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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159240
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ガラス部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/25 20060101AFI20221006BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20221006BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20221006BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20221006BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20221006BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20221006BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20221006BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20221006BHJP
【FI】
C03C17/25 A
B01J35/02 J
B01J37/34
B01J37/08
B01J37/02 301B
B01J23/72 M
B32B9/00 A
B32B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060603
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021062307
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】大家 和晃
(72)【発明者】
【氏名】林 清美
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 夕希
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
4G169
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA21B
4F100AB00B
4F100AB17B
4F100AG00A
4F100AH06B
4F100AK01B
4F100AK52B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CA23B
4F100CA30B
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ54
4F100JC00B
4F100YY00B
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC30
4G059EA01
4G059EA04
4G059EA05
4G059EA18
4G059EB05
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA14A
4G169BA21C
4G169BA36A
4G169BA48A
4G169BB02B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BE01C
4G169BE32C
4G169CA01
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA08
4G169EA11
4G169EB15Y
4G169ED03
4G169EE06
4G169FA02
4G169FA06
4G169FA08
4G169FB23
4G169FB29
4G169FB34
4G169FB58
4G169FC05
4G169FC08
4G169HA04
4G169HA07
4G169HA09
4G169HA13
4G169HB01
4G169HD10
4G169HD18
4G169HD22
4G169HE02
4G169HE07
(57)【要約】
【課題】抗菌性のイオンの溶出を抑制することができる、ガラス部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るガラス部材は、第1面及び第2面を有するガラス板と、前記第1面に形成された抗菌膜と、を備え、前記抗菌膜は、三次元ネットワーク結合を構成する金属酸化物を含有するバインダと、抗菌性の金属イオンと、を含有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び第2面を有するガラス板と、
前記第1面に形成された抗菌膜と、
を備え、
前記抗菌膜は、
三次元ネットワーク結合を構成する金属酸化物を含有するバインダと、
抗菌性の金属イオンと、
を含有する、ガラス部材。
【請求項2】
前記抗菌膜は、前記抗菌イオンを1質量%以上含有している、請求項1に記載のガラス部材。
【請求項3】
前記抗菌膜は、少なくとも1種類の微粒子を含有している、請求項1または2に記載のガラス部材。
【請求項4】
前記抗菌膜は、前記微粒子を60質量%以上含有している、請求項3に記載のガラス部材。
【請求項5】
前記抗菌膜は、複数種の前記微粒子を含有している、請求項3または4に記載のガラス部材。
【請求項6】
前記複数種の微粒子は、平均粒子径が相違している、請求項5に記載のガラス部材。
【請求項7】
前記複数種の微粒子のうち、平均粒子径が最も大きい微粒子の最大径は、前記抗菌膜の膜厚よりも大きい、請求項6に記載のガラス部材。
【請求項8】
前記抗菌イオンは、1価または2価の銅イオンである、請求項1から7のいずれかに記載にガラス部材。
【請求項9】
前記抗菌膜は、複数種の前記微粒子を含有し、当該複数種の微粒子の1つは、光触媒微粒子である、請求項1から8のいずれかに記載のガラス部材。
【請求項10】
前記光触媒微粒子は、TiO2により形成されている、請求項9に記載のガラス部材。
【請求項11】
シリコンアルコキシドに、光触媒微粒子及び抗菌性の金属イオンを添加したコーティング液を形成するステップと、
前記コーティング液に紫外線を照射するステップと、
前記コーティング液をガラス板に塗布するステップと、
前記コーティング液が塗布されたガラス板を加熱するステップと、
を備えている、ガラス部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、抗菌イオン成分をイオン交換してガラス板の表面に抗菌性物質が設けられているガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-228186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような抗菌性を有するイオンを注入したガラス板では、イオンが溶出しやすいという問題がある。本発明は、この問題を解決するためになされたものであり、抗菌性のイオンの溶出を抑制することができる、ガラス部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.第1面及び第2面を有するガラス板と、
前記第1面に形成された抗菌膜と、
を備え、
前記抗菌膜は、
三次元ネットワーク結合を構成する金属酸化物を含有するバインダと、
抗菌性の金属イオンと、
を含有する、ガラス部材。
【0006】
項2.前記抗菌膜は、前記抗菌イオンを1質量%以上含有している、項1に記載のガラス部材。
【0007】
項3.前記抗菌膜は、少なくとも1種類の微粒子を含有している、項1または2に記載のガラス部材。
【0008】
項4.前記抗菌膜は、前記微粒子を60質量%以上含有している、項3に記載のガラス部材。
【0009】
項5.前記抗菌膜は、複数種の前記微粒子を含有している、項3または4に記載のガラス部材。
【0010】
項6.前記複数種の微粒子は、平均粒子径が相違している、項5に記載のガラス部材。
【0011】
項7.前記複数種の微粒子のうち、平均粒子径が最も大きい微粒子の最大径は、前記抗菌膜の膜厚よりも大きい、項6に記載のガラス部材。
【0012】
項8.前記抗菌イオンは、1価または2価の銅イオンである、項1から7のいずれかに記載にガラス部材。
【0013】
項9.前記抗菌膜は、複数種の前記微粒子を含有し、当該複数種の微粒子の1つは、光触媒微粒子である、項1から8のいずれかに記載のガラス部材。
【0014】
項10.前記光触媒微粒子は、TiO2により形成されている、項9に記載のガラス部材。
【0015】
項11.シリコンアルコキシドに、光触媒微粒子及び抗菌性の金属イオンを添加したコーティング液を形成するステップと、
前記コーティング液に紫外線を照射するステップと、
前記コーティング液をガラス板に塗布するステップと、
前記コーティング液が塗布されたガラス板を加熱するステップと、
を備えている、ガラス部材の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、抗菌性のイオンの溶出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るガラス部材の一実施形態を示す断面図である。
図2図1の抗菌膜の模式図の例を示す断面図である。
図3】実施例1~3の銅イオンの溶出量の経時変化を示すグラフである。
図4】実施例4,5の銅イオンの溶出量の経時変化を示すグラフである。
図5】実施例1の抗菌膜の表面及び断面をSEMで撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るガラス部材の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係るガラス部材は、例えば、物品を覆うガラス部材として用いたり、構造物の一部として用いるなど、種々の用途で用いることができる。なお、物品とは、例えば、一般的なディスプレイのほか、モバイルPC、タブレットPC、カーナビゲーションなどの車載機器、少なくとも一部に電子部品による表示機能を有する装置、電子表示機能を有さないが外部に対して何らかの表示を行うための表示装置等の種々の機器が対象となる。また、機器ではなくても、例えば、商品のように外部に見せるためのものも対象となる。上記構造物としては、建築物、ショーケースなどのケース、複写機のガラス板、仕切り材など、ガラスを用いる種々ものが対象となる。
【0019】
図1はガラス部材の断面図である。図1に示すように、本実施形態に係るガラス部材10は、第1面及び第2面を有するガラス板1と、このガラス板1の第1面に積層される抗菌膜2と、を備えている。このガラス部材10をカバー部材として用いる場合には、上述した物品100を覆うように配置される。このとき、ガラス板1の第2面が物品100と向き合うように配置され、抗菌膜2が外部を向くように配置される。以下、詳細に説明する。
【0020】
<1.ガラス板>
ガラス板1は、例えば、汎用のソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス等その他のガラスにより形成することができる。また、ガラス板1は、フロート法により成形することができる。この製法によると平滑な表面を有するガラス板1を得ることができる。但し、ガラス板10は、主面に凹凸を有していてもよく、例えば型板ガラスであってもよい。型板ガラスは、ロールアウト法と呼ばれる製法により成形することができる。この製法による型板ガラスは、通常、ガラス板の主面に沿った一方向について周期的な凹凸を有する。
【0021】
フロート法は、溶融スズなどの溶融金属の上に溶融ガラスを連続的に供給し、供給した溶融ガラスを溶融金属の上で流動させることにより帯板状に成形する。このように成形されたガラスをガラスリボンと称する。
【0022】
ガラスリボンは、下流側に向かうにつれて冷却され、冷却固化された上で溶融金属からローラにより引き上げられる。そして、ローラによって徐冷炉へと搬送され、徐冷された後、切断される。こうして、フロートガラス板が得られる。
【0023】
ガラス板1の厚さは、特に制限されないが、軽量化のためには薄いほうがよい。例えば、0.3~5mmであることが好ましく、0.6~2.5mmである事がさらに好ましい。これは、ガラス板10が薄すぎると、強度が低下するからであり、厚すぎると、ガラス部材10を介して視認される物品100に歪みが生じるおそれがある。
【0024】
ガラス板1は、通常、平板であってよいが、曲板であってもよい。特に、保護すべき被保護部材の表面形状が曲面等の非平面である場合、ガラス板1はそれに適合する非平面形状の主面を有することが好ましい。この場合、ガラス板1は、その全体が一定の曲率を有するように曲げられていてもよく、局部的に曲げられていてもよい。ガラス板1の主面は、例えば複数の平面が曲面で互いに接続されて構成されていてもよい。ガラス板1の曲率半径は、例えば5000mm以下とすることができる。この曲率半径の下限値は、例えば、10mm以上とすることができるが、特に局部的に曲げられている部位ではさらに小さくてもよく、例えば1mm以上とすることができる。
【0025】
次のような組成のガラス板を用いることもできる。以下では、ガラス板1の成分を示す%表示は特に断らない限り、すべてmol%を意味する。また、本明細書において、「実質的に構成される」とは、列挙された成分の含有率の合計が99.5質量%以上、好ましくは99.9質量%以上、より好ましくは99.95質量%以上を占めることを意味する。「実質的に含有しない」とは、当該成分の含有質が0.1質量%以下、好ましくは0.05質量%以下であることを意味する。
【0026】
本発明者は、フロート法によるガラス板の製造に適したガラス組成として広く用いられているフロート板ガラスの組成(以下、「狭義のSL」、または単に「SL」と呼ぶことがある)を元に、当業者がフロート法に適したソーダライムシリケートガラス(以下、「広義のSL」と呼ぶことがある)と見做している組成範囲、具体的には、以下のような質量%の範囲内で、T2、T4等の特性をできるだけ狭義のSLに近似させながら、狭義のSLの化学強化特性を向上させることのできる組成物を検討した。
SiO2 65~80%
Al23 0~16%
MgO 0~20%
CaO 0~20%
Na2O 10~20%
2O 0~5%
【0027】
以下、ガラス板1のガラス組成を構成する各成分について説明する。
(SiO2
SiO2は、ガラス板1を構成する主要成分であり、その含有率が低すぎるとガラスの耐水性などの化学的耐久性および耐熱性が低下する。他方、SiO2の含有率が高すぎると、高温でのガラス板1の粘性が高くなり、溶解および成形が困難になる。したがって、SiO2の含有率は、66~72mol%の範囲が適切であり、67~70mol%が好ましい。
【0028】
(Al23
Al23はガラス板1の耐水性などの化学的耐久性を向上させ、さらにガラス中のアルカリ金属イオンの移動を容易にすることにより化学強化後の表面圧縮応力を高め、かつ、応力層深さを深くするための成分である。他方、Al23の含有率が高すぎると、ガラス融液の粘度を増加させ、T2、T4を増加させると共にガラス融液の清澄性が悪化し高品質なガラス板を製造することが難しくなる。
【0029】
したがって、Al23の含有率は、1~12mol%の範囲が適切である。Al23の含有率は10mol%以下が好ましく、2mol%以上が好ましい。
【0030】
(MgO)
MgOはガラスの溶解性を向上させる必須の成分である。この効果を十分に得る観点から、このガラス板1ではMgOが添加されていることが好ましい。また、MgOの含有率が8mol%を下回ると、化学強化後の表面圧縮応力が低下し、応力層深さが浅くなる傾向にある。一方、適量を越えて含有率を増やすと、化学強化により得られる強化性能が低下し、特に表面圧縮応力層の深さが急激に浅くなる。この悪影響は、アルカリ土類金属酸化物の中でMgOが最も少ないが、このガラス板1においては、MgOの含有率は15mol%以下である。また、MgOの含有率が高いと、T2、T4を増加させると共にガラス融液の清澄性が悪化し高品質なガラス板を製造することが難しくなる。
【0031】
したがって、このガラス板1においては、MgOの含有率は1~15mol%の範囲であり、8mol%以上、12mol%以下が好ましい。
【0032】
(CaO)
CaOは、高温での粘性を低下させる効果を有するが、適度な範囲を超えて含有率が高すぎると、ガラス板1が失透しやすくなるとともに、ガラス板1におけるナトリウムイオンの移動が阻害されてしまう。CaOを含有しない場合に化学強化後の表面圧縮応力が低下する傾向にある。一方、8mol%を超えてCaOを含有すると、化学強化後の表面圧縮応力が顕著に低下し、圧縮応力層深さが顕著に浅くなるとともに、ガラス板1が失透しやすくなる。
【0033】
したがって、CaOの含有率は1~8mol%の範囲が適切である。CaOの含有率は、7mol%以下が好ましく、3mol%以上が好ましい。
【0034】
(SrO、BaO)
SrO、BaOは、ガラス板1の粘性を大きく低下させ、少量の含有では液相温度TLを低下させる効果がCaOより顕著である。しかし、SrO、BaOは、ごく少量の添加であっても、ガラス板1におけるナトリウムイオンの移動を顕著に妨げ、表面圧縮応力を大きく低下させ、かつ、圧縮応力層の深さがかなり浅くなる。
【0035】
したがって、このガラス板1においては、SrO、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0036】
(Na2O)
Na2Oは、ナトリウムイオンがカリウムイオンと置換されることにより、表面圧縮応力を大きくし、表面圧縮応力層の深さを深くするための成分である。しかし、適量を超えて含有率を増やすと、化学強化処理でのイオン交換による表面圧縮応力の発生を、化学強化処理中の応力緩和が上回るようになり、結果として表面圧縮応力が低下する傾向にある。
【0037】
また、Na2Oは溶解性を向上させ、T4、T2を低下させるための成分である一方、Na2Oの含有率が高すぎると、ガラスの耐水性が著しく低下する。ガラス板1においては、Na2Oの含有率が10mol%以上であればT4、T2を低下させる効果が充分に得られ、16mol%を超えると応力緩和による表面圧縮応力の低下が顕著になる。
【0038】
したがって、本実施形態のガラス板1におけるNa2Oの含有率は、10~16mol%の範囲が適切である。Na2Oの含有率は、12mol%以上が好ましく、15mol%以下がより好ましい。
【0039】
(K2O)
2Oは、Na2Oと同様、ガラスの溶解性を向上させる成分である。また、K2Oの含有率が低い範囲では、化学強化におけるイオン交換速度が増加し、表面圧縮応力層の深さが深くなる一方で、ガラス板1の液相温度TLを低下させる。したがってK2Oは低い含有率で含有させることが好ましい。
【0040】
一方、K2Oは、Na2Oと比較して、T4、T2を低下させる効果が小さいが、K2Oの多量の含有はガラス融液の清澄を阻害する。また、K2Oの含有率が高くなるほど化学強化後の表面圧縮応力が低下する。したがって、K2Oの含有率は0~1mol%の範囲が適切である。
【0041】
(Li2O)
Li2Oは、少量含有されるだけであっても圧縮応力層の深さを著しく低下させる。また、Li2Oを含むガラス部材を硝酸カリウム単独の溶融塩で化学強化処理する場合、Li2Oを含まないガラス部材の場合と比較して、その溶融塩が劣化する速度が著しく速い。具体的には、同じ溶融塩で繰り返し化学強化処理を行なう場合に、より少ない回数でガラス表面に形成される表面圧縮応力が低下する。したがって、本実施形態のガラス板1においては、1mol%以下のLi2Oを含有してもよいが、実質的にLi2Oを含有しない方が好ましい。
【0042】
(B23
23は、ガラス板1の粘性を下げ、溶解性を改善する成分である。しかし、B23の含有率が高すぎると、ガラス板1が分相しやすくなり、ガラス板1の耐水性が低下する。また、B23とアルカリ金属酸化物とが形成する化合物が揮発してガラス溶解室の耐火物を損傷するおそれが生じる。さらに、B23の含有は化学強化における圧縮応力層の深さを浅くしてしまう。したがって、B23の含有率は0.5mol%以下が適切である。本発明では、B23を実質的に含有しないガラス板1であることがより好ましい。
【0043】
(Fe23
通常Feは、Fe2+又はFe3+の状態でガラス中に存在し、着色剤として作用する。Fe3+はガラスの紫外線吸収性能を高める成分であり、Fe2+は熱線吸収性能を高める成分である。ガラス板1をディスプレイのカバーガラスとして用いる場合、着色が目立たないことが求められるため、Feの含有率は少ない方が好ましい。しかし、Feは工業原料により不可避的に混入することが多い。したがって、Fe23に換算した酸化鉄の含有率は、ガラス板1全体を100質量%として示して0.15質量%以下とすることがよく、0.1質量%以下であることがより好ましく、更に好ましくは0.02質量%以下である。
【0044】
(TiO2
TiO2は、ガラス板1の粘性を下げると同時に、化学強化による表面圧縮応力を高める成分であるが、ガラス板1に黄色の着色を与えることがある。したがって、TiO2の含有率は0~0.2質量%が適切である。また、通常用いられる工業原料により不可避的に混入し、ガラス板1において0.05質量%程度含有されることがある。この程度の含有率であれば、ガラスに着色を与えることはないので、本実施形態のガラス板1に含まれてもよい。
【0045】
(ZrO2
ZrO2は、とくにフロート法でガラス板を製造する際に、ガラスの溶融窯を構成する耐火レンガからガラス板1に混入することがあり、その含有率は0.01質量%程度であることが知られている。一方、ZrO2はガラスの耐水性を向上させ、また、化学強化による表面圧縮応力を高める成分である。しかし、ZrO2の高い含有率は、作業温度T4の上昇や液相温度TLの急激な上昇を引き起こすことがあり、またフロート法によるガラス板の製造においては、析出したZrを含む結晶が製造されたガラス中に異物として残留しやすい。したがって、ZrO2の含有率は0~0.1質量%が適切である。
【0046】
(SO3
フロート法においては、ボウ硝(Na2SO4)など硫酸塩が清澄剤として汎用される。硫酸塩は溶融ガラス中で分解してガス成分を生じ、これによりガラス融液の脱泡が促進されるが、ガス成分の一部はSO3としてガラス板1中に溶解し残留する。本発明のガラス板1においては、SO3は0~0.3質量%であることが好ましい。
【0047】
(CeO2
CeO2は清澄剤として使用される。CeO2により溶融ガラス中でO2ガスが生じるので、CeO2は脱泡に寄与する。一方、CeO2が多すぎると、ガラスが黄色に着色してしまう。そのため、CeO2の含有量は、0~0.5質量%が好ましく、0~0.3質量%がより好ましく、0~0.1質量%がさらに好ましい。
【0048】
(SnO2
フロート法により成形されたガラス板において、成型時にスズ浴に触れた面はスズ浴からスズが拡散し、そのスズがSnO2として存在することが知られている。また、ガラス原料に混合させたSnO2は、脱泡に寄与する。本発明のガラス板1においては、SnO2は0~0.3質量%であることが好ましい。
【0049】
(その他の成分)
本実施形態によるガラス板1は、上記に列挙した各成分から実質的に構成されていることが好ましい。ただし、本実施形態によるガラス板1は、上記に列記した成分以外の成分を、好ましくは各成分の含有率が0.1質量%未満となる範囲で含有していてもよい。
【0050】
含有が許容される成分としては、上述のSO3とSnO2以外に溶融ガラスの脱泡を目的として添加される、As25、Sb25、Cl、Fを例示できる。ただし、As25、Sb25、Cl、Fは、環境に対する悪影響が大きいなどの理由から添加しないことが好ましい。また、含有が許容されるまた別の例は、ZnO、P25、GeO2、Ga23、Y23、La23である。工業的に使用される原料に由来する上記以外の成分であっても0.1質量%を超えない範囲であれば許容される。これらの成分は、必要に応じて適宜添加したり、不可避的に混入したりするものであるから、本実施形態のガラス板1は、これらの成分を実質的に含有しないものであっても構わない。
【0051】
(密度(比重):d)
上記組成より、本実施形態では、ガラス板1の密度を2.53g・cm-3以下、さらには2.51g・cm-3以下、場合によっては2.50g・cm-3以下にまで減少させることができる。
【0052】
フロート法などでは、ガラス品種間の密度の相違が大きいと、製造するガラス品種を切り換える際に溶融窯の底部に密度が高い方の溶融ガラスが滞留し、品種の切り換えに支障が生じる場合がある。現在、フロート法で量産されているソーダライムガラスの密度は約2.50g・cm-3である。したがって、フロート法による量産を考慮すると、ガラス板1の密度は、上記の値に近いこと、具体的には、2.45~2.55g・cm-3、特に2.47~2.53g・cm-3が好ましく、2.47~2.50g・cm-3がさらに好ましい。
【0053】
(弾性率:E)
イオン交換を伴う化学強化を行うと、ガラス基板に反りが生じることがある。この反りを抑制するためには、ガラス板1の弾性率は高いことが好ましい。本発明によれば、ガラス板1の弾性率(ヤング率:E)を70GPa以上、さらには72GPa以上にまで増加させることができる。
【0054】
以下、ガラス板1の化学強化について説明する。
(化学強化の条件と圧縮応力層)
ナトリウムを含むガラス板1を、ナトリウムイオンよりもイオン半径の大きい一価の陽イオン、好ましくはカリウムイオン、を含む溶融塩に接触させ、ガラス板1中のナトリウムイオンを上記の一価の陽イオンによって置換するイオン交換処理を行うことにより、本発明によるガラス板1の化学強化を実施することができる。これによって、表面に圧縮応力が付与された圧縮応力層が形成される。
【0055】
溶融塩としては、典型的には硝酸カリウムを挙げることができる。硝酸カリウムと硝酸ナトリウムとの混合溶融塩を用いることもできるが、混合溶融塩は濃度管理が難しいため、硝酸カリウム単独の溶融塩が好ましい。
【0056】
強化ガラス部材における表面圧縮応力と圧縮応力層深さとは、該物品のガラス組成だけではなく、イオン交換処理における溶融塩の温度と処理時間によって制御することができる。
【0057】
以上のガラス板1は、硝酸カリウム溶融塩と接触させることによって、表面圧縮応力が非常に高く、かつ、圧縮応力層の深さが非常に深い強化ガラス部材を得ることができる。具体的には、表面圧縮応力が700MPa以上かつ圧縮応力層の深さが20μm以上である強化ガラス部材を得ることができ、さらに圧縮応力層の深さが20μm以上かつ表面圧縮応力が750MPa以上である強化ガラス部材を得ることもできる。
【0058】
なお、厚みが3mm以上のガラス板1を用いる場合には、化学強化ではなく、風例強化を一般的な強化方法として用いることができる。
【0059】
<2.抗菌膜>
次に、抗菌膜2について、図2を参照しつつ説明する。図2は抗菌膜の表面付近の概略を示す拡大断面図である。抗菌膜2は、三次元ネットワーク結合を構成する無機酸化物と、この無機酸化物に保持される少なくとも1種の無機酸化物微粒子と、無機酸化物に保持される抗菌性の金属イオンと、を備えている。以下、これらについて説明する。
【0060】
<2-1.無機酸化物>
無機酸化物は、無機酸化物微粒子及び金属イオンを保持するバインダとしての役割を果たす。無機酸化物としては、例えば、Siの酸化物である酸化シリコンを含み、酸化シリコンを主成分とすることが好ましい。酸化シリコンを主成分とすることで、膜の屈折率を低下させ、膜の反射率を抑制することに適している。抗菌膜には、酸化シリコン以外の成分を含んでいてもよく、酸化シリコンを部分的に含む成分を含んでいてもよい。
【0061】
酸化シリコンを部分的に含む成分は、例えば、ケイ素原子及び酸素原子が交互に接続され、且つ三次元的に広がるシロキサン結合(Si-O-Si)の三次元ネットワーク構造を形成している。また、この部分のケイ素原子又は酸素原子に、両原子以外の原子、官能基その他が結合した成分である。ケイ素原子及び酸素原子以外の原子としては、例えば、窒素原子、炭素原子、水素原子、次段落に記述する金属元素を例示できる。官能基としては、例えば次段落にRとして記述する有機基を例示できる。このような成分は、ケイ素原子及び酸素原子のみから構成されていない点で、厳密には酸化シリコンではない。しかし、抗菌膜2の特性を記述する上では、ケイ素原子及び酸素原子により構成されている酸化シリコン部分も「酸化シリコン」として取り扱うことが適当であり、当該分野の慣用にも一致する。本明細書では、酸化シリコン部分も酸化シリコンとして取り扱うこととする。以上の説明からも明らかなとおり、酸化シリコンにおけるシリコン原子と酸素原子との原子比は化学量論的(1:2)でなくてもよい。
【0062】
抗菌膜2は、酸化シリコン以外の金属酸化物、具体的にはケイ素以外を含む金属酸化物成分又は金属酸化物部分を含み得る。抗菌膜2が含み得る金属酸化物は、特に制限されないが、例えば、Al、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物である。抗菌膜2は、酸化物以外の無機化合物成分、例えば、窒化物、炭化物、ハロゲン化物等を含んでいてもよく、有機化合物成分を含んでいてもよい。
【0063】
酸化シリコン等の金属酸化物は、加水分解可能な有機金属化合物から形成することができる。加水分解可能なシリコン化合物としては、式(1)で示される化合物を挙げることができる。
nSiY4-n (1)
Rは、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロイル基及びアクリロイル基から選ばれる少なくとも1種を含む有機基である。Yは、アルコキシ基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種である加水分解可能な有機基、又はハロゲン原子である。ハロゲン原子は、好ましくはClである。nは、0から3までの整数であり、好ましくは0又は1である。
【0064】
Rとしては、アルキル基、例えば炭素数1~3のアルキル基、特にメチル基が好適である。Yとしては、アルコキシ基、例えば炭素数1~4のアルコキシ基、特にメトキシ基及びエトキシ基が好適である。上記の式で示される化合物を2種以上組み合わせて用いてもよい。このような組み合わせとしては、例えばnが0であるテトラアルコキシシランと、nが1であるモノアルキルトリアルコキシシランとの併用が挙げられる。
【0065】
式(I)で表される加水分解性基を有するシリコン化合物の好ましい具体例は、式(I)におけるXがアルコキシル基であるシリコンアルコキシドである。また、シリコンアルコキシドは、式(I)においてm=0の化合物(SiX4)に相当する4官能シリコンアルコキシドを含むことがより好ましい。4官能シリコンアルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが挙げられる。シリコンアルコキシドは、単独で用いても2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合には、シリコンアルコキシドの主成分が4官能シリコンアルコキシドであることがより好ましい。
【0066】
式(1)で示される化合物は、加水分解及び重縮合の後、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。この構造において、Rで示される有機基は、シリコン原子に直接結合された状態で含まれる。
【0067】
<2-2.無機酸化物微粒子>
抗菌膜2は、無機酸化物の少なくとも一部として、無機酸化物微粒子をさらに含んでいる。無機酸化物微粒子を構成する無機酸化物は、例えば、Si、Al、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物である。無機酸化物微粒子を複数種含有させることもできる。例えば、平均粒径が相違する複数の無機酸化物微粒子を含有させることができる。平均粒径の大きい無機酸化物微粒子としては、例えば、シリカ微粒子を採用することができる。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより抗菌膜2に導入できる。無機酸化物微粒子は、抗菌膜2に加えられた応力を、抗菌膜2を支持するガラス板1に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、無機酸化物微粒子の添加は、抗菌膜2の耐摩耗性を向上させる観点から有利である。無機酸化物微粒子は、抗菌膜2を形成するための塗工液に、予め形成した無機酸化物微粒子を添加することにより、抗菌膜2に供給することができる。
【0068】
無機酸化物微粒子としては、上述したシリカ微粒子等のほか、光触媒微粒子を含有させることもできる。光触媒微粒子としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化セリウム(CeO2)等の微粒子を用いることができる。
【0069】
無機酸化物微粒子の平均粒径が大きすぎると、抗菌膜2が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、無機酸化物微粒子の一次粒子の平均粒径は、好ましくは1~200nmであり、より好ましくは5~150nmである。粒径の大きい無機酸化物微粒子(例えば、シリカ微粒子)の平均粒径は、例えば、50~150nmであることが好ましく、80~130nmであることがさらに好ましい。また、粒径の大きい無機酸化物微粒子の平均粒径は、抗菌膜2の膜厚よりも大きいことが好ましい。
【0070】
一方、光触媒微粒子の平均粒径は、上述したシリカ微粒子などの平均粒径の大きい微粒子よりも小さく、例えば、1~50nmであることが好ましく、5~30nmであることがさらに好ましい。
【0071】
なお、ここでは、無機酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、無機酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。無機酸化物微粒子は、その含有量が多くなると、抗菌膜2が白濁するおそれがある。無機酸化物微粒子の含有量は、抗菌膜2において、60~90質量%であることが好ましく、65~85質量%であることが好ましい。シリカ微粒子等の平均粒径の大きい無機酸化物微粒子の含有量は、10~40質量%であることが好ましく、15~35質量%であることが好ましい。また、光触媒微粒子の含有量は、20~60質量%であることが好ましく、25~55質量%であることが好ましい。
【0072】
<2-3.金属イオン>
金属イオンは、抗菌性を有するものであり、1価または2価の銅イオン、銀イオンなどで形成することができる。抗菌膜2の金属イオンの含有量は、例えば、抗菌膜の1~30質量%であることが好ましく、3~15質量%であることがさらに好ましい。
【0073】
<2-4.抗菌膜の膜厚>
抗菌膜2の厚みは、例えば、10~500nmであることが好ましく、20~200nmであることがさらに好ましい。厚みが厚すぎると、ヘイズ率が高くなったり、過度の着色が生じるおそれがある。一方、厚みが薄すぎると、無機酸化物微粒子や金属イオンを保持できず、抗菌膜2から離脱するおそれがある。また、耐久性が低くなるおそれもある。
【0074】
<2-5.抗菌膜の形成方法>
抗菌膜2の形成方法は、特には限定されないが、例えば、以下のように形成することができる。まず、上述した三次元ネットワーク構造を構成する材料、例えば、テトラエトキシシラン等のシリコンアルコキシドを酸性条件下で溶液とし、前駆体液を生成する。また、上述した抗菌性の金属イオンを含む液、例えば、塩化銅水溶液、コロイダルシリカ等の無機酸化物微粒子を含有する分散液、及び酸化チタン等の光触媒微粒子を含有する分散液を、前駆体に混合し、抗菌膜用のコーティング液を生成する。
【0075】
また、光触媒微粒子を活性化させるため、コーティング液に紫外線を照射することができる。この場合、例えば、5~50W/m2の紫外線を1~24時間照射することができる。
【0076】
次に、洗浄したガラス板1の第1面に、コーティング液を塗布する。塗布方法は特には限定されないが、例えば、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法などを採用することができる。その後、塗布したコーティング液をオーブンなどで、例えば、溶液中のアルコール分を揮発させるため、所定温度(例えば、80~200℃)で乾燥した後、例えば、加水分解及び有機鎖の分解のため、所定温度(例えば、200~500℃)で焼結させると、抗菌膜2を得ることができる。
【0077】
<3.ガラス部材の光学特性>
ガラス部材10の光学特性としては、例えば、可視光透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。また、ガラス部材10のヘイズ率は、例えば20%以下、さらに15%以下、特に10%以下であり、場合によっては0.1~8.0%、さらに0.1~6.0%であってもよい。
【0078】
<4.特徴>
(1)本実施形態に係るガラス部材10では、抗菌膜2が、三次元ネットワーク結合を構成する無機酸化物と、無機酸化物に保持される抗菌性の金属イオンと、を備えており、無機酸化物が金属イオンを保持するバインダとして役割を果たす。したがって、金属イオンの溶出を抑制することができる。
【0079】
(2)抗菌膜2に、平均粒径の相違する複数種の無機酸化物微粒子を含有させると、平均粒径の大きい無機酸化物微粒子の隙間を、平均粒径の小さい無機酸化物微粒子で埋めることができる。すなわち、平均粒子径が同じ無機酸化物微粒子が含有されていると、最密に充填しても、微粒子間に空隙が生じるが、平均粒子径が異なる無機酸化物微粒子を組み合わせることで、大きい無機酸化物微粒子によりできた空隙を、小さい無機酸化物微粒子で埋めることができる。その結果、金属イオンの行路長を伸ばすことができ、Cuイオンの溶出を抑えることができる。例えば、図2は、これを説明する模式図であり、平均粒径の小さい微粒子として光触媒微粒子を用いている。このため、抗菌膜2内の抗菌性の金属イオンの溶出をさらに抑制することができる。なお、結晶性微粒子を用いると、結晶子内を金属イオンが通過し難いので、より行路長を長くすることができる。したがって、金属イオンの溶出抑制の観点からは、結晶性粒子を用いることが好ましい。
【0080】
(3)抗菌膜2に紫外線等の光を照射すると、光触媒微粒子が活性化し、抗菌性の金属イオンが還元し、光触媒微粒子の表面に析出する。これにより、金属イオンの溶出がさらに抑制される。このような効果は、完成品の抗菌膜2に光を照射したときのみならず、上述したように、抗菌膜2のコーティング液に光を照射したときにも、得ることができる。また、光触媒微粒子と金属イオンやイオン錯体とが静電的に結合するため、金属イオンの溶出がさらに抑制される。さらに、光触媒微粒子に抗菌作用があるため、抗菌性の金属イオンに加え、抗菌性能をさらに向上することができる。
【0081】
(4)平均粒径の大きい無機酸化物微粒子よりも平均粒径が小さい光触媒微粒子を含有させると、光触媒微粒子が平均粒径の大きい無機酸化物微粒子の周囲に結合するため、光触媒微粒子が積層されている領域の表面積を増大することができる。したがって、光触媒による効果がさらに発現しやすくなる。
【0082】
(5)平均粒子径が大きい無機酸化物微粒子の最大径が、抗菌膜2の膜厚より大きいと、表面に凹凸が形成され、見かけの屈折率を小さくできる。その結果、透過率を向上することができる。
【0083】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は、適宜組み合わせることができる。
【0084】
上記実施形態では、抗菌膜に無機酸化物微粒子を含有させているが、無機酸化物微粒子は必ずしも必要ではなく、必要に応じて添加すればよい。
【実施例0085】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例には限定されない。
(1)実施例の準備
50mmx50mm、厚みが1.1mmのフロートガラス板を準備し、その表面に対し、アルカリ超音波洗浄を行った。次に、以下に示す組成の抗菌膜用のコーティング液を調製した。コーティング液中の固形分の濃度は、4%とした。また、表1中のConcentrateについては、表2に詳細を示している。いずれも単位は、gである。
【0086】
【表1】
【表2】
なお、表1中のSTS-01は、石原産業株式会社のTiO2微粒子分散液であり、表2中のPL―7は、扶桑化学工業株式会社のSiO2微粒子分散液である。
【0087】
上記実施例4については、コーティング液に対し、10W/m2の紫外線を24時間照射した。続いて、ガラス板の表面に、実施例1~5に係るコーティング液をスピンコートにより塗布した後、オーブンにおいて300℃で30分間加熱した。こうして、実施例1~5に係るガラス部材を得た。各実施例における抗菌膜の膜厚は、約100nmであった。
【0088】
完成したガラス部材の抗菌膜の組成は以下の通りである。単位は、質量%である。
【表3】
【0089】
(2) 評価
実施例1~5のガラス部材に対し、以下の試験を行った。
【0090】
(2-1) 溶出試験
実施例1~5に係るガラス部材を25ml、25℃の精製水に浸漬し、24時間後の銅の溶出率の関係を算出した。この溶出率の算出は、次のように行った。まず、パックテスト銅(共立理化学研究所製)で発色させた検水をデジタルパックテスト銅(同上)で測定し、液中に含まれる銅イオン濃度を求めた後、これを元の膜中に含有していた銅に対する重量比に換算した。
【0091】
図3は、実施例1~3における、銅イオンの溶出率の経時変化を示すグラフである。図3によれば、光触媒微粒子を含有した実施例1,3は、光触媒微粒子を含有していない実施例2に比べ、溶出率が抑えられている。特に、20時間を経過した後に、溶出率の差が大きくなっている。これは、シリカ微粒子の隙間を平均粒径の小さい酸化チタン微粒子が埋めることで、銅イオンの溶出を抑制しているからであると考えられる。特に、実施例1,3を比べると酸化チタン微粒子の含有量が多い実施例1の方が銅イオンの溶出率が抑えられている。但し、10時間経過後までは、実施例2であっても、銅イオンの溶出率は抑えられている。
【0092】
図4は、実施例4,5における、銅イオンの溶出率の経時変化を示すグラフである。図4によれば、コーティング液に紫外線を照射した実施例4の方が、銅イオンの溶出率が抑えられている。これは、紫外線の照射により銅イオンが還元し、酸化チタン微粒子の表面に析出したためであると考えられる。
【0093】
図5は、実施例1の抗菌膜の表面と断面とをSEMにより撮影したものである。この写真に示すように、抗菌膜の表面においては平均粒径の大きいシリカ微粒子が分散し、その隙間に平均粒径の小さい酸化チタン微粒子が積層していることが分かる。このような積層構造により銅イオンの溶出が抑制されていると考えられる。なお、このような積層構造は、実施例3~5においても同様であることを本発明者は確認している。
【0094】
(2-2) 抗菌試験
抗菌性の評価を、以下の通り、JIS R1702:2020(フィルム密着法)に基づいて行った。
・試験細菌:E.Coli(大腸菌 NBRC3972)
・試料形態:上記ガラス部材
・作用時間:8時間
・UV照射(波長:360nm):0.25mW/cm2
・抗菌活性値(R)の算出:R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At
U0:ガラス板の接種直後の生菌数の対数値の平均値
Ut:ガラス板の8時間後の生菌数の対数値の平均値
At:ガラス部材の8時間後の生菌数の対数値の平均値
・作用条件:温度35℃、湿度90%以上(JIS準拠)
・密着フィルム:40mm×40mmのPPフィルム(JIS基準)
・試験菌液の摂取量:0.2ml
・試験菌液の生菌数:1.1×106
・生菌数測定:ガラス板の菌液接種直後および24時間培養後のガラス部材の生菌数を測定
【0095】
上記試験の結果、実施例1、3~5に係るガラス部材の抗菌活性は、いずれも3.5以上であった。また、酸化チタン微粒子を含有していない実施例2の抗菌活性は2.5以上であった。2.0以上であると抗菌活性があると評価されるため、実施例1~5に係るガラス部材においては十分な抗菌性能が確認できた。
【符号の説明】
【0096】
1 ガラス板
2 抗菌膜
10 ガラス部材
100 物品
図1
図2
図3
図4
図5