(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159206
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】脱硝触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 27/051 20060101AFI20221006BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221006BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20221006BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221006BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
B01J27/051 M
B01J37/04 102
B01J37/03 B ZAB
B01J37/08
B01D53/86 222
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022058846
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021061348
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 智明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡
(72)【発明者】
【氏名】足立 健太郎
【テーマコード(参考)】
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
4D148AA06
4D148AB02
4D148AC04
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4D148BA06Y
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4G169AA02
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4G169FB05
4G169FB09
4G169FB30
4G169FC03
4G169FC04
(57)【要約】
【課題】活性が高い脱硝触媒を提供すること。
【解決手段】バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物を含み、前記複合酸化物が3価、4価および5価のバナジウムを含む混合原子価化合物であり、前記複合酸化物に含まれるバナジウムのカチオン数が0.7以上であり、前記複合酸化物がチタン酸化物の表面と結合している、脱硝触媒。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物を含み、
前記複合酸化物が3価、4価および5価のバナジウムを含む混合原子価化合物であり、
前記複合酸化物に含まれるバナジウムのカチオン数が0.7以上であり、
前記複合酸化物がチタン酸化物の表面と結合している、
脱硝触媒。
【請求項2】
硫黄の含有量(SO4換算)が0.1質量%以上5質量%以下の範囲にある、請求項1に記載された脱硝触媒。
【請求項3】
比表面積が100m2/g未満である、請求項1または請求項2に記載された脱硝触媒。
【請求項4】
以下1)~5)の工程を備える脱硝触媒の製造方法。
1)水、硫酸、バナジウム原料、モリブデン原料および錯化剤を混合し母液を調製する母液調製工程
2)チタン酸化物と前記母液とを混合して混合物を調製する混合工程
3)前記混合物と沈殿剤とを混合して、バナジウムおよびモリブデンの共沈物が前記チタン酸化物に結合した成形用粘土を調製する反応工程
4)前記成形用粘土を成形して成形体を調製する成形工程
5)前記成形体を焼成して、バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物がチタン酸化物の表面と結合した脱硝触媒を調製する焼成工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中の窒素酸化物を浄化できる脱硝触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排ガス中の窒素酸化物(NOx)をアンモニアなどの還元剤で選択還元して除去する脱硝触媒として、酸化チタン担体に酸化タングステン、酸化バナジウムなどの活性成分を担持した、ハニカム形状の触媒成形物が工業的に使用されている(特許文献1)。近年では、ボイラー、ごみ焼却炉等の排ガス中の窒素酸化物を除去する触媒としても使用され、ダイオキシンの発生を抑制するという観点から、約200℃以下での運転が望まれている。これを解決する脱硝触媒として、特許文献2および3の脱硝触媒などが提案されており、活性の高い脱硝触媒、特に低温において活性が高い脱硝触媒の需要が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-81995号公報
【特許文献2】特開平11-165068号公報
【特許文献3】特表2007-520327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、活性が高い脱硝触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物を含み、前記複合酸化物が3価、4価および5価のバナジウムを含む混合原子価化合物であり、前記複合酸化物に含まれるバナジウムのカチオン数が0.7以上であり、前記複合酸化物がチタン酸化物の表面と結合している、脱硝触媒であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の脱硝触媒は、NOxの選択還元活性が高いので、高温域のみならず、約200℃以下の低温域であっても効率よくNOxを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1で得られた脱硝触媒のX線光電子分光(XPS)スペクトルである。
【
図2】実施例2で得られた脱硝触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0009】
[本発明の脱硝触媒]
本発明の脱硝触媒は、バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物を含み、前記複合酸化物が3価、4価および5価のバナジウムを含む混合原子価化合物であり、前記複合酸化物に含まれるバナジウムのカチオン数が0.7以上であり、前記複合酸化物がチタン酸化物の表面と結合している。本発明は、バナジウムのカチオン数を一定の範囲に制御することで、NOxの選択還元活性を高めた脱硝触媒を提供する。
【0010】
バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物は、3価、4価および5価のバナジウムを含む混合原子価化合物である。この複合酸化物中のバナジウムの価数は、複合酸化物に含まれるモリブデンの価数およびチタン酸化物の表面への結合状態によって影響を受ける。バナジウムの価数状態はカチオン数で定義することができ、このカチオン数を0.7以上とすることで、NOxの選択還元活性が高くなる。これは、モリブデンの価数およびチタン酸化物との結合状態を制御し、NOxの選択還元活性に最適なバンド構造となるように複合酸化物中のバナジウムの価数をコントロールした結果である。更に、本発明の脱硝触媒は、複合酸化物中に価数の異なるバナジウムが分散しているので、単なる価数の異なるバナジウム酸化物を含む従来の脱硝触媒と比較してバナジウムの分散性が高い。したがって、本発明の脱硝触媒は、従来の脱硝触媒と比較して、NOxの選択還元活性が高い。
【0011】
バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物に含まれるバナジウムのカチオン数は、0.7以上2以下の範囲にあることが好ましく、0.9以上1.5以下の範囲にあることがより好ましく、1以上1.4以下の範囲にあることが特に好ましい。バナジウムのカチオン数がこの範囲にあると、NOxの選択還元活性がより向上する。
【0012】
バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物は、チタン酸化物の表面と結合している。これは、バナジウム、モリブデンおよびチタンが同一の結晶構造中に混在している複合酸化物とは異なるものであり、あくまでバナジウムおよびモリブデンの複合酸化物が酸素を介してチタン酸化物の表面に結合している。これにより、複合酸化物の相とチタン酸化物の相が明確に区別される。
【0013】
チタン酸化物は、二酸化チタンであることが好ましく、アナターゼ型の結晶構造であることがより好ましい。このようなチタン酸化物を用いると、NOx選択還元活性が高くなりやすい。また、アナターゼ型の結晶構造であるチタン酸化物の結晶子径は、(101)面の回折ピークの半価幅から求めた値が、5nm以上40nm以下の範囲にあることが好ましく、5nm以上、10nm以下の範囲にあることがより好ましい。アナターゼ型の結晶であるチタン酸化物の結晶子径がこの範囲にあると、バナジウムおよびモリブデンを含む複合酸化物との結合ができやすくなる。チタン酸化物の含有量は、TiO2換算で、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが特に好ましい。
【0014】
従来、比表面積が大きい脱硝触媒は、NOx選択還元活性が良好であることが知られている。これに対し、本発明の脱硝触媒は、比表面積が小さくても、良好なNOx選択還元活性を示す。具体的には、100m2/g未満であっても、50m2/g以上95m2/g以下の範囲であっても、良好なNOx選択還元活性を示す。
【0015】
本発明の脱硝触媒は、バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物以外の成分を含んでいてもよい。例えば、バナジウム酸化物、およびモリブデン酸化物などを含んでいてもよい。バナジウムの含有量(V2O5換算)は、前記複合酸化物に含まれるバナジウムを含め、1質量%以上20質量%以下の範囲にあることが好ましく、5質量%以上15質量%以下の範囲にあることがより好ましく、6質量%以上10質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。また、モリブデンの含有量(MoO3換算)は、前記複合酸化物に含まれるモリブデンを含め、0.5質量%以上15質量%以下の範囲にあることが好ましく、1質量%以上10質量%以下の範囲にあることがより好ましく、2質量%以上8質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。バナジウムおよびモリブデンの含有量がこの範囲にあると、NOx選択還元活性が高くなりやすい。また、バナジウムおよびモリブデン以外の成分として、タングステン、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、銀、金、パラジウム、イットリウム、セリウム、ネオジム、インジウム、イリジウム、およびアンチモンなどの金属成分を含んでいてもよい。これらは助触媒として触媒性能に影響を与え、その含有量(金属換算)は3質量%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の脱硝触媒は、硫黄を含んでいることが好ましい。硫黄の含有量(SO4換算)は、0.1質量%以上5質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.5質量%以上4質量%以下の範囲にあることがより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下の範囲にあることが特に好ましい。本発明の脱硝触媒に含まれる硫黄は、バナジウムのバンド構造に影響を与え、NOx選択還元活性にポジティブな影響を与える。
【0017】
これらの成分以外にも、補強材として、ガラス繊維、シリカ、アルミナ等の無機成分を含んでいてもよい。これらの成分は、脱硝触媒の成形性を高め、その強度を維持する働きがある。
【0018】
本発明の脱硝触媒の形状は、ペレット、またはハニカム等の従来公知の形状を取ってよく、ハニカムであることが好ましい。具体的には、ハニカムの外径が、30mm以上300mm以下の範囲にあることが好ましく、50mm以上200mm以下の範囲にあることがより好ましい。ハニカムの長さは、100mm以上3000mm以下の範囲にあることが好ましく、300mm以上1500mm以下の範囲にあることがより好ましい。ハニカムの貫通孔(以下、セルピッチということがある)は、1mm以上15mm以下の範囲にあることが好ましく、2mm以上10mm以下の範囲にあることがより好ましい。ハニカムの隔壁厚は、0.1mm以上2mm以下の範囲にあることが好ましく、0.1mm以上1.5mm以下の範囲にあることがより好ましい。ハニカムの開口率は、60%以上85%以下の範囲にあることが好ましく、70%以上85%以下の範囲にあることがより好ましい。ハニカムの形状がこの範囲にあると、ハニカム構造体の強度を維持しつつ、単位体積当たりのNOx選択還元活性が高くなりやすい。
【0019】
本発明の脱硝触媒は、NOxを含有する排ガス、特にボイラー、またはごみ焼却炉の排ガスなど、NOxやSOxを含有し、重金属やダストを含有する排ガスに、アンモニアなどの還元剤を添加して接触還元するNOx除去法に好適に使用される。また、従来公知の脱硝触媒の反応温度で使用することができ、例えば、反応温度は150℃以上400℃以下で使用できる。特に、本発明の脱硝触媒は、170℃以上270℃以下の温度域で高い活性を示し、特に、170℃以上200℃以下の温度域において、良好なNOx選択還元活性を示す。
【0020】
[本発明の脱硝触媒の製造方法]
本発明の脱硝触媒の製造方法を以下に説明する。
【0021】
本発明の脱硝触媒は、例えば、以下の工程を備える製造方法を用いて調製することができる。
1)水、硫酸、バナジウム原料、モリブデン原料および錯化剤を混合し母液を調製する母液調製工程
2)チタン酸化物と前記母液とを混合して混合物を調製する混合工程
3)前記混合物と沈殿剤とを混合して、バナジウムおよびモリブデンの共沈物が前記チタン酸化物に結合した成形用粘土を調製する反応工程
4)前記成形用粘土を成形して成形体を調製する成形工程
5)前記成形体を焼成して、バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物がチタン酸化物の表面と結合した脱硝触媒を調製する焼成工程
【0022】
以下、各工程について詳述する。
【0023】
母液調製工程では、水に、バナジウム原料、モリブデン原料、錯化剤および硫酸を溶解して母液を調製する。ここで、バナジウムおよびモリブデンは、複合酸化物を作るための原料となる。錯化剤は、バナジウムまたはモリブデンイオンに配位して、錯体を形成する。また、硫酸は、チタン酸化物に配位させるためのものである。これらの原料を水に溶解することで、前記母液を調製することができる。
【0024】
バナジウムおよびモリブデンの原料は、可溶性の塩を用いることが好ましい。例えば、バナジウム原料としては、バナジン酸塩、硫酸バナジウム、または塩化バナジウム等を用いることが好ましく、特にメタバナジン酸アンモニウムを用いることが好ましい。また、バナジウム酸化物を酸で溶解してもよい。モリブデン原料としては、モリブデン酸塩、硫酸モリブデン、または塩化モリブデン等を用いることが好ましく、特にモリブデン酸アンモニウムを用いることが好ましい。また、モリブデン酸化物を酸で溶解してもよい。また、これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、バナジウムおよびモリブデンの原料の添加量は、最終的に得られる脱硝触媒の組成に合わせて適宜調整される。
【0025】
錯化剤は、アミンおよびヒドロキシ基を有する化合物が好ましく、アルカノールアミンであることがより好ましく、エタノールアミンが特に好ましい。これらの錯化剤は、母液中でバナジウムイオンまたはモリブデンイオンに配位して錯体を形成し、安定化させる働きを有する。また、後述の工程でチタン酸化物に配位した硫酸と配位子交換する働きもある。したがって、錯化剤は、バナジウムおよびモリブデン原料を水に溶解した後で添加することが好ましい。このとき、錯化剤の添加量は、バナジウムおよびモリブデンのモル量に対して、0.1モル以上6モル以下の範囲にあることが好ましく、0.5モル以上3モル以下の範囲にあることがより好ましい。このように、錯体を形成するために必要な量の錯化剤を加えることで、バナジウムおよびモリブデンイオンは安定化する。
【0026】
硫酸は、後述の工程で添加するチタン酸化物の表面に配位させ、バナジウムおよびモリブデンの錯体との配位子交換反応により、チタン酸化物の表面にバナジウムおよびモリブデンを固定化することを目的に添加する。したがって、硫酸の添加量は、チタンのモル量に対して、0.001モル以上0.1モル以下の範囲にあることが好ましく、0.01モル以上0.05モル以下の範囲にあることがより好ましい。チタン酸化物の表面に配位させることを目的としているので、硫酸の添加量は、チタンのモル量に対して少なくても問題ない。
【0027】
この母液調製工程では、他の可溶性成分を添加してもよい。例えば、前述の助触媒成分となる成分を含有した原料を溶解してもよい。
【0028】
混合工程では、前述の母液調製工程で調製した母液とチタン酸化物とを混合して、混合物を調製する。ここでは、母液に含まれる硫酸が、チタン酸化物の表面に配位する。チタン酸化物は、二酸化チタンであることが好ましく、アナターゼ型の結晶構造であることがより好ましい。このようなチタン酸化物を用いると、NOx選択還元活性が高くなりやすい。また、アナターゼ型の結晶構造であるチタン酸化物の結晶子径は、(101)面の回折ピークの半価幅から求めた値が、10nm以上40nm以下の範囲にあることが好ましく、5nm以上、10nm以下の範囲にあることがより好ましい。アナターゼ型の結晶構造であるチタン酸化物の結晶子径がこの範囲にあると、バナジウムおよびモリブデンを含む複合酸化物との結合ができやすくなる。チタン酸化物の添加量は、最終的に得られる脱硝触媒の組成に合わせて適宜調整される。
【0029】
混合方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ニーダー、ハイスピードミキサー、またはボールミル等を用いることができる。これらの方法は、母液とチタン酸化物の量によって適宜選択される。粘土状になって装置に負荷がかかる場合は、ニーダー、ハイスピードミキサーを用いることが好ましい。
【0030】
反応工程では、前記混合物と沈殿剤とを混合して、バナジウムおよびモリブデンの共沈物が前記チタン酸化物の表面に結合した成形用粘土を調製する。この工程では、前記混合物中に含まれる母液成分が中和され、バナジウムおよびモリブデンの共沈物が生成する。このとき共沈物の表面には前記錯化剤が配位しており、これがチタン酸化物の表面に配位した硫酸と配位子交換することで、共沈物とチタン酸化物の表面に結合が生じる。
【0031】
沈殿剤は、従来公知のものを用いることができる。例えば、炭酸ソーダ、ソーダ灰、およびアンモニア水等の沈殿剤を使用することができる。沈殿剤の添加量は、前記混合物に含まれる母液のpHが6以上9以下の範囲となるように適宜調整される。前記混合物が粘土状でpHの測定が困難である場合は、事前に母液を中和するために必要な沈殿剤の量を実験で確認し、その添加量を調整すればよい。前記混合物が粘土状でない場合は、水分調整や、バインダー添加等を行い、成形に適した成形用粘土に調整する。
【0032】
成形工程では、前記成形用粘土を成形して成形体を調製する。ペレット、またはハニカムといった従来公知の形状に成形することができる。脱硝触媒という用途においては、ハニカムに成形することが好ましい。成形方法については、従来公知の方法を使用することができ、例えば、押出成形機を用いてペレットやハニカムに成形することができる。成形体は、ひび割れ等が起きないように従来公知の方法で乾燥するとよい。
【0033】
焼成工程では、前記成形体を焼成して、バナジウムおよびモリブデンの複合酸化物がチタン酸化物の表面と結合した脱硝触媒を調製する。焼成方法については、従来公知の方法を使用することができる。例えば、電気炉、およびガス炉等の加熱炉を用いて大気中で焼成する方法を使用することができる。焼成温度は、300℃以上500℃以下が好ましい。焼成時間は、焼成温度にもよるが、概ね1時間以上48時間以下の範囲であればよい。
【実施例0034】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例などの内容に何ら限定されるものではない。
【0035】
[測定方法]
本願で採用した各測定方法について以下に記す。
[1]組成
実施例にて得られた脱硝触媒を粉末状にして、評価用試料を調整した。これを酸で溶解した溶解液を準備し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(装置名:ICPS-8100)により、各種成分の組成を算出した。
[2]バナジウムの価数
実施例にて得られた脱硝触媒の反応面となる表面(ペレットであれば外表面、ハニカムであれば隔壁の外表面)を測定できるように破片状にして、評価用試料を調製した。これを試料台にセットして、以下の条件でX線光電子分光測定(XPS)を行った。この測定から得られるスペクトルを分析し、以下の範囲にピークが検出されれば、これらの価数のバナジウムを含んでいると判断した。
V5+:517.20eV±0.2eV
V4+:515.84eV±0.2eV
V3+:515.29eV±0.2eV
<測定条件>
XPS測定はThermoFisherのESCALAB220IXLを用い、AlをX線源として使用し、ピーク位置はC1SのC-Cの結合を284.8eVとして基準補正した。評価用試料を装置にセットし高真空に達した事を確認したのち、加速電圧10kV、エミッション電流10mA、スキャン回数30回の条件で測定した。
<算出条件>
スキャン積算後にピークの分離を行い、V3+、V4+、V5+のピークの有無を確認した。
[3]バナジウムのカチオン数
実施例にて得られた脱硝触媒の表面を、以下の条件でSEM-EDS(エネルギー分散型X線分光解析)測定した。
<測定条件>
SEM測定はJEOLのJSM6010LAを用い、WをX線源として使用した。実施例にて得られた脱硝触媒を破片状に加工し、脱硝反応面となる表面(ペレットであれば外表面、ハニカムであれば隔壁の外表面)を測定した。加速電圧を20kV-15kVに調製し、SSを4nmに調製する。その後、150万倍まで拡大し、分析位置をプローブトラッキングし、測定位置をトレースできるようにEDS-ライン分析を行った後、ZAF法による組成変換を行った。そこで得られたピークからVおよびMoを含む複合酸化物の粒子径を算出した。この粒子径にビーム径を調整した後、150万倍に拡大し、分析位置をプローブトラッキングし、Ti、V、Moの点分析を4か所以上行った。これを異なる測定箇所で繰り返し行い、合計20箇所以上の点分析を行った。
<算出方法>
得られたデータからTi、V、およびMoがすべて検出される箇所を20箇所特定し、各箇所におけるVのカチオン数の平均値を算出し、これを本発明におけるカチオン数とした。このカチオン数は完全酸化状態(Vの場合はV2O5)の酸素数を24として算出しており、完全酸化状態の場合は0となる。
[4]比表面積
実施例にて得られた脱硝触媒を粉砕し、評価用試料を調製した。この評価用試料(0.2g)を測定セルに入れ、窒素ガス気流中、300℃で60分間の脱ガス処理を行い、その上で試料を窒素30体積%とヘリウム70体積%の混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させた。次に、上記混合ガスを流しながら試料の温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、予め作成した検量線により、試料の比表面積を測定した。
[5]チタン酸化物の結晶構造および(101)面の結晶子径
実施例にて得られた脱硝触媒を乳鉢にて粉砕し、X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2100)によってX線回折パターンを得て、結晶型を特定した。
また、前述の方法によって、得られたX線回折パターンにおける2θ=25.27度近傍の(101)面(2θ=25.27度近傍)のピークの半価全幅を測定し、Scherrerの式により、結晶子径を求めた。
[6]脱硝性能(選択的還元触媒(SCR)活性)
実施例にて得られた脱硝触媒を以下の触媒形状に切り出して、評価用試料を調製した。これを流通式反応器に充填し、脱硝率を評価した。具体的には、以下の条件で測定された触媒接触前後のNOx濃度から以下の式を用いて算出した値を、脱硝率とした。なお、触媒接触前後のガス中の窒素酸化物NOxの濃度は、化学発光式の窒素酸化物分析計(株式会社アナテック・ヤナコ製、ECL-88AO)にて測定した。
脱硝率(%)=[接触前ガス中のNOx(ppm)-接触後ガス中のNOx(ppm)]/接触前ガス中NOx(ppm)×100
<試験条件>
・触媒形状:7×7目、長さ300mm
・反応温度:200℃
・SV:18750h-1
・ガス組成:NOx=100ppm、NH3=100ppm、O2=2%、H2O=1
0%、N2=バランス
【0036】
[実施例1]
水を6000g、錯化剤としてモノエタノールアミンを1096.26g、メタバナジン酸アンモニウムを2011.49g準備した。これらを混合した後、80~90℃に昇温し2時間撹拌を続けた。これを40~60℃に冷却し、モリブデン酸アンモニウム765.54gを添加した後、5分間撹拌を続けた。その後硫酸(濃度:25質量%)2520gを添加して、バナジウムおよびモリブデンを含む溶解液を得た(母液調製工程)。
【0037】
二酸化チタン(Tronox社製:G5)17590gと前述の母液調製工程で調製した溶解液とをニーダーで30分間混練した(混合工程)。得られた混練物に沈殿剤としてアンモニア水(濃度:15質量%)を1480g添加し、45分間混練した。その後、補強材としてガラス繊維2400gを添加して10分間混練した。更に、可塑剤としてメトローズ(信越化学工業社製)を560g添加して20分間混練し、成形用粘土を得た(反応工程)。
【0038】
ハニカム押し出し用ダイスを備えたスクリュー付真空押出機を用い、前述の反応工程で得られた成形用粘土をハニカムに成形した(成形工程)。このハニカムを十分時間をかけて乾燥した後、60℃の熱風で通風しながら2日間乾燥後、軸方向(長手方向)の両端を切り揃え電気炉で、大気雰囲気下、450℃、5時間焼成してセルピッチ2.8mm、壁厚0.5mm、の脱硝触媒を得た(焼成工程)。この脱硝触媒について、前述の各測定を行った。結果を表1に示す。また、この脱硝触媒のXPSスペクトルを
図1に示す。
【0039】
[実施例2:モリブデン増、硫酸使用量増]
硫酸の添加量を3650gとしたこと、並びに、二酸化チタンの添加量を17590gとしたこと、以外は実施例1と同様の方法で脱硝触媒を調製した。この脱硝触媒について、前述の各測定を行った。結果を表1に示す。また、この脱硝触媒のSEM画像を
図2に示す。
【0040】
[実施例3:二酸化チタン種類変更、焼成温度20℃増]
モリブデン酸アンモニウムの添加量を1786gとしたこと、二酸化チタンを石原産業社製:MC90とし、その添加量を16450gとしたこと、アンモニア水の添加量を1304gとしたこと、並びに、焼成温度を470℃としたこと以外は、実施例1と同様の方法で脱硝触媒を調製した。この脱硝触媒について、前述の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例4:バナジウム増]
モノエタノールアミンの添加量を1421.03gとしたこと、メタバナジン酸アンモニウムの添加量を2586.20gとしたこと、二酸化チタンの添加量を18570gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で脱硝触媒を調製した。この脱硝触媒について、前述の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0042】
[比較例1:硫酸不使用]
水を3000g、錯化剤としてモノエタノールアミンを330g、メタバナジン酸アンモニウムを691.3g準備した。これらを混合した後、80~90℃に昇温し2時間撹拌を続けた。これを40~60℃に冷却し、溶解液を調製した。
【0043】
二酸化チタン(石原産業社製:MC90)18330gと、メタバナジン酸アンモニウム1411.99gと、モリブデン酸アンモニウム809.82gと、アンモニア水(濃度:15質量%)とをニーダーで30分間混練した。その後、前述の通りに調製した溶解液を添加し、30分間混練した。更に、補強材としてガラス繊維1710gを添加して10分間混練した。更に、可塑剤としてメトローズ(信越化学工業社製)を300g添加して20分間混練し、成形用粘土を得た。
【0044】
次に、得られた成形用粘土をスクリュー式押出成形機でハニカム状に成形した。この成形体を乾燥後、電気炉で470℃、5時間焼成して、脱硝触媒を得た。この脱硝触媒について、前述の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0045】