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特開2022-159212液浸探触子、探傷検査装置及び探傷検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159212
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】液浸探触子、探傷検査装置及び探傷検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/24 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
G01N29/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022059067
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021061715
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】長濱 大輔
(72)【発明者】
【氏名】奥野 元貴
(72)【発明者】
【氏名】谷村 康行
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AC06
2G047BB06
2G047BC03
2G047CA01
2G047GB25
2G047GB27
(57)【要約】
【課題】探傷検査において、被検査物の内部深くまで探傷検査を行うことを可能とする。
【解決手段】液浸探触子(52)は、平面視で円形をなすとともに、被検査物に臨む面が、中心に向かうに従って漸次的に陥没するように湾曲する凹面68として形成された前面板64を備える。凹面68の中心で互いに直交し且つ該凹面68に沿って湾曲する第1仮想接線M1及び第2仮想接線M2のそれぞれの曲率半径を第1曲率半径R1、第2曲率半径R2とするとき、第1曲率半径R1と第2曲率半径R2は互いに相違する。溶媒(24)中に超音波(70、72)を発振したとき、超音波は2箇所で集束する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に浸漬された被検査物に対して周波数が10MHz以上の超音波を発振する振動子を備え、前記超音波によって前記被検査物のきずの有無を検査する液浸探触子において、
平面視で円形をなすとともに、前記被検査物に臨む面が、中心に向かうに従って漸次的に陥没するように湾曲する凹面として形成された前面板を備え、
前記凹面の中心で互いに直交し且つ該凹面に沿って湾曲する第1仮想接線及び第2仮想接線のそれぞれの曲率半径を第1曲率半径、第2曲率半径とするとき、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違し、
前記溶媒中では、前記振動子から発振された前記超音波は、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違することに基づいて2箇所で集束する液浸探触子。
【請求項2】
請求項1記載の液浸探触子において、前記第1曲率半径及び前記第2曲率半径が、前記溶媒を通過して前記被検査物に入射した前記超音波が前記被検査物の内部の1箇所で集束する曲率半径に設定された液浸探触子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液浸探触子において、直径が0.17mm以上である円形平面きずを前記被検査物から検出可能である液浸探触子。
【請求項4】
溶媒を貯留する貯留槽と、前記溶媒に浸漬された被検査物に対して超音波を発振する液浸探触子とを備える探傷検査装置において、
前記液浸探触子は、前記被検査物に対して周波数が10MHz以上の超音波を発振する振動子と、平面視で円形をなすとともに、前記被検査物に臨む面が、中心に向かうに従って漸次的に陥没するように湾曲する凹面として形成された前面板とを備え、
前記凹面の中心で互いに直交し且つ該凹面に沿って湾曲する第1仮想接線及び第2仮想接線のそれぞれの曲率半径を第1曲率半径、第2曲率半径とするとき、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違し、
前記溶媒中では、前記振動子から発振された前記超音波が、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違することに基づいて2箇所で集束する一方、前記溶媒を通過して前記被検査物に入射した前記超音波が、前記被検査物の内部の1箇所で集束する探傷検査装置。
【請求項5】
請求項4記載の探傷検査装置において、前記貯留槽内に設けられて前記被検査物を保持する回転テーブルと、前記液浸探触子を少なくとも前記回転テーブルに保持された前記被検査物の高さ方向に沿って移動させる可動部とをさらに備える探傷検査装置。
【請求項6】
請求項4又は5記載の探傷検査装置において、前記液浸探触子を少なくとも2個備えるとともに、前記少なくとも2個の液浸探触子は、各々が発振した前記超音波の、前記被検査物の内部での集束箇所が互いに相違する探傷検査装置。
【請求項7】
溶媒に浸漬された被検査物に対し、液浸探触子を構成する振動子から周波数が10MHz以上の超音波を発振し、前記超音波によって前記被検査物のきずの有無を検査する探傷検査方法において、
前記液浸探触子として、平面視で円形をなすとともに、前記被検査物に臨む面が、中心に向かうに従って漸次的に陥没するように湾曲する凹面として形成され、且つ前記凹面の中心で互いに直交し且つ該凹面に沿って湾曲する第1仮想接線及び第2仮想接線のそれぞれの曲率半径を第1曲率半径、第2曲率半径とするとき、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違する前面板を備えるとともに、前記溶媒中で、前記振動子から発振された前記超音波が、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違することに基づいて2箇所で集束する一方、前記第1曲率半径及び前記第2曲率半径が、前記溶媒を通過して前記被検査物に入射した前記超音波が前記被検査物の内部の1箇所で集束する曲率半径に設定されたものを用いる探傷検査方法。
【請求項8】
請求項7記載の探傷検査方法において、前記被検査物として、直径が8インチである円柱形状体を用いる探傷検査方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の探傷検査方法において、前記被検査物として、ニッケル基合金からなるものを用いる探傷検査方法。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載の探傷検査方法において、前記液浸探触子として、少なくとも、各々が発振した前記超音波の、前記被検査物内での集束箇所が互いに相違する2個を用いる探傷検査方法。
【請求項11】
請求項7~10のいずれか1項に記載の探傷検査方法において、前記溶媒として水を用いる探傷検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を発振する液浸探触子、それを含む探傷検査装置、及びそれを用いた探傷検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、タービンエンジンは、高速で回転する部材を多数個有する。この種の部材は、一般的に、ビレットに鍛造加工等を施すことで作製される。ここで、タービンエンジンの構成部材のように過酷な環境下で使用される部材は、十分な耐久性を示すものであることが望ましい。このような部材を得るべく、内部に大きなきずが存在しないビレットを用いることが想起される。以上の観点から、鍛造加工等に先んじ、ビレットに対して探傷検査が行われる。その具体的な一手法としては、水浸探傷検査が例示される。
【0003】
水浸探傷検査では、水中に浸漬されたビレットに対し、探触子から超音波を発振する。ビレットの直径が大きいときには、中心近傍の内部深くまで探傷を行うために、特許文献1に記載されるように、焦点が互いに相違する超音波を発振する複数個の探触子を用いることもある。焦点距離が長い超音波ほど、ビレットの内部深くに到達するからである。
【0004】
また、特許文献2には、電子集束モードと時間反転モードの2モードでの発振を可能とする探触子の構成が提案されている。この場合、ビレットの比較的浅い部位の探傷では電子集束モード、深い部位の探傷では時間反転モードを選択することにより、単一個の探触子でビレットの内部から表面までの探傷が可能となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5533401号明細書
【特許文献2】米国特許第6202489号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術では、4個の水浸探触子が用いられている。このように探触子の個数が多くなるほど、探傷検査装置の部品点数が多くなる。また、全ての探触子から情報を得るまでに長時間を要する。すなわち、この場合、コストの低廉化を図ることが容易ではなく、また、検査時間を短縮することも容易ではないという不都合がある。
【0007】
一方、特許文献2に記載される水浸探触子は、その構成が複雑である。その上、2モードであるといえども、幅広い波長域にわたる超音波を発振することは容易ではない。従って、直径が大であるビレットの内部深くまで探傷を行うことも容易ではない。
【0008】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、簡素な構成でありながら被検査物の内部深くまで探傷を行うことが可能な液浸探触子、それを備える探傷検査装置、それを用いた探傷検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、溶媒に浸漬された被検査物に対して周波数が10MHz以上の超音波を発振する振動子を備え、前記超音波によって前記被検査物のきずの有無を検査する液浸探触子において、
平面視で円形をなすとともに、前記被検査物に臨む面が、中心に向かうに従って漸次的に陥没するように湾曲する凹面として形成された前面板を備え、
前記凹面の中心で互いに直交し且つ該凹面に沿って湾曲する第1仮想接線及び第2仮想接線のそれぞれの曲率半径を第1曲率半径、第2曲率半径とするとき、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違し、
前記溶媒中では、前記振動子から発振された前記超音波は、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違することに基づいて2箇所で集束する液浸探触子が提供される。
【0010】
本発明の別の一実施形態によれば、溶媒を貯留する貯留槽と、前記溶媒に浸漬された被検査物に対して超音波を発振する液浸探触子とを備える探傷検査装置において、
前記液浸探触子は、前記被検査物に対して周波数が10MHz以上の超音波を発振する振動子と、平面視で円形をなすとともに、前記被検査物に臨む面が、中心に向かうに従って漸次的に陥没するように湾曲する凹面として形成された前面板とを備え、
前記凹面の中心で互いに直交し且つ該凹面に沿って湾曲する第1仮想接線及び第2仮想接線のそれぞれの曲率半径を第1曲率半径、第2曲率半径とするとき、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違し、
前記溶媒中では、前記振動子から発振された前記超音波が、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違することに基づいて2箇所で集束する一方、前記溶媒を通過して前記被検査物に入射した前記超音波が、前記被検査物の内部の1箇所で集束する探傷検査装置が提供される。
【0011】
本発明のまた別の一実施形態によれば、溶媒に浸漬された被検査物に対し、液浸探触子を構成する振動子から周波数が10MHz以上の超音波を発振し、前記超音波によって前記被検査物のきずの有無を検査する探傷検査方法において、
前記液浸探触子として、平面視で円形をなすとともに、前記被検査物に臨む面が、中心に向かうに従って漸次的に陥没するように湾曲する凹面として形成され、且つ前記凹面の中心で互いに直交し且つ該凹面に沿って湾曲する第1仮想接線及び第2仮想接線のそれぞれの曲率半径を第1曲率半径、第2曲率半径とするとき、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違する前面板を備えるとともに、前記溶媒中で、前記振動子から発振された前記超音波が、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径が相違することに基づいて2箇所で集束する一方、前記第1曲率半径及び前記第2曲率半径が、前記溶媒を通過して前記被検査物に入射した前記超音波が前記被検査物の内部の1箇所で集束する曲率半径に設定されたものを用いる探傷検査方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液浸探触子として、超音波の集束箇所(焦点)が2箇所である二重焦点探触子を採用し、短焦点の波の焦点距離を、被検査物のレンズ効果によって延長するようにしている。その結果、被検査物内では2個の焦点が略合致する。このため、被検査物の内部深くまで、きずが存在するか否かを判定する(探傷検査を行う)ことが容易となる。
【0013】
従って、従来技術では検出限界以下の寸法であるために検出できないとされていたきずを検出することが可能となる。このため、例えば、本発明においてもなおもきずが検出されなかった被検査物を、過酷な環境下で使用される部材を得るための素材として選別することができる。このような素材は、十分な耐久性を示す。
【0014】
また、二重焦点探触子は、前面板に凹面を形成することで得られる。これにより、簡素な構成でありながら被検査物の内部深くまで探傷を行うことが可能な液浸探触子を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る探傷検査装置の概略斜視図である。
図2図1の探傷検査装置を構成する液浸探触子の概略斜視図である。
図3図3Aは、図2の液浸探触子のY方向に沿う要部断面図であり、図3Bは、Z方向に沿う要部断面図である。
図4図2の液浸探触子から発振された超音波の集束箇所を示す模式説明図である。
図5図4中のF1、F2における超音波の平面入射対象物に対する集束範囲を示す超音波ビームプロファイルデータである。
図6】第1の波がビレットに入射したときに焦点距離が延長される状況を示した模式説明図である。
図7図7A及び図7Bは、第2の波がビレットに入射した状況を示した模式説明図である。
図8図8Aは、図2の液浸探触子とは別の液浸探触子がビレットに対向した状態を示し、図8Bは、きずによって反射波が生じた状態を示す模式説明図である。
図9】ビレットに超音波が入射したときの、第2探触子からの距離(水中換算距離)と、ビレット内部で集束する超音波ビームプロファイルデータとの関係を示す変化図である。
図10】対比FBH(円形平面きず)と、存在するか否かの判定が可能なFBHの直径との関係を示す図表である。
図11】第1曲率半径及び第2曲率半径が様々に相違する液浸探触子を用いての、二重焦点探触子としての特性の評価を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る探傷検査方法につき、それを実施するための液浸探触子と、それを含んで構成される探傷検査装置との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下における「前方」は被検査物に臨む側であり、「後方」はその逆方向である。例えば、「液浸探触子の前端」との表記は、「液浸探触子の、被検査物に臨む側の端部」を意味する。
【0017】
はじめに、図1中に示されるビレット10につき概略説明する。被検査物であるビレット10は円柱形状体であり、この場合、直径Dは8インチ(203.2mm)に設定されている。また、該ビレット10は、耐熱性ニッケル基合金の粉末を焼結する、いわゆる粉末冶金によって作製されたものである。すなわち、このビレット10は、耐熱性ニッケル基合金からなる。
【0018】
一方、探傷検査装置20は貯留槽22を備える。貯留槽22内には、溶媒としての水24が貯留される。後述するように、超音波は水24中を伝播してビレット10に到達する。貯留槽22の上面には、変位用案内レール26a、26bが敷設される。
【0019】
貯留槽22の底部には、ビレット10を位置決め固定するための回転テーブル28が設置される。該回転テーブル28は、該回転テーブル28の下面側に設けられた図示しない回転用モータ等の作用下に、回転可能である。また、回転テーブル28の上面には、回転テーブル28の回転中心から放射状に延在し、且つ互いに略120°の角度で離間した挟持用案内レール30a~30cが敷設される。挟持用案内レール30a~30cの各々には、挟持爪32a~32cが摺動可能に設けられる。各挟持爪32a~32cは、図示しないリニアアクチュエータの作用下に、挟持用案内レール30a~30cに沿って同期して移動する。
【0020】
挟持爪32a~32cの、ビレット10に臨む側の端部は、鉛直上方に向かって突出する突部として形成されている。ビレット10は、挟持爪32a~32cが互いに接近することに伴って、突部に挟持される。この挟持により、ビレット10が起立姿勢として回転テーブル28の中心に位置決め固定される。ビレット10は、回転テーブル28が回転することに追従して回転する。
【0021】
探傷検査装置20は、貯留槽22に付設される可動部36をさらに備える。この可動部36は、X移動ステージ38、Y移動スライダ40、Z移動ホルダ42を有する。この中のX移動ステージ38は、変位用案内レール26a、26bに跨がるとともに、図示しないリニアアクチュエータの作用下に、変位用案内レール26a、26bに沿ってX方向に変位する。なお、X方向は、貯留槽22の長手方向である。
【0022】
Y移動スライダ40は、X移動ステージ38に対して係合され、図示しないリニアアクチュエータによってX移動ステージ38(Y方向)に沿って変位する。すなわち、X移動ステージ38は、この変位の際にY移動スライダ40を案内する。なお、Y方向は貯留槽22の幅方向である。
【0023】
Y移動スライダ40には、鉛直変位用アクチュエータとしてのボールネジ44が設けられる。Z移動ホルダ42は、ネジ回転用モータ46によってボールネジ44が回転することに伴い、ボールネジ44に沿ってZ方向(高さ方向)に変位する。なお、以降の図面中のX方向、Y方向及びZ方向は、図1中のX方向、Y方向及びZ方向に対応する。
【0024】
Z移動ホルダ42は、下面が水平面、上面がボールネジ44から離間するに従って上方に向かう傾斜面として形成されている。このため、Z移動ホルダ42は、ボールネジ44が通された一端が短寸で且つボールネジ44から離間する他端が長寸の台形形状をなす。ボールネジ44から離間した他端には、保持軸48が通される。さらに、該保持軸48の下端には、第1探触子50、第2探触子52を保持した探触子ホルダ54が設けられる。すなわち、Z移動ホルダ42には、保持軸48及び探触子ホルダ54を介して第1探触子50、第2探触子52(いずれも液浸探触子)が保持される。
【0025】
第1探触子50は、ビレット10の表面から深さ50mmまでの領域につき探傷検査を行うためのものであり、点集束探触子である。検出可能なきずの最小寸法は、超音波の周波数が高いほど小さくなる。このため、第1探触子50としては、10MHz以上の周波数で超音波56(図8A参照)を発振し得る振動子を有するものが選定される。第1探触子50の振動子が発振する超音波56の周波数は、例えば、15MHzであるが、10MHzであってもよい。後者の場合、近距離音場限界距離が大きくなるという利点がある。
【0026】
第1探触子50としては、内部きず型対比試験片における直径0.4mmの円形平面きず(Flat Bottom Hole、以下、「FBH」とも表記する)からの反射波の最大振幅を縦軸スケールの80%とする予備試験プロファイルにおいて、ノイズの最大振幅が10%未満となるものが選定される。すなわち、第1探触子50は信号対雑音比(SN比)が良好である。このため、第1探触子50による実検査プロファイルに基づき、ビレット10の、表面から50mmの深さまでに微細なきずが存在するか否かを容易に判定することができる。
【0027】
次に、本実施の形態に係る液浸探触子としての第2探触子52につき説明する。図2は、第2探触子52の概略斜視図である。この第2探触子52は、円筒形状のケーシング60と、該ケーシング60内に収納された振動子62と、該ケーシング60の前端開口を閉塞する前面板64とを備える。なお、ケーシング60内には電極やダンパ等も収納されているが、これらは特に図示していない。
【0028】
振動子62は圧電体からなり、前記電極からの電圧の印加、電圧の印加停止が繰り返されることに伴って振動することで超音波を発振する。この場合、振動子62は、10MHz以上(典型的には10MHz)の周波数の超音波を発振することが可能である。また、振動子62は、ビレット10内のきずが存在する箇所で反射されて該振動子62に戻ってきた超音波、すなわち、反射波を受信することも可能である。
【0029】
ケーシング60の前端には4個のタブ型ストッパ部66が突出形成され、これらタブ型ストッパ部66は前面板64側に折り返されている。これにより、前面板64のケーシング60からの抜け止めがなされている。
【0030】
ケーシング60の前端に取り付けられた前面板64は、平面視で円形をなす。そして、前面板64の、被検査物に臨む前面は、中心Oに向かうに従って、被検査物から離間する後方に指向して漸次的に陥没した凹面68として形成されている。すなわち、凹面68は、全体に亘って湾曲面である。
【0031】
ここで、凹面68のY方向の曲率半径、Z方向の曲率半径は互いに相違する。具体的には、中心Oを通り且つ凹面68のY方向の湾曲面に接する仮想接線を第1仮想接線M1、Z方向の湾曲面に接するとともに第1仮想接線M1に直交する仮想接線を第2仮想接線M2とし、各々の曲率半径を第1曲率半径R1、第2曲率半径R2とすると、R2>R1である。すなわち、図3Aに示すように、Y方向では曲率が大であるために湾曲の度合いが大きい。一方、図3Bに示すように、Z方向では曲率が小さく、従って、湾曲の度合いも小さくなる。
【0032】
このため、水24中にビレット10が存在しない場合、図4に示すように、Y方向に沿って広がる超音波(以下、便宜上「第1の波70」と表す)の焦点距離はF1となり、Z方向に沿って広がる超音波(以下、便宜上「第2の波72」と表す)の焦点距離は、F1よりも長いF2となる。すなわち、第1の波70と第2の波72では、集束箇所が互いに相違する。このように、第2探触子52における超音波の集束箇所(焦点)は、凹面68のY方向、Z方向の曲率半径が相違することに基づいて2点となる。このことから諒解されるように、第2探触子52は二重焦点探触子である。
【0033】
F1、F2の各々に平板形状の平面対比試験片を配置したときの超音波ビームプロファイルデータを図5A図5Bにそれぞれ示す。F1では、第2の波72が未だ集束していないため、F1での第2の波72の拡散に対応してZ方向に延在するエコーが認められる。一方、F2では、第2の波72が集束するが、F1で一旦集束した第1の波70が拡散している。このため、F2での第1の波70の拡散に対応して、Y方向に延在するエコーが認められる。
【0034】
これに対し、第1の波70が水24中でビレット10に入射すると、図6に示すように、第1の波70の焦点距離がF1’となる。F1’は、平面対比試験片における焦点距離F1よりも大である。一方、第2の波72が図7A及び図7Bに示すようにビレット10に入射したとき、焦点距離F2’は、平面対比試験片における焦点距離F2と略同等である。すなわち、第2の波72の焦点距離に変化は認められない。また、図6図7A及び図7Bを対比して諒解されるように、第1の波70、第2の波72の集束箇所が実質的に点Pで一致する。この点については後述する。
【0035】
第1曲率半径R1及び第2曲率半径R2は、ビレット10の直径(ないし曲率半径)、溶媒である水24と、ビレット10の素材である耐熱性ニッケル基合金との音速比、最小ビーム幅等に基づき、第1の波70、第2の波72の集束箇所(点P)がビレット10の直径中心を超える程度となるように設定される。第1曲率半径R1の一例は150~200mmの範囲内であり、第2曲率半径R2の一例は450~500mmの範囲内である。
【0036】
以上のように構成される第2探触子52は、ビレット10の、深さ35~40mm程度から直径中心(表面からの深さが4インチ=101.6mm)を超える範囲にわたって探傷検査を行う。すなわち、第1探触子50による探傷範囲と第2探触子52による探傷範囲は、一部が重複する。
【0037】
この第2探触子52では、内部きず型対比試験片における直径0.4mmのFBHからの反射波の最大振幅を縦軸スケールの80%とする予備試験プロファイルにおいて、第1探触子50と同様にノイズの最大振幅が10%未満となる。すなわち、第2探触子52もまた、SN比が良好である。このため、第2探触子52による実検査プロファイルに基づき、ビレット10の、深さ50mmから直径中心を超える範囲に微細なきずが存在するか否かを容易に判定することができる。
【0038】
探傷検査装置20は、コンピュータ74をさらに備える。このコンピュータ74のディスプレイには、前記超音波ビームプロファイルデータや実検査プロファイル等が表示される。
【0039】
本実施の形態に係る第2探触子52(液浸探触子)及び探傷検査装置20は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその作用効果につき、本実施の形態に係る探傷検査方法との関係で説明する。
【0040】
ビレット10に対して探傷検査を実施するには、はじめに、ビレット10を回転テーブル28に位置決め固定する(図1参照)。すなわち、回転テーブル28の中心に、ビレット10を起立姿勢で載置する。そして、リニアアクチュエータの作用下に、挟持爪32a~32cを回転テーブル28の中心に指向して変位させる。この際、挟持爪32a~32cが挟持用案内レール30a~30cに案内されることは勿論である。挟持爪32a~32cの各突部が三方からビレット10の下端部を挟持することにより、該ビレット10が回転テーブル28の中心に位置決め固定される。なお、ビレット10をはじめとする試験片が自立可能である場合には、挟持爪32a~32cを用いる必要は特にない。
【0041】
次に、X移動ステージ38をリニアアクチュエータの作用下に、変位用案内レール26a、26bに沿って変位させる。すなわち、第1探触子50及び第2探触子52をビレット10に接近させる。X移動ステージ38は、第2探触子52が発振する第1の波70、第2の波72がビレット10の直径中心を若干超える部位(点P)で集束する位置で停止する。さらに、Z移動ホルダ42がボールネジ44の回転によりZ方向に沿って移動し、探触子ホルダ54がビレット10の下端部に対向する(図8A参照)。
【0042】
そして、Y移動スライダ40がリニアアクチュエータの作用下にX移動ステージ38に沿って変位する。その結果、第1探触子50がビレット10の下端部に対向する。この移動の最中、又はその前後に回転テーブル28が回転付勢され、これと一体的にビレット10が回転する。この状態で、第1探触子50から超音波56が発振される。
【0043】
超音波56は、貯留槽22に貯留された水24中を伝播してビレット10の側周壁の表面から入射し、該表面から直径方向に沿ってビレット10の内部に進行する。第1探触子50が点集束探触子であるので、図8Aに示すように、超音波56は、ビレット10内において、表面から所定の深さで集束する。この集束位置は、超音波56の、水24中の伝播距離を設定することで調節することができる。本実施の形態では、集束位置を、表面から略50mmの深さとしている。そして、図8Bに示すように、表面から深さ50mmまでの間にきず76が存在する場合、超音波56がきず76の内壁で反射する。この反射によって生じた反射波78は、第1探触子50内の振動子によって受信される。
【0044】
上記したように、第1探触子50はSN比が良好であり、後述する式(2)に基づいて算出されるように、直径0.17mmのFBHからの反射波78であっても、ノイズと区別することが可能である。すなわち、きず76がこのような極小寸法であっても、十分なピーク高さのエコーが生じる。従って、微細なきず76を容易に検出することができる。なお、きず76が存在しない場合には、エコーは生じない。このように、エコーが認められるか否かにより、ビレット10に直径0.17mm相当以下のきずが存在するか否かが判定される。
【0045】
第1探触子50から超音波56が発振されている間、回転テーブル28及びビレット10の一体的な回転が続行される。また、ボールネジ44の回転が続行され、Z移動ホルダ42がビレット10の上端部に向かって漸次的に移動する。従って、ビレット10に対する超音波56の入射箇所の軌跡は螺旋状となる。このようにして、第1探触子50により、ビレット10の表面から深さ50mmまでの部位の探傷検査が、ビレット10の全周の下端部から上端部に亘って実施される。
【0046】
次に、ビレット10の、深さ50mmから(実際には、深さ35~40mm程度から)直径中心を超える範囲の探傷検査を行う。このためにZ移動ホルダ42が下方に移動するとともにY移動スライダ40が若干変位し、図6図7A及び図7Bに示すように、第2探触子52がビレット10の下端部に対向する。その後、第2探触子52から超音波(第1の波70、第2の波72)が発振される。
【0047】
ここで、図7A及び図7Bに示すように、第2の波72は、視点をZ方向とする平面視で直線形状となる。また、ビレット10の側周壁において、第2の波72が入射する部分はZ方向に沿って延在する。当該入射部分は、平面視での曲率が無視し得る程度に小さく、直線形状に近似される。このため、第2の波72が、ビレット10によるいわゆるレンズ効果を受けることはほとんどない。従って、第2の波72は、ビレット10の直径中心を超える部位(点P)で集束する。このときの第2の波72の、第2探触子52から点Pまでの距離(焦点距離)をF2’とする。なお、水24中の音速は、ビレット10の素材である耐熱性ニッケル基合金中の音速の約1/4倍である。従って、F2’はF2の約4倍である。
【0048】
一方、第1の波70は、図6に示すように、視点をZ方向とする平面視で、第2探触子52側で拡散し且つビレット10側に向かうに従ってビーム径が細くなるような略三角形形状となる。また、ビレット10の側周壁において、第1の波70が入射する部分は、ビレット10の周回方向に沿って延在する。当該入射部分は、所定の曲率で湾曲している。このため、第1の波70は、ビレット10によってレンズ効果を受ける。このときの第1の波70の、第2探触子52から集束箇所、すなわち、点Pまでの距離(焦点距離)をF1”とする。
【0049】
第1の波70がレンズ効果を受けない場合、第1の波70の、第2探触子52から集束箇所までの距離(焦点距離)F1”は、F1の約1/4である。これに対し、第1の波70がレンズ効果を受けると焦点距離が長くなる。すなわち、F1’>F1”である。このように、入射部分に湾曲が含まれる場合、焦点距離を、レンズ効果によって本来の焦点距離よりも長くすることができる。
【0050】
上記したように、第2探触子52を構成する凹面68の第1曲率半径R1、第2曲率半径R2(図2参照)は、第1の波70と第2の波72が、ビレット10内の略同一部位である点Pで集束するように設定されている。すなわち、F1’≒F2’(ないしF1’=F2’)が成り立つ。このように、第2探触子52が発振する超音波の焦点は、水24中では2箇所であるにも拘わらず、ビレット10内では1箇所となる(図6図7A及び図7B参照)。要するに、二重焦点探触子である第2探触子52を、点集束探触子として機能させることが可能となる。
【0051】
また、第1の波70と第2の波72の焦点は、上記したようにビレット10の直径中心を超える程度である。従って、ビレット10の、深さ50mmから直径中心を超える範囲までの探傷検査を、第2探触子52のみで実施することができる。この部位にきずが存在する場合には、上記と同様に反射波が生じるので、ケーシング60内の振動子62によって受信される。
【0052】
第2探触子52もSN比が良好であり、直径0.17mmのFBHからの反射波であっても、ノイズと区別することが可能である。すなわち、このような極小寸法のきずであっても、実検査プロファイルにおいて、十分なピーク高さのエコーが生じる。一方、きずが存在しない場合にはエコーは生じない。このように、エコーの有無により、ビレット10の内部深くに直径0.17mmよりも小さいきずが存在するか否かを判定することができる。
【0053】
第1探触子50による探傷検査時と同様に、第2探触子52から超音波が発振されている最中も、回転テーブル28及びビレット10の一体的な回転が続行される。また、ボールネジ44の回転が続行され、Z移動ホルダ42がビレット10の上端部に向かって漸次的に移動する。以上により、ビレット10に対する超音波の入射箇所の軌跡が螺旋状となるので、ビレット10の深さ50mmから直径までの部位の探傷検査が、ビレット10の全周の下端部から上端部に亘って実施される。
【0054】
以上のように、本実施の形態によれば、第1探触子50、第2探触子52の2個により、直径8インチのビレット10の表面から直径中心を超える範囲の探傷検査を実施することができる。このため、探触子の個数を可及的に低減することができる。従って、探傷検査装置20の部品点数が低減するとともに、設備投資の低廉化を図ることができる。
【0055】
また、探傷検査では、探触子の走査回数(探触子のZ方向への移動回数)が探触子の個数分となるが、本実施の形態では、上記したように探触子の個数を2個とすることができるので、走査回数が2回となる。その分、走査を開始してから終了するまでに要する時間が短くなる。すなわち、本実施の形態によれば、探傷検査に要する時間の短縮を図ることができる。
【0056】
しかも、第2探触子52を得るには、凹面68を有する前面板64を作製すればよい。このため、第2探触子52の構成が複雑となることが回避される。
【0057】
きずを内包するビレット10は、タービンエンジンの構成部材等、過酷な使用環境下で優れた耐久性が要求される部材を得るための素材としては用いられない。換言すれば、本実施の形態によれば、内部に存在するきずが探傷検査装置20の検出限界よりも小さいビレット10のみを、そのような部材を得るための素材として選別することができる。従って、優れた耐久性を示す部材の生産歩留まりが向上する。
【0058】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
例えば、ビレット10の直径を8インチ以外に設定するようにしてもよい。この場合、F1’、F2’がビレット10の直径中心を超える程度で略合致するように、前面板64の凹面68の第1曲率半径R1、第2曲率半径R2、第2探触子52からビレット10までの距離等を設定すればよい。
【0060】
また、水24以外の溶媒を用いるようにしてもよい。さらに、第1探触子50、第2探触子52に加え、1個以上の別の探触子を併用するようにしてもよい。
【実施例0061】
[実施例1]
ケーシング60内に周波数10MHzの超音波を発振する振動子62が収納されるとともに、第1曲率半径R1が180mm、第2曲率半径R2が480mmである前面板64を有する第2探触子52を作製した。ケーシング60の外径は25mmに設定した。この第2探触子52を、第1仮想接線M1が水平方向、第2仮想接線M2が高さ方向となる姿勢で水24中に浸漬し、超音波を発振した。その結果、第1の波70の焦点距離F1は175mm、第2の波72の焦点距離F2は400mmであった。
【0062】
次に、耐熱性ニッケル基合金からなる平面対比試験片を水24中に浸漬し、該平面対比試験片に向けて、約50mm離間した第2探触子52から超音波を発振し、平面対比試験片の表面に対して略直交するように入射させた。さらに、採取した超音波ビームプロファイルデータに基づいて第1の波70、第2の波72の焦点距離を求めた。そして、水対平面対比試験片の音速比が約4であることを考慮し、以下の式(1)を用いて水中換算距離を算出した。
【数1】
例えば、第2探触子52から平面対比試験片までの離間距離が50mmであり、且つ平面対比試験片の表面からの深さが100mmであるとき、水中換算距離は450mmである。
【0063】
超音波ビームプロファイルデータによれば、水中換算距離が160mmであるときに、第2の波72の拡散に基づいて図5Aに示すエコーが得られ、また、350mmであるときに、第1の波70の拡散に基づいて図5Bに示すエコーが得られた。この結果から、第2探触子52は、その焦点距離が水中換算距離で160mm、350mmである、二重焦点探触子であることが分かる。
【0064】
次に、直径が8インチであり、且つ内部に直径0.4mmのFBHが対比きずとして形成されたビレット形状対比試験片を水24中に浸漬し、該ビレット形状対比試験片に向けて、約50mm離間した第2探触子52から超音波を発振した。得られた超音波ビームプロファイルデータを、式(1)を用いて算出した水中換算距離と併せて図9に示す。この図9から、水中換算距離が350mmに近づくにつれ、エコーが点形状に近づくとともに、その面積が小さくなることが分かる。このことから、第1の波70と第2の波72の焦点がビレット形状対比試験片内で略合致していること、また、水中換算距離で350mmが焦点距離であることが明らかである。
【0065】
次に、第2探触子52につき、以下の式(2)に基づいてFBHに対する感度を求めた。
【数2】
ここで、Sensitivity in FBH#は、SN比で3.0dBを確保し得るFBHの直径を表す。また、FBH#calは、キャリブレーションに用いたFBHの番号である。FBH#calの番号と、FBHの直径との関係を図10に示す。上記したように、この場合、ビレット形状対比試験片内のFBHの直径が0.4mmであるので、FBH#calの番号は1である。
【0066】
さらに、Snpkはノイズの最大振幅(最大ピーク高さ)である。この場合、ノイズの最大振幅は、直径0.4mmのFBHの最大振幅の10%未満であった。従って、式(2)中のFBH#calに1、Snpkに10を代入すると、式(2)の右辺の値は約0.42となる。この値から、第2探触子52は、直径が0.42/64インチのFBHを、SN比で3.0dBを確保し得る振幅のエコーとして実検査プロファイルに表示可能であることが分かる。0.42/64インチをmm単位に換算すると、0.17mmである。
【0067】
この結果から、第2探触子52によれば、直径が8インチと比較的大きなビレット10であっても、直径0.17mmのFBHに相当する極微細なきずを、その内部深くまで検出することが可能となることが分かる。すなわち、第2探触子52を用いることにより、微細な傷が存在するか否かを、ビレット10の内部深くまで判定することが可能となる。
【0068】
[実施例2]
ケーシング60内に周波数10MHz又は15MHzの超音波を発振する振動子62が収納された前面板64を有する第2探触子52を作製した。振動子62として寸法が相違するものを用い、且つ第1曲率半径R1及び第2曲率半径R2を様々に変化させて、二重焦点探触子としての特性を評価した。周波数が10~15MHzであり且つ振動子62の寸法が15~25nmであるとき、第1曲率半径R1を220~500mmとし、第2曲率半径R2を100~200mmとすることが好適である。この場合における最適な結果を、図11に一括して示す。
【0069】
図11から、第1曲率半径R1及び第2曲率半径R2を適切に設定することで、優れた二重焦点探触子が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0070】
10…ビレット 20…探傷検査装置
22…貯留槽 24…水
28…回転テーブル 32a~32c…挟持爪
36…可動部 38…X移動ステージ
40…Y移動スライダ 42…Z移動ホルダ
48…保持軸 50…第1探触子
52…第2探触子 56…超音波
62…振動子 64…前面板
68…凹面 70…第1の波
72…第2の波 74…コンピュータ
76…きず 78…反射波
M1…第1仮想接線 M2…第2仮想接線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11