエン酸の量の比(遊離EPA/遊離SFA)は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは1.8以上、更に好ましくは2.5以上である。
【0035】
本発明の油脂組成物は、一般の食用油脂と同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食品や飼料に応用することができる。飲食品としては、通常の飲食品の他、例えば、エイコサペンタエン酸やジアシルグリセロールの生理効果を標榜した特定保健用食品、機能性表示食品等が挙げられる。
飲食品の形態としては、固形、半固形又は液状であり得、例えば、飲料、油中水型油脂含有食品、水中油型油脂含有食品、ベーカリー食品、菓子、冷凍食品、レトルト食品、さらには、錠剤、カプセル剤、トローチ剤等の栄養補給用組成物が挙げられる。
飼料としては、牛、豚等に用いる家畜用飼料、ウサギ、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫等に用いるペットフード等が挙げられる。
【0036】
本発明の油脂組成物は、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量を多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくする点、生理効果の点から、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が18~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(3);
X×0.6+Y>65 (3)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物であることが好ましい。
【0037】
本発明の油脂組成物は、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量を多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくする点、生理効果の点から、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が18~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(3);
X×0.6+Y>65 (3)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たし、油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量が0.5~10質量%である油脂組成物であることが好ましい。
【0038】
本発明の油脂組成物は、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量を多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくする点、生理効果の点、油脂の工業的生産性の点から、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量が80~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が18~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(3);
X×0.6+Y>65 (3)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物であることが好ましい。
【0039】
本発明の油脂組成物は、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量を多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくする点、生理効果の点、油脂の工業的生産性の点から、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、油脂中のモノアシルグリセロールの含有量が0.1~10質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が18~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(3);
X×0.6+Y>65 (3)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物であることが好ましい。
【0040】
本発明の油脂組成物は、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量を多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくする点、生理効果の点から、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が70~99.5質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が45~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(6);
X×0.6+Y>80 (6)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物であることが好ましい。
【0041】
本発明の油脂組成物は、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量を多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくする点、生理効果の点から、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が70~99.5質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が45~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(6);
X×0.6+Y>80 (6)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たし、油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量が0.5~10質量%である油脂組成物であることが好ましい。
【0042】
本発明の油脂組成物は、油脂から遊離するエイコサペンタエン酸量を多く、且つ飽和脂肪酸量は少なくする点、生理効果の点、油脂の工業的生産性の点から、油脂中のジアシルグリセロールの含有量が70~99.5質量%、油脂中のモノアシルグリセロールの含有量が0.1~10質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が45~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(6);
X×0.6+Y>80 (6)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物であることが好ましい。
【0043】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の油脂組成物を更に開示する。
【0044】
<1>油脂中のジアシルグリセロールの含有量が60~100質量%、ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が15~99質量%であり、且つジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが下記式(1);
X×0.6+Y>60 (1)
(式中、Xは油脂中のジアシルグリセロールの含有量(質量%)を示し、Yはジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量(質量%)を示す。)
の関係を満たす油脂組成物。
【0045】
<2>油脂組成物中の油脂の含有量が、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下、より好ましくは99.9質量%以下であり、また、好ましくは90~100質量%、より好ましくは95~99.9質量%である<1>に記載の油脂組成物。
<3>油脂中のジアシルグリセロールの含有量が、60質量%以上であって、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、また、100質量%以下であって、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下であり、また、60~100質量%であって、好ましくは60~99.5質量%、より好ましくは60~98質量%、更に好ましくは70~95質量%、更に好ましくは70~90質量%、更に好ましくは80~90質量%である<1>又は<2>に記載の油脂組成物。
<4>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が、15質量%以上であって、好ましくは18質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、更に好ましくは45質量%以上であり、また、99質量%以下であって、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下であり、また、15~99質量%であって、好ましくは18~99質量%、より好ましくは20~99質量%、更に好ましくは25~99質量%、更に好ましくは30~99質量%、更に好ましくは40~98質量%、更に好ましくは45~98質量%、更に好ましくは45~95質量%である<1>~<3>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<5>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量が、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~99.8質量%、更に好ましくは80~99.5質量%である<1>~<4>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<6>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のリノール酸の含有量が、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、また、好ましくは0.4~30質量%、より好ましくは0.5~30質量%、更に好ましくは1~20質量%、更に好ましくは1.5~10質量%である<1>~<5>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<7>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のオレイン酸の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であり、また、好ましくは1~30質量%、より好ましくは5~30質量%、更に好ましくは7~25質量%、更に好ましくは10~20質量%である<1>~<6>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<8>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中のドコサヘキサエン酸の含有量が、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であり、また、好ましくは0.3~40質量%、より好ましくは3~40質量%、更に好ましくは4~30質量%、更に好ましくは5~25質量%、更に好ましくは5~20質量%である<1>~<7>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<9>ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量が、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、また、好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0.5~12質量%、更に好ましくは0.5~10質量%である<1>~<8>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<10>ジアシルグリセロールの含有量(X)とエイコサペンタエン酸の含有量(Y)とが、好ましくは下記式(2)の関係を満たし、より好ましくは下記式(3)の関係を満たし、更に好ましくは下記式(4)の関係を満たし、更に好ましくは下記式(5)の関係を満たし、更に好ましくは下記式(6)の関係を満たす、<1>~<9>のいずれか1に記載の油脂組成物。
X×0.6+Y>62 (2)
X×0.6+Y>65 (3)
X×0.6+Y>70 (4)
X×0.6+Y>75 (5)
X×0.6+Y>80 (6)
(式中、X及びYは前記と同義である)。
<11>油脂中のトリアシルグリセロールの含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であり、また、好ましくは1~35質量%、より好ましくは2~30質量%、更に好ましくは5~25質量%、更に好ましくは10~20質量%である<1>~<10>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<12>油脂中のモノアシルグリセロールの含有量が、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下であり、また、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0~10質量%、更に好ましくは0~5質量%、更に好ましくは0.1~3質量%、更に好ましくは0.1~2質量%、更に好ましくは0.1~1.5質量%である<1>~<11>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<13>油脂中の遊離脂肪酸又はその塩の含有量が、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、また、好ましくは0質量%超である<1>~<12>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<14>油脂を構成する脂肪酸中のエイコサペンタエン酸の含有量が、好ましくは15~99質量%、より好ましくは15~98質量%、更に好ましくは18~98質量%、更に好ましくは20~98質量%、更に好ましくは25~97質量%、更に好ましくは30~95質量%、更に好ましくは40~95質量%、更に好ましくは45~95質量%、更に好ましくは45~90質量%である<1>~<13>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<15>油脂を構成する脂肪酸中の不飽和脂肪酸の含有量が、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~99.8質量%、更に好ましくは80~99.5質量%である<1>~<14>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<16>油脂を構成する脂肪酸中の飽和脂肪酸の合計含有量が、好ましくは15質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、また、好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは0~15質量%、より好ましくは0.5~12質量%、更に好ましくは0.5~10質量%である<1>~<15>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<17>更に抗酸化剤を含有する<1>~<16>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<18>好ましくは油脂由来の分別脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応油を含有する<1>~<17>のいずれか1に記載の油脂組成物。
<19>分別脂肪酸が、好ましくは藻油、魚油、アザラシ油及び鯨油から選ばれる少なくとも1種の油脂に由来する<18>に記載の油脂組成物。
<20><1>~<19>のいずれか1に記載の油脂組成物を含有する飲食品。
<21><1>~<19>のいずれか1に記載の油脂組成物を含有する飼料。
【実施例0046】
〔分析方法〕
(i)油脂のグリセリド組成
油脂をクロロホルム/メタノール(1/9)混合溶媒を用いて1mg/mlとなるように溶解し、メタノールで10倍希釈後、補正用の標準サンプルと共に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供して分析した。
<標準サンプル>
(1)ジアシルグリセロール用:トリオレイン/ジオレイン/モノオレイン=5/80/15
(重量比)
(2)トリアシルグリセロール用:トリオレイン/ジオレイン/モノオレイン=90/5/5(重量比)
<HPLC分析条件>
(条件)
装置:UHPLC(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
カラム:L-カラム C8(2.1×35mm×5μm)(化学物質評価研究機構製)
カラム温度:40℃
サンプル注入量:10μL
流速:0.5mL/min
移動相:(A)水/アセトニトリル=9/1 (B)イソプロパノール
【0047】
【表1】
【0048】
検出器:CAD(荷電化粒子検出器)
【0049】
(ii)油脂の構成脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.-1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られた油脂サンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f-96(GLC法)に準拠して測定した。
<GLC分析条件>
装置:アジレント7890B(アジレントテクノロジー社製)
カラム:CP-SIL88 50m×0.25mm×0.2μm(Agilent J&W社製)
キャリアガス:1.0mL He/min
インジェクター:Split(1:50)、T=300℃
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:150℃5min保持→1℃/min昇温→160℃5min保持→2℃/min昇温→200℃10min保持→10℃/min昇温→220℃5min保持
【0050】
実施例1~8及び比較例1~5
〔油脂組成物の調製〕
(1)表2に示す油脂a~油脂jを用意した。
【0051】
【表2】
【0052】
油脂a:EPA-45RTG油(日本水産社製)を酵素により加水分解して得た脂肪酸100質量部とグリセリン50質量部とを混合し、イオン交換樹脂に固定化した1,3位選択リパーゼ(ノボザイム社製)を触媒としてエステル化反応後、固定化酵素を濾別した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによりジアシルグリセロールを分画することで油脂aを得た。
油脂b:油脂a製造時のエステル化反応終了品を分子蒸留し、酸処理及び水洗を行い、処理油を得た。処理油を脱臭して油脂bを得た。
油脂c:大豆油を酵素により加水分解して得た脂肪酸455質量部、菜種油を酵素により加水分解して得た脂肪酸195質量部及びグリセリン107質量部を混合し、イオン交換樹脂に固定化した1,3位選択リパーゼ(ノボザイム社製)を触媒としてエステル化反応を行った。固定化酵素を濾別後、酸処理及び水洗を行い、処理油を得た。処理油を脱臭して油脂cを得た。
油脂d:油脂a製造時のシリカゲルカラムクロマトグラフィー精製において、トリアシルグリセロールを分画することで油脂dを得た。
油脂e:EPA-45RTG油(日本水産社製)を用いた。
油脂f:菜種油(日清オイリオ社製)を用いた。
油脂g:EPA(Combi-Blocks社製)100質量部とグリセリン50質量部をヘキサン溶媒中で混合し、イオン交換樹脂に固定化した1,3位選択リパーゼ(ノボザイム社製)を触媒としてエステル化反応後、固定化酵素を濾別した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによりジアシルグリセロールを分画することで油脂gを得た。
油脂h:DDオイルタイプ2(日本水産社製)を用いた。
油脂i:life’s Omega 60(DSM社製)を用いた。
油脂j:純製ラードを用いた。本油脂は油脂gに飽和脂肪酸を一定以上含有させることを目的に使用しているため、一般的なラードと代替可能である。
【0053】
(2)油脂a~油脂jを表3に示す割合で混合し、油脂組成物を得た。油脂組成物のグリセリド組成及び脂肪酸組成を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
〔in vitro消化モデル試験〕
上記で調製した油脂組成物10mgを25mL遠沈管に入れ、0.5M Tris-HCl buffer(pH7.7)100mLへCaCl2・2H2O(Sigma-Aldrich製)180mg、0.01%タウロコール酸ナトリウム(関東化学製)10mgを溶解させた胆汁酸溶液3mLを加え、34℃に調温した。34℃になったことを確認後、超音波ホモジナイズに2分間かけて胆汁酸ミセルを調製した。胆汁酸ミセルへコリパーゼ(Sigma-Aldrich製・Colipase from porcine pancreas, essentially salt-free,lyophilized powder)6μg、ブタ膵臓由来リパーゼ(Sigma-Aldrich製・Lipase from porcine pancreas, Type VI-S,>=20,000units/mg protein,lyophilized powder)2000Uを加え撹拌後、試験管へ500μLずつ分注した。37℃の恒温槽で振盪させた後、20分後に0.5M HCl100μLを添加し、反応を停止させた。クロロホルム/メタノール(2/1)混合溶媒5mLを加えて撹拌した後、蒸留水1mLを加えて再度撹拌した。3000rpm/min,25℃で5分間の遠心分離を2回行った後、メタノール層を除去し、有機層を乾固することで消化脂質を得た。
得られた消化脂質をクロロホルムに溶解させHPTLCガラスプレート(シリカゲル60,メルク製)上へ添加後、展開溶媒(クロロホルム/アセトン/酢酸=95/5/0.5)で展開して分画を行い、C21:0-TAG(Larodan製)250μgを添加しておいた試験管へ、掻きとった遊離脂肪酸画分のみを入れた。0.5M NaOH/MeOH溶液3mLを加えて撹拌後、80℃で5分間加熱した後、14%BF3・MeOH溶液(Sigma-Aldrich製)を加え、さらに80℃で2分間加熱しメチルエステル化を行った。次いで、飽和食塩水2mL、ヘキサン1mLを加え撹拌後、3000r/minで1分間遠心分離し、ヘキサン層のみを分取した後、さらにヘキサン1mLを加えて同様の操作を行い、ヘキサン層を合わせた。硫酸ナトリウムの脱水カラムを通した後、上記方法で脂肪酸組成を分析し、油脂組成物から遊離したエイコサペンタエン酸量と飽和脂肪酸量を求めた。
結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
表4に示すように、本発明の油脂組成物では、膵リパーゼによって、油脂中のエイコサペンタエン酸は容易に加水分解されるが、飽和脂肪酸の加水分解は抑えられるため、油脂から遊離したエイコサペンタエン酸量は多く、且つ飽和脂肪酸量は少なかった(実施例1~8)。
これに対して、トリアシルグリセロールを多く含有する油脂組成物では、エイコサペンタエン酸を多く含む場合でも、膵リパーゼによる加水分解の際に、油脂中の飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸と同等またはそれ以上に分解されてしまい、油脂から遊離した飽和脂肪酸量は多かった(比較例1~3)。また、たとえジアシルグリセロールを60%以上と高含有する場合でも、エイコサペンタエン酸の含有量が少ない場合は、油脂中の飽和脂肪酸が多く分解されて、遊離した飽和脂肪酸量は多かった(比較例4)。ジアシルグリセロールとエイコサペンタエン酸とが一定の関係を満たさない場合も十分な効果が見られず、遊離した飽和脂肪酸量は多かった(比較例5)。