(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022159241
(43)【公開日】2022-10-17
(54)【発明の名称】ポリイミドブロック共重合系高分子、ポリイミドブロック共重合系フィルム、ポリアミド酸-イミド共重合体、及び、樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20221006BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060733
(22)【出願日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2021063410
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】岩間 立洋
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA09
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043SA06
4J043SA47
4J043TB02
4J043UA131
4J043UA152
4J043UB161
4J043UB301
4J043XA19
4J043ZA12
4J043ZB21
4J043ZB47
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、良好な透明性、耐熱性、および折曲耐性を共立したポリイミドブロック共重合系フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】ポリイミドブロック共重合系高分子を含み、広角X線回折測定において結晶化度が0.11よりも大きく、ポリイミドブロック共重合系高分子は一般式(1)で示される構造単位を含み、かつX
2として一般式(A-1)で表される構造を有するポリイミドフィルムが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドブロック共重合系高分子を含み、
広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きく、
前記ポリイミドブロック共重合系高分子が、下記一般式(1):
【化1】
{式中、X
1及びX
3は、それぞれ独立に、4価の有機基を表し、X
2及びX
4は、それぞれ独立に、2価の有機基を表し、そしてn及びmは、それぞれ独立に、正の整数であり、
下記構成1,2を除く:
構成1.X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X
4が、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X
3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である}
で示される構造単位を含み、かつ
前記X
2として、下記一般式(A-1):
【化2】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される構造を有する、
ポリイミドフィルム。
【請求項2】
小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上である、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記小角X線散乱測定において、散乱強度I=A×q-B式により算出される乗数Bが、0.04<q<0.05の範囲において、3.6以下である、請求項1または請求項2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
曇り度(Haze値)が1.0%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記結晶化度が0.21よりも小さい、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記一般式(1)中、前記X
3が、下記一般式(A-3):
【化3】
{式中、R
4~R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、d~gは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
1は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)由来の構造から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
前記一般式(1)中、前記X
3が、下記一般式(A-3):
【化4】
{式中、R
4~R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、d~gは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
1は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項8】
上記一般式(1)中のX
4が、下記一般式(A-4):
【化5】
{式中、R
8~R
11は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、h~kは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
2は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び下記一般式(A-5):
【化6】
{式中、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、l及びmは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示し、但し前記X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、一般式(A-5)は、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンに由来する基を除く}
で表される構造から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項9】
上記一般式(1)中のX1が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)由来の構造を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項10】
上記一般式(1)中に含まれるX1とX2のモル比(X2/X1)が、0.84~1.00であり、かつ、上記一般式(2)に含まれるX3とX4(X4/X3)のモル比が、1.01~2.00である、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項11】
上記一般式(1)中のX1及びX2から構成されるポリイミドの構成単位とX3及びX4から構成されるポリイミドの構成単位のモル比(構成単位Nのモル数:構成単位Mのモル数)が、60:40~95:5の範囲である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項12】
ポリアミド酸-イミド共重合体であって、下記一般式(2):
【化7】
{式中、X
1およびX
3は、4価の有機基を表し、X
2およびX
4は、2価の有機基を表し、n、m、及びlは、正の整数であり、X
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Nと呼び、そしてX
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Mと呼び、
下記構成1,2を除く:
構成1.X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X
4が4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X
3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である}
で示される構造単位Lを含み、
前記ポリアミド酸-イミド共重合体はキュアされると小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、かつ広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きいことを特徴とし、
上記一般式(2)中のX
2が、下記一般式(A-1):
【化8】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される構造を有し、
上記一般式(2)中のX
2を構成するジアミン成分とX
4を構成するジアミン成分とが、ジアミン組成、又はジアミン種のいずれかが異なる、
ポリアミド酸-イミド共重合体。
【請求項13】
上記一般式(2)中のX
3が、下記一般式(A-3):
【化9】
{式中、R
4~R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、d~gは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
1は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)由来の構造から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項12に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
【請求項14】
上記一般式(2)中のX3が、上記一般式(A-3)で表される構造である、請求項13に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
【請求項15】
上記一般式(2)中のX
4が、下記一般式(A-4):
【化10】
{式中、R
8~R
11は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、h~kは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
2は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び下記一般式(A-5):
【化11】
{式中、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、l及びmは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示し、但し前記X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、一般式(A-5)は、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンに由来する基を除く}
で表される構造から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項12~14のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
【請求項16】
上記一般式(2)中のX1が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)由来の構造を含む、請求項12~15のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
【請求項17】
上記一般式(2)中に含まれるX1とX2のモル比(X2/X1)が、0.84~1.00であり、かつ上記一般式(2)に含まれるX3とX4(X4/X3)のモル比が、1.01~2.00である、請求項12~16のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
【請求項18】
上記一般式(2)中のX1及びX2から構成されるポリアミド酸の構成単位とX3及びX4から構成されるポリイミドの構成単位のモル比(構成単位Nのモル数:構成単位Mのモル数)が、60:40~95:5の範囲である、請求項12~17のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
【請求項19】
請求項12~18のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体と、(d)有機溶剤とを含有する、樹脂組成物。
【請求項20】
前記樹脂組成物に含まれる全ポリマーのうち、X1とX2から構成されるポリアミド酸の構造単位Mの比率が、60~95モル%である、請求項19に記載の樹脂組成物。
【請求項21】
更に、(e)イミド化触媒を含む、請求項19又は20に記載の樹脂組成物。
【請求項22】
前記(e)イミド化触媒が、1-メチルイミダゾールもしくは、N-Boc-イミダゾールを含む、請求項21に記載の樹脂組成物。
【請求項23】
ポリイミドブロック共重合系高分子の製造方法であって、
ポリアミド酸-イミド共重合体を原料として使用し、
前記ポリアミド酸-イミド共重合体は、下記一般式(2):
【化12】
{式中、X
1およびX
3は、4価の有機基を表し、X
2およびX
4は、2価の有機基を表し、n、m、及びlは、正の整数であり、X
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位N、そしてX
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Mと呼び、
下記構成1,2を除く:
構成1.X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X
4が4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X
3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である}
で示される構造単位Lを含み、
前記ポリイミドブロック共重合系高分子は、小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、かつ広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きく、
上記一般式(2)中のX
2が、下記一般式(A-1):
【化13】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される構造を有する、
ポリイミドブロック共重合系高分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フレキシブルデバイスのための基板の製造に用いられる、ポリアミド酸-イミドおよびそれを含む樹脂組成物、ポリイミド樹脂膜、樹脂フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高耐熱性が要求される用途には、樹脂フィルムとしてポリイミド樹脂のフィルムが用いられる。一般的なポリイミド樹脂は、芳香族カルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを溶液重合することによりポリイミド前駆体を製造した後、これを高温で熱イミド化して、又は、触媒を用いて化学イミド化して、製造される高耐熱樹脂である。
【0003】
ポリイミド樹脂は、不溶、不融の超耐熱性樹脂であり、耐熱酸化性、耐熱特性、耐放射線性、耐低温性、耐薬品性等に優れた特性を有している。このため、ポリイミド樹脂は、電子材料を含む広範囲な分野で用いられている。電子材料分野におけるポリイミド樹脂の適用例としては、例えば絶縁コーティング材、絶縁膜、半導体、薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ(TFT-LCD)の電極保護膜等を挙げることができる。最近は、ディスプレイ材料の分野において従来使用されていたガラス基板に代わり、その軽さ、柔軟性を利用したフレキシブル基板としても採用が検討されている。
【0004】
ポリイミド樹脂を、フレキシブル基板として用いる場合には、例えばガラス基板等の適当な支持体上に、ポリイミド樹脂又はその前駆体、及びその他の成分を含有するワニスを塗布、乾燥させてフィルムとし、該フィルムに素子、回路等を形成した後に、ガラス基板からフィルムを剥離する工程が広く用いられている。しかしながら、ポリイミド樹脂を有する積層体を製造するときには、ポリイミド前駆体の乾燥及びイミド化のために、250℃以上の高温における加熱処理を有する。この加熱処理により、前記積層体に残留応力が発生し、反り、剥離等の深刻な問題が生じる。これは、前記の支持体を構成する材料と比べ、ポリイミドの線膨張係数が大きいためである。
【0005】
前記積層体における残留応力を低減させるため、熱膨張係数がガラスと同程度まで小さいポリイミド樹脂を用いることが検討されており、熱膨張係数の小さいポリイミド材料としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAとも記す)とパラフェニレンジアミンとから形成されるポリイミドが最もよく知られている。膜厚及び作製条件に依存するものの、このポリイミドは非常に低い線熱膨張係数を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0006】
しかし、上記の文献に記載されたポリイミドを含め、一般的なポリイミド樹脂は、高い電子密度により茶色又は黄色に着色するため、可視光線領域における光透過率が低く、したがって透明性が要求される分野に用いるのに十分に低い黄色度(YI値)を達成することは困難であった。また、線膨張係数の低いポリイミドは一般的に分子の配向性が高いために積層体に濁り及び曇りが発生し易く、透過率を悪化させる原因となることが知られている(特許文献2)。
【0007】
一般的に黄色度(YI値)については、例えばトリフルオロメチル基を有するジアミンを用いた溶媒可溶性のポリイミドや脂環式のテトラカルボン酸二無水物もしくはジアミンを用いたポリイミドが、極めて低い黄色度(YI値)および残留応力を示すことが知られている(特許文献3および特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/113647号
【特許文献2】特許第6443579号公報
【特許文献3】国際公開第2019/211972号
【特許文献4】国際公開第2020/138360号
【特許文献5】特許第4303623号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「最新ポリイミド -基礎と応用-」、日本ポリイミド研究会編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、ポリイミド樹脂を無色透明フレキシブル基板として適用するためには、優れた熱特性および透明性という、相反する特性の両立が求められる。特に最近では、これらの性能の他に、フレキシブルデバイス用の基板として用いるのに十分な折曲耐性を有するポリイミド樹脂の開発が望まれている。
【0011】
一般的なポリイミドである、特許文献1に記載されたポリイミド樹脂は、低い線熱膨張係数を示したものの、400℃以上のLTPS工程で使用するには透明性が十分ではない。また、特許文献2に記載されたポリイミドは特定のテトラカルボン酸二無水物とジアミンを用いることで線膨張係数(以下、「CTE」とも記す。)及び透明性に優れることが報告されているが、400℃以上の加熱において積層体に濁り及び曇りが生じ、透明基板として使用するには曇り度(以下、「Haze値」とも記す)が十分ではない。
【0012】
さらに、公知の技術思想として、透明性を達成するためには、特許文献3に記載されているように、芳香環を持たない脂環式の酸二無水物、若しくはジアミンを用いること、又は、分子内に嵩高く分子内のねじれを誘起する官能基を持つジアミン(例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、以下TFMBとも記す)を用いることで、分子内CT遷移を抑制する方法が知られている。しかしながら、これら透明性に優れるポリイミドはポリアミド酸の状態では耐熱性および熱特性が不十分で、高い透明性を得るため、溶液重合時にイミド化を完了した溶媒可溶性のポリイミド樹脂とする必要があるが、これらのポリイミドはフィルムとした時の線膨張係数が大きく、430℃以上の高温領域での熱安定性に乏しく、溶媒への溶解性も十分とは言えなかった。
【0013】
これら相反する性能である熱特性と透明性を両立するため、ポリイミドとポリアミド酸の混合体もしくは、共重合体から得られるポリイミド共重合系フィルムが検討されているが、これらの樹脂同士は単純に混合させてもフィルム成形加工時に相分離を起こすことが知られており、透明基板としては適切ではなかった(特許文献5)。これは、耐熱性を有するポリイミドは平面性が高く剛直な骨格を有するため、屈曲基を有する溶解可溶性のポリイミドとはフィルム化時に相溶し難く、相分離してしまうことが原因である。さらに、これら剛直な骨格を有するポリイミドは折曲試験を行うと配向が進み、フィルム表面に濁りが生じ、フレキシブルディスプレイの基板として用いた時に視認性が悪化するという問題がある。
【0014】
前記特許文献4では、分子内に部分的にイミド構造とアミド構造を共存させることにより、保存安定性と成型加工性が改善出来ることが開示されている。しかしながら、本発明者らが確認したところ、特許文献4に記載されたポリアミド酸-イミド樹脂組成物は耐熱性に乏しく、LTPS工程の430℃以上の熱履歴では黄色度(YI値)および曇り度(Haze値)が著しく悪化することが分かった。この主たる原因は、ポリイミド及びポリアミド酸のモノマー骨格が共通していることに由来し、ポリイミドとポリアミド酸において共通するモノマー骨格の割合が多いほど、相分離によるHazeの発生は抑制できる一方で、熱特性、機械的な特性(折曲耐性)および透明性という、相反する複数の特性を共立させることは困難であった。
【0015】
そこで、本発明は、このような状況を鑑みて、良好な透明性、耐熱性および折曲耐性を共立したポリイミドブロック共重合系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し実験を重ねた。その結果、特定の散乱パターンを示すポリイミドブロック共重合系フィルムであれば、優れた透明性、曇り度、耐熱性、線膨張係数、折曲耐性を有する事を見出し、これらの知見に基づいて本発明をなすに至った。すなわち、発明は、以下のとおりのものである。
<1>
ポリイミドブロック共重合系高分子を含み、
広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きく、
前記ポリイミドブロック共重合系高分子が、下記一般式(1):
【化1】
{式中、X
1及びX
3は、それぞれ独立に、4価の有機基を表し、X
2及びX
4は、それぞれ独立に、2価の有機基を表し、そしてn及びmは、それぞれ独立に、正の整数であり、
下記構成1,2を除く:
構成1.X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X
4が、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X
3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である}
で示される構造単位を含み、かつ
前記X
2として、下記一般式(A-1):
【化2】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される構造を有する、
ポリイミドフィルム。
<2>
小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上である、項目1に記載のポリイミドフィルム。
<3>
前記小角X線散乱測定において、散乱強度I=A×q
-B式により算出される乗数Bが、0.04<q<0.05の範囲において、3.6以下である、項目1または項目2に記載のポリイミドフィルム。
<4>
曇り度(Haze値)が1.0%以下である、項目1~3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<5>
前記結晶化度が0.21よりも小さい、項目1~4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<6>
前記一般式(1)中、前記X
3が、下記一般式(A-3):
【化3】
{式中、R
4~R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、d~gは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
1は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)由来の構造から成る群から選択される少なくとも1種である、項目1~5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<7>
前記一般式(1)中、前記X
3が、下記一般式(A-3):
【化4】
{式中、R
4~R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、d~gは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
1は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造である、項目1~6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<8>
上記一般式(1)中のX
4が、下記一般式(A-4):
【化5】
{式中、R
8~R
11は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、h~kは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
2は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び下記一般式(A-5):
【化6】
{式中、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、l及びmは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示し、但し前記X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、一般式(A-5)は、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンに由来する基を除く}
で表される構造から成る群から選択される少なくとも1種である、項目1~7のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<9>
上記一般式(1)中のX
1が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)由来の構造を含む、項目1~8のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<10>
上記一般式(1)中に含まれるX
1とX
2のモル比(X
2/X
1)が、0.84~1.00であり、かつ、上記一般式(2)に含まれるX
3とX
4(X
4/X
3)のモル比が、1.01~2.00である、項目1~9のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<11>
上記一般式(1)中のX
1及びX
2から構成されるポリイミドの構成単位とX
3及びX
4から構成されるポリイミドの構成単位のモル比(構成単位Nのモル数:構成単位Mのモル数)が、60:40~95:5の範囲である、項目1~10のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
<12>
ポリアミド酸-イミド共重合体であって、下記一般式(2):
【化7】
{式中、X
1およびX
3は、4価の有機基を表し、X
2およびX
4は、2価の有機基を表し、n、m、及びlは、正の整数であり、X
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Nと呼び、そしてX
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Mと呼び、
下記構成1,2を除く:
構成1.X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X
4が4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X
3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である}
で示される構造単位Lを含み、
前記ポリアミド酸-イミド共重合体はキュアされると小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、かつ広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きいことを特徴とし、
上記一般式(2)中のX
2が、下記一般式(A-1):
【化8】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される構造を有し、
上記一般式(2)中のX
2を構成するジアミン成分とX
4を構成するジアミン成分とが、ジアミン組成、又はジアミン種のいずれかが異なる、
ポリアミド酸-イミド共重合体。
<13>
上記一般式(2)中のX
3が、下記一般式(A-3):
【化9】
{式中、R
4~R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、d~gは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
1は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)由来の構造から成る群から選択される少なくとも1種である、項目12に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
<14>
上記一般式(2)中のX
3が、上記一般式(A-3)で表される構造である、項目13に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
<15>
上記一般式(2)中のX
4が、下記一般式(A-4):
【化10】
{式中、R
8~R
11は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、h~kは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
2は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、及び下記一般式(A-5):
【化11】
{式中、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、l及びmは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示し、但し前記X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、一般式(A-5)は、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンに由来する基を除く}
で表される構造から成る群から選択される少なくとも1種である、項目12~14のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
<16>
上記一般式(2)中のX
1が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)由来の構造を含む、項目12~15のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
<17>
上記一般式(2)中に含まれるX
1とX
2のモル比(X
2/X
1)が、0.84~1.00であり、かつ上記一般式(2)に含まれるX
3とX
4(X
4/X
3)のモル比が、1.01~2.00である、項目12~16のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
<18>
上記一般式(2)中のX
1及びX
2から構成されるポリアミド酸の構成単位とX
3及びX
4から構成されるポリイミドの構成単位のモル比(構成単位Nのモル数:構成単位Mのモル数)が、60:40~95:5の範囲である、項目12~17のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体。
<19>
項目12~18のいずれか1項に記載のポリアミド酸-イミド共重合体と、(d)有機溶剤とを含有する、樹脂組成物。
<20>
前記樹脂組成物に含まれる全ポリマーのうち、X
1とX
2から構成されるポリアミド酸の構造単位Mの比率が、60~95モル%である、項目19に記載の樹脂組成物。
<21>
更に、(e)イミド化触媒を含む、項目19又は20に記載の樹脂組成物。
<22>
前記(e)イミド化触媒が、1-メチルイミダゾールもしくは、N-Boc-イミダゾールを含む、項目21に記載の樹脂組成物。
<23>
ポリイミドブロック共重合系高分子の製造方法であって、
ポリアミド酸-イミド共重合体を原料として使用し、
前記ポリアミド酸-イミド共重合体は、下記一般式(2):
【化12】
{式中、X
1およびX
3は、4価の有機基を表し、X
2およびX
4は、2価の有機基を表し、n、m、及びlは、正の整数であり、X
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位N、そしてX
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Mと呼び、
下記構成1,2を除く:
構成1.X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X
4が4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X
3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である}
で示される構造単位Lを含み、
前記ポリイミドブロック共重合系高分子は、小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、かつ広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きく、
上記一般式(2)中のX
2が、下記一般式(A-1):
【化13】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される構造を有する、
ポリイミドブロック共重合系高分子の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な透明性、耐熱性および折曲耐性を共立したポリイミドブロック共重合系フィルム、並びにその原料、樹脂組成物および製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1-1及び比較例4の1次元WAXSプロフィールである。
【
図2】WAXSピークフィッティングにおける結晶ピーク及び非晶ピークの一例である。
【
図3】実施例1-1及び比較例3のSAXS散乱強度Iと散乱ベクトルqの関係から乗数Bを算出するためのグラフである。
【
図4】実施例1-1及び比較例2のSAXSにおいて、結晶長周期dを算出するために、qに対してIq^2をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の例示の実施の形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、本開示で記載する特性値は、特記がない限り、[実施例]の項において記載する方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値であることを意図する。
【0020】
<樹脂組成物>
まず、本実施形態のポリイミドブロック共重合系高分子を含むポリイミドフィルムを形成するためのポリアミド酸-イミドブロック共重合系樹脂組成物について説明する。本実施形態に係るポリアミド酸-イミドブロック共重合系樹脂組成物は、ポリアミド酸-イミドブロック共重合体を含む。
【0021】
本発明の一態様が提供するポリアミド酸-イミドブロック共重合系樹脂組成物は、(a)ポリアミド酸および(b)ポリイミドを含む、(c)ポリアミド酸-イミド共重合体、及び(d)有機溶剤、及び(e)イミド化触媒を含有する。
【0022】
以下、各成分を順に説明する。
【0023】
本開示の第一の実施形態は、下記一般式(2):
【化14】
{式中、X
1及びX
3は、それぞれ独立に、4価の有機基を表し、X
2及びX
4は、それぞれ独立に、2価の有機基を表し、n、m及びlは、それぞれ独立に、正の整数であり、X
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Nと呼び、そしてX
1及びX
2から構成される構造単位を構造単位Mと呼ぶ}
で示される構造単位Lを含むポリアミド酸-イミド共重合体を提供する。
【0024】
上記一般式(2)中のX
2は、得られるポリイミドブロック共重合系フィルムまたはポリイミドフィルムの曇り度の観点から、下記一般式(A-1):
【化15】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される構造を有することが好ましい。
【0025】
第一の実施形態に係るポリアミド酸-イミド共重合体はキュア(硬化)されると、後述されるポリイミドブロック共重合系高分子と同様に、小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、かつ/又は広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きいことを特徴とする。
【0026】
第一の実施形態に係るポリアミド酸-イミド共重合体(以下、ポリイミド前駆体ということがある)は、ポリイミドフィルムとしたときに線膨張係数が低く、残留応力が低く、曇り度(Haze値)および黄色度(YI値)が小さい。また、第一の実施形態に係るポリアミド酸-イミド共重合体は、ポリイミドフィルムとしたときに、高温領域での黄色度(YI値)が小さく、曇り度(Haze値)が小さく、折曲耐性に優れる。このような観点から、ポリアミド酸-イミド共重合体は、下記構成1,2を除くことが好ましい:
構成1.X3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X4が、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である。
【0027】
(a)<ポリアミド酸部の実施形態>
本発明のポリアミド酸-イミド共重合体を構成するポリアミド酸部分は、前記一般式(2)中の構造単位Nで示される部分である。
【0028】
前記一般式(2)中、X1は、4価の有機基であり、ポリイミド前駆体中に存在する複数のX1は互いに同一であっても異なっていてもよい。X1としては、下記のテトラカルボン酸二無水物に由来する4価の有機基が例示される。
【0029】
上記のテトラカルボン酸二無水物としては、炭素数が8~36の芳香族テトラカルボン酸二無水物、炭素数が6~50の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、及び炭素数が6~36の脂環式テトラカルボン酸二無水物を例示することができる。この中で、高温領域での黄色度の観点から炭素数が8~36の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ここでいう炭素数には、カルボキシル基に含まれる炭素の数も含む。
【0030】
上記の炭素数が8~36の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(以下、6FDAとも記す)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-シクロヘキセン-1,2ジカルボン酸無水物、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAとも記す)、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAとも記す)、3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(以下、DSDAとも記す)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、メチレン-4,4ジフタル酸二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-トリメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,4-テトラメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,5-ペンタメチレン-4,4’-ジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAとも記す)、P-フェニレンビス(トリメリテート酸無水物)(以下、TAHQとも記す)チオ-4,4’-ジフタル酸二無水物、スルホニル-4,4’-ジフタル酸二無水物、1,3-ビス(3,-ジカルボキシフェニル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,3-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、1,4-ビス[2-(3,4-ジカルボキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン二無水物、ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]メタン二無水物、2,2-ビス[3-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジメチルシラン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等を例示することができる。
【0031】
炭素数が6~50の脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばエチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0032】
炭素数が6~36の脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物(以下、CPODAとも記す)、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、カルボニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、メチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-12-ジカルボン酸)二無水物、1,2-エチレン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、1,1-エチリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、2,2-プロピリデン-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、オキシ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、チオ-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、スルホニル-4,4’-ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)二無水物、ビシクロ[2,2,2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、REL-[1S,5R,6R]-3-オキサビシクロ[3,2]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’ジオン)、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、エチレングリコール-ビス-3,4-ジカルボン酸無水物フェニル)エーテル等が挙げられる。
【0033】
好ましい一態様において、X1は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、及びシクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物(CPODA)から成る群から選択される少なくとも1種に由来する。
【0034】
線膨張係数(CTE)、耐薬品性、ガラス転移温度(Tg)、及び高温領域での黄色度のバランスの観点から、PMDA、BPDA、DSDA、TAHQ、ODPA、CPODAが好ましく、BPDA、TAHQ、ODPAが好ましく、BPDAがさらに好ましい。
【0035】
本実施形態におけるポリイミド前駆体は、その性能を損なわない範囲で、前述のテトラカルボン酸二無水物に加えてジカルボン酸を使用して得られたものでもよい。このような前駆体を使用することにより、得られるフィルムにおいて、機械伸度の向上、ガラス転移温度の向上、黄色度の低減等の諸性能を調整することができる。そのようなジカルボン酸として、芳香環を有するジカルボン酸及び脂環式ジカルボン酸が挙げられる。特に炭素数が8~36の芳香族ジカルボン酸、及び炭素数が6~34の脂環式ジカルボン酸から成る群から選択される少なくとも1つの化合物が好ましい。ここでいう炭素数は、カルボキシル基に含まれる炭素の数も含む。これらのうち、芳香環を有するジカルボン酸が好ましい。
【0036】
具体的には、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-スルホニルビス安息香酸、3,4’-スルホニルビス安息香酸、3,3’-スルホニルビス安息香酸、4,4’-オキシビス安息香酸、3,4’-オキシビス安息香酸、3,3’-オキシビス安息香酸、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-カルボキシフェニル)プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,2’-ジメチル-3,3’-ビフェニルジカルボン酸、9,9-ビス(4-(4-カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-カルボキシフェノキシ)フェニル)フルオレン、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(3―カルボキシフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、4,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,4’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,3’-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、4,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,3’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-p-ターフェニル、3,4’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、3,3’-ビス(3-カルボキシフェノキシ)-m-ターフェニル、1,1-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’-ベンゾフェノンジカルボン酸、1,3-フェニレン二酢酸、1,4-フェニレン二酢酸等;及び国際公開第2005/068535号パンフレットに記載の5-アミノイソフタル酸誘導体等が挙げられる。これらジカルボン酸をポリマーに実際に共重合させる場合には、塩化チオニル等から誘導される酸クロリド体、活性エステル体等の形で使用してもよい。
【0037】
上記一般式(2)中、X2は、2価の有機基であり、好ましくは、下記一般式(A-1)および下記一般式(B-1)で示される構造、又はBAFL、BFAF、BAOFL、44DAS、及び33DASに由来する構造である。X2としては、高温領域での黄色度(YI値)の観点から4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエートに由来する構造が好ましく、曇り度(HAZE値)の観点から、4-アミノ-3-フルオロフェニル-4-アミノベンゾエート(APAB)、パラフェニレンジアミン(pPD)、BAFL、及びBFAFに由来する構造が好ましい。
【0038】
一般式(2)中のX
2の構造は、一態様において、下記一般式(A-1):
【化16】
{式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、a及びbは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示す}
で表される。X
2として式(A-1)で表される構造を用いて得られるポリイミドブロック共重合系高分子又はポリイミドフィルムは、曇り度に優れる傾向がある。
【0039】
ここで、R1及びR2は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、水素、若しくはハロゲンであれば限定されない。このような有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、水素、もしくはフッ素などが挙げられる。この中で、高温領域での黄色度(YI値)の観点から、水素、フェニル基が好ましく、曇り度(Haze値)の観点から水素、メチル基、フッ素が好ましい。
【0040】
ここで、a及びbは、それぞれ、0~4の整数であれば限定されない。この中で、黄色度(YI値)、及び残留応力の観点から、0~2の整数が好ましく、高温領域での黄色度(YI値)の観点から、0が特に好ましい。
【0041】
一般式(A-1)で表される構造単位は、一態様において下記一般式(B-1):
【化17】
{式中、R
1、R
2、a及びbは、一般式(A-1)と同様に定義される。}
で表されるジアミンに由来する。
【0042】
一般式(B-1)で表されるジアミンとして、より具体的には、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(以下、APABとも記す)、2-メチル-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(以下、2Me-APABとも記す)、3-メチル-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(以下、3Me-APABとも記す)、2-フルオロ-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(以下、2F-APABとも記す)、3-フルオロ-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(以下、3F-APABとも記す)、3-メチル-4-アミノフェニル-3-メチル-4-アミノベンゾエート(以下、3,3Me-APABとも記す)、などを例示することができ、高温領域での黄色度(YI値)の観点から、APABが好ましく、曇り度(Haze値)が小さくなる観点から、APAB、3Me-APAB、3F-APABが好ましい。
【0043】
第一、第二の実施形態におけるポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド酸-イミド共重合体、ポリイミド共重合体は、それぞれ、黄色度、曇り度、残留応力等を損なわない範囲で、前述した一般式(B-1)で表されるジアミンだけでなく、その他のジアミンも用いることができる。
【0044】
その他のジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン、等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。全ジアミン中の、上記その他ジアミンの含有量は、20モル%以下が好ましく、10モル%以下が特に好ましい。一方、シリコーン系ジアミンは含まないことが、高温での耐熱性の観点から好ましい。例えば、市販品として入手可能な、信越化学工業株式会社製の「X-22-9409」、「X-22-1660B-3」等が挙げられる。
【0045】
本実施形態における上記一般式(2)に含まれるポリアミド酸中のX1とX2のモル比(X2/X1)は、0.84~1.00又は0.85~1.2が好ましく、0.90~1.1がより好ましく、0.92~1,00が更に好ましい。X2/X1が0.84以上あると、残留応力が低く、YIが低くなる。X2/X1が1.2以下又は1.00以下であると伸度、破断強度等の機械的特性に優れる。
【0046】
本実施形態におけるポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は、1,000~300,000が好ましく、10,000~200,000が特に好ましい。重量平均分子量が10,000以上であると、伸度、破断強度等の機械的特性に優れ、残留応力が低く、YIが低くなる。重量平均分子量が300,000以下であると、ポリアミド酸の合成時に重量平均分子量をコントロールし易くなり、適度な粘度の樹脂組成物を得ることができ、樹脂組成物の塗布性が良くなる。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCともいう)を用いて、標準ポリスチレン換算値として求められる値である。
【0047】
(b)<ポリイミド部の実施形態>
本発明のポリアミド酸-イミド共重合体を構成するポリイミド部分は、前記一般式(2)中の構造単位Mで示される部分である。
【0048】
前記一般式(2)において、X3は、4価の有機基であり、好ましくは、下記一般式(A-3)で表される構造、または4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)に由来する構造であり、前記<ポリアミド酸部の実施形態>で記載されたテトラカルボン酸二無水物に由来する4価の有機基を用いることが出来る。また、ポリイミド前駆体中に存在する複数のX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、X1と互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
X3としては、高温領域での黄色度(YI値)の観点からBPAFに由来する構造が好ましく、残留応力の観点から、ODPAに由来する構造が好ましい。
【0050】
一般式(2)中のX
3の構造は、一態様において、下記一般式(A-3):
【化18】
{式中、R
4~R
7は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、d~gは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、Z
1は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
で表される構造、又は4,4’-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)に由来する構造である。中でも、X
3として式(A-3)で表される構造を用いて得られるポリイミドブロック共重合系高分子又はポリイミドフィルムは、黄色度と折曲耐性に優れる傾向がある。
【0051】
ここで、R4~R7はそれぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、水素、若しくはハロゲンであれば限定されない。このような有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、水素、もしくはフッ素などが挙げられる。この中で、高温領域での黄色度(YI値)の観点から、水素が好ましく、曇り度(Haze値)の観点から、フッ素が好ましい。
【0052】
ここで、Z1は単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル、ケトンなどが例示できる。この中で、高温領域でのYIの観点から、単結合がより好ましく、残留応力の観点から単結合及びエーテルが好ましい。
【0053】
ここで、d~gは、それぞれ、0~4の整数であれば限定されない。この中で、黄色度(YI値)、及び残留応力の観点から、0~2の整数が好ましく、高温領域での黄色度(YI値)の観点から、0が特に好ましい。
【0054】
一般式(A-2)で表される構造単位は、一態様において下記一般式(B-3):
【化19】
{式中、R
4~R
7、d~g、Z
1は、一般式(A-3)と同様に定義される}
で表される酸二無水物に由来する。
【0055】
一般式(B-3)で表されるジアミンとして、より具体的には、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)、9,9-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二酸無水物(BPF-PA)などを例示することができ、曇り度(Haze値)が小さくなる観点および高温領から、BPAFが好ましく残留応力の観点からBPAFおよびBPF-PAが好ましい。
【0056】
前記一般式(2)において、X4は、2価の有機基であり、好ましくは、下記一般式(A-4)もしくは、(A-5)で示される構造であり、前記<ポリアミド酸部の実施形態>で記載されたジアミンに由来する2価の有機基を用いることが出来る。また、ポリイミド中に存在する複数のX4は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、相反する特性である耐熱性と透明性を両立する観点から、X2とは異なっていることが好ましい。
【0057】
一般式(2)中のX
4の構造は、一態様において、下記一般式(A-4):
【化20】
{式中、R
8~R
11は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、h~kは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そしてZ
2は、結合基を示し、そして*は、結合部を示す}
【0058】
ここで、R8~R11は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、水素、若しくはハロゲンであれば限定されない。このような有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、水素、もしくはフッ素などが挙げられる。この中で、高温領域での黄色度(YI値)の観点から、水素が好ましく、曇り度(Haze値)の観点から、フッ素が好ましい。
【0059】
ここで、h~kは、それぞれ、0~4の整数であれば限定されない。この中で、黄色度(YI値)、及び残留応力の観点から、0~2の整数が好ましく、高温領域での黄色度(YI値)の観点から、0が特に好ましい。
【0060】
Z2は単結合、メチレン基、エチレン基、エーテル、ケトンなどが例示できる。この中で、高温領域でのYIの観点から、単結合がより好ましい。
【0061】
一般式(2)中のX
4の構造は、一態様において、下記一般式(A-5):
【化21】
{式中、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、炭素数1~20の1価の有機基、又はハロゲンを表し、l及びmは、それぞれ独立に、0~4の整数であり、そして*は、結合部を示し、但し前記X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、一般式(A-5)は、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンに由来する基を除く}
で表されるジアミンに由来する。
【0062】
ここで、R12、及びR13は、それぞれ独立に炭素数1~20の1価の有機基であれば限定されない。このような有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、トリフルオロメチル基などのハロゲン含有基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、などが挙げられる。この中で、高温領域でのYIの観点から、メチル基が好ましい。
【0063】
ここで、l、mは0~4の整数であれば限定されない。この中で、YI、残留応力の観点から0~2の整数が好ましく、高温領域でのYIの観点から、0が特に好ましい。
【0064】
一般式(A-4)で表される構造単位は、一態様において下記一般式(B-4):
【化22】
{式中、R
8~R
11及びh~kは、一般式(A-4)と同様に定義される}
で表されるジアミンに由来する。
【0065】
一般式(B-3)で表されるジアミンとして、より具体的には、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(BAFL)、9,9-ビス(3-フルオロ-4-アミノフェニル)フルオレン(BFAF)、9,9-ビス(4-(アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン(BAOFL)などを例示することができ、高温での黄色度(YI値)の観点から、BFAFが好ましく、曇り度(Haze値)が小さくなる観点から、BAFLが好ましい。
【0066】
また、一般式(A-5)で表される構造単位は、一態様において、下記一般式(B-5-1):
【化23】
又は下記一般式(B-5-2):
【化24】
{式中、R
12およびR
13、並びにlおよびmは、一般式(A-5)と同様に定義される}
で表されるジアミンなどに由来する(但し、X
3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X
4は、前記一般式(B-5-1)である場合を除く)。
【0067】
一般式(B-5-1)および(B-5-2)で表されるジアミンとして、より具体的には、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(44DAS)、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(33DAS)を例示することができる。その他のジアミンとして、より具体的には、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホンおよびビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホンなどを例示することができる。高温での黄色度(YI値)の観点から、44DASが好ましく、残留応力が低くなる観点から、33DASが好ましい。
【0068】
本実施形態におけるポリイミドの重量平均分子量(Mw)は、1,000~100,000が好ましく、2,639~80,000がより好ましく、5,000~60,000が特に好ましい。重量平均分子量が1,000以上であると、伸度、破断強度等の機械的特性に優れ、残留応力が低く、YIが低くなる。重量平均分子量が60,000以下であると、ポリアミド酸-イミド共重合フィルムとした時の相分離が抑制され曇り度(HAZE値)が低くなる。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCともいう)を用いて、標準ポリスチレン換算値として求められる値である。
【0069】
本実施形態におけるポリイミドまたはその前駆体では、上記一般式(2)に含まれるX3とX4(X4/X3)のモル比は、0.85~2.0である事が好ましく、0.95~1.5または1.01~2.00である事がより好ましく、1.01~1.25である事がより好ましい。モル比が0.85以上であると、高温領域での耐熱性に優れ、YI値が低くなる。モル比が2.0以下であると、ポリアミド酸部との反応性が向上し、膜とした時の強度が上昇するため、伸度、破断強度等の機械特性に優れる。
【0070】
本実施形態におけるポリイミドまたはその前駆体の、分子量1,000未満の分子の含有量は、ポリアミド酸-イミド共重合体とした時に、前記共重合体の全量に対して、5質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることが更に好ましく、0.1質量%未満がより好ましい。このようなポリアミド酸-イミド共重合体を用いて得られる樹脂組成物から形成されるポリイミドフィルムは残留応力が低く、該ポリイミドフィルム上に形成した曇り度(Haze値)が低くなる。ポリアミド酸-イミド共重合体の全量に対する分子量1,000未満の分子の含有量は、該ポリイミドを溶解した溶液を用いてGPC測定を行って得られるピーク面積から算出することができる。
【0071】
第一の態様および第二の態様におけるポリイミド前駆体には、伸度、強度、応力、及び黄色度等を損なわない範囲で、前述した一般式(B-1)~(B-5-2)で表されるジアミン、の他に、他のジアミンを用いることができる。その他のジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2ービス〔4-(4ーアミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン、等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0072】
全ジアミン中の、上記その他ジアミンの含有量は、20モル%以下が好ましく、1 0モル%以下が特に好ましい。こちらもX2と同様にシリコーン系ジアミンは含まないことが、高温での耐熱性の観点から好ましい。
【0073】
(c)<ポリアミド酸-イミド共重合体の実施形態>
本発明のポリアミド酸-イミド共重合体は、前記一般式(2)で示されるポリアミド酸部分である構造単位Mと、ポリイミド部分である構造単位Nを含む構造単位Lを含むが、その具体的な実施形態について以下に示す。
【0074】
前記ポリアミド酸部のジアミン(X2)と前記ポリイミド部のジアミン(X4)は、同一の組成、もしくはジアミン種であってもよく異なる組成、もしくはジアミン種であってもよい。ここでいう「同一の組成」とは、ポリアミド酸部で用いられるジアミンが1種類以上から構成される場合、ポリイミド部のジアミンは全く同一の組成である。一方、ここでいう「異なる組成」とは、ポリアミド酸部で用いられるジアミンが1種類以上から構成される場合、ポリイミド部のジアミンは全く同一の組成ではなく、異なるジアミンから構成されるか、同一のジアミンを用いていたとしても比率は異なることを意味する。
【0075】
本発明の一態様におけるポリアミド酸部の役割としては、高温領域での高い熱安定性、優れる寸法安定性を持つことであり、分子平面性が高く、ポリイミドとした時の高温での耐熱性が高い骨格が好ましい。
【0076】
前記ポリアミド酸部の酸二無水物(X1)としては、(a)<ポリアミド酸部の実施形態>で示したとおり、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、及びシクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物(CPODA)から成る群から選択される少なくとも1種に由来する。
【0077】
線膨張係数(CTE)、耐薬品性、ガラス転移温度(Tg)、及び高温領域での黄色度のバランスの観点から、PMDA、BPDA、DSDA、TAHQ、ODPA、CPODAが好ましく、BPDA、TAHQ、ODPAがより好ましく、BPDAがさらに好ましい。X1としては、上記で示される酸二無水物の他に、その性能を損なわない範囲で、前述のテトラカルボン酸二無水物に加えてジカルボン酸を使用して得られたものでもよい。また、その他のテトラカルボン酸二無水物を加えてもよいが、芳香族テトラカルボン酸二無水物もしくは芳香族ジカルボン酸に由来する骨格であることが好ましい。また、X1におけるその他の酸二無水物、およびジカルボン酸の割合は、20モル%以下である事が好ましく、10モル%以下であることが好ましい。
【0078】
前記ポリアミド酸部のジアミン(X2)としては、(4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(APAB)、2-メチル-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、3-メチル-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、2-フルオロ-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(2F-APAB)、3-フルオロ-4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(3F-APAB)、3-メチル-4-アミノフェニル-3-メチル-4-アミノベンゾエート、(2-フェニルー4-アミノフェニル)-4-アミノベンゾエート(ph-APAB)から成る群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、線膨張係数(CTE)、耐薬品性、ガラス転移温度(Tg)、及び高温領域での黄色度のバランスの観点から、APAB、2F-APAB、3F-APAB、Ph-APABが好ましく、APABがより好ましい。X2としては、上記で示される酸二無水物の他に、その性能を損なわない範囲で、その他のジアミンを加えてもよいが、シクロヘキサン環やシクロペンタン環を含まず、芳香族ジアミンであることが好ましい。X2におけるその他のジアミンの割合は、20モル%以下である事が好ましく、10モル%以下であることが好ましい。つまり、前記イミド部分のジアミン(X4)としては、上記に示される構造を含まないことが好ましいが、全くの同一組成でなければその限りではない。
【0079】
本発明の一態様におけるイミド部の役割としては、高温領域での高い熱安定性、優れる光学特性、溶媒への高い溶解性、を有する骨格が好ましい。
【0080】
前記ポリイミド部の酸二無水物(X3)としては、(b)<ポリイミド部の実施形態>で示したとおり、テトラカルボン酸二無水物に由来する4価の有機基を用いることが出来る。また、ポリイミド前駆体中に存在する複数のX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、X1と互いに同一であっても異なっていてもよい。X3としては、高温領域での優れる黄色度(YI値)および曇り度(Haze値)の観点からBPAFに由来する構造を含むことが好ましく、残留応力の観点から、ODPAに由来する構造が好ましい。BPAFに由来する骨格を用いる場合、高温領域での熱安定性を改善することを目的にPMDA、BPDA、DSDA、TAHQ、ODPAから選ばれる骨格を同時に用いることが出来る。その中でも、BPDA、TAHQから選ばれる骨格を含むことがより好ましい。X3におけるBPAFの割合は、40モル%以上が好ましく、50モル%以上が好ましく、70モル%以上でより好ましく、100モル%でもよい。
【0081】
前記イミド部のジアミンとしては、(b)<ポリイミド部の実施形態>で示したとおり、ジアミンに由来する2価の有機基を用いることが出来る。また、ポリイミド前駆体中に存在する複数のX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、X1と互いに同一であっても異なっていてもよいが、全く同一であってはならない。X3としては、44BAFL、33BAFL、BFAF、BAOFL、BAHF、33DAS、44DASから選ばれる群から選択される少なくとも1種である事が好ましく、線膨張係数(CTE)、耐薬品性、ガラス転移温度(Tg)、及び高温領域での黄色度のバランスの観点から、44BAFL、33BAFL、BFAF、BAOFL、33DAS、44DASがより好ましく、44BAFL、BFAF、33DAS、44DASがさらに好ましい。
【0082】
本実施形態における前記ポリアミド酸-イミド共重合体は、X1およびX2から構成されるポリアミド酸部とX3およびX4から構成されるポリイミド部を含み、前記ポリアミド酸の構成単位と前記ポリイミドの構成単位のモル比(構成単位Nのモル数:構成単位Mのモル数)の上限は、95:5でもよく、90:10でもよく、85:15でもよく、80:20でもよいが、残留応力と曇り度(Haze値)の観点から5/95である事が好ましく、黄色度(YI値)の観点から80:20がより好ましい。前記ポリアミド酸の構成単位と前記ポリイミドの構成単位のモル比(構成単位Nのモル数:構成単位Mのモル数)の下限は、30:70でもよく、40:60でもよく、50:50でもよいが、残留応力と黄色度(YI値)を共立する観点から40:60である事が好ましい。
【0083】
本実施形態におけるポリアミド酸-イミド共重合体(構造単位L)の重量平均分子量(Mw)は、2,639~300,000が好ましく、10,000~250,000がより好ましく、20,000~200,000がさらに好ましく、40,000~200,000が特に好ましい。重量平均分子量が2,639以上であると、伸度、破断強度等の機械的特性に優れ、残留応力が低く、YIが低くなる。重量平均分子量が200,000以下であると、ポリアミド酸-イミド共重合体ワニスの粘度と濃度のバランスが良く、加工性が良く、塗工時の膜ムラが小さくなる。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCともいう)を用いて、標準ポリスチレン換算値として求められる値である。
【0084】
(d)有機溶剤
本実施形態における(d)有機溶剤は、上述した(a)ポリアミド酸、(b)ポリイミド、(c)ポリアミド酸-イミド共重合体及び任意的に使用されるその他の成分を溶解できるものであれば特に制限はない。
【0085】
このような(d)有機溶剤の具体的な例としては、例えば、非プロトン性溶媒、フェノ-ル系溶媒、エーテル及びグリコ-ル系溶媒等が挙げられる。これらの具体例としては、前記非プロトン性溶媒として、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素、エクアミドM100(商品名:出光興産社製)、エクアミドB100(商品名:出光興産社製)、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ピコリン、ピリジン、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)、フェノ-ル、o-クレゾ-ル、m-クレゾ-ル、p-クレゾ-ル、2,3-キシレノ-ル、2,4-キシレノ-ル、2,5-キシレノ-ル、2,6-キシレノ-ル、3,4-キシレノ-ル、3,5-キシレノ-ル等が:前記エ-テル及びグリコ-ル系溶媒として、例えば、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エ-テル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エ-テル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどが挙げられるが、ポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド酸-イミド共重合体の溶解性の観点からNMP、GBL、DMF、DMAcから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0086】
[その他の成分]
本実施形態の樹脂組成物は、上記(a)、(b)、(c)及び(d)成分の他に、(e)イミド化触媒等を、更に含有していてもよい。
【0087】
一方で、曇り度(Haze値)を悪化させない観点から、樹脂組成物は、無機粒子は含まないことが好ましい。無機粒子としては、ケイ素原子を含む粒子が挙げられ、該ケイ素原子を含む粒子としては、シリカ粒子が挙げられる。
【0088】
((e)イミド化触媒)
本実施形態に係る樹脂組成物からイミド化によりポリイミド樹脂フィルムを得る工程において、樹脂組成物にイミド化触媒を加えることが出来る。
【0089】
当該樹脂組成物は、(c)ポリアミド酸-イミド共重合体の繰り返し単位1モルに対し、イミド化触媒を0.01~0.5モル%を含有することができる。ポリアミド酸-イミド共重合体の繰り返し単位1モルに対するイミド化触媒の含有量が0.01モル%以上であることにより、フィルムの黄色度(YI値)を抑制することが出来る。またイミド化触媒の含有量が0.5モル%以下であることが、樹脂組成物の保存安定性の観点から好ましい。イミド化触媒の含有量は、ポリアミド酸-イミド共重合体の繰り返し単位1モルに対し、0.01~0、5モル%であることがより好ましく、0.02~0、5モル%であることが更に好ましく、0.02~0、15モル%であることが特に好ましい。
【0090】
イミド化触媒としては、特に限定されないが、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾールなどが挙げられる。1,2-ジメチ
ルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、イミダゾールなどが好ましく、1,2-ジメチルイミダゾール、N-tert-ブトキシカルボニルイミダゾール(N-Boc-イミダゾール)、1-メチルイミダゾールが特に好ましく、保存安定性の観点からN-Boc-イミダゾールが好ましく、高温での黄色度(YI値)の観点から1-メチルイミダゾールが好ましく、両方を同時に用いてもよい。
【0091】
[ポリアミド酸-イミド共重合体の製造方法]
本発明のポリアミド酸、ポリイミド、ポリアミド酸-イミド共重合体は、以下の工程により合成することが可能である。ポリアミド酸-イミド共重合体の製造方法は、例えば、下記工程1~工程3を有する:
工程1:前記一般式(2)を構成するポリアミド酸部のテトラカルボン酸二無水物成分(X3)と、ジアミン成分(X4)とを反応させ、溶媒可溶性のポリイミド溶液を得る工程
工程2:工程1で得られたポリイミドに対し、前記一般式(2)中のポリアミド酸部のジアミン(X2)を溶解させる工程
工程3:工程2で得られた溶液に対し、前記一般式(2)を構成するポリアミド酸部(X1)のテトラカルボン酸二無水物成分を反応させ、ポリアミド酸-イミド共重体を得る工程。
【0092】
まず工程1から順に具体的な実施例について述べる。工程1においては前記一般式(2)中のポリイミド部を合成する工程である。前記一般式(2)中のポリイミド部のジアミン(例えば、44BAFL)と、テトラカルボン酸二無水物(例えば、BPAF)とを、重縮合反応させることにより、合成することができる。この反応は、イミド化時に発生する水を除去する反応容器を用い、モノマー及び精製するポリイミドを溶解することが出来る溶媒中で行うことが好ましい。具体的には、例えば、還流管及びディーンスターク管を備えたセパラブルフラスコに所定量のBAFLとNMPを加え、BAFLを完全に溶解させた後、所定量のBPAF、水の共沸溶媒としてトルエンを加え、180℃まで加熱し、攪拌する方法があげられる。180℃で加熱中に発生した水および共沸溶媒としてのトルエンは適宜容器外へ排出することが好ましい。
【0093】
前記ポリイミド前を合成する時の、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分の比(モル比)は、得られる樹脂フィルムの熱線膨張率、残留応力、伸度、及び黄色度(以下、YIともいう)を所望の範囲にコントロールするとの観点から、テトラカルボン酸二無水物:ジアミン=100:85~100:200(テトラカルボン酸二無水物1モル部に対してジアミン0.85~2.00モル部)の範囲とすることが好ましく、100:101~100:125(酸二無水物1モル部に対してジアミン1.01~1.25モル部)の範囲とすることが更に好ましい。上記の範囲とすることにより、ポリアミド酸との反応が起き易くなり、曇り度(Haze値)が低下する点で好ましい。
【0094】
反応温度としては、イミド化と水の除去を両立する観点から、140℃以上が好ましく、160℃がより好ましい。また、溶媒の分解による着色、およびモノマーとの反応を抑制する観点から200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、反応終了後は速やかに100℃以下とすることが好ましい。
【0095】
反応時間としては、分子量を増加させる観点から2時間以上が好ましく、3時間以上が好ましい。一方で、溶媒の分解による着色、およびモノマーとの反応を抑制する観点から12時間以下が好ましく、6時間以下が好ましい。
【0096】
次に、工程2について述べる。工程2は、前記工程1で得られたポリイミドに対し、前記一般式(2)中のポリアミド酸部のジアミン(X2)を溶解させる工程である。工程1においてポリイミドを合成した後、所定量のジアミン(例えば、APAB)とNMPを加え十分に攪拌し、ジアミンを溶解させる。最終的に得られるポリイミド共重合体フィルムの熱線膨張率、残留応力、伸度、及び黄色度(以下、YIともいう)を所望の範囲にコントロールするとの観点から、ポリイミド部のテトラカルボン酸二無水物に由来する成分(X3):ポリイミド部およびポリアミド酸部のジアミン成分に由来する成分(X2とX4)=100:150~100:3000(テトラカルボン酸二無水物1モル部に対してジアミン1.50~30モル部)の範囲とすることが好ましく、100:225~100:2000(テトラカルボン酸二無水物1モル部に対してジアミン2.25~30モル部)の範囲とすることがさらに好ましい。上記の範囲とすることで、工程3においてテトラカルボン酸二無水物を反応させる際の反応均一性が高まり、分子量分布が2.00に近く、分子量1,000以下のオリゴマーの割合が少ないポリアミド酸-イミド共重合体が得られ、フィルムとした時の高温領域での熱安定性が向上する。
【0097】
ジアミンを溶解させる温度としては、ジアミンの溶解性を高め、均一性を向上させる観点から、40℃以上が好ましく、60℃以上がさらに好ましい。一方で、溶媒との副反応による着色を抑制する観点から、120℃以下とすることが好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0098】
次に、工程3について述べる。工程3は、前記工程2のポリイミドとジアミンが溶解した溶液に対し、前記一般式(2)中のポリアミド酸部のテトラカルボン酸二無水物を加え、重縮合反応させることにより、ポリアミド酸-イミド共重合体を合成することができる。
【0099】
前記ポリアミド酸-イミド共重合体を合成する時の、ポリアミド酸部のテトラカルボン酸二無水物成分(X1)とジアミン成分(X2)のモル比(X2/X1)は、得られる樹脂フィルムの熱線膨張率、残留応力、伸度、及び黄色度(以下、YIともいう)を所望の範囲にコントロールするとの観点から、0.85~1.2が好ましく、0.90~1.1がより好ましく、0.92~1,00が好ましい。上記の範囲とすることにより、ポリイミドとの反応が起き易くなり、曇り度(Haze値)が低下する点で好ましい。
【0100】
また、前記ポリアミド酸-イミド共重合体を合成する時の、ポリイミド部のテトラカルボン酸二無水物成分(X3)とジアミン成分(X4)のモル比(X4/X3)は、得られる樹脂フィルムの熱線膨張率、残留応力、伸度、及び黄色度(以下、YIともいう)を所望の範囲にコントロールするとの観点から、0.85~2.0の範囲である事が好ましく、0.95~1.5の範囲である事がより好ましく、1.01~1.25の範囲である事がより好ましい。上記の範囲とすることにより、高温での耐熱性が向上し、加熱時の分解反応が抑制され、黄色度(YI値)、曇り度(Haze値)が低下する点で好ましい。
【0101】
また、前記ポリアミド酸-イミド共重合体を合成する時の、ポリアミド酸およびポリイミド部のテトラカルボン酸二無水物成分(X1とX3)とジアミン成分(X2とX4)のモル比((X2のモル数+X4のモル数)/(X1のモル数+X3のモル数))は、得られる樹脂フィルムの熱線膨張率、残留応力、伸度、及び黄色度(以下、YIともいう)を所望の範囲にコントロールするとの観点から、0.92~1.05の範囲とすることが好ましく、0.94~01.00の範囲とすることが更に好ましい。上記の範囲とすることにより、ポリアミド酸-イミド共重合体の分子量が向上し易く、樹脂組成物として加工性が向上し、フィルムを作製する際の塗工ムラが抑制でき、曇り度(Haze値)が低下する点で好ましい。また、ポリアミド酸-イミド共重合体の末端アミンが減少し、加熱時の分解反応が抑制され、高温領域での熱安定性が向上し、黄色度(YI値)が低くなる。
【0102】
本実施の態様において、好ましいポリアミド酸-イミド共重合体を合成する際には、分子量を、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分との比の調整、及び末端封止剤の添加によってコントロールすることが可能である。酸二無水物成分とジアミン成分との比が1:1に近いほど、及び末端封止剤の使用量が少ないほど、ポリイミドの分子量を大きくすることができる。
【0103】
テトラカルボン酸二無水物成分及びジアミン成分として、高純度品を使用することが推奨される。その純度としては、それぞれ、98質量%以上とすることが好ましく、99質量%以上とすることがより好ましく、99.5質量%以上とすることが更に好ましい。複数種類の酸二無水物成分又はジアミン成分を併用する場合には、酸二無水物成分又はジアミン成分の全体として上記の純度を有していれば足りるが、使用する全種類の酸二無水物成分及びジアミン成分が、それぞれ上記の純度を有していることが好ましい。
【0104】
反応の溶媒としては、前記(d)有機溶媒中に示した溶媒を用いることが出来るが、その限りではない。
【0105】
その他の成分として、前記(e)イミド化触媒に記載の化合物を用いることが出来るが、その限りではない。
【0106】
ポリイミドの合成に用いられる溶媒の常圧における沸点は、60~300℃が好ましく、140~280℃がより好ましく、170~270℃が特に好ましい。溶媒の沸点が300℃より高いと、乾燥工程が長時間必要となる。一方で溶媒の沸点が60℃より低いと、乾燥工程中に、樹脂膜の表面における荒れの発生、樹脂膜中への気泡の混入等が起こり、均一なフィルムが得られない場合がある。
【0107】
このように、好ましくは沸点が170~270℃であり、より好ましくは20℃における蒸気圧が250Pa以下である溶媒を使用することが、溶解性及び塗工時エッジはじきの観点から好ましい。より具体的には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、γ-ブチロラクトン(GBL)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)で表される化合物から成る群より選択される1種以上を使用することが好ましく、前記(d)容器溶媒、に記載された溶媒を適宜使用することが出来る。溶媒中の水分含量は、3000質量ppm以下が好ましい。これらの溶媒は、単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0108】
<ポリイミドブロック共重合系高分子>
本実施の第二の態様としては、前述の樹脂組成物に含有されていた(c)ポリアミド酸-イミド共重合体がイミド化されたポリイミドブロック共重合系高分子を含むフィルム(以下、ポリイミドフィルムということがある)である。従って、下記一般式(1):
【化25】
{式中、X
1及びX
3は、それぞれ独立に、4価の有機基を表し、X
2及びX
4は、それぞれ独立に、2価の有機基を表し、n及びmは、それぞれ独立に、正の整数である}
で示される構造単位を含み、かつX
2として上記一般式(A-1)で表される構造を有することを特徴とするポリイミドブロック共重合系高分子を提供できる。
【0109】
一般式(A-1)~(A-5)で表される構造については、<ポリアミド酸-イミド共重合体>と同様に定義される。ポリイミドブロック共重合系高分子は、上記で説明されたポリアミド酸-イミド共重合体と同様の観点から、下記構成1,2を除くことが好ましい:
構成1.X3が9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)に由来する基である場合は、X4が、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、及び/又は2,2’―ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンに由来する基である;
構成2.X3がノルボルナン―2―スピロ―α―シクロペンタノン―α’―スピロ―2’’―ノルボルナン―5,5’’,6,6’’―テトラカルボン酸二無水に由来する基である。
【0110】
本発明のポリイミドブロック共重合系高分子の厚さは、用途に応じて適宜調整されるが、通常、3~500μm、好ましくは5~100μm、より好ましくは8~50μmである。
【0111】
本発明のポリイミドブロック共重合系高分子は、小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、かつ/又は広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きい。結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、かつ/又は結晶化度が0.11よりも大きいことは、ポリイミドブロック共重合系高分子に含まれるポリイミドの結晶性が十分に高く、その結晶ドメイン間距離が十分離れていることを示している。結晶性が高いことは、分子間の相互作用が強く、高温領域での熱安定性、および線膨張係数に優れることを示している。つまり、400℃以上での高温でキュアした際の曇り度(Haze値)及び残留応力に優れるポリイミドであることを示している。また、結晶ドメイン間距離が十分離れていることは、結晶ドメイン間に柔軟な非晶領域が存在していることを示している。この非晶領域の存在により、結晶ドメインの配向、凝集が抑制され、高温領域での透明性(YI値及びHaze値)、及び折曲耐性に優れることを示している。つまり、これら両方の特性を有することは、高温での耐熱性に優れ、透明性が高く、折曲耐性に優れるポリイミドブロック共重合系高分子であることを示している。
【0112】
結晶長周期d(nm)は、折曲試験時に曇り度(Haze値)が悪化しない観点から、12.0nm以上であることが好ましく、12.3nmより大きいことがより好ましく、12.9nmよりも大きいことがより好ましい。また、結晶長周期d(nm)は残留応力が優れる観点から、30.0nmよりも小さいことが好ましく、20nmよりも小さいことが好ましく、18.0nmよりも小さいことが好ましく、17.9nmよりも小さいことがより好ましい。
【0113】
結晶化度は、残留応力に優れる観点から、0.11よりも大きいことが好ましく、0.12よりも大きいことがさらに好ましく、0.13よりも大きいことがさらに好ましい。
【0114】
また、本発明のポリイミドブロック共重合系高分子は、その小角X線散乱測定において、散乱強度I=A×q-B式により算出される乗数Bが、0.04<q<0.05の範囲において、3.6以下である。
【0115】
乗数Bが3.6以下の範囲であることは、マクロ相分離が起こっていないことを示唆し、ポリイミドブロック共重合系高分子に含まれるポリイミド同士が相溶状態にあり、曇り度(Haze値)が小さいことを意味する。つまり、乗数Bが3.6以下のポリイミドブロック共重合系高分子で形成されるフィルムは、曇り度(Haze値)が1.0%以下のフィルムであり、フレキシブルディスプレイの基板として好適に用いることが出来る。一方、乗数Bが3.6よりも大きい場合、小角領域でのフィルムの散乱が大きいことを示している。つまり、ポリイミド同士が部分的に相分離もしくは凝集しており、曇り度(Haze値)が大きいフィルムであり、フレキシブルディスプレイの基板として用いるには不適である。
【0116】
よって、乗数Bの値は、曇り度(Haze値)が優れる観点から、3.6より小さいことが好ましく、3.0よりも小さいことがより好ましく、2.34よりも小さいことが更に好ましく、2.23よりも小さいことが特に好ましい。
また、乗数Bの値は、負の値であってもよく、-3よりも大きくてもよく、-2よりも大きくてもよく、-1よりも大きくてもよく、0より大きくともよい。
【0117】
<ポリイミドの製造方法>
本開示の第三の態様として、ポリイミドの製造方法が提供される。ポリイミドの製造方法は、上記一般式(2)で表される構造を有するポリアミド酸-イミド共重合体を原料またはポリイミド前駆体として使用することを特徴とし、それにより得られるポリイミドは、ブロック共重合系を形成し、小角X線散乱測定において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上で、かつ広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きい。
【0118】
本実施形態に係るポリアミド酸-イミド共重合体、樹脂組成物を用いて製造されるポリイミドブロック共重合系高分子樹脂フィルムは、例えば、半導体絶縁膜、TFT-LCD絶縁膜、電極保護膜等として適用できる他、フレキシブルデバイスの製造において、特に基板として好適に利用することができる。ここで、本実施形態に係る樹脂フィルム及び積層体を適用可能なフレキシブルデバイスとしては、例えば、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル太陽電池、フレキシブルタッチパネル電極基板、フレキシブル照明、フレキシブルバッテリー等を挙げることができる。また、低温ポリシリコンをTFTとして用いる光学デバイスの製造においても、特に好適に用いることが出来る。ここで、本実施形態に係る樹脂フィルム及び積層体を適用可能なフレキシブルデバイスとしては、例えば、ディスプレイ、タッチパネル電極基板等を挙げることが出来る。
【実施例0119】
以下、本発明について、実施例に基づき更に詳述するが、これらは説明のために記述されるものであって、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものではない。
【0120】
実施例及び比較例における各種評価は次のとおりに行った。
【0121】
<重量平均分子量及び数平均分子量の測定>
重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、下記の条件により測定した。
【0122】
溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(富士フイルム和光純薬社製、高速液体クロマトグラフ用、測定直前に24.8mmol/Lの臭化リチウム一水和物(富士フイルム和光純薬社製、純度99.5%)及び63.2mmol/Lのリン酸(富士フイルム和光純薬社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えて溶解したもの)を使用した。重量平均分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリスチレン(Easical Type PS-1、アジレント・テクノロジー社製)を用いて作成した。
装置:HLC-8220GPC(東ソー社製)
カラム:Tsk gel Super HM-H 2本(東ソー社製)
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
検出器:UV-8220(UV-VIS:紫外可視吸光計、東ソー社製)
【0123】
<残留応力の評価>
予め「反り量」を測定しておいた、厚み625μm±25μmの6インチシリコンウェハー上に、各樹脂組成物をスピンコーターにより塗布し、100℃において7分間プリベークした。その後、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、430℃において1時間の加熱硬化処理(キュア処理)を施し、硬化後膜厚10μmのポリイミド樹脂膜のついたシリコンウェハーを作製した。
【0124】
このウェハーの反り量を、残留応力測定装置(テンコール社製、型式名FLX-230)を用いて測定し、シリコンウェハーと樹脂膜との間に生じた残留応力を評価した。
◎:残留応力が-5MPa超15MPa以下(残留応力の評価「優良」)
○:残留応力が15MPa超25MPa以下(残留応力の評価「良好」)
×:残留応力が25MPa超(残留応力の評価「不良」)
【0125】
<黄色度(YI値)及び曇り度(Haze値)の評価>
100mm角(厚さ0.7mm)のイーグルXGガラス上に、各樹脂組成物をスピンコーターにより塗布し、80℃で30分間プリベークした。その後、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、430℃において1時間の加熱硬化処理(キュア処理)を施し、硬化後膜厚10μmのポリイミド樹脂膜のついたガラス基板を作製した。
【0126】
得られたポリイミド付きガラス基板につき、日本電色工業(株)製Spectotometer(SE6000)にてD65光源を用いて黄色度(YI値)を測定し、コニカミノルタ(株)製分光測色計(CM-3600A)にてD65光源を用いて曇り度(Haze値)を測定した。「※」は白化のため測定不可を示す。
◎:YI値が8以上12以下 (YI値の評価「◎」)
○:YI値が12以上15以下 (YI値の評価「〇」)
×:YI値が15以上 (YI値の評価「×」)
◎:Haze値が0.2%以下 (Haze値の評価「◎」)
○:Haze値が0.2%以上0.5%以下 (Haze値の評価「〇」)
△:Haze値が0.5%以上1.0%以下 (Haze値の評価「△」)
×:Haze値が1.0%以上 (Haze値の評価「×」)
【0127】
<折曲耐性の評価>
予めアルミニウム(Al)を約100nmスパッタした厚み625μm±25μmの6インチシリコンウェハー上に、各樹脂組成物をスピンコーターにより塗布し、100℃において7分間プリベークした。その後、庫内の酸素濃度が10質量ppm以下になるように調整して、430℃において1時間の加熱硬化処理(キュア処理)を施し、硬化後膜厚10μmのポリイミド樹脂膜の付いたAlスパッタ膜付きシリコンウェハーを作製した。作成したサンプルを10質量%塩酸水溶液に1日浸漬し、シリコンウェハー上から、ポリイミド樹脂膜を剥離した。剥離したポリイミドフィルムを15mm×100mmの大きさにカットしたものを試験片とした。
【0128】
MIT型繰り返し折り曲げ試験機(MIT-DA、東洋精機製)を用い、作製した試験片に250gの荷重をかけた状態で、折り曲げ半径R2mm、折り曲げ角度135°、速度90回/分の条件で100,000回往復での繰り返し折曲げ試験を行った。試験後サンプルを装置から外し、目視で傷が付いていないものを〇、付いているものを×とした。
【0129】
<結晶化度の評価>
広角X線散乱法(WAXS)を用いて結晶化度を解析した。測定条件を以下に示した:
・装置:株式会社リガク製NANOPIX
・X線波長λ:0.154nm
・光学系:ポイントコリメーション(1st slit:0.55mmφ、
2nd Slit:Open、guard slit:0.35mmφ)
・ビームストップ:2mmφ
・検出器:HyPix-6000
・カメラ長:86.1mm
・露光時間:15min
・測定温度:25℃
X線をフィルム法線方向から照射し、透過散乱光を検出した。得られた2次元パターンに対して空セル散乱補正を行い、円環平均により、1次元WAXSプロフィールを得た(
図1)。横軸は、散乱角2θとした。結晶化度を算出するためにピーク分離を実施した:
・解析ソフト:igor pro 8.00 (WaveMetrics社)
・パッケージ:Multi-peak Fitting
・ピークフィッティング範囲:5°<2θ<35°
・ピーク数:8つ
・ベースライン:線形
・フィッティング関数:解析ソフトのガウス関数は以下の式Aである。
【数1】
・ピークフィッティングの初期値と拘束条件:
表1で示した初期値を用いてピークフィッティングを実施した。構造の規則性が高くピーク幅が狭いピーク0、2、4、5、7を結晶ピークとした。また、構造の規則性が低いピーク1、3、6を非晶ピークとした。結晶ピークのwidthパラメータを0°より大きく1°以下になるように拘束した。また、結晶ピークのピーク位置(x0)は、表1の初期ピーク位置に固定してフィッティングを実施した(
図2)。
【0130】
【0131】
結晶化度は結晶ピーク面積の総和をすべてのピーク面積の総和で除した値である。また、構造の規則性が高くピーク幅が狭いピーク0、2、4、5、7に由来するピークが観測されず、構造の規則性が低いピークのみしか観測されなかった場合は、結晶化度および結晶長周期を「*」と表記した(比較例4)。
【0132】
<乗数B、結晶長周期dの評価>
小角X線散乱法(SAXS)を用いて乗数B、結晶長周期dを解析した。測定条件を以下に示した:
・装置:株式会社リガク製NANOPIX
・X線波長λ:0.154nm
・光学系:ポイントコリメーション(1st slit:0.55mmφ、
2nd Slit:Open、guard slit:0.35mmφ)
・ビームストップ:2mmφ
・検出器:HyPix-6000
・カメラ長:1312mm
・露光時間:15min
・測定温度:25℃
【0133】
X線をフィルム法線方向から照射し、透過散乱光を検出した。得られた2次元パターンに対して空セル散乱補正と試料厚み補正を行い、円環平均により、1次元SAXSプロフィールを得た。横軸は、以下の式で定義される散乱ベクトルqとした。
q=4πsin(θ/2)/λ
λ:X線の波長(0.154nm)
θ:散乱角
【0134】
(1)乗数B
乗数Bを算出するために散乱強度Iを散乱ベクトルqに対してプロットした(
図3)。そして散乱強度Iを0.04<q (nm
-1) <0.05の範囲で以下の式によりフィッティングし、乗数Bを算出した。
I=A×q^(-B)
I:散乱強度、A:強度、B:乗数
データ解析ソフトとして、WaveMetrics社のソフトウェアIgor Pro 8.00を使用した。フィッティングの初期値として、強度A=200、乗数B=4を用いた。
【0135】
(2)結晶長周期d
結晶長周期dを算出するために、散乱強度Iに散乱ベクトルqの2乗を掛けたIq^2を散乱ベクトルqに対してプロットした(
図4)。0.3<q (nm
-1) <0.6の範囲に存在するピークに対しガウス関数(式A)を用いてフィッティングを実施し、ピーク位置(x0)を得た。結晶長周期dは2πをフィッティングから得られたピーク位置(x0)で除すことで算出した。データ解析ソフトとして、WaveMetrics社のソフトウェアIgor Pro 8.00を使用した。
【0136】
[合成例1及び2]
(合成例1-1-1)
還流管とディーンスターク管とを備えた500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を20g、9,9-ビス(アミノフェニル)フルオレン(BAFL)を22.22mmol入れ、撹拌してBAFLを溶解させた。その後、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)20.00mmol、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.41g、トルエン21.76gを40℃で加えた後、窒素フロー下で180℃において4時間重合反応を行った。180℃到達後、1時間後にディーンスターク管から水およびトルエンの混合物を抜き出した。反応4時間経過後のイミドの重量平均分子量(Mw)は19,178、数平均分子量(Mn)は8,283であった。
【0137】
反応4時間経過後、内温が80℃となるまで冷却し、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)82.82mmol、NMPを100g加え、攪拌しながらAPABを完全に溶解させた。目視でAPABが完全に溶解したことを確認した後、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を86.17mmol加え、窒素フロー下で80℃において1時間、60℃において2時間攪拌した後、室温で終夜重合反応を行った。その後、前記NMPを加えて固形分が12質量%になるように調整することにより、ポリイミド-ポリアミド酸共重合体のNMP溶液(以下、ワニスともいう)を得た。得られたポリアミド酸-イミド共重合体の重量平均分子量(Mw)は155,382、数平均分子量(Mn)は64,063であった。
【0138】
(合成例1-1-2)
(a)ポリイミド合成
還流管とディーンスターク管とを備えた500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を20g、9,9-ビス(アミノフェニル)フルオレン(BAFL)を22.22mmol入れ、撹拌してBAFLを溶解させた。その後、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)20.00mmol、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.41g、トルエン21.76gを40℃で加えた後、窒素フロー下で180℃において4時間重合反応を行った。180℃到達後、1時間後にディーンスターク管から水およびトルエンの混合物を抜き出した。反応4時間経過後のイミドの重量平均分子量(Mw)は19,804、数平均分子量(Mn)は8,886であった。反応4時間経過後、内温が80℃となるまで冷却し、NMPを加え20質量%の濃度としたポリイミドのNMP溶液を得た(以下、ポリイミドワニスともいう)。
【0139】
(b)ポリアミド酸合成
500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)82.82mmol、NMPを100g加え、攪拌しながらAPABを完全に溶解させた。目視でAPABが完全に溶解したことを確認した後、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を86.17mmol加え、窒素フロー下で80℃において5時間攪拌した後、室温で終夜重合反応を行った。その後、前記NMPを加えて固形分が20質量%になるように調整することにより、ポリアミド酸のNMP溶液(以下、ポリアミド酸ワニスともいう)を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は73,044、数平均分子量(Mn)は34,917であった。
【0140】
(c)ポリアミド酸-イミド共重合体合成
(a)で得られたポリイミドワニス全量と(b)ポリアミド酸ワニス全量とを混合し、室温で24時間攪拌を行い、ポリアミド酸-イミド共重合体のNMP溶液を得た。
【0141】
(合成例1-2~1-9-1))
上記合成例1-1-1において、原料の仕込み量を、それぞれ、表1に記載のとおりに変更したほかは、合成例1-1-1と同様にして、ポリアミド酸-イミド共重合ワニスを得た。
【0142】
(合成例1-9-2)
上記合成例1-1-1で合成したNMP溶液に、ポリイミド-ポリアミド酸共重合体の繰り返し単位1モルに対し、1-メチルイミダゾールを0.04モル、N-Boc-イミダゾールを0.04モル加え、ポリアミド酸-イミド共重合ワニスを得た。
【0143】
(合成例2-1)
500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)49.50mmol、NMPを80g加え、攪拌しながらAPABを完全に溶解させた。目視でAPABが完全に溶解したことを確認した後、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を50.00mmol加え、窒素フロー下で80℃において5時間攪拌した後、室温で終夜重合反応を行った。その後、前記NMPを加えて固形分が12質量%になるように調整することにより、ポリアミド酸のNMP溶液(以下、ポリアミド酸ワニスともいう)を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は63,353、数平均分子量(Mn)29,472であった。
【0144】
(合成例2-2)
500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)31.68mmol、9,9-ビス(アミノフェニル)フルオレン(BAFL)7.92mmol、NMPを70g加え、攪拌しながらAPAB及びBAFLを完全に溶解させた。目視でAPAB及びBAFLが完全に溶解したことを確認した後、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を32.00mmol、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)8.00mmol、NMP22.29gを加え、窒素フロー下で80℃において5時間攪拌した後、室温で終夜重合反応を行った。その後、前記NMPを加えて固形分が12質量%になるように調整することにより、ポリアミド酸のNMP溶液(以下、ポリアミド酸ワニスともいう)を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は72,118、数平均分子量(Mn)33,741であった。
【0145】
(合成例2-3)
(a)ポリイミド合成
還流管とディーンスターク管とを備えた500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を20g、9,9-ビス(アミノフェニル)フルオレン(BAFL)を19.80mmol入れ、撹拌してBAFLを溶解させた。その後、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)20.00mmol、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)9.84g、トルエン21gを40℃で加えた後、窒素フロー下で180℃において4時間重合反応を行った。180℃到達後、1時間後にディーンスターク管から水およびトルエンの混合物を抜き出した。反応4時間経過後のイミドの重量平均分子量(Mw)は69,204、数平均分子量(Mn)は30,126であった。反応4時間経過後、内温が80℃となるまで冷却し、NMPを加え、20質量%の濃度としたポリイミドのNMP溶液を得た(以下、ポリイミドワニスともいう)。
【0146】
(b)ポリアミド酸合成
500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)79.20mmol、NMPを100g加え、攪拌しながらAPABを完全に溶解させた。目視でAPABが完全に溶解したことを確認した後、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)80.00mmol、NMP98.04gを加え、窒素フロー下で80℃において5時間攪拌した後、室温で終夜重合反応を行った。その後、上記NMPを加えて固形分が20質量%になるように調整することにより、ポリアミド酸のNMP溶液(以下、ポリアミド酸ワニスともいう)を得た。得られたポリアミド酸の重量平均分子量(Mw)は73,044、数平均分子量(Mn)は34,917であった。
【0147】
(c)ポリアミド酸-イミド共重合体合成
(a)で得られたポリイミドワニスと(b)で得られたポリアミド酸ワニスを混合し、室温で24時間攪拌を行い、ポリアミド酸-イミド共重合体のNMP溶液を得た。
【0148】
(合成例2-4)
還流管とディーンスターク管とを備えた500mlの四つ口フラスコを窒素置換した後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を56.41g、9,9-ビス(アミノフェニル)フルオレン(BAFL)を29.70mmol入れ、撹拌してBAFLを溶解させた。その後、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)30.00mmol、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)40g、トルエン27.96gを80℃で加えた後、窒素フロー下で180℃において4時間重合反応を行った。180℃到達後、1時間後にディーンスターク管から水およびトルエンの混合物を抜き出した。反応5時間経過後のイミドの重量平均分子量(Mw)は66,208、数平均分子量(Mn)は33,869であった。反応4時間経過後、内温が80℃となるまで冷却し、NMPを加え、15質量%の濃度としたポリイミドのNMP溶液を得た(以下、ポリイミドワニスともいう)。
【0149】
表1における各成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
BPAF:9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物
APAB:4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート
44BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン
BFAF:9,9-ビス(3-フルオロ-4-アミノフェニル)フルオレン
33DAS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
44DAS:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド
【0150】
各合成例で得られたワニスを、そのまま樹脂組成物として用い、上述の方法に従って評価を行った。合成結果は表2、評価結果は表3に示した。
【0151】
実施例1-1から分かるように、小角X線散乱角において、結晶長周期d(nm)が12.0nm以上であり、広角X線回折測定において、結晶化度が0.11よりも大きいポリイミドブロック共重合系フィルムは、黄色度(YI値)が15以下と低く、曇り度(Haze値)も1.0%以下と光学ディスプレイ用の基板として用いるのに十分な性能を有していた。また、そのフィルムは、残留応力も25MPa以下と低く、かつ折曲耐性に優れ、機械的特性も十分であった。以上のことから、本発明に係る樹脂組成物から得られるポリイミド樹脂フィルムは、黄色度が小さく、曇り度が小さく、残留応力が低く、折曲耐性に優れる、樹脂フィルムであることが確認された。具体的には、一般式(1)で示される構造単位と、X2として、一般式(A-1)で示される構造とを含む、ポリアミド酸-イミド共重合体から得られるポリイミドフィルムは、本発明では、残留応力が25MPa以下であり、黄色度が15以下であり、曇り度1.0%以下であり、折曲耐性に優れる樹脂フィルムが得られる。
【0152】
また、合成例1-1-2のように、ポリアミド酸とポリイミドを別々に合成した後、各々を混合し反応させることで得られたポリアミド酸-イミド共重合体ワニスを得ることが出来る。このワニスから得られるポリイミドフィルムは、実施例1-2で示すように、実施例1-1と同等の性能であった。これは、所定のモル比で合成した(a)ポリアミド酸と(b)ポリイミドを混合、反応させることで、(c)ポリアミド酸-イミド共重合体が得られることを示している。
【0153】
また、表3中、比較例1(合成例2-1)で得られるフィルムは、一般式(1)及び一般式(2)で示される構造において、構造単位Nに由来するポリアミド酸構造のみからなるポリアミド酸ワニスを430℃でキュアさせて得られるポリイミドフィルムであり、結晶化度が0.21と高く、結晶性が高すぎるために、折曲げ試験時にポリマー同士が配向してしまい、折曲げ試験時にフィルムが白濁してしまった。また、モノマーの平面性が高いために、フィルムが黄色に着色しており、光学ディスプレイ用の基板として用いるには不十分であった。
【0154】
また、表3中、比較例2(合成例2-2)で得られるフィルムは、合成例1-1-1で示されるポリアミド酸-イミド共重合体と同じモノマー組成で合成されるポリアミド酸を430℃でキュアさせて得られるポリイミドフィルムであり、結晶化度が0.11と、結晶性が低いため、残留応力に劣り、基板の反りが大きく、光学ディスプレイ用の基板として用いるのに不十分であった。一方で、実施例1で示されるフィルムは結晶化度が0.11よりも大きく、結晶性が高いため、残留応力が25MPa以下と優れていた。特に、実施例2で示されるフィルムは結晶化度が0.18と高いために最も残留応力に優れていた。
【0155】
また、表3中、比較例3(合成例2-3)で示されているとおり、一般式(1)及び一般式(2)で示される構造において、構造単位Mに由来するイミド部分のX4/X3比が0.99と酸二無水物の比率が高いために、430℃でフィルムをキュアさせたのちに、ポリイミドが相分離を起こし、フィルムが白濁してしまった。これは、ポリイミドの末端構造の酸二無水物比率が多く、ポリアミド酸と反応させた際の反応性が悪くなってしまい、相分離してしまうためである。このフィルムは小角X線散乱測定において、散乱強度I=A×q-B式により算出される乗数Bが、0.04<q<0.05の範囲において、4.29であり、相分離していることが分かる。一方で、実施例1-1,1-2、2~4、参考例5,6、実施例7,8、9-1,9-2のフィルムは、小角X線散乱測定において散乱強度I=A×q-B式により算出される乗数Bが、0.04<q<0.05の範囲において、3.6よりも小さくであり、ポリイミド同士が相溶していることが分かる。つまり、曇り度(Haze値)が1.0%以下のフィルムが得られる。
【0156】
また、表3中、比較例4(合成例2-4)で示されている通り、一般式(1)および一般式(2)で示される構造において、構造単位Mに由来するポリイミドのみから構成されているポリイミドワニスを430℃でキュアさせて得られるポリイミドフィルムであって、広角X線散乱測定において、非晶に由来するピークしか観測できず、結晶化度を算出することはできなかった。つまり、結晶化度が0.11よりも低く、残留応力に劣り、基板の反りが大きく、光学ディスプレイ用の基板として用いるのには不十分であった。
【0157】
表3中、実施例9-2で示されているとおり、イミド化触媒として1-メチルイミダゾールおよびN-Boc-イミダゾールを含むポリイミド-ポリアミド酸共重合体から得られるフィルムは、黄色度(YI値)が低く、ディスプレイ用の基板として好適に用いることが出来る。
【0158】
【0159】